JPH08174341A - 硬質膜被覆ツイストドリルおよびその製造方法 - Google Patents

硬質膜被覆ツイストドリルおよびその製造方法

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JPH08174341A
JPH08174341A JP31692394A JP31692394A JPH08174341A JP H08174341 A JPH08174341 A JP H08174341A JP 31692394 A JP31692394 A JP 31692394A JP 31692394 A JP31692394 A JP 31692394A JP H08174341 A JPH08174341 A JP H08174341A
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JP
Japan
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drill
hard film
film
base material
coated
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JP31692394A
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Inventor
Yusuke Tanaka
裕介 田中
Kazuo Yamana
一夫 山名
Yasuyuki Yamada
保之 山田
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Kobe Steel Ltd
Original Assignee
Kobe Steel Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 密着性や皮膜特性が良好で、優れた耐摩耗性
を発揮すると共に、切り屑の排出性も良好であって切り
屑詰まりが起こらず、しかも工業的に効率良く製造する
ことのできる様な硬質膜被覆ツイストドリル、およびそ
の様なツイストドリルを製造する為の有用な方法を提供
する。 【構成】 切刃部における少なくともドリルマージン部
に硬質膜を被覆した硬質膜被覆ツイストドリルを製造す
るに当たり、高速度工具鋼からなる丸棒形状の母材表面
のドリル切削作用相当部に、アーク放電式イオンプレー
ティング法によって、2種以上の金属元素を含む炭化
物、窒化物または炭窒化物からなる硬質膜を被覆した
後、少なくともドリル溝相当部を切削加工または研削加
工してドリル母材地肌面が露出したドリル溝を形成す
る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高速度工具鋼を母材と
し、切刃部における少なくともドリルマージン部に耐摩
耗性に優れた硬質膜を被覆することによって、使用寿命
の延長を図った硬質膜被覆ツイストドリル、およびその
様なツイストドリルを製造する為の有用な方法に関する
ものである。
【0002】
【従来の技術】高速度工具鋼を素材とするツイストドリ
ルを製作する場合には、耐摩耗性等の性能をより優れた
ものとすることを目的として、高速度工具鋼を母材とし
てその表面にTi等の金属元素を含む炭化物、窒化物ま
たは炭窒化物からなる硬質膜を被覆するのが一般的であ
る。
【0003】上記の様な硬質膜を母材表面に被覆形成す
る方法としては、従来から化学的蒸着法(CVD法)や
物理的蒸着法(PVD法)等が実施されている。これら
の方法のうち、前者の方法では、母材が高温に曝されて
母材の熱劣化を招くことがあることから、母材特性も重
要視される工具に適用する場合には、後者の方法を採用
するのが一般的である。後者の方法即ちPVD法のう
ち、特にイオンプレーティング法は、比較的低温の条件
でコーティング処理できるので、この方法を適用して形
成されたTiN皮膜等が硬質膜として汎用されている。
【0004】上記TiN皮膜は、TiC皮膜と比べて耐
熱性が良好であり、切削時の加工熱や摩擦熱による工具
すくい面のクレータ摩耗も抑制される。しかしながら、
TiN皮膜はTiC皮膜に比べると硬度が低いので、被
削材と接する逃げ面に発生するフランク摩耗に対しては
脆弱であり、フランク摩耗に対してはむしろTiCの方
が高い耐久性を示すことが知られている。
【0005】そこで、耐熱性と硬度が共に優れる皮膜と
して、イオンプレーティング法やスパッタリッリング法
等のPVD法によるTi−Al−N,Ti−Al−C,
Ti−Al−C−N等の各種皮膜が提案されている(例
えば、特開昭62−56565号、特開平2−1941
59号、「J.Vac.Sci.Technol.」A第4(6)巻,1986
年,第2117頁、および「J.of Solid State Chemistory
」70巻,1987年,第318 〜322 頁等)。これらの複
合皮膜は、大気中で加熱されると800℃程度までは皮
膜中のAlが選択的に酸化され、表面に保護膜となるA
l酸化皮膜が形成され、これが内部への酸化を抑制する
作用を発揮すると言われている。尚これらの皮膜のビッ
カース硬度は、2700程度である。
【0006】一方、本発明者らは、工具の耐摩耗性を更
に高める方法として、母材表面に(Vx Ti1-x )(N
y1-y )(但し、0.25≦x≦0.75,0.6 ≦y≦1 )で
示される化学組成からなり、膜厚が0.8〜10μmの
耐摩耗性皮膜を、1×10-3〜5×10-2Torrの真
空雰囲気下で、蒸発源としてカソードを用いるアーク放
電方式で形成する方法を提案している(特開平4−22
1057号)。また本発明者らは、Ti−Al−N膜の
硬さおよび耐酸化性を更に向上し、耐摩耗性を改善した
(Al,Ti,Si)(N,C)皮膜についても開発
し、その技術的意義が認められたので先に出願している
(特願平6−100154号)。尚後者の皮膜のビッカ
ース硬度は、3100程度であり、酸化開始温度は10
00℃程度である。
【0007】ところで上記の様な硬質膜を被覆する方法
としては、坩堝方式のイオンプレーティング法やスパッ
タリング法の他、蒸発源としてカソードを用いる上記ア
ーク放電方式によるイオンプレーティング法等が採用さ
れるが、これらの方法には夫々下記に示す様な問題があ
る。
【0008】従来のイオンプレーティング法は、蒸着金
属を坩堝内で溶解して蒸発させる方式であるので、蒸発
源の設置位置に制約があり、複雑な形状の母材に適用す
る場合の蒸着効率は非常に低くなる。また複数の金属を
蒸着させて母材表面で皮膜の合金化をさせたい場合が多
いにも拘らず、個々の金属は蒸気圧に差があるので、合
金皮膜の組成を安定にコントロールすることは困難であ
る。
【0009】一方、スパッタリング法によって得られる
皮膜は、密着性が必ずしも良好という訳ではなく、また
複雑な形状の母材に対して被覆する場合の生産性も低
い。更には、ターゲット材としてAlx Ti1-x ,(A
x Ti1-x )(Ny1-y ),Vx Ti1-x ,(Vx
Ti1-x )(Ny1-y ),Alx Ti1-x-y Siy
(Alx Ti1-x -ySiy )(Nz1-z )等を使用す
る場合は、スパッタ率が経時的に変化し易いので、この
変化を見込んでターゲット材の組成を調整する必要があ
るという不都合がある。またスパッタ粒子のイオン化率
が低く、母材に突入するイオン量も少ない為に十分な皮
膜密着性が得られないという問題もある。しかも、成膜
速度が遅く、量産化には向かないという問題も抱えてい
る。
【0010】図2は、アーク放電方式イオンプレーティ
ング法を実施する為の装置構成例を示す概略説明図であ
る。この装置構成において、まずガス導入口2から反応
室1内に反応性ガスを導入すると共に、負電圧を印加し
た複数の蒸発源3と正電圧トリガー4との間にアークを
発生させ、負のバイアス電圧を印加した基材(母材)5
上に硬質膜を被覆するものである。そしてこの方法を実
施するに当たっては、基材5と硬質膜の密着性を高める
為に、硬質膜の被覆に先立って金属イオンボンバードメ
ントによるスパッタクリーニングを行なって基材表面に
存在する不純物の除去を行い、その後硬質膜を被覆する
様にしている。
【0011】アーク放電方式イオンプレーティング法で
は、金属イオンボンバードメントによるスパッタクリー
ニングによって、大きな洗浄効果が得られるので、基材
に対する皮膜の密着性は極めて良好である。またこの方
法では、例えばAlx Ti1- x N皮膜を形成する場合、
蒸発源であるカソードとしてTiとAlの夫々のターゲ
ット材を個別的に使用することもできるが、目的組成そ
のものからなるAlxTi1-x 合金のターゲット材を使
用すれば、皮膜組成のコントロールが容易に達成される
という利点がある。更に、各金属成分の蒸発は、数10
アンペアの大電流で行なわれるので、カソード物質の組
成ずれが殆ど起こらず、しかもイオン化効率が高くて反
応性に富むので、基材にバイアス電圧を印加することに
よって、密着性の良好な皮膜が得られ易いという利点も
ある。
【0012】しかしながら、アーク放電方式イオンプレ
ーティング法においては、上記の如く金属成分の蒸発が
数10アンペア以上の大電流で行なわれ、金属ボンバー
ドメントおよび蒸着時のイオンエネルギーが高く、特に
高いエネルギーを必要とする金属ボンバードメントの際
に基材が加熱され易く、基材として高速度工具鋼を用い
た場合や、特に加熱され易い長尺ドリル等を用いたとき
には、焼き戻し温度以上に加熱され、基材硬度が低下す
るという難点がある。
【0013】こうしたことから、蒸着前にArガスを導
入し、10-2Torr程度のAr雰囲気とすることによ
って、低エネルギーのグロー放電によってArガスをイ
オン化してスパッタクリーニングを行なうArイオンボ
ンバード法が提案されている(例えば特開昭50−15
7269号)。しかしながら、この技術では、スパッタ
クリーニング力が弱過ぎるので、十分な皮膜密着性が得
られないという欠点がある。
【0014】本発明者らは、皮膜の密着性を高めるとい
う観点から、高速度工具鋼製小径ドリルを母材とし、ま
ず気体のグロー放電によるイオンボンバードクリーニン
グを行なって母材表面の清浄化を図った後、Tiイオン
を用いて−20〜−400Vの印加電圧でのアーク金属
イオンプレーティングを行なって、前記清浄化された表
面にTi金属中間層を形成し、引き続き該中間層上にセ
ラミックス系硬質膜を形成する高速度工具鋼製小径ドリ
ルについて提案している(特公平5−72466号)。
【0015】一方、ツイストドリルにおける硬質膜の被
覆については、ドリル製造工程の最終段階である研磨完
了後に行ない、ドリル切刃部全域に硬質皮膜を被覆し、
その耐摩耗性を改善するのが一般的である。また本発明
者らは、こうした基本的な手順に従い、ドリル径Dと切
刃部長さLの比(L/D)が15以上の深穴加工用ツイ
ストドリルにおいて、寿命の改善を図るという目的か
ら、少なくともドリルマージン部に硬質膜を被覆すると
共に、ドリル溝には硬質皮膜を被覆しないドリル素材地
肌面としたドリルについて提案している(実開平2−7
0917号)。即ち、こうした構成を採用することによ
って、ドリルマージン部における硬質膜による耐摩耗性
向上を達成すると共に、ドリル溝面のすべり摩擦抵抗を
小さくして切り屑の流出の円滑化を図って切り屑詰まり
をなくし、長寿命化を達成したのである。尚このとき用
いた硬質膜は、Tiの炭化物、窒化物または炭窒化物で
ある。
【0016】しかしながら、近年における穴明け加工の
多様化、高能率化に対応するには、これまで提案されて
きた上記各種の技術では、依然として不十分であり、耐
摩耗性を更に改善した高速工具鋼製ドリルの開発が望ま
れているのが実情である。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】上記の様に、アーク放
電方式によるイオンプレーティング法では、TiAlC
N等の多成分系の硬質膜を効率良く且つ密着性良く被覆
することができるが、特に金属ボンバードメントの際に
高いイオンエネルギーを使用するので、母材として高速
度工具鋼を用いる場合には、母材が焼き戻し温度以上に
加熱され、硬度が劣化することがあり、希望する耐摩耗
性は発揮できない。また単に処理温度を下げる為に、A
rイオンボンバードを使用し、イオンエネルギーを下げ
るだけでは、2種以上の金属元素を含む耐摩耗性に優れ
た硬質皮膜を被覆することはできない。更に、坩堝方式
のイオンプレーティング法やスパッタリング法では、低
温で多成分皮膜を被覆することはできるが、皮膜形成効
率が非常に低い。
【0018】またドリルマージン部のみにTiの炭化
物、窒化物、炭窒化物等を形成し、ドリル溝を硬質膜を
被覆しないドリル素材地肌面とした深穴加工用ツイスト
ドリルにおいては、切り屑の排出性は改善されるもの
の、ドリル耐摩耗性を支配するマージン部の耐摩耗性
が、上記の様な硬質膜を形成するだけでは不十分であ
り、満足する耐摩耗性は発揮できない。
【0019】本発明は上記の様な事情に着目してなされ
たものであって、その目的は、密着性や皮膜特性が良好
で、優れた耐摩耗性を発揮すると共に、切り屑の排出性
も良好であって切り屑詰まりが起こらず、しかも工業的
に効率良く製造することのできる様な硬質皮膜被覆ツイ
ストドリル、およびその様なツイストドリルを製造する
為の有用な方法を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決すること
のできた本発明の構成は、切刃部における少なくともド
リルマージン部に硬質膜を被覆した硬質膜被覆ツイスト
ドリルを製造するに当たり、高速度工具鋼からなる丸棒
形状の母材表面のドリル切削作用相当部に、アーク放電
式イオンプレーティング法によって、2種以上の金属元
素を含む炭化物、窒化物または炭窒化物からなる硬質膜
を被覆した後、少なくともドリル溝相当部を切削加工ま
たは研削加工してドリル母材地肌面が露出したドリル溝
を形成する点に要旨を有するものである。
【0021】上記の方法によれば希望する特性の硬質膜
被覆ツイストドリルが得られるのであるが、この上記硬
質膜被覆ツイストドリルにおいては、ドリル径をD、切
刃部長さをLとしたときに、両者の比(L/D)が5以
上の深穴加工用であるときに本発明の効果が最大限に発
揮される。
【0022】
【作用】本発明者らは、先に提案したツイストドリルの
基本的な構成を採用して切り屑の排出性を良好に維持し
つつ、このドリルの耐摩耗性の向上を図るべく、様々な
角度から検討した。その結果、高速度工具鋼からなる丸
棒形状の母材表面のドリル切削作用相当部に、アーク放
電式イオンプレーティング法によって、2種以上の金属
元素を含む炭化物、窒化物または炭窒化物(以下、これ
らを一括して「炭・窒化物」と呼ぶことがある)からな
る硬質膜を被覆した後、少なくともドリル溝相当部を切
削加工または研削加工してドリル母材地肌面が露出した
ドリル溝を形成する様にすれば、高エネルギーを採用し
ても母材の劣化を招くことなく、硬質膜を密着性良く被
覆することができ、またこれらの炭・窒化物が基本的に
耐摩耗性に優れていることから、希望する特性を発揮す
る硬質膜被覆ツイストドリルが実現できることを見い出
し、本発明を完成した。
【0023】本発明のツイストドリルにおいて、少なく
ともドリルマージン部に形成される炭・窒化物を構成す
る金属元素の種類については、特に限定されるものでは
なく、炭・窒化物として高硬度で高耐摩耗性の皮膜を形
成できるものであれば採用することができる。この様な
金属元素としては、Ti,Al,V,Si,Cr,Z
r,Hf等が挙げられ、これらのうちの2種以上を選定
すれば良い。これらのうち、性能的に格別に優れた効果
を発揮するのは、Ti,Al,VおよびSiから選ばれ
る2種または3種の金属元素の組み合わせであり、取り
分け(Ti,Al)、(V,Ti)および(Ti,A
l,Si)の組み合わせ元素を含む炭・窒化物は、極め
て優れた耐摩耗性を発揮する皮膜を与えるものとして推
奨される。
【0024】また上記の組み合わせからなる炭・窒化物
は、いずれも優れた性能を発揮するが、中でもN:C=
0.6〜1:0.4〜0の比率の窒化物または炭窒化物
[即ち、Nz C11-z (0.6≦z≦1)で表される炭
・窒化物]は、耐酸化性にも優れ、工具母材に対し優れ
た密着性の高硬度皮膜を与えるので特に好ましい。
【0025】尚本発明において、「少なくともドリルマ
ージン部」としたのは、ドリル切刃部のうち少なくとも
ドリルマージン部に硬質膜を被覆されれば、本発明の効
果が発揮されるからであるが、ドリルマージン部だけに
限らず、ドリル溝を除くドリル切刃部全体に硬質膜が被
覆されても良いことは勿論である。即ち、切り屑の排出
性を良好に維持する為には、少なくともドリル溝がドリ
ル母材地肌面であれば良い。従って、製造方法において
は、上記の構成に対応させて「少なくともドリル溝相当
部を切削加工または研削加工してドリル母材地肌面が露
出したドリル溝を形成する」としたのである。
【0026】上記の様な炭・窒化物は、カソードを蒸発
源とするアーク放電式イオンプレーティング法によっ
て、効率的に形成することができる。より具体的には、
カソードを蒸発源としてイオン化させた2種以上の金属
元素を、N2 雰囲気および/またはCH4 雰囲気からな
る窒化雰囲気および/または炭化雰囲気中でイオンプレ
ーティング法を実施することによって形成することがで
きる。この場合、目的とする皮膜組成と同一の金属組成
のターゲットを使用すれば、カソード物質の組成ずれを
防止することができるので安定した組成の皮膜が得られ
るので好ましい。また母材にバイアス電圧を印加すれ
ば、皮膜の密着性を更に高めることができるので、より
好ましい。尚イオンプレーティング時のガス圧について
は、特に限定されるものではないが、好ましいのは1×
10-3〜5×10-2Torr程度であり、この条件下で
は結晶性で緻密な耐摩耗性が一段と優れた硬質膜が得ら
れやすい。
【0027】ところで上記のアーク放電式イオンプレー
ティング法によって硬質膜を被覆するに当たっては、前
述の如く、母材と皮膜の密着性を向上させるという観点
から、硬質膜の被覆に先立って金属イオンボンバードメ
ンドによるスパッタクリーニングを行なって母材表面の
不純物を除去し、その後イオンプレーティングを実施す
ることが必要である。この場合に、金属イオンボンバー
ドメント工程において十分な洗浄効果を得る為には、通
常−500〜−1500Vという高いバイアス電圧を印
加し、母材表面に金属イオンを高エネルギーで照射する
のが一般的であるが、母材がドリル形状の様な長尺薄肉
形状物であると、先端部から急激に温度が上昇しやす
く、例えば図1に示す様に、300℃に加熱した高速度
工具鋼製ドリルA(外径:4mm×切刃部長さ:54m
m×全長:83mm)を、700Vのバイアス電位でT
iイオンを用いてイオンボンバードした場合には、約4
秒で刃先温度が高速度工具鋼の焼き戻し温度である55
0℃に加熱され、母材の劣化が発生することになる。こ
の為、母材の劣化を招くことなく、十分なボンバードを
行なうことができず、密着性が良好な硬質皮膜を形成す
ることはできない。
【0028】これに対し本発明においては、溝を形成し
ない段階の丸棒形状の状態(外径:4mm×全長:83
mm)でイオンボンバード処理を行なうことになるの
で、同じく図1に示す様に、約40秒までは550℃以
下の温度であって母材の劣化を招くことなく金属イオン
ボンバードを行なうことができるので、十分な密着性を
発揮する皮膜を形成することができるのである。
【0029】一方、アーク蒸着過程において、特に2種
以上の金属元素を含む炭・窒化物皮膜を形成する場合に
は、−100〜−300V程度のバイアス電位を印加す
ることによって、高硬度で密着性に優れた良質の皮膜を
被覆することができるが、例えば−150Vのバイアス
電位を印加し、窒素ガスを7×10-3Torrの圧力で
導入し、TiVN皮膜を形成した場合は、外径:4mm
×切刃部長さ:54mm×全長:83mmの高速度工具
鋼製ドリルでは、30分のアーク蒸着が必要であるが、
蒸着開始から8分後に刃先表面温度が550℃以上に加
熱され、母材硬度の劣化が発生することになる。これに
対し、本発明によれば、例えば外径:4mm×全長:8
3mmの丸棒形状のドリル素材を用いた場合には、アー
ク蒸着開始から30分後においても刃先温度は480℃
程度に抑えられ、母材硬度の劣化を招くことなく、良質
で耐摩耗性に優れたTiVN皮膜を3μm形成すること
ができるのである。
【0030】ドリル素材丸棒に被覆され、最終的に少な
くともドリルマージン部となる硬質膜の厚さについて
は、特に限定されるものではないが、薄過ぎる場合には
耐摩耗性が不足し、一方厚過ぎる場合には衝撃力によっ
て皮膜に亀裂が発生することがあり、皮膜本来の特性は
発揮されないばかりか、生産性が低下することにもな
る。こうした観点から硬質膜の厚さは、0.1〜20μ
m程度が好ましい。尚ドリル母材本来の切れ刃の特性を
生かし且つ優れた耐摩耗性を発揮させ得るためには、硬
質膜の厚さは1〜12μm程度がより好ましく、更に好
ましいのは2〜8μm程度である。
【0031】本発明のツイストドリルは、丸棒素材の表
面に硬質膜を被覆した後、例えばカッタによる切削加工
や砥石による研削加工等を施してドリル溝を形成するこ
とによって製造することができる。本発明に係るドリル
では、切削時には先端刃先から生成された切り屑がドリ
ル溝に排出される際に、そのドリル溝面が硬質膜が被覆
されていないドリル母材地肌面によって構成されている
ので、切り屑の滑り摩擦抵抗が極めて小さく、切り屑の
排出性が著しく向上することになる。この為に、特に深
穴加工において切り屑詰まりが発生しにくく、加工効率
や切削寿命の大幅な向上が可能になる。
【0032】ドリル径をD、切刃部長さをLとしたとき
に、それらの比(L/D)が5以上の深穴加工におい
て、これまで1回のドリリングでは切り屑詰まりを発生
し易く、またトルクやスラストが過大となって、一定寸
法を切り込んだ後、ドリルを一旦穴から引き出して切り
屑を排出すると共に、ドリルを冷却する操作が行なわれ
ている(この操作回数を、「ステップ回数」と呼ぶ)。
このステップ回数が少ない方が、短時間で穴明け加工が
行なえ、加工能率が高いことを意味する。本発明のツイ
ストドリルでは、このステップ回数を少なくすることが
できると共に、穴明け数の向上を達成することができる
のである。即ち、本発明のツイストドリルは、前記比
(L/D)が5以上の深穴加工用のドリルに適用するの
が最も効果的である。
【0033】本発明のツイストドリルにおいて、ドリル
溝の仕上げ面粗さについては、特に限定されるものでは
ないが、切り屑の滑り性を良くする為には、その表面粗
さが最大高さRmax で5μm以下であることが好まし
く、より好ましくは3μm以下であり、最も好ましいの
は鏡面状態である。尚ドリル溝に硬質膜が形成されてい
ない本発明のドリルでは、たとえドリル溝の面粗さが鏡
面状態でなくとも、ドリル溝の耐摩耗性が劣るので、ド
リル切削初期の切り屑の擦れによって、切り屑の排出に
関わる部分の面粗さはほぼ鏡面に近い状態になり、ドリ
ル使用開始直後に切り屑の排出性が向上することにな
る。但し、切り屑の擦れによって除去される母材の量は
僅かであるので、ドリル断面形状や寸法精度については
何ら影響を及ぼすことはない。
【0034】
【実施例】次に本発明の実施例を示すが、本発明はもと
より下記実施例によって制限を受けるものではなく、前
後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施
することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の
技術的範囲に含まれる。
【0035】実施例1 基材としてJIS規格SKH51相当の高速度工具鋼を
用い、外径10mmのJIS規格ドリル基材と、外径1
0mmのJIS規格丸棒素材を作成した。これらを、ア
ーク放電式イオンプレーティング装置に装入し、400
℃に加熱した後、真空中でカソードを蒸発させると共
に、基材に−1200Vの電位を印加し、基材表面の温
度を赤外線放射型温度計によって測定しつつ、該基材の
表面温度が500℃になるまで、金属イオンによるボン
バードメントを行ない、基材表面を清浄にした。
【0036】その後、真空中でカソードを蒸発させると
共に、反応ガスとしてN2 ガスやN 2 /CH4 混合ガス
を導入し、7×10-3Torrの雰囲気とし、且つ基材
に−150Vの電位を印加して下記表1に示す種々の組
成の皮膜を5μm被覆した高速度工具鋼基材を作成し
た。尚皮膜の組成は、電子プルーブX線マイクロアナリ
シスおよびオージェ電子分光法により求め、ドリル丸棒
素材に関しては、この後研削によってドリル溝部を形成
してJIS規格ドリルに加工し、マージン部のみ硬質膜
を被覆したドリルとした。
【0037】得られた各硬質膜被覆ドリルを使用し、下
記の切削条件にて切削試験を行なって切削寿命を調査し
た。その結果を、表1に併記する。 (切削条件) 切削方法 :穴明け加工(各5本切削) 被削材 :S55C(硬さHB220) 切削速度 :30m/min 送り :0.2mm/rev 切削長さ :25mm(貫通穴) 切削油 :水溶性エマルジョン型切削油
【0038】
【表1】
【0039】表1から明らかな様に、本発明で規定する
要件を満足する実施例のもの(No.6〜8)では、従来
例(No.1,2)と比較して、平均穴明け個数が多く切
削寿命が長いことがわかる。これに対し、No.3のもの
は、丸棒素材に硬質皮膜を被覆した後、研削加工によっ
てマージン部のみにTiN皮膜を被覆したドリルの比較
例であり、切り屑の排出性は良好であるものの、マージ
ン部の耐摩耗性が劣り、摩耗の進行が早くて切削寿命が
短くなっている。また、No.4,5のものは、ドリル刃
部を加工後、刃部全域に亘って硬質膜を被覆した場合の
比較例であり、皮膜形成時の金属イオンボンバードが不
十分であり、皮膜の密着性が悪く、切り屑の排出性も悪
い為に、穴明け個数の向上が認められない。
【0040】実施例2 基材としてJIS規格SKH56相当の高速度工具鋼を
用い、外径:6mm×切刃部長さ:160mm×全長:
260mm、心厚2.4mm、溝幅比2.5:1の深穴
加工用ツイストドリル、および同ドリルを作成する為の
外径:6mm×全長:260mmのドリル丸棒素材を製
作し、実施例1と同様の方法により下記表2に示す種々
の組成の皮膜を被覆した高速度工具鋼基材を作成した。
【0041】得られた各硬質膜被覆ツイストドリルを使
用し、下記の切削条件にて切削試験を行なって切削寿命
を調査した。その結果を、前記ステップ回数と共に表2
に併記する。 (切削条件) 切削方法 :穴明け加工(各5本切削) 被削材 :S55C(硬さHB220) 切削速度 :30m/min 送り :0.15mm/rev 加工穴深さ:100mm(貫通穴) 切削油 :水溶性エマルジョン型切削油
【0042】
【表2】
【0043】表2から明らかな様に、本発明で規定する
要件を満足する実施例のもの(No.6〜8)では、従来
例(No.1,2)と比較して、少ないステップ数におい
ても平均穴明け個数が多く、高い加工能率でしかも切削
寿命が長いことがわかる。これに対しNo.3のものは、
丸棒素材に硬質皮膜を被覆した後、研削加工によってマ
ージン部のみにTiN皮膜を被覆したドリルの比較例で
あり、切り屑の排出性は良好であるものの、マージン部
の耐摩耗性が劣り、摩耗の進行が早くて切削寿命が短く
なっている。また、No.4,5のものは、ドリル刃部を
加工後、刃部全域に亘って硬質膜を被覆した場合の比較
例であり、皮膜形成時の金属イオンボンバードが不十分
であり皮膜の密着性が悪く、切り屑の排出性も悪い為
に、穴明け個数の向上が認められない。
【0044】
【発明の効果】本発明は以上の様に構成されており、非
常に優れた耐摩耗性を発揮する硬質膜被覆ツイストドリ
ル、およびその様な優れた性能を発揮するドリルを製造
する為の有用な方法を提供し得ることになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】アーク放電式イオンプレーティング法を実施す
る為の装置構成例を示す概略説明図である。
【図2】ドリルおよび丸棒素材をボンバードした場合の
表面温度の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
1 反応室 2 ガス導入口 3 蒸発源 4 正電圧トリガー 5 母材

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 切刃部における少なくともドリルマージ
    ン部に硬質膜を被覆した硬質膜被覆ツイストドリルを製
    造するに当たり、高速度工具鋼からなる丸棒形状の母材
    表面のドリル切削作用相当部に、アーク放電式イオンプ
    レーティング法によって、2種以上の金属元素を含む炭
    化物、窒化物または炭窒化物からなる硬質膜を被覆した
    後、少なくともドリル溝相当部を切削加工または研削加
    工してドリル母材地肌面が露出したドリル溝を形成する
    ことを特徴とする硬質膜被覆ツイストドリルの製造方
    法。
  2. 【請求項2】 請求項1の方法によって得られたもので
    あり、ドリル径をD、切刃部長さをLとしたときに、両
    者の比(L/D)が5以上の深穴加工用である硬質膜被
    覆ツイストドリル。
JP31692394A 1994-12-20 1994-12-20 硬質膜被覆ツイストドリルおよびその製造方法 Pending JPH08174341A (ja)

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Cited By (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2012166295A (ja) * 2011-02-14 2012-09-06 Mitsubishi Materials Corp 耐摩耗性と切屑排出性に優れた表面被覆ドリル

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