JPH0767682A - レトロウイルス様粒子、その製造方法、それから成るワクチン、およびパッケージング能を有するRNAのcDNA - Google Patents

レトロウイルス様粒子、その製造方法、それから成るワクチン、およびパッケージング能を有するRNAのcDNA

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JPH0767682A
JPH0767682A JP3297746A JP29774691A JPH0767682A JP H0767682 A JPH0767682 A JP H0767682A JP 3297746 A JP3297746 A JP 3297746A JP 29774691 A JP29774691 A JP 29774691A JP H0767682 A JPH0767682 A JP H0767682A
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retrovirus
rna
protein
cdna
gene
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JP3297746A
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Hiroshi Shibuta
博 渋田
Tatsuo Shioda
達雄 塩田
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Zeon Corp
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Nippon Zeon Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 RNAを内包しないレトロウイルス属に属す
るウイルスの開裂型gagタンパク質から成るレトロウ
イルス様粒子、好ましくは、RNAを内包せず、env
タンパク質を含まない開裂型gagタンパク質から成る
レトロウイルス様粒子、その製造方法、該粒子を有効成
分とする抗レトロウイルス・ワクチン、およびレトロウ
イルス属に属するウイルスのパッケージング能を有する
RNAのcDNAを提供する。 【構成】 パッケージング能を有するRNAのcDNA
を含まず、レトロウイルス由来の少なくともgag遺伝
子のcDNA、およびpol遺伝子のcDNAをウイル
スの増殖に非必須なゲノム領域に組み込んだウイルス・
ベクターを感染させた細胞を培養することにより、開裂
型gagタンパク質により構成されたRNAを内包しな
いレトロウイルス様粒子を製造する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はRNAを内包しないレト
ロウイルス属に属するウイルスの開裂型gagタンパク
質から成るレトロウイルス様粒子、好ましくは、RNA
を内包せず、envタンパク質を含まない開裂型gag
タンパク質から成るレトロウイルス様粒子、その製造方
法、該粒子を有効成分とする抗レトロウイルス・ワクチ
ン、およびレトロウイルス属に属するウイルスのパッケ
ージング能を有するRNAのcDNAに関する。
【0002】
【従来の技術】レトロウイルスはエイズ、成人T細胞白
血病、癌、リューマチ等の多くの難病の病原ウイルスで
あると確認、または推定されている。とくに、最近、後
天性免疫不全症候群(エイズ)の発症、蔓延が世界的に
憂慮されており、その予防、治療対策が緊急課題となっ
ている。
【0003】レトロウイルス粒子は、多くのタンパク質
で構成されている。例えば、感染に関与する外皮糖タン
パク質(envタンパク質)、レトロウイルスの酵素群
であるpolタンパク質(逆転写酵素、プロテアーゼ、
エンドヌクレアーゼの存在が知られている)、核タンパ
ク質(gagタンパク質)などがある。
【0004】効果的なエイズワクチンを得ようとする場
合には、ウイルスを中和し得る抗体を誘導するのに適当
な抗原を含んでいることが必要である。そのような抗原
としてenvタンパク質、特に感染能力に関係するとさ
れるenvタンパク質の一種であるgp120(セル
(Cell)、53、483(1988))がその最有
力候補として選ばれ、この抗原タンパク質をコードする
遺伝子を大腸菌に組み換える遺伝子操作技術により産生
する研究(例えば、サイエンス(Science)、
28、93−96(1985))などが既に行われてい
る。
【0005】しかし、種々の患者や感染者から分離され
たエイズの病原ウイルスとされているHIV(huma
n immunodeficiency virus)
のゲノム塩基配列の解析結果より、HIVのenv遺伝
子は極めて変異が激しいことが明らかとなり(サイエン
ティフィック・アメリカン(ScientificAm
erican)、253、84−93(1985))、
この部位を利用する手法では全てのHIVに対応できな
い可能性がある。
【0006】これに対し、ウイルス粒子の骨組みとなる
gagタンパク質をコードする遺伝子や逆転写酵素等を
コードしているpol遺伝子は変異の起こる確率が低い
と考えられるため、それらの遺伝子産物を抗原とするワ
クチンは有利であるとして、逆転写酵素を大腸菌に組み
換える遺伝子操作によって産生する研究(例えば、サイ
エンス(Science)、236、305−308
(1987))、gag−p55やp24などを組み換
え多核体ウイルスの系で産生する研究(例えば、ヴィロ
ロジー(Virology)、158、248−250
(1987))、p17の抗原決定部位に特異的に結合
する抗体と結合するポリペプチドを合成する研究(特開
昭63−27498号)、p17の単クローン抗体がエ
イズの中和活性を有するという報告(ジャーナル・オブ
・ヴィロロジー(J.Virol.)、63、267−
272(1989))なども行われた。
【0007】また、本発明者らも、gag遺伝子、およ
びpol遺伝子を組み込んだワクチニアウイルスについ
て研究した結果、ウイルス・ベクターを感染させた細胞
中で、レトロウイルスのenvタンパク質を発現させず
に、gagタンパク質、およびpolタンパク質を発現
させることによって、開裂型のgagタンパク質が発現
し、その開裂型gagタンパク質により構成されるレト
ロウイルスのコア構造物粒子が得られることを見いだし
た(特開平3−72874号)。
【0008】このコア構造物粒子はenvタンパク質が
ないために感染性を有しないが、その後の研究により、
この粒子内にRNAを内包していることが判明した。そ
のため、この粒子をワクチンとしてヒトに接種した場
合、ヒトの体内でレトロウイルスが構築されてしまう危
険性が皆無とはいえず、安全性の点でより改善すること
が望まれていた。
【0009】一方、このようなレトロウイルスには、ウ
イルス内にRNAを内包するかどうかを制御している遺
伝子があることが予想されていた(サイエンス(Sci
ence),229,1388−1390(198
5))が、どの様な配列のものが該当する遺伝子である
か確認されておらず、また、粒子内へのRNAのパッケ
ージング機構についても知られていなかった。このた
め、RNAを内包しないレトロウイルス様粒子を得るこ
とはできなかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、より安
全なワクチンを供給するべく鋭意研究の結果、ウイルス
・ベクターを感染させた細胞中で、パッケージング能を
有するRNAのcDNAを含まず、gag遺伝子、およ
びpol遺伝子のcDNAを組み込んだウイルス・ベク
ターを用いることによって、開裂型gagタンパク質に
より構成される、RNAを内包しないレトロウイルス様
粒子が得られることを見いだし、本発明を完成するに至
った。
【0011】
【課題を解決するための手段】かくして本発明によれ
ば、第一の発明として少なくとも開裂型gagタンパク
質を含み、RNAを内包しないレトロウイルス様粒子が
提供される。
【0012】また、第二の発明としてパッケージング能
を有するRNAのcDNAを含まず、レトロウイルス由
来の少なくともgag遺伝子のcDNA、およびpol
遺伝子のcDNAをウイルスの増殖に非必須なゲノム領
域に組み込んだウイルス・ベクターを感染させた細胞を
培養し、開裂型gagタンパク質により構成されたRN
Aを内包しないレトロウイルス様粒子の製造方法が提供
される。
【0013】さらに、第三の発明として少なくとも開裂
型gagタンパク質を含み、RNAを内包しないレトロ
ウイルス様粒子を有効成分とする抗レトロウイルス・ワ
クチンが提供される。
【0014】そして、第四の発明としてレトロウイルス
に属するウイルスのRNAパッケージング能を有するR
NAのcDNAが提供される。
【0015】本発明のレトロウイルス様粒子は、RNA
を内包せず、かつ開裂型gagタンパク質から成る粒子
である。この粒子は、本発明の粒子は逆転写酵素等のp
olタンパク質を内包していると考えられるが、粒子を
形成する限り、polタンパク質の存在の有無は特に問
題はない。しかし、polタンパク質がある方が高い抗
原性が期待される。
【0016】本発明においてウイルス・ベクターに組み
込まれる遺伝子はレトロウイルス属に属するウイルス由
来のものである。レトロウイルス属に属するウイルスは
特に限定されないが、具体的にはオンコウイルス亜科に
属するウイルス、レンチウイルス亜科に属するウイルス
などが挙げられ、さらに具体的にはオンコウイルス亜科
に属するHTLV−I、HTLV−IIなど、レンチウ
イルス亜科に属するHIV−I、HIV−IIなどが挙
げられる。
【0017】本発明において、ウイルス・ベクターに組
み込まれるレトロウイルスのcDNAは、ウイルス・ベ
クターを感染させる細胞において、少なくともgagタ
ンパク質、およびpolタンパク質を発現し、かつパッ
ケージング能を有するRNAのcDNAを欠失したもの
であれば、特に限定されない。
【0018】このようなcDNAは、例えば、pNL4
3(ジャーナル・オブ・ヴィロロジー(J.Viro
l.)、59、2、284(1986))などのよう
に、エイズ患者の染色体にプロウイルスの形で組み込ま
れたHIV−Iを一旦λファージなどを用いてクローニ
ングし、それを用いてHIV−Iの全cDNAを含むプ
ラスミドを構築するか、あるいは、患者より分離したH
IV−IのRNAゲノムを逆転写してcDNAに変換
し、その後、プラスミドに移してHIV−Iの全cDN
Aを含むプラスミドを構築し、得られたプラスミドを適
当な制限酵素で切断することによって得ることができ
る。
【0019】ここで、パッケージング能とは、レトロウ
イルス様粒子内にRNAを内包する機能をいい、このパ
ッケージング能を有するRNA配列をパッケージングシ
グナルという。
【0020】パッケージングシグナルのRNA配列は、
本発明者によってはじめて見いだされたものであり、そ
のcDNAの具体例は、配列番号1に示すものである。
このcDNAは、前述のプラスミドpNL43に組み込
まれているHIV由来の遺伝子のcDNAのgagの開
始コドンの上流39bpとgagの開始コドンを含む7
bpの計46bpに相当する。
【0021】パッケージング能を有するRNAは、いわ
ゆるシュテム−ループ(stem−loop)構造とい
う二次構造を形成することにより機能すると考えられ
る。そのような二次構造の具体例としては、配列番号1
のcDNAに対応するRNA配列によって形成される図
1に示すものがある。RNAがシュテム−ループ(st
em−loop)構造を形成しない場合、パッケージン
グ能を持たないことがある。
【0022】パッケージングシグナルの二次構造がシュ
テム−ループ構造をとり得るかどうかは、Zucke
r’ Foldプログラムを用いたコンピューターによ
る構造解析(Nucleic Acids Resar
ch、、133−148(1981))などからわか
る。
【0023】パッケージングシグナルの一部が欠損した
り、修飾されたりすることで、パッケージング能を失っ
たRNAのcDNAは本願のパッケージングシグナルの
cDNA(以下、シグナルcDNAという)ではなく、
このようなcDNAを含んでいても本発明の粒子を製造
するに当たり、問題はない。ただし、欠損したり、修飾
されたりした部分がパッケージングシグナルのうちga
g遺伝子をコードする部分である場合、gagタンパク
質を発現しない可能性も考えられる。
【0024】しかし、改変によりパッケージング能を失
ったシグナルcDNAであっても、変異などによりパッ
ケージング能を回復する可能性があることから、シグナ
ルcDNAの塩基配列を改変したものは含んでいないこ
とが好ましい。
【0025】本発明に用いるウイルス・ベクターも動物
細胞に感染し、gag遺伝子、およびpol遺伝子を発
現できるものであれば、特に限定されない。例えば、ワ
クチニアウイルス、アビポックスウイルス、バキュロウ
イルスなどが挙げられる。
【0026】本発明に用いるウイルス・ベクターの構築
方法も、特に限定されない。例えば、ウイルス・ベクタ
ーとしてワクチニアウイルスを用いる場合には、組み込
む遺伝子をかえること以外、特開平1−74982号に
記載された方法に準じて構築することができる。
【0027】また、gag遺伝子、およびpol遺伝子
のcDNAを一緒にウイルス・ベクターに組み込む代わ
りに、別のウイルス・ベクターに組み込むこともでき
る。もちろん、その場合にもシグナルcDNAを欠損し
たものが用いられる。本発明では、そのようなウイルス
・ベクターを、動物培養細胞に感染させ、その培養上清
中にgagタンパク質、およびpolタンパク質を発現
させる。
【0028】双方を一緒に組み込んだものであれば同時
に双方を発現するが、片方ずつを組み込んだものを用い
るときは、二つのベクターを同時に感染させる。二つの
タンパク質が発現することによりgagタンパク質は開
裂型となる。
【0029】ここで発現されるgagタンパク質の開裂
はプロテアーゼ活性を有するpolタンパク質によるも
のと考えられる。
【0030】本発明で用いる動物培養細胞はウイルス・
ベクターが増殖可能なものであればよく、その具体例と
して、ウイルス・ベクターがワクチニアウイルスである
場合は、例えばTK-143(ヒト骨肉腫由来)、FL
(ヒト羊膜由来)、Hela(ヒト子宮頚部癌由来)、
KB(ヒト鼻咽喉癌由来)、RK13(ウサギ腎由
来)、CV−1(サル腎由来)、BSC−1(サル腎由
来)、L929(マウス結合組織由来)、CE(ニワト
リ胚)細胞、CEF(ニワトリ胎児繊維芽細胞)、SW
480(ヒト結腸ガン由来)などが例示される。
【0031】ウイルス・ベクターがアビポックスウイル
スである場合は、本発明で用いる動物培養細胞としては
鶏胚用繊維芽細胞などの鶏由来細胞などが例示される
が、発育鶏卵漿尿膜なども含む。ウイルス・ベクターが
バキュロウイルスの場合は、例えばスポドプテラ・フル
ギペルダ(Spodoptera furugiper
da)由来のSf9株などが例示される。
【0032】しかし、一般的な培養条件においては、用
いる細胞によっては開裂型gagタンパク質の発現量が
低く、例えばCV−1にHIV−Iの遺伝子を組み込ん
だワクチニアウイルスを感染させた場合には、開裂型g
agタンパク質はほどんど発現が認められない。開裂型
gagタンパク質の発現量が多いウイルス・ベクターと
動物培養細胞の組み合せが好ましく、そのような例とし
てはHIV−Iの遺伝子を組み込んだワクチニアウイル
スをSW480に感染させる場合がある。
【0033】培養上清からの粒子の精製は特に限定され
ない。例えば、常法(サイエンス(Science)、
224、497−500(1984))に従って、上清
をショ糖、あるいは酒石酸カリウム密度勾配遠心を行
い、さらにセシウムクロライド沈降平衡遠心を行うち、
これらのタンパク質がレトロウイルス様粒子を形成し
て、回収される。
【0034】開裂型gagタンパク質により構成される
レトロウイルス様粒子は、例えば、レトロウイルスがH
IV−Iで、比重により分画した場合、比重がHIV−
I粒子と同じ約1.15のフラクションに認められる。
【0035】精製の各段階においてどのフラクション中
にレトロウイルス様粒子が存在するかの確認の方法は特
に限定されない。例えば、gagタンパク質に対する抗
体を使う方法や逆転写酵素活性を測定する方法がある。
【0036】本発明の開裂型gagタンパク質により構
成される粒子は逆転写酵素を内包していても内包してい
なくてもかまわないが、通常、少なくとも一部は逆転写
酵素を内包する。従って、逆転写酵素活性を測定すれ
ば、本発明の粒子を含むフラクションは判別できる。
【0037】逆転写酵素活性の測定は常法に従えばよ
い。例えば、微生物学実習提要(東京大学医科学研究所
学友会編、丸善より発行、1988年)の記述に準じて
組み換えウイルス感染細胞上清をpoly−Aを鋳型、
oligo−dTをプライマーとして、32P−dTTP
の酸不溶性画分への取り込みを測定すればよい。
【0038】本発明の粒子はウイルス遺伝子を含まない
ために増殖性がなく、病原性を示さない。一方、この粒
子は、少なくとも開裂型gagタンパク質によりその構
造が形成されているために抗原性を有する。
【0039】また、gagタンパク質やpolタンパク
質はenvタンパク質に比べて変異が少ないと考えられ
る。したがって、少なくともgagタンパク質が存在す
るために、本発明の粒子の抗原性は安定している。
【0040】さらに、本発明のレトロウイルス様粒子
は、自然界のレトロウイルス粒子、またはその一部であ
るレトロウイルス・コア構造粒子と同一または類似の構
造を有していることから、レトロウイルス様粒子を形成
していないenvタンパク質、gagタンパク質、po
lタンパク質、あるいはその単なる混合物以上の抗原性
も期待できる。
【0041】しかし、envタンパク質であるgp12
0は感染の際にウイルス粒子を細胞膜に固定化する機能
を有し、gp41はウイルス遺伝子を細胞内へ侵入させ
る機能を有するため、より安全なワクチンを得るために
は、粒子にenvタンパク質が含まれていないことが好
ましい。
【0042】本発明でいうenvタンパク質とは、レト
ロウイルスの感染、病原性を司るenvタンパク質、お
よびその変異物や改変物をいい、感染への影響力、病原
性を失ったenvタンパク質の改変物等を意味しない。
【0043】本発明の粒子のうち、envタンパク質を
含まない粒子は、env遺伝子を含まないウイルス・ベ
クターを用いることによって得ることができる。また、
envタンパク質をコードしている遺伝子のすぐ上流に
終止コドンを組み込ませる等の処理によりenvタンパ
ク質が発現できないようにしたウイルス・ベクターを用
いることによって得ることができる。
【0044】本発明でいうenv遺伝子を含まないと
は、envタンパク質をコードしている遺伝子を発現し
得る形で含まないことを意味し、レトロウイルスの感
染、病原性に関係のないenv遺伝子由来の遺伝子(e
nv遺伝子の一部やenv遺伝子の改変物等)を含んで
いても構わない。
【0045】
【発明の効果】本発明のレトロウイルス様粒子は、レト
ロウイルス粒子、またはその一部であるレトロウイルス
・コア構造物粒子の構造と同一または類似の構造を持つ
が、レトロウイルスの遺伝子を含まないために増殖性を
持たないことから、これを有効成分とすることにより、
安全生の高い、有効な抗レトロウイルス・ワクチンが期
待できる。また、本発明のレトロウイルス様粒子の製造
方法によれば、効率よく本発明のレトロウイルス様粒子
を得ることができる。
【0046】さらに、本発明のパッケージングシグナル
はパッケージング能を支配することから、この部分のc
DNAから組み込む遺伝子を除去することにより、RN
Aを含まないタンパク質の産生を可能にする一方、パッ
ケージングシグナルを意図的に組み込むことによって、
粒子内に所望のRNAを内包させることができ(後述の
実施例3参照)、例えば、生体に感染したRNAウイル
スのアンチセンスRNAを内包した粒子を製造すれば、
ウイルスRNAと二重鎖を形成し、ウイルスRNAの発
現が抑制される。
【0047】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的
に説明する。なお、実施例、比較例、および参考例中の
部、および%はとくに断りのないかぎり重量基準であ
る。
【0048】実施例1 (1)組み換えベクターpUHKの作製(図2参照) pUC9(ファルマシア社製)をEcoRI、およびP
stIで消化後、ポリメラーゼで処理し、切断端を平滑
末端とした後、両端を連結し、EcoRI部位が欠損し
たpUC9’を作製した。このpUC9’をHindI
II で切断後、ワクチニアウイルスTK遺伝子を含む
ワクチニアウイルスWR株のHindIII J断片を
連結し、得られた約7.7kbpの組み換えベクターp
UHKをと命名した。
【0049】(2)組み換えベクターpNZ68K2の
作製(図3参照) ワクチニアウイルスWR株の7.5Kプロモーター(モ
スら(Moss et.al)、セル(Cell)、
25、805−813(1981))をpUC19(フ
ァルマシア社製)のHincII部位に挿入した後、H
indIIIとEcoRIで順次切断して、7.5Kプ
ロモーターの前後にポリリンカー部位を有する約350
bpのDNA断片を得た。
【0050】このDNA断片のS1ヌクレアーゼ処理し
たものと、(1)で得たプラスミドpUHKのEcoR
I消化物をポリメラーゼ処理したものとを連結し、得ら
れた約8kbpの組み換えプラスミドをpNZ68K2
と命名した。
【0051】(3)組み換えプラスミドpNZ−gag
/pol−dPの作製(図4参照) HIV−Iの全cDNAを含むpNL43をBglII
とEcoRIで消化後、低融点アガロース電気泳動で約
5.1kbpの断片を分離し、フェノール抽出によりそ
の断片を回収した。
【0052】この断片をさらにMnlIで消化後、低融
点アガロース電気泳動で約5kbpの断片を分離し、フ
ェノール抽出によりその断片を回収した。
【0053】この断片中には図4に示すように、gag
遺伝子、およびpol遺伝子領域が含まれているが、
(gag遺伝子の開始コドン上流の)スプライシングド
ナー部位、およびシグナルcDNAと思われる部分を含
む84bpを除去した断片である。
【0054】実施例1(2)で得たpNZ68K2をS
maIとEcoRIで消化した後、先に得た約5kbp
のDNA断片と連結して約13kbpの組み換えプラス
ミドpNZ−gag/pol−dPを得た。
【0055】(4)組み換えワクチニアウイルスの作出 25cm2 のカルチャーボトルでEagle’s ME
Mを培地として培養されたCV−1細胞に、ワクチニア
ウイルスWR株を0.1p.f.u./細胞接種し、4
5分pNZ−gag/pol−dPを2.2mlの滅菌
水で溶かし、樋高ら(蛋白質・核酸・酵素、27、34
0(1985))の方法によって、DNA−リン酸カル
シウム共沈物をつくり、その0.5mlを感染CV−1
細胞上に滴下した。30分間、37℃、5% CO2
ンキュベーターに静置し、5%牛胎児血清を含むEag
le MEM培地4.5mlを加えた。その3時間後培
養液を交換し、48時間後、培養細胞ごと3度凍結融解
し、30秒間超音波処理した。
【0056】組み換え体のgag遺伝子、およびpol
遺伝子の挿入を確認するため、6cmのペトリ皿に培養
されたTK陰性細胞(TK-143)に上記超音波処理
物を接種し、45分後、1%寒天・12%牛胎児血清・
25μg/mlBUdR(5−ブロモ−2’−デオキシ
ウリジン)加Eagle’s MEMを積層し、3日間
培養後、感染細胞を0.01%ニュートラル・レッドで
染色した。形成されたプラークをパスツールピペットで
単離し、Eagle’s MEM中に希釈する。単離し
たプラークにつき、再度同様の操作を繰り返し、プラー
クを純化した。
【0057】この純化したプラークより得られたウイル
スを増殖させ、増殖ウイルスよりDNAを調製し、ga
g遺伝子、およびpol遺伝子をコードするcDNAを
プローブとするドットブロットハイブリダイゼーション
により得られた組み換えワクチニアウイルスが目的とす
るDNAをゲノム内に持つ組み換えウイルスであること
を確認し、V−gag/pol−dPと命名した。
【0058】(5)組み換え体の細胞上清での発現 組織培養用9cmディッシュにダルベッコ改変Eagl
e’s MEMを培地として培養したSW480細胞に
m.o.i.10〜20のV−gag/pol−dPを
接種し、37℃、1時間感染後、ウイルス液を抜取り、
細胞をEagle’s MEMで洗浄し、5%牛胎児血
清加Eagle’s MEMを加えた。16時間後、細
胞上清を回収し、10mMトリス・塩酸(pH7.4)
−0.1M NaCl−1mM EDTA溶液で作製し
た20〜60%の酒石酸カリウムの密度勾配上に重層
し、ローターSW47(ベックマン製)で35,000
rpm、16時間遠心した。遠心後、各フラクションに
分けた。
【0059】50mM Tris−HCl(pH8.
0)、10mMジチオスレイトール、75mM KC
l、5mM MgCl2 、10μg/ml poly−
A、5μg/ml oligo−dT、0.05%NP
40を含む反応液5mlに[α−32P]−dTTP(4
00Ci/mmol、10mCi/ml)を5〜10μ
l加えた。
【0060】この反応液を、96穴U字型プレートにフ
ラクションと対照の数だけ分注しておき、そこへ各フラ
クションあるいは対照用10mM Tris−HCl
(pH7.4)−0.1M NaCl−1mM EDT
A溶液10ml加え、37℃で1時間反応させた。反応
中に、ニトロセルロースフィルターに鉛筆で2cm間隔
の碁盤の目を書いておき、反応終了後、各フラクショ
ン、および対照の反応液10μlをニトロセルロースフ
ィルター上の各区画にスポットした。
【0061】このフィルターを風乾により完全に乾燥さ
せた後、5%トリクロロ酢酸−5%ピロリン酸ナトリウ
ム液中で15分間振盪しながら洗浄し、未反応の放射性
前駆体を除去した。
【0062】続いて5%トリクロロ酢酸中で5分、そし
て50%エタノール中で5分洗浄した。乾燥後、碁盤の
目にそって各区間を切り放し、シンチレーションバイア
ルに入れて、トルエンシンチレータ中で液体シンチレー
ションカウンターにより取り込みを測定した。対照の3
倍以上の取り込みを陽性とし、逆転写酵素活性があると
判断した。
【0063】次いで、逆転写酵素活性が認められたフラ
クションをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で
分画し、ニトロセルロースフィルターにブロッティング
する(アナリティカル・バイオケミストリィ(Ana
l.Biochem.)、112、195−203(1
981))。検出法として 125IラベルプロテインA、
抗p24モノクロナール抗体(ジャパニーズ・ジャーナ
ル・オブ・キャンサー・リサーチ(Japanese
Journal of Cencer Reserc
h)、78、235−241(1987))を利用する
いわゆるウェスタンブロッティング法によって、開裂型
gagタンパク質の発現が確認され、V−gag/po
l−dP感染SW480細胞はその上清に分子量24,
000ダルトンの開裂型gagタンパク質p24を産生
していることが判明した。
【0064】gag−p55の構造から考えて、gag
−p55の中央部分のアミノ酸配列に相当するp24が
産生されていることから、gag−p55の両端のアミ
ノ酸配列に相当するp17、p15も産生されていると
考えられる。
【0065】逆転写酵素活性の検出される比重約1.1
5の分画を、さらにセシウムクロライド沈降平衡遠心に
より精製し、逆転写酵素活性の検出される比重約1.1
5の分画にp24が確認された。
【0066】いわゆるネガティブ染色法により、上記の
p24が確認された分画を電子顕微鏡により観察すると
ワクチニアウイルスとは異なる直径約110〜150n
mの球形の粒子が認められた。
【0067】比較例1 (1)組み換えプラスミドW−gagの作製 HIV−Iの全cDNAを含むpNL43(ジャーナル
・オブ・ビロロジー(J.Virol)、59、2、2
84(1986))をBglIIとEcoRIで消化
後、低融点アガロース電気泳動で約5.1kbpの断片
を分離し、フェノール抽出によりその断片を回収した。
【0068】次に、実施例1(2)で得たpNZ68K
2をBamHIとEcoRIで消化し、先に得た約5.
1kbpのDNA断片とライゲーションして、得られた
約13kbpの組み換えをプラスミドW−gagと命名
した。
【0069】(2)組み換えワクチニアウイルスの作出 プラスミドとしてW−gagを用いるほかは、実施例1
(4)と同様の方法で組み換えワクチニアウイルスを作
製した。得られた組み換えワクチニアウイルスをV−2
0−1−8と命名した。
【0070】(3)組み換え体の細胞上清での発現 組み換えワクチニアウイルスとしてV−20−1−8を
用いた以外は、実施例1(5)と同様の方法でレトロウ
イルス様粒子を発現させ、実施例1(5)で得られた粒
子と同様の粒子が発現していることを確認した。
【0071】実施例2 (1)レトロウイルス様粒子内のHIV−I由来RNA
の確認 実施例1(5)で得た粒子、および比較例1(3)で得
た粒子からRNAを抽出すべく、フェノール/クロロホ
ルム(1:1)で処理した後、エタノール沈澱により混
在するタンパク質除去した。
【0072】各粒子抽出物を16%ホルムアデヒドを含
んだ1%アガロースゲルで電気泳動し、ニトロセルロー
スHAWPフィルター(Proc.Natl.Aca
d.Sci.USA、77、5201−5205(19
80))に移した後、32PでラベルしたHIV−IのD
NAをプローブとしてハイブリダイズした。
【0073】その結果、実施例1(5)で得た粒子の抽
出物からは、RNAが検出されなかったが、比較例1
(3)で得た粒子の抽出物からは、RNAが検出され
た。従って、実施例1(5)で得た粒子はRNAを内包
せず、比較例1(3)で得た粒子はRNAを内包してい
ることがわかった。
【0074】(2)感染細胞中のHIV−I由来RNA
の確認 実施例1(5)、および比較例1(3)の感染細胞を、
それぞれ40μg/mlのシトシンアラビノシド(ar
a−C)を添加したダルベッコ改変Eagle’s M
EMで、37℃、48時間培養した。その後、それぞれ
細胞を回収し、細胞を1%SDS/125mM Tri
s−HCl(pH8.0)で溶かし(グアニジウムチオ
シアネート法)、cell lysateを得た。
【0075】各cell lysateを16%ホルム
アデヒドを含んだ1%アガロースゲルで電気泳動し、ニ
トロセルロースHAWPフィルター(Proc.Nat
l.Acad.Sci.USA、77、5201−52
05(1980))に移した後、32PでラベルしたHI
V−IのDNAをプローブとしてハイブリダイズした。
その結果、各cell lysateからは、HIV−
I由来のRNAが検出された。
【0076】(1)の結果と(2)の結果から、実施例
1(4)で得られた組み換えワクチニアウイルスには、
RNAのパッケージング能がないことがわかる。
【0077】実施例3 (1)組み換えプラスミドpNZ−HNPの作製 実施例1(2)で得たpNZ68K2をBamHIで消
化し、センダイウイルス(HVJ)のNP遺伝子領域を
含む約2kbpのDNA断片(NucleicAcid
s Resarch、11、7317−7330(19
83))とライゲーションして、得られた組み換えプラ
スミドをpNZ−HNP(約10kbp)と命名した。
【0078】(2)組み換えプラスミドpNZ−PS−
NPbの作製 (1)で得たpNZ−HNPをBamHIおよびNae
Iで消化し、このNP遺伝子の上流に配列番号1に示す
46bpのDNAの両端に合成リンカーを結合させた合
成DNAを挿入した。得られた組み換えプラスミドをp
NZ−PS−NPbと命名した。配列番号1記載の46
bpのDNAは、pNL43に含まれているHIV−I
ゲノムの第751番目から第796番目の領域に相当す
る。
【0079】なお、このpNZ−PS−NPbに組み込
まれた46bpのDNAはZucker’ Foldプ
ログラムを用いたコンピューターによる構造解析から、
図1に示すような二次構造(シュテム−ループ(ste
m−loop)構造)をとることが明らかになった。
【0080】(3)pNZ−PS−NPb移入V−ga
g/pol−dP感染細胞上清でのレトロウイルス様粒
子の発現 実施例1(5)のV−gag/pol−dP感染細胞
に、pNZ−PS−NPbをリン酸カルシウム沈降法に
より移入し、実施例2(2)と同様の条件下で細胞を培
養し、レトロウイルス様粒子を発現させた。その結果、
実施例1(5)で得られた粒子と同様の粒子が発現して
いることを確認した。
【0081】(4)レトロウイルス様粒子内のRNAの
確認 プローブとして32PでラベルしたHVJのNP遺伝子を
用いるほかは、実施例2の(1)と同様の方法のより、
NP遺伝子の存在を確認した。このように、粒子内にN
P遺伝子が内包されていることから、上記配列番号1に
示すDNA断片がパッケージング能を有するRNAのc
DNAであることが確認された。
【0082】
【図面の簡単な説明】
【図1】RNAパッケージング能を有するRNAのシュ
テム−ループ(stem−loop)構造を示した説明
図である。
【図2】組み換えプラスミドpUHKの作製手順を示し
た説明図である。
【図3】組み換えプラスミドpNZ68K2の作製手順
を示した説明図である。
【図4】組み換えプラスミドpNZ−gag/pol−
dpの作製手順を示した説明図である。
【0083】
【配列表】
配列番号:1 配列の長さ:46 配列の型:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:cDNA to genomic RNA 配列 CGCCAAAAAT TTTGACTAGC GGAGGCTAGA AGGAGAGAGA TGGGTG 46
─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】
【提出日】平成6年7月15日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】発明の詳細な説明
【補正方法】変更
【補正内容】
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はRNAを内包しないレト
ロウイルス属に属するウイルスの開裂型gagタンパク
質から成るレトロウイルス様粒子、好ましくは、RNA
を内包せず、envタンパク質を含まない開裂型gag
タンパク質から成るレトロウイルス様粒子、その製造方
法、該粒子を有効成分とする抗レトロウイルス・ワクチ
ン、およびレトロウイルス属に属するウイルスのパッケ
ージング能を有するRNAのcDNAに関する。
【0002】
【従来の技術】レトロウイルスはエイズ、成人T細胞白
血病、癌、リューマチ等の多くの難病の病原ウイルスで
あると確認、または推定されている。とくに、最近、後
天性免疫不全症候群(エイズ)の発症、蔓延が世界的に
憂慮されており、その予防、治療対策が緊急課題となっ
ている。
【0003】レトロウイルス粒子は、多くのタンパク質
で構成されている。例えば、感染に関与する外皮糖タン
パク質(envタンパク質)、レトロウイルスの酵素群
であるpolタンパク質(逆転写酵素、プロテアーゼ、
エンドヌクレアーゼの存在が知られている)、核タンパ
ク質(gagタンパク質)などがある。
【0004】効果的なエイズワクチンを得ようとする場
合には、ウイルスを中和し得る抗体を誘導するのに適当
な抗原を含んでいることが必要である。そのような抗原
としてenvタンパク質、特に感染能力に関係するとさ
れるenvタンパク質の一種であるgp120(セル
(Cell)、53、483(1988))がその最有
力候補として選ばれ、この抗原タンパク質をコードする
遺伝子を大腸菌に組み換える遺伝子操作技術により産生
する研究(例えば、サイエンス(Science)、
28、93−96(1985))などが既に行われてい
る。
【0005】しかし、種々の患者や感染者から分離され
たエイズの病原ウイルスとされているHIV(huma
n immunodeficiency virus)
のゲノム塩基配列の解析結果より、HIVのenv遺伝
子は極めて変異が激しいことが明らかとなり(サイエン
ティフィック・アメリカン(ScientificAm
erican)、253、84−93(1985))、
この部位を利用する手法では全てのHIVに対応できな
い可能性がある。
【0006】これに対し、ウイルス粒子の骨組みとなる
gagタンパク質をコードする遺伝子や逆転写酵素等を
コードしているpol遺伝子は変異の起こる確率が低い
と考えられるため、それらの遺伝子産物を抗原とするワ
クチンは有利であるとして、逆転写酵素を大腸菌に組み
換える遺伝子操作によって産生する研究(例えば、サイ
エンス(Science)、236、305−308
(1987))、gag−p55やp24などを組み換
え多核体ウイルスの系で産生する研究(例えば、ヴィロ
ロジー(virology)、158、248−250
(1987))、p17の抗原決定部位に特異的に結合
する抗体と結合するポリペプチドを合成する研究(特開
昭63−27498号)、p17の単クローン抗体がエ
イズの中和活性を有するという報告(ジャーナル・オブ
・ヴィロロジー(J.virol.)、63、267−
272(1989))なども行われた。
【0007】また、本発明者らも、gag遺伝子、およ
びpol遺伝子を組み込んだワクチニアウイルスについ
て研究した結果、ウイルス・ベクターを感染させた細胞
中で、レトロウイルスのenvタンパク質を発現させず
に、gagタンパク質、およびpolタンパク質を発現
させることによって、開裂型のgagタンパク質が発現
し、その開裂型gagタンパク質により構成されるレト
ロウイルスのコア構造物粒子が得られることを見いだし
た(特開平3−72874号)。
【0008】このコア構造物粒子はenvタンパク質が
ないために感染性を有しないが、その後の研究により、
この粒子内にRNAを内包していることが判明した。そ
のため、この粒子をワクチンとしてヒトに接種した場
合、ヒトの体内でレトロウイルスが構築されてしまう危
険性が皆無とはいえず、安全性の点でより改善すること
が望まれていた。
【0009】一方、このようなレトロウイルスには、ウ
イルス内にRNAを内包するかどうかを制御している遺
伝子があることが予想されていた(サイエンス(Sci
ence),229,1388−1390(198
5))が、どの様な配列のものが該当する遺伝子である
か確認されておらず、また、粒子内へのRNAのパッケ
ージング機構についても知られていなかった。このた
め、RNAを内包しないレトロウイルス様粒子を得るこ
とはできなかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、より安
全なワクチンを供給するべく鋭意研究の結果、ウイルス
・ベクターを感染させた細胞中で、パッケージング能を
有するRNAのcDNAを含まず、gag遺伝子、およ
びpol遺伝子のcDNAを組み込んだウイルス・ベク
ターを用いることによって、開裂型gagタンパク質に
より構成される、RNAを内包しないレトロウイルス様
粒子が得られることを見いだし、本発明を完成するに至
った。
【0011】
【課題を解決するための手段】かくして本発明によれ
ば、第一の発明として少なくとも開裂型gagタンパク
質を含み、RNAを内包しないレトロウイルス様粒子が
提供される。
【0012】また、第二の発明としてパッケージング能
を有するRNAのcDNAを含まず、レトロウイルス由
来の少なくともgag遺伝子のcDNA、およびpol
遺伝子のcDNAをウイルスの増殖に非必須なゲノム領
域に組み込んだウイルス・ベクターを感染させた細胞を
培養し、開裂型gagタンパク質により構成されたRN
Aを内包しないレトロウイルス様粒子の製造方法が提供
される。
【0013】さらに、第三の発明として少なくとも開裂
型gagタンパク質を含み、RNAを内包しないレトロ
ウイルス様粒子を有効成分とする抗レトロウイルス・ワ
クチンが提供される。
【0014】そして、第四の発明としてレトロウイルス
に属するウイルスのRNAパッケージング能を有するR
NAのcDNAが提供される。
【0015】本発明のレトロウイルス様粒子は、RNA
を内包せず、かつ開裂型gagタンパク質から成る粒子
である。この粒子は、本発明の粒子は逆転写酵素等のp
olタンパク質を内包していると考えられるが、粒子を
形成する限り、polタンパク質の存在の有無は特に問
題はない。しかし、polタンパク質がある方が高い抗
原性が期待される。
【0016】本発明においてウイルス・ベクターに組み
込まれる遺伝子はレトロウイルス属に属するウイルス由
来のものである。レトロウイルス属に属するウイルスは
特に限定されないが、具体的にはオンコウイルス亜科に
属するウイルス、レンチウイルス亜科に属するウイルス
などが挙げられ、さらに具体的にはオンコウイルス亜科
に属するHTLV−I、HTLV−IIなど、レンチウ
イルス亜科に属するHIV−I、HIV−IIなどが挙
げられる。
【0017】本発明において、ウイルス・ベクターに組
み込まれるレトロウイルスのcDNAは、ウイルス・ベ
クターを感染させる細胞において、少なくともgagタ
ンパク質、およびpolタンパク質を発現し、かつパッ
ケージング能を有するRNAのcDNAを欠失したもの
であれば、特に限定されない。
【0018】このようなcDNAは、例えば、pNL4
3(ジャーナル・オブ・ヴィロロジー(J.Viro
l.)、59、2、284(1986))などのよう
に、エイズ患者の染色体にプロウイルスの形で組み込ま
れたHIV−Iを一旦λファージなどを用いてクローニ
ングし、それを用いてHIV−Iの全cDNAを含むプ
ラスミドを構築するか、あるいは、患者より分離したH
IV−IのRNAゲノムを逆転写してcDNAに変換
し、その後、プラスミドに移してHIV−Iの全cDN
Aを含むプラスミドを構築し、得られたプラスミドを適
当な制限酵素で切断することによって得ることができ
る。
【0019】ここで、パッケージング能とは、レトロウ
イルス様粒子内にRNAを内包する機能をいい、このパ
ッケージング能を有するRNA配列をパッケージングシ
グナルという。
【0020】パッケージングシグナルのRNA配列は、
本発明者によってはじめて見いだされたものであり、そ
のcDNAの具体例は、配列番号1に示すものである。
このcDNAは、前述のプラスミドpNL43に組み込
まれているHIV由来の遺伝子のcDNAのgagの開
始コドンの上流39bpとgagの開始コドンを含む7
bpの計46bpに相当する。
【0021】パッケージング能を有するRNAは、いわ
ゆるシュテム−ループ(stem−loop)構造とい
う二次構造を形成することにより機能すると考えられ
る。そのような二次構造の具体例としては、配列番号1
のcDNAに対応するRNA配列によって形成される図
1に示すものがある。RNAがシュテム−ループ(st
em−loop)構造を形成しない場合、パッケージン
グ能を持たないことがある。
【0022】パッケージングシグナルの二次構造がシュ
テム−ループ構造をとり得るかどうかは、Zucke
r’ Foldプログラムを用いたコンピューターによ
る構造解析(Nucleic Acids Resar
ch、、133−148(1981))などからわか
る。
【0023】パッケージングシグナルの一部が欠損した
り、修飾されたりすることで、パッケージング能を失っ
たRNAのcDNAは本願のパッケージングシグナルの
cDNA(以下、シグナルcDNAという)ではなく、
このようなcDNAを含んでいても本発明の粒子を製造
するに当たり、問題はない。ただし、欠損したり、修飾
されたりした部分がパッケージングシグナルのうちga
g遺伝子をコードする部分である場合、gagタンパク
質を発現しない可能性も考えられる。
【0024】しかし、改変によりパッケージング能を失
ったシグナルcDNAであっても、変異などによりパッ
ケージング能を回復する可能性があることから、シグナ
ルcDNAの塩基配列を改変したものは含んでいないこ
とが好ましい。
【0025】本発明に用いるウイルス・ベクターも動物
細胞に感染し、gag遺伝子、およびpol遺伝子を発
現できるものであれば、特に限定されない。例えば、ワ
クチニアウイルス、アビポックスウイルス、バキュロウ
イルスなどが挙げられる。
【0026】本発明に用いるウイルス・ベクターの構築
方法も、特に限定されない。例えば、ウイルス・ベクタ
ーとしてワクチニアウイルスを用いる場合には、組み込
む遺伝子をかえること以外、特開平1−74982号に
記載された方法に準じて構築することができる。
【0027】また、gag遺伝子、およびpol遺伝子
のcDNAを一緒にウイルス・ベクターに組み込む代わ
りに、別のウイルス・ベクターに組み込むこともでき
る。もちろん、その場合にもシグナルcDNAを欠損し
たものが用いられる。本発明では、そのようなウイルス
・ベクターを、動物培養細胞に感染させ、その培養上清
中にgagタンパク質、およびpolタンパク質を発現
させる。
【0028】双方を一緒に組み込んだものであれば同時
に双方を発現するが、片方ずつを組み込んだものを用い
るときは、二つのベクターを同時に感染させる。二つの
タンパク質が発現することによりgagタンパク質は開
裂型となる。
【0029】ここで発現されるgagタンパク質の開裂
はプロテアーゼ活性を有するpolタンパク質によるも
のと考えられる。
【0030】本発明で用いる動物培養細胞はウイルス・
ベクターが増殖可能なものであればよく、その具体例と
して、ウイルス・ベクターがワクチニアウイルスである
場合は、例えばTK143(ヒト骨肉腫由来)、FL
(ヒト羊膜由来)、Hela(ヒト子宮頚部癌由来)、
KB(ヒト鼻咽喉癌由来)、RK13(ウサギ腎由
来)、CV−1(サル腎由来)、BSC−1(サル腎由
来)、L929(マウス結合組織由来)、CE(ニワト
リ胚)細胞、CEF(ニワトリ胎児繊維芽細胞)、SW
480(ヒト結腸ガン由来)などが例示される。
【0031】ウイルス・ベクターがアビポックスウイル
スである場合は、本発明で用いる動物培養細胞としては
鶏胚用繊維芽細胞などの鶏由来細胞などが例示される
が、発育鶏卵漿尿膜なども含む。ウイルス・ベクターが
バキュロウイルスの場合は、例えばスポドプテラ・フル
ギペルダ(Spodoptera furugiper
da)由来のSf9株などが例示される。
【0032】しかし、一般的な培養条件においては、用
いる細胞によっては開裂型gagタンパク質の発現量が
低く、例えばCV−1にHIV−Iの遺伝子を組み込ん
だワクチニアウイルスを感染させた場合には、開裂型g
agタンパク質はほどんど発現が認められない。開裂型
gagタンパク質の発現量が多いウイルス・ベクターと
動物培養細胞の組み合せが好ましく、そのような例とし
てはHIV−Iの遺伝子を組み込んだワクチニアウイル
スをSW480に感染させる場合がある。
【0033】培養上清からの粒子の精製は特に限定され
ない。例えば、常法(サイエンス(Science)、
224、497−500(1984))に従って、上清
をショ糖、あるいは酒石酸カリウム密度勾配遠心を行
い、さらにセシウムクロライド沈降平衡遠心を行うち、
これらのタンパク質がレトロウイルス様粒子を形成し
て、回収される。
【0034】開裂型gagタンパク質により構成される
レトロウイルス様粒子は、例えば、レトロウイルスがH
IV−Iで、比重により分画した場合、比重がHIV−
I粒子と同じ約1.15のフラクションに認められる。
【0035】精製の各段階においてどのフラクション中
にレトロウイルス様粒子が存在するかの確認の方法は特
に限定されない。例えば、gagタンパク質に対する抗
体を使う方法や逆転写酵素活性を測定する方法がある。
【0036】本発明の開裂型gagタンパク質により構
成される粒子は逆転写酵素を内包していても内包してい
なくてもかまわないが、通常、少なくとも一部は逆転写
酵素を内包する。従って、逆転写酵素活性を測定すれ
ば、本発明の粒子を含むフラクションは判別できる。
【0037】逆転写酵素活性の測定は常法に従えばよ
い。例えば、微生物学実習提要(東京大学医科学研究所
学友会編、丸善より発行、1988年)の記述に準じて
組み換えウイルス感染細胞上清をpoly−Aを鋳型、
oligo−dTをプライマーとして、32P−dTT
Pの酸不溶性画分への取り込みを測定すればよい。
【0038】本発明の粒子はウイルス遺伝子を含まない
ために増殖性がなく、病原性を示さない。一方、この粒
子は、少なくとも開裂型gagタンパク質によりその構
造が形成されているために抗原性を有する。
【0039】また、gagタンパク質やpolタンパク
質はenvタンパク質に比べて変異が少ないと考えられ
る。したがって、少なくともgagタンパク質が存在す
るために、本発明の粒子の抗原性は安定している。
【0040】さらに、本発明のレトロウイルス様粒子
は、自然界のレトロウイルス粒子、またはその一部であ
るレトロウイルス・コア構造粒子と同一または類似の構
造を有していることから、レトロウイルス様粒子を形成
していないenvタンパク質、gagタンパク質、po
lタンパク質、あるいはその単なる混合物以上の抗原性
も期待できる。
【0041】しかし、envタンパク質であるgp12
0は感染の際にウイルス粒子を細胞膜に固定化する機能
を有し、gp41はウイルス遺伝子を細胞内へ侵入させ
る機能を有するため、より安全なワクチンを得るために
は、粒子にenvタンパク質が含まれていないことが好
ましい。
【0042】本発明でいうenvタンパク質とは、レト
ロウイルスの感染、病原性を司るenvタンパク質、お
よびその変異物や改変物をいい、感染への影響力、病原
性を失ったenvタンパク質の改変物等を意味しない。
【0043】本発明の粒子のうち、envタンパク質を
含まない粒子は、env遺伝子を含まないウイルス・ベ
クターを用いることによって得ることができる。また、
envタンパク質をコードしている遺伝子のすぐ上流に
終止コドンを組み込ませる等の処理によりenvタンパ
ク質が発現できないようにしたウイルス・ベクターを用
いることによって得ることができる。
【0044】本発明でいうenv遺伝子を含まないと
は、envタンパク質をコードしている遺伝子を発現し
得る形で含まないことを意味し、レトロウイルスの感
染、病原性に関係のないenv遺伝子由来の遺伝子(e
nv遺伝子の一部やenv遺伝子の改変物等)を含んで
いても構わない。
【0045】
【発明の効果】本発明のレトロウイルス様粒子は、レト
ロウイルス粒子、またはその一部であるレトロウイルス
・コア構造物粒子の構造と同一または類似の構造を持つ
が、レトロウイルスの遺伝子を含まないために増殖性を
持たないことから、これを有効成分とすることにより、
安全生の高い、有効な抗レトロウイルス・ワクチンが期
待できる。また、本発明のレトロウイルス様粒子の製造
方法によれば、効率よく本発明のレトロウイルス様粒子
を得ることができる。
【0046】さらに、本発明のパッケージングシグナル
はパッケージング能を支配することから、この部分のc
DNAから組み込む遺伝子を除去することにより、RN
Aを含まないタンパク質の産生を可能にする一方、パッ
ケージングシグナルを意図的に組み込むことによって、
粒子内に所望のRNAを内包させることができ(後述の
実施例3参照)、例えば、生体に感染したRNAウイル
スのアンチセンスRNAを内包した粒子を製造すれば、
ウイルスRNAと二重鎖を形成し、ウイルスRNAの発
現が抑制される。
【0047】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的
に説明する。なお、実施例、比較例、および参考例中の
部、および%はとくに断りのないかぎり重量基準であ
る。
【0048】実施例1 (1)組み換えベクターpUHKの作製(図2参照) pUC9(ファルマシア社製)をEcoRI、およびP
stIで消化後、ポリメラーゼで処理し、切断端を平滑
末端とした後、両端を連結し、EcoRI部位が欠損し
たpUC9’を作製した。このpUC9’をHindI
IIで切断後、ワクチニアウイルスTK遺伝子を含むワ
クチニアウイルスWR株のHindIII J断片を連
結し、得られた約7.7kbpの組み換えベクターpU
HKをと命名した。
【0049】(2)組み換えベクターpNZ68K2の
作製(図3参照) ワクチニアウイルスWR株の7.5Kプロモーター(モ
スら(Moss et.al)、セル(cell)、
25、805−813(1981))をpUC19(フ
ァルマシア社製)のHincII部位に挿入した後、H
indIIIとEcoRIで順次切断して、7.5Kプ
ロモーターの前後にポリリンカー部位を有する約350
bpのDNA断片を得た。
【0050】このDNA断片のS1ヌクレアーゼ処理し
たものと、(1)で得たプラスミドpUHKのEcoR
I消化物をポリメラーゼ処理したものとを連結し、得ら
れた約8kbpの組み換えプラスミドをpNZ68K2
と命名した。
【0051】(3)組み換えプラスミドpNZ−gag
/pol−dPの作製(図4参照) HIV−Iの全cDNAを含むpNL43をBglII
とEcoRIで消化後、低融点アガロース電気泳動で約
5.1kbpの断片を分離し、フェノール抽出によりそ
の断片を回収した。
【0052】この断片をさらにMnlIで消化後、低融
点アガロース電気泳動で約5kbpの断片を分離し、フ
ェノール抽出によりその断片を回収した。
【0053】この断片中には図4に示すように、gag
遺伝子、およびpol遺伝子領域が含まれているが、
(gag遺伝子の開始コドン上流の)スプライシングド
ナー部位、およびシグナルcDNAと思われる部分を含
む84bpを除去した断片である。
【0054】実施例1(2)で得たpNZ68K2をS
maIとEcoRIで消化した後、先に得た約5kbp
のDNA断片と連結して約13kbpの組み換えプラス
ミドpNZ−gag/pol−dPを得た。
【0055】(4)組み換えワクチニアウイルスの作出 25cmのカルチャーボトルでEagle’s ME
Mを培地として培養されたCV−1細胞に、ワクチニア
ウイルスWR株を0.1p.f.u./細胞接種し、4
5分pNZ−gag/pol−dPを2.2mlの滅菌
水で溶かし、樋高ら(蛋白質・核酸・酵素、27、34
0(1985))の方法によって、DNA−リン酸カル
シウム共沈物をつくり、その0.5mlを感染CV−1
細胞上に滴下した。30分間、37℃、5% CO
ンキュベーターに静置し、5%牛胎児血清を含むEag
le MEM培地4.5mlを加えた。その3時間後培
養液を交換し、48時間後、培養細胞ごと3度凍結融解
し、30秒間超音波処理した。
【0056】組み換え体のgag遺伝子、およびpol
遺伝子の挿入を確認するため、6cmのペトリ皿に培養
されたTK陰性細胞(TK−143)に上記超音波処理
物を接種し、45分後、1%寒天・12%牛胎児血清・
25μg/mlBUdR(5−ブロモ−2’−デオキシ
ウリジン)加Eagle’s MEMを積層し、3日間
培養後、感染細胞を0.01%ニュートラル・レッドで
染色した。形成されたプラークをパスツールピペットで
単離し、Eagle’s MEM中に希釈する。単離し
たプラークにつき、再度同様の操作を繰り返し、プラー
クを純化した。
【0057】この純化したプラークより得られたウイル
スを増殖させ、増殖ウイルスよりDNAを調製し、ga
g遺伝子、およびpol遺伝子をコードするcDNAを
プローブとするドットブロットハイブリダイゼーション
により得られた組み換えワクチニアウイルスが目的とす
るDNAをゲノム内に持つ組み換えウイルスであること
を確認し、V−gag/pol−dPと命名した。
【0058】(5)組み換え体の細胞上清での発現 組織培養用9cmディッシュにダルベッコ改変Eagl
e’s MEMを培地として培養したSW480細胞に
m.o.i.10〜20のv−gag/pol−dPを
接種し、37℃、1時間感染後、ウイルス液を抜取り、
細胞をEagle’s MEMで洗浄し、5%牛胎児血
清加Eagle’s MEMを加えた。16時間後、細
胞上清を回収し、10mMトリス・塩酸(pH7.4)
−0.1M Nacl−1mM EDTA溶液で作製し
た20〜60%の酒石酸カリウムの密度勾配上に重層
し、ローターSW47(ベックマン製)で35,000
rpm、16時間遠心した。遠心後、各フラクションに
分けた。
【0059】50mM Tris−HCl(pH8.
0)、10mMジチオスレイトール、75mM KC
l、5mM Mgcl、10μg/ml poly−
A、5μg/ml oligo−dT、0.05%NP
40を含む反応液5mlに[α−32P]−dTTP
(400Ci/mmol、10mCi/ml)を5〜1
0μl加えた。
【0060】この反応液を、96穴U字型プレートにフ
ラクションと対照の数だけ分注しておき、そこへ各フラ
クションあるいは対照用10mM Tris−HCl
(pH7.4)−0.1M Nacl−1mM EDT
A溶液10ml加え、37℃で1時間反応させた。反応
中に、ニトロセルロースフィルターに鉛筆で2cm間隔
の碁盤の目を書いておき、反応終了後、各フラクショ
ン、および対照の反応液10μlをニトロセルロースフ
ィルター上の各区画にスポットした。
【0061】このフィルターを風乾により完全に乾燥さ
せた後、5%トリクロロ酢酸−5%ピロリン酸ナトリウ
ム液中で15分間振盪しながら洗浄し、未反応の放射性
前駆体を除去した。
【0062】続いて5%トリクロロ酢酸中で5分、そし
て50%エタノール中で5分洗浄した。乾燥後、碁盤の
目にそって各区間を切り放し、シンチレーションバイア
ルに入れて、トルエンシンチレータ中で液体シンチレー
ションカウンターにより取り込みを測定した。対照の3
倍以上の取り込みを陽性とし、逆転写酵素活性があると
判断した。
【0063】次いで、逆転写酵素活性が認められたフラ
クションをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で
分画し、ニトロセルロースフィルターにブロッティング
する(アナリティカル・バイオケミストリィ(Ana
l.Biochem.)、112、195−203(1
981))。検出法として125Iラベルプロテイン
A、抗p24モノクロナール抗体(ジャパニーズ・ジャ
ーナル・オブ・キャンサー・リサーチ(Japanes
e Journal of Cencer Reser
ch)、78、235−241(1987))を利用す
るいわゆるウェスタンブロッティング法によって、開裂
型gagタンパク質の発現が確認され、v−gag/p
ol−dP感染SW480細胞はその上清に分子量2
4,000ダルトンの開裂型gagタンパク質p24を
産生していることが判明した。
【0064】gag−p55の構造から考えて、gag
−p55の中央部分のアミノ酸配列に相当するp24が
産生されていることから、gag−p55の両端のアミ
ノ酸配列に相当するp17、p15も産生されていると
考えられる。
【0065】逆転写酵素活性の検出される比重約1.1
5の分画を、さらにセシウムクロライド沈降平衡遠心に
より精製し、逆転写酵素活性の検出される比重約1.1
5の分画にp24が確認された。
【0066】いわゆるネガティブ染色法により、上記の
p24が確認された分画を電子顕微鏡により観察すると
ワクチニアウイルスとは異なる直径約110〜150n
mの球形の粒子が認められた。
【0067】比較例1 (1)組み換えプラスミドW−gagの作製 HIV−Iの全cDNAを含むpNL43(ジャーナル
・オブ・ビロロジー(J.Virol)、59、2、2
84(1986))をBglIIとEcoRIで消化
後、低融点アガロース電気泳動で約5.1kbpの断片
を分離し、フェノール抽出によりその断片を回収した。
【0068】次に、実施例1(2)で得たpNZ68K
2をBamHIとEcoRIで消化し、先に得た約5.
1kbpのDNA断片とライゲーションして、得られた
約13kbpの組み換えをプラスミドW−gagと命名
した。
【0069】(2)組み換えワクチニアウイルスの作出 プラスミドとしてW−gagを用いるほかは、実施例1
(4)と同様の方法で組み換えワクチニアウイルスを作
製した。得られた組み換えワクチニアウイルスをV−2
0−1−8と命名した。
【0070】(3)組み換え体の細胞上清での発現 組み換えワクチニアウイルスとしてV−20−1−8を
用いた以外は、実施例1(5)と同様の方法でレトロウ
イルス様粒子を発現させ、実施例1(5)で得られた粒
子と同様の粒子が発現していることを確認した。
【0071】実施例2 (1)レトロウイルス様粒子内のHIV−I由来RNA
の確認 実施例1(5)で得た粒子、および比較例1(3)で得
た粒子からRNAを抽出すベく、フェノール/クロロホ
ルム(1:1)で処理した後、エタノール沈澱により混
在するタンパク質除去した。
【0072】各粒子抽出物を16%ホルムアデヒドを含
んだ1%アガロースゲルで電気泳動し、ニトロセルロー
スHAWPフィルター(Proc.Natl.Aca
d.Sci・USA、77、5201−5205(19
80))に移した後、32PでラベルしたHIV−Iの
DNAをプローブとしてハイブリダイズした。
【0073】その結果、実施例1(5)で得た粒子の抽
出物からは、RNAが検出されなかったが、比較例1
(3)で得た粒子の抽出物からは、RNAが検出され
た。従って、実施例1(5)で得た粒子はRNAを内包
せず、比較例1(3)で得た粒子はRNAを内包してい
ることがわかった。
【0074】(2)感染細胞中のHIV−I由来RNA
の確認 実施例1(5)、および比較例1(3)の感染細胞を、
それぞれ40μg/mlのシトシンアラビノシド(ar
a−C)を添加したダルベッコ改変Eagle’s M
EMで、37℃、48時間培養した。その後、それぞれ
細胞を回収し、細胞を1%SDS/125mM Tri
s−HCl(pH8.0)で溶かし(グアニジウムチオ
シアネート法)、cell lysateを得た。
【0075】各cell lysateを16%ホルム
アデヒドを含んだ1%アガロースゲルで電気泳動し、ニ
トロセルロースHAWPフィルター(Proc.Nat
l.Acad.Sci.USA、77、5201−52
05(1980))に移した後、32PでラベルしたH
IV−IのDNAをプローブとしてハイブリダイズし
た。その結果、各cell lysateからは、HI
V−I由来のRNAが検出された。
【0076】(1)の結果と(2)の結果から、実施例
1(4)で得られた組み換えワクチニアウイルスには、
RNAのパッケージング能がないことがわかる。
【0077】実施例3 (1)組み換えプラスミドpNZ−HNPの作製 実施例1(2)で得たpNZ68K2をBamHIで消
化し、センダイウイルス(HvJ)のNP遺伝子領域を
含む約2kbpのDNA断片(NucleicAcid
s Resarch、11、7317−7330(19
83))とライゲーションして、得られた組み換えプラ
スミドをpNZ−HNP(約10kbp)と命名した。
【0078】(2)組み換えプラスミドpNZ−PS−
NPbの作製 (1)で得たpNZ−HNPをBamHIおよびNae
Iで消化し、このNP遺伝子の上流に配列番号1に示す
46bpのDNAの両端に合成リンカーを結合させた合
成DNAを挿入した。得られた組み換えプラスミドをp
NZ−PS−NPbと命名した。配列番号1記載の46
bpのDNAは、pNL43に含まれているHIV−I
ゲノムの第751番目から第796番目の領域に相当す
る。
【0079】なお、このpNZ−PS−NPbに組み込
まれた46bpのDNAはZucker’ Foldプ
ログラムを用いたコンピューターによる構造解析から、
図1に示すような二次構造(シュテム−ループ(ste
m−loop)構造)をとることが明らかになった。
【0080】(3)pNZ−PS−NPb移入V−ga
g/pol−dP感染細胞上清でのレトロウイルス様粒
子の発現 実施例1(5)のV−gag/pol−dP感染細胞
に、pNZ−PS−NPbをリン酸カルシウム沈降法に
より移入し、実施例2(2)と同様の条件下で細胞を培
養し、レトロウイルス様粒子を発現させた。その結果、
実施例1(5)で得られた粒子と同様の粒子が発現して
いることを確認した。
【0081】(4)レトロウイルス様粒子内のRNAの
確認 プローブとして332PでラベルしたHVJのNP遺伝
子を用いるほかは、実施例2の(1)と同様の方法のよ
り、NP遺伝子の存在を確認した。このように、粒子内
にNP遺伝子が内包されていることから、上記配列番号
1に示すDNA断片がパッケージング能を有するRNA
のcDNAであることが確認された。
【0082】
【配列表】
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】図面の簡単な説明
【補正方法】変更
【補正内容】
【図面の簡単な説明】
【図1】RNAパッケージング能を有するRNAのシュ
テム−ループ(stem−loop)構造を示した説明
図である。
【図2】組み換えプラスミドpUHKの作製手順を示し
た説明図である。
【図3】組み換えプラスミドpNZ68K2の作製手順
を示した説明図である。
【図4】組み換えプラスミドpNZ−gag/pol−
dpの作製手順を示した説明図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 // C12N 5/10

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 少なくともgagタンパク質を有し、R
    NAを内包しないレトロウイルス様粒子。
  2. 【請求項2】 envタンパク質を含まない請求項1記
    載のレトロウイルス様粒子。
  3. 【請求項3】 パッケージング能を有するRNAのcD
    NAを含まず、レトロウイルス属に属するウイルスのg
    ag遺伝子、およびpol遺伝子のcDNAを組み込ん
    だウイルス・ベクターを細胞に感染させ、感染させた細
    胞を培養することを特徴とする請求項1記載のレトロウ
    イルス様粒子の製造方法。
  4. 【請求項4】 請求項1または2記載のレトロウイルス
    様粒子を有効成分とするとする抗レトロウイルス・ワク
    チン。
  5. 【請求項5】 レトロウイルス属に属するウイルスのパ
    ッケージング能を有するRNAのcDNA。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH0998722A (ja) * 1995-10-04 1997-04-15 Fugetsudo Honten:Kk 絹入りアイスクリーム

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