JPH0713018A - 放射冷却膜 - Google Patents

放射冷却膜

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JPH0713018A
JPH0713018A JP15200493A JP15200493A JPH0713018A JP H0713018 A JPH0713018 A JP H0713018A JP 15200493 A JP15200493 A JP 15200493A JP 15200493 A JP15200493 A JP 15200493A JP H0713018 A JPH0713018 A JP H0713018A
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JP
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film
layer
sio
cooling
radiation
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JP15200493A
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Kazuji Hyakumura
和司 百村
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Olympus Optical Co Ltd
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Publication date
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 多層膜化によって放射冷却能力および耐候性
を高めた放射冷却膜を容易に作製し得るような設計手法
を確立する。 【構成】 放射冷却膜1は、Alを基板としてSi層お
よびSi酸化物を具える多層膜であり、Al基板上に大
気側より膜厚d1=140nmのSiO2 の第1層、膜
厚d2=400nmのSiOの第2層、および膜厚d3
=580nmのa‐Si(アモルフォスシリコン)の第
3層を設けたて成る。この放射冷却膜は、SiO2 の第
1層を膜厚40〜300nmの範囲の値とし、SiOの
第2層を膜厚120〜600nmの範囲の値とし、a‐
Siの第3層を膜厚480〜660nmの範囲の値とし
ているので、薄膜の評価関数ηes2が良好な値(ηes2
=1.377)になった。また、第1層にSiO2 を用
いているため、良好な耐候性が得られる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、放射冷却を行うことが
できる放射冷却膜に関するものである。
【0002】
【従来の技術】C.G.Granqvist らは、Appl.Phys.Lett.,
36(2),139 'Surface for radiative cooling:Silicon m
onoxide films on aluminium' (以下、文献1)およ
び、J.Appl.Phys.,52(6),4205 'Radiative cooling to
low temperatures:General considerations and applic
ation to selectiveiy emitting SiO films'(以下、文
献2)において、理想的な表面を構成した場合、100
W/m2 の冷却能力を有し、周囲温度よりも40℃程度
低い温度への冷却が可能な放射冷却膜が得られることを
明らかにしている。このような放射冷却膜は、エネルギ
ーの得難い場所(砂漠、山岳地帯等)での冷却や、砂漠
等での造水への応用が考えられる他、屋根材に使用する
ことにより自然エネルギーを利用した冷房システムを構
成する応用が考えられる。
【0003】上記2つの文献によれば、放射冷却膜が効
率的に放射冷却を行うためには、大気の熱輻射の強度が
小さくなる波長8〜13μm(波数1250〜769cm
-1)の領域(大気の窓領域)において反射率が小さく、
それ以外の領域では反射率が大きくなるような薄膜特性
を有することが要求される。したがって、そのような特
性を放射冷却膜が有する場合には、この大気の窓領域に
おいて物体からの熱輻射の放出が特に効果的に行われる
結果、大気から薄膜に入ってくる熱輻射よりも薄膜から
放出される熱輻射の方が大きくなり、大気の窓領域を用
いる効率的な放射冷却が可能になる。
【0004】このような放射冷却膜の従来例としては、
例えば、前記文献1、2に記載されているように、Al
上に膜厚1000nmのSiO単層膜を設けたものがあ
る。一般に、Alは、図6(a)に示すようにその反射
率は赤外領域で非常に高いことから放射熱の断熱のため
の素材として広く用いられているが、放射冷却を行うた
めにはさらに、波長8〜13μm(波数1250〜76
9cm-1)の領域での反射率を小さくする必要があり、上
記のSiO単層膜はこれを実現するために提案されてい
るものである。
【0005】SiO単層膜は、図6(c)に示すように
上記大気の窓領域で高い吸収を有するため、それを利用
して反射防止を行うことができる。すなわち、通常の誘
電体膜の場合Alからの反射光の強度が強いので、薄膜
の干渉作用によってそれを有効に打ち消すことは困難で
あるが、SiO膜の場合は、SiO膜を通過する際に光
が減衰するため、SiO膜の空気接触面との干渉作用を
利用することにより反射防止が可能となる。SiOは、
波長9μm(波数1100cm-1)以上の波長域において
吸収を示し、波長10μm(波数1000cm-1)で最大
の吸収となる。このようなSiOが有する吸収特性と薄
膜の干渉特性とを組み合わせることにより、図7の特性
を実現している。この特性は入射角が45°の場合を示
し、RpはP成分の反射率、RsはS成分の反射率であ
る。
【0006】このようなSiO単層膜の特性の改善を図
る手段として、多層膜化または混合膜、不均質膜等を適
用することが考えられ、田澤、種村は、上記技術を改良
するものとして、「選択放射膜の理論設計 その2 酸
化シリコン膜の放射冷却能力の改善」(平成4年度 日
本太陽エネルギー学会・日本風力エネルギー協会合同研
究発表会講演論文集 223ページ;以下、文献3)に
おいて、SiおよびSiOの混合膜を提案している。こ
の提案は、SiO薄膜上にSiおよびSiOの混合膜を
形成するものであり、形成された混合膜を高い放射冷却
能力を示している。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上記文献1、2の従来
例は、SiOが有する吸収特性を利用して放射冷却膜と
しての特性を実現しているが、図7に示すように大気の
窓領域(波長8〜13μmの領域)における低反射部分
の帯域幅が狭いので、十分な放射冷却効果が得られな
い。また、放射冷却膜は一般に野外で利用されるので高
度の耐候性を有していることが要求されるが、上記従来
例で用いられているSiOはSiの化合物としては安定
ではなく、酸化によってSiO2 になる傾向を有してい
るため、耐候性の点で有利な材料とは言えない。また、
上記文献3の従来例は、例えば図8に示すような特性の
SiO‐Si/SiO混合膜を作製する場合、複数の蒸
発源を使用して夫々の蒸発速度を管理しながらSi薄膜
上で各層の構成物質を混合するため、作製が困難である
とともに上記特性を良好な再現性で再現することが困難
である。
【0008】本発明は、上述した問題に鑑みてなされた
もので、放射冷却能力および耐候性を高めた放射冷却膜
を容易に作製し得るような設計手法を確立することを目
的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】この目的のため、本発明
の放射冷却膜は、Alを基板とし、Si層およびSi酸
化物層を具え、前記基板上に大気側より膜厚40〜30
0nmのSiO2 の第1層、膜厚120〜600nmの
SiOの第2層および、膜厚480〜660nmのa‐
Siの第3層を具えて成ることを特徴としたり、あるい
は、Alを基板とし、Si層およびSi酸化物層を具
え、前記基板上に大気側より膜厚30〜280nmのS
iO2 の第1層、膜厚340〜590nmのSiOの第
2層および、膜厚480〜710nmのSiの第3層を
具えて成ることを特徴とするものである。
【0010】
【作用】本発明によれば、Alを基板とし、Si層およ
び少なくとも2層以上のSi酸化物層を具える多層膜構
造の放射冷却膜を以下の評価関数に基づいて設計するこ
とにより、後に詳述する図3〜5の特性図に示すよう
な、良好な放射冷却能力および高度な耐候性を有する放
射冷却膜を容易に作製することが可能になる。
【0011】上記放射冷却膜の設計に際しては、前記文
献1、2にも記載されているように、放射冷却の角度特
性を考慮する必要がある。すなわち、大気の窓の特性
は、鉛直(垂直)方向の放射(熱輻射)に対しては冷却
効果が高くなるが、鉛直方向から角度がずれるにつれて
冷却効果が低下する現象を示す。この現象に対処する方
法の1つとして、非結像光学系集光ミラーを用いて鉛直
方向(およびその近傍)の領域の放射のみが選択放射面
に入射させることが考えられる。その場合、鉛直方向の
大気放射のみを用いることによって十分な放射冷却効果
が期待できる。しかし、ミラー面での反射により、選択
放射面には入射角度の大きい放射が入射するようになる
ことから、鉛直方向の入射に対する特性を考慮するだけ
では不十分であり、選択放射面から半球方向への放射特
性をも考慮する必要がある。
【0012】放射冷却膜のエネルギー取り出しへの応用
を考えた場合、到達温度が低い温度になったと仮定して
も、取り出せる有効エネルギーが少なくては実用価値が
低くなる。また、温度差が小さい領域で大きい有効エネ
ルギーが取り出せたと仮定しても、温度差が小さくては
実用価値が低くなる。
【0013】上記C.G.Granqvist らの論文では主に、大
気の窓領域の放射率(emissivity)および全波長領域で
の放射率の比であるηに注目している。ηは物体の放射
によるエネルギー交換の程度を表わし、1は最も活発に
熱交換を行う状態に対応し、0は全く熱交換を行わない
状態に対応する。しかし、ηは到達温度を大きくするた
めの指標ではあるが、エネルギー的な効率を考慮した値
ではない。また、上記論文には、冷却能力(冷却パワ
ー)を大きくするためには大気の窓領域での放射率es2
(θ)が大きい方がよいと記載されているが、e
s2(θ)はあくまでも補助的な要素として位置付けられ
ているに過ぎない。
【0014】実用領域において取り出せるエネルギーを
最大にするためには、上記C.G.Granqvist らの論文中の
記号を用いて表わした評価関数;ηes2=es2 2 /es
を最大にする条件で設計すればよいと結論付けられる。
以下にその理由を詳述する。環境温度T0 の下で、ある
物体が熱容量Mを有し、温度T1 の状態におかれている
とすると、その物体が有しているエクセルギーは、次式
で与えられる。
【数1】 E=(M/2T0 )(T1 −T02 −(1) 上記物体をある冷却能力で冷却したときの単位時間当た
りの冷却エネルギーPは、温度差をΔTとすると、次式
で与えられる。
【数2】 P=MΔT −(2) (2)式を(1)式に代入してMを消去すると、エクセ
ルギーとしての評価を表わす次式が得られる。
【数3】 E=(M/2T0 )ΔT2 =PΔT2 /2T0 ΔT=PΔT/2T0 −(3)
【0015】ここで、冷却パワーと温度差が一次式で結
合されていると仮定すると、
【数4】 P=P0 −kΔT −(4) となる(ただし、P0 ;温度差0での冷却パワー、k;
比例定数)。(4)式を(3)式に代入して変形する
と、次式となる。
【数5】 E=(ΔT/2T0 )(P0 −kΔT)=(P0 ΔT−kΔT2 )/2T0 −(5) この(5)式により、エクセルギーEはP0 、ΔT、
k、T0 の関数として表わされるので、計算によって求
めることができる。
【0016】エクセルギーEが最大値となるΔTを求め
るため、EをΔTで微分し、dE/ΔT=0とすると、
【数6】 ΔT=−P0 /2k −(6) が得られる。上述したように冷却パワーと温度差が一次
式で結合されていると仮定しているので、kは次式で与
えられる。
【数7】 k=−P0 /ΔTmax −(7)
【0017】(7)式を(6)式に代入して変形する
と、次式となる。
【数8】 ΔT=(P0 /2)(ΔTmax /P0 )=ΔTmax /2 −(8) この(8)式より、ΔTは最大到達温度の1/2程度に
設定するのが最も効率がよいことが分かる。そのときの
エクセルギーEは、次式で与えられる。
【数9】 E=PΔT/2T0 =(P0 /2)(ΔTmax /2)/2T0 =P0 ΔTmax /8T0 −(9) この(9)式より、P0 とΔTmax との積が最大になる
ような使用条件で使用した場合に最も効率が高くなるこ
とが分かる。したがって、このP0 とΔTmax との積を
最大にするように薄膜を設計すればよいことが分かる。
【0018】次に、P0 およびΔTmax を最大にする条
件を各々詳細に検討する。まず、ΔTmax を最大にする
条件を求めるため、放射冷却のパワーについて検討す
る。放射冷却のパワーは、大気および冷却面の放射のバ
ランスに依存するので、次式で与えられる。
【数10】
【0019】(10)式において、Prad とは放射冷却
膜の冷却パワーを表わし、右辺第1項で表わされる外へ
出ていく放射のエネルギーと第2項で表わされる放射冷
却膜が受ける放射エネルギーとの差として定義され、こ
の差が実際の放射冷却のパワーとなる。また、(10)
式において、W(λ,Ta)は黒体の輻射を表わすプラン
クの式であり、Ts 、Ta は夫々、表面の温度および大
気の温度である。また、es 、ea 、は夫々、表面の放
射率および大気の放射率であり、次式で与えられる。
【数11】 ここで、 ea (θ,λ)=1. 3<λ<8(μm ) ea (θ,λ)=const. 8<λ<13(μm ) ea (θ,λ)=1. 13<λ<50(μm ) R(θ,λ)は入射角θ、波長λにおける表面の反射
率、RTE、RTMは夫々、TE波およびTM波に対する表
面の反射率を示す。
【0020】ところで、上記(10)式はそのままでは
理解しにくいので、C.G.Granqvistらの論文中に記載さ
れている放射冷却パワーを求める近似式を引用する。こ
の近似式は、上記(10)式と同一内容の式であり、T
a s の仮定条件の下で、次式のように表わされる。
【数12】 ここで、σはσ=5.67×10-8Wm-2-4となる常
数である。(12)式において、平衡点、すなわちP
rad =0となる条件は、(12)式の{ }内が0にな
る条件であり、次式により表わされる。
【数13】
【0021】(13)式の値を大きくするためには、e
s2(θ)/es (θ)の値を大きく取る必要があり、こ
の値をηとして定義している。
【数14】 η=es2 (θ)/es (θ) −(14) ここで、es2(θ)は、8μm 〜13μm での特定の角度
方向における物体の放射によるエネルギー変換の程度を
表わす数値であり、es (θ)は全波長域における、特
定の角度方向における物体の放射によるエネルギー変換
の程度を表す数値であることから、ηは大気の窓領域の
放射率と全波長領域での放射率の比となり、ΔTを大き
くするためにはηの値を大きくすることが必要になる。
C.G.Granqvist らの論文にはΔTとηをどのように関連
付けるかが明示されていないが、(13)式よりηと
(Ta 4 −Ts 4 )の最大値とが比例関係にあることが
分かる。したがって、有効な冷却エネルギーを最大にす
る設計を行うためには、ΔT=Ta −Ts を適切にコン
トロールする必要がある。
【0022】(13)式をΔTを用いた表現に直すため
に、Ts =Ta −ΔTを代入すると、(13)式は次式
のように変形される。
【数15】 (Ta 4 −Ts 4 )=Ta 4 −(Ta −ΔT)4 =4Ta 3 ΔT−6Ta 2 ΔT2 +4Ta ΔT3 −ΔT4 −(15) この(15)式では、Ta はΔTに比べて大きいことか
ら、ΔTの1次の項が支配的であることが分かる。した
がって、ηとΔTmax とがほぼ比例関係にあるものとし
てよいことが分かる。
【0023】次に、P0 を最大にするためにはどのよう
な設計条件が必要であるかを検討する。上記(12)式
にTs =Ta を代入すると次式が得られる。
【数16】 この(16)式において、ea2(θ)は大気の特性であ
って気象条件により与えられる条件であるので、Prad
( ΔT=0)を大きくするにはes2(θ)を大きくする必要
がある。よって、Prad ( ΔT=0)はes2(θ)にほぼ比
例することが期待できる。
【0024】以上より、(1)P0 とΔTMAX との積が
最大になるような設計が望ましく、(2)Prad ( ΔT=
0)はes2(θ)にほぼ比例し、(3)ηとΔTmax とは
ほぼ比例関係にあることが分かった。以上により放射冷
却膜のある角度θでの評価関数を定義することができた
が、実際に使用する際には、半球方向の立体角を考慮し
て単一評価尺度を求めることが必要になる。したがっ
て、ηes2=es2 2 /es を評価関数として採用するこ
とが妥当であることが分かった。
【0025】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づき詳細に
説明する。図1は本発明の放射冷却膜の第1実施例の設
計例を示す断面図である。本実施例の放射冷却膜1は、
Al基板上に大気側より膜厚d1=140nmのSiO
2 の第1層、膜厚d2=400nmのSiOの第2層、
および膜厚d3=580nmのa‐Si(アモルフォス
シリコン)の第3層を設けた多層膜構造になっている。
【0026】次に、この第1実施例の放射冷却膜1の性
能評価について説明する。なお、上記放射冷却膜の設計
および評価においては、SiOの光学定数として前記文
献1、2中のグラフから求めた光学定数を用い、SiO
2 、a‐Si、Si、Alの光学定数については、Edwa
rd D.Paric(ed,) のHandBook of Optical Constantsof
Solids,1985のデータを用いた。また、放射冷却膜の評
価は、図6(a)〜(e)に各層を構成する物質(A
l、Si、SiO、SiO2 、a‐Si)毎の屈折率n
および吸収係数kの特性を示すように、波長5〜30μ
m(波数2000〜333cm-1)の領域で実施した。
【0027】上記評価関数;ηes2=es2 2 /es を用
いて放射冷却膜の冷却能力を評価すると、第1実施例の
放射冷却膜は、ηes2=es2 2 /es =1.377とな
った。この評価関数の値に基づいて実用上の膜厚の許容
範囲を規定するために、ηe s2=es2 2 /es >1.2
の条件で各層の膜厚の各種の組み合わせについて数値計
算を行って各層の膜厚の許容範囲を求めたところ、第1
層のSiO2 は40〜300nm、第2層のSiOは1
20〜600nm、第3層のa‐Siは480〜660
nmにすればよいことが確かめられた。これらの許容範
囲は、請求項1記載の範囲と一致している。なお、さら
に高い冷却能力が要求される場合には、ηes2=es2 2
/es >1.36の条件を用いるのが望ましく、その場
合の許容範囲は夫々、第1層のSiO2 は80〜220
nm、第2層のSiOは300〜480nm、第3層の
a‐Siは560〜600nmにすればよいことが確か
められた。
【0028】上記設計例の放射冷却膜は、入射角45°
について波数とRp(P成分の反射率)、Rs(S成分
の反射率)との間の関係を示す、図3に示すような反射
率特性が得られ、また、図5に実線で示す冷却パワー特
性が得られた。この冷却パワー特性は、図9に点線で示
したC.G.Granqvist らの従来例(SiO単層膜)の特性
を大きく上回るとともに、実線で示した田澤、種村の従
来例の特性とほぼ同等の良好なものとなった。なお、上
記特性の算出は、波長範囲3〜30μ、周囲温度294
K、垂直方向の大気の窓領域での大気放射率0.2の条
件を用いた。
【0029】また、上記設計例の放射冷却膜は、多層膜
として構成されているので、混合膜である田澤、種村の
従来例に対し作製の容易性、特性の再現性、コスト、耐
候性の点で優位性を有している。すなわち、本実施例の
放射冷却膜は、1つの蒸発源を用いて各層の構成物質を
順番に積層するので、作製が容易であるとともに特性の
再現性がよい。また、上記従来例で用いているSiOは
Siの化合物としては安定しておらず、蒸着速度、圧力
によって屈折率が大きく変化する特性を有するため高度
な工程管理が必要となり、放射冷却膜のコストアップを
招くが、本実施例の製膜条件では厳密な膜厚の管理は要
求されないので、コストダウンになる。さらに、本実施
例の放射冷却膜は、最外層にSiO2 を有しているた
め、耐候性が優れている。
【0030】図2は本発明の放射冷却膜の第2実施例の
設計例を示す断面図である。本実施例の放射冷却膜2
は、Al基板上に大気側より膜厚d1=130nmのS
iO2の第1層、膜厚d2=390nmのSiOの第2
層、および膜厚d3=630nmのSiの第3層を設け
た多層膜構造になっている。
【0031】次に、この第2実施例の放射冷却膜2の性
能評価について説明する。上記評価関数;ηes2=es2
2 /es を用いて第1実施例と同様にして放射冷却膜の
冷却能力を評価すると、第2実施例の放射冷却膜は、η
s2=es2 2 /es =1.362となった。この評価関
数の値に基づいて実用上の膜厚の許容範囲を規定するた
めに、ηes2=es2 2 /es >1.2の条件で各層の膜
厚の各種の組み合わせについて数値計算を行って各層の
膜厚の許容範囲を求めたところ、第1層のSiO2 は3
0〜280nm、第2層のSiOは340〜590n
m、第3層のSiは480〜710nmにすればよいこ
とが確かめられた。これらの許容範囲は、請求項2記載
の範囲と一致している。なお、さらに高い冷却能力が要
求される場合には、ηes2=es2 2 /es >1.35の
条件を用いるのが望ましく、その場合の許容範囲は夫
々、第1層のSiO2 は90〜190nm、第2層のS
iOは390〜450nm、第3層のSiは610〜6
50nmにすればよいことが確かめられた。
【0032】上記設計例の放射冷却膜は、入射角45°
について波数とRp(P成分の反射率)、Rs(S成分
の反射率)との間の関係を示す、図4に示すような反射
率特性が得られ、また、図5に点線で示す冷却パワー特
性が得られた。この冷却パワー特性は、図9に点線で示
したC.G.Granqvist らの従来例(SiO単層膜)の特性
を大きく上回るとともに、実線で示した田澤、種村の従
来例の特性とほぼ同等の良好なものとなった。
【0033】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、A
lを基板上にSi層および少なくとも2層以上のSi酸
化物層を具える多層膜構造の放射冷却膜を上述した評価
関数に基づいて設計したから、多層膜化によって図3〜
5の特性図に示すように放射冷却能力が向上し、SiO
2 を最外層にしたことにより耐候性が向上し、さらに、
各層の膜厚の許容範囲が大きくなって簡便な製造設備に
よる薄膜作製が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の放射冷却膜の第1実施例の設計例を示
す断面図である。
【図2】本発明の放射冷却膜の第1実施例の設計例を示
す断面図である。
【図3】第1実施例において、入射角45°について波
数とP成分の反射率、S成分の反射率との間の関係を示
す特性図である。
【図4】第2実施例において、入射角45°について波
数とP成分の反射率、S成分の反射率との間の関係を示
す特性図である。
【図5】第1、第2実施例の放射冷却パワーと温度差と
の関係を示す特性図である。
【図6】(a)〜(e)は夫々、波長5〜30μm(波
数2000〜333cm-1)の領域においてAl、S
i、SiO、SiO2 、a‐Si毎の屈折率および吸収
係数の特性を示す特性図である。
【図7】SiOを用いる従来例において、入射角45°
について波数とP成分の反射率、S成分の反射率との間
の関係を示す特性図である。
【図8】田澤、種村の提案したSiおよびSiOの混合
膜の従来例において、入射角45°について波数とP成
分の反射率、S成分の反射率との間の関係を示す特性図
である。
【図9】従来例の放射冷却パワーと温度差との関係を理
想的な放射冷却膜の場合と比較しながら示す特性図であ
る。
【符号の説明】
1 放射冷却膜 2 放射冷却膜
─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】
【提出日】平成5年7月9日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正内容】
【0013】上記C.G.Granqvist らの論文では主に、大
気の窓領域の放射率(emissivity)および全波長領域で
の放射率の比であるηに注目している。ここで、ηは前
述したように、大気の窓領域の放射率(emissivity) と
全波長領域の放射率(emissivity) の比であり、ηが大
きいほど温度差を大きくすることができるという放射冷
却膜の性能を表わし、1は最も活発に熱交換を行う状態
に対応し、0は全く熱交換を行わない状態に対応する。
しかし、ηは到達温度を大きくするための指標ではある
が、エネルギー的な効率を考慮した値ではない。また、
上記論文には、冷却能力(冷却パワー)を大きくするた
めには大気の窓領域での放射率es2(θ)が大きい方が
よいと記載されているが、es2(θ)はあくまでも補助
的な要素として位置付けられているに過ぎない。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正内容】
【0015】ここで、冷却パワーが温度差の1次関数で
あると仮定すると、
【数4】 P=P0 −kΔT −(4) となる(ただし、P0 ;温度差0での冷却パワー、k;
比例定数)。(4)式を(3)式に代入して変形する
と、次式となる。
【数5】 E=(ΔT/2T0 )(P0 −kΔT)=(P0 ΔT−kΔT2 )/2T0 −(5) この(5)式により、エクセルギーEはP0 、ΔT、
k、T0 の関数として表わされるので、計算によって求
めることができる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正内容】
【0024】以上より、(1)Prad (ΔT=0) とΔT
MAX との積が最大になるような設計が望ましく、(2)
rad (ΔT=0) はes2(θ)にほぼ比例し、(3)η
とΔTmax とはほぼ比例関係にあることが分かった。以
上により放射冷却膜のある角度θでの評価関数を定義す
ることができたが、実際に使用する際には、半球方向の
立体角を考慮して単一評価尺度を求めることが必要にな
る。したがって、ηes2=es2 2 /es を評価関数とし
て採用することが妥当であることが分かった。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正内容】
【0029】また、上記設計例の放射冷却膜は、多層膜
として構成されているので、混合膜である田澤、種村の
従来例に対し作製の容易性、特性の再現性、コスト、耐
候性の点で優位性を有している。すなわち、田澤−種村
の従来例では混合膜を作製するため、複数の蒸発源を用
い、それぞれの蒸着速度を正確にコントロールしなけれ
ば作製できなかったのに対し、本実施例の放射冷却膜は
1つの層を蒸着するのに1つの蒸発源を用い、そのコン
トロールは蒸着時間のみで容易に制御することができる
ため、作製が容易であるという効果を有するとともに特
性の再現性もよい。また、上記従来例で用いているSi
OはSiの化合物としては安定しておらず、蒸着速度、
圧力によって屈折率が大きく変化する特性を有するため
高度な工程管理が必要となり、放射冷却膜のコストアッ
プを招くが、本実施例の製膜条件では厳密な膜厚の管理
は要求されないので、コストダウンになる。さらに、本
実施例の放射冷却膜は、最外層にSiO2 を有している
ため、耐候性が優れている。

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Alを基板とし、Si層およびSi酸化
    物層を具える放射冷却膜であって、前記基板上に大気側
    より膜厚40〜300nmのSiO2 の第1層、膜厚1
    20〜600nmのSiOの第2層および、膜厚480
    〜660nmのa‐Siの第3層を具えて成ることを特
    徴とする、放射冷却膜。
  2. 【請求項2】 Alを基板とし、Si層およびSi酸化
    物層を具える放射冷却膜であって、前記基板上に大気側
    より膜厚30〜280nmのSiO2 の第1層、膜厚3
    40〜590nmのSiOの第2層および、膜厚480
    〜710nmのSiの第3層を具えて成ることを特徴と
    する、放射冷却膜。
JP15200493A 1993-06-23 1993-06-23 放射冷却膜 Withdrawn JPH0713018A (ja)

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