本発明は、それぞれ周方向において第1のセグメント端部と第2のセグメント端部とを備えた少なくとも3つのリングセグメントを有するパッキンリングであって、1つのリングセグメントの第1のセグメント端部の第1の接線方向接触面が、前記リングセグメントに周方向に続くリングセグメントの第2のセグメント端部の第2の接線方向接触面に当接しており、これにより、パッキンリングの半径方向のシールが形成されており、1つのリングセグメントの第1のセグメント端部の、パッキンリングの第1の軸線方向リング端部に面した第1の軸線方向接触面が、前記リングセグメントに周方向に続くリングセグメントの第2のセグメント端部の、パッキンリングの第2の軸線方向リング端部に面した第2の軸線方向接触面に当接しており、これにより、パッキンリングの軸線方向のシールが形成されている、パッキンリングに関する。さらに本発明は、軸線方向に連続して配置された複数のパッキンリングが内部に設けられているケーシングを備えた、並進揺動型のピストンロッドをシールするためのシール装置ならびにコンプレッサケーシングと、該コンプレッサケーシングに接して配置され、内部でピストンが並進式に揺動する少なくとも1つのシリンダケーシングとを備えたピストンコンプレッサに関する。
クロスヘッド構成形式、とりわけ複動構成形式のピストンコンプレッサは、時間的に変化する(高い)シリンダ圧が内部を支配しているシリンダ内のクランク側の圧縮室を、揺動するピストンロッドに沿ってシールすることを必要とする。このシールは一般に、クランクケース内を支配している、実質的に周辺圧力に相当する(低い)圧力に対して行われる。このようなシールに用いられるシール部材はパッキンリングと呼ばれ、いわゆる圧力パッキン内に配置されている。この場合、シール部材はそのシール作用を失うこと無しに、ピストンロッドの横方向運動にある程度追従することができる。圧力パッキンの耐用年数および確実性を向上させるために、圧力パッキン内では一般に前記のようなパッキンリングが複数、軸線方向において直列に接続される。このような圧力パッキンもしくはシールは従来技術から、例えば英国特許出願公告第928749号明細書、米国特許第1008655号明細書または欧州特許出願公開第2056003号明細書から様々な構成で十分に知られている。
ピストンロッドとパッキンリングとの間の相対運動に基づき、パッキンリングはピストンロッドに対する接触面にある程度の摩耗の影響を受ける。このリング摩耗は、リングとピストンロッドとの接触面において材料が除去された場合にリングの自動的な連続調整を可能にする、通常カットされたリング形状を必要とする。このためには大抵、半径方向および接線方向にカットされたリングが使用され、これらのリングは対で圧力パッキンのパッキン室に用いられ、これにより、生じる突合せギャップを相互にカバーして摩耗補償する。このような半径方向/接線方向にカットされたリングの組合せは、クロスヘッドの方向にのみシールする単動シールである一方で、ピストンコンプレッサのクランク側の再膨張段階において、パッキン内により高い圧力が閉じ込められる恐れがない、ということを、半径方向のカットが保証する。カットされたリング形状の場合、周知のように一般に外周面上に巻き付けられたコイルエキスパンダが使用され、コイルエキスパンダはパッキンリングを無圧状態でもピストンロッドに押し付ける。
特に比較的高い圧力において、従来のユニットでは、ピストンロッドとパッキンケーシングもしくはチャンバディスクとの間に形成されたギャップ内へのパッキンリングの大幅な押出しも生じ得る。この押出しを可能な限り回避するためには、米国特許第3305241号明細書に開示されているように、リングの低圧側とチャンバディスクとの間に、ピストンロッドに面状には接触しない追加的な金属の支持リングを用いることができる。
半径方向にカットされたパッキンリングと接線方向にカットされたパッキンリングとの複合体では、ピストンロッドに対するシールは実質的に接線方向にカットされたパッキンリングのみにより行われ、接線方向にカットされたパッキンリングの各リングセグメントは、接線方向に案内されたカットに基づき、摩耗時には互いに押しずらし合うことができひいてはシール作用を維持するようになっている。半径方向にカットされたパッキンリングは実質的に、接線方向のパッキンリングの摩耗ギャップを軸線方向と半径方向とにおいてシールするためだけに用いられる。半径方向のパッキンリングは、各リングセグメントが周方向において互いに当接し合うまで摩耗する。よって、半径方向にカットされたパッキンリングの摩耗と接線方向にカットされたパッキンリングの摩耗とは異なっている。半径方向にカットされたパッキンリングと接線方向にカットされたパッキンリングとが互いに相対的に回動し、これにより、接線方向にカットされたパッキンリングの摩耗ギャップが最早カバーされなくなりひいてはシール作用が失われることを防ぐためには、各リングの間に回動防止手段が設けられていなければならない。このような回動防止手段は一般にピンとして形成されており、ピンは、半径方向にカットされたパッキンリングと接線方向にカットされたパッキンリングとに対応して配置された凹部に差し込まれる。よって前掲の欧州特許出願公開第2056003号明細書において既に、半径方向にカットされたパッキンリングと接線方向にカットされたパッキンリングとから成る複合パッキンリングを設けるのではなく、半径方向と接線方向とにカットされた単一のパッキンリングを設けることが提案された。これにより、圧力パッキンひいてはシール全体の軸線方向の構成長さが短縮され得る。
コンプレッサの圧縮圧力が増大するにつれて、パッキンリングに加えられる荷重ひいてはパッキンリングの摩耗も増大する。セグメント化されたパッキンリングに加えられる荷重を低下させるための周知の方法は、例えば前掲の欧州特許出願公開第2056003号明細書に示されているように、圧力補償手段を設けることである。この場合、加えられた比較的高い圧力は意図的に、周方向に延びる1つまたは複数の圧力補償溝を介して、(半径方向においてパッキンリングとピストンリングとの間の)動的シール面と、軸線方向において圧力とは反対の側(クランクケース側)の方により接近してもたらされる。これにより、動的シール面における面圧が減少し、摩擦力が低下しかつ耐用年数は増大する。しかしこの場合の欠点は、この圧力補償の原理がある程度までしか高められない、という点にある。それというのも、圧力補償溝に基づき、パッキンリングに軸線方向に残留している残留壁厚さが最早十分に安定的ではなく、圧力が加えられることにより変形ひいては漏れが生じる恐れがあるからである。高度に圧力補償されるパッキンリングの別の欠点は、リングが極小さな残留力だけで半径方向においてピストンロッドに圧着される点である。ピストンロッドは並進揺動運動の他に、一般にある程度の横方向運動の影響も受けるため、パッキンリングの軸線方向の当接面における摩擦力が、リングの半径方向運動を妨げるかまたは少なくとも遅らせることがあり、これにより、リングがピストンロッドから持ち上がり、これに伴って漏れが生じる恐れがある。
米国特許第3305241号明細書に開示された、3つの部分から成る接線方向にカットされたパッキンリングでは、各リングセグメントにおいて両端面間の中心に2つの半径方向の孔が設けられている。これらの孔は、内周面に設けられた周方向溝に開口している。軸線方向のシールには、別個のカバーリングが必要とされている。軸線方向での圧着を低下させるためには、各端面に複数の溝が配置されている。DE69935834T2には、並進揺動型のピストンロッドのパッキンリングではなく、回転軸用のシールリングが開示されている。このリングは4つのセグメントを有しており、この場合、各セグメントには、内周溝に開口する3つの半径方向の孔が配置されている。ケーシングに対するセグメントの圧力荷重を低下させるためには、軸線方向の各端面に複数の溝が設けられている。
したがって本発明の課題は、従来技術の欠点を解消するパッキンリングおよびシール装置を提供することにある。特に、パッキンリングは可能な限り簡単かつコンパクトに構成されていて、より長い耐用年数を可能にし、かつ様々な使用条件にフレキシブルに適合され得ることが望ましい。
前記課題は本発明に基づき、少なくとも1つのリングセグメントに少なくとも1つの摩耗開口が設けられており、摩耗開口は、リングセグメントの半径方向外側に位置する外周面および/または第2の軸線方向リング端部から、リングセグメントの半径方向内側に位置する内周面に向かって延びており、この場合、少なくとも1つの摩耗開口の、内周面に面した半径方向内側の摩耗開口端部は、リングセグメントの半径方向においてリングセグメントの半径方向内側に位置する内周面から、リングセグメントの外側に位置する外周面と半径方向内側に位置する内周面との間に延在する半径方向リング高さの最大40%の距離だけ離間されており、この場合、摩耗開口端部は、第1の軸線方向リング端部と第2の軸線方向リング端部との間に位置しておりかつ第1の軸線方向リング端部と第2の軸線方向リング端部とから離間されていることにより解決される。これにより、パッキンリングの半径方向内側に位置する内周面において摩耗開口が露出させられる特定の摩耗状態から、外周面と第2の軸線方向リング端部に加えられる高圧と、これに対して相対的に低い、第1の軸線方向リング端部に加えられる圧力との間での圧力補償を可能にすることができる。これにより、ピストンロッドに対する圧着圧力が低下させられ、これにより、摩耗を減らすことができる。
少なくとも1つの摩耗開口の、半径方向内側に位置する内周面に面した少なくとも1つの端部が、第1の軸線方向リング端部に向かって傾斜していると有利である。これにより、パッキンリングの半径方向内側に位置する内周面において摩耗開口が露出した時から、圧力補償特性が、パッキンリングの半径方向に進行する摩耗に適合され得、特に増大され得る。
有利には、少なくとも1つの摩耗開口は真っ直ぐな延在部と、パッキンリングの軸線方向リング幅の2~60%、好適には2~40%である摩耗開口直径を備えた一定の円形横断面とを有している。これにより、摩耗開口は例えば穿孔またはフライスにより簡単に製造され得、この場合、可能な限り良好な圧力補償を達成するためには複数の寸法が有利であるということが判った。
好適には、少なくとも1つの摩耗開口の、第1の軸線方向リング端部に面した画定部は、軸線方向において、軸線方向リング幅の2%~20%、好適には2~15%の摩耗開口軸線方向距離だけ、第1の軸線方向リング端部から離間されている。これにより、パッキンリングの安定性を許容不能に低下させること無しに、圧力補償が改良され得る。
好適には、少なくとも1つのリングセグメントに少なくとも1つのリリーフ開口が設けられており、リリーフ開口は、リングセグメントの半径方向内側に位置する内周面からリングセグメントの半径方向外側に位置する外周面までかつ/または第2の軸線方向リング端部まで延びている。これにより、外周面と第2の軸線方向リング端部に加えられる高圧と、これに対して相対的に低い、第1の軸線方向リング端部に加えられる圧力との間での圧力補償が可能になり、これにより、摩耗を減らすことができる。
有利には、少なくとも1つのリリーフ開口の、リングセグメントの半径方向内側に位置する内周面に開口する第1のリリーフ開口端部は、リングセグメントの軸線方向リング幅の4%~40%、好適には4~20%のリリーフ開口軸線方向距離だけ、第1の軸線方向リング端部から離間されて配置されている。これにより、パッキンリングを許容不能に弱化させること無しに、圧力補償部を軸線方向において可能な限り低圧側の近くに近づけることができる。
好適には、少なくとも1つのリリーフ開口は、少なくともリリーフ開口端部に、パッキンリングの軸線方向リング幅の2~100%であり、軸線方向リング幅の好適には2~50%、特に最大25%である周方向のリリーフ開口長さを有している。これにより、例えば周方向における比較的小さな範囲にわたって延在する溝状の凹部を内周面に設けることができる。
好適には、少なくとも1つのリングセグメントに少なくとも2つのリリーフ開口が設けられており、この場合、リリーフ開口はそれぞれ、リングセグメントの半径方向内側に位置する内周面に開口する第1のリリーフ開口端部を有しており、この場合、周方向に相並んで配置された2つのリリーフ開口の第1のリリーフ開口端部は、好適には1mm~15mmであるリリーフ開口周方向距離だけ、互いに離間されて配置されており、この場合、1つのリングセグメントの全てのリリーフ開口の間のリリーフ開口周方向距離は、好適には同じ大きさである。これにより、圧力補償を改良することができ、特に周方向においてより均一に行うことができる。
好適には、少なくとも1つのリリーフ開口の、パッキンリングの半径方向内側に位置する内周面に接する少なくとも1つの部分は、第1の軸線方向リング端部に向かって傾斜または湾曲している。これにより、圧力補償がパッキンリングの半径方向の摩耗に適合され得、特に増大され得る。
有利には、少なくとも1つのリリーフ開口が設けられており、該リリーフ開口の、パッキンリングの半径方向内側に位置する内周面に開口する第1のリリーフ開口端部は、周方向において、リリーフ開口の、パッキンリングの半径方向外側に位置する外周面に開口する第2のリリーフ開口端部から離間されている。これにより、例えば内側に位置する内周面において第1のセグメント端部の領域に、パッキンリングの内側に位置する内周面から外側に位置する外周面まで傾斜して延びるリリーフ孔が設けられてよい。
好適には、少なくとも1つのリリーフ開口は、少なくともリリーフ開口端部に、パッキンリングの軸線方向リング幅の2~30%、好適には2~20%である軸線方向リリーフ開口幅を有している。好適には、リリーフ開口は真っ直ぐな延在部と、パッキンリングの軸線方向リング幅の2~30%、好適には2~20%であるリリーフ開口直径を備えた一定の円形横断面とを有している。これにより、リリーフ開口は例えば穿孔またはフライスにより簡単に製造され得、この場合、可能な限り良好な圧力補償を達成するためには複数の寸法が有利であるということが判った。
1つの別の有利な構成では、少なくとも1つのリングセグメントに、リングセグメントの半径方向外側に位置する外周面からリングセグメントの半径方向内側に位置する内周面に向かって延びかつ第1の軸線方向リング端部から第2の軸線方向リング端部に向かって延びる少なくとも1つの補償凹部が設けられており、この場合、好適にはリングセグメント毎に少なくとも1つの補償凹部が設けられている。これにより、壁に対する軸線方向の圧着圧力が低下させられひいては半径方向の摩擦が低下させられ、これにより、パッキンリングはピストンロッドの横方向運動に、より良好に追従することができるようになる。
少なくとも1つのリングセグメントの半径方向内側に位置する内周面に、リングセグメントの軸線方向において第2の軸線方向リング端部から第1の軸線方向リング端部に向かって延びておりかつリングセグメントの半径方向においてリングセグメントの半径方向内側に位置する内周面からリングセグメントの半径方向外側に位置する外周面に向かって延びる少なくとも1つの突合せ凹部が設けられているとさらに有利であり、この場合、突合せ凹部は、リング高さの最大3%の半径方向の突合せ凹部深さを有している。これにより、突合せ凹部に含まれない、パッキンリングの半径方向内側に位置する内周面において、コンプレッサの高速運転段階中に面圧の増大を生ぜしめることができ、このことは、特に大幅に圧力補償されるパッキンリングにおいて高速運転中の漏れを減少させるために有利である。
少なくとも1つのリングセグメント、好適には各リングセグメントの半径方向外側に位置する外周面に、第1の軸線方向リング端部から第2の軸線方向リング端部まで延びる少なくとも1つの軸線方向溝が設けられていると有利である。これにより、リングセグメントひいてはパッキンリングの構造剛性が改良され得る。
前記課題はさらに、少なくとも1つの本発明によるパッキンリングが設けられたシール装置、ならびに少なくとも1つの本発明によるパッキンリングがコンプレッサケーシング内に設けられたピストンコンプレッサにより解決される。
以下に、本発明の有利な構成を例示的、概略的かつ非限定的に示す図1~図8dを参照して、本発明をより詳細に説明する。
ピストンロッド用のシール装置を示す図である。
パッキンリングを示す等角投影図である。
図3aおよび図3bは、パッキンリングもしくはリングセグメントを、第1の軸線方向のリング端部の平面図で示す図である。
図4aおよび図4bは、パッキンリングもしくはリングセグメントを、第2の軸線方向のリング端部の平面図で示す図である。
図5aおよび図5bは、パッキンリングにおける圧力状態を示す図である。
パッキンリングを、外周面の平面図およびパッキンリングの複数の異なる位置における断面図で示す図である。
図7a~図7dはそれぞれ、パッキンリングのリングセグメントを、補償凹部のそれぞれ異なる構成と共に示す図である。
図8a~図8dは、突合せ部分を備えたパッキンリングのリングセグメントを、それぞれ異なる見方で示す図である。
図1には、例えば十分に周知のクロスヘッドを備えたピストンコンプレッサ(図示せず)の並進揺動型のピストンロッド2用の、従来技術において周知のシール装置1(圧力パッキン)が示されている。ピストンロッド2は、二重矢印により示されているように、実質的に並進的な揺動運動を行う。並進運動は、特に大型で比較的低速で運転するピストン機械、例えばガスコンプレッサまたは大型ディーゼルエンジンにおいて使用される、ピストン機械の周知のクロスヘッド構成形式に基づき生じる。この場合、コネクティングロッドの横力は、クランクケース内に支承されて配置された、いわゆるクロスヘッドジョイントに支持される。ピストンロッドでもってクロスヘッドに取り付けられたピストンは、これにより、実質的に並進運動だけを実施するに過ぎない。クロスヘッドの構想は基本的に周知であるため、ここでこのことについてより詳しく説明はしない。ただしここでは、純粋な並進運動とは、ピストンロッド2は僅かに横方向に動かされることもあり得る、ということを意味する。
シール装置1は、ピストンコンプレッサ内に組み込まれた状態では、第1の軸線方向シール端部AE1が、軸線方向において、シリンダ内に配置されたピストンコンプレッサのピストン(図示せず)に面しているように配置されている。シール装置1の、反対側に位置する第2の軸線方向シール端部AE2は、ピストンコンプレッサのクランクケースに面している。よってシール装置1は、(シリンダ内の)第1のシール端部AE1における高い圧力PHを、これに対して相対的に低く、実質的に周辺圧力に相当するかまたは僅かに高くてよい、(クランクケース内の)第2のシール端部AE2における圧力PNに対してシールするために用いられる。可能な限り良好なシール作用を得るということは、シリンダからクランクケース内へ流出し、そこから場合により周辺に流出し得る圧縮された媒体が最小限である、ということを保証するために重要である。特に、例えば天然ガスが圧縮されるガスコンプレッサの場合には、場合により火炎または爆発を招く恐れがある、ガスと空気とから成る燃焼可能な混合物がコンプレッサ外に形成されることを回避するために、このことは極めて重要である。さらに、コンプレッサの周辺の人間を危険に晒さないようにするために、安全上の理由から、可能な限り良好なシールが必要とされている。追加的に、コンプレッサの供給量ひいては効率を高めるために、可能な限り良好なシールが有利である。
シール装置1は、一般に実質的に円筒形のケーシング3を有しており、ケーシングは、例えば軸線方向に連続して配置された所定の数iのケーシングセグメント3i(チャンバディスクとも呼ばれる)から組み立てられていてよい。図示の例では、シール装置1は、ピストンロッド2に面した複数の室4を有しており、これらの室4は、ここではケーシングセグメント3iに設けられた凹部により形成されている。各室4内にはそれぞれ1つまたは複数の、異なる実施形態のパッキンリング7a~7cが配置されており、例えば冒頭に記載したように、半径方向にカットされたパッキンリングと、接線方向にカットされたパッキンリングまたは図示のように半径方向/接線方向にカットされた複合型のパッキンリング7bとが組み合わせられている。パッキンリング7a~cが押し出されることを回避するために、軸線方向でパッキンリング7a~cに続いて、例えば適当な金属から製造された各1つの支持リング8が設けられていてよい。図示のシール装置1は、例えば3つの異なる型のパッキンリング7を有しており、この場合、シリンダの隣の第1のパッキンリング7aとして、ガスの流速を低下させるために用いられる、いわゆる圧力遮断リングまたは「プレッシャブレーカ」が設けられている。クランクケースの方向においてパッキンリング7aの隣には、2つのパッキンリング7bがそれぞれ室4b内に配置されている。パッキンリング7bは、ここでは半径方向/接線方向にカットされた従来の複合型のパッキンリングである。これらに軸線方向に続く複数のパッキンリング7cは、それぞれ室4c内に配置されており、図示の例では緩衝室4eにより、室4bもしくは室4b内に配置されたパッキンリング7bから隔離されている。パッキンリング7cは、図示の実施例では例えば欧州特許第2376819号明細書または欧州特許第2855982号明細書に記載されているようなシールバリアを形成している。このためには、室4c内に加圧されたシール媒体、例えばシールオイルが、供給管路9を介して供給される。シール媒体は、循環用に流出管路10を介して導出され得る。シール媒体により、各パッキンリング7cに半径方向外側と軸線方向とからオイル圧が加えられ、このオイル圧により各パッキンリング7cはピストンロッド2に対して押圧されると共に軸方向で互いに押し離され、これにより、シールを形成もしくは改良することができる。これに対してパッキンリング7bは、周面に配置されたコイルエキスパンダ11によりピストンロッド2に保持され、運転中は差圧によりピストンロッド2に対して押圧される。ただしパッキンリング7cを用いたシールバリアによるシールは、完全を期すためだけに図示したものであるに過ぎず、本発明にとって重要ではない。
シール装置1の第2の軸線方向シール端部AE2には、パッキンリング7bに続いて2つの掻取りリング13が配置されており、これらの掻取りリング13は、ピストンロッド2に付着するシール媒体を掻き取って集めるために設けられている。掻取りリング13はシール媒体を掻き取り、半径方向外側に向かって室4d内へ導出する。このシール媒体は、室4dから収集管路12を介して導出され、その後例えば濾過され、リザーバタンク内に集められ、再びパッキンリング7bに供給される。
図1に示すシール装置1は、当然例示的なものであり、特にパッキンリング7a~cおよび/または掻取りリング13が異なって配置された任意の異なる構成を有していてもよい。例えば、シールバリアによるシールのための室4cを形成するケーシングセグメント3iおよび緩衝室4eを完全に省き、シール装置1内には、パッキンリング7b用の室4bと、掻取りリング13用の1つまたは複数の室4dとを備えたケーシングセグメント3iのみが設けられてもよい。本発明ではシール装置1内に、以下で説明する、本発明に基づき構成された少なくとも1つのパッキンリング14が配置されている。
以下で図2~図8dに基づき説明する、本発明によるパッキンリング14は、例えば図1に示したパッキンリング7bに関係する。もちろん、図示のシール装置1は、本発明によるパッキンリング14の適用を説明するために例示したものであるだけに過ぎないと解される。シール装置1はもちろん多少なりとも、乾式動作型のパッキンリング7a(圧力遮断リング)と、パッキンリング7bと、シール媒体により押圧されるパッキンリング7cと、掻取りリング13と、また例えば1つだけまたは複数の乾式動作型のパッキンリング7bとを有していてもよく、この場合、少なくとも1つの本発明によるパッキンリング14が設けられている。
図2には、パッキンリング14が本発明の1つの有利な構成で示されている。パッキンリング14は、実質的に円筒状の中心開口15を有しており、組立て状態ではこの中心開口15を貫通して、例えばピストンコンプレッサの並進揺動型のピストンロッド2(図1参照)が延在している。円筒状の開口15の直径、つまりパッキンリング14の内径Di(図3a参照)は、実質的にピストンロッド2の直径に相当する、もしくはさらに詳しく説明するように、運転中に摩耗してもピストンロッド2の直径に適合する。パッキンリング14は、それぞれ周方向において第1のセグメント端部SE1と、周方向において第2のセグメント端部SE2とを備えた少なくとも3つのリングセグメント14aを有している。3つのリングセグメント14aは、好適には同一に形成されており、周方向に互いに隣接して組み立てられて、パッキンリング14を形成していてよい。パッキンリング14を複数のリングセグメント14aに分割することは、パッキンリング14をピストンロッド2により簡単に取り付けることができ、コンプレッサの運転中に生じるパッキンリング14の摩耗をより良好に補償することができる、という利点を有している。特に、パッキンリング14をピストンロッド2の周りに配置するために、ピストンロッド2を取り外さずに済む。
リングセグメント14aの第1のセグメント端部SE1には、第1の接線方向接触面19aと第1の軸線方向接触面16とが設けられており(図3bも参照)、この場合、第1の軸線方向接触面16は、第1の軸線方向リング端部RE1に面している。第1の接線方向接触面19aと第1の軸線方向接触面16とは両方共、好適には第1の摩耗制限面22により画定されている。図示の例では、第1の接線方向接触面19aと第1の軸線方向接触面16とは互いにすぐに接しており、好適には互いに直角に配置されている。最も簡単なケースでは、第1のセグメント端部SE1に、パッキンリング14の第1の軸線方向リング端部RE1から部分的に、軸線方向において反対側に位置する第2の軸線方向リング端部RE2に向かって延在する第1の軸線方向セグメント凹部が設けられていてよい(図3bも参照)。よって、第1の軸線方向セグメント凹部の画定面は、第1の接線方向接触面19aと第1の軸線方向接触面16とを形成しており、さらに、その機能を以下でさらに詳細に説明する第1の摩耗制限面22をも形成している。
リングセグメント14aの第2のセグメント端部SE2には第2の接線方向接触面19bが設けられており、第2の接線方向接触面19bは、周方向においてこれに続くリングセグメント14aの第1のセグメント端部SE1の第1の接線方向接触面19aに当接しており、これにより、パッキンリング14の半径方向のシールを形成することができる。さらに、リングセグメント14aの第2のセグメント端部SE2には第2の軸線方向接触面17が設けられており(図4aおよび図4bも参照)、第2の軸線方向接触面17は、周方向においてこれに接するリングセグメント14aの第1のセグメント端部SE1の第1の軸線方向接触面16に当接しており、これにより、パッキンリング14の軸線方向のシールを形成することができる。第2の接線方向接触面19bと第2の軸線方向接触面17とは、好適には互いに接しており、有利には互いに直角に配置されている。最も簡単なケースでは、図示のように、リングセグメント14aの第2のセグメント端部SE2に、パッキンリング14の第2の軸線方向リング端部RE2から部分的に、軸線方向において反対側に位置する第1の軸線方向リング端部RE1に向かって延在する第2の軸線方向セグメント凹部が設けられていてよい(図4bも参照)。この場合、第2の軸線方向セグメント凹部の軸線方向の画定部が第2の軸線方向接触面17を形成しており、周方向の画定部が第2の端面29を形成している。ただし、第2の軸線方向セグメント凹部は第2の接線方向接触面19bを形成してはおらず、第2の接線方向接触面19bは、例えばリングセグメント14aが第2のセグメント端部SE2において半径方向外側に向かって接線方向に切断されていることにより形成される。ただしここで述べておくと、第1および第2の接線方向接触面19a,19bに関連する接線方向という用語は、必ずしも厳密な数学的な意味での接線方向を意味するものではない。つまり、接線方向接触面19a,19bの延在部は必ずしも、例えば内径Diまたは外径Da等の湾曲部の接線を形成する必要はない。よって、第1および第2のセグメント凹部は、例えば適当なフライスにより製造され得るか、または射出成形法の中で切り抜かれてよい。
パッキンリング14は組立て状態では、第1の軸線方向リング端部RE1が、実質的に周辺圧力に相当する(またはそれよりも僅かに高くてよい)低圧PNが内部を支配しているクランクケースに面し、これに対して第2の軸線方向リング端部RE2は、相対的により高い圧力PHが内部を支配しているシリンダに面するように、コンプレッサ内に配置されている。これに関して、以下で高圧側および低圧側という用語も使用される。ここで述べておくと、シール装置1において軸線方向に複数のパッキンリング14が連続して配置されている場合、圧力は、シール装置1全体にわたり、シリンダ側の高圧PHから、これに対して装置的に低いクランクケース側の圧力PNに低下する。つまり、軸方向において最初にシリンダに接するパッキンリング14は、クランクケースの方に続くパッキンリング14よりも高い圧力に晒されている。つまり、シール装置1の各パッキンリング14における圧力状態は、通常それぞれ異なっている。
新規組立て状態においてパッキンリング14が未だ摩耗を有していない場合、図示の例では、隣り合うリングセグメント14aの、周方向において互いに面した第1および第2の摩耗制限面21,22が、摩耗距離aにより互いに離間されており、この場合、それにもかかわらず接線方向接触面19aと19bおよび軸線方向接触面16と17とはもちろん互いに当接し合っており、これにより、パッキンリング14の半径方向および軸線方向のシールを形成することができる。前記摩耗距離aは、パッキンリング14が連続運転中に半径方向内側の内周面18に影響を受ける摩耗を補償するために役立つ。パッキンリング14の半径方向外側の外周面23には、周方向においてパッキンリング14全体の周りに延びる周方向溝20が設けられていてよい。周方向溝20は、コイルエキスパンダ11(図示せず)を収容するために設けられており、コイルエキスパンダ11は、図1に基づき説明したように、パッキンリング14を半径方向において緊締し、組立て状態においてピストンロッド2に保持する。
内周面18に摩耗が生じると、コイルエキスパンダ11がシリンダ側の高圧PHとの組合せにおいて、図3aにおいてセグメント端部SE1,SE2のところに矢印により示唆したように、リングセグメント14aの互いに面した接線方向接触面19a,19bが相接して滑動することでパッキンリング14が自動的に半径方向に調整されるようにする。摩耗により、摩耗距離aは最大限の摩耗調整に達するまで減少し、最大限に摩耗調整されると、摩耗距離はゼロになり(a=0)、周方向においてリングセグメント14aの第2のセグメント端部SE2の端部に設けられた第2の摩耗制限面21は、周方向において接するリングセグメント14aの第1のセグメント端部SE1の第1の摩耗制限面22に接触することになる。
本発明に基づき、パッキンリング14の少なくとも1つのリングセグメント14a、好適には各リングセグメント14aに、少なくとも1つの摩耗開口27が設けられており、摩耗開口27は、パッキンリング14の半径方向外側に位置する外周面23および/または第2の軸線方向リング端部RE2から、リング高さRHの一部にわたり、パッキンリング14の半径方向内側に位置する内周面18に向かって延びている。重要なのは、リングセグメント14aの非摩耗状態において、摩耗開口27はリングセグメント14aの内周面18にまで延びてはいない、という点である。孔の場合、摩耗開口27は、例えば外周面23を起点とする止り穴として内周面18に向かって形成されている。もちろん、孔として形成された摩耗開口27は、追加的または択一的に第2の軸線方向リング端部RE2を起点として、内周面18に向かって穿孔されてもよい。摩耗開口27にとって重要なのは、(その構成にかかわらず)少なくとも1つの摩耗開口27の、内周面18に半径方向において最も広く面した摩耗開口端部27a(図6参照)が、リングセグメント14aの半径方向内側に位置する内周面18から、リングセグメント14aの半径方向においてリング高さRHの最高40%、好適には最高30%、特に好適には最高20%の距離だけ離間されている、という点である。リング高さRHは、パッキンリング14の外側に位置する外周面23と半径方向内側に位置する内周面18との間に延在している、つまり図4aに示すように、実質的に、パッキンリング14の内径Diと外径Daとの差の1/2に相当する。重要なのは、摩耗開口端部27aが第1の軸線方向リング端部RE1と第2の軸線方向リング端部RE2との間に位置しておりかつ第1の軸線方向リング端部RE1と第2の軸線方向リング端部RE2とから離間されていることである。つまり、摩耗開口端部27aは、軸線方向に見ても周方向に見てもリング材料により包囲されているため、半径方向に相応に摩耗した場合に初めて露出させられる。
ただし好適には、図2~図4に示すように、1つのリングセグメント14aには全周にわたり複数の摩耗開口27が設けられており、特に好適にはリングセグメント14a毎に少なくとも2つの摩耗開口27が設けられている。図示の例では、摩耗開口27は、外周面23もしくはここでは外周面23に配置された外周溝20を起点として、パッキンリング14の半径方向で(軸線方向リング端部RE1,RE2に対して平行に)内周面18に向かって、内周面18に到達すること無しに延びていると共に、円筒状の孔として形成されている。
摩耗開口27が穿孔される場合には、摩耗開口27は図示のように、使用されたドリルに相応して円錐形の底部を有し得る。摩耗開口27が例えばフライスによりフライス切削加工される場合には、摩耗開口27は一般に実質的に平らな底部を有している。しかしまたもちろん、射出成形または付加製造等の別の製造手段も、やはり考えられる。
摩耗開口27の長さおよび直径は、実質的にパッキンリング14の所望の圧力補償特性に左右され、この場合、長さもしくは延在長さは半径方向において、摩耗開口27の摩耗開口端部27aが内周面18から、パッキンリング14の半径方向のリング高さRHの最高40%離間されているように設定される。図2~図4に示した例では、摩耗開口27は、軸線方向において両方のリング端部RE1,RE2の間の中心に配置されている。しかしまた摩耗開口27は、図6に基づきさらに詳しく説明するように、一方のリング端部RE1,RE2のより近くに配置されていてもよく、好適には、第1の軸線方向リング端部RE1から、リング幅RBの2%~20%、好適には2~15%、特に最大10%の摩耗開口軸線方向距離yだけ離間されている。具体的な軸線方向の配置は、実質的にパッキンリング14の、達成しようとする所望の圧力補償に左右される。
1つのリングセグメント14aの少なくとも1つの摩耗開口27もしくは好適には複数の摩耗開口27は、パッキンリング14の特定の摩耗状態から、内周面18に面した半径方向内側の摩耗開口端部27a(図2および特に図6参照)が露出させられるように設定されている。これにより、摩耗開口27はこの摩耗状態を起点として、外周面23から内周面18までの全体に延在することになる。よってこの摩耗状態から、摩耗開口27は(以下でさらに詳しく説明する)リリーフ開口25と同様に作用する。特にこの場合、摩耗開口27はコンプレッサの運転中、パッキンリング14の内周面18と外周面23との間の圧力補償を増大させ、これにより、例えばパッキンリング14の望ましくない早期のつぶれが回避され得る。リリーフ開口25の機能に関する詳細は、以下で図5aおよび図5bに基づき説明する。
しかしまた、第2の軸線方向リング端部RE2にも高圧PHが加えられるため、摩耗開口27はリリーフ開口25と同様に、第2の軸線方向リング端部RE2を起点として内周面18に向かって延びていてもよい。
例えば摩耗開口27は、摩耗開口27が内周面18において露出させられる摩耗状態から、内周面18と外周面23との間で実質的に完全な圧力補償が行われるように寸法設定され得る。これにより、パッキンリング14は確かにそのシール作用を部分的に失うことにはなるが、その代わりに破壊のリスクが低下、特に回避され得る。この場合、完全な圧力補償とは、圧力に基づき外周面23と内周面18とに作用する各半径方向力が実質的に完全に均衡するため、半径方向では最早実質的に、差圧により生じた力がパッキンリング14に作用することはない、ということを意味する。つまり実質的に、パッキンリング14は特定の摩耗状態から自発的に非作動状態になる。このために好適には、シール装置1の、より少ない摩耗を有し得る1つまたは複数の別のパッキンリング14は、そのシール作用を依然として実質的に正常に発揮する、ということが想定されている。よって、コンプレッサの停止につながる場合もある非作動状態のパッキンリング14の交換を直ちに行う必要はなく、例えば測定技術的に検出可能な所定の漏れ量からの設定保守整備間隔を、より容易に守ることができると考えられる。
少なくとも1つの摩耗開口27の、半径方向内側に位置する内周面18に面した少なくとも1つの端部が、第1の軸線方向リング端部RE1に向かって、例えば以下に図6に基づきさらに詳しく説明するように摩耗開口角度φだけ傾斜していると、有利であり得る。この場合、圧力補償特性を、進行する摩耗に適合させることができる。それというのも、内周面18において露出させられた摩耗開口端部27aが、摩耗に応じて実質的に軸線方向において第1の軸線方向リング端部RE1に向かって移動するからである。
摩耗開口27に対して追加的に各図に、特に図2~図4bに示した特徴、特に1つまたは複数のリリーフ開口25を設けること、周方向溝20または軸線方向溝24は任意であり、以下でより詳しく説明する。よって図2に示したパッキンリング14の構成は、互いに独立した複数の特徴を備える1つの有利な構成を示すものである。
本発明の1つの別の有利な構成では、少なくとも1つのリングセグメント14a、ただし好適には各リングセグメント14aに、少なくとも1つのリリーフ開口25が設けられており、リリーフ開口25はそれぞれ、パッキンリング14の各リングセグメント14aの半径方向内側に位置する内周面18から、半径方向外側に位置する外周面23までかつ/またはパッキンリング14の各リングセグメント14aの第2の軸線方向リング端部RE2まで延びている。リリーフ開口25は、内側に位置する内周面18を、半径方向外側に位置する外周面23および/または第2の軸線方向リング端部RE2に接続する連続的な切抜き部である。有利には、リングセグメント14a毎に複数のリリーフ開口25が設けられており、図2~図4に例示したパッキンリング14におけるように、リリーフ開口25が例えば3つずつ設けられている。この場合、摩耗開口27は周方向において、好適には各2つのリリーフ開口25の間に、特に好適には2つのリリーフ開口25の間の中心に配置されている。つまりリリーフ開口25は、今までの従来技術におけるように、内側に位置する内周面18において周方向に延在する周方向溝に開口しているのではなく、内側に位置する内周面18に直接に開口している。
リリーフ開口25は、コンプレッサの運転中にパッキンリング14において、パッキンリング14の、シリンダに面した高圧側(第2の軸線方向リング端部RE2)と、パッキンリング14の、クランクケースに面した低圧側(第1の軸線方向リング端部RE1)との間を支配する圧力状態に、以下で図5aおよび図5bに基づきさらに詳しく説明するように意図的に影響を及ぼすために用いられる。
リリーフ開口25は、それぞれ第1のリリーフ開口端部25aを有しており、第1のリリーフ開口端部25aは、パッキンリング14の各リングセグメント14aの半径方向内側に位置する内周面18に開口している。1つのリングセグメント14Aに2つ以上のリリーフ開口25が設けられている場合、2つの隣り合うリリーフ開口25の、半径方向内側に位置する内周面18に開口するリリーフ開口端部25aは、図2において看取されるように、周方向においてリリーフ開口周方向距離zだけ互いに離間されて配置されている。つまり、リリーフ開口端部25aは、半径方向内側に位置する内周面18において、互いに接続されていない。よって、周方向において2つの隣り合うリリーフ開口端部25aの間には、リングセグメント14aの内周面18が延在している。リリーフ開口周方向距離zは、リングセグメント14aの大きさに応じて、好適には1mm~15mmであり、特に好適には1~10mmであり、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14mmである。また、これらの間に位置する距離、例えば1.5mm、2.5mm、3.5mm、4.5mm、5.5mm等も、もちろん可能である。この場合、リリーフ開口周方向距離zは、リリーフ開口端部25aの中心からリリーフ開口端部25aの中心まで測定されるのではなく、各リリーフ開口端部25aの画定部間の周方向距離を示すものであるか、または換言すると、隣り合うリリーフ開口端部25aの間の周方向における内周面18の長さを示すものである。1つのリングセグメント14aの各リリーフ開口25のリリーフ開口端部25aの間のリリーフ開口周方向距離zは、好適には同じ大きさであるが、もちろん異なっていてもよい。
リリーフ開口端部25aは、第1の軸線方向リング端部RE1からリリーフ開口軸線方向距離xだけ離間されて配置されている。よって、軸線方向においてリリーフ開口端部25aと第1の軸線方向リング端部RE1との間には、リングセグメント14aの内周面18が延在している。リリーフ開口軸線方向距離xは、図2および図6に詳細に示すように、好適には軸線方向リング幅RBの4%~40%、有利には4~30%、特に好適には4~20%、極めて特に好適には4~15%、特に最大10%である。リリーフ開口軸線方向距離xは、リリーフ開口端部25aの中心から測定されるのではなく、リリーフ開口端部25aの、第1の軸線方向リング端部RE1に面した画定部から測定される。換言すると、リリーフ開口軸線方向距離xは、リリーフ開口端部25aと第1の軸線方向リング端部RE1との間の軸線方向における内周面18の長さである。ただしこの場合、1つのリングセグメント14aの各リリーフ開口25の個々のリリーフ開口端部25aのリリーフ開口軸線方向距離xは、図示のように必ずしも同一である必要はなく、異なっていてもよい。この場合、軸線方向リング幅RBは、第1の軸線方向リング端部RE1と第2の軸線方向リング端部RE2との間に延在している。以下に、リリーフ開口25の構成の詳細を、図6に基づきさらに詳しく説明する。図2において明らかなように、リリーフ開口25の軸線方向リリーフ開口幅は、少なくともリリーフ開口端部25aでは、リング幅RBに比べて小さくなっている。(少なくともリリーフ開口端部25aにおいて)円形の横断面のリリーフ開口25の場合、軸線方向リリーフ開口幅が直径に相当する。リリーフ開口端部25aの軸線方向リリーフ開口幅は、リング幅RBの好適には2%~30%、好適には2~25%、特に好適には最大20%、特に最大15%である。一般にリリーフ開口端部25aは、パッキンリング14の両方の軸線方向リング端部RE1,RE2の間の中心に位置しているのではなく、第2の軸線方向リング端部RE2よりも第1の軸線方向リング端部RE1の近くに位置している。第1の軸線方向リング端部RE1は、組立て状態では低圧側に面している。
パッキンリング14の構造剛性を改良するために、少なくとも1つのリングセグメント14a、好適には各リングセグメント14aの外周面23に、少なくとも1つの軸線方向溝24が設けられていてよく、軸線方向溝24は、第1の軸線方向リング端部RE1から軸線方向に連続して(場合により周方向溝20により中断されて)第2の軸線方向リング端部まで延在している。ただし好適には、リングセグメント14a毎に複数の軸線方向溝24が設けられている。図示の例では、リリーフ開口25は外周面23において、それぞれ軸線方向溝24に開口している。ただしもちろん、このことは必須ではなく、リリーフ開口25は、周方向において軸線方向溝24の隣の、パッキンリング14の外周面23(もしくは周方向溝20)に開口していてもよい。
図示の実施形態のリリーフ開口25は、それぞれ円筒状の孔の形態で形成されている。それというのも、これらのリリーフ開口25は特に簡単に切削式に製造可能であるからである。しかしまたもちろん、1つまたは複数のリリーフ開口25に対して非円形の横断面および/またはリリーフ開口25の非直線的な延在部が想定されてもよい。ただしこのことは、リリーフ開口25の製造手間を高めることになる。
リリーフ開口25は、好適には真っ直ぐな延在部を有しており、これにより、リリーフ開口25は例えば円筒状のドリルまたはフライスにより、可能な限り簡単に製造され得る。しかしまたもちろん別の製造法も考えられ、例えばリリーフ開口25は射出成形法により直接に製造され得、特に例えば後から穿孔する必要無しに、射出成形法の中でリングセグメント14aに組み込まれてよい。また、パッキンリング14を例えば3D印刷等の付加製造法を用いて製造することも考えられ、この場合もやはり、製造中に直接、リリーフ開口25が考慮され得る。
しかしながら、(任意の)リリーフ開口25がどのように製造されるかは重要ではなく、重要なのは、リリーフ開口25が、半径方向内側に位置する内周面18から、(それぞれシリンダ側の高圧PHが加えられる)半径方向外側に位置する外周面までかつ/または第2の軸線方向リング端部RE2まで延びている、という点である。最も簡単な構成では、リリーフ開口25は、図6の断面A-Aに示すようにパッキンリング14の半径方向に、つまり軸線方向リング端部RE1,RE2に対して平行に延びている。
ただし本発明の1つの別の好適な構成では、少なくとも1つのリリーフ開口25の、パッキンリング14の半径方向内側に位置する内周面18に接する少なくとも1つの部分が、図2に示した例で示唆すると共に図6に基づきさらに詳しく説明するように、例えば第1のリリーフ開口角度εだけ、第1の軸線方向リング端部RE1に向かって傾斜している。これにより、パッキンリング14の耐用年数にわたり、パッキンリング14における圧力状態に意図的に影響を及ぼすことができ、これにより、パッキンリング14の圧力補償が、半径方向の摩耗に適合され得る。最も簡単なケースでは、相応するリリーフ開口25がこの構成においても円筒状の孔として形成されており、この場合、孔の軸線は、第1の軸線方向リング端部RE1に向かって傾斜している。これにより、半径方向外側に位置する外周面23に開口する第2のリリーフ開口端部25bは、リリーフ開口25の、半径方向内側に位置する内周面18に開口する第1のリリーフ開口端部25aよりも、第1の軸線方向リング端部RE1の近くに位置することになる。傾斜した延在部に基づき、リングセグメント14aが半径方向に摩耗すると、第1のリリーフ開口端部25aが実質的に第1の軸線方向リング端部RE1に向かって「移動」し、これにより、パッキンリング14の圧力補償が摩耗に応じて増大される。それというのも、内周面18における高圧PHが、軸線方向において第1の軸線方向リング端部RE1のより近くに接近させられるからである。つまり実質的に、リングセグメント14aの摩耗が大きいほど、圧力補償もより大きくなる。これにより、運転中、ピストンロッド2に対するパッキンリング14の半径方向の圧着力が低下させられ、パッキンリング14の耐用年数が向上することになる。
半径方向内側に位置する内周面18において圧力を周方向により良好に分散させるために、1つまたは複数のリリーフ開口25は、半径方向内側に位置する内周面18において、例えば周方向において比較的小さな範囲にわたり延在するフライス切削箇所/溝の形式で終わっていてもよい。この場合、第1のリリーフ開口端部25aは最早、残りのリリーフ開口25の好適には円形の横断面(半径方向においてフライス切削箇所/溝と外側の外周面23および/または第2の軸方向リング端部RE2との間)を有することはなく、相応する形状のフライス切削箇所/溝により形成されていてよい。この場合、周方向におけるリリーフ開口周方向距離zおよび軸線方向におけるリリーフ開口軸線方向距離xは、フライス切削箇所/溝の各画定部から軸線方向と周方向とに測定される。フライス切削箇所/溝の代わりに、例えば一種の長孔が設けられてもよい。一般に、リリーフ開口25は少なくともそのリリーフ開口端部25aに、パッキンリング14の軸線方向リング幅RBの好適には2~100%であり、軸線方向リング幅RBの好適には2~50%、特に最大25%である、周方向のリリーフ開口長さを有している。一般に重要なのは、各リリーフ開口端部25aが半径方向内側に位置する内周面18において、運転中の圧力補償用に設けられた周方向溝を介して互いに接続されていない点である。つまり周方向溝は、特に小さなリリーフ開口軸線方向距離xと共に、第1の軸線方向リング端部RE1に、リング材料から成る狭幅な側面を形成している。この側面は、運転中に励振されると考えられ、このことは、不均一な摩耗と望ましくない不密性とをもたらす恐れがある。
図3aには、図2に示したパッキンリング14が、第1の軸線方向リング端部RE1もしくは好適には組立て状態において低圧側に面した平らな第1のリング端面を上から垂直に見た図で示されている。図3bには、図3aに示したパッキンリング14の1つの個別のリングセグメント14aが示されている。図3bでは、第1の接線方向接触面19aと第1の軸線方向接触面16とを形成するようにリングセグメント14aの第1のセグメント端部SE1に配置された、第1の軸線方向セグメント凹部の形状が認められる。既述のように、第1の軸線方向セグメント凹部は、第1の軸線方向リング端部RE1から軸線方向に部分的に、反対側に位置する第2の軸線方向リング端部RE2に向かって延在しているため、第1の軸線方向セグメント凹部に周方向に続くリングセグメント14aの第2のセグメント端部SE2が、第1の軸線方向セグメント凹部に係合することができるようになっている。つまり、隣り合うリングセグメント14aは周方向において部分的にオーバラップしており、これにより、リングセグメント14aの第1のセグメント端部SE1の第1の接線方向接触面19aは、隣り合うリングセグメント14aの第2のセグメント端部SE2の第2の接線方向接触面19bに当接して、パッキンリング14の半径方向のシールを形成することができる。同様に、リングセグメント14aの第1のセグメント端部SE1の、各第1の軸線方向セグメント凹部により形成された第1の軸線方向接触面16も、第2のセグメント端部SE2の、各第2の軸線方向セグメント凹部により形成された第2の軸線方向接触面17に当接して、パッキンリング14の軸線方向のシールを形成することができる。第1の軸線方向セグメント凹部と第2の軸線方向セグメント凹部とは、1つのリングセグメント14aの周方向において互いに反対の側に位置するセグメント端部SE1,SE2と、互いに対向して位置する軸線方向リング端部RE1,RE2とに配置されている。
この場合、セグメント端部SE1,SE2は周方向において、接線方向接触面19a,19bが互いに面しておりかつ相接して滑動することができるように協働する。これにより、一方のリングセグメント14aの第2のセグメント端部SE2の第2の摩耗制限面21が、摩耗距離a(図2および図3a参照)をあけて配置された、隣のリングセグメント14aの第1のセグメント端部SE1の第1の軸線方向セグメント凹部の第1の摩耗制限面22に当接するまで、運転中にパッキンリング14の摩耗調整が可能になる。リングセグメント14aの第2のセグメント端部SE2において、好適には第2の接線方向接触面19bと第2の摩耗制限面21との間の移行部には、特定の半径を有する外アールR2が設けられており、これにより、摩耗調整もしくは特に各接線方向接触面19a,19bの相接する滑動を促進することができる。このために有利には、図3bおよび図4bに示すように、第1のセグメント端部SE1においても同様に、第1の接線方向接触面19aと第1の摩耗制限面22との間に内アールR1が設けられている。
摩耗開口27は、ここでは円錐形の底部を備えた止り穴孔として形成されており、外周面23、ここでは周方向溝20の底部から、半径方向においてリング高さRHの一部にわたり内周面18に向かって延びており、この場合、各摩耗開口27の摩耗開口端部27aは、それぞれ半径方向内側に位置する内周面18からリングセグメント14aの半径方向に、パッキンリング14の半径方向のリング高さRHの最高40%の距離だけ離間されている。図示のパッキンリング14では、リングセグメント14a毎に3つのリリーフ開口25と、2つの摩耗開口27とが設けられている。摩耗開口27は、ここでは周方向において各リリーフ開口25の間の中心に配置されている。摩耗開口27は、ここではパッキンリング14の半径方向に(軸線方向リング端部RE1,RE2に対して平行に)延びており、リリーフ開口25は傾斜して形成されている、つまり第1の軸線方向リング端部RE1に向かって傾斜しており、これにより、摩耗に応じて圧力補償を増大させることができる。ただしもちろん、この構成は例示的なものであるだけに過ぎないと解され、リリーフ開口25および/または摩耗開口27の正確な構造的な構成、ならびに数および向きはもちろん当業者に任されており、パッキンリング14の所望の使用分野および得ようとする効果、特に達成しようとする圧力補償次第である。本発明にとって重要なのは、少なくとも1つのリングセグメント14aに少なくとも1つの摩耗開口27が設けられている、という点のみであり、全ての追加的な特徴は任意である。
図4aおよび図4bには、パッキンリング14もしくはパッキンリング14の個々のリングセグメント14aが、組立て状態ではコンプレッサの高圧側に面している第2の軸線方向リング端部RE2の平面図で示されている。特に図4bでは、第2の軸線方向接触面17を形成するようにリングセグメント14aの第2のセグメント端部SE2に設けられた第2の軸線方向セグメント凹部が認められる。第2の接線方向接触面19bは、第2のセグメント端部SE2において半径方向外側に設けられている。第2の軸線方向セグメント凹部は、部分的に第2の軸線方向リング端部RE2から、特にこれに設けられた好適には平らな第2のリング端面28から、軸線方向で第1の軸線方向リング端部RE1、特に第1の平らなリング端面に向かって延びている。さらに、第2の軸線方向セグメント凹部は、第2の軸線方向接触面17の隣に、図4aに示すように隣接するリングセグメント14aの第1のセグメント端部SE1の第1の端面30からセグメント距離bだけ離間された第2のセグメント端部SE2の第2の端面29を形成している。隣り合うセグメント端部SE1,SE2の協働により、パッキンリング14を半径方向に完全に貫通しておりかつ軸線方向において画定された半径方向凹部31が生ぜしめられ、半径方向凹部31の幅は、セグメント距離bに相当する。パッキンリング14の摩耗が続くと、セグメント距離bも摩耗距離a(図2および図3a参照)と同様に、摩耗距離aがゼロになるまで減少する(この場合、b>aである)。パッキンリング14の(新規)非摩耗状態において各値が等しい場合(a=b)、摩耗が進行すると、摩耗距離aは、図示の例では運動学的な理由から、セグメント距離bよりも早くゼロになる。このことは実質的に、具体的な構造上の構成、特に接線方向接触面19a,19bの配置に左右される。しかしまた択一的に、端面29,30が摩耗制限部として利用されてもよい(この場合、a>bである)。
しかしまた接線方向接触面19a,19bは、例えば外周面23から内周面18まで連続して延びていてもよい。これにより、摩耗調整は実質的に、最早今まで示したように摩耗距離aによっては制限されなくなる。したがって、第1のセグメント端部SE1に設けられた第1の軸線方向セグメント凹部は最早、第1の摩耗制限面22を有しておらず、第2のセグメント端部SE2も最早、第2の摩耗制限面221を有してはいない。この場合、摩耗調整の制限は、例えば第2の軸線方向リング端部RE2に設けられた半径方向凹部31により達成され得、半径方向凹部31の幅は、図4aに基づき示したようにセグメント距離bに相当する。
もちろん、可能な限り最適化された適用結果を得るために、パッキンリング14の材料および表面特性が変更されてもよい。1つの有利な構成では、パッキンリング14は、摩擦学的に最適化された適当な材料、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)複合材料から製造されている。製造は、例えば切削式の製造、射出成形により行われるか、または例えば3D印刷等の付加法により行われてもよい。
図5aには、コンプレッサの運転中の従来のパッキンリング7bにおける圧力状態が、長手方向断面に基づき簡単に略示されている。これに比べ図5bには、本発明に基づくパッキンリング14における圧力状態が示されている。パッキンリング14は、(例えば図1に示すように)好適には、ピストンロッド2をシールするために例えばコンプレッサのクランクケース内に配置されたシール装置1(図示せず)内に配置されている。パッキンリング7b,14は、各第1の軸線方向リング端部RE1が低圧側(クランクケース側)に面しており、各第2の軸線方向リング端部RE2は高圧側(シリンダ側)に面しているように配置されている。パッキンリング7b,14は、各第1の軸線方向リング端部RE1が、シール装置1のケーシングセグメント3iに当接するように配置されており、これにより、第1の軸線方向リング端部RE1とケーシングセグメント3iとの間に半径方向のシールを形成することができる。このシールは、実質的に静的シールに相当するものである。それというのも、パッキンリング14の第1の軸線方向リング端部RE1とケーシングセグメント3iとの間に相対運動は全くまたは極僅かにしか生じないからである。
この場合、第1の軸線方向リング端部RE1において、半径方向外側に位置する外周面23には高圧PHが加えられており、これに対して半径方向内側に位置する内周面18には比較的低い圧力PNが加えられている。高圧PHは、半径方向においてより低い圧力PNに低下しており、この場合、圧力特性線は、図示の例では非線形に推移している。第2の軸線方向リング端部RE2には高圧PHが加えられており、高圧PHは、半径方向外側に位置する外周面23と半径方向内側に位置する内周面18との間の半径方向のリング高さRHにわたり、実質的に一定である。ここで述べておくと、圧力はシール装置1において、軸線方向でシリンダ内の高圧PHからクランクケース内の低圧PNへ、その時々に設けられた数の各パッキンリング14を介して段階的に低下する。つまり、シール装置1の各パッキンリング14における圧力状態は、通常当然ながら、それぞれ異なっている。したがって、シリンダに面した第1のパッキンリング14に加えられる高圧PHは、後続のパッキンリング14に加えられる高圧PH等には相当しない。つまり、本明細書中の高圧PHおよび低圧PNは、それぞれ1つのパッキンリング14に関するものである。1つのパッキンリング14における低圧PNは、それぞれ軸線方向に(クランクケースに向かって)続くパッキンリング14等の高圧PHに、ほぼ相当する。
これと同様に、半径方向外側に位置する外周面23には高圧PHが加えられており、この場合、この圧力は実質的に、第2の軸線方向リング端部RE2と第1の軸線方向リング端部RE1との間のパッキンリング14の軸線方向リング幅RBにわたり一定である。運転中、並進揺動型のピストンロッド2に当接する半径方向内側に位置する内周面18において、第2の軸線方向リング端部RE2(シリンダ側)における高圧PHと、これに対して相対的に低い、第1の軸線方向リング端部RE1(クランクケース側)における圧力PNとの間でシールが行われる。この場合は、(位置固定の)パッキンリング14と並進揺動型のピストンロッド2との間の相対運動に基づき、動的シールである。図5aに示唆するように、半径方向内側に位置する内周面18に沿ってほぼ実質的に線形の圧力特性線が生じており、この場合、圧力は、(第2の軸線方向リング端部RE2における)高圧PHから、(第1の軸線方向リング端部RE1における)低圧PNに低下している。基本的に、内周面18における軸線方向での圧力降下も、ガス状媒体の圧縮性に基づきやはり非線形ではあるが、ただし特定のケースでは(例えば高い絶対圧において高圧PHと低圧PNとの間の差圧が小さい場合)、図示のように圧力特性線は、簡単のために一次関数に容易に近似し得る。つまり、図5aに示す例では、パッキンリング7bは、本発明によるパッキンリング14に比べてより大きな半径方向の差圧に基づき、半径方向においてピストンロッド2により強力に押し付けられ、このことは、より大きな摩耗につながることになるため不利である。追加的に、図5aに示すパッキンリング7bは、第1の軸線方向リング端部RE1の領域において、第2の軸線方向リング端部RE2に比べてより大きな半径方向の差圧に基づき、第2の軸線方向リング端部RE2におけるよりも強力にピストンロッド2に押し付けられる。この不均一な圧力分布は、場合により追加的に不均一な摩耗をもたらす恐れがあり、このこともやはり不利である。
図5bには、本発明によるパッキンリング14が示されており、この場合、圧力補償を具体的に示すこの断面図は、ここでは円筒状の孔として形成されておりかつパッキンリング14の半径方向に、軸線方向リング端部RE1,RE2に対して平行に延びる(任意の)リリーフ開口25の領域内に延びている。パッキンリング14における圧力状態はリリーフ開口25に基づき説明され、半径方向の摩耗が内周面18において摩耗開口端部27aを露出させると、(減少したリング高さRHにおいて)摩耗開口27にももちろん実質的に同じことが当てはまる。説明したように、少なくとも1つの摩耗開口27に対して追加的に、好適にはリングセグメント14a毎に1つまたは複数のリリーフ開口25が、図2に示すように設けられており、これにより、周方向における圧力特性線を可能な限り均一に形成することができる。各軸線方向リング端部RE1,RE2および半径方向外側に位置する外周面23における圧力特性線は、図5aに示した従来のパッキンリング7bと実質的に同じである。この場合は、ピストンロッド2とパッキンリング14との間の、半径方向内側に位置する内周面18に沿った動的シール面における圧力特性線が、(摩耗により露出した)摩耗開口27もしくはリリーフ開口25により、意図的に影響を及ぼされる。
図5bにおいて明らかなように、圧力補償は、半径方向外側に位置する外周面23(高圧PH)と、半径方向内側に位置する内周面18(低圧PN)との間で行われる。つまり、第2の軸線方向リング端部RE2(シリンダ側)と、リリーフ開口25の第1のリリーフ開口端部25a(もしくは摩耗開口27の摩耗開口端部27a)の、第1の軸線方向リング端部RE1に面した画定部との間の圧力は、実質的に一定である。リリーフ開口25の第1のリリーフ開口端部25a(もしくは摩耗開口27の摩耗開口端部27a)の、第1の軸線方向リング端部RE1に面した画定部と、第1の軸線方向リング端部RE1とから、圧力は高圧PHから、これに対して相対的に低い圧力PNに低下しており、この場合、圧力特性線は、既に図5aに基づき説明したように、ほぼ実質的に線形である。
図5aに示したパッキンリング7bとは異なり、図5bに示すパッキンリング14では実質的に完全な圧力補償が、第2の軸線方向リング端部RE2と、リリーフ開口25の第1のリリーフ開口端部25a(もしくは摩耗開口27の摩耗開口端部27a)の、第1の軸線方向リング端部RE1に面した画定部との間の領域で軸線方向に行われる。図5aに示した圧力特性線と、図5bに示した圧力特性線との間の差圧ΔPは、図5bに平行線で書き込まれている。このことから生じるのは、パッキンリング14が半径方向の圧力補償に基づき、軸線方向において従来のパッキンリング7bよりも長い領域にわたって支持され、かろうじて第1のリリーフ開口端部25a(もしくは摩耗開口端部27a)の、第1の軸線方向リング端部RE1に面した画定部と第1の軸線方向リング端部RE1との間の領域において、半径方向の差圧に基づきより強力にピストンロッド2に押し付けられる、ということである。
最大限の圧力補償は、実地では各リリーフ開口25相互のリリーフ開口周方向距離zと、リリーフ開口端部25aの、第1の軸線方向リング端部RE1からのリリーフ開口軸線方向距離xと、パッキンリング14の材料特性とにより制限される。構造的な構成は、好適には、与えられた材料においてパッキンリング14の十分に高い強度が保証され、これにより可能な限り、第1のリリーフ開口端部25aとパッキンリング14の第1の軸線方向リング端部RE1との間の領域に変形ひいてはこれに付随する漏れが生じないように、周方向における各リリーフ開口25間のリリーフ開口周方向距離zと、軸線方向における、各リリーフ開口25と第1の軸線方向リング端部RE1との間のリリーフ開口軸線方向距離xとが選択されるように行われる。
このことを保証するために、リリーフ開口周方向距離zは、好適には1mm~15mmであり、リリーフ開口軸線方向距離xは、軸線方向リング幅RBの好適には4%~40%であり、リリーフ開口25の(少なくともリリーフ開口端部25aにおける)リリーフ開口長さは、リング幅RBの好適には2%~100%であり、リリーフ開口25の(少なくともリリーフ開口端部25aにおける)軸線方向のリリーフ開口幅は、軸線方向リング幅RBの好適には2%~30%である。この場合、リリーフ開口端部25aの軸線方向のリリーフ開口幅と、リリーフ開口軸線方向距離xとは、いずれにしろ、各リリーフ開口端部25aが各軸線方向リング端部RE1,RE2の間に偏心的に位置している、つまり、第2の軸線方向リング端部RE2よりも第1の軸線方向リング端部RE1の近くに位置している、という条件が満たされているように、互いに調整される。リリーフ開口周方向距離zが極度に小さいと、リングが極度に弱められ、このことは、望ましくない変形と、より多くの漏れとにつながる恐れがある。これに対してリリーフ開口周方向距離zが極度に大きいと、各リリーフ開口25aの間に高圧PHが場合により完全には形成されない恐れがある。このことは、周方向における不都合な圧力分布ひいては不十分な圧力補償につながり、このこともやはり、より高い摩擦力と、その結果生じる、より大きなリング摩耗とを生ぜしめる恐れがある。もちろん、図5bに示したリリーフ開口25の大きさ、形状および配置は例示的なものであるだけに過ぎないと解され、具体的な構造的な構成は、パッキンリング14の使用分野に向けられたものであり、当業者に委ねられ続ける。
図6には、パッキンリング14の複数の長手方向断面A-A~D-Dに基づき、リリーフ開口25および摩耗開口27の配置の様々な可能性が例示されている。断面A-Aに示すリリーフ開口25は、パッキンリング14の半径方向に、つまり実質的に両方の軸線方向リング端部RE1,RE2に対して平行に延びている。リリーフ開口25は、円形の横断面を有しておりかつ第1の軸線方向リング端部RE1から、リリーフ開口25の、第1の軸線方向リング端部RE1に面した第1のリリーフ開口端部25aの画定部から測定されたリリーフ開口軸線方向距離xだけ離間されている。リリーフ開口軸線方向距離xは、パッキンリング14の使用分野に、特にパッキンリングの半径方向内側に位置する内周面18における所望の圧力特性線に、図5bに基づき示したように合わせられている。リリーフ開口軸線方向距離xは、パッキンリング14の軸線方向リング幅RBの好適には4%~40%、有利には4~30%、特に好適には4~20%、極めて特に好適には4~15%、特に最大10%である。既に説明したように、リリーフ開口軸線方向距離xは、パッキンリング14の十分に高い強度を保証するために所定の最小距離を下回らないことが望ましく、この場合の最小距離は、軸線方向リング幅RBの4%である。つまりリリーフ孔25は、図示のように半径方向に連続して延びる孔として形成されている場合、主に、パッキンリング14の低圧側に面した半部に設けられている。
リリーフ開口25が円筒状の孔として形成されている場合、リリーフ開口直径dEは、パッキンリング14の軸線方向リング幅RBの好適には2~30%、好適には2~25%、特に好適には2~20%、特に15%である。しかしまたリリーフ開口25は、非円形の、好適には一定の横断面、例えば楕円形の横断面または長孔の形態の横断面を有していてもよい。この場合、前記寸法は、リリーフ開口25の軸線方向のリリーフ開口幅に当てはまる。
リリーフ開口25の横断面形状および延在部に関係なく、一般に、リリーフ開口25の第1のリリーフ開口端部25aは、半径方向内側に位置する内周面18において偏心的に配置されている、ということが当てはまる。つまり、リリーフ開口25の第1のリリーフ開口端部25aは軸線方向において、第2の軸線方向リング端部RE2よりも第1の軸線方向リング端部RE1の近くに位置している。よって、第1のリリーフ開口端部25aにおけるリリーフ開口25の軸線方向のリリーフ開口幅、例えば円形の横断面の場合の直径は、リリーフ開口軸線方向距離xに左右される。つまり、第1のリング端部RE1からのリリーフ開口軸線方向距離xが大きくなる程、最大限の軸線方向のリリーフ開口幅はより小さくなり、これにより、リリーフ開口端部25aが軸線方向において、第2の軸線方向リング端部RE2よりも第1の軸線方向リング端部RE1の近くに位置することが保証される。
しかしまた、既述しかつ図2に示したように、リリーフ開口25は、図6の断面D-Dに示したように、パッキンリング14の半径方向からそれた延在部を有していてもよい。ここでは、リリーフ開口25は断面A-Aと同様に円形の横断面を有しているが、ただしリリーフ開口25は軸線方向において、半径方向に対してリリーフ開口角度εだけ傾けられて配置されている。よって、リリーフ開口の半径方向外側の第2のリリーフ開口端部25bは、半径方向内側の第1のリリーフ開口端部25aよりも第1の軸線方向リング端部RE1の近くに位置している。図示の例では、リリーフ開口角度εは、第1の軸線方向リング端部RE1と、円筒状の孔として形成されたリリーフ開口25の軸線との間で測定される。リリーフ開口軸線方向距離xは、既述のように、半径方向内側に位置する内周面18において第1の軸線方向リング端部RE1に面した第1のリリーフ開口端部25aの画定部から測定される。リリーフ開口軸線方向距離xの値は当然、パッキンリング14の摩耗無しの新品状態に関するものである。しかしまたリリーフ開口25は、平面図(図3および図4)で見て半径方向からそれた延在部を有していてもよい、つまり、以下で図8bに基づきさらに詳しく説明するように傾斜していてもよい。
少なくとも1つのリリーフ開口25を傾斜させて配置することにより、パッキンリング14の摩耗に応じて圧力補償を変化させることができる。それというのも、半径方向内側のリリーフ開口端部25aの軸線方向位置が摩耗に応じて変化するからである。図示の例では、パッキンリング14の半径方向の摩耗vが生じると、リリーフ開口端部25aは第1の軸線方向リング端部RE1に向かって移動する。つまり、半径方向の摩耗vが生じた場合のリリーフ開口軸線方向距離xvは、パッキンリング14の新品状態におけるリリーフ開口軸線方向距離xよりも小さくなっている。リリーフ開口軸線方向距離の値xvは当然、リリーフ開口角度εに左右される。これにより、圧力補償は軸線方向において、パッキンリング14の摩耗状態に応じて増大するようになっており、この場合、圧力補償の度合いは、リリーフ開口角度εの大きさに応じて選択され得る。
ただしリリーフ開口25は、その全長にわたり全体的に傾けられて形成されている必要はなく、基本的に、リリーフ開口25の、内周面18に接する部分のみが第1の軸線方向リング端部RE1に向かって傾斜していても十分である。リリーフ開口25の、外周面23に面した残りの部分は、断面D-Dに破線で示唆したように、各リング端部RE1,RE2に対して平行に延在していてよい。よって、部分的に傾けられたリリーフ開口25の圧力補償は、摩耗vが達成されかつリリーフ開口25の傾斜部分が実質的に完全に消失するまでは、摩耗に依存している(第1のリリーフ開口端部25aが第1のリング端部RE1に向かって移動する)。
摩耗がさらに進むと、圧力補償はリリーフ開口25の直線部分(破線で図示)に基づき、実質的に一定に保たれる。それというのも、第1のリリーフ開口端部25aが第1のリング端部RE1に向かってさらに移動することはないからである。この場合、パッキンリング14の半径方向におけるリリーフ開口25の傾斜部分の長さは、リング高さRHの好適には0~60%、特に好適には40%である。もちろん、リリーフ開口25全体またはリリーフ開口25の、内周面18に接する部分は、直線的な延在部の代わりに、全体的または部分的に湾曲した延在部を有していてもよい。この場合、リリーフ開口25またはリリーフ開口25の、内周面18に接する部分は、第1の軸線方向リング端部RE1に向かって湾曲していてよく、これにより、第1のリリーフ開口端部25aは摩耗に応じて、第1のリング端部RE1に向かって移動することになる。
ただし、既述のようにリリーフ開口25は任意であるに過ぎない。本発明では、図2に基づき既述したように、パッキンリング14の少なくとも1つのリングセグメント14aに、少なくとも1つ(好適には複数)の摩耗開口27が設けられている。断面B-Bには、円錐形の底部と摩耗開口直径dvとを有する円筒状の孔の形態の摩耗開口27が示されている。摩耗開口27は、ここではパッキンリング14の半径方向に、つまり図示の例では第1および第2の軸線方向リング端部RE1,RE2に対して平行に延びている。ただし摩耗開口27はリリーフ開口25とは異なり、パッキンリング14の半径方向外側に位置する外周面23を起点として、リング高さRHの一部にわたってのみ、半径方向内側に位置する内周面18に向かって延びており、(摩耗無しの新品状態において)内周面18に到達することはない。つまり、摩耗開口27はパッキンリングの所定の半径方向の摩耗vから初めて、パッキンリング14の半径方向外側に位置する外周面23を半径方向内側に位置する内周面18に接続する。よって摩耗開口27は、前記摩耗状態vから初めて(図5bで説明した)圧力補償に寄与し、この場合、実質的にリリーフ開口25と同様の機能を担う。
少なくとも1つの摩耗開口27は、第1の軸線方向リング端部RE1から摩耗開口軸線方向距離yだけ離間されており、この場合、摩耗開口軸線方向距離yは、摩耗開口27の、半径方向において内周面18の最も近くに位置する点から測定される。それというのも、この点が最初に摩耗により露出させられるからである。つまり、摩耗開口27は第1の軸線方向リング端部RE1に接続しているのではなく、半径方向外側に位置する外周面23および/または第2の軸線方向リング端部RE2にのみ接続している。よって一般に、内周面18に面した半径方向内側の摩耗開口端部27aは、第1の軸線方向リング端部RE1と第2の軸線方向リング端部RE2との間に位置している。よって摩耗開口端部27aは、軸線方向および周方向に見て、パッキンリング14の材料により包囲されている。図示の例(断面B-B)では、摩耗開口27は円錐形の底部を有する孔として形成されており、したがって摩耗開口軸線方向距離yは、摩耗開口端部27aの先端まで測定される。摩耗開口軸線方向距離yは、リリーフ開口軸線方向距離xと同じ大きさであってよいが、例えば図6に示唆したように異なっていてもよい。好適には、摩耗開口軸線方向距離yは、パッキンリング14の軸線方向リング幅RBの2~20%、特に好適には2~15%、特に最大10%である。
半径方向外側の外周面23を起点とする、摩耗開口27の半径方向延在長さ、ここでは円筒状の孔の摩耗開口深さtvは、摩耗開口端部27aが半径方向において内周面18から、半径方向のリング高さRHの最高40%であり、有利にはパッキンリングの予想される摩耗vに応じて選択される距離だけ離間されているように選択されている。例えば特定のパッキンリング材料の特定の摩耗vが達成されるまでの時間が、試験において特定の運転条件下でピストンロッド2の表面粗さを考慮して検出され得る。このことから例えば、摩耗vが達成されるまで、コンプレッサがどれほど長く運転可能か(例えば運転時間数)を見積もることができる。この場合、摩耗開口27の摩耗開口深さtvは、摩耗開口27が所定の運転時間数から半径方向外側の外周面23を半径方向内側の内周面18に接続し、この時点から圧力補償の増大を可能にするように設定され得る。
しかしまた、半径方向内側に位置する内周面18に面した少なくとも一方の端部において第1の軸線方向リング端部RE1に向かって傾斜した少なくとも1つの摩耗開口27がパッキンリング14に設けられていてもよい。ただし好適には、(断面C-Cに破線で示唆したように)摩耗開口27の端部のみが傾斜しているのではなく、摩耗開口27全体が傾斜している。特に、少なくとも1つの摩耗開口27は、図6において断面C-Cに示したように半径方向外側に位置する外周面23から半径方向内側に位置する内周面18に向かって斜めに延びる円筒状の孔として形成されていてよい。摩耗開口27は、ここでは第1の軸線方向リング端部RE1に対して摩耗開口角度φだけ傾けられている。これにより、真っ直ぐな構成(断面B-B)と同様に、摩耗vから圧力補償の増大が行われる。追加的に、断面C-Cに示した傾斜した態様の場合には、既にリリーフ開口25に基づき説明したように、圧力補償が摩耗vから、さらに進む摩耗に応じて自動的に増大する。傾斜した孔の場合、摩耗開口深さtvは孔深さに相当するのではなく、断面C-Cに示すように、半径方向外側に位置する外周面23を起点とした、摩耗開口27の半径方向における最大延在長さに相当する。
摩耗開口27の摩耗開口直径dvは(円形の横断面の場合)、例えばリリーフ開口直径dEに相当していてよいか、またはリリーフ開口直径dEとは異なっていてよい。好適には、摩耗開口27の摩耗開口直径dvは、リングセグメント14aの軸線方向リング幅RBの2~60%、特に好適には25%である。同様に、摩耗開口27と第1の軸線方向リング端部RE1との間の摩耗開口角度φは、リリーフ開口角度εに相当していてよいか、またはリリーフ開口角度εとは異なっていてよい。このこともやはり、パッキンリング14を使用する周辺条件および達成しようとする圧力補償に関する所望の特性に左右される。
ただし、リリーフ開口25および/または摩耗開口27は必ずしも、パッキンリング14の半径方向外側に位置する外周面23に開口している必要はない。例えばリリーフ開口25については断面A-Aに、摩耗開口については断面B-Bに破線で示唆したように、例えばリリーフ開口25および/または摩耗開口27は追加的または択一的に、第2の軸線方向リング端部RE2内に延びているということが考えられる。シリンダ側の高圧PHは第2の軸線方向リング端部RE2にも加えられるため、圧力補償の効果は、半径方向内側に位置する内周面18を第2の軸線方向リング端部RE2に接続するリリーフ開口25もしくは所定の摩耗vから内周面18を第2の軸線方向リング端部RE2に接続する摩耗開口27によっても実現され得る。ただし、より簡単な製造に基づき、リリーフ開口25および/または摩耗開口27が、特に円筒状の孔の形態で、パッキンリング14の半径方向外側に位置する外周面23を起点として、半径方向内側に位置する内周面18までもしくは該内周面18に向かって配置されると有利である。
パッキンリング14の1つの別の有利な構成では、図7a~図7dにそれぞれ1つのリングセグメント14aに基づき示すように、パッキンリング14に少なくとも1つの補償凹部32が設けられていてよい。少なくとも1つの補償凹部32は、パッキンリング14の半径方向外側に位置する外周面23からリング高さRHの一部にわたり、パッキンリング14の半径方向内側に位置する内周面18に向かってかつ第1の軸線方向リング端部RE1からリング幅RBの一部にわたり、第2の軸線方向リング端部RE2に向かって延びている。補償凹部32は実質的に、コンプレッサの運転中に軸線方向の圧着力ひいては第1の軸線方向リング端部RE1とシール装置1のケーシングセグメント3i(図7aの断面E-Eに略示)との間の接触面における摩擦を低下させるために役立つ。
特に大幅に圧力補償されたパッキンリング14(例えば多数のリリーフ開口25、より小さなリリーフ開口周方向距離z、より小さなリリーフ開口軸線方向距離x)の場合には、大きな圧力補償に基づき、パッキンリング14が運転中に、半径方向において比較的小さな合力によってしかピストンロッド2に押し付けられない、ということが生じ得る(例えば図5b参照)。運転中に場合により生じ得るピストンロッド2の横方向運動に、補償凹部32無しのパッキンリング14は、第1の軸線方向リング端部RE1とケーシングセグメント3iとの間の接触面における摩擦に基づき、場合により不十分にしか追従することができず、これにより、パッキンリング14がピストンロッド2から半径方向に持ち上げられ、ひいては望ましくない漏れにつながる恐れがある。補償凹部32により、パッキンリング14の横方向運動に抗して作用する摩擦力が減じられ、これにより、パッキンリング14はピストンロッド2の動きに、半径方向においてより良好に追従することができる。補償凹部32は、以下に図7a~図7dに基づき詳しく説明するように、様々に形成されていてよく、この場合、左側には各リングセグメント14aが平面図で示されており、右側には平面図に書き込まれた各断面線に相応する断面図がそれぞれ示されている。
図7aでは、補償凹部32は、幅bAの細長い溝の形態で加工成形されており、左側の図で判るように、第1の補償凹部端部32aと、周方向において第1の補償凹部端部32aから所定の角度だけ離間された第2の補償凹部端部32bとを有している。断面E-Eにおいて明らかな、補償凹部32の半径方向における最大延在長さhAは、半径方向のリング高さRHの好適には60%である。これにより、半径方向のシールを達成するために、ケーシングセグメント3iにおける接触面と接触している十分に大きな静的シール面が第1の軸線方向リング端部RE1に提供される、ということが保証される。半径方向における補償凹部32の最大延在長さhAは、補償凹部32の構造的な構成に関係無く適用される。パッキンリング14の軸線方向における補償凹部32の最大補償凹部深さtAは、パッキンリング14のリング幅RBの1~40%、好適には0.5mmであり、このこともやはり、補償凹部32の構造的な構成(図7a~図7d)に関係無く適用される。
図7bに示す構成は、左側の平面図に示すように、周方向において互いに間隔をあけて配置された複数の別個の補償凹部32を有している。これにより、周方向において外側に(セグメント端部SE1,SE2に)位置するように配置された補償凹部32は、例えばその間に位置する補償凹部32とは別に寸法設定されてよく、これにより、圧着力を周方向において変化させることができる。右側に示す断面F-Fにはやはり、相応する補償凹部32の半径方向における延在長さhAならびに補償凹部深さtAが示されている。
図7cに示す補償凹部32の構成は、図7aに示した構成に実質的に相当するが、左側の平面図において明らかなように、補償凹部32が、周方向において第1の補償凹部端部32aと第2の補償凹部端部32bとの間に位置する領域に、複数の追加的な補償凹部開口32cを有しており、これらの補償凹部開口32cは半径方向において、補償凹部32を半径方向外側に位置する外周面23に接続している、という点において相違している。右側に示す断面G-Gにはやはり、補償凹部32の半径方向における延在長さhAならびに補償凹部深さtAが示されている。
図7dには、補償凹部32の1つの別の構成が示されており、この場合、左側の平面図に示すように、補償凹部32は、周方向におけるその延在長さ全体にわたり、半径方向においてパッキンリングの外周面23に接続されている。これにより、ケーシングセグメント3iに、シリンダ側の高圧PHが作用し得る比較的大きな接触面が生じることになり、これにより、ケーシングセグメント3iに対するパッキンリング14の軸線方向の圧着力を、図7a~図7cに示した態様に比べて大幅に低下させることができる。右側に示す断面H-Hにはやはり、相応する補償凹部32の半径方向における延在長さhAならびに補償凹部深さtAが示されている。
ただしもちろん、図示の各態様は、補償凹部32の可能な構造的な構成を非限定的に示す、例示的なものであるだけに過ぎない。当業者はもちろん、別の構成の補償凹部32を設けることもできる。
図8a~図8dには、本発明によるパッキンリング14の1つの別の有利な構成が、1つのリングセグメント14aに基づき例示されている。既に十分に説明したように、パッキンリング14の少なくとも1つのリングセグメント14aには、少なくとも1つの摩耗開口27が設けられている。好適には、追加的に1つまたは複数のリリーフ開口25が設けられており、ここではリングセグメント14a毎に4つのリリーフ開口25が、それぞれリリーフ開口周方向距離zだけ互いに離間されている。ただし、リリーフ開口周方向距離zは、(図示のように)全てのリリーフ開口25の間で同じ大きさである必要はなく、例えば異なっていてもよい。
パッキンリング14の少なくとも1つのリングセグメント14aの半径方向内側に位置する内周面18には、本発明の1つの別の有利な構成に基づき、少なくとも1つの突合せ凹部33が設けられている。少なくとも1つの突合せ凹部33は、リングセグメント14aの軸線方向において第2の軸線方向リング端部RE2からリング幅RBの一部にわたり、第1の軸線方向リング端部RE1に向かって延びている。リングセグメント14aの半径方向において突合せ凹部33は、リングセグメント14aの半径方向内側に位置する内周面18からリング高さRHの極一部にわたり、リングセグメント14aの半径方向外側に位置する外周面23に向かって延びている。周方向において突合せ凹部33は、各セグメント端部SE1,SE2から間隔をあけて配置されている。図8dにはリングセグメント14aの等角投影図が示されており、ここでは突合せ凹部33が良好に看取される。図示の例では、リングセグメント14aに1つの突合せ凹部33のみが設けられているが、もちろん、図示の突合せ凹部33に比べてより小さな複数の突合せ凹部33が、周方向において互いに間隔をあけて並べられてリングセグメント14aに設けられてもよい。
突合せ凹部33の配置は、特に大幅に圧力補償されるパッキンリング14(例えば多数のリリーフ開口25、より小さなリリーフ開口周方向距離zおよびより小さなリリーフ開口軸線方向距離x)において適用される。このようなパッキンリング14の場合には、コンプレッサが停止状態から高速運転すると、漏れの増大が生じる恐れがある。それというのも、パッキンリング14をピストンロッド2に押し付ける半径方向の圧着圧力が、製造に起因する製造誤差またはパッキンリング14および/またはピストンロッド2に場合により生じ得るばりを補償するためには、場合により不十分だからである。少なくとも1つの突合せ凹部33を配置することにより、パッキンリング14は高速運転段階開始時に、半径方向内側に位置する内周面18全体に比べて比較的小さな突合せ面34でピストンロッド2に当接することになる。これにより、高速運転段階開始時に圧力に基づく面圧が突合せ面34において高められ、このことは、改良されたシール作用ひいてはより少ない漏れをもたらす。これに関連して高速運転段階とは、ピストンコンプレッサの初回の始動だけでなく、(少なくとも突合せ面34が存在する限り)停止状態からの全ての始動を意味する。好適には、少なくとも1つの突合せ凹部33は、1つのリングセグメント14aの残りの突合せ面34が、リングセグメント14aの内周面18の25%~75%、好適には60%であるように寸法設定される。リングセグメント14aに複数の突合せ凹部33が配置される場合、面積比は、リングセグメント14aの内周面18に対する突合せ凹部33の個々の面積の和に関係する。
図8aには、パッキンリング14の1つのリングセグメント14aが、半径方向内側に位置する内周面18を垂直方向から見た図で示されている。ピストンコンプレッサの運転中にシリンダ側の高圧PHが加えられる第2の軸線方向リング端部RE2を起点として、突合せ凹部33がリング幅RBの一部にわたり、第1の軸線方向リング端部RE1に向かって延びており、第1の軸線方向リング端部RE1では運転中、高圧PHに対して比較的低い圧力PNが支配的である。パッキンリング14の軸線方向における突合せ凹部幅bALは、コンプレッサの高速運転中に十分に高い効果を発揮するために、軸線方向リング幅RBの好適には30%~90%、特に65%である。さらに図8aでは、それぞれ周方向において(リリーフ開口端部25aの互いに面した画定部から測定して)リリーフ開口周方向距離zだけ互いに離間された、リリーフ開口25の第1のリリーフ開口端部25aが看取される。
図8bには、図8aに示しアット断面線I-Iに基づくリングセグメント14aの半径方向の断面が示されている。図8cには、図8bに示した断面線J-Jに基づくリングセグメント14aの長手方向断面が示されている。図8cでは、半径方向のリング高さRHに比べて極めて小さな半径方向の突合せ凹部深さtALが看取され、突合せ凹部深さtALは、半径方向のリング高さRHの1~3%の範囲内で、特に好適には2%だけ変動する。この極めて小さな突合せ凹部深さtALに基づき、コンプレッサの通常運転中にパッキンリング14の特性が基本的に変わることなく、突合せ特性が説明したように改良される。よって突合せ凹部33は、リリーフ開口25同士を接続する、したがってコンプレッサの運転中に圧力補償に寄与することは全くまたは無視し得るほど僅かにしかない従来の意味での周方向溝ではない。突合せ面34が摩耗すると、パッキンリング14は突合せ凹部33無しのリングと同様に振る舞う。つまり本発明の枠内で、リリーフ開口25のリリーフ開口端部25aが半径方向内側に位置する内周面18に直接に開口するということは、突合せ凹部33にも開口していることを意味する。つまり、図5bに基づき示した圧力状態は実質的に、突合せ凹部33を備えたパッキンリング14にも当てはまる。1つのパッキンリング14に複数の突合せ凹部33が設けられている場合、例えば(図示のように)リングセグメント14a毎に1つの突合せ凹部33が設けられている場合またはリングセグメント14a毎に複数の突合せ凹部33が設けられている場合、これらの突合せ凹部33はそれぞれ異なって形成されていてもよい。例えば、突合せ凹部33は、パッキンリング14の突合せ特性をより可変にすることができるようにするために、それぞれ異なる半径方向の突合せ凹部深さtALおよび/またはそれぞれ異なる形状および/または軸線方向においてそれぞれ異なる突合せ凹部幅bALを有していてよい。ただし、特に残りの突合せ面34に関する周辺条件は同じである。製造に起因して突合せ凹部33は縁部に場合により、例えばフライス等の使用工具の例えば幾何学形状に基づき生じる特定のアールを有していてもよい。
図8bに示す断面I-Iには再び、様々な態様のリリーフ開口25ならびに摩耗開口27が示されている。リングセグメント14aの第2のセグメント端部SE2に配置されたリリーフ開口25-1は、ここでは残りの3つのリリーフ開口25-2とは異なっている。リリーフ開口25-2は円筒状の貫通孔として形成されており、パッキンリング14もしくはここではリングセグメント14aの半径方向に延びている。よって、リリーフ開口25-2は(例えば図2~図4におけるように)傾けられて配置されてはおらず、つまりリリーフ開口角度ε=0を有している。つまりリリーフ開口25-2は、図8cにおいて明らかなように、第1および第2のリング端部RE1,RE2に対して平行に延びている。
リングセグメント14aの第2のセグメント端部SE2に配置されたリリーフ開口25-1は、ここではリングセグメント14aの半径方向とは異なる方向に延びている。第1のリリーフ開口角度εだけ軸線方向に傾けられたリリーフ開口25(図2および図6に示した断面D-D)とは異なり、リリーフ開口25-1は図8bに示した断面内で、つまり第1および第2のリング端部RE1,RE2に対して平行に位置してはいるが、ただしこの断面内で半径方向から第2のリリーフ開口角度ωだけ変位するように配置されている。つまり実質的に、パッキンリング14の半径方向外側に位置する外周面23に開口する第2のリリーフ開口端部25-1bが、図8bに示すように周方向において、内側に位置する内周面18に開口する第1のリリーフ開口端部25-1aから離間されている。
リリーフ開口端部25-1a,25-1bの間隔は、リリーフ開口角度ωとパッキンリング14の外径Daとを掛けたω×Daから得られる。リリーフ開口25-1のこの傾斜配置に基づき、内側に位置する内周面18の、第2のセグメント端部SE2付近に位置する部分でも圧力補償が可能になる。このような圧力補償は、リリーフ開口25-2と同様に半径方向に延びる1つのリリーフ開口25によっては、相接する2つのリングセグメント14aのセグメント端部SE2,SE1のオーバラップに基づき実現不能であるか、または実現困難でしかない。しかしまたもちろん、第1のリリーフ開口角度εだけ変位されていると共に半径方向から第2のリリーフ開口角度ωだけ変位された1つまたは複数のリリーフ開口25が1つのパッキンリング14または1つのリングセグメント14aに設けられる、ということも考えられる。つまり、第1のリリーフ開口端部25aは第2のリリーフ開口端部25bから、軸線方向においても周方向においても離間されていてよい。
2つの摩耗開口27は、ここではリングセグメント14aの半径方向に延びている。図8bにおいて明らかなように、それぞれ異なる深さtv1>tv2を有する2つの摩耗開口27は、パッキンリング14の半径方向外側に位置する外周面23から半径方向内側に位置する内周面18に向かって延びている。摩耗v=RH-tv1の場合、最初に深さtv1を有する摩耗開口27が露出させられ、摩耗v=RH-tv2に進行すると、深さtv2を有する摩耗開口27が露出させられる。これにより、圧力補償の実質的に2段階の増大が達成される。もちろん、より多くのまたはより少ない摩耗開口27および/またはリリーフ開口25が、ただし少なくとも1つの摩耗開口27が、少なくとも1つのリングセグメント14aに設けられてもよい。1つまたは複数の摩耗開口27は、様々な深さtvに対して追加的または択一的に、パッキンリング14の半径方向に対して第1の摩耗開口角度φだけ傾けられて配置されていてもよく(図6に示した断面C-C参照)かつ/または図8bに示したような第2のリリーフ開口角度ωと同様、第2の摩耗開口角度λ(図示せず)だけ傾けられて配置されていてもよい。
もちろん、所望の結果、特にパッキンリング14の所望の圧力補償を達成するために、本発明の図示の各実施形態は用途に応じて任意に組み合わせられてよい。好適には、本発明による少なくとも1つのパッキンリング14は、特に好適には本発明による複数のパッキンリング14は軸線方向に連続して、ピストンコンプレッサの、図1に示したシール装置1内に配置されている。
最後に再度指摘しておくと、図1~図8dに示した各実施形態の図示の説明した特徴は、互いに独立したものであると見なされ、もちろんそれだけでまたは任意の組合せにおいて使用されてもよい。パッキンリング14は、例えば必ずしも図2に示したようにリリーフ開口25と摩耗開口とを有している必要はない。最も簡単なケースでは、本発明によるパッキンリング14は少なくとも1つのリングセグメント14aに、リングセグメント14aの半径方向外側に位置する外周面23および/または第2の軸線方向リング端部RE2からリングセグメント14aの半径方向内側に位置する内周面18に向かって延びる、任意の形状を有する少なくとも1つの摩耗開口27を有していてよく、この場合、少なくとも1つの摩耗開口27の摩耗開口端部27aは、リングセグメント14aの半径方向において、リングセグメント14aの半径方向内側に位置する内周面18から、半径方向のリング高さRHの最大40%の距離だけ離間されている。任意には、追加的に任意の形状、大きさおよび延在部を有する1つまたは複数のリリーフ開口25が設けられてもよい。さらに任意には、1つまたは複数の補償凹部32および/または突合せ凹部33ならびに1つまたは複数の軸線方向溝24および/または周方向溝20がパッキンリング14に設けられてよい。