JPWO2004033614A1 - 分子放出装置及び分子放出方法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、DNA等の各種有用分子を効率的に、細胞等の対象への放出乃至移入可能であり、遺伝子治療等に応用することができ、安全な分子放出装置及び分子放出方法を提供することを目的とする。本発明の分子放出装置は、電位が印加された導電性部材に電気的に相互作用している分子を、該電位を変化させることによりその相互作用を解いて該導電性部材から放出させる分子放出手段を有する。導電性部材が、分子を移入させる対象の近傍に配置される又は該対象を穿刺して配置される態様、導電性部材が電極である態様、導電性部材の数が2以上である態様、電極が針状電極である態様、分子放出手段が分子を異なるタイミングで放出可能な態様、分子がイオン性ポリマーから選択される態様、等が好ましい。本発明の分子放出方法は、2以上の導電性部材に電気的に吸引されている分子を、電気的な反発力により、異なるタイミングで該導電性部材から放出させる。
Description
本発明は、DNA等の各種有用分子を効率的に、細胞等の対象への放出乃至移入可能であり、遺伝子治療等に応用することができ、安全な分子放出装置及び分子放出方法に関する。
遺伝子治療は、画期的な治療法であるにも拘らず、関与する遺伝子が明らかにされている疾病が少ないこと、安全で効率的な遺伝子導入法が確立されていないこと等の理由から、致死性の単一遺伝子病(例えば、重症複合型免疫不全症、家族性高コレステロール血症など)、癌、エイズ(後天性免疫不全症候群)などにその適用が限られてきた。1995年のNIH(National Institutes of Health)のVarmusらによる報告では、これまでに実施された遺伝子治療において導入した遺伝子が原因で疾病が治癒したケースは皆無であるとされた。しかし、ヒトゲノム計画により2003年4月に人間の全遺伝子情報が明らかになったこともあり、今後、機能ゲノム科学や構造ゲノム科学の進展により、解読されたヒトゲノム配列のどの部分がどのような機能発現に関係しているのかが明らかにされていけば、前記遺伝子治療は、従来はその範疇とされていなかった生活習慣病(例えば、糖尿病など)などにも適用可能となり、各種疾病の治療にも適用されていくものと予想される。
前記遺伝子治療においては、遺伝子導入が必須となるが、安全で効率の良い遺伝子導入法は、現在までのところ確立されていない。実際、1999年9月には、アメリカのペンシルベニア大学で遺伝子治療を受けた18歳の青年が4日後に遺伝子導入に使われたアデノウイルスベクターの規定量以上の投与が原因で、死亡したことが報告された。このような状況に鑑みて、安全かつ効率の良い、非ウイルスベクターによる遺伝子導入法の確立が強く要請されている。
前記非ウイルスベクターによる遺伝子導入法としては、例えば、小胞リポソーム法、遺伝子銃法、マイクロインジェクション法などが知られている。
これらの方法の中でも、前記小胞リポソーム法は、抗原性が低く(免疫が生じにくく)、導入可能な遺伝子サイズが大きく、導入効率がよい等の点で非ウイルスベクターとして用いられてきている。しかし、この方法の場合、注入された遺伝子がゲノム内に取り込まれず、発現が一過性であり、特に非分裂細胞では発現性が低いという問題がある。
前記遺伝子銃法は、遺伝子を細胞内にあたかも銃で打ち込むようにして物理的にかつ強制的に導入させる技術である(特許文献1及び2参照)。しかし、この場合、遺伝子又は微粒子を銃のようにして細胞に打ち込むため、該細胞が損傷し、安全性が十分ではなく、またエネルギーコストがかかるという問題がある。一方、チオール基を介してDNAを金電極に結合させ、該金電極に負電位を印加することにより、該DNAを基板から放出させることが開示されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、この場合、DNAを放出させるためには、該チオール基を分解させるだめの大きなエネルギーが必要であり、コスト面、安全面等に問題がある。
前記マイクロインジェクション法は、遺伝子を細胞に導入する最も確実な方法として考えられている。しかし、この方法の場合、細胞のサイズと比較して太い中空針を用いて細胞にDNA溶液を直接注入しているため、細胞に与える傷害は大きく、しかも、細胞の固定が必要で、脆弱な細胞膜を持つ体細胞の固定化は現状では不可能であり、注入された遺伝子がゲノム内に取り込まれず、発現が一過性であるという問題がある。
最近、組換えウイルスが細胞に感染して核に入ってゲノムに組み込まれる直前に形成される複合体(recombinant Pre−Integration Complex;rPIC)を予め作製しておき、該複合体を標的細胞にマイクロマニュピュレーター等により導入する組み換えプレインテグレーション複合法(rPIC法)によると、前記標的細胞の種に依存せずに遺伝子を該標的細胞のゲノム中へ取り込み可能であり、かつ発現が持続的に行われることが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。しかし、この場合、非ウイルスベクターによる方法とはいえず安全性の点で不安があり、また、前記複合体(rPIC)を作製するのに手間、コスト等を要するという問題がある。
したがって、前記遺伝子治療法においては、所望の箇所に所望のタイミングで効率よくかつ低コストで安全に遺伝子等の分子を標的細胞に導入可能な技術は未だ提供されていないのが現状である。
特開平5−68575号公報 特開2000−125841号公報 J.Wang et al.,Langmuir,15,6541−6545(1999) 宝ホールディングス株式会社、「組み換えプレインテグレーション複合法(rPIC法)を開発」[on line]2001年12月11日[2003年4月21日検索]、インターネット<URL:http://www.takara.co.jp/news/2001/10−12/01−I−037.htm>
前記遺伝子治療においては、遺伝子導入が必須となるが、安全で効率の良い遺伝子導入法は、現在までのところ確立されていない。実際、1999年9月には、アメリカのペンシルベニア大学で遺伝子治療を受けた18歳の青年が4日後に遺伝子導入に使われたアデノウイルスベクターの規定量以上の投与が原因で、死亡したことが報告された。このような状況に鑑みて、安全かつ効率の良い、非ウイルスベクターによる遺伝子導入法の確立が強く要請されている。
前記非ウイルスベクターによる遺伝子導入法としては、例えば、小胞リポソーム法、遺伝子銃法、マイクロインジェクション法などが知られている。
これらの方法の中でも、前記小胞リポソーム法は、抗原性が低く(免疫が生じにくく)、導入可能な遺伝子サイズが大きく、導入効率がよい等の点で非ウイルスベクターとして用いられてきている。しかし、この方法の場合、注入された遺伝子がゲノム内に取り込まれず、発現が一過性であり、特に非分裂細胞では発現性が低いという問題がある。
前記遺伝子銃法は、遺伝子を細胞内にあたかも銃で打ち込むようにして物理的にかつ強制的に導入させる技術である(特許文献1及び2参照)。しかし、この場合、遺伝子又は微粒子を銃のようにして細胞に打ち込むため、該細胞が損傷し、安全性が十分ではなく、またエネルギーコストがかかるという問題がある。一方、チオール基を介してDNAを金電極に結合させ、該金電極に負電位を印加することにより、該DNAを基板から放出させることが開示されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、この場合、DNAを放出させるためには、該チオール基を分解させるだめの大きなエネルギーが必要であり、コスト面、安全面等に問題がある。
前記マイクロインジェクション法は、遺伝子を細胞に導入する最も確実な方法として考えられている。しかし、この方法の場合、細胞のサイズと比較して太い中空針を用いて細胞にDNA溶液を直接注入しているため、細胞に与える傷害は大きく、しかも、細胞の固定が必要で、脆弱な細胞膜を持つ体細胞の固定化は現状では不可能であり、注入された遺伝子がゲノム内に取り込まれず、発現が一過性であるという問題がある。
最近、組換えウイルスが細胞に感染して核に入ってゲノムに組み込まれる直前に形成される複合体(recombinant Pre−Integration Complex;rPIC)を予め作製しておき、該複合体を標的細胞にマイクロマニュピュレーター等により導入する組み換えプレインテグレーション複合法(rPIC法)によると、前記標的細胞の種に依存せずに遺伝子を該標的細胞のゲノム中へ取り込み可能であり、かつ発現が持続的に行われることが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。しかし、この場合、非ウイルスベクターによる方法とはいえず安全性の点で不安があり、また、前記複合体(rPIC)を作製するのに手間、コスト等を要するという問題がある。
したがって、前記遺伝子治療法においては、所望の箇所に所望のタイミングで効率よくかつ低コストで安全に遺伝子等の分子を標的細胞に導入可能な技術は未だ提供されていないのが現状である。
本発明は、従来における問題を解決し、DNA等の各種有用分子を効率的に、細胞等の対象を損傷させることなく、これらへの放出乃至移入可能であり、遺伝子治療等に応用することができ、安全な分子放出装置及び分子放出方法を提供することを目的とする。
本発明の分子放出装置は、電位が印加された導電性部材に電気的に相互作用している分子を、該電位を変化させることによりその相互作用を解いて該導電性部材から放出させる分子放出手段を有することを特徴とする。該分子放出装置においては、前記分子放出手段により、電位が印加された導電性部材に電気的に相互作用している分子が、該電位が変化されてその相互作用が解かれ、該導電性部材から放出される。このとき、該導電性部材の近傍に、前記分子を移入させる対象を配置させておくと、放出された前記分子が該対象としての細胞等内に移入される。
本発明の分子放出方法は、2以上の導電性部材に電気的に吸引されている分子を、電気的な反発力により、異なるタイミングで該導電性部材から放出させることを特徴とする。該分子放出方法においては、前記2以上の導電性部材に対し、異なるタイミングで電位を変化(電圧を印加)させることにより、前記分子が、電気的な反発力により、異なるタイミングで放出され、細胞等の対象内に移入される。
本発明の分子放出方法は、2以上の導電性部材に電気的に吸引されている分子を、電気的な反発力により、異なるタイミングで該導電性部材から放出させることを特徴とする。該分子放出方法においては、前記2以上の導電性部材に対し、異なるタイミングで電位を変化(電圧を印加)させることにより、前記分子が、電気的な反発力により、異なるタイミングで放出され、細胞等の対象内に移入される。
図1A及び図1Bは、本発明の分子放出装置における分子が放出される原理の一例を示す概略説明図である。
図2は、本発明の分子放出装置において分子が電極に電気的に吸引された状態の一例を示す概略説明図である。
図3は、図2に示す分子が電気的な反発力により電極から放出された状態の一例を示す概略説明図である。
図4A、図4B及び図4Cは、電極から分子を放出し細胞内に該分子を移入させるプロセスの一例を説明するための概略説明図である。
図5は、電極への印加電圧とDNA分子(電極との相互作用が弱いもの)の放出との関係の一例を示す概略説明図である。
図6は、電極への印加電圧とDNA分子(電極との相互作用が弱いものを除く)の放出との関係の一例を示す概略説明図である。
図7は、電極への印加電圧と、DNA分子とタンパク質との複合体の放出との関係の一例を示す概略説明図である。
図8は、針状電極を多数整列させた剣山状電極基板の一例を示す概略説明図である。
図9は、正常ヒト樹状細胞を単層培養した状態の一例を示す概略説明図である。
図10は、細胞に針状電極を1本穿刺した状態の一例を示す概略説明図である。
図11は、図10に示す細胞内へDNA分子を移入させた状態の一例を示す拡大概略説明図である。
図12は、細胞に針状電極を2本穿刺した状態の一例を示す概略説明図である。
図13は、図12に示す細胞内へDNA分子を移入させた状態の一例を示す拡大概略説明図である。
図2は、本発明の分子放出装置において分子が電極に電気的に吸引された状態の一例を示す概略説明図である。
図3は、図2に示す分子が電気的な反発力により電極から放出された状態の一例を示す概略説明図である。
図4A、図4B及び図4Cは、電極から分子を放出し細胞内に該分子を移入させるプロセスの一例を説明するための概略説明図である。
図5は、電極への印加電圧とDNA分子(電極との相互作用が弱いもの)の放出との関係の一例を示す概略説明図である。
図6は、電極への印加電圧とDNA分子(電極との相互作用が弱いものを除く)の放出との関係の一例を示す概略説明図である。
図7は、電極への印加電圧と、DNA分子とタンパク質との複合体の放出との関係の一例を示す概略説明図である。
図8は、針状電極を多数整列させた剣山状電極基板の一例を示す概略説明図である。
図9は、正常ヒト樹状細胞を単層培養した状態の一例を示す概略説明図である。
図10は、細胞に針状電極を1本穿刺した状態の一例を示す概略説明図である。
図11は、図10に示す細胞内へDNA分子を移入させた状態の一例を示す拡大概略説明図である。
図12は、細胞に針状電極を2本穿刺した状態の一例を示す概略説明図である。
図13は、図12に示す細胞内へDNA分子を移入させた状態の一例を示す拡大概略説明図である。
(分子放出装置)
本発明の分子放出装置は、分子放出手段を有してなり、更に必要に応じて適宜選択したモニタリング手段等のその他の手段を有してなる。
前記分子放出手段は、電位が印加された導電性部材に電気的に相互作用している分子を、該電位を変化させることによりその相互作用を解いて該導電性部材から放出させる機能を有する。
前記導電性部材としては、導電性を示すものであれば特に制限はなく、例えば、電極が好適に挙げられ、その形状、構造、大きさ、表面性状、数、材質などについて目的に応じて適宜選択することができる。なお、以下、該電極を分子放出電極と称することがある。
前記形状としては、例えば、板状、針状、棒状、球状、などが挙げられる。これらの形状は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、遺伝子治療等において、前記分子を直接、該分子を移入させる対象である細胞等内に放出乃至移入させる場合には、針状(針状電極)が好ましい。
前記構造としては、例えば、単独の部材で形成されていてもよいし、2以上の部材で形成されていてもよい。前者の場合には、前記部材が導電性であることが必要である。後者の場合には、少なくとも一つの部材が導電性であればよく、例えば、基体上に前記材料による層(導電層)が設けられた構造、などが挙げられる。なお、前記基体としては、特に制限はなく、その構造、大きさ等について適宜選択することができ、その形状としては、板状、針状、棒状、球状などが挙げられ、その材質としては導電性、絶縁性等が好ましく、該絶縁性の材質としては、例えば、石英ガラス、シリコン、酸化ケイ素等が挙げられる。
前記大きさとしては、例えば、前記分子放出装置をチップ化する場合には、幅乃至径が、500μm以下程度であり、300μm以下が好ましく、微細なチップとする場合には100μm以下が好ましい。なお、前記電極が針状電極である場合、遺伝子治療等の用途を考慮すると、その直径が0.2μm以下でありかつ長さが3μm以上であるのが好ましい。
前記数としては、例えば、1つであってもよいし、2以上であってもよい。前記分子の放出効率等の観点からは2以上であるのが好ましい。
前記数が2以上である場合、前記電極の材質、形状、構造、大きさ、表面性状等は、それぞれ互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
前記2以上の前記電極の配置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、任意に配置してもよいし、整列配置してもよい。後者の場合、各電極の間隔を一定にすることができる。
前記2以上の前記電極の間隔としては、例えば、平板(プレート)に単層培養した際の細胞の大きさ(約10μm)等、前記分子を移入させる対象である細胞等の間隔等に応じて適宜選択することができ、前記平板に単層培養した細胞に前記分子を移入(導入)させる場合には、1〜5μm程度が好ましい。
前記2以上の前記電極の制御(電位の変化、電圧の印加)は、それぞれ互いに同じタイミングで行ってもよいし、異なるタイミングで行ってもよい。
前記2以上の前記電極には、前記分子としてそれぞれ同一のものが保持されていてもよいし、異なるものが保持されていてもよい。後者の場合、前記分子としての遺伝子等の複数種を、該分子を移入させる対象である前記細胞等内に効率的に放出乃至移入させることができる。
前記2以上の前記電極が前記針状電極である場合、該2以上の針状電極は、基体上に立設等させておくのが好ましい。
この場合、前記基体として平板を選択すれば、剣山状電極基板とすることができる。該剣山状電極基板を用いると、例えば、遺伝子治療等において、前記分子を移入させる対象として、平板(プレート)に単層培養した細胞等内に、前記分子を効率的に放出乃至移入(導入)させることができる。また、前記基体としてファイーバースコープを選択し、該ファイバースコープの尖端に前記針状電極を設ければ、該ファイーバースコープの除きながら前記針状電極を生体内の目的部位(例えば、癌細胞、疾患臓器等)にまで移動させ、そこで穿刺することができ、遺伝子治療等に好適である点で有利である。
前記材質としては、例えば、金属、導電性樹脂、導電性カーボン、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、後者の場合、例えば、前記導電性樹脂や前記導電性カーボン上に前記金属を被覆等してもよい。
前記金属としては、例えば、金、白金、銀、銅、亜鉛等の金属、これらの合金、などが挙げられる。
前記導電性樹脂としては、例えば、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリp−フェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアニリン、などが挙げられる。
前記導電性カーボンとしては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンなどが挙げられる。なお、前記カーボンナノチューブとしては、例えば、単層カーボンナノチューブ(SWNT)、多層カーボンナノチューブ(MWNT)などが挙げられ、前記単層カーボンナノチューブの具体例としては、アームチェアー型カーボンナノチューブ、ジグザグ型カーボンナノチューブ、カイラル型カーボンナノチューブなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記電極を針状電極とする場合には、ナノピラー構造の金属、針状の導電性プラスチック及びカーボンナノチューブから選択される少なくとも1種が好ましい。なお、前記ナノピラー構造とは、ナノメーターオーダーの大きさからなる小柱が複数突設された構造を意味する。該ナノピラー構造の金属は、前記金属に対してエッチングを行って形成することができる。
前記導電性部材において前記分子が相互作用により保持される部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、該導電性部材が、前記板状電極である場合にはその板面などが、前記針状電極である場合には少なくともその尖端部などが好適に挙げられる。なお、該導電性部材が前記針状電極の場合、前記分子を該針状電極の尖端部に電気的に吸引し保持させておき、前記分子を移入させる対象である細胞等内に該針状電極を穿刺した状態で該分子を該針状電極から放出させると、該分子を該細胞等内に効率的に放出乃至移入(導入)させることができる点で有利である。
前記導電性部材の配置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、該分子の前記対象内への放出乃至移入の効率の点で、例えば、前記分子を移入させる対象の近傍に配置するのが好ましく、前記導電性部材が前記針状電極である場合には、前記分子を移入させる対象に穿刺して配置するのが好ましい。なお、前記分子が前記導電性部材に電気的に吸引されており、該分子を前記導電性部材から電気的な反発力により放出させる場合、該導電性部材は、導電性媒体中に配置されるのが好ましい。該導電性媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液体、固体、これらの混合、などのいずれであってもよく、前記液体としては、例えば、水、イオン溶液、電解質を含有する溶液、などが挙げられ、また、遺伝子治療等の観点からは、前記細胞が好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記分子を移入させる対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、細胞、マイクロカプセル、などが好適に挙げられる。なお、前記細胞としては、特に制限はなく、動物細胞、植物細胞、微生物、などが挙げられる。これらの中でも、該細胞を平板(プレート)上に単層培養させることでき、前記分子の移入が効率的かつ容易である点で、ヒト等の動物細胞が好ましい。また、前記対象が細胞でありかつ前記分子が遺伝子である場合には、該遺伝子の移入効率の点で、該細胞を表面処理しておくのが好ましい。該表面処理としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができるが、例えば、リン酸カルシウム処理、などが挙げられる。
前記分子放出手段は、第二の電極を有していてもよい。該第二の電極を設けておくと、前記導電性部材(電極)と共に該第二の電極が一対の電極を構成し、前記導電性部材(電極)と共に電気回路を形成し、電流の収支を図ることができ、該第二の電極と前記導電性部材(電極)との間の電位を適宜変化(電圧を印加)させることにより、前記分子を該導電性部材(電極)から電気的に放出させたり、吸引させたりすることができる。例えば、前記導電性部材(電極)に正電位が印加されており、該導電性部材(電極)に前記分子が電気的相互作用により吸引されている場合には、該導電性部材(電極)に負電位を印加させ、該電位を変化(電圧を印加)させると、前記分子を電気的な反発力により該導電性部材(電極)から放出させることができる。
前記第二の電極としては、その形状、構造、大きさ、材質等については特に制限はなく、目的に応じて公知の電極の中から適宜選択することができ、例えば、前記導電性部材として説明したものが挙げられ、これらの中でも、前記形状が針状である針状電極が好ましい。
前記第二の電極の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常、前記導電性部材(電極)の数と同数以下であり、可能な限り少ない方が好ましく、例えば、前記導電性部材(電極)が前記基体上に立設され、該基体が2以上ある場合には、各基体当たり1であるのが好ましい。この場合、各基体における前記導電性部材(電極)と該第二の電極とは互いに対向して配置されるのが好ましく、また、このとき、前記第二の電極を前記基体上に立設させてもよく、該第二の電極を前記導電性部材(電極)が囲むようにして該第二の電極を該基体の中央に配置させてもよいし、あるいは、該第二の電極が等間隔に配列した列と、前記導電性部材が等間隔に配列した列とを交互に整列配置させてもよい。
前記分子放出手段は、前記第二の電極のほかに、第三の電極を有していてもよい。この場合、いわゆる三電極法による制御となり、該第三の電極を用いない二電極法に比べ、前記導電性部材(放出電極)及び前記第二の電極の間における電位(基準電位)を容易に制御することができる点で有利である。該第三の電極は、例えば、前記基準電位を測定乃至観測するための電極として使用することができる。
前記第三の電極としては、その形状、構造、大きさ、材質等については特に制限はなく、目的に応じて公知の電極の中から適宜選択することができ、例えば、前記導電性部材として説明したものが挙げられる。
前記第三の電極の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、一般的には少ない方が好ましく、例えば、前記導電性部材(電極)が前記基体上に立設され、該基体が2以上ある場合には、各基体当たり1であるのが好ましい。この場合、各基体における前記導電性部材(電極)と該第三の電極とは互いに対向して配置されるのが好ましく、前記第三の電極を前記基体上に立設させてもよく、該第三の電極を該基体の中央に配置させてもよい。
前記分子放出手段は電源を有していてもよい。該電源を前記導電性部材(電極)及び前記第二の電極に接続しておくと、該導電性部材(電極)及び該第二の電極と共に電気回路を形成し、電場を形成することができ、該導電性部材(電極)の電位を任意に変化(電圧を印加)等させることができる。なお、前記電場としては、特に制限はなく、直流電場であってもよいし、交流電場であってもよい。
前記分子としては、前記導電性部材と電気的な相互作用可能な領域を少なくとも含む限り、その形状等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、該形状としては、例えば、線状、粒状、板状、これらの2以上の組合せ、など挙げられ、これらの中でも、線状などが好ましい。
前記電気的な相互作用可能な領域としては、例えば、電気的極性を有する領域などが好適に挙げられる。
前記領域の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、線状、粒状、板状、これらの2以上の組合せ、など挙げられるが、これらの中でも、線状などが好ましい。
前記領域の大きさとしては、特に制限はなく、前記相互作用の強さ等に応じて適宜選択することができるが、前記分子を前記導電性部材に対し、確実に保持し、効率よく放出させる観点からは、大きい方が好ましく、前記分子の全領域であってもよい。
前記領域としては、その数が前記分子1つ当たり、1つであってもよいし、2以上であってもよい。後者の場合、各領域における、前記導電性部材との電気的な相互作用力(例えば結合力)が、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
前記領域において、更にその一部に前記導電性部材との電気的な相互作用力(例えば結合力など)が異なる部位が存在していてもよい。例えば、前記領域が前記ポリヌクレオチドである場合には、該ポリヌクレオチドの3’末端に(CH2)3SS(CH2)3OHなどの基を導入することができ、この場合、該基のSS部分は、他の部分よりも前記導電性部材(例えば金属電極など)に強固に結合する。このように、一部に前記導電性部材との電気的な相互作用力が強い部位が存在する分子の場合、前記導電性部材に低い電圧を印加しただけでは(該導電性部材に印加する電位の変化が小さいと)放出されなくなる。その結果、前記導電性部材から低電圧で(前記電位の変化が小さくても)放出可能な前記分子(前記基が導入されていない分子)と、前記導電性部材から高電圧でないと(前記電位の変化が大きくないと)放出不能な前記分子(前記気が導入された分子)とを形成することができる。このとき、前者を利用すると、低コストで前記分子を前記導電性部材(電極)から放出可能であり、また、後者を利用すると、環境条件の変動等の影響を受けることなく、前記分子を前記導電性部材から放出可能である。
前記分子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記導電性部材と電気的な相互作用(結合等)が可能である点でイオン性ポリマーなどが好適に挙げられ、これらの中でも、病気の治療等への応用等の観点からは生体分子がより好ましい。
前記イオン性ポリマーとしては、正イオンポリマー及び負イオンポリマーから選択されるのが好ましい。
前記正イオンポリマー(正に帯電したイオンポリマー)としては、例えば、グアニジンDNA、ポリアミンなどが好適に挙げられる。
前記負イオンポリマー(負に帯電したイオンポリマー)としては、例えば、ポリヌクレオチド、ポリリン酸などが好適に挙げられる。これらは、負電荷が分子中に一定間隔で存在する点で前記導電性部材との相互作用(結合等)を制御し易い点で好ましく、遺伝子治療等への応用等を考慮すると、ポリヌクレオチドが特に好ましい。
前記ポリヌクレオチドとしては、例えば、遺伝子、遺伝子複合体(遺伝子とタンパク質との複合体)などが挙げられる。なお、
前記遺伝子としては、例えば、癌関連遺伝子、遺伝病に関連する遺伝子、ウイルス遺伝子、細菌遺伝子、及び病気のリスクファクターと呼ばれる多型性を示す遺伝子、などが挙げられる。
前記癌関連遺伝子としては、例えば、k−ras遺伝子、N−ras遺伝子、p53遺伝子(肺癌、食道癌、肝癌)、BRCA1遺伝子、BRCA2遺伝子、src遺伝子、ros遺伝子、GM−CSF遺伝子(腎臓癌、前立腺癌)、チミジンキナーゼ遺伝子(前立腺癌)、抗癌剤耐性遺伝子MDR1(乳癌)、APC遺伝子などが挙げられる。
前記遺伝病に関連する遺伝子としては、例えば、各種先天性代謝異常症、例えばフェニールケトン尿症、アルカプトン尿症、シスチン尿症、ハンチントン舞踏病、Down症候群、Duchenne型筋ジストロフィー、血友病、重症複合型免疫不全症、家族性高コレステロール血症、などが挙げられる。
前記ウイルス遺伝子及び前記細菌遺伝子としては、例えば、C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、HIVウイルス、マイコプラズマ、リケッチア、レンサ球菌、サルモネラ菌、などが挙げられる。
前記多型性を示す遺伝子としては、病気等の原因とは必ずしも直接は関係のない個体によって異なる塩基配列を持つ遺伝子、例えば、PS1(プリセリニン1)遺伝子、PS2(プリセリニン2)遺伝子、APP(ベーターアミロイドプレカーサー蛋白質)遺伝子、リポプロテイン遺伝子、HLA(Human Leukocyte Antigen)、血液型に関する遺伝子、高血圧、糖尿病等の発症に関係するとされている遺伝子、などが挙げられる。
前記遺伝子複合体としては、例えば、組換えウイルスが細胞に感染して核に入ってゲノムに組み込まれる直前に形成されるインテグラーゼのような酵素などのタンパク質との複合体(recombinant Pre−Integration Complex;rPIC)、などが挙げられる。前記DNA及びRNAは、一本鎖であってもよいし、二本鎖であってもよい。
前記ポリヌクレオチドを作製する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から目的に応じて適宜選定することができ、例えば、DNAシンセサイザー(DNA自動合成機)を用いる方法、あるいは、予め作成しておいたオリゴヌクレオチド配列に対し、モノマーブロックを並べてアニーリングし、DNAライゲース又はRNAライゲースを作用させて結合させる方法、などが挙げられる。
前記ポリヌクレオチドの場合、その長さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、最も短くても効果が期待できるアンチセンス法ですら二本鎖の安定性の点で、少なくとも6塩基であるのが好ましい。一般に、該ポリヌクレオチドの長さが短い程、前記導電性部材から放出させるのに必要なピーク電圧が低くなる(電位の変化量が小さくて足りる)。
前記分子の使用する種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1種であってもよいし、2種以上であってもよく、後者の場合、該分子を移入させる対象である細胞等内に複数種の該分子を放出乃至移入させることが可能である。
前記分子は、前記導電性部材から放出されたことの判別を容易にする観点から、標識を有していてもよい。
前記標識としては、例えば、放射性同位元素、化学発光物質、蛍光物質、酵素、抗体、その他が挙げられる。
前記放射性同位元素としては、例えば、32P、33P、35S、等が挙げられる。
前記化学発光物質としては、例えば、アクリジニウムエステル、ルミノール、イソルミノール又はこれらの誘導体、等が挙げられる。
前記蛍光物質としては、例えば、フルオレセイン系列、ローダミン系列、エオシン系列、NBD系列等の蛍光色素、緑色蛍光蛋白質(GFP)、ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、サマリウム(Sm)等の希土類キレート、テトラメチルローダミン、テキサスレッド、4−メチルウンベリフェロン、7−アミノ−4−メチルクマリン、Cy3、Cy5、等が挙げられる。
前記酵素としては、例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、等が挙げられる。
前記その他としては、例えば、ビオチン、リガンド、特定の核酸、蛋白質、ハプテン、等が挙げられる。前記標識がビオチンである場合にはこれに特異的に結合するアビジン又はストレプトアビジンが、前記標識がハプテンである場合にはこれに特異的に結合する抗体が、前記標識がリガンドである場合にはレセプターが、前記標識が特定の核酸、蛋白質、ハプテン等である場合にはこれらと特異的に結合する核酸、核酸結合蛋白質、特定の蛋白質と親和性を有する蛋白質等が、それぞれ組合せ可能である。
前記分子放出手段としては、電位が印加されている前記導電性部材と電気的に相互作用している前記分子を、該電位を変化させることによりその相互作用を解いて該導電性部材から放出させることができる限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
該分子放出手段によると、例えば、電位(例えば正電位)が印加され、前記分子を電気的に吸引し保持していた前記導電性部材に対し、印加されていた該電位(正電位)とは逆の電位(例えば負電位)を印加することにより、容易にかつ効率的に、該分子を電気的な反発力により該導電性部材から放出させることができる。具体的には、前記分子が前記ポリヌクレオチドである場合、該ポリヌクレオチドは負電荷に帯電した負イオンポリマーであるので、前記導電性部材としての金属電極等に正電位を印加しておくと、該ポリヌクレオチドは該金属電極に電気的相互作用(クーロン引力)により吸引され保持される。一方、該金属電極に負電位を印加すると、該金属電極と該ポリヌクレオチドとの間における電気的な反発力により該ポリヌクレオチドが該金属電極から放出される。したがって、前記導電性部材に印加する電位を適宜変化させるだけで,前記分子を前記導電性部材から任意のタイミングで自在に放出させることができる。
前記分子放出手段の具体例としては、前記導電性部材を一方の電極とし、前記第二の電極を該電極の対向電極とし、これらに電圧を印加可能な電源を組合せたもの、あるいは、更にこれらの電極間の電位を制御するための前記第三の電極を設けたもの、などが好適に挙げられる。
なお、前記分子放出手段において、前記導電性部材(電極)に印加する電圧(印加した電位の変化)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記分子を移入させる対象としての細胞を損傷乃至死滅させない程度が好ましく、例えば、−0.8Vが好ましい。
この電圧範囲は、公知のエレクトロトランスフェクション等の方法に比べて、前記細胞に負荷する電圧を十分に低く、該細胞に損傷を与えることがない点で有利である。この電圧範囲は、前記導電性部材と、これに対抗配置させた前記第二の電極とを、同一の対象(細胞)に穿刺させて配置する場合に、特に好適に採用することができる。
本発明においては、前記分子放出手段が、複数の前記導電性部材から互いに異なる前記分子を異なるタイミングで放出(制御)可能であるのが好ましく、この場合、該複数の前記導電性部材を、例えば、前記分子を移入させる細胞の周辺に配置させておくと、該細胞の治療、分化等を行うことも可能である。また、前記分子放出手段が、複数の前記導電性部材の内の一部のみを作動させ、該一部からのみ前記分子が放出されるようにしてもよく、この場合、複数の前記導電性部材を、例えば、互いに隣接する細胞に穿刺させておき、これらの細胞の一部のみに前記分子を放出し移入させることにより、該分子による作用を調べることができ、また、該互いに隣接する細胞間の影響を調べることもできる。
これらは、複数の前記導電性部材を、パッシブマトリクス又はアクティブマトリクス上に配置させることにより行うことができ、複数の前記導電性部材をパッシブマトリクス又はアクティブマトリクス上に配置させた配線構造によると、所望の位置の前記導電性部材のみを任意のタイミングで制御することができる。
本発明においては、前記その他の手段として、例えば、モニタリング手段、などを有していてもよい。該モニタリング手段によると、前記分子を移入させる対象である細胞等の状態を観察することができ、該細胞の治療、分化等を自動的にかつ安全に効率よく行うことができる。
本発明の分子放出装置は、各種分野において好適に使用することができ、遺伝子治療の装置、遺伝子病の診断、遺伝子導入の装置、遺伝子導入による分析装置等として特に好適に使用することができる。
(分子放出方法)
本発明の分子放出方法は、2以上の前記導電性部材に電気的に吸引されている分子を、電気的な反発力により、異なるタイミングで該導電性部材から放出させる分子放出工程を少なくとも含み、更に適宜選択したその他の工程等を含む。
本発明の分子放出方法は、本発明の前記分子放出装置において、前記導電性部材の数が2以上であり、該2以上の導電性部材を異なるタイミングで制御可能な態様に設計されたものを用いて好適に実施することができる。
前記分子放出工程は、前記2以上の導電性部材(電極)におけるそれぞれを独立に制御する、具体的には各導電性部材(電極)に印加された電位をそれぞれ独立に変化(例えば、印加されている電位と逆電位に変化)させる(電圧を印加させる)ことにより、行うことができる。該分子放出工程により、前記導電性部材に電気的に吸引していた前記分子が電気的な反発力により該導電性部材から放出される。そして、このとき、該導電性部材の近傍に前記分子を移入させる対象である細胞等を配置させておくと、あるいは、該導電性部材として前記針状電極を用いる場合には該針状電極を前記細胞等に穿刺しておくと、該細胞内に前記分子が効率的に放出乃至移入させることができる。
本発明の分子放出方法は、各種分野において好適に使用することができ、遺伝子治療、遺伝子病の診断、遺伝子導入、遺伝子導入による細部観察、等に特に好適に使用することができる。
ここで、本発明の分子放出装置における分子放出の原理について、図面を参照しながら説明する。図1A及び図1Bに示すように、本発明の分子放出装置の一例としては、前記分子としてのDNA分子10と電気的な相互作用によりこれを吸引し保持する前記導電性部材としての金属電極1を少なくとも備えてなる。なお、金属電極1における上方には前記第二の電極(図示せず)が設けられており、金属電極1と該第二の電極とは、電源(図示せず)に接続されており、導電性の液中に浸漬された状態で配置されている。金属電極1、前記第二の電極及び前記電源が、前記分子放出手段である。
前記分子放出手段としての前記電源を作動させておき、金属電極1に正電位を印加しておくと、図1A及び図2に示すように、負に帯電しているDNA分子10が、前記電源により正電位が印加され、正に帯電した金属電極1に電気的な相互作用(クーロン引力)により吸引され保持されている。一方、前記電源を作動させ、金属電極1に今まで印加していた正電位と逆の電位(負電位)を僅かに印加すると(電圧(−800mV)を僅かに印加すると)、図1B及び図3に示すように、負に帯電しているDNA分子10が、前記電源により負電位が印加され、負に帯電した金属電極1から、電気的な相互作用(クーロン反発力)により、放出される。
このとき、図4Aに示すように、金属電極1の近傍に、前記分子を移入させる対象として、予めDNA分子10が移入し易くなるように表面処理(リポソームを添加)をした細胞20を配置させておくと、図4Bに示すように、金属電極1から放出されたDNA分子10は、細胞20に接近し、図4Cに示すように、細胞20内にDNA分子10が移入される。この場合、電子銃、マイクロインジェクション法、エレクトロトランスフェクションなどを使用した場合と異なり、僅かな電圧を印加しただけで前記分子の細胞20内への移入を行うことができ、このため、細胞20に損傷を与えることがなく、前記対象である細胞内に所望のDNA分子等を所望のタイミングで移入(導入)させることができる。このため、本発明の分子放出装置は、安全性に優れ、遺伝子治療等に好適に応用可能である。
次に、本発明の分子放出装置の他の例について、図面を参照しながら説明する。
図8に示すように、本発明の分子放出装置の他の例としては、前記分子としてのDNA分子(図示せず)を電気的な相互作用により吸引し保持する前記導電性部材としての針状電極101と、第二の電極102とを、互いに対向するように一列おきに整列配置(配置間隔:5μm)された剣山状電極基板100を備えてなる。なお、針状電極101と第二の電極102とは、電源(図示せず)に接続されており、導電性の液中に浸漬された状態で配置されている。針状電極101、第二の電極102及び前記電源が、前記分子放出手段である。
前記分子放出手段としての前記電源を作動させておき、針状電極101に正電位を印加しておくと、負に帯電しているDNA分子が、前記電源により正電位が印加され、正に帯電した針状電極101に電気的な相互作用(クーロン引力)により吸引されて保持されている。
図9に示すように、前記分子を移入させる対象としての細胞201を平板(培養プレート)200上に単層培養し、集密状態の単層培養層を予め得ておいた。なお、該単層培養層における細胞間隔は10μm以上であり、計算上、細胞1個当たり少なくとも2本の針状電極を穿刺することができる。
図10及び図11に示すように、DNAが尖端部に電気的に吸引され保持された針状電極101と、第二の電極102とを互いに対向するように一列おきに整列配置した剣山状電極基板100の尖端を、前記単層培養層における細胞201に穿刺させる。この状態で、前記電源を作動させて針状電極101に今まで印加していた正電位と逆の電位(負電位)を僅かに印加する(電圧(−800mV)を僅かに印加する)。なお、該剣山状電極基板100における各針状電極101は、アクティブマトリクス(パッシブマトリクスも可)に電気的に制御可能に接続されているため、任意の箇所の針状電極101を所望のタイミングで所望の程度に電位を変化可能(電圧を印加可能)である。すると、負に帯電しているDNA分子が、電気的な相互作用(クーロン反発力)により、負に帯電した針状電極101から放出され、細胞201内に移入される。この場合、電子銃、マイクロインジェクション法、エレクトロトランスフェクションなどを使用した場合と異なり、僅かな電圧を印加しただけで前記分子の細胞201内への移入を行うことができ、このため、細胞201に損傷を与えることがなく、細胞201内に任意のタイミングで所望のDNA分子等を効率よく移入させることができる。
また、図12及び図13に示すように、1つの細胞201内に針状電極101と第二電極102とを計2本の穿刺し、これらの電極間に電圧を印加させてもよい。この場合、細胞201に大きな電位を負荷し過ぎないように(大きな電圧を印加しないように)、印加する前記電位を所望の範囲に制御し、該電位差(印加電圧)を制御することができ、細胞201が死滅等してしまうことを抑制することができる点で好ましい。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
本発明の分子放出装置は、分子放出手段を有してなり、更に必要に応じて適宜選択したモニタリング手段等のその他の手段を有してなる。
前記分子放出手段は、電位が印加された導電性部材に電気的に相互作用している分子を、該電位を変化させることによりその相互作用を解いて該導電性部材から放出させる機能を有する。
前記導電性部材としては、導電性を示すものであれば特に制限はなく、例えば、電極が好適に挙げられ、その形状、構造、大きさ、表面性状、数、材質などについて目的に応じて適宜選択することができる。なお、以下、該電極を分子放出電極と称することがある。
前記形状としては、例えば、板状、針状、棒状、球状、などが挙げられる。これらの形状は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、遺伝子治療等において、前記分子を直接、該分子を移入させる対象である細胞等内に放出乃至移入させる場合には、針状(針状電極)が好ましい。
前記構造としては、例えば、単独の部材で形成されていてもよいし、2以上の部材で形成されていてもよい。前者の場合には、前記部材が導電性であることが必要である。後者の場合には、少なくとも一つの部材が導電性であればよく、例えば、基体上に前記材料による層(導電層)が設けられた構造、などが挙げられる。なお、前記基体としては、特に制限はなく、その構造、大きさ等について適宜選択することができ、その形状としては、板状、針状、棒状、球状などが挙げられ、その材質としては導電性、絶縁性等が好ましく、該絶縁性の材質としては、例えば、石英ガラス、シリコン、酸化ケイ素等が挙げられる。
前記大きさとしては、例えば、前記分子放出装置をチップ化する場合には、幅乃至径が、500μm以下程度であり、300μm以下が好ましく、微細なチップとする場合には100μm以下が好ましい。なお、前記電極が針状電極である場合、遺伝子治療等の用途を考慮すると、その直径が0.2μm以下でありかつ長さが3μm以上であるのが好ましい。
前記数としては、例えば、1つであってもよいし、2以上であってもよい。前記分子の放出効率等の観点からは2以上であるのが好ましい。
前記数が2以上である場合、前記電極の材質、形状、構造、大きさ、表面性状等は、それぞれ互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
前記2以上の前記電極の配置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、任意に配置してもよいし、整列配置してもよい。後者の場合、各電極の間隔を一定にすることができる。
前記2以上の前記電極の間隔としては、例えば、平板(プレート)に単層培養した際の細胞の大きさ(約10μm)等、前記分子を移入させる対象である細胞等の間隔等に応じて適宜選択することができ、前記平板に単層培養した細胞に前記分子を移入(導入)させる場合には、1〜5μm程度が好ましい。
前記2以上の前記電極の制御(電位の変化、電圧の印加)は、それぞれ互いに同じタイミングで行ってもよいし、異なるタイミングで行ってもよい。
前記2以上の前記電極には、前記分子としてそれぞれ同一のものが保持されていてもよいし、異なるものが保持されていてもよい。後者の場合、前記分子としての遺伝子等の複数種を、該分子を移入させる対象である前記細胞等内に効率的に放出乃至移入させることができる。
前記2以上の前記電極が前記針状電極である場合、該2以上の針状電極は、基体上に立設等させておくのが好ましい。
この場合、前記基体として平板を選択すれば、剣山状電極基板とすることができる。該剣山状電極基板を用いると、例えば、遺伝子治療等において、前記分子を移入させる対象として、平板(プレート)に単層培養した細胞等内に、前記分子を効率的に放出乃至移入(導入)させることができる。また、前記基体としてファイーバースコープを選択し、該ファイバースコープの尖端に前記針状電極を設ければ、該ファイーバースコープの除きながら前記針状電極を生体内の目的部位(例えば、癌細胞、疾患臓器等)にまで移動させ、そこで穿刺することができ、遺伝子治療等に好適である点で有利である。
前記材質としては、例えば、金属、導電性樹脂、導電性カーボン、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、後者の場合、例えば、前記導電性樹脂や前記導電性カーボン上に前記金属を被覆等してもよい。
前記金属としては、例えば、金、白金、銀、銅、亜鉛等の金属、これらの合金、などが挙げられる。
前記導電性樹脂としては、例えば、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリp−フェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアニリン、などが挙げられる。
前記導電性カーボンとしては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンなどが挙げられる。なお、前記カーボンナノチューブとしては、例えば、単層カーボンナノチューブ(SWNT)、多層カーボンナノチューブ(MWNT)などが挙げられ、前記単層カーボンナノチューブの具体例としては、アームチェアー型カーボンナノチューブ、ジグザグ型カーボンナノチューブ、カイラル型カーボンナノチューブなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記電極を針状電極とする場合には、ナノピラー構造の金属、針状の導電性プラスチック及びカーボンナノチューブから選択される少なくとも1種が好ましい。なお、前記ナノピラー構造とは、ナノメーターオーダーの大きさからなる小柱が複数突設された構造を意味する。該ナノピラー構造の金属は、前記金属に対してエッチングを行って形成することができる。
前記導電性部材において前記分子が相互作用により保持される部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、該導電性部材が、前記板状電極である場合にはその板面などが、前記針状電極である場合には少なくともその尖端部などが好適に挙げられる。なお、該導電性部材が前記針状電極の場合、前記分子を該針状電極の尖端部に電気的に吸引し保持させておき、前記分子を移入させる対象である細胞等内に該針状電極を穿刺した状態で該分子を該針状電極から放出させると、該分子を該細胞等内に効率的に放出乃至移入(導入)させることができる点で有利である。
前記導電性部材の配置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、該分子の前記対象内への放出乃至移入の効率の点で、例えば、前記分子を移入させる対象の近傍に配置するのが好ましく、前記導電性部材が前記針状電極である場合には、前記分子を移入させる対象に穿刺して配置するのが好ましい。なお、前記分子が前記導電性部材に電気的に吸引されており、該分子を前記導電性部材から電気的な反発力により放出させる場合、該導電性部材は、導電性媒体中に配置されるのが好ましい。該導電性媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液体、固体、これらの混合、などのいずれであってもよく、前記液体としては、例えば、水、イオン溶液、電解質を含有する溶液、などが挙げられ、また、遺伝子治療等の観点からは、前記細胞が好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記分子を移入させる対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、細胞、マイクロカプセル、などが好適に挙げられる。なお、前記細胞としては、特に制限はなく、動物細胞、植物細胞、微生物、などが挙げられる。これらの中でも、該細胞を平板(プレート)上に単層培養させることでき、前記分子の移入が効率的かつ容易である点で、ヒト等の動物細胞が好ましい。また、前記対象が細胞でありかつ前記分子が遺伝子である場合には、該遺伝子の移入効率の点で、該細胞を表面処理しておくのが好ましい。該表面処理としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができるが、例えば、リン酸カルシウム処理、などが挙げられる。
前記分子放出手段は、第二の電極を有していてもよい。該第二の電極を設けておくと、前記導電性部材(電極)と共に該第二の電極が一対の電極を構成し、前記導電性部材(電極)と共に電気回路を形成し、電流の収支を図ることができ、該第二の電極と前記導電性部材(電極)との間の電位を適宜変化(電圧を印加)させることにより、前記分子を該導電性部材(電極)から電気的に放出させたり、吸引させたりすることができる。例えば、前記導電性部材(電極)に正電位が印加されており、該導電性部材(電極)に前記分子が電気的相互作用により吸引されている場合には、該導電性部材(電極)に負電位を印加させ、該電位を変化(電圧を印加)させると、前記分子を電気的な反発力により該導電性部材(電極)から放出させることができる。
前記第二の電極としては、その形状、構造、大きさ、材質等については特に制限はなく、目的に応じて公知の電極の中から適宜選択することができ、例えば、前記導電性部材として説明したものが挙げられ、これらの中でも、前記形状が針状である針状電極が好ましい。
前記第二の電極の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常、前記導電性部材(電極)の数と同数以下であり、可能な限り少ない方が好ましく、例えば、前記導電性部材(電極)が前記基体上に立設され、該基体が2以上ある場合には、各基体当たり1であるのが好ましい。この場合、各基体における前記導電性部材(電極)と該第二の電極とは互いに対向して配置されるのが好ましく、また、このとき、前記第二の電極を前記基体上に立設させてもよく、該第二の電極を前記導電性部材(電極)が囲むようにして該第二の電極を該基体の中央に配置させてもよいし、あるいは、該第二の電極が等間隔に配列した列と、前記導電性部材が等間隔に配列した列とを交互に整列配置させてもよい。
前記分子放出手段は、前記第二の電極のほかに、第三の電極を有していてもよい。この場合、いわゆる三電極法による制御となり、該第三の電極を用いない二電極法に比べ、前記導電性部材(放出電極)及び前記第二の電極の間における電位(基準電位)を容易に制御することができる点で有利である。該第三の電極は、例えば、前記基準電位を測定乃至観測するための電極として使用することができる。
前記第三の電極としては、その形状、構造、大きさ、材質等については特に制限はなく、目的に応じて公知の電極の中から適宜選択することができ、例えば、前記導電性部材として説明したものが挙げられる。
前記第三の電極の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、一般的には少ない方が好ましく、例えば、前記導電性部材(電極)が前記基体上に立設され、該基体が2以上ある場合には、各基体当たり1であるのが好ましい。この場合、各基体における前記導電性部材(電極)と該第三の電極とは互いに対向して配置されるのが好ましく、前記第三の電極を前記基体上に立設させてもよく、該第三の電極を該基体の中央に配置させてもよい。
前記分子放出手段は電源を有していてもよい。該電源を前記導電性部材(電極)及び前記第二の電極に接続しておくと、該導電性部材(電極)及び該第二の電極と共に電気回路を形成し、電場を形成することができ、該導電性部材(電極)の電位を任意に変化(電圧を印加)等させることができる。なお、前記電場としては、特に制限はなく、直流電場であってもよいし、交流電場であってもよい。
前記分子としては、前記導電性部材と電気的な相互作用可能な領域を少なくとも含む限り、その形状等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、該形状としては、例えば、線状、粒状、板状、これらの2以上の組合せ、など挙げられ、これらの中でも、線状などが好ましい。
前記電気的な相互作用可能な領域としては、例えば、電気的極性を有する領域などが好適に挙げられる。
前記領域の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、線状、粒状、板状、これらの2以上の組合せ、など挙げられるが、これらの中でも、線状などが好ましい。
前記領域の大きさとしては、特に制限はなく、前記相互作用の強さ等に応じて適宜選択することができるが、前記分子を前記導電性部材に対し、確実に保持し、効率よく放出させる観点からは、大きい方が好ましく、前記分子の全領域であってもよい。
前記領域としては、その数が前記分子1つ当たり、1つであってもよいし、2以上であってもよい。後者の場合、各領域における、前記導電性部材との電気的な相互作用力(例えば結合力)が、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
前記領域において、更にその一部に前記導電性部材との電気的な相互作用力(例えば結合力など)が異なる部位が存在していてもよい。例えば、前記領域が前記ポリヌクレオチドである場合には、該ポリヌクレオチドの3’末端に(CH2)3SS(CH2)3OHなどの基を導入することができ、この場合、該基のSS部分は、他の部分よりも前記導電性部材(例えば金属電極など)に強固に結合する。このように、一部に前記導電性部材との電気的な相互作用力が強い部位が存在する分子の場合、前記導電性部材に低い電圧を印加しただけでは(該導電性部材に印加する電位の変化が小さいと)放出されなくなる。その結果、前記導電性部材から低電圧で(前記電位の変化が小さくても)放出可能な前記分子(前記基が導入されていない分子)と、前記導電性部材から高電圧でないと(前記電位の変化が大きくないと)放出不能な前記分子(前記気が導入された分子)とを形成することができる。このとき、前者を利用すると、低コストで前記分子を前記導電性部材(電極)から放出可能であり、また、後者を利用すると、環境条件の変動等の影響を受けることなく、前記分子を前記導電性部材から放出可能である。
前記分子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記導電性部材と電気的な相互作用(結合等)が可能である点でイオン性ポリマーなどが好適に挙げられ、これらの中でも、病気の治療等への応用等の観点からは生体分子がより好ましい。
前記イオン性ポリマーとしては、正イオンポリマー及び負イオンポリマーから選択されるのが好ましい。
前記正イオンポリマー(正に帯電したイオンポリマー)としては、例えば、グアニジンDNA、ポリアミンなどが好適に挙げられる。
前記負イオンポリマー(負に帯電したイオンポリマー)としては、例えば、ポリヌクレオチド、ポリリン酸などが好適に挙げられる。これらは、負電荷が分子中に一定間隔で存在する点で前記導電性部材との相互作用(結合等)を制御し易い点で好ましく、遺伝子治療等への応用等を考慮すると、ポリヌクレオチドが特に好ましい。
前記ポリヌクレオチドとしては、例えば、遺伝子、遺伝子複合体(遺伝子とタンパク質との複合体)などが挙げられる。なお、
前記遺伝子としては、例えば、癌関連遺伝子、遺伝病に関連する遺伝子、ウイルス遺伝子、細菌遺伝子、及び病気のリスクファクターと呼ばれる多型性を示す遺伝子、などが挙げられる。
前記癌関連遺伝子としては、例えば、k−ras遺伝子、N−ras遺伝子、p53遺伝子(肺癌、食道癌、肝癌)、BRCA1遺伝子、BRCA2遺伝子、src遺伝子、ros遺伝子、GM−CSF遺伝子(腎臓癌、前立腺癌)、チミジンキナーゼ遺伝子(前立腺癌)、抗癌剤耐性遺伝子MDR1(乳癌)、APC遺伝子などが挙げられる。
前記遺伝病に関連する遺伝子としては、例えば、各種先天性代謝異常症、例えばフェニールケトン尿症、アルカプトン尿症、シスチン尿症、ハンチントン舞踏病、Down症候群、Duchenne型筋ジストロフィー、血友病、重症複合型免疫不全症、家族性高コレステロール血症、などが挙げられる。
前記ウイルス遺伝子及び前記細菌遺伝子としては、例えば、C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、HIVウイルス、マイコプラズマ、リケッチア、レンサ球菌、サルモネラ菌、などが挙げられる。
前記多型性を示す遺伝子としては、病気等の原因とは必ずしも直接は関係のない個体によって異なる塩基配列を持つ遺伝子、例えば、PS1(プリセリニン1)遺伝子、PS2(プリセリニン2)遺伝子、APP(ベーターアミロイドプレカーサー蛋白質)遺伝子、リポプロテイン遺伝子、HLA(Human Leukocyte Antigen)、血液型に関する遺伝子、高血圧、糖尿病等の発症に関係するとされている遺伝子、などが挙げられる。
前記遺伝子複合体としては、例えば、組換えウイルスが細胞に感染して核に入ってゲノムに組み込まれる直前に形成されるインテグラーゼのような酵素などのタンパク質との複合体(recombinant Pre−Integration Complex;rPIC)、などが挙げられる。前記DNA及びRNAは、一本鎖であってもよいし、二本鎖であってもよい。
前記ポリヌクレオチドを作製する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から目的に応じて適宜選定することができ、例えば、DNAシンセサイザー(DNA自動合成機)を用いる方法、あるいは、予め作成しておいたオリゴヌクレオチド配列に対し、モノマーブロックを並べてアニーリングし、DNAライゲース又はRNAライゲースを作用させて結合させる方法、などが挙げられる。
前記ポリヌクレオチドの場合、その長さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、最も短くても効果が期待できるアンチセンス法ですら二本鎖の安定性の点で、少なくとも6塩基であるのが好ましい。一般に、該ポリヌクレオチドの長さが短い程、前記導電性部材から放出させるのに必要なピーク電圧が低くなる(電位の変化量が小さくて足りる)。
前記分子の使用する種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1種であってもよいし、2種以上であってもよく、後者の場合、該分子を移入させる対象である細胞等内に複数種の該分子を放出乃至移入させることが可能である。
前記分子は、前記導電性部材から放出されたことの判別を容易にする観点から、標識を有していてもよい。
前記標識としては、例えば、放射性同位元素、化学発光物質、蛍光物質、酵素、抗体、その他が挙げられる。
前記放射性同位元素としては、例えば、32P、33P、35S、等が挙げられる。
前記化学発光物質としては、例えば、アクリジニウムエステル、ルミノール、イソルミノール又はこれらの誘導体、等が挙げられる。
前記蛍光物質としては、例えば、フルオレセイン系列、ローダミン系列、エオシン系列、NBD系列等の蛍光色素、緑色蛍光蛋白質(GFP)、ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、サマリウム(Sm)等の希土類キレート、テトラメチルローダミン、テキサスレッド、4−メチルウンベリフェロン、7−アミノ−4−メチルクマリン、Cy3、Cy5、等が挙げられる。
前記酵素としては、例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、等が挙げられる。
前記その他としては、例えば、ビオチン、リガンド、特定の核酸、蛋白質、ハプテン、等が挙げられる。前記標識がビオチンである場合にはこれに特異的に結合するアビジン又はストレプトアビジンが、前記標識がハプテンである場合にはこれに特異的に結合する抗体が、前記標識がリガンドである場合にはレセプターが、前記標識が特定の核酸、蛋白質、ハプテン等である場合にはこれらと特異的に結合する核酸、核酸結合蛋白質、特定の蛋白質と親和性を有する蛋白質等が、それぞれ組合せ可能である。
前記分子放出手段としては、電位が印加されている前記導電性部材と電気的に相互作用している前記分子を、該電位を変化させることによりその相互作用を解いて該導電性部材から放出させることができる限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
該分子放出手段によると、例えば、電位(例えば正電位)が印加され、前記分子を電気的に吸引し保持していた前記導電性部材に対し、印加されていた該電位(正電位)とは逆の電位(例えば負電位)を印加することにより、容易にかつ効率的に、該分子を電気的な反発力により該導電性部材から放出させることができる。具体的には、前記分子が前記ポリヌクレオチドである場合、該ポリヌクレオチドは負電荷に帯電した負イオンポリマーであるので、前記導電性部材としての金属電極等に正電位を印加しておくと、該ポリヌクレオチドは該金属電極に電気的相互作用(クーロン引力)により吸引され保持される。一方、該金属電極に負電位を印加すると、該金属電極と該ポリヌクレオチドとの間における電気的な反発力により該ポリヌクレオチドが該金属電極から放出される。したがって、前記導電性部材に印加する電位を適宜変化させるだけで,前記分子を前記導電性部材から任意のタイミングで自在に放出させることができる。
前記分子放出手段の具体例としては、前記導電性部材を一方の電極とし、前記第二の電極を該電極の対向電極とし、これらに電圧を印加可能な電源を組合せたもの、あるいは、更にこれらの電極間の電位を制御するための前記第三の電極を設けたもの、などが好適に挙げられる。
なお、前記分子放出手段において、前記導電性部材(電極)に印加する電圧(印加した電位の変化)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記分子を移入させる対象としての細胞を損傷乃至死滅させない程度が好ましく、例えば、−0.8Vが好ましい。
この電圧範囲は、公知のエレクトロトランスフェクション等の方法に比べて、前記細胞に負荷する電圧を十分に低く、該細胞に損傷を与えることがない点で有利である。この電圧範囲は、前記導電性部材と、これに対抗配置させた前記第二の電極とを、同一の対象(細胞)に穿刺させて配置する場合に、特に好適に採用することができる。
本発明においては、前記分子放出手段が、複数の前記導電性部材から互いに異なる前記分子を異なるタイミングで放出(制御)可能であるのが好ましく、この場合、該複数の前記導電性部材を、例えば、前記分子を移入させる細胞の周辺に配置させておくと、該細胞の治療、分化等を行うことも可能である。また、前記分子放出手段が、複数の前記導電性部材の内の一部のみを作動させ、該一部からのみ前記分子が放出されるようにしてもよく、この場合、複数の前記導電性部材を、例えば、互いに隣接する細胞に穿刺させておき、これらの細胞の一部のみに前記分子を放出し移入させることにより、該分子による作用を調べることができ、また、該互いに隣接する細胞間の影響を調べることもできる。
これらは、複数の前記導電性部材を、パッシブマトリクス又はアクティブマトリクス上に配置させることにより行うことができ、複数の前記導電性部材をパッシブマトリクス又はアクティブマトリクス上に配置させた配線構造によると、所望の位置の前記導電性部材のみを任意のタイミングで制御することができる。
本発明においては、前記その他の手段として、例えば、モニタリング手段、などを有していてもよい。該モニタリング手段によると、前記分子を移入させる対象である細胞等の状態を観察することができ、該細胞の治療、分化等を自動的にかつ安全に効率よく行うことができる。
本発明の分子放出装置は、各種分野において好適に使用することができ、遺伝子治療の装置、遺伝子病の診断、遺伝子導入の装置、遺伝子導入による分析装置等として特に好適に使用することができる。
(分子放出方法)
本発明の分子放出方法は、2以上の前記導電性部材に電気的に吸引されている分子を、電気的な反発力により、異なるタイミングで該導電性部材から放出させる分子放出工程を少なくとも含み、更に適宜選択したその他の工程等を含む。
本発明の分子放出方法は、本発明の前記分子放出装置において、前記導電性部材の数が2以上であり、該2以上の導電性部材を異なるタイミングで制御可能な態様に設計されたものを用いて好適に実施することができる。
前記分子放出工程は、前記2以上の導電性部材(電極)におけるそれぞれを独立に制御する、具体的には各導電性部材(電極)に印加された電位をそれぞれ独立に変化(例えば、印加されている電位と逆電位に変化)させる(電圧を印加させる)ことにより、行うことができる。該分子放出工程により、前記導電性部材に電気的に吸引していた前記分子が電気的な反発力により該導電性部材から放出される。そして、このとき、該導電性部材の近傍に前記分子を移入させる対象である細胞等を配置させておくと、あるいは、該導電性部材として前記針状電極を用いる場合には該針状電極を前記細胞等に穿刺しておくと、該細胞内に前記分子が効率的に放出乃至移入させることができる。
本発明の分子放出方法は、各種分野において好適に使用することができ、遺伝子治療、遺伝子病の診断、遺伝子導入、遺伝子導入による細部観察、等に特に好適に使用することができる。
ここで、本発明の分子放出装置における分子放出の原理について、図面を参照しながら説明する。図1A及び図1Bに示すように、本発明の分子放出装置の一例としては、前記分子としてのDNA分子10と電気的な相互作用によりこれを吸引し保持する前記導電性部材としての金属電極1を少なくとも備えてなる。なお、金属電極1における上方には前記第二の電極(図示せず)が設けられており、金属電極1と該第二の電極とは、電源(図示せず)に接続されており、導電性の液中に浸漬された状態で配置されている。金属電極1、前記第二の電極及び前記電源が、前記分子放出手段である。
前記分子放出手段としての前記電源を作動させておき、金属電極1に正電位を印加しておくと、図1A及び図2に示すように、負に帯電しているDNA分子10が、前記電源により正電位が印加され、正に帯電した金属電極1に電気的な相互作用(クーロン引力)により吸引され保持されている。一方、前記電源を作動させ、金属電極1に今まで印加していた正電位と逆の電位(負電位)を僅かに印加すると(電圧(−800mV)を僅かに印加すると)、図1B及び図3に示すように、負に帯電しているDNA分子10が、前記電源により負電位が印加され、負に帯電した金属電極1から、電気的な相互作用(クーロン反発力)により、放出される。
このとき、図4Aに示すように、金属電極1の近傍に、前記分子を移入させる対象として、予めDNA分子10が移入し易くなるように表面処理(リポソームを添加)をした細胞20を配置させておくと、図4Bに示すように、金属電極1から放出されたDNA分子10は、細胞20に接近し、図4Cに示すように、細胞20内にDNA分子10が移入される。この場合、電子銃、マイクロインジェクション法、エレクトロトランスフェクションなどを使用した場合と異なり、僅かな電圧を印加しただけで前記分子の細胞20内への移入を行うことができ、このため、細胞20に損傷を与えることがなく、前記対象である細胞内に所望のDNA分子等を所望のタイミングで移入(導入)させることができる。このため、本発明の分子放出装置は、安全性に優れ、遺伝子治療等に好適に応用可能である。
次に、本発明の分子放出装置の他の例について、図面を参照しながら説明する。
図8に示すように、本発明の分子放出装置の他の例としては、前記分子としてのDNA分子(図示せず)を電気的な相互作用により吸引し保持する前記導電性部材としての針状電極101と、第二の電極102とを、互いに対向するように一列おきに整列配置(配置間隔:5μm)された剣山状電極基板100を備えてなる。なお、針状電極101と第二の電極102とは、電源(図示せず)に接続されており、導電性の液中に浸漬された状態で配置されている。針状電極101、第二の電極102及び前記電源が、前記分子放出手段である。
前記分子放出手段としての前記電源を作動させておき、針状電極101に正電位を印加しておくと、負に帯電しているDNA分子が、前記電源により正電位が印加され、正に帯電した針状電極101に電気的な相互作用(クーロン引力)により吸引されて保持されている。
図9に示すように、前記分子を移入させる対象としての細胞201を平板(培養プレート)200上に単層培養し、集密状態の単層培養層を予め得ておいた。なお、該単層培養層における細胞間隔は10μm以上であり、計算上、細胞1個当たり少なくとも2本の針状電極を穿刺することができる。
図10及び図11に示すように、DNAが尖端部に電気的に吸引され保持された針状電極101と、第二の電極102とを互いに対向するように一列おきに整列配置した剣山状電極基板100の尖端を、前記単層培養層における細胞201に穿刺させる。この状態で、前記電源を作動させて針状電極101に今まで印加していた正電位と逆の電位(負電位)を僅かに印加する(電圧(−800mV)を僅かに印加する)。なお、該剣山状電極基板100における各針状電極101は、アクティブマトリクス(パッシブマトリクスも可)に電気的に制御可能に接続されているため、任意の箇所の針状電極101を所望のタイミングで所望の程度に電位を変化可能(電圧を印加可能)である。すると、負に帯電しているDNA分子が、電気的な相互作用(クーロン反発力)により、負に帯電した針状電極101から放出され、細胞201内に移入される。この場合、電子銃、マイクロインジェクション法、エレクトロトランスフェクションなどを使用した場合と異なり、僅かな電圧を印加しただけで前記分子の細胞201内への移入を行うことができ、このため、細胞201に損傷を与えることがなく、細胞201内に任意のタイミングで所望のDNA分子等を効率よく移入させることができる。
また、図12及び図13に示すように、1つの細胞201内に針状電極101と第二電極102とを計2本の穿刺し、これらの電極間に電圧を印加させてもよい。この場合、細胞201に大きな電位を負荷し過ぎないように(大きな電圧を印加しないように)、印加する前記電位を所望の範囲に制御し、該電位差(印加電圧)を制御することができ、細胞201が死滅等してしまうことを抑制することができる点で好ましい。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
まず、3’末端に(CH2)3SS(CH2)3OHを導入した一本鎖ポリヌクレオチド(ここでは12塩基対)を合成した。これを前記分子とした。
図2に示すように、該分子を、ポリッシュした直径7mmの円形状の金属電極1(この実施例では金電極)と室温で24時間反応させた。そして、金属電極1と、これに対向配置させた前記第二の電極とを電解液中に配置させ、二つの電極間に直流電場を印加し、金属電極1(金電極)に正電位を印加した。すると、正に帯電した金属電極1(金電極)に、負に帯電している前記分子が電気的相互作用(クーロン引力)により吸引され保持された。この時、金属電極1(金電極)に電気的に吸引された前記分子の数は、J.Am.Chem.Soc.1999,121,10803−10821の文献の記載を参考に算出したところ、1.8×1010個であった。
そこで、次に、前記二つの電極間に直流電場を印加し、金属電極1(金電極)に負電位(パルスなどのモジュレーションをかけたもの)を印加した。すると、図3に示すように、クーロン反発力により金属電極1(金電極)から前記分子(金属電極1とssを介して強固に結合していないもの)が乖離し、放出された。
このとき、図5に示すように、DNA分子10(金属基板1との相互作用が弱いもの)は、比較的短時間で金属基板1から放出された(図5中横軸は時間(秒)を表す)。また、図6に示すように、DNA分子10(金属基板1との相互作用が弱いものを除いた)は、比較的長時間で金属基板1から放出された。また、図7に示すように、DNA分子とタンパク質との複合体は、比較的長時間で金属基板1から放出された。
図2に示すように、該分子を、ポリッシュした直径7mmの円形状の金属電極1(この実施例では金電極)と室温で24時間反応させた。そして、金属電極1と、これに対向配置させた前記第二の電極とを電解液中に配置させ、二つの電極間に直流電場を印加し、金属電極1(金電極)に正電位を印加した。すると、正に帯電した金属電極1(金電極)に、負に帯電している前記分子が電気的相互作用(クーロン引力)により吸引され保持された。この時、金属電極1(金電極)に電気的に吸引された前記分子の数は、J.Am.Chem.Soc.1999,121,10803−10821の文献の記載を参考に算出したところ、1.8×1010個であった。
そこで、次に、前記二つの電極間に直流電場を印加し、金属電極1(金電極)に負電位(パルスなどのモジュレーションをかけたもの)を印加した。すると、図3に示すように、クーロン反発力により金属電極1(金電極)から前記分子(金属電極1とssを介して強固に結合していないもの)が乖離し、放出された。
このとき、図5に示すように、DNA分子10(金属基板1との相互作用が弱いもの)は、比較的短時間で金属基板1から放出された(図5中横軸は時間(秒)を表す)。また、図6に示すように、DNA分子10(金属基板1との相互作用が弱いものを除いた)は、比較的長時間で金属基板1から放出された。また、図7に示すように、DNA分子とタンパク質との複合体は、比較的長時間で金属基板1から放出された。
図8に示すように、前記導電性部材及び前記第二の電極として、直径が0.2μmでありかつ長さが3μmであるカーボンナノチューブの表面を金で被覆したものを針状の金電極として用いた。前記導電性部材としての針状電極101と、第二の電極102とを互いに対向するように一列おきに整列配置(配置間隔:5μm)で10,000本、アクティブマトリクス状に電気配線が設けられた基板(500μm×500μm)上に各々電気的に制御可能に立設させて剣山状電極基板100を作製した。このため、剣山状電極基板100における任意の箇所の針状電極101及び第二の電極102は、所望のタイミングで所望の程度に電位を変化可能(電圧を印加可能)となっている。
一方、蛍光(Cy3)ラベルプライマーを用いてPCR法によりで蛍光(Cy3)ラベルされたDNA400量体(400塩基)を作製した。これを前記分子とした。
前記分子としての、該蛍光(Cy3)ラベルされたDNAと、前記導電性部材としての剣山状電極基板100とを室温で24時間反応させ、針状電極101(金電極)と、該針状電極101の隣に対向配置させた第二の電極102とを電解液中に配置させた状態で、針状電極101(金電極)と第二の電極102との間に直流電場を印加し、針状電極101(金電極)に正電位を印加した。すると、正に帯電した針状電極101(金電極)の尖端に、負に帯電している前記分子が電気的相互作用(クーロン引力)により吸引され保持された。
次に、前記分子を移入させる対象としての、市販の正常ヒト樹状細胞(タカラバイオ製)の細胞201をリンパ球増殖キット(タカラバイオ製)を用いて平板(培養プレート)200に単層培養し、培養液を除き、図9に示したような集密状態の単層培養層を作製した。
図10及び図11に示すように、DNAが尖端部に電気的に吸引され保持された針状電極101及び第二の電極102を一列おきに整列配置させた剣山状電極基板100の尖端を前記単層培養層における細胞201に、即ち前記単層培養層における各細胞201当たり、針状電極101及び第二の電極102の計2本を、穿刺させた。この状態で、前記電源を作動させて針状電極101に対し、前記第三の電極(Ag/AgCl)を基準として−0.8Vの電圧を30秒間印加した。なお、該剣山状電極基板100における各針状電極101は、アクティブマトリクスに電気的に制御可能に接続されているため、任意の箇所の針状電極101を所望のタイミングで所望の電圧を印加可能である。すると、負に帯電しているDNA分子が、電気的な相互作用(クーロン反発力)により、負に帯電した針状電極101から放出され、細胞201内に移入された。
その後、前記単層培養層から剣山状電極基板100における針状電極101を抜き取り、マイクロプレートリーダーを用い、200μm×200μm範囲における前記単層培養層について、Cy3由来の蛍光発色の有無を測定した。その結果、200μm×200μm範囲内の全細胞において前記蛍光発色が確認された。このことから、全細胞に前記分子を高効率で移入させることが確認された。
また、前記分子を移入させた前記単層培養層における一部の細胞を培養プレート200から剥がし取り、培養液を再注入して該単層培養層を培養した結果、剥がし採られた部分が、再び細胞層に覆われていた。このことから、前記分子を移入(導入)させた細胞には障害が生じていないことが確認された。
一方、蛍光(Cy3)ラベルプライマーを用いてPCR法によりで蛍光(Cy3)ラベルされたDNA400量体(400塩基)を作製した。これを前記分子とした。
前記分子としての、該蛍光(Cy3)ラベルされたDNAと、前記導電性部材としての剣山状電極基板100とを室温で24時間反応させ、針状電極101(金電極)と、該針状電極101の隣に対向配置させた第二の電極102とを電解液中に配置させた状態で、針状電極101(金電極)と第二の電極102との間に直流電場を印加し、針状電極101(金電極)に正電位を印加した。すると、正に帯電した針状電極101(金電極)の尖端に、負に帯電している前記分子が電気的相互作用(クーロン引力)により吸引され保持された。
次に、前記分子を移入させる対象としての、市販の正常ヒト樹状細胞(タカラバイオ製)の細胞201をリンパ球増殖キット(タカラバイオ製)を用いて平板(培養プレート)200に単層培養し、培養液を除き、図9に示したような集密状態の単層培養層を作製した。
図10及び図11に示すように、DNAが尖端部に電気的に吸引され保持された針状電極101及び第二の電極102を一列おきに整列配置させた剣山状電極基板100の尖端を前記単層培養層における細胞201に、即ち前記単層培養層における各細胞201当たり、針状電極101及び第二の電極102の計2本を、穿刺させた。この状態で、前記電源を作動させて針状電極101に対し、前記第三の電極(Ag/AgCl)を基準として−0.8Vの電圧を30秒間印加した。なお、該剣山状電極基板100における各針状電極101は、アクティブマトリクスに電気的に制御可能に接続されているため、任意の箇所の針状電極101を所望のタイミングで所望の電圧を印加可能である。すると、負に帯電しているDNA分子が、電気的な相互作用(クーロン反発力)により、負に帯電した針状電極101から放出され、細胞201内に移入された。
その後、前記単層培養層から剣山状電極基板100における針状電極101を抜き取り、マイクロプレートリーダーを用い、200μm×200μm範囲における前記単層培養層について、Cy3由来の蛍光発色の有無を測定した。その結果、200μm×200μm範囲内の全細胞において前記蛍光発色が確認された。このことから、全細胞に前記分子を高効率で移入させることが確認された。
また、前記分子を移入させた前記単層培養層における一部の細胞を培養プレート200から剥がし取り、培養液を再注入して該単層培養層を培養した結果、剥がし採られた部分が、再び細胞層に覆われていた。このことから、前記分子を移入(導入)させた細胞には障害が生じていないことが確認された。
本発明によると、従来における問題を解決することができ、DNA等の各種有用分子を効率的に、細胞等の対象を損傷させることなく、これらへの放出乃至移入可能であり、遺伝子治療等に応用することができ、安全な分子放出装置及び分子放出方法を提供することができる。
【書類名】 明細書
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA等の各種有用分子を効率的に、細胞等の対象への放出乃至移入可能であり、遺伝子治療等に応用することができ、安全な分子放出装置及び分子放出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療は、画期的な治療法であるにも拘らず、関与する遺伝子が明らかにされている疾病が少ないこと、安全で効率的な遺伝子導入法が確立されていないこと等の理由から、致死性の単一遺伝子病(例えば、重症複合型免疫不全症、家族性高コレステロール血症など)、癌、エイズ(後天性免疫不全症候群)などにその適用が限られてきた。1995年のNIH(National Institutes of Health)のVarmusらによる報告では、これまでに実施された遺伝子治療において導入した遺伝子が原因で疾病が治癒したケースは皆無であるとされた。しかし、ヒトゲノム計画により2003年4月に人間の全遺伝子情報が明らかになったこともあり、今後、機能ゲノム科学や構造ゲノム科学の進展により、解読されたヒトゲノム配列のどの部分がどのような機能発現に関係しているのかが明らかにされていけば、前記遺伝子治療は、従来はその範疇とされていなかった生活習慣病(例えば、糖尿病など)などにも適用可能となり、各種疾病の治療にも適用されていくものと予想される。
前記遺伝子治療においては、遺伝子導入が必須となるが、安全で効率の良い遺伝子導入法は、現在までのところ確立されていない。実際、1999年9月には、アメリカのペンシルベニア大学で遺伝子治療を受けた18歳の青年が4日後に遺伝子導入に使われたアデノウイルスベクターの規定量以上の投与が原因で、死亡したことが報告された。このような状況に鑑みて、安全かつ効率の良い、非ウイルスベクターによる遺伝子導入法の確立が強く要請されている。
前記非ウイルスベクターによる遺伝子導入法としては、例えば、小胞リポソーム法、遺伝子銃法、マイクロインジェクション法などが知られている。
これらの方法の中でも、前記小胞リポソーム法は、抗原性が低く(免疫が生じにくく)、導入可能な遺伝子サイズが大きく、導入効率がよい等の点で非ウイルスベクターとして用いられてきている。しかし、この方法の場合、注入された遺伝子がゲノム内に取り込まれず、発現が一過性であり、特に非分裂細胞では発現性が低いという問題がある。
前記遺伝子銃法は、遺伝子を細胞内にあたかも銃で打ち込むようにして物理的にかつ強制的に導入させる技術である(特許文献1及び2参照)。しかし、この場合、遺伝子又は微粒子を銃のようにして細胞に打ち込むため、該細胞が損傷し、安全性が十分ではなく、またエネルギーコストがかかるという問題がある。一方、チオール基を介してDNAを金電極に結合させ、該金電極に負電位を印加することにより、該DNAを基板から放出させることが開示されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、この場合、DNAを放出させるためには、該チオール基を分解させるだめの大きなエネルギーが必要であり、コスト面、安全面等に問題がある。
前記マイクロインジェクション法は、遺伝子を細胞に導入する最も確実な方法として考えられている。しかし、この方法の場合、細胞のサイズと比較して太い中空針を用いて細胞にDNA溶液を直接注入しているため、細胞に与える傷害は大きく、しかも、細胞の固定が必要で、脆弱な細胞膜を持つ体細胞の固定化は現状では不可能であり、注入された遺伝子がゲノム内に取り込まれず、発現が一過性であるという問題がある。
最近、組換えウイルスが細胞に感染して核に入ってゲノムに組み込まれる直前に形成される複合体(recombinant Pre−Integration Complex;rPIC)を予め作製しておき、該複合体を標的細胞にマイクロマニュピュレーター等により導入する組み換えプレインテグレーション複合法(rPIC法)によると、前記標的細胞の種に依存せずに遺伝子を該標的細胞のゲノム中へ取り込み可能であり、かつ発現が持続的に行われることが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。しかし、この場合、非ウイルスベクターによる方法とはいえず安全性の点で不安があり、また、前記複合体(rPIC)を作製するのに手間、コスト等を要するという問題がある。
したがって、前記遺伝子治療法においては、所望の箇所に所望のタイミングで効率よくかつ低コストで安全に遺伝子等の分子を標的細胞に導入可能な技術は未だ提供されていないのが現状である。
【0003】
【特許文献1】
特開平5−68575号公報
【特許文献2】
特開2000−125841号公報
【非特許文献1】
J.Wang et al.,Langmuir,15,6541−6545(1999)
【非特許文献2】
宝ホールディングス株式会社、「組み換えプレインテグレーション複合法(rPIC法)を開発」[on line] 2001年12月11日 [2003年4月21日検索]、インターネット<URL:http://www.takara.co.jp/news/2001/10-12/01-I-037.htm>
【0004】
本発明は、従来における問題を解決し、DNA等の各種有用分子を効率的に、細胞等の対象を損傷させることなく、これらへの放出乃至移入可能であり、遺伝子治療等に応用することができ、安全な分子放出装置及び分子放出方法を提供することを目的とする。
【発明の開示】
【0005】
本発明の分子放出装置は、電位が印加された導電性部材に電気的に相互作用している分子を、該電位を変化させることによりその相互作用を解いて該導電性部材から放出させる分子放出手段を有することを特徴とする。該分子放出装置においては、前記分子放出手段により、電位が印加された導電性部材に電気的に相互作用している分子が、該電位が変化されてその相互作用が解かれ、該導電性部材から放出される。このとき、該導電性部材の近傍に、前記分子を移入させる対象を配置させておくと、放出された前記分子が該対象としての細胞等内に移入される。
本発明の分子放出方法は、2以上の導電性部材に電気的に吸引されている分子を、電気的な反発力により、異なるタイミングで該導電性部材から放出させることを特徴とする。該分子放出方法においては、前記2以上の導電性部材に対し、異なるタイミングで電位を変化(電圧を印加)させることにより、前記分子が、電気的な反発力により、異なるタイミングで放出され、細胞等の対象内に移入される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
(分子放出装置)
本発明の分子放出装置は、分子放出手段を有してなり、更に必要に応じて適宜選択したモニタリング手段等のその他の手段を有してなる。
前記分子放出手段は、電位が印加された導電性部材に電気的に相互作用している分子を、該電位を変化させることによりその相互作用を解いて該導電性部材から放出させる機能を有する。
【0007】
前記導電性部材としては、導電性を示すものであれば特に制限はなく、例えば、電極が好適に挙げられ、その形状、構造、大きさ、表面性状、数、材質などについて目的に応じて適宜選択することができる。なお、以下、該電極を分子放出電極と称することがある。
前記形状としては、例えば、板状、針状、棒状、球状、などが挙げられる。これらの形状は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、遺伝子治療等において、前記分子を直接、該分子を移入させる対象である細胞等内に放出乃至移入させる場合には、針状(針状電極)が好ましい。
前記構造としては、例えば、単独の部材で形成されていてもよいし、2以上の部材で形成されていてもよい。前者の場合には、前記部材が導電性であることが必要である。後者の場合には、少なくとも一つの部材が導電性であればよく、例えば、基体上に前記材料による層(導電層)が設けられた構造、などが挙げられる。なお、前記基体としては、特に制限はなく、その構造、大きさ等について適宜選択することができ、その形状としては、板状、針状、棒状、球状などが挙げられ、その材質としては導電性、絶縁性等が好ましく、該絶縁性の材質としては、例えば、石英ガラス、シリコン、酸化ケイ素等が挙げられる。
前記大きさとしては、例えば、前記分子放出装置をチップ化する場合には、幅乃至径が、500μm以下程度であり、300μm以下が好ましく、微細なチップとする場合には100μm以下が好ましい。なお、前記電極が針状電極である場合、遺伝子治療等の用途を考慮すると、その直径が0.2μm以下でありかつ長さが3μm以上であるのが好ましい。
【0008】
前記数としては、例えば、1つであってもよいし、2以上であってもよい。前記分子の放出効率等の観点からは2以上であるのが好ましい。
前記数が2以上である場合、前記電極の材質、形状、構造、大きさ、表面性状等は、それぞれ互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
前記2以上の前記電極の配置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、任意に配置してもよいし、整列配置してもよい。後者の場合、各電極の間隔を一定にすることができる。
前記2以上の前記電極の間隔としては、例えば、平板(プレート)に単層培養した際の細胞の大きさ(約10μm)等、前記分子を移入させる対象である細胞等の間隔等に応じて適宜選択することができ、前記平板に単層培養した細胞に前記分子を移入(導入)させる場合には、1〜5μm程度が好ましい。
前記2以上の前記電極の制御(電位の変化、電圧の印加)は、それぞれ互いに同じタイミングで行ってもよいし、異なるタイミングで行ってもよい。
前記2以上の前記電極には、前記分子としてそれぞれ同一のものが保持されていてもよいし、異なるものが保持されていてもよい。後者の場合、前記分子としての遺伝子等の複数種を、該分子を移入させる対象である前記細胞等内に効率的に放出乃至移入させることができる。
【0009】
前記2以上の前記電極が前記針状電極である場合、該2以上の針状電極は、基体上に立設等させておくのが好ましい。
この場合、前記基体として平板を選択すれば、剣山状電極基板とすることができる。該剣山状電極基板を用いると、例えば、遺伝子治療等において、前記分子を移入させる対象として、平板(プレート)に単層培養した細胞等内に、前記分子を効率的に放出乃至移入(導入)させることができる。また、前記基体としてファイーバースコープを選択し、該ファイバースコープの尖端に前記針状電極を設ければ、該ファイーバースコープの除きながら前記針状電極を生体内の目的部位(例えば、癌細胞、疾患臓器等)にまで移動させ、そこで穿刺することができ、遺伝子治療等に好適である点で有利である。
【0010】
前記材質としては、例えば、金属、導電性樹脂、導電性カーボン、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、後者の場合、例えば、前記導電性樹脂や前記導電性カーボン上に前記金属を被覆等してもよい。
前記金属としては、例えば、金、白金、銀、銅、亜鉛等の金属、これらの合金、などが挙げられる。
前記導電性樹脂としては、例えば、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリp−フェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアニリン、などが挙げられる。
前記導電性カーボンとしては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンなどが挙げられる。なお、前記カーボンナノチューブとしては、例えば、単層カーボンナノチューブ(SWNT)、多層カーボンナノチューブ(MWNT)などが挙げられ、前記単層カーボンナノチューブの具体例としては、アームチェアー型カーボンナノチューブ、ジグザグ型カーボンナノチューブ、カイラル型カーボンナノチューブなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記電極を針状電極とする場合には、ナノピラー構造の金属、針状の導電性プラスチック及びカーボンナノチューブから選択される少なくとも1種が好ましい。なお、前記ナノピラー構造とは、ナノメーターオーダーの大きさからなる小柱が複数突設された構造を意味する。該ナノピラー構造の金属は、前記金属に対してエッチングを行って形成することができる。
前記導電性部材において前記分子が相互作用により保持される部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、該導電性部材が、前記板状電極である場合にはその板面などが、前記針状電極である場合には少なくともその尖端部などが好適に挙げられる。なお、該導電性部材が前記針状電極の場合、前記分子を該針状電極の尖端部に電気的に吸引し保持させておき、前記分子を移入させる対象である細胞等内に該針状電極を穿刺した状態で該分子を該針状電極から放出させると、該分子を該細胞等内に効率的に放出乃至移入(導入)させることができる点で有利である。
前記導電性部材の配置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、該分子の前記対象内への放出乃至移入の効率の点で、例えば、前記分子を移入させる対象の近傍に配置するのが好ましく、前記導電性部材が前記針状電極である場合には、前記分子を移入させる対象に穿刺して配置するのが好ましい。なお、前記分子が前記導電性部材に電気的に吸引されており、該分子を前記導電性部材から電気的な反発力により放出させる場合、該導電性部材は、導電性媒体中に配置されるのが好ましい。該導電性媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液体、固体、これらの混合、などのいずれであってもよく、前記液体としては、例えば、水、イオン溶液、電解質を含有する溶液、などが挙げられ、また、遺伝子治療等の観点からは、前記細胞が好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0011】
前記分子を移入させる対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、細胞、マイクロカプセル、などが好適に挙げられる。なお、前記細胞としては、特に制限はなく、動物細胞、植物細胞、微生物、などが挙げられる。これらの中でも、該細胞を平板(プレート)上に単層培養させることでき、前記分子の移入が効率的かつ容易である点で、ヒト等の動物細胞が好ましい。また、前記対象が細胞でありかつ前記分子が遺伝子である場合には、該遺伝子の移入効率の点で、該細胞を表面処理しておくのが好ましい。該表面処理としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができるが、例えば、リン酸カルシウム処理、などが挙げられる。
【0012】
前記分子放出手段は、第二の電極を有していてもよい。該第二の電極を設けておくと、前記導電性部材(電極)と共に該第二の電極が一対の電極を構成し、前記導電性部材(電極)と共に電気回路を形成し、電流の収支を図ることができ、該第二の電極と前記導電性部材(電極)との間の電位を適宜変化(電圧を印加)させることにより、前記分子を該導電性部材(電極)から電気的に放出させたり、吸引させたりすることができる。例えば、前記導電性部材(電極)に正電位が印加されており、該導電性部材(電極)に前記分子が電気的相互作用により吸引されている場合には、該導電性部材(電極)に負電位を印加させ、該電位を変化(電圧を印加)させると、前記分子を電気的な反発力により該導電性部材(電極)から放出させることができる。
前記第二の電極としては、その形状、構造、大きさ、材質等については特に制限はなく、目的に応じて公知の電極の中から適宜選択することができ、例えば、前記導電性部材として説明したものが挙げられ、これらの中でも、前記形状が針状である針状電極が好ましい。
前記第二の電極の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常、前記導電性部材(電極)の数と同数以下であり、可能な限り少ない方が好ましく、例えば、前記導電性部材(電極)が前記基体上に立設され、該基体が2以上ある場合には、各基体当たり1であるのが好ましい。この場合、各基体における前記導電性部材(電極)と該第二の電極とは互いに対向して配置されるのが好ましく、また、このとき、前記第二の電極を前記基体上に立設させてもよく、該第二の電極を前記導電性部材(電極)が囲むようにして該第二の電極を該基体の中央に配置させてもよいし、あるいは、該第二の電極が等間隔に配列した列と、前記導電性部材が等間隔に配列した列とを交互に整列配置させてもよい。
【0013】
前記分子放出手段は、前記第二の電極のほかに、第三の電極を有していてもよい。この場合、いわゆる三電極法による制御となり、該第三の電極を用いない二電極法に比べ、前記導電性部材(放出電極)及び前記第二の電極の間における電位(基準電位)を容易に制御することができる点で有利である。該第三の電極は、例えば、前記基準電位を測定乃至観測するための電極として使用することができる。
前記第三の電極としては、その形状、構造、大きさ、材質等については特に制限はなく、目的に応じて公知の電極の中から適宜選択することができ、例えば、前記導電性部材として説明したものが挙げられる。
前記第三の電極の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、一般的には少ない方が好ましく、例えば、前記導電性部材(電極)が前記基体上に立設され、該基体が2以上ある場合には、各基体当たり1であるのが好ましい。この場合、各基体における前記導電性部材(電極)と該第三の電極とは互いに対向して配置されるのが好ましく、前記第三の電極を前記基体上に立設させてもよく、該第三の電極を該基体の中央に配置させてもよい。
前記分子放出手段は電源を有していてもよい。該電源を前記導電性部材(電極)及び前記第二の電極に接続しておくと、該導電性部材(電極)及び該第二の電極と共に電気回路を形成し、電場を形成することができ、該導電性部材(電極)の電位を任意に変化(電圧を印加)等させることができる。なお、前記電場としては、特に制限はなく、直流電場であってもよいし、交流電場であってもよい。
【0014】
前記分子としては、前記導電性部材と電気的な相互作用可能な領域を少なくとも含む限り、その形状等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、該形状としては、例えば、線状、粒状、板状、これらの2以上の組合せ、など挙げられ、これらの中でも、線状などが好ましい。
前記電気的な相互作用可能な領域としては、例えば、電気的極性を有する領域などが好適に挙げられる。
前記領域の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、線状、粒状、板状、これらの2以上の組合せ、など挙げられるが、これらの中でも、線状などが好ましい。
前記領域の大きさとしては、特に制限はなく、前記相互作用の強さ等に応じて適宜選択することができるが、前記分子を前記導電性部材に対し、確実に保持し、効率よく放出させる観点からは、大きい方が好ましく、前記分子の全領域であってもよい。
前記領域としては、その数が前記分子1つ当たり、1つであってもよいし、2以上であってもよい。後者の場合、各領域における、前記導電性部材との電気的な相互作用力(例えば結合力)が、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
前記領域において、更にその一部に前記導電性部材との電気的な相互作用力(例えば結合力など)が異なる部位が存在していてもよい。例えば、前記領域が前記ポリヌクレオチドである場合には、該ポリヌクレオチドの3’末端に(CH2)3SS(CH2)3OHなどの基を導入することができ、この場合、該基のSS部分は、他の部分よりも前記導電性部材(例えば金属電極など)に強固に結合する。このように、一部に前記導電性部材との電気的な相互作用力が強い部位が存在する分子の場合、前記導電性部材に低い電圧を印加しただけでは(該導電性部材に印加する電位の変化が小さいと)放出されなくなる。その結果、前記導電性部材から低電圧で(前記電位の変化が小さくても)放出可能な前記分子(前記基が導入されていない分子)と、前記導電性部材から高電圧でないと(前記電位の変化が大きくないと)放出不能な前記分子(前記気が導入された分子)とを形成することができる。このとき、前者を利用すると、低コストで前記分子を前記導電性部材(電極)から放出可能であり、また、後者を利用すると、環境条件の変動等の影響を受けることなく、前記分子を前記導電性部材から放出可能である。
前記分子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記導電性部材と電気的な相互作用(結合等)が可能である点でイオン性ポリマーなどが好適に挙げられ、これらの中でも、病気の治療等への応用等の観点からは生体分子がより好ましい。
前記イオン性ポリマーとしては、正イオンポリマー及び負イオンポリマーから選択されるのが好ましい。
前記正イオンポリマー(正に帯電したイオンポリマー)としては、例えば、グアニジンDNA、ポリアミンなどが好適に挙げられる。
前記負イオンポリマー(負に帯電したイオンポリマー)としては、例えば、ポリヌクレオチド、ポリリン酸などが好適に挙げられる。これらは、負電荷が分子中に一定間隔で存在する点で前記導電性部材との相互作用(結合等)を制御し易い点で好ましく、遺伝子治療等への応用等を考慮すると、ポリヌクレオチドが特に好ましい。
前記ポリヌクレオチドとしては、例えば、遺伝子、遺伝子複合体(遺伝子とタンパク質との複合体)などが挙げられる。なお、
前記遺伝子としては、例えば、癌関連遺伝子、遺伝病に関連する遺伝子、ウイルス遺伝子、細菌遺伝子、及び病気のリスクファクターと呼ばれる多型性を示す遺伝子、などが挙げられる。
前記癌関連遺伝子としては、例えば、k−ras遺伝子、N−ras遺伝子、p53遺伝子(肺癌、食道癌、肝癌)、BRCA1遺伝子、BRCA2遺伝子、src遺伝子、ros遺伝子、GM−CSF遺伝子(腎臓癌、前立腺癌)、チミジンキナーゼ遺伝子(前立腺癌)、抗癌剤耐性遺伝子MDR1(乳癌)、APC遺伝子などが挙げられる。
前記遺伝病に関連する遺伝子としては、例えば、各種先天性代謝異常症、例えばフェニールケトン尿症、アルカプトン尿症、シスチン尿症、ハンチントン舞踏病、Down症候群、Duchenne型筋ジストロフィー、血友病、重症複合型免疫不全症、家族性高コレステロール血症、などが挙げられる。
前記ウイルス遺伝子及び前記細菌遺伝子としては、例えば、C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、HIVウイルス、マイコプラズマ、リケッチア、レンサ球菌、サルモネラ菌、などが挙げられる。
前記多型性を示す遺伝子としては、病気等の原因とは必ずしも直接は関係のない個体によって異なる塩基配列を持つ遺伝子、例えば、PS1(プリセリニン1)遺伝子、PS2(プリセリニン2)遺伝子、APP(ベーターアミロイドプレカーサー蛋白質)遺伝子、リポプロテイン遺伝子、HLA(Human Leukocyte Antigen)、血液型に関する遺伝子、高血圧、糖尿病等の発症に関係するとされている遺伝子、などが挙げられる。
前記遺伝子複合体としては、例えば、組換えウイルスが細胞に感染して核に入ってゲノムに組み込まれる直前に形成されるインテグラーゼのような酵素などのタンパク質との複合体(recombinant Pre−Integration Complex;rPIC)、などが挙げられる。前記DNA及びRNAは、一本鎖であってもよいし、二本鎖であってもよい。
前記ポリヌクレオチドを作製する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から目的に応じて適宜選定することができ、例えば、DNAシンセサイザー(DNA自動合成機)を用いる方法、あるいは、予め作成しておいたオリゴヌクレオチド配列に対し、モノマーブロックを並べてアニーリングし、DNAライゲース又はRNAライゲースを作用させて結合させる方法、などが挙げられる。
前記ポリヌクレオチドの場合、その長さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、最も短くても効果が期待できるアンチセンス法ですら二本鎖の安定性の点で、少なくとも6塩基であるのが好ましい。一般に、該ポリヌクレオチドの長さが短い程、前記導電性部材から放出させるのに必要なピーク電圧が低くなる(電位の変化量が小さくて足りる)。
前記分子の使用する種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1種であってもよいし、2種以上であってもよく、後者の場合、該分子を移入させる対象である細胞等内に複数種の該分子を放出乃至移入させることが可能である。
前記分子は、前記導電性部材から放出されたことの判別を容易にする観点から、標識を有していてもよい。
前記標識としては、例えば、放射性同位元素、化学発光物質、蛍光物質、酵素、抗体、その他が挙げられる。
前記放射性同位元素としては、例えば、32P、33P、35S、等が挙げられる。
前記化学発光物質としては、例えば、アクリジニウムエステル、ルミノール、イソルミノール又はこれらの誘導体、等が挙げられる。
前記蛍光物質としては、例えば、フルオレセイン系列、ローダミン系列、エオシン系列、NBD系列等の蛍光色素、緑色蛍光蛋白質(GFP)、ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、サマリウム(Sm)等の希土類キレート、テトラメチルローダミン、テキサスレッド、4−メチルウンベリフェロン、7−アミノ−4−メチルクマリン、Cy3、Cy5、等が挙げられる。
前記酵素としては、例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、等が挙げられる。
前記その他としては、例えば、ビオチン、リガンド、特定の核酸、蛋白質、ハプテン、等が挙げられる。前記標識がビオチンである場合にはこれに特異的に結合するアビジン又はストレプトアビジンが、前記標識がハプテンである場合にはこれに特異的に結合する抗体が、前記標識がリガンドである場合にはレセプターが、前記標識が特定の核酸、蛋白質、ハプテン等である場合にはこれらと特異的に結合する核酸、核酸結合蛋白質、特定の蛋白質と親和性を有する蛋白質等が、それぞれ組合せ可能である。
【0015】
前記分子放出手段としては、電位が印加されている前記導電性部材と電気的に相互作用している前記分子を、該電位を変化させることによりその相互作用を解いて該導電性部材から放出させることができる限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
該分子放出手段によると、例えば、電位(例えば正電位)が印加され、前記分子を電気的に吸引し保持していた前記導電性部材に対し、印加されていた該電位(正電位)とは逆の電位(例えば負電位)を印加することにより、容易にかつ効率的に、該分子を電気的な反発力により該導電性部材から放出させることができる。具体的には、前記分子が前記ポリヌクレオチドである場合、該ポリヌクレオチドは負電荷に帯電した負イオンポリマーであるので、前記導電性部材としての金属電極等に正電位を印加しておくと、該ポリヌクレオチドは該金属電極に電気的相互作用(クーロン引力)により吸引され保持される。一方、該金属電極に負電位を印加すると、該金属電極と該ポリヌクレオチドとの間における電気的な反発力により該ポリヌクレオチドが該金属電極から放出される。したがって、前記導電性部材に印加する電位を適宜変化させるだけで,前記分子を前記導電性部材から任意のタイミングで自在に放出させることができる。
前記分子放出手段の具体例としては、前記導電性部材を一方の電極とし、前記第二の電極を該電極の対向電極とし、これらに電圧を印加可能な電源を組合せたもの、あるいは、更にこれらの電極間の電位を制御するための前記第三の電極を設けたもの、などが好適に挙げられる。
なお、前記分子放出手段において、前記導電性部材(電極)に印加する電圧(印加した電位の変化)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記分子を移入させる対象としての細胞を損傷乃至死滅させない程度が好ましく、例えば、−0.8Vが好ましい。
この電圧範囲は、公知のエレクトロトランスフェクション等の方法に比べて、前記細胞に負荷する電圧を十分に低く、該細胞に損傷を与えることがない点で有利である。この電圧範囲は、前記導電性部材と、これに対抗配置させた前記第二の電極とを、同一の対象(細胞)に穿刺させて配置する場合に、特に好適に採用することができる。
【0016】
本発明においては、前記分子放出手段が、複数の前記導電性部材から互いに異なる前記分子を異なるタイミングで放出(制御)可能であるのが好ましく、この場合、該複数の前記導電性部材を、例えば、前記分子を移入させる細胞の周辺に配置させておくと、該細胞の治療、分化等を行うことも可能である。また、前記分子放出手段が、複数の前記導電性部材の内の一部のみを作動させ、該一部からのみ前記分子が放出されるようにしてもよく、この場合、複数の前記導電性部材を、例えば、互いに隣接する細胞に穿刺させておき、これらの細胞の一部のみに前記分子を放出し移入させることにより、該分子による作用を調べることができ、また、該互いに隣接する細胞間の影響を調べることもできる。
これらは、複数の前記導電性部材を、パッシブマトリクス又はアクティブマトリクス上に配置させることにより行うことができ、複数の前記導電性部材をパッシブマトリクス又はアクティブマトリクス上に配置させた配線構造によると、所望の位置の前記導電性部材のみを任意のタイミングで制御することができる。
【0017】
本発明においては、前記その他の手段として、例えば、モニタリング手段、などを有していてもよい。該モニタリング手段によると、前記分子を移入させる対象である細胞等の状態を観察することができ、該細胞の治療、分化等を自動的にかつ安全に効率よく行うことができる。
【0018】
本発明の分子放出装置は、各種分野において好適に使用することができ、遺伝子治療の装置、遺伝子病の診断、遺伝子導入の装置、遺伝子導入による分析装置等として特に好適に使用することができる。
【0019】
(分子放出方法)
本発明の分子放出方法は、2以上の前記導電性部材に電気的に吸引されている分子を、電気的な反発力により、異なるタイミングで該導電性部材から放出させる分子放出工程を少なくとも含み、更に適宜選択したその他の工程等を含む。
本発明の分子放出方法は、本発明の前記分子放出装置において、前記導電性部材の数が2以上であり、該2以上の導電性部材を異なるタイミングで制御可能な態様に設計されたものを用いて好適に実施することができる。
前記分子放出工程は、前記2以上の導電性部材(電極)におけるそれぞれを独立に制御する、具体的には各導電性部材(電極)に印加された電位をそれぞれ独立に変化(例えば、印加されている電位と逆電位に変化)させる(電圧を印加させる)ことにより、行うことができる。該分子放出工程により、前記導電性部材に電気的に吸引していた前記分子が電気的な反発力により該導電性部材から放出される。そして、このとき、該導電性部材の近傍に前記分子を移入させる対象である細胞等を配置させておくと、あるいは、該導電性部材として前記針状電極を用いる場合には該針状電極を前記細胞等に穿刺しておくと、該細胞内に前記分子が効率的に放出乃至移入させることができる。
【0020】
本発明の分子放出方法は、各種分野において好適に使用することができ、遺伝子治療、遺伝子病の診断、遺伝子導入、遺伝子導入による細部観察、等に特に好適に使用することができる。
【0021】
ここで、本発明の分子放出装置における分子放出の原理について、図面を参照しながら説明する。図1A及び図1Bに示すように、本発明の分子放出装置の一例としては、前記分子としてのDNA分子10と電気的な相互作用によりこれを吸引し保持する前記導電性部材としての金属電極1を少なくとも備えてなる。なお、金属電極1における上方には前記第二の電極(図示せず)が設けられており、金属電極1と該第二の電極とは、電源(図示せず)に接続されており、導電性の液中に浸漬された状態で配置されている。金属電極1、前記第二の電極及び前記電源が、前記分子放出手段である。
前記分子放出手段としての前記電源を作動させておき、金属電極1に正電位を印加しておくと、図1A及び図2に示すように、負に帯電しているDNA分子10が、前記電源により正電位が印加され、正に帯電した金属電極1に電気的な相互作用(クーロン引力)により吸引され保持されている。一方、前記電源を作動させ、金属電極1に今まで印加していた正電位と逆の電位(負電位)を僅かに印加すると(電圧(−800mV)を僅かに印加すると)、図1B及び図3に示すように、負に帯電しているDNA分子10が、前記電源により負電位が印加され、負に帯電した金属電極1から、電気的な相互作用(クーロン反発力)により、放出される。
このとき、図4Aに示すように、金属電極1の近傍に、前記分子を移入させる対象として、予めDNA分子10が移入し易くなるように表面処理(リポソームを添加)をした細胞20を配置させておくと、図4Bに示すように、金属電極1から放出されたDNA分子10は、細胞20に接近し、図4Cに示すように、細胞20内にDNA分子10が移入される。この場合、電子銃、マイクロインジェクション法、エレクトロトランスフェクションなどを使用した場合と異なり、僅かな電圧を印加しただけで前記分子の細胞20内への移入を行うことができ、このため、細胞20に損傷を与えることがなく、前記対象である細胞内に所望のDNA分子等を所望のタイミングで移入(導入)させることができる。このため、本発明の分子放出装置は、安全性に優れ、遺伝子治療等に好適に応用可能である。
【0022】
次に、本発明の分子放出装置の他の例について、図面を参照しながら説明する。図8に示すように、本発明の分子放出装置の他の例としては、前記分子としてのDNA分子(図示せず)を電気的な相互作用により吸引し保持する前記導電性部材としての針状電極101と、第二の電極102とを、互いに対向するように一列おきに整列配置(配置間隔:5μm)された剣山状電極基板100を備えてなる。なお、針状電極101と第二の電極102とは、電源(図示せず)に接続されており、導電性の液中に浸漬された状態で配置されている。針状電極101、第二の電極102及び前記電源が、前記分子放出手段である。
前記分子放出手段としての前記電源を作動させておき、針状電極101に正電位を印加しておくと、負に帯電しているDNA分子が、前記電源により正電位が印加され、正に帯電した針状電極101に電気的な相互作用(クーロン引力)により吸引されて保持されている。
図9に示すように、前記分子を移入させる対象としての細胞201を平板(培養プレート)200上に単層培養し、集密状態の単層培養層を予め得ておいた。なお、該単層培養層における細胞間隔は10μm以上であり、計算上、細胞1個当たり少なくとも2本の針状電極を穿刺することができる。
図10及び図11に示すように、DNAが尖端部に電気的に吸引され保持された針状電極101と、第二の電極102とを互いに対向するように一列おきに整列配置した剣山状電極基板100の尖端を、前記単層培養層における細胞201に穿刺させる。この状態で、前記電源を作動させて針状電極101に今まで印加していた正電位と逆の電位(負電位)を僅かに印加する(電圧(−800mV)を僅かに印加する)。なお、該剣山状電極基板100における各針状電極101は、アクティブマトリクス(パッシブマトリクスも可)に電気的に制御可能に接続されているため、任意の箇所の針状電極101を所望のタイミングで所望の程度に電位を変化可能(電圧を印加可能)である。すると、負に帯電しているDNA分子が、電気的な相互作用(クーロン反発力)により、負に帯電した針状電極101から放出され、細胞201内に移入される。この場合、電子銃、マイクロインジェクション法、エレクトロトランスフェクションなどを使用した場合と異なり、僅かな電圧を印加しただけで前記分子の細胞201内への移入を行うことができ、このため、細胞201に損傷を与えることがなく、細胞201内に任意のタイミングで所望のDNA分子等を効率よく移入させることができる。
また、図12及び図13に示すように、1つの細胞201内に針状電極101と第二電極102とを計2本の穿刺し、これらの電極間に電圧を印加させてもよい。この場合、細胞201に大きな電位を負荷し過ぎないように(大きな電圧を印加しないように)、印加する前記電位を所望の範囲に制御し、該電位差(印加電圧)を制御することができ、細胞201が死滅等してしまうことを抑制することができる点で好ましい。
【0023】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
まず、3’末端に(CH2)3SS(CH2)3OHを導入した一本鎖ポリヌクレオチド(ここでは12塩基対)を合成した。これを前記分子とした。
図2に示すように、該分子を、ポリッシュした直径7mmの円形状の金属電極1(この実施例では金電極)と室温で24時間反応させた。そして、金属電極1と、これに対向配置させた前記第二の電極とを電解液中に配置させ、二つの電極間に直流電場を印加し、金属電極1(金電極)に正電位を印加した。すると、正に帯電した金属電極1(金電極)に、負に帯電している前記分子が電気的相互作用(クーロン引力)により吸引され保持された。この時、金属電極1(金電極)に電気的に吸引された前記分子の数は、J.Am.Chem.Soc.1999,121,10803−10821の文献の記載を参考に算出したところ、1.8×1010個であった。
そこで、次に、前記二つの電極間に直流電場を印加し、金属電極1(金電極)に負電位(パルスなどのモジュレーションをかけたもの)を印加した。すると、図3に示すように、クーロン反発力により金属電極1(金電極)から前記分子(金属電極1とssを介して強固に結合していないもの)が乖離し、放出された。
このとき、図5に示すように、DNA分子10(金属基板1との相互作用が弱いもの)は、比較的短時間で金属基板1から放出された(図5中横軸は時間(秒)を表す)。また、図6に示すように、DNA分子10(金属基板1との相互作用が弱いものを除いた)は、比較的長時間で金属基板1から放出された。また、図7に示すように、DNA分子とタンパク質との複合体は、比較的長時間で金属基板1から放出された。
【0024】
(実施例2)
図8に示すように、前記導電性部材及び前記第二の電極として、直径が0.2μmでありかつ長さが3μmであるカーボンナノチューブの表面を金で被覆したものを針状の金電極として用いた。前記導電性部材としての針状電極101と、第二の電極102とを互いに対向するように一列おきに整列配置(配置間隔:5μm)で10,000本、アクティブマトリクス状に電気配線が設けられた基板(500μm×500μm)上に各々電気的に制御可能に立設させて剣山状電極基板100を作製した。このため、剣山状電極基板100における任意の箇所の針状電極101及び第二の電極102は、所望のタイミングで所望の程度に電位を変化可能(電圧を印加可能)となっている。
一方、蛍光(Cy3)ラベルプライマーを用いてPCR法によりで蛍光(Cy3)ラベルされたDNA400量体(400塩基)を作製した。これを前記分子とした。
前記分子としての、該蛍光(Cy3)ラベルされたDNAと、前記導電性部材としての剣山状電極基板100とを室温で24時間反応させ、針状電極101(金電極)と、該針状電極101の隣に対向配置させた第二の電極102とを電解液中に配置させた状態で、針状電極101(金電極)と第二の電極102との間に直流電場を印加し、針状電極101(金電極)に正電位を印加した。すると、正に帯電した針状電極101(金電極)の尖端に、負に帯電している前記分子が電気的相互作用(クーロン引力)により吸引され保持された。
次に、前記分子を移入させる対象としての、市販の正常ヒト樹状細胞(タカラバイオ製)の細胞201をリンパ球増殖キット(タカラバイオ製)を用いて平板(培養プレート)200に単層培養し、培養液を除き、図9に示したような集密状態の単層培養層を作製した。
図10及び図11に示すように、DNAが尖端部に電気的に吸引され保持された針状電極101及び第二の電極102を一列おきに整列配置させた剣山状電極基板100の尖端を前記単層培養層における細胞201に、即ち前記単層培養層における各細胞201当たり、針状電極101及び第二の電極102の計2本を、穿刺させた。この状態で、前記電源を作動させて針状電極101に対し、前記第三の電極(Ag/AgCl)を基準として−0.8Vの電圧を30秒間印加した。なお、該剣山状電極基板100における各針状電極101は、アクティブマトリクスに電気的に制御可能に接続されているため、任意の箇所の針状電極101を所望のタイミングで所望の電圧を印加可能である。すると、負に帯電しているDNA分子が、電気的な相互作用(クーロン反発力)により、負に帯電した針状電極101から放出され、細胞201内に移入された。
その後、前記単層培養層から剣山状電極基板100における針状電極101を抜き取り、マイクロプレートリーダーを用い、200μm×200μm範囲における前記単層培養層について、Cy3由来の蛍光発色の有無を測定した。その結果、200μm×200μm範囲内の全細胞において前記蛍光発色が確認された。このことから、全細胞に前記分子を高効率で移入させることが確認された。
また、前記分子を移入させた前記単層培養層における一部の細胞を培養プレート200から剥がし取り、培養液を再注入して該単層培養層を培養した結果、剥がし採られた部分が、再び細胞層に覆われていた。このことから、前記分子を移入(導入)させた細胞には障害が生じていないことが確認された。
【0025】
ここで、本発明の好ましい態様について以下に示す。
(付記1) 電位が印加された導電性部材に電気的に相互作用している分子を、該電位を変化させることによりその相互作用を解いて該導電性部材から放出させる分子放出手段を有することを特徴とする分子放出装置。
(付記2) 分子放出手段が、電位が印加された導電性部材に電気的に相互作用している分子を、該電位と逆の電位を該導電性部材に印加することによりその相互作用を解いて該導電性部材から放出させる付記1に記載の分子放出装置。
(付記3) 導電性部材が、分子を移入させる対象の近傍に配置される付記1から2のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記4) 導電性部材が、分子を移入させる対象を穿刺して配置される付記1から2のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記5) 対象が、細胞及びマイクロカプセルから選択される付記3から4のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記6) 導電性部材がファイバースコープの先端に設けられた付記1から5のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記7) 導電性部材が電極である付記1から6のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記8) 導電性部材の数が2以上である付記1から7のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記9) 2以上の導電性部材がそれぞれ独立に作動が制御される付記8に記載の分子放出装置。
(付記10) 電極が針状電極である付記7から9のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記11) 針状電極が、直径が0.2μm以下でありかつ長さが3μm以上である付記10に記載の分子放出装置。
(付記12) 針状電極が、金属、導電性樹脂及び導電性カーボンから選択される少なくとも1種で形成された付記10から11のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記13) 針状電極の少なくとも尖端部に分子が電気的な相互作用により保持される付記10から12のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記14) 針状電極の数が2以上であり、該2以上の針状電極に同一の分子及び異なる分子のいずれかが電気的な相互作用により保持される付記10から13のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記15) 第二の電極を更に有する付記7から14のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記16) 第二の電極が針状であり、該第二の電極及び針状電極が同一の対象中に穿刺されて配置される付記15に記載の分子放出装置。
(付記17) 第三の電極を更に有する付記7から16のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記18) 分子放出手段が、分子を異なるタイミングで放出可能である付記1から17のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記19) 分子が線状である付記1から18のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記20) 分子が電気的極性を有する付記1から19のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記21) 分子がイオン性ポリマーから選択される付記1から20のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記22) イオン性ポリマーがポリヌクレオチド及びその複合体から選択される少なくとも1種である付記21に記載の分子放出装置。
(付記23) ポリヌクレオチドが少なくとも6塩基有してなる付記22に記載の分子放出装置。
(付記24) 対象の状態をモニターするモニタリング手段を更に有する付記3から23のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記25) 2以上の導電性部材に電気的に吸引されている分子を、電気的な反発力により、異なるタイミングで該導電性部材から放出させることを特徴とする分子放出方法。
(付記26) 導電性部材が、細胞内に穿刺されて配置される針状電極である付記25に記載の分子放出方法。
【0026】
【産業上の利用可能性】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、DNA等の各種有用分子を効率的に、細胞等の対象を損傷させることなく、これらへの放出乃至移入可能であり、遺伝子治療等に応用することができ、安全な分子放出装置及び分子放出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】
図1A及び図1Bは、本発明の分子放出装置における分子が放出される原理の一例を示す概略説明図である。
【図2】
図2は、本発明の分子放出装置において分子が電極に電気的に吸引された状態の一例を示す概略説明図である。
【図3】
図3は、図2に示す分子が電気的な反発力により電極から放出された状態の一例を示す概略説明図である。
【図4】
図4A、図4B及び図4Cは、電極から分子を放出し細胞内に該分子を移入させるプロセスの一例を説明するための概略説明図である。
【図5】
図5は、電極への印加電圧とDNA分子(電極との相互作用が弱いもの)の放出との関係の一例を示す概略説明図である。
【図6】
図6は、電極への印加電圧とDNA分子(電極との相互作用が弱いものを除く)の放出との関係の一例を示す概略説明図である。
【図7】
図7は、電極への印加電圧と、DNA分子とタンパク質との複合体の放出との関係の一例を示す概略説明図である。
【図8】
図8は、針状電極を多数整列させた剣山状電極基板の一例を示す概略説明図である。
【図9】
図9は、正常ヒト樹状細胞を単層培養した状態の一例を示す概略説明図である。
【図10】
図10は、細胞に針状電極を1本穿刺した状態の一例を示す概略説明図である。
【図11】
図11は、図10に示す細胞内へDNA分子を移入させた状態の一例を示す拡大概略説明図である。
【図12】
図12は、細胞に針状電極を2本穿刺した状態の一例を示す概略説明図である。
【図13】
図13は、図12に示す細胞内へDNA分子を移入させた状態の一例を示す拡大概略説明図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA等の各種有用分子を効率的に、細胞等の対象への放出乃至移入可能であり、遺伝子治療等に応用することができ、安全な分子放出装置及び分子放出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療は、画期的な治療法であるにも拘らず、関与する遺伝子が明らかにされている疾病が少ないこと、安全で効率的な遺伝子導入法が確立されていないこと等の理由から、致死性の単一遺伝子病(例えば、重症複合型免疫不全症、家族性高コレステロール血症など)、癌、エイズ(後天性免疫不全症候群)などにその適用が限られてきた。1995年のNIH(National Institutes of Health)のVarmusらによる報告では、これまでに実施された遺伝子治療において導入した遺伝子が原因で疾病が治癒したケースは皆無であるとされた。しかし、ヒトゲノム計画により2003年4月に人間の全遺伝子情報が明らかになったこともあり、今後、機能ゲノム科学や構造ゲノム科学の進展により、解読されたヒトゲノム配列のどの部分がどのような機能発現に関係しているのかが明らかにされていけば、前記遺伝子治療は、従来はその範疇とされていなかった生活習慣病(例えば、糖尿病など)などにも適用可能となり、各種疾病の治療にも適用されていくものと予想される。
前記遺伝子治療においては、遺伝子導入が必須となるが、安全で効率の良い遺伝子導入法は、現在までのところ確立されていない。実際、1999年9月には、アメリカのペンシルベニア大学で遺伝子治療を受けた18歳の青年が4日後に遺伝子導入に使われたアデノウイルスベクターの規定量以上の投与が原因で、死亡したことが報告された。このような状況に鑑みて、安全かつ効率の良い、非ウイルスベクターによる遺伝子導入法の確立が強く要請されている。
前記非ウイルスベクターによる遺伝子導入法としては、例えば、小胞リポソーム法、遺伝子銃法、マイクロインジェクション法などが知られている。
これらの方法の中でも、前記小胞リポソーム法は、抗原性が低く(免疫が生じにくく)、導入可能な遺伝子サイズが大きく、導入効率がよい等の点で非ウイルスベクターとして用いられてきている。しかし、この方法の場合、注入された遺伝子がゲノム内に取り込まれず、発現が一過性であり、特に非分裂細胞では発現性が低いという問題がある。
前記遺伝子銃法は、遺伝子を細胞内にあたかも銃で打ち込むようにして物理的にかつ強制的に導入させる技術である(特許文献1及び2参照)。しかし、この場合、遺伝子又は微粒子を銃のようにして細胞に打ち込むため、該細胞が損傷し、安全性が十分ではなく、またエネルギーコストがかかるという問題がある。一方、チオール基を介してDNAを金電極に結合させ、該金電極に負電位を印加することにより、該DNAを基板から放出させることが開示されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、この場合、DNAを放出させるためには、該チオール基を分解させるだめの大きなエネルギーが必要であり、コスト面、安全面等に問題がある。
前記マイクロインジェクション法は、遺伝子を細胞に導入する最も確実な方法として考えられている。しかし、この方法の場合、細胞のサイズと比較して太い中空針を用いて細胞にDNA溶液を直接注入しているため、細胞に与える傷害は大きく、しかも、細胞の固定が必要で、脆弱な細胞膜を持つ体細胞の固定化は現状では不可能であり、注入された遺伝子がゲノム内に取り込まれず、発現が一過性であるという問題がある。
最近、組換えウイルスが細胞に感染して核に入ってゲノムに組み込まれる直前に形成される複合体(recombinant Pre−Integration Complex;rPIC)を予め作製しておき、該複合体を標的細胞にマイクロマニュピュレーター等により導入する組み換えプレインテグレーション複合法(rPIC法)によると、前記標的細胞の種に依存せずに遺伝子を該標的細胞のゲノム中へ取り込み可能であり、かつ発現が持続的に行われることが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。しかし、この場合、非ウイルスベクターによる方法とはいえず安全性の点で不安があり、また、前記複合体(rPIC)を作製するのに手間、コスト等を要するという問題がある。
したがって、前記遺伝子治療法においては、所望の箇所に所望のタイミングで効率よくかつ低コストで安全に遺伝子等の分子を標的細胞に導入可能な技術は未だ提供されていないのが現状である。
【0003】
【特許文献1】
特開平5−68575号公報
【特許文献2】
特開2000−125841号公報
【非特許文献1】
J.Wang et al.,Langmuir,15,6541−6545(1999)
【非特許文献2】
宝ホールディングス株式会社、「組み換えプレインテグレーション複合法(rPIC法)を開発」[on line] 2001年12月11日 [2003年4月21日検索]、インターネット<URL:http://www.takara.co.jp/news/2001/10-12/01-I-037.htm>
【0004】
本発明は、従来における問題を解決し、DNA等の各種有用分子を効率的に、細胞等の対象を損傷させることなく、これらへの放出乃至移入可能であり、遺伝子治療等に応用することができ、安全な分子放出装置及び分子放出方法を提供することを目的とする。
【発明の開示】
【0005】
本発明の分子放出装置は、電位が印加された導電性部材に電気的に相互作用している分子を、該電位を変化させることによりその相互作用を解いて該導電性部材から放出させる分子放出手段を有することを特徴とする。該分子放出装置においては、前記分子放出手段により、電位が印加された導電性部材に電気的に相互作用している分子が、該電位が変化されてその相互作用が解かれ、該導電性部材から放出される。このとき、該導電性部材の近傍に、前記分子を移入させる対象を配置させておくと、放出された前記分子が該対象としての細胞等内に移入される。
本発明の分子放出方法は、2以上の導電性部材に電気的に吸引されている分子を、電気的な反発力により、異なるタイミングで該導電性部材から放出させることを特徴とする。該分子放出方法においては、前記2以上の導電性部材に対し、異なるタイミングで電位を変化(電圧を印加)させることにより、前記分子が、電気的な反発力により、異なるタイミングで放出され、細胞等の対象内に移入される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
(分子放出装置)
本発明の分子放出装置は、分子放出手段を有してなり、更に必要に応じて適宜選択したモニタリング手段等のその他の手段を有してなる。
前記分子放出手段は、電位が印加された導電性部材に電気的に相互作用している分子を、該電位を変化させることによりその相互作用を解いて該導電性部材から放出させる機能を有する。
【0007】
前記導電性部材としては、導電性を示すものであれば特に制限はなく、例えば、電極が好適に挙げられ、その形状、構造、大きさ、表面性状、数、材質などについて目的に応じて適宜選択することができる。なお、以下、該電極を分子放出電極と称することがある。
前記形状としては、例えば、板状、針状、棒状、球状、などが挙げられる。これらの形状は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、遺伝子治療等において、前記分子を直接、該分子を移入させる対象である細胞等内に放出乃至移入させる場合には、針状(針状電極)が好ましい。
前記構造としては、例えば、単独の部材で形成されていてもよいし、2以上の部材で形成されていてもよい。前者の場合には、前記部材が導電性であることが必要である。後者の場合には、少なくとも一つの部材が導電性であればよく、例えば、基体上に前記材料による層(導電層)が設けられた構造、などが挙げられる。なお、前記基体としては、特に制限はなく、その構造、大きさ等について適宜選択することができ、その形状としては、板状、針状、棒状、球状などが挙げられ、その材質としては導電性、絶縁性等が好ましく、該絶縁性の材質としては、例えば、石英ガラス、シリコン、酸化ケイ素等が挙げられる。
前記大きさとしては、例えば、前記分子放出装置をチップ化する場合には、幅乃至径が、500μm以下程度であり、300μm以下が好ましく、微細なチップとする場合には100μm以下が好ましい。なお、前記電極が針状電極である場合、遺伝子治療等の用途を考慮すると、その直径が0.2μm以下でありかつ長さが3μm以上であるのが好ましい。
【0008】
前記数としては、例えば、1つであってもよいし、2以上であってもよい。前記分子の放出効率等の観点からは2以上であるのが好ましい。
前記数が2以上である場合、前記電極の材質、形状、構造、大きさ、表面性状等は、それぞれ互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
前記2以上の前記電極の配置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、任意に配置してもよいし、整列配置してもよい。後者の場合、各電極の間隔を一定にすることができる。
前記2以上の前記電極の間隔としては、例えば、平板(プレート)に単層培養した際の細胞の大きさ(約10μm)等、前記分子を移入させる対象である細胞等の間隔等に応じて適宜選択することができ、前記平板に単層培養した細胞に前記分子を移入(導入)させる場合には、1〜5μm程度が好ましい。
前記2以上の前記電極の制御(電位の変化、電圧の印加)は、それぞれ互いに同じタイミングで行ってもよいし、異なるタイミングで行ってもよい。
前記2以上の前記電極には、前記分子としてそれぞれ同一のものが保持されていてもよいし、異なるものが保持されていてもよい。後者の場合、前記分子としての遺伝子等の複数種を、該分子を移入させる対象である前記細胞等内に効率的に放出乃至移入させることができる。
【0009】
前記2以上の前記電極が前記針状電極である場合、該2以上の針状電極は、基体上に立設等させておくのが好ましい。
この場合、前記基体として平板を選択すれば、剣山状電極基板とすることができる。該剣山状電極基板を用いると、例えば、遺伝子治療等において、前記分子を移入させる対象として、平板(プレート)に単層培養した細胞等内に、前記分子を効率的に放出乃至移入(導入)させることができる。また、前記基体としてファイーバースコープを選択し、該ファイバースコープの尖端に前記針状電極を設ければ、該ファイーバースコープの除きながら前記針状電極を生体内の目的部位(例えば、癌細胞、疾患臓器等)にまで移動させ、そこで穿刺することができ、遺伝子治療等に好適である点で有利である。
【0010】
前記材質としては、例えば、金属、導電性樹脂、導電性カーボン、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよく、後者の場合、例えば、前記導電性樹脂や前記導電性カーボン上に前記金属を被覆等してもよい。
前記金属としては、例えば、金、白金、銀、銅、亜鉛等の金属、これらの合金、などが挙げられる。
前記導電性樹脂としては、例えば、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリp−フェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアニリン、などが挙げられる。
前記導電性カーボンとしては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンなどが挙げられる。なお、前記カーボンナノチューブとしては、例えば、単層カーボンナノチューブ(SWNT)、多層カーボンナノチューブ(MWNT)などが挙げられ、前記単層カーボンナノチューブの具体例としては、アームチェアー型カーボンナノチューブ、ジグザグ型カーボンナノチューブ、カイラル型カーボンナノチューブなどが挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記電極を針状電極とする場合には、ナノピラー構造の金属、針状の導電性プラスチック及びカーボンナノチューブから選択される少なくとも1種が好ましい。なお、前記ナノピラー構造とは、ナノメーターオーダーの大きさからなる小柱が複数突設された構造を意味する。該ナノピラー構造の金属は、前記金属に対してエッチングを行って形成することができる。
前記導電性部材において前記分子が相互作用により保持される部位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、該導電性部材が、前記板状電極である場合にはその板面などが、前記針状電極である場合には少なくともその尖端部などが好適に挙げられる。なお、該導電性部材が前記針状電極の場合、前記分子を該針状電極の尖端部に電気的に吸引し保持させておき、前記分子を移入させる対象である細胞等内に該針状電極を穿刺した状態で該分子を該針状電極から放出させると、該分子を該細胞等内に効率的に放出乃至移入(導入)させることができる点で有利である。
前記導電性部材の配置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、該分子の前記対象内への放出乃至移入の効率の点で、例えば、前記分子を移入させる対象の近傍に配置するのが好ましく、前記導電性部材が前記針状電極である場合には、前記分子を移入させる対象に穿刺して配置するのが好ましい。なお、前記分子が前記導電性部材に電気的に吸引されており、該分子を前記導電性部材から電気的な反発力により放出させる場合、該導電性部材は、導電性媒体中に配置されるのが好ましい。該導電性媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液体、固体、これらの混合、などのいずれであってもよく、前記液体としては、例えば、水、イオン溶液、電解質を含有する溶液、などが挙げられ、また、遺伝子治療等の観点からは、前記細胞が好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0011】
前記分子を移入させる対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、細胞、マイクロカプセル、などが好適に挙げられる。なお、前記細胞としては、特に制限はなく、動物細胞、植物細胞、微生物、などが挙げられる。これらの中でも、該細胞を平板(プレート)上に単層培養させることでき、前記分子の移入が効率的かつ容易である点で、ヒト等の動物細胞が好ましい。また、前記対象が細胞でありかつ前記分子が遺伝子である場合には、該遺伝子の移入効率の点で、該細胞を表面処理しておくのが好ましい。該表面処理としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の方法の中から適宜選択することができるが、例えば、リン酸カルシウム処理、などが挙げられる。
【0012】
前記分子放出手段は、第二の電極を有していてもよい。該第二の電極を設けておくと、前記導電性部材(電極)と共に該第二の電極が一対の電極を構成し、前記導電性部材(電極)と共に電気回路を形成し、電流の収支を図ることができ、該第二の電極と前記導電性部材(電極)との間の電位を適宜変化(電圧を印加)させることにより、前記分子を該導電性部材(電極)から電気的に放出させたり、吸引させたりすることができる。例えば、前記導電性部材(電極)に正電位が印加されており、該導電性部材(電極)に前記分子が電気的相互作用により吸引されている場合には、該導電性部材(電極)に負電位を印加させ、該電位を変化(電圧を印加)させると、前記分子を電気的な反発力により該導電性部材(電極)から放出させることができる。
前記第二の電極としては、その形状、構造、大きさ、材質等については特に制限はなく、目的に応じて公知の電極の中から適宜選択することができ、例えば、前記導電性部材として説明したものが挙げられ、これらの中でも、前記形状が針状である針状電極が好ましい。
前記第二の電極の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常、前記導電性部材(電極)の数と同数以下であり、可能な限り少ない方が好ましく、例えば、前記導電性部材(電極)が前記基体上に立設され、該基体が2以上ある場合には、各基体当たり1であるのが好ましい。この場合、各基体における前記導電性部材(電極)と該第二の電極とは互いに対向して配置されるのが好ましく、また、このとき、前記第二の電極を前記基体上に立設させてもよく、該第二の電極を前記導電性部材(電極)が囲むようにして該第二の電極を該基体の中央に配置させてもよいし、あるいは、該第二の電極が等間隔に配列した列と、前記導電性部材が等間隔に配列した列とを交互に整列配置させてもよい。
【0013】
前記分子放出手段は、前記第二の電極のほかに、第三の電極を有していてもよい。この場合、いわゆる三電極法による制御となり、該第三の電極を用いない二電極法に比べ、前記導電性部材(放出電極)及び前記第二の電極の間における電位(基準電位)を容易に制御することができる点で有利である。該第三の電極は、例えば、前記基準電位を測定乃至観測するための電極として使用することができる。
前記第三の電極としては、その形状、構造、大きさ、材質等については特に制限はなく、目的に応じて公知の電極の中から適宜選択することができ、例えば、前記導電性部材として説明したものが挙げられる。
前記第三の電極の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、一般的には少ない方が好ましく、例えば、前記導電性部材(電極)が前記基体上に立設され、該基体が2以上ある場合には、各基体当たり1であるのが好ましい。この場合、各基体における前記導電性部材(電極)と該第三の電極とは互いに対向して配置されるのが好ましく、前記第三の電極を前記基体上に立設させてもよく、該第三の電極を該基体の中央に配置させてもよい。
前記分子放出手段は電源を有していてもよい。該電源を前記導電性部材(電極)及び前記第二の電極に接続しておくと、該導電性部材(電極)及び該第二の電極と共に電気回路を形成し、電場を形成することができ、該導電性部材(電極)の電位を任意に変化(電圧を印加)等させることができる。なお、前記電場としては、特に制限はなく、直流電場であってもよいし、交流電場であってもよい。
【0014】
前記分子としては、前記導電性部材と電気的な相互作用可能な領域を少なくとも含む限り、その形状等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。なお、該形状としては、例えば、線状、粒状、板状、これらの2以上の組合せ、など挙げられ、これらの中でも、線状などが好ましい。
前記電気的な相互作用可能な領域としては、例えば、電気的極性を有する領域などが好適に挙げられる。
前記領域の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、線状、粒状、板状、これらの2以上の組合せ、など挙げられるが、これらの中でも、線状などが好ましい。
前記領域の大きさとしては、特に制限はなく、前記相互作用の強さ等に応じて適宜選択することができるが、前記分子を前記導電性部材に対し、確実に保持し、効率よく放出させる観点からは、大きい方が好ましく、前記分子の全領域であってもよい。
前記領域としては、その数が前記分子1つ当たり、1つであってもよいし、2以上であってもよい。後者の場合、各領域における、前記導電性部材との電気的な相互作用力(例えば結合力)が、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
前記領域において、更にその一部に前記導電性部材との電気的な相互作用力(例えば結合力など)が異なる部位が存在していてもよい。例えば、前記領域が前記ポリヌクレオチドである場合には、該ポリヌクレオチドの3’末端に(CH2)3SS(CH2)3OHなどの基を導入することができ、この場合、該基のSS部分は、他の部分よりも前記導電性部材(例えば金属電極など)に強固に結合する。このように、一部に前記導電性部材との電気的な相互作用力が強い部位が存在する分子の場合、前記導電性部材に低い電圧を印加しただけでは(該導電性部材に印加する電位の変化が小さいと)放出されなくなる。その結果、前記導電性部材から低電圧で(前記電位の変化が小さくても)放出可能な前記分子(前記基が導入されていない分子)と、前記導電性部材から高電圧でないと(前記電位の変化が大きくないと)放出不能な前記分子(前記気が導入された分子)とを形成することができる。このとき、前者を利用すると、低コストで前記分子を前記導電性部材(電極)から放出可能であり、また、後者を利用すると、環境条件の変動等の影響を受けることなく、前記分子を前記導電性部材から放出可能である。
前記分子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記導電性部材と電気的な相互作用(結合等)が可能である点でイオン性ポリマーなどが好適に挙げられ、これらの中でも、病気の治療等への応用等の観点からは生体分子がより好ましい。
前記イオン性ポリマーとしては、正イオンポリマー及び負イオンポリマーから選択されるのが好ましい。
前記正イオンポリマー(正に帯電したイオンポリマー)としては、例えば、グアニジンDNA、ポリアミンなどが好適に挙げられる。
前記負イオンポリマー(負に帯電したイオンポリマー)としては、例えば、ポリヌクレオチド、ポリリン酸などが好適に挙げられる。これらは、負電荷が分子中に一定間隔で存在する点で前記導電性部材との相互作用(結合等)を制御し易い点で好ましく、遺伝子治療等への応用等を考慮すると、ポリヌクレオチドが特に好ましい。
前記ポリヌクレオチドとしては、例えば、遺伝子、遺伝子複合体(遺伝子とタンパク質との複合体)などが挙げられる。なお、
前記遺伝子としては、例えば、癌関連遺伝子、遺伝病に関連する遺伝子、ウイルス遺伝子、細菌遺伝子、及び病気のリスクファクターと呼ばれる多型性を示す遺伝子、などが挙げられる。
前記癌関連遺伝子としては、例えば、k−ras遺伝子、N−ras遺伝子、p53遺伝子(肺癌、食道癌、肝癌)、BRCA1遺伝子、BRCA2遺伝子、src遺伝子、ros遺伝子、GM−CSF遺伝子(腎臓癌、前立腺癌)、チミジンキナーゼ遺伝子(前立腺癌)、抗癌剤耐性遺伝子MDR1(乳癌)、APC遺伝子などが挙げられる。
前記遺伝病に関連する遺伝子としては、例えば、各種先天性代謝異常症、例えばフェニールケトン尿症、アルカプトン尿症、シスチン尿症、ハンチントン舞踏病、Down症候群、Duchenne型筋ジストロフィー、血友病、重症複合型免疫不全症、家族性高コレステロール血症、などが挙げられる。
前記ウイルス遺伝子及び前記細菌遺伝子としては、例えば、C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、HIVウイルス、マイコプラズマ、リケッチア、レンサ球菌、サルモネラ菌、などが挙げられる。
前記多型性を示す遺伝子としては、病気等の原因とは必ずしも直接は関係のない個体によって異なる塩基配列を持つ遺伝子、例えば、PS1(プリセリニン1)遺伝子、PS2(プリセリニン2)遺伝子、APP(ベーターアミロイドプレカーサー蛋白質)遺伝子、リポプロテイン遺伝子、HLA(Human Leukocyte Antigen)、血液型に関する遺伝子、高血圧、糖尿病等の発症に関係するとされている遺伝子、などが挙げられる。
前記遺伝子複合体としては、例えば、組換えウイルスが細胞に感染して核に入ってゲノムに組み込まれる直前に形成されるインテグラーゼのような酵素などのタンパク質との複合体(recombinant Pre−Integration Complex;rPIC)、などが挙げられる。前記DNA及びRNAは、一本鎖であってもよいし、二本鎖であってもよい。
前記ポリヌクレオチドを作製する方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から目的に応じて適宜選定することができ、例えば、DNAシンセサイザー(DNA自動合成機)を用いる方法、あるいは、予め作成しておいたオリゴヌクレオチド配列に対し、モノマーブロックを並べてアニーリングし、DNAライゲース又はRNAライゲースを作用させて結合させる方法、などが挙げられる。
前記ポリヌクレオチドの場合、その長さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、最も短くても効果が期待できるアンチセンス法ですら二本鎖の安定性の点で、少なくとも6塩基であるのが好ましい。一般に、該ポリヌクレオチドの長さが短い程、前記導電性部材から放出させるのに必要なピーク電圧が低くなる(電位の変化量が小さくて足りる)。
前記分子の使用する種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1種であってもよいし、2種以上であってもよく、後者の場合、該分子を移入させる対象である細胞等内に複数種の該分子を放出乃至移入させることが可能である。
前記分子は、前記導電性部材から放出されたことの判別を容易にする観点から、標識を有していてもよい。
前記標識としては、例えば、放射性同位元素、化学発光物質、蛍光物質、酵素、抗体、その他が挙げられる。
前記放射性同位元素としては、例えば、32P、33P、35S、等が挙げられる。
前記化学発光物質としては、例えば、アクリジニウムエステル、ルミノール、イソルミノール又はこれらの誘導体、等が挙げられる。
前記蛍光物質としては、例えば、フルオレセイン系列、ローダミン系列、エオシン系列、NBD系列等の蛍光色素、緑色蛍光蛋白質(GFP)、ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、サマリウム(Sm)等の希土類キレート、テトラメチルローダミン、テキサスレッド、4−メチルウンベリフェロン、7−アミノ−4−メチルクマリン、Cy3、Cy5、等が挙げられる。
前記酵素としては、例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、等が挙げられる。
前記その他としては、例えば、ビオチン、リガンド、特定の核酸、蛋白質、ハプテン、等が挙げられる。前記標識がビオチンである場合にはこれに特異的に結合するアビジン又はストレプトアビジンが、前記標識がハプテンである場合にはこれに特異的に結合する抗体が、前記標識がリガンドである場合にはレセプターが、前記標識が特定の核酸、蛋白質、ハプテン等である場合にはこれらと特異的に結合する核酸、核酸結合蛋白質、特定の蛋白質と親和性を有する蛋白質等が、それぞれ組合せ可能である。
【0015】
前記分子放出手段としては、電位が印加されている前記導電性部材と電気的に相互作用している前記分子を、該電位を変化させることによりその相互作用を解いて該導電性部材から放出させることができる限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
該分子放出手段によると、例えば、電位(例えば正電位)が印加され、前記分子を電気的に吸引し保持していた前記導電性部材に対し、印加されていた該電位(正電位)とは逆の電位(例えば負電位)を印加することにより、容易にかつ効率的に、該分子を電気的な反発力により該導電性部材から放出させることができる。具体的には、前記分子が前記ポリヌクレオチドである場合、該ポリヌクレオチドは負電荷に帯電した負イオンポリマーであるので、前記導電性部材としての金属電極等に正電位を印加しておくと、該ポリヌクレオチドは該金属電極に電気的相互作用(クーロン引力)により吸引され保持される。一方、該金属電極に負電位を印加すると、該金属電極と該ポリヌクレオチドとの間における電気的な反発力により該ポリヌクレオチドが該金属電極から放出される。したがって、前記導電性部材に印加する電位を適宜変化させるだけで,前記分子を前記導電性部材から任意のタイミングで自在に放出させることができる。
前記分子放出手段の具体例としては、前記導電性部材を一方の電極とし、前記第二の電極を該電極の対向電極とし、これらに電圧を印加可能な電源を組合せたもの、あるいは、更にこれらの電極間の電位を制御するための前記第三の電極を設けたもの、などが好適に挙げられる。
なお、前記分子放出手段において、前記導電性部材(電極)に印加する電圧(印加した電位の変化)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記分子を移入させる対象としての細胞を損傷乃至死滅させない程度が好ましく、例えば、−0.8Vが好ましい。
この電圧範囲は、公知のエレクトロトランスフェクション等の方法に比べて、前記細胞に負荷する電圧を十分に低く、該細胞に損傷を与えることがない点で有利である。この電圧範囲は、前記導電性部材と、これに対抗配置させた前記第二の電極とを、同一の対象(細胞)に穿刺させて配置する場合に、特に好適に採用することができる。
【0016】
本発明においては、前記分子放出手段が、複数の前記導電性部材から互いに異なる前記分子を異なるタイミングで放出(制御)可能であるのが好ましく、この場合、該複数の前記導電性部材を、例えば、前記分子を移入させる細胞の周辺に配置させておくと、該細胞の治療、分化等を行うことも可能である。また、前記分子放出手段が、複数の前記導電性部材の内の一部のみを作動させ、該一部からのみ前記分子が放出されるようにしてもよく、この場合、複数の前記導電性部材を、例えば、互いに隣接する細胞に穿刺させておき、これらの細胞の一部のみに前記分子を放出し移入させることにより、該分子による作用を調べることができ、また、該互いに隣接する細胞間の影響を調べることもできる。
これらは、複数の前記導電性部材を、パッシブマトリクス又はアクティブマトリクス上に配置させることにより行うことができ、複数の前記導電性部材をパッシブマトリクス又はアクティブマトリクス上に配置させた配線構造によると、所望の位置の前記導電性部材のみを任意のタイミングで制御することができる。
【0017】
本発明においては、前記その他の手段として、例えば、モニタリング手段、などを有していてもよい。該モニタリング手段によると、前記分子を移入させる対象である細胞等の状態を観察することができ、該細胞の治療、分化等を自動的にかつ安全に効率よく行うことができる。
【0018】
本発明の分子放出装置は、各種分野において好適に使用することができ、遺伝子治療の装置、遺伝子病の診断、遺伝子導入の装置、遺伝子導入による分析装置等として特に好適に使用することができる。
【0019】
(分子放出方法)
本発明の分子放出方法は、2以上の前記導電性部材に電気的に吸引されている分子を、電気的な反発力により、異なるタイミングで該導電性部材から放出させる分子放出工程を少なくとも含み、更に適宜選択したその他の工程等を含む。
本発明の分子放出方法は、本発明の前記分子放出装置において、前記導電性部材の数が2以上であり、該2以上の導電性部材を異なるタイミングで制御可能な態様に設計されたものを用いて好適に実施することができる。
前記分子放出工程は、前記2以上の導電性部材(電極)におけるそれぞれを独立に制御する、具体的には各導電性部材(電極)に印加された電位をそれぞれ独立に変化(例えば、印加されている電位と逆電位に変化)させる(電圧を印加させる)ことにより、行うことができる。該分子放出工程により、前記導電性部材に電気的に吸引していた前記分子が電気的な反発力により該導電性部材から放出される。そして、このとき、該導電性部材の近傍に前記分子を移入させる対象である細胞等を配置させておくと、あるいは、該導電性部材として前記針状電極を用いる場合には該針状電極を前記細胞等に穿刺しておくと、該細胞内に前記分子が効率的に放出乃至移入させることができる。
【0020】
本発明の分子放出方法は、各種分野において好適に使用することができ、遺伝子治療、遺伝子病の診断、遺伝子導入、遺伝子導入による細部観察、等に特に好適に使用することができる。
【0021】
ここで、本発明の分子放出装置における分子放出の原理について、図面を参照しながら説明する。図1A及び図1Bに示すように、本発明の分子放出装置の一例としては、前記分子としてのDNA分子10と電気的な相互作用によりこれを吸引し保持する前記導電性部材としての金属電極1を少なくとも備えてなる。なお、金属電極1における上方には前記第二の電極(図示せず)が設けられており、金属電極1と該第二の電極とは、電源(図示せず)に接続されており、導電性の液中に浸漬された状態で配置されている。金属電極1、前記第二の電極及び前記電源が、前記分子放出手段である。
前記分子放出手段としての前記電源を作動させておき、金属電極1に正電位を印加しておくと、図1A及び図2に示すように、負に帯電しているDNA分子10が、前記電源により正電位が印加され、正に帯電した金属電極1に電気的な相互作用(クーロン引力)により吸引され保持されている。一方、前記電源を作動させ、金属電極1に今まで印加していた正電位と逆の電位(負電位)を僅かに印加すると(電圧(−800mV)を僅かに印加すると)、図1B及び図3に示すように、負に帯電しているDNA分子10が、前記電源により負電位が印加され、負に帯電した金属電極1から、電気的な相互作用(クーロン反発力)により、放出される。
このとき、図4Aに示すように、金属電極1の近傍に、前記分子を移入させる対象として、予めDNA分子10が移入し易くなるように表面処理(リポソームを添加)をした細胞20を配置させておくと、図4Bに示すように、金属電極1から放出されたDNA分子10は、細胞20に接近し、図4Cに示すように、細胞20内にDNA分子10が移入される。この場合、電子銃、マイクロインジェクション法、エレクトロトランスフェクションなどを使用した場合と異なり、僅かな電圧を印加しただけで前記分子の細胞20内への移入を行うことができ、このため、細胞20に損傷を与えることがなく、前記対象である細胞内に所望のDNA分子等を所望のタイミングで移入(導入)させることができる。このため、本発明の分子放出装置は、安全性に優れ、遺伝子治療等に好適に応用可能である。
【0022】
次に、本発明の分子放出装置の他の例について、図面を参照しながら説明する。図8に示すように、本発明の分子放出装置の他の例としては、前記分子としてのDNA分子(図示せず)を電気的な相互作用により吸引し保持する前記導電性部材としての針状電極101と、第二の電極102とを、互いに対向するように一列おきに整列配置(配置間隔:5μm)された剣山状電極基板100を備えてなる。なお、針状電極101と第二の電極102とは、電源(図示せず)に接続されており、導電性の液中に浸漬された状態で配置されている。針状電極101、第二の電極102及び前記電源が、前記分子放出手段である。
前記分子放出手段としての前記電源を作動させておき、針状電極101に正電位を印加しておくと、負に帯電しているDNA分子が、前記電源により正電位が印加され、正に帯電した針状電極101に電気的な相互作用(クーロン引力)により吸引されて保持されている。
図9に示すように、前記分子を移入させる対象としての細胞201を平板(培養プレート)200上に単層培養し、集密状態の単層培養層を予め得ておいた。なお、該単層培養層における細胞間隔は10μm以上であり、計算上、細胞1個当たり少なくとも2本の針状電極を穿刺することができる。
図10及び図11に示すように、DNAが尖端部に電気的に吸引され保持された針状電極101と、第二の電極102とを互いに対向するように一列おきに整列配置した剣山状電極基板100の尖端を、前記単層培養層における細胞201に穿刺させる。この状態で、前記電源を作動させて針状電極101に今まで印加していた正電位と逆の電位(負電位)を僅かに印加する(電圧(−800mV)を僅かに印加する)。なお、該剣山状電極基板100における各針状電極101は、アクティブマトリクス(パッシブマトリクスも可)に電気的に制御可能に接続されているため、任意の箇所の針状電極101を所望のタイミングで所望の程度に電位を変化可能(電圧を印加可能)である。すると、負に帯電しているDNA分子が、電気的な相互作用(クーロン反発力)により、負に帯電した針状電極101から放出され、細胞201内に移入される。この場合、電子銃、マイクロインジェクション法、エレクトロトランスフェクションなどを使用した場合と異なり、僅かな電圧を印加しただけで前記分子の細胞201内への移入を行うことができ、このため、細胞201に損傷を与えることがなく、細胞201内に任意のタイミングで所望のDNA分子等を効率よく移入させることができる。
また、図12及び図13に示すように、1つの細胞201内に針状電極101と第二電極102とを計2本の穿刺し、これらの電極間に電圧を印加させてもよい。この場合、細胞201に大きな電位を負荷し過ぎないように(大きな電圧を印加しないように)、印加する前記電位を所望の範囲に制御し、該電位差(印加電圧)を制御することができ、細胞201が死滅等してしまうことを抑制することができる点で好ましい。
【0023】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
まず、3’末端に(CH2)3SS(CH2)3OHを導入した一本鎖ポリヌクレオチド(ここでは12塩基対)を合成した。これを前記分子とした。
図2に示すように、該分子を、ポリッシュした直径7mmの円形状の金属電極1(この実施例では金電極)と室温で24時間反応させた。そして、金属電極1と、これに対向配置させた前記第二の電極とを電解液中に配置させ、二つの電極間に直流電場を印加し、金属電極1(金電極)に正電位を印加した。すると、正に帯電した金属電極1(金電極)に、負に帯電している前記分子が電気的相互作用(クーロン引力)により吸引され保持された。この時、金属電極1(金電極)に電気的に吸引された前記分子の数は、J.Am.Chem.Soc.1999,121,10803−10821の文献の記載を参考に算出したところ、1.8×1010個であった。
そこで、次に、前記二つの電極間に直流電場を印加し、金属電極1(金電極)に負電位(パルスなどのモジュレーションをかけたもの)を印加した。すると、図3に示すように、クーロン反発力により金属電極1(金電極)から前記分子(金属電極1とssを介して強固に結合していないもの)が乖離し、放出された。
このとき、図5に示すように、DNA分子10(金属基板1との相互作用が弱いもの)は、比較的短時間で金属基板1から放出された(図5中横軸は時間(秒)を表す)。また、図6に示すように、DNA分子10(金属基板1との相互作用が弱いものを除いた)は、比較的長時間で金属基板1から放出された。また、図7に示すように、DNA分子とタンパク質との複合体は、比較的長時間で金属基板1から放出された。
【0024】
(実施例2)
図8に示すように、前記導電性部材及び前記第二の電極として、直径が0.2μmでありかつ長さが3μmであるカーボンナノチューブの表面を金で被覆したものを針状の金電極として用いた。前記導電性部材としての針状電極101と、第二の電極102とを互いに対向するように一列おきに整列配置(配置間隔:5μm)で10,000本、アクティブマトリクス状に電気配線が設けられた基板(500μm×500μm)上に各々電気的に制御可能に立設させて剣山状電極基板100を作製した。このため、剣山状電極基板100における任意の箇所の針状電極101及び第二の電極102は、所望のタイミングで所望の程度に電位を変化可能(電圧を印加可能)となっている。
一方、蛍光(Cy3)ラベルプライマーを用いてPCR法によりで蛍光(Cy3)ラベルされたDNA400量体(400塩基)を作製した。これを前記分子とした。
前記分子としての、該蛍光(Cy3)ラベルされたDNAと、前記導電性部材としての剣山状電極基板100とを室温で24時間反応させ、針状電極101(金電極)と、該針状電極101の隣に対向配置させた第二の電極102とを電解液中に配置させた状態で、針状電極101(金電極)と第二の電極102との間に直流電場を印加し、針状電極101(金電極)に正電位を印加した。すると、正に帯電した針状電極101(金電極)の尖端に、負に帯電している前記分子が電気的相互作用(クーロン引力)により吸引され保持された。
次に、前記分子を移入させる対象としての、市販の正常ヒト樹状細胞(タカラバイオ製)の細胞201をリンパ球増殖キット(タカラバイオ製)を用いて平板(培養プレート)200に単層培養し、培養液を除き、図9に示したような集密状態の単層培養層を作製した。
図10及び図11に示すように、DNAが尖端部に電気的に吸引され保持された針状電極101及び第二の電極102を一列おきに整列配置させた剣山状電極基板100の尖端を前記単層培養層における細胞201に、即ち前記単層培養層における各細胞201当たり、針状電極101及び第二の電極102の計2本を、穿刺させた。この状態で、前記電源を作動させて針状電極101に対し、前記第三の電極(Ag/AgCl)を基準として−0.8Vの電圧を30秒間印加した。なお、該剣山状電極基板100における各針状電極101は、アクティブマトリクスに電気的に制御可能に接続されているため、任意の箇所の針状電極101を所望のタイミングで所望の電圧を印加可能である。すると、負に帯電しているDNA分子が、電気的な相互作用(クーロン反発力)により、負に帯電した針状電極101から放出され、細胞201内に移入された。
その後、前記単層培養層から剣山状電極基板100における針状電極101を抜き取り、マイクロプレートリーダーを用い、200μm×200μm範囲における前記単層培養層について、Cy3由来の蛍光発色の有無を測定した。その結果、200μm×200μm範囲内の全細胞において前記蛍光発色が確認された。このことから、全細胞に前記分子を高効率で移入させることが確認された。
また、前記分子を移入させた前記単層培養層における一部の細胞を培養プレート200から剥がし取り、培養液を再注入して該単層培養層を培養した結果、剥がし採られた部分が、再び細胞層に覆われていた。このことから、前記分子を移入(導入)させた細胞には障害が生じていないことが確認された。
【0025】
ここで、本発明の好ましい態様について以下に示す。
(付記1) 電位が印加された導電性部材に電気的に相互作用している分子を、該電位を変化させることによりその相互作用を解いて該導電性部材から放出させる分子放出手段を有することを特徴とする分子放出装置。
(付記2) 分子放出手段が、電位が印加された導電性部材に電気的に相互作用している分子を、該電位と逆の電位を該導電性部材に印加することによりその相互作用を解いて該導電性部材から放出させる付記1に記載の分子放出装置。
(付記3) 導電性部材が、分子を移入させる対象の近傍に配置される付記1から2のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記4) 導電性部材が、分子を移入させる対象を穿刺して配置される付記1から2のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記5) 対象が、細胞及びマイクロカプセルから選択される付記3から4のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記6) 導電性部材がファイバースコープの先端に設けられた付記1から5のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記7) 導電性部材が電極である付記1から6のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記8) 導電性部材の数が2以上である付記1から7のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記9) 2以上の導電性部材がそれぞれ独立に作動が制御される付記8に記載の分子放出装置。
(付記10) 電極が針状電極である付記7から9のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記11) 針状電極が、直径が0.2μm以下でありかつ長さが3μm以上である付記10に記載の分子放出装置。
(付記12) 針状電極が、金属、導電性樹脂及び導電性カーボンから選択される少なくとも1種で形成された付記10から11のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記13) 針状電極の少なくとも尖端部に分子が電気的な相互作用により保持される付記10から12のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記14) 針状電極の数が2以上であり、該2以上の針状電極に同一の分子及び異なる分子のいずれかが電気的な相互作用により保持される付記10から13のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記15) 第二の電極を更に有する付記7から14のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記16) 第二の電極が針状であり、該第二の電極及び針状電極が同一の対象中に穿刺されて配置される付記15に記載の分子放出装置。
(付記17) 第三の電極を更に有する付記7から16のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記18) 分子放出手段が、分子を異なるタイミングで放出可能である付記1から17のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記19) 分子が線状である付記1から18のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記20) 分子が電気的極性を有する付記1から19のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記21) 分子がイオン性ポリマーから選択される付記1から20のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記22) イオン性ポリマーがポリヌクレオチド及びその複合体から選択される少なくとも1種である付記21に記載の分子放出装置。
(付記23) ポリヌクレオチドが少なくとも6塩基有してなる付記22に記載の分子放出装置。
(付記24) 対象の状態をモニターするモニタリング手段を更に有する付記3から23のいずれかに記載の分子放出装置。
(付記25) 2以上の導電性部材に電気的に吸引されている分子を、電気的な反発力により、異なるタイミングで該導電性部材から放出させることを特徴とする分子放出方法。
(付記26) 導電性部材が、細胞内に穿刺されて配置される針状電極である付記25に記載の分子放出方法。
【0026】
【産業上の利用可能性】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、DNA等の各種有用分子を効率的に、細胞等の対象を損傷させることなく、これらへの放出乃至移入可能であり、遺伝子治療等に応用することができ、安全な分子放出装置及び分子放出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】
図1A及び図1Bは、本発明の分子放出装置における分子が放出される原理の一例を示す概略説明図である。
【図2】
図2は、本発明の分子放出装置において分子が電極に電気的に吸引された状態の一例を示す概略説明図である。
【図3】
図3は、図2に示す分子が電気的な反発力により電極から放出された状態の一例を示す概略説明図である。
【図4】
図4A、図4B及び図4Cは、電極から分子を放出し細胞内に該分子を移入させるプロセスの一例を説明するための概略説明図である。
【図5】
図5は、電極への印加電圧とDNA分子(電極との相互作用が弱いもの)の放出との関係の一例を示す概略説明図である。
【図6】
図6は、電極への印加電圧とDNA分子(電極との相互作用が弱いものを除く)の放出との関係の一例を示す概略説明図である。
【図7】
図7は、電極への印加電圧と、DNA分子とタンパク質との複合体の放出との関係の一例を示す概略説明図である。
【図8】
図8は、針状電極を多数整列させた剣山状電極基板の一例を示す概略説明図である。
【図9】
図9は、正常ヒト樹状細胞を単層培養した状態の一例を示す概略説明図である。
【図10】
図10は、細胞に針状電極を1本穿刺した状態の一例を示す概略説明図である。
【図11】
図11は、図10に示す細胞内へDNA分子を移入させた状態の一例を示す拡大概略説明図である。
【図12】
図12は、細胞に針状電極を2本穿刺した状態の一例を示す概略説明図である。
【図13】
図13は、図12に示す細胞内へDNA分子を移入させた状態の一例を示す拡大概略説明図である。
Claims (26)
- 電位が印加された導電性部材に電気的に相互作用している分子を、該電位を変化させることによりその相互作用を解いて該導電性部材から放出させる分子放出手段を有することを特徴とする分子放出装置。
- 分子放出手段が、電位が印加された導電性部材に電気的に相互作用している分子を、該電位と逆の電位を該導電性部材に印加することによりその相互作用を解いて該導電性部材から放出させる請求の範囲第1項に記載の分子放出装置。
- 導電性部材が、分子を移入させる対象の近傍に配置される請求の範囲第1項から第2項のいずれかに記載の分子放出装置。
- 導電性部材が、分子を移入させる対象を穿刺して配置される請求の範囲第1項から第2項のいずれかに記載の分子放出装置。
- 対象が、細胞及びマイクロカプセルから選択される請求の範囲第3項から第4項のいずれかに記載の分子放出装置。
- 導電性部材がファイバースコープの先端に設けられた請求の範囲第1項から第5項のいずれかに記載の分子放出装置。
- 導電性部材が電極である請求の範囲第1項から第6項のいずれかに記載の分子放出装置。
- 導電性部材の数が2以上である請求の範囲第1項から第7項のいずれかに記載の分子放出装置。
- 2以上の導電性部材がそれぞれ独立に作動が制御される請求の範囲第8項に記載の分子放出装置。
- 電極が針状電極である請求の範囲第7項から第9項のいずれかに記載の分子放出装置。
- 針状電極が、直径が0.2μm以下でありかつ長さが3μm以上である請求の範囲第10項に記載の分子放出装置。
- 針状電極が、金属、導電性樹脂及び導電性カーボンから選択される少なくとも1種で形成された請求の範囲第10項から第11項のいずれかに記載の分子放出装置。
- 針状電極の少なくとも尖端部に分子が電気的な相互作用により保持される請求の範囲第10項から第12項のいずれかに記載の分子放出装置。
- 針状電極の数が2以上であり、該2以上の針状電極に同一の分子及び異なる分子のいずれかが電気的な相互作用により保持される請求の範囲第10項から第13項のいずれかに記載の分子放出装置。
- 第二の電極を更に有する請求の範囲第7項から第14項のいずれかに記載の分子放出装置。
- 第二の電極が針状であり、該第二の電極及び針状電極が同一の対象中に穿刺されて配置される請求の範囲第15項に記載の分子放出装置。
- 第三の電極を更に有する請求の範囲第7項から第16項のいずれかに記載の分子放出装置。
- 分子放出手段が、分子を異なるタイミングで放出可能である請求の範囲第1項から第17項のいずれかに記載の分子放出装置。
- 分子が線状である請求の範囲第1項から第18項のいずれかに記載の分子放出装置。
- 分子が電気的極性を有する請求の範囲第1項から第19項のいずれかに記載の分子放出装置。
- 分子がイオン性ポリマーから選択される請求の範囲第1項から第20項のいずれかに記載の分子放出装置。
- イオン性ポリマーがポリヌクレオチド及びその複合体から選択される少なくとも1種である請求の範囲第21項に記載の分子放出装置。
- ポリヌクレオチドが少なくとも6塩基有してなる請求の範囲第22項に記載の分子放出装置。
- 対象の状態をモニターするモニタリング手段を更に有する請求の範囲第3項から第23項のいずれかに記載の分子放出装置。
- 2以上の導電性部材に電気的に吸引されている分子を、電気的な反発力により、異なるタイミングで該導電性部材から放出させることを特徴とする分子放出方法。
- 導電性部材が、細胞内に穿刺されて配置される針状電極である請求の範囲第25項に記載の分子放出方法。
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