JPH05214485A - 靱性に優れた耐摩耗鋼 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 土木建設機械等に使用されるトラックシュ
ー、トラックリンク、リッパーポイント、チゼル等の各
種部品用鋼材に好適な高靱性耐摩耗鋼を提供する。 【構成】 重量％でＣ: 0.30〜0.50％、Si: 0.15％以
下、Mn: 0.60％以下、Ｐ:0.015％以下、Ｓ: 0.015 ％以
下、Nb: 0.010 〜0.100 ％、Cr: 0.80〜3.00％、Mo: 0.
30〜2.00％、さらに必要に応じて、Cu: 1.00％以下、N
i: 5.00％以下、Ti: 0.010 〜0.100 ％、Ｂ:0.0005 〜
0.0050％、Ｖ: 0.01〜0.30％、Zr: 0.01〜0.20％、Ｗ:
0.01〜0.50％、Ca: 0.0005〜0.0100％からなる群から選
ばれた１種または２種以上を含み、残部Feおよび不可避
的不純物からなる。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、靱性に優れた耐摩耗鋼
に関する。さらに詳しくは、本発明は特に土木建設機械
等に使用されるトラックシュー、トラックリンク、リッ
パーポイント、チゼル等の各種部品用鋼材に好適な高靱
性耐摩耗鋼に関する。

【０００２】

【従来の技術】従来、土木建設機械に使用されるトラッ
クシュー、トラックリンク、リッパーポイント、チゼル
等の各種部品用としては、耐摩耗鋼が使用されている。
例えば、その一例としてはJIS 規格のG4106 機械構造用
マンガン鋼(SMn鋼) 、マンガンクロム鋼(SMnC 鋼); G41
05クロムモリブデン鋼(SMC鋼); G4104クロム鋼(SCr鋼);
G4103ニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM 鋼); G4102ニ
ッケルクロム鋼(SNC鋼) などがあり、特に以下に示すよ
うな組成を有するSCM 鋼440 が多用されている。

【０００３】[SCM 鋼440]C:0.38 〜0.43％ (以下、本明
細書においては特にことわりがない限り「％」は「重量
％」を意味するものとする) 、Si:0.15 〜0.35％、Mn:
0.60 〜0.85％、Ｐ:0.030％以下、Ｓ:0.030％以下、Cr:
0.90 〜1.20％、Mo:0.15 〜0.30％、残部Feおよび不可
避的不純物 しかし、このSCM 鋼440 には、焼入れ性が不充分であ
ること、および耐摩耗性が不充分であることという問
題があった。

【０００４】そこで、本発明者らは、先に特開昭60−21
5743号公報により、Ｃ：0.35〜0.45％、Si：0.60〜1.50
％、Mn：1.80％以下、Cr：2.50〜4.50％、Mo：0.20〜1.
00％を含み、残部Fe及び不可避的不純物より成る耐摩耗
鋼を提案した。すなわち、0.60〜1.50％と多めに含有す
るSiの作用により耐摩耗性を確保した点に特徴の一つが
ある発明である。

【０００５】

【発明が解決しようとする課題】しかし、本発明者らの
その後の検討によれば、この提案にかかる耐摩耗鋼は耐
摩耗性を重視されるために靱性が劣化し、例えば前述の
ような土木建設機械の各種部品用材料として使用した場
合、折損してしまうという問題があることがわかった。
ここに、本発明の目的は、特に土木建設機械等に使用さ
れるトラックシュー、トラックリンク、リッパーポイン
ト、チゼル等の各種部品用鋼材に好適な高靱性耐摩耗鋼
を提供することにある。

【０００６】

【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、前記問
題を解決するために種々検討を重ねた結果、以下に列記
する内容の知見を得た。折損した各種部品の破面を観
察したところ、破壊の起点近傍は粒界破壊をしているこ
と、粒界脆化を生じやすい元素はＰ、Ｓのみではな
く、Si、Mnも粒界脆化促進元素であること、Nbには逆
に粒界脆化を抑制する効果があることである。

【０００７】そこで、本発明者は上記課題を解決するた
めさらに検討を重ね、本発明を完成した。ここに、本発
明の要旨とするところは、重量％でＣ: 0.30〜0.50％、
Si: 0.15％以下、Mn: 0.60％以下、Ｐ:0.015％以下、
Ｓ: 0.015 ％以下、Nb: 0.010 〜0.100 ％、Cr: 0.80〜
3.00％、Mo: 0.30〜2.00％、さらに必要に応じてCu: 1.
00％以下、Ni: 5.00％以下、Ti: 0.010 〜0.100 ％、
Ｂ:0.0005 〜0.0050％、Ｖ: 0.01〜0.30％、Zr: 0.01〜
0.20％、Ｗ: 0.01〜0.50％、Ca: 0.0005〜0.0100％から
なる群から選ばれた１種または２種以上を含み、残部Fe
および不可避的不純物からなることを特徴とする靱性に
優れた耐摩耗鋼に関するものである。

【０００８】

【作用】本発明にかかる耐摩耗鋼の特徴は、略述すれ
ば、Ｐ、Ｓ、Si、Mnを低減することにより粒界脆化を抑
制するとともに、Nbを添加することにより粒界脆化抑制
効果を増加し、耐折損性の向上を図るものである。さら
に、Ｃ、Cr、Moを調整することにより耐摩耗性の向上を
図るものである。まず、本発明において化学組成を限定
する理由を説明する。

【０００９】Ｃ:Ｃは、鋼に所定の静的強度および耐摩
耗性を確保するために有効な元素であるが、反面靱性を
低下させる元素でもある。すなわち、耐折損性および耐
摩耗性を向上させるためには、硬さおよび靱性のバラン
スが必要であり、最低減の硬さを得るためには、0.30％
以上が必要である。しかし、0.50％を越えて添加すると
靱性が著しく低下するため、上限を0.50％とする。そこ
で、本発明では、Ｃ含有量は、0.30％以上0.50％以下と
限定する。

【００１０】Si:Siは、鋼の脱酸に必要であるととも
に、所定の静的強度を付与するのに必要な元素である。
しかし、本発明者らの知見によれば、Siは後述するＰ、
Ｓおよび後述するMn同様粒界に偏析し、粒界脆化を促進
する元素である。特に、0.15％を越えると粒界脆化が著
しくなるため、0.15％以下に抑える必要がある。そこ
で、本発明では、Si含有量は0.15％以下と限定する。

【００１１】Mn:Mnは、Si同様に鋼の脱酸に必要な元素
であり、また焼入れ性を向上させるのに有効な元素であ
る。しかし、本発明者らの知見によれば、、前述したSi
や後述するＰおよびＳと同様に、粒界に偏析して粒界脆
化を生じ易い元素である。特に、0.60％を越えると粒界
脆化が著しいため、Mn量を0.60％以下に抑制する必要が
ある。そこで、本発明では、Mn含有量を0.60％以下に限
定する。

【００１２】Ｐ:Ｐは、粒界を脆化する作用がある元素
であり、粒界を強化するためにはできるだけ低く抑える
ことが望ましい。特に、0.015 ％を越えると、粒界脆化
が著しいため、0.015 ％以下に抑える必要がある。そこ
で、本発明では、Ｐ含有量は、0.015 ％以下と限定す
る。

【００１３】Ｓ:Ｓは、Ｐ同様に粒界を脆化する元素で
ある。特に0.015 ％を越えると粒界脆化が著しいため耐
遅れ破壊性を向上させるためには0.015 ％以下に抑える
必要がある。そこで、本発明では、Ｓ含有量は0.015 ％
以下と限定する。

【００１４】Nb:本発明者らの知見によれば、Nbには粒
界脆化を抑制する作用がある。かかる粒界脆化抑制作用
を発揮させるためには0.010 ％以上の添加が有効であ
る。しかし、0.100 ％を越えると結晶粒が粗大化して却
って靱性を低下させるため上限を0.100 ％とする。そこ
で、本発明では、Nb含有量は0.010 ％以上0.100 ％以下
と限定する。

【００１５】Cr:Crは、鋼に焼入れ性を付与するのに有
効な元素であり、また耐摩耗性を向上させる元素であ
る。かかる効果を発揮させるためには、最低0.80％以上
の添加が有効である。しかし、3.00％を越えて添加する
と靱性が著しく低下するため、上限を3.00％とする。そ
こで、本発明では、Cr含有量は0.80％以上3.00％以下と
限定する。

【００１６】Mo:Moは、鋼に所定の焼入れ性を付与し、
静的強度および靱性を向上させ、さらに耐摩耗性を向上
させる作用を奏する元素である。特に、耐摩耗性を向上
させるためには、0.30％以上の添加が有効である。しか
し、2.00％を越えて添加してもその効果は飽和し経済性
を損なうばかりである。そこで、本発明では、Mo含有量
は、0.30％以上2.00％以下と限定する。上記以外の組成
は、Feおよび不可避的不純物である。

【００１７】本発明にかかる靱性に優れた耐摩耗鋼は、
以上で述べたＣ、Si、Mn、Ｐ、Ｓ、Nb、CrおよびMoを所
定量含有することを骨子とするものであるが、さらに、
下記元素を少なくとも一種適正量添加すれば、一層その
効果が発揮されるため、望ましい。

【００１８】Cu:Cuは、鋼の静的強度を向上させるのに
有効な元素である。その効果を発揮させるためには適宜
添加すればよいが、1.00％を越えて添加すると熱間加工
性が低下する。したがって、Cu含有量は1.00％以下とす
ることが望ましい。

【００１９】Ni:Niは、Mnと同様に鋼に所定の焼入れ性
を付与し、静的強度および靱性を向上させるのに有効な
元素である。ただし、5.00％を越えて添加してもその効
果は飽和し、経済性を損なう。そこで、。Ni含有量は5.
00％以下と限定することが望ましい。

【００２０】Ti:Tiは、Alと同様に鋼の結晶粒を微細化
し、靱性を向上させるのに有効である。その効果を充分
発揮させるためには、0.010 ％以上の添加が有効であ
る。しかし、0.100 ％を越えて添加すると、逆に結晶粒
が粗大化し、靱性を低下させる。そこで、本発明では、
Ti含有量は0.100 ％以下と限定することが望ましい。

【００２１】Ｂ:Ｂは、鋼の焼入れ性を向上させ、静的
強度を上昇させるのに有効な元素である。かかる効果を
発揮させるためには0.0005％以上の添加が有効である。
添加量が0.0050％を越えると鋼の結晶粒を粗大化させ靱
性を低下させる。そこで、本発明では、Ｂ含有量は、0.
0005％以上0.0050％以下と限定することが望ましい。

【００２２】Ｖ:Ｖは、鋼中で炭窒化物を生成し、鋼の
高温強度を高めるのに有効である。その効果を発揮させ
るためには0.01％以上添加することが有効である。しか
し、0.30％を越えて含有させると、熱間加工性を低下さ
せるため、0.30％を上限とする。そこで、本発明では、
Ｖ含有量は0.01％以上0.30％以下と限定すること望まし
い。

【００２３】Zr:Zrは、鋼中の炭化物を球状微細に分散
させて耐遅れ破壊性を一層改善させる効果を有するた
め、高強度鋼の場合は高い耐遅れ破壊性を確保する目的
で添加する。0.01％未満ではその効果は小さく。一方0.
20％を越えて添加させてもその効果は飽和する。そこ
で、本発明では、Zr含有量は、0.01％以上0.20％以下と
限定することが望ましい。

【００２４】Ｗ:Ｗは、炭化物を形成し耐摩耗性の向上
に効果がある元素である。。その効果を発揮させるため
には、0.01％以上の添加が有効である。しかし、0.50％
を越えて添加しても効果は飽和し経済性を損なう。そこ
で、本発明では、Ｗ含有量は、0.01％以上0.50％以下と
限定することが望ましい。

【００２５】Ca:Caは、切削性を向上させる元素である
が、その効果を充分発揮させるためには0.0005％以上の
添加が有効である。一方、0.0100％を越えて添加すると
靱性が低下する。そこで、本発明では、Ca含有量は、0.
0005％以上0.0100％以下と限定することが望ましい。

【００２６】かかる鋼組成を有する本発明にかかる耐摩
耗鋼は、優れた靱性を有する。なお、その溶製方法等は
何ら限定を要するものでないことはいうまでもない。具
体的には、本発明にかかる靱性に優れた耐摩耗鋼は、常
温における断面硬さ：500Hv 以上、500 ℃における高温
硬さ：350Hv 以上、シャルピー吸収エネルギー:10kgf−
m 、耐摩耗性指数：1.1 以上という機械的性質を有す
る。さらに、本発明を実施例を参照しながら詳述する
が、これはあくまでも本発明の例示であり、これにより
本発明が限定されるものでない。

【００２７】

【実施例】表１に示す化学組成を有する鋼種１ないし31
を通常の方法によって溶製し、100mm φの丸棒に圧延し
た。これらの供試材を長さ1000mmに切断した後、850 ℃
×２Hrの条件で加熱し、水焼入れを行った後、300 ℃×
２Hrの条件で焼戻しを行った。

【００２８】これらの供試材について、常温における断
面硬さの測定、500 ℃における高温硬さの測定およびシ
ャルピー衝撃試験 (JIS3号、２mm−Ｕノッチ、100mm φ
表面部削出し) を行った。さらに、回転臼型摩耗試験機
を用いて摩耗試験を行い、一定時間内での摩耗量をSCM4
40と比較して耐摩耗性指数を求め、その結果を併せて表
１に示した。なお、本実施例では、常温における断面硬
さ：500Hv 以上、500 ℃における高温硬さ：350Hv 以
上、シャルピー吸収エネルギー:10kgf−m 、耐摩耗性指
数：1.1 以上を合格とした。

【００２９】

【表１】

【００３０】表１から明らかなように、本発明で規定す
る成分値を満足する鋼においては、硬さ、シャルピー吸
収エネルギーおよび耐摩耗性のいずれの項目において
も、目標値を満足できたことがわかる。これに対し、鋼
種17は、Ｃ含有量が本発明の範囲の下限を下廻っている
ため、硬さが不足した。

【００３１】鋼種18は、Ｃ含有量が本発明の範囲の上限
を上廻っているため、靱性が低下した。鋼種19は、Si含
有量が本発明の範囲の上限を上廻っているため、粒界脆
化が著しくなり、靱性が劣化した。鋼種20は、Mn含有量
が本発明の範囲の上限を上廻っているとともに、Cr含有
量が本発明の範囲の下限を下廻っているため、靱性の劣
化が著しい。

【００３２】鋼種21は、Ｐ含有量が本発明の範囲の上限
を上廻っているため、粒界脆化が著しくなり、靱性が劣
化した。鋼種22は、Ｓ含有量が本発明の範囲の上限を上
廻っているため、靱性が劣化した。鋼種23は、Cr含有量
が本発明の範囲の上限を上廻っているため、靱性が劣化
した。

【００３３】鋼種24は、Nb含有量が本発明の範囲の上限
を上廻っているとともにMo含有量が本発明の範囲の下限
を下廻っているため、靱性が劣化した。鋼種25は、Si含
有量が本発明の範囲の上限を上廻っているとともにMn含
有量が本発明の範囲の上限を上廻っているため、靱性が
劣化した。鋼種26は、Si、MnおよびＰのそれぞれの含有
量が本発明の範囲の上限を上廻っているため、靱性が劣
化した。

【００３４】鋼種27は、Si含有量が本発明の範囲の上限
を上廻っているとともにCr含有量が本発明の範囲の上限
を上廻っているため、靱性が劣化した。鋼種28および30
は、Ｐ、ＳおよびCrのそれぞれの含有量が本発明の範囲
の上限を上廻っているため、靱性が劣化した。鋼種29
は、SiおよびNb含有量がそれぞれ本発明の範囲の上限を
上廻っているため、靱性が劣化した。鋼種31は、前述の
JIS SCS 44O を満足する供試鋼であるが、靱性の劣化が
著しいことがわかる。

【００３５】

【発明の効果】以上詳述したように、本発明により、靱
性に優れ、特に土木建設機械等に使用されるトラックシ
ュー、トラックリンク、リッパーポイント、チゼル等の
各種部品用鋼材に好適な高靱性耐摩耗鋼を提供すること
ができた。かかる効果を有する本発明の意義は極めて著
しい。

Claims (2)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 重量％で Ｃ: 0.30〜0.50％、Si: 0.15％以下、Mn: 0.60％以下、
   Ｐ:0.015％以下、 Ｓ: 0.015 ％以下、Nb: 0.010 〜0.100 ％、Cr: 0.80〜
   3.00％、 Mo: 0.30〜2.00％、 残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする
   靱性に優れた耐摩耗鋼。
2. 【請求項２】 さらに、重量％で Cu: 1.00％以下、Ni: 5.00％以下、Ti: 0.010 〜0.100
   ％、 Ｂ:0.0005 〜0.0050％、Ｖ: 0.01〜0.30％、Zr: 0.01〜
   0.20％、 Ｗ: 0.01〜0.50％、Ca: 0.0005〜0.0100％からなる群か
   ら選ばれた１種または２種以上を含有することを特徴と
   する請求項１記載の靱性に優れた耐摩耗鋼。