【発明の詳細な説明】
アスコルビン酸の回収のための方法及び組成物
本発明はアスコルビン酸の製造のための方法に関する。より詳しくは、本発明
はアスコルビン酸を希薄な濃度で含む水性溶液からそれを回収することに関する
。
例えば Kirk-Othmerの Encyclopedia of Chemical Technology第3版に記載の
通り、アスコルビン酸(L−アスコルビン酸、L−キシロ−アスコルビン酸、L
−スレオ−ヘキヘ−2−エノン酸τ−ラクトン)はビタミンCについての IUPAC
−IUB 生化学命名協会により認定されている名称である。この名称はビタミンの
抗壊血病特性、即ち、壊血病の予防及び処置に関与する。L−アスコルビン酸は
植物及び動物に広く分布する。純粋なビタミン(C6H8O6、分子量176.13)は、酸
性糖L−グロン酸に由来する白色結晶物質であり、そしてD−グルコースから生
物学的及び化学的に合成される。
天然及び合成ビタミンCは化学的及び生物学的に同一であるが、近年、天然起
源に由来するビタミンCに対する一定の人々の優先性に合わせるため、植物起源
、例えばバラの実、柿、かんきつ類果実等からの制約された量の商業的単離が行
われている。L−アスコルビン酸は商業的な量で生産された最初のビタミンであ
り、そして製造は公知の Reichstein and Grussner合成に基づき、それはD−グ
ルコースからD−ソルビトールに至る水素化;L−ソルボースに至る発酵(酸化
);ビス−イソプロピリデン−α−L−ソルボフラノールに至るアセトン化;ビ
ス−イソプロピリデン−2−オキソ−L−グロン酸に至る酸化;並びにL−アス
コルビン酸に至る加水分解、転移及び精製を包括する。
アスコルビン酸に至る直接発酵は、それが化学段階を包括する合成に反して天
然発酵工程に由来していることに加えて、非常に魅力的であり、操作及び高価な
試薬を節約する。アスコルビン酸に至るかかる直接発酵が可能であるとの示唆が
ある。にもかかわらず、直接発酵を介するアスコルビン酸に至る工業的生産は、
発酵液中の低生成濃度の観点において非実用的と考えられている(それは通常0.
7mol/kg未満の範囲である)。慣用の方法によるアスコルビン酸の精製は発酵液
内と似た濃度の精製製品を供するであろう。その水の中での高い溶解度に基づき
、水エバポレーションによるアスコルビン酸の結晶化の費用は法外な額となる。
カルボン酸の精製とその濃縮とを組合せるいくつかの方法が提案されている。
クエン酸の場合、それは水の中で非常に低溶解性であるクエン酸カルシウムを結
晶化するための石灰の添加により達成される。この塩を分離し、洗い、そして硫
酸で酸性化する。精製且つ濃縮したクエン酸が得られる。この方法はアスコルビ
ン酸には適用できず、なぜならそのアルカリ及びアルカリ土類塩は非常に可溶性
だからである。
カルボン酸を抽出し、次いで濃鉱酸の溶液によりその抽出剤から置換する(di
splace)方法が提案されている。この目的のために液体(長鎖アミン)及び固体
(アミン基を担持する樹脂)アニオン交換体が考えられる。置換したカルボン酸
の純度は鉱酸に対する抽出剤の適合性に依存する。かかる方法はアスコルビン酸
の分離及び濃
縮に適用し得るが、抽出剤が高抽出収率に至らせるのに十分強いこと、それが酸
を優先的に置換すること、及びアスコルビン酸が置換溶液の高い酸性度において
安定であることが条件とされる。
アニオン交換体の再生は塩基による中和を必要とするであろう。置換酸として
HClを利用し、そしてそれを抽出剤から蒸留することが提案されているが、高温
を必要とすること及びこのような条件でのその抽出剤の分解がそれを制約する。
アニオン交換体をBで表わし、発酵液の中のアスコルビン酸及び純粋な形態のア
スコルビン酸をそれぞれAAF及びAApとし、置換酸を HClとし、そして中和塩基を
NaOHとすると、この工程段階及び反応全体の式は下記の通りとなる:
試薬は消費され、そして0(又は負)の値の副産塩が生成される。
従って、アスコルビン酸についての伸び続けている高い需要に合う一層魅力的
な方法についての要求がかなりあるが、今日までかかる方法は提案も商業化もさ
れていない。
1976年において特許された英国特許第 1,426,018号及び1981年において特許さ
れた関連米国特許第 4,275,234号は水性溶液からの酸の回収に関する。これらの
特許において、クエン酸、乳酸、シュウ酸及びリン酸の水性溶液からのそれらの
回収が具体化されている。事実、前記米国特許はその4種の酸のいづれかの回収
を特に請求の範囲とする。
本明細書において規定する本発明の方法は引用することで本明細
書に組入れる上記の英国特許の範囲に形式的には属し、そしてこの観点において
以下に説明する通りその選択肢を構成することになるが、前記特許はアスコルビ
ン酸の回収への前記方法の適用の教示も、示唆も、例示もしていなく、そして前
記特許の詳しい分析から、その方法がアスコルビン酸の回収に利用できることを
予測することはできず、そして事実、前記英国特許の公開から19年経てもその方
法がアスコルビン酸の回収を示唆している又はそれに適用できるとする当業者は
いなかった。
前記特許及びその教示を参照すると、その中に教示の方法はアミン系抽出剤に
よるリン酸及びカルボン酸抽出に対する温度の効果を利用している。本明細書に
おいて用いる「アミン」なる語は鎖上に全部で20個以上の炭素原子を有する水非
混和性アミンを意味する。前記特許はかかるアミン系抽出剤(ABE)が温度の上昇
によりその抽出効果のほとんどを失うと教示している。かかる効果の喪失を「抽
出の温度感受性」(TS)と称している。このTSの程度は低温での分配係数(DT1
)と高温での分配係数(DT2)との比により表わされうる。高いTSは抽出と逆抽
出(back-extraction)との間で温度を変化させることを通じてカルボン酸の精製
及び濃縮を供する。酸は低温では ABEにより発酵液から抽出され、そして高温で
は水により逆抽出される。逆抽出より得られる水性溶液は多くの場合、発酵液内
よりも高い濃度である。この工程を「温度スイング工程」(TSP)とここで呼ぶ
。かかる方法の魅力は唯一のエネルギー消費が知覚できる熱であるという事実に
あり、そのことは最終濃度における水エバポレーションの大量の潜熱を節約する
。
米国特許第 4,275,234号には下記の説明がある:
〔「低温」及び「高温」の概念は絶対的なものとは解することができない。問
題の事項…は温度差である。これは操作の便宜上及び
抽出と逆抽出との双方が可能な限り完全となるために20℃以上でなくてはならな
い。抽出は水性酸溶液の凍結点付近ほどの低温で実施され、そして逆抽出の温度
は大気圧での抽出物又は水の沸点付近であってよく、又はもし逆抽出を高圧で実
施するなら、更に高温でも、アミンが有機相の中に残るように温度及び圧力を選
定した条件下で常に行う。ほとんどの場合、抽出は室温付近で実施してよく、そ
して精製操作は室温より約20〜40℃高い温度とする。原則として、精製操作は、
精製温度が高いほど効率が高いが、抽出及び精製温度は個々のケースにおいて実
際の要因、例えば装置の耐腐蝕性及び値段、酸溶液流、抽出及び抽出剤の加熱及
び冷却費、精製した酸の濃度等に従って選定されるであろう。〕
〔もし抽出体を精製するのに用いる水性液体が水なら、逆抽出体は遊離酸の水
性溶液とする。所望するなら、逆抽出操作は逆抽出体が抽出酸の塩の水性溶液と
なるようにして行ってよい。例えば、水性アルカリ金属(ここで「アルカリ金属
」はアンモニウムを含む)水酸化物溶液による逆抽出は抽出した酸の対応のアル
カリ金属塩の水性溶液を供する。この場合も、逆抽出体は抽出した酸の対応のア
ルカリ金属塩を含み、一方抽出剤中のアミンはその塩酸塩に変換される。従って
それは例えば抽出剤を再構成するための水酸化カルシウムによる処理により分解
するであろう。時折り、まず逆抽出を水で行い、酸の大部分を遊離状態で回収す
ることが好都合である。溶媒抽出体内に残っている酸の残渣はアルカリ金属水酸
化物又は塩溶液により逆抽出できる。〕
〔アミン及び溶媒の双方に関し、抽出操作の温度及び抽出剤の組成の最適な選
定は特定のケースの所定の条件、例えば酸の種類、もとの水性溶液内のその濃度
、その溶液内に存在する不純物に従って決定もされるであろう。抽出及び精製操
作の双方の主たる狙いは水
性相と有機相との間での酸の分配に関し可能な限り適切な分配係数を達成するこ
とにあるであろう。抽出操作において、これは抽出剤、精製操作、水性相におい
て好適でなければならない。〕
上述の通り、前記特許の特徴は逆抽出を抽出よりも高い温度で実施することに
ある。一定の酸に関し、ほぼ室温での効率的な抽出が示されている。約 100℃で
の逆抽出は逆抽出体に、供給物に近い、又はそれよりも高い濃度を供する。事実
、世界中でクエン酸生産の大半は第一抽出剤としてトリドデシルアミンそしてエ
ンハンサーとして1−オクタノールを使用するこの方法を基礎とする〔Kirk-Oth
mer,Encyclopedia of Chemical Technology ,第4版、第6巻、p 364〕。
TSPにおける製品濃縮の度合い(アップヒルポンピング効果)はTSの程度に強
く依存する。TSについての熱動力学的解釈は十分でない。ある者は抽出工程が発
熱性であるため、平衡が温度上昇により逆方向にシフトすると主張する。しかし
ながら、これはあまりに単純すぎる。即ち、最も発熱性の抽出は強鉱酸のそれで
あるが、TSはその抽出に関して見い出されていない。我々が最も良く理解するに
は、この複雑な現象は前記特許では完全に説明されておらず、そして抽出した酸
の構造からTSの程度を推測するための手だてはない。
セロセン希釈液中の0.5mol/kgのトリラウリルアミン(Henkels Alamine 304)
及び10%のオクタノールより成る抽出剤による様々なカルボン酸の抽出について
のTSの程度をこの度試験した。その結果を下記の表1に示す:
TSは水性相内の酸の平衡濃度に依存し得、そしてそれは酸によって有意に異な
ることがわかりうる。しかしながら、TSと酸の強度又
はその他のその規定の特徴との間には直線的な相関は認められなかった。クエン
酸についての最強のTSは 0.05mol/kgの低濃度で認められた;ある種のジカルボ
ン酸はそのモノカルボン酸類似体よりも高いTSを示した。このことは、TSがカル
ボン酸基の数の上昇に伴って上昇する傾向を示唆しうる。このパラメーターをそ
の他のパラメーターから独立させるのは困難である。
ABEによる強鉱酸の抽出は非常に効率的であり、希薄水性溶液により既に平衡
な化学理論レベルに達する。このことは、最弱の直鎖脂肪族アミンについてもそ
の通りであり、第三アミンは約 0.5%の水性溶液との平衡においてアミンの mol
当り1mol の HClの化学理論抽出に到達する。高い効率は 2.5未満の pKaを有す
る強カルボン酸の抽出においても見い出せる。しかしながら、その効率はケロセ
ン希釈剤中の第三アミンによる弱カルボン酸の抽出でははるかに低い。この低い
効率性は低濃度域において極めて強調される。低抽出収率を避けるため、抽出エ
ンハンサーが抽出剤の中に導入される。
極性及びプロトン性化合物はアミンによる酸抽出の強化を狙うことがよく知ら
れる。このような化合物はそれ自体酸抽出剤として働き得るが、アミンよりもは
るかに弱い抽出剤である。アミン及びエンハンサーを含んで成る抽出剤はほとん
どの場合相剰効果を示す。即ち、かかる抽出剤による酸抽出は成分の累積寄与よ
りもはるかに高い。
本明細書の発明の詳細において、混乱を避けるため、「第一抽出剤」なる語は
抽出のために用いる長鎖アミンについて使用し、そして「エンハンサー」なる語
は抽出力がこの第一抽出剤よりも弱い極性及びプロトン抽出剤について用いてい
る。適当なエンハンサーは極性、そして好ましくはプロトン性の化合物、例えば
様々な分子量のアルカノール、ケトン、アルデヒド、エーテル及びエステルであ
る。
所望の抽出剤は抽出において高い効率性(相対的に少ない抽出剤容量、少ない
抽出段階数及び高い収率)、高い選択性、低い水混和性、低い毒性(特に食品級
製品のため)、及び抽出体からの抽出酸の効率的な精製を供するべきである。酸
は抽出体から、塩を形成するように塩基の水性溶液と相互作用させることを介し
て除去されうる。しかしながら、ほとんどの場合、酸は塩よりも必要とされる製
品であり、そして抽出体からの酸の回収は可能なら、水による逆抽出又は蒸留に
より行われる。
理解の通り、供給物からの抽出における高い効率性及び精製における高い効率
性は対立する要件である。強抽出剤からの抽出酸の逆抽出は大容量の水を必要と
し、そして非常に希薄な酸の水性溶液(逆抽出物)を供する。製品濃度の値段の
高さは全工程を非実現的なものにする。強抽出剤からの蒸留は高温を必要とし得
、そして酸及び/又は抽出剤の分解を供しうる。
抽出エンハンサーは極性、そして好ましくはプロトン性化合物であり、それは
それ自体非常に低い抽出能力を有するが、 ABEの抽出効率を有意に高める。この
増強はアミン酸イオン対の溶媒和を介する安定化により解釈される。オクタノー
ルがクエン酸の生産のための工業的 TSPにおいてエンハンサーとして使用されて
いる。
しかしながら、抽出エンハンサーは TSPに対して有害な作用を有し、なぜなら
温度感受性はエンハンサー含有量の上昇に伴って下降するからである。かかる作
用は下記の表2に示す:
従って、抽出効率とTSの度合いとにはトレードオフの関係がある。即ち、この
方法における高い度合いの製品濃度の追求は低い効率性、特に低い最終濃度につ
ながり、低い回収率、即ち、高い製品損失を供しうる。例えばラフィネート中の
製品濃度により表示される絶対損失は低い最終濃度での分布曲線の形状に依存す
る。比例的な損失は発酵液内の酸の濃度により主に決定される。
TSPは非常に高い温度感受性(今まで報告されている限り最高)と、発酵液内
のクエン酸の相対的に非常に高い濃度、一般には16〜18%との固有の好適な組合
せに基づく発酵液からのクエン酸の回収のために実施される。このような固有の
条件でさえも、エンハンサーレベルは最低限にまで下げるべきである。R.Wenne
rstern〔J .C
hem .Tech.Biotec.
,No.33B,pp 85-94(1983)〕は様々な抽出パラメーターの
効果を研究し、そして炭化水素が好適な希釈剤であると考え、なぜなら極性希釈
剤は温度効果を下げるからである。周囲温度以下への冷却又は発酵液の事前濃縮
(米国特許第 4,994,609号)が製品の大量損失を避けるために必要である。
上記の制約は Bauerらが TSPがクエン酸のためには経済的でなく、そして別の
酸(酢酸)による抽出酸の置換が好ましいものであると考えるに至らせた〔Baue
rら、Ber .Bunsenges.Phys.Chem.,第93号、pp.980-984(1989)〕。
アスコルビン酸はカルボキシル基をもたず、それ故カルボン酸でも鉱酸でもな
いということをこの場合に認識していることが重要である。従って、カルボン酸
及び/又は鉱酸を処理又は回収するための方法に関する特許及び論文はその範囲
においてアスコルビン酸を含まない。
その pKaに関し、アスコルビン酸は非常に弱く、クエン酸よりも1桁以上弱い
ものである。その低い酸性度及び高い親水性(それは4個のヒドロキシル基を担
持する)はその抽出効率を下げる。
抽出効率は水性相濃度に依存する(分布曲線の形状)分配係数により決定され
る。高濃度終端での分配係数は抽出剤の最大仕込み量を決定し、それ故リサイク
ル抽出剤の容積を決定する。低濃度終端での分配係数は完全抽出に近づく能力を
決定し、それ故抽出収率を決定する。希薄供給体からの成分の抽出に関しては、
抽出の収率は非常に重要である。希薄供給体からの抽出において高い収率に達す
ると、比較的弱い且つ非常に親水性の酸、例えばアスコルビン酸は高いエンハン
サーレベルを必要とするであろう。
上記の表1の試験結果はクエン酸についての今までに最強の温度感受性及びこ
の温度感受性がカルボキシル基の数の減少により降下
することを示す。どの結果においても、又は論文の中においても、アスコルビン
酸がクエン酸よりも高い温度感受性を示すであろうことを示唆していない。
たとえアスコルビン酸抽出がクエン酸抽出の温度感受性を有していたとしても
、低いエンハンサーレベルでは損失が非常に大きいという事実から、 TSPにおけ
る希薄溶液からのその回収を考慮しないであろう。他方、高いエンハンサーレベ
ルでは、温度感受性は下降する。従って、この方法の最大の長所、即ち、製品を
発酵液のそれよりも実質的に高い濃度で回収するということは失われるであろう
。
上記の観点において、アミン系抽出剤によるアスコルビン酸抽出の温度感受性
は非常に高く、且つ高いエンハンサーレベルにおいても維持されるという発見は
非常に驚くべきことである。この発見に基づき、本発明に従い、アスコルビン酸
を0.7mol/kg未満の濃度で含む水性供給溶液からアスコルビン酸を回収するため
の方法であって、前記アスコルビン酸を(a)第一抽出剤としての炭素の総数が
20以上の少なくとも一種の第二又は第三アルキルアミン及び(b)極性抽出エン
ハンサー化合物を含んで成る水非混和性有機抽出組成物により抽出する(ここで
、前記抽出組成物は1モルの未−抽出剤当り2モル以上の前記極性抽出エンハン
サー化合物を含んで成る);前記アスコルビン酸含有有機抽出組成物を残留水性
溶液から分離する;前記アスコルビン酸含有有機抽出組成物を、前記抽出を実施
した温度よりも20℃以上高い温度におい水性溶液による精製操作にかける;こと
を含んで成り、これによりアスコルビン酸の濃度が前記水性供給溶液におけるそ
の濃度よりも高いアスコルビン酸の水性溶液が得られる方法を提供する。
本発明の方法は、以下に記載のその好適な態様において、前記ア
スコルビン酸が0.5mol/kg未満の濃度においてこの酸を含む水性供給溶液から回
収できるという点で有効である。
第一抽出剤として比較的強力なアミンを含んで成る抽出剤は強鉱酸を抽出する
効率に対してほぼ0の温度感受性を示す。しかしながら、比較的弱いアミンはか
かる効果を示すことがわかっている。かかる弱アミンの例は窒素原子近くの炭素
上で枝分れを有する立体障害式枝分れ鎖アミンである〔Eyalら、Solvent Extrac tion and Ion Exchange
,第9巻、pp.195-236(1991)〕。これらのアミンは直
鎖アミンよりも2桁程弱く、そして窒素原子から離れて枝分れしている枝分れ鎖
アミンよりも弱い。かかるアミンはほとんどの弱酸を抽出するのに弱すぎてしま
い、そして本発明における第一抽出剤として使用するには適さない。簡単に言う
と、「枝分れ鎖アミン」は窒素原子近くで枝分れした立体障害式の比較的弱いア
ミンである。
枝分れ鎖アミンは多くのカルボン酸、特にヒドロキシカルボン酸を抽出するに
は弱すぎる。直鎖アミンははるかに効率的であるが、高い冷却費を節約すること
のない完全抽出は抽出エンハンサーの利用を必要とする。これは希薄供給溶液か
らの抽出にとって特に真実である。しかし、エンハンサーが強いほど、そしてそ
の含有量が高いほど、温度に対する抽出効率の感度は低い。従って、高い比率の
エンハンサーにおいて比較的強いエンハンサーを含んで成るアミン系抽出剤は高
い抽出効率を示すが、米国特許第 4,275,234号によると高温での逆抽出の利点を
ほとんど失う。
公知事実によると、4通りの主要オプション、並びにその変異法及び組合せが
提案されている:
a)抽出完了のために必要とされる最小濃度での弱エンハンサー又は強エンハン
サーの利用(抽出において非最適抽出剤組成、高抽出容量、多段階抽出、及び比
較的高損失)。このオプションはクエン
酸生産のために選定されている。
b)抽出と逆抽出との温度スパンを広くする(抽出における高額な冷却及び高い
粘度、並びに逆抽出における高額な加熱及び熱分解)。
c)逆抽出前の抽出体からの少なくとも一部のエンハンサーの蒸留(高いエネル
ギー費、ほとんどの場合水性流において比較的高い溶解度を有する揮発性エンハ
ンサーへの制約、追加の回収操作の必要性)。
d)抽出サップレーとして働く非極性溶媒の抽出体への添加及び再生抽出剤の利
用前のこの溶媒の除去(低効率、高エネルギー費)。
上記オプションに反して、本発明の更なる好適な観点は、極性基の立体障害を
有する極性有機化合物が、ほぼ周囲温度において、類似体の非障害式化合物のそ
れと類似の増強効果を有するが、高温では低い増強効果を有するという発見に基
づく。その結果、効率的な抽出はほぼ周囲温度においてアミン系抽出剤を、慣用
の量のエンハンサーと組合せて利用することにより達成可能であり、一方効率的
な逆抽出は高温にて、逆抽出における望ましくない高温及び/又は逆抽出の前後
での抽出剤成分の高エネルギー消費除去を頼りとすることなく達成される。
更に、エンハンサー含有抽出剤は一層効率的な抽出を供することで知られるが
、抽出力の温度感受性の低下の犠牲が伴う。抽出におけるエンハンサー適用の利
点は低下した温度感受性をしのぎうる。従って、比較的高い酸性度の水性供給体
からの酸の抽出のためには、特に不完全な抽出が許容されるなら、非増強型(又
は若干増強型)抽出剤が好ましい。他方、酸の希薄水性溶液からの抽出、そして
特に比較的高いpHの水性溶液からの抽出において、増強した抽出剤は効率的な抽
出のために必須である(他方、非増強型の非常に強い
アミンが第一抽出剤として利用できるが、精製はかかる抽出剤にとっては非実現
的である)。
上記の観点において、本発明の好適な態様に従うと、0.7mol/kg未満の濃度に
おいてアスコルビン酸を含む水性供給溶液からアスコルビン酸を回収するための
方法であって、前記アスコルビン酸を、(a)第一抽出剤として炭素の総数が20
以上の少なくとも一種の第二又は第三アルキルアミン;並びに(b)5個以上の
炭素を有し、前記第一抽出剤のそれよりも弱い塩基性、及び温度感受性式抽出増
強特性を有する立体障害式の極性有機抽出エンハンサー化合物;を含んで成る水
非混和性有機抽出組成物により抽出する(ここで前記抽出組成物は1モルの第一
抽出剤当り2モル以上の前記極性抽出エンハンサー化合物を含んで成る);前記
アスコルビン酸含有有機抽出組成物を残留水性溶液から分離する;そして前記ア
スコルビン酸含有有機抽出組成物を、前記抽出を実施した温度よりも20℃以上高
い温度において水性溶液による精製操作にかける;ことを含んで成り、これによ
りアスコルビン酸の濃度が前記水性供給溶液におけるその濃度よりも高いアスコ
ルビン酸の水性溶液が得られる方法を提供する。
本発明の前記好適な態様において、前記立体障害式極性有機抽出エンハンサー
化合物は好ましくはその極性基を担持する炭素又はこの炭素に対してアルファー
、ベーターもしくはガンマー位の炭素に付加された立体障害式置換基を有するア
ルカノール、カルボン酸、第三アミン又はトリアルキルホスフェートより成る群
から選ばれる。
極性、そして特にプロトン性の有機化合物はアミンによる酸抽出のエンハンサ
ーとして、かかる抽出に基づいて形成されるアミン酸イオン対を溶媒和するその
能力により作用する。本発明におけるエ
ンハンサーとして利用するのに適する有機化合物は少なくとも1個のかかる極性
又はプロトン性基を有し、その溶媒和特性は分子の構造により妨げられている。
この極性基は好ましくはヒドロキシル、エステル、アルデヒド、カルボキシル、
ケトンもしくはアミンであるか、又は前記極性基はハロゲン、硫黄、窒素もしく
はリン酸原子を含んで成りうる。障害はアルキル鎖内の水素原子の脂肪基の置換
を介して、即ち、極性基を担持する炭素原子上の又はこの炭素に対してアルファ
ー、ベーターもしくはガンマー位の炭素上の枝分れを介して達成できる。
エンハンサーは抽出剤複合物における未−抽出剤として使用するアミンよりも
弱い塩基とすべきである。エンハンサー、対、 HClの2のモル比を供する比率で
それを 0.1Mの水性 HCl溶液で平衡化することで水性相のpHは2以下に維持され
るであろう。非増強化抽出剤としてそのまま作用するアミンによる似たような平
衡化で、水性相のpHは約 2.5以上に上昇する。
第一抽出剤及び立体障害式極性有機エンハンサー化合物に加え、この抽出剤は
水非相溶性の極性又は非極性溶媒、例えば脂肪式又は芳香式炭化水素、ニトロ又
はハロ置換基を担持する炭化水素、及びアルコールを含んで成りうる。
本発明の好適な態様において、前記立体障害式極性抽出増強化合物は第二又は
第三アルカノール、トリス−2−エチルヘキシルアミン及びトリス−2−エチル
ヘキシルホスフェートより成る群から選ばれる。
本発明は更に、アスコルビン酸又はその塩を含む水性溶液からアスコルビン酸
を回収するための方法において使用するための抽出組成物であって、a)未−抽
出剤として炭素の総数が20以上の少なくとも一種の第二又は第三アルキルアミン
、並びにb)5個以上の炭
素を有し、前記第一抽出剤のそれよりも弱い塩基性、及び温度感受性式抽出増強
特性を有する立体障害式の極性有機抽出エンハンサー化合物を含んで成る抽出組
成物を提供する。
本発明の好適な態様において、前記抽出組成物は1モルの第一抽出剤当り3モ
ル以上の前記極性抽出エンハンサー化合物を含んで成る。
本発明の特に好適な態様において、前記精製操作は前記有機抽出剤組成物の中
に含まれるアスコルビン酸の80%以上の逆抽出を及ぼす。
以降に記述及び例示する通り、アスコルビン酸を回収するための本発明の方法
の主たる利点は、前記精製操作の後、残留有機抽出組成物をリサイクルすること
ができ、そしてかかるリサイクルした有機抽出組成物により実施する更なる抽出
が90%以上、そして好ましくは95%以上のアスコルビン酸の収率を供することに
ある。
本発明を添付の図面を参考に一定の好適な態様に関連づけてこれより説明し、
これにより一層よく理解されうるようになる。
実施例及び添付図面に詳細に示す分布曲線に関し、記述及び表示の特定態様は
例示であり、そして単に本発明の好適な態様の例示の目的のために示すものであ
り、そして本発明の原理及び概念の説明の理解を最も有効且つ容易にするものと
信じて提供する。これとの関連で、本発明の基本的な理解のために必要なもの以
上に本発明を詳細に説明するつもりはなく、図面の参照は本発明のいくつかの態
様がどのように実際に具現化し得るかを当業者に明らかにする。
図面において:
図1は様々なレベルのオクタノールを有するケロセン中でのトリカプリルアミ
ンによるクエン酸抽出についての分布曲線であり;
図2は様々な酸についての分布曲線及び温度効果であり;
図3はアスコルビン酸とクエン酸との対比分布曲線であり;
図4は本発明の好適な態様の立体障害式極性有機抽出エンハンサー化合物と対
比しての、非立体障害式抽出エンハンサーを利用したアスコルビン酸についての
分布曲線である。
図1を参照すると、Zは有機相中の酸/アミンのモル比であり、これより抽出
はオクタノールにより高まり、そしてその効果が低濃度終端において特に強いこ
とがわかる。
図2はケロセン中の1.2mol/kgのトリカプリルアミン及び2.4mol/kgのオクタ
ノールより成る抽出剤による抽出についての分布曲線を示す。0.2mol/kg溶液か
らの25℃でのアスコルビン酸の抽出は約0.1mol/kgの抽出剤仕込み量に達しうる
。しかしながら、80℃では、下部曲線の外挿により、約0.1mol/kgの抽出剤仕込
量は水性相中の0.8mol/kgのアスコルビン酸に相当する。
この結果は、25〜80℃の温度勾配でこの抽出剤を利用することで、アスコルビ
ン酸のアップヒル濃度係数は約4となることを示唆する。このような濃度でのク
エン酸及びアスコルビン酸に関し、その係数は約2である。この抽出剤組成では
、アスコルビン酸に関するTSはクエン酸及びコハク酸に関するそれよりも高い。
コハク酸との対比は、 pKaが本発明の結果における係数であると考えられ、コハ
ク酸の kPaがアスコルビン酸のそれと同じである場合に含ませている。
しかしながら、見ての通り、アスコルビン酸の抽出は未だ十分に効率的であり
、そして図3に関して後述する通り高めのエンハンサーレベルが好ましい。
図3は、1.2mol/kgのトリカプリリルアミン(50%)及び3.8mol/kgのオクタ
ノール(50%)より成る抽出剤による抽出に関する分布曲線を示す。0.2mol/kg
のアスコルビン酸含有水性溶液との接触
における抽出剤の仕込量は約0.5mol/kgとする。即ち、エンハンサーの含量の増
大及びケロセンの回避は、図2に示すものと比べ、抽出を非常に強化した。この
効果は低濃度終端でも更に一層印象的であった。温度感受性に対する高エンハン
サーレベルの効果は驚くほどに小さい。約4の濃度係数が25℃での抽出及び96℃
での逆抽出により達成し得る。実際には、このような条件でのクエン酸抽出に関
しては温度感受性は認められない。
図4を参照すると、2通りの抽出を試験した。双方において、アミンはトリカ
プリリルアミン(HenkelのAlamine 336)とし、そしてその濃度は50w/w%と
した。一方の抽出剤組成において、エンハンサーはオクタノールとした。他方の
抽出剤組成においては、それは3−エチル−3−ペンタノールとした。双方のケ
ースにおいて、エンハンサー含量は50%とし、希釈剤は使用しなかった。
水とこのような抽出剤との間でのアスコルビン酸の分布を周囲温度及び75℃で
試験した。その結果を図4に示す。見ての通り、周囲温度での抽出は双方の抽出
剤に関して類似しているか、又は3−エチル−3−ペンタノールの利用において
若干高くもあった。しかしながら、高温では、3−エチル−3−ペンタノールを
含んで成る抽出剤の効率性は低かった。
図4に例示する試験の結果から、5個以上の炭素原子を有する立体障害式極性
有機化合物、第一抽出剤のそれよりも弱い塩基性、及び本発明の抽出エンハンサ
ー化合物としての温度感受性抽出改変特性を利用することが事実上好適であるこ
とがわかりうる。
米国特許第 4,275,234号の教示にもう一度もどると、この特許の実施例にはい
くつかの問題点が示されていることに気づく:
ほとんどの実施例において、抽出剤の中にエンハンサーは使用されておらず、
又はそれは5%以下の制約された比率において使用さ
れている。実施例7において、抽出組成物は50%のトリ−トリデシルアミン及び
50%のニトロベンゼンである。極性成分であるため、ニトロベンゼンはエンハン
サーとしてはかなり効率的である。 9.3%のクエン酸を含む抽出体を水により(
100gの抽出体当り 100g)60℃(抽出温度よりも35℃高い)にて逆抽出してい
る。当初のクエン酸の13%しか逆抽出されておらず、希薄な13%のクエン酸溶液
が形成される。 150gの炭化水素をアミンを希釈するために添加しており、そし
てエンハンサーが逆抽出性を高めるために必要とされている。この実施例は「抽
出体は炭化水素画分をそれに加えない限り、容易に逆抽出できない」としている
。この抽出工程での炭化水素の添加はその効率性を下げることがあり、なぜなら
非極性溶媒はエンハンサーと反作用し、そして抽出阻害剤となりうるからである
。
この特許の実施例16には25%w/wのジラウリルベンジルアミン、69%w/w
のn−オクタン及び6%の1−n−オクタノールより成る抽出剤からのシュウ酸
の逆抽出が記載されている。効率的な逆抽出のため、50gのn−オクタンを約37
gのシュウ酸含有抽出体に加えた。即ち、比較的低い初期エンハンサーレベルで
さえも、抽出阻害剤によるかなりの希釈が必要とされた。約79%の抽出剤しか80
℃で逆抽出されなかった。 120〜160 ℃の温度が推奨される(実施例18)。
1.1mol/kgの酸を含んで成る初期溶液からの乳酸回収の収率は95%であった(
実施例13)。エンハンサー非含有抽出剤を使用している。0.8mol/kgの初期溶液
からの H3PO4回収の収率は88%であった(実施例14)。ここでもエンハンサーは
使用されていない。実施例5におけるクエン酸についての抽出収率は、5%のエ
ンハンサー(オクタノール)を含んで成る抽出剤を使用して、95%であった。
この特許において、実施例12には良好な結果を伴って多量のエン
ハンサーが表面的に使用されている希薄乳酸の抽出の記載がある。本発明の原理
及び理論に従うと、米国特許第 4,275,234号の実施例12において得られる結果は
可能ではない又は正しくないと思われる。この点を明確にするため、2%(0.22
mol/kgの溶液からの乳酸の抽出及び抽出剤からのその精製を実施例12の通りに
して繰り返した。抽出剤は50%w/wのトリドデシルアミン及び50%w/wの1
−n−オクタノールより成る。抽出は25℃で行い、そして精製は約96℃で行った
。
実施例12における抽出(100gの水、40gの抽出剤、3段の逆流段階)は酸の
事実上完全な抽出を供し、5%w/wの乳酸を含んで成る抽出体(仕込抽出剤)
が形成された。実施例12における精製(40gの抽出体、40gの水、5段の逆流段
階)は 1.8%の濃度における 0.7gの乳酸を含んで成る水性溶液を供した。抽出
乳酸の約2/3が有機相に残った。2%の乳酸溶液からの抽出におけるこの有機
相の再利用は低収率を供した。20%以下の酸しか抽出されなかった。抽出におけ
る段数を増やしても若干の効果しかなかった。ほぼ完全な精製、それ故有機相の
再利用は40gの抽出体当り約 150gの水及び6〜7段の逆流段階を必要とする。
この場合、乳酸は約 0.5%w/wの希薄溶液で得られた。
即ち、アミン1モル当り約4モルのエンハンサーを含んで成る抽出剤を使用す
ることは、0.22mol/kgの希薄溶液からの乳酸のほぼ完全な抽出を供するが、精
製では、高い比率の水が必要とされ、そして酸は供給濃度に比べて4倍希釈する
必要がある。この溶液の濃縮の費用は多大である。
0.22mol/kgの溶液からのアスコルビン酸の抽出と同一の抽出剤を使用すると
、 100gの水性溶液当り65gの抽出剤及び5〜6段の逆流段階が25℃で95%以上
の抽出収率を達しめるのに必要とされる
。
35gの水で96℃での抽出体の精製は0.6mol/kgのアスコルビン酸及び事実上ア
スコルビン酸を含まない有機相を含んで成る水性溶液を供する。抽出におけるこ
の有機相の再利用は上記条件にて95%以上の抽出収率を供する。
即ち、乳酸の場合、リサイクル抽出剤による事実上の完全な抽出は供給物と比
べて4倍希釈された乳酸製品を供するが、同一の条件及び類似の抽出剤でのアス
コルビン酸の場合、リサイクル抽出剤による事実上の完全な抽出は供給物と比べ
て3倍濃厚なアスコルビン酸製品を供した。
従って、米国特許第 4,275,234号の教示及びそれにおける実施例の反復により
、それにおいて教示されている方法はアスコルビン酸の商業的生産に適さないと
いう逃げられない結論に達することが明らかである。更に、この特許は本明細書
に記載の如き立体障害式極性有機抽出エンハンサー化合物の利用を教示も示唆も
していない。
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