JPH10165505A - 心肺蘇生用経鼻的挿入チューブ - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】心肺蘇生時、気管内挿管が困難な状況下におい
て、熟練を必要とせずしかも予防的処置としても可能な
蘇生法のための器材を考案した。 【解決手段】チューブを経鼻的に挿入が可能なものとす
ることによって、歯牙強直時の挿入が可能となり、嘔吐
反射の誘発を防止できる。このため、完全な心肺停止に
至る前の予防的な処置としても有効なものとなりうる。
呼吸運動は、請求項１を用いた方式のように、陽圧式人
工呼吸を行わなくても、体外式心マッサージの換気効果
を利用して十分代償できる。または、請求項３のよう
に、口側の気道系を請求項２のテープ状のもので遮断
し、別のチューブをもう一方の鼻孔を利用して挿入する
ことによって、陽圧式人工呼吸も加えた蘇生法も可能と
なる。請求項６では、挿入するチューブの内腔の大きさ
を変えることで、請求項３と同様に陽圧式人工呼吸を可
能とした。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、心肺蘇生時の気管
内挿管が種々の理由で困難な状況において、簡素な器材
を用い、熟練を必要としない操作によって、迅速にしか
も他の合併症を発生させることなく、予防的処置も含め
た心肺蘇生を行うためのものである。

【０００２】

【従来の技術】一般に、一次救急での心肺蘇生は、体外
式心マッサージと陽圧式人工呼吸によって行われてい
る。この際、気管内挿管が困難な状況においては、経口
的に挿入する気管食道ダブルルーメンエアウエイが用い
られている。このチューブは食道内圧を解放するための
内腔、食道と気道系とを遮断するカフを膨らませるため
の内腔、肺に酸素を送り込む気道としての内腔、咽頭の
近位側のカフを膨らませるための内腔の４つの内腔とか
らなっている。この目的は、胃内容物の食道からの逆流
を防止して誤飲を防ぎ、かつ気道系を閉鎖回路として陽
圧式人工呼吸を行うことにある。（救急医学ＶＯＬ．１
９，ＮＯ．１０ＰＡＧＥ．１１２４−１１２６ １９９
５コンビチューブ／気管食道ダブルルーメンエアウエイ
参照）

【０００３】

【解決しようとする課題】救急蘇生時の歯牙強直を起こ
している場合、従来の経口的な挿入を行おうとすると暴
力的にならざるを得ず、口腔内や咽頭などの粘膜を損傷
する危険性がある。

【０００４】経口的な挿入の場合挿入後、舌根を刺激し
やすく嘔吐反射を誘発し、吐物による気道内誤飲の危険
性がある。従って、まだ反射の残存する前ショック状態
において、蘇生を行うべきかどうかの判断に迷うときな
どの、ショック状態の早期からの予防的な蘇生を行いに
くい。

【０００５】また、従来の蘇生法においては、陽圧式人
工呼吸を行なうことを前提としており、気道抵抗の増加
を抑えるために酸素の通り道として気道の内腔は、ある
程度の大きさを必要とする。

【０００６】加えて、従来の気管食道ダブルルーメンエ
アウエイでは、気道系を閉鎖回路とするために近位側に
もう一つのカフを設け、そのための第４の内腔が必要で
ある。従って、チューブの径は必然的に大きくなり経鼻
的な挿入は不可能であり、また咽頭などの粘膜の損傷を
引き起こす原因にもなる。

【０００７】

【課題を解決するための手段】チューブを、経口的にで
はなく、経鼻的に挿入できるものとすることで上記の問
題を解決した。

【０００８】経鼻的に挿入できるためには、鼻腔が口腔
に比べて非常に狭いことを考慮しなければならない。こ
のため挿入できるチューブもある程度細いことが要求さ
れる。

【０００９】請求項１では、従来の蘇生法のような陽圧
式人工呼吸は行わず、人工呼吸は同時に施行される体外
式心マッサージによって生じる陰圧での換気効果に依存
することとした。

【００１０】このため従来のように陽圧式人工呼吸を前
提とした、気道抵抗の増加を抑えるための内腔の大きさ
は不要となり、酸素を気道系に供給するためだけの細い
もので十分であり、全体のチューブの太さを経鼻的挿入
が可能なものとすることが出来る。

【００１１】すなわち、請求項１のチューブは、食道と
気道系とを持続的に遮断するカフを膨らませるための内
腔２（２）、気道系に酸素を送り込むための内腔３
（３）、大気に解放することによって、食道内圧の上昇
を抑え、誤飲を防止するための内腔１（１）の３つの内
腔をもつ。この全体の外径は８ｍｍ以下の経鼻的に挿入
することが可能なものとする。（図１）この場合、呼気
はチューブを通らず、開放してある口腔や鼻腔から呼出
されることになる。

【００１２】もし、本チューブが食道ではなく、気管内
に挿入されてしまった場合、そのまま気管内チューブと
して、内腔１（１）を用いて陽圧式人工呼吸を行えるよ
うになっている。内腔３の吹き出し口（７）は、チュー
ブの位置の多少の移動があっても、気道系が酸素で充た
されるように複数とする。

【００１３】ここで短時間の場合は問題にならないが、
心マッサージによる陰圧式の換気を長時間続けた場合、
次第に肺が虚脱して、無気肺が進行してくることを考慮
しなければならない。このためには、気道系に陽圧をか
けることが望ましい。

【００１４】そこで、請求項２のように口及び鼻孔をマ
スク様テープ（図３、図４）を用いて閉鎖することによ
り、気道系に持続的な陽圧をかけ、肺の虚脱を少しでも
遅らせることができるよう考案した。この場合の、呼気
はある気道内圧以上になったときに、食道内カフなどの
周囲からの漏れによって呼出されることになる。

【００１５】請求項２での口の閉鎖のためのテープ（図
３）には、吸引のための開口部を設けることにより、口
腔内や咽頭内の吸引も同時に施行することができること
とする。吸引チューブ（１２）は、ガイド（１３）によ
りスライドさせることが可能であり、最初からマスク様
テープに付属されているものとする。吸引チューブの中
枢側は、通常の吸引管に接続できるサイズとし、吸引し
ないときは、キャップにより閉鎖しておく。

【００１６】請求項３では、両側の鼻孔を利用すること
によって、陽圧式人工呼吸を可能としたものである。ま
ず、一方の鼻孔より請求項１のチューブ（図１）を挿入
したのち、もう一方の鼻孔より人工呼吸の可能な太さの
チューブ（図６）を挿入し、やはり請求項２と同様に口
と鼻孔を閉鎖した上で、陽圧式人工呼吸を加える。

【００１７】請求項４で考案した器具（図８）と、請求
項５の製剤を用いることによる短時間の前処置により、
本蘇生方式の特徴である、鼻腔からのチューブ挿入の際
に考慮されるべき鼻出血を防止することができる。

【００１８】請求項４では、本体（１４）の内腔に、請
求項５で考案したような潤滑剤を満たしておき、先端の
栓（１６）をとり本体を握って圧迫することによりゼリ
ーがチューブ先端からスポンジ様素材（１５）の表面に
拡がる。この状態で、図９のように鼻腔の奥まで数回往
復させることによって、鼻腔粘膜表面にゼリーを短時間
で塗布することができる。

【００１９】請求項６のチューブは、食道内圧を開放す
るための内腔を、単に吸引が出来る程度の細さとし、そ
の代わり酸素の通り道の内腔を大きくことにより陽圧式
人口呼吸を可能としたものである。気道系の閉鎖は、請
求項２によっておこなう。

【００２０】

【発明の実施の形態】心肺蘇生にあたっては、まず請求
項４の器材（図８）を用いて、鼻腔内を請求項５のボス
ミン加キシロカインゼリーで表面を潤滑にするととも
に、鼻腔の通路の通過性を確認する。そののち、図１の
チューブを鼻腔よりゆっくりと挿入する。

【００２１】先端が十分食道まで達したら、内腔２
（２）を通して、エアーでカフをふくらませ食道と気道
空間を遮断する。次いで、内腔３（３）の先端を酸素供
給源に接続し酸素を気道系に流し込む。そののち、通常
の体外式心マッサージを開始する。

【００２２】もし、本チューブが、気管内に挿入された
場合、そのまま気管内チューブとして、内腔１（１）を
利用して陽圧式人工呼吸を開始する。

【００２３】請求項１を用いた方式では、チューブなど
をセットしたのちの蘇生のための操作は、体外式心マッ
サージのみでよく、施術者は１名で十分であり心マッサ
ージに専念することになる。

【００２４】請求項２を用いる方式では、鼻腔よりチュ
ーブ挿入後、図３のマスク様テープと図４のテープを用
いて口と鼻孔を閉鎖したのちに、同様に体外式心マッサ
ージを開始する。

【００２５】請求項３を用いる方式では、先に請求項１
のチューブ（図１）を挿入したのち、請求項３のチュー
ブ（図６）をもう一方の鼻孔より同様にゆっくり咽頭ま
で挿入し、請求項２（図３、図４）のマスク様テープを
用いて口と鼻孔を閉鎖したのち、あとで挿入した請求項
３のチューブを介して陽圧式人工呼吸を開始し、同時に
体外式心マッサージを開始する。

【００２６】請求項３の方式は、蘇生の第一段階として
の請求項１の方式にひきつずいて施行することができ、
余力があるときの第二段階の処置としての意味あいをも
つことになる。

【００２７】請求項６を用いる方式では、請求項１と同
様にチューブを経鼻的に食道に挿入し、カフ（４）を膨
らまして食道と気道系を遮断する。さらに、請求項２の
マスク様テープ（図３、図４）を用いて口と鼻腔を閉鎖
する。そこで、内腔１（１）を吸引管に接続し、食道内
圧を持続的に減圧する。しかる後に内腔３（３）を用い
て、陽圧式人口呼吸を行い、かつ体外的心マッサージを
開始する。

【００２８】

【発明の効果】本発明は、以上説明したような構成から
なっており、以下に記載されるような効果を奏する。

【００２９】施行するための手技は、基本的に胃チュー
ブと同じであり、特殊な器材も不要でかつ熟練を必要と
せず、救急隊や看護婦などにも容易に施行することがで
きる。

【００３０】請求項１を用いた方式では、心肺蘇生に必
要とする人員は心マッサージを行うための１人のみで十
分であり、人員の不十分な状況においても施行可能であ
る。

【００３１】請求項１を用いた方式では、蘇生施術者は
心マッサージのみに専念するため、人工呼吸のために心
マッサージが中断されることなく、従って心マッサージ
の効果もより高い心拍出量状態で維持できる。

【００３２】請求項１では、口腔側はなんの操作も行っ
ておらず、もし人員に余裕がある場合、本蘇生法を施行
しつつ、同時に挿管や他の蘇生法や口腔内の吸引も試み
ることができる。

【００３３】今回考案した方式では、経鼻的な挿入であ
るため、歯牙強直時にも挿入することができ、経口的挿
入に比べて挿入角度が滑らかであり、かつ細いチューブ
なので咽頭や喉頭の粘膜を損傷することも少ない。

【００３４】また、経鼻的な挿入であるため、嘔吐反射
を誘発しにくく、まだ反射の残っている完全心肺停止前
の状態においても予防的な処置としても挿入することが
可能である。

【００３５】予想される本蘇生法による合併症は鼻出血
であるが、チューブ挿入に先だって請求項４の器材（図
８）による前処置を行えば十分防止できると考えられ
る。通常、蘇生を行う状況はショック状態であるので、
血圧は低く出血しにくく、かつ挿入後はチューブ自体が
鼻腔を占拠するので圧迫止血の効果も期待できる。

【００３６】請求項５に考案したように、キシロカイン
ゼリーのなかにボスミンを含有させることによって、鼻
腔粘膜の毛細血管を収縮させることによる出血予防効果
と、ゼリーの潤滑効果とを同時に得ることができ、より
鼻出血防止効果を向上させることができる。

【００３７】請求項５の製剤と、請求項４の器材（図
８）を用いれば短時間の操作で鼻出血予防効果を得るこ
とができ、時間の因子の重要な救急時には大きな利点と
なる。

【００３８】請求項６のチューブ（図１０）を用いる
と、一本の挿入によって食道の閉鎖と陽圧式人口呼吸と
が可能となる。請求項３と同様の効果が得られる。

【図面の簡単な説明】

【図１】請求項１のチューブの外観と断面図である。長
さは、十分に食道に到達するように通常の気管内チュー
ブよりかなり長めにし、外径は鼻腔内を通過するため８
ｍｍ以内とする。チューブの硬さは、鼻粘膜を損傷しに
くく、かつおれ曲がらない程度の硬さとする。

【図２】請求項１のチューブを実際にヒトに挿入したと
きの、矢状断の図である。

【図３】請求項２の場合に用いる口腔閉鎖用のマスク様
テープである。大きさは、開口したときにの口唇を完全
に覆えるものとし、その周囲（１１）は２ｃｍほでの幅
の接着性をもつテープとする。中央部（１０）は透明と
し口腔内や口唇の状態が見れるようにし、また吸引チュ
ーブ（１２）が付属されている。

【図４】鼻腔閉鎖用のテープである。全面が接着性をも
つテープで、鼻孔の閉鎖とチューブの固定も兼ねること
ができるものとする。

【図５】請求項２を実際にヒトに挿入したときの矢状断
の図である。

【図６】請求項３のチューブの外観と断面図である。構
造的には、内腔は１つであり鼻腔エアウエイと同一であ
るが、近位端が人工呼吸装置に接続できる点が異なる。

【図７】請求項３を実際にヒトに適応したときの矢状断
の図である。

【図８】請求項４に用いる器材である。変形可能な本体
（１４）と、鼻腔に挿入可能な比較的柔らかい先細りの
チューブからなる。チューブの先端は、粘膜を痛めずゼ
リーを塗布するためのスポンジ様のやわらかい素材（１
５）で覆われている。

【図９】請求項４を実際にヒトに用いたときの矢状断の
図である。

【図１０】請求項６のチューブの外観と断面図である。

【図１１】請求項７のチューブを実際にヒトに適応した
ときの矢状断の図である。同時に請求項２のマスク様テ
ープを用いて、口と鼻孔とを閉鎖する。

【符号の説明】

１ 内腔１（食道内圧上昇の防止のためのもの） ２ 内腔２（カフをふくらませるためのもの） ３ 内腔３（酸素の通り道） ４ カフ ５ 逆流防止弁付パイロットバルーン ６ 酸素注入口 ７ 酸素吹き出し口 ８ 気管 ９ 食道 １０ 透明な素材のマスク １１ 粘着性をもつテープ部分（シールをはがすこと
で粘着性をもつ） １２ 吸引管のガイド １３ 吸引管 １４ 本体 １５ スポンジ様素材から成る先端開口部 １６ 栓

Claims (6)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 陽圧式人工呼吸を行わず、体外式心マッ
   サージによる換気効果を利用して心肺蘇生を行うため
   の、経鼻的に挿入するチューブ。
2. 【請求項２】 請求項１のチューブを経鼻的に挿入した
   後に、口および鼻孔を閉鎖することにより、気道系に持
   続的な陽圧をかけ、心マッサージに伴う肺の虚脱を少な
   くするためのマスク様テープ。
3. 【請求項３】 請求項１のチューブを挿入し、請求項２
   のテープで口を閉鎖するとともに、もう一方の鼻孔を利
   用して咽頭まで挿入し陽圧式人工呼吸を行うためのチュ
   ーブ。
4. 【請求項４】 請求項１及び２のチューブを経鼻的に挿
   入する際の鼻出血を防止するため、潤滑剤を塗布しなが
   ら、かつ鼻腔の通過性の確認をすることのできる器具。
5. 【請求項５】 局所麻酔剤のキシロカイン（リドカイ
   ン）ゼリーと昇圧剤のボスミン（アドレナリン）とを、
   合剤にした潤滑剤。
6. 【請求項６】 経鼻的に挿入し、食道を閉鎖すると同時
   に陽圧式人工呼吸も可能なチューブ。