JPWO2003020312A1 - 虚血性心不全治療剤 - Google Patents

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Abstract

本発明者らは虚血性心不全、特に心筋梗塞後心不全において生存率を改善する薬剤を鋭意探索する過程において、βARK1阻害剤であるβARKctが、心筋梗塞後心不全に対して心機能改善作用だけでなく生存率改善作用を有することを見出した。従って、βARK1阻害剤は、心機能改善作用だけでなく生存率改善作用を有する有効な虚血性心不全治療剤として使用され、虚血性心不全患者の予後の改善につながることが大いに期待される。

Description

技術分野
本発明は、虚血性心不全に対して生存率改善作用を有するβアドレナリン受容体キナーゼ1阻害剤および該βアドレナリン受容体キナーゼ1阻害剤を有効成分として含有する虚血性心不全治療剤に関する。
背景技術
慢性心不全は循環器系疾患の中でも極めて予後の悪い疾患のひとつであり、5年生存率は50%以下と言われている。慢性心不全は多くの疾患が最終的に呈する症候であり、その基礎疾患から、虚血性心不全と非虚血性心不全(主に拡張型心筋症)に分類される。これまでに、虚血性心不全と非虚血性心不全では、病態が両者で異なることが示唆されている。例えばCIBIS試験においてビソプロロール(bisoprolol)は、非虚血性心不全患者の死亡率を37%低下させたが、虚血性心不全患者の死亡率は改善しないことが報告されている(CIBIS Investigators and Committees.Circulation 90:1765−1773,1994)。また、PRAISE試験においてアムロジピン(amlodipine)は、非虚血性心不全患者の死亡率を46%低下させたが、虚血性心不全患者の死亡率を改善しなかった(Packer M et.al.,N Engl J Med 335:1107−1114,1996)。これらの結果は、虚血性心不全と非虚血性心不全の病態が両者で異なることを示唆するものである。
虚血性心不全、特に心筋梗塞後心不全は、心筋梗塞治療の進歩に伴う死亡率の著しい減少により、欧米を中心に、近年急激に増加している(Chien KR.Cell 98:555−558,1999)。最近の大規模臨床研究結果から、ACE阻害薬が虚血性心不全の第一選択薬になっているものの、虚血性心不全は依然として予後不良の疾患である。現在、種々の薬剤の可能性が検討されているが、生存率を改善するβ遮断薬では、投与開始時における心不全の悪化が少なからず出現することが指摘されている。また、短期QOLを改善する強心薬は、かえって長期生存率を悪化させることが指摘されている(Packer M et.al.,N Engl J Med 325:1468−1475,1991)。
βアドレナリン受容体キナーゼ1(β Adrenergic Receptor Kinase 1:βARK 1)は、心筋細胞に発現するβアドレナリン受容体(β Adrenergic Receptor:βAR)のシグナル伝達経路を調節する主要分子のひとつであり、βARK1がβARをリン酸化することにより、βARの脱感作(desensitization)が誘導されることが示唆されている。βARK1はウシ(Benovic J.L.et al.,Science 246:235−240,1989)、ハムスター(Urasawa K.et al.,Biochem Biophys Res Commun 219:26−30,1996)、ラット(Arriza J.L.et al.,J Neurosci 12:4045−4055,1992)、ヒト(Benovic J.L.et al.,FEBS Lett 283:122−126,1991)等で既にアミノ酸配列、DNA配列が明らかになっており、遺伝子工学的に製造することができる。また、天然に存在するβARK1タンパク質の分離、精製方法も確立されている。さらに、βARK1の基質も明らかになっており、βARK1活性測定方法も確立されている(Benovic J.L.Methods Enzymol 200:351−362,1991;Pitcher J.A.et al.,Annu Rev Biochem 67:653−692,1998)。
また現在のところ慢性心不全モデルとしては、原因疾患別に、高血圧性心不全モデル(ラットおよびマウスaortic bandingモデル、Dah1食塩感受性(DS)ラットモデル、Spontaneously Hypertensive Rat with Heart Failure(SHHF)等)、虚血性心不全モデル(ラットおよびマウス心筋梗塞後心不全モデル等)、拡張型心筋症(DCM)モデル(心筋症ハムスター、ウサギおよびイヌpacing負荷モデル、遺伝子改変動物モデル(muscle LIM protein knockout(MLP KO)マウス、calsequestrin transgenic(CSQ TG)マウス等)等)が知られている。
最近、拡張型心筋症(DCM)モデル(CSQ TGマウス)において、心不全の進展に伴い、βARK1発現量・活性の上昇に伴うβAR反応性の減弱が認められることが報告された(Cho MC et.al.,J Biol Chem 274:22251−22256,1999)。さらに、拡張型心筋症(DCM)モデル(CSQ TGマウス)において、βARK1の阻害剤であるβARKct(495番目のアミノ酸から689番目のアミノ酸からなるペプチド)は、心機能の改善を示し、生存率を向上することが示された(Harding VB et.al.,Proc Natl Acad Sci USA 98:5809−5814,2001)。また、心筋梗塞後心不全モデルのウサギの心筋にβARKctを導入することで心機能が改善することが示された(White DC et.al.,Proc Natl Acad Sci USA 97:5428−5433,2000、Shah AS et.al.,Circulation 103:1311−1316,2001)。しかし、βARK1阻害剤が生存率を改善するか否かについては明らかにされていない。
以上の結果は、βARK1阻害剤が、非虚血性心不全に対して心機能改善作用および生存率改善作用を有すること、並びに虚血性心不全に対して心機能改善作用を有することを示している。しかしながら、これまでに、βARK1阻害剤が虚血性心不全に対して生存率改善作用を有することを示す報告は皆無であった。
発明の開示
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、βARK1阻害剤が虚血性心不全に対して生存率改善作用を有することを明らかにし、虚血性心不全に対して生存率改善作用を有するβARK1阻害剤および該βARK1阻害剤を有効成分として含有する虚血性心不全治療剤を提供することにある。
本発明者らは虚血性心不全、特に心筋梗塞後心不全において生存率を改善する薬剤を鋭意探索する過程において、βARK1阻害剤であるβARKct(Koch WJ et.al.,Science 268:1350−1353,1995)が、心筋梗塞後心不全に対して心機能改善作用だけでなく生存率改善作用を有することを見出した。すなわち、βARKctを有するトランスジェニックマウスおよび対照マウスに、心筋梗塞作製手術を施した結果、βARKctを有するトランスジェニックマウスでは、対照マウスに比べ、心機能の著明な改善が観察された。さらに、βARKctを有するトランスジェニックマウスでは、対照マウスに比べ、術後の生存率が著しく改善された。従って、βARK1阻害剤は、心機能改善作用だけでなく生存率改善作用を有する有効な虚血性心不全治療剤になり得るものと大いに期待される。
即ち、本発明は、虚血性心不全に対して生存率改善作用を有するβARK1阻害剤および該βARK1阻害剤を有効成分として含有する虚血性心不全治療剤に関し、より具体的には、
〔1〕 虚血性心不全に対して生存率改善作用を有するβアドレナリン受容体キナーゼ1阻害剤、
〔2〕 βアドレナリン受容体キナーゼ1阻害剤を有効成分として含有する、虚血性心不全に対して生存率改善作用を有する虚血性心不全治療剤、
〔3〕 虚血性心不全が心筋梗塞後心不全である、〔2〕に記載の治療剤、
〔4〕 虚血性心不全患者の生存率を改善する方法であって、該患者に〔1〕に記載の阻害剤、または〔2〕もしくは〔3〕に記載の治療剤を、該患者の心機能を改善するのに十分量を投与することを含む方法、を提供するものである。
本発明者らは、βARK1阻害剤が虚血性心不全に対して生存率改善作用を有することを初めて見出した。従って、βARK1阻害剤は生存率改善作用を有する虚血性心不全治療剤となるものと期待される。本発明は、虚血性心不全に対して生存率改善作用を有するβARK1阻害剤、および該βARK1阻害剤を有効成分として含有する、虚血性心不全治療剤を提供する。
本発明において心不全とは、心機能低下により、全身の組織代謝に必要な血液量を駆出できない状態、あるいは、それが心室充満圧の上昇によってのみ可能な状態と定義される。また、虚血性心不全とは、心筋梗塞による広範の心筋壊死、または高度な慢性心筋虚血を伴う心筋障害が原因となり、左心室の拡大と収縮力の低下により慢性心不全を呈する病態を言う。本発明おいて治療の対象となる虚血性心不全としては、具体的には心筋梗塞後心不全を挙げることができるが、特にこの疾患に制限されない。また心筋梗塞とは、冠動脈の閉塞または狭窄により血行障害をきたし、心筋虚血が一定時間持続した結果、心筋細胞が壊死に陥り、肉眼的に認められる程度の大きさになったものを指す。通常、心筋梗塞は不整脈、心不全等を合併する。心不全は心筋梗塞によって引き起こされる二次性の疾患として頻繁に認められるものであり、特に、うっ血性心不全は20%〜50%の患者で認められる。心筋梗塞を原因疾患として、二次性に誘発される心不全を心筋梗塞後心不全と呼ぶ。また、うっ血性心不全は心不全の代表的疾患であり、心筋梗塞後心不全には心筋梗塞後うっ血性心不全が含まれる。
また、うっ血性心不全を含む心不全に対する薬物療法はいくつか知られている。例えば利尿剤は前負荷軽減作用を有し、肺うっ血、全身の浮腫がある場合に効果が期待される。ACE阻害剤(アンジオテンシン変換酵素阻害剤:レニン−アンジオテンシン−アルドステロン系を抑制する)は、前および後負荷軽減作用とアンジオテンシンIIによる刺激の抑制作用を有する。すなわち、血管拡張薬として静脈系、動脈系の両者に作用して血管拡張をもたらし、心不全により活性化されたアンジオテンシンII、アルドステロン、ノルエピネフリン、バソプレッシン等の神経体液性因子の作用を抑制する。また、ACE阻害剤は心筋リモデリング機構を抑制し、心筋梗塞後心不全発症に予防的に作用するとされている。β遮断薬は収縮力減少作用、交感神経刺激抑制作用を有し、拡張型心筋症に対する有効性が報告されており、QOLの改善や予後延長効果が期待されている。各種の血管拡張薬も後負荷軽減作用を有し、心不全治療剤として使用されている。静脈系に作用する薬物としては、亜硝酸薬、モルシドミン、動脈系に作用する薬物としてはヒドララジン、ミノキシジル、カルシウム拮抗薬等が知られている。また、静脈、動脈の両方に作用するものとしてフロセキナン、ニトロプロジッドが知られている。強心薬であるジギタリスは、収縮力増強作用(陽性変力作用)、心拍出数減少作用(陰性変時作用)、交感神経遠心路の抑制、圧受容体反射の改善を介して効果を示すことが報告されている。
また、本発明における「生存率改善作用」とは、薬剤を投与された患者の生存率が、薬剤を投与されていない患者の生存率よりも有意に高くなる作用、あるいは、薬剤を投与された患者が、薬剤を投与されない患者に比べて長期間生存するようになる作用を言う。本発明において、生存率改善作用の測定は、当業者においては周知の方法により実施することができる。例えば、臨床的に生存率改善作用を測定する方法を挙げることができる。この方法においては、治療剤(本明細書において薬剤と記載する場合あり)投与時の生存曲線を観察することで、生存率改善作用を測定することが可能である。すなわち、薬剤を投与される患者群(薬剤投与群)と薬剤を投与されない患者群(対照群)を作製し、ついで、各患者の生存と死亡を時間の経過を追って追跡すればよい。具体的には、Kaplan−Meier法により累積生存率から生存曲線を作製し、log−rank法検定により有意差を検定すればよい。これらの解析は、StatView ver.5 for Windows等の市販の解析ソフトを用いて行うことができる。例えば、一定期間経過後の各患者の生存と死亡を確認し、生存患者の割合を算出する。薬剤投与開始時の生存率を100%、あるいは1とし、横軸に時間、縦軸に累積生存率をプロットすれば、薬剤投与群と対照群の生存曲線をそれぞれ得ることができる。両者の生存率を比較するには、薬剤投与群の生存曲線が、対照群の生存曲線に比べて上方にシフトしていれば、生存率改善作用を有すると判断できる。あるいは、一定期間後の両者の生存率を比較し、薬剤投与群が対照群に比べて有意に生存率が高ければ、生存率改善作用を有すると判断することができる。一定期間とは、少なくとも半年、好ましくは1年、さらに好ましくは2年、最も好ましくは3年である。対照群は、薬剤投与群と同時進行で追跡する必要はなく、既に調査された患者の生前率や生存曲線を使用することができる。具体的には、被検薬剤投与により、生存曲線が統計学的に有意に上方にあった時に、被検薬剤は生存率改善作用を有すると判定する。
また、実験動物を使用することにより生存率改善作用を測定することも可能である。この場合、疾患モデル動物において、被検薬物を投与した動物と投与しない動物の生存曲線を観察することで、生存率改善作用を測定することができる。具体的には、被検薬剤投与により、生存曲線が統計学的に有意に上方にあった場合に、被検薬剤は生存率改善作用を有すると判定する。上記疾患モデル動物としては、特に制限はないが、虚血性心不全モデル(マウス、ラット、ウサギ、イヌ、およびブタ心筋梗塞後心不全モデル等)等を例示することができる(Hongo M.et al.,Trends Cardiovasc Med 7:161−167,1997;Patten R.D.et al.,Am J Physiol 274:H1812−H1820,1998)。
本発明の虚血性心不全に対して生存率改善作用を有するβARK1阻害剤は、該阻害剤が生存率改善作用以外の作用を併せて有していてもよい。生存率改善作用以外の作用としては、例えば、心機能改善作用を挙げることができる。よって、生存率改善作用と心機能改善作用とを共に有するβARK1阻害剤もまた、本発明の虚血性心不全に対して生存率改善作用を有するβARK1阻害剤に含まれる。
上記心機能改善作用の測定は、当業者においては一般的に行われる方法、例えば、NYHA心機能分類、および心エコー図等を用いて行うことができる。NYHA心機能分類は、心不全患者の心機能評価のために、New York Heart Association(NYHA)によって提唱された下記の4つのclass機能分類が存在する
(1)classI: 心疾患はあるが、身体活動には特に制限がなく、日常労作により、特に呼吸困難、狭心痛、疲労、動悸などの愁訴が生じないもの。
(2)classII: 心疾患があり、身体活動が軽度に障害されるもの。安静時または軽労作時には障害が無いが、日常労作のうち、比較的強い労作によって、上記の愁訴が発現するもの。
(3)classIII: 心疾患があり、身体活動が著しく制限されるもの。安静時は愁訴が無いが、比較的軽い日常労作でも、上記の愁訴が出現するもの。
(4)classIV: 心疾患があり、いかなる程度の身体労作の際にも、上記愁訴が出現し、また、心不全症状、または狭心症症候群が、安静時においてもみられ、労作によりそれが増進するもの。
このうち、classIは基本的に薬物療法の対象でなく、正常レベルと考えることができる。従って、classII、classIII、classIVの患者が、classIに分類された場合に当該患者の心機能は改善されたと判定する。また、心エコー図を用いて得られる心機能の測定値には、左室駆出率(ejection fraction:EF)、または左室内径短縮率(fractional shortening:FS)がある。EFの正常値は60−80%であり、FSの正常値は30−50%である。心不全患者では、EFもしくはFSが正常値よりも明らかに低下する。
このように心機能改善作用とは、NYHA心機能分類のclassの低下、および/または心不全患者で低下しているEFもしくはFSの上昇作用を指す。好ましくはEF、FSの両方が正常値になることであるが、いずれか一方が正常値となる場合でもよい。従って、本発明においては、NYHA心機能分類のclass低下、および/または心不全患者で低下しているEFもしくはFSの上昇作用を示す薬剤を心機能改善作用を有する薬剤であると判定する。
薬剤の心機能改善作用を動物実験において確認することも可能である。この場合には、心エコーを用いて、心駆出性収縮機能(FSまたはEF)を測定すればよい。DSラットモデル、ラットおよびマウス心筋梗塞後心不全モデル、DCMモデル(心筋症ハムスター、ウサギおよびイヌpacing負荷モデル、遺伝子改変動物モデル(MLP KOマウス、CSQ TGマウス等)等)の種々の心不全動物モデルでは、FSまたはEFが、正常動物と比較して明らかに低下している。本発明においては、この低下したFSまたはEFを統計学的に有意に増加させる薬剤を、心機能改善作用を有する薬剤であると判定する。
本発明のβARK1阻害剤としては、βARK1の機能を阻害あるいは抑制する作用を有するものであれば特に制限はなく、核酸、タンパク質、ペプチド等が挙げられる。タンパク質およびペプチドとしては、例えば、βARK1のドミナントネガティブ、βARの部分ペプチド等を挙げることができる。また、核酸としては、上記ドミナントネガティブ等のアミノ酸から構成されたペプチドまたはタンパク質をコードするDNAを組み込んだベクター等を例示することができる。
上記βARK1のドミナントネガティブとは、βARK1の作用発現に必須の機能を欠損したタンパク質またはペプチドを意味する。このようなβARK1のドミナントネガティブとしては、通常βARK1の部分ペプチドを使用することができる。欠損する機能としては、特に制限はなく、キナーゼ活性でもよいし、基質結合作用であってもよいし、細胞内局在化作用であってもよい。これらのドミナントネガティブはβARK1の作用発現に必要な機能を欠如しているために、βARK1のシグナル伝達経路に干渉し、結果としてβARK1の阻害剤として作用する。βARK1のドミナントネガティブの具体的な例としては、本実施例に記載された、βARKctを挙げることができる(Koch WJ et.al.,Science 268:1350−1353,1995)。
また、本発明のβARK1阻害剤としては、βARK1の基質であるβARの部分ペプチドを使用することも可能である。例えば本発明のβARK1阻害剤として、βARのアミノ酸配列の56番目のアミノ酸から74番目の部分ペプチド、同じく219番目のアミノ酸から243番目の部分ペプチドを使用することができる(米国特許US 6096705)。さらに、同米国特許には、ポリアニオン構造を有する高分子化合物、例えばヘパリン(heparin)、硫酸デキストラン(dextran sulfate)、ポリアスパラギン酸(polyaspartic acid)、ポリグルタミン酸(polyglutamic acid)を使用することができることが記載されている。
本発明においては、βARK1の阻害剤として、上記ドミナントネガティブやβARの部分ペプチド等のアミノ酸から構成されたペプチドあるいはタンパク質をコードするDNAを組み込んだベクターを使用することも可能である。βARK1阻害剤をコードするDNAは、効率的な発現のために機能的にプロモーターとリンクしていることが好ましい。このためのプロモーターとしては、例えばCMVプロモーターを使用することができる。また、組織特異的に発現させるために、心筋細胞特異的プロモーターを使用することができる。例えば心室筋細胞特異的プロモーター(ventricular myocyte−specific promoter)として、心室ミオシン軽鎖2プロモーター(ventricular myosin light chain 2 promoter)、心室ミオシン重鎖プロモーター(ventricular myosin heavy chain promoter)を使用することができる。
上記ベクターは、遺伝子治療用に使用することも可能である(Akhter SA et.al.,Restoration of β−adrenergic signaling in failing cardiac ventricular myocytes via adenoviral−mediated gene transfer.Proc Natl Acad Sci USA 94:12100−12105,1997、Ashish SS et.al.,In vivo ventricular gene delivery of a β−adrenergic receptor kinase inhibitor to the failing heart reserves cardiac dysfunction.Circulation 103:1311−1316,2001)。遺伝子治療とは、薬効を有するタンパク質をコードするDNAを含むベクターを患者に投与し、治療または予防することをいう。遺伝子治療に使用することができるベクターには、例えば、アデノウイルスベクター(例えばpAdexlcw)やレトロウイルスベクター(例えばpZIPneo)等が挙げられるが、これに制限されない。ベクターへのβARKctをコードするDNAの挿入などの一般的な遺伝子操作は、常法に従って行うことができる。生体内への投与はex vivo法でもよいが、in vivo法が好ましい。
また、本発明のβARK1阻害剤としては、被験試料のスクリーニングによって得られる物質を用いることも可能である。ここで、上記被験試料としては、例えば天然試料、有機試料、無機試料、タンパク質、ペプチドなどの単一試料、並びに、試料ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等が挙げられるが、それらに限定されない。
βARK1阻害剤のスクリーニングは、当業者においては周知の方法、例えば、βARK1のリン酸化活性を指標としてスクリーニングする方法(Benovic J.L.Methods Enzymol 200:351−362,1991)等により実施することができる。βARK1のリン酸化活性を指標としたスクリーニング方法で単離されるβARK1阻害剤は、好ましくは、in vitiroにおいてIC50≦10nmol/L、細胞系においてIC50≦1μmol/LのβARリン酸化阻害活性を有する阻害剤である。また、βARK1阻害活性の特異性を測定するためには、市販のキナーゼを用いて阻害活性を測定し、βARK1に対する阻害活性と比較すればよい。酵素阻害活性の比較にはIC50値を使用することができる。例えばPKA、PKC、cdc2、DNA−dependent protein kinase、PTK等はPromega社のSignaTECTTMProtein Kinase Assay Systemを使用することができる。βARK1阻害剤としては、上記5種類のキナーゼに対する阻害活性に比較し、好ましくは10倍以上強く、さらに好ましくは100倍以上強い。
また、βARK1はβARを基質とするキナーゼであるが、同時にロドプシンを基質とする事が明らかになっている(Benovic J.L.et al.,Science 246:235−240,1989)。従って、βARの代わりにロドプシンを基質として用いて活性を確認することができる。ロドプシンの由来はヒトであることが好ましいが、特に制限されず、例えば、ウシ由来のロドプシンであってもよい。ロドプシンの調製は常法により行うことができる。例えば、暗所下、好ましくは低温・遮光(赤外ランプ下)において、眼球網膜にバッファーA(10mmol/L Tris−HCl pH7.5、65mmol/L NaCl、2mmol/L MgCl)中の44w/v%ショ糖を加え懸濁後、25,000xgで15分間遠心して上清を回収する。一方、沈殿をバッファーA中の44w/v%ショ糖に再懸濁させ遠心後、上清を回収する。それぞれの上清をろ過し、等容量のバッファーAで希釈後、25,000xgで40分遠心し、沈殿を回収する。沈殿をバッファーA中の36w/v%ショ糖に懸濁させ、25,000xgで30分遠心後の上清を回収する。一方、沈殿をバッファーA中の36w/v%ショ糖に再懸濁させ、遠心した上清を回収する。1/2量のバッファーAで希釈後25,000xgで25分遠心し、沈殿を回収する。バッファーB(50mmol/L Tris−HCl pH7.5、0.5mmol/L EDTA、5mol/L Urea)に懸濁し、ホモジナイザーですりつぶす。50mmol/L Tris−HCl pH7.5に懸濁後100,000xgで45分遠心して沈殿を回収する。
ロドプシンを用いた場合の被験試料のβARK1阻害活性は、in vitroで容易に測定することができる。例えば96−well Microwellに被験試料のDMSO溶液(終濃度4vol%DMSO程度が好ましい)を加え、低温、赤外ランプ下に、酵素と基質液(final 3.1μmol/Lのロドプシン、終濃度26.9nmol/Lの精製したβARK1、終濃度20mmol/L Tris−HCl pH7.5、終濃度2mmol/L EDTA、終濃度5mmol/L MgCl)を一定量加えて5分間振とう後、[γ−33P]ATP液(終濃度40μmol/LのATP、[γ−33P]ATP(16kBq、Amersham Pharmacia Biotech CAT# AH9968))を加え5分間振とうする。反応開始は室内灯等の光をあてればよい。30分後、25vol%トリクロロ酢酸(TCA)/PBSを加え、低温室内で10分間振とうすることにより反応を停止させる。吸引ろ過によりロドプシン画分をフィルタープレート上にトラップし、次いで、放射活性をMicroBeta 1450 PLUS(Wallac)等の測定機器を用いて測定すればよい。
ロドプシンの他に、βARK1の基質としては文献に記載されたペプチドRRREEEEESAAA(但しアミノ酸の一文字表記)を使用することができる(Chen CY et al.J Biol Chem 1993;268:7825−7831)。具体的な実験方法も文献記載の方法を参考にすることができる(Pitt MA et al.J Biomolecular Screening 1996;1:47−51)。
スクリーニングに使用するβARK1は、特に制限はなく、例えば、ヒト、ウシ、ハムスター、ウサギ等由来のものが挙げられるが、好ましくはヒト由来である。ヒト由来のβARK1は遺伝子工学的に作製することができる。例えばGenBankに登録されているヒトβARK1 mRNA(Accession No.M80776)の塩基配列を基にプライマーを設計し、ヒト白血球由来cDNAライブラリー(GIBCO BRL CAT# 10421−022)を鋳型としてPCRにて増幅し、プラスミドを構築することができる。増幅したヒトβARK1 cDNAを用いて組み換えヒトβARK1タンパク質を発現するには、発現ベクター及び宿主を適宜組み合わせればよい。多くの発現ベクター、宿主が市販されており、容易に入手可能である。例えば、Clontech社のBacPAK Baculovirus Expression System(Cat# K1601−1)を用いることができる。この昆虫細胞を用いた発現系ではco−transfectionにより相同組換えが起こり、Sf−9にβARK1を発現させる組み換えウィルスが構築される。また、ウシ由来のβARK1を用いる場合は、公知の方法を用いて精製することができる(例えば米国特許6096705)。
細胞系によるスクリーニングにおいては、一過性にβ2アドレナリン受容体を発現させた細胞を用いればよい。β2アドレナリン受容体は、精製してもよいし、遺伝子工学的に製造してもよいが、大量に入手可能な点で遺伝子工学的に製造することが好ましい。β2アドレナリン受容体のcDNA配列は、GenBank(Accession No.J02960)に登録されている。
β2アドレナリン受容体の一過性の発現を行うには、市販のキットを使用すればよい。例えばFuGENETM6 Transfection Reagent(Roche CAT# 1 814 443)を用いてHEK293細胞に発現させることができる。より具体的には、β2アドレナリン受容体cDNAを上記キットを用いてトランスフェクションし、Phosphorus−32(Amersham Pharmacia Biotech CAT# PBS13)を加え2時間37℃で培養することにより細胞をアイソトープラベルする。細胞を回収した後、培養上清2mlに懸濁し0.2mmol/Lオカダ酸DMSO溶液を加え(final 100nmol/L)、被験試料のDMSO溶液を加え(final DMSO濃度=0.1vol%)、37℃で20分間培養する。ついで、(−)−イソプロテレノール(isoproterenol:ISO)(SIGMA CAT# I6504、final 10μmol/L)を添加し37℃で15分間培養する。PBSで2回遠心した後、RIPA(+)バッファー(50mmol/L Tris−HCl pH7.5、150mmol/L NaCl、5mmol/L EDTA、1vol% Nonidet P−40、0.1w/v% SDS、0.5w/v% Sodium deoxycholate、10mmol/L NaF、10mmol/L disodium pyrophosphate、0.1mg/mL PMSF、1tablet/50mL completeTM EDTA−free(Boehringer Mannheim CAT# 1 873 580))に懸濁した後、26Gの注射針を5回通し細胞を破砕し、膜タンパク質を可溶化する。15,000rpmで20分間遠心した後上清を回収し、Anti−HA Affinity Matrix(Roche CAT# 1 815 016)を60μL加え、免疫沈降を行う。24時間後、RIPA(+)バッファー1mLで洗浄し、RIPA(+)10μL,50μg/mL HAペプチド10μLを加え室温で20分間溶出させ、4xSampleバッファー(8w/v% SDS、400mmol/L Dithiothreitol、240mmol/L Tris−HCl pH6.8、40vol% glycerol、0.4mg/mL Bromophenol blue)5μL加え10分間室温で放置する。遠心後の上清を回収し、10%T SDSポリアクリルアミドゲルに20μLアプライし、電気泳動を行い、泳動終了後3MM Paperにゲルを固定し、BAS 2000 Image Analyzer(富士フィルム)等の測定装置によりリン酸化量を定量すればよい。
また、本発明は、上記βARK1阻害剤を有効成分として含有する虚血性心不全に対して生存率改善作用を有する虚血性心不全治療剤が提供される。該虚血性心不全治療剤の製剤化にあたっては、常法に従い、必要に応じて薬学的に許容される担体を添加することができる。例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜使用することができる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。
上記虚血性心不全治療剤の剤型の種類としては、例えば経口剤として錠剤、粉末剤、丸剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、軟・硬カプセル剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、舌下剤、ペースト剤等、非経口剤として注射剤、坐剤、経皮剤、軟膏剤、硬膏剤、外用液剤等が挙げられ、当業者においては投与経路や投与対象等に応じた最適の剤型を選ぶことができる。
本発明の虚血性心不全治療剤の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状、虚血性心不全の種類や進行の程度等を考慮して、最終的には医師の判断により適宜決定されるものであるが、一般に大人では、1日当たり、0.1〜2000mgを1〜数回に分けて経口投与することができる。より好ましくは1〜1000mg/日、更により好ましくは50〜500mg/日、最も好ましくは100〜300mg/日である。これらの投与量は患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。投与期間も、患者の治癒経過等に応じて適宜決定することが好ましい。
さらに、本発明は、虚血性心不全患者の生存率を改善する方法であって、本発明のβARK1阻害剤、または虚血性心不全治療剤を、該患者の心機能を改善するのに十分量を投与することを含む方法を提供する。上記投与の形態としては、例えば、上記の製剤化した本発明の薬剤の経口投与または非経口投与の形態を挙げることができる。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
[実施例1] 心筋梗塞後心不全マウスの生存率、心機能に対するβARK1阻害剤の効果
実験に使用した材料および方法は下記(1)および(2)の通りである。
(1)実験動物
Jackson Labより購入し、自家繁殖した雄のβARKct TG(+/+)マウス(B6、SJL−TgN(miniBARKct)27Wjk、ホモ接合体)と、雌のC57BL/6Jマウス(日本クレア)を交配して得られた雄のβARKct TG(+/−)マウスと、雌のC57BL/6Jマウスを交配して得られたβARKct TGおよび同腹対照(WT)マウスを、11−13週齢で使用した。
マウスの尾から抽出した染色体DNAを鋳型として、αMHCプロモーターからβARKct cDNAの後に挿入したβ−globin遺伝子間に設定した一対のプライマー(センス鎖5’−CTCCCCCATAAGAGTTTGAGTCG−3’/配列番号:1、アンチセンス鎖5’−GGAACAAAGGAACCTTTAATAG−3’/配列番号:2)を用い、PCR増幅(〜800bp)の認められた個体をTG、PCR増幅の認められなかった個体をWTと判定した。WTは雌26匹、雄25匹、TGは雌30匹、雄18匹であった。
(2)統計解析
結果は、全て平均値±標準誤差で示した。生存率の比較には、Kaplan−Meier法とlog−rank検定を用いた(StatView ver.5 for Windows)。同腹対照の心筋梗塞偽処置群(WT−sham群)、同腹対照の心筋梗塞処置群(WT−MI群)、βARKct TGの心筋梗塞偽処置群(βARKct TG−sham群)、βARKct TGの心筋梗塞処置群(βARKct TG−MI群)の心エコーデータ等の比較には、Turkey−Kramerの多重比較法を用いた(StatView ver.5 for Windows)。有意水準はP<0.05(両側)とした。
(3)実験方法及び結果
WTおよびβARKct TGを用いて心筋梗塞(MI)作製を行った。MI作製は、基本的にPattenらの方法(Patten RD et.al.,Am J Physiol 274:H1812−H1820,1998)に準じた。マウスを2.5% Avertin(2,2,2−tribromoethanol[Cat.T4840−2,Aldrich]をtert−amyl alcohol[Cat.24048−6,Aldrich]に100w/v%で溶解後、salineで2.5vol%に希釈した)で麻酔(14μL/g,i.p.)し、仰臥位に固定した。口蓋より22G留置針外筒を挿入(気道確保)し、人工呼吸(1mL/stroke、120 cycle/min;model SN−480−7、シナノ製作所)を行った。左第3肋間を開胸した後、左心耳先端付近の左冠動脈を6mm丸針付7−0絹糸(松田医科)を用いて結紮した。Sham群では、空中で絹糸を結んだ以外MI群と同様の外科的処置を行った。閉胸し覚醒させた後、マウスをケージに戻した。WTのMI群(n=31)は術後1週間以内に17匹死亡し、βARKct TGのMI群(n=25、剖検後MIが認められなかった1匹を除外)は14匹死亡した(生存率:WT−MI群,45%;βARKct TG−MI群,44%;NS)。なお、マウスはMI後24時間までは急性心筋梗塞で死亡し、さらに雄は1週間までは心臓破裂により死亡することが知られているので、本実験の慢性心不全死に対する生存分析は、術後1週以降生存していた個体を用いた(本実験においても1週間以内の死亡例は心臓破裂によるものであることを確認した)。Sham群では、WT(n=15)、βARKct TG(n=13)ともに全実験期間を通して死亡例は認められなかった。以上から、WT−sham 15匹、WT−MI 14匹、βARKct TG−sham 13匹、βARKct TG−MI 11匹を実験に使用した。
術後8週目に2.5% Avertinでマウスを麻酔(14μL/g,i.p.)し、仰臥位に固定した。生存全例(WT−sham群n=15、WT−MI群n=7、βARKct TG−sham群n=13、βARKct TG−MI群n=10)の心エコーを測定した(13MHzプローブ[EUP−C13H]使用;EUB8000、日立メディコ)(図1)。βARKct TG−MI群、WT−MI群ともに、sham群と比較して、左心室内腔の拡大による遠心性左心肥大が認められ、心機能が大きく低下していた。βARKct TG−MI群の心機能は、WT−MI群と比較して、著明な改善が認められた。
各測定パラメータ(left ventricular end−diastolic dimension[LVEDD]、left ventricular end−systolic diameter[LVESD]、septal wall thickness[SEPth]、posterior wall thickness[PWth]、heart rate[HR]およびfractional shortening[FS])の3回の測定値を平均し、これをデータとして採用した。術後26週目まで生存率を測定した。WT−MI群と比較して、βARKct TG−MI群の生存率は著明に改善した(図2、log−rank検定、P=0.0101)。なお、同条件において、WT−sham群およびβARKct TG−sham群のマウスについては全て生存していた。
生存率測定後、安楽死させて心臓を摘出し、salineで心臓をよく洗浄した後、心室長軸方向中心部を横断方向にスライスし、それぞれの横断面を撮影した(COOLPLX 950、NIKON)。その後、各スライスを左心室と右心室に分離して湿重量を測定した後、液体窒素で凍結し−80℃で保存した。撮影した心筋スライスの左心室全外周長に対する瘢痕(scar)部分の外周長の%比率として梗塞のサイズ(infarct size)を求めた(Sigma Scan Pro ver.4.01、SPSS Inc.)。なお、生存率測定中の死亡例について全例MIが作製されていることを目視で確認した。βARKct TGおよびWTマウスのMI後7−8週における心重量、梗塞のサイズ、心エコーデータを表1に示す。
Figure 2003020312
Figure 2003020312
Figure 2003020312
[実施例2] 心筋梗塞後心不全モデルマウスの心臓βAR signalingに対するβARK1阻害剤の効果
(1)方法
凍結保存(−80℃)したマウス心臓を、氷冷lysisバッファー(25mmol/L Tris−HCl(pH7.4),5mmol/L EDTA,5mmol/L EGTA,10μg/mL leupeptin,20μg/mL aprotinin,1mmol/L PMSF)中(1mL/100g心臓)でホモジナイズ(homogenize)後、500×g,10分遠心した。その上清を15000×g,15分で遠心し、膜画分(membrane fraction)とサイトゾル画分(cytosolic fraction)に分離した。膜画分は、β−Adrenergic Receptor(βAR)density、およびadenylyl cyclase(AC)活性の測定に用い、サイトゾル画分は、β−Adrenergic Receptor Kinase 1(βARK1)タンパク質量の測定に供した。
膜画分(25μg)と種々の濃度の[125I]cyanopindolol(NEX189,PerkinElmer)をbindingバッファー(75mmol/L Tris−HCl(pH7.4),12.5mmol/L MgCl,2mmol/L EDTA)中(200μL)で、37℃,1時間インキュベート(incubate)した。その後、GF/Bグラスフィルターで吸引ろ過、洗浄、固形シンチレーター(Meltilex A,Wallac)を重積し、MicoBeta(Wallac)で放射活性を測定した。全結合量から非特異的結合量(10μmol/L propranolol存在下での結合量)を差し引き、特異的結合量とした。GraphPad PRISM(ver.3.0)を用いて算出された飽和結合量(Bmax.)を、βAR densityとした。
膜画分(20μg)と、100μmol/L isoproterenol(ISO)/50μmol/L GTP、30mmol/L NaF/60μmol/L AlCl、もしくは100μmol/L forskolin(FSK)をcyclaseバッファー(40mmol/L Tris−HCl(pH7.4),10mmol/L MgCl,0.2mmol/L EDTA,100mmol/L NaCl,0.2mmol/L dithiothreitol,0.5mmol/L ATP,0.1mmol/L 3−isobutyl−1−methylxanthine,50μg/mL phosphocreatine,5IU/mL creatine phosphokinase)中(100μL)で、37℃,10分インキュベートした。その後、95℃で1.5分煮沸し反応を停止させ、15000×g,15分遠心して得た上清中のcAMP量をcyclic AMP enzymeimmunoassay system(RPN225,Amersham)で測定し、得られたcAMP産生量から基礎(basal)のcAMP産生量を差し引き、ISO,AlF4−,FSK依存AC活性とした。
RIPAバッファー(50mmol/L Tris−HCl(pH8.0),5mmol/L EDTA,150mmol/L NaCl,1% Nonidet P−40,0.5% sodium deoxycholate,0.1% SDS,10mmol/L NaF,5mmol/L EGTA,10mmol/L sodium pyrophosophate,1mmol/L PMSF)中サイトゾル画分(3mg/mL)1mLに、agarose conjugated anti−GRK2(βARK1)polyclonal antibody(sc−562AC,Santa Cruz)35μL添加し、4℃,overnightで免疫沈降した後、12% SDS−PAGE、PVDF膜に転写した。βARK1(〜80kDa)タンパク質量は、anti−GRK2 polyclonal antibody(sc−562,Santa Cruz)、alkaline phosphatase conjugated anti−rabbit IgG、およびCDP−Star(MS100R,TROPIX)による化学発光をLumi−Imager F1(Boehringer Mannheim)で測定、Lumi−Analyst(ver.3.0)を用いて定量することにより求めた。
(2)統計解析
結果は、平均値±標準誤差で示した。
データの比較には、Tukey−Kramerの多重比較法を用いた(StatView ver.5 for Windows)。有意水準はP<0.05(両側)とした。
(3)実験結果
心筋梗塞(MI)後心不全を呈したwild−type(WT)マウスの心臓では、約44%のβAR量減少が認められたが、MI後のβARKctトランスジェニック(TG)マウスの心臓では、βAR量の減少は認められなかった(図3A)。また、MI後のWTマウスの心臓では、ISO−stimulated AC活性が、約71%(AlF −stimulated AC活性で補正)および約67%(forskolin−stimulated AC活性で補正)減少していたが、MI後のβARKct TGマウスの心臓では、ISO−stimulated AC活性の減少が認められなかった(図3B,C)。なお、AlF −stimulated AC活性およびforskolin−stimulated AC活性は、群間で差がなかった。さらに、MI後心不全を呈したWTマウスの心臓では、βARK1発現レベルが上昇していたが、MI後のβARKct TGマウスの心臓では不変であった(図4)。
これらの結果から、MI後心不全を呈した心臓では、GTP−結合タンパク質およびAC活性のレベルの障害は無いものの、βARK1発現レベルが上昇し、βARレベルの脱感作が生じていることが明らかとなった。さらに、βARK1を阻害(βARKctのexpression)することにより、βARK1発現レベルおよびβAR signalingが正常に復することが明らかとなった。
産業上の利用の可能性
本発明において、虚血性心不全に対して生存率改善作用を有するβARK1阻害剤および該βARK1阻害剤を有効成分として含有する虚血性心不全治療剤が提供された。本発明によって、βARK1阻害剤が、心機能改善作用だけでなく生存率改善作用を有する有効な虚血性心不全治療剤として使用され、虚血性心不全患者の予後不良の改善につながることが大いに期待される。
【配列表】
Figure 2003020312
Figure 2003020312

【図面の簡単な説明】
図1は、WT−sham群、WT−MI群、βARKct TG−sham群、βARKct TG−MI群の典型的な左心室Mモード心エコーを示す写真である。
図2は、WT−MI群(n=14)およびβARKct TG−MI群(n=11)の生存曲線を示す図である。縦軸は累積生存率、横軸はMI作製手術後の時間(週)を示す。
図3は、WT−sham群、WT−MI群、βARKct TG−sham群、βARKct TG−MI群におけるβARシグナリングの特徴を示す図である。(A)WTおよびβARKct TGマウスの心臓におけるβAR量を示す。(B)AlF −stimulated AC活性で補正した場合のISO−stimulated AC活性を示す。(C)forskolin−stimulated AC活性で補正場合のISO−stimulated AC活性を示す。ヒストグラムは、平均値±標準誤差を表す。各群n=6。**,P<0.01;*,P<0.05 WT−MI vs.WT−Sham;##,P<0.01;#,P<0.05 WT−MI vs.βARKct TG−MI(Tukey−Kramaer test)
図4は、WT−sham群、WT−MI群、βARKct TG−sham群、βARKct TG−MI群におけるβARK1タンパク質の発現レベルを示す写真および図である。(A)免疫沈降法による解析結果を示す。hβARK1は、精製ヒトARK1を表す。(B)βARK1の免疫ブロッティングによって決定された心臓におけるβARK1タンパク質の発現レベルを示す。ヒストグラムは、平均値±標準誤差を表す。各群n=6。**,P<0.01 WT−MI vs.WT−Sham、##,P<0.01 WT−MI vs.βARKct TG−MI(Tukey−Kramaer test)

Claims (4)

  1. 虚血性心不全に対して生存率改善作用を有するβアドレナリン受容体キナーゼ1阻害剤。
  2. βアドレナリン受容体キナーゼ1阻害剤を有効成分として含有する、虚血性心不全に対して生存率改善作用を有する虚血性心不全治療剤。
  3. 虚血性心不全が心筋梗塞後心不全である、請求項2に記載の治療剤。
  4. 虚血性心不全患者の生存率を改善する方法であって、該患者に請求項1に記載の阻害剤、または請求項2もしくは3に記載の治療剤を、該患者の心機能を改善するのに十分量を投与することを含む方法。
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