JPH09234063A - 新規なα−グルコシダーゼ及びその製造方法 - Google Patents

新規なα−グルコシダーゼ及びその製造方法

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JPH09234063A
JPH09234063A JP34240096A JP34240096A JPH09234063A JP H09234063 A JPH09234063 A JP H09234063A JP 34240096 A JP34240096 A JP 34240096A JP 34240096 A JP34240096 A JP 34240096A JP H09234063 A JPH09234063 A JP H09234063A
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JP
Japan
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enzyme
glucosidase
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solution
optimum
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Application number
JP34240096A
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English (en)
Inventor
Tomoyuki Nanbara
智之 南原
Kimiharu Okada
王春 岡田
Masaru Suzuki
勝 鈴木
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Kikkoman Corp
Original Assignee
Kikkoman Corp
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Publication date
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Abstract

(57)【要約】 【構成】 α−グルコシド結合を加水分解して、α−D
−グルコースを生成し、マルトース、マルトトリオー
ス、マルトテトラオース、PNPG、PNPG2、イソ
マルトース、シュークロースに作用するが、マルトペン
タオシド以上の重合度を持つマルトオリゴサッカライド
にはほとんど作用せず、可溶性澱粉には全く作用しな
い、熱、pHなどに対する安定性に優れた、新規なα−
グルコシダーゼおよびバチルス属に属し、α−グルコシ
ダーゼ生産能を有する菌株を用いた該酵素の製造方法。 【効果】 α−アミラーゼ活性測定などの定量の際の共
役酵素として、またオリゴ糖類からのグルコース、フル
クトースなどの単糖類の生成、並びにヘテロ少糖類の酵
素的合成などに有用なα−グルコシダーゼを、容易にま
た安価に製造できる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、マルトース、マル
トトリオース、マルトテトラオース、パラニトロフェニ
ル−α−D−グルコピラノシド(以下「PNPG」とい
う)、パラニトロフェニル−α−D−マルトシド(以下
「PNPG2」という)、イソマルトース、シュークロ
ースなどに作用して、α−D−グルコシド結合を加水分
解してα−D−グルコースを生成するが、マルトペンタ
オシド以上の重合度を持つマルトオリゴサッカライドに
はほとんど作用せず、可溶性澱粉には全く作用しない基
質特異性を有し、耐熱性、pH耐性などに優れた、α−
アミラーゼ活性測定やクロルイオン定量の際の共役酵素
として、又マルトオリゴ糖の定量並びに消去用酵素など
として有用な、新規なα−グルコシダーゼ及びその製造
法に関する。
【0002】
【従来の技術】α−1,4−グルコシド結合を加水分解
し、α−D−グルコースを生成する酵素は、広く生物界
に存在し、例えば酵母、糸状菌、細菌、哺乳動物、植物
種子などに存在しているα−グルコシダーゼや、例えば
カーボハイドレート リサーチ(Carbohydra
te Research)第197巻、第227−23
5頁、1990年に記載のバチルス(Bacillu
s)属由来のオリゴ−1,6−D−グルコシダーゼなど
が知られている。従来知られているマルトース及びPN
PGによく作用するα−グルコシダーゼとしては、バイ
オサイエンス バイオテクノロジー バイオケミストリ
ー(Biosci.Biotech.Bioche
m.)第57巻、第11号、第1902−1905頁、
1993年に記載の酵母由来のもの、バイオケミカ バ
イオフィジカ アクタ(Biochimica et
Biophysica Acta)第787巻、第28
1〜289頁、1984年、に記載のバチルス ステア
ロサーモフィラス(Bacillus stearot
hermophilus)由来のものなどが知られてい
る。また該市販酵素として、酵母由来のもの(シグマ
社、東洋紡績(株))、そして微生物由来酵素のもの
(東洋紡績(株))などがある。
【0003】しかしながら、前記のα−グルコシダーゼ
において、酵母由来のα−グルコシダーゼは、熱、p
H、阻害剤などの安定性に欠け、酵素製造や、常温での
使用に支障をきたす。また、バチルス ステアロサーモ
フィラス由来酵素及び市販微生物由来酵素は、耐熱性に
は優れているものの、ドデシル硫酸ナトリウム(SD
S)、p−クロロメルクリ安息香酸(PCMB)などの
阻害剤に対する安定性に欠け、基質特異性においてα−
1,6−グリコシド結合に作用せず、同結合を加水分解
するような反応、さらにはマルトペンターオース以上の
重合度を持つマルトオオリゴサッカライドや可溶性澱粉
にも作用するため、それらを基質に用いたα−アミラー
ゼ活性測定時に使用する共役酵素としては不向きであ
る。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前述した従
来のα−グルコシダーゼが有する欠点を克服し、例え
ば、α−アミラーゼ活性測定やクロルイオンの定量など
の際に用いられる、マルトテトラオース以下の重合度を
持つマルトオリゴサッカライド及びPNPG、PNPG
2などに作用し得る共役酵素として、また、マルトース
などのマルトオリゴサッカライドの測定並びに消去用酵
素として、あるいはオリゴ糖類からのグルコース、並び
にフルクトースなどの単糖類糖の生成などの工業的生産
において使用可能なα−グルコシダーゼ、及びこの酵素
を安価に、そして容易に製造する方法を提供することを
目的としてなされたものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、広く自然
界よりα−グルコシダーゼを生産し得る微生物の検索を
行った結果、土壌中より分離したバチルス(Bacil
lus)属に属する一菌株が、マルトース、マルトトリ
オース、マルトテトラオース、PNPG、PNPG2に
は作用するが、可溶性澱粉には作用しないという性質を
有する、安定性に優れた新規なα−グルコシダーゼを生
産することを見出し、この知見に基づき本発明を完成す
るに至った。
【0006】すなわち、本発明は、下記の理化学的性
質、 (a)作用:α−グルコシド結合を加水分解して、α−D
−グルコースを生成する。 (b)基質特異性:マルトース、マルトトリオース、マル
トテトラオース、パラニトロフェニル−α−D−グルコ
ピラノシド、パラニトロフェニル−α−D−マルトシ
ド、イソマルトース、シュークロースに作用するが、マ
ルトペンタオシド以上の重合度を持つマルトオリゴサッ
カライドにはほとんど作用せず、可溶性澱粉には全く作
用しない。 (c)至適pH及び安定pH範囲:至適pHは6.0〜
9.0近辺であり、安定pH範囲は、0.2%牛血清ア
ルブミン存在下で25℃、20時間処理で、pH5.0
〜10.0である。 (d)作用適温の範囲:作用適温の範囲は52〜55℃近
辺である。 (e)pH、温度などによる失活の条件:0.2%牛血
清アルブミン存在下で25℃、20時間処理で、pH
5.0〜10.0の範囲で安定であり、pH4.5以下
またはpH11.0以上で完全に失活する。また、熱安
定性はpH7.0、15分処理で50℃まで安定であ
り、60℃以上で完全に失活する。 (f) 分子量:約61,300±5,000(ゲル濾過
法)。 を有する新規α−グルコシダーゼであり、また、バチル
ス属に属し、α−グルコシダーゼ生産能を有する菌株を
培地に培養し、その培養物から該α−グルコシダーゼを
採取することを特徴とするα−グルコシダーゼの製造方
法である。以下、本発明について詳細に説明する。
【0007】
【発明の実施の形態】まず、本発明の新規なα−グルコ
シダーゼ(以下「本酵素」ということもある)の理化学
的性質の詳細は以下の通りである。
【0008】(1)作用:本酵素は、α−グルコシド結
合をもつ配糖体もしくは少糖類をその非還元末端側から
加水分解し、α−D−グルコースを生成する。
【0009】(2)基質特異性:本酵素は、マルトー
ス、マルトトリオース、マルトテトラオース、PNP
G、PNPG2、イソマルトース、シュークロースに作
用するが、マルトペンタオシド以上の重合度を持つマル
トオリゴサッカライドにはほとんど作用せず、可溶性澱
粉、アミロペクチン、アミロースには全く作用しない。
本酵素の各種基質に対する相対活性を調べた結果の一例
を表1に示す。
【0010】
【表1】
【0011】なお、相対活性の測定条件および方法は、
次の通りである。各基質(20mM)0.11ml、
0.1%牛血清アルブミン(以下、BSAという)含有
100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)0.4
9ml、蒸留水0.39mlを混和し、37℃5分間プ
レインキュベーションをした。その後、BSA 0.1
%を含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.
0)で希釈した本酵素液(0.303mg/ml)を
0.01ml反応液に添加、37℃、15分間正確に加
水分解反応を行った。反応時間終了後、沸騰水中に反応
液の入った試験管を投入し、酵素反応を止め、生成した
グルコース量を、グルコースCIIテストワコ−(和光
純薬社製)を用いて、グルコースオキシターゼ法により
測定し、生じたグルコース生成量を、PNPGのグルコ
ース生成量を100%とした相対活性比で示した。
【0012】(3)至適pH及び安定pH範囲:至適p
Hは、緩衝液として、100mM 酢酸−酢酸ナトリウ
ム緩衝液(pH3.5〜5.5)、100mM MES
−水酸化ナトリウム緩衝液(pH 5.5〜7.0) 1
00mM HEPES−水酸化ナトリウム緩衝液(pH
7.0〜8.0)、100mM TAPS−水酸化ナ
トリウム緩衝液(pH 8.0〜9.0)、100mM
CHES−水酸化ナトリウム緩衝液(pH 9.0〜
10.0)、100mM CAPS−水酸化ナトリウム
緩衝液(pH 10.0〜11.0)、を用いた。活性
測定は各緩衝液0.7ml、20mM PNPG溶液
0.25mlを添加後、37℃5分間のプレインキュベ
ーションを行い、その後、酵素液(0.00327mg
/mlに濃度を調製し、希釈緩衝液として、0.2%B
SA含有10mMリン酸カリウム緩衝液pH7.0を使
用)0.05mlを添加し、正確に37℃15分間反応
を行った。反応時間経過後、0.2M炭酸ナトリウム液
1mlを添加して反応を停止させ、生成したパラニトロ
フェノールを発色させた後、その生成量を日立分光光度
計(U−2000A 日立社製)を用いて400nmに
おける吸光度を測定することにより求めた。その結果
は、図1に示すとおりであり、本酵素の至適pHは、
6.0−9.0である。
【0013】また、安定pH範囲は、緩衝液として、1
00mM 酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液(pH 3.5
〜5.5)、100mM MES−水酸化ナトリウム緩
衝液(pH 5.5〜7.0) 100mM HEPES
−水酸化ナトリウム緩衝液(pH 7.0〜8.0)、
100mM TAPS−水酸化ナトリウム緩衝液(pH
8.0〜9.0)、100mM CHES−水酸化ナト
リウム緩衝液(pH 9.0〜10.0)、100mM
CAPS−水酸化ナトリウム緩衝液(pH 10.0
〜11.0)、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH
6.5−8.0)および100mM トリス−塩酸緩衝
液(pH7.5〜9.0)を用いた。各緩衝液0.05
mlに、0.34mg/mlの酵素0.01ml、0.
5%BSA 0.04mlを添加し、25℃で20時間
処理を行った。処理後0.2%BSA含有100mMリ
ン酸カリウム緩衝液pH7.0で100倍に希釈し10
分放置後、その酵素活性を定法により測定し、その酵素
活性残存度を求めた。その結果は、図2に示すとおりで
あり、本酵素の安定pH範囲は、pH5.0〜10.0
である。
【0014】(4)作用適温の範囲:後述する力価測定
法における基質、酵素混合液を用い、種々の温度にて本
酵素の力価を測定した。その結果は図3に示す通りであ
り、本酵素の至適温度は52〜55℃付近である。
【0015】(5)pH、温度等による失活の条件:本
酵素は、0.2%BSA存在下25℃、20時間処理
で、pH5.0〜10.0の範囲で安定であり、図2か
らわかるように、pH4.5以下またはpH11.0以
上で完全に失活する。また、熱安定性については、緩衝
液として100mMリン酸カリウム緩衝液pH7.0で
酵素濃度を0.0606mg/mlとなるように調整し
た後、各温度にて15分間インキュベーションを行っ
た。インキュベーション後、0.2%BSA含有10m
Mリン酸カリウム緩衝液pH7.0で100倍希釈、そ
の酵素活性を定法により測定、その酵素活性残存度を求
めた。その結果は、図4に示すとおりであり、本酵素
は、本条件で50℃まで安定であり、pH7.0、15
分処理で60℃以上で完全に失活する。
【0016】(6)分子量:TSKgel G3000
SWXL(東ソー社製)によるゲル濾過法で、分子量は
約61,300±5,000と算出された。また、SD
S−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(使用ゲル:マ
ルチゲル10−20、第一化学社製アクリルアミド勾配
10−20%のグラジエントゲル)により電気泳動を行
った結果、単一のバンドが得られ、充分純化精製されて
いることが確認された。またその分子量は60,200
と算出され、ゲル濾過の結果と併せ、本酵素は、モノマ
ー構造であると判断した。
【0017】(7)力価の測定法:本酵素の力価の測定
は、下記の方法で行い、PNPGより1分間に1μmo
lのパラニトロフェノールを遊離する酵素量を1単位
(U)とした。
【0018】(基質液、緩衝液、反応停止液、酵素希釈
液の調製) 1液;基質液 20mM PNPG溶液 PNPG 0.603gを蒸留水に溶解し、100ml
とした。 2液;緩衝液 0.1M リン酸カリウム緩衝液pH7.0 0.1M−リン酸1カリウム液と0.1M−リン酸2カ
リウム液を混合してpH7.0に調製した。 3液;反応停止液 0.2M 炭酸ナトリウム液 21.2gの無水炭酸ナトリウムを蒸留水に溶解し10
00mlとした。 酵素希釈液 0.2%BSA含有0.01M リン酸カリウム緩衝液
pH7.0を調製した。
【0019】(測定手順)まず、前記した1液 0.2
5ml、2液 0.5mlを混合し、37℃にて5分間
プレインキュベーションした後、該プレインキュベーシ
ョンした液と0.005〜0.03U/ml付近に調製
した酵素液0.25mlを混合し、37℃において15
分間正確に反応させた。次いで、反応時間終了後、3液
1mlを添加して反応を停止させ、パラニトロフェノー
ルを発色させ、その発色液を分光光度計(U−2000
A、日立社製)で400nmにおけるサンプルの吸光度
を測定した。なお、ブランク値の測定は、基質液、緩衝
液を混合、プレインキュベーションの後、酵素液を添加
せず正確に15分間インキュベーションを行い、3液1
mlを添加し、その後に酵素液を添加してブランク吸光
度を測定した。
【0020】(力価の計算)前記の測定法で求めたサン
プル吸光度、ブランク吸光度の各値から、下記の計算式
数1によって力価を求めた。
【0021】
【数1】
【0022】(8)阻害剤処理に対する安定性:各種阻
害剤処理による影響は、以下の方法で行った。まず22
mM該阻害剤0.01ml(界面活性剤においては1.
1%)に、0.0667mg/mlの酵素液を含む0.
2%BSA含有100mM HEPES−水酸化ナトリ
ウム緩衝液pH7.0を0.1ml添加し、25℃、1
時間の処理を行った。次いで前記処理後、0.2%BS
A含有10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を
用いて100倍に希釈し、その酵素残存活性度を前記の
活性測定法により求めた。その結果は、表2に示すとお
りであり、本酵素は、鉛、銅、水銀及び銀の重金属イオ
ンで失活する。しかし、SDS、PCMB、N−エチル
マレイミドには影響されなかった。
【0023】
【表2】
【0024】(9)(Km値) ラインウエーバー・バークのプロットからKm値は、P
NPGを基質としてpH7.0、37℃において、5.
5×10-5Mであり、合成基質に対する親和性が極めて
高い。
【0025】(10)精製方法:本酵素の単離、精製は
常法に従って行うことができ、例えば、硫安塩析法、有
機溶媒沈殿法、イオン交換クロマトグラフ法、ゲル濾過
クロマトグラフ法、吸着クロマトグラフ法、アフィニテ
ィークロマトグラフ法、電気泳動法、疎水クロマトグラ
フ法などを単独、あるいは適切に組み合わせて用いられ
る。
【0026】本発明の酵素の理化学的性質は前記の通り
であるが、この酵素が新規である根拠を次に示す。前述
のごとく、従来から種々の微生物由来のα−グルコシダ
ーゼが見出され、本酵素とそれらの酵母、バチルス ス
テアロサーモフィラス由来の各公知酵素との比較をする
ため、主要な理化学的性質を表3に示す。なお、表3
中、(注1)の酵母由来α−グルコシダーゼのデータ
は、バイオサイエンス バイオテクノロジー バイオケ
ミストリー(Biosci.Biotech.Bioc
hem.)第57巻、第11号、第1902−1905
頁、1993年から、また、(注2)のバチルス ステ
アロサーモフィラス(Bacillus stearo
thermophilus)由来α−グルコシダーゼの
データは、バイオケミカ バイオフィジカ アクタ(B
iochimica et Biophysica A
cta)第787巻、第281〜289頁、1984
年、から引用したものである。
【0027】
【表3】
【0028】表3からわかるかるように、本酵素は、そ
の基質特異性においてマルトペンタオース以上のマルト
オリゴ糖にはほとんど作用せず、アミロース、アミロペ
クチン、可溶性澱粉には全く作用しないことから、バチ
ルス ステアロサーモフィラス由来酵素とは異なる。そ
して、本酵素は、例えば中性付近のpHで行なう可溶性
澱粉を用いたアミラーゼ活性測定の際の共役酵素などと
して有用である。また、本酵素は、酵母由来酵素と比較
して、その基質特異性の傾向は似ているが、安定pH範
囲、熱安定性において異なり優れている。したがって、
本酵素は、通常使用されている温度25〜45℃付近で
の使用においても安定であり、またpH5.0〜10.
0の幅広い範囲で酵素精製が可能であるので、本酵素の
製造においても精製が容易であるという効果をもたら
し、有用である。これらのことから、本酵素は、従来の
α−グルコシダーゼにはない有用な性質を有する新規な
α−グルコシダーゼである。
【0029】次に、本酵素の製造方法について説明す
る。先ず、使用される菌としてはバチルス属に属し、本
酵素生産能を有する菌株であればいかなる菌でもよく、
またこれらの菌の変種又は変異株でもよい。そして、そ
の微生物の具体例としては、バチルス エスピー(Ba
cillus sp.)KS−108aが挙げられ、該
菌株の変種又は変異株も用いることができる。このバチ
ルス エスピー KS−108aは、本発明者らが熊本
県内の土壌より採取して得た菌株であり、その菌学的性
質は以下に示すとおりである。なお菌学的性質の同定の
ための実験は、主として長谷川武治編著「微生物の分類
と同定東京大学出版会(1975年)によって行った。また
分類同定の基準として、バージーズ マニュアル オブ
デターミネィネィテブ バクテリオロジー(第8版)
(1974年)を参考にした。
【0030】バチルス エスピー KS−108aの菌
学的性質 (A)形態的性質 顕微鏡的観察(肉汁寒天培地(pH7.0)上で、50
℃、5〜7時間培養)。 (1)細胞の形及び大きさ:0.1〜0.5×1〜7ミ
クロンの桿菌。 (2)運動性の有無:運動性あり。 (3)胞子の有無:あり。 (4)グラム染色性:陽性。
【0031】(B)各培地(pH7.0)における生育
状態 (1)肉汁寒天平板培養 50℃、16時間の静置培養で、淡茶色の円形コロニ−
を形成する。色素の産生は認められない。 (2)肉汁寒天斜面培養 50℃、16時間の培養で生育を示す。 (3)肉汁液体培養 50℃、16時間の静置培養で培地全体に微かな生育
(濁り)が認められる。厚い菌膜生ずる。 (4)肉汁ゼラチン穿刺培養 50℃、3日間の静置培養で、ゼラチンを液化しない。 (5)リトマスミルク培養 50℃、48時間の静置培養で、リトマスミルクの凝
固、液化は認められず、酸もしくはアルカリの産生も認
められない。
【0032】(C)生理的性質 主に、pH7.0 に調製した培地を用いて試験した。 (1)硝酸塩の還元:還元する。 (2)脱窒反応:無し。 (3)MRテスト:陰性。 (4)VPテスト:非常に弱いが陽性。 (5)インド−ルの生成:生成しない。 (6)硫化水素の生成:生成しない。 (7)デンプンの加水分解:加水分解しない。 (8)クエン酸の利用:利用する。 (9)無機窒素源の利用:硝酸塩、アンモニウム塩共に
利用する。 (10)色素の生成:生成しない。 (11)ウレア−ゼ:陽性。 (12)オキシダ−ゼ:弱いが陽性。 (13)カタラ−ゼ:陽性。 (14)生育の範囲:温度;33〜55℃,pH;6.
1〜9.4 (15)酸素に対する態度:好気性。 (16)O〜Fテスト(Hugh−Leifson
法):酸化(炭素源としてグルコースを0.5%添
加。) (17)糖類からの酸及びガスの生成の有無:表4に示
すごとく、D−グルコース、D−フラクトース、D−マ
ンノース、D−キシロース、D−アラビノース、シュー
クロース、マルトース、D−マンニトールより酸の生成
が認められるが、ガスの生成は認められない。
【0033】
【表4】
【0034】前記した菌学的性質を有し、新規なα−グ
ルコシダーゼ生産能を有する本菌株は、グラム染色が陽
性であること、運動性を有すること、胞子形成能を有す
ることなどから、バチルス属に属するものと判定され
る。従って本菌株をバチルスエスピー(Bacillu
s sp.)KS−108aと同定命名した。本菌株は
工業技術院生命工学工業技術研究所に、FERM BP
−5337として寄託されている。なお、本発明におけ
るα−グルコシダーゼとしては、前記した作用、基質特
異性、などの主要な理化学的性質を有するものであれば
良く、その他の理化学的性質が多少の相違を示すもので
あっても本酵素として包含される。そして前記の微生物
はこのようなα−グルコシダーゼを得るための使用菌の
一例であって、本発明においてはバチルス属に属し、前
記α−グルコシダーゼ生産能を有するものであれば使用
できる。
【0035】次に、バチルス属に属し、α−グルコシダ
ーゼ生産能を有する菌株を用いて本酵素を生産するに
は、培地として炭素源、窒素源、無機物、その他の栄養
素をほどよく含有するものであれば、合成培地または天
然培地のいずれでも使用できる。炭素源としては、本酵
素を誘導することが可能な炭素化合物であればよく、例
えば粉末水飴を含む培地とするのが望ましい。窒素源と
しては、利用可能な窒素化合物であればよく、例えば酵
母エキス、ペプトン、肉エキス、コーンスチープリカ
ー、大豆粉、アミノ酸、硫安、硝酸アンモニウムなどが
使用される。その他、食塩、塩化カリウム、硫酸マグネ
シウム、塩化マンガン、硫酸第一鉄、リン酸第一カリウ
ム、リン酸第二カリウム、炭酸ナトリウムなどの種々の
塩類、ビタミン類、消泡剤などが使用される。これらの
栄養源はそれぞれ単独で用いることもでき、またこれら
を組み合わせて用いることもできる。
【0036】上記のごとくして調製した液体培地を用い
て本酵素を生産するには、通気攪拌深部培養または振盪
培養などにより好気的に培養することが好ましい。その
際に、培地の初発pHを6.5〜7.0程度に調整し、
35〜55℃、好ましくは50℃前後の温度で7時間以
上培養する。培養終了後、培養物から本酵素を採取する
には、通常の酵素採取手段を用いることができる。
【0037】本酵素は、主に菌体内に存在する酵素であ
るため、培養物から例えば濾過、遠心分離などの操作に
より菌体を分離し、この菌体からα−グルコシダーゼを
採取することが好ましい。この場合、菌体をそのまま用
いることもできるが、超音波破砕機、フレンチプレス、
ダイナミルなどの種々の破壊手段を用いて菌体を破壊す
る方法、リゾチームのごとき細胞壁溶解酵素を用いて菌
体細胞壁を溶解する方法、トリトンX−100などの界
面活性剤を用いて菌体から酵素を抽出する方法などを、
単独または適宜組み合わせて採用することができる。次
いで、濾過または遠心分離などにより不純物を除き、本
酵素の粗酵素液を得る。このようにして得られた粗酵素
液から本酵素を単離するには、前記したごとき通常の酵
素精製に用いられる方法が適用できる。
【0038】以上のごとくして得られた本酵素は、例え
ばα−アミラーゼ活性測定やクロルイオン定量時の共役
酵素として、またマルトースなどのマルトオリゴサッカ
ライドの測定並びに消去用酵素として、あるいはまたオ
リゴ糖類からのグルコース、並びにフルクトースなどの
単糖類糖生成などの工業的生産酵素として利用が可能で
ある。
【0039】
【実施例】以下、実施例により本発明をさらに具体的に
説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら
限定されるものではない。 (実施例)粉末水飴(昭和産業社製)2.0%、ポリペ
プトン 2.0%、酵母エキス1.0%、リン酸1カリ
ウム 0.01%、リン酸2カリウム 0.01%、硫
酸マグネシウム7水和物0.01%および水道水からな
る培地(pH7.0)100mlを坂口コルベンに入
れ、121℃で7分間殺菌した。この培地に、バチルス
エスピー(Bacillus sp.)KS−108
a(FERM BP−5337)の保存スラントより1
白金耳を接種し、これを振盪機にて40℃で約16時間
振盪培養し、種培養液とした。次いで、別に前記と同様
の培地に、消泡剤(ニッサンディスホームCC−48
5)を2ml添加し、121℃、7分間殺菌して調製し
た培地20Lを含む30L容ジャーファメンターへ、前
記種培養液100ml(坂口コルベン 1本分)を接種
し、回転数 300rpm、内圧0.5L、通気量 2
0L/min、温度50℃で約7時間培養した。培養終
了後、培養液20Lから、マイクローザ PW−303
(旭化成社製)を用いて菌体を集め、水道水にて菌体を
洗浄した後、菌体を約10Lに濃縮した。
【0040】本酵素の精製は、以下に示す操作により行
なった。 ステップ1(粗酵素液の調製):前記菌体濃縮液に、
0.55M EDTA 2ナトリウム塩(pH8.0)
を1L添加、混合し、20℃で2晩溶菌させた後、5%
プロタミン水溶液(pH8.0)200mlを攪拌しな
がら滴下して除核酸処理を行った。この上澄液を限外濾
過膜を用いて0.1M塩化カリウムを含む0.01Mリ
ン酸カリウム緩衝液(pH7.0)(以下「緩衝液A」
という)に対して透析した。
【0041】ステップ2(DEAEーセルロース処
理):前記の透析液(約 10L)に、湿重量で約9K
gのDEAEーセルロースを添加、混合して、本酵素を
吸着させた後、0.1M塩化カリウム含有緩衝液Aにて
DEAE−セルロースを洗浄し、次に、0.3M塩化カ
リウム含有緩衝液Aにて本酵素を溶出し、その溶出液を
フォロファイバータイプ限外濾過装置を使用して濃縮
し、0.1M塩化カリウム含有緩衝液Aに置換する透析
を行った。
【0042】ステップ3(QAE−セファデックスA−
50 バッチワイズ処理):前記の透析液(1000m
l)に、1000mlのQAE−セファデックスA−5
0を添加、混合して、本酵素を吸着させた後、0.15
M 塩化カリウム含有緩衝液AにてQAE−セファデッ
クス A−50を洗浄し、次に、0.2M塩化カリウム
含有緩衝液Aにて本酵素を溶出した。その溶出液をフォ
ロファイバータイプ限外濾過装置を使用して濃縮し、
0.08M塩化カリウム含有緩衝液Aに置換する透析を
行った。
【0043】ステップ4(DEAEトヨパール 650
Cカラムクロマトグラフィー):前記の透析液(500
ml)を、DEAE−トヨパール 650Cのカラム
(4.2×30cm)に吸着させ、0.08M塩化カリ
ウム含有緩衝液Aにて洗浄し、次に、0.08M〜0.
2M塩化カリウム含有緩衝液Aにて直線濃度勾配法によ
り溶出させた。溶出された活性画分は、フォロファイバ
ータイプ限外濾過装置を使用して濃縮、及び緩衝液Aに
置換する透析を行った。
【0044】ステップ5(ブチルトヨパール650Cカ
ラムクロマトグラフィ−):前記透析液(200ml)
に、2M硫安含有緩衝液Aを200ml添加した。添加
後、同酵素液をブチル−トヨパール650Cのカラム
(4.2×30cm)に吸着させ、1M硫安含有緩衝液
Aにて洗浄し、次に1M〜0.7M硫安含有緩衝液Aに
て直線濃度勾配法により溶出させた。溶出された活性画
分は、フォロファイバータイプ及び平膜タイプの限外濾
過装置を使用して濃縮し、0.1M塩化カリウム含有緩
衝液Aに置換する透析を行った。
【0045】ステップ6 ゲル濾過(Bio−Gel
A1.5m200−400mesh): 前記の透析液
(約2ml)を、Bio−Gel A1.5m200−
400meshを充填したカラム(2.5×95cm)
に通過させ、0.1M塩化カリウム含有緩衝液Aにてゲ
ル濾過を行い、溶出された活性画分を採取した。以上の
精製操作により、精製酵素標品(約1,061U、3
3.1U/mg蛋白質)を得た。
【0046】
【発明の効果】本酵素は、特に基質特異性において、マ
ルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、パ
ラニトロフェニル−α−D−グルコピラノシド、パラニ
トロフェニル−α−D−マルトシド、イソマルトース、
シュークロースに作用するが、マルトペンタオシド以上
の重合度を持つマルトオリゴサッカライドにはほとんど
作用せず、可溶性澱粉には全く作用しないという特性、
さらに熱安定性がよく、安定pH範囲が広く、界面活性
剤などに対する安定性に優れているという特性を有して
いるため、従来の酵母由来の酵素などに代わって、α−
アミラーゼ活性測定やクロルイオン定量時に用いられ
る、マルトテトラオース以下の重合度を持つマルトオリ
ゴサッカライド及びPNPG、PNPG2などに作用し
得る共役酵素として、またマルトースなどのマルトオリ
ゴサッカライドの定量並びに消去用酵素として利用価値
が非常に高い。また本酵素は、オリゴ糖類からのグルコ
ース、並びにフルクトースなどの単糖類の生成、並びに
糖転移作用を利用した希少なヘテロ少糖類の酵素的合成
などの工業的生産においても利用が可能である。さらに
また、本発明の方法によれば、本酵素を微生物の培養に
よって極めて短時間に大量に得ることができること、し
かも本酵素は熱、pHに対する安定性に優れているた
め、50℃までの熱処理が可能であり、さらにpH5〜
10の幅広い範囲で精製が可能であることなどから、本
酵素を容易にまた、安価に製造が可能であり、産業上極
めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本酵素の37℃における至適pHを示すグラ
フ。
【図2】 本酵素の0.2%BSA存在下で、25℃、
20時間処理における安定pH範囲を示すグラフ。
【図3】 本酵素のpH7.0における作用適温の範囲
を示すグラフ。
【図4】 本酵素のpH7.0における熱安定性を示す
グラフ。

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 下記の理化学的性質を有する新規α−グ
    ルコシダーゼ。 (a)作用:α−グルコシド結合を加水分解して、α−D
    −グルコースを生成する。 (b)基質特異性:マルトース、マルトトリオース、マル
    トテトラオース、パラニトロフェニル−α−D−グルコ
    ピラノシド、パラニトロフェニル−α−D−マルトシ
    ド、イソマルトース、シュークロースに作用するが、マ
    ルトペンタオシド以上の重合度を持つマルトオリゴサッ
    カライドにはほとんど作用せず、可溶性澱粉には全く作
    用しない。 (c)至適pH及び安定pH範囲:至適pHは6.0〜
    9.0近辺であり、安定pH範囲は、0.2%牛血清ア
    ルブミン存在下で25℃、20時間処理で、pH5.0
    〜10.0である。 (d)作用適温の範囲:作用適温の範囲は52〜55℃近
    辺である。 (e)pH、温度などによる失活の条件:0.2%牛血
    清アルブミン存在下で25℃、20時間処理で、pH
    5.0〜10.0の範囲で安定であり、pH4.5以下
    またはpH11.0以上で完全に失活する。また、熱安
    定性はpH7.0、15分処理で50℃まで安定であ
    り、60℃以上で完全に失活する。 (f) 分子量:約61,300±5,000(ゲル濾過
    法)。
  2. 【請求項2】 バチルス属に属し、請求項1記載のα−
    グルコシダーゼ生産能を有する菌株を培地に培養し、そ
    の培養物から該α−グルコシダーゼを採取することを特
    徴とする請求項1記載のα−グルコシダーゼの製造方
    法。
  3. 【請求項3】 バチルス属に属する菌株が、バチルス
    エスピー KS−108aであることを特徴とする請求
    項2記載のα−グルコシダーゼの製造方法。
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