以下、図面を参照して実施の形態について説明する。各図において共通または対応する要素には、同一の符号を付して、重複する説明を簡略化または省略する。以下の説明において、「水」との記載は、原則として、液体の水を意味し、低温の水から高温の湯まで含まれうるものとする。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1による貯湯式給湯装置1を示す図である。図1に示すように、本実施の形態の貯湯式給湯装置1は、水を加熱する加熱手段に相当するヒートポンプユニット2と、貯湯タンク11を有するタンクユニット3とを備えている。ヒートポンプユニット2は、室外に配置される。タンクユニット3は、室外または室内に配置される。本実施の形態ではヒートポンプユニット2とタンクユニット3とが別体となっているが、本開示による貯湯式給湯装置は、ヒートポンプユニット2及びタンクユニット3が一体となった構造を有するものでもよい。
ヒートポンプユニット2は、冷媒を圧縮する圧縮機4と、冷媒-水熱交換器5と、膨張弁6と、蒸発器7と、ヒートポンプコントローラ9とを筐体の内部に備えている。冷媒として使用される物質は、特に限定されないが、例えばCO2、HFC、HC、HFO等を使用可能である。冷媒-水熱交換器5は、冷媒流路5a及び水流路5bを備える。冷媒流路5aを通る冷媒と、水流路5bを通る水との間で熱が交換される。圧縮機4、冷媒流路5a、膨張弁6、及び蒸発器7が冷媒管を介して接続されることにより、冷媒回路が形成されている。
膨張弁6は、高圧冷媒を減圧及び膨張させる減圧装置に相当する。蒸発器7は、ヒートポンプユニット2の外部から取り込まれる室外の空気である外気と、冷媒との間で熱を交換させる。蒸発器7は、外気の熱によって冷媒を蒸発させる。ヒートポンプユニット2は、外気が蒸発器7を通過して流れるようにするための送風機10を備えている。
タンクユニット3は、貯湯タンク11と、分岐弁12と、水ポンプ13と、給湯混合弁14と、タンクコントローラ16とを筐体の内部に備えている。
貯湯タンク11は、ヒートポンプユニット2により加熱された湯を貯留する。貯湯タンク11は、図示しない断熱材により覆われている。貯湯タンク11内では、温度の違いによる水の比重の違いにより、上側の高温域と下側の低温域との温度成層を形成することができる。
図示の例では、貯湯タンク11は、単一のタンクで構成されている。この例に限らず、貯湯タンク11は、複数のタンクを有するものでもよい。本開示では、貯湯タンク11の高さ方向すなわち上下方向の位置に関して記載することがある。その場合において、上位側のタンクの下部が下位側のタンクの上部に連結管を介して直列に接続されている複数のタンクを貯湯タンク11が備えている場合には、最上位のタンクから最下位のタンクまでの全体を対象として、上下方向の位置が特定されるものとする。
貯湯タンク11は、上部、下部、及び中間部を有している。貯湯タンク11の中間部は、貯湯タンク11の上部と下部との間の高さの部分である。
タンクユニット3に設けられた給水端17には、例えば上水道のような水源から供給される水が通る外部給水管(図示省略)が接続されている。給水端17の下流側は、第一給水管18と第二給水管19とに分岐している。第一給水管18は、貯湯タンク11の下部に接続されている。給湯混合弁14は、流入口a、流入口b、及び流出口cを有している。第二給水管19は、給湯混合弁14の流入口bに接続されている。
タンクユニット3に設けられた給湯端20には、例えばシャワー、蛇口、浴槽のような給湯先につながる外部給湯管(図示省略)が接続されている。給湯管21は、貯湯タンク11の上部を給湯混合弁14の流入口aにつないでいる。給湯管22は、給湯混合弁14の流出口cを給湯端20につないでいる。
給湯混合弁14は、貯湯タンク11の上部から給湯管21を通って供給される高温水と、第二給水管19から供給される低温水とを混合する。その混合された湯は、給湯管22及び外部給湯管を通って給湯先へ送られる。給湯混合弁14により高温水と低温水との混合比を調整することで、給湯温度を調整することができる。貯湯タンク11の上部に貯留された高温水が給湯管21へ流出すると、それと同量の低温水が第一給水管18から貯湯タンク11の下部に流入する。そのようにして、貯湯タンク11は、満水状態に維持される。
ヒートポンプユニット2及びタンクユニット3は、ヒートポンプ入水配管23及びヒートポンプ出湯配管24により、互いに接続されている。水ポンプ13の吐出口は、ヒートポンプ入水配管23を介して、冷媒-水熱交換器5の水流路5bの入口につながっている。分岐弁12は、流入口a、流出口c、及び流出口dを有している。冷媒-水熱交換器5の水流路5bの出口は、ヒートポンプ出湯配管24を介して、分岐弁12の流入口aにつながっている。
水ポンプ13の吸入口は、タンク下部通路25を介して、貯湯タンク11の下部につながっている。分岐弁12の流出口cは、タンク上部通路26を介して、貯湯タンク11の上部につながっている。タンク下部通路25の途中の位置に合流部27が形成されている。分岐弁12の流出口dは、バイパス通路28を介して、合流部27につながっている。
以下の説明では、ヒートポンプユニット2に流入する水の温度を「ヒートポンプ入水温度」と称し、ヒートポンプユニット2から流出する湯の温度を「ヒートポンプ出湯温度」と称する。ヒートポンプユニット2には、圧縮機4から吐出される冷媒の温度である圧縮機吐出温度を検出する吐出温度センサ29と、ヒートポンプ入水温度を検出する入水温度センサ30と、ヒートポンプ出湯温度を検出する出湯温度センサ31と、外気温度を検出する外気温度センサ32とが設置されている。図示の例では、水流路5bの入口に入水温度センサ30が配置され、水流路5bの出口に出湯温度センサ31が設置されている。この例に代えて、例えばタンクユニット3内に入水温度センサ30及び出湯温度センサ31が配置されてもよい。
貯湯タンク11には、互いに異なる高さの位置に配置された複数の貯湯温度センサ33が設けられている。これらの貯湯温度センサ33によれば、貯湯タンク11内の鉛直方向の水温分布を検出することができる。図示の例では4個の貯湯温度センサ33が設けられているが、貯湯温度センサ33の数はこれに限定されない。
ヒートポンプコントローラ9とタンクコントローラ16とは、有線または無線により、双方向にデータ通信可能に接続されている。ヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16は、貯湯式給湯装置1の動作を制御する制御手段に相当する。ヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16の少なくとも一方は、時刻を管理するタイマー機能を有していてもよい。ヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16の少なくとも一方は、年月日を管理するカレンダー機能を有していてもよい。
本実施の形態では、ヒートポンプコントローラ9とタンクコントローラ16とが連携して、貯湯式給湯装置1の動作を制御する。本開示では、図示の例のように複数のコントローラが連携して貯湯式給湯装置1の動作を制御する構成に限定されるものではなく、単一のコントローラにより貯湯式給湯装置1の動作が制御される構成にしてもよい。
本実施の形態の貯湯式給湯装置1は、リモコン50を備える。リモコン50とタンクコントローラ16とは、有線または無線により、双方向にデータ通信可能に接続されている。リモコン50は、例えば台所、浴室のような部屋に設置されてもよい。リモコン50は、運転動作指令、設定値の変更、その他に関する使用者の操作を受け付ける機能を有する。リモコン50は、ユーザーインターフェースに相当する。図示を省略するが、リモコン50には、貯湯式給湯装置1の状態に関する情報を表示するディスプレイ、使用者が操作するスイッチ等の操作部、スピーカ、マイク等が搭載されていてもよい。貯湯式給湯装置1は、異なる場所に設置される複数台のリモコン50を備えてもよい。また、リモコン50に代えて、またはリモコン50に加えて、例えばスマートフォンまたはタブレット端末のような携帯端末を貯湯式給湯装置1のユーザーインターフェースとして使用可能であってもよい。
ヒートポンプ入水配管23及びタンク下部通路25は、貯湯タンク11から流出した水をヒートポンプユニット2に流入させる入水通路に相当している。ヒートポンプユニット2から流出した湯は、ヒートポンプ出湯配管24及びタンク上部通路26を通って、貯湯タンク11の上部に流入することができる。本実施の形態では、タンク下部通路25、水ポンプ13、ヒートポンプ入水配管23、水流路5b、ヒートポンプ出湯配管24、及びタンク上部通路26により、貯湯回路が形成される。水ポンプ13が作動すると、貯湯回路内の水が流れる。
本実施の形態における貯湯回路は、ヒートポンプユニット2から流出した湯の一部を入水通路の水に合流させることが可能なバイパス通路28をさらに備えている。分岐弁12は、流入口aから流入した湯を流出口cと流出口dとに分配することができるとともに、その分配比率を調整可能である。本実施の形態における分岐弁12は、ヒートポンプユニット2から流出した湯をタンク上部通路26とバイパス通路28とに分配する分配比率を調整可能な分配比率調整手段に相当している。以下の説明では、当該分配比率を「出湯分配比率」と称する。出湯分配比率は、タンク上部通路26を流れる湯の流量と、バイパス通路28を流れる湯の流量との比率に相当する。
分岐弁12は、流入口aから流入した湯の全量が流出口cへ流れる状態にすることもできる。この状態では、ヒートポンプユニット2から流出した湯は、バイパス通路28に流入することなく、その全量がタンク上部通路26を通って貯湯タンク11の上部に流入する。
図2は、実施の形態1による貯湯式給湯装置1の機能ブロック図である。図2に示すように、圧縮機4、膨張弁6、送風機10、吐出温度センサ29、入水温度センサ30、出湯温度センサ31、及び外気温度センサ32のそれぞれは、ヒートポンプコントローラ9に対して電気的に接続されている。分岐弁12、水ポンプ13、給湯混合弁14、及び貯湯温度センサ33のそれぞれは、タンクコントローラ16に対して電気的に接続されている。
ヒートポンプコントローラ9の各機能は、処理回路により実現されてもよい。ヒートポンプコントローラ9の処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ9aと少なくとも1つのメモリ9bとを備えてもよい。少なくとも1つのプロセッサ9aは、少なくとも1つのメモリ9bに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、ヒートポンプコントローラ9のそれぞれの各機能を実現してもよい。ヒートポンプコントローラ9の処理回路は、少なくとも1つの専用のハードウェアを備えてもよい。
タンクコントローラ16の各機能は、処理回路により実現されてもよい。タンクコントローラ16の処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ16aと少なくとも1つのメモリ16bとを備えてもよい。少なくとも1つのプロセッサ16aは、少なくとも1つのメモリ16bに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、タンクコントローラ16のそれぞれの各機能を実現してもよい。タンクコントローラ16の処理回路は、少なくとも1つの専用のハードウェアを備えてもよい。
ヒートポンプコントローラ9は、例えばインバータ制御により、圧縮機4の回転速度が可変となるように制御することができる。タンクコントローラ16は、例えばインバータ制御により、水ポンプ13の回転速度が可変となるように制御することができる。
ヒートポンプユニット2を通過する水の流量を以下「沸き上げ水流量」と称する。沸き上げ水流量は、水流路5bを流れる水の流量に相当する。本実施の形態では、タンクコントローラ16が水ポンプ13の回転速度を調整することにより、沸き上げ水流量を調整可能である。したがって、タンクコントローラ16は、沸き上げ水流量を調整可能な流量調整手段に相当する。流量調整手段は、この例に限定されない。例えば、流量調整手段として、貯湯回路に流量制御弁(図示省略)を設け、その流量制御弁の開度をタンクコントローラ16あるいはヒートポンプコントローラ9が調整することで沸き上げ水流量を調整可能としてもよい。
貯湯式給湯装置1は、沸き上げ運転を実行できる。沸き上げ運転は、貯湯回路により貯湯タンク11に湯を蓄積する運転である。ヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16は、沸き上げ運転を制御する。ヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16は、沸き上げ運転のときの動作を例えば以下のように制御する。圧縮機4及び水ポンプ13が駆動される。圧縮機4により圧縮されることで高温高圧となった冷媒が冷媒-水熱交換器5の冷媒流路5aに流入する。冷媒流路5aを流れる冷媒は、水流路5bを流れる水により冷却される。冷媒流路5aを通過した冷媒は、膨張弁6により減圧されることで低温低圧の冷媒となる。この低温低圧冷媒は、蒸発器7に流入する。蒸発器7では、送風機10によって導かれた外気と、低温低圧冷媒との間で熱を交換する。蒸発器7にて外気により加熱されることで冷媒が蒸発する。蒸発した冷媒が圧縮機4に吸入される。このようにして、冷凍サイクルが形成される。
貯湯タンク11の下部にある水は、タンク下部通路25、水ポンプ13、及びヒートポンプ入水配管23を通って、冷媒-水熱交換器5の水流路5bに流入する。冷媒-水熱交換器5では、冷媒流路5aを流れる冷媒により、水流路5bを流れる水が加熱されて高温の湯になる。その加熱された高温の湯は、ヒートポンプ出湯配管24、分岐弁12、及びタンク上部通路26を通って、貯湯タンク11の上部に流入する。このような沸き上げ運転により、貯湯タンク11内で上から下に向かって高温水が徐々に蓄積されていくことで、貯湯タンク11内の蓄熱量が増加する。
タンクコントローラ16は、貯湯温度センサ33により検出される貯湯タンク11内の鉛直方向に沿った温度分布を用いて、貯湯タンク11内の貯湯量または蓄熱量を計算することができる。タンクコントローラ16は、一定時間ごとに現在の貯湯量または蓄熱量を算出する。現在の貯湯量または蓄熱量が基準を下回ると、ヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16は、沸き上げ運転を開始する。沸き上げ運転の実行中の貯湯量または蓄熱量が目標値に達すると、ヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16は、沸き上げ運転を終了する。
タンクコントローラ16は、給湯管21または給湯管22を流れる湯の温度及び量をセンサ(図示省略)により検出することで、給湯負荷を検出してもよい。タンクコントローラ16は、過去複数日間の給湯負荷を統計的に処理して得た学習結果に基づいて、貯湯量または蓄熱量の目標値を定めてもよい。
ヒートポンプユニット2の加熱能力[W]は、単位時間当たりにヒートポンプユニット2が水に与える熱量である。ヒートポンプコントローラ9は、圧縮機4の回転速度を調整することにより、ヒートポンプユニット2の加熱能力を調整することができる。圧縮機4に吸入される冷媒の過熱度を以下「吸入過熱度」と称する。ヒートポンプコントローラ9は、吸入過熱度、または吐出温度センサ29により検出される圧縮機吐出温度が、目標値に等しくなるように、膨張弁6の開度を調整してもよい。膨張弁6の開度が大きいほど、冷媒流量が増加し、圧縮機吐出温度及び吸入過熱度が低下する。
沸き上げ運転のときのヒートポンプ出湯温度の目標値を以下「目標出湯温度」と称する。タンクコントローラ16は、使用者がリモコン50を用いて設定した給湯設定温度に応じて、目標出湯温度を決定してもよい。例えば、タンクコントローラ16は、給湯設定温度に等しい温度または給湯設定温度よりも高い温度を目標出湯温度として設定してもよい。目標出湯温度は、例えば65℃でもよい。
沸き上げ運転のとき、ヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16は、出湯温度センサ31により検出されるヒートポンプ出湯温度が目標出湯温度に等しくなるように、水ポンプ13により沸き上げ水流量を調整することができる。ヒートポンプ出湯温度を目標出湯温度に等しくするためには、ヒートポンプユニット2の加熱能力が低い場合ほど、沸き上げ水流量を低くすることが必要となる。なお、ヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16は、フィードバック制御により水ポンプ13の回転速度を調整してもよい。
本実施の形態のヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16は、沸き上げ運転として、通常沸き上げ運転と、エアだまり防止沸き上げ運転との2種類の沸き上げ運転を実行可能である。通常沸き上げ運転は、エアだまり防止沸き上げ運転よりも貯湯式給湯装置1の消費電力が大きい。
本実施の形態では、貯湯式給湯装置1が利用される住宅または施設(以下、代表して「住宅」と称する)に、太陽光発電装置(図示省略)が備えられていてもよい。貯湯式給湯装置1と、住宅で用いられる他の電気機器とは、太陽光発電装置を用いて発電された電力により運転可能である。以下の説明では、太陽光発電装置により発電された電力を「太陽光発電電力」と称する。また、太陽光発電電力のうち、貯湯式給湯装置1が使用可能な電力を「余剰電力」と称する。例えば、太陽光発電電力のうち、貯湯式給湯装置1以外の他の電気機器が消費する電力を除いた分を「余剰電力」とみなしてもよい。本実施の形態の貯湯式給湯装置1は、商用電源から供給される電力を用いることなく、余剰電力のみを用いて沸き上げ運転を実行可能である。
商用電源から供給される電力を用いて夜間に沸き上げ運転を行う場合には、ヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16は、通常沸き上げ運転を実行する。
昼間に余剰電力のみを用いて沸き上げ運転を行う場合に、余剰電力が、通常沸き上げ運転の消費電力に比べて足りない可能性がある。そのような場合に、ヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16は、余剰電力のみを用いてエアだまり防止沸き上げ運転を実行することができる。これにより、電力単価の高い昼間に商用電源から買電することを抑制できる。
通常沸き上げ運転のときのヒートポンプユニット2の加熱能力の値は、定格加熱能力に相当する。エアだまり防止沸き上げ運転のときのヒートポンプユニット2の加熱能力は、定格加熱能力よりも低い。このため、エアだまり防止沸き上げ運転のときの沸き上げ水流量は、通常沸き上げ運転のときの沸き上げ水流量よりも低くなる。
水が加熱されると、水中の溶存空気がガス化する。このため、沸き上げ運転のときには、冷媒-水熱交換器5により加熱された水の中の溶存空気から発生した気泡が貯湯回路内に生成する。沸き上げ水流量が高ければ、貯湯回路内に生成した気泡は、配管内に滞留することなく、下流へ押し流されて、貯湯タンク11に流入する。貯湯タンク11に流入した気泡は、貯湯タンク11の上部に接続された圧力逃し弁(図示省略)から系外へ排出されるので、問題ない。
これに対し、沸き上げ水流量が低いときには、水流が気泡を押し流す作用が弱いので、貯湯回路内に生成した気泡が配管内に溜まる可能性がある。貯湯回路の配管内に気泡が溜まると、沸き上げ水流量が不安定になるという問題がある。
以下の説明では、貯湯回路の配管内に気泡が溜まるおそれがある沸き上げ水流量の閾値を「水流量閾値」と称する。沸き上げ水流量が水流量閾値を超えていれば、貯湯回路内に生成した気泡は、下流へ押し流されるので、配管内に滞留することはない。これに対し、沸き上げ水流量が水流量閾値以下であると、貯湯回路内に生成した気泡が、下流へ押し流されずに、配管内に滞留する可能性がある。
通常沸き上げ運転の最中には、沸き上げ水流量が水流量閾値を超える状態に維持される。このため、通常沸き上げ運転においては、配管内に溜まった気泡によって沸き上げ水流量が不安定になるおそれはない。
エアだまり防止沸き上げ運転は、低流量運転と、流量増加運転とを交互に繰り返す運転である。低流量運転では、沸き上げ水流量が水流量閾値以下となる状態が維持される。このため、低流量運転のときには、溶存空気から生成した気泡が貯湯回路の配管内に滞留する可能性がある。流量増加運転では、沸き上げ水流量が水流量閾値を超えて増加するように水ポンプ13が制御される。低流量運転のときに貯湯回路の配管内に滞留した気泡は、流量増加運転のときに下流へ押し流されて除去される。このため、エアだまり防止沸き上げ運転であれば、配管内に溜まった気泡によって沸き上げ水流量が不安定になることを確実に防止できる。
流量増加運転は、低流量運転の持続時間よりも短い時間だけ続く。すなわち、流量増加運転の持続時間は、低流量運転の持続時間よりも短い。1回の低流量運転の持続時間は、例えば、30分間以上、60分間以下の範囲にあってもよい。1回の流量増加運転の持続時間は、例えば、1分間以上、5分間以下の範囲にあってもよい。
ヒートポンプ入水温度が一定の場合、沸き上げ水流量が増えると、ヒートポンプ出湯温度が低下する。このため、流量増加運転のときに、目標出湯温度よりも低い温度の湯が貯湯タンク11の上部に流入する可能性がある。流量増加運転の持続時間は低流量運転の持続時間よりも短いので、流量増加運転のときに目標出湯温度よりも低い温度の湯が貯湯タンク11の上部に流入したとしても、貯湯タンク11の上部の貯湯温度が大きく低下することを確実に防止できる。
本実施の形態において、タンクコントローラ16は、流量増加運転のときの水ポンプ13の回転速度が低流量運転のときの水ポンプ13の回転速度よりも高くなるように制御する。
エアだまり防止沸き上げ運転の実行中、ヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16は、低流量運転と流量増加運転とを周期的に実行する。すなわち、ヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16は、低流量運転が第一時間だけ持続すると流量増加運転に切り替え、流量増加運転が第一時間よりも短い第二時間だけ持続すると低流量運転に切り替える、という処理を繰り返す。したがって、一回のエアだまり防止沸き上げ運転が継続される時間が長いほど、当該エアだまり防止沸き上げ運転の最中に実行される流量増加運転の回数が増加する。エアだまり防止沸き上げ運転が継続される時間が長い場合には、加熱される水の総量が多いので、溶存空気から発生する気泡の総量も多くなる。そのような場合においても、配管内に気泡が溜まることを確実に防止できる。このため、配管内に溜まった気泡によって沸き上げ水流量が不安定になることを確実に抑制できる。
エアだまり防止沸き上げ運転が開始されると、ヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16は、初回の流量増加運転よりも前に低流量運転を実行する。初回の低流量運転が実行される前に流量増加運転を実行する必要はない。初回の低流量運転が実行される前には、貯湯回路の配管内に、溶存空気から発生した気泡が溜まっていないと考えられるからである。
通常沸き上げ運転のとき及び低流量運転のときには、タンクコントローラ16は、ヒートポンプユニット2から流出した湯の全量がタンク上部通路26を通って貯湯タンク11の上部に流入するように、分岐弁12を制御する。すなわち、通常沸き上げ運転のとき及び低流量運転のときには、バイパス通路28に湯が流れない。
本実施の形態の貯湯式給湯装置1は、ヒートポンプ入水温度を上昇させることが可能なヒートポンプ入水温度上昇手段を備えている。タンクコントローラ16は、ヒートポンプ入水温度上昇手段により、流量増加運転のときのヒートポンプ入水温度が低流量運転のときのヒートポンプ入水温度よりも高くなるようにする。これにより、流量増加運転によって沸き上げ水流量が増えたときでも、ヒートポンプ出湯温度の低下を確実に抑制できる。すなわち、流量増加運転のときに目標出湯温度よりも低い温度の湯が貯湯タンク11の上部に流入することを確実に抑制できる。それゆえ、貯湯タンク11の上部の貯湯温度が低下することをより確実に防止できる。
本実施の形態では、分岐弁12及びバイパス通路28がヒートポンプ入水温度上昇手段に相当している。流量増加運転のときに、タンクコントローラ16は、ヒートポンプユニット2から流出した湯の一部がバイパス通路28へ流れるように分岐弁12を制御する。その結果、バイパス通路28へ流れた湯と、貯湯タンク11の下部からタンク下部通路25へ流れた低温水とが合流部27にて合流及び混合し、ヒートポンプユニット2に流入する。これにより、流量増加運転のときのヒートポンプ入水温度が低流量運転のときよりも高くなる。それゆえ、沸き上げ水流量が増えてもヒートポンプ出湯温度の低下を確実に抑制できる。
流量増加運転のときに、ヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16は、出湯温度センサ31により検出されるヒートポンプ出湯温度が目標出湯温度に等しくなるように、出湯分配比率を分岐弁12により調整してもよい。そのようにすることで、流量増加運転のときでも、実際のヒートポンプ出湯温度を目標出湯温度に対してより確実に近づけることができる。なお、ヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16は、フィードバック制御により分岐弁12の開度を調整してもよい。
図3は、沸き上げ運転を開始するときにヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16が実行する処理の例を示すフローチャートである。図4は、エアだまり防止沸き上げ運転の最中の、沸き上げ水流量、ヒートポンプ入水温度、圧縮機4の回転速度、及びヒートポンプユニット2の加熱能力のそれぞれの経時変化の例を示す図である。以下、図3及び図4に示す例に基づき、本実施の形態についてさらに説明する。
沸き上げ運転を実行する必要が生ずると、まず、図3のステップS101として、太陽光発電の余剰電力が有るかどうかが判定される。例えば、タンクコントローラ16は、ホームエネルギーマネジメントシステム(図示省略)から、余剰電力の情報を受信することができる。余剰電力が無い場合には、ステップS103として、通常沸き上げ運転が実行される。余剰電力が有る場合には、ステップS102として、余剰電力の値に基づいて、これから実行する沸き上げ運転の最中の貯湯式給湯装置1の消費電力W[kW]が設定される。消費電力Wは、例えば、現在の余剰電力以下の値となるように設定される。
ステップS102からステップS104に進む。ステップS104では、貯湯温度センサ33により、貯湯タンク11の上部の貯湯温度Twh[℃]と、貯湯タンク11の下部の貯湯温度Twc[℃]とが計測される。次いで、ステップS105として、これから実行する沸き上げ運転の最中の目標出湯温度Twot[℃]が設定される。目標出湯温度Twotは、貯湯タンク11の上部の貯湯温度Twh以上の値になるように設定されることが好ましい。目標出湯温度Twotを貯湯温度Twh以上にすれば、ヒートポンプユニット2から貯湯タンク11の上部に流入した湯が、貯湯タンク11内に残っていた湯と混合することなく、その上に積層される。
次に、ステップS106として、外気温度センサ32により外気温度Taが計測される。続いて、ステップS107として、沸き上げ運転のCOP(Coefficient Of Performance)の予測値ACOPが演算される。ヒートポンプコントローラ9は、例えば、ヒートポンプ入水温度の値、ヒートポンプ出湯温度の値、及び外気温度の値を変数としてCOPの値を算出可能なテーブルを記憶している。ヒートポンプコントローラ9は、上記計測された外気温度Taの値とともに、貯湯タンク11の下部の貯湯温度Twcをヒートポンプ入水温度の値として用い、目標出湯温度Twotをヒートポンプ出湯温度の値として用いて、上記テーブルにより、COPの予測値ACOPを演算する。
次に、ステップS108として、ヒートポンプコントローラ9は、ステップS102で設定された消費電力Wの値と、ステップS107で算出されたCOPの予測値ACOPとを用いて、これから実行する沸き上げ運転において予測される加熱能力の値であるQhを次式(1)により演算する。
Qh=W×ACOP ・・・(1)
続いて、ステップS109として、ヒートポンプコントローラ9は、上述した貯湯タンク11の下部の貯湯温度Twc、目標出湯温度Twot、及び加熱能力Qhの各値と、予め記憶された水の比熱Cpw[kJ/(kg・K)]の値とを用いて、これから実行する沸き上げ運転において予測される沸き上げ水流量の値であるMw[kg/s]を次式(2)により算出する。
Mw=Qh/(Cpw×(Twot-Twc)) ・・・(2)
なお、沸き上げ水流量Mw[kg/s]の値を、Vw[L/min]等に単位変換してもよい。例えば、予め記憶された水の密度ρw[kg/m3]の値を用いて、次式(3)により沸き上げ水流量Vw[L/min]を算出することができる。
Vw=Mw/ρw×60×1000 ・・・(3)
次に、ステップS110として、これから実行する沸き上げ運転での沸き上げ水流量Vwが、前述した水流量閾値Vwmin[L/min]以下であるかどうかが判定される。ヒートポンプコントローラ9またはタンクコントローラ16は、水流量閾値Vwminを予め記憶している。
例えば、ヒートポンプユニット2の定格加熱能力Qhr[kW]と、最高のヒートポンプ出湯温度Twomax[℃]と、最低のヒートポンプ入水温度Twcmin[℃]とから算出される沸き上げ水流量Vwr[L/min]の50%程度に相当する値を水流量閾値Vwminとして用いてもよい。この場合、次式(4)により水流量閾値Vwminを算出することができる。
Vwmin=0.5×Vwr=0.5×Qhr×60×1000/(ρw×Cpw×(Twomax-Twcmin)) ・・・(4)
ステップS110で、これから実行する沸き上げ運転での沸き上げ水流量Vwが水流量閾値Vwminを超える場合には、ステップS112へ進み、通常沸き上げ運転が実行される。これに対し、これから実行する沸き上げ運転での沸き上げ水流量Vwが水流量閾値Vwmin以下となる場合には、ステップS111へ進み、エアだまり防止沸き上げ運転が実行される。
以下、図4を参照して、エアだまり防止沸き上げ運転についてさらに説明する。図4に示す例では、エアだまり防止沸き上げ運転の最中の圧縮機4の回転速度は一定に維持される。すなわち、流量増加運転のときの圧縮機4の回転速度は、低流量運転のときの圧縮機4の回転速度に等しい。低流量運転のとき、ヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16は、出湯温度センサ31により検出されるヒートポンプ出湯温度が目標出湯温度Twotに等しくなるように、水ポンプ13により沸き上げ水流量Vw1を調整する。低流量運転のときの沸き上げ水流量Vw1は、水流量閾値Vwmin以下となり、ステップS109で予測された値に等しくなると考えられる。
流量増加運転のとき、タンクコントローラ16は、沸き上げ水流量Vw2が水流量閾値Vwminを超えるように、水ポンプ13の回転速度を増加させる。このとき、タンクコントローラ16は、流量増加運転中の沸き上げ水流量Vw2の最高値が、水ポンプ13を最高回転速度で作動させたときの沸き上げ水流量の50%程度に相当する値になるように、水ポンプ13の回転速度を調整してもよい。
本実施の形態では、流量増加運転のときに、タンクコントローラ16は、ヒートポンプユニット2から流出した湯が、タンク上部通路26とバイパス通路28との双方へ分配されるように分岐弁12を制御する。その結果、流量増加運転のときのヒートポンプ入水温度Twiが低流量運転のときよりも高くなる。これにより、流量増加運転によって沸き上げ水流量が増加したときでも、圧縮機4の回転速度を増加させることなく、ヒートポンプ出湯温度の低下を防止できる。
ヒートポンプ入水温度が高いほど、ヒートポンプユニット2の加熱能力が低下する性質がある。このため、図4に示す例では、流量増加運転のときの加熱能力が低流量運転のときよりも低くなる。
また、ヒートポンプ入水温度が高いほど、ヒートポンプユニット2のCOPが低下する性質がある。本実施の形態であれば、低流量運転のときにはヒートポンプ入水温度が低温に維持され、低流量運転よりも短時間の流量増加運転のときにだけヒートポンプ入水温度が上昇する。このため、ヒートポンプ入水温度の上昇によるCOPの低下の影響を小さくできる。
太陽光発電の余剰電力を用いて沸き上げ運転をする場合には、消費電力を大きくすると買電が発生する可能性がある。これに対し、本実施の形態であれば、流量増加運転の最中にも、圧縮機4の回転速度を増加させずにヒートポンプ出湯温度の低下を防止できる。このため、流量増加運転のときに消費電力が増加することを確実に防止でき、買電の発生を回避できる。
昼間の沸き上げ運転が実行されるときには、ある程度夜間に蓄熱されているので、貯湯タンク11の上部の貯湯温度Twhが比較的高い状態にある。前述したように、目標出湯温度Twotは、貯湯タンク11の上部の貯湯温度Twh以上の値になるように設定されることが好ましい。このため、昼間の沸き上げ運転では、目標出湯温度Twotが高くなりやすいので、沸き上げ水流量が特に低くなりやすい。本実施の形態であれば、エアだまり防止沸き上げ運転を実行することで、沸き上げ水流量が特に低い場合であっても、溶存空気から発生した気泡が貯湯回路の配管内に溜まることを防止でき、安定した運転が可能となる。
貯湯タンク11の上部の湯温が高いときに、それよりも低い温度の水が貯湯タンク11の上部に流入すると、両者の密度の差が大きいため、混合による影響が大きくなる可能性がある。これに対し、本実施の形態であれば、流量増加運転のときでもヒートポンプ出湯温度の低下を確実に防止できるので、そのような影響を確実に抑制できる。
実施の形態2.
次に、図5を参照して、実施の形態2について説明するが、前述した実施の形態1との相違点を中心に説明し、前述した要素と共通または対応する要素には、同一の符号を付して、共通する説明を簡略化または省略する。
図5は、実施の形態2による貯湯式給湯装置34を示す図である。図5に示すように、本実施の形態の貯湯式給湯装置34の貯湯回路は、実施の形態1の貯湯式給湯装置1の貯湯回路と比べて、分岐弁12及びバイパス通路28に代えて、沸き上げ混合弁35及びタンク中間部通路36を備える点が異なる。沸き上げ混合弁35は、流入口a、流入口b、及び流出口cを有している。貯湯タンク11の中間部は、タンク中間部通路36により、沸き上げ混合弁35の流入口aにつながっている。貯湯タンク11の下部は、タンク下部通路25により、沸き上げ混合弁35の流入口bにつながっている。沸き上げ混合弁35の流出口cは、通路37により、水ポンプ13の吸入口につながっている。
沸き上げ混合弁35は、貯湯タンク11の中間部から流入口aに流入する中温水と、貯湯タンク11の下部から流入口bに流入する低温水とを混合させた水を流出口cから流出させることができる。また、沸き上げ混合弁35は、中温水と低温水との混合比率を連続的に変化させることができる。
通常沸き上げ運転のとき、及びエアだまり防止沸き上げ運転の低流量運転のときには、タンクコントローラ16は、沸き上げ混合弁35の流入口aを閉鎖し、流入口bから低温水のみが流入するように沸き上げ混合弁35の開度を設定する。すなわち、通常沸き上げ運転のとき、及びエアだまり防止沸き上げ運転の低流量運転のときには、タンク中間部通路36に中温水が流れず、貯湯タンク11の下部からの低温水のみがヒートポンプユニット2へ供給される。
エアだまり防止沸き上げ運転の流量増加運転のときには、タンクコントローラ16は、水ポンプ13の回転速度を増加させるとともに、貯湯タンク11の中間部からの中温水と貯湯タンク11の下部からの低温水とが沸き上げ混合弁35にて混合した水がヒートポンプユニット2へ供給されるように、沸き上げ混合弁35の開度を設定する。これにより、流量増加運転のときのヒートポンプ入水温度が低流量運転のときよりも高くなる。それゆえ、流量増加運転において沸き上げ水流量が増加したときでも、圧縮機4の回転速度を増加させることなく、ヒートポンプ出湯温度の低下を防止することができる。
本実施の形態における沸き上げ混合弁35及びタンク中間部通路36は、貯湯タンク11の下部から流出した水である低温水と、貯湯タンク11の中間部から流出した水である中温水とを混合してヒートポンプユニット2に流入させることが可能な混合手段に相当している。また、沸き上げ混合弁35及びタンク中間部通路36は、ヒートポンプ入水温度を上昇させることが可能なヒートポンプ入水温度上昇手段に相当している。
流量増加運転のときに、ヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16は、出湯温度センサ31により検出されるヒートポンプ出湯温度が目標出湯温度に等しくなるように、沸き上げ混合弁35により低温水と中温水との混合比を調整してもよい。そのようにすることで、流量増加運転のときでも、実際のヒートポンプ出湯温度を目標出湯温度に対してより確実に近づけることができる。なお、ヒートポンプコントローラ9及びタンクコントローラ16は、フィードバック制御により沸き上げ混合弁35の開度を調整してもよい。