JPH0724586B2 - 酵母硫化水素生成抑制遺伝子及び当該遺伝子を導入した醸造用酵母 - Google Patents

酵母硫化水素生成抑制遺伝子及び当該遺伝子を導入した醸造用酵母

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JPH0724586B2
JPH0724586B2 JP4081429A JP8142992A JPH0724586B2 JP H0724586 B2 JPH0724586 B2 JP H0724586B2 JP 4081429 A JP4081429 A JP 4081429A JP 8142992 A JP8142992 A JP 8142992A JP H0724586 B2 JPH0724586 B2 JP H0724586B2
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  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、酵母の硫化水素生成を
抑制する遺伝子、この遺伝子の特定の塩基配列を持つタ
ンパク質、および前記遺伝子を導入した醸造用酵母に関
する。
【0002】
【従来の技術】現在、主として市販されているピルスナ
ータイプの淡色ビール製造に用いられているビール酵母
(下面酵母)は、主発酵工程中に硫化水素を生成する特
性を有する。そのため、後発酵と呼ばれる熟成工程でビ
ール中に生成している硫化水素量を閾値以下に低減する
ことがビール製造において重要な課題の1つとなってい
る。そのため、長期間に及ぶ熟成工程が必要であった。
【0003】この熟成期間を短縮するために、従来から
硫化水素生成に影響する因子に関する研究(Jangaard,
N. O., Gress, H. S. and Coe, R. W. ; Amer. Soc. Br
ew.Chem. Proc., p45, 1973: Kuroiwa, Y. and Hashimo
to, N. ; Brew. Dig., 45,44, 1970: Hysert, D. W. an
d Morrison, N. M. ; J. Amer. Soc. Brew. Chem.,34
25, 1976 )や、突然変異法あるいは細胞融合法を用いた
硫化水素低生成酵母の育種研究 (Molzahm, S. W. ; J.
Amer. Soc. Brew. Chem., 35, 54, 1977) が報告されて
いる。これらの方法はいずれも、酵母の硫化水素生成量
を減少するだけではなく、酵母の他の醸造特性、例えば
発酵速度、ビール香味などに影響するため、ビール醸造
用酵母として好適な酵母は現在まで得られていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】最近になって、遺伝子
操作技術を利用して硫化水素低生成酵母を育種すること
が報告されている(手塚ら、日本発酵工学会大会、講演
要旨集、5頁、1989)。その報告によれば、通常硫化水
素を菌体外に生成しない酵母、Saccharomycescerevisia
e X-2180 株の染色体から硫化水素抑制作用をもつDN
A断片をクローニングしてその断片を下面酵母へ導入し
て硫化水素低(非)生成酵母を育種しようとする試みで
ある。この報告によれば、遺伝子操作技術を用いること
により、醸造特性を変えることなく、硫化水素を生成し
ない酵母の性質のみを、下面酵母に移すことを試みたも
ので、醸造特性が変わらないという点が、従来の突然変
異法や細胞融合法よりも優れたものと考えられている。
さらに、手塚らは、塩基配列及びその配列に基づいてア
ミノ酸配列を決定している(日本農芸化学会大会、講演
要旨集、p300, 1991年)。その報告によれば、当該遺伝
子のコードしている蛋白質は448 アミノ酸残基よりなっ
ているとされている。しかし、本蛋白質の機能は明らか
でなく実際のビール醸造上の効果も明確になっていな
い。かかる状況では、当該遺伝子を実用的にビール製造
には用いることはできない。
【0005】かかる状況に鑑み本発明者らは、鋭意研究
の結果、上記の問題点を解決することにより本発明を完
成するに至った。本発明者らの研究の結果、当該遺伝子
は、手塚らの報告とは異なり507 アミノ酸をコードして
いることが明らかとなるとともに、醸造用酵母中におい
て硫化水素生成抑制作用を有し、その他の醸造特性には
影響しないことが明確になった。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、酵母の醸造特
性を変えることなくビール中に産生される硫化水素量の
みを抑制し、そのDNA配列が下記〔化5〕〜〔化8〕
に示される遺伝子と、その遺伝子によってコードされる
アミノ酸配列を持つ蛋白質が菌体内で発現していること
によってビール中の硫化水素量が減少したサッカロミセ
ス属の醸造用酵母及び菌体内グルタチオン含有量が増加
した醸造用酵母である。 (塩基配列)
【0007】
【化5】
【0008】
【化6】
【0009】
【化7】
【0010】
【化8】
【0011】まず、先に報告されている硫化水素生成抑
制遺伝子(NHS5)を含むプラスミドpHS5を基
に、このプラスミド上のどこに当該遺伝子NHS5が存
在するかをサブクローニング実験で明らかにした。pH
S5に挿入されている約12Kbのx−2180株由来のDNA
断片を種々の制限酵素で切断し、生じた複数の断片の中
でどの断片に当該遺伝子が存在するかを検討した。その
結果、図1に示す位置に硫化水素生成抑制遺伝子が存在
することを確認した。そこでこの部分のDNA塩基配列
を調べることにより更に詳細に本遺伝子の構造を調べ
た。方法は、サンガーの方法(Sanger, F., Science, 21
4, 1205, 1981)を用いた。その結果から得られた塩基配
列及び推測されるアミノ酸配列が〔化5〕〜〔化8〕に
示したものである。
【0012】次に、本遺伝子を三種のベクター、YEp (B
eggs, J. D., Nature,275, 104, 1978)、YCp および Y
Ip{(Botsein, D., and Davis, R. W., in "The Molecu
larBiology of the Yeast Saccaromyces, Metabolism a
nd Gene Expression, J. N.Strathern, E. W. Jones an
d J. R. Broach, Eds.) Cold Spring Harbor Press,Col
d Spring Harbor, New York 1982 }に挿入しプラスミ
ド、YEpAG-5SS, YCpAG-5SS及びpHSI5 を作製した。これ
らプラスミドを図2に示す。これらのプラスミドは酵母
における選択マーカーとして抗菌剤G418耐性遺伝子 (We
bster, T. D.and Dickson, R. C., Gene, 26, 243, 198
3)が導入されている。この三種のプラスミドでビール醸
造用酵母を形質転換し、得られた転換株を用いて発酵試
験を行った。発酵試験の結果、これら3種のプラスミド
を持つ株の発酵ガス中の硫化水素量は親株の生産量の60
〜80%と生成が抑制されており、本遺伝子、NHS5は
いずれのタイプのベクターを用いても親株の硫化水素生
成を抑制することが分かった。
【0013】また、発酵終了時の発酵液(若ビール)の
香気について官能検査を行なった結果、親株に比べ本遺
伝子を導入した株では硫化水素が減少しており、異臭は
感じられなかった。これらの結果は、これまで熟成期間
を延長することによってのみ閾値以下に低減することが
可能であった硫化水素量のコントロールが、本発明によ
って可能となり、従来の技術に比べて、より短期間に未
熟臭(硫化水素臭)のないビールを製造できることを示
している。
【0014】実際のビール製造に本発明技術を使用する
場合、当該遺伝子(NHS5)がいかなる作用により本
発明の効果、すなわち硫化水素の生成を抑制しているか
を明らかにすることが必要である。そこで、この点を明
らかにするため、先ずNHS5遺伝子を含むプラスミド
YEpAG-5SS で酵母、Saccharomyces cerevisiaeを形質転
換し、その菌体内の含硫化合物の量を形質転換しない株
の量と比較した。YPD培地(1%酵母エキス、1%ペプ
トン、2%グルコース)で30℃で24時間振盪培養し、遠
心分離で菌体を集めた。蒸留水で一回洗浄した後、両者
の菌濃度が一定になるように蒸留水に懸濁した。100
℃、5分間加熱し菌体内の含硫化合物を抽出した。ホモ
システイン、システイン、γ−グルタミルシステイン及
びグルタチオン含有量をHPLC/電気化学検出器を用
いて定量比較した。その結果を表1に示す。表1は菌体
内含硫化合物の比較を示し、数字は菌体重量あたりの重
量%である。
【0015】
【表1】 この結果から、本遺伝子、NHS5は図3に示す代謝系
の中でホモシステインからシステイン、さらにはグルタ
チオンが生成する系を増強しているものと推測された。
そこで、この系の欠損変異株Saccharomyces cerevisiae
NA5-2C (cys2,cys4) 及び NA21-2C (cys1, cys3) を用
い最小培地における相補実験を行った。結果を表2に示
す。
【0016】
【表2】 +は生育したことを、−は生育しなかったことを示す。
【0017】以上の結果から、当該遺伝子NHS5はホ
モシステインからシスタチオニンを生成するシスタチオ
ニンβ−シンターゼ活性を増強しているものと推定され
た。そこで、本酵素活性を表2に示す NA5-2C のNHS
5導入株と導入していない株とで比較した。導入株では
本酵素活性は13単位/mg 蛋白であったのに対し、コント
ロールでは検出限界以下であり、NHS5は本酵素活性
を増強していることが明らかとなった。次に、本遺伝子
がコードしている蛋白が酵素蛋白そのものであるか、あ
るいは活性発現調節に関与しているかを明らかにするた
め、NHS5導入株から本酵素を精製した。前述したYP
D 培地500ml の入った3リットル容積の坂口フラスコに
NHS5導入株を接種し、30℃、24時間振盪培養した。
遠心分離にて菌体を集め冷却しておいた蒸留水で一回洗
浄した後、TEPD緩衝液(20mMトリス塩酸緩衝液(pH 7.
8)、1mM EDTA、0.2mM ピリドキサルリン酸、0.2mM ジチ
オスレイトール)に懸濁してガラスビーズを加えダイノ
ミルで菌体破砕を行い、遠心分離で上清を集めた。続い
て、硫安分画(45〜65%飽和)、エーテルトヨパールを
用いた疎水クロマトグラフィー、DEAE−セルロースによ
るイオン交換クロマトグラフィー、フェニルセファロー
スを用いた疎水クロマトグラフィー及びハイドロキシア
パタイトカラムで約180 倍に精製した。
【0018】次にこの精製標品をポリアクリルアミドゲ
ル電気泳動(PAGE)に供した。ゲルの一部をクマシーブ
リリアントブルーにより染色し蛋白のバンドを検出した
後、残りのゲルから各々のバンドに対応する位置のゲル
を切り出した。ゲルから前述したTEPD緩衝液で抽出し酵
素活性を測定した。活性の認められたバンドからの抽出
液をSDS-PAGEにかけた後、PVDF膜(バイオラッド社製)
へ電気的に転写し、クマシーブリリアントブルーで染色
し、確認した。続いて蛋白バンド部分を切出して、プロ
テインシーケンサー(アプライドバイオシステム社製、
モデル473A型)によってそのアミノ酸配列をN末端より
39番目まで決定した。ただし、28〜30番目のアミノ酸は
決定できなかった。このアミノ酸配列を先の〔化5〕〜
〔化8〕に示す塩基配列から推定されるアミノ酸配列と
比較すると完全に一致しており、NHS5遺伝子はシス
タチオニンβ−シンターゼ酵素蛋白そのものをコードし
ていることが明らかとなった。
【0019】以上のことから、当該遺伝子NHS5を導
入することにより、硫化水素生成量が低下した醸造用酵
母を造成できることは勿論であるが、表2からも明らか
なように酵母の菌体内に有用物質であるグルタチオンを
蓄積させることもできる。
【0020】
【発明の効果】本発明によれば、酵母の硫化水素生成を
抑制し実用的にビールを製造できる遺伝子が得られるの
で、この遺伝子を導入した酵母を使用することによっ
て、酵母の醸造特性を変えることなく硫化生成能を抑制
したビールを短期間に製造することができる。
【0021】
【実施例】以下に本発明を実施例によってさらに詳細に
説明する。 実施例1 先に報告されているプラスミドpHSG5に含まれてい
るサッカロミセス・セレビジエ X-2180 株由来のDNA
のどの位置に硫化水素生成抑制遺伝子が存在するかを調
べるため、より詳細な制限酵素地図の作製とサブクロー
ニング実験を行った。プラスミドpHSG5を図1に示
す種々の制限酵素で切断し得られた断片を酵母の発現ベ
クター、YEp24 に挿入した後、サッカロミセス・セレビ
ジエ IFO2018株を形質転換し、転換株の硫化水素生成を
0.1%の酢酸鉛を含むYPD培地で25℃、3日間培養し
て出現するコロニーの色を指標として選択した。本培地
上で培養した場合、硫化水素産生コロニーは黒色に着色
するので、その判別は容易である。その結果、図1に示
すように目的とする遺伝子、NHS5はHpaI/XbaI断
片、約1.74kbp 上に存在することが明らかになった。こ
の断片の塩基配列をダイデオキシ法及びDNAシーケン
サー(アプライドバイオシステム社製、モデル370A型)
を用いて決定した。先の〔化5〕〜〔化8〕に示すよう
に、この断片中には1524bpからなるオープンリーディン
グフレームが見いだされた。このオープンリーディング
フレームにより 507アミノ酸残基からなる分子量56,022
の蛋白質がコードされていることがわかった。
【0022】実施例2 硫化水素生成抑制遺伝子、NHS5の醸造用酵母におけ
る効果を確認するために、当該遺伝子を発現させるベク
ターへの導入を行った。ベクターとして各々公知のベク
ター、YEp24 、YCp 、pBR322の三種を用いた。これらベ
クターを制限酵素Bam HI とSalIで切断しベクター由
来の約300bp の小断片を除去し、代わりに尾形らによっ
て報告されている{日本発酵工学会大会講演要旨集 109
頁(1989年) }G418 耐性遺伝子をベクターのBamHI−
SalI切断部位に挿入した。NHS5を含むDNA断片
は図1に示したpHS5を制限酵素BamHIで切断し続い
てエキソヌクレアーゼ、Bal31で約2Kbp 分解して生じ
た末端にBamHIリンカーを付加した。その後、HpaIで
消化し生成するNHS5遺伝子を含む約2.5kbpのDNA
断片をYEp24 のBamHI−EcoRV切断部位に、pBR322の場
合も同じ切断部位に挿入し、各々 YEpAG-5SS、pHSI5 の
2種のプラスミドを作製した。
【0023】また、セントロメアを持つ YCp型ベクター
の場合は、当該遺伝子を含む2.5kbp断片のHpaI切断部
位にもBamHIリンカーを付与し、ベクターのBamHI切断
部位に挿入しYCpAG-5SS を作製した。得られた3種のプ
ラスミドを図2に示した。
【0024】実施例3 ビール醸造用下面酵母サッカロミセス・セレビジェIFO2
018 を YPD培地100mlの入った坂口フラスコへ接種し、2
5℃で振盪培養し、2〜4×107cells/ml まで培養し
た。遠心分離(3500rpm、10分) で集菌した後、冷水で洗
浄し、0.2ml の1Mソルビトール溶液に懸濁した。この
懸濁液50μl に実施例2で調製したプラスミド1μg を
加え、ジーンパルサーキュベット(電極間隔 0.2cm、バ
イオラッド社製) へ入れた。このキュベットをジーンパ
ルサー (バイオラッド社製) へセットし、3.5KV/cm、25
μF の導入条件でエレクトロポレーション法(Dower, W.
J.,et al. Nucl. Acids Res., 16, 6127, 1988) によ
りプラスミド導入を行った。形質転換株はG418を50μg/
ml含む YPD寒天培地で生育してくる株を選択することに
より3種のプラスミドが導入された形質転換株を得た。
得られた転換株3種と親株の計4株を用いて糖度約12の
加ホップ麦汁を用いて発酵試験を行った。
【0025】前培養は、G418を含んだ YPD寒天培地で培
養した転換株を10mlの加ホップ麦汁の入った試験管へ接
種し、25℃で2日間静置培養を行った。続いて、50mlの
加ホップ麦汁の入った 100ml容三角フラスコに前培養液
全部を添加し、15℃で4日間静置培養した。培養後、沈
降している酵母をデカンテーションで集めて少量の加ホ
ップ麦汁に懸濁した。200ml の加ホップ麦汁の入った 3
00ml容三角フラスコに前述した酵母懸濁液を加え、15
℃、8日間静置培養を行った。なお、培地には前培養も
含めG418は添加しなかった。発酵ガス中の硫化水素は酢
酸亜鉛溶液にトラップした後、メチレンブルー法で定量
した。発酵経過は、炭酸ガスの生成に伴う発酵液の重量
減少で追跡した。その結果、図3に示すようにNHS5
遺伝子を導入された形質転換株では、硫化水素生成量が
親株の60〜80%に抑制されていた。一方、発酵経過は図
4に示すように有意な差は認められなかった。こうして
得られた発酵液(若ビール)の香気を調べるために官能
検査を行った。官能検査は10人の選抜パネルにより硫化
水素臭の強弱と異臭の有無の2項目について5段階評価
で実施した。結果を下の表3に示す。
【0026】
【表3】 10人のパネリストの得点平均値で表示した(5強→1
弱)。以上の結果から、本発明は発酵工程で生ずる硫化
水素を減少させ、その結果ビール品質の向上や製造期間
の短縮に有効であることが確認された。
【0027】実施例4 サッカロミセス・セレビジェIFO2018 及びNHS5遺伝
子を含むプラスミドYEpAG-5SS で形質転換された同株を
YPD 培地100ml の入った 300ml容フラスコに接種し、30
℃で24時間振盪培養した。遠心分離にて集菌し、水で一
回洗浄した後、両者の菌濃度が同じになるように脱イオ
ン水に懸濁した。この懸濁液を 100℃で5分間加熱し、
菌体内の含硫化合物を抽出した。遠心分離(10000rpm、
10分) で上清を得た。この上清をHPLCにかけ、電気
化学検出器でホモシステイン、システイン、γ−グルタ
ミルシステイン、グルタチオンを定量した。HPLCの
条件は次の表4に示す。
【0028】
【表4】 HPLC分析の結果、得られた形質転換株及び親株の菌
体内含硫化合物の濃度を下表に示す。数字は菌体重量あ
たりの重量%を示す。
【0029】
【表5】
【0030】実施例5 実施例4から当該遺伝子、NHS5は菌体内含硫化合物
濃度に影響を及ぼしており、特に、図5に示すホモシス
ティンからシステイン、さらにグルタチオンへいたる系
を活性化しているものと推定されたので、サッカロミセ
ス・セレビジェの変異株を用いた相補実験を行った。図
5に示すcys2cys4変異を同時に持つサッカロミセス・
セレビジェNA5-2C及びcys1cys3変異を同時に持つNA21
-2C にNHS5遺伝子を持つプラスミドYEpAG-5SS 及びベク
ターのみを導入した。この二つの株はどちらもシステイ
ンを合成できず、システイン要求性となっている。形質
転換は実施例3に記載したエレクトロポレーション法で
行った。形質転換後、YPD寒天培地及び最少培地(SD培
地、100ml 精製水に、ディフコ社製イーストナイトロジ
ェンベース(アミノ酸フリー) を0.67g 及び精製寒天2
g を含んだもの) に接種し、30℃、2晩培養して各々の
生育を観察した。変異株相補実験の結果を下の表に示
す。
【0031】
【表6】 +は生育したことを、−は生育しながったことを示す。
この結果は本遺伝子NHS5がホモシステインからシス
タチオニンを生成するシスタチオニンβ−シンターゼ活
性を付与していることが明らかとなった。
【0032】実施例6 サッカロミセス・セレビジエNA5-2Cを前述したプラスミ
ドYEpAG-5SS で形質転換し、転換株と親株のシスタチオ
ニンβ−シンターゼ活性を測定比較した。先ず本菌をYP
D 培地で24時間振盪培養し、菌体を集め、実施例3に記
載した方法でプラスミドの導入を行った。得られた形質
転換体及び親株をYPD 培地500ml の入った3リットル容
量の坂口フラスコに接種し、30℃、24時間振盪培養し
た。各々6本分の菌体を遠心分離で集菌し、冷却してお
いた蒸留水で一回洗浄した後、TEPD緩衝液100ml に懸濁
した。ガラスビーズを加え、ダイノミルKDL 型(ウィリ
ーエイ、バチョフェンAG、マシネンファブリック社製)
にて菌体を破砕した。破砕した後、遠心分離(10000rp
m、30分) で上清を集めた。その上清のシスタチオニン
β−シンターゼ活性を測定した。本酵素活性は既知の方
法(Kashiwamata, S andGreenberg, D. M., Bioch. Biop
hys. Acta, 212, 488, 1970) に従って行った。その結
果、プラスミド、YEpAG-5SS で形質転換した株では、約
40単位/菌体蛋白mgの酵素活性が認められたが、親株で
は、その活性は検出限界以下であった。
【0033】実施例7 実施例6で調製した形質転換株菌体上清からシスタチオ
ニンβ−シンターゼを精製した。先ず、氷冷下上清を攪
拌しながら微粉末状の硫安を少量ずつ添加し、45%飽和
に達したところで、遠心分離(10000rpm、20分) を行っ
た。本酵素活性は上清に検出されたので、沈澱を捨て上
清を回収した。続いて、この上清にさらに硫安を加え65
%飽和とした。攪拌しながら氷冷下、約1時間放置し、
その後に同じ条件で遠心分離を行った。酵素活性は沈澱
部に認められた。沈澱部を集めTEPD緩衝液に溶解し、そ
こへ硫安を40%飽和となるように加えた。硫安40%飽和
のTEPD緩衝液で平衡化したエーテルトヨパール(トーソ
ー社製)カラム(2.1 ×28cm、分画サイズ10ml) を用い
た疎水クロマトグラフィー(硫安濃度40%→0%の逆濃
度勾配で溶出)を行った。
【0034】硫安濃度27〜25%で溶出される画分に活性
が認られ、この画分を集めた。この画分を、TEPD緩衝液
に透析した後、TEPD緩衝液で平衡化したDE52 (ワットマ
ン社製) カラム(2.6 ×23cm、分画サイズ6.4ml)を用い
たイオン交換クロマトグラフィー(食塩濃度0.1 M→0.
25Mの濃度勾配で溶出)を行った。活性画分に硫安を40
%飽和になるように添加し、これを40%飽和硫安を含ん
だTEPD緩衝液で平衡化したフェニルセファロース(ファ
ルマシア社製)カラム(2.1cm ×14cm、分画サイズ2.5m
l)にかけ、15%飽和から0%の硫安の逆濃度勾配で溶出
した。活性画分を集め、10mMのリン酸ナトリウム緩衝液
(pH6.8)に対して透析を行った。10mMのリン酸ナトリウ
ム緩衝液で平衡化したハイドロキシアパタイト(和光純
薬社製、クロマトグラフ用) カラム(2.4 ×3.5cm 、分
画サイズ1ml) に吸着させ、リン酸ナトリウム緩衝液の
濃度を50mMから100mM に直線的に増加させて溶出した。
活性画分は1600単位/mg蛋白にまで比活性が上昇してお
り、約1.4mg の蛋白が得られた。
【0035】実施例8 実施例6で得たシスタチオニンβ−シンターゼ活性をも
つ画分を調製用ポリアクリルアミドゲル電気泳動でさら
に精製を行った。泳動はTEF社製の4〜20%のグラデ
ィエントゲルを用い、緩衝液は1リットル中にトリス
(ヒドロキシメチル)アミノメタンを3g、グリシンを
14.4g 含有している。18mAの一定電流で90分泳動した
後、ゲルの一部はクマシーブリリアントブルーで染色
し、蛋白バンドを検出した。
【0036】残りのゲルから各バンドを切り出し、TEPD
緩衝液で抽出した。抽出液の酵素活性を測定し、活性の
認られた画分をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳
動を行った。泳動後、ゲル上の蛋白を電気的にPVDF膜
(バイオラッド社製)へブロッティングし、クマシーブ
リリアントブルーで染色した。染色されたバンドを切り
出し、その膜をプロテインシーケンサー(アプライドバ
イオシステムズ社製モデル473A型) にかけ、N末端の39
番目のアミノ酸まで配列を決定した。28〜30番目のアミ
ノ酸配列は決定できなかったが、決定された配列と既に
決定している塩基配列から推定されるアミノ酸配列を比
較したところ完全に一致した。この結果、NHS5遺伝
子は、シスタチオニンβ−シンターゼの酵素蛋白そのも
のをコードしていることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1で作成した制限酵素地図を示す図、
【図2】 実施例2で作成した3種のプラスミド、YEpA
G-5SS とpHSI5 とYCpAG-5SS の制限酵素地図を示す図、
【図3】 実施例3において、NHS5を導入した形質
転換株の8日間の硫化水素生成量の変化を示すグラフで
あり、○はコントロール、●はYEpAG-5SS 、黒い△はYC
pAG-5SS 、黒い□はpHSI5 の場合である。
【図4】 実施例3において、NHS5を導入した形質
転換株の8日間の発酵経過を、24時間毎に追跡したエキ
ス減少を示すグラフであり、○はコントロール、●はYE
pAG-5SS 、黒い△はYCpAG-5SS 、黒い□はpHSI5 の場合
である。
【図5】 実施例5において、ホモシステインからシス
テイン、グルタチオンへ至る系を示す、酵素中の硫化水
素化合物の代謝経路の説明図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 //(C12N 1/19 C12R 1:865) (C12N 9/88 C12R 1:865) (C12N 15/09 ZNA C12R 1:865) C12R 1:865)

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 酵母が生成する硫化水素量を抑制し、下
    記塩基配列で示されている遺伝子。 (塩基配列) 【化1】 【化2】 【化3】 【化4】
  2. 【請求項2】 請求項1記載の遺伝子の塩基配列中、A
    からBまででコードされているアミノ酸配列を有する蛋
    白質。
  3. 【請求項3】 請求項1記載の遺伝子を導入したことに
    より硫化水素生成量が減少したサッカロミセス属の醸造
    用酵母。
  4. 【請求項4】 請求項1記載の遺伝子を導入したことに
    より菌体内グルタチオン含有量が増加したサッカロミセ
    ス属の醸造用酵母。
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