JP7519245B2 - 圧粉磁心の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、圧粉磁心の製造方法に関する。
圧粉磁芯とは、磁性粉末を圧粉成形して製造されるものである。原料となる磁性粉末には、通常、表面に絶縁被覆が施され、さらに必要に応じて機械的強度を向上させるためのバインダーが添加される。圧粉磁芯はその構造上、電磁鋼板等の積層磁芯に比較して、渦電流損失が小さい、磁気特性が等方的である、といった特徴を有しているため、特に高周波領域での用途開発が進められている。
圧粉磁心のうち、結晶質の粉末を原料とした圧粉磁芯は、チョークコイルなどの用途において、すでに幅広く実用化されている。また、結晶質の材料を使用した圧粉磁心と並行して、ナノ結晶軟磁性材料を使用したナノ結晶圧粉磁芯の開発も進められている。
ナノ結晶軟磁性材料は微細な結晶から成る軟磁性材料であり、例えば、代表的なナノ結晶軟磁性材料である鉄基ナノ結晶材料は、ナノ結晶組織を発現可能な組成の非晶質を主相とする合金に対して、熱処理を施すことによって得ることができる。前記熱処理は、合金組成に応じて定まる結晶化温度以上で行われるが、過度に高温で熱処理を行うと、結晶粒の粗大化や、非磁性相の析出といった問題が生じる。したがって、良好な特性の鉄基ナノ結晶圧粉磁芯を製造するための研究がこれまでなされてきた。
例えば、特許文献1、2には、Fe-Si-B-Nb-Cu-Cr系などの磁性粉末を合金粉末とバインダーとを混合して加圧成形した後、前記バインダーを硬化するための加熱処理を施し、該加熱処理の間にナノ結晶相を析出させることによって、ナノ結晶圧粉磁芯を製造する技術が開示されている。
また、特許文献3には、Fe-B-Si-P-C-Cu系の磁性粉末を熱処理してナノ結晶化した後、加圧成形することによって軟磁性圧粉磁芯を製造する方法が開示されている。
特開2004-349585号公報 特開2014-103265号公報 特許第5537534号公報
しかしながら、特許文献1~3に記載されているような方法では、Fe-B-Si-P-C-Cu系磁性粉末の表面に施された絶縁被覆を破壊することなく高密度に成形することが困難であった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高密度かつ高特性の軟磁性圧粉磁心を提供することを目的とする。
すなわち、本発明の要旨構成は、次のとおりである。
(1)圧粉磁心の製造方法であって、
第1結晶化開始温度Tx1及び第2結晶化開始温度Tx2を有するFe-B-Si-P-C-Cu系磁性粉末と、前記粉末の表面に形成すべき被膜を構成するガラス転移温度Tgを有する絶縁粉末とを用意するとともに、前記磁性粉末と前記絶縁粉末とはTx1-Tg≧5℃なる条件を満たし、
前記磁性粉末及び前記絶縁粉末との混合物に対して、成形圧力を印加した状態で加熱し、前記磁性粉末の表面に前記被膜を形成することを特徴とする、圧粉磁心の製造方法。
(2)前記絶縁粉末は、低融点ガラス又は熱可塑性樹脂であることを特徴とする、(1)に記載の圧粉磁心の製造方法。
(3)前記低融点ガラスは、リン酸塩系低融点ガラスであることを特徴とする、(2)に記載の圧粉磁心の製造方法。
(4)前記絶縁粉末の割合が、前記磁性粉末に対して0.1~5質量%であることを特徴とする、(1)~(3)のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
(5)前記磁性粉末が、原子%で、
Fe:79%以上、86%以下、
B :4%以上、13%以下、
Si:0%以上、8%以下、
P :1%以上、14%以下、
C :0%以上、5%以下、
Cu:0.4%以上、1.4%以下、
Cr:0%以上、3%以下、及び
不可避不純物、からなる組成を有する、(1)~(4)のいずれか1項に記載の軟磁性圧粉磁心の製造方法。
本発明によれば、高密度かつ高特性の軟磁性圧粉磁心を得ることができる。
(磁性粉末)
本発明の軟磁性圧粉磁心の製造方法においては、原料として、Fe-B-Si-P-C-Cu系磁性粉末(以下、「磁性粉末」という場合がある)が使用される。上記Fe-B-Si-P-C-Cu系磁性粉末としては、特に限定されることなく、任意の組成を有するFe-B-Si-P-C-Cu系磁性粉末を使用することができる。なお、本発明において、「Fe-B-Si-P-C-Cu系磁性粉末」とは、Si及びCの少なくとも一方の含有量が0%である場合、すなわち、「Fe-B-P-C-Cu系磁性粉末」、「Fe-B-Si-P-Cu系磁性粉末」、及び「Fe-B-P-Cu系磁性粉末」を包含するものとする。
Fe-B-Si-P-C-Cu系磁性粉末としては、例えば、特許文献3に開示されているFe-B-Si-P-C-Cu系磁性粉末を使用することができる。当該磁性粉末としては、原子%換算(以下、“%”は特に断らない限り原子%を意味する)で、79%≦Fe≦86%、0%≦Si≦8%、4%≦B≦13%、1%≦P≦14%、0%≦C≦5%、0.4%≦Cu≦1.4%、0%≦Cr≦3%、及び不可避不純物からなる組成を有するものを用いることが好ましい。なお、前記磁性粉末は、81%≦Fe≦85%、0%≦Si≦6%、4%≦B≦10%、3%≦P≦9%、0%≦C≦2%、0.5%≦Cu≦0.8%、0%≦Cr≦1.5%、及び不可避不純物からなる組成を有することがより好ましく、81%≦Fe≦84%、0%≦Si≦5%、4%≦B≦10%、4%≦P≦9%、0%≦C≦2%、0.5%≦Cu≦0.8%、0%≦Cr≦1%、及び不可避不純物からなる組成を有することが更に好ましい。
なお、本発明の作用・効果を損なわない限りにおいて、前記組成が他の微量元素を含有するものも本発明の範囲に包含されうる。また、前記不可避不純物として、Mn、Al、Nb、Zr、Oなどの元素が含まれる場合があるが、その場合、Mn、Al、Nb、Zr、及びOの合計含有量は、3%以下とすることが好ましく、1.5%以下とすることがより好ましい。以下、前記組成の好適範囲について、さらに成分ごとに説明する。
Fe含有量が高いほど飽和磁束密度が向上する。そのため、飽和磁束密度を十分に向上させるという観点からは、Fe含有量を79%以上とすることが好ましい。特に、1.6T以上の飽和磁束密度が必要とされる場合には、Fe含有量を81%以上とすることが好ましい。一方、Fe含有量が高くなりすぎると磁性粉末を製造する際に要求される冷却速度が大きくなり、均質な磁性粉末の製造が困難となる場合がある。そのため、Fe含有量を86%以下とすることが好ましい。さらに均質性を求める場合には、Fe含有量を85%以下とすることがより好ましい。また、ガスアトマイズ法など、冷却速度が遅い方法を用いて磁性粉末を製造する場合には、Fe含有量を84%以下とすることがさらに好ましい。
Siは非晶質相の形成を担う元素である。Si含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、添加することによってナノ結晶の安定化を向上させることができる。一方、Si含有量が高くなりすぎると非晶質形成能が低下し、軟磁気特性も低下する。したがって、Si含有量は8%以下とすることが好ましく、6%以下とすることがより好ましく、5%以下とすることがさらに好ましい。
Bは非晶質相の形成を担う必須元素である。B含有量が少なすぎると、水アトマイズ法などの液体急冷条件下における非晶質相の形成が困難になる場合がある。したがって、B含有量は4%以上とすることが好ましい。一方、B含有量が多すぎると、Tx1とTx2の差が狭まる結果、均質なナノ結晶組織を得ることが困難となり、圧粉磁芯の軟磁気特性が低下する場合がある。そのため、B含有量は13%以下とすることが好ましい。とくに、量産化のため合金粉末が低い融点を有する必要がある場合には、B含有量を10%以下とすることがより好ましい。
Pは非晶質相の形成を担う必須元素である。P含有量が少なすぎると、水アトマイズ法などの液体急冷条件下における非晶質相の形成が困難になる場合がある。したがって、P含有量は1%以上とすることが好ましく、3%以上とすることがより好ましく、4%以上とすることがさらに好ましい。一方、P含有量が多すぎると、飽和磁束密度が低下して軟磁気特性が劣化する場合がある。そのため、P含有量は14%以下とすることが好ましく、9%以下とすることがより好ましい。
Cは非晶質相の形成を担う元素である。C含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、B、Si、P等の元素と併用することにより、いずれか一つの元素のみを用いた場合と比較して、非晶質形成能やナノ結晶の安定性をより高めることができる。一方、C含有量が高すぎると合金組成物が脆化し、軟磁気特性の劣化が生じる場合がある。そのため、C含有量は5%以下とすることが好ましい。とくに、C含有量を2%以下とすれば、溶解時におけるCの蒸発に起因した組成のばらつきを抑えることができる。
Cu元素はナノ結晶化に寄与する必須元素である。Cu含有量が少なすぎると、ナノ結晶化が困難になる場合がある。そのため、Cu含有量は0.4%以上とすることが好ましい。一方、Cu含有量が多すぎると、非晶質相が不均質になり、熱処理によって均質なナノ結晶組織が得られず、軟磁気特性が劣化する場合がある。そのため、Cu含有量は1.4%以下とすることが好ましい。とくに、合金粉末の酸化及びナノ結晶への粒成長を考慮すると、Cu含有量を0.5%以上、0.8%以下とすることがより好ましい。
Cr元素は耐食性や防錆性に寄与する元素である。Cr含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよいが、添加することによって磁性粉末の粉体の表面に酸化被膜が形成されるため防錆性が付与され、また非晶質相の割合が向上する。一方、Cr含有量が多すぎると、磁性粉末において高い飽和磁束密度Bsを得られないため3%以下とすることが好ましく、1.5%以下とすることがより好ましく、1.0%以下とすることがさらに好ましい。
本発明において用いられるFe-B-Si-P-C-Cu系磁性粉末は、第1結晶化開始温度Tx1及び第2結晶化開始温度Tx2を有している。言い換えれば、磁性粉末は、示差走査熱量測定(DSC)により得られるDSC曲線の加熱過程に、結晶化を示す発熱ピークを少なくとも2つ有している。前記発熱ピークのうち、最も低温側の発熱ピークはα-Fe相が晶出する第1結晶化、その次の発熱ピークはホウ化物などが晶出する第2結晶化を示す。
ここで、第1結晶化開始温度Tx1は、DSC曲線のベースラインから最も低温側の発熱ピークである第1ピークに至るまでの第1立ち上がり部のうちの最も正の傾きの大きい点を通る接線である第1上昇接線と、前記ベースラインとの交点の温度として定義される。また、前記第2結晶化開始温度Tx2は、前記ベースラインから前記第1ピークの次の発熱ピークである第2ピークに至るまでの第2立ち上がり部のうちの、最も正の傾きの大きい点を通る接線である第2上昇接線と、前記ベースラインとの交点の温度として定義される。なお、第1結晶化終了温度Tz1は、前記第1ピークから前記ベースラインに至るまでの第1立ち下がり部のうちの最も負の傾きの大きい点を通る接線である第1下降接線と前記ベースラインとの交点の温度として定義される。
本発明に用いられるFe-B-Si-P-C-Cu系磁性粉末の製法は特に限定されないが、例えば、所定の成分からなる合金原料を溶解した後、アトマイズして粉末化する方法を用いることができる。前記アトマイズの具体的な手法としては、水アトマイズ法やガスアトマイズ法など、各種の方法が適用可能であるが、特許文献3の実施例に開示されているような水アトマイズ法、特開2013-55182号公報に開示されているような回転ディスクの遠心力を利用してアトマイズする方法、特許4061783号、特許4181234号に開示されているようなガスアトマイズ法と水冷却を組み合わせた方法、あるいは特開2007-291454号公報に記載されているような水アトマイズ後にさらに水冷する方法などを、好適に用いることができる。
本発明で用いられる磁性粉末の平均粒径D50は、1~100μmの範囲にあることが好ましい。D50が1μmより小さいものは工業的に低コストで製造し難く、一方、100μmを超えると粒度偏析などの弊害が生じる場合がある。なお、ここで言う平均粒径D50とは、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準積算粒度分布が50%となる粒径である。
本発明で用いられる磁性粉末の粒子形状は球状に近いほど好ましい。粒子の球状度が低いと、粒子表面に突起が生じ、成形圧力を印加した際に該突起に周囲の粒子からの応力が集中して被覆が破壊され、絶縁性が十分に保たれず、その結果、得られる圧粉磁芯の磁気特性(特に損失)が悪化する場合がある。そのため、粒子球状度の指標である見掛密度ADは、AD≧2.8+0.005×D50の関係を満たすことが好ましい。なお、ここで前記ADの単位はMg/m、D50の単位はμmとする。また、前記ADは、JIS Z 2504に規定された方法で測定することができる。
なお、粒子の球状度は、磁性粉末の製造条件、例えば水アトマイズ法であればアトマイズに用いる高圧水ジェットの水量や水圧、溶融原料の温度及び供給速度などの調整によって、好適な範囲に制御可能である。具体的な製造条件は、製造する磁性粉末の組成や、所望の生産性によって変化する。
本発明における磁性粉末の粒度分布は特に限定されないが、過度に広い粒度分布は、粒度偏析などの悪影響の原因となり得る。そのため、前記磁性粉末の最大粒径を2000μm以下とすることが好ましい。また、.B. Yu and N. Standish,
“Characterisation of non-spherical particles from their packing behavior”, Powder Technol. 74 (1993) 205-213.に記載されているように、粒度分布に二つのピークを持つ磁性粉末を用いれば、充填性が向上し、その結果、圧粉磁心の密度も向上する。二つのピークを持つ粒度分布は、例えばピークを形成したい粒度を中心に分級した二種類の粒度の粉末を混合することにより得られる。分級には篩分級法や気流分級法、混合には手動攪拌、V型混合機やダブルコーンミキサーなどによる機械攪拌など、任意の方法や装置を適用可能である。
(絶縁粉末)
上記磁性粉末には、絶縁粉末からなる被覆が施される。当該絶縁粉末としては、磁性粉末及び絶縁粉末との混合物に対して、Tx1-Tg≧5℃の条件を満足し、所定の温度で成形した際に磁性粉末を被覆できる材料であることが必要であり、好ましくは低融点ガラス又は熱可塑性樹脂を挙げることができる。
低融点ガラスとしては、硼酸塩系、珪酸塩系、ゲルマネート系、バナデート系、燐酸塩系、砒酸塩系及びテルライド系の低融点ガラスを挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリアミドイミド樹脂、PPS樹脂及びPEEK樹脂等を挙げることができる。
これらの絶縁粉末の中でも特に低融点ガラスが好ましく、さらには燐酸塩系低融点ガラスが好ましい。本願でいうところの燐酸塩系低融点ガラスとは、酸化物換算した場合に、以下の成分;P:25mol%以上75mol%以下、SiO:0mol%以上10mol%以下、A1:0mol%以上30mol%以下、B:0mol%以上10mol%以下、ZnO:0mol%以上30mol%以下、RO:25mol%以上45mol%以下、MO:0mol%以上15mol%以下、(ただし、上記のRは1A族元素を示し、MはZnおよびBaを除く2族元素を示す)を含むものを意味し、必要に応じてFを10mol%以下の割合で含むものを意味する。
また、本願において、例えば燐酸塩系低融点ガラスをP-ZnO-RO系と表示する場合は、P、ZnO、及びROを上記範囲で含むことを意味するものであり、P-ZnO-Al系と表示する場合は、P、ZnO、及びAlを上記範囲で含むことを意味するものであり、P-Al-B-SiO-F系と表示する場合は、P、Al、B、及びSiOを上記の割合で含み、さらに微量のFを含むことを意味するものである。
なお、上記絶縁粉末には、必要に応じて、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂及びポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂やアルミナ、シリカ及びマグネシア等の金属酸化物、ポリシラン、ポリシラザン等の無機高分子を添加してもよい。
なお、絶縁粉末は、成形過程においてガラス転移して磁性粉末の表面を覆うことができればよいので、磁性粉末に要求されるような球状度は特に厳密に要求されるものではないが、磁性粉末の大きさに合わせて、その平均粒径D50は、0.1~50μmの範囲にあることが好ましい。D50が0.1μmより小さいものは工業的に低コストで製造し難く、一方、50μmを超えると粒度偏析などの弊害が生じ、磁性粉末の表面被覆を良好に行うことができない場合がある。なお、ここで言う平均粒径D50とは、レーザー回折・散乱法で測定した体積基準積算粒度分布が50%となる粒径である。
また、磁性粉末に対する絶縁粉末の量は、0.01~5質量%であることが好ましく、さらには0.1~2質量%であることが好ましい。絶縁粉末の量が0.01質量%より少ないと、磁性粉末の表面被覆を十分に行うことができず、充填した際に磁性粉末同士が接触してコアロス等の磁気特性劣化が生じてしまう。一方、絶縁粉末の量が5質量%より多いと、磁性粉末に対する絶縁粉末の量が多くなりすぎ、圧粉磁心に占める被膜の量が多くなりすぎて、磁気特性の低下を生じる。
(圧粉磁心の製造)
次いで、本発明の圧粉磁心の製造方法について説明する。
最初に、磁性粉末と絶縁粉末との混合物を所定の金型に充填して加圧する。その際、成形圧力が高いほど高密度化の効果は高いが、成形圧力を過度に高くしても高密度化の効果は飽和して金型破損のリスクが高まる。そのため、成形圧力は、100~2000MPaの範囲とすることが好ましい。
本発明では、上記混合物をTx1-Tg≧5℃の条件を満足するように絶縁粉末を選択し、成形圧力を印加した状態で加熱することが重要である。これによって、絶縁粉末から構成される被膜が磁性粉末の変形に追従し、その表面を良好に被覆するようになる。すなわち、被膜の一部が破壊して隣接する磁性粉末同士が部分的に接触するようなことがないので、圧粉磁心としての磁気特性を良好に保持することが可能になり、コアロスなどの磁気特性の劣化を抑制できる。
なお、Tx1-Tgの上限は特に限定されるものではないが、現状では、200℃まで問題なく目的とする圧粉磁心を得ることができている。
また、本発明では、加熱中に、成形圧力が印加された状態で任意の時間保持することができる。しかし、保持時間が長すぎると、α-Fe結晶粒が粗大化したり、ホウ化物などの第2相が部分的に晶出したりする場合がある。そのため、保持時間は120分以下とすることが好ましい。
また、加熱温度(成形温度)はTx1-40~Tx2℃とすることが好ましい。加熱温度をTx1-40℃以上とすることにより、磁性粉末のナノ結晶化が促進され、磁性粉末の塑性変形がより生じやすくなるため高い成形密度が得られる。
また、加熱温度をTx2以下とすることにより、第2相の晶出による特性の低下を抑制できる。加圧成形の熱処理条件は、ナノ結晶相を晶出させ、かつ第2層の晶出を抑制する温度と時間を適宜設定するのが好ましい。すなわち、加熱温度を高くするに従い、保持時間を短くし、加熱温度を低くするに従い、保持時間を長くするのが好ましい。これにより、ナノ結晶化と磁性粉末の変形への被膜の追従を一工程で同時に行うことが可能となる。
本発明では、上述の工程で圧粉成形された圧粉磁心を、さらにTx1以上、Tx2以下の温度範囲で熱処理してもよい。当該熱処理によって、磁性粉末のナノ結晶化をさらに進行させ、圧粉磁心の磁気特性を一層改善することができる。
(実施例1~22及び比較例1)
表1に示すような磁性粉末と絶縁粉末とを金型内に入れ、表1に示す成形温度で1分間、加圧成形した。なお、各磁性粉末の平均粒径D50は、組成1及び組成2は40μm、組成3,4,5は30μmおよび組成6は8μmとした。
Figure 0007519245000001
表1から明らかなように、本発明に従った実施例においては、磁性粉末の種類及び絶縁粉末の種類に応じて比抵抗及びコアロス等の変動に変化はあるものの、比較例1と比較して、比抵抗が大きく、コアロスが小さいことが分かる。すなわち、本発明に従った実施例においては、磁性粉末と絶縁粉末との混合物において、Tx1-Tg≧5℃の条件を満足するので、絶縁粉末から構成される被膜が磁性粉末の変形に追従し、その表面を良好に被覆するようになる。すなわち、被膜の一部が破壊して隣接する磁性粉末同士が部分的に接触するようなことがないので、圧粉磁心としての磁気特性を良好に保持することが可能になり、コアロスの劣化を抑制できる。
一方、比較例1においては、比抵抗が小さく、コアロスが大きいことが分かる。すなわち、比較例においては、磁性粉末と絶縁粉末との混合物において、Tx1-Tg≧5℃の条件を満足しないので、絶縁粉末から構成される被膜が磁性粉末の変形に追従せず、その一部が破壊して隣接する磁性粉末同士が部分的に接触するようなことがなるので、圧粉磁心としての磁気特性を良好に保持することができずに、コアロスが発生する。
また、成形温度-Tg≧25℃以上の場合、絶縁粉末の軟化が十分に得られ、絶縁粉末から構成される被膜が磁性粉末の変形に確実に追従できることにより、より高い比抵抗が得られる。
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。

Claims (4)

  1. 圧粉磁心の製造方法であって、
    第1結晶化開始温度Tx1及び第2結晶化開始温度Tx2を有するFe-B-Si-P-C-Cu系磁性粉末と、前記粉末の表面に形成すべき被膜を構成するガラス転移温度Tgを有する絶縁粉末とを用意するとともに、前記磁性粉末と前記絶縁粉末とはTx1-Tg≧5℃なる条件を満たし、
    前記絶縁粉末は、低融点ガラス又は熱可塑性樹脂であり、
    前記磁性粉末及び前記絶縁粉末との混合物に対して、成形圧力を印加した状態で加熱し、前記磁性粉末の表面に前記被膜を形成することを特徴とする、圧粉磁心の製造方法。
  2. 前記低融点ガラスは、リン酸塩系低融点ガラスであることを特徴とする、請求項1に記載の圧粉磁心の製造方法。
  3. 前記絶縁粉末の割合が、前記磁性粉末に対して0.1~5質量%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の圧粉磁心の製造方法。
  4. 前記磁性粉末が、原子%で、
    Fe:79%以上、86%以下、
    B :4%以上、13%以下、
    Si:0%以上、8%以下、
    P :1%以上、14%以下、
    C :0%以上、5%以下、
    Cu:0.4%以上、1.4%以下、
    Cr:0%以上、3%以下、 及び
    不可避不純物、からなる組成を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の軟磁性圧粉磁心の製造方法。
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