JP7511255B2 - グリシドールの調製方法 - Google Patents

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本発明は、グリセロールカーボネートの熱的脱炭酸からグリシドールを調製する方法に関する。さらに詳細には、本発明は、液体グリセロールカーボネートをある種の脱炭酸促進剤と接触させ、得られた混合物を、グリセロールカーボネートの熱的脱炭酸が誘導されるように加熱し、生成物のグリシドールを反応混合物から蒸発によって分離する方法に関する。本方法により、グリシドール形成に対する高い変換率及び選択性が達成され、有利なことには脱炭酸触媒の使用が不要になる。
グリシドール(GLD,glycidol)は、いくつかの貴重な工業的用途をもつ公知化合物である。GLDは、安定剤、プラスチック改質剤、界面活性剤、ゲル化剤及び滅菌剤において有用となる特性を有することが知られている。さらに、グリシジルエーテル、エステル、アミン、並びにグリシジルカルバメート樹脂及びポリウレタンの合成における中間体として有用であることも知られている。したがって、GLDは、テキスタイル、プラスチック、医薬品、化粧品及び光化学工業を含めて様々な工業分野に適用されてきた。
GLDの公知の商業的調製方法は、過酸化水素及びタングステン酸化物系触媒を使用するアリルアルコールのエポキシ化、並びにエピクロロヒドリンと塩基との反応を含む。しかし、これらの方法に関しては欠点がある。例えば、アリルアルコールのエポキシ化は、いくつかの工程ステップを必要とし、触媒の分解に関連する問題を抱える。一方、原料のコストが高いこと及び/又は廃棄副生成物の管理がどちらの場合も懸案事項である。
グリセロール(GLY,glycerol)は、バイオディーゼルの生成における副生成物として大量に生成される。石油燃料をバイオ燃料で少なくとも部分代用するための使用にますます焦点が置かれ、グリセロールの生成は現在の需要よりはるかに高いレベルに増加した。その結果、GLYは、特にバイオ燃料の生成が普及している諸国では、安価で容易に入手可能な材料であり、GLYの適切な適用の開発に焦点が絞られてきた。
グリセロールカーボネート(GLC,glycerol carbonate)は脱炭酸を経て、GLDを形成することができるが、GLCの調製におけるGLYの使用は周知である。例えば、歴史的に、GLCを生成する手段として、GLDを尿素と反応させ、又はジアルキルカーボネート/アルキレンカーボネートとエステル交換してきた。その後の脱炭酸によるGLCからGLDへの変換方法が多数公知である。
米国特許第2,856,413号明細書には、GLCを脱炭酸して、GLDを形成する方法であって、この変換が中性金属塩、好ましくはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む中性金属塩によって触媒される方法が開示されている。脱炭酸は、高温、好ましくは175℃~225℃の範囲の高温及び準大気圧下で実施される。
米国特許第7,888,517号明細書には、脱炭酸を好ましくは触媒の存在下で実施する前に、粗GLC中の弱酸性度を有する塩(例えば、硫酸ナトリウム)の含有量を例えば蒸留、中和又は吸収により1500質量ppm以下に低減することによって、GLCの脱炭酸によるGLDの収率を改善する方法が記載されている。
米国特許出願公開第2014/0135512号明細書及び同第2015/0239858号明細書も、GLCを脱炭酸して、GLDを形成する方法を対象とし、それぞれイオン性液体触媒又は酸-塩基塩触媒の使用を教示する。これらの開示内容は、変換の選択性を改善するために活性水素(例えば、アルコール基)を含まない高沸点溶媒の使用も提唱している。高沸点溶媒の例としては、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ジベンジルエーテル及びフタル酸ジブチルが挙げられる。しかし、フタル酸ジブチル又はフタル酸ジオクチルの使用は、それらの毒性のため複雑になるおそれがあり、本発明者らによって、これらの溶媒を使用するときポリマー形成が問題となりうることも見出された。さらに、これらの溶媒は比較的に高価でもある。
J.S. Choi et al., Journal of Catalysis, 297, 2013, pages 248 to 255(以下「Choiら」という)は、イオン性液体触媒の存在下におけるGLCからGLDへの変換に対する温度の効果についての調査結果を報告している。GLDに対する選択性を最大にするために、Choiらは、i)高沸点溶媒を使用すること;ii)GLDとイオン性液体触媒との相互作用を最小限に抑えること;及びiii)GLD生成物が形成されるとすぐにそれを取り出すこと(iii)は、Choiらにおいて反応を減圧で行うことによって達成される)を教示している。
米国特許第6,316,641号明細書には、グリセロール又はポリグリセロールなどのポリオール溶媒及びA型ゼオライト又はγ-アルミナからなる固体触媒を含む固体/液体反応系を採用したGLCからGLDへの調製方法が開示されている。ポリオール溶媒は、GLCの熱分解を防止する担体としてもカーボネート環の開環及び閉環を容易にするプロトン供与体としても作用して、GLCが触媒表面上に吸収されるとエポキシ環を形成すると言われている。GLDは、脱炭酸後にガスの形で生成され、触媒表面から放散する。
米国特許第7,868,192号明細書には、活性水素を含まず、好ましくはGLDより高い沸点を有する溶媒の存在下における脱炭酸、好ましくはルイス酸触媒の存在下で実施される脱炭酸反応にGLCを付すことによって、GLCをGLDに液相変換する方法が開示されている。脱炭酸反応は、薄膜反応器で実施することができ、その薄膜反応器はGLDが生成されたときGLDの分離を容易にする。活性水素を有さない溶媒の使用は、望ましくない副反応を抑制することによってGLDに対する選択性を改善すると言われている。
歴史的に、GLCの脱炭酸からのGLDの選択性及び収率を改善する方法に関する特許文献に相反する報告があった。例えば、上記の引用された特許文献は、異なる触媒系及び/又はプロトン供与体を含む若しくは逆に活性水素種を含まない異なる溶媒条件を様々に提唱している。しかし、先行技術で報告されているGLC脱炭酸後のGLDの収率は事実上信頼できない可能性があり、真の達成可能な収率を正確に反映していない可能性があると本発明者らは知った。特に、反応粗生成物を分析する方法は、起こった脱炭酸のレベルについての誤った印象を与えるおそれがあることが見出された。具体的には、ガスクロマトグラフィー(GC)分析を行う方法が未反応GLCの脱炭酸のレベルを上昇させ、次いで、反応混合物における脱炭酸の真の程度についての誤った印象を与えるおそれがあることが明らかになってきた。
GLD収率の決定に対するGC分析の上記影響は、最も注目すべきことにグリーンケミストリーの論文の撤回に至った:Bai. R et al., “One-pot synthesis of glycidol from dimethyl carbonate over a highly efficient and easily available solid catalyst NaAlO2”, Rongxian Bai, et al., Green Chem., 2013, 15, pages 2929-2934。公表された撤回(Green Chem., 2016, 18, page 6144)において、H NMRによる別の調査から、生成物をGCによって分析すると、高温におけるGLC分解によりグリシドールが形成されたことが明らかになったと報告された。これに基づき、NaAlO触媒は、GLYからGLCへの変換にのみ効果的であって、GLCからGLDへの変換には効果的でなかったというのが結論であった。
米国特許第2,856,413号明細書 米国特許第7,888,517号明細書 米国特許出願公開第2014/0135512号明細書 米国特許出願公開第2015/0239858号明細書 米国特許第6,316,641号明細書 米国特許第7,868,192号明細書
J.S. Choi et al., Journal of Catalysis, 297, 2013, pages 248 to 255 Bai. R et al., "One-pot synthesis of glycidol from dimethyl carbonate over a highly efficient and easily available solid catalyst NaAlO2", Rongxian Bai, et al., Green Chem., 2013, 15, pages 2929-2934 Green Chem., 2016, 18, page 6144
したがって、このような認識は、先行技術で歴史的に報告されたGLC脱炭酸の有効性に疑いをかけるものであり、かなりの数のそのような方法が工業規模で取り入れられなかった理由を説明するいくらかの役割を果たす。したがって、GLDに対する変換及び選択性を最大にし、好ましくは脱炭酸触媒の必要もなくなる、GLCをGLDに変換する代替方法が求められている状態である。
本発明は、溶媒としても働きうるあるクラスの脱炭酸促進剤の存在下に、GLCを液相中で反応させることが有利であるという驚くべき発見に基づいている。脱炭酸促進剤は、本発明の方法において複数の役割を果たす。脱炭酸を促進することに加えて、脱炭酸促進剤は、反応の溶媒、さらにGLC自己重合の阻害剤として働く。したがって、脱炭酸促進剤の使用は、GLCの変換及びGLDに対する選択性に実質的に寄与する。さらに、撹拌薄膜式蒸発器などの蒸発器の使用は、望ましくないGLD重合及び副生成物形成を最小限に抑え、それによってGLDの収率をさらに向上させるように、熱的に不安定なGLDが形成されるとそれを反応混合物から取り除くのに特によく適していることが明らかになっている。
本発明の方法は、先行技術の方法において通常依拠されている脱炭酸触媒の使用を不要にし、均一系反応混合物を使用することも可能にする。これは、反応装置の単純化及びその維持の点から利点を有し、本発明の方法を継続的に容易に操作できることも意味する。
したがって、第1の態様において、本発明は、グリセロールカーボネートの熱的脱炭酸によりグリシドールを調製する方法であって、
a)液体グリセロールカーボネートを、大気圧で少なくとも160℃の沸点を有し、脂肪族モノオール、脂肪族ポリオール、又はそれらの混合物から本質的になる脱炭酸促進剤と接触させて、液相混合物を形成するステップと、
b)ステップa)において形成された液相混合物に熱を加えて、グリセロールカーボネートの熱的脱炭酸を誘導するステップと、
c)ステップb)において形成されたグリシドールを液相混合物からグリシドールの蒸発によって分離するステップと
を含み、脱炭酸触媒の使用を含まない方法を提供する。
別の態様において、本発明は、モノオール、ポリオール、又はその混合物の、グリシドールを形成するためのグリセロールカーボネートの反応の選択性を増強するための脱炭酸促進剤としての使用を提供する。
さらなる態様において、本発明は、モノオール、ポリオール、又はその混合物の、グリシドールを形成するためのグリセロールカーボネートの熱的脱炭酸における重合阻害剤としての使用を提供する。
驚くべきことに、GLCを脱炭酸促進剤の存在下に液相反応混合物中で熱的脱炭酸し、形成されたGLDが蒸発によって分離されることによって、脱炭酸触媒の非存在下でさえ、GLD形成に対する高い変換率及び選択性を得ることができることが見出された。脱炭酸触媒、特に固体触媒が採用される場合に脱炭酸触媒を必要としないことは、反応器の設計を単純化し、共生成物であるポリグリセロールの単離及び精製を単純化し、触媒床の用意及び維持に伴う資本コストを低減し、プロセス機器の維持及び洗浄要件も低減する点から、特に有益である。
本発明者らによる実質的調査の後に、脱炭酸促進剤の存在により、有利なことに方法の脱炭酸に対する選択性が改変されることが見出された。具体的には、促進剤がグリセロールカーボネートと反応して、前駆体付加物を形成し、続いて、その前駆体付加物が、グリシドール及び二酸化炭素を形成するように脱炭酸を経ると考えられる。前駆体付加物の形成により、グリセロールカーボネートの単分子反応後に脱炭酸が促進されるが、これは脱炭酸促進剤の非存在下では広く行われていない。さらに、脱炭酸促進剤は、グリセロールカーボネートが自己重合して、ポリグリセロール又はポリ(グリセロールカーボネート)を形成するのを防止する連鎖停止剤として作用することによって重合阻害剤としても作用することが見出された。
本明細書で用いられている「脱炭酸促進剤」という用語は、脱炭酸によるGLCの反応のGLD形成に対する選択性を増強する作用剤を指すためのものである。さらに詳細には、本発明に関連して使用されている脱炭酸促進剤は、モノオール、ポリオール、又はその混合物から本質的になり、大気圧で少なくとも160℃の沸点を有する。
本明細書で用いられている「脱炭酸触媒」という用語は、特にGLCの脱炭酸反応の活性化エネルギーを下げるために使用される作用剤を指すためのものである。本発明の方法から除外される脱炭酸触媒の典型的な例としては、アルミノシリケート(例えば、ゼオライト)、アルミナ及びシリカ-アルミナ、並びにアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩などの金属塩などの固体触媒が挙げられる。
本明細書で用いられている「蒸発器」という用語は、熱交換による液体の蒸発に適応し、GLC及び脱炭酸促進剤を含む反応混合物からGLDを蒸発させることができる任意の機器を指すためのものである。本発明に関連して使用するのに適した蒸発器の例としては、流下液膜式蒸発器(falling film evaporators)、上昇液膜式蒸発器(rising film evaporators)、上昇流下液膜式蒸発器(rising-falling film evaporators)、撹拌薄膜式蒸発器(agitated thin-film evaporators)、長管式蒸発器(long-tube evaporators)、短管式蒸発器(short-tube evaporators)、回分式パン型蒸発器(batch pan evaporators)、多重効用式蒸発器(multiple-effect evaporators)、プレート型蒸発器(plate-type evaporators)(クライミング及び流下液膜式プレート型蒸発器を含む)、蒸気圧縮式蒸発器(vapour-compression evaporators)及び強制循環式蒸発器(forced circulation evaporators)が挙げられる。
好ましくは、本発明に関連して使用されている蒸発器のタイプは、上昇液膜式蒸発器、流下液膜式蒸発器、撹拌薄膜式蒸発器、及び強制循環式蒸発器であり、より好ましくは流下液膜式蒸発器、撹拌薄膜式蒸発器及び強制循環式蒸発器であり、さらにより好ましくは流下液膜式蒸発器及び撹拌薄膜式蒸発器であり、最も好ましくは撹拌薄膜式蒸発器である。これらのタイプの蒸発器は、低滞留時間及び比較的高い熱伝達係数を提供する能力を特徴とする。
本発明の方法によれば、グリシドールはグリセロールカーボネートの熱的脱炭酸により調製され、前記方法は、
a)液体グリセロールカーボネートを、大気圧で少なくとも160℃の沸点を有し、脂肪族モノオール、脂肪族ポリオール、又はそれらの混合物から本質的になる脱炭酸促進剤と接触させて、液相混合物を形成するステップと、
b)ステップa)において形成された液相混合物に熱を加えて、グリセロールカーボネートの熱的脱炭酸を誘導するステップと、
c)ステップb)において形成されたグリシドールを液相混合物からグリシドールの蒸発によって分離するステップと
を含み、脱炭酸触媒の使用を含まない。
本発明の方法において使用されている脱炭酸促進剤は、モノオール、ポリオール、若しくはその混合物から本質的になり、又はモノオール、ポリオール、若しくはその混合物からなり、少なくとも160℃の沸点を有する。驚くべきことに、本明細書に記載されているモノオール及びポリオール、並びにその組合せは、GLCの反応のGLD形成に対する選択性を増強する働きをすることが見出された。さらに、脱炭酸促進剤の存在は、GLCの脱炭酸への選択性を増強するように作用するだけでなく、望ましくないポリマー副生成物の形成が実質的に回避されるようにGLC重合阻害剤としても作用することが見出された。特に、脱炭酸促進剤は、以下にさらに詳細に論じるように望ましくない固形物形成を生じうる高分子量ポリマーの形成を防止する連鎖停止剤として作用すると考えられる。
典型的な熱的脱炭酸条件下で、以下のスキーム1に例示されるように、ポリ(グリセロールカーボネート)固体(動力学的生成物)又はポリグリセロール(熱力学的生成物)を生成するGLC自己重合の問題があることが本発明者らによって見出された。
対照的に、脱炭酸促進剤の存在下で、GLCは、スキーム2に示しているように、第一に脱炭酸促進剤により求核付加を経て、それによって環が切断され、前駆体付加物が形成され、その前駆体付加物は、方法の反応条件下で別の2分子反応に容易に関与しないと考えられる。むしろ、前駆体付加物は、スキーム2にも示されているように、内部脱離及び脱炭酸に有利に働いて、GLD及びCOを生じる。これは、エントロピー的に有利である。
本発明の方法における脱炭酸促進剤の影響をさらに調査するために、以下にスキーム3で示されているプロピレンカーボネートからのプロピレンオキシドの代替調製で、追加の実験を実施した。
認識されているように、プロピレンカーボネートの熱的脱炭酸において、グリセロールカーボネートとは対照的に、アルコール官能基が分子中に存在せず、単分子脱炭酸経路が妨げられる。本発明者らは、長期間加熱還流下にあっても、プロピレンカーボネートの熱的脱炭酸が起こることが認められないことを見出した。対照的に、本発明に従って採用されているモノオール又はポリオールの形をした脱炭酸促進剤の存在下では、プロピレンカーボネートの熱的脱炭酸が容易に起こり、脱炭酸生成物であるプロピレンオキシドが良好な収率で得られる。これは、グリセロールカーボネートなどの環式カーボネートにおける単分子熱的脱炭酸が容易に起こらないことを示唆し、脱炭酸促進剤が脱炭酸反応を促進するのに効果的であることも強調する。
したがって、本発明によるグリシドールの形成は、スキーム2に例示されているように、ポリオール及び/又はモノオールとグリセロールカーボネートとの付加物を経由して、好ましくは主として付加物を経由して起こると考えられる。これは、グリセロールカーボネートの通常の触媒脱炭酸において、ポリオール及び/又はモノオールが偶発的に溶媒として存在しうる場合でさえ事実であると予想されない。それは、脱炭酸が1又は2以上の代替触媒経路を経由して進行するように触媒が競合するものと予想されるからである。
本発明に従って使用されている脱炭酸促進剤は、大気圧下で少なくとも160℃の沸点を有する。これにより、脱炭酸促進剤は、反応の高温の結果として液相反応混合物を分解させることも液相反応混合物から容易に蒸発させることもなく脱炭酸反応に関与することができることが保証されている。好ましくは、脱炭酸促進剤は、大気圧で少なくとも180℃、より好ましくは少なくとも200℃の沸点を有する。特に好ましい実施形態において、脱炭酸促進剤の沸点は220~250℃である。
一部の実施形態において、脱炭酸促進剤は、モノオールであり、又はそれを含む。本明細書における「モノオール」への言及は、単一のヒドロキシル基(-OH)置換基を含み、水素及び炭素原子の割合が大きく、好ましくは水素、炭素及び酸素原子のみからなる飽和又は不飽和の直鎖状又は分岐状ヒドロカルビル鎖を含む脂肪族ヒドロカルビル基を指すためのものである。モノオールは、1又は2以上の飽和又は部分不飽和環(例えば、シクロアルキル及びシクロアルケニル基)を含むことができる。ヒドロキシル基(-OH)が結合している炭素原子は、sp混成軌道をとり、ヒドロキシル基(-OH)は、第一級、第二級又は第三級アルコール、好ましくは第一級アルコールとすることができる。好ましくは、ヒドロキシル基(-OH)は環の炭素原子に結合していない。モノオールは、認識されているように脱炭酸の反応物及び生成物であるグリセロールカーボネート又はグリシドールから選択されない。モノオールの例としては、10~30個の炭素原子又は12~24個の炭素原子などの2~40個の炭素原子を含む基が挙げられる。好ましくは、モノオールは、単一のヒドロキシル基(-OH)置換基を含む直鎖状及び/又は飽和のヒドロカルビル鎖である。
好ましい実施形態において、モノオールのヒドロカルビル鎖又は環の炭素原子のうちの1個又は2個以上、及びそれに結合している任意の置換基は、鎖中の2個の炭素原子に結合している(が、別の酸素原子リンカーに結合していない)酸素原子(-O-)で置き換えられている。言い換えれば、モノオールは、1又は2以上のエーテル基を含んでもよい。例えば、ヒドロカルビル鎖の1又は2以上のメチレン基(-CH-)はそれぞれ、酸素原子リンカー(-O-)で置き換えることができる。モノオールの炭素原子のうちの1個又は2個以上、及びそれに結合している任意の置換基が、酸素原子(-O-)で置き換えられている場合、好ましい例において、炭素原子のうちの50%未満、及びそれに結合している任意の置換基が-O-で置き換えられており、例えば炭素原子の10~40%又は15~30%が置き換えられている。
一部の実施形態において、モノオールは、1又は2以上のエーテル基を含み、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのモノエーテル、好ましくはモノメチル若しくはモノエチルエーテル、又はエチレングリコール及びプロピレングリコールのオリゴマーのモノエーテル、好ましくはモノメチル若しくはモノエチルエーテルから選択される。1又は2以上のエーテル基を含むモノオールの具体例としては、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル及びテトラエチレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。
他の実施形態において、モノオールの炭素原子はいずれも-O-で置き換えられていない(すなわち、モノオールはいかなるエーテル基も含まない)。
大気圧下で少なくとも160℃の沸点を有し、1又は2以上のエーテル基を含まない(すなわち、モノオールの炭素原子及びそれに結合している置換基のいずれも置き換えられていない場合)モノオールの例としては、好ましくは直鎖状及び/又は飽和状であり、典型的に分子の末端位置にヒドロキシル基を含む脂肪アルコールが挙げられる。本明細書で用いられている「脂肪アルコール」への言及は、天然油脂から少なくとも誘導可能であり、好ましくは誘導された直鎖状の飽和又は不飽和アルコールを指すためのものである。
本発明の方法で使用することができる脂肪アルコールとしては、C-C40、好ましくはC10-C30、より好ましくはC12-C24脂肪アルコールから選択されるものが挙げられる。脂肪アルコールの具体例としては、1-ノナノール、1-デカノール、1-ドデカノール、1-ヘキサデカノール、1-オクタデカノール、及び1-ノナデカノールが挙げられる。脂肪アルコールが脱炭酸促進剤として採用されている実施形態において、望むなら、溶媒/共溶媒あるいは別の脱炭酸促進剤を使用して、液相混合物における脂肪アルコールのGLCとの混和性を改善することができる。例えば、ポリエチレングリコール脱炭酸促進剤を使用して、脂肪アルコールの混和性を改善することができる。あるいは、ポリエチレングリコールジメチルエーテル又はジベンジルエーテルなどの不活性溶媒を代わりに使用することができる。
本明細書における「ポリオール」への言及は、複数のヒドロキシル基(-OH)を含み、水素及び炭素原子の割合が大きく、好ましくは水素、炭素及び酸素原子のみからなる脂肪族ヒドロカルビル基を指すためのものである。ポリオールは、飽和若しくは不飽和の直鎖状若しくは分岐状ヒドロカルビル鎖及び/又は1若しくは2以上の飽和若しくは部分不飽和環を含むことができる。複数のヒドロキシル基(-OH)のそれぞれが結合している炭素原子のそれぞれは、sp混成軌道をとり、複数のヒドロキシル基(-OH)は独立して、第一級、第二級又は第三級アルコールとすることができる。好ましくは、ポリオールは、少なくとも1種の第一級アルコールを含む。ポリオールの例としては、2~40個の炭素原子、2~30個の炭素原子、2~20個の炭素原子、2~10個、又は2~5個の炭素原子を含む基が挙げられる。一部の実施形態において、ポリオールは、2より多いヒドロキシル基、例えば3~10、3~8、又は3~6のヒドロキシル基を含む。一部の実施形態において、ポリオールは、複数のヒドロキシル基(-OH)置換基を含む直鎖状及び/又は飽和のヒドロカルビル鎖である。
好ましい実施形態において、ポリオールのヒドロカルビル鎖又は環の炭素原子のうちの1個又は2個以上、及びそれに結合している任意の置換基は、鎖中の2個の炭素原子に結合している(が、別の酸素原子リンカーに結合していない)酸素原子(-O-)で置き換えられている。言い換えれば、ポリオールは、1又は2以上のエーテル基を含んでもよい。例えば、ヒドロカルビル鎖の1又は2以上のメチレン基(-CH-)はそれぞれ、酸素原子リンカー(-O-)で置き換えることができる。炭素原子のうちの1個又は2個以上、及びそれに結合している任意の置換基が、酸素原子(-O-)で置き換えられている場合、好ましい例において、炭素原子のうちの50%未満、及びそれに結合している任意の置換基が-O-で置き換えられており、例えば炭素原子の10~40%又は15~30%が置き換えられている。
一部の実施形態において、ポリオールは、1又は2以上のエーテル基を含み、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、並びにエチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセロールのオリゴマーから選択される。本発明に従って使用されているポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールの分子量は、好ましくは200~1000ダルトン、好ましくは200~750ダルトン、より好ましくは250~500ダルトン、最も好ましくは200~400ダルトンである。
エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセロールの好ましいオリゴマーとしては、2~5の反復モノマー単位を有するものが挙げられる。そのようなオリゴマーの具体例としては、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジグリセロール、トリグリセロール、及びテトラグリセロールが挙げられる。
一部の実施形態において、ポリオールはグリセロールのオリゴマーであり、好ましくはグリセロールのオリゴマーが、2~8の反復モノマー単位、より好ましくは2~5の反復モノマー単位、最も好ましくは2又は3のモノマー単位で形成される。
他の実施形態において、ポリオールは、環式エーテル基を形成するようにエーテル基を環内に組み込んでいる。そのようなポリオールの特定の例としては、糖、例えばフルクトース、ガラクトース、グルコース、マンノース、スクロース及びキシロースが挙げられる。
他の実施形態において、ポリオールのヒドロカルビル鎖の炭素原子はいずれも-O-で置き換えられていない(すなわち、ポリオールはいかなるエーテル基も含まない)。
一部の実施形態において、ポリオールは、ビシナルポリオール、好ましくはC-C20ビシナルポリオール、より好ましくはC-C10ビシナルポリオール、最も好ましくはC-Cビシナルポリオールである。本明細書における「ビシナルポリオール」への言及は、少なくとも2のヒドロキシル基が互いにビシナル関係にある、すなわち分子中の隣接する炭素原子に結合しているポリオールを意味するためのものであり、上記の糖を含む。一部の実施形態において、ビシナルポリオールは、糖アルコールから選択される。糖アルコールとしては、グリセロール、アラビトール、ソルビトール、エリトリトール、キシリトール、マンニトール、ラクチトール及びマルチトールが挙げられるが、これらに限定されない。本発明に従って使用することができる好ましいビシナルポリオールの具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール及びエリトリトールが挙げられる。好ましいビシナルポリオールは、グリセロール及びエリトリトールから選択され、最も好ましくはビシナルポリオールはグリセロールである。
一部の実施形態において、脱炭酸促進剤は、1又は2以上のモノオール及び1又は2以上のポリオールの混合物であり、好ましくは1又は2以上のモノオールは、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのモノエーテル、好ましくはモノメチル若しくはモノエチルエーテル、又はエチレングリコール及びプロピレングリコールのオリゴマーのモノエーテル、好ましくはモノメチル若しくはモノエチルエーテルから選択され、1又は2以上のポリオールは、グリセロール又はグリセロールのオリゴマーから選択される。
別の態様において、本発明は、グリセロールカーボネートの熱的脱炭酸によりグリシドールを調製する方法であって、
a)液体グリセロールカーボネートを、大気圧で少なくとも160℃の沸点を有し、脂肪族ポリオールと組み合わされていてもよい、モノオールから本質的になる脱炭酸促進剤と接触させて、液相混合物を形成するステップであって、モノオールが、フェニル置換C-C直鎖状又は分岐状鎖アルキルヒドロキシ基である、ステップと、
b)ステップa)において形成された液相混合物に熱を加えて、グリセロールカーボネートの熱的脱炭酸を誘導するステップと、
c)ステップb)において形成されたグリシドールを液相混合物からグリシドールの蒸発によって分離するステップと
を含み、脱炭酸触媒の使用を含まない方法も提供する。
上記のさらなる態様において、「フェニル置換C-C直鎖状又は分岐状鎖のアルキルヒドロキシ基」への言及は、i)単一のヒドロキシル(-OH)基;及びii)フェニル基によって置換されているC-Cアルキル鎖を指すためのものである。ヒドロキシル基は、第一級、第二級又は第三級ヒドロキシル基、好ましくは第一級ヒドロキシル基とすることができる。
本発明のこの別の態様の好ましい実施形態において、モノオールはベンジルアルコールである。
本発明の上記の態様において、方法のステップa)における液体GLCと脱炭酸促進剤の接触は、方法のステップb)において液相混合物に熱を加えるため及び/又は方法のステップc)において蒸発を達成するための容器及び手段に応じていずれか通常の様式で行うことができる。液体GLC及び脱炭酸促進剤は、例えば別々に添加し、熱が加えられる容器内(例えば、反応器内のチャンバ)で混合することができる。あるいは、液体GLCは好ましくは、熱が加えられる容器に導入される前に脱炭酸促進剤と予混合することができる。
脱炭酸促進剤と液体GLCを、熱的脱炭酸反応においてGLDへの所望のレベルの選択性及び変換をもたらすいずれか好適な比で混合することができる。好適には、ステップa)において、液体GLCと脱炭酸促進剤を例えば、脱炭酸促進剤がグリセロールカーボネートと脱炭酸促進剤の組合せに対して5~300mol%の量で存在する液相混合物を形成するように接触させる。好ましい実施形態において、脱炭酸促進剤は5~70mol%の量で存在し、より好ましくは脱炭酸促進剤は10~40mol%の量で存在し、さらにより好ましくは脱炭酸促進剤は15~35mol%の量、最も好ましくは20~30mol%の量で存在する。
認識されているように、液相混合物の組成は、反応の過程を通じて変化する。方法が継続的に操作される場合、脱炭酸促進剤と液体GLCの比を連続的に監視することができ、反応混合物を供給する給送物の組成を、脱炭酸促進剤と液体GLCの所望の比を維持するように改変することができる。
方法のステップc)における蒸発は、いずれか好適な手段によって実施することができる。ただし、ガス状GLDを液相反応混合物から、好ましくは連続方法と適合性がある様式で分離することができることを条件とする。好ましくは、ステップc)における蒸発は、ステップb)において液相反応混合物に熱を加えるために採用されたのと同じ装置を使用して実施される。液相混合物に熱を加えること及びGLDの蒸発は、好都合なことに液体流の蒸発のために具体的に構成された機器、すなわち蒸発器において、液体GLC及び脱炭酸促進剤を導入するための1又は2以上の給送物を供給して行うことができる。
好ましい実施形態において、蒸発ステップc)より前に、反応混合物の乱流膜が形成される。乱流膜の形成は、液体GLCと脱炭酸促進剤の完全な混合を容易にし、形成されたGLDの蒸発を容易にする手段である。したがって、乱流膜の形成は、熱エネルギーを保存し、GLDの蒸発を熱敏感性様式で誘導する手段として使用することができる。
本明細書で用いられている「反応混合物の乱流膜」という用語は、非層乱流を示す反応混合物の膜を指すためのものである。乱流は、典型的にエディ、渦及び/又は他の流れ不安定性の存在を特徴とする。対照的に、層流は、滑らかで連続的な流体運動を特徴とする。乱流のとき、液体の粒子は、粒子間のエネルギー及び運動量交換速度を高め、それによって熱伝達が増強される追加の横断運動を示す。乱流は、層流より高いレイノルズ数を示すことが知られており、レイノルズ数は、流動流体の慣性力と流体の粘性力の比又は運動量の対流輸送と分子輸送の比と定義される。
層流から乱流への段階的移行が一般に起こり、レイノルズ数が1,000から4,000に増大する。4,000を超えるレイノルズ数は乱流に対応するとみなすことができ、2,000未満のレイノルズ数は層流に対応するとみなされる。2,000より高く、4,000未満のレイノルズ数は、遷移流とみなされる。好ましくは、形成された乱流膜のレイノルズ数は、5,000より高く、より好ましくは7,500より高く、さらにより好ましくは10,000より高い。
反応混合物の乱流膜は、例えば、10,000より高いレイノルズ数を提供することができる撹拌薄膜式蒸発器の使用により提供することができる。撹拌薄膜式蒸発器における流れのパターンは、蒸発器のローターアセンブリの機械的撹拌によって誘導される回転又は接線膜流と下降流又は軸流との組合せであるとみなすことができる。この場合、レイノルズ数を、さらに回転レイノルズ数(Re)と特徴づけることができ、それは、撹拌薄膜式蒸発器の場合のようにレイノルズ数基準の概念を回転/環状流まで広げる。好ましくは、撹拌薄膜式蒸発器で形成された乱流膜の回転レイノルズ数(Re)は、5,000より高く、より好ましくは7,500より高く、さらにより好ましくは10,000より高い。
撹拌薄膜式蒸発器における流れのパターンは、例えばANSYS-CFX 10.0ソフトウェアを使用して、分析することができ、回転レイノルズ数は、Pawar et al., “CFD analysis of flow pattern in the agitated thin film evaporator”, Chemical Engineering Research and Design, 2012, Volume 90, Issue 6, Pages 757-765に記載されているように決定することができ、その開示内容が参照により本明細書に組み込まれる。Ranade, V.V., “Computational Flow Modeling for Chemical Reactor Engineering”, Volume 5, 1st Edition, 2002, Academic Pressは、レイノルズ応力モデル及び乱流方法のレイノルズ数の決定に関する情報も提供し、その開示内容も参照により本明細書に組み込まれる。
本明細書で用いられている「撹拌薄膜式蒸発器」という用語は、機械的撹拌を使用し、典型的に加熱体及びローターアセンブリを備えた、乱流液膜を提供する任意の形の蒸発器を指すためのものである。本明細書で用いられている「撹拌薄膜式蒸発器」という用語は、「ワイプトフィルム蒸発器」などを包含するためのものである。撹拌薄膜式蒸発器は、例えばW. L. Hyde and W. B. Glover, “Evaporation of Difficult Products”, Chemical Processing, 1997, 60, 59-61、及びW.B.Glover, “Selecting Evaporators for Process Applications”, CEP magazine, December 2004, published by AIChEに記載されている。撹拌薄膜式蒸発器及びその中の流れのパターンの評価も、Pawar et al., “CFD analysis if flow pattern in the agitated thin film evaporator”, Chemical Engineering Research and Design, 2012, Volume 90, Issue 6, Pages 757-765に記載されている。
撹拌薄膜式蒸発器は、熱敏感性液体の分解を防止するために効率的な熱伝達及び機械的撹拌を使用して、揮発性化合物をより揮発性の低い化合物から分離するために広く使用されている。特に、これらの蒸発器のタイプは、高沸点及び温度敏感性の有機物の蒸留において広範囲にわたって使用されている。撹拌薄膜式蒸発器の利点としては、i)給送物の滞留時間が短く、熱応力が低いこと、ii)液膜の乱流が高いこと、iii)所望の凝縮液の滞留時間分布が狭いこと、iv)蒸発器内壁の膜表面の更新が速いこと、及びv)熱伝達の効率化による省エネルギーが挙げられる。
本発明に従って使用することができる撹拌薄膜式蒸発器は、垂直型又は水平型、好ましくは垂直型とすることができる。撹拌薄膜式蒸発器のローターアセンブリは、ブレードを含むことができ、その例としては、ゼロクリアランス型(通常は、「ワイプトフィルム」又は「ヒンジ付きブレード」と呼ぶ)、硬質固定クリアランス型、又はテーパードローターの場合、調節可能クリアランス型ブレード構成が挙げられる。あるいは、撹拌薄膜式蒸発器は、ワイパーを含むローターアセンブリを有することができ、その例としては、ローラーワイパー又はバネ荷重式ブロックワイパーが挙げられる。ワイパーが使用される場合、ローラーワイパーは、蒸発器内壁にわたって分布しているワイプトフィルムの一貫した厚さを提供し、均質な材料層を蒸発器全体に混合作用で提供し、高蒸発速度を促進し、底部シールを不要にし、それによって真空漏れの可能性を最小限に抑える能力のため、一般的に好ましい。撹拌薄膜式蒸発器は、LCI Corporation社(North Carolina, US)、Pfaudler社(US)、UIC GmbH社(Germany)及びPope Scientific Inc.社(Wisconsin, US)などの供給業者から入手可能である。
撹拌薄膜式蒸発器が使用されるとき、液体GLCと脱炭酸促進剤の混合物を、典型的には、混合物が回転ブレード又はワイパーによって蒸発器の内壁に均等に分布されている場所から蒸発器の入口に給送し、その後、乱流が液膜において発生し、液体を貫く最適熱流束及び気相への物質移動が可能になる。特に、ワイパー/ブレードの動きは、液膜において液体のフィレット/頭部波を生み出し、それによって乱流が生じることが知られている。フィレット/頭部波は、例えば液体の体積流量が増大し、したがって蒸発器の内壁上の膜の厚さがワイパー/ブレードと内壁の間のクリアランスの厚さを超えるにつれて、形成されうる。しかし、ローラーワイパー又はバネ荷重式ブロックワイパーは、内壁とのクリアランスを必ずしも維持するわけではなく、したがってこれらの場合における乱流は様々に生み出される可能性がある。
当業者は、撹拌薄膜式蒸発器における液体の乱流を確保するためにワイパー/ブレードと内壁の間のクリアランスを超える膜の厚さを提供するのに適した適切な体積流量を選択することができる。さらに、撹拌薄膜式蒸発器のローター速度を増大させると、一般にせん断歪速度、したがってレイノルズ回転数が増大する。したがって、撹拌薄膜式蒸発器のローター速度を調節することによって、膜における乱流を所望通りに改変することもできる。
他の実施形態において、流下液膜式蒸発器を反応のために使用して、形成されたGLDを反応混合物から分離する。流下液膜式蒸発器は、一般に垂直型又は水平型管を含み、蒸発させる流体が重力によって流体分配器から管壁に沿って連続膜として下降することを特徴とする。低質量流では、流下液膜式蒸発器における膜流は層状とすることができ、より高い質量流は、乱流膜流が発生されることを意味することができる。流下液膜式蒸発器の特定の利益は、液体の滞留時間が短く、過熱に関する要件がないことを特徴とする。そのような蒸発器のタイプを使用して、GLDをその沸点よりはるかに低い温度で蒸発させることもできる。流下液膜式蒸発器は、Sulzer社(Switzerland)やGEA社(Germany)などの供給業者から入手可能である。
他の実施形態において、上昇液膜式蒸発器を反応のために使用して、形成されたGLDを反応混合物から分離する。流下液膜式蒸発器に似た上昇液膜式蒸発器は、シェルアンドチューブ式熱交換器の形である。蒸発させている液体は、一般に底部から長管に給送され、シェル側から管の外側に凝縮する熱媒体で加熱される。上昇液膜式蒸発器の垂直型長管の設計は、管の中心部を占拠し、上昇する蒸気によって加えられた圧力で形成されている長くて薄い連続的な液膜の形成を促進する。中心部における膜及び蒸気のこの上行運動は、乱流膜の形成を促進する。そのような蒸発器のタイプを使用して、GLDをその沸点よりはるかに低い温度で蒸発させることもできる。流下液膜式蒸発器は、Rufouz Hitek Engineers Pvt.Ltd.社(India)などの供給業者から入手可能である。
他の実施形態において、強制循環式蒸発器を反応のために使用して、形成されたGLDを反応混合物から分離する。強制循環式蒸発器は、循環ポンプによる液体の循環と共に、熱交換器とフラッシュ分離ユニットの両方の使用を特徴とする。液体は、システム中を常に循環している。一般に、循環している液体は、圧力を低減してフラッシュ蒸発を誘導するフラッシュ容器に入る前に、加圧下で熱交換器との短接触時間で過熱される。強制循環式蒸発器は、GEA社(Germany)などの供給業者から入手可能である。
一般に、蒸発器が使用される場合、液体GLC及び脱炭酸促進剤を、好ましくは蒸発器に給送する前に混ぜ合わせる。一部の実施形態において、蒸発器における液体混合物中の脱炭酸促進剤の含有量を提供する又は補うために使用される給送物を、蒸発器に供給する。しかし、いずれかのリサイクルステップから得られたものなどいずれか補給の脱炭酸促進剤が提供されると、GLCを含む給送物流と予混合し、続いて蒸発器に給送することが好ましい。
液体GLC及び脱炭酸促進剤は、好ましくは蒸発器に制御した速度で供給される。液体GLC及び脱炭酸促進剤を蒸発器に給送することができる速度は、特に制限されない。しかし、GLCが蒸発器に給送される速度を制御することによって、蒸発器内部で形成されたGLDの蒸発率、並びに以上に述べたいくつかの蒸発器において形成されうる反応混合物のいずれかの液膜の厚さ及びそこで形成された乱流の程度を最適化することができる。給送流速は当然変動することがあり、又は方法の経過中に例えばGLD形成及び分離の一般的な速度に応答して改変することができ、やはり制御された流れに対応することができる。
一般に、液体GLCは、蒸発器において形成されたGLDの蒸発率以上の率で蒸発器に導入されることが好ましい。撹拌薄膜式蒸発器では、このことは、乱流が減り、それによって熱伝達及び蒸発が効率的でなくなる程度まで蒸発器の内壁上の液膜の厚さが低減する状況を回避する助けとなる。流下及び上昇液膜式蒸発器では、流速が上がると、そこで生み出された膜における乱流が増大し、得られうる熱伝達係数が高くなることを意味する。
液体GLCが蒸発器に給送される速度を制御すると、上昇/流下液膜式蒸発器又は撹拌薄膜式蒸発器の場合に、例えば液膜が連続的でもなく、内壁に適切に維持されてもいないように蒸発器が干上がるのを回避する助けにもなる。これらの蒸発器の内壁上の液膜の干上がりは、液体の乱流の形成を妨げるだけでなく、蒸発器において固体析出物の形をとるおそれがある(図1aに示す)固体状の多分岐状ポリエーテルポリオールなど副生成物の形成も悪化させる。例えば、脱炭酸促進剤の沸点がGLCより低い場合、蒸発器の干上がりは、十分に補充されることなく蒸発した脱炭酸促進剤の大部分の結果でありうる。次いで、残留している未反応のGLCは、以上に述べた脱炭酸促進剤の存在によって普通の様式では終結することができないポリオールを形成する自己重合を経るおそれがある。したがって、これによって、固体が蓄積する。蒸発器の底部から出ていく流動性の凝縮物液体がいずれも存在していないことにより、いずれの固体も蒸発器から運び出されることが防止されるが、そうでない場合は、固体の蒸発器からの運び出しが起こるおそれがあり、蒸発器内部での固体蓄積がさらに悪化する。したがって、これらの蒸発器の内壁上の一定の液膜を確保することにより、望ましくない副生成物が低減し、洗浄及び維持要件が低減する。
GLCを含む液体給送物流が蒸発器に給送される流速は、給送物質量/(反応器の表面積×時間)で表して、好適には0.001~0.250kgm-2-1の範囲でありうる。一部の実施形態において、流速は、0.005~0.050kgm-2-1、好ましくは0.008~0.015kgm-2-1である。
液体GLC及び脱炭酸促進剤を蒸発器に給送するのに適した手段はいずれも、本発明に従って使用することができる。好ましくは、ポンピング手段が、蒸発器に給送するための液相混合物を制御された様式で特定の流速でポンピングするために設けられているが、好ましくは真空下で作動するシステムと共に、好ましくは制御された流量計とも共に使用するために構成されているものである。その点では、歯車ポンプと背圧調整器/オーバーフロー弁の組合せは、この目的に特に適していることが見出された。適切な流量計制御歯車ポンプの例は、Bronkhorst UK社から入手可能なCoriolis mini-CORI-FLOW(商標)質量流量計が組み込まれたBronkhorst(登録商標)歯車ポンプである。
上述のように、撹拌薄膜式蒸発器におけるローター速度は、そこにある液膜にもたらされているせん断歪速度及び乱流のレベルに著しい影響を及ぼしうる。したがって、本発明に関連して撹拌薄膜式蒸発器が採用される場合、撹拌薄膜式蒸発器におけるローター速度は、ワイパー/ブレードにより膜において生み出されたフィレット/頭部波によって乱流がもたらされることを確保するために好適には25rpmより高い。好ましい実施形態において、撹拌薄膜式蒸発器におけるローター速度は、少なくとも50rpm、より好ましくは少なくとも100rpm、さらにより好ましくは少なくとも200rpm、さらにより好ましくは少なくとも400rpmである。他の好ましい実施形態において、ローター速度は、1500rpm未満、より好ましくは1250rpm未満、さらにより好ましくは1000rpm未満である。特に好ましい実施形態において、撹拌薄膜式蒸発器におけるローター速度は、100rpm~1000rpm、より好ましくは150~800rpm、さらにより好ましくは200~600rpm、最も好ましくは250rpm~500rpmである。
本発明の方法は、準大気圧で操作することができ、又は蒸発を容易にし、GLD蒸気を例えば溶出液流として撹拌薄膜式蒸発器から追い払うために不活性キャリヤーガス流(例えば、窒素)と一緒に、大気圧若しくは高圧で操作することができる。したがって、方法のステップb)において、形成されたガス状GLDは、真空の作用下で又は不活性ガス流によって蒸発器から流出することができる。
好ましい実施形態において、方法は準大気圧で操作される。蒸発器が採用される場合、蒸発器が操作される圧力を下げると、特定の蒸発率が達成可能でありうる温度が下がり、滞留時間を低減し、副生成物の形成を減らす助けともなりうる。例えば、本発明の方法、又は方法において採用されている蒸発器は、好適には最高で50.0kPaの絶対圧(500mbarの絶対圧)、例えば0.1kPaの絶対圧(10mbarの絶対圧)~50.0kPaの絶対圧(500mbarの絶対圧)で操作される。好ましくは、本発明の方法、又は方法において採用されている蒸発器は、20.0kPa以下の絶対圧(200mbar以下の絶対圧)、好ましくは15.0kPa以下の絶対圧(150mbar以下の絶対圧)、より好ましくは12.5kPa以下の絶対圧(125mbar以下の絶対圧)、最も好ましくは11.0kPa以下の絶対圧(110mbar以下の絶対圧)で操作される。特に好ましい圧力範囲は、0.5kPaの絶対圧(50mbarの絶対圧)~20.0kPaの絶対圧(200mbarの絶対圧)である。
当業者は、方法が操作される適切な温度範囲を、例えばGLDの所望の蒸発率及びGLDを含む流、例えば蒸発器からの溶出液としての体積流量に基づいて選択することができる。例えば、撹拌薄膜式蒸発器が採用される場合、当業者は、蒸発器温度を、例えば液体GLC流速、ワイパー/ブレードのローター速度、蒸発器が操作される圧力に応じて、さらには液体GLC給送物が予熱されるか否かにも基づいて選択することができる。一般に、適切な温度範囲は、i)流速に基づいて液膜の蒸発乾固を回避し、ii)望ましくない副生成物の形成を最小限に抑え、iii)蒸発器からのガス状GLD溶出液の望ましい体積流量を提供する、蒸発率を導く。
適切な温度及び圧力範囲は、液相反応混合物から未反応のGLC及び/又は脱炭酸促進剤がGLDと一緒に不必要に蒸発するのを最小限に抑えるように選択することもできる。未反応のGLC及び/又は脱炭酸促進剤のそのようなストリッピングを最小限に抑えることによって、粗GLD生成物流の精製は煩わしくなくなり、又はおそらく不必要にさえなる。
液体GLC及び脱炭酸促進剤の加熱は、採用されている蒸発手段(例えば、蒸発器)と適合することができるいずれか通常の手段によって行うことができる。例としては、(例えば、シェルアンドチューブ式熱交換器構成又はジャケット付き加熱システムにおける)循環蒸気又は液体熱伝達媒体の使用、バンドヒーターの使用、又はラップアラウンド型金属コイルを採用する誘導加熱システムの使用が挙げられる。好ましくは、本発明の方法の蒸発ステップc)、又は方法において採用されている蒸発器は、125℃~300℃、好ましくは190℃~275℃、より好ましくは200℃~250℃、さらにより好ましくは210℃~240℃、最も好ましくは215℃~235℃の温度で操作される。誤解を避けるために、蒸発器が採用される場合、蒸発器の操作温度は、例えば熱電対によって測定して、蒸発器の内部温度に対応するが、例えば蒸発器への入口の温度には対応しないとみなされる。
一部の実施形態において、蒸発器が採用される場合、液体GLC及び脱炭酸促進剤は、蒸発器に導入される前に予熱される。液体GLCの予熱により、GLCの粘度を低減することができ、そのポンピングが容易になり、蒸発器に関して必要とされる加熱の程度も減らすことができ、全体的にエネルギー効率を高めることができ、蒸発率も改善することができる。一部の実施形態において、液体GLCは、50℃~150℃、好ましくは65℃~135℃、より好ましくは75℃~125℃の温度に予熱される。
蒸発器が採用される場合、そこで形成されたGLD蒸気は、蒸発器から、例えば液体給送物に対して向流的に又は並流的に、出口を通って、垂直型蒸発器の場合は通常蒸発器の頂上部に向けて又は蒸発器の頂上部で取り除くことができる。典型的に、蒸発器は、通常蒸発器の底部に向けて又は蒸発器の底部に位置する、液体凝縮物(「残渣」とも呼ばれる)のための出口も備える。いずれか未反応のGLC及び脱炭酸促進剤を含む蒸発器から取り除かれた液体凝縮物/残渣を捕集する捕集容器が存在することができる。
好ましい実施形態において、蒸発器から液体凝縮物/残渣の一部分として取り除かれた未反応のGLC及び/又は脱炭酸促進剤を、蒸発器への給送物にリサイクルさせる。例えば、方法の間に未反応のGLC及び/又は脱炭酸促進剤を捕集容器から給送物流に移動させるために、ポンピング手段を設けることができる。したがって、液体GLCが反応して、GLDを形成する前に、蒸発器を何度か通過する可能性はありうる。蒸発器内部の副反応を最小限に抑えるように条件を選択することができ、脱炭酸促進剤の存在自体がGLC自己重合の有効な阻害剤であることが見出されたので、この様式で蒸発器を複数回「通過」させることは、選択性に有害であるとは考えられず、GLCの全体の変換レベルを著しく改善することができる。一部の実施形態において、蒸発器から取り除かれ、給送物に戻された未反応のGLCをリサイクルさせるために、歯車ポンプ、好ましくは流量計制御歯車ポンプが利用され、好ましくはリサイクルが継続的に操作される。
GLDの形成後に、蒸発器からのGLD蒸気を含むガス状溶出液流を、ガス状溶出液流の凝縮可能成分を凝縮させる凝縮器に通すことができる。適切な凝縮器の例としては、横断流、並流又は向流で操作することができる液冷表面凝縮器が挙げられる。非凝縮性、例えば二酸化炭素副生成物は、凝縮器の下流にある気液分離器を使用することによって分離することができる。
脱炭酸反応によって生成されたCO蒸気は、真空ポンプを通して放出し、又はCOスクラバーに給送した後、捕獲及び適正な処分のために下流プロセスに移送することができる。真空ポンプの上流にある冷却凝縮トラップを、真空ポンプに有害でありうる残留している凝縮可能ないかなる蒸気も凝縮させるために利用することもできる。
したがって、GLD液体生成物流を容器に捕集することができる。任意に、GLD生成物は、液相反応混合物からGLDと一緒にストリッピングされた可能性がある望ましくない副生成物及び/又はいかなる未反応のGLC又は脱炭酸促進剤も除去するために精製を経ることができる。好ましくは、本発明の方法によって得られたGLDの最終精製は、薄膜蒸発によって行われる。認識されているように、GLD精製の結果として得られたいかなる未反応のGLC及び脱炭酸促進剤も、望むなら蒸発器への給送物流に戻してリサイクルさせることができる。副反応の結果として生成されうる1つの副生成物はグリセロール(GLY)である。以下のスキーム4は、GLYを生成することができる可能な反応機構を示す。
別の可能性は、GLDとジグリセロールを形成するために存在することができるいずれかのGLYとの反応である。GLD生成物は、蒸留又は薄膜蒸発を使用する分離によってGLY、ジグリセロール及び未反応のGLCから単離することができる。いずれか適切な反応蒸留カラムを使用することができる。ただし、それは、所望の分離に相応したいくつかの段数(例えば、理想的段数)、例えば1~10の理想的分離段数を有することを条件とする。認識されているように、1又は2以上の分離ステップを採用して、GLD生成物の粗材料からの十分な分離を確保することもできる。以上に述べた撹拌薄膜式蒸発器はいずれも、GLD生成物の薄膜蒸発による精製のために好都合に使用することができる。分離によって単離されるいかなるグリセロールも、以下に記載されている好ましいGLC調製方法などのGLC調製方法にリサイクルさせることができる。あるいは又はさらに、グリセロールが方法において脱炭酸促進剤又はその成分として採用される場合、グリセロールを、方法の接触ステップi)に、例えば方法において採用された撹拌薄膜式蒸発器への給送物流として給送し戻すことができる。同様に、方法の粗生成物の精製後に単離されたいかなる未反応のGLCも、方法の接触ステップi)に、例えば方法において採用された撹拌薄膜式蒸発器のための給送物流としてリサイクルし戻すことができる。
本発明の方法は、少量の方の副生成物の形成のみをもたらすことが見出され、プロセス機器に損害を潜在的に与える高分子量の副生成物の生成を完全に回避することができる。以上に述べたものに加えて、本発明の少量の方の副生成物は、例えば2~5の反復モノマー単位を有するグリセロールの低分子量オリゴマーの形をとることが見出された。5の反復モノマー単位を有するグリセロールの低分子量オリゴマーの例を図1bに示す。認識されているように、この副生成物に、事実上再度目的をもたせ、反応において脱炭酸促進剤として使用することができる。グリセロールのオリゴマーは、(例えば、ポリエステルにおける)ポリマー添加剤、(ポリグリセロールエステルとしての)食品添加物、消泡剤、及び掘削流体における頁岩阻害剤としても有用である。したがって、本発明のこれらの副生成物は、独自にさらなる収入源を提供することができ、本明細書に述べた分離技法によって粗生成物混合物から単離することができる。
したがって、一部の実施形態において、本発明の方法は、少量の方の副生成物として2~8のモノマー単位、好ましくは2~5のモノマー単位を有するグリセロールのオリゴマーの形成も含む。この副生成物の収率は、1~15mol%、好ましくは1~10mol%、より好ましくは1~5mol%とすることができる。一部の実施形態において、この副生成物を、脱炭酸促進剤として使用するために脱炭酸反応にリサイクルさせる。代替実施形態において、この副生成物を、汎用化学品として利用するために粗生成物混合物から単離される。
認識されているように、本発明の方法を回分方法、又は好ましくは連続方法として行うことができる。継続的な操作は、触媒再生又は溶媒置き換えに関する要件がないことに基づいても容易になる。
有利なことには、本発明の方法によって、典型的には先行技術の方法において採用されてきた脱炭酸触媒の必要がなくなる。これは、反応器の設計を単純化し、生成物の単離及び精製を単純化し、触媒床の用意及び維持に伴う資本コストを低減し、プロセス機器の維持及び洗浄要件も低減する点から、特に有益である。したがって、本発明の利益を大いに利用するために、脱炭酸反応を触媒するための脱炭酸触媒を使用しない。好ましくは、GLC反応物を供給することができる脱炭酸促進剤以外の溶媒又は他の希釈剤を使用しない。当業者が認識するように、溶媒の使用は、不活性ガスが以上に述べたいくつかの構成のように蒸発器と共に採用される状況と異なる。溶媒が本発明において使用される場合、溶媒は活性水素を有さない不活性溶媒、例えばポリエチレングリコールジメチルエーテル又はジベンジルエーテルである。
本発明者らによって、撹拌薄膜式蒸発器などの蒸発器内部で触媒の非存在下で脱炭酸及びGLD生成物の蒸発を通常の手段によって達成する試みによって、GLDに対する選択性のレベルが不十分であることが見出された。特に、蒸発器内部で熱的脱炭酸を促進するのに必要とされた高温は、望ましくない副生成物、特に図1aに示す固体の多分岐状ポリエーテルポリオールなどのポリマー副生成物の形成を導く副反応を生じることが見出された。これらの副生成物は、蒸発器内部で、不十分な性能及び蒸発器の洗浄要件の増大を導くおそれがある固体析出物の形、並びに蒸発器から取り除かれた液体凝縮物/残渣中の混入物の形をとることができる。
対照的に、本発明に従って脱炭酸促進剤を含むことによって、非触媒方法に関連している問題を回避しながら、GLDを高収率及び高選択性で調製することができることが見出された。特に、脱炭酸促進剤の存在は、GLCの脱炭酸に対する選択性を増大するように作用するだけでなく、連鎖停止剤として作用し、それによって、グリシドールの形成に対する選択性が増大し、それによって、ポリグリセロールやポリ(グリセロールカーボネート)など望ましくないポリマー副生成物の形成が実質的に低減されることによって、GLC自己重合阻害剤としても作用することが見出された。液相において形成されたGLDを蒸発により熱敏感性様式で分離することによっても、GLD生成物に関連している分解及び/又は副生成物形成も最小限に抑えられ、方法から得られうるGLDの収率がさらに高められる。
好ましい実施形態において、本発明の方法におけるGLDの収率は、NMR、例えばH-NMRを使用して測定して、少なくとも60mol%、より好ましくは少なくとも70mol%、最も好ましくは少なくとも75mol%である。
他の好ましい実施形態において、GLC変換のレベルは、少なくとも90mol%、好ましくは少なくとも95mol%、より好ましくは少なくとも98mol%である。蒸発器が採用されている一部の実施形態において、この変換レベルは、蒸発器から得られた未反応のGLCを給送物にリサイクルさせることにより達成される。
本発明の方法において採用されているGLCは、公知方法によって調製することができる。一例として、GLCは、以下にスキームA及びBで例示するように、GLYとジアルキルカーボネート又は環式アルキレンカーボネートのエステル交換により調製することができる。
GLC反応物流の純度は、GLC変換及びGLD選択性を最大にするのに重要であると考えられる。したがって、本発明において利用されているGLC反応物流は、可能な限り高い純度を有することが好ましい。例えば、本発明の方法において使用されているGLC反応物流の純度は、少なくとも95%、より好ましくは少なくとも96%、さらにより好ましくは少なくとも97%、さらにより好ましくは少なくとも98%であり、最も好ましくは、GLC反応物流は、HPLCに基づいて測定して、少なくとも99%の純度を有することが好ましい。
本発明において使用するためのGLCは、Innospec Colorado社(US)やUBE Industries Ltd.社(Japan)などの供給業者から容易に入手可能である。典型的に、GLCを調製する方法は、グリセロールの直接カルボニル化を伴う。他のよく見られる合成経路は、ジアルキルカーボネート又は環式アルキレンカーボネートとグリセロールのエステル交換を伴う。
好ましくは、本発明の脱炭酸反応において使用されているGLCは、
(i)グリセロール反応物流と、a)80重量%より多いジアルキルカーボネートを含むジアルキルカーボネート反応物流;及び/又はb)80重量%より多い環式アルキレンカーボネートを含む環式アルキレンカーボネート反応物流を第1の反応ゾーンにおいて均質エステル交換触媒の存在下で接触及び部分反応させるステップと、
(ii)アルコールを含む副生成物流を得るために、ステップ(i)におけるジアルキルカーボネート及び/又は環式アルキレンカーボネートとグリセロールの反応より形成されたアルコール副生成物の少なくとも一部分を反応混合物から分離するステップと、
(iii)第2の反応ゾーンにおいて残留している反応物の少なくとも一部分を均質エステル交換触媒の存在下で反応させるステップと、
(iv)GLC生成物流を得るステップと
を含む方法によって調製される。
上記の方法に従ってGLCを調製する方法は、以下にスキームC及びDで例示するように、GLYとジアルキルカーボネート又は環式アルキレンカーボネートとのエステル交換反応を伴い、GLCとアルコール副生成物の形成を導く。
本発明の方法において使用するためのGLCを調製する際に、最初に、副生成物のアルコールの蓄積を、ステップ(i)における反応物流の反応後で、中間副生成物のアルコール除去ステップ(ii)より前に可能にすることが有利であることが見出された。GLY及びジアルキルカーボネート流は、普通は混和可能でなく、その結果二相の反応混合物が生じ、反応物の反応速度が制限されると考えられる。しかし、副生成物のアルコールの生成後に、反応混合物は一相となり、GLY変換の反応速度及びGLY変換の程度にとって有益であると考えられることが見出された。さらに、驚くべきことに、中間副生成物のアルコール分離ステップ(ii)を組み入れることによって、GLYからGLCへの変換を高めることが見出された。全変換は、副生成物のアルコール分離ステップ(ii)が以下に述べるように反応混合物の蒸留を伴うとき、特に有利であることも見出された。
一方、アルコール分離ステップ(ii)に続く上記方法のステップ(iii)の後続反応におけるGLCに対する選択性は、後続反応が副生成物のアルコールの連続除去と共に行われることを確保することによって増大させることができることも見出された。連続除去を反応の最終段階に組み込むことによって、GLCに対する全選択性が増大することが見出された。いかなる特定の理論にも拘泥されるものではないが、グリセロールジカーボネートの形成は、以下のスキームEに示すように、メタノール分離ステップ(ii)に続くステップ(iii)の後続反応において、より容易に起こると考えられる。
以下のスキームFに例示するように、ステップ(iii)の最終段階反応において副生成物のアルコールの連続除去を採用することによって、平衡を所望のGLCの形成の方にシフトさせることができることが見出された。
したがって、中間副生成物のアルコールの分離ステップ(ii)と、次に行われる後続反応ステップ(iii)における副生成物のアルコールの連続除去との組合せによって、GLCに対する変換と選択性の両方を最大にすることができる。
本発明において使用するためのGLCを調製する上記の好ましい方法についてさらに詳細は、国際公開第2017/125759号パンフレットに出ており、その内容は全体として参照により本明細書に組み込まれる。
本発明は、プロピレンカーボネートの熱的脱炭酸によりプロピレンオキシドを調製する方法であって、
a)液体プロピレンカーボネートを、大気圧で少なくとも160℃の沸点を有し、脂肪族モノオール、脂肪族ポリオール、又はそれらの混合物から本質的になる脱炭酸促進剤と接触させて、液相混合物を形成するステップと、
b)ステップa)において形成された液相混合物に熱を加えて、グリセロールカーボネートの熱的脱炭酸を誘導するステップと、
c)ステップb)において形成されたプロピレンオキシドを液相混合物からプロピレンオキシドの蒸発によって分離するステップと
を含み、脱炭酸触媒の使用を含まない方法も提供する。
認識されているように、例えば、脱炭酸促進剤の性質及び脱炭酸反応の条件を含めて、本発明の方法の他の態様に関連するすべての実施形態は、本発明のこのさらなる態様に同様に適用される。
次に、以下の実施例及び図を参照しながら、本発明を説明する。
多分岐状脂肪族ポリエーテルポリオールを固体副生成物として示す図である。 副生成物として生成されうるグリセロールのオリゴマーを示す図である。 本発明の方法に従ってGLCを脱炭酸して、GLDを形成することを示す概略図である。 230℃及び100mbarで操作された蒸発器中、脱炭酸促進剤(GLY)の存在下におけるGLCの熱的脱炭酸時に形成された留出液の経時的な組成分析を示すグラフである。 270℃及び大気圧(1013mbar)で操作された蒸発器中、脱炭酸促進剤(GLY)の存在下におけるGLCの熱的脱炭酸時に形成された留出液の経時的な組成分析を示すグラフである。 230℃及び様々な圧力で操作された蒸発器中、脱炭酸促進剤(GLY)の存在下におけるGLCの熱的脱炭酸時に形成された留出液の組成分析を示すグラフである。 250℃及び様々な圧力で操作された蒸発器中、脱炭酸促進剤(GLY)の存在下におけるGLCの熱的脱炭酸時に形成された留出液の組成分析を示すグラフである。 270℃及び様々な圧力で操作された蒸発器中、脱炭酸促進剤(GLY)の存在下におけるGLCの熱的脱炭酸時に形成された留出液の組成分析を示すグラフである。 100mbar及び様々な温度で操作された蒸発器中、脱炭酸促進剤(GLY)の存在下におけるGLCの熱的脱炭酸時に形成された留出液の組成分析を示すグラフである。 500mbar及び様々な温度で操作された蒸発器中、脱炭酸促進剤(GLY)の存在下におけるGLCの熱的脱炭酸時に形成された留出液の組成分析を示すグラフである。 230℃及び100mbarで操作された蒸発器中、異なる脱炭酸促進剤の存在下におけるGLCの熱的脱炭酸に基づく経時的なGLDの累積収率を示すグラフである。
図2に例示されているように、混合された液体グリセロールカーボネート(GLC)及び脱炭酸促進剤(DP)給送物流(15)を、本発明の方法に従った加熱及び形成されたグリシドール(GLD)の蒸発による分離のための撹拌薄膜式蒸発器(E1)に、例えば歯車ポンプによってポンピングすることができる(P1)。蒸発器(E1)に給送する前に、混合された液体グリセロールカーボネート(GLC)及び脱炭酸促進剤(DP)給送物流(15)を予熱器(H)によって予熱して、予熱された混合給送物流(16)を生成することができる。蒸発器(E1)は、好ましくはワイパー又はブレードを備えた垂直型及び円柱型の撹拌薄膜式蒸発器の形である。
加熱された混合された液体グリセロールカーボネート(GLC)及び脱炭酸促進剤(DP)の流(16)は、蒸発器(E1)に給送されると、ブレード/ワイパーの回転によって蒸発器(E1)の内壁に均等に分布され、その後に、膜の厚さは、乱流が発生し、液体を貫く最適熱流束及び気相への物質移動が可能になるように成長する。例えば、いくつかの構成において、液体給送物流の体積流量は、蒸発器(E1)の内壁上の膜の厚さがブレード/ワイパーと蒸発器(E1)の内壁とのクリアランスの厚さを超えるように増大し、ブレード/ワイパーの動きは、膜におけるフィレット/頭部波を生み出し、乱流が生じる。
蒸発器(E1)に給送されたグリセロールカーボネート(GLC)は、脱炭酸促進剤の存在下で熱的脱炭酸を経て、グリシドール(GLD)及び二酸化炭素を形成する。急速に形成されたグリシドール(GLD)は気相に蒸発し、真空ポンプ(V)によってもたらされる減圧下で蒸発器(E1)に入ってくる液体に向流的に又は並流的に抽出される。図6に例示するものに代わる構成において、蒸発したグリシドール(GLD)は、不活性なキャリヤーガス(例えば、窒素)を使用して、蒸発器(E1)から押し出すことができる。不揮発性材料及び未反応のグリセロールカーボネート(GLC)を含む液体溶出液流(17)も、蒸発器(E1)から抽出され、捕集容器(107)に捕集することができる。捕集容器(107)中の未反応のグリセロールカーボネート(GLC)は、好ましくは歯車ポンプであるポンプ(P2)によって液体グリセロールカーボネート給送物流(15)にリサイクルさせることができる。
蒸発器(E1)からのガス状のグリシドール(GLD)溶出液流(18)を、続いて、凝縮可能な蒸気、主にグリシドール生成物を凝縮させる凝縮器(108)に通して、混合ガス-液体流(19)を形成し、続いて気液分離器(109)に給送する。ガス状の部分は主に二酸化炭素であり、それを流れ(20)として分離器(109)から取り除き、冷却凝縮トラップ(111)に通して、下流に位置する真空ポンプ(V)に有害でありうる残留している凝縮可能ないかなる蒸気も凝縮させる。二酸化炭素廃棄流(22)は、続いて捕獲及び適正な処分のための下流プロセスに移送することができる。
粗グリシドール生成物に対応する液体流(21)は、分離器(109)から取り除かれ、容器(110)に貯蔵される。容器(110)中の粗グリシドール生成物を蒸留カラム又は別の撹拌薄膜式蒸発器にかけて、さらに精製することができる。精製後に単離されたグリセロールカーボネート(GLC)又は脱炭酸促進剤の不純物はいずれも、給送物流(15)にリサイクルし戻すこともできる。
[実施例]
流の分析
留出液流は、H NMR分光法によって分析し、残渣は、屈折率検出器を使用してHPLCによって分析した。使用したNMR溶媒は、D-DMSOであり、アセトニトリルを内部標準として用いた。HPLCのために使用された固定相は、有機酸カラム(Phenomenex社、Rezex ROA-Organic Acids H+)であり、移動相は、7.5%アセトニトリル、0.5mM HSO水溶液であり、エチレングリコールを内部標準として採用した。
ワイプトフィルム蒸発器を用い、残渣のリサイクルを行う熱的脱炭酸
ステンレス鋼バンドクランプヒーターを使用して、UIC DSL-5ワイプトフィルムガラス蒸発器を230℃の温度に加熱し、システムを100mbarの圧力で維持するように操作した真空ポンプに向流出口によって連結し、真空ポンプの前に冷却トラップを配置して、生成物の損失を除いた。蒸発器の残渣出口に、蒸発器の底部から残渣液体を除去するために歯車ポンプ及び背圧調整器を装備し、蒸発器の頂上部の蒸気出口を蛇管凝縮器及び受液容器に連結し、液体給送物に向流的に蒸発器からの蒸気を給送した。受液容器は、出口歯車ポンプ及び背圧調整器弁も含むものであった。
脱炭酸促進剤(GLY)及びGLC(3.3kg)をモル比75:25で混合し、ポンプを使用して、給送容器から蒸発器の頂上部に近似速度1.2kg/時で給送し、蒸発器のローター速度を400RPMに設定した。歯車ポンプを使用して、残渣捕集容器から蒸発器用の給送容器に直接ポンピングすることによって、残渣捕集容器中の残渣の給送容器への連続的リサイクルを採用した。脱炭酸促進剤(GLY)の別個の供給も、脱炭酸促進剤の蒸発による蒸発器からの損失に適応するように給送容器に180g/時の速度で連続的に加えた。
受液容器に得られた留出液の組成を実験の過程を通して繰り返し測定した。その結果を図3に示す。結果は、約60mol%のグリシドール濃度が実験の過程を通して維持され、残留している成分は、液相反応混合物からGLDと共に蒸発した未反応のGLC及び脱炭酸促進剤(GLY)であったことを示している。固体副生成物は蒸発器において形成されず、変換されたGLCに対するグリシドールの全収率は、触媒の使用なしで73.9%であった。
ワイプトフィルム蒸発器を用い、残渣のリサイクルを行う熱的脱炭酸
蒸発器を270℃の温度に加熱し、大気圧(1013mbar)で操作し、補給の脱炭酸促進剤(GLY)の給送容器への添加速度は、脱炭酸促進剤の蒸発による蒸発器からの損失に適応するように120g/時の速度であったという点を除いて、実施例1による実験を繰り返した。
受液容器に得られた留出液の組成を、実施例1と同様にして実験の過程を通して繰り返し測定した。その結果を図4に示す。結果は、約80mol%のグリシドール濃度が実験の過程を通して維持され、少量の未反応のGLC及び脱炭酸促進剤(GLY)のみが留出液に含まれていたことを示している。図4は、蒸発器における蒸発率を全給送物の一部としても示す。その図から分かるように、蒸発率は実験の過程を通してゆっくりと上昇し、下降する。この観察結果に対する1つの説明は、経時的に、GLC-脱炭酸促進剤前駆体付加物の量が増大し、これが蓄積するにつれて、グリシドール生成及び蒸発の速度も増大し、その後に付加物の量が脱炭酸後に低減して、GLDが形成されるとき低減するということである。
ワイプトフィルム蒸発器を用い、残渣のリサイクルを行わない熱的脱炭酸
蒸発器温度(230、250及び270℃)と圧力(100、250、350及び500mbar)の異なるいくつかの組合せを一連の実験で残渣のリサイクルを行わずに試験したという点を除いて、実施例1による実験を繰り返した。留出液の組成を、異なる実験のそれぞれにおいて、及び蒸発器を1回だけ通過した後に評価して、GLD形成の程度並びに未反応のGLC及び脱炭酸促進剤の液相混合物からの蒸発の程度を決定した。
図5~7は、異なる試験圧力にわたって特定の蒸発器温度に対する留出液の組成分析の結果を示す。蒸発器の試験温度のそれぞれにおいて、GLD収率の改善が、蒸発器の圧力を100mbarから500mbarに増大することから見られる。結果は、より低い温度で、脱炭酸促進剤(GLY)及びGLCの蒸留速度が、より高い温度でよりも圧力に敏感であることも示している。例えば、230℃の蒸発器温度(図5)で、蒸留された脱炭酸促進剤(GLY)の量は、圧力を100mbarから500mbarに増大させると27%から7%に低下する。対照的に、270℃の蒸発器温度(図7)で、蒸留された脱炭酸促進剤(GLY)の量は、同じ圧力範囲にわたって3%しか低下しない。270℃の蒸発器温度で、蒸発率は、100~250mbarの蒸発器圧力も使用された低圧の場合に非常に高いことも観察され、蒸発器において望ましくない副生成物固体の形成がいくらか認められた。
230℃及び250℃の蒸発器温度での実験の蒸発率(図5及び6)も、それらの実験時に記録した。蒸発率の全体的な低下を、システムの圧力が増大するにつれて見ることができる。例えば、230℃で、蒸発率は、100mbarから500mbarになるにつれて12%から6%に低下する。残渣の分析から、残渣中に10~15mol%のGLDが存在することが示され、これらの条件下では、液膜において形成されたGLDのすべてが蒸発したわけではないことが示唆された。これは、i)蒸発器の長さに沿って温度勾配が存在し、GLD生成の蒸発器の底部への速度が高くなり、残渣液体で抽出する前の蒸発の時間が不十分であること;及びii)液膜に脱炭酸促進剤及び副生成物が存在している結果として、蒸発に物質移動限界があることに起因しうる。
これらの実験から、GLDの良好な収率レベルが広範囲の温度及び圧力にわたって達成可能であること、GLDの収率がさらに改善されるようにシステム条件を容易に改変できることが示されている。これらの実験は、蒸発器を1回だけ通過させて実施したので、収率は、残渣リサイクルを含めることによってもさらに高められるものと予想される。形成されたGLC-脱炭酸促進剤付加物のより大量の脱炭酸が、典型的には2回目の蒸発器「通過」において観察される。
ワイプトフィルム蒸発器を用い、給送速度を下げた熱的脱炭酸
蒸発器温度(200、210及び220℃)と圧力(100mbar及び500mbar)の異なるいくつかの組合せを一連の実験で試験し、給送流速を0.3kg/時に下げ、実験を残渣のリサイクルなしで行ったという点を除いて、実施例1による実験を繰り返した。留出液の組成を、蒸発器を1回だけ「通過」した後に、異なる実験のそれぞれにおいて評価して、GLD形成の程度並びに未反応のGLC及び脱炭酸促進剤の液相混合物からの蒸発の程度を決定した。
図8及び9は、蒸発器を1回だけ「通過」した後の、異なる試験温度にわたって特定の蒸発器圧力(それぞれ100mbar及び500mbar)に対する留出液の組成分析の結果を示す。望ましくないGLC蒸発は、これらの実験において実質的に低減した。蒸発器の温度を230℃(実施例3)から220℃に、給送流速を1.2kg/時(実施例3)から0.3kg/時に変更することによって、留出液中のGLCの組成は、12mol%から3mol%に低減した。したがって、これらの実験から、GLDの良好な収率レベルが、異なる給送流速及び蒸発器温度にわたって達成可能であること、GLDの収率がさらに改善されるようにシステム条件を容易に改変できることが示されている。
異なる脱炭酸促進剤を使用し、ワイプトフィルム蒸発器を用い、残渣のリサイクルを行う回分方法
異なるいくつかの脱炭酸促進剤を75:25の(GLC:脱炭酸促進剤)モル比で混合し、GLC源に5mol%のグリセロール混入物が含まれているという点を除いて、実施例1による実験を繰り返した。さらに、さらなる留出液が捕集されない又は蒸発器における固形形成が明らかであるような回数になるまで、給送物容器からのGLC反応物のすべてを蒸発器に通過させるごとに、蒸発器をさらに「通過」させるために給送物容器にリサイクルし戻す前に、蒸発器からの凝縮物残渣を捕集した。初期の液相反応における脱炭酸促進剤(GLY)の量を15mol%(GLC:GLY、85:15)に低減する別の実験も実施した。結果を以下の表1及び図10に示す。いくらかの固体形成が、ポリエチレングリコール-400及びポリプロピレングリコール-400について顕著であった。これは、これら脱炭酸促進剤のより高い分子量に起因しうることであり、低蒸発率を採択することによって、そのような固体形成を低減することができる。
上記の結果は、本発明による異なる脱炭酸促進剤が、いかなる触媒も存在しない状態で同様のGLD全収率をもたらすことができることを示している。液相混合物の組成をその中の脱炭酸促進剤の量が低減されるように変更する(「グリセロール(75:25)」対「グリセロール(85:15)」)と、初期のGLD形成速度が低減されることを図10に示す。しかし、蒸発器の「通過」回数が増加するものの、同様のGLD全収率が達成されることが示されている。

Claims (19)

  1. a)液体グリセロールカーボネートを、大気圧で少なくとも160℃の沸点を有し、脂肪族モノオール、脂肪族ポリオール、又はそれらの混合物からなる脱炭酸促進剤と接触させて、液相混合物を形成するステップと;
    b)ステップa)において形成された前記液相混合物に熱を加えて、前記グリセロールカーボネートの熱的脱炭酸を誘導するステップと;
    c)ステップb)において形成されたグリシドールを前記液相混合物からグリシドールの蒸発によって分離するステップと;
    を含み、脱炭酸触媒の使用を含まない、グリセロールカーボネートの熱的脱炭酸によりグリシドールを調製する方法であって、前記脱炭酸促進剤が、脱炭酸によるグリセロールカーボネートの反応のグリシドール形成に対する選択性を増強する作用剤を指す、前記方法。
  2. 脂肪族モノオール及び/又は脂肪族ポリオールが非環式である、請求項1に記載の方法。
  3. 脂肪族ポリオールが非環式であり、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、並びにエチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセロールのオリゴマーから選択される、請求項2に記載の方法。
  4. 脂肪族ポリオールが、ビシナルポリオールである、請求項1に記載の方法。
  5. 脂肪族モノオールが、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのモノエーテル、又はエチレングリコール及びプロピレングリコールのオリゴマーのモノエーテルから選択される、請求項1に記載の方法。
  6. 脱炭酸促進剤が、脂肪族モノオールと脂肪族ポリオールの混合物である;又は脱炭酸促進剤が、脂肪族モノオール、脂肪族ポリオール、又はその混合物からなる、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
  7. a)液体グリセロールカーボネートを、大気圧で少なくとも160℃の沸点を有し、脂肪族ポリオールと組み合わされていてもよい、脂肪族モノオールからなる脱炭酸促進剤と接触させて、液相混合物を形成するステップであって、前記脂肪族モノオールが、フェニル置換C-C直鎖状又は分岐状鎖アルキルヒドロキシ基である、ステップと、
    b)ステップa)において形成された前記液相混合物に熱を加えて、前記グリセロールカーボネートの熱的脱炭酸を誘導するステップと、
    c)ステップb)において形成されたグリシドールを前記液相混合物からグリシドールの蒸発によって分離するステップと
    を含み、脱炭酸触媒の使用を含まない、グリセロールカーボネートの熱的脱炭酸によりグリシドールを調製する方法であって、前記脱炭酸促進剤が、脱炭酸によるグリセロールカーボネートの反応のグリシドール形成に対する選択性を増強する作用剤を指す、前記方法。
  8. 脂肪族ポリオールが、脂肪族モノオールと組み合わされて存在し、前記脂肪族ポリオールが、請求項2~4のいずれかに記載されている通りである、請求項7に記載の方法。
  9. 脱炭酸促進剤が、大気圧で少なくとも180℃の沸点を有する;及び/又は
    ステップa)において形成された液体混合物中に、前記脱炭酸促進剤がグリセロールカーボネートと脱炭酸促進剤の組合せに対して5~70mol%の量で存在する、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
  10. 液体反応混合物の乱流膜を形成するステップをさらに含む、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
  11. 請求項1~10のいずれかに記載の方法であって、
    混合物が、125℃~300℃の温度に加熱される、及び/又は
    i.前記方法が準大気圧下で行われるか;若しくは
    ii.ステップc)における蒸発が、不活性ガス流によって促進される、前記方法。
  12. ステップb)における加熱及びステップc)におけるグリシドールの蒸発が、液体グリセロールカーボネート及び脱炭酸促進剤を導入するための1又は2以上の給送物が供給されている蒸発器中で行われる;及び/又は、液体グリセロールカーボネートを含む給送物が、前記蒸発器に給送される前に予熱される、請求項1~11のいずれかに記載の方法。
  13. 蒸発器における液体混合物中の脱炭酸促進剤の含有量を提供する又は補うために使用される給送物を、前記蒸発器に供給する、及び/又は前記蒸発器が、流下液膜式蒸発器、上昇液膜式蒸発器、上昇流下液膜式蒸発器、撹拌薄膜式蒸発器、長管式蒸発器、短管式蒸発器、回分式パン型蒸発器、多重効用式蒸発器、プレート型蒸発器、蒸気圧縮式蒸発器、又は強制循環式蒸発器である、請求項12に記載の方法。
  14. 以下のi~iii:
    i.グリセロールカーボネート及び脱炭酸促進剤が給送される前に、蒸発器が予熱され
    る;及び/又は
    ii.液体グリセロールカーボネートが、制御された流速で蒸発器に導入される;及び/又は
    iii.蒸発器が、前記蒸発器からの凝縮物流の出口を備え、方法が、前記凝縮物流中に存在するグリセロールカーボネート及び/又は脱炭酸促進剤を前記蒸発器への給送物にリサイクルするステップをさらに含む、
    の1又は2以上によってさらに特徴づけられる、請求項12又は13に記載の方法。
  15. グリセロールのオリゴマーが、方法の微量な副生成物として形成され、前記方法が、前記副生成物であるグリセロールのオリゴマーを前記方法における脱炭酸促進剤として使用するステップをさらに含む;及び/又は
    凝縮物流のための捕集容器から蒸発器への給送物に導くことによって、グリセロールカーボネート及び/若しくは脱炭酸促進剤をリサイクルするために、並びに/又は副生成物であるグリセロールのオリゴマーを使用するために歯車ポンプを使用する、請求項12~14のいずれかに記載の方法。
  16. ステップc)において得られたグリシドール含有蒸気を凝縮するステップをさらに含む;及び/又は
    未反応のグリセロールカーボネート及び/若しくは脱炭酸促進剤並びに/又は副生成物であるグリセロールのオリゴマーを凝縮生成物から蒸留又は薄膜蒸発精製によって回収するステップをさらに含む、請求項1~15のいずれかに記載の方法。
  17. 以下のi~iv:
    i.連続した方法として操作される;及び/又は
    ii.グリシドールの形成が、脂肪族ポリオール及び/若しくは脂肪族モノオールとグリセロールカーボネートの付加物を介して行われる;及び/又は
    iii.グリシドールの収率が、NMRによって測定して少なくとも60mol%である;及び/又は
    iv.グリセロールのオリゴマーが、方法の微量な副生成物として形成され、前記グリセロールのオリゴマーの収率が、NMRによって測定してグリセロールカーボネートに対して1~15mol%である、
    の1又は2以上によってさらに特徴づけられる、請求項1~16のいずれかに記載の方法。
  18. グリシドールを形成するためにグリセロールカーボネートの反応の選択性を増強するための脱炭酸促進剤としての、請求項1又は7に記載の脂肪族モノオール、脂肪族ポリオール、又はその混合物の使用であって、グリシドールを形成するためのグリセロールカーボネートの反応が、脱炭酸触媒の使用を含まない、前記使用。
  19. グリシドールを形成するためのグリセロールカーボネートの熱的脱炭酸における重合阻害剤としての、請求項1又は7に記載の脂肪族モノオール、脂肪族ポリオール、又はその混合物の使用であって、グリシドールを形成するためのグリセロールカーボネートの前記熱的脱炭酸が脱炭酸触媒の使用を含まない、前記使用。
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