JP7828612B2 - ミノムシ絹糸の採糸装置及び長尺ミノムシ絹糸の生産方法 - Google Patents

ミノムシ絹糸の採糸装置及び長尺ミノムシ絹糸の生産方法

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Description

本発明は、長尺ミノムシ絹糸を採糸する方法、及びそれを用いた採糸装置に関する。
昆虫の繭を構成する糸や哺乳動物の毛は、古来より動物繊維として衣類等に利用されてきた。特にカイコガ(Bombyx mori)の幼虫であるカイコ由来の絹糸(本明細書では、しばしば「カイコ絹糸」と表記する)は、吸放湿性や保湿性、及び保温性に優れ、また独特の光沢と滑らかな肌触りを有することから、現在でも高級天然素材として珍重されている。
近年では、カイコ絹糸に匹敵する、又はそれ以上の優れた特性をもつ動物繊維を自然界より探し出す研究が進められ、新たな天然素材として活用が期待されている。クモ由来の糸(本明細書では、しばしば「クモ糸」と表記する)やミノムシ(bag worm)由来の絹糸(本明細書では、しばしば「ミノムシ絹糸」と表記する)は、その好例である。
クモ糸は、ポリスチレンの数倍に及ぶ高い弾性力の他、柔軟性や伸縮性等の特性を有しており、そのクモの縦糸タンパク質を発現させたカイコのシルクは手術用縫合糸等の医療素材、及び防災ロープ・防護服などの特殊素材としての利用が期待されている(非特許文献1及び2)。しかし、クモ糸の実用化までには課題も多い。まず、クモ糸は、クモの大量飼育やクモから大量採糸が困難なことから量産が難しく、生産コストも高い。ただし、この問題は、現在ではカイコや大腸菌の遺伝子組換え体にクモ糸を生産させることで解決されつつある(特許文献1、非特許文献1)。しかし、遺伝子組換え体は、所定の設備を備えた施設内でしか飼育や培養ができず、維持管理の負担が大きい等の新たな問題が顕在化している。
一方、ミノムシ絹糸は、クモ糸よりもさらに力学的に優れた特性をもつ動物繊維として、近年着目されている。例えば、チャミノガ(Eumeta minuscula)由来のミノムシ絹糸は、弾性率に関してカイコ絹糸の3.5倍、ジョロウグモ(Nephila clavata)のクモ糸の2.5倍にも及び、非常に強い強度を誇る(非特許文献2)。また、ミノムシ絹糸の単繊維における断面積は、カイコ絹糸の単繊維のそれの1/7ほどしかないため、木目細かく、滑らかな肌触りを有し、薄くて軽い布を作製することが可能である。しかも、ミノムシ絹糸は、カイコ絹糸と同等か、それ以上の光沢と艶やかさを備える。ミノムシは、カイコと同様に大量飼育や幼虫の吐糸による採糸が容易であることからクモ糸と異なり量産が可能である。また、管理面では、カイコ以上に優れた点を有する。例えば、カイコは、原則としてクワの生葉のみを食餌とするため、飼育地域や飼育時期はクワ葉の供給地やクワの開葉期に左右される。一方、ミノムシは広食性で、餌葉に対する特異性が低く、多くの種類が様々な樹種の葉を食餌とすることができる。したがって、餌葉の入手が容易であり、飼育地域を選ばない。また、種類によっては、常緑樹の葉も餌葉にできるため、落葉樹のクワと異なり年間を通して餌葉の供給が可能となる。したがって、カイコと比較して飼育コストを大幅に抑制することができる。さらに、ミノムシ絹糸は野生型のミノムシからの直接採取が可能であり、クモ糸の生産のように遺伝子組換え体の作製や特別な維持管理設備を必要としない。以上のような理由からミノムシ絹糸は、将来性のある新規天然素材として期待されている。
ところが、ミノムシ絹糸にも実用化において解決すべきいくつかの問題がある。最大の課題は、ミノムシから1m以上の長尺の繊維を入手することが困難な点である。カイコの場合、カイコ絹糸は繭から採取されるが、繭は蛹化時に幼虫の連続吐糸によって形成されることから、完成した繭を煮繭し、繰糸すれば、数十m以上の長尺繊維を得ることは比較的容易である。一方、ミノムシは、幼虫期に生活していた巣の中で蛹化するため、蛹化前に改めて営繭行動を行わない。また、ミノムシの巣自体が比較的短い絹糸が絡まり合って構成されており、通常、巣内には1mを超える長尺繊維が存在しない。また、既存の技術では、絹糸の周囲に付着している接着成分が少ない最内層からしか紡績できないが、その最内層からもせいぜい50cm未満の長さの絹糸が得られるに過ぎない。以上のような理由から、メートル級のミノムシ絹糸を単繊維で得ることは、既存の技術ではほぼ不可能とされてきた。実際、ミノムシ絹糸を織り込んだ織布は、これまでに知られていない。
ミノムシ絹糸の実用化におけるもう一つの課題は、ミノムシの巣の表面には、必ず葉片や枝片等が付着しているという点である。ミノムシ絹糸を巣から採糸して製品化する場合、これらの夾雑物を完全に除去する必要がある。しかし、その除去作業は、膨大な手間とコストを要するため、結果的に生産コストが高くなる。また、既存の技術で夾雑物を完全に除去することは困難であり、最終生産物にも僅かな小葉片等が混在する他、夾雑物由来の色素で絹糸が薄茶色に染まる等、低品質なものになるという問題があった。
以上の理由からミノムシ絹糸を新規生物素材として実用化させるためには、夾雑物を含まない純粋で、かつ長尺のミノムシ絹糸の生産方法の開発が必須であった。
ミノムシは、巣を構成する糸(巣絹糸)以外に、枝や葉からの落下防止のため脚掛かりとなる糸をジグザグ状に吐糸して、爪を糸に掛けながら移動する。本発明者らは、この移動用の糸(足場絹糸)が巣絹糸よりも力学的に優れていることを見出し、ミノムシから足場絹糸を長尺で吐糸させ、それを回収する技術開発を試みた。その結果、従来不可能と考えられてきた数十m以上に及ぶ連続する純粋なミノムシ絹糸を安定的に量産することに成功し、当該方法に基づく特許出願(特許文献2)を行った。この方法は、特定の幅を有する線状路にミノムシを配置することで、ミノムシが線状路に沿って自発的に足場絹糸を吐糸し続けるという性質を利用したものである。当該方法は、長尺ミノムシ絹糸の生産方法として画期的な方法ではあったが、同時に新たな課題も顕在化した。一つは、ミノムシのスタミナ面の問題である。ミノムシの場合、巣を保持したまま吐糸を行うため、吐糸のエネルギーに加えて巣を支えるエネルギーを要する。それ故に、1回の採糸工程で長時間にわたって吐糸させることは、ミノムシへの負担が大きかった。また、線状路に配置されたミノムシは、原則としてその線状路に沿って一定の進行方向に吐糸するが、ミノムシの自由度が比較的高いため、時としてミノムシが進行方向を変えたり、線状路から離脱したりする場合があった。進行方向の変更は回収時の糸の縺れや断裂の原因となり得る。さらに、環状線状路上に積層されたミノムシ絹糸は、接着成分によって集積した絹糸どうしが強固に固着し、線状路からの回収や接着成分を除去する精練が困難になる場合もあった。
上記課題を解決するために、本発明者らはさらに研究を重ね、ミノムシ絹糸の採糸から回収までを自動化する装置を開発し、当該装置に基づく特許出願を行った(特許文献3)。この装置によれば、ミノムシを装置内に巣ごと固定する固定器と長軸方向に動く可動式線状路を備えることで、巣を支える負荷からミノムシを解放し、またミノムシの走行方向性を一定に保持することができる。それによって、ミノムシのスタミナを維持しながら長尺ミノムシ絹糸を安定して生産できるようになった。この装置では、環状線状路の場合が最も省スペースで足り、生産効率上好ましい。しかし、線状路の周回によって線状路上にミノムシ絹糸が積層されていくこととなる。積層されたミノムシ絹糸は、セリシンタンパク質様の接着成分によって絹糸どうしも強固に固着してしまうため、ミノムシ絹糸を回収する際に、線状路から剥離する工程のみならず、固着したミノムシ絹糸どうしを引き剥がす工程が必要になる。ところが、接着成分が非常に強固であるのに対して、ミノムシ絹糸はカイコ絹糸よりも細いため強引な引き剥がしはミノムシ絹糸の断裂に繋がり得る。これを回避するためには、ミノムシ絹糸どうしが固着しないようにミノムシ絹糸を回収する必要があった。
WO2012/165477 特開2018-197415 特願2018-227669
Kuwana Y, et al., 2014, PLoS One, DOI: 10.1371/journal.pone.0105325 大崎茂芳, 2002, 繊維学会誌(繊維と工業), 58: 74-78
特願2018-227669では、ミノムシ絹糸どうしが固着しない状態でミノムシ絹糸を回収するという前記課題に対して、装置に剥離器と回収器を備えることで解決している。特願2018-227669に開示の採糸装置では、環状線状路上に吐糸されたミノムシ絹糸を剥離器を介して直ちに線状路から剥離し、剥離されたミノムシ絹糸を回収器に回収するように構成している。この方法であれば、吐糸されたミノムシ絹糸は、環状線状路上の周回前に回収されるためミノムシ絹糸どうしが線状路で固着することはない。ところが、環状線状路から剥離されたミノムシ絹糸を回収器に回収する際に、しばしばミノムシ絹糸の巻き弛みを生じ得るという新たな課題が顕在化した。巻き弛みはミノムシ絹糸の破断の原因になり得る。
そこで、本発明は、特開2018-197415に開示のミノムシ絹糸の採糸装置をさらに改良し、新たに顕在化したミノムシ絹糸の回収時における巻き弛みの問題を改善することを課題とする。
ミノムシ絹糸の巻き弛みは、環状線状路の回転に同調して回収器が回転し、ミノムシ絹糸の巻き取りが行われる中、線状路上でのミノムシの吐糸行動が若干ジグザグなのに対して回収器では直線的に回収されるために発生する。この新たな課題を解決するために本発明者らは、環状線状路上に吐糸されたミノムシ絹糸を直ちに線状路から剥離するのではなく、一定期間ミノムシ絹糸を吐糸させて、その後、線状路上に集積したミノムシ絹糸を回収する方法を採用した。線状路上に集積したミノムシ絹糸に対して回収器から張力を掛けて回収すれば、巻き弛みを生じることはなくなる。しかし、この方法は、前述のようにミノムシ絹糸どうしの引き剥がしの問題が依然として残る。そこで、本発明者らは、環状線状路上に吐糸されたミノムシ絹糸を直ちに接着制御液で処理し、接着成分の接着力を制御することによって上記課題を解決した。この方法によれば、接着成分の接着力が適度に抑制されるため、ミノムシ絹糸どうしは集積可能な程度に接着はするものの、互いに強固に固着していないため、回収時には集積した絹糸塊から1本のミノムシ絹糸を絡ませることなく、断裂しない程度の弱い力で容易に引き出すことができる。それによって、回収時におけるミノムシ絹糸の巻き弛みや絡み防止の管理、調整作業が不要となり、長尺ミノムシ絹糸の生産効率をさらに向上することが可能となった。本発明は、その開発結果に基づくものであり、以下を提供する。
(1)ミノムシ絹糸の採糸装置であって、集積器を備えた可動式環状線状路、ミノムシを固定する固定器、及び接着制御器を備え、前記可動式環状線状路は、前記固定器に固定されるミノムシの左右最大開脚幅未満の幅を有し、かつ前記ミノムシの脚部を係止可能なように構成され、前記集積器は前記可動式環状線状路上に一体化して配置され、前記固定器に固定されたミノムシが前記可動式環状線状路上に吐糸したミノムシ絹糸を集積可能なように構成され、前記固定器は、固定されたミノムシが前記可動式環状線状路に係止できる位置に配置され、そして前記接着制御器は、接着制御液を貯留し、前記可動式環状線状路上に吐糸されたミノムシ絹糸が接着制御液に接触するように構成されている前記採糸装置。
(2)一以上の剥離器をさらに備え、前記剥離器は、前記集積器からミノムシ絹糸を剥離するための剥離液及び/又は蒸気を貯留可能なように構成され、かつ前記集積器の全部又は一部を器内の剥離液及び/又は蒸気に接触できる位置に配置されている、(1)に記載の採糸装置。
(3)前記可動式環状線状路とは独立した回収器をさらに備え、前記回収器は、前記集積器からミノムシ絹糸を回収可能なように構成されている、(1)又は(2)に記載の前記採糸装置。
(4)前記可動式環状線状路が円形形状である、(1)~(3)のいずれかに記載の採糸装置。
(5)前記可動式環状線状路が自動式線状路である、(1)~(4)のいずれかに記載の採糸装置。
(6)回収器はその外周部にミノムシ絹糸を巻き取り可能なように構成された糸巻部を備える、(3)~(5)のいずれかに記載の採糸装置。
(7)長尺ミノムシ絹糸の生産方法であって、採糸に使用するミノムシの左右最大開脚幅未満の幅を有し、かつ前記ミノムシの脚部を係止可能な可動式環状線状路に、そのミノムシの脚部を係止させて前記可動式環状線状路に沿って連続して吐糸させる吐糸工程、前記吐糸工程後に可動式環状線状路上のミノムシ絹糸を接着制御液に接触させる接触工程、前記接触工程後のミノムシ絹糸を集積する集積工程、及び前記集積工程後に集積されたミノムシ絹糸を回収する回収工程を含み、前記吐糸工程において、使用するミノムシ又はそのミノムシ巣は前記可動式環状線状路にミノムシが脚部を係止可能な位置で固定され、かつ前記可動式環状線状路は自動及び/又はミノムシの移動によって長軸方向に動く前記生産方法。
(8)前記集積工程後の線状路に集積されたミノムシ絹糸を剥離液及び/又は蒸気に接触させる第2接触工程をさらに含む、(7)に記載の生産方法。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2020-096444号の開示内容を包含する。
本発明のミノムシ絹糸の採糸装置によれば、長尺ミノムシ絹糸の採糸から回収までの自動化と安定した生産が可能となる。
本発明のミノムシ絹糸の生産方法によれば、巣を支える負荷をミノムシに与えることなく、一定方向にのみ吐糸をさせることができる。
本発明のミノムシ絹糸の生産方法によれば、接着制御液への接触工程により、ミノムシ絹糸を集積し、かつ剥離容易な弱い力で接着させてまとめることができる。それによって、集積後のミノムシ絹糸の取扱いが容易になり、回収時のミノムシ絹糸の巻き弛みや絡みの調整が不要となる。また採糸と回収を完全に分離することで、従来の生産装置と比較して必要な採糸スペースを低減できる。
本発明の採糸装置の概念図である。(a)は正面図を、(b)は上面図を示す。 A:本発明の採糸装置における線状路の概念図である。この図では、断面が円形の線状路を示している。図中、Lは線状路の長軸の長さを、またφは線状路の断面直径を示す。この線状路では、φが線状路の幅に相当する。B:左右に最大幅で開脚したミノムシの頭部及び胸部の背面図である。図中、FLは前脚(front leg)を、MLは中脚(middle leg)を、そしてRLは後脚(rear leg)を示す。また、W1は中脚の、そしてW2は、後脚の最大開脚幅を示す。 本発明の採糸装置における線状路の具体例を示す図である。(a)は円盤外縁部からなる線状路(0301)を、(b)は輪縁部からなる線状路(0302)を、及び(c)は管内壁面部からなる線状路(0303)を示している。 本発明の採糸装置における固定器の概念図である。(a)は複数の爪状部材で固定対象を把持する構造を、(b)は固定対象を嵌め込む管状構造を、(c)は固定対象を支持体に結合(貼付、縫合を含む)する構造を示している。 回収器の外周部に設けられた糸巻部の形状例を示す図である。 (a)は円盤状を、及び(b)は筒状を示す。それぞれ、糸巻部の端部に配置された凸部(0501)を示している。 本発明の長尺ミノムシ絹糸を生産する方法の基本工程フロー図である。
1.ミノムシ絹糸の採糸装置
1-1.概要
本発明の第1の態様は、ミノムシ絹糸の採糸装置である。本発明の採糸装置は、可動式環状線状路、固定器、及び接着制御器を必須の構成要素として備え、さらに可動式環状線状路は集積器を必須の構成要素として備えるように構成されている。また剥離器、及び回収器を選択的構成要素として備えるように構成されている。
本発明の採糸装置によれば、ミノムシのスタミナを維持させ、ミノムシの走行方向性を一定に保持することで、長尺ミノムシ絹糸の採糸を自動化することが可能となる。また、吐糸されたミノムシ絹糸の回収時における巻き弛みの発生や、それによるミノムシ絹糸の破断、又は回収時の糸どうしの絡みを回避することができる。それによって長尺ミノムシ絹糸の生産効率化とそれに伴う製造コストの低減、そして安定した生産が可能となる。
1-2.定義
本明細書で頻用する以下の用語について、以下の通り定義する。
「ミノムシ」とは、チョウ目(Lepidoptera)ミノガ科(Psychidae)に属する蛾の幼虫の総称をいう。ミノガ科の蛾は世界中に分布するが、いずれの幼虫(ミノムシ)も全幼虫期を通して、自ら吐糸した絹糸で葉片や枝片等の自然素材を綴り、それらを纏った巣の中で生活している。巣は、ミノムシの全身を包むことのできる袋状で、紡錘形、円筒形、円錐形等の形態をなす。ミノムシは、通常、この巣の中に潜伏しており、摂食時や移動時も常に巣と共に行動し、蛹化も原則として巣の中で行われる。本明細書において、単に「巣」と記載した場合には、特に断りがない限りミノムシの巣を意味するものとする。
本明細書で使用するミノムシは、ミノガ科に属する蛾の幼虫であって、前記巣を作製する種である限り、種類、齢及び雌雄は問わない。例えば、ミノガ科には、Acanthopsyche、Anatolopsyche、Bacotia、Bambalina、Canephora、Chalioides、Dahlica、Diplodoma、Eumeta、Eumasia、Kozhantshikovia、Mahasena、Nipponopsyche、Paranarychia、Proutia、Psyche、Pteroma、Siederia、Striglocyrbasia、Taleporia、Theriodopteryx、Trigonodoma等の属が存在するが、本明細書で使用するミノムシは、いずれの属に属する種であってもよい。ミノガの種類の具体例として、オオミノガ(Eumeta japonica)、チャミノガ(Eumeta minuscula)、及びシバミノガ(Nipponopsyche fuscescens)が挙げられる。幼虫の齢は、初齢から終齢に至るまで、いずれの齢であってもよい。ただし、より太く長いミノムシ絹糸を得る目的であれば、大型のミノムシである方が好ましい。例えば、同種であれば終齢幼虫ほど好ましく、雌雄であれば大型となる雌が好ましい。またミノガ科内では大型種ほど好ましい。したがって、オオミノガ及びチャミノガは、本発明で使用するミノムシとして好適な種である。
本明細書で「絹糸」とは、昆虫由来の糸であって、昆虫の幼虫や成虫が営巣、移動、固定、営繭、餌捕獲等の目的で吐糸するタンパク質製の糸をいう。本明細書で単に「絹糸」と記載した場合には、特に断りがない限りミノムシ絹糸を意味する。
本明細書で「ミノムシ絹糸」とは、ミノムシ由来の絹糸をいう。本明細書のミノムシ絹糸は、単繊維、吐糸繊維、及び集合繊維を包含する。
本明細書で「単繊維」とは、繊維成分を構成する最小単位のフィラメントであり、モノフィラメントとも呼ばれる。単繊維は、絹糸を構成するフィブロイン様タンパク質を主成分とする。ミノムシ絹糸は、自然状態では2本の単繊維がタンパク質からなる接着成分で結合したジフィラメントとして吐糸される。この吐糸されたジフィラメントを「吐糸繊維」という。吐糸繊維を精練処理することで、接着成分が除去され、単繊維を得ることができる。
本明細書で「集合繊維」とは、複数の繊維束で構成された繊維で、マルチフィラメントとも呼ばれる。いわゆる生糸であり、原則として複数本の単繊維で構成されるが、本明細書では複数本の単繊維と吐糸繊維、又は複数本の吐糸繊維で構成される場合も包含する。本明細書の集合繊維は、カイコ絹糸等のようなミノムシ絹糸以外の繊維を混合してなる混合繊維もその範疇に包含し得るが、特に断りがない限り、ミノムシ絹糸のみで構成される集合繊維を意味するものとする。集合繊維は、撚糸することで加撚され、より強靭な絹糸となる。ただし、本明細書での集合繊維は、加撚糸繊維だけでなく、柔軟で滑らかな肌触りを示す無撚糸繊維も包含する。
ミノムシ絹糸には、足場絹糸と巣絹糸が存在する。「足場絹糸」とは、ミノムシが移動に先立ち吐糸する絹糸で、移動の際に枝や葉等から落下するのを防ぐための足場としての機能を有する。ミノムシは、通常、この足場絹糸を足掛かりとして、両脚の爪を引っ掛けながら進行方向へと移動する。足場絹糸は、ミノムシが頭部を左右に振りながら吐糸し、その折り返し毎に、前述の接着成分で基盤となる枝や葉に絹糸を固定するため、通常、ジグザグ状に吐糸されている。この構造によって、ミノムシは左右の脚を足場絹糸に掛けやすくなると共に、絹糸の固定部や絹糸への荷重が左右に分散される。一方「巣絹糸」とは、巣を構成する絹糸で、葉片や枝片を綴るためや、居住区である巣内壁を快適な環境にするために吐糸される。原則として、巣絹糸よりも足場絹糸の方が太く、力学的にも強靭である。
本明細書で「長尺」とは、その分野における通常の長さよりも長いことをいう。本明細書では、特に既存の技術でミノムシから取得可能な吐糸繊維の長さ(1m未満)よりも長いことを意味する。具体的には、1m以上、好ましくは1.5m以上若しくは2m以上、より好ましくは3m以上、4m以上、5m以上、6m以上、7m以上、8m以上、9m以上、又は10m以上である。上限は、特に制限はしないが、ミノムシが連続して吐糸可能な絹糸の長さに相当する。例えば、1.5km以下、1km以下、900m以下、800m以下、700m以下、600m以下、500m以下、400m以下、300m以下、200m以下、又は100m以下である。ミノムシ絹糸の吐糸繊維の長さは、それを構成する単繊維の長さでもあり、それはミノムシが連続して吐糸した長さに相当する。したがって、ミノムシに連続して吐糸させることができれば、より長尺のミノムシ絹糸を得ることが可能となる。
本明細書で「採糸」とは、ミノムシ絹糸を得る目的で、ミノムシに絹糸を吐糸させることをいう。ただし、本発明の採糸装置の場合、「採糸」とは、吐糸だけでなく吐糸された絹糸を回収する意味も含み得る。なお、本明細書において採糸対象となるミノムシ絹糸は足場絹糸である。
本明細書で「脚部」とは、ミノムシの脚の全部又は一部をいう。ミノムシの胸部には、胸肢と呼ばれる脚がある。この胸脚は、片側3本(前脚、中脚、及び後脚)、左右3対の合計6本からなる。
「係止」とは、一般には引っ掛けて止めることをいうが、本明細書ではミノムシが線状路上を移動するために、その脚部を線状路に引っ掛けることをいう。ミノムシは、通常、小枝や葉に脚部を係止して、自身と巣の重量の全部又は一部を支えている。つまり、係止には、巣を含む自己の落下を防止する意味を含むが、本発明では、ミノムシは固定されているため自重を支える必要はない。したがって、本明細書に記載の係止には、原則として自重を支える意味は包含しない。なお、係止とその解除はミノムシの自由であり、一旦係止した脚部がその位置で固定されるという意味ではない。ミノムシは、脚部の係止と解除を繰り返すことで、線状路上を自由に移動することができる。
1-3.構成
本発明の採糸装置の概念図を図1に示す。この図で示すように、本発明の採糸装置(0100)は、採糸部として、可動式環状線状路(0101)、固定器(0102)、及び接着制御器(0103)を備える。また、本発明の採糸装置は、回収部として、剥離器、及び回収器を備える(図示せず)。本発明の採糸装置において、採糸部の各構成要素は必須の構成要素であり、回収部の各構成要素は選択的な構成要素である。以下、各構成について説明をする。
1-3-1.可動式環状線状路
「可動式環状線状路」(0101)とは、長軸方向に動く環状の線状路で、本発明の採糸装置では必須の構成要素としてミノムシ絹糸を採糸する採糸部を構成する。可動式環状線状路は、必須の構成要素として集積器(0104)を備えると共に、必要に応じてラチェット(0105)を備えることができる。
(1)線状路の構成
本明細書において「線状路」とは、線状形態を示すミノムシ用歩行路である。本明細書において「線状形態」とは、同一又は同程度の幅を有する1本のレール状形態をいう。その断面形状は、特に限定しないが、円形、略円形(楕円形を含む)、多角形(方形、略方形を含む)又はそれらの組み合わせ形状等が挙げられる。
線状路の幅は、本発明の採糸装置に適用するミノムシの最大開脚幅よりも短くなるように構成されている。本明細書で「線状路の幅」とは、線状路において、ミノムシの脚部が線状路に係止する際に、係止に直接関与する部分の長さをいう。これは、概ね線状路の短軸の長さに相当する。線状路の幅の上限は、本発明の採糸装置に使用するミノムシの最大開脚幅未満の長さである。一方、下限はミノムシが脚部を係止可能である限り、特に限定はしない。例えば、厚さが0.5mm程の薄い板金の縁部であってもよい。図2Aで示す線状路では、断面の直径(φ)が線状路の幅に相当する。
本明細書で「ミノムシの最大開脚幅」とは、図2(b)で示すようにミノムシが左右の脚部を左右に最大限に広げたときの幅(W1及びW2)をいう。ミノムシには左右3対(前脚、中脚、後脚)があるが、最大開脚幅は、このうち最も長い(広い)開脚幅以外、すなわち2番目に長い開脚幅か、最も短い開脚幅とすることが好ましい。より好ましくは、最も短い(狭い)開脚幅である。図2Bでは、3対の中で中脚(ML)の最大開脚幅(W1)が最も広く、後脚(RL)の最大開脚幅(W2)が最も短い。したがって、線状路の幅を決定する際のミノムシの最大開脚幅は、前脚(FL)又は後脚(RL)の最大開脚幅、特に後脚(RL)の最大開脚幅であるW2とすることが好ましい。この最大開脚幅は、ミノガの種類、雌雄、及びミノムシの齢等によって異なるが、同種のミノムシで同程度の齢であれば概ね一定の範囲内に収まる。例えば、オオミノガの若齢ミノムシ(約1~3齢)であれば2mm~4mm、又は3mm~5mm、中齢ミノムシ(約4~5齢)であれば3mm~7mm、又は4mm~8mm、及び亜終齢又は終齢ミノムシであれば4mm~9mm、5mm~10mm、又は6mm~12mm、またチャミノガの若齢ミノムシ(約1~3齢)であれば1.5mm~3.5mm、中齢ミノムシであれば2.5mm~6mm、又は3mm~7mm、及び亜終齢又は終齢ミノムシであれば3.5mm~8mm、4mm~9mm、又は5mm~10mmの範囲内となる。したがって、線状路の幅は、使用するミノムシの種類や齢、又は雌雄に応じて適宜変更すればよい。線状路の幅は、次で説明する脚部の係止との関係から、使用するミノムシの種の各齢における最大開脚幅の範囲のうち、最も短い(狭い)長さよりも短くすることが好ましい。
線状路は、ミノムシが脚部を係止可能なように構成されている。「脚部を係止可能」とは、ミノムシが線状路に脚部を掛けることのできる構造をいう。線状路に係止させる脚部は、いずれの脚部であるかは問わない。例えば、3対6本のミノムシ脚部のうち、少なくとも左右1本ずつで線状路を挟み込むように係止する場合や、左右いずれか一方の側の2又は3本の脚部で、線状路に対して肩を掛けるように係止する場合が挙げられる。ミノムシは、線状路に脚部を係止することができれば、その線状路上に足場絹糸を吐糸しながら線状路に沿って移動することができる。
本発明の採糸装置における線状路は、環状線状路である。「環状線状路」とは、端部のない、全体として輪の形を成す線状路をいう。本明細書では、特に断りの無い限り、以下、単に「線状路」と表記した場合、「環状線状路」又は後述する「可動式環状線状路」を意味するものとする。環状線状路は、端部がないため、ミノムシが線状路上を周回し続ける限り長尺の絹糸を採取することができる。環状線状路が閉環状であるか開環状であるかは問わない。好ましくは閉環状である。開環状の場合、開環部の間隙が使用するミノムシが横断可能な程度の幅とする。このような間隙は開環状線状路に複数箇所存在してもよい。また、環状線状路の全体形状は、円形状、略円形状、方形状、略方形状、多角形状、不定形状及びそれらの組み合わせを含む。好ましくは円形状の円形環状線状路、又は略円形状の楕円形環状線状路である。
円形環状線状路の具体例として、図3(a)で示すような円盤外縁部からなる線状路(0301)、図3(b)で示すような輪縁部からなる線状路(0302)、又は図3(c)で示すような管内壁面部からなる線状路(0303)が挙げられる。
円盤外縁部からなる線状路(0301)とは、円形板状部材の外周部で構成される線状路をいう。このとき、円盤の厚さが前記線状路の幅に相当する。円盤径φは限定しないが、5cm~50cm、10cm~30cm、15cm~25cm、又は17cm~20cmの範囲にあればよい。
輪縁部からなる線状路(0302)とは、針金のような棒状部材を環状化して構成される線状路をいう。このとき、棒状部材の径又は短軸幅が前記線状路の幅に相当する。輪径φは限定しないが、前記円盤径と同様、5cm~50cm、10cm~30cm、15cm~25cm、又は17cm~20cmの範囲にあればよい。
管内壁面部からなる線状路(0303)とは、管内壁面の一部で構成される線状路をいう。この一部は、管内周面に沿った環状突出部として構成され、その短軸幅が前記線状路の幅となる構造を有する。管内周径φは限定しないが、10cm~60cm、15cm~50cm、20cm~40cm、又は25cm~30cmの範囲にあればよい。
線状路の素材は、限定はしない。例えば、金属、陶器(ホーローを含む)、ガラス、石、樹脂(合成樹脂及び天然樹脂を含む)、木質材料(枝、蔓、竹等を含む)、繊維、骨や牙、又はそれらの組み合わせを利用することができる。ミノムシの咬力によって傷つかない素材が好ましい。例えば、金属、陶器、ガラス、石等は好適である。また、吐糸されたミノムシ絹糸の回収を容易にするために、ミノムシ絹糸が付着する部位は、滑面素材であることが好ましい。ここでいう「滑面素材」とは、金属、ガラス、プラスチックのように加工によって素材自体が滑面に仕上がる素材をいう。また、木質材料や繊維のように、滑面仕上げが困難な素材であっても、その表面を塗料等で被覆することで滑面にした素材も包含される。線状路が板状部材の外縁部の場合、板状部材と外縁部の素材は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
線状路は、採糸装置内に複数備えることができる。各線状路の形状、素材等の条件は同一であってもよいし、異なっていてもよいし、又はその組み合わせであってもよい。複数を並列に並べた同軸円盤の外縁部で構成された線状路が挙げられる。
本発明の採糸装置において、線状路は水平面に対して勾配を有していてもよい。勾配角は限定しない。例えば、線状路が円盤外縁部で構成される場合、基盤となる円盤部材の平面部が水平になるように配置した状態であれば、線状路の勾配角は0度である。一方、円盤部材の平面部が垂直になるように配置した状態であれば、線状路はあらゆる勾配角を包含し得る。
(2)可動式環状線状路の構成
「可動式環状線状路」は、環状線状路が長軸方向に動くように構成されている。ここでいう「長軸方向」とは、線状路の長軸に沿った方向であるので、環状線状路においては、線状路が回転するように構成されていることを意味する。例えば、環状線状路が円盤外縁部からなる円形環状線状路の場合、円盤部材全体が回転可能な構造を有する。
可動式環状線状路は、限定はしないが、ミノムシが線状路上を吐糸しながら進行方向に移動するときに、その動作と同期して回転するように構成されている。したがって、線状路の初動に必要な力は、ミノムシが線状路上を移動する際に発生する移動推進力以下であることが好ましい。線状路を駆動する動力には、ミノムシの移動推進力や電力等が挙げられる。
「ミノムシの移動推進力」とは、ミノムシが線状路に沿って移動する時に発生する推進力である。本発明の採糸装置では、ミノムシが後述する固定器によって固定されている。そのためミノムシは線状路上を吐糸しながら移動しても、実質的には進行方向に進むことができない。そのミノムシの移動により発生する移動推進力は、ミノムシの進行方向とは逆方向に働く力として線状路を駆動し得る。本明細書では、この力をミノムシの移動推進力と表記する。
一方、電力の場合、モーターやギヤ等を介して線状路を自動で駆動できるように構成されている。この自動式線状路の移動方向は、ミノムシの進行方向とは逆方向である。また、線状路の移動速度はミノムシの移動速度と同程度以下であることが好ましい。具体的なミノムシの移動速度は、ミノムシの種類、齢、個体サイズ等によって変動するが、通常であれば3m/hr~15m/hrの範囲、最速の場合には17m/hr~22m/hrの範囲である。したがって、自動式線状路の場合にも、移動速度(v)は、これらの速度以下で動かせばよい。例えば、0m/hr<v≦22m/hr、0m/hr<v≦20m/hr、0m/hr<v≦17m/hr、0m/hr<v≦15m/hr、0m/hr<v≦12m/hr、0m/hr<v≦10m/hr、0m/hr<v≦8m/hr、0m/hr<v≦5m/hr、0m/hr<v≦4m/hr、又は0m/hr<v≦3m/hrで動かせばよい。なお、自動式線状路の場合でも、採糸の際には線状路にはミノムシの移動推進力が同時に作用する。すなわち、自動式線状路は、ミノムシの移動を補助する機構である。この場合、自動式線状路の駆動力が加わるため、ミノムシの移動に掛る負担を大きく軽減することができる。
なお、可動式環状線状路は、本発明の採糸装置からの着脱が可能なように構成されている。後述する可動式環状線状路上の集積器に集積されたミノムシ絹糸を集積した状態で維持する場合やミノムシ絹糸の回収に当たり、採糸装置内の異なる位置に配置された剥離器及び/又は回収器と関連させる場合に、この着脱機能は便利である。
可動式環状線状路は、必須構成要素として「集積器」(0104)を、また選択的構成要素としてラチェット(0105)を備える。以下、それぞれの構成について説明をする。
(a)集積器
「集積器」(0104)は、可動式環状線状路上に一体化して配置され、吐糸されたミノムシ絹糸を集積可能なように構成されている。
ここでいう「一体化」とは、一体不可分をいう。すなわち、線状路の吐糸面が集積器を構成し、その集積器は線状路上の吐糸面に積層されたミノムシ絹糸を保持可能なように構成されている。本明細書において「集積」とは、ミノムシ絹糸が吐糸面に複数回吐糸されることをいう。ミノムシ絹糸の集積は、固定器に固定されたミノムシが可動式環状線状路上に1回転(1周)を超えて吐糸することで達成される。集積器上でミノムシ絹糸どうしは、必ずしも接触している必要はない。ただし、線状路に吐糸されるミノムシ絹糸の周回数が増加するに従い集積器に集積されるミノムシ絹糸はやがて接触し合い、さらには積層されるようになる。従来法では、環状線状路上に複数本吐糸されたミノムシ絹糸が互いに接触した場合、接着成分によってミノムシ絹糸どうしが強固に固着するため、それらを断裂や破損させることなく引き剥がすことが困難であった。それ故に、環状線状路に吐糸させる場合、吐糸されたミノムシ絹糸が線状路上で周回する前に回収することによってミノムシ絹糸どうしの固着を回避していた。しかし、本発明の採糸装置では、後述する接着制御器によって集積器にミノムシ絹糸が互いに接触し合い、積層された場合であっても容易に分離することが可能となる。したがって、ミノムシによる吐糸が完了するまで、回収することなくミノムシ絹糸を集積することができる。
(b)ラチェット
可動式環状線状路は、選択的構成要素として「ラチェット」(0105)を備えていてもよい。「ラチェット」は、動作方向を一方向に制限するための部である。限定はしないが、通常は、一定方向に歯が傾斜した歯車と、その歯に架かるように配置された歯止めで構成されている。歯車が逆回転した場合、歯止めが歯車の歯に食い込むため、歯車は一定方向にしか回転することができない構造となっている。
本発明の採糸装置では、可動式環状線状路と歯車の動作を同期することで、可動式環状線状路は一方向にしか動くことができなくなる。例えば、可動式環状線状路が円盤外延部で構成される場合、その円盤と歯車を同軸にしておくことで、円盤はラチェットが回転できる方向にしか回転できない。この部を備えることで、可動式環状線状路に係止させたミノムシが、仮に後ずさりをした場合であっても線状路が動かないため、吐糸方向は転換されず、常に一定方向に保持することができる。
ラチェットは、必要に応じて解除機能を有することもできる。
1-3-2.固定器
「固定器」(0102)とは、採糸に用いるミノムシを固定する器であって、本発明の採糸装置では、前記可動式環状線状路及び後述の接着制御器と共に採糸部を構成する必須の構成要素である。
固定器は、本発明の採糸装置内で所定の位置にミノムシを固定できるように構成されている。固定器は、本発明の採糸装置内でのミノムシの自由行動を制限し、線状路上で一定の走行方向にミノムシを吐糸させる機能を有する。固定器によって、採糸時におけるミノムシの移動方向の転換や線状路からの離脱を制限することができる。
固定方式は限定しない。図4(a)で示す複数の爪状部材で固定対象を把持する構造、図4(b)で示す固定対象を嵌め込む管状構造、図4(c)で示す固定対象を支持体に結合(貼付、縫合を含む)する構造等が挙げられるが、対象を固定できれば、いずれの構成であってもよい。ミノムシ固定時に、固定対象であるミノムシに過剰な負荷や圧力を与えないように、固定力を微調整する固定調整部を備えることもできる。
固定対象はミノムシの巣(内部にミノムシが存在することを前提とする)、又はミノムシ本体のいずれかである。好ましくは巣である。これは、巣から分離されたミノムシは裸状態が続くことで過度のストレス状態となり、吐糸量や吐糸効率に影響を及ぼす可能性があるためである。
本発明の採糸装置内で、固定器は、固定されたミノムシが前述の可動式環状線状路に係止可能な位置に配置される。固定部は、このときにミノムシが線状路に脚部をちょうど係止できる位置に固定したミノムシの位置を前後左右に微調整できる位置調整部を備えていてもよい。
1-3-3.接着制御器
「接着制御器」(0103)とは、前記可動式環状線状路上に吐糸されたミノムシ絹糸を接着制御液に接触させる器である。本発明の採糸装置では、前記可動式環状線状路及び固定器と共に採糸部を構成する必須の構成要素である。接着制御器は、内包する接着制御液により線状路上に吐糸されたミノムシ絹糸の表面に付着する接着成分の一部を洗浄若しくは除去し、接着成分の接着作用を抑制することで、線状路上の集積器へのミノムシ絹糸の接着力を制御する機能を有する。残存する接着成分により接着性は残るものの、その接着力は抑制されているためミノムシ絹糸が集積器上で互いに接した場合であっても、ミノムシ絹糸を破断させない張力で容易に引き剥がすことができる。また、接着成分の残存により、ミノムシ絹糸どうしを互いに絡ませることなく適度な接着力で固着した絹糸束として管理することも可能となる。
接着制御器は線状路上のミノムシ絹糸を接触できれば、その具体的な構成は限定しない。ミノムシ絹糸を接着制御液に接触させる構成として、接着制御液の噴霧、散布、塗布、滴下、浸漬、滲出等が挙げられる。具体的には、例えば、接着制御器内の接着制御液に線状路の一部を浸漬させる、接着制御器内の接着制御液を線状路の一部に滴下する、接着制御器から接着制御液を線状路の一部に噴霧又は散布する、接着制御器を線状路と一体化させて接着制御液を線状路上に設けた一部の滲出溝及び/又は滲出孔から滲出させるように構成されていれすればよい。または、それらの組み合わせの構成であってもよい。
接着制御器の形状は問わない。例えば、貯留槽形状、器内の接着制御液を線状路の一部に滴下又は射出可能な滴下孔や射出孔を有する容器状形状、線状路内部又は下部に流路と線状路上に開口した1又は複数の滲出溝又は滲出孔を有する管状又は円盤形状等が挙げられる。滲出溝又は滲出孔を有する場合、滲出溝の形状は特に限定はしない。例えば、スリット状、波線条、及び破線状等が挙げられる。また、滲出孔の形状も特に限定はしない。例えば、円形、楕円形、三角形、方形、略方形、多角形(例えば、六角形)、及び不定形等のいずれであってもよい。滲出溝の幅や滲出孔の大きさは限定しないが、滲出溝の幅や滲出孔の径が大きくなり過ぎると、ミノムシ絹糸を吐糸する場としての本来の機能を果たし得なくなるため、滲出溝の幅や滲出孔の径は、接着制御液が目詰まりしない程度に小さい方が好ましい。なお、接着制御器は、ミノムシに接着制御液が直接接触しない位置に配置することが望ましい。
接着制御器の素材は、線状路、接着制御器又はその内壁が、接着制御液により溶解、腐食、又は変性しない素材であれば、限定はされない。貯留する接着制御液の種類によって、適宜定めればよい。例えば、接着制御液が界面活性剤を含む水溶液からなるのであれば、接着制御器はプラスチック、陶器(ホーロー)、ガラス等が好適である。
接着制御器は、器内に接着制御液を供給する供給口及び/又は器内から接着制御液を排出する排出口を備えることができる。
本発明の採糸装置において、接着制御器は一個又は複数個備えることができる。複数個の場合、各接着制御器の形状、及びサイズは、同一であっても、異なっていても、又はその組み合わせであってもよい。また、複数個の接着制御器を備える場合、各接着制御器に貯留される接着制御液の種類、容量等の諸条件も、それぞれの接着制御器で独立に定めることができる。
「接着制御液」とは、ミノムシ絹糸において、繊維成分(フィブロイン様タンパク質)と共に吐糸され、繊維成分の周辺に存在する水溶性接着成分(セリシン様タンパク質)の一部をミノムシ絹糸から洗浄又は除去することでミノムシ絹糸の接着力を制御できる溶液をいう。
接着制御液は、前記水溶性接着成分を完全除去する液体ではないためミノムシ絹糸の表面には接着成分が一部残存する。接着制御液で処理されたミノムシ絹糸は、接着成分量の低減により強固な固着力は喪失するが、若干の接着力は残る。それ故に、集積器上に集積されたミノムシ絹糸は互いに弱い接着力で接着し合い、ばらけることなく積層される。積層されたミノムシ絹糸も環状の束(ミノムシ絹糸束)として固定されるため、その後の取扱いが容易になり、かつ束を構成するミノムシ絹糸どうしが絡み合うことがなくなる。一方で、前記ミノムシ絹糸束におけるミノムシ絹糸間の接着力は弱いため、糸口からミノムシ絹糸を引き出せば、断裂させない張力で、回収時の巻き弛みを生じさせることなくミノムシ絹糸を引き出すことが可能となる。
接着制御液により、ミノムシ絹糸は線状路上への、又はミノムシ絹糸間の、接着及び剥離を制御することができる。接着制御液は、ミノムシ絹糸に対して化学的及び/又は物理的損傷を与えない、又は損傷を与えにくい性質を有することが望ましい。
接着制御液は、上記のように接着成分の洗浄又は除去機能を有する液体であれば限定はされない。ただし、精練液のような接着成分の洗浄力や除去力が強い液体は、ミノムシ絹糸表面に数回の接触させることで前記接着成分を完全に除去するため好ましくない。接着制御液は水や水溶液であればよいが、界面活性剤溶液は特に好ましい。
「界面活性剤溶液」は、界面活性剤を適当な溶媒に溶解した溶液をいう。溶媒には、例えば、水(蒸留水、滅菌水、脱イオン水を含む)、生理食塩水、又はリン酸バッファが挙げられる。好ましくは水である。溶液中の界面活性剤の濃度は、限定はしないが、容量%で0.01%~10%、0.05%~5%、0.1%~2%、又は0.5%~1%であればよい。
界面活性剤溶液に使用する界面活性剤は、特に限定はしない。例えば、Triton(登録商標) X-100、Triton(登録商標) X-114、NP-40、Brij(登録商標)-35、Brij(登録商標)-58、Tween(登録商標)-20、Tween(登録商標)-80、オクチル-β-グルコシド又はOTGのような非イオン性界面活性剤、PEGとPPGのコポリマーのような高分子非イオン性界面活性剤、SDSのような陰イオン性界面活性剤、CHAPS又はCHAPSOのような両性イオン性界面活性剤、又はそれらの組み合わせのいずれであってもよい。
なお、1つ線状路に2以上の接着制御器が設置される場合、それぞれの接着制御器には同一の又は異なる接着制御液が貯留されていてもよい。
1-3-4.剥離器
「剥離器」、剥離液及び/又は蒸気を貯留可能な器である。本発明の採糸装置では、次述の回収器と共に回収部を構成する選択的な構成要素である。剥離器は、本発明の採糸装置において、器内に包含する剥離液及び/又は蒸気が前記可動式環状線状路上の集積器上に集積されたミノムシ絹糸の全部又は一部と接触するように構成されている。
剥離器の基本的な構成は接着制御器に準ずる。ただし、接着制御器が採糸部の一部として吐糸中のミノムシ絹糸を処理するのに対して、剥離器は回収部の一部として吐糸が完了し、集積器上に集積されたミノムシ絹糸を処理する点で異なる。剥離器は、選択的構成要素であって、接着制御器の補助的機能を有し、接着制御器で処理されたミノムシ絹糸から残存する接着成分の全部又はその多くを除去することでミノムシ絹糸を集積器から剥離し易くする、及び/又は集積器上に集積され、環状の束となったミノムシ絹糸間の剥離及び絹糸の引き出しを容易にすることができる。
剥離器の素材も基本的には接着制御器に準ずる。集積器、剥離器及びその内壁が、剥離液や蒸気により溶解、腐食、又は変性しない素材であれば、限定はされない。貯留する剥離液や蒸気の種類によって、適宜定めることができる。例えば、高温高圧の蒸気を貯留するのであれば、銅やステンレス等の金属は好適である。また、界面活性剤を含む水溶液からなる剥離液を貯留するのであれば、プラスチック、陶器(ホーロー)、ガラス等が好適である。
剥離器は、器内に剥離液や蒸気を供給する供給口及び/又は器内から剥離液や蒸気を排出する排出口を備えることができる。また、器内に剥離液を供給する流入口及び/又は器内から剥離液を排出する排出口を備えることができる。
剥離器は、1つの採糸装置に複数を設置することができる。
剥離液は、接着制御液と同様にミノムシ絹糸の水溶性接着成分を洗浄又は除去する作用を有する溶液であれば限定はしない。接着制御液よりも前記水溶性接着成分の除去作用がより強力な成分を含む溶液が好ましい。そのような溶液の例として、カイコの繭の精練に用いる炭酸ナトリウム溶液、炭酸水素ナトリウム溶液、及びマルセル石鹸溶液等の精練液が挙げられる。また、蒸気は水蒸気であればよい。
1-3-5.回収器
「回収器」は、前記可動式環状線状路から剥離されたミノムシ絹糸を回収可能な器である。本発明の採糸装置では、前記剥離器と共に回収部を構成する選択的な構成要素であるが、長尺のミノムシ絹糸を生産するためには、この回収器を備えていることが望ましい。本発明の採糸装置において、回収器は、採糸部とは完全に分離されている。
回収器の構造は、剥離されたミノムシ絹糸を集め、保持できる構造であれば限定はしない。好ましくは、その外周に回収した糸を巻き取り可能なように構成されている。回収器の形状は、糸を外周に巻き取り可能であれば特に限定はしない。例えば、円盤状、筒状、角柱状(複数の棒状部材が角柱の各長軸辺部を構成するものを含む)、板状、又はそれらの組み合わせのいずれであってもよい。ボビン、又はそれに類似する形状は好適である。
回収器は、外周に糸を巻き取るために自動で回転可能な構成にすることができる。回転の駆動力は、例えば、モーター等を介した電力により得ることができる。
回収器の素材は、例えば、金属、樹脂(合成樹脂及び天然樹脂を含む)、木質材料(枝、蔓、竹等を含む)、陶器、石、又はそれらの組み合わせを利用することができる。巻き取ったミノムシ絹糸を傷つけないように糸に接する部位を曲面加工及び/又は滑面加工可能な素材が好ましい。
回収器は、外周の回収面に一以上の凹凸部を備えることができる。「凹凸部」は、回収器外周の長軸方向に沿って構成され、回収したミノムシ絹糸を凹部に収納し、ミノムシ絹糸が回収器から脱離しないように構成されている。例えば、図5で示すように、糸巻部の形状が円盤状(図5(a))、又は筒状(図5(b))の場合、端部に凸部(0501)を備えたボビンのような場合が挙げられる。
2.長尺ミノムシ絹糸の生産方法
2-1.概要
本発明の第2の態様は、長尺ミノムシ絹糸の生産方法である。本発明の生産方法によれば、特殊なスキルを必要とすることなく、ミノムシから効率的に、かつ大量に長尺のミノムシ足場絹糸を生産することができる。また、吐糸工程群と回収工程群を分離することで、ミノムシ絹糸の巻き弛みの管理、及び調整が不要となり、長尺ミノムシ絹糸の生産効率を向上することができる。
2-2.方法
本発明の生産方法の工程フローの一例を図6に示す。本発明の生産方法は、必須の生産工程として吐糸工程(S0601)、接触工程(S0602)、集積工程(S0603)、及び回収工程(S0605)を含む。また選択工程として、第2接触工程(S0604)、精練工程(S0606)及び/又は撚糸工程(S0607)を含む。このうち、吐糸工程、接触工程、及び集積工程は、ミノムシ絹糸の採糸に関与する吐糸工程群に包含され、第2接触工程、拐取工程、精錬工程、及び年始工程は、ミノムシ絹糸の回収及び製糸に関与する回収工程群に包含される。以下、各工程について具体的に説明をする。
(1)吐糸工程(S0601)
「吐糸工程」とは、ミノムシの活動条件下で、ミノムシの脚部を可動式環状線状路に係止させて、その線状路に沿って連続して吐糸させる工程である。本工程は、吐糸工程群に包含され、本発明の生産方法における必須の工程である。
本明細書で「活動条件」とは、移動や摂食等の日常的な動きを伴う活動が行える条件をいう。条件として、気温、気圧、湿度、明暗、酸素量等が挙げられるが、本発明において最も重要な条件は気温である。昆虫は変温動物のため、気温の低下と共に活動を停止して休眠状態に入る。したがって、本発明における活動条件のうち好適な気温の下限は、ミノムシが休眠に入らない温度である。種類によって具体的な温度は異なるが、概ね10℃以上、好ましくは12℃以上、より好ましくは13℃以上、さらに好ましくは14℃以上、一層好ましくは15℃以上あればよい。一方、気温の上限は、ミノムシが生存可能な温度の上限である。一般的には40℃以下、好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは27℃以下、一層好ましくは25℃以下あればよい。気圧、湿度、明暗、酸素濃度等については、例として、温帯地域の平地における条件と同程度であればよい。例えば、気圧は1気圧前後、湿度は30~70%、明暗は24時間のうち明条件6時間~18時間、そして大気中の酸素濃度は15~25%の範囲が挙げられる。
本工程で使用するミノムシは、野外で採集した個体であっても、また人工飼育下で累代した個体であってもよいが、いずれも飢餓状態でない個体が好ましく、使用前に十分量の食餌を与えた個体がより好ましい。吐糸させる個体が飢餓状態でなければ、十分な食餌を与えられたミノムシは、上記条件下で1時間~4日間、3時間~3日間、又は6時間~2日間の期間、線状路上を移動しながら連続して吐糸し続ける。
本工程で使用するミノムシは巣を保持した状態であってもよいし、巣から取り出した状態であってもよい。通常、ミノムシは巣と共に行動するため、巣ごと本工程に使用するのが好適である。ただし、例えば、巣から取り出した裸のミノムシが収まる管状の固定器を使用してミノムシを本工程で使用する場合には、巣を保持していなくてもよい。ミノムシが巣を保持している場合、その巣はミノムシのほぼ全身を覆い隠すことのできる状態であれば完全な形態でなくてもよい。巣を構成する素材も自然界でみられる葉片や枝片である必要はなく、人工素材(例えば、紙片、木片、繊維片、金属片、プラスチック片等)を使用して構築されたものであってもよい。
本工程では、ミノムシが脚部を線状路に係止できる位置で固定されていることを特徴とする。この固定によって、ミノムシの自由な動きが制限され、線状路上での吐糸方向を一定方向に固定することができる。なお、1本の線状路には、原則として1頭のミノムシが配置、固定されるが、複数のミノムシを固定することもできる。その場合、各ミノムシの進行方向が同一となるように、線状路上に配置、固定する。
本発明の生産方法において使用する線状路の構成及び構造は、第1態様に記載のミノムシ絹糸の採糸装置に記載の線状路における構成及び構造に準ずればよい。好ましい構造は環状線状路、特に円形環状線状路である。線状路は複数使用してもよい。その場合、各線状路は並列に配置され、それぞれの線状路にミノムシの脚部を係止できるように固定すればよい。ミノムシの固定は、固定器等を用いて達成される。固定器は、第1態様に記載の構成であればよい。活動条件下でミノムシを線状路に係止させることで、ミノムシは自発的に線状路に沿って移動しながら連続して吐糸するようになる。
本明細書で「連続して吐糸する」とは、ミノムシが間断なく吐糸することをいう。線状路上に脚部を係止したミノムシはその本能的な性質から、移動しながら足場絹糸を連続して吐糸し続ける。幼虫の口吻部に存在する左右の吐糸口から射出される絹糸が途切れた時点で連続性は失われる。
本工程で、線状路上に脚部を係止したミノムシの移動する方向は、原則としてミノムシの進行方向である。前述のように、本工程で使用するミノムシは脚部を線状路に係止した位置で固定されている。その状態ではミノムシは進行方向以外に進むことができない。ミノムシが線状路上で稀に後ずさりする場合にも、線状路にラチェットを備えることで、線状路の逆行が制限されるため、必然的に移動方向は進行方向のみとなる。
本工程のもう一つの特徴として、線状路が自動及び/又はミノムシの移動によって長軸方向に動く。これによって、ミノムシが一定位置に固定されていても、線状路上に連続して吐糸させることが可能となる。
線状路は、脚部を係止したミノムシが進行方向に進む移動推進力によって動く。したがって、その移動方向は、ミノムシの進行方向とは逆方向である。線状路が円盤辺縁部に構成される円形環状線状路の場合、円盤がミノムシの移動によって回転することで、線状路の移動が可能となる。線状路は自動で移動してもよい。この場合、線状路の移動方向もミノムシの進行方向とは逆方向である。
線状路の移動速度は、ミノムシの移動推進力に基づく場合、ミノムシの移動速度とほぼ等しくなる。また、線状路を自動で移動させる場合にも、ミノムシの移動速度と同程度以下となるようにする。線状路を自動で動かす場合、公知駆動技術、例えば、モーターとギヤの組み合わせで動かすことができる。前述のように、通常のミノムシの移動速度は、3m/hr~15m/hrの範囲、最速の場合には17m/hr~22m/hrである。したがって、線状路を自動で移動させるときの速度(v)は、これらの速度以下で動かせばよい。例えば、0m/hr<v≦22m/hr、0m/hr<v≦20m/hr、0m/hr<v≦17m/hr、0m/hr<v≦15m/hr、0m/hr<v≦12m/hr、0m/hr<v≦10m/hr、0m/hr<v≦8m/hr、0m/hr<v≦5m/hr、0m/hr<v≦4m/hr、又は0m/hr<v≦3m/hrの範囲である。
本発明の方法によって、ミノムシは可動式環状線状路上に連続して絹糸を吐糸し続けるので、長尺のミノムシの足場絹糸を採糸することができる。
(2)接触工程(S0602)
「接触工程」は、可動式環状線状路上のミノムシ絹糸を接着制御液に接触させる工程である。本工程は吐糸工程群に包含され、本発明の生産方法における必須の工程である。本工程によって、線状路上にミノムシ絹糸を付着している接着成分の一部が洗浄若しくは除去され、接着成分の接着力が抑制される。それにより、線状路上へのミノムシ絹糸の固着、及びミノムシ絹糸の集積によるミノムシ絹糸の固着が弱まり、接着はできるが剥離も容易な状態となる。
本工程は、前記吐糸工程後、ミノムシ絹糸表面の接着成分が乾燥、固化する前の早い段階で行うことが好ましい。好ましくは吐糸直後である。したがって、本工程はミノムシが可動式環状線状路上に連続して吐糸し続ける限り、吐糸工程と同調して、ほぼ同時に実行される。
本工程で使用する接着制御液は、第1態様に記載の接着制御液と同様である。線状路上に吐糸されたミノムシ絹糸に接着制御液を接触させる方法は限定しない。例えば、槽内に入れた接着制御液に吐糸工程後の線状路の一部を浸漬させてもよいし、吐糸工程後の線状路に吐糸されたミノムシ絹糸に接着制御液を滴下、噴霧、散布、又は塗布してもよい。又は、線状路上に設けられた溝や孔から接着制御液を滲出させてもよい。あるいは、それらの組み合わせであってもよい。
本発明の長尺ミノムシ絹糸の生産方法では、可動式環状線状路を用いることから吐糸工程で線状路上に吐糸されたミノムシ絹糸は、その後、直ちに本工程が実行されるが、可動式環状線状路の周回により、一度本工程を経たミノムシ絹糸は再び本工程を経由し得る。
(3)集積工程(S0603)
「集積工程」は、前記接触工程後のミノムシ絹糸を集積する工程である。本工程は、前記吐糸工程及び接触工程と共に吐糸工程群に包含され、本発明の生産方法における必須の工程である。
ミノムシ絹糸の集積場所は限定しないが、ミノムシを固定器で固定して、可動式環状線状路上に吐糸するように吐糸工程を行う場合には、ミノムシ絹糸は可動式環状線状路上の集積器に集積される。
集積工程は、可動式環状線状路が吐糸工程開始地点から周回した以降に行われる。本発明の長尺ミノムシ絹糸の生産方法では、吐糸されたミノムシ絹糸は、直ちに回収されるのではなく、吐糸工程が完了した後に回収される。それ故に、前記吐糸工程で可動式環状線状路上に吐糸されたミノムシ絹糸は、吐糸工程が完了するまでの期間中、線状路の周回によって集積され続ける。したがって、前記吐糸工程が継続される限り、本工程も継続される。
なお、吐糸工程の完了に続き、接触工程及び本工程も完了し、吐糸工程群が終了する。吐糸工程群と回収工程群は独立に行われるため、吐糸工程群終了後、直ちに回収工程群を行うこともできるが、時間を空けた後に回収工程群を行うことも可能である。
(4)第2接触工程(S0604)
「第2接触工程」は、前記集積工程後に、集積されたミノムシ絹糸を剥離液及び/又は蒸気に接触させる工程である。本工程は回収工程群に包含され、本発明の長尺ミノムシ絹糸の生産方法における選択工程である。本工程を集積工程後、回収工程前に実施することによって、集積されたミノムシ絹糸が前記接触工程で除去しきれなかった接着成分により再固着することを防ぎ、また再固着した場合には再度線状路からのミノムシ絹糸の回収を容易にすることができる。
本工程は、通常は、前記集積工程後、次の回収工程前に行われるが、回収工程と同時に行うこともできる。
本工程で使用する剥離液や蒸気は、第1態様に記載の剥離液及び蒸気に準ずる。剥離液や蒸気を線状路上に集積したミノムシ絹糸に接触させる方法は、限定しない。例えば、槽内に入れた剥離液に集積工程後の線状路の全部又は一部を浸漬する方法、庫内に充満させた水蒸気に集積工程後の線状路の全部又は一部を晒す方法、集積工程後の線状路に集積されたミノムシ絹糸に剥離液を滴下、噴霧、散布、又は塗布する方法、集積工程後の線状路に集積されたミノムシ絹糸に水蒸気を噴霧する方法、又はそれらの組み合わせが挙げられる。
また、剥離液を精練液にすることで、第2接触工程は後述する精練工程(S0606)にもなり得る。この場合、吐糸繊維ではなく、ジフィラメントが分離した単繊維として次の回収工程で回収し得る。精錬工程については、後述する。
(5)回収工程(S0605)
「回収工程」は、集積工程後に集積したミノムシ絹糸を剥離し、それを回収する工程である。本工程は回収工程群に包含され、本発明の長尺ミノムシ絹糸の生産方法における必須工程である。接触工程後又は第2接触工程後のミノムシ絹糸は、接着成分の除去又は減少により線状路及び同じミノムシ絹糸から剥離されやすい状態になっている。したがって、線状路上のミノムシ絹糸の糸口を剥離した後、環状線状路でのミノムシ絹糸の巻き取り方向とは逆方向に張力を加えることで、線状路に集積したミノムシ絹糸を容易に剥離し得る。
線状路に集積したミノムシ絹糸の回収方法は、ミノムシ絹糸を断裂させない方法であれば、特に限定しないが、本発明の生産方法では糸巻に巻き取りながら回収する方法が好適である。糸巻は、当該分野で使用される通常のものを使用すればよい。例えば、円盤状部材、管状部材、板状部材等の外縁部に巻き取るようにすることができる。
回収の具体的な例として、可動式環状線状路上のミノムシ絹糸の糸口を糸巻に固定し、集積器上に集積されたミノムシ絹糸の巻き取り方向とは逆方向に張力をかけながら糸巻を回転させることで集積器上のミノムシ絹糸を糸巻に回収することができる。この時、糸巻の回転により可動式環状線状路が同期して回転できるようにしておけばよい。それによって、線状路と糸巻間のミノムシ絹糸には、常にある程度の張力が掛った状態となるため、巻き弛みの発生を防止することができる。
糸巻の回転速度は、限定はしない。ただし、回転速度が速くなり過ぎると線状路と糸巻間のミノムシ絹糸に掛るテンションが強くなりすぎる結果、ミノムシ絹糸が断裂する可能性がある。それ故に、糸巻の回転速度は15m/hr以下、又は22m/hr以下の範囲であればよい。例えば、0m/hr<v≦22m/hr、0m/hr<v≦20m/hr、0m/hr<v≦17m/hr、0m/hr<v≦15m/hr、0m/hr<v≦12m/hr、0m/hr<v≦10m/hr、0m/hr<v≦8m/hr、0m/hr<v≦5m/hr、0m/hr<v≦4m/hr、又は0m/hr<v≦3m/hrの範囲が適当な回転速度の範囲となる。糸巻を自動で動かす場合、公知駆動技術、例えば、モーターとギヤの組み合わせで動かすことができる。
(6)精練工程(S0606)
「精練工程」は、長尺ミノムシ絹糸を精練する工程である。「精練」とは、吐糸繊維からセリシン様の接着成分を除去し、単繊維を得ることをいう。通常は、前記回収工程後に行われるが、前述のように第2接触工程と同時に行うこともできる。また、後述するように、本工程に先立ち、撚糸工程が回収工程後に行われた場合には、撚糸工程後に行うこともできる。本工程は、選択工程であり、必要に応じて行えばよい。
精練方法はミノムシ絹糸の繊維成分の強度低下を与えずに接着成分を除去できる方法であれば、特に限定はしない。例えば、カイコ絹糸の精練方法を適用することができる。具体的には、0.01mol/L~0.1mol/L、0.03mol/L~0.08mol/L、又は0.04mol/L~0.06mol/Lの炭酸水素ナトリウム溶液等の精練液中に、回収工程で回収したミノムシ絹糸を浸漬する。5分~1時間、10分~40分間、又は15分~30分間煮沸処理すれば、より好ましい。本工程によって、長尺の足場絹糸の単繊維を得ることができる。
(7)撚糸工程(S0607)
「撚糸工程」は、回収工程後、又は精練工程後に得られたミノムシ絹糸を撚る工程である。「撚糸」とは、糸に撚りをかけることをいう。本工程では、複数本のミノムシ絹糸の吐糸繊維及び/又は単繊維を撚ることで、強靭性を備えたミノムシ絹糸を製造する。
撚糸工程は、精練工程後に得られるミノムシ絹糸の単繊維を束にして加撚する他、回収工程後に得られるミノムシ絹糸の吐糸繊維を束にして加撚することもできる。前者の場合には、接着成分が除去された加撚ミノムシ絹糸が得られる。一方、後者の場合には、吐糸繊維で構成され、接着成分が残存する加撚ミノムシ絹糸が得られる。したがって、精練工程を経ずに、接着成分を包含するままの絹糸として利用してもよいし、必要に応じて精練工程を行い、接着成分が除去された加撚ミノムシ絹糸を製造してもよい。
本工程では、ミノムシ絹糸以外の繊維、例えば、カイコ絹糸等の動物繊維、綿等の植物繊維、ポリエステル等の化学繊維、又はレーヨン等の再生繊維等と混合して束にした後、撚ることもできる。1本の加撚ミノムシ絹糸を生産する場合、それを構成する吐糸繊維及び/又は単繊維の本数は特に限定はしない。例えば、2本~200本、4本~150本、6本~100本、8本~50本、又は10本~30本の範囲が挙げられる。
撚糸方法は特に限定はしない。当該分野で公知の撚糸方法で行えばよい。例えば、右撚り(S撚り)や左撚り(Z撚り)が挙げられる。撚りの回数は、必要に応じて適宜定めればよい。太いミノムシ絹糸を生産する場合には、加撚ミノムシ絹糸をさらに複数本より合わせる諸撚りを採用することもできる。撚糸作業は、手作業の他、撚糸機を利用してもよい。
本発明の生産方法で得られるミノムシ絹糸は長尺であるが、それらを紡いで、より長いミノムシ絹糸することもできる。
以上の工程を経ることによって、従来生産が不可能とされてきた長尺ミノムシ絹糸を単繊維として、又は集合繊維として、生産することができる。したがって、本発明の長尺ミノムシ絹糸を材料として、単独で、又は他の繊維と混合して、これまで不可能だったミノムシの足場絹糸を含む織布を製造することも可能となる。ミノムシ絹糸の織布は、美しく、滑らかで、かつ引っ張り強度に優れていることから、衣服のみならず、クモ糸と同様に医療素材や防護服などの特殊素材として有望である他、高級布製品、例えば、強い摩擦が加わる布張りの高級座椅子やソファー、カーテン、又は壁紙等にも利用することができる。
<ミノムシ絹糸の採糸装置の製造と採糸長の検証>
(目的)
本発明のミノムシ絹糸の採糸装置を製造し、その装置の稼働時にミノムシ絹糸の巻き弛みが生じないこと、及び1日当たりに採糸できるミノムシ絹糸の生産量が特願2018-227669の実施例に開示のミノムシ絹糸の採糸装置によるそれよりも多いことを検証する。
(方法)
1.装置の製造
本実施例では、本発明の第1態様に記載のミノムシ絹糸の採糸装置を製造した。
可動式環状線状路は、直径12cm、厚さ2.1mmの円盤外縁部に構成された円形の可動式環状線状路とした。この可動式環状線状路は円盤の中心を軸として回転することができる。
固定器には、直径18mm(内径16mm)のポリプロピレン製遠心管を用いこの遠心管を水平面に対して約30度傾斜させて、固定器に固定したミノムシが可動式環状線状路の上部に脚部を係止できるようにした。
接着制御器には、0.1%のポリエチレングリコールモノステアラート(n=appox.40, 東京化成工業株式会社, Cas No.9004-99-3)1Lを接着制御液として貯留した貯留槽を用いた。可動式環状線状路を装置内で縦置きに(円盤面が水平面に対して垂直となるように)配置し、円盤の下部が貯留槽内の接着制御液に浸漬できるようにした。
回収器は内径0.9cmのボビンとした。
2.長尺ミノムシ絹糸の生産
(1)材料
ミノムシには、オオミノガの終齢幼虫を使用した。
(2)生産方法
上記ミノムシを巣ごと固定器である遠心管に半分挿入して固定した。続いて、ミノムシの脚部を縦置きした可動式環状線状路に係止させ、ミノムシが前方に移動すると線状路がミノムシの進行方向とは逆方向に回転するように調整した。線状路上に吐糸されたミノムシ絹糸は、直ちに線状路下部に配置された接着制御器内の接着制御液に浸り、その後、線状路が周回する度に複数回接着制御液で処理された。ミノムシには、約5時間連続して線状路上に吐糸させた。
採糸終了後、ミノムシを固定器から外し、可動式環状線状路上の集積器に集積されたミノムシ絹糸から糸口を取り、回収器に繋いだ。続いて集積器に巻き付いた方向とは逆方向にミノムシ絹糸に張力が掛るように回収器を回転させて、集積器からミノムシ絹糸を回収器に巻き取るように回収した。その後、巻き取られたミノムシ絹糸の採糸長を計測した。
対照用として、特願2018-227669の実施例に開示の採糸装置(以下、「先願装置」と表記する)を用いた。特願2018-227669の実施例に開示の生産方法(以下、「先願方法」と表記する)によって、約5時間、ミノムシを線状路上に連続して吐糸させた。採糸終了後の工程は、上記方法に準じた。
(結果)
先願装置で得られたミノムシ絹糸の長さが269.7mであったのに対して、本発明の採糸装置で得られたミノムシ絹糸の長さは倍以上の636.2mであった。また、同じ採糸スペースに、先願装置は10台設置できたのに対して、本発明の採糸装置は20台以上設置できた。さらに、先願装置では、採糸時に線状路と回収器との間で巻き弛みがしばしば発生したが、本発明の採糸装置では発生しなかった。
以上の結果から、本発明の採糸装置であれば、所定時間当たりの採糸量が先願装置と比較して2倍以上増加することや、採糸スペースを約50%に縮小できることから生産効率を著しく向上できることが明らかとなった。また、採糸時に、ミノムシ絹糸の巻き弛みを監視、解消する管理人員が不要になったことで必要人件費の削減にも繋がることが示された。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。

Claims (7)

  1. ミノムシ絹糸の採糸装置であって、
    集積器を備えた可動式環状線状路、ミノムシを前記可動式環状線状路上に固定するための固定器、着制御器、及び可動式環状線状路とは独立した回収器を備え、
    前記可動式環状線状路は、前記固定器に固定されるミノムシの左右最大開脚幅未満の幅を有し、かつ前記ミノムシの脚部を係止可能な環状のミノムシ用歩行路で、その長軸方向に動くように構成され、
    前記集積器は前記可動式環状線状路上に一体化して配置され、前記固定器に固定されたミノムシが前記可動式環状線状路上に吐糸したミノムシ絹糸を集積可能なように構成され、
    前記固定器は、固定されたミノムシが前記可動式環状線状路に係止できる位置に配置され、
    記接着制御器は、接着制御液を貯留し、前記可動式環状線状路上に吐糸されたミノムシ絹糸が接着制御液に接触するように構成され、そして
    前記回収器は、前記集積器に集積したミノムシ絹糸に対して、張力を掛けて回収可能なように構成されている
    前記採糸装置。
  2. 一以上の剥離器をさらに備え、
    前記剥離器は、前記集積器からミノムシ絹糸を剥離するための剥離液及び/又は蒸気を貯留可能なように構成され、かつ前記集積器の全部又は一部を剥離器内の剥離液及び/又は蒸気に接触できる位置に配置されている
    請求項1に記載の採糸装置。
  3. 前記可動式環状線状路が円形形状である、請求項1又は2に記載の採糸装置。
  4. 前記可動式環状線状路が電力を動力源として回転駆動する自動式線状路である、請求項1~のいずれか一項に記載の採糸装置。
  5. 前記回収器はその外周部にミノムシ絹糸を巻き取り可能なように構成された糸巻部を備える、請求項のいずれか一項に記載の採糸装置。
  6. 長尺ミノムシ絹糸の生産方法であって、
    採糸に使用するミノムシの左右最大開脚幅未満の幅を有し、かつ前記ミノムシの脚部を係止可能で、かつ回転駆動する可動式環状線状路に、そのミノムシの脚部を係止させて前記可動式環状線状路に沿って連続して吐糸させる吐糸工程、
    前記吐糸工程後に可動式環状線状路上のミノムシ絹糸を接着制御液に接触させる接触工程、
    前記接触工程後のミノムシ絹糸を集積する集積工程、及び
    前記集積工程後に集積されたミノムシ絹糸に張力を掛けて回収する回収工程
    を含み、
    前記吐糸工程において、使用するミノムシ又はそのミノムシ巣は前記可動式環状線状路にミノムシの脚部が係止可能な位置に配置され、かつ前記可動式環状線状路は電力を動力源として自動で、及び/又はミノムシの移動推進力によって環状線状路の長軸方向に動く前記生産方法。
  7. 前記集積工程後の線状路に集積されたミノムシ絹糸を剥離液及び/又は蒸気に接触させる第2接触工程をさらに含む、請求項に記載の生産方法。
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