JPH0783245A - 自動変速機 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 クラッチの油圧ピストン駆動用油室内の油圧
油に遠心力が働いても誤動作を起こさず、かつ部品の強
度低下や大型化による重量増加・コスト高にならない自
動変速機を提供する。 【構成】 多板クラッチ１を操作するための油圧ピスト
ン４と反力部材７との間に押し戻し用の圧縮ばね８が設
けられるとともに、油圧ピストン４と反力部材７とにそ
れぞれ設けられたテーパ面４ｂ，７ａを有する外方向先
細りの空間に、鋼球１０が配置される。回転により鋼球
にも遠心力が作用するのでテーパ面によって油圧ピスト
ン４に対し右方への付勢力が生じ、油圧油にかかる遠心
力による押圧力とバランスする。これにより、油室５を
ドレーンすると圧縮ばね８で確実にクラッチは開放され
る。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、クラッチを作動させる
ための油圧ピストンに、この油圧ピストンが収容される
油室内の油圧油にかかる遠心力に対抗する力を付与する
手段を備えた自動変速機に関する。

【０００２】

【従来の技術】従来この種の自動変速機としては、例え
ば特開平２−８９８７１号公報に示されているようなも
のが知られている。複数のクラッチをそれぞれの油圧ピ
ストンを作動させて締結・開放させることにより、変速
を行う自動変速機全体の構成・作用については公知であ
るから詳細な説明は省略し、ここでは図４に示された要
部の部分説明図に基づいて説明する。入力軸５１に回転
自在に支持されるとともに、軸方向には移動不能に支持
されたクラッチドラム５２の外周ドラム部には複数のド
ライブプレートおよびドリブンプレートからなるクラッ
チプレートで構成される多板クラッチ５３が設けられて
いて、これが締結されることにより図示されない出力部
材を駆動するようになっている。

【０００３】上記多板クラッチ５３を締結・開放させる
ために、クラッチドラム５２内径部と上記入力軸５１と
の間に形成されたシリンダ部に、軸方向に摺動自在に油
圧ピストン５４が設けられている。そして、このシリン
ダ部に油圧ピストン５４で画成されて油室５５が形成さ
れている。この油室５５に油圧油を供給・ドレーンさせ
て油圧ピストン５４を軸方向に駆動させるために入力軸
５１には油圧通路５１ａが設けられている。

【０００４】上記油圧ピストン５４の内側で油室５５の
対向位置に遠心油圧対抗板５６が、油圧ピストン５４の
内孔と入力軸５１とに支持され、かつ軸方向に移動しな
いようにスナップリング５７でとめられている。さらに
上記遠心油圧対抗板５６と油圧ピストン５４との間には
圧縮ばね５８が設けられていて、油圧ピストン５４を図
４における右方へ押し戻して多板クラッチ５３の接続を
解除するようになっている。さらに、油圧ピストン５４
と遠心油圧対抗板５６と入力軸５１とで形成されている
空間が遠心油圧対抗油室５９になっている。そして、入
力軸５１に設けられた油路５１ｂから油圧油が出入でき
るようになっている。

【０００５】上記構成においては、先ず入力軸５１の油
圧通路５１ａから加圧された油圧油を油室５５内に供給
すると、油圧ピストン５４が図４における左方へ移動さ
れて多板クラッチ５３が押圧されるから、多板クラッチ
は締結された状態になる。入力軸５１、クラッチドラム
５２、油圧ピストン５４が回転していると、油室５５内
の油圧油も回転されるので、油室５５内の油圧油には遠
心力が作用している。したがって、油圧ピストン５４に
は上記遠心力分だけ余分な力が作用するから、多板クラ
ッチ５３は予期しない余分な押圧力を受けるということ
になる。

【０００６】そこで、多板クラッチ５３を解除するため
に油室５５内の油圧油を油路５１ａを介してドレーンし
ても、油圧油に遠心力が働いていると圧縮ばね５８の付
勢力だけでは油圧ピストン５４が図４における右方へ戻
らないという問題に対して、前述した遠心油圧対抗板５
６による遠心油圧対抗油室５９に油路５１ｂから油圧油
を供給すると、この遠心油圧対抗油室５９内の油圧油に
も遠心力が作用するから、油圧ピストン５４の左右にあ
る油圧油の遠心力はほぼ均衡する。

【０００７】したがって、油室５５内の油圧油を油圧通
路５１ａを介してドレーンさせれば、油圧ピストン５４
は圧縮ばね５８の付勢力で図４における右方へ戻される
ので多板クラッチ５３の締結状態を確実に解除すること
ができる。このとき、遠心油圧対抗油室５９の油圧油は
油路５１ｂから補充される。また、多板クラッチ５３の
締結中も、油圧油の遠心力により多板クラッチ５３が余
分な押圧力を受けることもない。

【０００８】

【発明解決しようとする課題】ところで、上述のように
油圧対抗油室５９を設けると、この油圧対抗油室５９に
油圧油を出入れさせるために入力軸５１等に油路５１ｂ
を油圧通路５１ａのほかに設けなければならない。その
ため、入力軸５１の強度が低下するという問題が生じ
る。あるいは、余分な油路５１ｂを設けるために、入力
軸５１等を太くしなければならなくなる。そのため、自
動変速機全体の重量増加やコスト高の問題が生じる。し
たがって、本発明は、上記従来の問題点に鑑み、油圧ピ
ストンを駆動する油室内の油圧油に遠心力が作用して
も、内部部品の強度を低下させたり、大型化による重量
増加やコスト高にならない自動変速機を提供することを
目的とする。

【０００９】

【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
めに、本発明は、適数のクラッチをそれぞれの油室に供
給される油圧に応じて移動する油圧ピストンの作動によ
り締結・開放させて変速を行う自動変速機において、遠
心力を受けて移動可能な錘と、該錘の半径外方向への力
を前記油室内の油圧油の遠心力による油圧押圧力に対抗
する方向に前記油圧ピストンへ伝達するための力伝達手
段とを備えてなるものとした。

【００１０】

【作用】クラッチの回転中は上記油室内の油圧油に遠心
力が作用する。しかし、錘にも遠心力が働いて錘を半径
外方向へ移動させようとする力を生じる。この力は力伝
達手段により、上記油室内の油圧油の遠心力により油圧
ピストンを押圧する押圧力に対抗する方向に変換される
から、クラッチには油圧油の遠心力に基因する余分な押
圧力が働くことはない。

【００１１】これにより、油室内の油圧油をドレーンし
てクラッチの締結を解除した場合は、油室内の油圧油に
作用する遠心力は上述のように錘の遠心力で相殺される
から、元来油圧ピストンに付設された押し戻し手段、例
えば圧縮ばねにより油圧ピストンは確実に押し戻され
る。したがって、クラッチの締結状態が解除されないと
いう誤動作の発生が防止される。上記の効果は錘を設け
ることによって発生するので、従来のように、回転軸等
に余分な油路を設ける必要はなく、自動変速機全体の重
量増加やコストアップを招くようなことはない。

【００１２】

【実施例】図１は、本発明の第１の実施例における要部
の断面説明図である。自動変速機の適数のクラッチのう
ちの一つである多板クラッチ（クラッチ）１は、入力軸
２に支持されて回転するクラッチドラム３の外周ドラム
部３ａの内側に配されたドライブプレートおよびドリブ
ンプレートからなる。上記多板クラッチ１を締結または
開放するために、クラッチドラム３の内側と入力軸２間
に形成されたシリンダ部に油圧ピストン４が設けられて
いる。

【００１３】このシリンダ部内に油圧ピストン４で画成
された空間が油室５になっていて、入力軸２内に設けら
れた油圧通路２ａから加圧された油圧油が導入される
と、油圧ピストン４が図１における左方へ移動されて左
端の押圧部４ａで多板クラッチ１を押圧するようになっ
ている。一方、油圧ピストン４における油室５の反対
側、すなわち図１における左方には、入力軸２に支持さ
れ、かつ例えばスナップリング６で軸方向には移動不能
な反力部材７が設けられている。この反力部材７と油圧
ピストン４との間には圧縮ばね８が設けられていて、油
圧ピストン４を押し戻すように図１における右方へ常時
付勢している。

【００１４】他方、油圧ピストン４と反力部材７との間
には力伝達手段９が設けられている。この力伝達手段９
は、油圧ピストン４と反力部材７とにそれぞれ設けられ
たテーパ面４ｂ，７ａで形成される外周へ行くにつれて
先細りの空間に、それらテーパ面に挟まれて設けられた
鋼球（錘）１０と、この鋼球１０を入力軸２上に支持す
るコイルばね１１とから構成されている。上記鋼球１０
は図示省略した保持器により周上に位置決めされてい
る。また、油圧ピストン４には鋼球の移動を円滑にする
ための潤滑油路４ｃが設けられている。

【００１５】この実施例は以上のように構成され、先ず
入力軸２の油圧通路２ａから加圧された油圧油が油室５
内に導入されると、油圧ピストン４は図１において左方
へ移動されるから押圧部４ａにより多板クラッチ１は押
圧されて締結状態になる。このとき、油室５内の油圧油
には周囲の部品が回転しているために遠心力が作用して
油圧ピストン４を多板クラッチ１側へ押すような押圧力
も発生している。

【００１６】次に、多板クラッチ１の締結を解除したい
ときは、油油室５内の油圧油が油圧通路２ａを介してド
レーンされる。このとき、力伝達手段９の構成部品も回
転しているために、鋼球１０にも遠心力が作用してい
る。この鋼球の遠心力はテーパ面４ｂ，７ａが外周へ行
くにつれて先細りに設けられていることと、反力部材７
がスナップリング６によって軸方向に移動不能に設けら
れていることから、油圧ピストン４が図１における右方
へ付勢される。そして、この鋼球１０の遠心力による油
圧ピストン４への付勢力と、前記油油室５内の油圧油の
遠心力による油圧ピストン４への押圧力とがほぼバラン
スされる。

【００１７】このように、上記油圧油に遠心力が作用し
ても、鋼球１０にも遠心力が働いて力伝達手段９によっ
て油室５内の油圧油と鋼球１０との遠心力が油圧ピスト
ン４においてほぼ平衡するようになっているから、油圧
ピストン４は圧縮ばね８の付勢力により容易に図１にお
ける右方へ押し戻される。したがって、多板クラッチ１
は誤動作することなく確実に解除される。なお、鋼球１
０とテーパ面４ｂ，７ａとは、油室５内の油圧油が油圧
ピストン４に設けられた潤滑油路４ｃから洩れることに
よって潤滑される。

【００１８】図２は、第２の実施例を示す。ここでは第
１の実施例と比較して鋼球１０の代わりにくさび状部材
（錘）１２を用いてテーパ面４ｂ，７ａとの接触を面接
触にして磨耗の減少を図っている。他の構成・作用は同
様なので同一部品には同一符号を図２に付することによ
り説明を省略する。なお、上記第１あるいは第２の実施
例において、保持器の構造によってはコイルばね１１を
省略することもできる。

【００１９】次に図３は第３の実施例を示す。 鋼球の
代わりにピストン状の錘１３が油圧ピストン１４に案内
されて設けられている。油圧ピストン１４の外周部先端
には多板クラッチ１を押圧するための押圧部１４ａが設
けられるとともに、油圧ピストン１４にはさらに錘１３
を半径方向に摺動させるための案内穴１４ｂが設けられ
ている。また中間部には、錘１３を潤滑するための潤滑
油路１４ｃが設けられている。さらに、入力軸２に支持
され、かつ例えばスナップリング６で軸方向には移動不
能な反力部材１６が設けられていて、圧縮ばね８’の付
勢力により油圧ピストン１４が図３における右方へ押し
戻されるようになっている。

【００２０】さて、力伝達手段１５については、錘１３
の内側、すなわち図３における下側には、ピン１７に揺
動自在に支持されたリンク１８と、このリンク１８にピ
ン１９により揺動自在に連結されたリンク２０が設けら
れている。そして、このリンク２０の内端はピン２１に
より反力部材１６に揺動自在に接続されている。なお、
上記リンク１８とリンク２０とは図３に示すようにくの
字状に位置づけられている。さらに、ピン１９と油圧ピ
ストン１４に設けられたピン２２との間にはリンク２３
がほぼ水平姿勢に連結されて設けられている。

【００２１】以上のように構成された力伝達手段１５に
おいては、入力軸２が回転することにより、錘１３およ
び力伝達手段１５の関連部品が回転すると、先ず錘１３
に遠心力が作用するから錘１３は案内穴１４ｂに沿って
半径外方へ飛び出そうとする。 すると、リンク１８、
２０のくの字状角度が大きくなろうとする。ここでピン
１９とピン２２との間にはリンク２３が存在するので、
リンク１８、２０の角度は大きくなれずに、ピン２２を
介して油圧ピストン１４には図３における右方へ押し戻
される方向に押圧力が働く。

【００２２】この押圧力が、油室５内の油圧油に作用す
る遠心力で油圧ピストン１４を図３における左方へ押す
押圧力に対抗して、力の平衡が保たれることになる。そ
して、リンク２３およびピン２２が油圧ピストン１４を
押す押圧力の反力は反力部材１６に設けられたピン２１
が受けることになる。これによる作用・効果は前第１及
び第２の実施例におけると同様である。

【００２３】上述した第１，第２，第３実施例のいずれ
にしても、錘に働く遠心力を力伝達手段によって油圧ピ
ストンを押し戻す方向に押圧することにより、油室内の
油圧油に働く遠心力による油圧ピストンへの押圧力に対
抗して、ほぼ力の平衡を保つことができるので、多板ク
ラッチの締結・開放に誤動作が生じることはなく、しか
も、単純な機構で目的が達成できることから、入力軸等
の強度を低下させたり、入力軸等が大きくなったりする
ことはない。 したがって、自動変速機全体の重量増加
やコスト高を防止できるという効果がある。

【００２４】なお、この発明は、上述の実施例に限定さ
れるものでなく、適宜な変更を行うことにより、他の態
様でも実施することができる。例えば、第３の実施例に
おいては、ピストン状の錘１３が油圧ピストン１４に設
けられた案内穴１４ｂに支持されていたが、錘１３は反
力部材１６側の案内穴に支持されていても差し支えない
ものである。この場合、ピン２２が油圧ピストン１４を
押す押圧力の反力は、反力部材１６に設けられたピン２
１だけでなくピン１７でも受けることができるから、錘
１３の質量はより小さいもので間に合う。 また、第３
の実施例においてはコイルばね１１はなくても差し支え
ないものである。

【００２５】

【発明の効果】以上のとおり、本発明によれば、クラッ
チの締結・開放を行う油圧ピストンを駆動するための油
室内の油圧油に遠心力が生じて上記油圧ピストンに押圧
力が生じても、この押圧力を遠心力が作用する錘と力伝
達手段による単純な機構で対抗することができるので、
クラッチの締結・開放に誤動作を生じさせることなく、
しかも余分な油路を必要としないから、自動変速機全体
の重量増加やコスト高を防止するという効果がある。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明の第１の実施例における要部を示す断面
説明図である。

【図２】第２の実施例における要部を示す断面説明図で
ある。

【図３】第３の実施例における要部を示す断面説明図で
ある。

【図４】従来例における要部を示す断面説明図である。

【符号の説明】

１ 多板クラッチ（クラッチ） ２ 入力軸 ２ａ 油圧通路 ３ クラッチドラム ４ 油圧ピストン ４ｂ テーパ面 ４ｃ 潤滑油路 ５ 油室 ７、１６ 反力部材 ７ａ テーパ面 ８ 圧縮ばね ９ 力伝達手段 １０ 鋼球（錘） １１ コイルばね １２ くさび状部材 １３ 錘 １４ 油圧ピストン １４ｂ 案内穴 １４ｃ 潤滑油路 １５ 力伝達手段 １８，２０，２３ リンク ５１ 入力軸 ５１ａ 油圧通路 ５１ｂ 油路 ５２ クラッチドラム ５３ 多板クラッチ（クラッチ） ５４ 油圧ピストン ５５ 油室 ５６ 遠心油圧対抗板 ５８ 圧縮ばね ５９ 遠心油圧対抗油室

Claims (3)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 適数のクラッチをそれぞれの油室に供給
   される油圧に応じて軸方向に移動する油圧ピストンの作
   動により締結・開放させて変速を行う自動変速機におい
   て、遠心力を受けて移動可能な錘と、該錘の半径外方向
   への力を前記油室内の油圧油の遠心力による油圧押圧力
   に対抗する方向に前記油圧ピストンへ伝達するための力
   伝達手段とを備えてなることを特徴とする自動変速機。
2. 【請求項２】 前記力伝達手段は、前記油圧ピストンの
   油室側と反対側の面に設けられたテーパ面と、軸方向に
   移動不能に設けられた反力部材との間に形成される半径
   外方向へ先細りの空間に、前記錘を配置して構成されて
   いることを特徴とする請求項１記載の自動変速機。
3. 【請求項３】 前記力伝達手段は、軸方向に移動不能に
   設けられた反力部材と前記錘との間に接続されるととも
   に前記油圧ピストンに連結されたリンク機構からなり、
   前記錘の半径方向変位が油圧ピストンの軸方向変位に変
   換されるように構成されていることを特徴とする請求項
   １記載の自動変速機。