JPWO2006025525A1 - 樹状細胞において抗原提示されやすいタンパク質の選択方法 - Google Patents

樹状細胞において抗原提示されやすいタンパク質の選択方法 Download PDF

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Abstract

樹状細胞の抗原クロスプレゼンテーション機構の解明に取り組み、樹状細胞に取り込まれた外来抗原がポリユビキチン化を受けた後にプロテアソームにより分解されることを明らかにした。樹状細胞による抗原タンパク質取り込み量やポリユビキチン化される量と抗原タンパク質による抗原提示レベルとの間に正の相関関係があることを発見した。これらに基づき、抗原タンパク質の取り込み量やポリユビキチン化タンパク質を測定し、該抗原タンパク質によるクロスプレゼンテーションの強さを予測する方法を生みだした。この方法を用いれば、複数のタンパク質の中から抗原提示されやすい抗原タンパク質を選別することができる。本発明の方法は、より適切な癌特異的タンパク質の選別により、適切な癌免疫ワクチンの提供を可能にする。

Description

本発明は、樹状細胞によるクロスプレゼンテーション機構に基づいた、樹状細胞において抗原提示されやすいタンパク質の選択方法に関する。
生体で細胞が癌化すると、本来、免疫防御機構が働いて癌化した細胞は排除される。癌化した細胞が免疫防御機構による監視の目を逃れると、癌が発生すると考えられている。癌化した細胞を排除するのは、主として細胞性免疫である。
細胞性免疫機構は、適当な手法によって活性化されれば、一度発生した癌に対しても強くアタックし癌を排除する作用を示すことができる。したがって、細胞性免疫の活性化は癌細胞の効率的除去方法となり得る。既に、癌治療の一つの手段として癌免疫療法は注目されており、これまでに、LAK細胞やCTL細胞等を投与する細胞移入療法、樹状細胞やペプチドをワクチンとして投与するワクチン療法等、数々の方法が研究・開発されてきている。しかし、細胞性免疫の活性化は免疫寛容の誘導と背中合わせであり、いかにして標的に対応した特異的、効率的な活性化を図るかということが、腫瘍免疫の最大の課題となっている。
樹状細胞ワクチン療法は、患者から樹状細胞を採取し、該樹状細胞に体外で癌抗原タンパク質を貪食させ、抗原ペプチドを提示した状態となった樹状細胞を癌患者の体内に戻し、癌に対する免疫を特異的に増強することにより癌を治療する方法である。しかし、患者により有効な癌抗原が異なること等の理由から、樹状細胞ワクチン療法は必ずしも全ての患者に対し有効な治療法とはなっていない。樹状細胞の抗原提示を有効に行うことのできる癌抗原タンパク質を事前に選別することができれば、樹状細胞ワクチン療法の有効率も向上すると考えられる。しかしながら現在のところ、癌抗原タンパク質の有効性を評価する実用的な評価系は存在しない。
実験的な評価系としては、DC2.4細胞とOT-IマウスのナイーブCD8+T細胞とを用いた抗原提示レベルの評価系が構築されている。DC2.4細胞は、MHCクラスIハプロタイプがH-2Kbであるマウス細胞株である。OT-I(H-2Kb)マウスは、H-2Kb分子上に提示されたOVA由来の抗原ペプチド(SIINFEKL)(配列番号15)を認識するT細胞受容体(TCRα,β)を発現するトランスジェニックマウスである。すなわちOT-IマウスのCD8+細胞は、DC2.4細胞が提示するOVAペプチドを認識し、活性化される。活性化されたOT-I CD8+T細胞によって産生されるIL-2量は、DC2.4細胞によって提示されたOVA抗原によるT細胞刺激の指標となる。しかしこの評価系は、特定の抗原に対する特異的TCR発現動物を必要とする。抗原タンパク質一般について、上記評価系と同様な評価系を構築することは、全く不可能といわざるをえない。
より有効性の高い免疫療法を提供するには、免疫システムの理解が不可欠である。細胞性免疫は、獲得免疫の一つである。獲得免疫は液性免疫と細胞性免疫の二種類に大別される。液性免疫とは細菌や寄生虫等の感染に対して抗体を介して行われる免疫反応で、抗体産生を行うB細胞が主に活性化される。一方の細胞性免疫は、癌化した細胞やウイルスに感染した細胞を直接破壊する反応で、CD8の細胞傷害性T細胞が活性化される。
T細胞は、自己の細胞膜上に発現したT細胞受容体(TcR)を使って、他の細胞上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)と呼ばれる一群の蛋白質複合体を認識する。MHC遺伝子にコードされるMHC分子は、細胞内で蛋白質が分解されて生じたオリゴペプチドと複合体を形成して細胞表面に発現する。
MHC分子にはクラスIとクラスIIの2種類がある。MHC IIはα鎖とβ鎖からなり、抗原提示細胞にのみ発現し、主に細胞外から取り込まれた抗原(感染病原体など)由来のペプチドをヘルパーT細胞に提示し、液性免疫の発現に必須の役割をはたす。
これに対し、主鎖と副鎖(β2ミクログロブリン)からなるMHC Iは、ほとんど全ての有核細胞の細胞膜に発現している。一般に、MHC Iは自己の細胞内にある蛋白質の分解産物に由来するオリゴペプチドを結合しており、細胞性免疫における自己の標識となっている。自己非自己の識別において、MHCクラスI分子が自己の蛋白由来のペプチドを提示している場合には、自己と認識され、細胞性免疫反応は誘導されない。一方、非自己蛋白由来(例えば、癌化した細胞やウイルス感染した細胞、あるいは移植された臓器など)のペプチドを提示している場合には細胞性免疫反応を誘導する。
細胞性免疫を活性化するには、CD8抗原陽性T細胞に対して、非自己由来のペプチドが共刺激因子と共にMHC I上に提示されることが必須である。この活性化が効率的に行われない場合、非自己を認識するCD8T細胞が存在していても、非自己抗原を提示している細胞に対して細胞傷害性を発揮する活性化された細胞(CTL)へと分化することができない。
樹状細胞は、マクロファージやB細胞とともに、プロフェッショナル抗原提示細胞と称されるが、外来抗原の抗原提示において、とりわけ重要かつ特別な役割を果たす細胞である。樹状細胞は、癌化した細胞やウイルスに感染した細胞の死骸や断片を取り込んで、それらに含まれるタンパク質をMHCクラス I上に提示する。すなわち、マクロファージやB細胞では外来抗原はMHCクラスII分子上に提示されるが、樹状細胞では外来抗原をMHCクラスII分子に加えてMHCクラス Iに提示される。この現象は、抗原のクロスプレゼンテーションと呼ばれており、樹状細胞に特有のものである。樹状細胞による外来抗原のクロスプレゼンテーションは、感染細胞や癌細胞の除去において決定的に重要な役割を担っている。
樹状細胞に取り込まれた外来抗原タンパク質は、運搬・分解処理され、抗原タンパク質由来のペプチドがMHCクラスIと複合体を形成し、細胞膜に発現するが、その一連の機構は一部が解明されているに過ぎない。これまでのところ、樹状細胞によるクロスプレゼンテーションの細胞機構は、下記のように説明されている。まず、癌細胞やウイルス感染細胞由来の抗原タンパク質は、エンドサイトーシス(ファゴサイトーシス、免疫複合体の取り込みなどをも含む)によって樹状細胞の細胞内腔(膜によってとり囲まれたコンパートメント)に取り込まれる。取り込まれた抗原タンパク質あるいはその分解物は、未知の機構によって、膜を通過して細胞質に移行する。その後は、内在性の抗原タンパク質と同様に、プロテアソームによって分解され、分解産物のペプチドは、TAPトランスポーターによってERに輸送され、ER内部でMHC Iと複合体を形成し、通常の経路によって細胞膜に発現される。しかし、外部から抗原タンパク質がどのような細胞内コンパートメントに取り込まれるのか、取り込まれた抗原タンパク質あるいはその分解物が、どのようにして膜を通過して細胞質へ移行するのか、といった点については、未解決のままである。
本発明はこの様な状況に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、樹状細胞の抗原クロスプレゼンテーション機構の解明および抗原提示されやすい抗原タンパク質の選択方法を提供することである。
上記課題を解決すべく、本発明者らは樹状細胞の抗原クロスプレゼンテーション機構の解明に取り組んだ。樹状細胞の抗原クロスプレゼンテーション機構の解明において、鍵となる反応は、1)外部から抗原タンパク質が、どのような細胞内コンパートメントに取り込まれるのか、2)取り込まれた抗原タンパク質あるいはその分解物が、どのようにして膜を通過して細胞質へ移行するのか、の二つである。
上記機構を解明するにあたり、細胞分画法、ウエスタンブロッティングを実施し、取り込まれた外来抗原の細胞内局在および時間経過に伴う変化を観察した。これらの結果から、取り込まれた外来抗原は未分解の状態で膜状のオルガネラに蓄積され、ユビキチン-プロテアソーム経路を通じて分解されることが、初めて明らかになった。さらに、本発明者らは上記経路がER関連分解と本質的に同一であることに気付き、樹状細胞中に蓄積された外来抗原は、ERADによって、または極めて類似したタンパク質分解機構によって分解されるとの仮説を立てた。
本発明者らは、この仮説の立証を3種類の方法により試みた。第一に、共免疫沈澱法を実施し、蓄積された外来抗原と各種ER関連タンパク質との間に相互作用があるかどうか検討した。二番目の方法として、樹状細胞にERAD阻害処理を行い、蓄積された外来抗原の分解が影響を受けるか否かを調べた。第三番目に、ER関連タンパク質をRNAi法でノックダウンし、蓄積された外来抗原への影響を検討した。
上記検討の結果、樹状細胞クロスプレゼンテーションにおいて、外来抗原は膜小胞に取り込まれた後、BiPやカルレティキュリン等の小胞体分子シャペロンと結合し、細胞質へ逆行輸送されること、細胞質へ移った外来抗原は未分解の状態でポリユビキチン化されること、上記ポリユビキチン化に関与するユビキチンE3ライゲースがCHIPであること、ポリユビキチン化された外来抗原はプロテアソームによる分解を受けることが明らかになった。これらは、いずれも本発明者らによって初めて見出された新規知見であり、上記仮説を裏付けるものである。
さらに本発明者らは、樹状細胞へ取り込まれた抗原タンパク質の測定、取り込み後にポリユビキチン化を受けた抗原タンパク質の測定に成功し、抗原タンパク質が樹状細胞に取り込まれる量やポリユビキチン化される量と抗原タンパク質による抗原提示レベルとの間に正の相関関係があることを発見した。本発明者らは、これらの新規知見に基づき、抗原タンパク質の取り込み量やポリユビキチン化タンパク質を測定し、該抗原タンパク質によるクロスプレゼンテーションの強さを予測する方法を生みだした。この方法を用いて複数の抗原タンパク質の抗原提示されやすさを測定すれば、その中から抗原提示されやすい抗原タンパク質を選別することができる。すなわち本発明は、抗原提示されやすい抗原タンパク質の選択方法に関する。より具体的には、下記の発明を提供するものである。
(1)単離された樹状細胞にタンパク質を接触させる工程の後、少なくとも下記の(a)から(c)のいずれか一つ以上の工程を含む、樹状細胞において抗原提示されやすいタンパク質の選択方法。
(a)該樹状細胞に取り込まれたタンパク質の量を測定する工程
(b)該樹状細胞中のポリユビキチン化されたタンパク質量を測定する工程
(c)該樹状細胞に取り込まれたタンパク質の樹状細胞中に残存する量を測定する工程。
(2)単離された樹状細胞にタンパク質を接触させる工程と、下記の(a)から(c)に記載したタンパク質の量のうち少なくともいずれか一つ以上を測定する工程と、当該工程の測定値に基づいてタンパク質を取り込んだ樹状細胞を選択する工程と、該選択する工程において選択された樹状細胞を回収する工程とを含む、CTL誘導能の高い樹状細胞の製造方法。
(a)該樹状細胞に取り込まれたタンパク質の量
(b)樹状細胞中のポリユビキチン化されたタンパク質の量
(c)樹状細胞に取り込まれたタンパク質の樹状細胞中に残存するタンパク質の量

(3)タンパク質を標識して用いることを特徴とする、上記(1)または上記(2)に記載の方法、
(4)樹状細胞中のポリユビキチン化されたタンパク質量を測定する工程において、抗ユビキチン抗体を用いることを特徴とする、上記(1)から上記(3)のいずれかに記載の方法、
(5)上記(1)、上記(3)、上記(4)のいずれかに記載の方法を含む癌抗原ワクチン資格検定方法。
DC2.4細胞に取り込まれたOVAの特徴を示す図である。(a)サイトゾル及びミクロソーム分画を各種抗体でウェスタンブロットした図である。ミクロソーム分画のトリプシン処理は、蓄積OVAとBiPに影響を与えなかった。膜を溶解するために、TritonX-100を使用した。(b)bOVA蓄積に対するプロテアソーム阻害剤とリソソーム阻害剤の影響を示す図である。プロテアソーム阻害剤であるMG-132(MG:10μM)とラクタスタチン(LC:2μM)は細胞に取り込まれたbOVA 分解を減少させたが、NH4Cl(50mM)は減少させなかった。DC2.4細胞をbOVAでパルスし、追跡した。bOVAをSAビーズで回収し、SDS-PAGEで分離した後、SA-HRPを用いたウェスタンブロットを行った。Ctl:阻害剤を含まないコントロール。(c)上記(b)で示したものを定量化した結果を示す図である。(d)bOVAが分解前にポリユビキチン化を受けることを示す図である。細胞に結合したbOVAがインタクトOVAと同じ分子量を有する。bOVAの一部は、ポリユビキチン化されている。左パネル中のアスタリスクは、SA-HRPとの非特異的結合を示す。 ERAD関連タンパク質が細胞に結合したOVAと相互作用することを示す図である。(a)Sec61αがbOVAと相互作用することを示す図である。DC2.4細胞をbOVAとインキュベーションし、抗Sec61αとの共免疫沈降を行った。bOVAを免疫沈降の前に2.5mg ml-1で細胞ライセートに添加した(各パネルの左二つのレーン)。SDS-PAGE後、SA-HRPおよび抗Sec61α抗体を用いてブロッティングした。(b)Sec61βがbOVAと相互作用することを示す図である。(c)VCPがbOVAと相互作用することを示す図である。(d)BiPがbOVAと相互作用することを示す図である。(e)PDIがbOVAと相互作用することを示す図である。(f)CalreticulinがbOVAと相互作用することを示す図である。(g)CHIPがbOVAと相互作用することを示す図である。(h)TAP1はbOVAと相互作用しないことを示す図である。(i)TAP2はbOVAと相互作用しないことを示す図である。(j)BMDC中でも、bOVAがSec61βと相互作用することを示す図である。(k)BMDC中でも、bOVAがVCPと相互作用することを示す図である。 ERAD関連タンパク質が細胞に取り込まれたbOVAと同時精製されることを示す図である。(a)DC2.4細胞由来ERAD関連物質と同時精製した図である。(b)BMDC細胞由来BiPとVCPとの同時精製の結果を示す図である。 ERAD阻害およびRNAi法によるERAD関連タンパク質ノックダウンが、bOVA分解を減少させることを示す図である。(a)bOVAの分解がCa2+枯渇により阻害され、Ca2+再添加(1mM)により回復することを示す図である。(b)thapsigargin(Tg:300nM)またはtunicamycin(Tm2μg)によって阻害されることを示す図である。(c)RNAi 法によるERAD関連タンパク質のノックダウンの影響を示す図である。RNAi をトランスフェクトした、クローン化していない安定なトランスフェクタント(S22;Sec61-22, V41;VCP-41; C4;CHIP-4)及びクローン化したノックダウン細胞株(S22-3;S-22由来, V41-1;V-41由来; C4F-1;C4由来)では、ERAD関連タンパク質発現の減少が示された(レーン,3,5,7,9,10,11)。コントロールとして、レーン2;S22、レーン4;S22-3、レーン6;V41、レーン8;V41-1、レーン10;C4、レーン12;C4F-1。(d)親DC2.4細胞とノックダウンDC2.4細胞をそれぞれbOVAとインキュベートしたときの、bOVA分解を示す図である。(e)上記(d)の結果を定量化した図である。(f)C4でbOVAのポリユビキチン化が減少したことを示す図である。レーン1,2,5,6はコントロール、レーン3,4,7,8はC4。 RNAi法によるTAP1ノックダウンはbOVA分解に影響を与えないことを示す図である。(a)親DC2.4細胞(レーン1)と比較して、クローン化していない安定トランスフェクタント(レーン2;TAP1-145、レーン3;TAP1-149)は、TAP-1タンパク質の発現に関し、特異的な減少を示した。(b)親DC2.4細胞とノックダウンDC2.4細胞とをそれぞれbOVAとインキュベートした後、bOVAの分解を測定した結果を示す図である。左から、0時間、2時間、4時間。(c)上記(b)の結果を定量化した図である。 DC2.4細胞における外因性添加OVAの細胞内局在を示す図である。OVAの細胞内局在を、抗OVA抗体で標識して(赤色)検出した。(a)は初期エンドソーム、(b)はcaveosome、(c)は後期エンドソーム、(d)および(e)は小胞体、(f)はゴルジ装置が緑色で示されている。(c)において、細胞の縁部を点線で示した。(c)と(d)における挿入図は、四角で示した細胞をより高い拡大率で示したものである。 DC2.4細胞の膜画分について密度勾配遠心を行った結果を示す図である。(a)OVAとインキュベートしたDC2.4細胞を、ホモジナイズして膜画分を調製し、2.5-30%のOptiprep density gradient centrifugationにかけた。上パネルは、各画分をSDS-PAGEで分離し、抗OVA抗体を用いてブロットした図である。下パネルは、上パネルで示した膜シートと同じものを、各種抗体でブロットした図である。(b)膜画分を10-30%密度勾配で解析した。レーン番号は、各密度勾配のフラクションを示す。 Sec61、VCP、CHIPをノックダウンした結果を示す図である。親DC2.4細胞またはノックダウンDC2.4細胞をそれぞれSIINFEKL(配列番号15)ペプチドまたはOVAとインキュベートし、IL-2産生量を指標としてOT-I CD8+T細胞の刺激を観察した。(a)OVAとIL-2産生との関係を示す用量反応曲線である。白カラムはOVAを、黒カラムはbOVAを示す。(b)ラクタスタチン(10μM)とMG-132(25μM)はOVAによる刺激(黒バー)を抑制したが、SIINFEKL(配列番号15)ペプチドによる刺激(白バー)は抑制しない。(c)Sec61(S22)、VC(V41)、CHIP(C4)をノックダウンしたDC2.4細胞は、OVA刺激の減少が観察された。(d)ノックダウンした細胞のクローンは、本質的に(c)と同じ結果を示した。 DC2.4細胞によるMHCクラスとクラスIIによる抗原提示に対するNH4Clの効果を観察した図である。NH4Cl存在下で前処理したDC2.4細胞を、OVAと培養し、MHCクラス抗原提示に対するOT-I CD8+T細胞の刺激(丸)およびMHCクラスII抗原提示に対するOT-II CD4+T細胞の刺激(三角)を、IL-2産生量の測定により決定した。NH4Cl存在下のIL-2産生量はコントロール(IL-2産生はOT-Iに対し700pg/ml、OT-IIに 対し20pg/ml)に対する相対比としてあらわした。 GST-OVAまたはGST-OVA-KDELをHSP90存在下または非存在下でDC2.4細胞とインキュベートし、該細胞からGST-OVAを回収し、SDS-PAGEおよびウェスタンブロットを行った結果を示す図である。レーン1,2は細胞のみ、レーン3,4は細胞をGST-OVAとHSP90非存在下または存在下でインキュベートした結果を示す図である。レーン4およびそのコントロール(レーン3)について、取り込まれたGST-OVA量(下側の図)とポリユビキチン化されたGST-OVA量を比較すると、HSP90存在による取り込み量の増加はそれほど多くないが、HSP90存在によるポリユビキチン化の増加が非常に顕著であることがわかる。レーン6をレーン4と比較すると、レーン6はポリユビキチン化されたGST-OVA量が顕著に多い。このことから、Hsp90が存在するときKDEL(配列番号3)付加がGST-OVAの取り込みを増加させ、かつポリユビキチン化を促進していることがわかった。 (a)DC2.4細胞あるいはBMDCとOVAとをHSP90存在下または非存在下でインキュベートし、OT-I CD8+細胞に対する抗原提示を測定した結果を示す図である。HSP90を添加すると、抗原提示が高まることが明らかとなった。(b)前記(a)のDC2.4細胞のデータと同じ条件で、ただし、Hsp90の濃度を変えて測定した(10μg/ml,50μg/ml)。Hsp90の濃度依存的に抗原提示能力が高くなることが示された。 DC2.4細胞とOVAを、lactacystin (LC)存在下あるいは非存在下、Hsp90存在下あるいは非存在下でインキュベートし、細胞に取り込まれたOVAを測定した結果を示す図である。時間はインキュベート時間を表す。右側の8レーンが示すように、Hsp90が存在すると、OVAの取り込みが増加した。
本発明は、樹状細胞によって抗原提示されやすいタンパク質の選択方法に関する。本発明は、抗原提示されやすいタンパク質、すなわち、CTL誘導能力の高いタンパク質あるいは免疫誘導効果の高いタンパク質を選択する方法である。タンパク質の免疫誘導効果を直接的かつ一般的に評価する方法が存在し得ないため、これに代わる方法として、樹状細胞のクロスプレゼンテーションの一連の過程を3段階にわけ、各段階について数値化し、これら各段階の数値にもとづき、タンパク質の抗原提示されやすさの相対的評価を行う方法である。
本発明の方法は、少なくとも、「単離された樹状細胞に被験タンパク質を接触させ、該樹状細胞に取り込まれた被験タンパク質の量を測定する工程」(以下、「取り込み量測定工程」と省略)、「単離された樹状細胞に被験タンパク質を接触させ、樹状細胞中のポリユビキチン化された被験タンパク質量を測定する工程」(以下、「ポリユビキチン化量測定工程」と省略)、「単離された樹状細胞に被験タンパク質を接触させ、樹状細胞に取り込まれた被験タンパク質残存量を測定する工程」(以下、「残存量測定工程」と省略)のいずれか一つ以上の工程を含む。少なくとも一つの工程が含まれていればよく、いずれか二つの工程の組み合わせでも、三つの工程全てを含んでいてもよい。
本発明の方法の被験タンパク質は、樹状細胞による貪食の対象となり、プロテアソーム分解の対象となり得るものであればよく、種類や大きさは問わない。一般的には、ポリペプチド鎖から構成されている分子のうち、分子量が5,000以上のものをタンパク質、以下のものをペプチドとよんで区別することが多いとされているが(東京化学同人 化学大辞典)、樹状細胞によって取り込まれ、プロテアソーム分解を受ける限り、分子量にはこだわらず、本発明の被験タンパク質に含まれる。また、単純タンパク質であってもよく、核タンパク質、リポタンパク質、糖タンパク質、色素タンパク質、金属タンパク質、等の複合タンパク質であってもよい。癌抗原タンパク質や感染したウイルス由来タンパク質は、本方法の好適な対象である。
本発明の方法に用いる樹状細胞は、哺乳類由来の細胞が好ましく、より好ましくは、ヒト由来の細胞である。単離された細胞の代わりに、細胞株を用いてもよい。テーラーメード治療を行うことを目的としてタンパク質の選択を行う場合は、治療対象となる患者本人由来の細胞を用いることが好ましい。
本発明の方法に用いる樹状細胞は、未成熟なものを用いることが好ましい。樹状細胞は未成熟なときに、外部から抗原をよく取り込み、成熟するにしたがって、取り込んだ抗原を強く提示するようになるからである。このような樹状細胞は、骨髄あるいは末梢血のCD34陽性前駆細胞からあるいは単球から、GM-CSFを用いて誘導する方法、および末梢血単核球より直接分離する方法等により調製することができる。
クロスプレゼンテーションにより外来抗原タンパク質由来ペプチドが樹状細胞表面に抗原提示されるためには、まず、外来抗原タンパク質が樹状細胞に取り込まれる必要がある。取り込み量測定工程は、樹状細胞に取り込まれた被験タンパク質の量を測定する工程である。基本的には、樹状細胞に被験タンパク質を取り込ませること、および、細胞内に取り込まれたタンパク質を測定することを実施すればよい。
樹状細胞に被験タンパク質を取り込ませるためには、樹状細胞と被験タンパク質を接触させる工程を実施すればよい。被験タンパク質に接触した樹状細胞は、該タンパク質を貪食あるいはエンドサイトーシスにより細胞内に取り込む。このとき、取り込まれたタンパク質がプロテアソームによって分解されるのを防止するため、両者の接触は、ラクタスタチンやMG-132等のプロテアソーム阻害剤存在下で行ってもよい。
タンパク質を取り込んだ樹状細胞は、遠心分離法でミクロソーム分画を調製して測定用サンプルとすることができる。ミクロソーム分画を用いるのは、抗原タンパク質が樹状細胞に取り込まれると、小胞体または後期エンドソームからなる膜小胞に蓄積されるからである。または、細胞を十分に洗浄してから細胞抽出液を調製し、測定用サンプルとしてもよい。
樹状細胞に取り込まれた被験タンパク質の量の測定は、被験タンパク質に対する抗体を用いて行うことができる。または、あらかじめ被験タンパク質を標識し、標識を利用して測定してもよい。例えば、ビオチン、ヒスチジン、GSTや、FITC、Cy3、Cy5、GFP等の蛍光標識物質、または放射性標識物質などによって標識することができる。標識物質は、抗原性に影響を与えない物質を選択することが望ましい。
測定法は、ビオチン標識化したOVA抗原の実施例にあるように、サンプルをSDS-電気泳動後、ストレプトアビジンを用いてウエスタンブロッティングを行い、画像解析により数値化する方法を採用することができる。あるいは、EIA法、ELISA法、RIA法、CLIA法、CLEIA法等の各種公知免疫測定法により、サンプル中のタンパク質を測定してもよい。
上記のようにして、各被験タンパク質の量についてそれぞれ測定値を得る。被験タンパク質の中でより高い測定値が観察されたタンパク質は、被験タンパク質の中で相対的に樹状細胞に取り込まれやすいタンパク質である。
一例を挙げて説明する。まず、被験タンパク質を複数用意する。被験タンパク質をビオチンで標識する。次に、標識タンパク質を樹状細胞に取り込ませるため、樹状細胞と標識タンパク質を一定時間インキュベートする。SDS−電気泳動後、ストレプトアビジンを用いたウエスタンブロッティングを行い、定量化する。
ポリユビキチン化量測定工程は、樹状細胞に取り込まれた外来抗原タンパク質のうち、ポリユビキチン化を受けたタンパク質の量を測定する工程である。この工程は、本発明者らにより、樹状細胞のクロスプレゼンテーションの過程において、外来抗原タンパク質がプロテアソーム分解の前提としてポリユビキチン化を受けることが明らかになったことに基づく。実施例に示すように、ポリユビキチン化タンパク質の測定値は、そのタンパク質による抗原提示レベルと正の相関関係があることが確認された。したがって、ポリユビキチン化量の測定は、抗原提示の強弱を知るための一つの指標になりうる。
ポリユビキチン化量測定工程は、被験タンパク質に対する抗体またはタンパク質を標識した場合は標識結合物質と、抗ポリユビキチン抗体の両方を用いて実施することができる。
一例を示せば、実施例のように、ビオチン標識した被験タンパク質を樹状細胞とプロテアソーム阻害剤存在下でインキュベートして細胞抽出液を作製し、ストレプトアビジンと抗ポリユビキチン化抗体を用いたウエスタンブロッティングを行い、ポリユビキチン化された抗原タンパク質の量を定量化することができる。あるいは、抗被験タンパク質抗体または標識結合物質を用いたアフィニティーカラムにより精製し、精製物質中のポリユビキチン化タンパク質の量を、抗ポリユビキチン抗体を用いた各種免疫測定法により測定する方法も考えられる。
残存量測定工程は、本質的に、ポリユビキチン化された外来抗原タンパク質のプロテアソームによる分解速度を知ることを目的とする。外来抗原が抗原提示されるためには、樹状細胞中でプロテアソーム分解を受けることが必要である。したがって、プロテアソーム分解速度は、外来抗原が抗原提示されやすいかどうかを知るための一つの指標となりうる。プロテアソーム分解速度を知るには、ポリユビキチン化された外来抗原タンパク質のうち、プロテアソーム分解を受けていないまま残存しているタンパク質の量を、時間経過を追って測定することで可能となる。未分解量の減少速度は、プロテアソーム分解速度を反映する。
具体的には、プロテアソーム阻害剤非存在下で樹状細胞と被験タンパク質を接触させ、樹状細胞中の被験タンパク質の量を、時間経過を追って測定する。測定方法は、取り込み量測定工程と同様、抗被験タンパク質抗体を用いて、または標識を利用して、各種公知方法で行うことができる。一例を挙げて説明する。標識した被験タンパク質と樹状細胞を、プロテアソーム阻害剤非存在下でインキュベートする。0時から経時的にサンプルを回収する。細胞を洗浄後、抽出液を作製し、SDS-電気泳動およびウエスタンブロッティングを実施して残存した標識タンパク質を定量する。残存タンパク質の経時的変化から、速度を計算する。
このようにして得られた各工程の測定値は、被験タンパク質の抗原提示されやすさの指標となる。被験タンパク質は、取り込み量測定工程とポリユビキチン化量測定工程は測定値が高い方が、残存量測定工程では、残存量減少速度が高い方が、より抗原提示されやすい。各被験タンパク質の測定値を比較して、どのタンパク質が相対的に抗原提示されやすいかを評価することができる。抗原タンパク質の抗原提示されやすさの評価は、上記三工程の測定値全てを指標としてもよいし、いずれか一つまたは二つの工程の測定値を指標としてもよい。
また本発明は、CTL誘導能の高い樹状細胞の製造方法に関する。本製造方法は、上記「樹状細胞において抗原提示されやすいタンパク質等の選択方法」の実施と、該方法によって選択されたタンパク質を取り込んだ樹状細胞の回収とを特徴とする。抗原提示されやすいタンパク質を取り込んだ樹状細胞は、樹状細胞表面上の該タンパク質由来ペプチドを介し、高いCTL誘導能を発揮すると考えられる。
樹状細胞を回収する工程は、抗原提示されやすいタンパク質を選択する過程の途中に行ってもよいし、タンパク質の選択が完了した後に行ってもよい。一例を説明する。まず、樹状細胞と複数の抗原タンパク質を用意する。各抗原タンパク質をそれぞれ樹状細胞と接触させて培養する。各抗原タンパク質と接触させた樹状細胞について、取り込み量測定工程、ポリユビキチン化量測定工程、残存量測定工程の各工程を実施するが、測定は培養細胞の一部のみを用いて行う。各工程の測定値に基づき抗原提示されやすいタンパク質を選択する。残しておいた細胞のうち、選択されたタンパク質存在下で培養された樹状細胞は、樹状細胞表面上に「抗原提示されやすいタンパク質」由来ペプチドを提示し、高いCTL誘導能を発揮すると考えられ、そのまま「CTL誘導能の高い樹状細胞」とすることができる。あるいは、最初に上記「樹状細胞において抗原提示されやすいタンパク質等の選択方法」により抗原提示されやすいタンパク質を選択し、次に、選択されたタンパク質を樹状細胞に取り込ませ、該樹状細胞を回収してもよい。
本発明の「樹状細胞において抗原提示されやすいタンパク質等の選択方法」および「CTL誘導能の高い樹状細胞の製造方法」は、癌免疫療法において特に有用である。本発明の方法によって選択されたタンパク質等や製造された樹状細胞を使用した樹状細胞ワクチンは、癌に対する免疫を強く誘導すると考えられ、治療効果の向上が期待できる。すなわち、本発明の「樹状細胞において抗原提示されやすいタンパク質等の選択方法」および「CTL誘導能の高い樹状細胞の製造方法」は、あるタンパク質あるいは樹状細胞が癌抗原を利用したワクチンとして適切に使用できるかどうか検定する目的で使用できる。さらに、感染性微生物由来タンパク質について本発明の方法を実施すれば、感染症治療用の樹状細胞ワクチンの製造も可能になると考えられる。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
[実施例1]蓄積OVAのプロテアソーム依存分解
外来抗原の細胞内局在を細胞分画法により検討した。抗原モデルとしてニワトリアルブミンOvalbumin (OVA) 、樹状細胞のモデルとして、マウス樹状細胞の培養細胞株であるDC2.4(ハプロタイプH-2Kb)を用いた。DC2.4細胞株は、樹状細胞由来であり、クロスプレゼンテーション等の樹状細胞の多くの性質を保ったまま株化されたものである。またコントロールとして、ハプロタイプがDC2.4と同じH-2KbであるBMDCを用いた。BMDCは、C57BL/6マウス(SLC)の骨髄細胞から5%FCSを添加したRPMI-1640中で5ng/ml GM-CSF (MBL)を用いて誘導し、培養5日後に細胞を磁性ビーズで精製したものを用いた。
bOVA抗原を取り込ませたDC2.4細胞を、250mMスクロースを含む10mM Tris-HCl (pH7.4)に懸濁し、ガラスビーズでホモジナイズし、250,000xgで30分間遠心して分画した。上清を可溶分画とし、沈澱は上記と同じバッファーで懸濁してミクロソーム分画とした。一定量を1% TritonX-100存在下または非存在下で100μg ml-1トリプシンと共にまたは無しでインキュベートした。bOVA回収前に大豆トリプシンインヒビター(Sigma)を500μg ml-1添加した。
上記の結果、細胞に取り込まれたbOVAの70%以上がミクロソーム分画からトリプシン抵抗性として回収された。ミクロソーム分画に回収されたbOVAは、トライトンX100で処理すると、トリプシンで分解された。このことは、取り込まれたbOVAの大多数が膜状の細胞成分構造の内部に蓄積していることを示唆する(図1a)。また、同じミクロソーム分画に内在性ERタンパク質であるBiPが検出された(図1a)。すなわち、ミクロソーム分画はER分画を含むことがわかった。
次に、DC2.4.細胞をbOVAと1時間インキュベートし、4時間まで追跡した。細胞と結合したbOVAを、総セルライセートからストレプトアビジン-アガロースで回収し、SDS-PAGEで分離した。細胞と結合したbOVAは、時間の経過にしたがって減少したが、プロテアソーム阻害剤であるラクタシスチンまたはMG-132の存在下では、この減少はブロックされた(図1b,c)。リソソーム阻害剤の塩化アンモニウムは、bOVA分解に対し顕著な影響は与えなかった(図1c)。このことは、リソソームのプロテアーゼは抗原分解に関与していないことを示唆している。
本質的に同様の結果が、b-OVAの代わりにGST-OVAに曝露したDC2.4細胞やbOVAに曝露した骨髄由来DC(BMDC)からも得られた(データ示さず)。
また、細胞に結合したbOVAの大多数は、無処理bOVAと同じ分子量を示した(図1d)。加えて、抗ポリユビキチン抗体と抗OVA抗体によって示されるとおり、有意な量のbOVAがポリユビキチン化されたことが見出された(図1d)。これらの結果は、未分解のbOVA が膜状のオルガネラに蓄積され、ユビキチン-プロテアソーム経路を通じて分解されることを示唆する。このような特徴を持つタンパク質分解は、ER関連分解(ERAD)と呼ばれるものと本質的に同じである。本発明者らは、DC2.4細胞中に蓄積されたbOVA が、ERADによって、または同一ではないとしても極めて類似したタンパク質分解機構によって分解されることについて、以下に3つの証明を示す。
[実施例2]蓄積されたOVAとERAD関連タンパク質との関連
上記仮説を立証するため、まず、蓄積されたOVAとERから細胞質への逆行性輸送関連物質との関連について共免疫沈澱法により検討した。2x107個のDC2.4またはBMDC細胞を10μM MG-132を含む培地中でbOVA 250μg ml-1存在下で4時間培養した。細胞を1%ジギトニンとプロテアーゼ阻害剤を含む20mM HEPES pH7.6で溶解し、ビオチン標識サンプルを回収した。サンプルはプロテインGセファロース(Amersham Pharmacia Biotech)であらかじめ不要物を除去し、沈降のための抗体(抗Sec61β、抗Sec61α、抗VCP、抗BiP、抗PDI、抗calreticulin、抗TAP1、抗TAP2)とインキュベートした後、プロテインGで免疫沈澱物を回収した。ニワトリ抗CHIP抗体を使った場合は、ウサギ抗IgYカラム(Mr.S.Seki,MBL)で免疫沈澱物を回収した。沈降サンプルは、SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングで解析した。
Sec61複合体を抗Sec61β抗体または抗Sec61α抗体と免疫沈降したところ、ラクタシスチンの存在下または非存在下でbOVAとインキュベートされたDC2.4細胞において、bOVAの一部がSec61と結合しているのが観察された(図2a,b)。bOVAとインキュベートされたDC2.4細胞からのサンプルを抗VCP抗体と免疫沈降した場合もまた、bOVA とVCPとの結合を示した(図2c)。3種類のER常在タンパク質、BiP、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)、calreticulinもOVAと結合することが見出された(図2d-f)。興味深いことに、bOVAの一部がE3-ユビキチンリガーゼであるCHIPと結合していることが明らかになった(図2g)。上記タンパク質とは逆に、bOVAはTAP1またはTAP2と結合しなかった(図2h,i)。
上記ERAD関連タンパク質とbOVA との結合についてさらに確認するため、共精製実験を実施した。同時精製実験は以下のように行った。DC2.4細胞とBMDCを、それぞれbOVA(250μg ml-1)と共にインキュベートし、PBSで2回洗浄し、プロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma)と共にジギトニンバッファー(共精製用:1%digitonin in 20mM HEPES pH7.6)に溶解した。サンプルはストレプトアビジンアガロースビーズ(SAビーズ)(Novagen)を用いて室温1時間で沈殿させた。沈殿したサンプルは、7.5-15%SDS-PAGE(Biocraft)で分離し、ウエスタンブロッティングを行うため、Immobilon P(Millipore)に移した。タンパク質のバンドは化学発光法(Amersham Pharmacia Biotech)により可視化した。
BiP、Sec61α、Sec61β、VCP、calreticulinおよびCHIPとbOVA との結合は、細胞ライセートからストレプトアビジンビーズを用いたbOVAと 上記タンパク質との共精製によっても示された(図3A)。本精製実験において、TAP1/2がbOVAと結合しないことが再び観察された。抗Sec61抗体、抗VCP抗体とインキュベートした骨髄由来DC(BMDC)ライセートは、bOVAと免疫沈降し(図2j,k)、BiPとVCPはbOVAと共精製された。
CHIPを含む上記分子と結合したDC2.4細胞中のbOVAの多くは、無処置のbOVAと同じ分子量を有することは注目に値する(図2a-g)これらの結果は変性したbOVAがERまたはER関連構造に分解を受けずに蓄積され、Sec61トランスポーターを解して細胞質へ輸送され、その後、少なくとも部分的にはCHIPが関与するポリユビキチン化を受け、最終的にプロテアソームによる分解に供されることを示唆している。
[実施例3]ERAD阻害がもたらす蓄積OVA分解の減少
次に、ERADの関与をさらに確かめるため、ERAD阻害、例えば、Ca2+枯渇やthapsigargin処理によってbOVAの蓄積が影響を受けるか否かを検討した。ER内のCa2+を枯渇させるとERADが阻害されることが知られている。また、Thapsigargin(Tg)はER膜に結合しイオノフォアとして機能することで、ER内腔のCa2+濃度を低下させ、ERADを阻害することが知られており、Tg存在下ではbOVAのERADによる分解は抑制されると予想される。DC2.4細胞をMG-132存在下でbOVAとパルスし、続いてPBSまたは1mM EGTAを含むPBSで洗浄し、4時間にわたり追跡した。図4aに示すように、蓄積したbOVAはCa2+枯渇では減少しなかった。あらかじめEGTAに曝した細胞にCa2+を再添加すると、bOVA 分解が回復した(図4a)。このことは、Ca2+枯渇がDC2.4細胞に不可逆的ダメージを引き起こした可能性を排除する。thapsigarginもまた蓄積したbOVAの分解を阻害した(図4b)。
さらに、tunicamycin処理によるbOVA蓄積への影響を検討した。細胞をtunicamycin (Tm)処理すると、N型糖鎖付加が阻害され、ER内腔にフォールディングが異常になったタンパク質が蓄積する。このような構造的に異常なタンパク質はERADのよい基質となることから、取り込まれたbOVAのERADによる処理をtunicamycin処理によって生じたmisfoldedタンパク質が競合阻害すると予想される。DC2.4細胞をtunicamycinで処理すると、やはりbOVAの分解を阻害した(図4b)。tunicamycin処理の結果、ERADのよい基質となるために分解においてbOVAの競合するN-グリコシル化欠損タンパク質がER中に蓄積した。
上記仮説の3番目の立証として、ERAD経路における基質の逆行輸送に関与するタンパク質をノックダウンするためにRNAi法を行った(図4c)。pSilencer1.0-U6(Ambion)由来の1.2kb PvuIIフラグメントをpEGFP-C1(BD Biosciences)のSmaサイトに挿入し、p60とした。p600ΔCは、p60から1.3Kb Ase-BglIIフラグメントを削除して作製した。Sec61、VCP、CHIPを標的とするsiRNA配列を、業者のプロトコールにしたがって、p60ΔC(Sec61-22)、p60(VCP-41)、またはpSilencer2.1-U6hygroベクター(Ambion)(CHIP-4)に挿入した。Sec61αのノックダウンには、Sec61αの標的配列5つのうち2つが顕著に有効であった。3つは有効ではなかった。VCPの標的配列5つのうち2つおよびCHIPの標的配列5つのうち1つが顕著に有効であった。本実施例で用いた有効な標的配列は、以下のとおりである。
Sec61-22:AATGATCATTACTATCGGT;(配列番号7)
VCP-41:AATCCTTGAATGAAGTAGGCT; (配列番号8)
CHIP-4:CAGTATCGAGGAACGGCGC(配列番号9)
Sec61αノックダウンDC2.4(S22およびS22-3)細胞において、蓄積OVAは親DC2.4細胞よりも遅い速度で減少した(図4d,e)。Sec61αノックダウン用siRNAのスクランブル配列は、Sec61αの発現量にもbOVA蓄積にも影響を与えなかった(データ示さず)。これらの結果は、Sec61αがbOVAを分解に回すための輸送に関与していることを示唆している。同様に、VCPノックダウンDC2.4細胞(V41及びV41-1)は、蓄積bOVAがある程度減少したにもかかわらず、追跡した間は、親DC2.4細胞よりも多量のbOVA を維持した(図4d,e)。
CHIPノックダウンDC2.4細胞(C4,C4F-1)を作成し、CHIPノックダウン下のbOVAポリユビキチン化について検討したところ、CHIPノックダウンDC2.4細胞のbOVA取込みは、親DC2.4細胞への場合の70%ほどに過ぎなかった(図4d,f)。この事実にもかかわらず、bOVAのポリユビキチン化はCHIPノックダウン細胞において34%に減少した(図4f)。OVA蓄積量の減少は、CHIPノックダウン細胞において減速した(図4d,e)。逆に、TAP1ノックダウンはDC2.4細胞中のbOVA分解に影響を与えなかった(図5)。
[実施例4]DC2.4細胞中の蓄積OVAの局在化
上記結果の全てが、DC2.4細胞に取り込まれたbOVAがERADを通じて分解されていることを強く支持している。しかしながら、最近になって、プロテオミクス解析や免疫電子顕微鏡観察によって、感染性バクテリアが取り込まれる場所であるファゴソームが、MHCといった抗原提示関連物質やTAP1/2等のERを構成する一群のタンパク質を含むことが明らかになった。このことから本発明者らは、DC2.4細胞やBMDC中の蓄積OVAの細胞内局在化について免疫蛍光コンフォーカル顕微鏡によって検討することとした。カルチャースライド(FALCON)上のDC2.4細胞とBMDCをMG-132で30分間前処理し、500μg ml-1OVAで2時間インキュベートした。培地で3回洗浄した後、細胞を3.7%ホルムアルデヒドで10分間固定し、0.1%TritonX-100 in PBSで室温10分間処理して透過処理し、5%BSA/2%FCSを含むPBS中で所定の抗体により37℃で1時間インキュベートし、染色した。二次抗体は、Alexa Fluor488ヤギ抗マウスIgG F(ab')2フラグメント、Alexa Fluor488ヤギ抗ラットIgGおよびAlexa Fluor 546ヤギ抗ウサギF(ab')2フラグメント(Molecular Probes)を使用した。画像は、蛍光装置のついたIX70(オリンパス)倒立顕微鏡を用いて取り込み、Deltavision deconvolution microscopy software(Applied Precision)によって処理して取得した。
細胞中にOVAスポットまたはスペックルが検出されたが、これらOVA分布は外来物質の取込みに関与することが知られている初期エンドソーム(EEA1を免疫染色)およびcaveosome(caveolin-1を免疫染色)のどちらとも重複しなかった(図6a,b)。その代わりに、OVA免疫蛍光は少なくとも部分的には後期エンドソーム(抗Lamp1抗体で染色)(図6c)、ER(図6d)と共局在した。抗KDEL抗体で標識したERは網目構造を示したが、OVA分布はER全体に均一ではなかった(図6d)。同様に、OVAは後期エンドソームの制限された領域で検出された(図6c)。OVAはゴルジ装置(抗GM-130抗体で染色)とは共局在しなかった(図6f)。ER中の蓄積OVA局在を、BMDCについても確認した(図6e)。これらの結果は、DCへ取り込まれたOVAはERADかつ/またはファゴソームや後期エンドソームといったER成分を含む他のオルガネラ中の同様のタンパク質分解経路にしたがうという本発明者らの仮説に一致する。
[実施例5]密度勾配遠心によるOVA含有膜小胞の細胞成分分画
次に本発明者らは、イオジキサノール勾配遠心によってDC2.4細胞の膜画分中の蓄積OVAの分布を検討した。密度勾配遠心のために、bOVA(500μg/ml)と3時間インキュベートしたDC2.4細胞を、PBSで2回洗浄し、homogenization medium(0.25Mスクロース、1mM EDTA、10mM Hepes-NAOH pH7.4)に懸濁し、Dounce homogenizerの10strokesで破壊した。未破壊細胞と核は、2,000xgで10分間遠心して除去した。核を除去した(postnuclear)上清を100,000xgで45分間遠心してペレットとし、homogenization mediumに再懸濁し、2.5-30または10-30%の不連続Optiprep(Gibco/Invitrogen)グラジエントに重層した。遠心は、Bechman SW 60Tiローターを用い、4℃で2.5-30%グラジエントの場合は200,000xgで2.5時間、10-30%グラジエントの場合は300,000xgで3時間行った。各遠心チューブの上層から取得した11画分をTCA沈殿させた後、SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングで解析した。
OVAは画分を通じて検出されたが、OVAのピークは明らかに2.5-30%密度勾配中のフラクション#10(図7a)および10-30%密度勾配中のフラクション#5(図7b)に観察された。画分中のSec61、BiP(KDEL)、Rab5の分布は、OVAの場合と類似していた(図7)。逆に、後期エンドソームマーカーであるLamp-1は、2.5%-30%密度勾配中にフラクション#6と#10の2つのピークを示した。ゴルジマーカーのGM130とリサイクリングエンドソームマーカーのトランスフェリンレセプター(Tfr)は別々に回収された。これら結果の全ては免疫蛍光顕微鏡によって得られた結果と一致した。
[実施例6]Sec61、VCP、CHIPのノックダウンによるクロスプレゼンテーション低下
ERADに関与する細胞構成物質のノックダウンが外来性OVA抗原のクロスプレゼンテーションを低下させるか否かについて、DC2.4細胞とOT-IマウスのナイーブCD8+T細胞とを用いた抗原提示レベルの評価系によって検討した。樹状細胞のモデルとして用いたDC2.4細胞は、マウスMHCクラスIハプロタイプがH-2Kbである。OT-I(H-2Kb)マウスは、H-2Kb分子上に提示されたOVA由来の抗原ペプチド(SIINFEKL)(配列番号15)を認識するT細胞受容体(TCRα,β)を発現するトランスジェニックマウスである。OT-IマウスのCD8+細胞は、DC2.4細胞またはH-2Kbマウス由来のBMDCが提示するOVAペプチドを認識し、活性化される。DC2.4細胞をOVAまたはbOVAでインキュベートして固定した後、さらにOT-IマウスのナイーブCD8+T細胞とインキュベートしたときに、OT-I CD8+T細胞によって産生されるIL-2量は、DC2.4細胞によって提示されたOVA抗原によるT細胞刺激の指標となる。
親またはノックダウンDC2.4細胞を、ラクタシスチンまたはMG-132存在下または非存在下において50μg ml-1ポリミキシンBを添加した培地で30分間プレインキュベートし、OVA(250μg ml-1)またはSIINFEKL(配列番号15)ペプチド(10ng ml-1)で6時間インキュベートした。細胞を洗浄し、1%パラホルムアルデヒドで固定し、マイクロタイタープレート(1ウェルあたり5x104)に分注した。OT-1マウスの脾細胞から磁性ビーズで精製した5x104 CD8+ T細胞を各ウェルにくわえ、IL-2分泌を24時間のインキュベーションの後にELISA法(BD Biosciences)で三重測定した。
図8aに示すように、OVAとbOVAはCD8+ OT-I T細胞の刺激に対し同等に抗原性を示した。プロテアソーム阻害剤は、予想通りにOVA抗原提示を抑制した(図8b)。逆にNH4Clは、OT-I CD8+ T細胞に対するMHCクラスとのOVA抗原提示を減少させなかったが、OT-II CD4+ 細胞へのMHCクラスIIとの提示を阻害した(図9)。Sec61、VCPまたはCHIPのノックダウン効果は、siRNA発現ベクターを導入したDC2.4のクローン化していないトランスフェクタント(S22,V41,C4)とクローン化したトランスフェクタント(S22-3,V41-1,C4-1)を用いて試験した(図8c,d)。Sec61はER関連タンパク質の正方向の輸送および逆行輸送の両方に関与していることから、Sec61のノックダウンが細胞外から添加されたOVAの抗原提示を減少させたことは驚くに値しなかった。ER関連タンパク質の逆行輸送に必要なVCPのノックダウンもまた、DC2.4細胞による抗原提示を低下させた。これらの結果は、外因的に添加されたOVAはクロスプレゼンテーションのためにERADを経由して処理されるという本発明者らの仮説を支持する。さらに、DC2.4細胞中のOVA蓄積効果と一致して、CHIPのノックダウンはOVAクロスプレゼンテーションの低下を招いたことから(図8c,d)、クロスプレゼンテーションの際のOVAポリユビキチン化に対するE3ライゲースとしてCHIPが機能していることが示唆される。
[実施例7]小胞体局在配列付加によるポリユビキチン化促進
ER内腔に局在するタンパク質のカルボキシル末端に小胞体局在配列であるKDEL配列(Lys-Asp-Glu-Leu)(配列番号3)を付加すると、ERとゴルジ体間を繰り返し輸送され、そのタンパク質のERADが促進されることが報告されている。そこで、OVAのC末端にKDEL(配列番号3)を付加したものをDC2.4細胞に取り込ませ、SDS-PAGEおよびウェスタンブロットにより、取り込み後にポリユビキチン化されたOVAを観察した。KDEL配列付加OVAは、下記のようにして構築および発現させた。OVAをコードするDNA配列を含むプラスミドを鋳型とし,プライマーとしてoligo-1(配列番号10)とoligo2(配列番号11)を用いてPCR法を行なった。増幅した約1100 bpのPCR産物をpCR-Blunt vector(Invitrogen)に導入し、vector-1とした。oligo-3(配列番号12)とoligo-4(配列番号13)をアニールし、得られた約100 bpの遺伝子断片をpCR-Blunt vectorに導入し、vector-2とした。vector-2をSpe Iで消化し、得られた約130 bpの遺伝子断片を、Nhe Iで消化したvector-1に導入し、vector-3とした。vector-3をBamH I/Spe Iで消化したときに得られる約1250 bpの遺伝子断片(OVA-KDEL)を、遺伝子発現用ベクターに導入し、発現させた。KDEL配列付加OVAアミノ酸配列を配列番号14に示す。
結果を図10に示す。OVAのC末端にKDEL(配列番号3)を付加したものをDC2.4細胞に取り込ませた場合と、OVAを取り込ませた場合を比較すると、基質(OVA-KDEL)のポリユビキチン化が顕著に促進されることが確認された。
また、OVAのカルボキシル末端に(Lys-Asp-Glu-Leu)(配列番号3)を付加してDC2.4細胞に取り込ませ、OT-Iマウス CD8+T細胞を用いた上記抗原提示レベル評価系により、OVAとOVA-KDELの抗原提示レベルを観察した。OVAよりもOVA-KDELの方が、明らかに抗原提示が強く認められた(データ示さず)。
上記結果から、OVAとOVA-KDELを比較すると、OVA-KDELの方がポリユビキチン化をより受けやすく、かつ、より効率よく抗原提示されることがわかった。すなわち、ポリユビキチン化の受けやすさと抗原提示されやすさとの間に相関関係があることが明らかになった。このことから、抗原タンパク質のポリユビキチン化測定結果から、該抗原タンパク質によるクロスプレゼンテーションの強さを予測可能ということができる。
OVAを外部抗原とした場合は、上記のとおり、OT-Iマウス細胞を用いた抗原提示アッセイの構築が可能である。しかし、一般には、特定の抗原に対する特異的TCR発現動物は存在せず、OVAのような抗原提示アッセイの構築は不可能である。したがって、ある抗原の抗原提示されやすさを知る必要がある場合において、抗原タンパク質の樹状細胞への取り込みと抗原タンパク質のポリユビキチン化測定によって抗原提示されやすさを推測することは非常に有用といえる。
[実施例8]Hspによるポリユビキチン化促進
ブタ由来HSP90(10μg/ml)存在下または非存在下で、DC2.4細胞とOVA(0,50,250μg/ml)をRPMI1640/10%FCSで37℃6時間インキュベートした。抗原とHSPを洗浄後、OT-I CD8+T細胞を加えて37℃で一晩培養し、上清に含まれるIL-2量をELISA法で測定した。その結果、OVA単独とインキュベートした場合よりも、より強い抗原提示が認められた(図11a)。また、Hsp90濃度依存的に抗原提示能力が高くなった(図11b)。
次に、DC2.4細胞をOVAとlactacystin (LC)存在下または非存在下に一定時間インキュベートし、細胞に取り込まれたOVAを測定した。また、Hsp90存在下または非存在下において、細胞に取り込まれたOVAを同様に測定した。Hsp90存在下では、DC2.4細胞は、Hsp90非存在下の場合よりも、より効率よくOVAを細胞内に取り込むことが認められた(図12)。
DC2.4細胞とGST-OVAを、Hsp90存在下あるいは非存在下にインキュベートし、細胞を回収し、抽出液を作製した。SDS-PAGE後、anti-polyubiquitin抗体でウェスタンブロットを行った。Hsp90存在下では、Hsp90非存在下のときと比較して、DC2.4細胞に取り込まれたOVAがより強いポリユビキチン化を受けることが示された(図10)。
上記結果から、OVA単独でインキュベートした場合とHsp90存在下でOVAをインキュベートした場合とを比較すると、後者の場合に、細胞によるOVA取り込み量が増加し、ポリユビキチン化を受ける量も増加することが明らかにされた。この知見から、ある抗原タンパク質の抗原提示測定を行うかわりに、抗原タンパク質の樹状細胞への取り込み及び抗原タンパク質のポリユビキチン化を測定することで代替可能であると結論できる。
本発明によって、一般的に適用可能な、抗原提示されやすい抗原タンパク質の選択方法が提供された。癌免疫治療において癌治療用ワクチンとすべき癌特異的タンパク質の選別は、その後の治療効果を左右する重要な過程である。抗原提示されやすい抗原タンパク質を事前に選択できれば、癌免疫治療において、より適切な治療の提供を可能にできると考えられる。癌治療用ワクチン候補である多くの癌特異的タンパク質の中から、患者個人レベルで最も適切なタンパク質を選択する道が開け、いわゆるテーラーメード的な治療が可能となりうる。すなわち本発明の方法は、より適切な癌特異的タンパク質の選別により、癌免疫療法の治療効果向上をもたらし得ると考えられる。

Claims (5)

  1. 単離された樹状細胞にタンパク質を接触させる工程の後、少なくとも下記の(a)から(c)のいずれか一つ以上の工程を含む、樹状細胞において抗原提示されやすいタンパク質の選択方法。
    (a)該樹状細胞に取り込まれたタンパク質の量を測定する工程
    (b)該樹状細胞中のポリユビキチン化されたタンパク質量を測定する工程
    (c)該樹状細胞に取り込まれたタンパク質の樹状細胞中に残存する量を測定する工程。
  2. 単離された樹状細胞にタンパク質を接触させる工程と、下記の(a)から(c)に記載したタンパク質の量のうち少なくともいずれか一つ以上を測定する工程と、当該工程の測定値に基づいてタンパク質を取り込んだ樹状細胞を選択する工程と、該選択する工程において選択された樹状細胞を回収する工程とを含む、CTL誘導能の高い樹状細胞の製造方法。
    (a)該樹状細胞に取り込まれたタンパク質の量
    (b)樹状細胞中のポリユビキチン化されたタンパク質の量
    (c)樹状細胞に取り込まれたタンパク質の樹状細胞中に残存するタンパク質の量
  3. タンパク質を標識して用いることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
  4. 樹状細胞中のポリユビキチン化されたタンパク質量を測定する工程において、抗ユビキチン抗体を用いることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれかに記載の方法。
  5. 請求項1、請求項3、請求項4のいずれかに記載の方法を含む癌抗原ワクチン資格検定方法。
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