JPWO2003080822A1 - 胎盤由来の間葉系細胞およびその医学的用途 - Google Patents
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Abstract
本発明は、再生医療に有用な、ホ乳動物の胎盤から採取した間葉系細胞および前記間葉系細胞から分化誘導された細胞、ならびにそれら細胞を含有する医薬を提供する。
Description
技術分野
本発明は、胎盤由来の間葉系細胞およびその医学的用途に関する。
背景技術
近年、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)や胎児臓器幹細胞を用いて再生医療に役立てようとする研究が、数カ国で進められている。しかし、前記細胞を再生医療の細胞ソースとして用いることは多くの国で倫理的な問題を引き起こし、また供給量も限られているという欠点がある。さらに、これらの細胞の持つ幅広い分化誘導能は、移植後の腫瘍化も危惧させる。
我々は、種々の理由から再生医療の細胞ソースとして、胎盤由来の間葉系細胞に注目した。まず、臍帯血採取後の胎盤は現在医療廃棄物として廃棄されており、採取にあたりドナーおよび社会的に全く負担がないことが挙げられる。また、バンクに登録された臍帯血は主要組織適合抗原(MHC)や感染性などの詳細が把握されており、臍帯血採取後の胎盤を再生医療の細胞ソースとして用いることは、臍帯血造血幹細胞と共に、再生医療にとって高い利用価値がある可能性を秘めている。臍帯血には骨髄などの代わりとなりうる有力な造血幹細胞が存在しており、世界ではすでに2,000以上の臍帯血移植が行われている。また、バンクの臍帯血に対する質的管理能力も向上している。さらに、胎盤絨毛内部に間葉系細胞が存在することは古くより知られており、多くの報告がある。
間葉系幹細胞(MSCs)は、皮下脂肪または骨髄など全身の広範な組織に存在し、in vitroで骨、軟骨、脂肪などの結合織構成細胞に分化誘導可能なことが示されている。胎盤には、発生初期にはMSCsが存在するが、妊娠後期の胎盤の大部分を占める胎盤絨毛には、それから分化した筋線維芽細胞(デスミン(desmin)、ビメンチン(vimentin)やα−平滑筋アクチン(α smooth muscle actin)を大量に発現する)や大量の細胞外マトリックスが含まれる。胎盤は、しばしばMSCsから筋線維芽細胞への分化を研究する格好の材料とみなされている。
胎盤から間葉系幹細胞等の未分化細胞を採取もしくは単離し、その細胞を分化誘導させて損傷組織の再生等に応用しようとする試みは幾つか知られている。例えば、WO2002/64748号においては、胎盤から採取した幹細胞が組織への生着性が高く細胞投与治療に有用であることが開示されている。また、米国特許第5486359号公報においては、採取した間葉系幹細胞が特に骨形成や結合組織の再生に有用であることが開示されており、細胞ソースとして胎盤が記載されている。
一方、細胞の採取部位や採取方法に工夫を凝らすことによって、それぞれに特徴的な細胞が得られることも知られている。前者の例としては、WO2000/73421号に、トリプシン消化法を利用して胎盤の羊膜部分から羊膜上皮細胞が単離できることが開示されており、この細胞の多能性に基づいて種々の遺伝子治療や組織再生に応用できることが記載されている。また、後者の例としては、WO2002/46373号、WO2002/63962号およびWO2002/64755号に、臍帯の動静脈を利用して培養液を胎盤に灌流させると、この液流によって引き剥がされてくる胚性幹細胞(Embryonic−like stem cell)が単離できることが開示されており、特にこの方法が胚性幹細胞(Embryonic−like stem cell)の採取に適しており、損傷組織への細胞注入治療等に有用であることが記載されている。
しかしながら、これらの技術は、いずれも採取される細胞が多能性であって、あらゆる細胞や組織に分化し得ることが記載されている。つまり、これらの細胞は分化の程度がかなり初期段階にあるため、細胞が有する広い分化誘導能による移植後の腫瘍化という可能性を否定できない。このことは、前述のヒト胚性幹細胞(ES細胞)と同様である。
さらにまた、培養によって完全に分化した細胞を作製する場合、細胞が多分化能を有していると多種類の細胞を作製することができるが、目的の機能細胞が100%になるように誘導・分化させることは一般に困難である。つまり、ある程度分化能が限られている細胞の方が、目的とする機能細胞を作製するためには望ましいといえる。
このように、胎盤の有効利用という観点から細胞ソースを胎盤に求めた技術はすでに知られてはいるものの、採取された細胞は必ずしも満足できるものではなく、採取すべき細胞の特徴については未だ十分に精査されていないのが現状であった。
発明の開示
本発明は、胎盤由来の間葉系細胞を単離・同定し、そのin vitroでの細胞学的性状を解析して、胎盤由来の間葉系細胞を再生医療へ応用することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく、娩出後のヒト胎盤から間葉系細胞を単離・培養し、in vitroでの細胞学的性状を解析した。その結果、RT−PCRによる解析で、これら胎盤由来間葉系細胞は種々の分化誘導因子に対するレセプターのmRNAを構成的に発現していることを知見した。また、分化関連マーカー分子であるレニン(renin)、ケラチン(keratin)、cACTのmRNAも構成的に発現していることも知見した。さらに、間葉系細胞はin vitroで骨芽細胞および神経系の細胞に分化誘導可能であった。より詳細には、間葉系細胞は、in vitroにおいて、神経幹細胞、ニューロン、ドーパミン作動性ニューロンまたは神経膠星状細胞などに分化しえる神経系前駆細胞に分化誘導可能であった。
また、本発明者らは、ひとつの胎盤から胎児側由来の間葉系細胞と、母体側由来の間葉系細胞とを別々に取り分ける方法を見出した。
以上のことから、ヒト胎盤中には種々の分化誘導因子に反応する間葉系細胞が存在し、臍帯血と同様に再生医療に利用できる細胞ソースとして有用であるという思いがけない知見を得て、以って本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1) ホ乳動物の胎盤から採取した間葉系細胞、
(2) 培地に接触させた際に、胎盤組織から遊走する能力を有する前記(1)に記載の間葉系細胞、
(3) 胎盤から、消化酵素処理、消化酵素処理−FACSソーティング(FACS sorting)法およびエクスプラント(explant)法から選ばれる何れかの方法によって採取された前記(1)に記載の間葉系細胞、
(4) 軟骨細胞および/または脂肪細胞には分化しない前記(1)に記載の間葉系細胞、
(5) 神経系前駆細胞および/または骨前駆細胞には分化し得る前記(4)に記載の間葉系細胞、
(6) ヒトの胎盤由来である前記(1)〜(5)の何れかに記載の間葉系細胞、
(7) オステオカルシン(osteocalcin)、オステオポンチン(osteopontin)、アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase)、BMP4RII、c−MET、RAR、cACTおよびレニン(renin)から選ばれる6つ以上のmRNAを発現している前記(6)に記載の間葉系細胞、
(8) CD90(Thy−1)陽性である前記(1)〜(7)の何れかに記載の間葉系細胞、
(9) 母体由来の組織適合性抗原を有する前記(1)〜(8)の何れかに記載の間葉系細胞、
(10) 胎児由来の組織適合性抗原を有する前記(1)〜(8)の何れかに記載の間葉系細胞、
(11) 前記(9)に記載の間葉系細胞を含む凍結物、
(12) 前記(10)に記載の間葉系細胞を含む凍結物、
(13) 胎盤の母体側の組織片から、消化酵素処理またはエクスプラント(explant)法により、母体由来の前記(1)〜(8)の何れかに記載の間葉系細胞を採取する方法、
(14) 胎盤の胎児側の組織片から、消化酵素処理またはエクスプラント(explant)法により、胎児由来の前記(1)〜(8)の何れかに記載の間葉系細胞を採取する方法、
(15) 前記(1)〜(10)の何れかに記載の間葉系細胞から分化誘導された細胞、
(16) 分化誘導された細胞が骨芽細胞である前記(15)に記載の細胞、
(17) 分化誘導された細胞が神経系細胞である前記(15)に記載の細胞、
(18) 分化誘導された細胞がドーパミン作動性ニューロンである前記(17)に記載の細胞、
(19) 前記(1)〜(10)の何れかに記載の間葉系細胞および/または前記(15)もしくは(16)の何れかに記載の分化誘導された細胞を含有する医薬、
(20) 前記(1)〜(10)の何れかに記載の間葉系細胞および/または前記(15)もしくは(17)の何れかに記載の分化誘導された細胞を含有する医薬、
(21) 骨粗鬆症の予防治療薬または骨形成薬である前記(19)に記載の医薬、
(22) パーキンソン病の予防治療薬である前記(20)に記載の医薬、
(23) 組織または臓器障害の予防治療薬である前記(19)〜(22)の何れかに記載の医薬、
(24) 組織または臓器再生剤である前記(19)〜(22)の何れかに記載の医薬、
(25) MHCを明示している前記(19)〜(24)の何れかに記載の医薬、
(26) 前記(1)〜(10)の何れかに記載の間葉系細胞および/または前記(15)〜(18)の何れかに記載の分化誘導された細胞を移植する障害組織または臓器の再生方法、
に関する。
発明を実施するための最良の形態
本発明で用いるホ乳動物の胎盤は、出産後の母体から容易に得ることができる。ここで、「ホ乳動物」としては、特に限定されず、例えばヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウマまたはウシ等が挙げられる。なかでも、本発明においては、ヒトの胎盤を用いるのが好ましい。特に、臍帯血バンクで臍帯血分離採取したのち、インフォームドコンセントを得て入手したヒトの胎盤を用いるのがより好ましい。かかる胎盤を用いることにより、主要組織適合抗原(MHC)や感染性などの詳細が把握できるからである。
ホ乳動物の胎盤は胎児側および母体側から構成されている。胎児側は羊膜、絨毛膜、臍帯および絨毛から成り、母体側は脱落膜および絨毛間腔から成っている。本発明で用いるホ乳動物の胎盤としては、胎児側または母体側から採取される胎盤の一部を用いてもよい。なかでも、胎児側の絨毛および母体側の基底脱落膜を用いることが好ましい。胎盤の胎児側の組織片としては、母体接触表面近傍を含まない組織片が好ましく、より具体的には胎盤から臍帯および羊膜を取り除き、絨毛膜板下から母体側組織に向かって約5mmの深さ領域からなる組織がより好ましい。胎盤の母体側の組織片としては、母体接触表面近傍を含む組織片が好ましく、より具体的には胎盤の脱落膜側から胎児側に向かって約5mmの深さ領域からなる組織がより好ましい。ただし、上記組織片は、胎盤のサイズや形態に多少の個体差が存在するため、必ずしも上記深さ(約5mm)に限定されるものではない。また、上記組織片は約5mmの深さ領域すべてを含む必要はなく、表面部分(深さ0mmの部分)を含んでいてもよいし、表面部分を含まない、深さ0mmを超えて約5mm以下の部分の組織であってもよい。以下、本明細書中の「胎盤」という用語には、前記のような胎盤の一部も含まれる。
上記ホ乳動物の胎盤から採取される間葉系細胞としては、培地に接触させた際に胎盤組織から遊走する能力を有する細胞が好ましい。ここで、培地としては、液体培地が好ましく、なかでもダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(低グルコース)にウシ胎児血清(FBS)が含まれている培養液が特に好ましい。より具体的に、前記細胞としては、組織片を培養皿に貼り付け、例えばこの培養皿をクリーンベンチ内で一定時間(例えば30分程度)静置させるなどして組織片を培地に十分に接着させ、次いで、培養液を添加し、所定の条件下で培養した際に、組織片の周囲に伸展してくる細胞がより好ましい。培養液としては、例えば上述のDMEM(低グルコース)+10%FBS培養液を用いることができる。このときの培養条件は、約37℃、約5%CO2雰囲気下が好ましい。
また、上記ホ乳動物の胎盤から採取される間葉系細胞としては、CD90(Thy−1)陽性である細胞も好ましい態様として挙げられる。
さらに、本発明の間葉系細胞がヒトの胎盤由来の間葉系細胞である場合、分化誘導因子に対するレセプターであるBMP4RII、c−met、RARもしくはACTRIIBのmRNA、分化関連マーカー分子であるレニン(renin)、ケラチン(keratin)もしくはcACTのmRNA、または骨芽細胞関連物質であるオステオカルシン(osteocalcin)、オステオポンチン(osteopontin)もしくはアルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase)のmRNAのいずれかを発現していることが好ましい。これらmRNAの発現は、RT−PCRを用いた解析により容易に検出することができる。かかる間葉系細胞は、上記mRNAのうち、複数種、好ましくは4種程度以上、より好ましくは6種程度以上のmRNAを発現していることが好ましい。
本発明にかかる間葉系細胞は、当該分野の技術者に公知な技術を使用することにより、上記ホ乳動物の胎盤から容易に単離することができる。例えば、ホ乳動物の胎盤を、機械的処理、消化酵素を用いた処理およびキレート剤を用いた処理からなる群から選ばれる1以上の処理に付することにより、間葉系細胞を単離することができる。前記キレート剤は、隣接した細胞間の結合を弱め、組織を分散させて、目に見えるほどの細胞破損なしに個々の細胞を分離することができる。また、細胞同士の酵素的な分離は、組織を細かく切り刻み、みじん切りにされた組織を1の消化酵素を単独でまたは幾つかの消化酵素を組み合わせて処理することにより、達成することができる。このような処理を本発明では消化酵素処理という。前記消化酵素としては、例えばトリプシン、キモトリプシン、コラゲナーゼ、エラスターゼおよび/またはヒアルロニダーゼ、DNアーゼ、プロナーゼ等が挙げられるが、これに限定されない。また、ホ乳動物の胎盤の機械的破壊は、例えば、粉砕機、配合機、ふるい、ホモジナイザー、細胞圧縮機(pressure cell)または超音波処理機などを用いて行うことができる。
本発明において、ホ乳動物の胎盤から間葉系細胞を単離する方法としては、上記消化酵素処理のうち消化酵素としてトリプシンを用いるトリプシン処理法(T法)、消化酵素処理、とくにトリプシン処理とその後FACSソーティング(FACS sorting)による間葉系細胞の分離を組み合わせた方法(T/S法)、および胎盤切片からの成長(outgrowth)を利用した方法(エクスプラント(explant)法、E法)を用いることがより好ましい。かかる方法は当該技術分野で周知であり、本発明においてもそれに従えばよい。間葉系細胞の単離方法としては、後述する理由からE法が特に好ましい。
本発明者らは、胎盤由来の間葉系細胞を単離するにあたり、上記のT法、T/S法、E法という3つの異なる方法を用いた。本発明者らは、細切した胎盤をよく洗浄し、可及的に赤血球を取り除いているが、酵素処理中には再び胎盤切片から赤血球が漏出してくる。これは、胎盤絨毛の外側に付着している母体血や、絨毛内毛細血管腔に残存する臍帯血が酵素処理で放出されてくるためであろう。したがって、T法およびT/S法で得られた細胞は、胎盤自体を形成する細胞のほか、母体血・臍帯血由来の血液細胞が混在している可能性が高い。酵素処理10日後に細胞を染色してFACS解析すると、CD34とCD45で3つの細胞集団に分けられた。CD34−CD45+細胞は、臍帯血あるいは母体血由来の成熟血液細胞と考えられた。CD34+CD45dim細胞は、臍帯血由来の造血幹細胞もしくは血管内皮前駆細胞と考えられた。CD34−CD45−細胞は、CD31およびTIE−2を発現しておらず、その一部はSH2/SH3を発現していることから間葉系細胞とした。
CD34−CD45−SH2+細胞を選別(sorting)すると、均一な線維芽細胞様の形態とマーカーを発現した細胞が得られるが(T/S法)、選別(sorting)により分離しなくてもそのまましばらく培養を続けると、円形の形態を示す細胞は次第に減り、やがて均一な線維芽細胞様の形態とマーカーをもつ細胞になった(T法)。CD34±CD45+細胞を選別(sorting)すると、円形細胞の形態を示した。これらの多くはCD45およびCD3等の系統マーカー(lineage markers)を発現することから、成熟血液細胞、とくに接着性を示すことから臍帯血由来の血液細胞である(データは示さず)。E法では、均一な線維芽細胞様の形態とマーカーを発現した細胞集団が単離され、増殖も活発であったことから、再生医療に用いる場合は有効な方法といえる。E法で単離した細胞の増殖が速い理由として、トリプシンの影響や選別(sorting)による負荷が軽減していることが考えられる。
上述のように単離された間葉系細胞は、当該技術分野で知られている公知の方法で培養することができる。具体的には、ダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium:DMEM、低グルコース(low glucose)、Sigma)+10%FBSに懸濁し、培養を行うことが好ましい。
本発明は、上述の間葉系細胞から分化誘導された細胞も提供する。前記細胞としては、特に限定されないが、例えば、骨芽細胞、神経系細胞、軟骨芽細胞、肝細胞、膵細胞、血液細胞または脳細胞などが挙げられる。神経系細胞としては、神経系前駆細胞、前記神経系前駆細胞から分化する神経幹細胞、ニューロン(例えば、運動性ニューロンもしくはドーパミン作動性ニューロン)、神経膠星状細胞、希突起神経膠細胞またはシュワン細胞などが挙げられる。さらに、前記細胞としては、骨芽細胞などに分化する骨前駆細胞も挙げられる。なかでも、上述の間葉系細胞から分化誘導された細胞としては、骨芽細胞または神経系細胞などが好適な例として挙げられる。また、軟骨細胞または脂肪細胞には分化しない細胞も好適な例として挙げられ、なかでも軟骨細胞または脂肪細胞には分化しないが神経系前駆細胞または骨前駆細胞には分化し得る細胞がより好適な例として挙げられる。
上述の間葉系細胞から、前記のような所望の細胞に分化誘導する方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いてよい。例えば、公知の細胞分化誘導因子を用いて処理するという方法が挙げられる。前記細胞分化誘導因子としては、骨形成因子;神経栄養因子;腫瘍増殖因子(TGF)−βもしくはアクチビンなどのTGF−βスーパーファミリーに属する因子;塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)または酸性繊維芽細胞増殖因子(aFGF)などのFGFスーパーファミリーに属する因子;白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor:LIF、もしくはcholinergic differentiation factor:CDFと呼ぶこともある);シリアリー・ニューロトロフィック・ファクター(cilialy neurotrophic factor:CNTF)などのニューロポイエティック・サイトカイン・ファミリー(neuropoietic cytokine family)に属する因子;インターロイキン−1(IL−1、以下同様に略記する),IL−2,IL−3,IL−5,IL−6,IL−7,IL−9,IL−11,腫瘍壊死因子−α(TNF−α),インターフェロン−γ(INF−γ)など骨芽細胞や神経系細胞のように特定の組織において生体機能を維持する細胞が未分化な前駆体から分化する過程に特徴的な形質を誘導する因子が挙げられ、好ましくは骨形成因子または神経栄養因子が挙げられる。骨形成因子としては、骨形成および軟骨形成を促進させる蛋白質であるBMP−2,−4,−5,−6,−7,−8,−9,−10,−11,−12などのBMPファミリー、とりわけBMP−2,−4,−6,−7が挙げられる。BMPは上記に挙げた因子のそれぞれのホモ二量体または可能なすべての組み合わせによるヘテロ二量体であってもよい。神経栄養因子としては、神経成長因子(nerve growth factor:NGF)、脳由来神経栄養因子(brain−derived neurotrophic factor:BDNF)およびニューロトロフィン3(neurotrophin−3:NT−3)、グリア由来神経栄養因子(glia−derived neurotrophic factor:GDNF)、NT−4/5などが挙げられ、好ましくはNGFファミリーが挙げられる。
また、上述の間葉系細胞から所望の細胞を分化誘導する際に、公知の分化促進剤を用いてもよい。
より具体的には、ヒト胎盤由来の間葉系細胞から骨芽細胞または神経系細胞を分化誘導する方法としては、実施例に記載の方法が挙げられる。
1996年、MulliganらはHoechst33342で骨髄細胞を染色した後FACSで解析し、Hoechst dyeの2つの蛍光波長(Hoechst blueとHoechst red)で染まらない集団を見いだし、サイドポピュレーション(side population:SP)と呼んだ。SPには造血幹細胞が含まれたが、SPの出現するメカニズムは、それらが発現する多剤耐性遺伝子(multi drug resistance gene:MDR)などのある種のポンプにより色素が排出されることによる。興味深いことに、この様な性質は肝臓、腎臓、筋肉などの臓器幹細胞でも共通しており、抗体を用いないで臓器幹細胞を同定する方法に応用できる。胎盤由来間葉系細胞は、単離法の如何にかかわらずいずれも0.1%以下の低い頻度のサイドポピュレーション(side population:SP)しか含んでいなかった。これらSPの表面マーカーを解析するとSH3+CD34−CD45−で、血液細胞とは異なっていた。
最もよく研究されている骨髄細胞の場合、SPの一部は造血幹細胞・前駆細胞に属し、種々の血液細胞に分化する能力をもつことが知られている。発明者等が最初に単離した間葉系細胞は、それらのような種々の細胞に分化する可能性のあるいわゆる臓器幹細胞としての性質はもたず、すでにある方向に分化した細胞である可能性を示している。実際、各種結合織構成細胞への分化誘導を試みたが、脂肪細胞、軟骨芽細胞への誘導はできず、骨芽細胞への誘導のみ可能であった。RT−PCRでの解析で、これら胎盤由来間葉系細胞は、誘導前にすでにオステオカルシン(osteocalcin)、オステオポンチン(osteopontin)およびアルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase)などの骨芽細胞関連のmRNAを構成的に発現していた。以上のことから、発明者等が単離培養した胎盤由来間葉系細胞は間葉系幹細胞ではなく、骨芽細胞への分化傾向のある前駆細胞としての性質が強い。
しかし、胎盤から間葉系細胞を単離する際の条件および/または単離した間葉系細胞の培養する際の条件を変更すれば、神経組織や結合組織などの組織、または肝臓や腎臓などの臓器への分化傾向のある前駆細胞としての性質を有する間葉系細胞を得ることができる。
本発明者らが細胞を分離した胎盤絨毛組織は、母体血の混入の可能性があるが、母体血の細胞を長期間培養しても、発明者等が観察した間葉系細胞は増殖(expand)してこなかった。しかしながら、胎盤、とくに母体側には多くの子宮脱落膜が残存しており、これに含まれる間葉系細胞が単離した間葉系細胞に含まれる可能性がある。そのような場合、異なるドナーのHLAを持つ細胞のキメラとなり、再生医療に用いる場合、より多くの留意すべき点が出てくる。本発明者らは、T/S法で増やした間葉系細胞、母親および臍帯血の3つのサンプルからゲノムDNA(genomic DNA)を抽出し、10種のvariable number of tandem repeat(VNTR)遺伝子を解析して胎盤由来間葉系細胞のキメリズムアッセイ(chimerism assay)を行った。その結果、発明者等の確立した胎盤由来間葉系細胞における母体血の混入は、1%以下であった(データは示さず)。そのため、前述したような異なるドナーのHLAを持つ細胞のキメラが生じる可能性は低く、胎盤由来間葉系細胞は下記に例示するような再生医療に用いることができる。
本発明者らが試みた前記3種の単離方法で得られたすべての胎盤由来細胞において、RT−PCRを用いた解析で分化誘導因子に対するレセプター、すなわちBMP4RII、c−met、RAR、ACTRIIBのmRNAが構成的に発現していることが判明した。また、FACS解析の結果、これら間葉系細胞は細胞表面に間葉系細胞のマーカーの一つであるSH2を発現していたが、これはTGF−β1および3に対するレセプターであることが知られている。すなわち、胎盤由来間葉系細胞は骨芽細胞へ高頻度に分化誘導が可能なばかりでなく、多彩な分化誘導因子によりin vitroで様々な細胞種に分化誘導でき、再生医療の細胞ソースとして極めて有用である。
また、本発明者らは、ひとつの胎盤から胎児側由来の間葉系細胞と母体側由来の間葉系細胞とを効率よく取り分ける方法についても知見を得た。
間葉系細胞の取り分けについては、胎児側由来間葉系細胞の場合は、胎盤の胎児由来の組織片、好ましくは母体接触表面近傍を含まない組織片、より好ましくは臍帯および羊膜を除去した胎盤の絨毛膜板下から母体側組織に向かって約5mmの深さ領域から、ハサミ等の切除器具を用いて慎重に目的組織を切り出す。一方、母体側由来間葉系細胞の場合は、胎盤の母体由来の組織片、好ましくは母体接触表面近傍を含む組織片、より好ましくは胎盤の脱落膜側から胎児側に向かって約5mmの深さ領域から、前記同様に目的組織を切り出せばよい。
ひとつの胎盤からこのように取り分けた胎児側または母体側の組織片から目的細胞を得るにあたっては、既に述べたように消化酵素処理やエクスプラント(explant)法を利用することができる。例えば、消化酵素処理による場合は、さらに3〜5mm角に細切りした組織片を容器に移してトリプシン/EDTA溶液を添加後、スターラー等で攪拌すれば細胞懸濁液が得られるので、これから比重遠心等によって単核球フラクションを採ればよい。このあと必要に応じてさらに培養し、増殖させてもよい。一方、エクスプラント(explant)法による場合は、さらに3−5mm角に細切りした組織片を培養皿に貼り付け、この培養皿をクリーンベンチ内で30分間程度静置させ、組織片を培地に十分に接着させる。次いで、培養液を添加し、37℃、5%CO2雰囲気下で一定期間培養した際に、組織片の周囲に伸展してくる細胞を回収すればよい。培地としては、例えば、DMEM(低グルコース(low glucose))+10%FBS等の培地を用いることでできる。これらの単離方法においては、細胞に与える種々の影響を考慮すると、エクスプラント(explant)法を利用する方がより好ましい。
以上のようにして得られる胎児側由来の間葉系細胞は、胎児由来の組織適合性抗原を有している可能性がきわめて高い。一方、母体側由来の間葉系細胞は母体由来の組織適合性抗原を有している可能性がきわめて高い。しかし、いずれにおいても、使用に際しては適宜確認することが好ましい。
このように取り分け、回収した胎児側由来または母体側由来の間葉系細胞については、その培養物に保存剤、特に凍結保護剤を添加して凍結保存することで、長期間の安定保存が可能となる。細胞の凍結保護剤としては、細胞外凍結保護剤として知られるデキストラン、ヒドロキシエチルデンプン、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子や、細胞内凍結保護剤として知られるジメチルスルホキシド、グリセロール等の低分子有機化合物等を例示することができるが、これらに限定されることなく適宜選択すればよい。また、本発明に係る凍結物の製造の際には、凍結保護剤の他に、細胞膜保護剤や栄養成分なども必要に応じて添加することができる。
かかる組成物の凍結保存に際しては、マイナス80℃のディープフリーザーを用いる簡便法、あるいはプログラムフリーザーによって徐冷した後に液体窒素中に保存する方法などが挙げられる。
以上のようにして得られた細胞凍結物は、ひとつの胎盤に由来する胎児側由来間葉系細胞と母体側由来間葉系細胞とをそれぞれ別々に含むので、これにより、他人向けの公的細胞バンクのみならず、特に母親向けの私的細胞バンクや子供自身または家族向けの私的細胞バンクとして有用である。
本邦では高齢化が進むにつれ、骨粗鬆症患者が増加している。それに伴い、難治性の骨折患者も増加しているが、骨折部位への胎盤由来間葉系細胞、もしくはそれから誘導した骨芽細胞を局所に細胞移植することで、骨形成や治癒を促進できる。また、胎盤由来間葉系細胞は種々の分化誘導因子のレセプターを発現することから、これら分化誘導因子を用いて種々の実質臓器細胞をin vitroで誘導し、骨疾患以外の臓器・組織障害における再生医療に用いることができる。
また、高齢者の人口が増えるに従い、神経系の疾患患者の増加、とくに脳梗塞・脳出血やパーキンソン(Parkinson)症候群の患者の増加も問題である。近年、パーキンソン病患者の線状体にドーパミン産生細胞を移植する試みがなされているが、本発明にかかる胎盤由来の間葉系細胞は、上述したように神経系前駆細胞を経てドーパミン作動性ニューロンに分化できることから、パーキンソン病の治療および予防に有用である。また、将来的には脳梗塞・脳出血により傷害された運動ニューロン等の再生をめざす医療も行われるであろう。本発明にかかる胎盤由来の間葉系細胞は、これらの再生医療に有用である。その場合、臍帯血バンクを通じて得られるMHCの情報をもとに、MHCを一致させた細胞移植が可能となれば、同種移植に伴う拒絶反応を可及的に抑えることができ、いままでの臓器移植でみられたような激しい拒絶反応を軽減できる。
すなわち、本発明にかかるホ乳動物の胎盤から採取した間葉系細胞は医薬として応用することができる。具体的には、前記間葉系細胞を細胞または臓器再生剤として用いることが好ましい。この場合の「細胞」としては特に限定されないが、骨芽細胞、各種生理活性物質産生細胞、神経系細胞などが挙げられる。生理活性物質産生細胞としてはドーパミン産生細胞等が挙げられ、神経系細胞としては運動ニューロン等が挙げられるが、これらに限定されない。また、神経系細胞としては神経系前駆細胞;神経幹細胞;ニューロン、特にドーパミン作動性ニューロン;神経膠星状細胞;希突起神経膠細胞;またはシュワン細胞も挙げられる。なかでも、本発明にかかる間葉系細胞を骨芽細胞の再生剤として用いることが好ましい。また、本発明にかかる間葉系細胞をドーパミン作動性ニューロンの再生剤として用いることが好ましい。
また、本発明にかかるホ乳動物の胎盤から採取した間葉系細胞から分化誘導された細胞も医薬として応用することができる。例えば、本発明にかかる間葉系細胞を所望の組織や臓器に適合する細胞に分化誘導した場合、かかる分化誘導された細胞は、前記組織や臓器の障害を治癒もしくは緩和、または更なる悪化の予防のための医薬として用いることができる。もちろん、分化する前の本発明にかかる間葉系細胞も前記用途に用いることができる。より具体的には、本発明にかかる間葉系細胞または前記間葉系細胞から分化誘導された所望の組織や臓器に適合する細胞を、障害のある組織または臓器に移植することにより、前記組織または臓器を再生することができる。このように再生され得る組織または臓器としては、特に限定されないが、例えば、血管、角膜、半月板、脳組織、皮膚、皮下組織、上皮組織、骨組織もしくは筋組織等の組織;または、眼、肺、腎臓、心臓、肝臓、膵臓、脾臓、小腸を含む消化管、膀胱、卵巣または精巣などの臓器が挙げられる。また前記組織としては、神経系前駆細胞;神経幹細胞;ニューロン、特に、運動性ニューロンもしくはドーパミン作動性ニューロン;神経膠星状細胞;希突起神経膠細胞またはシュワン細胞などの神経系細胞も挙げられる。特に、本発明にかかる間葉系細胞または該間葉系細胞から分化誘導された骨芽細胞は、骨粗鬆症の予防治療薬または骨形成薬として用いることが好ましい。また、本発明にかかる間葉系細胞、該間葉系細胞から分化誘導された神経系前駆細胞または該神経系前駆細胞からさらに分化誘導されたドーパミン作動性ニューロンは、パーキンソン病の予防治療薬として用いることが好ましい。
上記のような本発明にかかる医薬は、含有されている本発明にかかる間葉系細胞のMHCが明示されていることが好ましい。本発明にかかる間葉系細胞が、上述のように臍帯血分離採取後の胎盤から単離されるものである場合、かかる胎盤のMHCに関する情報は、臍帯血バンクを通じて容易に得られる。また、それ以外の場合でも公知の方法に従ってMHCを確認することができる。このようにMHCが明示されていれば、レシピエントのMHCと同一型のMHCを有する間葉系細胞を含んだ本発明にかかる医薬を用いることにより、細胞移植の際の拒絶反応を低減することができる。すなわち、本発明は、レシピエントのMHCと同一型のMHCを有する、ホ乳動物の胎盤から採取した間葉系細胞または該間葉系細胞から分化誘導された細胞を移植することを特徴とする細胞移植時の拒絶反応低減方法を提供する。
上述の本発明に係る医薬は、活性成分である上記本発明に係る間葉系細胞または該間葉系細胞から分化誘導された細胞そのものであってもよいが、通常、該活性成分と薬理学的に許容される担体とを自体公知の方法[製剤技術分野において慣用の方法、例えば日本薬局方(例えば第13改正)に記載の方法等]にしたがって混合することによって製造される。薬学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、例えば、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などが挙げられる。また必要に応じて、界面活性剤、発泡剤、色素、酸味剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、矯味剤などの製剤添加物を用いることもできる。
薬学的に許容される担体として、より具体的には、クエン酸カルシウム、リン酸カルシウムなどの無機塩の賦形剤;例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、軽質無水ケイ酸、含水二酸化珪素などの滑沢剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、α化デンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム末、ゼラチンまたはプルランなどの結合剤;低置換度ヒドロキシプロピルセルロースや結晶セルロース等のセルロース類、トウモロコシデンプン、部分α化デンプンやヒドロキシプロピルスターチ等の各種デンプンもしくはデンプン誘導体、クロスポビドンまたはベントナイト等の崩壊剤等が挙げられる。
また、塩溶液、ブドウ糖溶液または塩溶液とブドウ糖溶液の混合物などの溶剤;例えば、デキストラン、ポリビニルピロリドン、安息香酸ナトリウム、エチレンジアミン、サリチル酸アミド、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体など溶解補助剤;例えば、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤など緩衝剤;例えばアルブミン、グリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコール、リドカイン塩酸塩、ベンジルアルコールなど無痛化剤等が挙げられる。
さらには、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、リン脂質、グリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ショ糖脂肪酸エステルなどの界面活性剤;例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどの発泡剤;例えばクエン酸、酒石酸、リンゴ酸など酸味剤;例えば、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、タール系色素などの色素;例えば、レモン、レモンライム、オレンジ、パイン、ミント、メントールなどの香料;例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチンなどの甘味剤;例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、コハク酸、酒石酸、フマル酸、グルタミン酸などの矯味剤などが挙げられる。
さらに、安定化剤としては、例えば糖類や亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。糖類としては、グルコース、フルクトース、キシリトール、フコース、ガラクトースなどの単糖類;マルトース、シュクロース、ラクトース、ラクツトース、メリビオースなどの二糖類;フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラクトオリゴ糖などのオリゴ糖類;デキストランなどの多糖類などが挙げられる。保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル、ベンジルアルコール、クロロクレゾール、フェネチルアルコール、塩化ベンゼトニウムなどが挙げられる。キレート剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
本発明に係る医薬の剤形としては、例えば錠剤(多層錠、糖衣錠もしくは腸溶錠などのコーティング錠を含む。)、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセル、腸溶性カプセルを含む)、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の経口剤;および注射剤(例、皮下注射剤,静脈内注射剤,筋肉内注射剤,腹腔内注射剤等)、外用剤(例、経鼻投与製剤,経皮製剤,軟膏剤等)、坐剤(例、直腸坐剤,膣坐剤等)、ペレット、点滴剤、徐放性製剤(例、徐放性マイクロカプセル等)等の非経口剤が挙げられる。
本発明にかかる医薬の投与量は、医薬の剤型、治療すべき病態の種類、症状および疾患の重篤度、患者の年齢、性別もしくは体重、投与方法などにより異なるので、一概には言えないが、医師が上記の状況を総合的に判断して決定することができる。
本発明にかかる医薬の投与経路は、特に限定されず、上述のような本発明にかかる医薬の形態により、経口投与してもよいし、非経口投与していもよい。例えば、本発明にかかる医薬が注射剤の場合、例えば、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射のような医療上適当な投与形態が例示できる。
また、本発明にかかる医薬、好ましくは、本発明にかかる間葉系細胞または該間葉系細胞から分化誘導された骨芽細胞を含む医薬は、骨修復や骨移植の際の骨形成促進薬として骨再建用の担体に混合することもできる。例えば、本発明の医薬を金属、セラミックまたは高分子を材料とする人工骨などに付着または含有させて用いることができる。人工骨は、それが骨欠損部に移植された際に生体組織において、前記本発明にかかる医薬が放出されうるように表面を多孔性にすることが好ましい。本発明の医薬は、適当な分散剤、結合剤、希釈剤など(例えば、コラーゲン、生理食塩水、クエン酸溶液、酢酸溶液、ハイドロオキシアパタイト、フィブリンまたはこれらの混合液など)に分散させ、これを人工骨に塗布または含浸し、乾燥させることによって付着または含有させることができる。このような人工骨は骨欠損部に移植され、欠損部に強固に固定される。また、本発明にかかる医薬は人工骨の固定化剤として用いることもできる。前記人工骨の固定化剤は、有効成分である本発明にかかる間葉系細胞または該間葉系細胞から分化誘導された細胞、好ましくは骨芽細胞を、医薬として使用する際生理的に許容される分散媒、結合剤、希釈剤、骨再生に有効な他の成分(例えばカルシウム)などと混合して調製することができる。人工骨固定剤は、これを人工骨に付着または含有させることなく、宿主の骨欠損部に移植される人工骨とその骨欠損部との間隙に充填するように用いることもできる。
実施例
下記実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されないことは言うまでもない。なお、下記実施例において、「%」は特に断りのない限り、「重量%」を示す。
<実施例1>
(1)ヒト胎盤からの間葉系細胞の分離・同定
東京臍帯血バンクで臍帯血分離採取後の胎盤を、インフォームドコンセントを得た後入手した。すべて38週から40週までの正期産の胎盤で、重量は420gから630g(中央値 552g)であった。搬送は氷冷(on ice)にて行い、4時間以内に細胞採取を開始した。
胎盤から臍帯と羊膜を除去した後、母体側からハサミで組織を採取した。さらにメスで5mm角に細切した後、Ca2+およびMg2+不含リン酸緩衝液[PBS(−)]で血液を可及的に除いた。このようにして1個の胎盤から200−300gの胎盤切片が採取できた。トリプシン処理法(T法)、およびトリプシン処理とその後FACSソーティング(FACS sorting)を組み合わせた方法(T/S法)では、この胎盤切片をビーカーに移し、0.05%トリプシン/1mM EDTA(GIBCO−BRL)を330ml加え、スターラーで撹拌しながら室温で細胞を単離した。10分後溶液を回収し、直ちに5%容積のウシ胎児血清(FBS;Sigma、St.Loise、MO)を加えてトリプシンの反応を阻止した。同様の処理をこの後2回行い、総量で1,000mlの細胞懸濁液を得た。氷冷したPBS(Ice−cold PBS)で1回洗浄した後、PBSに懸濁してFicoll−Hypaque(Pharmacia Biotech AB、Uppsala、Sweden)で単核球を分離した。ダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium:DMEM、低グルコース(low glucose)、Sigma)+10%FBSに懸濁し、培養を開始した。胎盤切片からの成長(outgrowth)を利用した方法(エクスプラント(explant)法、E法)では、上記胎盤絨毛切片をさらに数mm角に細切し、接着させるために20分間風乾し、その後培養液を添加して14日間培養したあと回収した。
(2)FACS解析および選別(sorting)
トリプシン処理10日後に細胞を回収(harvest)し、以下の抗体の組み合わせで染色した。FITC−SH2(Alan Smith氏より入手、Osiris Theraputics、Baltimore、MD)(FITC−CD31、あるいはFITC−TIE−2でも解析)、PE−CD45、propidium iodine(PI)、APC−CD34;FITC−マウスイムノグロブリン(mouse immunoglobulin)G1(IgG1)、PE−IgG1、PI、APC−IgG1(FITC−SH2以外はいずれもBecton−Dickinson、Mountain View、CA)。染色した細胞は、FACS Calibur(Becton Dickinson)とCELLQuest software(Becton Dickinson)で測定した。得られたデータは、FlowJosoftware(TreeStar、San Carlos、CA)で解析して図を作成した。細胞の選別に関しては、FITC−SH2、PE−CD34/PE−CD45、PIの組み合わせで細胞を染色し、PIで死細胞を除いた後、CD34−CD45−SH2+細胞とCD34+D45+SH2−細胞にゲート(gate)をかけてfluorescence−activated cell−sorter(FACS)Vantage SE(Becton−Dickinson)を用いて選別(sorting)した。選別後、DMEM+10%FBSでCD34−CD45−SH2+細胞を培養し、適度に増殖(expand)した後10%DMSOを含む培養液で凍結保存した。その後の実験にはこれらのサンプルを解凍し、20集団倍加レベル(PDL)以内で解析に用いた。
サイドポピュレーション(side population;SP)の解析は、細胞を10μM Hoechst33342(Molecular Probes、Eugene、OR)を含むRPMI−1640+10%FBSで90分間培養し、FITC−SH3(Alan Smith氏より入手、Osiris)、PE−CD34/PE−CD45、PIの組み合わせで染色してFACS Vantage SEで解析した。SPであることの確認は、50μMベラパミル(verapamil)(Sigma)存在下でSPが消失することで行った。
(3)胎盤由来間葉系細胞の増殖能
T法、T/S法、およびE法を用いて単離した胎盤細胞を、35mmの培養皿(dish)(DMEM+10%FBS、2.0ml)に1x104cells/cm2の細胞密度で培養し、1、3、5、7日目に0.25%トリプシンで細胞を回収して細胞数を測定し、増殖曲線を描いた。
(4)RT−PCRによるmRNAの解析
細胞をTrisol−LS(GIBCO−BRL)で処理し、RNAを抽出した。cDNAの合成はrandom hexamerを用い、Superscript kit(GIBCO−BRL)で逆転写(reverse transcription)を行った。オリゴヌクレオチドプライマー(oligonucleotide primers)は、以下のものを用いた。アクチビン受容体タイプIIB(activin receptor type IIB:ACTRIIB)(550bp product;AF060200):ACTRIIB−F(5’−ACACGGGAGTGCATCTACTACAACG−3’)(配列番号1)、ACTRIIB−R(5’−TTCATGAGCTGGGCCTTCCAGACAC−3’)(配列番号2)。骨形成タンパク4受容体タイプII(Bone morphogenic protein 4 receptor type II:BMPR4RII)(800bp product;D50516):BMPR4RII−F(5’−TCTGCAGCTAGGTCCTCTCATCAGC−3’)(配列番号3)、BMPR4RII−R(5’−TATACTGCTCCATATCGACCTCGGC−3’)(配列番号4)。肝細胞成長因子受容体(hepatocyte growth factor receptor:c−Met)(440bp product;ACO02080):c−Met−F(5’−AGAAATTCATCATCAGGCTGTGAAGCGCG−3’)(配列番号5)、c−Met−R(5’−TTCCTCCGATCGCACACATTTGTCG−3’)(配列番号6)。レチノイン酸受容体タイプα(retinoic acid receptor type α:RAR)(500bp product;AHO07261):RAR−F(5’−AGCAGCAGTTCTGAAGAGATAGTGCC−3’)(配列番号7)、RAR−R(5’−GTGGAGAGTTCACTGAACTTGTCCC−3’)(配列番号8)。α−胎児性タンパク(α feto protein:αFP)(680bp product;J00077):αFP−F(5’−AGAACCTGTCACAAGCTGTG−3’)(配列番号9)、α FP−R(5’−GACAGCAAGCTGAGGATGTC−3’)(配列番号10)。アルブミン(albumin)(450bp product;M112523):albumin−F(5’−CCTTTGGCACAATGAAGTGGGTAACC−3’)(配列番号11)、albumin−R(5’−CAGCAGTCAGCCATTTCACCATAGG−3’)(配列番号12)。心筋アクチン(cardiac acti:cACT)(630bp product;NM005159):cACT−F(5’−TCTATGAGGGCTACGCTTTG−3’)(配列番号13)、cACT−R(5’−CCTGACTGGAAGGTAGATGG−3’)(配列番号14)。軟骨マトリックスタンパク(cartilage matrix protein:CMP)(620bp product;M55679、M55680):CMP−F(5’−ATGACTGTGAGCAGGTGTGCATCAG−3’)(配列番号15)、CMP−R(5’−CTGGTTGATGGTCTTGAAGTCAGCC−3’)(配列番号16)。ドーパミンβヒドロキシラーゼ(dopamine β hydroxylase:DβH)(440bp product;X13259、X13262):DβH−F(5’−CACGTACTGGTGCTACATTAAGGAGC−3’)(配列番号17)、DβH−R(5’−AATGGCCATCACTGGCGTGTACACC−3’)(配列番号18)。ケラチン(keratin)(780bp product;X63755):keratin−F(5’−AGGAAATCATCTCAGGAGGAAGGGC−3’)(配列番号19)、keratin−R(5’−AAAGCACAGATCTTCGGGAGCTACC−3’)(配列番号20)。レニン(renin)(590bp product;AHO07216):renin−F(5’−AGTCGTCTTTGACACTGGTTCGTCC−3’)(配列番号21)、renin−R(5’−GGTAGAACCTGAGATGTAGGATGC−3’)(配列番号22)。PCRサイクルの条件(cycling conditions)は、94℃で30秒;56℃で30秒;72℃で1分を1サイクルとして、30サイクル行った。PCR産物は、エチジウムブロマイド(ethidium bromide)を含む20%アガロースゲル(agarose gel)で電気泳動して紫外線(UV light)で解析した。コントロールとしては、β−アクチン(β−actin)mRNAを用いた。
(5)脂肪細胞、軟骨芽細胞および骨芽細胞への分化誘導
脂肪細胞への誘導は、以下のように行った。まず、胎盤由来間葉系細胞を2x104/cm2の細胞密度でDMEM+10%FBSで培養を開始し、2−3日おきに培地を交換して集密性(confluent)にした。つぎに、1μMデキサメサゾン(dexamethasone)、0.2mMインドメタシン(indomethacin)、0.01mg/mlインシュリン(insulin)、0.5mM 3−イソブチル−1−メチル−キサンチン(3−isobutyl−1−methyl−xanthine)、10%FBS、0.05U/mlペニシリン(penicillin)および0.05mg/mlストレプトマイシン(streptomycin)を含むDMEM−高グルコース(high glucose)(誘導用培地)で3日間培養した後、0.01mg/mlインシュリン(insulin)、10%FBS、および抗生物質を含むDMEM−高グルコース(high glucose)(維持用培地)で1−3日間培養し、以上を1サイクルとし、これを3サイクル繰り返して行った。その後、維持用培地で7日間培養し、脂肪の蓄積の有無をOil Red”0”染色で確認した。
軟骨芽細胞への誘導は、以下のように行った。まず、血清を含まないDMEM−高グルコース(high glucose)に1μMデキサメサゾン(dexamethasone)、1mMピルビン酸ナトリウム(sodium pyruvate)、0.17mMアスコルビン酸2リン酸エステル(ascorbic acid−2−phosphate)、0.35mMプロリン(proline)、6.25μg/mlウシのインシュリン(bovine insulin)、6.25μg/mlトランスフェリン(transferrin、鉄結合性グロブリン)、6.25μg/ml亜セレン酸(selenous acid)、5.33μg/mlリノール酸(linoleic acid)、1.25mg/ml BSA、および抗生物質を添加した軟骨誘導培地を作成した。また、これに0.01μg/mlトランスフォーミング成長因子(transforming growth factor,TGF)−β3を添加した軟骨誘導培地も作成した。まず、細胞を遠心分離して上清を捨て、TGF−β3を含まない軟骨誘導培地で1回細胞を洗浄した。15mlのチューブ当たり、2.5x105cells/0.5mlを分注し、遠心して微小集積(micromass)を作製した。TGF−β3を含む培地で微小集積(micromass)を28日間培養した。培地交換は2または3日で行った。微小集積(micromass)でのグルコサミノグリカン(glycosaminoglycans)の産生の有無は、Safranin 0染色で確認した。
骨芽細胞への誘導は、3x103/cm2の細胞密度で、1μMデキサメサゾン(dexamethasone)、0.05mMアスコルビン酸−2−リン酸エステル(ascorbic acid−2−phosphate)、10mM β−グリセロリン酸(β−glycerophosphate)、10%FBS、および抗生物質を添加したDMEM−高グルコース(high glucose)で、細胞を3週間培養して行った。培地交換は3または4日で行った。骨形成は、カルシウムの沈着をKossa染色で確認した。また、カルシウム分泌量の定量は、Wako製試薬を用いて行った。
(6)神経系細胞への分化誘導
胎盤由来間葉系細胞を、0.001%ポリ−L−リジン(poly−L−lysine)でコートした培養皿(dish)で、DMEM/10%FBSを用いて培養した。神経系細胞への誘導は、DMEM/F12(1:1)/B27に、200mMブチルヒドロキシアニソール(butylated hydroxyanisole)(BHA;Sigma)、0.5mM 3−イソブチル−1−メチル−キサンチン(3−isobutyl−1−methyl−xanthine)(IBMX)、10%FBS、1mMジブチリルサイクリックAMP(dibutyryl cyclic AMP)(dbc AMP;Sigma)、2.5%DMSOで、24時間培養して行った。
(7)免疫細胞染色
培養細胞を4%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)(Sigma)で固定し、x1,000倍に希釈した抗ニューロン特異エノラーゼ(neuron specific enolase)(NSE)抗体を反応させた後、Vectastain ABC kit(Vector Laboratories,Burlingame、CA)で染色した。
(8)結果1(胎盤由来細胞のFACS解析)
胎盤からトリプシンを用いて単離した細胞は、単離後数日以内は抗体でよく染まらない。そこで、10日間あまり培養後、接着/非接着細胞の両方を回収して抗体で染色した後、FACSで解析した。細胞をCD34とCD45の染色性で解析すると、CD34−CD45+細胞、CD34+CD45dim細胞、およびCD34−CD45−細胞の3つに大別できた(第1図(B))。我々は、CD34−CD45−SH2+細胞とCD34±CD45+SH2−細胞をFACSで選別(sorting)し、それぞれ培養した。16時間培養後、CD34±CD45+SH2−細胞は培養基に接着しなかったが、CD34−CD45−SH2+細胞は接着して線維芽細胞様の形態を示した。CD34−CD45−SH2+細胞はDMEM+10%FBSで培養して増殖(expand)し、10%DMSO、25%FBSを添加した培養液で細胞を懸濁し、チューブに分注した後、一夜で緩徐に冷却して−135℃に凍結保存した。以後、実験に用いる場合、急速に解凍して培養液で洗浄し、培養を開始した。
サイドポピュレーション(side population:SP)の解析では、トリプシン処理とその後FACSソーティング(FACS sorting)を組み合わせた方法(T/S法)、および胎盤切片からの成長(outgrowth)を利用した方法(エクスプラント(explant)法、E法)のいずれの方法で分離した細胞も、0.1%以下のSPしか存在せず、大部分はG0/G1期の細胞であった。低頻度ながら認められたSPについて、その表面マーカーを解析したところ、SH3+D34−CD45−で、造血幹細胞とは異なるものであった(第2図)。
(9)結果2(CD34−CD45−SH2+細胞の増殖能)
トリプシン処理法(T法)、T/S法、およびE法を用いて単離した胎盤細胞の培養で得られた増殖曲線から、倍加時間はそれぞれ28時間、25時間、および20時間で、E法により単離した細胞がもっとも増殖能が高かった(第4図)。
(10)結果3(胎盤由来間葉系細胞に構成的に発現するmRNAの解析)
RT−PCRを用いた我々の解析で、T法、T/S法、E法いずれの胎盤由来細胞でも分化誘導因子に対するレセプター、すなわちBMP 4RII、c−met、RAR、ACTRIIBのmRNAが構成的に発現していることが判明した。また、cACT、レニン(renin)、ケラチン(keratin)のmRNAを構成的に発現していた。一方、DβH、αFP、CMP、アルブミン(albumin)のmRNAは発現がみられなかった(第5図)。
(11)結果4(脂肪細胞、軟骨芽細胞、および骨芽細胞への分化誘導)
胎盤由来の細胞は、いずれの細胞も脂肪細胞、軟骨芽細胞への誘導はみられなかった。一方、骨芽細胞への誘導は、いずれの胎盤由来の細胞でも高頻度でみられ(第6図B、Kossa染色)、細胞外へ沈着したカルシウムがカルシウム定量法で証明された(第7図)。
(12)結果5(神経系細胞への分化誘導)
胎盤由来の細胞をBHA/IBMX/dbcAMP/DMSOにより3時間処理することで、神経系の細胞形態がみられた。24時間処理した細胞で神経系マーカーであるNSEを免疫染色した結果、神経突起をもつ細胞は茶色に染まった(第8図B、→の部分)が、線維芽様の細胞は、ほとんど染まらなかった(第8図B、>の部分)。
<実施例2>
(1)試薬
本実施例では、下記の試薬を用いた。
0.1%ポリLリジン(分子量75000−150000)は和光純薬工業株式会社、ダルベッコ変法イーグル培地低グルコース(DMEM)はシグマアルドリッチジャパン株式会社、ウシ胎児血清(FBS)はSTERILE FETAL BOVINE SERUM(BATCH:49300702,MOREGATE,AUSTRALIA & NEW ZEALAND)、トリプシン溶液(0.25%)、DMEM/F12(1:1)培地、B27 supplementはGIBCO BRL、ブチルヒドロキシアニソール(butylated hydroxyanisole;BHA)、イソブチルメチルキサンチン(isobutylmetylxanthine:IBMX)、ジブチリルサイクリックAMP(dibutyryl cyclic AMP:dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide:DMSO)は、シグマアルドリッチジャパン株式会社より購入した。ヒト塩基性線維芽細胞成長因子(human basic fibroblast growth factor)(組換え体(recombinant))はAustral Biologicalsより購入した。ウサギ抗−ネスチンポリクローナル抗体(rabbit anti−nestin polyclonal antibody)、マウス抗−ニューロン特異エノラーゼ(NSE)モノクローナル抗体(mouse anti−neuron specific enolase(NSE)monoclonal antibody)、ウサギ抗−グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)ポリクローナル抗体(rabbit anti−glial fibrillary acidic protein(GFAP)polyclonal antibody)、マウス抗−2’,3’−サイクリックヌクレオチド 3’−ホスホジエステラーゼ(CNPase)モノクローナル抗体(mouse anti−2’,3’−cyclic nucleotide 3’−phosphodiesterase(CNPase)monoclonal antibody)、ウサギ抗−チロシンヒドロキシラーゼ(TH)ポリクローナル抗体(rabbit anti−tyrosine hydroxylase(TH)polyclonal antibody)はChemicon社、モノクローナル抗−β−チューブリンイソタイプIII(beta III tubulin)(monoclonal anti−beta−tubulin isotype III(beta III tubulin))はシグマアルドリッチジャパン株式会社より購入した。Vecta stainABC kitはVector Laboratoriesより購入した。
(2)ヒト胎盤からの間葉系細胞の単離
東京都臍帯血バンクでインフォームドコンセントを得て提供され、胎児が男性の胎盤を用いた。胎児側の絨毛および母体側の基底脱落膜からの間葉系細胞の単離はそれぞれの組織から約1mm3の組織片を培養皿(Falcon)にはりつけ、組織片から細胞を遊走させるエクスプラント(explant)法を用い、DMEMに10%FBSを含む培養液で培養した。そして、遊走した細胞を0.25%トリプシンで剥がし、集めた細胞を再び播種し、細胞増幅させた。なお、増幅させた細胞が胎児または母体由来かを確認するために、染色体FISH解析(株式会社エスアールエルに依頼)により増幅させた細胞のXY染色体を調べ、完全に胎児側と母体側で区別されていることをFISH解析によって確認し、実験に用いた。また、増幅させた胎児側由来細胞と母体側由来細胞については、それぞれの培養物に終濃度が10%になるようにDMSOを添加後、徐冷して液体窒素中で凍結保存した。
(3)神経系細胞への分化誘導
胎児側の絨毛および母体側の基底脱落膜からの間葉系細胞を0.001%ポリLリジンコートした培養皿(Falcon)にDMEM+10%FBSにより1−2.5x104cells/cm2播種し、5%CO2インキュベータで培養した。24時間後、DMEM/F12(1:1)培地で1回洗浄後、B27 supplement含有DMEM/F12(1:1)培地に100μM BHA/0.5mM IBMX/1mM dbcAMP/1.5%DMSOを添加した分化誘導培地で24時間培養し倒立顕微鏡により観察した。異なる5箇所の領域について倒立顕微鏡により神経系形態の細胞を数え、コントロールの細胞と比較し定量化した。
(4)免疫細胞染色
細胞を4%パラホルムアルデヒド固定し、1次抗体としてネスチン(Nestin)およびNSE、ベータIIIチューブリン(beta III tubulin)、GFAP、CNPase、THを4℃、一晩インキュベーションし、その後Vecta stainABC kitを用いて染色した。
(5)FACSによる表現形の解析
トリプシン処理10日後に細胞を回収(harvest)し、実施例1に記載した方法に準じて抗体と組合わせて細胞を染色した。染色した細胞は、FACS Calibur(Becton Dickinson)にチャージし、CELL Quest software(Becton Dickinson)を用いて測定した。得られたデータはFlowJo software(TreeStar,San Carlos,CA)で解析し、図を作成した(第12図および第13図)。
(6)結果および考察
胎盤から取り分けた間葉系細胞のFISH解析結果を第1表に示す。表中の数値は、試験数3の平均値±SDを表す。XXおよびXY染色体の分布率から明らかなように、胎児(男子)側由来間葉系細胞と母体側由来間葉系細胞とをほぼ完全に取り分けることができた。
第12図および第13図から明らかにように、これらの胎児側由来間葉系細胞および母体側由来間葉系細胞は、いずれも、CD31、CD34、CD45、CD133、TIE−II、HLA−DRを発現していなかったが、CD44、CD73、CD90、CD105、HLA−class Iは発現していた。この中で、特にCD90(Thy−1)の発現が認められることが本発明の間葉系細胞の大きな特徴であり、このことは神経系細胞へ分化する能力を有していることを明確に示している。
また、ヒト胎盤胎児側の絨毛および母体側の基底脱落膜から単離した間葉系細胞を分化誘導培地で24時間培養した結果、いずれの細胞も小さな細胞質で突起をもった神経系様の細胞形態を示した(第9図A、B)。神経系様の形態をした細胞を定量化した結果、胎児側由来の間葉系細胞では約30%(第9図C)、母体側由来の間葉系細胞では約3%の細胞が神経系様の細胞形態を示した(第9図D)。
これらの神経系様の細胞がどのような神経系細胞のマーカーを発現しているかを調べるために免疫細胞染色を行った(第10図、第11図)。胎児側および母体側由来の神経系様の細胞に神経幹細胞でみられるネスチン(Nestin)、ニューロンのマーカーであるNSE、ベータIIIチューブリン(beta III tubulin)、アストロサイトのマーカーであるGFAPが陽性であり、オリゴデンドロサイトのマーカーであるCNPaseが陰性であった。これらの結果から、24時間で分化誘導した神経系様細胞は神経系前駆細胞である。また、ドーパミンニューロンのマーカーであるTHが陽性を示したことから、間葉系細胞は中脳黒質のドーパミン作動性ニューロンが選択的に変性脱落し運動障害が生じるパーキンソン病の治療に利用できる。
産業上の利用可能性
本発明にかかるホ乳動物、好ましくはヒトの胎盤から採取した間葉系細胞は、種々の分化誘導因子に反応し、様々な細胞種に分化誘導できるため、再生医療の細胞ソースとして極めて有用である。特に、ホ乳動物、好ましくはヒトの胎盤から採取した間葉系細胞から分化誘導された骨芽細胞は、骨粗鬆症の予防治療薬または骨形成薬として有用である。また、ホ乳動物、好ましくはヒトの胎盤から採取した間葉系細胞から分化誘導された神経系細胞は、パーキンソン病、脳梗塞・脳出血の治療予防薬として有用である。例えば、本発明にかかる間葉系細胞、または該間葉系細胞から分化誘導されたドーパミン作動性細胞をパーキンソン病患者の線状体に移植することにより、パーキンソン病を治療または予防することができる。さらに、本発明にかかる間葉系細胞、該間葉系細胞から分化誘導された神経系前駆体細胞、または該神経系前駆体細胞から分化誘導されたドーパミン作動性ニューロンを用いることにより、パーキンソン病を治療または予防することもできる。また、本発明にかかる間葉系細胞、または該間葉系細胞から分化誘導された運動ニューロン等により、脳梗塞・脳出血により傷害された運動ニューロン等の再生することができる。
さらに、本発明によれば、ひとつの胎盤から胎児側由来の間葉系細胞と母体側由来の間葉系細胞とを取り分けることができるので、それぞれの細胞を含む細胞凍結物を別々に保存・管理することができる。これにより、他人向けの公的細胞バンクのみならず、特に母親向けの私的細胞バンクや子供自身または家族向けの私的細胞バンクを構築することが可能となる。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
第1図について下記に説明する。DMEM/10%FBSでの10日間の培養の後、1mM EDTA中、インキュベイション(incuvation)を用いて細胞を回収し、その細胞をFITC−SH2(SH3、CD31またはTIE−2)、PE−CD45、propidium iodine(PI)、APC−CD34を用いて染色した。細胞を4色フローサイトメーターで分析した。これらの細胞について、第1図(A)に示すとおり生細胞にゲートをかけた。横軸のSSCは側方散乱(side scattering)、縦軸のFSCは前方散乱(forward scattering)である。ついで、ゲートをかけた部分を第1図(B)に示すとおり、CD34およびCD45について展開した。胎盤由来細胞は、CD45に対するCD34の形状(configugation)において、CD34−CD45+細胞、CD34+CD45dim細胞、およびCD34−CD45−細胞の3つに大別できた(第1図(B))。
第2図は、CD34−CD45+細胞、CD34+CD45dim細胞およびCD34−CD45−細胞、それぞれの表現型におけるCD31、TIE−2およびSH2の発現量を分析した結果を示す。
第3図について下記に説明する。10日間の培養の後、細胞を回収し、その細胞をFITC−SH2、PE−CD45、PI、APC−CD34を用いて染色した。CD34−CD45+SH2+細胞を選別し、細胞数を14.8PDLにするために前記細胞を培養した。CD34−CD45−SH2+細胞を、10μM Hoechst33342が含まれているDMEM/10%FBSで、10μMベラパミルを用いてまたは用いずに、90分間培養した。それら細胞を、FITC−SH3、PE−CD34/PE−CD45およびPIで染色した((A)および(B)の上欄)。また、エクスプラント(explant)法によって単離した胎盤由来細胞も染色した((A)および(B)の下欄)。エクスプラント(explant)方法によって単離した胎盤由来細胞は、Hoechst redに対するHoechst blueの形状(configugation)において3つに大別される。すなわち、G0/G1群、G2/M群、Hoechst33342によっては染色されない群(いわゆるサイドポピュレーション(side population:SP))である((A)の下欄)。ベラパミルの存在下では、SPは現れなかった。このSPの表面表現型は、(B)に示されている。
第4図について下記に説明する。直径3.5cmのプラスチック培養皿に、DMEM+10%FBSを2.0ml入れ、そこに1×104cells/cm2の細胞密度で細胞を植えた。培養後1、3、5、7日目に0.25%トリプシン溶液で細胞を回収して、ヘマサイトメーター(hemacytometer)を用いて細胞数を測定した。測定結果は、n=4の平均±SDで表わした。本実験に用いられたヒト胎盤由来の間葉系細胞を、トリプシン処理法(塗りつぶしの四角、8.3PDL)とトリプシン処理とその後FACSソーティング(FACS sorting)を組み合わせた方法(塗りつぶしの丸、12.5PDL)、およびエクスプラント(explant)法(塗りつぶしの三角、10.4PDL)を用いて単離した。第4図には、前記3通りの方法で単離された細胞の増殖曲線を描いた。
第5図について下記に説明する。間葉系細胞についてRT−PCRを用いて、次ぎに掲げるmRNA;骨形成タンパク4受容体タイプII(bone morphogenic protein 4 receptor type II:BMP4RII)、c−met、レチノイン酸受容体タイプα(retinoic acid receptor type α:RAR)、アクチビン受容体タイプIIB(activin receptor type IIB:ACTRIIB)、ドーパミンβヒドロキシラーゼ(dopamine β hydroxylase:DβH)、心筋アクチン(cardiac actin:cACT)、アルブミン(albumin)、α−胎児性タンパク(α−feto protein:αFP)、レニン(renin)、軟骨マトリックスタンパク(cartilage matrix protein:CMP)、ケラチン(keratin)およびβ−アクチン(β−actin)の発現量を解析した。レーン1は、CD34−CD45−SH2+選択細胞における前記mRNAの発現量の解析結果である。レーン2は、エクスプラント(explant)法で単離された細胞における前記mRNAの発現量の解析結果である。レーン3はトリプシン処理で単離された細胞における前記mRNAの発現量の解析結果である。レーン4は、RT−ネガティブ(RT−negative)な比較例である。それぞれのポジティブコントロール(positive controls)として、以下の細胞;BMPR、骨髄細胞(bone marrow cells);c−Met、HepG2;αFP、HepG2;レニン(renin)、real cells;CMP、骨髄細胞(bone marrow cells);ケラチン(keratin)、ヒーラ細胞(Hela cells)を用いた。
第6図について下記に説明する。デキサメタゾン(dexamethasone)、アスコルビン酸−2−リン酸エステル(ascorbic acid−2−phosphate)、β−グリセロリン酸(β−glycerophosphate)を用いた2−3週間の処理により、ヒト胎盤由来の間葉系細胞培養液中で、骨芽細胞への分化を誘導した。単離された間葉系細胞は、集合体または小結節を形成していた。骨形成は、Kossa染色で示されたカルシウムの沈着によってもわかった(B)。一方、脂肪細胞、軟骨芽細胞への誘導は認められなかった(A)。
第7図について下記に説明する。胎盤由来間葉系細胞の2種類から誘導された培養液中のカルシウム濃度を測定した。本実験で用いられた胎盤由来間葉系細胞は、トリプシン処理とその後FACSソーティング(FACS sorting)を組み合わせた方法(塗りつぶし丸、12.5PDL)およびエクスプラント(explant)法(塗りつぶし四角、10.4PDL)によって単離された。
第8図について下記に説明する。ポリ−L−リジンで被覆されている24−マルチウェルプレート上で、胎盤由来の細胞を200μM BHA/0.5mM IBMX/1mM dbcAMP/2.5%DMSOで24時間処理した。Aは、細胞を位相差顕微鏡で見た図を示す。長い細胞質突起を作っている細胞が見受けられる。Bは、ニューロンに分化しているNSEの発現を示す。未分化の胎盤由来細胞(>)は、平らな形態を保持し、NSE発現のためにわずかに染色されただけであった。一方、胎盤由来の神経系細胞(→)はNSE発現により茶色に染まった。そして、凝縮した細胞体と高度に枝分かれした突起がみられた。
第9図のAは、ヒト胎盤胎児側の絨毛から単離した間葉系細胞が典型的な樹状形態を有する神経系細胞に分化できることを示す図である。第9図のBは、母体側の基底脱落膜から単離した間葉系細胞が典型的な樹状形態を有する神経系細胞に分化できることを示す図である。第9図のCは、ヒト胎盤胎児側の絨毛から単離した間葉系細胞において、神経系様の細胞形態を示した細胞の割合を示す図である。第9図のDは、母体側の基底脱落膜から単離した間葉系細胞において、神経系様の細胞形態を示した細胞の割合を示す図である。
第10図は、ヒト胎盤胎児側の絨毛から単離した間葉系細胞から分化した神経系細胞について、代表的な神経系細胞のマーカーの発現を調べた免疫細胞染色の結果を示す図である。
第11図は、母体側の基底脱落膜から単離した間葉系細胞から分化した神経系細胞についての免疫細胞染色の結果を示す図である。
第12図は、実施例2において行った、胎児側由来間葉系細胞のFACSによる表現形の解析結果を示す。
第13図は、実施例2において行った、母体側由来間葉系細胞のFACSによる表現形の解析結果を示す。
本発明は、胎盤由来の間葉系細胞およびその医学的用途に関する。
背景技術
近年、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)や胎児臓器幹細胞を用いて再生医療に役立てようとする研究が、数カ国で進められている。しかし、前記細胞を再生医療の細胞ソースとして用いることは多くの国で倫理的な問題を引き起こし、また供給量も限られているという欠点がある。さらに、これらの細胞の持つ幅広い分化誘導能は、移植後の腫瘍化も危惧させる。
我々は、種々の理由から再生医療の細胞ソースとして、胎盤由来の間葉系細胞に注目した。まず、臍帯血採取後の胎盤は現在医療廃棄物として廃棄されており、採取にあたりドナーおよび社会的に全く負担がないことが挙げられる。また、バンクに登録された臍帯血は主要組織適合抗原(MHC)や感染性などの詳細が把握されており、臍帯血採取後の胎盤を再生医療の細胞ソースとして用いることは、臍帯血造血幹細胞と共に、再生医療にとって高い利用価値がある可能性を秘めている。臍帯血には骨髄などの代わりとなりうる有力な造血幹細胞が存在しており、世界ではすでに2,000以上の臍帯血移植が行われている。また、バンクの臍帯血に対する質的管理能力も向上している。さらに、胎盤絨毛内部に間葉系細胞が存在することは古くより知られており、多くの報告がある。
間葉系幹細胞(MSCs)は、皮下脂肪または骨髄など全身の広範な組織に存在し、in vitroで骨、軟骨、脂肪などの結合織構成細胞に分化誘導可能なことが示されている。胎盤には、発生初期にはMSCsが存在するが、妊娠後期の胎盤の大部分を占める胎盤絨毛には、それから分化した筋線維芽細胞(デスミン(desmin)、ビメンチン(vimentin)やα−平滑筋アクチン(α smooth muscle actin)を大量に発現する)や大量の細胞外マトリックスが含まれる。胎盤は、しばしばMSCsから筋線維芽細胞への分化を研究する格好の材料とみなされている。
胎盤から間葉系幹細胞等の未分化細胞を採取もしくは単離し、その細胞を分化誘導させて損傷組織の再生等に応用しようとする試みは幾つか知られている。例えば、WO2002/64748号においては、胎盤から採取した幹細胞が組織への生着性が高く細胞投与治療に有用であることが開示されている。また、米国特許第5486359号公報においては、採取した間葉系幹細胞が特に骨形成や結合組織の再生に有用であることが開示されており、細胞ソースとして胎盤が記載されている。
一方、細胞の採取部位や採取方法に工夫を凝らすことによって、それぞれに特徴的な細胞が得られることも知られている。前者の例としては、WO2000/73421号に、トリプシン消化法を利用して胎盤の羊膜部分から羊膜上皮細胞が単離できることが開示されており、この細胞の多能性に基づいて種々の遺伝子治療や組織再生に応用できることが記載されている。また、後者の例としては、WO2002/46373号、WO2002/63962号およびWO2002/64755号に、臍帯の動静脈を利用して培養液を胎盤に灌流させると、この液流によって引き剥がされてくる胚性幹細胞(Embryonic−like stem cell)が単離できることが開示されており、特にこの方法が胚性幹細胞(Embryonic−like stem cell)の採取に適しており、損傷組織への細胞注入治療等に有用であることが記載されている。
しかしながら、これらの技術は、いずれも採取される細胞が多能性であって、あらゆる細胞や組織に分化し得ることが記載されている。つまり、これらの細胞は分化の程度がかなり初期段階にあるため、細胞が有する広い分化誘導能による移植後の腫瘍化という可能性を否定できない。このことは、前述のヒト胚性幹細胞(ES細胞)と同様である。
さらにまた、培養によって完全に分化した細胞を作製する場合、細胞が多分化能を有していると多種類の細胞を作製することができるが、目的の機能細胞が100%になるように誘導・分化させることは一般に困難である。つまり、ある程度分化能が限られている細胞の方が、目的とする機能細胞を作製するためには望ましいといえる。
このように、胎盤の有効利用という観点から細胞ソースを胎盤に求めた技術はすでに知られてはいるものの、採取された細胞は必ずしも満足できるものではなく、採取すべき細胞の特徴については未だ十分に精査されていないのが現状であった。
発明の開示
本発明は、胎盤由来の間葉系細胞を単離・同定し、そのin vitroでの細胞学的性状を解析して、胎盤由来の間葉系細胞を再生医療へ応用することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく、娩出後のヒト胎盤から間葉系細胞を単離・培養し、in vitroでの細胞学的性状を解析した。その結果、RT−PCRによる解析で、これら胎盤由来間葉系細胞は種々の分化誘導因子に対するレセプターのmRNAを構成的に発現していることを知見した。また、分化関連マーカー分子であるレニン(renin)、ケラチン(keratin)、cACTのmRNAも構成的に発現していることも知見した。さらに、間葉系細胞はin vitroで骨芽細胞および神経系の細胞に分化誘導可能であった。より詳細には、間葉系細胞は、in vitroにおいて、神経幹細胞、ニューロン、ドーパミン作動性ニューロンまたは神経膠星状細胞などに分化しえる神経系前駆細胞に分化誘導可能であった。
また、本発明者らは、ひとつの胎盤から胎児側由来の間葉系細胞と、母体側由来の間葉系細胞とを別々に取り分ける方法を見出した。
以上のことから、ヒト胎盤中には種々の分化誘導因子に反応する間葉系細胞が存在し、臍帯血と同様に再生医療に利用できる細胞ソースとして有用であるという思いがけない知見を得て、以って本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1) ホ乳動物の胎盤から採取した間葉系細胞、
(2) 培地に接触させた際に、胎盤組織から遊走する能力を有する前記(1)に記載の間葉系細胞、
(3) 胎盤から、消化酵素処理、消化酵素処理−FACSソーティング(FACS sorting)法およびエクスプラント(explant)法から選ばれる何れかの方法によって採取された前記(1)に記載の間葉系細胞、
(4) 軟骨細胞および/または脂肪細胞には分化しない前記(1)に記載の間葉系細胞、
(5) 神経系前駆細胞および/または骨前駆細胞には分化し得る前記(4)に記載の間葉系細胞、
(6) ヒトの胎盤由来である前記(1)〜(5)の何れかに記載の間葉系細胞、
(7) オステオカルシン(osteocalcin)、オステオポンチン(osteopontin)、アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase)、BMP4RII、c−MET、RAR、cACTおよびレニン(renin)から選ばれる6つ以上のmRNAを発現している前記(6)に記載の間葉系細胞、
(8) CD90(Thy−1)陽性である前記(1)〜(7)の何れかに記載の間葉系細胞、
(9) 母体由来の組織適合性抗原を有する前記(1)〜(8)の何れかに記載の間葉系細胞、
(10) 胎児由来の組織適合性抗原を有する前記(1)〜(8)の何れかに記載の間葉系細胞、
(11) 前記(9)に記載の間葉系細胞を含む凍結物、
(12) 前記(10)に記載の間葉系細胞を含む凍結物、
(13) 胎盤の母体側の組織片から、消化酵素処理またはエクスプラント(explant)法により、母体由来の前記(1)〜(8)の何れかに記載の間葉系細胞を採取する方法、
(14) 胎盤の胎児側の組織片から、消化酵素処理またはエクスプラント(explant)法により、胎児由来の前記(1)〜(8)の何れかに記載の間葉系細胞を採取する方法、
(15) 前記(1)〜(10)の何れかに記載の間葉系細胞から分化誘導された細胞、
(16) 分化誘導された細胞が骨芽細胞である前記(15)に記載の細胞、
(17) 分化誘導された細胞が神経系細胞である前記(15)に記載の細胞、
(18) 分化誘導された細胞がドーパミン作動性ニューロンである前記(17)に記載の細胞、
(19) 前記(1)〜(10)の何れかに記載の間葉系細胞および/または前記(15)もしくは(16)の何れかに記載の分化誘導された細胞を含有する医薬、
(20) 前記(1)〜(10)の何れかに記載の間葉系細胞および/または前記(15)もしくは(17)の何れかに記載の分化誘導された細胞を含有する医薬、
(21) 骨粗鬆症の予防治療薬または骨形成薬である前記(19)に記載の医薬、
(22) パーキンソン病の予防治療薬である前記(20)に記載の医薬、
(23) 組織または臓器障害の予防治療薬である前記(19)〜(22)の何れかに記載の医薬、
(24) 組織または臓器再生剤である前記(19)〜(22)の何れかに記載の医薬、
(25) MHCを明示している前記(19)〜(24)の何れかに記載の医薬、
(26) 前記(1)〜(10)の何れかに記載の間葉系細胞および/または前記(15)〜(18)の何れかに記載の分化誘導された細胞を移植する障害組織または臓器の再生方法、
に関する。
発明を実施するための最良の形態
本発明で用いるホ乳動物の胎盤は、出産後の母体から容易に得ることができる。ここで、「ホ乳動物」としては、特に限定されず、例えばヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ニワトリ、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウマまたはウシ等が挙げられる。なかでも、本発明においては、ヒトの胎盤を用いるのが好ましい。特に、臍帯血バンクで臍帯血分離採取したのち、インフォームドコンセントを得て入手したヒトの胎盤を用いるのがより好ましい。かかる胎盤を用いることにより、主要組織適合抗原(MHC)や感染性などの詳細が把握できるからである。
ホ乳動物の胎盤は胎児側および母体側から構成されている。胎児側は羊膜、絨毛膜、臍帯および絨毛から成り、母体側は脱落膜および絨毛間腔から成っている。本発明で用いるホ乳動物の胎盤としては、胎児側または母体側から採取される胎盤の一部を用いてもよい。なかでも、胎児側の絨毛および母体側の基底脱落膜を用いることが好ましい。胎盤の胎児側の組織片としては、母体接触表面近傍を含まない組織片が好ましく、より具体的には胎盤から臍帯および羊膜を取り除き、絨毛膜板下から母体側組織に向かって約5mmの深さ領域からなる組織がより好ましい。胎盤の母体側の組織片としては、母体接触表面近傍を含む組織片が好ましく、より具体的には胎盤の脱落膜側から胎児側に向かって約5mmの深さ領域からなる組織がより好ましい。ただし、上記組織片は、胎盤のサイズや形態に多少の個体差が存在するため、必ずしも上記深さ(約5mm)に限定されるものではない。また、上記組織片は約5mmの深さ領域すべてを含む必要はなく、表面部分(深さ0mmの部分)を含んでいてもよいし、表面部分を含まない、深さ0mmを超えて約5mm以下の部分の組織であってもよい。以下、本明細書中の「胎盤」という用語には、前記のような胎盤の一部も含まれる。
上記ホ乳動物の胎盤から採取される間葉系細胞としては、培地に接触させた際に胎盤組織から遊走する能力を有する細胞が好ましい。ここで、培地としては、液体培地が好ましく、なかでもダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(低グルコース)にウシ胎児血清(FBS)が含まれている培養液が特に好ましい。より具体的に、前記細胞としては、組織片を培養皿に貼り付け、例えばこの培養皿をクリーンベンチ内で一定時間(例えば30分程度)静置させるなどして組織片を培地に十分に接着させ、次いで、培養液を添加し、所定の条件下で培養した際に、組織片の周囲に伸展してくる細胞がより好ましい。培養液としては、例えば上述のDMEM(低グルコース)+10%FBS培養液を用いることができる。このときの培養条件は、約37℃、約5%CO2雰囲気下が好ましい。
また、上記ホ乳動物の胎盤から採取される間葉系細胞としては、CD90(Thy−1)陽性である細胞も好ましい態様として挙げられる。
さらに、本発明の間葉系細胞がヒトの胎盤由来の間葉系細胞である場合、分化誘導因子に対するレセプターであるBMP4RII、c−met、RARもしくはACTRIIBのmRNA、分化関連マーカー分子であるレニン(renin)、ケラチン(keratin)もしくはcACTのmRNA、または骨芽細胞関連物質であるオステオカルシン(osteocalcin)、オステオポンチン(osteopontin)もしくはアルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase)のmRNAのいずれかを発現していることが好ましい。これらmRNAの発現は、RT−PCRを用いた解析により容易に検出することができる。かかる間葉系細胞は、上記mRNAのうち、複数種、好ましくは4種程度以上、より好ましくは6種程度以上のmRNAを発現していることが好ましい。
本発明にかかる間葉系細胞は、当該分野の技術者に公知な技術を使用することにより、上記ホ乳動物の胎盤から容易に単離することができる。例えば、ホ乳動物の胎盤を、機械的処理、消化酵素を用いた処理およびキレート剤を用いた処理からなる群から選ばれる1以上の処理に付することにより、間葉系細胞を単離することができる。前記キレート剤は、隣接した細胞間の結合を弱め、組織を分散させて、目に見えるほどの細胞破損なしに個々の細胞を分離することができる。また、細胞同士の酵素的な分離は、組織を細かく切り刻み、みじん切りにされた組織を1の消化酵素を単独でまたは幾つかの消化酵素を組み合わせて処理することにより、達成することができる。このような処理を本発明では消化酵素処理という。前記消化酵素としては、例えばトリプシン、キモトリプシン、コラゲナーゼ、エラスターゼおよび/またはヒアルロニダーゼ、DNアーゼ、プロナーゼ等が挙げられるが、これに限定されない。また、ホ乳動物の胎盤の機械的破壊は、例えば、粉砕機、配合機、ふるい、ホモジナイザー、細胞圧縮機(pressure cell)または超音波処理機などを用いて行うことができる。
本発明において、ホ乳動物の胎盤から間葉系細胞を単離する方法としては、上記消化酵素処理のうち消化酵素としてトリプシンを用いるトリプシン処理法(T法)、消化酵素処理、とくにトリプシン処理とその後FACSソーティング(FACS sorting)による間葉系細胞の分離を組み合わせた方法(T/S法)、および胎盤切片からの成長(outgrowth)を利用した方法(エクスプラント(explant)法、E法)を用いることがより好ましい。かかる方法は当該技術分野で周知であり、本発明においてもそれに従えばよい。間葉系細胞の単離方法としては、後述する理由からE法が特に好ましい。
本発明者らは、胎盤由来の間葉系細胞を単離するにあたり、上記のT法、T/S法、E法という3つの異なる方法を用いた。本発明者らは、細切した胎盤をよく洗浄し、可及的に赤血球を取り除いているが、酵素処理中には再び胎盤切片から赤血球が漏出してくる。これは、胎盤絨毛の外側に付着している母体血や、絨毛内毛細血管腔に残存する臍帯血が酵素処理で放出されてくるためであろう。したがって、T法およびT/S法で得られた細胞は、胎盤自体を形成する細胞のほか、母体血・臍帯血由来の血液細胞が混在している可能性が高い。酵素処理10日後に細胞を染色してFACS解析すると、CD34とCD45で3つの細胞集団に分けられた。CD34−CD45+細胞は、臍帯血あるいは母体血由来の成熟血液細胞と考えられた。CD34+CD45dim細胞は、臍帯血由来の造血幹細胞もしくは血管内皮前駆細胞と考えられた。CD34−CD45−細胞は、CD31およびTIE−2を発現しておらず、その一部はSH2/SH3を発現していることから間葉系細胞とした。
CD34−CD45−SH2+細胞を選別(sorting)すると、均一な線維芽細胞様の形態とマーカーを発現した細胞が得られるが(T/S法)、選別(sorting)により分離しなくてもそのまましばらく培養を続けると、円形の形態を示す細胞は次第に減り、やがて均一な線維芽細胞様の形態とマーカーをもつ細胞になった(T法)。CD34±CD45+細胞を選別(sorting)すると、円形細胞の形態を示した。これらの多くはCD45およびCD3等の系統マーカー(lineage markers)を発現することから、成熟血液細胞、とくに接着性を示すことから臍帯血由来の血液細胞である(データは示さず)。E法では、均一な線維芽細胞様の形態とマーカーを発現した細胞集団が単離され、増殖も活発であったことから、再生医療に用いる場合は有効な方法といえる。E法で単離した細胞の増殖が速い理由として、トリプシンの影響や選別(sorting)による負荷が軽減していることが考えられる。
上述のように単離された間葉系細胞は、当該技術分野で知られている公知の方法で培養することができる。具体的には、ダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium:DMEM、低グルコース(low glucose)、Sigma)+10%FBSに懸濁し、培養を行うことが好ましい。
本発明は、上述の間葉系細胞から分化誘導された細胞も提供する。前記細胞としては、特に限定されないが、例えば、骨芽細胞、神経系細胞、軟骨芽細胞、肝細胞、膵細胞、血液細胞または脳細胞などが挙げられる。神経系細胞としては、神経系前駆細胞、前記神経系前駆細胞から分化する神経幹細胞、ニューロン(例えば、運動性ニューロンもしくはドーパミン作動性ニューロン)、神経膠星状細胞、希突起神経膠細胞またはシュワン細胞などが挙げられる。さらに、前記細胞としては、骨芽細胞などに分化する骨前駆細胞も挙げられる。なかでも、上述の間葉系細胞から分化誘導された細胞としては、骨芽細胞または神経系細胞などが好適な例として挙げられる。また、軟骨細胞または脂肪細胞には分化しない細胞も好適な例として挙げられ、なかでも軟骨細胞または脂肪細胞には分化しないが神経系前駆細胞または骨前駆細胞には分化し得る細胞がより好適な例として挙げられる。
上述の間葉系細胞から、前記のような所望の細胞に分化誘導する方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いてよい。例えば、公知の細胞分化誘導因子を用いて処理するという方法が挙げられる。前記細胞分化誘導因子としては、骨形成因子;神経栄養因子;腫瘍増殖因子(TGF)−βもしくはアクチビンなどのTGF−βスーパーファミリーに属する因子;塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)または酸性繊維芽細胞増殖因子(aFGF)などのFGFスーパーファミリーに属する因子;白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor:LIF、もしくはcholinergic differentiation factor:CDFと呼ぶこともある);シリアリー・ニューロトロフィック・ファクター(cilialy neurotrophic factor:CNTF)などのニューロポイエティック・サイトカイン・ファミリー(neuropoietic cytokine family)に属する因子;インターロイキン−1(IL−1、以下同様に略記する),IL−2,IL−3,IL−5,IL−6,IL−7,IL−9,IL−11,腫瘍壊死因子−α(TNF−α),インターフェロン−γ(INF−γ)など骨芽細胞や神経系細胞のように特定の組織において生体機能を維持する細胞が未分化な前駆体から分化する過程に特徴的な形質を誘導する因子が挙げられ、好ましくは骨形成因子または神経栄養因子が挙げられる。骨形成因子としては、骨形成および軟骨形成を促進させる蛋白質であるBMP−2,−4,−5,−6,−7,−8,−9,−10,−11,−12などのBMPファミリー、とりわけBMP−2,−4,−6,−7が挙げられる。BMPは上記に挙げた因子のそれぞれのホモ二量体または可能なすべての組み合わせによるヘテロ二量体であってもよい。神経栄養因子としては、神経成長因子(nerve growth factor:NGF)、脳由来神経栄養因子(brain−derived neurotrophic factor:BDNF)およびニューロトロフィン3(neurotrophin−3:NT−3)、グリア由来神経栄養因子(glia−derived neurotrophic factor:GDNF)、NT−4/5などが挙げられ、好ましくはNGFファミリーが挙げられる。
また、上述の間葉系細胞から所望の細胞を分化誘導する際に、公知の分化促進剤を用いてもよい。
より具体的には、ヒト胎盤由来の間葉系細胞から骨芽細胞または神経系細胞を分化誘導する方法としては、実施例に記載の方法が挙げられる。
1996年、MulliganらはHoechst33342で骨髄細胞を染色した後FACSで解析し、Hoechst dyeの2つの蛍光波長(Hoechst blueとHoechst red)で染まらない集団を見いだし、サイドポピュレーション(side population:SP)と呼んだ。SPには造血幹細胞が含まれたが、SPの出現するメカニズムは、それらが発現する多剤耐性遺伝子(multi drug resistance gene:MDR)などのある種のポンプにより色素が排出されることによる。興味深いことに、この様な性質は肝臓、腎臓、筋肉などの臓器幹細胞でも共通しており、抗体を用いないで臓器幹細胞を同定する方法に応用できる。胎盤由来間葉系細胞は、単離法の如何にかかわらずいずれも0.1%以下の低い頻度のサイドポピュレーション(side population:SP)しか含んでいなかった。これらSPの表面マーカーを解析するとSH3+CD34−CD45−で、血液細胞とは異なっていた。
最もよく研究されている骨髄細胞の場合、SPの一部は造血幹細胞・前駆細胞に属し、種々の血液細胞に分化する能力をもつことが知られている。発明者等が最初に単離した間葉系細胞は、それらのような種々の細胞に分化する可能性のあるいわゆる臓器幹細胞としての性質はもたず、すでにある方向に分化した細胞である可能性を示している。実際、各種結合織構成細胞への分化誘導を試みたが、脂肪細胞、軟骨芽細胞への誘導はできず、骨芽細胞への誘導のみ可能であった。RT−PCRでの解析で、これら胎盤由来間葉系細胞は、誘導前にすでにオステオカルシン(osteocalcin)、オステオポンチン(osteopontin)およびアルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase)などの骨芽細胞関連のmRNAを構成的に発現していた。以上のことから、発明者等が単離培養した胎盤由来間葉系細胞は間葉系幹細胞ではなく、骨芽細胞への分化傾向のある前駆細胞としての性質が強い。
しかし、胎盤から間葉系細胞を単離する際の条件および/または単離した間葉系細胞の培養する際の条件を変更すれば、神経組織や結合組織などの組織、または肝臓や腎臓などの臓器への分化傾向のある前駆細胞としての性質を有する間葉系細胞を得ることができる。
本発明者らが細胞を分離した胎盤絨毛組織は、母体血の混入の可能性があるが、母体血の細胞を長期間培養しても、発明者等が観察した間葉系細胞は増殖(expand)してこなかった。しかしながら、胎盤、とくに母体側には多くの子宮脱落膜が残存しており、これに含まれる間葉系細胞が単離した間葉系細胞に含まれる可能性がある。そのような場合、異なるドナーのHLAを持つ細胞のキメラとなり、再生医療に用いる場合、より多くの留意すべき点が出てくる。本発明者らは、T/S法で増やした間葉系細胞、母親および臍帯血の3つのサンプルからゲノムDNA(genomic DNA)を抽出し、10種のvariable number of tandem repeat(VNTR)遺伝子を解析して胎盤由来間葉系細胞のキメリズムアッセイ(chimerism assay)を行った。その結果、発明者等の確立した胎盤由来間葉系細胞における母体血の混入は、1%以下であった(データは示さず)。そのため、前述したような異なるドナーのHLAを持つ細胞のキメラが生じる可能性は低く、胎盤由来間葉系細胞は下記に例示するような再生医療に用いることができる。
本発明者らが試みた前記3種の単離方法で得られたすべての胎盤由来細胞において、RT−PCRを用いた解析で分化誘導因子に対するレセプター、すなわちBMP4RII、c−met、RAR、ACTRIIBのmRNAが構成的に発現していることが判明した。また、FACS解析の結果、これら間葉系細胞は細胞表面に間葉系細胞のマーカーの一つであるSH2を発現していたが、これはTGF−β1および3に対するレセプターであることが知られている。すなわち、胎盤由来間葉系細胞は骨芽細胞へ高頻度に分化誘導が可能なばかりでなく、多彩な分化誘導因子によりin vitroで様々な細胞種に分化誘導でき、再生医療の細胞ソースとして極めて有用である。
また、本発明者らは、ひとつの胎盤から胎児側由来の間葉系細胞と母体側由来の間葉系細胞とを効率よく取り分ける方法についても知見を得た。
間葉系細胞の取り分けについては、胎児側由来間葉系細胞の場合は、胎盤の胎児由来の組織片、好ましくは母体接触表面近傍を含まない組織片、より好ましくは臍帯および羊膜を除去した胎盤の絨毛膜板下から母体側組織に向かって約5mmの深さ領域から、ハサミ等の切除器具を用いて慎重に目的組織を切り出す。一方、母体側由来間葉系細胞の場合は、胎盤の母体由来の組織片、好ましくは母体接触表面近傍を含む組織片、より好ましくは胎盤の脱落膜側から胎児側に向かって約5mmの深さ領域から、前記同様に目的組織を切り出せばよい。
ひとつの胎盤からこのように取り分けた胎児側または母体側の組織片から目的細胞を得るにあたっては、既に述べたように消化酵素処理やエクスプラント(explant)法を利用することができる。例えば、消化酵素処理による場合は、さらに3〜5mm角に細切りした組織片を容器に移してトリプシン/EDTA溶液を添加後、スターラー等で攪拌すれば細胞懸濁液が得られるので、これから比重遠心等によって単核球フラクションを採ればよい。このあと必要に応じてさらに培養し、増殖させてもよい。一方、エクスプラント(explant)法による場合は、さらに3−5mm角に細切りした組織片を培養皿に貼り付け、この培養皿をクリーンベンチ内で30分間程度静置させ、組織片を培地に十分に接着させる。次いで、培養液を添加し、37℃、5%CO2雰囲気下で一定期間培養した際に、組織片の周囲に伸展してくる細胞を回収すればよい。培地としては、例えば、DMEM(低グルコース(low glucose))+10%FBS等の培地を用いることでできる。これらの単離方法においては、細胞に与える種々の影響を考慮すると、エクスプラント(explant)法を利用する方がより好ましい。
以上のようにして得られる胎児側由来の間葉系細胞は、胎児由来の組織適合性抗原を有している可能性がきわめて高い。一方、母体側由来の間葉系細胞は母体由来の組織適合性抗原を有している可能性がきわめて高い。しかし、いずれにおいても、使用に際しては適宜確認することが好ましい。
このように取り分け、回収した胎児側由来または母体側由来の間葉系細胞については、その培養物に保存剤、特に凍結保護剤を添加して凍結保存することで、長期間の安定保存が可能となる。細胞の凍結保護剤としては、細胞外凍結保護剤として知られるデキストラン、ヒドロキシエチルデンプン、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子や、細胞内凍結保護剤として知られるジメチルスルホキシド、グリセロール等の低分子有機化合物等を例示することができるが、これらに限定されることなく適宜選択すればよい。また、本発明に係る凍結物の製造の際には、凍結保護剤の他に、細胞膜保護剤や栄養成分なども必要に応じて添加することができる。
かかる組成物の凍結保存に際しては、マイナス80℃のディープフリーザーを用いる簡便法、あるいはプログラムフリーザーによって徐冷した後に液体窒素中に保存する方法などが挙げられる。
以上のようにして得られた細胞凍結物は、ひとつの胎盤に由来する胎児側由来間葉系細胞と母体側由来間葉系細胞とをそれぞれ別々に含むので、これにより、他人向けの公的細胞バンクのみならず、特に母親向けの私的細胞バンクや子供自身または家族向けの私的細胞バンクとして有用である。
本邦では高齢化が進むにつれ、骨粗鬆症患者が増加している。それに伴い、難治性の骨折患者も増加しているが、骨折部位への胎盤由来間葉系細胞、もしくはそれから誘導した骨芽細胞を局所に細胞移植することで、骨形成や治癒を促進できる。また、胎盤由来間葉系細胞は種々の分化誘導因子のレセプターを発現することから、これら分化誘導因子を用いて種々の実質臓器細胞をin vitroで誘導し、骨疾患以外の臓器・組織障害における再生医療に用いることができる。
また、高齢者の人口が増えるに従い、神経系の疾患患者の増加、とくに脳梗塞・脳出血やパーキンソン(Parkinson)症候群の患者の増加も問題である。近年、パーキンソン病患者の線状体にドーパミン産生細胞を移植する試みがなされているが、本発明にかかる胎盤由来の間葉系細胞は、上述したように神経系前駆細胞を経てドーパミン作動性ニューロンに分化できることから、パーキンソン病の治療および予防に有用である。また、将来的には脳梗塞・脳出血により傷害された運動ニューロン等の再生をめざす医療も行われるであろう。本発明にかかる胎盤由来の間葉系細胞は、これらの再生医療に有用である。その場合、臍帯血バンクを通じて得られるMHCの情報をもとに、MHCを一致させた細胞移植が可能となれば、同種移植に伴う拒絶反応を可及的に抑えることができ、いままでの臓器移植でみられたような激しい拒絶反応を軽減できる。
すなわち、本発明にかかるホ乳動物の胎盤から採取した間葉系細胞は医薬として応用することができる。具体的には、前記間葉系細胞を細胞または臓器再生剤として用いることが好ましい。この場合の「細胞」としては特に限定されないが、骨芽細胞、各種生理活性物質産生細胞、神経系細胞などが挙げられる。生理活性物質産生細胞としてはドーパミン産生細胞等が挙げられ、神経系細胞としては運動ニューロン等が挙げられるが、これらに限定されない。また、神経系細胞としては神経系前駆細胞;神経幹細胞;ニューロン、特にドーパミン作動性ニューロン;神経膠星状細胞;希突起神経膠細胞;またはシュワン細胞も挙げられる。なかでも、本発明にかかる間葉系細胞を骨芽細胞の再生剤として用いることが好ましい。また、本発明にかかる間葉系細胞をドーパミン作動性ニューロンの再生剤として用いることが好ましい。
また、本発明にかかるホ乳動物の胎盤から採取した間葉系細胞から分化誘導された細胞も医薬として応用することができる。例えば、本発明にかかる間葉系細胞を所望の組織や臓器に適合する細胞に分化誘導した場合、かかる分化誘導された細胞は、前記組織や臓器の障害を治癒もしくは緩和、または更なる悪化の予防のための医薬として用いることができる。もちろん、分化する前の本発明にかかる間葉系細胞も前記用途に用いることができる。より具体的には、本発明にかかる間葉系細胞または前記間葉系細胞から分化誘導された所望の組織や臓器に適合する細胞を、障害のある組織または臓器に移植することにより、前記組織または臓器を再生することができる。このように再生され得る組織または臓器としては、特に限定されないが、例えば、血管、角膜、半月板、脳組織、皮膚、皮下組織、上皮組織、骨組織もしくは筋組織等の組織;または、眼、肺、腎臓、心臓、肝臓、膵臓、脾臓、小腸を含む消化管、膀胱、卵巣または精巣などの臓器が挙げられる。また前記組織としては、神経系前駆細胞;神経幹細胞;ニューロン、特に、運動性ニューロンもしくはドーパミン作動性ニューロン;神経膠星状細胞;希突起神経膠細胞またはシュワン細胞などの神経系細胞も挙げられる。特に、本発明にかかる間葉系細胞または該間葉系細胞から分化誘導された骨芽細胞は、骨粗鬆症の予防治療薬または骨形成薬として用いることが好ましい。また、本発明にかかる間葉系細胞、該間葉系細胞から分化誘導された神経系前駆細胞または該神経系前駆細胞からさらに分化誘導されたドーパミン作動性ニューロンは、パーキンソン病の予防治療薬として用いることが好ましい。
上記のような本発明にかかる医薬は、含有されている本発明にかかる間葉系細胞のMHCが明示されていることが好ましい。本発明にかかる間葉系細胞が、上述のように臍帯血分離採取後の胎盤から単離されるものである場合、かかる胎盤のMHCに関する情報は、臍帯血バンクを通じて容易に得られる。また、それ以外の場合でも公知の方法に従ってMHCを確認することができる。このようにMHCが明示されていれば、レシピエントのMHCと同一型のMHCを有する間葉系細胞を含んだ本発明にかかる医薬を用いることにより、細胞移植の際の拒絶反応を低減することができる。すなわち、本発明は、レシピエントのMHCと同一型のMHCを有する、ホ乳動物の胎盤から採取した間葉系細胞または該間葉系細胞から分化誘導された細胞を移植することを特徴とする細胞移植時の拒絶反応低減方法を提供する。
上述の本発明に係る医薬は、活性成分である上記本発明に係る間葉系細胞または該間葉系細胞から分化誘導された細胞そのものであってもよいが、通常、該活性成分と薬理学的に許容される担体とを自体公知の方法[製剤技術分野において慣用の方法、例えば日本薬局方(例えば第13改正)に記載の方法等]にしたがって混合することによって製造される。薬学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、例えば、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などが挙げられる。また必要に応じて、界面活性剤、発泡剤、色素、酸味剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、矯味剤などの製剤添加物を用いることもできる。
薬学的に許容される担体として、より具体的には、クエン酸カルシウム、リン酸カルシウムなどの無機塩の賦形剤;例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、軽質無水ケイ酸、含水二酸化珪素などの滑沢剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、α化デンプン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム末、ゼラチンまたはプルランなどの結合剤;低置換度ヒドロキシプロピルセルロースや結晶セルロース等のセルロース類、トウモロコシデンプン、部分α化デンプンやヒドロキシプロピルスターチ等の各種デンプンもしくはデンプン誘導体、クロスポビドンまたはベントナイト等の崩壊剤等が挙げられる。
また、塩溶液、ブドウ糖溶液または塩溶液とブドウ糖溶液の混合物などの溶剤;例えば、デキストラン、ポリビニルピロリドン、安息香酸ナトリウム、エチレンジアミン、サリチル酸アミド、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油誘導体など溶解補助剤;例えば、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸緩衝剤など緩衝剤;例えばアルブミン、グリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコール、リドカイン塩酸塩、ベンジルアルコールなど無痛化剤等が挙げられる。
さらには、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、リン脂質、グリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ショ糖脂肪酸エステルなどの界面活性剤;例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどの発泡剤;例えばクエン酸、酒石酸、リンゴ酸など酸味剤;例えば、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、タール系色素などの色素;例えば、レモン、レモンライム、オレンジ、パイン、ミント、メントールなどの香料;例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチンなどの甘味剤;例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、コハク酸、酒石酸、フマル酸、グルタミン酸などの矯味剤などが挙げられる。
さらに、安定化剤としては、例えば糖類や亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。糖類としては、グルコース、フルクトース、キシリトール、フコース、ガラクトースなどの単糖類;マルトース、シュクロース、ラクトース、ラクツトース、メリビオースなどの二糖類;フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラクトオリゴ糖などのオリゴ糖類;デキストランなどの多糖類などが挙げられる。保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル、ベンジルアルコール、クロロクレゾール、フェネチルアルコール、塩化ベンゼトニウムなどが挙げられる。キレート剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
本発明に係る医薬の剤形としては、例えば錠剤(多層錠、糖衣錠もしくは腸溶錠などのコーティング錠を含む。)、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセル、腸溶性カプセルを含む)、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の経口剤;および注射剤(例、皮下注射剤,静脈内注射剤,筋肉内注射剤,腹腔内注射剤等)、外用剤(例、経鼻投与製剤,経皮製剤,軟膏剤等)、坐剤(例、直腸坐剤,膣坐剤等)、ペレット、点滴剤、徐放性製剤(例、徐放性マイクロカプセル等)等の非経口剤が挙げられる。
本発明にかかる医薬の投与量は、医薬の剤型、治療すべき病態の種類、症状および疾患の重篤度、患者の年齢、性別もしくは体重、投与方法などにより異なるので、一概には言えないが、医師が上記の状況を総合的に判断して決定することができる。
本発明にかかる医薬の投与経路は、特に限定されず、上述のような本発明にかかる医薬の形態により、経口投与してもよいし、非経口投与していもよい。例えば、本発明にかかる医薬が注射剤の場合、例えば、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射のような医療上適当な投与形態が例示できる。
また、本発明にかかる医薬、好ましくは、本発明にかかる間葉系細胞または該間葉系細胞から分化誘導された骨芽細胞を含む医薬は、骨修復や骨移植の際の骨形成促進薬として骨再建用の担体に混合することもできる。例えば、本発明の医薬を金属、セラミックまたは高分子を材料とする人工骨などに付着または含有させて用いることができる。人工骨は、それが骨欠損部に移植された際に生体組織において、前記本発明にかかる医薬が放出されうるように表面を多孔性にすることが好ましい。本発明の医薬は、適当な分散剤、結合剤、希釈剤など(例えば、コラーゲン、生理食塩水、クエン酸溶液、酢酸溶液、ハイドロオキシアパタイト、フィブリンまたはこれらの混合液など)に分散させ、これを人工骨に塗布または含浸し、乾燥させることによって付着または含有させることができる。このような人工骨は骨欠損部に移植され、欠損部に強固に固定される。また、本発明にかかる医薬は人工骨の固定化剤として用いることもできる。前記人工骨の固定化剤は、有効成分である本発明にかかる間葉系細胞または該間葉系細胞から分化誘導された細胞、好ましくは骨芽細胞を、医薬として使用する際生理的に許容される分散媒、結合剤、希釈剤、骨再生に有効な他の成分(例えばカルシウム)などと混合して調製することができる。人工骨固定剤は、これを人工骨に付着または含有させることなく、宿主の骨欠損部に移植される人工骨とその骨欠損部との間隙に充填するように用いることもできる。
実施例
下記実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されないことは言うまでもない。なお、下記実施例において、「%」は特に断りのない限り、「重量%」を示す。
<実施例1>
(1)ヒト胎盤からの間葉系細胞の分離・同定
東京臍帯血バンクで臍帯血分離採取後の胎盤を、インフォームドコンセントを得た後入手した。すべて38週から40週までの正期産の胎盤で、重量は420gから630g(中央値 552g)であった。搬送は氷冷(on ice)にて行い、4時間以内に細胞採取を開始した。
胎盤から臍帯と羊膜を除去した後、母体側からハサミで組織を採取した。さらにメスで5mm角に細切した後、Ca2+およびMg2+不含リン酸緩衝液[PBS(−)]で血液を可及的に除いた。このようにして1個の胎盤から200−300gの胎盤切片が採取できた。トリプシン処理法(T法)、およびトリプシン処理とその後FACSソーティング(FACS sorting)を組み合わせた方法(T/S法)では、この胎盤切片をビーカーに移し、0.05%トリプシン/1mM EDTA(GIBCO−BRL)を330ml加え、スターラーで撹拌しながら室温で細胞を単離した。10分後溶液を回収し、直ちに5%容積のウシ胎児血清(FBS;Sigma、St.Loise、MO)を加えてトリプシンの反応を阻止した。同様の処理をこの後2回行い、総量で1,000mlの細胞懸濁液を得た。氷冷したPBS(Ice−cold PBS)で1回洗浄した後、PBSに懸濁してFicoll−Hypaque(Pharmacia Biotech AB、Uppsala、Sweden)で単核球を分離した。ダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium:DMEM、低グルコース(low glucose)、Sigma)+10%FBSに懸濁し、培養を開始した。胎盤切片からの成長(outgrowth)を利用した方法(エクスプラント(explant)法、E法)では、上記胎盤絨毛切片をさらに数mm角に細切し、接着させるために20分間風乾し、その後培養液を添加して14日間培養したあと回収した。
(2)FACS解析および選別(sorting)
トリプシン処理10日後に細胞を回収(harvest)し、以下の抗体の組み合わせで染色した。FITC−SH2(Alan Smith氏より入手、Osiris Theraputics、Baltimore、MD)(FITC−CD31、あるいはFITC−TIE−2でも解析)、PE−CD45、propidium iodine(PI)、APC−CD34;FITC−マウスイムノグロブリン(mouse immunoglobulin)G1(IgG1)、PE−IgG1、PI、APC−IgG1(FITC−SH2以外はいずれもBecton−Dickinson、Mountain View、CA)。染色した細胞は、FACS Calibur(Becton Dickinson)とCELLQuest software(Becton Dickinson)で測定した。得られたデータは、FlowJosoftware(TreeStar、San Carlos、CA)で解析して図を作成した。細胞の選別に関しては、FITC−SH2、PE−CD34/PE−CD45、PIの組み合わせで細胞を染色し、PIで死細胞を除いた後、CD34−CD45−SH2+細胞とCD34+D45+SH2−細胞にゲート(gate)をかけてfluorescence−activated cell−sorter(FACS)Vantage SE(Becton−Dickinson)を用いて選別(sorting)した。選別後、DMEM+10%FBSでCD34−CD45−SH2+細胞を培養し、適度に増殖(expand)した後10%DMSOを含む培養液で凍結保存した。その後の実験にはこれらのサンプルを解凍し、20集団倍加レベル(PDL)以内で解析に用いた。
サイドポピュレーション(side population;SP)の解析は、細胞を10μM Hoechst33342(Molecular Probes、Eugene、OR)を含むRPMI−1640+10%FBSで90分間培養し、FITC−SH3(Alan Smith氏より入手、Osiris)、PE−CD34/PE−CD45、PIの組み合わせで染色してFACS Vantage SEで解析した。SPであることの確認は、50μMベラパミル(verapamil)(Sigma)存在下でSPが消失することで行った。
(3)胎盤由来間葉系細胞の増殖能
T法、T/S法、およびE法を用いて単離した胎盤細胞を、35mmの培養皿(dish)(DMEM+10%FBS、2.0ml)に1x104cells/cm2の細胞密度で培養し、1、3、5、7日目に0.25%トリプシンで細胞を回収して細胞数を測定し、増殖曲線を描いた。
(4)RT−PCRによるmRNAの解析
細胞をTrisol−LS(GIBCO−BRL)で処理し、RNAを抽出した。cDNAの合成はrandom hexamerを用い、Superscript kit(GIBCO−BRL)で逆転写(reverse transcription)を行った。オリゴヌクレオチドプライマー(oligonucleotide primers)は、以下のものを用いた。アクチビン受容体タイプIIB(activin receptor type IIB:ACTRIIB)(550bp product;AF060200):ACTRIIB−F(5’−ACACGGGAGTGCATCTACTACAACG−3’)(配列番号1)、ACTRIIB−R(5’−TTCATGAGCTGGGCCTTCCAGACAC−3’)(配列番号2)。骨形成タンパク4受容体タイプII(Bone morphogenic protein 4 receptor type II:BMPR4RII)(800bp product;D50516):BMPR4RII−F(5’−TCTGCAGCTAGGTCCTCTCATCAGC−3’)(配列番号3)、BMPR4RII−R(5’−TATACTGCTCCATATCGACCTCGGC−3’)(配列番号4)。肝細胞成長因子受容体(hepatocyte growth factor receptor:c−Met)(440bp product;ACO02080):c−Met−F(5’−AGAAATTCATCATCAGGCTGTGAAGCGCG−3’)(配列番号5)、c−Met−R(5’−TTCCTCCGATCGCACACATTTGTCG−3’)(配列番号6)。レチノイン酸受容体タイプα(retinoic acid receptor type α:RAR)(500bp product;AHO07261):RAR−F(5’−AGCAGCAGTTCTGAAGAGATAGTGCC−3’)(配列番号7)、RAR−R(5’−GTGGAGAGTTCACTGAACTTGTCCC−3’)(配列番号8)。α−胎児性タンパク(α feto protein:αFP)(680bp product;J00077):αFP−F(5’−AGAACCTGTCACAAGCTGTG−3’)(配列番号9)、α FP−R(5’−GACAGCAAGCTGAGGATGTC−3’)(配列番号10)。アルブミン(albumin)(450bp product;M112523):albumin−F(5’−CCTTTGGCACAATGAAGTGGGTAACC−3’)(配列番号11)、albumin−R(5’−CAGCAGTCAGCCATTTCACCATAGG−3’)(配列番号12)。心筋アクチン(cardiac acti:cACT)(630bp product;NM005159):cACT−F(5’−TCTATGAGGGCTACGCTTTG−3’)(配列番号13)、cACT−R(5’−CCTGACTGGAAGGTAGATGG−3’)(配列番号14)。軟骨マトリックスタンパク(cartilage matrix protein:CMP)(620bp product;M55679、M55680):CMP−F(5’−ATGACTGTGAGCAGGTGTGCATCAG−3’)(配列番号15)、CMP−R(5’−CTGGTTGATGGTCTTGAAGTCAGCC−3’)(配列番号16)。ドーパミンβヒドロキシラーゼ(dopamine β hydroxylase:DβH)(440bp product;X13259、X13262):DβH−F(5’−CACGTACTGGTGCTACATTAAGGAGC−3’)(配列番号17)、DβH−R(5’−AATGGCCATCACTGGCGTGTACACC−3’)(配列番号18)。ケラチン(keratin)(780bp product;X63755):keratin−F(5’−AGGAAATCATCTCAGGAGGAAGGGC−3’)(配列番号19)、keratin−R(5’−AAAGCACAGATCTTCGGGAGCTACC−3’)(配列番号20)。レニン(renin)(590bp product;AHO07216):renin−F(5’−AGTCGTCTTTGACACTGGTTCGTCC−3’)(配列番号21)、renin−R(5’−GGTAGAACCTGAGATGTAGGATGC−3’)(配列番号22)。PCRサイクルの条件(cycling conditions)は、94℃で30秒;56℃で30秒;72℃で1分を1サイクルとして、30サイクル行った。PCR産物は、エチジウムブロマイド(ethidium bromide)を含む20%アガロースゲル(agarose gel)で電気泳動して紫外線(UV light)で解析した。コントロールとしては、β−アクチン(β−actin)mRNAを用いた。
(5)脂肪細胞、軟骨芽細胞および骨芽細胞への分化誘導
脂肪細胞への誘導は、以下のように行った。まず、胎盤由来間葉系細胞を2x104/cm2の細胞密度でDMEM+10%FBSで培養を開始し、2−3日おきに培地を交換して集密性(confluent)にした。つぎに、1μMデキサメサゾン(dexamethasone)、0.2mMインドメタシン(indomethacin)、0.01mg/mlインシュリン(insulin)、0.5mM 3−イソブチル−1−メチル−キサンチン(3−isobutyl−1−methyl−xanthine)、10%FBS、0.05U/mlペニシリン(penicillin)および0.05mg/mlストレプトマイシン(streptomycin)を含むDMEM−高グルコース(high glucose)(誘導用培地)で3日間培養した後、0.01mg/mlインシュリン(insulin)、10%FBS、および抗生物質を含むDMEM−高グルコース(high glucose)(維持用培地)で1−3日間培養し、以上を1サイクルとし、これを3サイクル繰り返して行った。その後、維持用培地で7日間培養し、脂肪の蓄積の有無をOil Red”0”染色で確認した。
軟骨芽細胞への誘導は、以下のように行った。まず、血清を含まないDMEM−高グルコース(high glucose)に1μMデキサメサゾン(dexamethasone)、1mMピルビン酸ナトリウム(sodium pyruvate)、0.17mMアスコルビン酸2リン酸エステル(ascorbic acid−2−phosphate)、0.35mMプロリン(proline)、6.25μg/mlウシのインシュリン(bovine insulin)、6.25μg/mlトランスフェリン(transferrin、鉄結合性グロブリン)、6.25μg/ml亜セレン酸(selenous acid)、5.33μg/mlリノール酸(linoleic acid)、1.25mg/ml BSA、および抗生物質を添加した軟骨誘導培地を作成した。また、これに0.01μg/mlトランスフォーミング成長因子(transforming growth factor,TGF)−β3を添加した軟骨誘導培地も作成した。まず、細胞を遠心分離して上清を捨て、TGF−β3を含まない軟骨誘導培地で1回細胞を洗浄した。15mlのチューブ当たり、2.5x105cells/0.5mlを分注し、遠心して微小集積(micromass)を作製した。TGF−β3を含む培地で微小集積(micromass)を28日間培養した。培地交換は2または3日で行った。微小集積(micromass)でのグルコサミノグリカン(glycosaminoglycans)の産生の有無は、Safranin 0染色で確認した。
骨芽細胞への誘導は、3x103/cm2の細胞密度で、1μMデキサメサゾン(dexamethasone)、0.05mMアスコルビン酸−2−リン酸エステル(ascorbic acid−2−phosphate)、10mM β−グリセロリン酸(β−glycerophosphate)、10%FBS、および抗生物質を添加したDMEM−高グルコース(high glucose)で、細胞を3週間培養して行った。培地交換は3または4日で行った。骨形成は、カルシウムの沈着をKossa染色で確認した。また、カルシウム分泌量の定量は、Wako製試薬を用いて行った。
(6)神経系細胞への分化誘導
胎盤由来間葉系細胞を、0.001%ポリ−L−リジン(poly−L−lysine)でコートした培養皿(dish)で、DMEM/10%FBSを用いて培養した。神経系細胞への誘導は、DMEM/F12(1:1)/B27に、200mMブチルヒドロキシアニソール(butylated hydroxyanisole)(BHA;Sigma)、0.5mM 3−イソブチル−1−メチル−キサンチン(3−isobutyl−1−methyl−xanthine)(IBMX)、10%FBS、1mMジブチリルサイクリックAMP(dibutyryl cyclic AMP)(dbc AMP;Sigma)、2.5%DMSOで、24時間培養して行った。
(7)免疫細胞染色
培養細胞を4%パラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)(Sigma)で固定し、x1,000倍に希釈した抗ニューロン特異エノラーゼ(neuron specific enolase)(NSE)抗体を反応させた後、Vectastain ABC kit(Vector Laboratories,Burlingame、CA)で染色した。
(8)結果1(胎盤由来細胞のFACS解析)
胎盤からトリプシンを用いて単離した細胞は、単離後数日以内は抗体でよく染まらない。そこで、10日間あまり培養後、接着/非接着細胞の両方を回収して抗体で染色した後、FACSで解析した。細胞をCD34とCD45の染色性で解析すると、CD34−CD45+細胞、CD34+CD45dim細胞、およびCD34−CD45−細胞の3つに大別できた(第1図(B))。我々は、CD34−CD45−SH2+細胞とCD34±CD45+SH2−細胞をFACSで選別(sorting)し、それぞれ培養した。16時間培養後、CD34±CD45+SH2−細胞は培養基に接着しなかったが、CD34−CD45−SH2+細胞は接着して線維芽細胞様の形態を示した。CD34−CD45−SH2+細胞はDMEM+10%FBSで培養して増殖(expand)し、10%DMSO、25%FBSを添加した培養液で細胞を懸濁し、チューブに分注した後、一夜で緩徐に冷却して−135℃に凍結保存した。以後、実験に用いる場合、急速に解凍して培養液で洗浄し、培養を開始した。
サイドポピュレーション(side population:SP)の解析では、トリプシン処理とその後FACSソーティング(FACS sorting)を組み合わせた方法(T/S法)、および胎盤切片からの成長(outgrowth)を利用した方法(エクスプラント(explant)法、E法)のいずれの方法で分離した細胞も、0.1%以下のSPしか存在せず、大部分はG0/G1期の細胞であった。低頻度ながら認められたSPについて、その表面マーカーを解析したところ、SH3+D34−CD45−で、造血幹細胞とは異なるものであった(第2図)。
(9)結果2(CD34−CD45−SH2+細胞の増殖能)
トリプシン処理法(T法)、T/S法、およびE法を用いて単離した胎盤細胞の培養で得られた増殖曲線から、倍加時間はそれぞれ28時間、25時間、および20時間で、E法により単離した細胞がもっとも増殖能が高かった(第4図)。
(10)結果3(胎盤由来間葉系細胞に構成的に発現するmRNAの解析)
RT−PCRを用いた我々の解析で、T法、T/S法、E法いずれの胎盤由来細胞でも分化誘導因子に対するレセプター、すなわちBMP 4RII、c−met、RAR、ACTRIIBのmRNAが構成的に発現していることが判明した。また、cACT、レニン(renin)、ケラチン(keratin)のmRNAを構成的に発現していた。一方、DβH、αFP、CMP、アルブミン(albumin)のmRNAは発現がみられなかった(第5図)。
(11)結果4(脂肪細胞、軟骨芽細胞、および骨芽細胞への分化誘導)
胎盤由来の細胞は、いずれの細胞も脂肪細胞、軟骨芽細胞への誘導はみられなかった。一方、骨芽細胞への誘導は、いずれの胎盤由来の細胞でも高頻度でみられ(第6図B、Kossa染色)、細胞外へ沈着したカルシウムがカルシウム定量法で証明された(第7図)。
(12)結果5(神経系細胞への分化誘導)
胎盤由来の細胞をBHA/IBMX/dbcAMP/DMSOにより3時間処理することで、神経系の細胞形態がみられた。24時間処理した細胞で神経系マーカーであるNSEを免疫染色した結果、神経突起をもつ細胞は茶色に染まった(第8図B、→の部分)が、線維芽様の細胞は、ほとんど染まらなかった(第8図B、>の部分)。
<実施例2>
(1)試薬
本実施例では、下記の試薬を用いた。
0.1%ポリLリジン(分子量75000−150000)は和光純薬工業株式会社、ダルベッコ変法イーグル培地低グルコース(DMEM)はシグマアルドリッチジャパン株式会社、ウシ胎児血清(FBS)はSTERILE FETAL BOVINE SERUM(BATCH:49300702,MOREGATE,AUSTRALIA & NEW ZEALAND)、トリプシン溶液(0.25%)、DMEM/F12(1:1)培地、B27 supplementはGIBCO BRL、ブチルヒドロキシアニソール(butylated hydroxyanisole;BHA)、イソブチルメチルキサンチン(isobutylmetylxanthine:IBMX)、ジブチリルサイクリックAMP(dibutyryl cyclic AMP:dbcAMP)、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide:DMSO)は、シグマアルドリッチジャパン株式会社より購入した。ヒト塩基性線維芽細胞成長因子(human basic fibroblast growth factor)(組換え体(recombinant))はAustral Biologicalsより購入した。ウサギ抗−ネスチンポリクローナル抗体(rabbit anti−nestin polyclonal antibody)、マウス抗−ニューロン特異エノラーゼ(NSE)モノクローナル抗体(mouse anti−neuron specific enolase(NSE)monoclonal antibody)、ウサギ抗−グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)ポリクローナル抗体(rabbit anti−glial fibrillary acidic protein(GFAP)polyclonal antibody)、マウス抗−2’,3’−サイクリックヌクレオチド 3’−ホスホジエステラーゼ(CNPase)モノクローナル抗体(mouse anti−2’,3’−cyclic nucleotide 3’−phosphodiesterase(CNPase)monoclonal antibody)、ウサギ抗−チロシンヒドロキシラーゼ(TH)ポリクローナル抗体(rabbit anti−tyrosine hydroxylase(TH)polyclonal antibody)はChemicon社、モノクローナル抗−β−チューブリンイソタイプIII(beta III tubulin)(monoclonal anti−beta−tubulin isotype III(beta III tubulin))はシグマアルドリッチジャパン株式会社より購入した。Vecta stainABC kitはVector Laboratoriesより購入した。
(2)ヒト胎盤からの間葉系細胞の単離
東京都臍帯血バンクでインフォームドコンセントを得て提供され、胎児が男性の胎盤を用いた。胎児側の絨毛および母体側の基底脱落膜からの間葉系細胞の単離はそれぞれの組織から約1mm3の組織片を培養皿(Falcon)にはりつけ、組織片から細胞を遊走させるエクスプラント(explant)法を用い、DMEMに10%FBSを含む培養液で培養した。そして、遊走した細胞を0.25%トリプシンで剥がし、集めた細胞を再び播種し、細胞増幅させた。なお、増幅させた細胞が胎児または母体由来かを確認するために、染色体FISH解析(株式会社エスアールエルに依頼)により増幅させた細胞のXY染色体を調べ、完全に胎児側と母体側で区別されていることをFISH解析によって確認し、実験に用いた。また、増幅させた胎児側由来細胞と母体側由来細胞については、それぞれの培養物に終濃度が10%になるようにDMSOを添加後、徐冷して液体窒素中で凍結保存した。
(3)神経系細胞への分化誘導
胎児側の絨毛および母体側の基底脱落膜からの間葉系細胞を0.001%ポリLリジンコートした培養皿(Falcon)にDMEM+10%FBSにより1−2.5x104cells/cm2播種し、5%CO2インキュベータで培養した。24時間後、DMEM/F12(1:1)培地で1回洗浄後、B27 supplement含有DMEM/F12(1:1)培地に100μM BHA/0.5mM IBMX/1mM dbcAMP/1.5%DMSOを添加した分化誘導培地で24時間培養し倒立顕微鏡により観察した。異なる5箇所の領域について倒立顕微鏡により神経系形態の細胞を数え、コントロールの細胞と比較し定量化した。
(4)免疫細胞染色
細胞を4%パラホルムアルデヒド固定し、1次抗体としてネスチン(Nestin)およびNSE、ベータIIIチューブリン(beta III tubulin)、GFAP、CNPase、THを4℃、一晩インキュベーションし、その後Vecta stainABC kitを用いて染色した。
(5)FACSによる表現形の解析
トリプシン処理10日後に細胞を回収(harvest)し、実施例1に記載した方法に準じて抗体と組合わせて細胞を染色した。染色した細胞は、FACS Calibur(Becton Dickinson)にチャージし、CELL Quest software(Becton Dickinson)を用いて測定した。得られたデータはFlowJo software(TreeStar,San Carlos,CA)で解析し、図を作成した(第12図および第13図)。
(6)結果および考察
胎盤から取り分けた間葉系細胞のFISH解析結果を第1表に示す。表中の数値は、試験数3の平均値±SDを表す。XXおよびXY染色体の分布率から明らかなように、胎児(男子)側由来間葉系細胞と母体側由来間葉系細胞とをほぼ完全に取り分けることができた。
第12図および第13図から明らかにように、これらの胎児側由来間葉系細胞および母体側由来間葉系細胞は、いずれも、CD31、CD34、CD45、CD133、TIE−II、HLA−DRを発現していなかったが、CD44、CD73、CD90、CD105、HLA−class Iは発現していた。この中で、特にCD90(Thy−1)の発現が認められることが本発明の間葉系細胞の大きな特徴であり、このことは神経系細胞へ分化する能力を有していることを明確に示している。
また、ヒト胎盤胎児側の絨毛および母体側の基底脱落膜から単離した間葉系細胞を分化誘導培地で24時間培養した結果、いずれの細胞も小さな細胞質で突起をもった神経系様の細胞形態を示した(第9図A、B)。神経系様の形態をした細胞を定量化した結果、胎児側由来の間葉系細胞では約30%(第9図C)、母体側由来の間葉系細胞では約3%の細胞が神経系様の細胞形態を示した(第9図D)。
これらの神経系様の細胞がどのような神経系細胞のマーカーを発現しているかを調べるために免疫細胞染色を行った(第10図、第11図)。胎児側および母体側由来の神経系様の細胞に神経幹細胞でみられるネスチン(Nestin)、ニューロンのマーカーであるNSE、ベータIIIチューブリン(beta III tubulin)、アストロサイトのマーカーであるGFAPが陽性であり、オリゴデンドロサイトのマーカーであるCNPaseが陰性であった。これらの結果から、24時間で分化誘導した神経系様細胞は神経系前駆細胞である。また、ドーパミンニューロンのマーカーであるTHが陽性を示したことから、間葉系細胞は中脳黒質のドーパミン作動性ニューロンが選択的に変性脱落し運動障害が生じるパーキンソン病の治療に利用できる。
産業上の利用可能性
本発明にかかるホ乳動物、好ましくはヒトの胎盤から採取した間葉系細胞は、種々の分化誘導因子に反応し、様々な細胞種に分化誘導できるため、再生医療の細胞ソースとして極めて有用である。特に、ホ乳動物、好ましくはヒトの胎盤から採取した間葉系細胞から分化誘導された骨芽細胞は、骨粗鬆症の予防治療薬または骨形成薬として有用である。また、ホ乳動物、好ましくはヒトの胎盤から採取した間葉系細胞から分化誘導された神経系細胞は、パーキンソン病、脳梗塞・脳出血の治療予防薬として有用である。例えば、本発明にかかる間葉系細胞、または該間葉系細胞から分化誘導されたドーパミン作動性細胞をパーキンソン病患者の線状体に移植することにより、パーキンソン病を治療または予防することができる。さらに、本発明にかかる間葉系細胞、該間葉系細胞から分化誘導された神経系前駆体細胞、または該神経系前駆体細胞から分化誘導されたドーパミン作動性ニューロンを用いることにより、パーキンソン病を治療または予防することもできる。また、本発明にかかる間葉系細胞、または該間葉系細胞から分化誘導された運動ニューロン等により、脳梗塞・脳出血により傷害された運動ニューロン等の再生することができる。
さらに、本発明によれば、ひとつの胎盤から胎児側由来の間葉系細胞と母体側由来の間葉系細胞とを取り分けることができるので、それぞれの細胞を含む細胞凍結物を別々に保存・管理することができる。これにより、他人向けの公的細胞バンクのみならず、特に母親向けの私的細胞バンクや子供自身または家族向けの私的細胞バンクを構築することが可能となる。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
第1図について下記に説明する。DMEM/10%FBSでの10日間の培養の後、1mM EDTA中、インキュベイション(incuvation)を用いて細胞を回収し、その細胞をFITC−SH2(SH3、CD31またはTIE−2)、PE−CD45、propidium iodine(PI)、APC−CD34を用いて染色した。細胞を4色フローサイトメーターで分析した。これらの細胞について、第1図(A)に示すとおり生細胞にゲートをかけた。横軸のSSCは側方散乱(side scattering)、縦軸のFSCは前方散乱(forward scattering)である。ついで、ゲートをかけた部分を第1図(B)に示すとおり、CD34およびCD45について展開した。胎盤由来細胞は、CD45に対するCD34の形状(configugation)において、CD34−CD45+細胞、CD34+CD45dim細胞、およびCD34−CD45−細胞の3つに大別できた(第1図(B))。
第2図は、CD34−CD45+細胞、CD34+CD45dim細胞およびCD34−CD45−細胞、それぞれの表現型におけるCD31、TIE−2およびSH2の発現量を分析した結果を示す。
第3図について下記に説明する。10日間の培養の後、細胞を回収し、その細胞をFITC−SH2、PE−CD45、PI、APC−CD34を用いて染色した。CD34−CD45+SH2+細胞を選別し、細胞数を14.8PDLにするために前記細胞を培養した。CD34−CD45−SH2+細胞を、10μM Hoechst33342が含まれているDMEM/10%FBSで、10μMベラパミルを用いてまたは用いずに、90分間培養した。それら細胞を、FITC−SH3、PE−CD34/PE−CD45およびPIで染色した((A)および(B)の上欄)。また、エクスプラント(explant)法によって単離した胎盤由来細胞も染色した((A)および(B)の下欄)。エクスプラント(explant)方法によって単離した胎盤由来細胞は、Hoechst redに対するHoechst blueの形状(configugation)において3つに大別される。すなわち、G0/G1群、G2/M群、Hoechst33342によっては染色されない群(いわゆるサイドポピュレーション(side population:SP))である((A)の下欄)。ベラパミルの存在下では、SPは現れなかった。このSPの表面表現型は、(B)に示されている。
第4図について下記に説明する。直径3.5cmのプラスチック培養皿に、DMEM+10%FBSを2.0ml入れ、そこに1×104cells/cm2の細胞密度で細胞を植えた。培養後1、3、5、7日目に0.25%トリプシン溶液で細胞を回収して、ヘマサイトメーター(hemacytometer)を用いて細胞数を測定した。測定結果は、n=4の平均±SDで表わした。本実験に用いられたヒト胎盤由来の間葉系細胞を、トリプシン処理法(塗りつぶしの四角、8.3PDL)とトリプシン処理とその後FACSソーティング(FACS sorting)を組み合わせた方法(塗りつぶしの丸、12.5PDL)、およびエクスプラント(explant)法(塗りつぶしの三角、10.4PDL)を用いて単離した。第4図には、前記3通りの方法で単離された細胞の増殖曲線を描いた。
第5図について下記に説明する。間葉系細胞についてRT−PCRを用いて、次ぎに掲げるmRNA;骨形成タンパク4受容体タイプII(bone morphogenic protein 4 receptor type II:BMP4RII)、c−met、レチノイン酸受容体タイプα(retinoic acid receptor type α:RAR)、アクチビン受容体タイプIIB(activin receptor type IIB:ACTRIIB)、ドーパミンβヒドロキシラーゼ(dopamine β hydroxylase:DβH)、心筋アクチン(cardiac actin:cACT)、アルブミン(albumin)、α−胎児性タンパク(α−feto protein:αFP)、レニン(renin)、軟骨マトリックスタンパク(cartilage matrix protein:CMP)、ケラチン(keratin)およびβ−アクチン(β−actin)の発現量を解析した。レーン1は、CD34−CD45−SH2+選択細胞における前記mRNAの発現量の解析結果である。レーン2は、エクスプラント(explant)法で単離された細胞における前記mRNAの発現量の解析結果である。レーン3はトリプシン処理で単離された細胞における前記mRNAの発現量の解析結果である。レーン4は、RT−ネガティブ(RT−negative)な比較例である。それぞれのポジティブコントロール(positive controls)として、以下の細胞;BMPR、骨髄細胞(bone marrow cells);c−Met、HepG2;αFP、HepG2;レニン(renin)、real cells;CMP、骨髄細胞(bone marrow cells);ケラチン(keratin)、ヒーラ細胞(Hela cells)を用いた。
第6図について下記に説明する。デキサメタゾン(dexamethasone)、アスコルビン酸−2−リン酸エステル(ascorbic acid−2−phosphate)、β−グリセロリン酸(β−glycerophosphate)を用いた2−3週間の処理により、ヒト胎盤由来の間葉系細胞培養液中で、骨芽細胞への分化を誘導した。単離された間葉系細胞は、集合体または小結節を形成していた。骨形成は、Kossa染色で示されたカルシウムの沈着によってもわかった(B)。一方、脂肪細胞、軟骨芽細胞への誘導は認められなかった(A)。
第7図について下記に説明する。胎盤由来間葉系細胞の2種類から誘導された培養液中のカルシウム濃度を測定した。本実験で用いられた胎盤由来間葉系細胞は、トリプシン処理とその後FACSソーティング(FACS sorting)を組み合わせた方法(塗りつぶし丸、12.5PDL)およびエクスプラント(explant)法(塗りつぶし四角、10.4PDL)によって単離された。
第8図について下記に説明する。ポリ−L−リジンで被覆されている24−マルチウェルプレート上で、胎盤由来の細胞を200μM BHA/0.5mM IBMX/1mM dbcAMP/2.5%DMSOで24時間処理した。Aは、細胞を位相差顕微鏡で見た図を示す。長い細胞質突起を作っている細胞が見受けられる。Bは、ニューロンに分化しているNSEの発現を示す。未分化の胎盤由来細胞(>)は、平らな形態を保持し、NSE発現のためにわずかに染色されただけであった。一方、胎盤由来の神経系細胞(→)はNSE発現により茶色に染まった。そして、凝縮した細胞体と高度に枝分かれした突起がみられた。
第9図のAは、ヒト胎盤胎児側の絨毛から単離した間葉系細胞が典型的な樹状形態を有する神経系細胞に分化できることを示す図である。第9図のBは、母体側の基底脱落膜から単離した間葉系細胞が典型的な樹状形態を有する神経系細胞に分化できることを示す図である。第9図のCは、ヒト胎盤胎児側の絨毛から単離した間葉系細胞において、神経系様の細胞形態を示した細胞の割合を示す図である。第9図のDは、母体側の基底脱落膜から単離した間葉系細胞において、神経系様の細胞形態を示した細胞の割合を示す図である。
第10図は、ヒト胎盤胎児側の絨毛から単離した間葉系細胞から分化した神経系細胞について、代表的な神経系細胞のマーカーの発現を調べた免疫細胞染色の結果を示す図である。
第11図は、母体側の基底脱落膜から単離した間葉系細胞から分化した神経系細胞についての免疫細胞染色の結果を示す図である。
第12図は、実施例2において行った、胎児側由来間葉系細胞のFACSによる表現形の解析結果を示す。
第13図は、実施例2において行った、母体側由来間葉系細胞のFACSによる表現形の解析結果を示す。
Claims (26)
- ホ乳動物の胎盤から採取した間葉系細胞。
- 培地に接触させた際に、胎盤組織から遊走する能力を有する請求の範囲第1項に記載の間葉系細胞。
- 胎盤から、消化酵素処理、消化酵素処理−FACSソーティング(FACS sorting)法およびエクスプラント(explant)法から選ばれる何れかの方法によって採取された請求の範囲第1項に記載の間葉系細胞。
- 軟骨細胞および/または脂肪細胞には分化しない請求の範囲第1項に記載の間葉系細胞。
- 神経系前駆細胞および/または骨前駆細胞には分化し得る請求の範囲第4項に記載の間葉系細胞。
- ヒトの胎盤由来である請求の範囲第1項〜第5項の何れかに記載の間葉系細胞。
- オステオカルシン(osteocalcin)、オステオポンチン(osteopontin)、アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase)、BMP4RII、c−MET、RAR、cACTおよびレニン(renin)から選ばれる6つ以上のmRNAを発現している請求の範囲第6項に記載の間葉系細胞。
- CD90(Thy−1)陽性である請求の範囲第1項〜第7項の何れかに記載の間葉系細胞。
- 母体由来の組織適合性抗原を有する請求の範囲第1項〜第8項の何れかに記載の間葉系細胞。
- 胎児由来の組織適合性抗原を有する請求の範囲第1項〜第8項の何れかに記載の間葉系細胞。
- 請求の範囲第9項に記載の間葉系細胞を含む凍結物。
- 請求の範囲第10項に記載の間葉系細胞を含む凍結物。
- 胎盤の母体側の組織片から、消化酵素処理またはエクスプラント(explant)法により、母体由来の請求の範囲第1項〜第8項の何れかに記載の間葉系細胞を採取する方法。
- 胎盤の胎児側の組織片から、消化酵素処理またはエクスプラント(explant)法により、胎児由来の請求の範囲第1項〜第8項の何れかに記載の間葉系細胞を採取する方法。
- 請求の範囲第1項〜第10項の何れかに記載の間葉系細胞から分化誘導された細胞。
- 分化誘導された細胞が骨芽細胞である請求の範囲第15項に記載の細胞。
- 分化誘導された細胞が神経系細胞である請求の範囲第15項に記載の細胞。
- 分化誘導された細胞がドーパミン作動性ニューロンである請求の範囲第17項に記載の細胞。
- 請求の範囲第1項〜第10項の何れかに記載の間葉系細胞および/または請求の範囲第15項もしくは第16項の何れかに記載の分化誘導された細胞を含有する医薬。
- 請求の範囲第1項〜第10項の何れかに記載の間葉系細胞および/または請求の範囲第15項もしくは第17項の何れかに記載の分化誘導された細胞を含有する医薬。
- 骨粗鬆症の予防治療薬または骨形成薬である請求の範囲第19項に記載の医薬。
- パーキンソン病の予防治療薬である請求の範囲第20項に記載の医薬。
- 組織または臓器障害の予防治療薬である請求の範囲第19項〜第22項の何れかに記載の医薬。
- 組織または臓器再生剤である請求の範囲第19項〜第22項の何れかに記載の医薬。
- MHCを明示している請求の範囲第19項〜第24項の何れかに記載の医薬。
- 請求の範囲第1項〜第10項の何れかに記載の間葉系細胞および/または請求の範囲第15項〜第18項の何れかに記載の分化誘導された細胞を移植する障害組織または臓器の再生方法。
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