JPWO2004104034A1 - コンドロイチンacリアーゼ結晶 - Google Patents

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Abstract

単斜晶系空間群P21に属し、単位格子定数a=57.6Å、b=85.5Å、c=80.5Å、β=106.9°を実質的に有し、非対称単位に一つの分子を有するアルスロバクター属細菌由来のコンドロイチンACリアーゼの結晶、およびコンドロイチンACリアーゼの活性を有し、アミノ酸配列Asn−Trp−Trp−(Xaa)7−Arg−(Xaa)34−Gln−(Xaa)4−Arg−(Xaa)8−Asn−(Xaa)49−His−(Xaa)8−Tyr−(Xaa)53−Arg−(Xaa)3−Arg−(Xaa)2−(AsnまたはAsp)−(Xaa)106−Asn−(Xaa)54−Trp(Xaaは任意のアミノ酸残基を示し、数字は残基数を示す)を含むタンパク質。

Description

本発明は、特定の結晶学的特徴を有するコンドロイチンACリアーゼ(コンドロイチンACリアーゼII、コンドロイチナーゼACII)結晶に関する。また本発明は、コンドロイチンACリアーゼの活性を有し、特定のアミノ酸配列を有するタンパク質に関する。
グリコサミノグリカン(GAG)はプロテオグリカンの糖質成分である。グリコサミノグリカンは負に強く荷電した多糖であり、置換グルコサミン又はガラクトサミンがウロン酸に1,4結合で結合した二糖繰り返し構造よりなっている。これらの二糖単位は1,3結合又は1,4結合で結合し多糖鎖を形成している(文献1)。これらのグルコサミン及びガラクトサミンは多量に硫酸化されており、その生合成には多くの酵素群の協調した作用が必要とされている(文献2,3)。GAGは細胞外マトリックスの主要な成分である(文献4)。
GAGは二つのタイプの酵素、即ちヒドロラーゼ(加水分解酵素)又はリアーゼによって分解される(文献5)。ヒドロラーゼ群酵素の酵素学的メカニズムはよく理解されており、リテイニング・メカニズムあるいはインバーティング・メカニズムにより起こる(文献6)。一方、GAGリアーゼ群の酵素学的メカニズムの分子的な詳細についてはまだよく判っていない。β脱離反応の化学的にもっともらしい機構が報告されているものの(文献7)、活性部位の構成及び個々のアミノ酸の役割については依然として明確ではない。多くの細菌種がGAGリアーゼを合成し、これらの酵素を使用して細菌の天然環境にあるGAGを分解し炭素原として利用している(文献5,8)。三次元構造が判明してる多糖のリアーゼは二つの構造に分類できる。一つは右旋性平行β−ヘリックス(ペクテート/ペクチンリアーゼ、コンドロイチナーゼB、ラムノグルクロナンリアーゼなど)であり、もう一つは(α/α)トロイド(フラボバクテリウム・ヘパリナム コンドロイチンACリアーゼ、コンドロイチンABCリアーゼ、細菌ヒアルロン酸リアーゼなど)あるいは(α/α)トロイド(アルギネートリアーゼ)である。触媒メカニズムについては、カルシウムイオン依存性酵素ペクテートリアーゼについては報告されているが(文献9)、β−ヘリックストポロジーを有する他のリアーゼにあてはまるか否かは定かでない。いくつかのもっともらしいメカニズムが(α/α)トロイダルフォールドを有するリアーゼについて報告されているが、これらを支持する明確な証拠はない(文献10,11)。最近、Jedrzejasらは、ヒアルロニダーゼー基質複合体の結晶構造により一般的な塩基としてのヒスチジンの役割についての直接的な証拠が得られることを示している(文献12)。しかし基質原子の多くについて報告されているB−ファクターは100Å(おそらくリファインメントの限界)であり、基質についての電子密度マップは示されていない。従ってJedrzejasらの解釈には疑問があり、前記メカニズムについての問題は未解決のままである。これらの酵素がカルシウムイオンに依存せず、認知されている化学的メカニズム(文献7)から予測される正に荷電した基がウロン酸の近傍には存在しないことから、グルクロン酸カルボキシル基の電荷を中和するのに必要と推測される基の特性も明らかでない。
明確な特異性を有するGAG分解酵素は、GAGや他の多糖の構造分析ツールとして広く用いられており(文献13)、コンドロインチンACリアーゼ群はこの目的のために頻繁に用いられている。これらの酵素はウロン酸の非還元末端にあるグリコシド結合を切断し、コンドロイチン−4−硫酸、コンドロイチン−6−硫酸を基質とするが、デルマタン硫酸は基質としない。これらの酵素はヒアルロナンに対しても種々の程度の分解活性を示す。二種類のソースからのこれらの酵素、すなわちArthrobacter aurescensに由来するコンドロイチンACリアーゼ(ArthroAC)及びFlavobacterium heparinumに由来するコンドロイチンACリアーゼ(FlavoAC)が生化学工業株式会社から市販されており、頻繁に用いられている。FlavoACについてはクローニングがなされており、F.heparinum(文献14)及びE.coli(文献15)において強制発現されている。本発明者らは以前に、この酵素の三次元構造をそれ自体(文献16)及びいくつかのデルマタン硫酸オリゴ糖との複合体(文献10)において決定し、別の触媒メカニズムを提案した。これらの別の触媒メカニズムの一つは、反応産物複合体と分子モデリングに基づいてヒアルロン酸リアーゼについても提唱した(文献11,17)。
一方、Arthrobacter aurescensに由来するコンドロイチンACリアーゼ(ArthroAC)の精製や特性化はかなり以前になされ(文献18−20)、GAG分析のツールとして広く用いられてきてはいるが、この酵素はクローニングされておらず、そのアミノ酸配列は未決定のままであり、アミノ酸組成と、糖質含量のみが報告されていた(文献19)。
近年、各種GAGの生理学的活性が研究され、特に分子量特異的な生理活性も注目を集めており、医薬としての使用も期待されている。従って、GAG分解酵素の一つであるコンドロイチンACリアーゼを高度に生成された結晶状態で提供できれば、各種分析用試薬、医薬等としての低分子化されたコンドロイチンやコンドロイチン硫酸などの製造において、あるいは医薬そのものとして極めて有用である。また、コンドロイチンACリアーゼ活性を有するタンパク質を提供できれば、同様に上記のような有用性を有し、またその生産上極めて有利である。
上述のように、ArthroACはこれまでに既に精製され、なかには結晶化されたとの報告もあるが、本発明におけるようなユニークな特性を有する結晶は知られていなかった。
本発明は、生化学的分析ツールあるいは低分子化されたGAG等の製造手段として有用な、特定の結晶学的特徴を有するコンドロイチンACリアーゼ(コンドロイチナーゼACII)結晶を提供することを目的とする。また本発明は、上記のような有用性を有するコンドロイチンACリアーゼの活性を有するタンパク質を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、アルスロバクター属細菌(アルスロバクター・アウレセンス)のコンドロイチンACリアーゼ(ArthroAC)のユニークな結晶を得ることに成功し、その結晶学的特徴を同定した。さらに該結晶のX線回折による構造分析によりコンドロイチンACリアーゼの一次構造を解明し、すでに一次構造が解明されていたフラボバクテリウム・ヘパリナム由来のコンドロイチンACリアーゼ(FlavoAC)の一次構造と比較することにより、前者がエキソ型コンドロイチナーゼであり、後者がエンド型コンドロイチナーゼであることを解明した。さらにArthroACの上記分解機構において重要な役割を果たす同酵素中のアミノ酸残基を特定した。
従って本発明は、単斜晶系空間群P2に属し、単位格子定数a=57.6Å、b=85.5Å、c=80.5Å、β=106.9°を実質的に有し、非対称単位に一つの分子を有するアルスロバクター属細菌由来のコンドロイチンACリアーゼの結晶を提供する。
本発明のコンドロイチンACリアーゼの結晶においては、前記アルスロバクター属細菌はアルスロバクター・アウレセンスであることが好ましい。
また本発明は、コンドロイチンACリアーゼの活性を有し、アミノ酸配列Asn−Trp−Trp−(Xaa)−Arg−(Xaa)34−Gln−(Xaa)−Arg−(Xaa)−Asn−(Xaa)49−His−(Xaa)−Tyr−(Xaa)53−Arg−(Xaa)−Arg−(Xaa)−(AsnまたはAsp)−(Xaa)106−Asn−(Xaa)54−Trp(Xaaは任意のアミノ酸残基を示し、数字は残基数を示す)を含むタンパク質を提供する。このタンパク質のアミノ酸配列は、配列表の配列番号2に示した。
このようなタンパク質のなかでも、配列表の配列番号1におけるアミノ酸番号124〜465で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質が好ましい。
図1は、コンドロイチンACリアーゼII結晶の顕微鏡像を示す写真である。
図2は、コンドロイチンACリアーゼII結晶の顕微鏡像を示す写真である。
図3は、3σ(緑色)および6σ(深紅色)のレベルで輪郭を描いた3Fo−2Fc電子密度マップの代表的な部分を示す図である。このマップによりC、NおよびO原子の区別が可能である。
図4は、ArthroAC、FlavoACおよびいくつかのヒアルロン酸リアーゼについての構造ベースの配列アラインメントを示す図である。基質結合部位を閉鎖するArthroAC配列におけるインサートはグレーで示した。イタリックの太字はα−ヘリックスを形成する残基を示す。太字はβ−ストランドを形成する残基を示す。4種いずれのタンパク質においても保存される残基は四角で囲んだ。矢印は推定活性部位残基Asn180、His230、Tyr239、Arg293及びGlu404を示す(ただし、Glu404には矢印を付していない)。本図はプログラムMOLSCRIPT(文献44)およびRaster3d(文献45)により作成した。図中、Gはグリシン、Aはアラニン、Vはバリン、Lはロイシン、Iはイソロイシン、Sはセリン、Tはスレオニン、Dはアスパラギン酸、Eはグルタミン酸、Nはアスパラギン、Qはグルタミン、Kはリシン、Rはアルギニン、Cはシステイン、Mはメチオニン、Fはフェニルアラニン、Yはチロシン、Wはトリプトファン、Hはヒスチジン、Pはプロリンの残基をそれぞれ示す。
図5は以下の通りである。a)ArthroACのリボン図である。N末端(α/α)トロイドの個々のαヘリックスヘアピンは異なる色で示す。C末端ドメインの個々のβシートも別の色で示す。溝をブロックするArthroACにおけるインサートはグレーで示す。b)ArthroACおよびFlavoACのN末端ドメインのCαトレースを重ね合わせたものを示す立体図である。溝をブロックするArthroACにおけるインサートはグレーで示す。c)ArthroACおよびFlavoACのC末端ドメインのCαトレースの立体図である。
図6は、C末端ドメインからの457〜466ループのオープンおよびクローズコンフォメーションの立体図である。オープンコンフォメーションにおけるCys405の近傍のチメロサール水銀原子の位置をボールで示す。His230、Arg293、Glu404およびTrp462の側鎖を特に示す。+2および+1糖も示す。
図7は、基質結合部位の立体図である。a)結合するコンドロイチン−4−硫酸の四糖に対応する存在する基質を除いて計算したオミットマップにおける電子密度を1.2σレベルで示したものであり、+1糖単位の捩れたボートコンフォメーションを明確に示している。b)四糖の近接する側鎖への接触。水素結合は破線で示す。
図8は、ArthrobactorコンドロイチナーゼACのコンドロイチン−4−硫酸四糖との複合体(青色)およびFlavobacteriumコンドロイチナーゼAC Y234F変異体のコンドロイチン−4−硫酸四糖との複合体(赤色)を重ね合わせたものを示す立体図である。
図9は、提案される触媒機構を示す図である。457〜466ループの開閉は近傍の2つのループの先端の動きに関連している可能性が高く、開閉に基質の結合および放出が伴う。基質の結合により活性部位が認識され、正に荷電したArg293およびTyr239に水素結合したプロトン化His230に影響されるTyr239の脱プロトン化が起こる。フェニル環のOHが最初に+1部位のグルクロン酸のC5からプロトンを引き抜く一般的な塩基として作用する。そしてこのプロトンは−1部位の糖の04脱離基に与えられる。基質結合谷のブロックされた末端によりグリコサミノグリカン鎖の非還元末端の糖への結合が制限され、ArthroACのエキソ型作用機序が生じる。
図10は以下の通りである。a)ArthroACの伸長された基質結合部位内の分子表面の立体図である。基質結合部位をキャップする配列中のインサートを緑色で示す。b)FlavoACの伸長された基質結合部位内の分子表面を結合した四糖とともに示す立体図である。本図はプログラムGRASP(文献46)により作成した。
コンドロイチンリアーゼ(EC4.2.2.4およびEC4.2.2.5)は脱離酵素として働くグリコサミノグリカン分解酵素である。アルスロバクター・アウレセンス(Arthrobactor aurescens)から得られるコンドロイチンリアーゼAC(ArthroAC)は、コンドロイチン−4−硫酸およびコンドロイチン−6−硫酸に作用するが、デルマタン硫酸には作用しないことが知られている。その他のコンドロイチンACリアーゼとして、ヒアルロナンを開裂することもできる。
本発明のコンドロイチンACリアーゼの結晶に使用されるコンドロイチンACリアーゼ自体は公知の酵素であり、既に精製されている。
本発明のコンドロイチンACリアーゼの結晶に使用されるコンドロイチンACリアーゼはアルスロバクター属細菌に由来する。本発明のコンドロイチンACリアーゼの結晶に使用されるコンドロイチンACリアーゼを取得するためのアルスロバクター属細菌は特に限定されないが、アルスロバクター・アウレセンスであることが好ましい。
アルスロバクター属細菌からコンドロイチンACリアーゼを取得する方法も特に限定されず、細菌から酵素を取得するのに通常使用される方法を用いて取得することができる。具体的には、アルスロバクター属細菌を培養し、培養された細菌の菌体から酵素を抽出し、該酵素を精製すればよい。
アルスロバクター属細菌の培養は、例えばJ.Biol.Chem.,243(7),1523−1535(1968)、特開昭62−122588号、特開平2−57180号公報等に記載されるような通常の方法で培養することができる。培養条件も特に限定されないが、例えば、肉又は魚エキスとポリペプトンを含有する培地中、30〜35℃程度の温度で半日間〜5日間程度培養する。コンドロイチンACリアーゼの発現を増強するために、培養液中にコンドロイチン硫酸又はその加水分解物を0.01%以上、好ましくは0.05〜1%程度添加することが好ましい。
培養された細菌の菌体を培養液から採取し、これを中性付近のpHを有する緩衝液に懸濁させ、その懸濁液から酵素の抽出を行う。中性付近のpHを有する緩衝液としては、通常pH6.0〜8.0の1〜100mMリン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、酢酸緩衝液等を用いることができる。このような緩衝液中で超音波処理あるいは菌体破壊装置(Dino Mill等)による処理を行って菌体を破砕し、コンドロイチンACリアーゼ、プロテアーゼ、その他の酵素、核酸、蛋白質等を含む菌体抽出液として抽出する。コンドロイチンACリアーゼの菌体からの抽出は、界面活性剤溶液、例えば界面活性剤を添加した緩衝液を用いることにより、抽出効率を高めることができる場合がある。
得られた菌体抽出液を緩衝液に対して透析することなどによって低分子量物質を除去した後、塩析、硫安沈降、各種クロマトグラフィー等を用いることによって精製することができる。
コンドロイチンACリアーゼの精製に用いることができるクロマトグラフィーの一例としては、弱カチオン交換樹脂と強カチオン交換樹脂とを組合せて使用するクロマトグラフィー処理を挙げることができる。ここで使用する弱カチオン交換樹脂としては、交換基がカルボキシメチル基等のカルボキシアルキル基であるカチオン交換樹脂を例示することができる。具体的には交換基としてカルボキシメチル基を有する多糖類誘導体(アガロース誘導体、架橋デキストラン誘導体等)が挙げられ、市販品としてはCMセファロース、CMセファデックス(いずれも商品名、ファルマシア社)等が挙げられる。強カチオン交換樹脂としては、交換基がスルホアルキル基であるカチオン交換樹脂を例示することができる。具体的には、交換基としてスルホエチル基、スルホプロピル基等を有する多糖類誘導体(アガロース誘導体、架橋デキストラン誘導体等)が挙げられ、市販品としてはSセファロース又はSPセファロース(商品名、ファルマシア社)、SPセファデックス(商品名、ファルマシア社)、SPトヨパール(商品名、東ソー(株))等が挙げられる。上記2種類のカチオン交換樹脂を組合せたクロマトグラフィー処理としては、以下の方法を一例として挙げることができる。
まず最初のクロマトグラフィー処理としては、弱カチオン交換樹脂を菌体の抽出に用いたのと同様の緩衝液、例えばpH6.5〜7.5の緩衝液(例えば、1〜50mMのリン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、酢酸緩衝液など)で平衡化し、これに前記の菌体抽出液の上清を接触させ、酵素を吸着させ、このカチオン交換樹脂を、必要に応じて塩類溶液(例えば、20〜25mM NaCl溶液および/または前記界面活性剤溶液(例えば、0.5%POELE溶液)を用いて洗浄する。上記緩衝液に0.1M程度の食塩を溶解させた溶出液を調製し、前記樹脂と接触させて酵素活性を有する画分を溶出する。溶出法は濃度勾配法(グラジエント法)によっても、ステップワイズ法によってもよい。このようなクロマトグラフィー処理は、カラム法でも、バッチ法でもよい。得られた画分を、同様の緩衝液で平衡化した強カチオン交換樹脂と接触させ、コンドロイチンACリアーゼを吸着させ、このカチオン交換樹脂を、必要に応じて塩類溶液(例えば20〜50mM NaCl溶液)および/または水を用いて洗浄後、0〜約0.5Mの食塩を含む前記と同様の緩衝液(例えばリン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、酢酸緩衝液など)で濃度勾配法によってコンドロイチンACリアーゼを溶出単離し、精製酵素溶液を得る。このようなクロマトグラフィー処理は、カラム法で行うことが好ましい。以上の2種類のカチオン交換樹脂を使用するクロマトグラフィー処理を、上記と逆の順序で行うことも可能である。
このようにして得られたコンドロイチンACリアーゼは、不純物のエンドトキシン、核酸、プロテアーゼ、その他の蛋白質等が除去されており、電気泳動(SDS−PAGE)で単一のバンドを示し、HPLC(ゲル濾過、カチオン交換)においても単一のピークを示すものである。
さらに、上記の精製酵素溶液からコンドロイチンACリアーゼを結晶化する。精製されたコンドロイチンACリアーゼを結晶化する方法も特に限定されず、通常タンパク質の結晶化に用いられる方法を応用することができる。例えば、コンドロイチンACリアーゼを、両末端が水酸基である構造を有するポリエーテル(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)と混合接触させ、コンドロイチンAC、リアーゼを結晶化させることもできる。例えば、コンドロイチンACリアーゼ溶液にポリエチレングリコール(分子量4,000、6,000、8,000等)を添加し、室温〜4℃程度で結晶が生成するまで放置する。また、コンドロイチンACリアーゼの結晶化は、コンドロイチンACリアーゼ及びポリエチレングリコールを含む溶液を、ポリエチレングリコールを含む溶液中に懸濁させて結晶化を行う、懸滴気相拡散法(hanging drop vapor diffusion method)が好ましい。特に、後述する実施例に記載された方法で結晶化することが極めて好ましい。
上記のようにして得られる本発明のコンドロイチンACリアーゼの結晶は、単斜晶系の柱状結晶である。その結晶学的特性は、X線回折等により分析することができ、本発明者らは1.25オングストロームの解像度で三次元構造を決定しうる結晶を得た。この高い解像度と、天然酵素およびその複合体の非常に高品質な電子密度マップに基づいて、コンドロイチンACリアーゼ97%のアミノ酸を明確に同定することができ、FlavoACおよびヒアルロナンリアーゼに共通する触媒機構の分子学的な詳細を明確にすることができた。
すなわち、後述の実施例に記載するように、本発明者らはArthroACの三次元結晶構造をその天然の形態およびその基質(コンドロイチン4硫酸四糖(CStetra)およびヒアルロナン四糖)との複合体において1.25〜1.9オングストロームの解像度で決定し、上記結晶は、単斜晶系空間群P2に属し、単位格子定数a=57.6Å、b=85.5Å、c=80.5Å、β=106.9°を実質的に有し、非対称単位に一つの分子を有することが判明した。
また、ArthroACの一次構造はこれまで決定されていなかったが、高解像度電子密度マップによりこの酵素のアミノ酸配列を決定することができた。
酵素−基質複合体は、基質を種々の時間結晶に浸漬し、結晶を瞬間凍結することにより得た。短時間(〜2分)基質に浸漬した結晶の電子密度マップにより基質が明確に示され、+1位置(後記参照)のグルクロン酸の環がボート・コンフォメーションにねじれることが示された。この構造により、チロシン(Tyr)239がC5位置からプロトンを引き抜く一般的な塩基として作用し、アスパラギン(Asn)180およびHis230がグルクロン酸酸性基を中和するという分解機構が強く支持される。この構造をFlavobacterium heparinumに由来するコンドロイチンACリアーゼ(FlavoAC)のものと比較することにより、ArthroACのエキソ型作用機序とFlavoACのエンド型作用機序の説明が得られる。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本明細書においてはDaviesらの命名法(文献21)に従うものであり、切断の還元末端の糖を「+」の記号で示し、切断部位から数値を増加させる。非還元末端の糖を「−」の記号で示し、切断部から離れるに従って数値が増加する。この命名法によれば、前記酵素は糖−1および+1の間の結合を切断し、後者がウロン酸である。
Arthrobacter aurescensの培養とタンパク質の精製
ArthroACの発現を刺激するために、Arthrobacter aurescensを下記の条件で培養した。0.4%ペプトン(Kyokuto Pharmaceutical Industry Co.Ltd.,Tokyo)、0.4%エーリッヒ魚エキス(Kyokuto Pharmaceutical Industry Co.Ltd.,Tokyo)及び0.75%コンドロイチン硫酸C(生化学工業株式会社)を含む培地(32.5リットル、初期pH6.2)で、1v.v.mの通気率及び220rpmの攪拌速度で24時間培養した。
培養細胞から以前に記載された方法(文献20)にいくつかの変更を加えた方法で酵素を精製した。すなわち、培養液を15,000gで15分間遠心して菌体を除いた後、上清に75%(w/v)飽和になるように固体の硫安を加えた。4℃で75gのタンパク沈殿物(50,000ユニット)を0.02M酢酸バッファー(pH5.2)を含む蒸留水に対して連続して透析し、同じバッファーで予め平衡化したカラムSP−Sepharose(Amersham Bioscience Corp,Piscataway,NJ,直径×長さ:2.6x70cm)にかけた。数カラム容量のバッファーでカラムを洗浄した後、0.02〜0.3M酢酸バッファーの直線濃度勾配で酵素を溶出した。酵素活性及びタンパク質量を先に報告された方法でモニターした(文献20)。このクロマトグラフィー操作を3回繰り返し、酵素を含む分画を集め窒素雰囲気下で限外濾過により濃縮した(Ultrafilter Type P0200、分子量カットオフ20,000、Advantec、Tokyo Japan)。最後に酵素を0.01M酢酸バッファー(pH5.6)で平衡化したSephacryl S−200HRゲル濾過カラム(Amersham Bioscience Corp,Piscataway NJ)にかけ、同じバッファーで溶出させた。SDS−PAGEにより最も高い特異的活性と純度を示した画分を集めて合わせ、結晶化実験に使用した。
オリゴ糖の調製
コンドロイチン−4−硫酸四糖(CStetra)、デルマタン硫酸六糖(DShexa)およびヒアルロナン四糖を以前に記載されたように調製し、キャラクタライズした(文献10)。すなわち、ウシ気管由来のコンドロイチン−4−硫酸とブタ腸粘膜由来のデルマタン硫酸を、コンドロイチンABCリアーゼを使用してコントロールして脱重合し、反応が完了する前に5分間煮沸することによって停止させた。各オリゴ糖混合物をBio−Gel P6カラムで分離し、四糖からなるフラクションおよび六糖からなるフラクションを集めた。これらの混合物をさらに強アニオン交換高速液体クロマトグラフィーで分画し、単一のオリゴ糖を得た。それらの純度はキャピラリー電気泳動により確認し、構造はMSおよびNMR分析により確認した。これらの構造はCStetraがΔUAp(1→3)−β−D−GalpNAc4S(1→4)−β−D−GlcAp(1→3)−α,β−D−GalpNAc4Sであり、DShexaはΔUAp(1→[3]−β−D−GalpNAc4S(1→4)−α−L−IdoAp(1→)3)−α,β−D−GalpNAc4Sであった(ΔUApは不飽和糖残基4−デオキシ−α−L−スレオ−ヘキシ−4−エノピラノシルウロン酸を示し、IdoApはイドピラノシルウロン酸を示し、GlcApはグルコピラノシルウロン酸を示し、GalpNは2−デオキシ−2−アミノガラクトピラノース、Sはスルフェート、Acはアセテートを示す)。
タンパク質の結晶化及びデータの収集
上記タンパク質の針状結晶がかなり前に報告されているが(文献20)、キャラクタライズされていない。上記酵素を懸滴気相拡散法により結晶化した。すなわち、1mlのリサーバー溶液に懸濁した、2μlのタンパク質(10mg/ml)と2μlのリサーバー溶液(23%(w/v)PEG8000、0.1Mリン酸バッファー、pH6.4、0.4M酢酸アンモニウム、10%(v/v)グリセロールを含む)とを含む液滴中で結晶化させた。小さな結晶は数日中に現れた。データを得るために適した大きな結晶を得るためにマクロシーディング法を用いた。すなわち、小さな結晶を洗浄し、沈殿剤濃度を21%(w/v)に低下させた新鮮なタンパク質含有液滴中に移した。大きく、十分に規則性のある結晶は3〜5週間以内に成長した。ここで得られたコンドロイチンACリアーゼII結晶の顕微鏡像を図1及び図2に示す。
結晶は、単斜晶系空間群P2に属し、単位格子定数a=57.6Å、b=85.5Å、c=80.5Å、β=106.9°を有し、非対称単位に一つの分子を含んでいた。データを収集する前に、結晶を22.5%(w/v)PEG8000、0.1Mリン酸バッファー(pH6.4)、0.4M酢酸アンモニウム及び20%(v/v)グリセロールを含む凍結防止溶液に10秒間浸し、ナイロンループにのせ、窒素ガスの冷却流中で絶対温度100度(100K)まで瞬間的に冷却した。これらの結晶はシンクロトロンにおいて解像度1.3Åの回折を示した。データはX8CビームラインでBrookhaven National Laboratoryで得た。
2mM Hg塩をさらに加えた凍結防止溶液にもとの(ネイティブ)結晶を一晩浸すことにより、このHg塩(チメロサール)と複合体を形成した結晶タンパク質を得た。この重原子誘導体の存在により、c−軸が1.7Åまで拡大し、格子定数はa=57.4Å、b=85.3Å、c=82.2Å、β=105.8°となった。この結晶はネイティブ結晶に対して有意な非同型性を示した。3種の波長におけるそれぞれのデータはMADレジームにおいて得た。
酵素−基質複合体
ArthroACとその基質の複合体を得るため、ネイティブ結晶を基質を含む凍結防止溶液中に30秒間から10時間浸した(表2)。ネイティブ結晶を5mMのCStetraまたはヒアルロン酸四糖(HAtetra)を含む凍結防止溶液に特定の時間浸し、その後検出器のゴニオメーター上で冷窒素流(100K)で瞬間凍結し、直ちにデータ収集に使用した。格子定数はネイティブArthroACと比較して有意な相違を示さなかった。
すべての結晶の回折データはQuantum−4CCD検出器を用い、Brookhaven National Library,NSLSにおいてX8Cビームラインで収集した。最高の解像度である1.25Åのデータは、ネイティブ結晶を5mMのCStetra中に10時間浸した場合に得られた。データの処理と計測はHKL2000(文献22)により行った。収集したデータを表1及び2に示す。
構造決定
ArthroACの構造は、ArthroACの水銀含有チメロサール誘導体から求めた。多波長異常散乱(Multiwavelength Anomalous Diffraction,MAD)実験において三波長でデータを収集した。プログラムSOLVE(文献23)を使用してデータを分析したところ、非対称単位に三つの水銀部位があることが判明した。これらの部位を使用して1.3オングストロームの解像度で各実験段階を計算し、figure of merit(FOM)の全体的な値として0.33〜1.3オングストロームを得た。プログラムRESOLVE(文献24)を用いた、溶媒含量を0.4とする電子密度修飾によりFOMが有意に増大し(1.3オングストロームにおいて0.45)、電子密度マップが実質的に改善された。タンパク質主鎖の約80%がプログラムRESOLVEを用いて自動的に構築された。主鎖のその他の断片及び多数の側鎖は、プログラム0(文献25)を用いてそれぞれ計算した。前記タンパク質の一次配列は未知であったので、各残基のアミノ酸種を実験的な電子密度マップに適合するように選択した。1.3オングストロームの解像度において、ほとんどのアサインメントが明確なものであり、ほぼ全体の鎖が当初のマップ上にトレースできた。この最初の配列決定は、リファインメントの間、電子密度特性がさらに改良されるものとして調整された。プログラムCNS、バージョン1.1(文献26)を用いて最初のリファインメントを行い、そのモデルをプログラム0を用いて計算することで再構築した。その後、プログラムREFMAC5、バージョン5.1.08(文献27)を使用してリファインメントを重ねた。このモデルのリファインメントの過程では、1%のリフレクション(反射)はRfreeの計算には使用しなかった。CNSプログラムでは水分子が最初に自動的に加えられ、その後マップの相違を視覚的に検査することにより常に最も新しいものに置き換え、修正するものとした。チメロサールに浸漬したタンパク質の最終モデルは、1.3オングストロームの解像度において、R−ファクター(因子)が0.134、Rfreeが0.155となった。このような高い品質の電子密度マップにより、アスパラギン、グルタミン及びヒスチジンの大部分の側鎖の炭素、窒素、酸素原子を区別することができた。このモデルは753残基(Gly2〜Arg754)を含み、図4に示したアラインメントにおいて示したArthroACのアミノ酸配列に対応する。本明細書中で言及するアミノ酸番号は、特にことわりがない限り、この配列に付した番号に基づく。現在のモデルは754残基を含み、別途のアミノ酸番号を付して配列表の配列番号1に示した(Pro4〜Arg757)。
ネイティブタンパク質および酵素−基質複合体のリファインメント(詳細化)
水銀結合ArthroACのモデルを、ネイティブタンパク質の結晶のリファインメントの出発点とした。すべてのモデルのリファインメントはプログラムREFMAC5バージョン5.1.08を用いて行った。リファインメントの過程でのRfreeファクター(因子)のモニタリングについては1%のリフレクションは無視した。電子密度マップによりひとつのループが実質的に異なるコンフォメーションを有することが示され、これをプログラム0を用いて再構築した。このモデルを1.35オングストロームの解像度でリファインし、最終的なRファクターが0.130、Rfreeが0.175となった。このモデルは2〜754までの残基と1029分子の水と一つのNaイオンとを含むものである。触媒部位残基近辺の大きな特徴はリン酸イオンとしてモデル化された。
その後このモデルを使用して、浸漬時間を変えて(30秒、2分、10分、35分、2時間、4時間、10時間)、得られたコンドロインチンACリアーゼとコンドロインチン−4−硫酸四糖(CStetra)との複合体の全て、及びHAtetra複合体(浸漬時間2分)の構造を決定した。異なる電子密度の高さから、部位−2、−1、+1及び+2における糖の占拠は構造ごとに規則的に異なっていることが明らかとなった。すべてのデータを高い解像度で得、電子密度像は予測した各糖の種類によく対応していたので、温度ファクター(因子)は異なる結晶間でも同様なものであるが、占拠は異なっていると考えられた。従って基質における各糖環の占拠を調整し、異なる結晶でもBファクター(因子)が同様なものとなり、周囲タンパク質原子と同様の値を持つようにした。HAtetra複合体の場合、示差電子密度マップにおいて2つのみの糖環が位置−2及び−1(反応生成物)で観察された。リファインメントのデータを表3に示す。
PROCHECK(文献28)は、すべてのモデルが異常値なしに良好な幾何学的形態を有することを示している。ネイティブなコンドロインチンACリアーゼ(ArthroACnat)、その水銀誘導体(ArthroACHg)、2分間浸漬したヒアルロナンとの複合体(ArthroACHA)、及び30秒間、10分間又は10時間浸漬したCStetraとの複合体(ArthroACCStetra)の配位はProtein Data Bank、RCSBに登録されている。
ArthroACのアミノ酸配列
ArthroACはその天然の宿主から精製されたが、このタンパク質をコードする遺伝子はクローニングされていない。この酵素が広く商業的に利用されているにもかかわらず、アミノ酸配列は決定されていなかったのである。幸いなことに、1.3オングストロームの解像度で計算された電子密度マップの品質と、独立して集められたデータ群に対してリファインメントされたいくつかのモデルが利用できたことにより、該タンパク質のほぼ全長のアミノ酸配列が十分に明確に確定された。
タンパク質主鎖原子の約80%はプログラムRESOLVEにより自動的に構築され、実験的に得られた電子密度マップに対して手作業でフィットすることによりタンパク質全体の95%まで構築された。実験的に得られたマップにおける最も強い電子密度像は硫黄原子であると考えられ、電子密度の形に基づきその残基の種類はシステインあるいはメチオニンとした。硫黄原子の同定は、実験の各段階において計算された変則的な電子密度マップを観察することにより確認した。全部で7つのシステインと10のメチオニンが同定された。すべてのトリプトファン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン及びプロリンの側鎖は、実験で得られた電子密度マップにおいて明確に認められた。さらに、タンパク質内部(特に高度に秩序づけられているβ−シートドメイン)においては、ほぼすべての残基の側鎖が非常に良好に決定できた(図3)。最初に、アスパラギン酸(Asp)あるいはアスパラギン(Asn)のどちらかの形であるものはアスパラギン酸として、グルタミン酸(Glu)ないしグルタミン(Gln)のどちらかの形であるものはグルタミン酸としてモデル化した。明瞭に観察できるCD1がなく、バリン、スレオニン、またはイソロイシンと解釈されるものは、すべてのバリン(Val)としてモデル化した。
リファインメント作業の過程での各段階の情報が改善により、配列決定を改善することができた。側鎖の決定には、それぞれのリファインされた複合体について独立してなされた電子密度マップ2Fo−2Fc、3Fo−2Fc及びFo−Fcにおけるピーク高の分析、個々の原子温度ファクターの比較、及び隣接原子間における水素結合の可能性の分析結果を使用した。これらの分析により、炭素原子、窒素原子、酸素原子を区別することができ、非常に高い信頼度でArthroACの一次配列を決定することができた。さらに、いくつかの側鎖について、部分的に占拠された別のコンフォメーションを同定することができた。
上記リファインメントの後、高い信頼度で730残基(96.8%)の特定のアミノ酸残基を決定した。電子密度により、十分に解明された第一の残基の前に少なくも一つの残基がある可能性が示されたため、解明された第一の残基の番号を「2」とした。付加的な12残基(アスパラギン又はアスパラギン酸、グルタミン又はグルタミン酸)については、不確定性はあるが、これは主として水素結合形成の可能性に基づくものである。溶媒に暴露されるフレキシブルループに存在し、高温ファクターを有する11残基についてのみ、明確に同定できなかった(図4)。
プログラムBLAST(文献29)を用いて、得られたArthroACのアミノ酸配列に相同性を有するNCBIデータベース中の配列を特定した。これらの相同性を有するタンパク質はヒアルロン酸、キサンタン又はコンドロインチンACリアーゼである。ArthroACは、各種ヒアルロナン及びキサンタンリアーゼに対して最も高い配列同一性(38%)を示し、F.heparinumのコンドロインチンACリアーゼに対してより低い同一性(24%)を示した。
タンパク質全体の折りたたみ
ArthroAC分子は、全体的なα+β構造を有し、二つのドメインからなる。N末端のαヘリックスドメインは13のα−ヘリックスからなり、そのうちの10はSCOPデータベースの中で分類されているように、不完全な二重層の(α/α)トロイドを形成している(文献30)。トロイドの一つの側面上には長く深い溝があり、これは活性部位と基質結合部位の位置を形成している。N末端の3つのα−ヘリックスは(α/α)トロイドの前にあり、一方の側に溝を収縮させている。ArthroACに相同性のある配列に保存されている残基はこの溝の領域に集中している。C末端ドメインはほとんど全体的に4つのβ−シートに整列したβ−ストランドからなる。このドメインには一つだけ短いα−ヘリックスがある(図5)。第二ドメインは二つのサブドメインに分けることができ、第一のものは二つの大きなβ−シートと一つの短いα−ヘリックスを包含し、第二のサブドメインは第三および第四のβ−シートからなる。
ArthroACの全体的な折りたたみはF.heparinumのコンドロイチンACリアーゼと細菌ヒアルロン酸リアーゼのものに非常によく似ている(図5)。ArthroACとFlavoACとの間に見られるN末端における溝に突き出ている鎖の部分における相違は、これらの2種の酵素の作用機序に重要な因果関係を有する(下記参照)。利用することができる全ての関連する構造の比較により、C末端のβ−シートドメインはN末端のα−ヘリックスドメインよりも互いにより類似しており、N末端およびC末端ドメインの相対的な配置はタンパク質ごとにいくらか異なっていることが示された。
Hg(水銀)原子結合による構造変化
ネイティブなArthroACの結晶をチメロサールを含む溶液に浸漬すると、単位胞がc軸方向に1.7オングストローム(2%)変化し、結晶の回折の質がやや向上した。ネイティブなArthroACタンパク質と水銀が結合したものの構造を比較することにより、チメロサールがシステイン(Cys)405に結合することによってC末端ドメイン中のアミノ酸残基457から466のループのコンフォメーションに有意な構造変化が起こることが示された(図6)。ネイティブなArthroAC結晶中のこのループは、基質結合部位の一つの仕切り壁を提供し、Cys405を溶媒から隔離している。水銀原子がCys405に接近するためには、このループが「オープン」コンフォメーションに変化する必要があり、これにより基質結合部位が基質に接近できるものとなる。トリプトファン(Trp)462はこのループ中に存在し、これは糖の環の一つに重なることにより基質の結合に関与している(下記参照)。Trp462と対称的に関連する分子との相互作用により、オープンコンフォメーションが安定化される。これらの新しい相互作用は、セルパラメーターに変化を起こし、また結晶回折の質をいくらか向上させる。オープンコンフォメーションは特異的な結晶コンタクトにより前記結晶において十分に特定されているが、このコンフォメーションは、溶液中で「オープン」状態にある前記ループに利用することができる、可能性ある多くのコンフォメーションの代表的な一つであると予想される。
457から466のループがオープン状態になることにより、基質結合部位の中心のN末端α−ヘリックスドメイン中の三残基、すなわちヒスチジン(His)230、アルギニン(Arg)293、グルタミン酸(Glu)404が再配置される(図6)。クローズコンフォメーションにおいては、Arg293はGlu404およびGlu409と塩ブリッジを形成し(それぞれ一つの水素結合)、His230はGlu404と水素結合する。Trp462の側鎖は近傍にパックされており、前記アルギニンのグアニジニウム基から4オングストローム未満の距離しか離れていない。457から466のループのオープンコンフォメーションにおいては、Trp462の側鎖は溝から外に出てArg293とHis230の側鎖が先にTrp462が占拠していた空間に侵入する。Glu404の側鎖はArg293とともに移動して二つの水素結合で塩ブリッジを形成し、一方His230とGlu404との水素結合ならびにArg293とGlu409との塩ブリッジは存在しなくなる。
基質結合部位
ネイティブなArthroACおよび水銀と結合したArthroACの構造により、457から466のループのオープンおよびクローズが、結晶中で容易に起こることが示された。従ってこれらの結晶により、X線回折で酵素とその基質の相互作用を研究するユニークな機会が与えられることとなった。これを完結するために、ArthroACのネイティブ結晶を基質であるコンドロインチン−4−硫酸四糖とともに30秒間から10時間の種々の時間浸漬した(表2および3)。各浸漬の後、結晶を瞬間凍結して回折データを収集した(解像度は1.25〜1.6オングストローム、表3)。ヒアルロナン四糖も、浸漬時間2分間にして基質として使用し、1.9オングストロームの解像度で回折データを収集した。構造はそれぞれ独立してリファインした。それぞれの場合について、ArthroAC分子を最初にリファインし、その後示差電子密度マップを観察、適切に解釈し、モデル化された基質/産物はリファインメントも含むものとした。いくつかの糖の単位がリファインメントされた各モデルにおいて明瞭に認められた。30秒間浸漬したものでも、四糖基質全体の電子密度が明確に認められた(図7および表4)。この四糖基質はこの30秒間浸漬の一連のデータ中で最も明確であり、糖環の占拠は、−1および−2のサブサイトで0.7であり、+1および+2のサブサイトで0.6であった。10時間の浸漬では−1および−2のサブサイトにおいて糖単位が示差電子密度マップ上で明瞭に認められ、1.0の占拠でリファインされた。一方、+1および+2のサブサイトの糖単位は約0.25の占拠を示した。ArthroACのヒアルロナン四糖との複合体においては、−1および−2のサブサイトにおける糖単位のみが電子密度中で認められ、二糖反応産物に対応する可能性が最も高い。この二糖の糖環の位置および方向はコンドロイチン硫酸基質の対応する糖のものと同じである。
オリゴ糖はN末端ドメインの溝の狭い終端部分中に結合し、残基Asn121、Trp122、Trp123、Arg131、Gln166、Arg171、Asn180、His230、Tyr239、Arg293、Arg297、Asp300、Asn407およびTrp462と接触している(図7)。これらの残基は前記本発明のタンパク質に含まれる配列中に特定されたアミノ酸残基に対応し、配列番号1に示した配列においてはAsn124、Trp125、Trp126、Arg134、Gln169、Arg174、Asn183、His233、Tyr242、Arg296、Arg300、Asn303、Asn410およびTrp465にそれぞれ対応する。トリプトファン残基は基質結合に重要な役割を果たしている。これらのうちTrp123とTrp462の二つの残基は位置+1と−2とを占拠する糖単位と重なる相互作用を示すのに対し、Trp122は縁のほうに向かって整列し、+2と+1の単位の間をブリッジングする酸素と水素結合を形成している。基質の4−0−スルホ基はタンパク質と種々の相互作用を示す。+2部位で結合している糖の4−0−スルホ基はGln166と水素結合し、ブリッジング水分子を介してAsp219およびGln229に結合している。−1部位に結合している糖の4−0−スルホ基はArg297のグアニジニウム基の直上に位置し、ブリッジング水分子を介してGlu409およびAsn595に水素結合している。両方の4−0−スルホ基が基質結合に寄与しているが、基質認識の特異性には有意には寄与していない。
この一連の研究に用いたコンドロインチン硫酸四糖はGAGリアーゼの作用により得られたもので、非還元末端に4位と5位の炭素原子(C4−C5)間の不飽和二重結合を保持する不飽和環を有する(文献10)。−2部位の糖の電子密度は、spハイブリダイゼーションを有する5位の炭素原子(C5)で、この不飽和環に非常によく対応している。この四糖とタンパク質側鎖との間のすべての水素結合の詳細なリストを表5に示す。
触媒メカニズムの観点から最も興味深いことは、+1部位におけるグルクロン酸のコンフォメーションと酵素との相互作用である。電子密度により、この環はすべての環置換基が水平方向にある、ねじれたボートコンフォメーションを取ることが明確に示されている。C5のカルボキシル基はAsn180の側鎖に対して正確に反対に位置し、そのOD1およびND2は電子密度マップ上のそれらのピーク高さにより明確に区別される。アミドND2とカルボキシル06Aとの距離は2.9オングストロームであり、カルボニルOD1とカルボキシル06Bとの距離は2.5オングストロームである。この06BとOD1との間の距離が短いことは、これらの間に低バリア水素結合が存在することを示し(文献31)、そしてこれはグルクロン酸のカルボキシル基がプロトン化し、中性状態となることを示している。Asn180のND2から水素結合を受けることに加えて、06Aは、プロトン化したHis230のNE2と2.90オングストロームの長い第二の水素結合を形成する。カルボキシル基が関与している水素結合の幾何学的形態は理想に極めて近い。可能性のある求核性His230NE2から+1グルクロン酸のC5への距離はやや長く4.04オングストロームである。C2、C3にあるOH基(水酸基)もいくつかの水素結合で強固に保持されている。酸素原子2(02)と酸素原子3(03)は水素結合でAsn121のOD1とND2にそれぞれ結合し、また02はAsn407のND2に水素結合している(図7b)。
その他の二つの残基も基質との非常に重要な接触を行う。Tyr239の水酸基は+1と−1との糖の間をブリッジする04酸素、および+1の糖環の05の水素結合距離内にある。このTyr239水酸基はグルクロン酸のC5からわずか3.0オングストロームの距離にある。Arg293の側鎖はブリッジング04とともに水素結合を形成し、Tyr239の水酸基から2.9オングストロームの距離にある。
グルクロン酸のカルボキシル基に対応する電子密度は二つではなく三つのふくらみを示し、三つ目のものはやや電子密度が低い。この形態は一連のデータすべてに認められる密度に共通している。結晶化に使用した溶液は0.1Mリン酸を含んでいるので、同じ場所における部分的な占拠によりリン酸をモデル化した(表5)。四糖とリン酸を除いたモデル段階で計算した変則的なFourier mapはリン酸の位置に小さなピークを示し、モデルが正しいことが確認された。
電子密度マップにおける強いピークはこの四糖の近傍に見られ、正方晶系両錘体配位された6個の酸素原子に囲まれており、水平方向の酸素から2.2〜2.4オングストローム、垂直方向の酸素から2.7オングストロームの距離にある。このピークはナトリウムイオンと推定される。水平方向のリガンドはHis230とTrp462のカルボニルと二つの水分子であるのに対し、垂直方向のリガンドはスレオニンThr232のOG1と一つの水分子である。
その他のGAGリアーゼとの比較
推定されたArthroACの配列をFlavoACおよびいくつかのヒアルロン酸リアーゼの配列とアラインメントした(図4)。興味深いことに、アミノ酸の同一性はArthroACとヒアルロン酸リアーゼ間の方(最大38.4%)がArthroACとFlavoACとの間のもの(24.7%)よりも高かった。ArthroACのコンドロインチン硫酸とヒアルロナンに対する活性を測定したところ、この酵素はヒアルロナンに対して高い活性を示すことが実際に認められた。ArthroACおよびFlavoACの構造は、(750残基中)468のCα(中心炭素)原子群に対して1.4オングストロームの自乗平均偏差値で重ね合わせることができる。FalvoACとデルマタン硫酸六糖との複合体と、その不活性変異体Tyr234Pheとコンドロインチン四糖との複合体との構造を比較することにより(文献10)、オリゴ糖の結合様式はほぼ同じであり、最も大きな違いは+1部位のウロン酸に限定される(図8)。オリゴ糖との重要な接触を形成している側鎖は、その種類および位置において保存されている。FlavoACとデルマタン硫酸六糖阻害剤との複合体は、+1のイズロン酸が水平方向のC5の酸性基とともにイス型コンフォメーションを取り、一方環に対する水酸基置換基は垂直にあることを示している。デルマタンと結合しているFlavoACの構造と、コンドロインチンと結合しているArthroACにおける+1糖カルボキシル基の位置はほぼ同じであり、これは後者中の偽垂直方向の酸性基を有するグルクロン酸糖のねじれたボート型構造によるものである。しかし、ArthroACのAsn180とHis230に対する水素結合はほぼ完璧な幾何学的配置を有するのに対し、FlavoAC複合体中の対応する水素結合は理想的なものではない。FlavoAC(Y234F)とコンドロインチン硫酸四糖との複合体では、グルクロン酸糖はイス型コンフォメーションのままであり、環に対するすべての置換基は水平方向にあるが、Tyr234の水酸基が失われることにより空いた空間を酸性基が占拠するように回転する(文献10)。先に指摘したように、Y234F FlavoAC四糖複合体は、酵素結合部位における基質の真のコンフォメーションを示すものではない。
触媒機構
GAGリアーゼにより行われる酵素反応は、一般的な塩基によるC5プロトンの引き抜きと、その後の一般的な酸や水分子によるブリッジング04に対するプロトンの供与並びに同時に起こる脱離基のβ脱離により進行すると考えられる(文献7)。十分に特定された合成基質を使用したFlavoACの最近の動力学的分析は、協調的な機構(文献32)ではなく、予想された段階的なものと一致している(文献32)。Gacesaによって系統化されたポリサッカライドリアーゼの機構についての提案(文献7)は、正に荷電した基により酸性基が中和され、平衡がエノラート互変異体側にシフトするということを含む。β−ヘリックスの折りたたみを有するポリサッカライドリアーゼとは異なり、FlavoACおよびヒアルロン酸リアーゼの構造はウロン酸の酸性基の近傍にはそのような正に荷電した基がないことを示している。そのかわり、アスパラギンの側鎖が酸性基に対抗して水素結合していることが判明したが、酸性基の中和の問題は未解決のままである。本明細書に示す複合体の構造は、Asn180がこの酸性基と低バリア水素結合を形成することによりそのpKaを実質的に増加させ、そのプロトン化を促進することを示唆している(文献33、34)。このアスパラギンはHis230により補助されるが、水素結合ネットワークから判断して、これもウロン酸のカルボキシレート基との水素結合を形成し(図7)、複合体内でプロトン化される。
GAGリアーゼオリゴ糖複合体の構造的観点に基づいて、反応に関与する一般的な塩基および一般的な酸の実体についてのいくつかの提案がなされてきている。Jedrzejasとその共同研究者は、プロトンが近傍のヒスチジン残基(この場合はHis230)により引き抜かれ、別のプロトンがチロシン(この場合はTyr239)により04に供与されると提案している(文献11、12)。彼らはそれらの構造におけるヒスチジンNE1およびC5の間の距離によって、ヒスチジンの一般的な塩基としての提案された役割を支持している。本発明者らは、彼らのデータを慎重に再分析した。ヒスチジンの役割についての彼らの最初の提案(文献11)はその後の論文(文献35)によって強化され、これは「−」部位のみが占拠されている複合体の構造に基づくものである。+1糖がモデル化され、約4オングストロームのNE1−C5距離は実験的な値ではない。この距離は一般的なファンデルワールス距離に対応し、提案されたヒスチジンのプロトンを引き抜く役割のためには長すぎるようである。最近の論文(文献12)において彼らは、野生型ヒアルロニダーゼの結晶を六糖の10〜50mM溶液中に数日間浸漬した際、結晶中に基質が存在すると主張している。基質原子のほとんどについて引用される温度ファクターは100Åであり、これはリファインメントプログラムの限界である。基質についての電子密度は彼らの論文に示されていないため、本発明者らは、彼らの寄託した構造ファクターおよび座標に基づいて示差マップを計算した(基質を除く)。比較的弱い散乱された密度が観察されたが、確実にオリゴ糖を配置することはできなかった。そこで、この密度は非常に低度の占拠を示す産物の混合物に対応し、確実にモデル化することはできないと結論した。しかし、彼らのモデルに従うとしても、ヒスチジンNE1およびC5間の距離は6オングストロームを越えている。従って本発明者らは、彼らの研究においては提案されたヒスチジンの役割を支持する構造的証拠はないと結論した。さらに、S.pneumoniaeヒアルロン酸リアーゼのHis399Ala変異体はなお野生型酵素活性の6%の有意な活性を示す(文献11)。
前述のように、ArthroACはヒアルロナンに対して有意な活性を示し、この酵素とHAtetraとの複合体の構造は2分という短時間の浸漬の後でもサブサイト−1および−2における2つの糖単位のみの存在を示し、おそらくこれは反応産物である。これはコンドロイチン硫酸四糖についての同様の浸漬時間の後のサブサイト+1および+2の実質的な占拠と対照的であり、ArthroACはコンドロイチン硫酸に対してよりもヒアルロナンに対してより活性が高いことを示唆している。この結果は、ArthroACが、FlavoACに対してよりもヒアルロン酸リアーゼに対してより高い配列類似性を有することとよく相関している(図4)。これらの知見並びにArthroACおよびヒアルロン酸リアーゼの触媒として重要な残基からみて、Jedrzejasらにより記載されたような(文献12)、結晶化された野生型S.pneumoniaeヒアルロン酸リアーゼの活性部位に結合したヒアルロナン基質は数日間そのままであるという可能性はむしろ低い。
Huangらは、チロシンが最初に一般的な塩基として機能し、のちに一般的な酸として機能するという説に与する三つの可能性のある機構的な筋書きを考案した(文献10)。構造的に関係はあるが、配列上は似ていないアルギン酸リアーゼでは、中心的な役割はチロシンに与えられている(Mikami et al.2001)。RyeおよびWithersによる動力学的測定(文献32)も、触媒残基としてのチロシンを強く支持している。
ArthroACと基質であるコンドロインチン−4−硫酸四糖の複合体の構造はTyr239の側鎖の重要な役割を非常に強く支持している(図9)。複合体の高解像構造は、基質の結合が、+1部位のグルクロン酸糖環のコンフォメーションがイス型からねじれたボート型に変化することに関連していることを明らかに示している。そのような糖環の高エネルギーコンフォメーションへの変化は特別なことではなく、その他の糖鎖プロセッシング酵素に見られる(文献36〜41)。観察されたねじれたボートコンフォメーションでは、酸性基は擬垂直方向にあり、Asp180の側鎖の面に対向し、プロトン化されたHis230の面にある(図7b)。さらに、Asp180に対するグルクロン酸酸性基の配置およびAsn180のカルボニル酸素までの2.5オングストロームという非常に短い距離は、酸性基がプロトン化しており、Asn180と低バリア水素結合を形成していることを示唆している。この複合体において、Tyr239はブリッジング04と水素結合を形成しており、その水酸基はグルクロン酸のC5原子から3.0オングストロームしか離れていない。Arg293は、Tyr239の水酸基とブリッジング04とへの水素結合を介して重要な貢献をしている。これに対して、他方の可能性ある一般的な塩基であるHis230はプロトン化されており、そのNEとC5原子の距離(3.9オングストローム)は酸をベースとする触媒作用において機能するにはやや長い。
ArthroACのオープンおよびクローズコンフォメーションを比較することにより、触媒反応サイクルの間の事象の進行を再構築するための原理が得られる。基質がない場合、457〜466のループは可動であり、Trp462は結合部位から離れたところにある。His230の側鎖は溶媒に完全に暴露されており、規則正しい水分子にのみ水素結合を形成している。Arg293とGlu404の側鎖はほとんど溶媒にさらされた形で塩ブリッジを形成している。このコンフォメーション状態においてTyr239は水分子に対して1つだけ水素結合を形成する。基質が結合することで活性部位の近傍で残基の再配置が起こる。Trp462は+2部位の糖環に重なって基質に向かって回転する。これに伴ってArg293およびGlu404はTyr239に向かって動き、Arg293はGlu409との二つめの塩ブリッジに関与し、Tyr239と−1および+1部位間にブリッジングする04原子でに対して水素結合を形成する。
結合部位にフィットするために、+1部位の糖環はより高いエネルギーのボートコンフォメーションをとらなければならず、これは新たにプロトン化されたグルコン酸の酸性基とAsn180とプロトン化されたHis230との間に強い水素結合が形成されることで代償される。Tyr239が正に荷電したArg293とHis230とに近接していること(水素結合)によりこのチロシンのpKaが実質的に低下している。本発明者らは、Arg293およびHis230がこのチロシンを活性化させる役割を果たし、その一般的な塩基としての役割を開始させると推定している。その後、Tyr239が、3オングストローム未満しか離れていないグルクロン酸のC5からプロトンを引き抜く。本発明者らはこのプロトンがその後ブリッジング04に運ばれ(一般的な酸の役割)、それに伴ってC4−04結合の開裂とC4−C5二重結合が生じるものと提案する。+1と+2部位における産物は、457〜466のループのオープンに伴い最初に離脱するものである。基質の結合と放出は、先端にAsn121およびAsn407を有する二つの別のループの動きにより助けられ、−2および−1部位への接近が促進されると考えられる。
FlavoACとヒアルロン酸リアーゼにおいて上述した作用機構に重要なすべての残基が保存されていることは、これがこの種の酵素群にとって共通の機構であることを強く示唆している。本発明者らは以前に、FlavoACのエンド型作用を説明するのに必要であると考えたこの酵素の基質結合部位を取り巻くループのオープンを仮定した(文献10)。本明細書に記載したArthroACの構造はそのようなコンフォメーションのフレキシビリティの直接な証拠を提供するものである。
エキソ型およびエンド型作用機序の原理
ArthroACの酵素学的なキャラクタリゼーションにより、この酵素がエキソリアーゼとして作用し、グリコサミノグリカン基質から二糖を切り出し、一方FlavoACはエンドリアーゼとして作用することが示されている(文献42、43)。これらの二つの酵素の構造の比較により、作用機序においてみられる相違の原理が得られた。FlavoACに対して、ArthroACはN末端ドメインに約15残基(Arg20〜Ser35)及び25残基(Thr340〜Gly363)の2つのインサートを有する。これらの2つの部分が該ドメインのNおよびC末端の近傍にαヘリックスを含有するループを形成し、それらは一緒に(α/α)トロイダルN末端ドメインの側に沿ってある溝の大部分を閉鎖する。これらのループは、開放した溝を深い穴に変化させる壁を形成し、伸長されたオリゴ糖の結合を排除する。この穴のサイズにより非還元末端への糖鎖の結合が制限され、約4個の糖(−2〜−4)を収容でき(図10a)、これはこの酵素のエキソ型活性に相関している。より長い糖鎖が結合するためには、これらの2つのループの実質的な再配置が必要であり、明らかに頻繁に起こるものではない。FlavoACの開放された溝はそのような制限を課すことはなく、長い糖鎖の途中部分に結合することができる(図10b)。
本発明により提供されるコンドロイチンACリアーゼ結晶は、これまでに知られていなかったユニークな結晶学的特徴を有し、極めて高純度のコンドロイチンACリアーゼの結晶である。従って、各種分析用試薬、医薬等としてのコンドロイチンの製造の手段などとして極めて有用である。
また本発明によりアルスロバクター・アウレセンス由来のコンドロイチンACリアーゼの一次構造が決定され、エクソ型コンドロイチナーゼであることが判明した。これにより、近年GAGの分子量特異的な生理活性が注目されていることを背景として、本発明のコンドロイチンACリアーゼの結晶は、特定の分子量を有するコンドロイチン硫酸やコンドロイチンの製造等に有用であることが期待される。
さらに、コンドロイチンACリアーゼの基質結合部位を構成するアミノ酸残基が解明され、それらを有するタンパク質が提供される。これにより該タンパク質の特定の分子量を有するコンドロイチン硫酸やコンドロイチンの製造における有用性や医薬そのものとしての有用性が期待される。
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Claims (3)

  1. 単斜晶系空間群P2に属し、単位格子定数a=57.6Å、b=85.5Å、c=80.5Å、β=106.9°を実質的に有し、非対称単位に一つの分子を有するアルスロバクター属細菌由来のコンドロイチンACリアーゼの結晶。
  2. 前記アルスロバクター属細菌がアルスロバクターアウレセンスである、請求項1に記載のコンドロイチンACリアーゼの結晶。
  3. コンドロイチンACリアーゼの活性を有し、アミノ酸配列Asn−Trp−Trp−(Xaa)−Arg−(Xaa)34−Gln−(Xaa)−Arg−(Xaa)−Asn−(Xaa)49−His−(Xaa)−Tyr−(Xaa)53−Arg−(Xaa)−Arg−(Xaa)−(AsnまたはAsp)−(Xaa)106−Asn−(Xaa)54−Trp(Xaaは任意のアミノ酸残基を示し、数字は残基数を示す)を含むタンパク質。
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