JP7469670B2 - 鉄心の製造方法および製造装置 - Google Patents

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Description

本発明は鉄心の製造方法および製造装置に関する。
巻鉄心は、トランス、リアクトル、ノイズフィルター等の磁心として広く用いられている。
巻鉄心の製造方法として、鋼板を筒状に巻き取った後、筒状積層体のまま、屈曲部が一定曲率となるようにプレスして略矩形状に形成した後、焼鈍をして歪取り(歪除去)と形状保持とを行う方法が広く知られている(例えば特許文献1参照)。
また、巻鉄心の別の製造方法として、巻鉄心の屈曲部となる鋼板の部分を、曲率半径が3mm以下の比較的小さな屈曲領域が形成されるように予め曲げ加工し、当該曲げ加工された鋼板を積層して巻鉄心を得る製造方法が知られている(例えば特許文献2~特許文献4参照)。当該製造方法によれば、大掛かりなプレス工程が不要であり、鋼板は精緻に折り曲げられて鉄心形状が保持される。また、加工歪が曲げ部(角部)のみに集中するため、焼鈍(焼鈍工程)による歪除去の省略が可能である。このように工業的な利点が大きいことから当該製造方法の適用が進んでいる。
また、上記のように、加工歪を曲げ部(角部)のみに集中させ、歪除去のための焼鈍工程の省略を可能とした鉄心では、加工歪の制御が重要となることが知られている(例えば特許文献5参照)。
特開2005-286169号公報 特許第6224468号公報 特開2018-148036号公報 AU2012337260A1 WO2018/131613
本発明は、巻鉄心の特性の劣化を抑制しつつ、巻鉄心の生産性を向上させることが可能な鉄心の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
電磁鋼板に予め曲げ加工を施し、当該曲げ加工を施した電磁鋼板(曲げ加工体とする)を積層して巻鉄心を得る製造方法において、電磁鋼板を1枚ずつ曲げ加工するよりも、複数枚の電磁鋼板を重ね合わせた状態として曲げ加工する場合の方が、生産性が向上する。
本願発明者らは、複数枚の電磁鋼板を重ね合わせた状態として曲げ加工する方法を用いた場合、曲げ加工の条件を適切に制御しなければ、曲げ部における多数の双晶の発生や曲げ加工精度の劣化という問題が生じ、1枚ずつ曲げ加工する方法を用いた場合よりも、巻鉄心の特性が劣化してしまうとの知見を得た。
また、本願発明者らがさらに検討を進めると、鋼板表面に適切な粘度を有する液体を塗布した場合に、巻鉄心の特性の劣化が抑制される、すなわちコア鉄損が良好となる(鉄損値の上昇を抑えることができる)ことが明らかとなった。
前記目的を達成するために、本発明は、鉄心の製造方法であって、
複数の方向性電磁鋼板を重ね合わせた状態とし、重ね合わせた状態の前記方向性電磁鋼板に曲げ加工を施して、曲げ加工体を成形する成形工程と、前記曲げ加工体を板厚方向に積層する積層工程とを含み、
前記方向性電磁鋼板の板厚が0.23mm以下となっており、
前記曲げ加工の時点において、重ね合わせた状態の前記方向性電磁鋼板の重ね合わせ面に、所定の動粘度を有する液体が存在するように処理が施され、
前記曲げ加工時の温度における前記所定の動粘度が0.8mm/s以上220mm/s以下であることを特徴とする。
また、本発明の鉄心の製造方法は、
前記曲げ加工の時点において、重ね合わせた状態の前記方向性電磁鋼板の重ね合わせ面に存在する前記液体の沸点が、230℃以下であることを特徴とする。
また、本発明の鉄心の製造方法は、
前記曲げ加工の後、前記曲げ加工体、または前記曲げ加工体を積層して製造された鉄心に、所定温度下で所定時間の熱処理を施す乾燥工程を備え、
前記所定温度は50℃以上150℃以下であり、
前記所定時間は0秒を超え10秒以下であることを特徴とする。
また、本発明は、方向性電磁鋼板に曲げ加工を施して、曲げ加工体を成形する加工装置を備えた鉄心の製造装置であって、
前記加工装置は、複数の前記方向性電磁鋼板を重ね合わせた状態とし、重ね合わせた状態の前記方向性電磁鋼板に曲げ加工を施し、
前記方向性電磁鋼板の板厚が0.23mm以下となっており、
前記曲げ加工の直前において、重ね合わせた状態の前記方向性電磁鋼板の重ね合わせ面に所定の動粘度を有する液体が存在するように処理が施され、
前記曲げ加工時の温度における前記所定の動粘度が0.8mm/s以上220mm/s以下であることを特徴とする。
また、本発明の鉄心の製造装置は、
複数の前記方向性電磁鋼板の前記加工装置への供給を制御する供給制御装置を備え、
前記曲げ加工体において外側に位置する前記方向性電磁鋼板を外側鋼板とし、
前記曲げ加工体において内側に位置する前記方向性電磁鋼板を内側鋼板とし、
前記外側鋼板と前記内側鋼板とを重ね合わせるまでの間に、重ね合わせた前記方向性電磁鋼板の重ね合わせ面の少なくとも一方に、前記液体を塗布する液体塗布装置を備えることを特徴とする。
また、本発明の鉄心の製造装置は、
重ね合わせた前記方向性電磁鋼板の重ね合わせ面に塗布する前記液体の沸点が、230℃以下であることを特徴とする。
また、本発明の鉄心の製造装置は、
前記曲げ加工の後、前記曲げ加工体、または前記曲げ加工体を積層して製造された鉄心に、所定温度下で所定時間の熱処理を施す乾燥装置を備え、
前記所定温度は50℃以上150℃以下であり、
前記所定時間は0秒を超え10秒以下であることを特徴とする。
本発明によれば、巻鉄心の特性の劣化を抑制しつつ、巻鉄心の生産性を向上させることができる。
巻鉄心の一例を模式的に示す斜視図である。 図1に示す巻鉄心の側面図である。 巻鉄心の別の一例を模式的に示す側面図である。 曲げ加工体の一例を模式的に示す側面図である。 曲げ加工体の別の一例を模式的に示す側面図である。 曲げ加工体の屈曲部の一例を模式的に示す側面図である。 本発明に係る製造方法で用いられる製造装置の一例を示す概略図である。 本発明に係る製造方法で製造される曲げ加工体の一例を模式的に示す図である。 本発明に係る製造装置による曲げ加工の一例を示す概略図であり、(a)は曲げ加工が施される前の状態を示し、(b)は曲げ加工が施されている状態を示し、(c)は曲げ加工が施された後、方向性電磁鋼板が切断された状態を示している。 実施例(比較例)で製造した巻鉄心の寸法を示す模式図である。
以下、本発明に係る鉄心の製造方法および製造装置について順に詳細に説明する。ただし、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。なお、下記する数値限定範囲には、下限値および上限値がその範囲に含まれる。「超」または「未満」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。また、化学組成に関する「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「垂直」、「同一」、「直角」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。また、本明細書において「方向性電磁鋼板」のことを単に「鋼板」または「電磁鋼板」と記載し、「巻鉄心」のことを単に「鉄心」と記載する場合もある。
まず、本発明に係る鉄心の製造方法を用いて製造される巻鉄心について説明する。
<巻鉄心>
図1は、巻鉄心の一実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は、図1に示される巻鉄心の側面図である。図3は、巻鉄心の別の一実施形態を模式的に示す側面図である。なお、本発明において側面視とは、巻鉄心を構成する長尺状の方向性電磁鋼板の幅方向(図1におけるY軸方向)に視ることをいい、側面図とは側面視により視認される形状を表した図(図1のY軸方向の図)である。また、板厚方向とは、方向性電磁鋼板の板厚方向であり、矩形状の巻鉄心に成形された状態においては、巻鉄心の周面に垂直な方向を意味する。
巻鉄心10は、方向性電磁鋼板から形成された曲げ加工体1が板厚方向に積み重ねられ、側面視において略多角形状の積層構造を有している。なお、巻鉄心10をそのまま巻鉄心として使用してもよいし、必要に応じて、積み重ねられた複数の曲げ加工体1を一体的に固定するために、結束バンド等、公知の締付具等を備えていてもよい。
巻鉄心10の鉄心長は0.6m以上であることが好ましく、0.7m以上であることがより好ましい。巻鉄心10の鉄心長とは、側面視による巻鉄心10の積層方向の中心点における周長をいう。鉄心において鉄心長が変化しても、屈曲部体積は一定であるため屈曲部で発生する鉄損は一定であるが、鉄心長が長い方が屈曲部の体積率は小さくなるため、鉄損劣化への影響が小さくなる。
巻鉄心10の鋼板積層厚さは、特に制限はなく、例えば45mmとなっている。巻鉄心10の鋼板積層厚さとは、側面視による巻鉄心10の平面部における積層方向の最大の厚さをいう。
本発明に係る鉄心は、側面視において略多角形状となっている。以下の図を用いた説明においては、図示および説明を簡易にするため、一般的な形状でもある略矩形状(四角形)の鉄心で説明するが、屈曲部の角度や数、平面部の長さによって、様々な形状の鉄心が製造可能である。例えば、すべての屈曲部の角度(曲げ角度)が45°で平面部の長さが等しければ、側面視は略正八角形になる。また、角度が60°で6個の屈曲部を有し、平面部の長さが等しければ側面視は略正六角形となる。
図1および図2に示すように、巻鉄心10は、長手方向に平面部4(平面部4aを含む)と屈曲部5とが交互に連続する曲げ加工体1が、板厚方向に積み重ねられた部分を含み、側面視において略矩形状の積層構造2を有する。図2では、すべての屈曲部5の角度(曲げ角度)が45°となっており、図3では、すべての屈曲部5の角度(曲げ角度)が30°となっている。なお、図示を省略するが、すべての屈曲部5の角度が同一となっている必要はなく、角度が異なる複数の屈曲部5を有していてもよい。
本発明に係る鉄心は、様々な角度を有する屈曲部5により構成できるが、加工時の変形による歪み発生を抑制して鉄損を抑える観点からは、屈曲部5の曲げ角度φ(φ1、φ2、φ3)は60°以下であることが好ましく、45°以下であることがより好ましい。また、生産効率の点からは、鉄心の形状を、すべての屈曲部5の曲げ角度が等しくなるように設計することが好ましい。
次に、図6を用いて屈曲部5について詳細に説明する。図6は、曲げ加工体1の屈曲部5(曲線部分)の一例を模式的に示す図である。屈曲部5の曲げ角度とは、曲げ加工体1の屈曲部5において、折り曲げ方向の後方側の直線部と前方側の直線部の間に生じた角度差を意味し、曲げ加工体1の外面において、屈曲部5を挟む平面部4,4a、屈曲部5を挟む平面部4a,4a、または屈曲部5を挟む平面部4,4の表面である直線部分を延長して得られる2つの仮想線Lb-elongation1、Lb-elongation2がなす角の補角の角度φとして表される。この際、延長する直線が鋼板表面から離脱する点が、鋼板外面側の表面における平面部4と屈曲部5の境界であり、図6においては、点Fおよび点Gである。
さらに、点Fおよび点Gのそれぞれから鋼板外表面に垂直な直線を延長し、鋼板内面側の表面との交点をそれぞれ点Eおよび点Dとする。この点Eおよび点Dが鋼板内面側の表面における平面部4または平面部4aと屈曲部5の境界である。屈曲部5とは、曲げ加工体1の側面視において、上記点D、点E、点F、点Gにより囲まれる方向性電磁鋼板の部位である。図6においては、点Dと点Eの間の鋼板表面、すなわち屈曲部5の内側表面をLaとし、点Fと点Gの間の鋼板表面、すなわち屈曲部5の外側表面をLbとしている。
また、この図には、屈曲部5の側面視における内面側曲率半径rが表わされている。上記Laを点E及び点Dを通過する円弧で近似することで、屈曲部5の曲率半径rを得る。曲率半径rが小さいほど屈曲部5の曲線部分の曲がりは急であり、曲率半径rが大きいほど屈曲部5の曲線部分の曲がりは緩やかになる。
本発明の巻鉄心では、板厚方向に積層された各曲げ加工体1の各屈曲部5における曲率半径rは、ある程度の変動を有するものであってもよい。この変動は、成形精度に起因する変動であることもあり、積層時の取り扱いなどで意図せぬ変動が発生することも考えられる。このような意図せぬ誤差は、現在の通常の工業的な製造であれば0.2mm程度以下に抑制することが可能である。このような変動が大きい場合は、十分に多数の鋼板について曲率半径を測定し、平均することで代表的な値を得ることができる。また、何らかの理由で意図的に変化させることも考えられるが、本発明はそのような形態を除外するものではない。
なお、屈曲部5の曲率半径rの測定方法にも特に制限はないが、例えば、市販の顕微鏡(Nikon ECLIPSE LV150)を用いて200倍で観察することにより測定することができる。具体的には、観察結果から、曲率中心A点を求めるが、この求め方として、例えば、線分EFと線分DGを点Bとは反対側の内側に延長させた交点をAと規定すれば、曲率半径rの大きさは、線分ACの長さに該当する。
屈曲部5の側面視における曲率半径rは、例えば1mmを超え、3mm以下の範囲となっている。
図4は、曲げ加工体1の一例を模式的に示す図である。図4に示す曲げ加工体1は、1枚の方向性電磁鋼板が側面視において略矩形環状となっている。図4は、1つの曲げ加工体1が巻鉄心10の1層分を構成する場合を示している。図4に示す曲げ加工体1は、1つの平面部4が長手方向の端面である接合部(隙間)6を有し、他の3つの平面部4は接合部6を有していない。
図5は、曲げ加工体1の別の一例を模式的に示す図である。図5に示す曲げ加工体1は、1枚の方向性電磁鋼板が、側面視において略コ字形状となっている。図5は、1つの曲げ加工体1が巻鉄心10の1層の約半周分を構成し、2つの曲げ加工体1が2つの接合部6を介して巻鉄心10の1層分を構成する場合を示している。換言すると、図5は、2枚の方向性電磁鋼板が、側面視において略矩形環状となり、巻鉄心10の1層分を構成する場合を示している。2つの曲げ加工体1が巻鉄心10の1層分を構成する場合、曲げ加工体1の端面同士が対向する位置に、接合部(隙間)6が形成される。なお、このように図5に示す1つの曲げ加工体1が鉄心10の1層分を構成するものであってもよい。その場合、当該曲げ加工体1を積層すると、側面視において略コ字形状の鉄心10が得られることとなる。
また、図示は省略するが、曲げ加工体1は、1枚の方向性電磁鋼板が、側面視において略L字形状となっているものであってもよい。その場合、当該曲げ加工体1を積層すると、側面視において略L字形状の鉄心10が得られることとなる。
<鉄心の製造方法>
次に、本発明に係る鉄心の製造方法について説明する。本発明に係る鉄心の製造方法は、(1)準備工程と、(2)前処理工程と、(3)成形工程と、(4)積層工程とを有する。
(1)準備工程
準備工程とは、構成/結晶方位を制御した母鋼板の表面に被膜が形成された一般的な方向性電磁鋼板を準備(製造)する工程である。
(2)前処理工程
方向性電磁鋼板に適切な液体物質を塗布する前処理を行う工程である。
(3)成形工程
複数の方向性電磁鋼板を重ね合わせた状態とし、重ね合わせた状態の方向性電磁鋼板に曲げ加工を施して、曲げ加工体を成形する工程である。以下、曲げ加工が施される前における、複数の方向性電磁鋼板を重ね合わせる動作を、第1の積層ということがある。
(4)積層工程
曲げ加工体を積層して積層体を形成する工程である。以下、曲げ加工体を積層する動作を、第2の積層ということがある。
(1)準備工程
(母鋼板)
母鋼板は、方向性電磁鋼板として公知のものの中から、適宜選択して用いることができる。母鋼板は、当該母鋼板中の結晶粒の方位が{110}<001>方位に高度に集積された鋼板であり、圧延方向に優れた磁気特性を有する。以下、好ましい母鋼板の一例について説明するが、以下のものに限定されるものではない。
母鋼板の化学組成は、質量%で、Si:2.0%~7.0%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる。この化学組成は、結晶方位を{110}<001>方位(Goss方位)に集積させたGoss集合組織に制御し、良好な磁気特性を確保するためである。その他の元素については、特に限定されるものではなく、Feに置き換えて、公知の元素を公知の範囲で含有することが許容される。代表的な元素の代表的な含有範囲は以下のようである。
C:0~0.0050%、
Mn:0~1.0%、
S:0~0.0150%、
Se:0~0.0150%、
Al:0~0.0650%、
N:0~0.0050%、
Cu:0~0.40%、
Bi:0~0.010%、
B:0~0.080%、
P:0~0.50%、
Ti:0~0.0150%、
Sn:0~0.10%、
Sb:0~0.10%、
Cr:0~0.30%、
Ni:0~1.0%、
Nb:0~0.030%、
V:0~0.030%、
Mo:0~0.030%、
Ta:0~0.030%、
W:0~0.030%、
これらの選択元素は、その目的に応じて含有させればよいので下限値を制限する必要がなく、実質的に含有していなくてもよい。また、これらの選択元素が不純物として含有されていてもよい。なお、不純物とは、意図せず含有される元素を指し、母鋼板を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境等から混入する元素を意味する。
母鋼板の化学成分は、鋼の一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、母鋼板の化学成分は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。具体的には、例えば、母鋼板の中央の位置から35mm角の試験片を取得し、島津製作所製ICPS-8100等(測定装置)により、予め作成した検量線に基づいた条件で測定することにより特定できる。なお、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用いて測定すればよい。
なお、上記の化学組成は、母鋼板の成分である。測定試料となる方向性電磁鋼板が、表面に酸化物等からなる一次被膜(グラス被膜、中間層)、絶縁被膜等を有している場合は、これらを公知の方法で除去してから化学組成を測定する。
(製造方法)
方向性電磁鋼板の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方向性電磁鋼板の製造方法を適宜選択することができる。製造方法の好ましい具体例としては、例えば、Cを0.04~0.1質量%とし、その他は上記の化学組成を有するスラブを1000℃以上に加熱して熱間圧延を行った後、必要に応じて熱延板焼鈍を行い、次いで、1回又は中間焼鈍を挟む2回以上の冷延により冷延鋼板とし、当該冷延鋼板を、例えば湿水素-不活性ガス雰囲気中で700~900℃に加熱して脱炭焼鈍し、必要に応じて更に窒化焼鈍し、焼鈍分離剤を塗布した上で、1000~1200℃程度で仕上焼鈍し、900℃程度で絶縁皮膜を形成する方法が挙げられる。さらにその後、摩擦係数を調整するための塗装などを実施してもよい。また、一般的に「磁区制御」と呼ばれる処理を鋼板の製造工程において公知の方法で施した鋼板であってもよい。
(板厚)
方向性電磁鋼板自体の鉄損低減およびそれにより製造される鉄心の鉄損低減のためには、板厚が薄い方が有利であることは公知の通りである。また、本発明は、板厚が薄い鋼板で鉄心を製造する際の積層枚数の増加、すなわち曲げ加工回数の増加を解消することを目的の一つとしている。このことから、方向性電磁鋼板の板厚が0.23mm以下と薄い鋼板を用いる製造方法において本発明は特に有用となる。一方、本発明では、曲げ加工の金型の曲げ半径をrとし、第1の積層における積層枚数を2枚とする場合、積層して曲げ加工する鋼板の板厚をtとすると、曲げ加工体の外側に位置する鋼板は、曲げ半径がr+tの金型で曲げられる状況ともなる。これは、曲げ半径を小さくして曲げ歪領域を局所化させることによりメリットを得ている本発明が対象とする加工方法の特徴を失わせることにもなる。この点からも、本発明で用いる方向性電磁鋼板の板厚は0.23mm以下とすることが好ましい。なお、板厚の下限は特に限定する必要はないが、鋼板自体の製造効率を考えると、対象とする方向性電磁鋼板の板厚の下限は0.05mmとすることが好ましく、より好ましくは下限が0.09mmであり、さらに好ましくは下限が0.12mmである。また、第1の積層における積層枚数が3枚以上である場合は、曲げ加工の生産効率および曲げ加工体の外側に位置する鋼板の実質的な曲げ半径の増大を考慮し、積層する方向性電磁鋼板の板厚は0.23mm未満とすることが好ましい。例えば第1の積層における積層枚数が3枚である場合は当該板厚を0.20mm以下とすることが好ましく、第1の積層における積層枚数が4枚である場合は当該板厚を0.15mm以下とすることが好ましい。
本実施形態では、帯状の方向性電磁鋼板をコイルに巻き取ってフープ材(コイル材)とする。
(2)前処理工程
準備工程で製造された方向性電磁鋼板に適切な液体物質を塗布する。前処理は、前処理装置(液体塗布装置)によって施される。前処理としては、液体物質をスプレー噴射やロールコーター等で塗布する処理がある。液体物質としては、例えば、潤滑油等がある。
本発明が注目する、積み重ねた鋼板(重ね合わせた鋼板)を同時に曲げ加工して形成した曲げ加工体を用いた鉄心でのコア鉄損の劣化(鉄損値の増加)は、曲げ加工時に鋼板に作用する力が局所的に変動し、曲げ加工精度が低下すること、および曲げ部(屈曲部)での変形双晶の発生が増大することを介してもたらされていると推測される。ここで、重ね合わせた鋼板を曲げる際における、対向する鋼板の面内方向および面外方向への相対的なずれは、少なくとも微視的には回避できない。特に曲げ加工において、鋼板同士の接触、鋼板と金型との接触を完全に均一に維持することは困難であり、特に本発明が対象とする薄手鋼板の成形においては、相対的なずれは相当程度に発生する。
この相対的なずれのうち、対向する鋼板の面外方向への相対的なずれは、鋼板に作用する力の局所的な変動の原因となり、当該力の局所的な変動が曲げ加工精度の低下や曲げ部(屈曲部)での変形双晶の発生増大を招く。なお、鋼板に作用する力の局所的な変動を抑える上で、対向する鋼板の面内方向への相対的なずれは、適度に許容されていることが好ましい。
上記問題の発生を抑制するために、本実施形態では、重ね合わせた鋼板の重ね合わせ面に適切な粘度を有する液体(流体)を介在(存在)させる。重ね合わせた鋼板の重ね合わせ面とは、鋼板同士が互いに接触する面を指す。液体塗布装置は、重ね合わせ面の少なくとも一方の面に、液体物質を塗布する。
重ね合わせ面に液体物質を介在させると、重ね合わせた鋼板同士が完全に固着した状態となることなく、液体の表面張力によって鋼板の密着力が上がった状態、すなわち鋼板同士の密着性が向上した状態となる。これにより、対向する鋼板の面外方向への相対的なずれを抑制できると同時に、重なった鋼板が相対的に緩やかな拘束状態となることで、局所的に作用する力に対しては対向する鋼板が面内方向で適度に相対的にずれて、薄手鋼板では敏感となっていた局所的に作用する力の変動を抑えることができる。したがって、曲げ加工精度の低下や双晶の増大を抑制し、コア鉄損の劣化を抑制することができる。
(液体物質の粘度)
液体物質の粘度は、JIS Z8803:2011に従い測定すればよい。一般的に粘度は液体の温度に強く依存するため、粘度の測定は、後述する成形工程において鋼板が曲げられる時点で想定される温度での測定が必要となる。注意を要するのは、本発明の効果は温度とは無関係であり、曲げ加工を行う時点での粘度の絶対値に依存して発現する。つまり、粘度の測定においては温度に配慮するが、その温度自体が重要なのではなく、その温度、つまり曲げ加工時に想定される温度での粘度の絶対値が本発明において重要な規定値となる。
液体物質による鋼板の拘束は拘束力が弱すぎると効果が発揮されず、反対に拘束力が強すぎても鋼板の曲げ加工を阻害する要因となる。本実施形態では、曲げ加工時の温度において、塗布する液体物質の動粘度は、0.8mm/s以上220mm/s以下であることが好ましく、10mm/s以上150mm/s以下であることがより好ましく、30mm/s以上100mm/s以下であることがさらに好ましい。液体物質の動粘度が0.8mm/s未満である場合、或いは220mm/sを超える場合には、コア鉄損の向上(すなわち鉄損値を抑えること)という効果が発現されにくい傾向がある。
液体物質としては、上記範囲の動粘度を有する物質であれば種類を問わない。動粘度は物質の種類と温度に応じた値となる。単一物質としては、例えば曲げ加工温度を25℃とすれば、水(0.9[mm/s])、エタノール(1.4[mm/s])、シクロヘキサン(1.2[mm/s])、エチルグリコール(14[mm/s])等を用いることができる。また、一般的には様々な物質を混合して粘度を調整して使用することが工業的には好ましい。この場合、例えば一般的な潤滑油であれば、数[mm/s]程度から数百[mm/s]程度の潤滑油を選定することが容易である。また、その他にも有機化合物を溶質として有機溶媒に混合した液体などを用いることができる。また、混合物質によっては塗布液の乾燥後に固体物質が鋼板表面に残存することが考えられるが、そのような溶液であっても、鉄心として要求される特性を阻害しないことを確認した上で用いることが除外されない。
液体物質の塗布量は1つの重ね合わせ面につき、0.1[g/m]以上1.0[g/m]以下とすることが好ましい。液体物質の塗布量が0.1[g/m]未満であり、塗布量が少なすぎると、対向する鋼板同士が十分に密着せず、加工中の鋼板相互の拘束効果が十分に得られない。一方、液体物質の塗布量が1.0[g/m]を超え、多量に塗布した場合、拘束効果が飽和してしまうとともに、加工中に液体が垂れ、ふき取りなどの作業負荷が生じ得る。
なお、本実施形態では、液体物質を、重ね合わせ面の全面に略均一となるように塗布する。ただし、重ね合わせた鋼板が好ましい拘束状態となるように、面圧が比較的高くなる屈曲部およびその近傍と、面圧が比較的低くなる平面部とで、液体物質の塗布量を変化させてもよい。
(液体物質の沸点)
塗布する液体物質の沸点は、JIS K2265-4:2007に従い測定すればよい。なお、一般的な物質を用いる場合に通常用いられる物性値がわかっているのであれば、その値を用いることで構わない。本実施形態では、液体物質の沸点は300℃以下であることが好ましい。液体物質の沸点は上述のような重ね合わせた鋼板の拘束という本発明の効果を制御する因子ではなく、以下に説明する別の観点で好ましく制御される因子である。
本発明では、鋼板間に液体物質が存在した状態で曲げ加工が施されるが、この液体物質は曲げ加工が終了した後は特に必要となる物質ではない。液体物質は錆の発生起点となり得ることから、曲げ加工後に除去されることが好ましい。詳細は後述するが、曲げ加工後に液体物質を除去する手法として、曲げ加工後の鋼板(すなわち曲げ加工体)、または曲げ加工体を積層して製造された鉄心を乾燥(加熱)させ、液体物質を乾燥させる手法がある。本実施形態では、その乾燥工程における乾燥のしやすさの目安として液体物質の沸点を規定している。鋼板を乾燥させる工程は付加工程であり、乾燥工程を付加するのであれば低温下で短時間とすることが好ましい(詳細は後述する)。さらには、特別な工程を付加することなく、例えば曲げ加工体または曲げ加工体を積層した鉄心の輸送や保管中等における比較的短時間内に液体物質が自然乾燥することがより好ましい(すなわち、液体物質は常温下における比較的短時間で揮発する物質が好ましい)。よって、液体物質の沸点は低いほど好ましく、230℃以下であることがより好ましい。さらには150℃以下であることが好ましい。
ただし、前処理工程(塗布工程)と成形工程(加工工程)とが独立しており、液体物質の塗布後に所定期間の鋼板の保管が生じる場合において、曲げ加工を施すよりも前にその鋼板の保管温度で液体物質が乾燥してしまうと(液体物質の意図せぬ乾燥が発生してしまうと)、液体物質を塗布することによる本発明の効果が得られないという懸念が生じ得る。そのため、液体物質の沸点は、65℃を下限とすることが好ましく、さらには100℃を下限とすることが好ましい。液体物質の沸点が65℃以上である場合、液体物質の塗布後、曲げ加工を施す前の保管による意図せぬ液体物質の乾燥を回避でき、100℃以上である場合、当該乾燥をより確実に回避できる。液体物質は、液体物質の塗布後、曲げ加工を施すよりも前の鋼板の保管によっては乾燥しないが、曲げ加工を施した後の曲げ加工体、または当該曲げ加工体を積層した鉄心においては乾燥するように設定されていることが望ましい。液体物質の沸点が300℃以下である場合、曲げ加工後の乾燥によって液体物質を除去が可能であり、230℃以下である場合、液体物質をより適切に除去できる。液体物質の沸点が230℃以下である場合、本発明の効果を確実に発現させることができるとともに、最終製品での錆の発生を確実に防ぎ、耐食性を向上させることができる。
なお、方向性電磁鋼板に液体物質を塗布する前処理工程は独立した工程として設けずに、次に示す成形工程において、曲げ加工が施される直前に前処理が施されるようにしてもよい。すなわち、曲げ加工を施す加工装置の手前に前処理を施す装置(液体塗布装置)をさらに設け、液体塗布装置において液体を塗布した後に加工装置において曲げ加工が施されるようにしてもよい。以下、本実施形態では、曲げ加工が施される直前に前処理が施される場合、すなわち前処理と曲げ加工とが連続して行われる場合について説明する。
(3)成形工程
前処理が施された方向性電磁鋼板から曲げ加工体を成形する。本実施形態では、複数の方向性電磁鋼板としての2枚の方向性電磁鋼板を重ね合わせ(第1の積層をし)、曲げ加工を施す例を示す。なお、3枚以上の方向性電磁鋼板を重ね合わせて、曲げ加工を施してもよい。また、第1の積層における積層枚数については特に上限を決める必要はないが、積層枚数が多いほど、外側に位置する鋼板の曲げ半径が大きくなるため、小さな曲げ半径で加工することを特徴とする本発明で製造される鉄心のメリットが失われるおそれがある。さらに、後述する鉄心内での積層位置による鋼板の送り出し量の制御における複雑さを考慮すると、積層する鋼板の板厚にもよるが、実用的には積層枚数を4枚以下とすることが好ましい。以下の記述においては、特に送り出し量の制御については、積層枚数が2枚であるものとして説明する。
図7は、巻鉄心の製造に用いられる製造装置100の一例を示す概略図である。製造装置100は、供給制御装置(フィーダー)20、前処理装置40、および加工装置30等を備えている。図7に示すフープ材10a,10bは準備工程で製造されたものであり、加工装置30と所定の距離を隔てた位置に配置(セット)される。製造装置100では、前処理を施すラインと曲げ加工を施すラインとが同一のラインとなっている。
2つのフープ材10a,10bのうち、上方に配置されたフープ材10aからは方向性電磁鋼板8Aが供給され、下方に配置されたフープ材10bからは方向性電磁鋼板8Bが供給される。
供給制御装置20は、フープ材10a,10bと加工装置30との間に設けられ、帯状の方向性電磁鋼板(本例では方向性電磁鋼板8Aおよび方向性電磁鋼板8B)を、方向性電磁鋼板の長手方向に沿って、加工装置30側へ向かって断続的に搬送する。供給制御装置20は、加工装置30側への方向性電磁鋼板の供給を制御しているといえる。図7に示すように、フープ材10a,10b側から加工装置30側に向かう方向を搬送方向Xとする。供給制御装置20は、搬送方向Xの方向に、所定時間当たりに所定長さの方向性電磁鋼板を送り出す。ここで、供給制御装置20が、所定時間当たりに送り出す方向性電磁鋼板の所定長さを送り出し量(供給量)とする。
供給制御装置20は、曲げ加工体の積層方向(第2の積層の積層方向)において外側に位置することとなる方向性電磁鋼板8Aの送り出し量が、同内側に位置する方向性電磁鋼板8Bの送り出し量よりも大きくなるように制御することがより好ましい。曲げ加工体の積層方向とは、略矩形環状の曲げ加工体1を外側に向けて積層する場合には、曲げ加工体1の中央部(内側)から外側に向かう方向であり、略コ字形状の曲げ加工体1を外側に向けて積層する場合には、曲げ加工体1の凹部側(内側)から外側に向かう方向である。また、略L字形状の曲げ加工体1を外側に向けて積層する場合には、曲げ加工体1におけるL字の内側からL字の外側に向かう方向である。
仮に方向性電磁鋼板8A(以下、単に外側鋼板8Aともいう)の送り出し量を、内側に位置する方向性電磁鋼板8B(以下、単に内側鋼板8Bともいう)の送り出し量よりも大きくせずに、両者を同じ送り出し量とした場合、曲げ加工体1とした際に外側鋼板8Aおよび内側鋼板8Bの送り出し方向における端部が揃わないという問題が生じる。すなわち、内側鋼板8Bに対して外側鋼板8Aの長さが短い状態となる。さらに換言すると、内側鋼板8Bの端部が外側鋼板8Aの端部よりも突出した状態となる。これは、曲げ加工において外側鋼板8Aの曲げ半径が内側鋼板8Bの曲げ半径よりも大きくなる分(外周側の方が、延長距離が長く、外側鋼板8Aの延長距離が内側鋼板8Bの延長距離よりも長くなる分)、外側鋼板8Aの長さが不足することに起因して生じる。さらにこのような幾何学的な悪影響だけでなく、曲げ加工中の鋼板に意図しない力が作用して曲げ加工体そのものの磁気特性、ひいてはそれを組み上げた(積層した)鉄心の磁気特性を劣化させる。なお、「延長距離」とは、鉄心内で鋼板積層位置が異なる積層鋼板についての、鋼板の長手方向に沿う方向の長さである。鉄心において外面側に位置する鋼板ほど幾何学的に周長(延長距離)が長くなる(径が大きくなる)。外側に位置する鋼板ほど幾何学的な周長が増大することとなるが、周長の増大(屈曲部の長さの増大)に応じた分量だけ、外側の鋼板の送り出し量を多くすることで、上記のように端部の不揃いや意図しない力の作用に起因する特性劣化を抑制できる。
例えば、板厚がt[mm]である2枚の鋼板を重ねたまま曲率半径r[mm]の金型により曲げ角度φ[°]で曲げるとする。このとき、内側鋼板8Bの屈曲部の内面側の延長距離は2πr×φ/360となる。一方、外側鋼板8Aの屈曲部の内面側の延長距離は2π(r+t)×φ/360となる。よって、内側鋼板8Bと外側鋼板8Aとを重ねた状態で曲げ、1箇所の屈曲部を形成する際に、内側鋼板8Bと外側鋼板8Aの端部を揃えるためには、外側鋼板8Aを、内側鋼板8Bよりも所定の長さ(2πt×φ/360)だけ、長くする必要がある。現実的には、このように計算される幾何学的な所定の長さの0.3~1.7倍程度だけ、外側鋼板8Aの送り出し量を内側鋼板8Bの送り出し量よりも多くすることで、加工中の意図しない力の作用を回避すると同時に、鉄心として組み上げた際の端部の接合を良好にし、コア鉄損の劣化を抑制できる。
前記所定の長さは、鉄心を形成する積層鋼板の屈曲部の長さ(周長)の増分に基づいて算出されるものである。この増分、すなわち幾何学的な形状に基づいて決定される、外側鋼板8Aの延長距離(外側鋼板8Aの屈曲部の第1長さ)の内側鋼板8Bの延長距離(内側鋼板8Bの屈曲部の第2長さ)に対する増分を「幾何学的な形状に基づいて決定される増分」(第2の増分)と呼ぶ。また、供給制御装置20が制御する鋼板の送り出し量について、外側鋼板8Aの送り出し量(第1送り出し量)の内側鋼板8Bの送り出し量(第2送り出し量)に対する増分を「送り出し量の増分」(第1の増分)とする。この第1の増分は、屈曲部1箇所あたりの増分とする。
本実施形態において、端部の接合を良好にし、加工時の意図しない力の作用を回避するには、「送り出し量の増分」と「幾何学的な形状に基づいて決定される増分」との比、すなわち「送り出し量の増分」/「幾何学的な形状に基づいて決定される増分」(第1の増分を第2の増分で除した値)が、0.3~1.7程度となっていることが好ましい。すなわち、供給制御装置20は、第1の増分を第2の増分で除した値が0.3~1.7程度となるように鋼板の送り出し量を制御することが好ましい。第1の増分を第2の増分で除した値が1.7を超えると、外側鋼板8Aの送り出し量が過剰となり、端部の不揃いや曲げ加工時の意図しない力の発生を助長してしまう。なお、下限は特に限定しないが、この値が0.3未満では、外側鋼板8Aと内側鋼板8Bとの幾何学的な延長距離の差を補正する効果が小さくなる。よって、第1の増分を第2の増分で除した値は、好ましくは0.6~1.4であり、1.0に近いほどより好ましい。なお、第1の増分を第2の増分で除した値が0である場合とは第1の増分が0である場合であり、換言すると、外側鋼板8Aの送り出し量と内側鋼板8Bの送り出し量とが一致している場合である。
また、1つの曲げ加工体に複数の屈曲部が設けられる場合、第1の増分を第2の増分で除した値は、第1の増分の合計(第1の増分に屈曲部の数を乗じた値)を第2の増分の合計(第2の増分に屈曲部の数を乗じた値)で除した値であってもよい。
また、鋼板を3枚以上重ねて曲げる場合は、各鋼板(最も内側の鋼板を除く)のうちの少なくとも1枚について上記の条件(第1の増分/第2の増分=0.3~1.7)を満足していれば発明効果を得ることができる。
なお、図7では、供給制御装置20と加工装置30とを別々に設けたものを示したが、供給制御装置20は加工装置30と一体に構成されていてもよい。
前処理装置40は、供給制御装置20と加工装置30との間に設けられ、方向性電磁鋼板8Aと方向性電磁鋼板8Bとの重ね合わせ面に所定の粘度を有する液体を塗布する。これにより方向性電磁鋼板8Aと方向性電磁鋼板8Bと間の拘束が制御される。なお、前処理装置40は、加工装置30と別に設けられていてもよいし、加工装置30と一体に設けられていてもよい。
加工装置30は、ロール部材を備えている。加工装置30は、方向性電磁鋼板8Aおよび方向性電磁鋼板8Bを上下方向からロール部材で挟み込み、それらを重ねた状態(第1の積層をした状態)とする。そして、加工装置30は、重ねた状態の方向性電磁鋼板8A,8Bに曲げ加工を施して、曲げ加工体を成形する。
図8は、加工装置30によって製造される曲げ加工体1の一例を模式的に示す図である。曲げ加工体1は、平面部4(または平面部4a)と屈曲部5とが交互に連続するように形成されている。図8(a)に示す曲げ加工体1は、側面視が略矩形環状となっている。図8(b)に示す曲げ加工体1は、側面視が略コ字状となっている。
ここで曲げ加工方法の一例を説明する。図9は、曲げ加工方法の一例を示す模式図である。図9(a)に示すように、加工装置30は、曲げ加工を施す曲げ金型31を備えている。曲げ金型31は、プレス加工のためのダイス(下型)31bとパンチ(上型)31aとを備えている。また、図9(b)に示すように、本実施形態に係る加工装置30は、曲げ加工を施す際に、重なった状態の方向性電磁鋼板8A,8Bを押さえる(挟み込む)押さえ金型32を備えている。なお、図9(b)では、押さえ金型32を曲げ金型31の手前側(鋼板供給側)に設けているが、押さえ金型32を曲げ金型31の後方側(鋼板送り出し側)に設けてもよい。
また、加工装置30は、切断部(図示せず)を備えている。加工装置30は、外側鋼板8Aおよび内側鋼板8Bに曲げ加工を施した後、曲げ加工を施した箇所よりも後方側(鋼板供給側)において、外側鋼板8Aおよび内側鋼板8Bを所定の長さとなるように切断する。
曲げ加工では、外側鋼板8Aおよび内側鋼板8Bが、パンチ31aによって予め設定された所定の力(圧力)で加圧される。これにより、外側鋼板8Aおよび内側鋼板8Bに、曲げ角度φの屈曲部5が形成される。屈曲部5の曲率半径rを、1mmを超え3mm以下の範囲とする方法に特に制限はないが、通常、ダイス31bとパンチ31a間の距離やダイス31bとパンチ31aの形状を変更することにより、屈曲部5の曲率半径rを上記特定の範囲に調整することができる。板厚方向に積層される曲げ加工体1の屈曲部5における曲率半径rが一致するように設定して加工するが、加工された鋼板の曲率半径には、鋼板表層の粗度や形状によって誤差が生じる場合がある。誤差が生じる場合、その誤差が0.1mm以下であることが好ましい。なお、ここでの誤差とは、曲げ加工体1における、外側鋼板8A同士を比較した場合における誤差、内側鋼板8B同士を比較した場合における誤差を指す。内側鋼板8Bは曲率rで曲げ加工され、外側鋼板8Aは曲率(r+t)で曲げ加工されるため、両者には板厚分の差が生じる。
(複数回の曲げ加工)
次に、外側鋼板8Aおよび内側鋼板8Bに複数回の曲げ加工を施し、その後に切断する例について説明する。まず、1回目(1段目)の曲げ加工は、外側鋼板8Aの先端を内側鋼板8Bの先端よりも突出させ、後方側を押さえ金型32で固定した状態とし、曲げ加工を施す。すると、屈曲部5が1箇所に形成され、外側鋼板8Aと内側鋼板8Bの先端が揃った状態となる。このように屈曲部5が1箇所に形成されると、前方側(先端側)は鋼板がずれないように拘束された状態となる。すなわち、方向性電磁鋼板8A,8Bの前方側が固定されているのと実質的に同等の状態となる。これは、前方側が屈曲部5(曲げ部)により自然拘束されているともいえる。
2回目(2段目)以降の曲げ加工は、外側鋼板8Aおよび内側鋼板8Bの後方側を押さえ金型32で押さえずに曲げ加工を施すとともに、後方側からの鋼板の供給量を調整する。すなわち、曲げ加工を施すとともに、屈曲部5の長さの増分に合わせて外側鋼板8Aを内側鋼板8Bよりも多く供給することで、前述のように、加工中の意図しない力の作用を回避すると同時に、鉄心として組み上げた際の端部の接合を良好にし、コア鉄損の劣化を抑制できる。
外側鋼板8Aおよび内側鋼板8Bは、所定の回数だけ曲げ加工が施された後、曲げ加工が施された箇所よりも後方側において、所定の長さ(例えば巻鉄心の約半周分の長さ)に切断される。これにより、外側鋼板8Aおよび内側鋼板8Bの後端側も揃った状態となる。そして、加工装置30から曲げ加工体1が送り出される。
(切断後に曲げ加工)
本実施形態では、曲げ加工を施した後に外側鋼板8Aおよび内側鋼板8Bを切断するものとしたが、先に切断を行い、切断後に曲げ加工を施すこととしてもよい。まず、曲げ金型31よりも手前側(鋼板供給側)で、外側鋼板8Aおよび内側鋼板8Bをそれぞれ所定の長さで切断する。このとき、外側鋼板8Aの切り出し長さは、曲げ加工において延長距離が長くなる分だけ、内側鋼板8Bよりも長い長さとしておけば、前述のように、加工中の意図しない力の作用を回避すると同時に、鉄心として組み上げた際の端部の接合を良好にし、コア鉄損の劣化を抑制できる。加工装置30は、例えば、外側鋼板8Aを切断するための第1切断部と、内側鋼板8Bを切断するための第2切断部と、を備えている。
(4)積層工程
積層工程では、複数の曲げ加工体1を、板厚方向に積層(第2の積層)する。すなわち、曲げ加工体1を、屈曲部5同士を位置合わせして板厚方向に重ね合わせて積層し、積層体とする。側面視が略矩形環状の曲げ加工体1を板厚方向に積層した場合には、側面視が略矩形環状の巻鉄心10を得ることができる。また、側面視が略コ字形状の曲げ加工体1を板厚方向に積層した場合には、側面視が略コ字形状の鉄心10を得ることができる。なお、側面視が略コ字形状の鉄心10を2つ用いることで、側面視が略矩形環状の巻鉄心10を得ることができる。また、側面視が略L字形状の曲げ加工体1を板厚方向に積層した場合には、側面視が略L字形状の鉄心10を得ることができる。なお、側面視が略L字形状の鉄心10を4つ用いることで、側面視が略矩形環状の巻鉄心10を得ることができる。本工程は、例えば専用の積層装置(図示せず)により実現される。なお、積層装置は加工装置30と一体に設けられていてもよい。
(乾燥工程)
上記の(3)成形工程(曲げ加工)の後に、必要に応じて乾燥を行う工程(乾燥工程)をさらに設けてもよい。この乾燥工程は、(4)積層工程の前であってもよく、(4)積層工程の後であってもよい。ここで、乾燥工程を設ける場合について説明する。乾燥工程は、鋼板に塗布された液体物質が錆の起点になる等の懸念がある場合に、液体物質を乾燥し除去するための工程として設けられる。乾燥工程では例えば乾燥装置(図示せず)が用いられる。乾燥装置は、加工装置30で成形された曲げ加工体、またな曲げ加工体を積層して製造された鉄心に熱処理を施す。
乾燥の条件は特に限定するものではない。例えば、小径曲げにより加工歪を局所化することで鉄心全体の歪取り焼鈍の省略を可能とするという本発明が対象とする鉄心のメリットの一つに反するが、曲げ加工後に曲げ加工部(屈曲部)の歪取りのために比較的高温の熱処理を行う場合は、その熱処理の過程(工程)において、本発明の特徴の一つである液体物質を乾燥させることは可能である。ただし、あまりに高温下で長時間の間、曲げ加工体に熱処理を施すと、鋼板組織の変化、絶縁被膜の変質等のため鋼板の特性自体が好ましくない方向に変化することがある、すなわち鋼板特性が劣化するおそれがある。このような問題を回避し、さらに工程の負荷を軽減する観点から、本実施形態では、乾燥温度を比較的低温である50℃以上150℃以下としている。また、乾燥時間を比較的短時間である0秒を超え10秒以下としている。このように乾燥工程を設け、比較的低温下で比較的短時間の間、曲げ加工体に熱処理を施すことで、鋼板特性の劣化を抑えつつ、錆の発生の要因となり得る液体物質を除去することができる。これにより、錆の発生を防ぎ、耐食性を向上させることができる。
以上のように本実施形態に係る鉄心の製造方法では、方向性電磁鋼板の板厚が0.23mm以下となっており、重ね合わせた状態の方向性電磁鋼板8A,8Bの重ね合わせ面に、曲げ加工時の温度における動粘度が0.8mm/s以上220mm/s以下である液体物質が存在する状態で曲げ加工を施す。このため、
(1)屈曲部5における外側の方向性電磁鋼板8Aと内側の方向性電磁鋼板8Bとが緩やかに拘束された状態となり、屈曲部5における加工中の意図しない力の作用を緩和して双晶の発生を抑制できる。これにより、鉄心のコア鉄損の増加を抑制できる。
(2)また、特に液体物質の表面張力により外側の方向性電磁鋼板8Aと内側の方向性電磁鋼板8Bとが緩やかに接着された状態となり、曲げ加工時に鋼板の面外方向への相対的なずれが生じることなく、良好な曲げ加工精度を実現できる。これにより、鉄心のコア鉄損の増加を抑制できる。
(3)さらに、複数の方向性電磁鋼板を重ね合わせ、重ね合わせた状態の方向性電磁鋼板に曲げ加工を施して曲げ加工体を成形するため、方向性電磁鋼板を1枚ずつ曲げ加工して曲げ加工体を成形する場合に比べて、生産性を向上させることができる。
(変形例)
本実施形態では、成形工程において、加工装置30が方向性電磁鋼板の第1の積層を行うこととしたが、準備工程において、前処理(液体物質の塗布)および第1の積層を行った上で、コイルに巻き取るようにしてもよい。すなわち、準備工程において、例えば2枚重ねコイル(2枚重ねのコイル材)を製造するようにしてもよい。2枚重ねコイルを製造し、成形工程において2枚重ねコイルを巻きほどきながら曲げ加工を施す場合、コイルの時点で外周側に積層されている鋼板を、曲げ加工体においても外周側となるように曲げ加工を施せば、曲げ加工体における端部での不揃いを軽減することができる。このように2枚重ねコイルを用いる場合、セットするコイル数を減らすことができるという利点や、供給制御装置20が不要となるため、装置を簡素化できるという利点がある。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下、本発明の実施例を挙げながら、本発明の技術的内容について更に説明する。以下に示す実施例での条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した条件例であり、本発明は、この条件例に限定されるものではない。また本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
図10は、実施例で製造した巻鉄心のサイズを示す図である。曲げ角度が45°である屈曲部5で構成され、側面視が八角形状の略矩形環状となっている巻鉄心を用いる。巻鉄心の各鋼板を、内側から外側に向かって鋼板a、鋼板b、鋼板c、鋼板dとする。なお、図示を省略しているが、図10に示す巻鉄心は、内面側平坦部間距離L1を構成する平面部の略中央で2つに分割されており、略コの字形状である2つの曲げ加工体を結合した構造となっている。
内面側平坦部間距離L1は173mmとなっている。
内面側平坦部間距離L2は93mmとなっている。
積層厚さL3は45mmとなっている。
積層板厚幅L4は160mmとなっている。
最内部平坦部距離L5は16mmとなっている。
曲げ角度φは45°となっている。
以下の表1は、実施例の構成、製造条件をまとめたものである。

方向性電磁鋼板は、JIS C 2553に準じ、化学組成は、Si:2.8%~3.5%、C:0.001%、Mn:0.007~0.010%、S<0.002%、Al<0.004%、N<0.002%、P:0~0.2%である。
すべての試料において、積層枚数が192枚となるように方向性電磁鋼板(曲げ加工体)を積層し、巻鉄心を得た。試料No.にAが付されている試料は、方向性電磁鋼板の厚さを0.23[mm]とした。試料No.にBが付されている試料は、方向性電磁鋼板の厚さを0.15[mm]とした。
試料No.A01~A03は、1枚の方向性電磁鋼板に曲げ加工を施して曲げ加工体を製造した。
試料No.A11~A13は、鋼板の重ね合わせ面に液体物質を塗布せずに、2枚の方向性電磁鋼板を重ね合わせた状態とし曲げ加工を施して曲げ加工体を製造した。
試料No.A21~A23は、鋼板の重ね合わせ面に液体物質を塗布し、2枚の方向性電磁鋼板を重ね合わせた状態とし曲げ加工を施して曲げ加工体を製造した。
試料No.A31~A40は、鋼板の重ね合わせ面に液体物質を塗布し、2枚の方向性電磁鋼板を重ね合わせた状態とし曲げ加工を施して曲げ加工体を製造した。
試料No.A41は、鋼板の重ね合わせ面に液体物質を塗布し、3枚の方向性電磁鋼板を重ね合わせた状態とし曲げ加工を施して曲げ加工体を製造した。
試料No.B0は、1枚の方向性電磁鋼板に曲げ加工を施して曲げ加工体を製造した。
試料No.B11は、鋼板の重ね合わせ面に液体物質を塗布せずに、2枚の方向性電磁鋼板を重ね合わせた状態とし曲げ加工を施して曲げ加工体を製造した。
試料No.B21~B25は、鋼板の重ね合わせ面に液体物質を塗布し、2枚の方向性電磁鋼板を重ね合わせた状態とし曲げ加工を施して曲げ加工体を製造した。
液体物質を塗布した試料について、液体物質の種類、塗布量[g/m]、曲げ加工時の温度における液体物質の動粘度[mm/s]、および液体物質の沸点[℃]は、表1に示すとおりとした。なお、液体物質の塗布は曲げ加工の直前に実施しており、塗布後、曲げ加工までの期間での液体物質の蒸散などによる消失については無視できる。
曲げ加工時の温度は25[℃](室温)を基準温度として想定した。すなわち、一般的な加工条件として25℃での加工を想定した。さらに本実施例では動粘度の影響を確認するために、25℃の近傍で温度を変化させて曲げ加工を行った。表1に示す動粘度は、各試料についての曲げ加工時の温度における値である。本実施例では曲げ加工時の温度を変化させているが、これは単に液体物質の動粘度を変化させるための因子(制御因子)である。本実施例では動粘度の値の違いによる影響の有無を確認するために、曲げ加工時の温度を変化させている。
試料No.A01~A03、A11~A13では、液体物質を塗布しない状況で本発明が注目する効果への曲げ加工時の温度が及ぼす影響を調べるために、単に曲げ加工時の温度のみを変化させて曲げ加工を施した。つまり、曲げ加工温度が「液体物質の動粘度」ではなく「母鋼板自体の変形挙動」の変化を介して特性にどの程度影響するかを確認した例である。そして、曲げ加工時の温度を変化させても、鉄心特性には大きな差がないという結果が得られた(表2に示す)。このことから、試料No.A21~A41、およびB21~B25での本発明の効果の発現には、曲げ加工時の温度の違いではなく、曲げ加工時の液体物質の動粘度の違いが寄与することが確認できた。
また、試料No.A35(潤滑油C)、A37(潤滑油D)は、試料No.A31(潤滑油A)とは異なる潤滑油を塗布した事例であり、試料No.A31と曲げ加工時の温度が同一であるが、動粘度が異なるため試料No.A31とは異なる鉄心特性が得られた(表2に示す)。また、試料No.A34(潤滑油B)、試料No.A36(潤滑油C)、試料No.A30(潤滑油F)は、試料No.A32(潤滑油A)とは異なる潤滑油を塗布した事例であり、試料No.A32と曲げ加工時の温度が同一であるが、動粘度が異なるため試料No.A32とは異なる鉄心特性が得られた(表2に示す)。また、試料No.A38(潤滑油E)は、試料No.A33(潤滑油A)とは異なる潤滑油を塗布した事例であり、試料No.A33と曲げ加工時の温度が同一であるが、動粘度が異なるため試料No.A33とは異なる鉄心特性が得られた(表2に示す)。これらからも、本発明の効果の発現には、曲げ加工時の温度ではなく、曲げ加工時の液体物質の動粘度が寄与することが確認できた。
(曲げ半径)
試料No.A01~A38は、曲げ半径を2[mm]とした。試料No.A39は、曲げ半径を4[mm]とした。試料No.A40~A41は、曲げ半径を2[mm]とした。試料No.B01~B24は、曲げ半径を2[mm]とし、試料No.B25は、曲げ半径を4[mm]とした。
(送り出し量)
送り出し量の制御は「送り出し量の増分(第1の増分)」を「幾何学的な形状に基づいて決定される増分(第2の増分)」で除した値である。第1の増分を第2の増分で除した値が0である場合とは、第1の増分が0である場合であり、換言すると、外側鋼板8Aの送り出し量と内側鋼板8Bの送り出し量とが一致している場合である。また、第1の増分を第2の増分で除した値が1.00である場合とは、内側鋼板8Bの送り出し量に対する外側鋼板8Aの送り出し量の増分(第1の増分)を、「幾何学的な形状に基づいて決定される増分(第2の増分)」だけ多くした場合である。また、鋼板3枚を重ねて曲げ加工をした事例(試料No.A8)について、セル中の上段の値は内側から3枚目の鋼板に関しての第1の増分を第2の増分で除した値であり、セル中の下段の値は内側から2枚目の鋼板に関しての第1の増分を第2の増分で除した値である。
以下の表2は、実施例および比較例(参考例)の評価結果を示すものである。
<評価>
(1)曲げ加工の精度
(評価方法)
狙い曲げ角度45°に対し、巻鉄心を構成する曲げ加工体における任意のn箇所(nは例えば24)の曲げ角度の実績を測定し、その標準偏差を求めて、加工精度の評価指標とした。
(判定基準)
n箇所(nは例えば24)の測定結果の標準偏差(ばらつき)が0.5°未満であるものを合格とした。
(2)双晶の数
(評価方法)
巻鉄心を構成する曲げ加工体の屈曲部5から試料を採取し、公知の方法を用いて双晶の数を測定した。
(判定基準)
双晶の数が5未満であるものを合格とした。
(3)コア鉄損
(評価方法)
コア4隅を除く直線部に一次コイル(30ターン)と二次コイル(30ターン)を巻きつけ、一次コイルに50Hzの正弦波電圧を印加し、二次コイルの二次電圧の実効値電圧U2を磁束密度の所要値から、次式で求めた。
U2=4.44×f×N2×A×J
上記式において、f:励磁周波数を50Hzとし、N2:二次コイル巻き数を30ターンとし、A:コア断面積を45mm×160mm=0.0072mとし、J:磁束密度の波高値を1.5Tとすると、U2=71.9Vとなる。鉄損値は、一次回路の電流と二次回路の電圧を電力計に接続して測定した。
(判定基準)
試料No.A01~A31については、A02の鉄損値を100として規格化し、105以下であるものを合格とした。試料No.B01~B25については、B01の鉄損値を100として規格化し、105以下であるものを許容範囲とした。
鉄損値が100を超えると、曲げ加工を1枚ずつ行う通常工法のコアよりもコア鉄損としては劣るものとなるが、本発明においては生産性も考慮して発明の合否判断を行うことから、鉄損値105までを許容範囲としている。つまり、2枚以上を同時に曲げ加工することによる+100%近い生産性向上というメリットを考慮すれば、コア鉄損の5%程度の劣化は許容し、発明については合格と判断する。
(4)生産性
1枚の方向性電磁鋼板に曲げ加工を施して曲げ加工体を製造する方法は生産性が低く(NG)、複数枚(2枚以上)の方向性電磁鋼板を重ねた状態として曲げ加工を施し、曲げ加工体を製造する方法は生産性が高い(Good、Very Good)。
(5)耐食性
耐食性は、巻鉄心を構成する曲げ加工体の平面部4から試料を採取して絶縁油に浸したものを、温度が50℃、相対湿度RHが90%の恒温恒湿の雰囲気で48時間保持し、錆の有無を確認した。試料No.A02、B01は耐食性に関する要求仕様を十分に満足しており、錆の有無について試料No.A02、B01を基準として比較を行い、判定した。
[試料No.A01~A03]
1枚ずつ曲げ加工を施す事例である。1つの鉄心を得るにあたり、成形工程において曲げ加工を施す回数が多くなり、また、積層工程において曲げ加工体を積層(第2の積層)する回数が多くなる。したがって、生産性が低い。
[試料No.A11~A13]
液体物質を塗布せずドライ状態で重ねて曲げ加工を実施した事例であり、合格範囲内の結果が得られないことが確認できる。
[試料No.A21]
2枚重ねでの曲げ加工において、液体物質を塗布し重ねて曲げ加工を実施した事例である。動粘度が適切に制御されていないため、合格範囲内の結果が得られないことが確認できる。なお、液体物質の沸点が65℃であるが、耐食性については良好であることが確認できる。
[試料No.A22~A23]
2枚重ねでの曲げ加工において、適切な動粘度を有する液体物質を塗布し重ねて曲げ加工を実施した事例であり、合格範囲内の曲げ加工精度、双晶の数、およびコア鉄損を確保し、かつ高生産性を実現できる。動粘度が最適であれば、双晶の発生が抑制され、1枚ずつ加工する場合よりもコア鉄損の向上も期待できる。
[試料No.A31]
2枚重ねでの曲げ加工において、液体物質を塗布し重ねて曲げ加工を実施した事例である。動粘度が適切に制御されていないため、合格範囲内の結果が得られないことが確認できる。
[試料No.A32~A35]
2枚重ねでの曲げ加工において、適切な動粘度を有する液体物質を塗布し重ねて曲げ加工を実施した事例であり、合格範囲内の曲げ加工精度、双晶の数、およびコア鉄損を確保し、かつ高生産性を実現できる。動粘度が最適であれば、双晶の発生が抑制され、1枚ずつ加工する場合よりもコア鉄損の向上も期待できる。
[試料No.A36~A38]
2枚重ねでの曲げ加工において、液体物質を塗布し重ねて曲げ加工を実施した事例である。動粘度が適切に制御されていないため、合格範囲内の結果が得られないことが確認できる。
[試料No.A39]
合格範囲内であるが、試料No.A34と比較すると十分な効果が得られていない。曲げ半径が大きいためと推測され、本発明の効果は曲げ半径が小さい場合により顕著となることを示唆している。
[試料No.A40]
沸点が230℃よりも高く、耐食性においてやや低下が見られるが、合格範囲内の結果を得られることを確認できる。
[試料No.A41]
3枚重ねでの曲げ加工において、適切な粘度を有する液体物質を塗布し重ねて曲げ加工を実施した事例であり、合格範囲内の曲げ加工精度、双晶の数、およびコア鉄損を確保し、かつ高生産性を実現できる。
[試料No.B01]
1枚ずつ曲げ加工を施す事例である。1つの鉄心を得るにあたり、成形工程において曲げ加工を施す回数が多くなり、また、積層工程において曲げ加工体を積層(第2の積層)する回数が多くなる。したがって、生産性が低い。
[試料No.B11]
液体物質を塗布せずドライ状態で重ねて曲げ加工を実施した事例であり、合格範囲内の結果が得られないことが確認できる。
[試料No.B21]
2枚重ねでの曲げ加工において、液体物質を塗布し重ねて曲げ加工を実施した事例である。動粘度が適切に制御されていないため、合格範囲内の結果が得られないことが確認できる。
[試料No.B22、B23]
2枚重ねでの曲げ加工において、適切な動粘度を有する液体物質を塗布し重ねて曲げ加工を実施した事例であり、合格範囲内の曲げ加工精度、双晶の数、およびコア鉄損を確保し、かつ高生産性を実現できる。動粘度が最適であれば、双晶の発生が抑制され、1枚ずつ加工する場合よりもコア鉄損の向上も期待できる。また、試料No.A33、A35と比較すると発明効果がより顕著であり、鋼板板厚が薄い場合に本発明の適用がより好適になることを示唆している。
[試料No.B24]
2枚重ねでの曲げ加工において、液体物質を塗布し重ねて曲げ加工を実施した事例である。動粘度が適切に制御されていないため、合格範囲内の結果が得られないことが確認できる。
[試料No.B25]
合格範囲内であるが、十分な効果が得られていない。曲げ半径が大きいためと推測され、本発明の効果は曲げ半径が小さい場合により顕著となることを示唆している。なお、試料No.A39と比較すると発明効果がより顕著であり、鋼板板厚が薄い場合に本発明の適用がより好適になることを示唆している。
1 曲げ加工体
10 巻鉄心(鉄心)
30 加工装置(曲げ加工を施す装置)

Claims (7)

  1. 鉄心の製造方法であって、
    複数の方向性電磁鋼板を重ね合わせた状態とし、重ね合わせた状態の前記方向性電磁鋼板に曲げ加工を施して、曲げ加工体を成形する成形工程と、前記曲げ加工体を板厚方向に積層する積層工程とを含み、
    前記方向性電磁鋼板の板厚が0.23mm以下となっており、
    前記曲げ加工の時点において、重ね合わせた状態の前記方向性電磁鋼板の重ね合わせ面に、所定の動粘度を有する液体が存在するように処理が施され、
    前記曲げ加工時の温度における前記所定の動粘度が0.8mm/s以上220mm/s以下である
    ことを特徴とする鉄心の製造方法。
  2. 前記曲げ加工の時点において、重ね合わせた状態の前記方向性電磁鋼板の重ね合わせ面に存在する前記液体の沸点が、230℃以下である
    ことを特徴とする請求項1に記載の鉄心の製造方法。
  3. 前記曲げ加工の後、前記曲げ加工体、または前記曲げ加工体を積層して製造された鉄心に、所定温度下で所定時間の熱処理を施す乾燥工程を備え、
    前記所定温度は50℃以上150℃以下であり、
    前記所定時間は0秒を超え10秒以下である
    ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鉄心の製造方法。
  4. 方向性電磁鋼板に曲げ加工を施して、曲げ加工体を成形する加工装置を備えた鉄心の製造装置であって、
    前記加工装置は、複数の前記方向性電磁鋼板を重ね合わせた状態とし、重ね合わせた状態の前記方向性電磁鋼板に曲げ加工を施し、
    前記方向性電磁鋼板の板厚が0.23mm以下となっており、
    前記曲げ加工の直前において、重ね合わせた状態の前記方向性電磁鋼板の重ね合わせ面に所定の動粘度を有する液体が存在するように処理が施され、
    前記曲げ加工時の温度における前記所定の動粘度が0.8mm/s以上220mm/s以下である
    ことを特徴とする鉄心の製造装置。
  5. 複数の前記方向性電磁鋼板の前記加工装置への供給を制御する供給制御装置を備え、
    前記曲げ加工体において外側に位置する前記方向性電磁鋼板を外側鋼板とし、
    前記曲げ加工体において内側に位置する前記方向性電磁鋼板を内側鋼板とし、
    前記外側鋼板と前記内側鋼板とを重ね合わせるまでの間に、重ね合わせた前記方向性電磁鋼板の重ね合わせ面の少なくとも一方に、前記液体を塗布する液体塗布装置を備える
    ことを特徴とする請求項4に記載の鉄心の製造装置。
  6. 重ね合わせた前記方向性電磁鋼板の重ね合わせ面に塗布する前記液体の沸点が、230℃以下である
    ことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の鉄心の製造装置。
  7. 前記曲げ加工の後、前記曲げ加工体、または前記曲げ加工体を積層して製造された鉄心に、所定温度下で所定時間の熱処理を施す乾燥装置を備え、
    前記所定温度は50℃以上150℃以下であり、
    前記所定時間は0秒を超え10秒以下である
    ことを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の鉄心の製造装置。
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WO2018131613A1 (ja) 2017-01-10 2018-07-19 新日鐵住金株式会社 巻鉄心、及びその製造方法

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