本発明は、豆乳残渣の不溶性成分をより細かに微細化したことで、豆乳残渣の新たな用途として、腸内細菌叢の改善作用を発揮する腸内細菌叢改善剤を提供するものである。
ここで餡状とは、ペースト状、粘土状等の柔らかで所定の粘稠度を持つ性状のものを含む。
また、本実施形態に係る腸内細菌叢改善剤に含まれるおからペーストは大豆由来の固形分や繊維分を含むものであるが、その他野菜の搾汁残渣などを含んでもよい。
また、おからペーストを得る技術(以下、不溶性成分微細化技術という)は、豆乳残渣に水を添加して調製したスラリーを圧力式ホモゲナイザーに供し、得られた微細化スラリーを乾燥に供して餡状化(ペースト化)するものである。
不溶性成分微細化技術により得られたおからペーストによる腸内細菌叢への作用は、特にプレボテラ(Prevotella)属の細菌を増加させることにある。
ヒトの腸内細菌叢を形成している腸内細菌は、主としてファーミキューテス(Firmicutes)門、バクテロイデーテス(Bacteroidetes)門、アクチノバクテリア(Actinobacteria)門、プロテオバクテリア(Proteobacteria)門の4つの門に属している。
プレボテラ属は、バクテロイデーテス門を占める主要な属である。プレボテラ属の細菌(以下、プレボテラ属菌と呼称する)は、グラム陰性桿菌であり、偏性嫌気性の細菌である。プレボテラ属菌は、食物繊維を分解する能力が高く、その代謝産物としてはコハク酸が知られている。また、プレボテラ属菌は、大麦による食後の血糖値上昇抑制効果に関わりがあるとの研究報告がある(非特許文献2参照)。プレボテラ属菌による血糖値上昇抑制効果のメカニズムとしては、大麦のβ-グルカンを分解してコハク酸の濃度を上昇させることにより、次の食事における血糖値上昇の抑制効果(セカンドミール効果)を高めるものと考えられている。
腸内細菌叢改善剤の用途としては、例えば、食品添加剤、食品組成物(健康食品、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)を包含する)などがある。
腸内細菌叢改善剤の形態としては、特に限定されず、用途に応じて通常使用される形態をとることができる。例えば、用途が食品添加剤の場合は、ペースト状、ゲル状、所定形状に成形した固形状、粉末状などの形態をとることができる。
また、腸内細菌叢改善剤の形態としては、用途が食品組成物の場合は、液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えば清涼飲料、スープなどの飲料、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ケーキミックス、パン、クッキー、麺類などが挙げられる。
本発明の腸内細菌叢改善剤は、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、食品添加剤、食品組成物、医薬、健康増進剤、栄養補助剤(サプリメントなど)などに配合され得る成分である限り特に限定されるものではないが、例えば溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、増粘剤、着色料、香料、キレート剤などが挙げられる。また、原料スラリーの調合工程において、減水剤としてイヌリン、デキストロース当量が5を超えるデキストリン、レシチン、大豆タンパク、乳タンパクを添加してもよい。
腸内細菌叢改善剤は、経口摂取により優れた腸内環境の改善作用を発揮する。また、腸内環境の改善の他、腸内環境の維持又は悪化の防止のために用いられてもよい。腸内細菌叢改善剤は、既存の料理または食品の味に影響を及ぼすことがないため、食品添加剤、食品組成物として適用されることが好ましい。
以下、本実施形態に係る腸内細菌叢改善剤に含まれるおからペーストの製造技術および腸内細菌叢改善作用について、図面や試験等を参照しながら更に説明する。
〔1〕おからペースト製造技術
おからの利用について長年に亘り鋭意研究を行っている本発明者らは、工場における生産技術的な観点からの効率化を追求し、豆乳残渣に含まれる大豆由来の不溶性成分を微細化する技術を確立した。まず、本実施形態に係る腸内細菌叢改善剤を構成するおからペーストの製造技術(以下、不溶性成分微細化技術という)を説明する。
不溶性成分微細化技術は、豆乳残渣に水を添加して原料スラリーを調合する調合工程と、調合工程にて調製した原料スラリー中の不溶性成分を予備的に微細化するプレ微細化工程と、プレ微細化工程を経て得られたプレ微細化スラリーを加圧噴射させて衝撃を付与し、不溶性成分の更なる微細化を行う圧力式ホモゲナイズ工程と、圧力式ホモゲナイズ工程にて得られた微細化スラリー中に含まれる水分を蒸発させると共に、必要に応じて水分を調整しペーストを生成する乾燥・水分調製工程と、を有する。
図1は、不溶性成分微細化技術を適用したおからペースト製造システム10の概要を示したブロック図である。
おからペーストは、豆腐の生産過程で生じた何ら加工がされていない生おから(豆乳残渣)を原料とし、不溶性成分を微細化した餡状物として製造される。
おからペースト製造システム10は、調合工程を実行する調合タンク12と、プレ微細化工程を実行するコロイドミル13と、圧力式ホモゲナイズ工程を実行する圧力式ホモゲナイザー14と、乾燥・水分調製工程を実行するドラムドライヤー15とを備えて構成されている。以下、上流側から順に説明する。
おからペーストの原料となる生おから(豆乳残渣)は、例えば、豆腐の製造にあたり豆乳の製造を行うプラントの副次産物として入手可能である。なお、本実施形態において、この原料となる生おからは、以下の工程で製造された脱皮おからを使用している。
まず、大豆を水に8~24時間浸漬(季節によって変動する。)した後、脱皮機により脱皮した。その後、脱皮した大豆を石臼状の機械ですり潰して、消泡剤を添加することなく煮た。更に、煮た後の大豆をろ過して、濾液(豆乳)を取り除いた物を脱皮おからとした。
上記工程により得られた脱皮おからは、大豆から種皮、胚軸が取り除かれ、大豆の胚のうち、主に子葉の部分のみが残ったものである。なお、この脱皮おからを乾燥させた「脱皮乾燥おから」を脱皮おからとして使用することもできる。
脱皮おからをおからペースト製造システム10の原料として使用することにより、おからペーストにおいて、大豆に由来するサポニンの量を低減することができる。この結果、おからペーストに苦みや渋みを生じにくくすることができる。また、サポニンに由来する発泡作用を軽減することができる。すなわち、おからペーストを形成する際や、おからペーストを他の食品の原料として混合する際に、消泡剤の量を低減したり使用せずに済むものとなる。また、おからペーストを混合した食品、例えば麺類を茹でる際に、泡立ちを低減することができる。
このように、上記工程により得られた生おから(水分含量73~76w/w%の脱皮おから)は、調合タンク12へ供給される。
調合タンク12では、投入された生おから100重量部に対し、170~250重量部の水を添加して、原料スラリーの調製が行われる。このように水を添加する調合工程を実行することにより、豆乳残渣が原料スラリーとなる。
なお、調合工程においては、必要に応じて、更に、0.2~0.6重量部の酵素と、0重量部を超え70重量部を下回る量の減水剤を添加してもよい。水の量は、減水剤の量に応じて減らされる。例えば、減水剤を添加した場合の水の量は、減水剤を添加しなかった場合の水の量に対して、減水剤を16重量部添加した場合は81.5%程度、24重量部添加した場合は76.5%程度、50重量部添加した場合は63.0%程度、60重量部以上添加した場合は56.8%程度となる。
なお、減水剤の添加・無添加に拘わらず、生おからに対して上述の量の水を添加することで、次に述べるコロイドミル13での処理や圧力式ホモゲナイザー14での処理において、機械的な処理に必要な流量を十分に確保して、円滑な製造を行うことができる。
また、植物組織崩壊酵素を添加することによって、おから中の繊維固形分などの粒子を微細化し、更には細胞外に大豆レシチンやオレオシンを溶出させることで、乳化作用の増強を図ることができる。
酵素は、おからの植物組織を消化できるものであれば特に限定されるものではなく、既知の酵素を使用することができる。消化温度や消化時間は、使用する酵素の至適温度等に合わせて、適宜調製することができる。
次に、このようにして調製した原料スラリーは、コロイドミル13に供給して予備的な微細化を行う(プレ微細化工程)。後述する圧力式ホモゲナイズ工程の前工程であるプレ微細化工程では、圧力式ホモゲナイザー14での円滑な処理が危ぶまれる大きさの繊維固形分や粗砕物を含む原料スラリーを、より細かに、圧力式ホモゲナイザー14に供することが可能な程度に予備的に微細化されたプレ微細化スラリーとしている。また、プレ微細化スラリーを生成する装置として、コロイドミルを採用している。
おからペースト製造システム10では、回転数が3000~4000rpmに設定されたコロイドミル13に原料スラリーを供給し、温度を20~50℃に保ちながら調合タンク12との間で循環させつつプレ微細化処理を行う。この作業により、おからに対して酵素による消化を行いつつ、同時に機械的な粉砕処理を施すことができる。
プレ微細化スラリーを生成する装置は、特に限定されるものではなく、コロイドミルに替えて、例えば、ローラーミルやボールミル、プロペラミキサーを用いることも可能である。また、プレ微細化工程は調合工程で調合されたスラリーの状態に応じて省略してもよい。すなわち、原料スラリーが既に圧力式ホモゲナイザーに供することが可能な程度の微細化度合いに達しているのであれば、プレ微細化工程は省略することができる。
調合タンク12とコロイドミル13との間の循環によって得られ、又は、調合タンク12からコロイドミル13をワンパスすることで得られたプレ微細化スラリー(プレ微細化工程を省略した場合は、調合タンク12にて調合され適宜処理されたスラリー)は、次に、圧力式ホモゲナイザー14に供給される。
圧力式ホモゲナイザー14(圧力式ホモゲナイズ工程)では、プレ微細化スラリーに所定の圧力をかけて、繊維固形分を機械的に湿式微細化する。また、スラリーを更に乳化させ、おからペーストを構成する粒子をより一層微細化する。
圧力式ホモゲナイザー14は、古くから牛乳の均質化に広く用いられている装置であり、公知の物を使用することができる。圧力式ホモゲナイザー14は、大別してノズル式とバルブ式のものが存在するが、不溶性成分微細化技術の実施にあたっては、バルブ式の方が処理物が詰まりにくく好適である。
圧力式ホモゲナイザー14は、牛乳など飲料の業界において広く使用されている装置であるが、その内部構造において狭隘な流路部分も多いため、従来は、ペースト程の高粘度素材に含まれる繊維固形分の微細化にあたって同装置を採用することは困難であると考えられていた。
豆乳残渣は、大豆を水に浸しすりつぶし、液体分である豆乳が除かれたものであり、ボロボロと崩れやすく一定の形状を保ちにくい性状のものである。したがって、豆乳残渣の物性は、流動性が低く固体に近い。このような、固体に近い物性の物の微細化処理を行うにあたり、同処理と圧力式ホモゲナイザー14とを結びつけること自体、これまでに発想されることはなかった。
そして、この点において本発明者らは、これら既成の概念を敢えて覆し、豆乳残渣に水を添加してスラリー状とし、必要に応じて前処理を行った上で圧力式のホモゲナイザーに供することで、一時的にスラリー状に姿を変えた豆乳残渣の効率的かつより細かな微細化を実現させることに成功したのである。
おからペースト製造システム10においては、圧力式ホモゲナイザー14の設定圧力は、50~80MPaとしている。
圧力を50~80MPaの範囲に設定した場合には、おからペーストをより一層滑らかなものにすることができる。また、おからと水をより均質化することができる。
これに対し、圧力が50MPa未満である場合には、機械的に湿式微細化する際の圧力が不十分となり、おからペーストを構成する粒子を十分に小さくすることができないおそれがある。
また、圧力が80MPaを超える場合には、おからペーストがべたついた物性となり、他の食品の原料と混合した際に不具合が生じやすくなる。
圧力を50~80MPaの範囲に設定した圧力式ホモゲナイザー14にて処理を行うことで、繊維固形分を機械的に湿式微細化できると共に、おからの油性成分の水への分散性を高め、おからと水をより一層均質化することができる。更に、おからの粒子が微細化したことで、酵素を含む水と混ざりやすくなり、酵素反応がより一層促進されるものとなる。また、溶出したおから由来の大豆レシチンやオレオシンにより、別途の乳化剤を添加することなく、ペーストを十分に乳化させることができる。
しかしながら、圧力式ホモゲナイザー14において圧力を50~80MPaの範囲に設定することは、あくまで一例であって必ずしも限定されるものではなく、所望の質感を有するおからペーストが得られれば良いことに留意されたい。更なる一例として、おからペーストを構成する粒子のメジアン径が20~80μmの範囲内となる圧力を圧力式ホモゲナイザー14に設定するようにしても良い。
なお、圧力式ホモゲナイザーの設定圧力は、特に限定されるものではなく、圧力式ホモゲナイザーより吐出された処理後のスラリー(以下、微細化スラリーと称する。)が使用目的にあった細かさとなる圧力を適宜選択することができる。
また、使用する圧力式ホモゲナイザーの能力に応じて、圧力式ホモゲナイザーに供給する処理前のスラリーの水分量や繊維固形分の微細化度合いについても変更してもよい。例えば、駆動力の小さな圧力式ホモゲナイザーを使用する場合は、処理可能となる程度に水を添加したり、予めプレ微細化工程を実行してプレ微細化スラリーを生成し、これを圧力式ホモゲナイザーに供給するのが望ましい。逆に、駆動力の大きな圧力式ホモゲナイザーを使用する場合は、流動性がやや低めとなるように水分量を調整したり、繊維固形分が多少大きめであっても処理可能な場合がある。なお、スラリー中の水分量が少ないことは、次の述べる乾燥処理において蒸発させるべき水分の量が少なく済むため有利である。
次に、圧力式ホモゲナイザー14により微細化の処理が行われて吐出された微細化スラリーは、ドラムドライヤー15(乾燥・水分調整工程)に供給される。乾燥・水分調整工程は、圧力式ホモゲナイザー14より得られた微細化スラリーを、餡状(ペースト状)にすべく乾燥させる工程である。
ドラムドライヤー15のドラム表面温度は80~160℃程度に設定しており、10~60秒で1回転する速度でドラムを回転させつつ、付着からスクレーパによる剥離まで凡そ5~60秒に設定して、微細化スラリーに含まれる水分を蒸発させた。
ドラムドライヤー15より回収された乾燥物をまとめて混練することにより、餡状化されたおからペーストとなる。
乾燥・水分調整工程で行う乾燥は、水分含量が十数%を下回るような乾燥(からからの乾燥)でなく、スラリーが餡状となる程度の乾燥を行うことができる乾燥方式や乾燥機であれば、適宜、公知の技術を採用することができる。なお、ドラムドライヤー15は、乾燥後の水分含量の調整が比較的容易であるため好適である。
また、乾燥に供して得られた乾燥物は、餡状(ペースト状)となっているのが好ましいが、目標水分含量を下回って乾燥させたとしても、追って水を添加すれば良いので、特に問題となるものではない。すなわち、乾燥・水分調製工程では、圧力式ホモゲナイズ工程にて得られた微細化スラリー中に含まれる水分を蒸発させると共に、乾燥物に水分を添加して目標とする柔らかさを持つペーストとする作業も必要に応じて行われる。
このように、乾燥・水分調製工程にて得られたペーストは、当初の原料である豆乳残渣に比して、含まれる繊維固形分が微細化されており、喫食時に繊維感が少なく比較的良好な食感を有することとなる。
なお別の態様について付言すると、微細化スラリーに対して乾燥機により水分含量が十数%を下回るような十分な乾燥を行うこととしても良い。このような処理を行うことで、微細化された乾燥おから粉末を得ることができる。すなわち、微細化された乾燥おから粉末を腸内細菌叢改善剤の一形態とすることができる。
また、おからペースト製造システム10は、加工食品の製造プラントの一部として構成し、得られたおからペーストは、そのまま加工食品の原料として、後の加工食品の製造工程で使用することも可能であるが、必要に応じて殺菌や包装を施して、保存性を高めることも可能である。
〔2〕おからペーストの性状
次に、上述した大豆由来の不溶性成分の微細化技術にて得たおからペーストの各種性状について確認を行った。
まず、おからペーストを構成する粒子のメジアン径について、レーザー回折式粒子径分布測定装置(株式会社島津製作所製SALD-2300)を用いて確認したところ、メジアン径は約40μm(37.356μm)であり、粒子径範囲は0.68~205μmであった。粒度分布曲線は、単一ピークを示していた。
また、不溶性成分の微細化技術により、おからペーストが、生おからに比して微細化されていることについて、実際に双方を試食して食感の評価を行った。
その結果、おからペーストは、明らかに生おからに比して微細化されており、繊維分が舌の上に残るような悪い食感が改善されているのが確認された。なお、目視的にも微細化が確認された。
またプレ微細化スラリーのメジアン径は、44.695μmであり、粒子径範囲は2.51~161μmであったことから、圧力式ホモゲナイザー14により更なる微細化が行われていることが示された。
このような性状を踏まえると、不溶性成分微細化技術により得られたおからペーストは、パン類や麺類、菓子類、コロッケ、餃子など、種々の食品の副原料として利用可能であることが示唆された。
また、おからペーストを構成する粒子が十分に小さく、かつ、粒径の範囲が揃っているため、滑らかな食感を有し、他の食品に混合させやすいものと考えられた。
また、原料に由来する独特な風味、例えばおからに由来する独特の風味が少なく、他の食品の風味を損ないにくくすることができる。また上述のおからペーストの場合、生おからとして脱皮おからを使用することで、苦みや渋みを低減することができる。
〔3〕微細化処理による食物繊維の変化
次に、生おからを上述の不溶性成分微細化技術により処理(微細化処理)しておからペーストとしたことによる大豆由来の食物繊維の成分比率の変化について確認を行った。なお、食物繊維成分の分析は、不溶性食物繊維、高分子水溶性食物繊維についてはプロスキー変法、低分子水溶性食物繊維については酵素-HPLC法により行った。以下の表1にその結果を示す。
表1に示すように、微細化処理を行っていない生おから100g当たりの各食物繊維の含有量(g)と、微細化処理を経たおからペースト100g当たりの各食物繊維の含有量(g)を比較すると、おからペーストでは食物繊維総量および不溶性食物繊維が生おからより減少した。一方で、おからペーストでは、高分子水溶性食物繊維が、生おからよりも約2倍量含まれることが確認された。食物繊維総量における高分子水溶性食物繊維の含量(高分子水溶性食物繊維(g)/食物繊維総量×100)は、生おからでは約4.6%であったのに対し、おからペーストでは約11.3%に上昇した。つまり、おからペーストは、食物繊維総量に対する含量率でも生おからよりも多い量(少なくとも食物繊維総量の8%以上、好ましくは10~13%)の高分子水溶性食物繊維を含有するものである。
〔4〕おからペーストが腸内細菌叢に与える影響の確認試験
腸内環境を模した腸内細菌叢モデルに、所定量のおからペーストおよび比較サンプルを添加し、主にプレボテラ属菌の生育への影響を確認した。
(4-1)腸内細菌叢モデル
腸内細菌叢モデルは、食品の腸内細菌に対する影響を評価するために腸内細菌叢を培養槽内に再現したものである。腸内細菌叢モデルは、Han等の文献(Kyu-Ho Han et al., “Comparison of the Effects of Longer Chain Inulins with Different Degrees of Polymerization on Colonic Fermentation in a Mixed Culture of Swine Fecal Bacteria”, Journal of Nutritional Science and Vitaminology, 2014, vol. 60, pp206-212)に記載の方法に従って構築した。より具体的には、抗生物質無添加の餌を与えて飼育されたブタの糞便を、塩およびミネラルを含む緩衝液に懸濁してスラリーとし、当該スラリーを培養条件がコントロール可能な培養槽に準備した液体培地に添加し、窒素ガスおよび二酸化炭素ガスを培養槽に曝気して嫌気として大腸の環境を模した腸内細菌叢モデルとした。なお、培地には窒素源としてペプトンを含む培地(例えばNB培地:nutrient broth)を採用した。
(4-2)試験例1
腸内細菌叢モデルが構築された複数(12個)の培養槽を、そこに添加するサンプルごとの試験区に群分けした。なお、各群N=3とした。また、培養槽における培地120mlに対して、大凡ブタ糞便1.7%、窒素源0.8%、添加サンプル1.5%となるように添加量を調整した。
試験群は以下のとおりである。
(a)おからペースト添加群:添加するおからペーストは、先に説明した不溶性成分微細化技術を用いて製造したおからペーストを、アミログリコシダーゼ、パンクレアチン処理により胃小腸系の模擬消化を行い、消化物から難消化性成分を抽出して添加用サンプルとした。
(b)イヌリン添加群:添加するイヌリンは、粉末のイヌリン(イヌリアCLR、帝人株式会社製:イヌリアは帝人株式会社の登録商標)を添加用サンプルとした。
(c)おからペースト+イヌリン添加群:(a)の添加用サンプルと(b)の添加用サンプルを重量比1:1に混合して添加用サンプルとした。
また、対照群は以下のとおりである。
(d)コントロール群:食品添加物用に精製・粉末化されたセルロース(富士フィルム和光純薬株式会社製)を添加用サンプルとした。
各培養槽へのサンプル添加量は、全ての培養槽に対して同じ重量となるように調整した。具体的には、おからペースト添加群では、(a)に示した添加用サンプル1.8gに(d)に示したセルロースを加えて、総量を3.6gとして添加した。イヌリン添加群では、(b)に示した添加用サンプル1.8gに(d)に示したセルロースを加えて、総量を3.6gとして添加した。おからペースト+イヌリン添加群では、(c)に示す添加用サンプルを3.6g添加した。コントロール群では(d)に示した添加用サンプルを3.6g添加した。
サンプル添加後に各培養槽を、嫌気性条件下で温度37度に保ちながら培養を続け、8時間、24時間、48時間経過時に培養液(1ml)をサンプリングした。
培養液中のプレボテラ属菌の菌量を、定量的PCR法により相対菌量として求めた。その結果を図2~図4に示す。図2はサンプル添加後8時間、図3はサンプル添加後24時間、図4はサンプル添加後48時間経過後のプレボテラ属菌の相対菌量を示している。図2~図4のグラフにおいて、縦軸は、各サンプルの相対定量値を、0時間におけるすべての群の相対定量値の平均で除した値を示す。また、腸内細菌叢におけるプレボテラ属菌の占有率(存在割合)は、16SrRNA菌叢解析により求めた。48時間後の腸内細菌叢におけるプレボテラ属菌の占有率を図5に示す。
また、各試験群の結果は、Tukeyの多重比較検定により対照群との差を検出し、図2~図5の各グラフ中に異なるアルファベット(a、b、c、d)で、有意差があることを示した(p<0.05)。
図2~図4に示すように、サンプル添加後培養8時間、24時間、48時間いずれにおいても、プレボテラ属菌の相対菌量は、おからペースト添加群で他の群と比較して有意に増加したことが確認された。また、おからペースト+イヌリン添加群では、サンプル添加後培養8時間では有意差は確認できなかったが、培養時間が24時間、48時間と長くなるにつれて、プレボテラ属菌の相対菌量が有意に増加していることが確認された。
図5に示すように、腸内細菌叢におけるプレボテラ属菌の占有率については、おからペースト添加群で占有率が他の群と比較して有意に高いことが示された。コントロール群でのプレボテラ属菌の占有率が約19%であるのに対し、おからペースト添加群でのプレボテラ属菌の占有率は、添加後48時間で約55%まで上昇した。また、おからペースト+イヌリン添加群では、おからペースト添加群ほどではないが、コントロール群と比較して占有率が約30%まで上昇した。
一方で、イヌリン添加群に関しては、コントロール群よりもプレボテラ属菌の占有率が低くなる結果となった。イヌリン添加群では、プレボテラ属菌の相対菌量も増加しなかったことから(図2~図4参照)、プレボテラ属菌以外のイヌリンを資化する腸内細菌の菌量が増え、相対的にプレボテラ属菌の占有率が下がったものと考えられる。
本試験例1の結果から、不溶性成分微細化技術により得たおからペーストが、プレボテラ属菌の増殖を促進させることが確認された。
不溶性成分微細化技術により得たおからペーストを食品添加物、食品組成物として含む食品を摂取することにより、プレボテラ属菌の占有率の高い腸内細菌叢とすることが期待できる。
(4-3)試験例2
次に、生おからと不溶性成分微細化技術により製造したおからペーストとで、プレボテラ属菌の生育並びに腸内細菌叢に及ぼす影響に違いがみられるかについて、腸内細菌叢モデルを用いて確認試験を行った。
確認試験は、上述の試験例1の方法に準じて行った。すなわち、腸内細菌叢モデルが構築された複数(9個)の培養槽を、そこに添加するサンプルごとの試験区に群分けした。なお、各群N=3とした。また、培養槽における培地120mlに対して、大凡ブタ糞便1.7%、窒素源0.8%、添加サンプル1.5%となるように添加量を調整した。
試験群は、(a)おからペースト添加群、(b)生おから添加群とした。また、対照群として(c)コントロール群を準備した。各群の添加サンプルの調整を下に示す。
(a)おからペースト添加群:添加するおからペーストは、先に説明した不溶性成分微細化技術を用いて製造したおからペーストに、アミログリコシダーゼ、パンクレアチン処理により胃小腸系の模擬消化を行い、消化物から難消化性成分を抽出して添加用サンプルとした。
(b)生おから添加群:先に説明した不溶性成分微細化技術による製造工程を経る前の原料としての生おからに、アミログリコシダーゼ、パンクレアチン処理により胃小腸系の模擬消化を行い、消化物から難消化性成分を抽出して添加用サンプルとした。
(c)コントロール群:食品添加物用に精製・粉末化されたセルロース(富士フィルム和光純薬株式会社製)を添加用サンプルとした。
各培養槽へのサンプル添加量は、全ての培養槽に対して同じ重量となるように調整した。具体的には、おからペースト添加群では、(a)に示した添加用サンプル1.8gに(c)に示したセルロースを加えて、総量を3.6gとして添加した。生おから添加群では、(b)に示した添加用サンプル1.8gに(c)に示したセルロースを加えて、総量を3.6gとして添加した。コントロール群では(c)に示した添加用サンプルを3.6g添加した。
サンプル添加後に各培養槽を、嫌気性条件下で温度37度に保ちながら培養を続け24時間経過時に培養液(1ml)をサンプリングした。
その結果を図6および図7に示す。図6はサンプル添加後24時間の腸内細菌の総菌量、図7はサンプル添加後24時間後のプレボテラ属菌の相対菌量を示している。なお、培養液中の総菌量およびプレボテラ属菌の菌量は定量的PCR法により相対菌量として求めた。また、図6および図7のグラフにおいて、縦軸は、各サンプルの相対定量値を、0時間におけるすべての群の相対定量値の平均で除した値を示す。
また、各試験群の結果は、Tukeyの多重比較検定により対照群(コントロール群)との差を検出し、図6および図7の各グラフ中に異なるアルファベット(a、b、c)で、有意差があることを示した(p<0.05)。
図6に示すように、サンプル添加後培養24時間後において、コントロール群と比較して、おからペースト添加群および生おから添加群のいずれにおいても、腸内細菌の総菌量が有意に増加した。また、生おから添加群よりもおからペースト添加群の方が、より腸内細菌の総菌量が増加した。
図7に示すように、サンプル添加後培養24時間後において、コントロール群と比較して、おからペースト添加群および生おから添加群の双方で、プレボテラ属菌の相対菌量が有意に増加した。また、生おから添加群よりもおからペースト添加群の方が、よりプレボテラ属菌の相対菌量が増加した。この結果から、不溶性成分微細化技術により得たおからペーストが、生おからと比較して、よりプレボテラ属菌の増殖を促進させることが確認された。
(4-4)短鎖脂肪酸の評価
次に、試験例2で用いたサンプル添加後培養24時間経過時の培養液を遠心分離した上清を使用して、腸内細菌叢によって産生される短鎖脂肪酸の定量評価を行った。短鎖脂肪酸の定量は、高速液体クロマトグラフィーを用いて行った。また、短鎖脂肪酸である酢酸、プロピオン酸および酪酸の同定は、測定サンプルおよび標準液の保持時間に比較によって、定量はピーク面積値の比較によって行った。なお、短鎖脂肪酸は、水溶性食物繊維をプレボテラ属菌などの腸内細菌が発酵分解することにより産生される有機酸であり、近年、腸内環境改善等の効用をもたらすとして注目されている物質である。
また、上記試験例1および試験例2の場合と同様に、短鎖脂肪酸の定量結果に対して、Tukeyの多重比較検定を行った。その結果を図8~図11に示す。図8~図11のグラフの縦軸は濃度(mM)であり、各グラフ中に異なるアルファベット(a、b、c)で、有意差があることを示した(p<0.05)。また、図8に示す総短鎖脂肪酸は、図9~図11に示す酢酸、プロピオン酸および酪酸の合計値である。なお、図8~図11において、サンプル添加後培養0時間では、コントロール群と比較して、おからペースト添加群および生おから添加群の双方で、短鎖脂肪酸の濃度に有意差がない(n.s.:p≧0.05)ことを確認した。
図8に示すように、サンプル添加後培養24時間後では、コントロール群と比較して、おからペースト添加群および生おから添加群のいずれにおいても、総短鎖脂肪酸が有意に増加した。また、生おから添加群よりもおからペースト添加群の方が、より総短鎖脂肪酸が増加した。
また、総短鎖脂肪酸のうち、図9に示す酢酸、および、図10に示すプロピオン酸が、サンプル添加後培養24時間後において、コントロール群と比較しておからペースト添加群および生おから添加群で有意に増加した。一方で、図11に示すように、酪酸の濃度については、サンプル添加後培養24時間後において、コントロール群に対しておからペースト添加群および生おから添加群のいずれについても有意差は見られなかった(n.s.:p≧0.05)。
おからペーストでは、不溶性成分微細化技術により水溶性食物繊維が生おからよりもプレボテラ属菌をはじめとする腸内細菌により利用しやすい性状となり、生おからと比較して、より短鎖脂肪酸量を増加させる結果となったと考えられる。特に、おからペーストにより酢酸およびプロピオン酸が増加したことで、弱酸性の腸内環境を実現でき、整腸作用が期待できる。
(4-5)腸内細菌叢の多様性の評価
また、試験例2で用いたサンプル添加後培養24時間経過時、並びに、48時間経過時の腸内細菌叢における菌叢解析を、16SrRNA菌叢解析により求めた。24時間後および48時間後の腸内細菌叢におけるプレボテラ属菌の占有率は、おからペースト添加群では、図5および図6に示した試験例1のおからペースト添加群と同様にコントロール群と比較して高くなることが示された。また、生おから添加群でも、24時間後および48時間後の腸内細菌叢におけるプレボテラ属菌の占有率の増加が認められた。より具体的には、コントロール群でのプレボテラ属菌の占有率が約12~20%であるのに対し、おからペースト添加群でのプレボテラ属菌の占有率は、添加後24時間および48時間のどちらも約45%となった。また、生おから添加群でも同様にプレボテラ属菌の占有率は、添加後24時間および48時間のどちらも約43%となった。
図12に、細菌叢のアルファ多様性の指標である、Chao1 Indexを示す。上記試験例1および試験例2の場合と同様に、Chao1 IndexについてTukeyの多重比較検定を行った。図12のグラフ中に有意差があることを示した(**p<0.01)。なお、アルファ多様性とは、ある環境(例えば、腸内環境)における種の多様性を意味し、「Chao1 index」とは、一度のみ確認された生物種(シングルトン)と二度のみ確認された生物種(ダブルトン)の配列を基に推計した生物種の豊富さの指標である。この数値が高い程、様々な種が存在していることを示す。
図12に示すように、腸内細菌叢を形成する腸内細菌の種類は、サンプル添加後24時間、48時間のいずれにおいても、生おから添加群よりもおからペースト添加群でChao1 indexの値が有意に高い結果となった。すなわち、生おから添加群よりもおからペースト添加群の方が、腸内細菌叢を形成する細菌の種類が豊富であることが示された。つまり、不溶性成分微細化技術により得たおからペーストの方が、生おからに比べて、より多くの腸内細菌に活用されやすくなったものと考えられる。
以上の結果から、不溶性成分微細化技術により得たおからペーストを食品添加物、食品組成物として含む食品を摂取することにより、プレボテラ属菌の占有率の高い腸内細菌叢とすることができるとともに、生おからを摂取した場合よりも、腸内細菌叢の多様性を増加させることが期待できる。
〔5〕製パンテスト
次に、不溶性成分微細化技術により製造したおからペーストを使用することにより、パンにどのような影響が見られるかについて検討を行った。
前述のおからペースト製造システム10を使用して、圧力式ホモゲナイザーに供して製造したおからペースト(以下、ホモありペーストという。)と、圧力式ホモゲナイザーに供することなく製造したおからペースト(以下、ホモなしペーストという。)とのいずれかを使用して製パンし、レオメータ値と水分値にどのような影響が見られるかについて検討を行った。
ホモありペーストは、前述のおからペースト製造システム10にて、表2に示す処方に従い、不溶性成分微細化技術を適用して製造したおからペーストである。ホモありペーストのメジアン径は、37.356μm(粒子径範囲:0.68~205μm。粒度分布曲線は単一のピークを持つ)であった。
またホモなしペーストは、ホモありペーストと基本的には同じ処方、同じ作り方であるが、プレ微細化スラリーを圧力式ホモゲナイザー14に供することなく、ドラムドライヤー15にて再び餡状化させた点で相違している。ホモなしペーストのメジアン径は、63.808μm(粒子径範囲:2.51~472μm。粒度分布曲線は単一のピークを持つ)であった。
パン生地は、100重量部の小麦粉に対し、14重量部のおからペーストを添加して混練することで作製した。なお、その他の製パン手順は、既知の内容であるため、詳細な説明は省略する。
図13は、焼成1日目と焼成4日目におけるパンの状態を示すグラフであり、図13(a)はレオメータ値、図13(b)は水分値を示している。
ホモありペーストを用いたパン(以下、ホモありパンという。)は、焼成4日目におけるレオメータ値が、ホモなしペーストを用いたパン(以下、ホモなしパンという。)と比較して大きな値となった。
また、ホモありパンでは、焼成1日目から焼成4日目にかけて水分値が2.52%減少していた。また、ホモなしパンでは、焼成1日目から焼成4日目にかけて水分値が2.19%減少していた。水分値の変動は同程度であった。焼成4日目でホモありパンは、ホモなしパンよりも柔らかくなっており、ホモありパンの方が老化(固化)しにくくなっていることが明らかとなった。
ホモありパンの高さは60.0mmであった。一方、ホモなしパンの高さは、57.0mmであった。すなわち、ホモありパンはホモなしパンに比べて、ボリュームのあるパンとなっていることが明らかとなった。
ホモありパンでは、仕込み時(生地の作製時)に、生地が軟らかくならず、成形が容易で、張りのある生地となった。一方、ホモなしパンでは、生地が軟らかくべたついたものとなった。
また焼成時には、ホモありパンでは、窯伸び(生地の膨らみ)が見られたが、ホモなしパンでは窯伸びしにくいものとなっていた。
また、ホモありパンに比べてホモなしパンは、焼成後のパンがやや縮んでいる状態が確認された。また、ホモありパンを試食すると、滑らかで食感が良く、パン本来の風味を感じることができた。一方、ホモなしパンを試食すると、ややざらついた食感であった。
ホモなしパンでは、使用したホモなしペーストが圧力式ホモゲナイザーでの処理を経ていないため、メジアン径の結果からも明らかなように、おからペーストを構成する粒子がホモありペーストよりも大きなものとなっている。そのため、大きな粒子が生地の中でグルテンの形成を阻害することが考えられる。グルテンの形成が阻害されると、グルテン組織が不安定になり、生地が緩んでしまう。この結果、焼成時にパンが膨らみにくくなり、ボリュームが不十分になってしまう。また、食べたときの食感が悪く、老化が早くなる。
ホモありパンでは、おからペーストを構成する粒子が小さく、グルテンの形成を阻害しにくくなることが考えられる。この結果、おからペーストが満遍なくパンの組織内に浸透し、おからを構成する油分でグルテン組織がコーティングされ、老化を遅らせることが可能になると推測される。
製パンテストにより、不溶性成分微細化技術により得たおからペーストをパンの食品組成物として使用した場合において、パンの膨張性、風味、食感に影響を及ぼすことがないことが確認された。
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。また、本開示に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものでは無く、また他の効果があってもよい。