(実施形態1)
(1)概要
以下、本実施形態に係る波動歯車装置1の概要について、図1A~図5を参照して説明する。本開示で参照する図面は、いずれも模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。例えば、図2A~図3Bにおける、内歯21及び外歯31の歯形、寸法及び歯数等は、いずれも説明のために模式的に表しているに過ぎず、図示されている形状に限定する趣旨ではない。
本実施形態に係る波動歯車装置1は、剛性内歯歯車2と、可撓性外歯歯車3と、波動発生器4と、を備える歯車装置である。この波動歯車装置1は、環状の剛性内歯歯車2の内側に、環状の可撓性外歯歯車3が配置され、さらに、可撓性外歯歯車3の内側には波動発生器4が配置される。波動発生器4は、可撓性外歯歯車3を非円形状に撓ませることにより、剛性内歯歯車2の内歯21に対して可撓性外歯歯車3の外歯31を部分的に噛み合わせる。波動発生器4が回転すると、内歯21と外歯31との噛み合い位置が、剛性内歯歯車2の円周方向に移動し、可撓性外歯歯車3を剛性内歯歯車2との歯数差に応じた相対回転が両歯車(剛性内歯歯車2及び可撓性外歯歯車3)の間に発生する。ここで、剛性内歯歯車2が固定されているとすれば、両歯車の相対回転に伴って、可撓性外歯歯車3が回転することになる。その結果、可撓性外歯歯車3からは、両歯車の歯数差に応じて、比較的高い減速比で減速された回転出力が得られる。
また、可撓性外歯歯車3に撓みを生じさせる波動発生器4は、入力側の回転軸Ax1(図1A参照)を中心に回転駆動される非円形状のカム41と、ベアリング42と、を有している。ベアリング42は、カム41の外周面411と可撓性外歯歯車3の内周面301との間に配置される。ベアリング42の内輪422は、カム41の外周面411に固定され、ベアリング42の外輪421は、ボール状の転動体423を介して、カム41に押されて弾性変形する。ここで、転動体423が転がることで外輪421は内輪422に対して相対的に回転可能であるので、非円形状のカム41が回転すると、内輪422の回転は外輪421には伝わらず、カム41に押された可撓性外歯歯車3の外歯31には、波動運動が発生する。外歯31の波動運動が発生することで、上述したように内歯21と外歯31との噛み合い位置が剛性内歯歯車2の円周方向に移動し、可撓性外歯歯車3を剛性内歯歯車2との間に相対回転が発生する。
要するに、この種の波動歯車装置1においては、ベアリング42を有する波動発生器4が可撓性外歯歯車3を撓ませながら、内歯21と外歯31との噛み合いによる動力の伝達が実現される。
この種の波動歯車装置1では、特に、長期間の使用になれば、可撓性外歯歯車3の内側にはめ込まれた波動発生器4の回転に伴い、可撓性外歯歯車3と波動発生器4との接触部位にフレッティング摩耗(fretting wear)が発生し得る。フレッティング摩耗が生じると、表面の荒れ、摩耗粉による錆の発生、及び摩耗粉が波動発生器4の内側に進入することによる波動発生器4(のベアリング42)の損傷等につながり、波動歯車装置1の信頼性に影響する可能性がある。
一例として、表面の荒れ、又は錆の発生により、可撓性外歯歯車3の変形追随性が阻害されると、波動発生器4の回転に余分なエネルギーが必要となって、動力伝達効率の低下、又はベアリング42に掛かる荷重が増加することによる寿命の短縮等につながる。また、摩耗粉がベアリング42に入り込むと、ベアリング42の外輪421又は内輪422と転動体423との間への摩耗粉の噛み込みによる圧痕を起点に、外輪421、内輪422及び転動体423のいずれかの表面に損傷が生じ得る。このような損傷(表面起点型のフレーキング)は、波動歯車装置1の品質及び特性等の劣化につながるため、結果的に、波動歯車装置1の信頼性の低下につながる。そこで、本実施形態に係る波動歯車装置1は、以下の構成により、フレッティング摩耗の発生を抑制し、信頼性の低下を生じにくくする。
すなわち、本実施形態に係る波動歯車装置1は、図1A~図3Bに示すように、内歯21を有する環状の剛性内歯歯車2と、外歯31を有する環状の可撓性外歯歯車3と、波動発生器4と、を備えている。可撓性外歯歯車3は、剛性内歯歯車2の内側に配置される。波動発生器4は、可撓性外歯歯車3の内側に配置され、可撓性外歯歯車3に撓みを生じさせる。波動発生器4は、回転軸Ax1を中心に回転駆動される非円形状のカム41、及びカム41の外側に装着されるベアリング42を有する。波動歯車装置1は、カム41の回転に伴って可撓性外歯歯車3を変形させ、外歯31の一部を内歯21の一部に噛み合わせて、可撓性外歯歯車3を剛性内歯歯車2との歯数差に応じて剛性内歯歯車2に対して相対的に回転させる。ここで、図5に示すように、可撓性外歯歯車3の内周面301のうち、外歯31の裏側に位置する第1領域R1は、第1領域R1以外の第2領域R2に比べて表面粗さが小さい。
この態様によれば、可撓性外歯歯車3におけるベアリング42との接触部位が、潤滑剤Lb1(図4参照)にて覆われた状態を維持しやすい表面状態となる。要するに、可撓性外歯歯車3の内周面301のうちベアリング42が押し付けられる外歯31の裏側部位に、他よりも表面粗さの小さい第1領域R1が設けられるので、この部位が潤滑剤Lb1にて覆われた状態を維持しやすくなる。
つまり、本実施形態に係る波動歯車装置1は、外輪421と可撓性外歯歯車3との接触部位において潤滑剤Lb1が不足又は枯渇する「潤滑剤切れ」を防止することにより、フレッティング摩耗の発生を抑制する。さらに言えば、第2領域R2に比べて表面粗さが小さい第1領域R1を、可撓性外歯歯車3の内周面301のうちの外歯31の裏側に設けることにより、可撓性外歯歯車3と波動発生器4との接触部位に十分な潤滑剤Lb1を維持する。その結果、可撓性外歯歯車3におけるベアリング42(の外輪421)との接触部位の表面は潤滑剤Lb1で覆われた状態となり、フレッティング摩耗の発生が抑制される。よって、本実施形態に係る波動歯車装置1では、ベアリング42(の外輪421)と可撓性外歯歯車3との間のフレッティング摩耗に起因する不具合が生じにくくなり、信頼性の低下が生じにくい波動歯車装置1を提供可能である。そして、本実施形態に係る波動歯車装置1は、特に長期間の使用に際しても信頼性の低下が生じにくいため、ひいては、波動歯車装置1の伝達効率の改善、長寿命化、及び高性能化にもつながる。
また、この種の波動歯車装置1では、楕円形(非円形状)に撓められた可撓性外歯歯車3の長軸方向の両端に位置する外歯31が、剛性内歯歯車2の内歯21に対して楔のように押し付けられることによって、外歯31と内歯21とが噛み合って回転出力が得られる。そのため、特に外歯31と内歯21との接触部位においては、外歯31が内歯21に押し付けられた状態で、外歯31と内歯21とが擦れ合うことになる。そのため、外歯31と内歯21との接触部位では、摩擦による損失が生じ、表面の荒れ、摩耗粉による錆の発生、及び摩耗粉が波動発生器4の内側に進入することによる波動発生器4の損傷等につながり、波動歯車装置1の信頼性に影響する可能性がある。
すなわち、外歯31と内歯21との摩擦による損失、又は、表面の荒れ、若しくは錆の発生により、可撓性外歯歯車3の変形追随性が阻害されると、波動発生器4の回転に余分なエネルギーが必要となって、動力伝達効率の低下につながる。そこで、本実施形態に係る波動歯車装置1は、以下の構成により、外歯31と内歯21との摩擦を低減することで、動力伝達効率の低下を生じにくくする。
本実施形態に係る波動歯車装置1では、図2Bに示すように、外歯31と内歯21との少なくとも一方は転圧面300を含む。転圧面300は、切削加工のように金属の結晶粒をせん断する加工ではなく、金属の結晶粒をせん断しない加工(転圧加工)によって形成される。そのため、外歯31と内歯21との少なくとも一方に含まれる転圧面300は、金属の結晶粒がせん断されていない、滑らかな表面状態となる。
この態様によれば、外歯31と内歯21との摩擦が低減されるので、外歯31と内歯21との摩擦による損失が低減されて、波動歯車装置1の動力伝達効率の低下が生じにくくなる。また、摩擦による表面の荒れ、若しくは錆の発生が抑制されるため、可撓性外歯歯車3の変形追随性も阻害されにくくなり、波動発生器4の回転に余分なエネルギーが必要となりにくく、動力伝達効率の低下の抑制につながる。結果的に、動力伝達効率の低下が生じにくい波動歯車装置1を提供できる。
ところで、転圧面300は、外歯31と内歯21との少なくとも一方に設けられていればよい。本開示において、外歯31と内歯21とのそれぞれに設けられる転圧面を区別する場合には、外歯31に設けられる転圧面300を「第1転圧面」と呼び、内歯21に設けられる転圧面200(図18A参照)を「第2転圧面」と呼ぶ。本実施形態では一例として、転圧面300は、外歯31と内歯21とのうち外歯31のみに設けられている。言い換えれば、本実施形態では、転圧面300は、外歯31に設けられた「第1転圧面」を含む。一方、内歯21側の転圧面(第2転圧面)については、実施形態2にて説明する。
また、本実施形態に係る波動歯車装置1は、図4に示すように、駆動源101及び出力部102と共に、アクチュエータ100を構成する。言い換えれば、本実施形態に係るアクチュエータ100は、波動歯車装置1と、駆動源101と、出力部102と、を備えている。駆動源101は、波動発生器4を回転させる。出力部102は、剛性内歯歯車2及び可撓性外歯歯車3のいずれか一方の回転力を出力として取り出す。
また、本実施形態に係る波動歯車装置1は、図4に示すように、第1部材131及び第2部材132と共に、ロボット用関節装置130を構成する。言い換えれば、本実施形態に係るロボット用関節装置130は、波動歯車装置1と、第1部材131と、第2部材132と、を備えている。第1部材131は、剛性内歯歯車2に固定される。第2部材132は、可撓性外歯歯車3に固定される。これにより、波動歯車装置1において可撓性外歯歯車3を剛性内歯歯車2との間に相対回転が発生することで、ロボット用関節装置130における第1部材131と第2部材132とが相対回転することになる。
本実施形態に係るロボット用関節装置130によれば、波動歯車装置1の信頼性の低下が生じにくい、という利点がある。また、本実施形態に係るロボット用関節装置130によれば、動力伝達効率の低下が生じにくい、という利点がある。
(2)定義
本開示でいう「環状」は、少なくとも平面視において、内側に囲まれた空間(領域)を形成する輪(わ)のような形状を意味し、平面視において真円とある円形状(円環状)に限らず、例えば、楕円形状及び多角形状等であってもよい。さらに、例えば、カップ状の可撓性外歯歯車3のように底部322を有するような形状であっても、その胴部321が環状であれば、「環状」の可撓性外歯歯車3という。
本開示でいう「剛性」は、物体に外力が加わり物体が変形しようとするとき、物体がその変形に抵抗する性質のことを意味する。言い換えれば、剛性を持つ物体は、外力が加わっても変形しにくい。また、本開示でいう「可撓性」は、物体に外力が加わったときに、物体が弾性変形する(撓む)性質のことを意味する。言い換えれば、可撓性を持つ物体は、外力が加わったときに弾性変形しやすい。したがって、「剛性」と「可撓性」とは相反する意味である。
特に、本開示においては、剛性内歯歯車2の「剛性」と、可撓性外歯歯車3の「可撓性」とは、相対的な意味で用いている。すなわち、剛性内歯歯車2の「剛性」は、少なくとも可撓性外歯歯車3に比較して相対的に、剛性内歯歯車2が高い剛性を持つ、つまり外力が加わっても変形しにくいことを意味する。同様に、可撓性外歯歯車3の「可撓性」は、少なくとも剛性内歯歯車2に比較して相対的に、可撓性外歯歯車3が高い可撓性を持つ、つまり外力が加わったときに弾性変形しやすいことを意味する。
また、本開示では、回転軸Ax1の一方側(図1Aの右側)を「入力側」といい、回転軸Ax1の他方側(図1Aの左側)を「出力側」という場合がある。つまり、図1Aの例では、可撓性外歯歯車3は、回転軸Ax1の「入力側」に開口面35を有している。ただし、「入力側」及び「出力側」は、説明のために付しているラベルに過ぎず、波動歯車装置1から見た、入力及び出力の位置関係を限定する趣旨ではない。
本開示でいう「非円形状」とは、真円ではない形状を意味し、例えば、楕円形状及び長円形状等を含む。本実施形態では一例として、波動発生器4の非円形状のカム41は、楕円形状であることとする。つまり、本実施形態では、波動発生器4は、可撓性外歯歯車3を楕円形状に撓ませることになる。
本開示でいう「楕円形状」は、真円が押し潰されて、互いに直交する長軸と短軸との交点が中心に位置するような形状全般を意味し、一平面上のある2定点からの距離の和が一定である点の集合からなる曲線である数学的な「楕円」に限らない。つまり、本実施形態におけるカム41は、数学的な「楕円」のように一平面上のある2定点からの距離の和が一定である点の集合からなる曲線状であってもよいし、数学的な「楕円」ではなく長円のような楕円形状であってもよい。上述したように、本開示で参照する図面は、いずれも模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。そのため、例えば、図2Aでは、波動発生器4のカム41の形状を、やや大げさな楕円形状としているが、実際のカム41の形状を限定する趣旨ではない。
本開示でいう「回転軸」は、回転体の回転運動の中心となる仮想的な軸(直線)を意味する。つまり、回転軸Ax1は、実体を伴わない仮想軸である。波動発生器4は、回転軸Ax1を中心として回転運動を行う。
本開示でいう「内歯」及び「外歯」は、それぞれ単体の「歯」ではなく、複数の「歯」の集合(群)を意味する。つまり、剛性内歯歯車2の内歯21は、剛性内歯歯車2の内周面に形成された複数の歯の集合からなる。同様に、可撓性外歯歯車3の外歯31は、可撓性外歯歯車3の外周面に形成された複数の歯の集合からなる。
本開示でいう「平行」とは、一平面上の二直線であればどこまで延長しても交わらない場合、つまり二者間の角度が厳密に0度(又は180度)である場合に加えて、二者間の角度が0度に対して数度(例えば10度未満)程度の誤差範囲に収まる関係にあることをいう。同様に、本開示でいう「直交」とは、二者間の角度が厳密に90度で交わる場合に加えて、二者間の角度が90度に対して数度(例えば10度未満)程度の誤差範囲に収まる関係にあることをいう。
(3)構成
以下、本実施形態に係る波動歯車装置1、アクチュエータ100及びロボット用関節装置130の詳細な構成について、図1A~図4を参照して説明する。
図1Aは、波動歯車装置1の概略構成を示す断面図であって、図1Bは、図1Aの領域Z1の拡大図である。図2Aは、波動歯車装置1を回転軸Ax1の入力側(図1Aの右側)から見た概略図であって、図2Bは、図2Aの領域Z1の拡大図である。図3Aは、波動歯車装置1を回転軸Ax1の出力側(図1Aの左側)から見た概略の分解斜視図である。図3Bは、波動歯車装置1を回転軸Ax1の入力側から見た概略の分解斜視図である。図4は、波動歯車装置1を含むアクチュエータ100及びロボット用関節装置130の概略構成を示す断面図である。
(3.1)波動歯車装置
本実施形態に係る波動歯車装置1は、上述したように、剛性内歯歯車2と、可撓性外歯歯車3と、波動発生器4と、を備えている。本実施形態では、波動歯車装置1の構成要素である剛性内歯歯車2、可撓性外歯歯車3及び波動発生器4の材質は、ステンレス、鋳鉄、機械構造用炭素鋼、クロムモリブデン鋼、リン青銅又はアルミ青銅等の金属である。ここでいう金属は、窒化処理等の表面処理が施された金属を含む。
また、本実施形態では、波動歯車装置1の一例として、カップ型の波動歯車装置を例示する。つまり、本実施形態に係る波動歯車装置1では、カップ状に形成された可撓性外歯歯車3を用いている。波動発生器4は、カップ状の可撓性外歯歯車3内に収容されるように、可撓性外歯歯車3と組み合わされる。
また、本実施形態では一例として、波動歯車装置1は、剛性内歯歯車2が入力側ケース111(図4参照)及び出力側ケース112(図4参照)等に固定された状態で使用される。これにより、剛性内歯歯車2と可撓性外歯歯車3との相対回転に伴って、固定部材(入力側ケース111等)に対して、可撓性外歯歯車3が相対的に回転することになる。
さらに、本実施形態では、波動歯車装置1をアクチュエータ100に用いる場合に、波動発生器4に入力としての回転力が加わることで、可撓性外歯歯車3から出力としての回転力が取り出される。つまり、波動歯車装置1は、波動発生器4の回転を入力回転とし、可撓性外歯歯車3の回転を出力回転として動作する。これにより、波動歯車装置1では、入力回転に対して、比較的高い減速比にて減速された出力回転が得られることになる。
さらに、本実施形態に係る波動歯車装置1では、入力側の回転軸Ax1と、出力側の回転軸Ax2とは、同一直線上にある。言い換えれば、入力側の回転軸Ax1と、出力側の回転軸Ax2とは、同軸である。ここで、入力側の回転軸Ax1は、入力回転が与えられる波動発生器4の回転中心であって、出力側の回転軸Ax1は、出力回転を生じる可撓性外歯歯車3の回転中心である。つまり、波動歯車装置1では、同軸上において、入力回転に対して、比較的高い減速比にて減速された出力回転が得られることになる。
剛性内歯歯車2は、サーキュラスプライン(circular spline)ともいい、内歯21を有する環状の部品である。本実施形態では、剛性内歯歯車2は、少なくとも内周面が平面視において真円となる、円環状を有している。円環状の剛性内歯歯車2の内周面には、内歯21が、剛性内歯歯車2の円周方向に沿って形成されている。内歯21を構成する複数の歯は、全て同一形状であって、剛性内歯歯車2の内周面における円周方向の全域に、等ピッチで設けられている。つまり、内歯21のピッチ円は、平面視において真円となる。また、剛性内歯歯車2は、回転軸Ax1の方向に所定の厚みを有している。内歯21は、いずれも剛性内歯歯車2の厚み方向の全長にわたって形成されている。内歯21の歯筋は、いずれも回転軸Ax1と平行である。
剛性内歯歯車2は、上述したように、入力側ケース111(図4参照)及び出力側ケース112(図4参照)等に固定される。そのため、剛性内歯歯車2には、固定用の複数の固定孔22(図3A及び図3B参照)が形成されている。
可撓性外歯歯車3は、フレックススプライン(flex spline)ともいい、外歯31を有する環状の部品である。本実施形態では、可撓性外歯歯車3は、比較的薄肉の金属弾性体(金属板)にて、カップ状に形成された部品である。つまり、可撓性外歯歯車3は、その厚みが比較的小さい(薄い)ことで可撓性を持つ。可撓性外歯歯車3は、カップ状の本体部32を有している。本体部32は、胴部321及び底部322を有している。胴部321は、可撓性外歯歯車3に弾性変形が生じていない状態において、少なくとも内周面301が平面視で真円となる、円筒状を有している。胴部321の中心軸は、回転軸Ax1と一致する。底部322は、胴部321の一方の開口面に配置され、平面視において真円となる、円盤状を有している。底部322は、胴部321の一対の開口面のうち、回転軸Ax1の出力側の開口面に配置されている。上記より、本体部32は、胴部321及び底部322の全体で、回転軸Ax1の入力側に開放された、有底の円筒状、つまりカップ状の形状が実現される。言い換えれば、可撓性外歯歯車3の回転軸Ax1の方向における底部322とは反対側の端面には、開口面35が形成されている。つまり、可撓性外歯歯車3は、歯筋方向D1の一方(ここでは回転軸Ax1の入力側)に開口面35を有する筒状である。本実施形態では、胴部321及び底部322は1つの金属部材にて一体に形成されており、これにより、シームレスな本体部32が実現される。
ここで、可撓性外歯歯車3に対しては、胴部321の内側に、非円形状(楕円形状)の波動発生器4が嵌め込まれるようにして、波動発生器4が組み合わされる。これにより、可撓性外歯歯車3は、内側から外側に向けて、波動発生器4からラジアル方向(回転軸Ax1に直交する方向)の外力を受けることにより、非円形状に弾性変形する。本実施形態では、波動発生器4が可撓性外歯歯車3に組み合わされることにより、可撓性外歯歯車3は、胴部321が楕円形状に弾性変形する。つまり、可撓性外歯歯車3に弾性変形が生じていない状態とは、可撓性外歯歯車3に波動発生器4が組み合わされていない状態を意味する。反対に、可撓性外歯歯車3に弾性変形が生じている状態とは、可撓性外歯歯車3に波動発生器4が組み合わされた状態を意味する。
より詳細には、波動発生器4は、胴部321の内周面301のうち底部322とは反対側(回転軸Ax1の入力側)の端部に嵌め込まれる。言い換えれば、波動発生器4は、可撓性外歯歯車3の胴部321のうち、回転軸Ax1の方向における開口面35側の端部に嵌め込まれている。そのため、可撓性外歯歯車3に弾性変形が生じている状態では、可撓性外歯歯車3は、回転軸Ax1の方向における開口面35側の端部において、底部322側の端部に比較して、より大きく変形し、より楕円形状に近い形状となる。このような回転軸Ax1の方向における変形量の違いから、可撓性外歯歯車3に弾性変形が生じている状態において、可撓性外歯歯車3の胴部321の内周面301は、回転軸Ax1に対して傾斜するテーパ面302(図9参照)を含むことになる。
また、胴部321の外周面のうち少なくとも底部322とは反対側(回転軸Ax1の入力側)の端部には、外歯31が、胴部321の円周方向に沿って形成されている。言い換えれば、外歯31は、可撓性外歯歯車3の胴部321のうち、少なくとも回転軸Ax1の方向における開口面35側の端部に設けられている。外歯31を構成する複数の歯は、全て同一形状であって、可撓性外歯歯車3の外周面における円周方向の全域に、等ピッチで設けられている。つまり、外歯31のピッチ円は、可撓性外歯歯車3に弾性変形が生じていない状態で、平面視において真円となる。外歯31は、胴部321の開口面35側(回転軸Ax1の入力側)の端縁から一定幅の範囲にのみ形成されている。具体的には、胴部321のうち、回転軸Ax1の方向において、少なくとも波動発生器4が嵌め込まれる部分(開口面35側の端部)には、外周面に外歯31が形成されている。外歯31の歯筋は、いずれも回転軸Ax1と平行である。
要するに、本実施形態に係る波動歯車装置1においては、剛性内歯歯車2の内歯21及び可撓性外歯歯車3の外歯31のいずれの歯筋も、回転軸Ax1と平行である。よって、本実施形態では、「歯筋方向D1」は、回転軸Ax1と平行な方向である。そして、内歯21における歯筋方向D1の寸法が内歯21の歯幅であって、同様に、外歯31における歯筋方向D1の寸法が外歯31の歯幅であるので、歯筋方向D1は歯幅方向と同義である。
本実施形態では、上述したように、可撓性外歯歯車3の回転が出力回転として取り出される。そのため、可撓性外歯歯車3には、アクチュエータ100の出力部102(図4参照)が取り付けられる。可撓性外歯歯車3の底部322には、出力部102としてのシャフトを取り付けるための複数の取付孔33が形成されている。さらに、底部322の中央部には、透孔34が形成されている。底部322における透孔34の周囲は、底部322の他の部位よりも肉厚である。
このように構成される可撓性外歯歯車3は、剛性内歯歯車2の内側に配置される。ここで、可撓性外歯歯車3は、胴部321の外周面のうち底部322とは反対側(回転軸Ax1の入力側)の端部のみが、剛性内歯歯車2の内側に挿入されるように、剛性内歯歯車2と組み合わされる。つまり、可撓性外歯歯車3は、胴部321のうち、回転軸Ax1の方向において、波動発生器4が嵌め込まれる部分(開口面35側の端部)が、剛性内歯歯車2の内側に挿入される。ここで、可撓性外歯歯車3の外周面には外歯31が形成され、剛性内歯歯車2の内周面には内歯21が形成されている。そのため、剛性内歯歯車2の内側に可撓性外歯歯車3が配置された状態では、外歯31と内歯21とは、互いに対向することになる。
ここで、剛性内歯歯車2における内歯21の歯数は、可撓性外歯歯車3の外歯31の歯数よりも2N(Nは正の整数)だけ多い。本実施形態では一例として、Nが「1」であって、可撓性外歯歯車3の(外歯31の)歯数は、剛性内歯歯車2の(内歯21の)歯数よりも「2」多い。このような可撓性外歯歯車3と剛性内歯歯車2との歯数差は、波動歯車装置1での入力回転に対する出力回転の減速比を規定する。
ここにおいて、本実施形態では一例として、図1A及び図1Bに示すように、外歯31の歯筋方向D1の中心と内歯21の歯筋方向D1の中心とが対向するように、回転軸Ax1の方向における可撓性外歯歯車3と剛性内歯歯車2との相対位置が設定されている。つまり、可撓性外歯歯車3の外歯31と剛性内歯歯車2の内歯21とでは、歯筋方向D1の中心の位置が回転軸Ax1の方向の同一位置に合わされている。また、本実施形態では、外歯31の歯筋方向D1の寸法(歯幅)は、内歯21の歯筋方向D1の寸法(歯幅)よりも大きい。そのため、回転軸Ax1に平行な方向においては、外歯31の歯筋の範囲内に、内歯21が収まることになる。言い換えれば、外歯31は、内歯21に対して、歯筋方向D1の少なくとも一方に突出する。本実施形態では、外歯31は、内歯21に対して、歯筋方向D1の両方(回転軸Ax1の入力側及び出力側)に突出する。
ここで、可撓性外歯歯車3に弾性変形が生じていない状態(可撓性外歯歯車3に波動発生器4が組み合わされていない状態)で、真円を描く外歯31のピッチ円は、同じく真円を描く内歯21のピッチ円に比べて一回り小さくなるように設定されている。つまり、可撓性外歯歯車3に弾性変形が生じていない状態では、外歯31との内歯21とは、隙間を介して対向することになり、互いに噛み合ってはいない。
一方で、可撓性外歯歯車3に弾性変形が生じた状態(可撓性外歯歯車3に波動発生器4が組み合わされた状態)では、胴部321が楕円形状(非円形状)に撓むので、剛性内歯歯車2の内歯21に対して可撓性外歯歯車3の外歯31が部分的に噛み合う。つまり、可撓性外歯歯車3の胴部321(の少なくとも開口面35側の端部)が楕円形状に弾性変形することで、図2Aに示すように、楕円形状の長軸方向の両端に位置する外歯31が、内歯21に噛み合うこととなる。言い換えれば、楕円を描く外歯31のピッチ円の長径は、真円を描く内歯21のピッチ円の直径に一致し、楕円を描く外歯31のピッチ円の短径は、真円を描く内歯21のピッチ円の直径より小さくなる。このようにして、可撓性外歯歯車3が弾性変形すると、外歯31を構成する複数の歯のうちの一部の歯が、内歯21を構成する複数の歯のうちの一部の歯に噛み合うことになる。結果的に、波動歯車装置1では、外歯31の一部を内歯21の一部に噛み合わせることが可能となる。
波動発生器4は、ウェーブジェネレータ(wave generator)ともいい、可撓性外歯歯車3に撓みを生じさせて、可撓性外歯歯車3の外歯31に波動運動を生じさせる部品である。本実施形態では、波動発生器4は、平面視において外周形状が非円形状、具体的には楕円形状となる部品である。
波動発生器4は、非円形状(ここでは楕円形状)のカム41と、カム41の外周に装着されるベアリング42と、を有している。つまり、ベアリング42に対しては、ベアリング42の内輪422の内側に非円形状(楕円形状)のカム41が嵌め込まれるようにして、カム41が組み合わされる。これにより、ベアリング42は、内輪422の内側から外側に向けて、カム41からラジアル方向(回転軸Ax1に直交する方向)の外力を受けることにより、非円形状に弾性変形する。つまり、ベアリング42に弾性変形が生じていない状態とは、ベアリング42にカム41が組み合わされていない状態を意味する。反対に、ベアリング42に弾性変形が生じている状態とは、ベアリング42にカム41が組み合わされた状態を意味する。
カム41は、入力側の回転軸Ax1を中心に回転駆動される、非円形状(ここでは楕円形状)の部品である。カム41は、外周面411(図1B参照)を有しており、少なくとも外周面411が、平面視において楕円形状となる金属板からなる。カム41は、回転軸Ax1の方向(つまり歯筋方向D1)に所定の厚みを持つ。これにより、カム41は、剛性内歯歯車2と同程度の剛性を持つ。ただし、カム41の厚みは、剛性内歯歯車2の厚みに比べて小さい(薄い)。本実施形態では、上述したように、波動発生器4の回転を入力回転とする。そのため、波動発生器4には、アクチュエータ100の入力部103(図4参照)が取り付けられる。波動発生器4のカム41の中央部には、入力部103としてのシャフトを取り付けるためのカム孔43が形成されている。
ベアリング42は、外輪421と、内輪422と、複数の転動体423と、を有している。本実施形態では一例として、ベアリング42は、転動体423として球体状のボールを用いて深溝玉軸受からなる。
外輪421及び内輪422は、いずれも環状の部品である。外輪421及び内輪422は、いずれも比較的薄肉の金属弾性体(金属板)にて、環状に形成された部品である。つまり、外輪421及び内輪422の各々は、その厚みが比較的小さい(薄い)ことで可撓性を持つ。本実施形態では、外輪421及び内輪422は、ベアリング42に弾性変形が生じていない状態(ベアリング42にカム41が組み合わされていない状態)において、いずれも平面視で真円となる、円環状を有している。内輪422は、外輪421よりも一回り小さく、外輪421の内側に配置される。ここで、外輪421の内径は内輪422の外径よりも大きいため、外輪421の内周面425と内輪422の外周面との間には隙間が生じる。
複数の転動体423は、外輪421と内輪422との間の隙間に配置されている。複数の転動体423は、外輪421の円周方向に並べて配置されている。複数の転動体423は、全て同一形状の金属球(ボール)であって、外輪421の円周方向の全域に、等ピッチで設けられている。ここでは特に図示しないが、ベアリング42は保持器を更に有しており、複数の転動体423は、保持器にて外輪421と内輪422との間に保持されている。
また、本実施形態では一例として、外輪421及び内輪422の幅方向(回転軸Ax1に平行な方向)の寸法は、カム41の厚みと同一である。つまり、外輪421及び内輪422の幅方向の寸法は、剛性内歯歯車2の厚みに比べて小さい。
このようなベアリング42の構成により、カム41がベアリング42に組み合わされることにより、ベアリング42は、内輪422がカム41に固定されることになり、カム41の外周形状に倣った楕円形状に内輪422が弾性変形する。このとき、ベアリング42の外輪421は、複数の転動体423を介して、内輪422に押されて楕円形状に弾性変形する。よって、ベアリング42は、外輪421及び内輪422のいずれもが、楕円形状に弾性変形する。このようにベアリング42に弾性変形が生じている状態(ベアリング42にカム41が組み合わされた状態)で、外輪421及び内輪422は、互いに相似形となる楕円形状をなす。
ベアリング42に弾性変形が生じている状態であっても、外輪421と内輪422との間には、複数の転動体423が介在することで、外輪421と内輪422との間の隙間は外輪421の全周にわたって略一定に維持されている。そして、この状態で、外輪421と内輪422との間の複数の転動体423が転がることで、外輪421は内輪422に対して相対的に回転可能である。よって、ベアリング42に弾性変形が生じている状態で、カム41が回転軸Ax1を中心に回転すると、カム41の回転は外輪421には伝わらず、内輪422の弾性変形が複数の転動体423を介して外輪421に伝わることになる。つまり、波動発生器4においては、カム41が回転軸Ax1を中心に回転すると、外輪421によって象られる楕円形状の長軸が回転軸Ax1を中心に回転するように外輪421が弾性変形する。そのため、波動発生器4全体としては、回転軸Ax1の入力側から見た、楕円形状をなす波動発生器4の外周形状は、その長軸が回転軸Ax1を中心に回転するように、カム41の回転に伴って変化する。
このように構成される波動発生器4は、可撓性外歯歯車3の内側に配置される。ここで、可撓性外歯歯車3は、胴部321の内周面301のうち底部322とは反対側(開口面35側)の端部のみが、波動発生器4に嵌め合わされるように、波動発生器4と組み合わされる。このとき、波動発生器4のベアリング42は、カム41の外周面411と可撓性外歯歯車3の内周面301との間に配置されることになる。ここで、ベアリング42に弾性変形が生じていない状態(ベアリング42にカム41が組み合わされていない状態)での外輪421の外径は、同じく弾性変形が生じていない状態での可撓性外歯歯車3(胴部321)の内径と同一である。そのため、波動発生器4における外輪421の外周面424(図5参照)が、ベアリング42の円周方向の全周にわたって、可撓性外歯歯車3の内周面301に接する。よって、可撓性外歯歯車3に弾性変形が生じた状態(可撓性外歯歯車3に波動発生器4が組み合わされた状態)では、胴部321は楕円形状(非円形状)に撓むことになる。この状態で、可撓性外歯歯車3はベアリング42の外輪421に対して固定される。
ただし、あくまで可撓性外歯歯車3と波動発生器4とは嵌め合わされているだけであるので、可撓性外歯歯車3とベアリング42の外輪421とは、完全に固定される訳ではない。そのため、上述した通り、可撓性外歯歯車3と可撓性外歯歯車3の内側に嵌め込まれた外輪421との間には、僅かとはいえ隙間X1(図1B参照)が生じることになる。厳密には、可撓性外歯歯車3の内周面301よりも外輪421の外周面424の方が僅かに小径であるため、外輪421と可撓性外歯歯車3との間の隙間X1が完全に埋まることはなく、少なくとも部分的に隙間X1が生じる。そして、このような隙間X1の影響もあって、波動発生器4のカム41が回転して外輪421及び可撓性外歯歯車3が弾性変形するのに伴い、外輪421と可撓性外歯歯車3との間には相対回転が生じ得る。この相対回転は、例えば、カム41の回転数の数千分の1又は数百分の1程度の回転であるが、このような相対回転によって、外輪421と可撓性外歯歯車3とが相対的に擦れ合うことは、フレッティング摩耗の一因ではある。
本開示でいう「隙間」は、2つの物体の対向面間に生じ得る空間を意味し、当該2つの物体が離間していなくても両者の間に隙間が生じ得る。つまり、2つの物体が接触するとしても、当該2つの物体の間には、僅かながらにも隙間が生じ得る。可撓性外歯歯車3と可撓性外歯歯車3の内側に嵌め込まれた外輪421との間においては、互いに対向している外輪421の外周面424と可撓性外歯歯車3の内周面301との間に隙間X1が生じる。ただし、基本的には、外輪421の外周面424と可撓性外歯歯車3の内周面301とは接触するので、両者間に大きな隙間X1が生じることはない。そのため、外輪421と可撓性外歯歯車3との間の隙間X1は、外輪421の外周面424と可撓性外歯歯車3の内周面301との間において、部分的に生じ得る僅かな隙間である。一例として、外輪421の外周面424と可撓性外歯歯車3の内周面301には、潤滑剤Lb1が浸透可能な程度の微視的な隙間X1が生じる。
上述した構成の波動歯車装置1では、図2Aに示すように、可撓性外歯歯車3の胴部321が楕円形状(非円形状)に撓むことで、剛性内歯歯車2の内歯21に対して可撓性外歯歯車3の外歯31が部分的に噛み合う。つまり、可撓性外歯歯車3(の胴部321)が楕円形状に弾性変形することで、その楕円形状の長軸方向の両端に相当する2箇所の外歯31が、内歯21に対して噛み合うこととなる。そして、カム41が回転軸Ax1を中心に回転すると、カム41の回転は外輪421及び可撓性外歯歯車3には伝わらず、内輪422の弾性変形が複数の転動体423を介して外輪421及び可撓性外歯歯車3に伝わることになる。したがって、回転軸Ax1の入力側から見た、楕円形状をなす可撓性外歯歯車3の外周形状は、その長軸が回転軸Ax1を中心に回転するように、カム41の回転に伴って変化する。
その結果、可撓性外歯歯車3の外周面に形成された外歯31には、波動運動が発生する。外歯31の波動運動が発生することで、内歯21と外歯31との噛み合い位置が剛性内歯歯車2の円周方向に移動し、可撓性外歯歯車3と剛性内歯歯車2との間に相対回転が発生する。つまり、外歯31は、可撓性外歯歯車3(の胴部321)がなす楕円形状の長軸方向の両端において内歯21と噛み合っているので、この楕円形状の長軸が回転軸Ax1を中心に回転することで、内歯21と外歯31との噛み合い位置が移動する。このように、本実施形態に係る波動歯車装置1は、回転軸Ax1を中心とする波動発生器4の回転に伴って可撓性外歯歯車3を変形させ、外歯31の一部を内歯21の一部に噛み合わせて、可撓性外歯歯車3を剛性内歯歯車2との歯数差に応じて回転させる。
ところで、波動歯車装置1においては、上述したように、可撓性外歯歯車3と剛性内歯歯車2との歯数差は、波動歯車装置1での入力回転に対する出力回転の減速比を規定することになる。つまり、剛性内歯歯車2の歯数を「V1」、可撓性外歯歯車3の歯数を「V2」とした場合、減速比R1は、下記式1で表される。
R1=V2/(V1-V2)・・・(式1)
要するに、剛性内歯歯車2と可撓性外歯歯車3との歯数差(V1-V2)が小さいほど、減速比R1は大きくなる。一例として、剛性内歯歯車2の歯数V1が「72」、可撓性外歯歯車3の歯数V2が「70」、その歯数差(V1-V2)が「2」であると、上記式1より、減速比R1は「35」となる。この場合、回転軸Ax1の入力側から見て、カム41が回転軸Ax1を中心に時計回りに1周(360度)回転すると、可撓性外歯歯車3は回転軸Ax1を中心に歯数差「2」の分(つまり10.3度)だけ反時計回りに回転する。
本実施形態に係る波動歯車装置1によれば、このように高い減速比R1が、1段の歯車(剛性内歯歯車2及び可撓性外歯歯車3)の組み合わせで実現可能である。
また、波動歯車装置1は、少なくとも、剛性内歯歯車2と、可撓性外歯歯車3と、波動発生器4と、を備えていればよく、例えば、「(3.2)アクチュエータ」の欄で説明するスプラインブッシュ113等を構成要素として更に備えていてもよい。
(3.2)アクチュエータ
次に、本実施形態に係るアクチュエータ100の構成について、より詳細に説明する。
本実施形態に係るアクチュエータ100は、図4に示すように、本実施形態に係る波動歯車装置1と、駆動源101と、出力部102と、を備えている。つまり、アクチュエータ100は、波動歯車装置1を構成する剛性内歯歯車2、可撓性外歯歯車3及び波動発生器4に加えて、駆動源101及び出力部102を備えている。また、アクチュエータ100は、波動歯車装置1、駆動源101及び出力部102に加え、入力部103、入力側ケース111、出力側ケース112、スプラインブッシュ113、スペーサ114、第1留め具115、第2留め具116及び取付板117を更に備える。また、本実施形態では、アクチュエータ100は、入力側ベアリング118,119、入力側オイルシール120、出力側ベアリング121,122及び出力側オイルシール123を更に備えている。
本実施形態では、アクチュエータ100における駆動源101、入力側オイルシール120及び出力側オイルシール123以外の部品の材質は、ステンレス、鋳鉄、機械構造用炭素鋼、クロムモリブデン鋼、リン青銅又はアルミ青銅等の金属である。
駆動源101は、モータ(電動機)等の動力の発生源である。駆動源101で発生した動力は、波動歯車装置1における波動発生器4のカム41に伝達される。具体的には、駆動源101は入力部103としてのシャフトにつながっており、駆動源101で発生した動力は入力部103を介してカム41に伝達される。これにより、駆動源101は、カム41を回転させることが可能である。
出力部102は、出力側の回転軸Ax2に沿って配置された円柱状のシャフトである。出力部102としてのシャフトの中心軸は、回転軸Ax2と一致する。出力部102は、回転軸Ax2を中心として回転可能となるように、出力側ケース112にて保持される。出力部102は、可撓性外歯歯車3における本体部32の底部322に固定されており、回転軸Ax2を中心に可撓性外歯歯車3と共に回転する。つまり、出力部102は、可撓性外歯歯車3の回転力を出力として取り出す。
入力部103は、入力側の回転軸Ax1に沿って配置された円柱状のシャフトである。入力部103としてのシャフトの中心軸は、回転軸Ax1と一致する。入力部103は、回転軸Ax1を中心として回転可能となるように、入力側ケース111にて保持される。入力部103は、波動発生器4のカム41に取り付けられており、回転軸Ax1を中心にカム41と共に回転する。つまり、入力部103は、駆動源101で発生した動力(回転力)を入力としてカム41に伝達する。本実施形態では、上述したように、入力側の回転軸Ax1と、出力側の回転軸Ax2とは、同一直線上にあるので、入力部103と出力部102とは同軸上に位置することになる。
入力側ケース111は、入力部103が回転可能となるように、入力側ベアリング118,119を介して入力部103を保持している。一対の入力側ベアリング118,119は、回転軸Ax1に沿って、間隔を空けて並べて配置されている。本実施形態では、入力部103としてのシャフトは、入力側ケース111を貫通しており、入力側ケース111における回転軸Ax1の入力側の端面(図4の右端面)からは、入力部103の先端部が突出する。入力側ケース111の回転軸Ax1の入力側の端面における、入力部103との間の隙間は、入力側オイルシール120にて塞がれている。
出力側ケース112は、出力部102が回転可能となるように、出力側ベアリング121,122を介して出力部102を保持している。一対の出力側ベアリング121,122は、回転軸Ax2に沿って、間隔を空けて並べて配置されている。本実施形態では、出力部102としてのシャフトは、出力側ケース112を貫通しており、出力側ケース112における回転軸Ax1の出力側の端面(図4の左端面)からは、出力部102の先端部が突出する。出力側ケース112の回転軸Ax1の出力側の端面における、出力部102との間の隙間は、出力側オイルシール123にて塞がれている。
ここで、入力側ケース111及び出力側ケース112は、図4に示すように、波動歯車装置1の剛性内歯歯車2を回転軸Ax1に平行な方向、つまり歯筋方向D1の両側から挟んだ状態で、互いに結合される。具体的には、入力側ケース111は、剛性内歯歯車2に対して回転軸Ax1の入力側から接触し、出力側ケース112は、剛性内歯歯車2に対して回転軸Ax1の出力側から接触する。このように、入力側ケース111は、出力側ケース112との間に、剛性内歯歯車2を挟んだ状態で、複数の固定孔22を通して、ねじ(ボルト)にて出力側ケース112に対して締め付け固定される。これにより、入力側ケース111、出力側ケース112及び剛性内歯歯車2は、互いに結合されて一体化される。言い換えれば、剛性内歯歯車2は、入力側ケース111及び出力側ケース112と共に、アクチュエータ100の外郭を構成する。
スプラインブッシュ113は、入力部103としてのシャフトをカム41に対して連結するための筒状の部品である。スプラインブッシュ113は、カム41に形成されたカム孔43に挿入され、スプラインブッシュ113には、入力部103としてのシャフトがスプラインブッシュ113を貫通するように挿入されている。ここで、スプラインブッシュ113は、回転軸Ax1を中心とする回転方向においては、カム41及び入力部103の両方に対する移動が規制されており、回転軸Ax1に平行な方向においては、少なくとも入力部103に対して移動可能である。これにより、入力部103とカム41との連結構造として、スプライン連結構造が実現される。よって、カム41は、入力部103に対して回転軸Ax1に沿って移動可能であって、回転軸Ax1を中心に入力部103と共に回転する。
スペーサ114は、スプラインブッシュ113とカム41との隙間を埋める部品である。第1留め具115は、カム41からのスプラインブッシュ113の抜け止めを行う部品である。第1留め具115は、例えば、Eリングからなり、スプラインブッシュ113におけるカム41から見て回転軸Ax1の入力側の位置に取り付けられる。第2留め具116は、スプラインブッシュ113からの入力部103の抜け止めを行う部品である。第2留め具116は、例えば、Eリングからなり、スプラインブッシュ113に対して回転軸Ax1の出力側から接触するように、入力部103に取り付けられる。
取付板117は、可撓性外歯歯車3の底部322に出力部102としてのシャフトを取り付けるための部品である。具体的には、取付板117は、出力部102のフランジ部との間に、底部322における透孔34の周囲の部分を挟んだ状態で、複数の取付孔33を通して、ねじ(ボルト)にてフランジ部に対して締め付け固定される。これにより、可撓性外歯歯車3の底部322には、出力部102としてのシャフトが固定される。
ところで、本実施形態では、入力側ケース111、出力側ケース112及び剛性内歯歯車2で構成されるアクチュエータ100の外郭の内側に、潤滑剤Lb1が封入されている。つまり、入力側ケース111、出力側ケース112及び剛性内歯歯車2で囲まれる空間内に、液状又はゲル状の潤滑剤Lb1を貯留可能な「潤滑剤溜まり」が存在する。
すなわち、本実施形態に係る波動歯車装置1においては、例えば、内歯21と外歯31との噛み合い部分、及びベアリング42の外輪421と内輪422との間等には、液状又はゲル状の潤滑剤Lb1が注入されている。一例として、潤滑剤Lb1は、液状の潤滑油(オイル)である。そして、波動歯車装置1の使用時においては、潤滑剤Lb1は、ベアリング42の外輪421(外周面424)と可撓性外歯歯車3との間の隙間X1にも入り込む。
本実施形態では一例として、図4に示すように、出力側ベアリング121,122の下端よりも更に下方が潤滑剤Lb1の液面が位置するように、アクチュエータ100の外郭の下部(鉛直方向の下部)にのみ潤滑剤Lb1が貯留されている。そのため、外歯31及びベアリング42の外輪421等については、図4の状態では、回転方向における一部分のみが潤滑剤Lb1に浸かっている。この状態から、入力部103の回転に伴って出力部102が回転すると、外輪421及び可撓性外歯歯車3も回転軸Ax1周りで回転するので、結果的に、外歯31及びベアリング42の外輪421等は、回転方向の全体が潤滑剤Lb1に浸かることになる。
(3.3)ロボット用関節装置
次に、本実施形態に係るロボット用関節装置130の構成について、より詳細に説明する。
本実施形態に係るロボット用関節装置130は、図4に示すように、本実施形態に係る波動歯車装置1と、第1部材131と、第2部材132と、を備えている。つまり、ロボット用関節装置130は、波動歯車装置1を構成する剛性内歯歯車2、可撓性外歯歯車3及び波動発生器4に加えて、第1部材131及び第2部材132を備えている。
第1部材131は剛性内歯歯車2に固定される部材であって、第2部材132は可撓性外歯歯車3に固定される部材である。そのため、波動歯車装置1において可撓性外歯歯車3を剛性内歯歯車2との間に相対回転が発生することで、第1部材131と第2部材132との間にも相対回転が生じることになる。このように、ロボット用関節装置130は、波動歯車装置1を介して2個以上の部材(第1部材131及び第2部材132)を互いに動ける状態で連結(可動連結)したときの結合部位を構成する。
ここで、第1部材131及び第2部材132は、それぞれ剛性内歯歯車2及び可撓性外歯歯車3に対して、直接的又は間接的に固定されていればよい。図4の例では、第1部材131は、出力側ケース112に結合されることで、剛性内歯歯車2に対して間接的に結合(固定)されている。同様に、第2部材132は、出力部102に結合されることで、可撓性外歯歯車3に対して間接的に結合(固定)されている。
このように構成されるロボット用関節装置130において、例えば、駆動源101で発生した動力により波動発生器4のカム41が回転すると、可撓性外歯歯車3と剛性内歯歯車2との間には相対回転が生じることになる。そして、可撓性外歯歯車3を剛性内歯歯車2との相対回転に伴って、第1部材131と第2部材132との間には、出力側の回転軸Ax2(入力側の回転軸Ax1と同軸)を中心として相対回転が生じることになる。結果的に、ロボット用関節装置130によれば、波動歯車装置1を介して連結される第1部材131及び第2部材132を、回転軸Ax1を中心として相対的に回転させるように駆動することができる。これにより、ロボット用関節装置130は、種々のロボットの関節機構を実現可能である。
(4)各部の詳細な構成
次に、本実施形態に係る波動歯車装置1の各部のより詳細な構成について、図1A~図2B、図5~図8Bを参照して、より詳細に説明する。
図5は、図1Bに相当する範囲について要部を拡大した概略断面図である。図6Aは、図5の領域Z1における可撓性外歯歯車3の内周面301の表面状態を表す概略図であって、図6Bは、図5の領域Z2における可撓性外歯歯車3の内周面301の表面状態を表す概略図である。図7は、図2Bの領域Z1を拡大した概略図である。図8Aは、図7の領域Z1における外歯31の表面状態を表す概略図であって、図8Bは、図7の領域Z2における外歯31の表面状態を表す概略図である。
(4.1)貫通孔
本実施形態では、図1A及び図1Bに示すように、ベアリング42の外輪421と可撓性外歯歯車3における外歯31との少なくとも一方には、ラジアル方向に沿って貫通し、外輪421と可撓性外歯歯車3との間の隙間X1につながる貫通孔H1が設けられている。つまり、ベアリング42の外輪421における複数の転動体423の転動面となる内周面425(図5参照)、及び可撓性外歯歯車3の外歯31における内歯21との噛合面となる外周面の少なくとも一方は、貫通孔H1により隙間X1に通じることになる。そのため、外輪421と可撓性外歯歯車3との間の隙間X1には、貫通孔H1を通して潤滑剤Lb1が供給可能となる。
つまり、本実施形態に係る波動歯車装置1は、貫通孔H1を設けることにより、可撓性外歯歯車3と波動発生器4との接触部位に対して、潤滑剤Lb1を貫通孔H1経由で供給可能とすることで、接触部位に十分な潤滑剤Lb1を維持する。その結果、「潤滑剤切れ」の防止につながり、外輪421と可撓性外歯歯車3との接触部位の表面は潤滑剤Lb1で覆われた状態となり、フレッティング摩耗の発生が抑制される。よって、本実施形態に係る波動歯車装置1では、外輪421と可撓性外歯歯車3との間のフレッティング摩耗に起因する不具合が生じにくくなり、信頼性の低下が生じにくい波動歯車装置1を提供可能である。
ところで、貫通孔H1は、外輪421と可撓性外歯歯車3における外歯31との少なくとも一方に設けられていればよい。本開示において、外輪421と可撓性外歯歯車3における外歯31とのそれぞれに設けられる貫通孔H1を区別する場合には、外輪421に設けられる貫通孔H1を「第1貫通孔」と、可撓性外歯歯車3の外歯31に設けられる貫通孔H2(図17B参照)を「第2貫通孔」と呼ぶ。本実施形態では一例として、貫通孔H1は、外輪421と可撓性外歯歯車3における外歯31とのうちの外輪421のみに設けられている。言い換えれば、本実施形態では、貫通孔H1は、外輪421に設けられた「第1貫通孔」を含む。一方、可撓性外歯歯車3の外歯31側の貫通孔H2(第2貫通孔)については、「(8)変形例」にて説明する。
また、本開示でいう「ラジアル方向に沿って貫通」は、ラジアル方向、つまり回転軸Ax1に直交する方向である径方向に沿って貫通することを意味する。すなわち、本実施形態のように外輪421に設けられる貫通孔H1であれば、貫通孔H1は、外輪421のラジアル方向の両面である内周面425及び外周面424の間を貫通していればよく、例えば、ラジアル方向に対して傾斜していてもよい。
ここではまず、本実施形態における貫通孔H1の形状及び寸法について、図5を参照して説明する。
外輪421に設けられた貫通孔H1(第1貫通孔)は、外輪421をラジアル方向に沿って貫通する。これにより、貫通孔H1の一方の開口面は、外輪421と可撓性外歯歯車3との間の隙間X1に面し、貫通孔H1の他方の開口面は、外輪421の内周面425に開口する。そのため、貫通孔H1は、一端が、外輪421と可撓性外歯歯車3との間の隙間X1につながり、他端が、外輪421の内周面425と内輪422の外周面との間の空間につながる。したがって、複数の転動体423が配置されている外輪421の内周面425と内輪422の外周面との間の空間は、貫通孔H1を介して、外輪421と可撓性外歯歯車3との間の隙間X1に連通する。
また、貫通孔H1は、ラジアル方向に直交する断面形状が円形(真円)状である丸穴である。本実施形態では一例として、貫通孔H1の中心線はラジアル方向に平行である。つまり、貫通孔H1は、外輪421の内周面425から外周面424にかけて、ラジアル方向に真っすぐに延びる孔である。さらに、貫通孔H1のラジアル方向に直交する断面形状は、ラジアル方向における貫通孔H1の全長にかけて同一形状である。つまり、貫通孔H1の内部には、円柱状の空間が形成されることになる。
ここで、貫通孔H1の径φ1(図5参照)は、複数の転動体423の各々の径φ2(図5参照)の0.1倍以下、又は1.0mm以下のいずれか小さい方である。ここでいう貫通孔H1の径φ1は、貫通孔H1の断面形状が真円である場合にはその直径であって、貫通孔H1の断面形状が非円形状(例えば楕円形状)である場合には、その短軸方向の寸法を意味する。本実施形態では一例として、貫通孔H1の径φ1は、転動体423の径φ2の0.1倍以下であり、かつ1.0mm以下である。このような貫通孔H1の径φ1によれば、外輪421と可撓性外歯歯車3との間の隙間X1には、貫通孔H1を通して潤滑剤Lb1を効率的に供給可能となる。
以上説明した構成によれば、外輪421と内輪422との間の空間は、貫通孔H1を介して、外輪421と可撓性外歯歯車3との間の隙間X1につながるので、外輪421と内輪422との間の潤滑剤Lb1が貫通孔H1を通して隙間X1に供給されるようになる。図5では、貫通孔H1内の潤滑剤Lb1の流れを破線矢印で模式的に表している。特に、ベアリング42が動作して複数の転動体423が回転すると、転動体423がポンプとして機能して、外輪421と内輪422との間の潤滑剤Lb1を、貫通孔H1経由で隙間X1に送り込むことが可能である。その結果、外輪421と可撓性外歯歯車3との接触部位において潤滑剤Lb1が不足又は枯渇する「潤滑剤切れ」を防止し、フレッティング摩耗の発生を抑制しやすくなる。
要するに、本実施形態に係る波動歯車装置1は、剛性内歯歯車2に対する可撓性外歯歯車3の相対的な回転時に、貫通孔H1を通して隙間X1に潤滑剤Lb1を供給するポンプ構造を備えている。剛性内歯歯車2に対する可撓性外歯歯車3の相対的な回転時には、ベアリング42の複数の転動体423が外輪421の周方向に転動しているので、上述したように複数の転動体423がポンプとして機能する。つまり、複数の転動体423がポンプ構造を構成する。特に、本実施形態では、外輪421と内輪422との間の空間内で転動体423が転動することにより、外輪421と内輪422との間の空間内の圧力が高められるので、外輪421と内輪422との間にある潤滑剤Lb1は貫通孔H1を通して隙間X1側に押し出される。このように、転動体423は、ベーンポンプのような容積型のポンプを構成し、十分な圧力でもって潤滑剤Lb1を隙間X1側に押し出すので、隙間X1内に十分な潤滑剤Lb1を供給しやすい。
また、貫通孔H1のうち、外輪421の内周面425側の開口面は、外輪421の内周面425に形成された転動溝426の底面に開口する。つまり、外輪421の内周面425の幅方向(歯筋方向D1)の中央部には、外輪421の全周にわたって周方向に延びる転動溝426が形成されており、転動溝426に沿って複数の転動体423が転動する。内輪422の外周面にも同様の転動溝427が形成されており、これら互いに対向する転動溝426,427間に、複数の転動体423が挟み込まれるように保持されている。そして、貫通孔H1は、外輪421の転動溝426の底面に開口するように、外輪421の幅方向(歯筋方向D1)のうち転動溝426が形成されている範囲に配置されている。
さらに、本実施形態では、貫通孔H1は、回転軸Ax1に平行な方向(歯筋方向D1)において、複数の転動体423の中心と同じ位置に配置されている。言い換えれば、貫通孔H1は、外輪421の幅方向(歯筋方向D1)のうち転動溝426の中心に配置されている。この構成によれば、貫通孔H1の開口面上を複数の転動体423の中心が通過することになり、転動体423の回転時に、転動体423がポンプとして効率的に作用して、貫通孔H1経由で隙間X1に潤滑剤Lb1を送り込みやすくなる。さらに、外輪421と可撓性外歯歯車3とは、主として、外輪421の幅方向(歯筋方向D1)の両端部で接触することが分かっている。そのため、貫通孔H1が、外輪421の幅方向(歯筋方向D1)のうち中心に形成されていることで、外輪421と可撓性外歯歯車3との接触に際して、貫通孔H1による外輪421の強度の低下が生じにくい。
ここで、転動溝426,427は、図5に示すように、外輪421の周方向に直交する断面形状が円弧状に形成されている。そして、転動溝426,427の断面形状における円弧の曲率は、複数の転動体423の各々の曲率よりも大きい。言い換えれば、転動溝426,427の断面形状における円弧の曲率半径は、転動体423の曲率半径に比べて小さい。そのため、転動溝426,427間に、複数の転動体423が挟み込まれるように保持された状態では、転動溝426,427の底面と各転動体423の表面との間には、ある程度の隙間が確保される。つまり、図5に示すように、各転動体423は、外輪421における転動溝426の幅方向(歯筋方向D1)の両端縁と、内輪422における転動溝427の幅方向(歯筋方向D1)の両端縁と、の計4カ所で4点支持されることになる。ただし、実際には外輪421と内輪422との間には、相対的にスラスト方向(回転軸Ax1に平行な方向)の荷重が掛かるので、互いに斜向かいの関係となる一対の端縁にて、転動体423が支持されることになる。
そのため、転動溝426の底面に形成されている貫通孔H1の開口面は、転動体423の表面に対して、上記隙間を介して対向することになる。要するに、本実施形態では、ラジアル方向において、複数の転動体423の軌道と、外輪421に設けられた(第1)貫通孔H1の外輪421の内周面425側の開口面との間には、所定値以上の距離が確保される。つまり、転動体423が貫通孔H1に対応する位置に存在する状態でも、貫通孔H1の開口面と転動体423との間には所定値以上の距離(隙間)が確保され、転動体423によって貫通孔H1が閉塞されることにはならない。これにより、複数の転動体423が転動する際、貫通孔H1上を通過しても、貫通孔H1の開口縁に転動体423が衝突することはない。その結果、転動体423が貫通孔H1上を通過する際に、貫通孔H1の開口縁に転動体423が衝突することによる衝撃の発生を回避でき、外輪421及び転動体423等を衝撃から保護しやすい。
(4.2)貫通孔の数及び配置
次に、本実施形態における貫通孔H1の数及び配置について、図2A及び図2Bを参照して説明する。
図2Aに示すように、貫通孔H1は、外輪421の周方向に並ぶように外輪421に設けられた複数の第1貫通孔を含む。本実施形態では、貫通孔H1は、外輪421に設けられた第1貫通孔のみからなるので、複数の貫通孔H1は、全て外輪421の周方向に並べて配置されている。本実施形態では一例として、外輪421には3つの貫通孔H1が設けられている。そのため、外輪421と可撓性外歯歯車3との間の隙間X1に対しては、外輪421の周方向の複数箇所(本実施形態では3カ所)にて、貫通孔H1を通して潤滑剤Lb1を供給可能となる。その結果、外輪421の周方向において貫通孔H1が1カ所のみに設けられている場合に比較して、隙間X1における外輪421の周方向の全域にわたって潤滑剤Lb1が供給されやすくなる。
ここで、図2Aに示すように、複数の貫通孔H1(第1貫通孔)の間隔P1は、複数の転動体423の間隔P2の倍数以外の値である。本実施形態では一例として、ベアリング42は、26個の転動体423を有しており、外輪421に3つの貫通孔H1を有している。そして、26個の転動体423、及び3つの貫通孔H1は、それぞれ外輪421の周方向において等ピッチ(等間隔)で設けられている。そのため、外輪421の周方向における3つの貫通孔H1の間隔P1は、120度(=360度÷3)となり、外輪421の周方向における26個の転動体423の間隔P2は、13.85度(=360度÷26)となる。ここで、間隔P1は、外輪421の周方向に隣接する2つの貫通孔H1の中心間距離を回転軸Ax1周りの角度で表した値であって、同様に、間隔P2は、外輪421の周方向に隣接する2つの転動体423の中心間距離を回転軸Ax1周りの角度で表した値である。本実施形態では、このように複数の転動体423の間隔P2(13.85度)に如何なる整数を乗じても、複数の貫通孔H1の間隔P1(120度)とは一致しないよう、間隔P1を間隔P2で割り切れないような値とする。
これにより、全ての貫通孔H1に対応する位置に同時に転動体423が存在することがなくなる。つまり、1つの貫通孔H1に対応する位置に1つの転動体423が位置する状態では、他の2つの貫通孔H1に対応する位置には転動体423が位置しないことになる。そのため、本実施形態に係る波動歯車装置1では、複数の貫通孔H1に複数の転動体423が同時に嵌る(又は抜け出す)際に生じ得るような、比較的大きな衝撃の発生を回避でき、外輪421及び転動体423等を衝撃から保護しやすい。また、全ての貫通孔H1上に同時に転動体423が位置する場合に比べて、転動体423の転動によるポンプ作用も効率的になる。
(4.3)可撓性外歯歯車の内周面の表面状態
次に、本実施形態における可撓性外歯歯車3の内周面301の表面状態について、図5、図6A及び図6Bを参照して説明する。
本実施形態では、上述したように、可撓性外歯歯車3の内周面301のうち、外歯31の裏側に位置する第1領域R1は、第1領域R1以外の第2領域R2に比べて表面粗さが小さく形成されている。つまり、可撓性外歯歯車3の内周面301は、表面粗さが互いに異なる第1領域R1と第2領域R2とを含んでいる。そして、第1領域R1は、図5に示すように、内周面301のうちの少なくとも外歯31の裏側部位に設けられている。第1領域R1は、第2領域R2に比較して、表面粗さが小さい、つまり、より滑らかな表面状態を有している。このように外歯31の裏側部位に設けられる第1領域R1には、波動発生器4のベアリング42が接触することになる。
要するに、可撓性外歯歯車3の内周面301における第1領域R1と、可撓性外歯歯車3の内側に嵌め込まれたベアリング42の外輪421との間には、僅かとはいえ隙間X1が生じる。この隙間X1に潤滑剤Lb1が浸透することで、可撓性外歯歯車3と外輪421との接触部位におけるフレッティング摩耗の発生が抑制される。すなわち、本実施形態では、第1領域R1と波動発生器4の(ベアリング42の)外周面424との間に潤滑剤Lb1が保持されている。そして、第1領域R1のように、可撓性外歯歯車3の内周面301を部分的に滑らかな表面状態とすることで、可撓性外歯歯車3における波動発生器4との接触部位に潤滑剤Lb1がとどまりやすく、接触部位に十分な潤滑剤Lb1を維持することができる。
また、本実施形態では、第1領域R1は、少なくとも回転軸Ax1に平行な方向(歯筋方向D1)において、波動発生器4の(ベアリング42の)外周面424との対向面の全域に設けられている。つまり、図5に示すように、可撓性外歯歯車3の内周面301におけるベアリング42の外周面424との対向面の全域が、第1領域R1として、滑らかな表面状態を有する。その結果、可撓性外歯歯車3の内周面301における波動発生器4との接触部位は潤滑剤Lb1で覆われた状態となり、フレッティング摩耗の発生が抑制される。
ここで、第1領域R1は、例えば、切削加工のように金属の結晶粒をせん断する加工ではなく、金属の結晶粒をせん断しない加工(転圧加工)によって形成される。そのため、内周面301のうちの少なくとも外歯31の裏側部位に設けられた第1領域R1は、金属の結晶粒がせん断されていない、滑らかな表面状態となる。一方、相対的に表面粗さが大きい第2領域R2は、例えば、切削加工、研削加工又はホーニング加工のように、金属の結晶粒をせん断する加工によって形成される。そのため、内周面301のうちの第2領域R2は、金属の結晶粒がせん断された表面状態となる。すなわち、本実施形態では、第1領域R1は転圧面であって、第2領域R2は切削面である。このように、第1領域R1と第2領域R2とで異なる加工を採用することにより、第1領域R1と第2領域R2との表面粗さを容易に調節することが可能である。
また、第1領域R1は、可撓性外歯歯車3の内周面301のうち、回転軸Ax1の方向における開口面35側の端縁にかけて設けられている。つまり、本実施形態では、可撓性外歯歯車3は、外歯31の歯筋方向D1の一方(ここでは回転軸Ax1の入力側)に開口面35を有する筒状である。第1領域R1は、開口面35に連続する。このように、開口面35側の端縁にかけて第1領域R1が設けられていることで、開口面35側から可撓性外歯歯車3に波動発生器4が嵌め込まれる際に、可撓性外歯歯車3の内周面301への波動発生器4の引っ掛かりが生じにくくなる。
第1領域R1においては、可撓性外歯歯車3の内周面301の一部(図5の領域Z1)を拡大した図6Aに示すように、主として結晶粒がせん断されていない滑らかな表面状態となる。これに対して、第2領域R2においては、可撓性外歯歯車3の内周面301の一部(図5の領域Z2)を拡大した図6Bに示すように、主として結晶粒がせん断された表面状態となる。本実施形態では一例として、「表面粗さ」は、回転軸Ax1に平行な方向(歯筋方向D1)についての算術平均粗さ(Ra)にて求められる値とする。図6A及び図6Bに示すように、歯筋方向D1の単位長さW1(一例として0.25mm)、及び縦倍率の方向の単位長さY1(一例として1μm)を規定した場合に、第2領域R2の表面粗さに比べて第1領域R1の表面粗さが小さいことは明らかである。
ここで、第1領域R1の表面粗さは、第2領域R2の表面粗さの1/40倍以上、1/10倍以下であることが好ましい。第1領域R1の表面粗さは、第2領域R2の表面粗さの1/40倍以上に限らず、例えば、1/80倍以上、1/50倍以上、1/30倍以上又は1/16倍以上等であってもよい。同様に、第1領域R1の表面粗さは、第2領域R2の表面粗さの1/10倍以下に限らず、例えば、1/2倍以下、1/5倍以下、1/12倍以下又は1/16倍以下等であってもよい。このように、第1領域R1の表面粗さが、第2領域R2の表面粗さに比べて十分に小さな値であるので、第1領域R1においては潤滑剤Lb1がとどまりやすくなる。一例として、第1領域R1の表面粗さは、Ra0.01以上、Ra0.1以下であることが好ましく、その場合に第2領域R2の表面粗さ(Ra)の1/10倍以下であることが好ましい。
すなわち、可撓性外歯歯車3の内周面301に対して、例えば、切削加工、研削加工又はホーニング加工のように、金属組織の結晶粒をせん断する加工を施すことで形成される第2領域R2では、結晶粒界に鱗状の「とげ」(凸部)が生じる。一方、可撓性外歯歯車3の内周面301に対して、例えば、転圧加工のように、金属組織の結晶粒をせん断しない加工を施すことで形成される第1領域R1では、このような鱗状の「とげ」は生じておらず、滑らかな表面状態が実現される。ただし、「表面粗さ」は、回転軸Ax1に平行な方向(歯筋方向D1)についての算術平均粗さ(Ra)に限らない。「表面粗さ」は、例えば、可撓性外歯歯車3の周方向についての算術平均粗さ(Ra)、又は、最大高さ(Ry)、十点平均粗さ(Rz)、凹凸の平均間隔(Sm)、局部山頂の平均間隔(S)若しくは負荷長さ率(tp)等であってもよい。
また、可撓性外歯歯車3と外輪421との間の隙間X1に潤滑剤Lb1が浸透しやすいよう、少なくとも可撓性外歯歯車3の内周面301における第1領域R1及び外輪421の外周面424については、撥油性を有しないことが好ましい。
(4.4)外歯の表面状態
次に、本実施形態における外歯31の表面状態について、図7、図8A及び図8Bを参照して説明する。
本実施形態では、上述したように、外歯31には、金属の結晶粒をせん断しない加工(転圧加工)によって形成される転圧面300(第1転圧面)が設けられている。そのため、図7に示すように、外歯31に含まれる転圧面300は、金属の結晶粒がせん断されていない、滑らかな表面状態となる。これにより、外歯31と内歯21との摩擦が低減され、外歯31と内歯21との摩擦による損失が低減されて、波動歯車装置1の動力伝達効率の低下が生じにくくなる。
特に、本実施形態では、転圧面300は、外歯31と内歯21とのうち外歯31のみに設けられている。要するに、転圧面300は、少なくとも外歯31に設けられており、内歯21に比べて表面粗さが小さい。転圧面300は、金属の結晶粒をせん断しない加工(転圧加工)により形成される面であるので、例えば、切削加工、研削加工又はホーニング加工のように、金属の結晶粒をせん断する加工によって形成される内歯21に比較して、当然ながら表面粗さが小さくなる。そして、このような滑らかな表面状態の転圧面300を、剛性内歯歯車2の内歯21に対して楔のように押し付けられる外歯31に設けることによって、外歯31と内歯21との摩擦がより低減されることになる。
また、転圧面300は、可撓性外歯歯車3(の胴部321)の外周面のうちの外歯31にのみ設けられている。つまり、外歯31は、可撓性外歯歯車3の外周面に設けられているところで、可撓性外歯歯車3の外周面のうちの外歯31以外の部位は、例えば、切削加工、研削加工又はホーニング加工のように、金属の結晶粒をせん断する加工によって形成されている。よって、外歯31における転圧面300は、可撓性外歯歯車3の外周面のうちの外歯31以外の部位に比べて表面粗さが小さくなる。これにより、可撓性外歯歯車3の外周面のうち、必要な部位にのみ転圧加工を施せばよく、加工性が向上するという利点がある。
ここで、転圧面300は、外歯31と内歯21との少なくとも一方における歯先313,213以外の部位に設けられている。つまり、外歯31は、図7に示すように、歯底312、歯先313及び歯丈方向の中間部分314を有するところ、外歯31の転圧面300は、歯先313以外の部位(歯底312及び中間部分314等)に設けられている。本実施形態では、転圧面300は、外歯31の表面のうち歯底312及び歯丈方向の中間部分314のみであって、歯先313は、例えば、切削加工、研削加工又はホーニング加工のように、金属の結晶粒をせん断する加工によって形成される。そのため、転圧面300である歯底312及び歯丈方向の中間部分314の表面は、転圧面300ではない歯先313に比べて表面粗さが小さい。よって、転圧面300(歯底312及び歯丈方向の中間部分314の表面)は、可撓性外歯歯車3の内周面301のうち第1領域R1に相当し、転圧面300ではない歯先313の表面は、第2領域R2に相当する。
このように、転圧面300が、歯先313以外の部位(歯底312及び中間部分314等)に設けられることで、外歯31と内歯21との摩擦が低減されやすくなる。要するに、内歯21と外歯31とが噛み合った状態であっても、図7に示すように、外歯31の歯先313と内歯21の歯底212との間にはギャップG1が確保されている。そして、外歯31は、歯先313以外の部位(歯底312及び中間部分314等)にて内歯21と接触するので、歯先313以外の部位に転圧面300が設けられることで、外歯31と内歯21との摩擦が低減されやすくなる。
また、本実施形態では、転圧面300は、歯筋方向D1の少なくとも一方の端部に設けられた歯筋修整部310(図1B参照)を含んでいる。本開示でいう「歯筋修整」は、歯筋方向D1の修整を意味し、外歯31の歯筋修整部310は、外歯31のうちの歯筋修整が施された部位である。歯筋修整によれば、歯車の正規の歯筋形状に意図的なふくらみを付けたり、ねじれ角を変更することが可能である。歯筋修整の代表的な加工としては、クラウニングとレリービング(エンドレリーフ)とがある。クラウニングとは、歯車の歯筋方向D1の中央部が凸となるように、歯筋方向D1の中央部に向かって丸みを持たせる加工である。レリービングは、歯筋方向D1の両端部を適度に逃す加工方法である。クラウニングが中央部に向かって丸みを持たせるような歯筋方向D1の略全長にわたる加工であるのに対し、レリービングは歯筋方向D1の両端部のみを逃す加工である。クラウニングとレリービングとのいずれであっても、歯筋方向D1の両端部の歯厚を中央部より小さくすることにより、相手歯車との歯当たり位置を歯筋方向D1の中心付近に寄せることができる。このような歯筋修整により、歯車の製作誤差又は組立誤差によって歯当たりが歯筋方向D1の一端部に偏ってしまう「片当たり」を抑制し、特に歯筋方向D1の端部(歯幅端部)における応力集中が緩和されて、歯当たりが改善される。歯筋修整部310について詳しくは、「(4.6)歯筋修整」の欄で説明する。
外歯31のうち、転圧面300が設けられた歯底312及び中間部分314等においては、外歯31の歯底312の一部(図7の領域Z1)を拡大した図8Aに示すように、主として結晶粒がせん断されていない滑らかな表面状態となる。これに対して、転圧面300が設けられていない歯先313においては、外歯31の歯先313の一部(図7の領域Z2)を拡大した図8Bに示すように、主として結晶粒がせん断された表面状態となる。図8A及び図8Bに示すように、歯筋方向D1の単位長さW1(一例として0.25mm)、及び縦倍率の方向の単位長さY1(一例として1μm)を規定した場合に、歯先313の表面粗さに比べて歯底312(転圧面300)の表面粗さが小さいことは明らかである。
ここで、転圧面300の表面粗さは、歯先313の表面粗さの1/64倍以上、1/10倍以下であることが好ましい。転圧面300の表面粗さは、歯先313の表面粗さの1/64倍以上に限らず、例えば、1/80倍以上、1/50倍以上、1/30倍以上又は1/16倍以上等であってもよい。同様に、転圧面300の表面粗さは、歯先313の表面粗さの1/10倍以下に限らず、例えば、1/2倍以下、1/5倍以下、1/12倍以下又は1/16倍以下等であってもよい。このように、転圧面300(歯底312及び中間部分314)の表面粗さが、歯先313の表面粗さに比べて十分に小さな値であるので、歯底312及び中間部分314においては内歯21との間の摩擦が低減されやすくなる。一例として、転圧面300の表面粗さは、Ra0.01以上、Ra0.2以下であることが好ましく、その場合に歯先313の表面粗さ(Ra)の1/10倍以下であることが好ましい。
すなわち、可撓性外歯歯車3の外周面に対して、例えば、切削加工、研削加工又はホーニング加工のように、金属組織の結晶粒をせん断する加工を施すことで形成される外歯31の表面には、本来、結晶粒界に鱗状の「とげ」(凸部)が生じる。一方、外歯31に対して、例えば、転圧加工のように、金属組織の結晶粒をせん断しない加工を施すことで形成される転圧面300では、このような鱗状の「とげ」は生じておらず、滑らかな表面状態が実現される。
ところで、外歯31における歯丈方向の中間部分314の表面硬度は、少なくとも歯先313に比べて高い。具体的には、例えば、レーザ焼き入れ等の局所的に熱処理可能な方法にて、外歯31の中間部分314にのみ局所的に熱処理を施すことで、外歯31は局所的に表面硬度が高められている。一例として、外歯31の歯先313の表面硬度がHRC40に対して、中間部分314の表面硬度はHRC60程度である。
波動歯車装置1は、長期間の使用になれば、例えば、内歯21と外歯31との接触により、欠け又は摩耗等による金属粉又は窒化物等の異物が発生し得る。本実施形態では、外歯31の表面硬度を局所的に高めており、これにより、可撓性外歯歯車3の全体の表面硬度を高める場合に比較して、靭性が損なわれにくくなって、可撓性外歯歯車3の変形に対する耐性を維持できる。その上で、可撓性外歯歯車3の外歯31のうち、実際に内歯21と接触し得る歯丈方向の中間部分314については、表面硬度が高められることで、内歯21との接触による外歯31の欠け又は摩耗等による金属粉又は窒化物等の異物の発生が抑制される。
(4.5)表面硬度
次に、本実施形態における内歯21及び外歯31の表面硬度について説明する。
本実施形態では、上述したように、内歯21の表面硬度は、外歯31の表面硬度より低い。つまり、外歯31の表面は、内歯21の表面よりも硬度が高い(硬い)。本開示でいう「硬度」は、物体の硬さの程度を意味し、金属の硬度は、例えば、鋼球を一定の圧力で押しつけてできるくぼみの大小で表される。具体的には、金属の硬度の一例として、ロックウェル硬さ(HRC)、ブリネル硬さ(HB)、ビッカース硬さ(HV)又はショア硬さ(Hs)等がある。本実施形態では、特に断りがない限り、ビッカース硬さ(HV)により、硬度を表す。金属部品の硬度を高める(硬くする)手段としては、例えば、合金化又は熱処理等がある。
本実施形態では、可撓性外歯歯車3の外歯31の表面は、高硬度かつ高靭性(強靭)の材質からなり、剛性内歯歯車2の内歯21は、外歯31に比べて硬度が低い材質からなる。本実施形態では一例として、外歯31には、日本産業規格(JIS:Japanese Industrial Standards)にて「SNCM439」と規定されているニッケルクロムモリブデン鋼に熱処理(焼き入れ焼き戻し)が施された材料が用いられる。内歯21には、日本産業規格(JIS)にて「FCD800-2」と規定されている球状黒鉛鋳鉄が用いられる。
さらに、外歯31に比較して相対的に低硬度となる内歯21の表面硬度は、HV350以下であることが好ましい。本実施形態では一例として、内歯21の表面硬度は、HV250以上、HV350未満の範囲で選択される。内歯21の表面硬度の下限値は、HV250に限らず、例えば、HV150、HV160、HV170、HV180、HV190、HV200、HV210、HV220、HV230又はHV240等であってもよい。同様に、内歯21の表面硬度の上限値は、HV350に限らず、例えば、HV360、HV370、HV380、HV390、HV400、HV410、HV420、HV430、HV440又はHV450等であってもよい。
これに対して、内歯21に比較して相対的に高硬度となる外歯31の表面硬度は、HV380以上であることが好ましい。本実施形態では一例として、外歯31の表面硬度は、HV380以上、HV450以下の範囲で選択される。外歯31の表面硬度の下限値は、HV380に限らず、例えば、HV280、HV290、HV300、HV310、HV320、HV330、HV340、HV350、HV360又はHV370等であってもよい。同様に、内歯21の表面硬度の上限値は、HV450に限らず、例えば、HV460、HV470、HV480、HV490、HV500、HV510、HV520、HV530、HV540又はHV550等であってもよい。
また、本実施形態では、内歯21の表面硬度と外歯31の表面硬度との差分は、HV50以上である。つまり、外歯31の表面硬度は、内歯21の表面硬度に比較して、HV50以上、高く設定されている。要するに、例えば、内歯21の表面硬度がHV350であれば、外歯31の表面硬度はHV400以上である。また、外歯31の表面硬度がHV380であれば、内歯21の表面硬度がHV330以下である。内歯21の表面硬度と外歯31の表面硬度との差分は、HV50以上に限らず、例えば、HV20以上、HV30以上又はHV40以上であってもよい。さらに、内歯21の表面硬度と外歯31の表面硬度との差分は、より大きい方が好ましく、例えば、HV60以上、HV70以上、HV80以上、HV90以上又はHV100以上であることがより好ましい。内歯21の表面硬度と外歯31の表面硬度との差分がHV100以上であるとすれば、内歯21の表面硬度がHV350のとき、外歯31の表面硬度はHV450以上である。
上記の通り、本実施形態においては、内歯21の表面硬度は外歯31の表面硬度より低く設定されている。そのため、波動歯車装置1の作動時において、内歯21と外歯31とが接触すると、相対的に表面硬度が低い内歯21が、外歯31に比較して積極的に摩耗する。表面硬度が異なる2つの部品(内歯21及び外歯31)が接触するときに、相対的に軟質である内歯21の摩耗が進行することで、相対的に硬質である外歯31の摩耗が抑制される。つまり、波動歯車装置1の使用初期の段階で、内歯21の歯面が適度に摩耗することで、内歯21と外歯31との間の真実接触面積が拡大され、面圧が低下するので、外歯31の摩耗は生じにくくなる。しかも、本実施形態のように内歯21の表面硬度がHV350以下である場合、内歯21と外歯31との接触により、内歯21の欠け又は摩耗等によって異物が発生するとしても、この異物は比較的軟質である。要するに、波動歯車装置1の使用初期に生じやすい摩耗による異物を、比較的軟質である内歯21から出る軟質の異物とすることで、例えば、ベアリング42に異物が入り込んでもベアリング42へのダメージを抑えることができる。結果的に、例えば、ベアリング42へのダメージが大きくなる硬質の異物の発生量等が抑制される。特に、内歯21の表面硬度と外歯31の表面硬度との差分が、HV50以上のように、比較的大きな値であると、上記効果が顕著である。
さらに、内歯21の材料として球状黒鉛鋳鉄を用いることで、内歯21の初期摩耗時において、内歯21と外歯31との歯面の焼き付き抑制の効果を期待できる。これにより、内歯21と外歯31との噛み合い部位における潤滑効果が得られ、波動歯車装置1における動力伝達効率を向上させることができる。
内歯21及び外歯31の表面硬度がビッカース硬さ(HV)で規定されることは必須ではなく、その他の硬度、例えば、ロックウェル硬さ(HRC)、ブリネル硬さ(HB)又はショア硬さ(Hs)で、内歯21及び外歯31の表面硬度が規定されてもよい。
具体的に、ロックウェル硬さで表面硬度が規定される場合、内歯21の表面硬度は、HRC30以下であることが好ましい。一例として、内歯21の表面硬度は、HRC20以上、HRC30未満の範囲で選択される。内歯21の表面硬度の下限値は、HRC20に限らず、例えば、HRC10、HRC15又はHRC25等であってもよい。同様に、内歯21の表面硬度の上限値は、HRC30に限らず、例えば、HRC35、HRC40又はHRC45等であってもよい。
これに対して、外歯31の表面硬度は、HRC40以上であることが好ましい。一例として、外歯31の表面硬度は、HRC40以上、HRC60以下の範囲で選択される。外歯31の表面硬度の下限値は、HRC40に限らず、例えば、HRC30又はHRC35等であってもよい。同様に、外歯31の表面硬度の上限値は、HRC60に限らず、例えば、HRC50、HRC55、HRC65、HRC70又はHRC75等であってもよい。
ところで、可撓性外歯歯車3と波動発生器4(ベアリング42の外輪421)との間のフレッティング摩耗に起因して、欠け又は摩耗等によって発生する異物は比較的硬質である。つまり、表面硬度が比較的高い可撓性外歯歯車3とベアリング42の外輪421との接触により生じる異物は、上述したように内歯21から出る軟質の異物に比べて硬質である。可撓性外歯歯車3又は外輪421から出る硬質の異物が、ベアリング42に入り込むと、外輪421又は内輪422と転動体423との間への異物の噛み込みによる圧痕を起点に、外輪421、内輪422及び転動体423のいずれかの表面に損傷が生じ得る。このような損傷(表面起点型のフレーキング)は、波動歯車装置1の品質及び特性等の劣化につながるため、結果的に、波動歯車装置1の信頼性の低下につながる。
しかしながら、本実施形態に係る波動歯車装置1では、上述したように、表面粗さが小さい第1領域R1を、可撓性外歯歯車3の内周面301のうちの外歯31の裏側に設けることで、可撓性外歯歯車3と波動発生器4との接触部位に十分な潤滑剤Lb1を維持する。したがって、可撓性外歯歯車3におけるベアリング42(の外輪421)との接触部位の表面は潤滑剤Lb1で覆われた状態となり、フレッティング摩耗の発生が抑制されるので、可撓性外歯歯車3又は外輪421から出る硬質の異物の発生がそもそも抑制される。結果的に、例えば、比較的硬質の異物がベアリング42に入り込むことによる損傷が生じにくくなって、特に長期間の使用に際しても信頼性の低下が生じにくいため、ひいては、波動歯車装置1の伝達効率の改善、長寿命化、及び高性能化にもつながる。
(4.6)歯筋修整
次に、本実施形態における内歯21及び外歯31の歯筋修整について説明する。
前提として、内歯21は、図1Bに示すように、歯底212及び歯先213を有する。内歯21は、剛性内歯歯車2の内周面に設けられているので、内歯21の歯底212が剛性内歯歯車2の内周面に相当し、歯先213は剛性内歯歯車2の内周面から内側(剛性内歯歯車2の中心)に向けて突出する。
一方、外歯31は、図1Bに示すように、歯底312及び歯先313を有する。外歯31は、可撓性外歯歯車3(の胴部321)の外周面に設けられているので、外歯31の歯底312が可撓性外歯歯車3(の胴部321)の外周面に相当し、歯先313は可撓性外歯歯車3(の胴部321)の外周面から外側に向けて突出する。
内歯21と外歯31との噛み合い位置においては、内歯21の隣接する一対の歯先213間に、外歯31の歯先313が挿入されるようにして、内歯21と外歯31とが噛み合う。このとき、内歯21の歯底212には外歯31の歯先313が対向し、外歯31の歯底312には内歯21の歯先213が対向する。そして、理想的には、内歯21の歯底212と外歯31の歯先313との間、外歯31の歯底312と内歯21の歯先213との間にはわずかながら隙間が確保される。この状態において、内歯21と外歯31との歯厚方向に対向する歯面同士が接触し、剛性内歯歯車2と可撓性外歯歯車3との間の動力伝達がなされる。
さらに、内歯21は、歯筋方向D1の両端部に、面取り部211を有している。面取り部211は、歯筋方向D1の両側に向けて内歯21の突出量を小さくするC面であって、基本的に、内歯21と外歯31との噛み合いには寄与しない部位である。つまり、内歯21の面取り部211は、内歯21と外歯31との噛み合い位置においても、外歯31に接しない。同様に、外歯31は、歯筋方向D1の両端部に、面取り部311を有している。面取り部311は、歯筋方向D1の両側に向けて内歯21の突出量を小さくするC面であって、基本的に、内歯21と外歯31との噛み合いには寄与しない部位である。つまり、外歯31の面取り部311は、内歯21と外歯31との噛み合い位置においても、内歯21に接しない。
ここにおいて、本実施形態では、剛性内歯歯車2の内歯21は歯筋修整部210を有する。つまり、波動歯車装置1は、少なくとも内歯21に歯筋修整が施されている。内歯21の歯筋修整部210は、歯筋方向D1の少なくとも一方の端部に設けられている。言い換えれば、内歯21は、内歯21の歯筋方向D1の少なくとも一方の端部に歯筋修整部210を有する。本実施形態では、歯筋修整部210は、内歯21の歯筋方向D1の両端部に設けられている。
また、本実施形態では、可撓性外歯歯車3の外歯31もまた、歯筋修整部310を有する。つまり、波動歯車装置1は、内歯21だけでなく外歯31にも歯筋修整が施されている。外歯の歯筋修整部210は、歯筋方向D1の少なくとも一方の端部に設けられている。言い換えれば、外歯31は、外歯31の歯筋方向D1の少なくとも一方の端部に歯筋修整部310を有する。本実施形態では、歯筋修整部310は、外歯31の歯筋方向D1の両端部に設けられている。
このように、本実施形態に係る波動歯車装置1では、内歯21及び外歯31の少なくとも一方は、歯筋修整部210,310を有する。歯筋修整部210,310により、内歯21と外歯31との過度の歯当たりによる応力集中を生じにくくでき、結果的に、内歯21と外歯31との歯当たりを改善できる。よって、内歯21と外歯31との接触に起因する欠け又は摩耗等による異物が生じにくくなり、信頼性の低下が生じにくい波動歯車装置1を実現できる。
(5)作用
次に、本実施形態に係る波動歯車装置1の作用について、より詳細に説明する。
上述したように、波動歯車装置1では、特に、長期間の使用になれば、可撓性外歯歯車3の内側にはめ込まれた波動発生器4の回転に伴い、可撓性外歯歯車3と波動発生器4との接触部位にフレッティング摩耗が発生し得る。そして、フレッティング摩耗が生じると、表面の荒れ、摩耗粉による錆の発生、及び摩耗粉が波動発生器4の内側に進入することによる波動発生器4(のベアリング42)の損傷等につながり、波動歯車装置1の信頼性に影響する可能性がある。
このようなフレッティング摩耗が生じる原因として、可撓性外歯歯車3と波動発生器4との接触部位において、潤滑剤Lb1が不足又は枯渇する「潤滑剤切れ」が生じていることが考えられる。すなわち、そもそも可撓性外歯歯車3と波動発生器4との接触部位は、潤滑剤Lb1が不十分な状態で接触面間の微振動が生じることで、フレッティング摩耗が生じやすい環境にあると推定される。このようなフレッティング摩耗が生じやすい環境になる理由として、具体的に下記2つの理由が考えられる。
1つ目の理由は、可撓性外歯歯車3が頻繁に弾性変形を繰り返すことにある。つまり、波動発生器4のカム41が1回転する間に、可撓性外歯歯車3は一方向(例えば図2Aの上下方向)が楕円形状の長軸となる弾性変形を2回繰り返す。したがって、カム41が高速回転することにより、可撓性外歯歯車3は高速で弾性変形を繰り返し、この弾性変形の繰り返しに伴って可撓性外歯歯車3と波動発生器4との接触部位に振動が生じやすい。結果的に、可撓性外歯歯車3と波動発生器4との接触部位には、潤滑剤Lb1が不十分な状態で微振動が生じることになる。
より詳細には、可撓性外歯歯車3に弾性変形が生じている状態では、可撓性外歯歯車3は、回転軸Ax1の方向における開口面35側の端部において、底部322側の端部に比較して、より大きく変形し、より楕円形状に近い形状となる。そのため、可撓性外歯歯車3に弾性変形が生じている状態で、可撓性外歯歯車3の胴部321の内周面301は、図9に示すように、回転軸Ax1に対して傾斜角度θ1だけ傾斜したテーパ面302を含む。そして、テーパ面302の傾斜角度θ1は、可撓性外歯歯車3の弾性変形に伴って変化する。つまり、可撓性外歯歯車3を開口面35側から見たときに、楕円形状の長軸方向の両端部にてテーパ面302の傾斜角度θ1は最大となり(図9の「長軸側」)、楕円形状の短軸方向の両端部にてテーパ面302の傾斜角度θ1は最小となる(図9の「短軸側」)。そのため、可撓性外歯歯車3が頻繁に弾性変形を繰り返すことで、テーパ面302の傾斜角度θ1も高速に変化し、これにより、可撓性外歯歯車3の内周面301(テーパ面302)が、外輪421の外周面424を繰り返し打撃するように振動する。このように、打撃を伴う微振動が生じることで、結果的に、可撓性外歯歯車3と波動発生器4との接触部位には、フレッティング摩耗が生じやすくなる。
2つ目の理由は、外輪421と可撓性外歯歯車3との間の相対回転が低速であることにある。つまり、外輪421と可撓性外歯歯車3との間の隙間X1の影響により、波動発生器4のカム41が回転して外輪421及び可撓性外歯歯車3が弾性変形するのに伴い、外輪421と可撓性外歯歯車3との間には相対回転が生じ得る。しかしながら、この相対回転は、例えば、カム41の回転数の数千分の1又は数百分の1程度の低速回転である。そのため、外輪421と可撓性外歯歯車3との間の隙間X1においては、当該相対回転により潤滑剤Lb1が流動することは期待できず、その接触部位に潤滑剤Lb1による膜(油膜)が形成されるには不利な環境にある。にもかかわらず、外輪421と可撓性外歯歯車3との間には相対回転が生じ得ることで、外輪421と可撓性外歯歯車3とが相対的に擦れ合うことになり、フレッティング摩耗が生じやすい環境となる。
本実施形態に係る波動歯車装置1では、上述したような理由によりフレッティング摩耗が生じやすい環境にある外輪421と可撓性外歯歯車3との間の接触部位に対して、潤滑剤Lb1を強制的に供給することが可能である。すなわち、波動歯車装置1は、可撓性外歯歯車3と波動発生器4との接触部位に対して、潤滑剤Lb1を貫通孔H1経由で供給可能とすることで、接触部位に十分な潤滑剤Lb1を維持する。このようにして、外輪421と可撓性外歯歯車3との接触部位において潤滑剤Lb1が不足又は枯渇する「潤滑剤切れ」を防止することにより、フレッティング摩耗の発生を抑制する。
また、本実施形態に係る波動歯車装置1では、可撓性外歯歯車3の内周面301のうち、外歯31の裏側に位置する第1領域R1は、第1領域R1以外の第2領域R2に比べて表面粗さが小さく形成されている。そのため、第1領域R1のように、可撓性外歯歯車3の内周面301を部分的に滑らかな表面状態とすることで、可撓性外歯歯車3における波動発生器4との接触部位に潤滑剤Lb1がとどまりやすく、接触部位に十分な潤滑剤Lb1を維持することができる。これにより、外輪421と可撓性外歯歯車3との接触部位において潤滑剤Lb1が不足又は枯渇する「潤滑剤切れ」をより一層防止でき、フレッティング摩耗の発生を抑制する。
その結果、外輪421と可撓性外歯歯車3との接触部位の表面は潤滑剤Lb1で覆われた状態となり、フレッティング摩耗の発生が抑制される。よって、本実施形態に係る波動歯車装置1では、外輪421と可撓性外歯歯車3との間のフレッティング摩耗に起因する不具合が生じにくくなり、信頼性の低下が生じにくい波動歯車装置1を提供可能である。そして、本実施形態に係る波動歯車装置1は、特に長期間の使用に際しても信頼性の低下が生じにくいため、ひいては、波動歯車装置1の伝達効率の改善、長寿命化、及び高性能化にもつながる。
すなわち、波動歯車装置1は、外輪421と可撓性外歯歯車3との接触部位に潤滑剤Lb1が供給されるので、可撓性外歯歯車3の変形追随性が阻害されにくく、動力伝達効率の向上、及びベアリング42に掛かる荷重が低減することによる長寿命化等につながる。さらに、フレッティング摩耗によって生じる摩耗粉がベアリング42等に入り込むことも防止されるので、摩耗粉の噛み込みによる圧痕を起点にした損傷(表面起点型のフレーキング)の発生も低減する。そのため、波動歯車装置1として、長寿命化及び高性能化が期待される。
特に、外輪421の周方向の一部に着目した場合、アクチュエータ100の外郭の下部にのみ潤滑剤溜まりが存在する構成では(図4参照)、貫通孔H1が無ければ、当該着目部位が潤滑剤溜まりを通過する際にのみ、隙間X1に潤滑剤Lb1が浸入し得る。そして、外輪421の回転は、内輪422の回転に比較して低速であるため、隙間X1に潤滑剤Lb1が浸入し得る頻度は低くなる。これに対して、本実施形態に係る波動歯車装置1では、貫通孔H1が設けられていることで、外輪421の着目部位が潤滑剤溜まりを通過する際に外輪421と内輪422との間に潤滑剤Lb1が補充されるだけで、隙間X1についても潤滑剤Lb1が供給される。つまり、外輪421と内輪422との間に補充された潤滑剤Lb1が、貫通孔H1を通して隙間X1へと供給されることになるので、外輪421の全周において、可撓性外歯歯車3との接触部位の「潤滑剤切れ」が生じにくくなる。
また、本実施形態では、ベアリング42が動作して複数の転動体423が回転すると、転動体423がポンプとして機能することで、潤滑剤Lb1を貫通孔H1経由で隙間X1に強制的に送り込むことが可能である。さらに、可撓性外歯歯車3の内周面301のうち、外歯31の裏側に位置する第1領域R1は、表面粗さが小さく形成されている。これらの構成によれば、貫通孔H1経由で隙間X1に供給される潤滑剤Lb1は、可撓性外歯歯車3の内周面301にとどまりやすくなり、当該隙間X1での潤滑剤切れを効率的に解消可能である。さらには、可撓性外歯歯車3が弾性変形を繰り返すことで、テーパ面302の傾斜角度θ1が高速に変化することも、当該隙間X1において潤滑剤Lb1が広がることに寄与する。そして、潤滑剤切れの抑制だけでなく、例えば、潤滑剤Lb1が硬化しやすい低温環境下での波動歯車装置1の始動性の改善をも図ることができる。
(6)適用例
次に、本実施形態に係る波動歯車装置1、アクチュエータ100及びロボット用関節装置130の適用例について、図10を参照して説明する。
図10は、本実施形態に係る波動歯車装置1を用いたロボット9の一例を示す断面図である。このロボット9は、水平多関節ロボット、いわゆるスカラ(SCARA:Selective Compliance Assembly Robot Arm)型ロボットである。
図10に示すように、ロボット9は、2つのロボット用関節装置130(波動歯車装置1を含む)と、リンク91と、を備えている。2つのロボット用関節装置130は、ロボット9における2箇所の関節部にそれぞれ設けられている。リンク91は、2箇所のロボット用関節装置130を連結する。図10の例では、波動歯車装置1は、カップ型ではなく、シルクハット型の波動歯車装置からなる。つまり、図10に例示する波動歯車装置1では、シルクハット状に形成された可撓性外歯歯車3を用いている。
(7)製造方法
次に、本実施形態に係る波動歯車装置1の製造方法について、図11~図16Bを参照して説明する。
図11は、可撓性外歯歯車3の内周面301の加工に係る工程を示す概略説明図である。図12Aは、可撓性外歯歯車3の内周面301の加工に用いられる転圧ローラT1及びチャック部材T2を示す概略断面図であって、図12Bは、その概略側面図である。図13Aは、変形例に係るチャック部材T2を示す概略断面図であって、図13Bは、図13Aの領域Z1の概略拡大図である。図14は、可撓性外歯歯車3の外歯31の加工に係る工程を示す概略説明図である。図15Aは、外歯31の加工に用いられるホブT3を示す概略正面図であって、図15Bは、その概略側面図である。図16Aは、外歯31の転圧面300の加工に用いられる工具T4を示す概略正面図であって、図16Bは、その概略側面図である。
(7.1)可撓性外歯歯車の内周面の加工
まず、本実施形態に係る波動歯車装置1の製造方法のうち、可撓性外歯歯車3の内周面301の加工に関する方法について説明する。
本実施形態に係る波動歯車装置1の製造方法は、図11に示すように、準備工程(工程P11)と、塑性加工工程(工程P13)と、を有する。準備工程は、可撓性外歯歯車3の基になる基材3Aを準備する工程である。塑性加工工程は、基材3Aの内周面301に、塑性加工により第1領域R1を形成する工程である。すなわち、この製造方法では、作業者は、まず準備工程において、内周面301を有する筒状の基材3Aを準備する。基材3Aの内周面301は、例えば、金属部材に対する切削加工、研削加工又はホーニング加工によって形成されている。つまり、準備工程で準備される基材3Aの内周面301は、第2領域R2と同様に、その全域が金属の結晶粒がせん断された表面状態にある。
そして、作業者は、塑性加工工程において、基材3Aの内周面301の一部に塑性加工を施すことにより、内周面301に第1領域R1(転圧面)及び第2領域R2(切削面)を含む可撓性外歯歯車3を形成する。本実施形態では一例として、塑性加工工程で行われる塑性加工は、転圧ローラT1を用いたローラバニシング加工である。ローラバニシング加工は、転圧ローラT1のローラT12(図12A参照)で金属表面を押し均して、滑らかな表面状態を形成する転圧加工の一種である。つまり、塑性加工工程では、高硬度の金属製のローラT12を基材3Aの内周面301に圧接させた状態で、内周面301上を転がるようにローラT12を内周面301の周方向に移動させることにより、内周面301を塑性変形させ、第1領域R1を形成する。
より詳細には、塑性加工工程では、図12A及び図12Bに示すような、転圧ローラT1が用いられる。図12Aは、図12BのA1-A1線断面に相当する。転圧ローラT1は、中心軸Ax3を中心に回転(自転)可能に構成された主軸部T11と、主軸部T11の外周部に保持された複数のローラT12と、を有する。複数(ここでは一例として8つ)のローラT12は、主軸部T11の周方向において等間隔で配置されている。各ローラT12は、円柱状に形成されており、中心軸Ax3と平行な中心軸Ax4を中心に回転(自転)可能な状態で主軸部T11に保持される。このような転圧ローラT1を基材3A内に挿入した状態で、中心軸Ax3を中心に主軸部T11を(図12Bの例では反時計回りに)回転駆動することにより、複数のローラT12が、それぞれ中心軸Ax4を中心に(図12Bの例では時計回りに)回転する。このとき、基材3Aの内周面301に接した複数のローラT12は、内周面301上を転がるように移動しながら転圧を行う(図11の工程P13)。このような塑性加工工程によれば、滑らかな表面状態の第1領域R1を形成できるだけでなく、耐摩耗性の向上及び疲労強度の向上等の表面改質をも期待できる。
また、本実施形態では、少なくとも塑性加工工程に際して、基材3Aをチャック部材T2にて外周面側からチャッキングするチャッキング工程(工程P12)を更に有する。これにより、基材3Aの内周面301にローラT12が押し付けれた状態で、基材3A自体が外周側に広がるような変形を抑制でき、内周面301に対する転圧を効率的に行うことができる。
チャック部材T2は、図12A及び図12Bに示すように、全体的には、中心軸Ax3に平行な方向の両側が開口された円筒状に形成されている。チャック部材T2は、周方向において連続一体に形成された本体部T21と、周方向において複数に分割された複数の個片T22と、を有している。複数の個片T22は、本体部T21の軸方向の一方の端縁(図12Aでは右端縁)に連続している。複数の個片T22が、本体部T21との連結部を支点として中心軸Ax3側に撓むことで、複数の個片T22で囲まれた部位の内径が縮小される。そのため、図11に示すように、チャック部材T2における複数の個片T22側から基材3Aを挿入し(工程P11)、その後、複数の個片T22を外側から締め付けることにより、チャック部材T2は、基材3Aを外周側からチャッキングする。
そして、筒状の基材3Aを外周面側からチャック部材T2にてチャッキング(保持)した状態で、基材3A内に転圧ローラT1を挿入し、軸Ax3を中心に転圧ローラT1を回転させる(工程P13)。塑性加工(ローラバニシング加工)によって第1領域R1の形成された後、基材3A内から転圧ローラT1を抜去し、かつ複数の個片T22の締め付けを解除することにより、チャック部材T2による基材3Aのチャッキングを解除する(工程P14)。この状態では、チャック部材T2から基材3Aを取り出すことが可能である。
また、本実施形態では、塑性加工工程においては、可撓性外歯歯車3の外周面の外歯31は形成されていない。つまり、図11に示す基材3Aは、外歯31が形成されていない状態にある。外歯31を形成するための工程について詳しくは「(7.2)外歯の加工」の欄で説明する。すなわち、本実施形態に係る波動歯車装置1の製造方法は、塑性加工工程の後で、基材3Aの外周面に外歯31を形成する工程を更に有する。これにより、外歯31の裏側の位置に第1領域R1を形成する塑性加工工程において、外歯31に変形が生じる等の不具合の発生を回避できる。
外歯31の形成後には、基材3Aに対して、例えば、ショットピーニング加工又は化成被膜を形成する表面処理等を施す場合がある。ショットピーニング加工では、小さな球状投射材を投射することにより表面に改質硬化を与えることで、可撓性外歯歯車3の疲労強度の向上を図ることができる。これらショットピーニング加工又は表面処理等に際しては、転圧加工した基材3Aの内周面(特に第1領域R1)を養生(マスキング)することが好ましい。これにより、転圧加工した基材3Aの内周面が、ショットピーニング加工又は表面処理等の影響を受けにくくなる。
また、本実施形態では、転圧ローラT1(の主軸部T11)を回転駆動することで、塑性加工を行うが、これに限らず、転圧ローラT1の主軸部T11と基材3Aとの間に相対的な回転を生じさせればよい。例えば、転圧ローラT1の主軸部T11を固定した状態で、チャック部材T2を回転駆動することで、転圧ローラT1の主軸部T11に対して基材3Aを相対的に回転させることにより、塑性加工を行ってもよい。
ところで、チャック部材T2は、図13A及び図13Bに示すように、基材3Aの外周面に対応する形状の内周面T221を有していてもよい。図13A及び図13Bに示すチャック部材T2は、複数の個片T22の内周面T221が、歯切り前、つまり外歯31の形成前の基材3Aの外周面の形状に沿った形状に形成されている。具体的には、図13Bに示すように、歯切り前の基材3Aの外周面には、開口面35側に膨張部31Aが設けられている。この膨張部31Aは、基材3Aの周方向の全域に設けられており、他の部位に比べて肉厚に形成されている。そして、複数の個片T22の内周面T221は、この膨張部31Aに対応する形状の凹みを有しており、チャック部材T2で基材3Aをチャッキングした状態では、当該凹みに膨張部31Aが嵌ることになる。
すなわち、図13A及び図13Bの例では、チャック部材T2は、基材3Aの外周面に対応する形状の内周面T221を有し、かつ周方向において複数の個片T22に分割可能に構成されている。この構成によれば、塑性加工工程において、基材3Aの外周面の全域にわたって、チャック部材T2にて転圧ローラT1からの転圧力を受けることができる。そのため、例えば、可撓性外歯歯車3の胴部321と外歯31との境界部分に対しても、転圧による圧縮残留応力が付与される。つまり、可撓性外歯歯車3の外歯31部分に加えて胴部321部分についても内周面301を転圧加工面で構成し、少なくとも外歯31と胴部321との境界部分にも転圧加工による圧縮残留応力を付与した構成を実現できる。これにより、可撓性外歯歯車3を薄肉にしつつも圧縮残留応力によって靭性を改善(許容応力の向上)し、可撓性外歯歯車3の変形に対する耐性を維持できる。
(7.2)外歯の加工
次に、本実施形態に係る波動歯車装置1の製造方法のうち、可撓性外歯歯車3の外歯31の加工に関する方法について説明する。
本実施形態に係る波動歯車装置1の製造方法は、図14に示すように、工程P21、工程P22及び工程P23を有する。工程P21は、可撓性外歯歯車3の基になる(第2)基材3Aを準備する工程である。工程P22は、(第2)基材3Aに外歯31を形成する工程である。工程P23は、外歯31に、塑性加工により転圧面300を形成する工程である。すなわち、この製造方法では、作業者は、まず工程P21において、膨張部31Aを有する基材3Aを準備する。本実施形態では、工程P21で準備される(第2)基材3Aは、上述した塑性加工工程において内周面301に塑性加工(ローラバニシング加工)が施されて第1領域R1が形成された状態にある。そして、工程P22では、例えば、切削加工、研削加工又はホーニング加工等によって膨張部31Aに外歯31が形成される。つまり、工程P23で転圧面300が形成される前の基材3Aの外歯31は、第2領域R2と同様に、その全域が金属の結晶粒がせん断された表面状態にある。
また、実施形態1では、外歯31に(第1)転圧面300を形成するため、製造方法は上記工程P21~P22(図14参照)を有するが、実施形態2のように、内歯21に(第2)転圧面200を形成する場合には、工程P21~P23は、以下のように置き換えられる。すなわち、工程P21は、剛性内歯歯車2の基になる第1基材を準備する工程となる。工程P22は、第1基材に内歯21を形成する工程となる。工程P23は、内歯に、塑性加工により転圧面200を形成する工程となる。
ここで、第1基材に内歯21を形成する工程と、(第2)基材3Aに外歯31を形成する工程P22との少なくとも一方は、切削加工を含む。具体的には、内歯21及び外歯31は、ホブT3を回転駆動するホブ盤を用いた歯切り加工(ホブ加工)によって形成される。つまり、基材3Aに外歯31を形成する工程P22においては、作業者は、図14に示すように、基材3Aの膨張部31Aに押し付けられたホブT3を、ホブ盤にて中心軸Ax5を中心に回転駆動することにより、膨張部31Aを切削して外歯31を形成する。このとき、ホブT3の回転に伴って、基材3Aについても回転軸Ax1を中心に回転させることにより、基材3Aの外周面の全周にわたって外歯31が形成される。
より詳細には、工程P22では、図15A及び図15Bに示すような、ホブT3が用いられる。ホブT3は、中心軸Ax5を中心に回転(自転)可能に構成された円筒部T31と、円筒部T31の外周面から突出する複数の刃部T32と、を有する。複数の刃部T32は、中心軸Ax5を中心とする螺旋状となるように一列に並べて配置されている。図14、図15A及び図15Bにおいては、複数の刃部T32からなる列(刃列)の外形を想像線(二点鎖線)で表し、一部の刃部T32の図示を省略する。このようなホブT3の複数の刃部T32を基材3Aの膨張部31Aに押し付けた状態で、回転軸Ax1を中心に基材3Aを回転させながら、ホブ盤にて中心軸Ax5を中心に円筒部T31が(図15Bの例では時計回りに)回転駆動される。このとき、ホブT3の刃部T32が基材3Aの膨張部31Aを切削することで、中心軸Ax5に平行な方向における複数の刃部T32のピッチと同等のピッチにて外歯31が形成される(図14の工程P22)。
ところで、このような切削加工(ホブ加工)による歯切りによれば、外歯31は形成されるものの、その外歯31の表面は、第2領域R2と同様に、その全域が金属の結晶粒がせん断された表面状態となる。つまり、外歯31の表面には、ホブT3の送り量等に応じた鱗状のツールマークが生じることになる。本実施形態では、工程P22後の工程P23において、外歯31に塑性加工により転圧面300を形成することにより、このようなツールマークとしての凹凸が生じた外歯31の表面を押し均して、滑らかな表面状態を実現する。
具体的に、工程P23において、塑性加工は、図16A及び図16Bに示すような、切削加工に用いるホブT3と同一ピッチのリブT42を有する工具T4を用いて行われる。
工具T4は、中心軸Ax5を中心に回転(自転)可能に構成された円筒部T41と、円筒部T41の外周面から突出するリブT42と、を有する。リブT42は、中心軸Ax5を中心とする螺旋状に形成されている。ここで、円筒部T41はホブT3の円筒部T31と同一の形状を有し、リブT42はホブT3の複数の刃部T32からなる列(刃列)の外形と同一の形状を有している。つまり、工具T4は、ホブT3の刃部T32を無くした形状に相当し、ホブT3に代えてホブ盤に装着可能である。
このような工具T4のリブT42を基材3Aの外歯31に押し付けた状態で、回転軸Ax1を中心に基材3Aを回転させながら、ホブ盤にて中心軸Ax5を中心に円筒部T41が(図16Bの例では時計回りに)回転駆動される。このとき、工具T4のリブT42が外歯31に圧接された状態で、外歯31の表面を塑性変形させ、転圧面300を形成する(図14の工程P23)。これにより、歯切りの際に生じたツールマークと共に、結晶粒のせん断により生じた結晶粒界が押し潰されることになり、滑らかな表面状態の転圧面300が実現される。結果的に、作業者においては、ホブT3に代えて工具T4を用いて、ホブ加工と同様のホブ盤の操作を行うだけで、外歯31に転圧面300を容易に形成することができる。
また、工具T4はホブT3と同様の動きをすることで外歯31に転圧面300を形成するので、クラウニング又はレリービング(エンドレリーフ)等の加工を転圧にて行うことが可能である。これにより、歯筋修整部310を含む転圧面300を容易に実現することができる。
(7.3)その他
本実施形態に係る波動歯車装置1を製造するに際しては、特に外輪421の製造に当たり、貫通孔H1を設けたことによる強度低下を回避する対策を施すことが好ましい。
一例として、貫通孔H1を形成する孔あけ工程後に、外輪421の(特に転動面となる内周面425)の表面加工を行う表面加工工程を行うことが好ましい。つまり、貫通孔H1が外輪421の割れの起点にならないように、外輪421における貫通孔H1周辺に圧縮残留応力を残すことが好ましい。そのために、外輪421に焼き入れ等の表面加工工程を行う前に、貫通孔H1を形成し、熱処理による圧縮残留応力を残すことが好ましい。あるいは、熱処理後に、外輪421における貫通孔H1周辺に、小さな球状投射材を投射することにより表面に改質硬化を与えるショットピーニング加工等を施すことにより、外輪421の疲労強度を向上させてもよい。
(8)変形例
実施形態1は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態1は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、本開示で参照する図面は、いずれも模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。以下、実施形態1の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
貫通孔H1は、回転軸Ax1に平行な方向(歯筋方向D1)において、複数の転動体423の中心からずれた位置にあってもよい。一例として、貫通孔H1は、転動体423の中心から開口面35側にずれた位置、つまり歯筋方向D1において転動体423の中心と開口面35との間の位置に配置される。この構成によれば、貫通孔H1が形成された部材(ここでは外輪421)に転動体423からラジアル方向に大きな荷重が掛かったとしても、当該荷重は貫通孔H1の周辺には作用しにくく、貫通孔H1を起点とする割れ等が生じにくいという利点がある。
また、貫通孔H1は、回転軸Ax1に平行な方向(歯筋方向D1)において、複数箇所に設けられていてもよい。また、貫通孔H1は、ラジアル方向において、隙間X1側の開口面積が、隙間X1とは反対側の開口面積より小さくてもよい。すなわち、外輪421に設けられた(第1)貫通孔H1においては、隙間X1側となる外周面424側の貫通孔H1の開口面積は、隙間X1とは反対側となる内周面425側の貫通孔H1の開口面積よりも小さい。これにより、貫通孔H1を通して隙間X1に供給される潤滑剤Lb1の圧力を高めることが可能である。
図17A及び図17Bは、実施形態1の変形例を示し、図1A及び図1Bに相当する断面図である。図17A及び図17Bに示す波動歯車装置1Aは、(第2)貫通孔H2が、可撓性外歯歯車3の外歯31に設けられている。言い換えれば、本変形例では、貫通孔H2は、可撓性外歯歯車3の外歯31に設けられた「第2貫通孔」を含む。可撓性外歯歯車3の外歯31部分に設けられた貫通孔H2、つまり回転軸Ax1方向においてベアリング42に対応する部位に設けられた貫通孔H2は、可撓性外歯歯車3をラジアル方向に沿って貫通する。これにより、貫通孔H2の一方の開口面は、外輪421と可撓性外歯歯車3との間の隙間X1に面し、貫通孔H2の他方の開口面は、可撓性外歯歯車3の外歯31における内歯21との噛合面となる外周面に開口する。そのため、貫通孔H2は、一端が、外輪421と可撓性外歯歯車3との間の隙間X1につながり、他端が、外歯31と内歯21との間の空間につながる。したがって、外歯31と内歯21との間の空間は、貫通孔H2を介して、外輪421と可撓性外歯歯車3との間の隙間X1に連通する。よって、外歯31と内歯21との間の空間にある潤滑剤Lb1が、貫通孔H2を通して、外輪421と可撓性外歯歯車3との間の隙間X1に供給可能となる。
剛性内歯歯車2に対する可撓性外歯歯車3の相対的な回転時には、外歯31の一部が内歯21と噛み合っているので、外歯31及び内歯21がポンプとして機能する。つまり、外歯31及び内歯21がポンプ構造を構成する。本変形例では、外歯31と内歯21とが噛み合うことにより、外歯31と内歯21との間の空間内の圧力が高められるので、外歯31と内歯21との間にある潤滑剤Lb1は貫通孔H2を通して隙間X1側に押し出される。このように、外歯31及び内歯21は、ベーンポンプのような容積型のポンプを構成し、十分な圧力でもって潤滑剤Lb1は隙間X1側に押し出すので、隙間X1内に十分な潤滑剤Lb1を供給しやすい。
ここで、図17Bに示すように、(第2)貫通孔H2は、回転軸Ax1に平行な方向(歯筋方向D1)において、外歯31における中心と開口面35側の端部との間に位置する。また、(第2)貫通孔H2は、外歯31の歯底312及び歯先313のうち歯先313に配置されている。これにより、歯底312に貫通孔H2が形成される場合に比較すると、貫通孔H2が歯先313に形成されることで、貫通孔H2を起点とする割れ等が生じにくくなる。
また、貫通孔H1,H2が、外輪421及び可撓性外歯歯車3の外歯31の両方に設けられていてもよい。この場合、ベアリング42の外輪421と内輪422との間の空間にある潤滑剤Lb1は、貫通孔H1を通して、外輪421と可撓性外歯歯車3との間の隙間X1に供給可能となる。さらに、外歯31と内歯21との間の空間にある潤滑剤Lb1は、貫通孔H2を通して、外輪421と可撓性外歯歯車3との間の隙間X1に供給可能となる。したがって、隙間X1には、ラジアル方向の両側(内側及び外側)から、潤滑剤Lb1が供給可能となる。ここで、(第1)貫通孔H1と(第2)貫通孔H2とでは、内歯21の歯筋方向D1における位置が異なることが好ましい。
また、内歯21及び外歯31について歯形修整が施されていることは、波動歯車装置1に必須の構成ではない。例えば、内歯21と外歯31との少なくとも一方について、歯形修整が施されていなくてもよい。
また、ラジアル方向において、複数の転動体423の軌道と、外輪421に設けられた(第1)貫通孔H1の開口面との間に所定値以上の距離が確保されることは、波動歯車装置1に必須の構成ではない。つまり、転動体423が貫通孔H1に対応する位置に存在する状態で、貫通孔H1の開口面と転動体423との間に隙間が生じず、転動体423によって貫通孔H1が閉塞されてもよい。
また、ベアリング42において、各転動体423が4点支持されていることも、波動歯車装置1に必須の構成ではなく、例えば、各転動体423が2点支持される構成であってもよい。
また、波動歯車装置1は、実施形態1で説明したカップ型に限らず、例えば、シルクハット型、リング型、ディファレンシャル型、フラット型(パンケーキ型)又はシールド型等であってもよい。例えば、図10に例示するようなシルクハット型の波動歯車装置1であっても、カップ型と同様に、歯筋方向D1の一方に開口面35を有する筒状の可撓性外歯歯車3を有する。つまり、シルクハット状の可撓性外歯歯車3は、回転軸Ax1の一方側の端部にフランジ部を有し、フランジ部とは反対側の端部に開口面35を有する。シルクハット状の可撓性外歯歯車3であっても、開口面35側の端部に、外歯31を有し、かつ波動発生器4が嵌め込まれる。
また、アクチュエータ100の構成についても、実施形態1で説明した構成に限らず、適宜の変更が可能である。例えば、入力部103と、カム41との連結構造については、スプライン連結構造に限らず、オルダム継手等が用いられてもよい。入力部103と、カム41との連結構造としてオルダム継手が用いられることで、入力側の回転軸Ax1と波動発生器4(カム41)との間の芯ずれを相殺し、さらには、剛性内歯歯車2と可撓性外歯歯車3との芯ずれを相殺することができる。さらに、カム41は、入力部103に対して回転軸Ax1に沿って移動可能でなくてもよい。
また、本実施形態に係る波動歯車装置1、アクチュエータ100及びロボット用関節装置130の適用例は、上述したような水平多関節ロボットに限らず、例えば、水平多関節ロボット以外の産業用ロボット、又は産業用以外のロボット等であってもよい。水平多関節ロボット以外の産業用ロボットには、一例として、垂直多関節型ロボット又はパラレルリンク型ロボット等がある。産業用以外のロボットには、一例として、家庭用ロボット、介護用ロボット又は医療用ロボット等がある。
また、ベアリング42は、深溝玉軸受に限らず、例えば、アンギュラ玉軸受等であってもよい。さらには、ベアリング42は、玉軸受に限らず、例えば、転動体423がボール状でない「ころ」からなる、円筒ころ軸受、針状ころ軸受又は円錐ころ軸受等のころ軸受であってもよい。このような、ボール状(球体状)以外の転動体423であっても、転動体423が転動することにより圧力差が生じて、転動体423はポンプ構造として機能する。
また、波動歯車装置1、アクチュエータ100又はロボット用関節装置130の各構成要素の材質は、金属に限らず、例えば、エンジニアリングプラスチック等の樹脂であってもよい。
また、潤滑剤Lb1は、潤滑油(オイル)等の液状の物質に限らず、グリス等のゲル状の物質であってもよい。
また、貫通孔H1の数及び配置は、実施形態1で説明した数及び配置に限らない。例えば、貫通孔H1は、1つ、2つ又は4つ以上設けられていてもよい。さらに、複数の貫通孔H1が設けられる場合に、複数の貫通孔H1の間隔P1は、複数の転動体423の間隔P2の倍数であってもよいし、複数の貫通孔H1が等ピッチで配置されることも必須ではない。
また、可撓性外歯歯車3の内周面301の加工に用いられる転圧ローラT1及びチャック部材T2は、上述した構成に限らず、適宜変更可能である。同様に、外歯31の加工に用いられるホブT3及び工具T4についても、上述した構成に限らず、適宜変更可能である。一例として、ホブT3の複数の刃部T32からなる列(刃列)が、その途中から工具T4のリブT42に切り替わるように、ホブT3と工具T4とが一体化されていてもよい。
(実施形態2)
本実施形態に係る波動歯車装置1Bは、図18A、図18B及び図18Cに示すように、転圧面200が、剛性内歯歯車2の内歯21に設けられている点で、実施形態1に係る波動歯車装置1と相違する。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。図18Aは、図2Bの領域Z1を拡大した概略図である。図18Bは、図18Aの領域Z1における内歯21の表面状態を表す概略図であって、図18Cは、図18Aの領域Z2における内歯21の表面状態を表す概略図である。
すなわち、本実施形態では、転圧面200が、外歯31と内歯21とのうちの内歯21のみに設けられている。言い換えれば、本実施形態では、転圧面200は、剛性内歯歯車2の内歯21に設けられた「第2転圧面」である。(第2)転圧面200についても、実施形態1の(第1)転圧面300と同様に、金属の結晶粒をせん断しない加工(転圧加工)によって形成される。
また、内歯21に設けられる転圧面200(第2転圧面)においても、外歯31の転圧面300(第1転圧面)と同様に、歯先213以外の部位(歯底212等)に転圧面300が設けられることが好ましい。つまり内歯21のうち、転圧面200が設けられた歯底212等においては、内歯21の歯底212の一部(図18Aの領域Z1)を拡大した図18Bに示すように、主として結晶粒がせん断されていない滑らかな表面状態となる。これに対して、転圧面200が設けられていない歯先213においては、内歯21の歯先213の一部(図18Aの領域Z2)を拡大した図18Cに示すように、主として結晶粒がせん断された表面状態となる。そして、歯先213の表面粗さに比べて歯底212(転圧面200)の表面粗さが小さいことは明らかである。
本実施形態のように、内歯21に転圧面200が設けられた構成であっても、外歯31と内歯21との摩擦が低減されるので、外歯31と内歯21との摩擦による損失が低減されて、波動歯車装置1Bの動力伝達効率の低下が生じにくくなる。また、摩擦による表面の荒れ、若しくは錆の発生が抑制されるため、可撓性外歯歯車3の変形追随性も阻害されにくくなり、波動発生器4の回転に余分なエネルギーが必要となりにくく、動力伝達効率の低下の抑制につながる。結果的に、動力伝達効率の低下が生じにくい波動歯車装置1Bを提供できる。
実施形態2の変形例として、転圧面200,300が、内歯21及び外歯31の両方に設けられていてもよい。
実施形態2の構成(変形例を含む)は、実施形態1で説明した構成(変形例を含む)と適宜組み合わせて適用可能である。
(まとめ)
以上説明したように、第1の態様に係る波動歯車装置(1,1A,1B)は、剛性内歯歯車(2)と、可撓性外歯歯車(3)と、波動発生器(4)と、を備える。剛性内歯歯車(2)は、内歯(21)を有する環状の部品である。可撓性外歯歯車(3)は、外歯(31)を有し、剛性内歯歯車(2)の内側に配置される環状の部品である。波動発生器(4)は、回転軸(Ax1)を中心に回転駆動される非円形状のカム(41)、及びカム(41)の外側に装着されるベアリング(42)を有する。波動発生器(4)は、可撓性外歯歯車(3)の内側に配置され、可撓性外歯歯車(3)に撓みを生じさせる。波動歯車装置(1,1A,1B)は、カム(41)の回転に伴って可撓性外歯歯車(3)を変形させ、外歯(31)の一部を内歯(21)の一部に噛み合わせて、可撓性外歯歯車(3)を剛性内歯歯車(2)との歯数差に応じて剛性内歯歯車(2)に対して相対的に回転させる。可撓性外歯歯車(3)の内周面(301)のうち、外歯(31)の裏側に位置する第1領域(R1)は、第1領域(R1)以外の第2領域(R2)に比べて表面粗さが小さい。
この態様によれば、ベアリング(42)と可撓性外歯歯車(3)との接触部位において潤滑剤(Lb1)が不足又は枯渇する「潤滑剤切れ」を防止することにより、フレッティング摩耗の発生を抑制する。さらに言えば、第2領域(R2)に比べて表面粗さが小さい第1領域(R1)を、可撓性外歯歯車(3)の内周面(301)のうちの外歯(31)の裏側に設けることにより、可撓性外歯歯車(3)と波動発生器(4)との接触部位に十分な潤滑剤(Lb1)を維持する。その結果、可撓性外歯歯車(3)におけるベアリング(42)との接触部位の表面は潤滑剤(Lb1)で覆われた状態となり、フレッティング摩耗の発生が抑制される。よって、ベアリング(42)と可撓性外歯歯車(3)との間のフレッティング摩耗に起因する不具合が生じにくくなり、信頼性の低下が生じにくい波動歯車装置(1,1A,1B)を提供可能である。
第2の態様に係る波動歯車装置(1,1A,1B)では、第1の態様において、第1領域(R1)と波動発生器(4)の外周面(424)との間に潤滑剤(Lb1)が保持されている。
この態様によれば、第2領域(R2)に比べて表面粗さが小さい第1領域(R1)には、その表面状態により、潤滑剤(Lb1)が維持されやすくなる。
第3の態様に係る波動歯車装置(1,1A,1B)では、第1又は2の態様において、第1領域(R1)は転圧面であって、第2領域(R2)は切削面である。
この態様によれば、加工方法の違いにより、第1領域(R1)と第2領域(R2)とを比較的容易に実現できる。
第4の態様に係る波動歯車装置(1,1A,1B)では、第1~3のいずれかの態様において、第1領域(R1)は、少なくとも回転軸(Ax1)に平行な方向において波動発生器(4)の外周面(424)との対向面の全域に設けられている。
この態様によれば、可撓性外歯歯車(3)の内周面(301)のうち波動発生器(4)の外周面(424)が接触する部位の全域を第1領域(R1)とすることで、フレッティング摩耗の発生をより一層抑制しやすくなる。
第5の態様に係る波動歯車装置(1,1A,1B)では、第1~4のいずれかの態様において、可撓性外歯歯車(3)は、外歯(31)の歯筋方向(D1)の一方に開口面(35)を有する筒状である。第1領域(R1)は、開口面(35)に連続する。
この態様によれば、可撓性外歯歯車(3)に対して開口面(35)側から波動発生器(4)を嵌め込みやすくなる。
第6の態様に係る波動歯車装置(1,1A,1B)では、第1~5のいずれかの態様において、第1領域(R1)の表面粗さは、第2領域(R2)の表面粗さの1/40倍以上、1/10倍以下である。
この態様によれば、第1領域(R1)をフレッティング摩耗の抑制に適した表面粗さとすることができる。
第7の態様に係る波動歯車装置(1,1A,1B)では、第1~6のいずれかの態様において、ベアリング(42)の外輪(421)と可撓性外歯歯車(3)における外歯(31)との少なくとも一方には、ラジアル方向に沿って貫通し、外輪(421)と可撓性外歯歯車(3)との間の隙間(X1)につながる貫通孔(H1,H2)が設けられている。
この態様によれば、外輪(421)と可撓性外歯歯車(3)との間の隙間(X1)には、貫通孔(H1,H2)を通して潤滑剤(Lb1)が供給可能となる。これにより、外輪(421)と可撓性外歯歯車(3)との接触部位において潤滑剤(Lb1)が不足又は枯渇する「潤滑剤切れ」を防止することにより、フレッティング摩耗の発生をより一層抑制することができる。
第8の態様に係る波動歯車装置(1,1A,1B)の製造方法は、第1~7のいずれかの態様に係る波動歯車装置(1,1A,1B)の製造方法であって、準備工程と、塑性加工工程と、を有する。準備工程では、可撓性外歯歯車(3)の基になる基材(3A)を準備する。塑性加工工程では、基材(3A)の内周面(301)に、塑性加工により第1領域(R1)を形成する。
この態様によれば、ベアリング(42)と可撓性外歯歯車(3)との間のフレッティング摩耗に起因する不具合が生じにくくなり、信頼性の低下が生じにくい波動歯車装置(1,1A,1B)を提供可能である。
第9の態様に係る波動歯車装置(1,1A,1B)の製造方法は、第8の態様において、塑性加工工程の後で、基材(3A)の外周面に外歯(31)を形成する工程を更に有する。
この態様によれば、塑性加工工程において外歯(31)が変形することを回避しやすくなる。
第10の態様に係る波動歯車装置(1,1A,1B)の製造方法は、第8又は9の態様において、チャッキング工程を更に有する。チャッキング工程では、少なくとも塑性加工工程に際して、基材(3A)をチャック部材(T2)にて外周面側からチャッキングする。
この態様によれば、基材(3A)がチャック部材(T2)にて外周面側から支持されるので、基材(3A)の内周面(301)を転圧しやすくなる。
第11の態様に係る波動歯車装置(1,1A,1B)の製造方法では、第10の態様において、チャック部材(T2)は、基材(3A)の外周面に対応する形状の内周面(T221)を有し、かつ周方向において複数の個片(T22)に分割可能に構成されている。
この態様によれば、基材(3A)の外周面の全域にわたって、チャック部材(T2)にて転圧力を受けることができる。
第12の態様に係るロボット用関節装置(130)は、第1~7のいずれかの態様に係る波動歯車装置(1,1A,1B)と、剛性内歯歯車(2)に固定される第1部材(131)と、可撓性外歯歯車(3)に固定される第2部材(132)と、を備える。
この態様によれば、ベアリング(42)と可撓性外歯歯車(3)との間のフレッティング摩耗に起因する不具合が生じにくくなり、信頼性の低下が生じにくいロボット用関節装置(130)を提供可能である。
第13の態様に係る歯車部品は、第1~7のいずれかの態様に係る波動歯車装置(1,1A,1B)の可撓性外歯歯車(3)として用いられる。
この態様によれば、ベアリング(42)と可撓性外歯歯車(3)との間のフレッティング摩耗に起因する不具合が生じにくくなり、信頼性の低下が生じにくい歯車部品を提供可能である。
第2~7の態様に係る構成については、波動歯車装置(1,1A,1B)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。第9~11の態様に係る構成については、波動歯車装置(1,1A,1B)の製造方法に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。