【発明の詳細な説明】
DNA、構築物、細胞およびそれから誘導された植物
本出願は、新規のDNA構築物、構築物を含む植物細胞、およびそれから誘導
された植物に関する。特に、本出願は、植物のカロテノイド代謝修飾の原因とな
る植物遺伝子発現の修飾に関する。
植物遺伝子発現の修飾は、様々な方法で行われてきた。分子生物学者は、遺伝
子発現を減少させたり増加させたり、または特定の遺伝子の位置的または時間的
発現を変化させたりする方法を、既知の範囲から選択することができる。例えば
、特定のアンチセンスRNAまたは部分(先端切除された)センスRNAのいず
れかの発現は、植物の様々な標的遺伝子の発現を減少させるために利用されてい
る(BirdおよびRay、1991、Biotechnology and
Genetic Engineering Reviews 9:207−22
7に論評されている)。これらの技術は、アンチセンスRNAまたはセンスRN
Aのいずれかを発現するように設計した合成遺伝子を植物ゲノム内に取り込むこ
とを伴う。これらの技術を用いて、トマト果実の発育および熟成に関わる範囲の
個々の遺伝子の発現をダウンレギュレーションすることに成功した(Grayら
、1992、Plant Molecular Biology,19:69−
87)。標的遺伝子の発現を増加させる方法もまた、開発されている。例えば、
標的遺伝子のコード領域全体を含むRNAを発現させるように設計したさらなる
遺伝子を植物ゲノム内に取り込ませると、遺伝子生成物を「過剰発現(over
−express)」させることができる。遺伝子発現を修飾する様々なその他
の方法;例えば、代わりの制御配列を用いること;が知られている。
カロテノイドには、カロテン、ルテイン、キサントフィル、およびリコペンの
ような色素などのような範囲の生化学物質が含まれる。高等植物および微生物の
カロテノイド生合成は、数多くの研究の主題であった。カロテノイドの生合成経
路は、生物の範囲を超えて、多くの共通の特徴を共有している(Bramley
およびMackenzie、1988)。カロテノイド生合成の生化学的経路を
図1に示す。
カロテノイド合成のための経路への分岐点は、ゲラニルゲラニルジホスフェー
ト(GGDP−以前はゲラニルゲラニルピロホスフェートGGPPとして知られ
ていた)の形成の後である。カロテノイド形成の最初の独特な段階は、2分子の
GGDPが頭対頭(head−to−head)で縮合し、第一のC40カロテノ
イド、フィトエンを形成することである。GGDPからのフィトエンの合成は、
中間体としてプレフィトエンジホスフェート(PPDP−以前はプレフィトエン
ピロホスフェートPPPPとして知られていた)を伴う2段階の反応を含むが、
植物および微生物内では、両反応ともに、一つの酵素によって触媒される。この
酵素は、GGDPのフィトエンへの転換を触媒し、フィトエンシンターゼとして
知られている(Bramleyら、1992、Plant Journal,2
:343−349)。
フィトエンシンターゼ活性は、トマト、胡椒、トウモロコシ、人参、ほうれん
草およびタバコを含む広範囲の植物種で検出されている。異なる種の酵素の間に
は、多くの類似点がある。酵素は、色素体ストロマに位置し、同じフィトエン立
体異性体(15−cisフィトエン)を合成する。酵素はすべて、補助因子とし
てMn++を要求するが、ATPの要求性は明らかではない。
フィトエンシンターゼ酵素をコードするDNA配列は知られている。例えば、
フィトエンシンターゼ酵素として同定されたTOM5遺伝子(国際特許出願WO
91/09128として公開、国際特許出願WO92/16635として公開)
は、トマトの熟成に関する酵素をコードする(Rayら、1987、Nucle
ic Acids Research,15:10587)。フィトエンシンタ
ーゼ酵素は、配列類似性を示す。精製された胡椒(カプシカム アンヌウム)(Capsicum
annuum)のフィトエンシンターゼの分子量(48kD
)(Dogboら、1988に記載)は、TOM5によってコードされる成熟型
のフィトエンシンターゼタンパク質の予想分子量(47.6kD)と非常によく
似ている。アラビドプシス(Arabidopsis)および胡椒のcDNAク
ローンから予想されるフィトエンシンターゼタンパク質配列を、TOM5によっ
てコードされるトマトフィトエンシンターゼの予想されるタンパク質配列と並べ
て比較すると、それぞれ75%および90.6%の同一性を示す。トマトのTO
M5 cDNAによってコードされるタンパク質はまた、ロドバクター カプス ラタス
(Rhodobacter capsulatus)(グラム陰性の紫色
細菌)からのCrtBタンパク質とも、有意な相同性(32%の同一性;56,
5%の類似性)を示す(Armstrongら、1990,JBC,265:8
329−8338)。CrtBタンパク質は、GGDPのフィトエンへの転換を
触媒する(Bartley GEら、1992,J Biological C
hem,267:5036−5039)。
植物のフィトエンシンターゼDNA配列の間には相同性が存在する。トマトは
、TOM5と相同性を持つ少なくとも一つの他の遺伝子座を含む。TOM5 c
DNAは、二つのクローン:クローンFとして既知のゲノムクローン(Rayら
、1992,PMB,19:401−404)およびPsy2として既知のcD
NAクローン(BartleyおよびScolnik、1993,J Biol
Chem,268:25718−25721):とクロスハイブリダイズする
であろう。Psy2は、TOM5 cDNAと全体で80%のヌクレオチド相同
性を持つ。TOM5 cDNA配列はまた、全体で83%の相同性を持つカプシ カム
アンヌウム(Romerら、1993,Biochem Biophys
Res Commun,196:1414−1421)および全体で65%の
相同性を持つアラビドプシス サリアナ(Arabidopsis thali ana
)(ScolnikおよびBartley、1994,Plant Ph
ysiology,104:1471−1472)を含む、その他の種のフィト
エンシンターゼクローンを同定するためのハイブリダイゼーションプローブとし
ても用いられている。
国際特許出願WO91/09128(EP−A−505405)は、植物内で
のカロテノイド化合物の合成を修飾するための、フィトエンシンターゼをコード
する「アンチセンス」および「センス」DNA構築物ならびにそれらの使用法に
ついて記載している。これらのDNA構築物は、TOM5遺伝子のいくらかまた
は全体に相同性のDNA配列を含み、植物内で機能する転写開始領域を前に配置
し、それ故、構築物は植物細胞中でmRNAを生成することができる。DNA構
築物は、翻訳されてTOM5遺伝子によって生成される酵素を生ずることのでき
る、mRNAをコードするであろう。国際特許出願WO91/09128は、前
述のDNA構築物で植物を形質転換することによって、植物でのカロテノイド生
成を修飾(阻害または促進)する方法について記載しており、また、カロテノイ
ド含有量を変化させた形質転換植物(およびその子孫)についても記載している
。一般的に、植物内でのTOM5酵素(フィトエンシンターゼ)の生成は、実質
的に完全な遺伝子と相同なDNAを含む構築物によって強化される。例えば、リ
コペン生成の促進は、TOM5 cDNAまたは全長のTOM5遺伝子の機能性
コピーの一つまたはそれより多くを、機能性植物プロモーターの調節下、トマト
植物中に挿入することによって成し遂げられ、深紅色の果実を生じるであろう。
FrayおよびGrierson(1993,Plant Mol Biol.
22:589−602)は、トマト内での植物フィトエンシンターゼ遺伝子の過
剰発現および着色への影響について考察している。
要約すると、国際特許出願WO91/09128は、(組換えDNA技術を用
いて)植物中でのTOM5遺伝子発現を調節して、(植物部分の全カロテノイド
含有量を増加あるいは減少させるか、または個々のカロテノイドのレベルを増加
/減少させることによって)カロテノイドの代謝を修飾することについて記載し
ている。特に、これは、色素の生成および他のある種の関連機能(β−カロテン
およびビタミンAの生成;高い光強度損傷に対する防御;スポロポレニンの合成
および花粉の形成/成熟の調節)の修飾について記載している。
本発明につながる研究において、我々は、植物中のカロテノイド代謝の修飾に
有用なフィトエンシンターゼ(phytoene synthase)をコード
するDNA配列代替物を同定した。
本発明によれば、メロンのフィトエンシンターゼをコードするDNA配列が提
供される。DNA配列は、cDNAあるいはゲノムDNAから誘導することがで
き、最初から(ab initio)合成することもできる。
メロンのフィトエンシンターゼをコードするcDNAクローンは、メロンのc
DNAライブラリーから得ることができる。対応する遺伝子によって生成したm
RNAの全体または実質的に全体をコードする配列は、このようにして得られる
。
そのようにして得られたcDNAは、既知の方法に従って配列決定することがで
きる。
フィトエンシンターゼをコードするcDNAクローンをメロンから単離した。
クローン(本明細書中以後MEL5と呼ばれる)は、ほぼ全長であり、その核酸
配列を、(誘導されるアミノ酸配列と共に、)配列ID−1に示す。
DNA配列の代替源は、メロンのフィトエンシンターゼをコードする適切な遺
伝子である。この遺伝子は、内にイントロンを有する場合がある対応cDNAと
は異なる場合がある。イントロンは、mRNA内に転写されない(あるいは、転
写された場合、後に切断される)。オリゴヌクレオチドプローブまたはcDNA
クローンを用いて、メロンのゲノムDNAライブラリーをスクリーニングするこ
とによって、実際のフィトエンシンターゼ遺伝子(単数または複数)を単離する
こともできる。そのようなゲノムクローンは、植物ゲノム中で機能する調節配列
を含む場合がある。それ故、酵素または任意の他のタンパク質の発現を駆動する
ために用いることのできるプロモーター配列を単離することも可能である。これ
らのプロモーターは、特に、ある種の発育上での出来事および環境条件に応答す
るであろう。メロンのフィトエンシンターゼ遺伝子のプロモーターを用いて、任
意の標的遺伝子の発現を駆動することもできる。
メロンのフィトエンシンターゼDNA配列を得るためのさらに別の方法は、適
当な塩基から、例えば指針として適当なcDNA配列を用いて、最初から(ab
initio)それを合成することである。
メロンのフィトエンシンターゼ配列のいくらかまたは全体を、植物の形質転換
に適切なDNA構築物内に取り込むことができる。さらに、これらのDNA構築
物を用いて、植物中の遺伝子発現を修飾することもできる。「アンチセンス」ま
たは「部分的センス」またはその他の技術を用いて、植物組織内のフィトエンシ
ンターゼの発現を減少させることもできる。また、例えば、追加の酵素遺伝子を
取り込むことによって、フィトエンシンターゼのレベルを増加させることもでき
る。追加の遺伝子は、植物中で、位置的かつ時間的に同一または相違するいずれ
かの発現パターンを生ずるように設計することができる。
本発明のさらに別の態様によれば、植物内で機能する転写開始領域の制御下で
、
メロンのフィトエンシンターゼをコードするDNA配列のいくらかまたは全体を
含むDNA構築物が提供され、その結果、構築物は植物細胞中でRNAを生成で
きる。
本発明のDNA構築物で形質転換することによって、植物の部分(特に果実)
のカロテノイド含有量および関連する特徴を修飾することもできる。また、本発
明は、そのような構築物を含む植物細胞;修飾されたカロテノイド含有量を示す
それから誘導された植物;およびそのような植物の種子;を提供する。
本発明のDNA構築物は、「アンチセンス」RNAを生成する「アンチセンス
」構築物または「センス」RNAを生成する「センス」構築物(機能酵素の少な
くとも一部をコードする)でもよい。「アンチセンスRNA」は、対応するmR
NA中の塩基配列に相補的である:(3’から5’にセンス配列を読んだ)アン
チセンス配列の個々の塩基(または大多数の塩基)は、5’から3’にセンス配
列を読んだmRNA配列の対応する塩基(GとC、AとU)と対合する能力を持
つという意味において、相補的である:RNA配列である。そのようなアンチセ
ンスRNAは、関連遺伝子のコード鎖(または、それと実質的な相同性を示すD
NA配列)の少なくとも部分に相補的なその配列の少なくとも一部を持つ転写物
を生成するように配列した適当なDNA構築物で形質転換することによって、細
胞内で生成されるであろう。「センスRNA」は、対応するmRNA配列の少な
くとも一部と実質的に相同なRNA配列である。そのようなセンスRNAは、関
連遺伝子のコード鎖(または、それと実質的な相同性を示すDNA配列)の少な
くとも一部と同一の配列を持つ転写物を生成するように正常方向に配列した適当
なDNA構築物で形質転換することによって、細胞内で生成されるであろう。適
当なセンス構築物を用いて、遺伝子発現を阻害することができ(国際特許公開W
O91/08299に記載されている)、また、機能性酵素をコードし発現する
センス構築物を植物内に形質転換して、酵素を過剰発現させることもできる。
本発明によるDNA構築物は、RNAへの転写のための長さが少なくとも10
塩基(好ましくは少なくとも35塩基)の塩基配列を含むことができる。塩基配
列の理論上の上限はない(細胞によって生成される関連mRNAと同等の長さで
あって良い)が、便宜上、一般的には、ダウンレギュレーションの目的には長さ
100から1000塩基の配列を用いるのが適当であるが、過剰発現させるには
約1500塩基を越えることが好ましいことが分かるであろう。そのような構築
物の調製については、以下により詳細に記載する。
転写用DNA塩基配列の源として、適当なcDNAまたはゲノムDNAまたは
合成ポリヌクレオチドを用いることができる。適当なメロンのフィトエンシンタ
ーゼコード配列の単離法は、上記の通りである。このようにして、酵素の全体ま
たは実質的に全体をコードする配列を得ることができる。適当な長さのこのDN
A配列は、制限酵素を用いることによって使用のために切り出すことができる。
ゲノムDNAを転写用部分塩基配列の源として用いる場合には、イントロンある
いはエキソン領域のいずれか、またはその両方を組み合わせて用いることが可能
である。
メロンのフィトエンシンターゼの植物細胞内での発現に適切な構築物を得るた
めに、酵素のcDNA内に認められるようなcDNA配列または植物の染色体内
に認められるような遺伝子配列を用いることができる。標準的な技術を用いて、
組換えDNA構築物を作製することができる。例えば、転写用DNA配列は、当
該配列を含むベクターを制限酵素で処理して、適切なセグメントを切り出すこと
によって得ることができる。転写用DNA配列はまた、合成オリゴヌクレオチド
をアニーリングし結合することによって、またはポリメラーゼ鎖反応(PCR)
中で合成オリゴヌクレオチドを用いることによって生成することができ、それぞ
れの末端に適当な制限サイトを付与できる。次に、DNA配列を、上流にプロモ
ーター、下流に終止配列を含むベクター内にクローン化する。アンチセンスDN
Aを所望するのであれば、切断DNA配列が切断された鎖内でその方向に関して
逆になるように、クローニングを行う。
アンチセンスRNAを発現する構築物では、元々は鋳型の鎖であった鎖がコー
ド鎖になり、その逆も同じである。それ故、構築物は、酵素のmRNA配列の部
分または全体と相補的なRNAを塩基配列内にコードするであろう。このように
、二つのRNA鎖は、それらの塩基配列のみならずそれらの方向性(5’から3
’)に於いても相補的である。
センスRNAを発現する構築物では、鋳型およびコード鎖は、起源の植物遺伝
子の割当および方向をそのまま残している。センスRNAを発現する構築物は、
mRNAの配列の部分または全体に相同な塩基配列を持つRNAをコードする。
機能性酵素を発現する構築物では、遺伝子の全コード領域が、植物内で発現する
能力を持つ転写調節配列に結合している。
例えば、本発明による構築物は、以下の方法に従って作製することができる。
所望する塩基配列を含む適切な(MEL5−cDNAクローンのような)転写用
ベクターを制限酵素で処理して、配列を切り出す。そのようにして得られたDN
A鎖を、所望のプロモーター配列および所望の終止配列を含む第二のベクター内
に、(所望するならば、逆方向に)クローン化する。適当なプロモーターには、
35Sカリフラワーモザイクウイルスプロモーターおよびトマトポリガラクツロ
ナーゼ遺伝子プロモーター配列(Birdら、1988,Plant Mole
cular Biology,11:651−662)またはその他の発育を調
節する果実プロモーターが含まれる。適当な終止配列には、アグロバクテリウム
ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)
のノパリンシンターゼ遺伝子(nos3’末端)のそれが含まれる。
本発明によるDNA構築物では、転写開始領域を、植物で機能的に作用する任
意のプロモーターから誘導することができる。転写開始領域は、フィトエンシン
ターゼをコードするmRNA内に実質的に内在する塩基と相補的なRNAをコー
ドするDNA配列の転写のために配置することができる(DNA構築物を全体ま
たは部分アンチセンス構築物とする)。
植物内で機能する転写開始領域(またはプロモーター)は、(35Sカリフラ
ワーモザイクウイルスプロモーターのように)構造的なプロモーターであっても
、または環境が要求する場合に(果実特異的プロモーターのように)誘導可能な
あるいは発育段階によって調節されるプロモーターであっても良い。例えば、果
実の発育および/または熟成期間中のみ酵素活性を修飾することが望ましい場合
がある。構造的プロモーターを用いると、植物のすべての部分で酵素のレベルお
よび機能に影響を及ぼすであろうが、組織特異的プロモーターを用いると、遺伝
子発現および影響を受ける機能(例えば、果実の着色)をより選択的に調節でき
る。このように、本発明の適用するにあたっては、果実の発育および/または熟
成期
間中に発現するであろうプロモーターを用いると便利であることが分かるであろ
う。そうすることによって、アンチセンスまたはセンスRNAは、その作用が必
要とされる器官でのみ生成される。使用することのできた果実の発育および/ま
たは熟成に特異的なプロモーターには、熟成強化ポリガラクツロナーゼプロモー
ター(国際特許公開WO92/08798)、E8プロモーター(Diekma
n & Fischer、1988,EMB0.7:3315−3320)およ
び果実特異的2A11プロモーター(Pearら、1989,Plant Mo
lecular Biology,13:639−651)が含まれる。
本発明のDNA構築物を植物に挿入し、フィトエンシンターゼの生成を制御し
、結果としてカロテノイド代謝を修飾することができる。構築物の性質によって
、植物の生涯を通して、あるいは特定の段階のいずれかで、酵素の生成を増加ま
たは減少させることができる。一般的に、予想されるように、酵素の生成は、実
質的に完全な内在性酵素のmRNAと相同なRNAを発現する構築物によっての
み、強化される。全長のセンス構築物もまた、酵素の発現を阻害するであろう。
完全な遺伝子に相当するDNAより短い不完全なDNA配列を含む構築物は、そ
れらがセンスまたはアンチセンスRNAのいずれを発現するように配置されてい
るにしても、通常、遺伝子の発現および酵素の生成を阻害する。
本発明のDNA構築物は、標的となる植物細胞内に形質転換される。標的とな
る植物細胞は、完全な植物の部分であって良く、または完全な植物に再生できる
単離細胞または組織の部分であっても良い。標的植物細胞は、単子葉または双子
葉の任意の植物種から選択することができる。
本発明による構築物は、任意の適当な形質転換技術を用いて任意の植物を形質
転換し、本発明に従って植物を作り出すために、用いることができる。単子葉お
よび双子葉の両植物細胞を、この技術分野で既知の様々な方法で形質転換できる
。多くの場合、そのような植物細胞(特にそれらが双子葉植物の細胞である場合
)を培養すると、後に再生して遺伝的に修飾された植物をうまく生成できる完全
な植物を再生することができる。適当な任意の植物形質転換法を用いることがで
きる。例えば、トマトおよびメロンのような双子葉植物は、例えば、Bevan
、1984,Nucleic Acid Research,12:8711−
8
721、またはFillattiら、Biotechnology,1987年
7月、5:726−730に記載の方法に従って、アグロバクテリウム(Agr obacterium)
Tiプラスミド技術によって形質転換できる。そのよう
な形質転換植物は、雄雌にまたは細胞培養あるいは組織培養によって、再生させ
ることができる。
本発明による遺伝学的に修飾される植物の例としては、(トマト、マンゴー、
桃、リンゴ、なし、苺、バナナ、メロン、胡椒、チリ、パプリカのような)すべ
ての結実植物が含まれる。例えば、そのような植物の果実を、その中の赤色を誘
導または増強することによって、より魅惑的に(または少なくとも興味をそそる
ように)作ることができる。本発明の方法によって修飾できるその他の植物には
、大根、カブおよびジャガイモのような塊茎、ならびにトウモロコシ(コーン)
、小麦、大麦および米のような穀物が含まれる。また、花および装飾用の草を修
飾することもできる。
新規なメロンのフィトエンシンターゼ構築物を用いると、酵素活性が修飾され
、その結果、カロテノイド生合成を修飾する方法が提供される。フィトエンシン
ターゼ活性の総レベルおよびカロテノイド経路の個々の酵素の比活性は、植物内
のカロテノイド含有量の推移および最終形態に影響を及ぼし、それ故、植物部分
の一定の特徴を決定する。それ故、フィトエンシンターゼ活性の修飾を利用して
、植物(果実を含む)の特性の多様な側面を変えることができる。フィトエンシ
ンターゼ酵素の活性レベルは、修飾された植物に所望される特性に依存して、発
育期間中に増加させることも減少させることもできる。フィトエンシンターゼ発
現の強化は、ある種のカロテノイドの生産を増加させる傾向にあり、発現の阻害
は、生産を減少させる傾向にある。また、フィトエンシンターゼは、通常は酵素
を生産しない細胞、組織および器官にも発現させることもできる。
例えば、フィトエンシンターゼのダウンレギュレーションまたは過剰発現を用
いると、色素レベルを変えることによって果実の色を修飾(変更または増強)で
きる。この事は、特に、果実および野菜の色を修飾するのに有効であるが、葉お
よびその他の器官にも等しく適用できる。
植物細胞内でのセンスまたはアンチセンスmRNA生成の程度を調節すること
によって、カロテノイド含有量(およびそれによる植物の特徴)を、より多量ま
たはより少量に修飾することができる。この事は、プロモーター配列の適切な選
択によって、または植物ゲノム内に導入されるDNA配列のコピー数または取り
込み部位を選択することによって行うことができる。例えば、DNA構築物は、
フィトエンシンターゼをコードする一つより多くのDNA配列を含んで良く、一
つより多くの組換え構築物を個々の植物細胞内に形質転換しても良い。
また、一つまたはそれより多くのその他の酵素活性を修飾すると同時にフィト
エンシンターゼの活性を修飾することも可能である。例えば、その他の酵素は、
細胞代謝または果実の発育および熟成に関わるであろう。フィトエンシンターゼ
と組み合わせて修飾することができる細胞壁代謝酵素には、限定するわけではな
いが、ペクチンエステラーゼ、ポリガラクツロナーゼ、β−ガラクタナーゼ、β
−グルカナーゼが含まれる。フィトエンシンターゼと組み合わせて修飾すること
のできる、果実の発育および熟成に関わるその他の酵素には、限定するわけでは
ないが、エチレン生合成酵素、その他のカロテノイド生合成酵素、インベルター
ゼを含む炭水化物代謝酵素が含まれる。
その他の酵素と組み合わせてフィトエンシンターゼ活性を修飾するために、い
くつかの方法を利用できる。例えば、第一の植物を、フィトエンシンターゼ構築
物で個々に形質転換し、次いで、もう一つの酵素をコードする構築物で個々に形
質転換された第二の植物と交雑することができる。さらなる例として、フィトエ
ンシンターゼ構築物およびその他の酵素(単数または複数)の活性を修飾するた
めの適当な構築物で、植物を連続的にまたは同時に(のいずれかで)形質転換す
ることもできる。代わりの例としては、それ自身が他の酵素(単数または複数)
の活性を修飾するための追加の遺伝子を含むフィトエンシンターゼ構築物で植物
を形質転換することが挙げられる。フィトエンシンターゼ構築物は、フィトエン
シンターゼ配列の近くに配置したその他の酵素(単数または複数)の発現を制御
するためのDNA配列を含んでよい。このような追加の配列は、国際特許公開W
093/23551(異なる標的遺伝子と相補的な別個のDNA領域を持つ単一
の構築物)に記載されているように、センスまたはアンチセンスのいずれかの方
向であって良い。そのような方法を用いることによって、フィトエンシンターゼ
活性を修飾することによって得られる恩恵を、その他の酵素活性を修飾すること
によって得られる恩恵と、結びつけることができる。
本発明の第三の態様によれば、カロテノイドの生合成を修飾するように改良し
たDNAで植物を形質転換し、そのようにして形質転換された植物またはそれら
の子孫を育て、さらに、カロテノイド含有量の修飾された植物の部分(例えば、
葉、花びらまたは果実)を持つ植物を選択することによって、植物中のカロテノ
イド生成を修飾する方法が提供される。適切なDNAは、一つあるいはそれより
多くのカロテノイドの生産を増強するか、または植物によるそのような生成を阻
害するように適合させた本発明による構築物を含む。
この方法では、カロテノイドの生合成経路の促進または阻害によって色を修飾
した植物を生成することができる。特に、フィトエンシンターゼ構築物を用いて
、リコペンに関連する赤色の生産を促進または阻害することができる。同様の色
の修飾は、伝統的な植物育種技術を用いても可能であるが、本発明は、同時にそ
の他の特性を変化させるかもしれない長期間の育種プログラムを用いずに、選ば
れた系統に特性を移入する手段を提供する。(例えば、センスを過剰発現する構
築物によって)リコペン生成を促進させると、消費者の食欲をよりそそるように
見えるであろう、深紅色の果実を生産できる。また、本発明を、果実以外の植物
の部分に赤色を導入するために用いることもできる。例えば、リコペン生産の促
進は、植物内で機能するプロモーターの制御下で、遺伝子cDNAまたは全長の
遺伝子の一つあるいはそれより多くの機能性コピーを挿入することによって、成
し遂げられるであろう。フィトエンシンターゼが植物内で自然に発現している場
合には、自然のプロモーターによって与えられるより、より高い発現を与えるよ
うなプロモーターを選択することもできる。
本発明の方法によって、色素生成と共に、その他の重要な機能を修飾すること
ができる。β−カロテン(ビタミンAの前駆体)およびその他のカロテノイドは
、ヒトの健康に重要であり、一定の病気に対して予防効果を持つと言われている
。食用植物は、本発明の構築物で形質転換することによって修飾でき、その結果
得られた植物は、そのような化合物の含有量がより高くなるか:または、他の植
物をそのように修飾すると、その結果得られた植物はそのような化合物を抽出し
う
る源となることができる。また、カロテノイドは、高い光強度の損傷に対して植
物を防御する働きを持つと考えられており、故に、より高い含有量のそのような
化合物を持つ植物は、いかなる世界的気象変化の影響と戦うに有効であろう。
既に考察したように、本発明の方法によって生成した植物はまた、その他の組
換え構築物、例えば果実熟成上に他の影響を与える構築物を含むことができる。
例えば、本発明に従って着色性を高めた果実はまた、ポリガラクツロナーゼおよ
びペクチンエステラーゼのような酵素の生産を阻害するか、またはエチレン生産
を妨害する構築物を含むことができる。両タイプの組換え構築物を含む果実は、
成功的な形質転換によって、またはそれぞれが構築物の一つを含む二種類の変種
を交雑し、両方を含むものに関してそれらの子孫から選択することによって、作
ることができる。
本発明を、実施例により、図面を参照することにより説明する。
図1は、カロテノイド生合成経路の図を示している;
図2は、センス構築物を図解している;そして
図3は、アンチセンス構築物を図解している。
次の遺伝子配列が、これに添えて提供される:
配列ID−1は、MEL5のヌクレオチド配列である;
配列ID−2は、トマトからの等価の配列であるTOM5配列である。実施例1 メロンのフィトエンシンターゼをコードするcDNAクローン
MEL5 cDNAクローンは、非相同のプローブとしてトマトのフィトエン
シンターゼのcDNA(TOM5、Rayら、1992またはEP−A−505
405を参照の事)を用いて、成熟しきったメロン果実から誘導された熟成に関
連するcDNAライブラリーから単離した。ゲノムのサザン分析から、MEL5
クローンが単一コピーまたは少数の遺伝子によってコードされている(ゲノムの
メロンDNAを、BamHI、EcoRV、BamHI/EcoRVで消化し、
放射標識されたMEL5挿入物とハイブリダイズし、次に最大で0.1xSSC
、0.1%SDSで30分間、42℃または50℃で洗浄した)ことが示された
。
熟成した一連の果実から、および根、葉および花ビラから抽出したRNAのノ
ーザン分析を用いて、このmRNAの発現パターンを試験した。全RNAを、異
なる熟成段階の果実(エチレンを生産していない緑色の果実;5−7nl/g/
hのエチレンを生産する緑色/橙色の果実;3−6nl/g/hを生成する橙色
の果実および約1nl/g/hのエチレンを生産する橙色の果実)から抽出した
。果実、葉、花びらおよび根から得られた全RNAおよびポリ(A)+RNAを
、放射標識したMEL5挿入物にハイブリダイズした。MEL5は、果実熟成の
全段階で、花びらに存在し、葉および根には微量存在する1.7kBの転写物と
ハイブリダイズした。cDNAは、サイズが1.36kBであり、最長のオープ
ンリーディングフレームの配列分析では、トマトの果実フィトエンシンターゼと
ヌクレオチドレベルで68%の同一性、およびアミノ酸レベルでは83.1%の
類似性を示した。MEL5 cDNAクローンは全長ではなかったが、PCR法
を用いて5’末端を単離し、実質的に全体を配列決定した(配列ID−1)。実施例2 CaMV35Sプロモーターを持つアンチセンスRNAベクターの構築
メロンのフィトエンシンターゼcDNAの挿入物のフラグメントに相当する配
列を用いて、ベクターを構築した。このフラグメントは、合成プライマーを用い
て、ポリメラーゼ鎖反応によって合成される。フラグメントの末端を、T4ポリ
メラーゼでフラッシュエンドにし、それを、前もってSmaIで切断しておいた
ベクターpJR1中にクローン化する。pJR1(Smithら、1988,N
ature,334:724−726)は、CaMV35Sプロモーターの制御
下でアンチセンスRNAの発現を許す、Bin19(Bevan、1984,N
ucleic Acids Research,12:8711−8721)を
基にしたベクターである。このベクターは、ノパリンシンターゼ(nos)3’
末端終止配列を含んでいる。
代わりの方法としては、メロンのフィトエンシンターゼcDNAから得られた
制限フラグメントを用いてベクターを構築し、前もって適合する制限酵素(単数
または複数)で切断した、ベクターGA643(Anら、1988,Plant
Molecular Biology Manual A3:1−19)また
はpDH51(Pietrzakら、1986,Nucleic Acids
Reserch,14:5875−5869)内にクローン化する。プロモータ
ー、フィトエンシンターゼフラグメントおよびその他のpDH51配列を含むフ
ィトエンシンターゼ/pDH51クローンからの制限フラグメントを、CaMV
35Sプロモーターの制御下でアンチセンスRNAの発現を許す、SLJ440
26BまたはSLJ44024B(Jonesら、1990,Transgen
ic Research,1)またはBin19(Bevan、1984,Nu
cleic Acids Research,12:8711−8721)内に
クローン化される。この方法は、図2および3に図解している。
ベクターの合成後、配列の構造および方向を、DNA配列分析によって確認す
る。実施例3 果実の増強されたプロモーターを持つアンチセンスRNAベクターの構築
図2および3に示すように、実施例2に記載したメロンのフィトエンシンター
ゼcDNAのフラグメントを、ベクターpJR3内にクローン化する。pJR3
は、Bin19を基にしたベクターであり、トマトのポリガラクツロナーゼ(P
G)プロモーターの制御下で、アンチセンスRNAの発現を許す。このベクター
は、約5kbのプロモーター配列および複数のクローニングサイトによって分割
されたPGプロモーターからの1.8kbの3’配列を含む。
合成後、正しい方向性のフィトエンシンターゼ配列を持つベクターを、DNA
配列分析によって同定する。
代わりに、果実の強化プロモーター(E8および2A11のような)を、pJ
R3内のポリガラクツロナーゼプロモーターと置換すると、発現パターンが変化
する。実施例4 CaMV35Sプロモーターを持つ先端切除型のセンスRNAベクターの構築
また、実施例2に記載したフィトエンシンターゼcDNAのフラグメントを、
実施例2に記載したベクター内にセンス方向にクローン化する。
合成後、センス方向のフィトエンシンターゼ配列を持つベクターを、DNA配
列分析によって同定する。実施例5 果実−強化プロモーターを持つ先端切除型のセンスRNAベクターの構築
また、実施例3に記載したフィトエンシンターゼcDNAのフラグメントを、
実施例3に記載したベクター内にセンス方向にクローン化する。
合成後、センス方向のフィトエンシンターゼ配列を持つベクターを、DNA配
列分析によって同定する。実施例6 CaMV35Sプロモーターを用いた過剰発現ベクターの構築
全オープンリーディングフレームを含むメロンのフィトエンシンターゼcDN
Aの完全配列を、実施例2に記載したベクター内に挿入する。実施例7 果実−強化プロモーターを用いた過剰発現ベクターの構築
全オープンリーディングフレームを含むメロンのフィトエンシンターゼcDN
Aの完全配列を、実施例3に記載のベクター(pJR3または異なるプロモータ
ーを持つ代替物)に挿入する。実施例8 形質転換植物の生成
ベクターを、アグロバクテリウム ツメファシエンス(Agrobacter ium
tumefaciens)LBA4404(植物バイオ技術者が広く入
手できる微生物)に移入し、これを用いてトマト植物を形質転換する。トマトの
茎切片の形質転換は、標準的プロトコール(例えば、Birdら、1988,P
lant Molecular Biology,11:651−662)に従
って行われる。抗生物質カナマイシンを含む培地上で増殖する能力によって、形
質転換された植物を同定する。植物を、再生させ、成熟するまで成長させる。熟
成果実を、それらのカロテノイド含有量の修飾について分析する。
【手続補正書】特許法第184条の8第1項
【提出日】1996年1月30日
【補正内容】
補正箇所:請求項10から13
請求の範囲
10. DNAがRNAへの転写のための少なくとも10ヌクレオチドの配列を
含む、請求項3から9のいずれかに記載のDNA構築物。
11. DNAが少なくとも35ヌクレオチドを含む、請求項10記載のDNA
構築物。
12. カロテノイドの生合成を修飾するのに適合した請求項1から11のいず
れかに記載のDNAで植物を形質転換し、形質転換した植物またはその子孫を育
て、さらに、カロテノイド含有量の修飾された植物の部分を持つ植物を選択する
ことを含む、植物内でのカロテノイドの生産を修飾する方法。
13. 植物が一つまたはそれより多くのカロテノイドの生産を強化するように
または植物によるそのような生産を阻害するように修飾される、請求項12に記
載の方法。
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フロントページの続き
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF,CG
,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,SN,
TD,TG),AP(KE,MW,SD,SZ,UG),
AM,AU,BB,BG,BR,BY,CA,CN,C
Z,EE,FI,GE,HU,IS,JP,KE,KG
,KP,KR,KZ,LK,LR,LT,LV,MD,
MG,MN,MW,MX,NO,NZ,PL,RO,R
U,SD,SG,SI,SK,TJ,TM,TT,UA
,UG,US,UZ,VN
(72)発明者 ジョン,アイザック
イギリス国ラクバラ エルイー12 5アー
ルディー,サットン・ボニントン,ユニバ
ーシティ・オブ・ノッティンガム,ディパ
ートメント・オブ・フィジオロジー・アン
ド・エンヴァイアランメンタル・サイエン
ス
(72)発明者 テイラー,ジェーン
イギリス国ランカスター エルエイ1 4
ワイキュー,ランカスター・ユニバーシテ
ィ,インスティチュート・オブ・エンヴァ
イアランメンタル・アンド・バイオロジカ
ル・サイエンシィズ,ディヴィジョン・オ
ブ・バイオロジカル・サイエンシィズ
(72)発明者 ワトソン,コリン
アメリカ合衆国アリゾナ州85721,ツーソ
ン,ユニバーシティ・オブ・アリゾナ,デ
ィパートメント・オブ・プラント・サイエ
ンシィズ,
(72)発明者 ターナー,アンドリュー
イギリス国スコットランド,アバディーン
エイビー9 2ティーエヌ,リリードロ
ン・アベニュー 2,スコットゲン・リミ
テッド,
(72)発明者 グリーソン,ドナルド
イギリス国ラクバラ エルイー12 5アー
ルディー,サットン・ボニントン,ユニバ
ーシティ・オブ・ノッティンガム,スクー
ル・オブ・アグリカルチャー,ディパート
メント・オブ・プラント・フィジオロジー