JP7435309B2 - 表面処理方法 - Google Patents

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Description

本開示は、表面処理方法に関する。
特許文献1には、鋼部品にショットピーニング処理を施し、鋼部品の残留オーステナイト組織の一部をマルテンサイト組織に変態させる表面処理方法が開示されている。この表面処理方法によれば、鋼部品の表面に圧縮残留応力を付与することができる。よって、鋼部品の使用時に表面にき裂が発生したとしても、き裂の進行が抑制される。
国際公開第2017/154964号
本技術分野では、ワークの疲労強度を更に向上可能な表面処理方法が求められている。
そこで、本開示は、ワークの疲労強度を更に向上可能な表面処理方法を提供することを目的とする。
本開示の一側面に係る表面処理方法は、以下の工程を含む。
第一工程:ワークに平面波状の衝撃波を付与することでワークの材料組織を高密度転移させる。
第二工程:第一工程後のワークを塑性変形させる。この塑性変形は、ワークに球面波状の衝撃波を付与する、又は、物理的な接触による圧力を付与する、ことで行う。
この表面処理方法において、第一工程では材料組織を高密度転移させるので、ワークの表層部をき裂が進展し難い表面とすることができる。また、第二工程ではワークを塑性変形させるので、ワークの表面をき裂の起点が生じ難い表面とすることができる。したがって、第一工程及び第二工程を組み合わせることにより、き裂の発生及びき裂の進展が抑制された表面及び表層部をワークに付与することができる。よって、ワークの疲労強度を更に向上させることができる。
第二工程では、ワークを塑性変形させることにより、ワークの材料組織を変態させてもよい。この場合、確実にワークの表面をき裂の起点が生じ難い表面とすることができる。
第二工程では、物理的な衝突により、ワークに球面波状の衝撃波を付与してもよい。この場合、ワークを容易に塑性変形させることができる。
第一工程におけるワークの有効加工深さは、第二工程におけるワークの有効加工深さよりも深くてもよい。この場合、第二工程のみを行う場合に比べて、ワークの表面からより深い位置まで残留圧縮応力を付与することができる。
第一工程におけるワークの有効加工深さは、0.3mm以上であり、第二工程におけるワークの有効加工深さは、50μm以下であってもよい。この場合、ワークの表面から0.3mm以上の深さまで残留圧縮応力を付与することができる。また、ワークの表面から50μm以下の深さに確実に残留圧縮応力を付与することができる。
第二工程では、ワークの材料組織を加工誘起マルテンサイト変態させてもよい。この場合、金属組織が体積膨張を起こし、母相に歪を生じさせる。これにより、残留圧縮応力を付与することができる。
第一工程では、ワークにレーザ波を照射することにより、ワークに平面波状の衝撃波を付与し、第二工程では、ワークにショットピーニングを行うことにより、ワークに球面波状の衝撃波を付与してもよい。この場合、レーザ波は直進性を有する高速の衝撃波であるため、深さ方向において格子間歪を付与する。よって、残留圧縮応力を深い位置まで付与することができる。ショットピーニングは、物理的な接触により、ワークの表面の接触点近傍に格子間歪を付与する。これにより、接触点近傍に残留圧縮応力を付与することができる。
第二工程では、ワークの残留オーステナイト量を10体積%以上減少させてもよい。この場合、10体積%以上の残留オーステナイトをマルテンサイト変態させることができるので、残留圧縮応力を十分に付与することができる。
本開示によれば、ワークの疲労強度を更に向上可能な表面処理方法を提供することができる。
実施形態に係る表面処理方法を示すフローチャートである。 第一工程に用いられるレーザ照射装置を示す構成図である。 第二工程に用いられるショットピーニング装置を示す構成図である。 アークハイトの測定方法を示す図である。 試料にショットピーニングを行う方法を示す図である。 残留応力の測定結果を示すグラフである。 残留オーステナイト量の測定結果を示すグラフである。 硬さの測定結果を示すグラフである。 KAM値の測定結果を示すグラフである。
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
図1は、実施形態に係る表面処理方法を示すフローチャートである。実施形態に係る表面処理方法は、処理対象であるワークW(図2参照)の表面処理を行う方法であり、図1に示されるように、第一工程S1及び第二工程S2を含む。ワークWは、例えば、鉄鋼材料からなる。ワークWは、例えば、真空浸炭材、ガス浸炭材、又はステンレス鋼である。以下、第一工程S1及び第二工程S2について説明する。
(第一工程)
第一工程S1は、ワークWに平面波状の衝撃波を付与することでワークWの材料組織を高密度転移させる工程である。平面波状の衝撃波とは、ワークWの内部に平面波状に伝搬する衝撃波である。平面波状の衝撃波は、直進性を有し、一方向に伝搬するので、ワークWの表面から深い位置にまで伝搬し、強い衝撃をワークWに与える。第一工程S1では、平面波状の衝撃波を付与することで、ワークWを塑性変形させ、ワークWの表層部の材料組織を高密度転移させる。高密度転移とは、処理前に比べて、格子欠陥の移動等により密度が高まることである。その結果、第一工程S1では、ワークWの表層部に残留圧縮応力が付与され、硬化層が形成されるので、ワークWの疲労強度(破壊強度)を向上させることができる。
平面波状の衝撃波を利用した第一工程S1によれば、ワークWの表面から深い位置にまで残留圧縮応力を付与することができる。残留応力(ここでは残留圧縮応力)が付与される深さを有効加工深さとすると、第一工程S1におけるワークWの有効加工深さd1は、例えば、0.3mm以上である。有効加工深さd1は、1.0mm以上であってもよい。有効加工深さd1は、例えば、3.0mm以下である。なお、残留応力が付与される深さは、残留応力付与処理がなされたワークWの残留応力が未処理のワークWの残留応力と一致する深さ、又は、一致すると想定される深さである。未処理のワークWの残留応力が0MPaである場合、残留応力が付与される深さは、残留応力付与処理がなされたワークWの残留応力が0MPaとなる深さ、又は、0MPaとなると想定される深さである。
ワークWに平面波状の衝撃波を付与する方法としては、例えば、レーザピーニング等により、ワークWにレーザ波を照射する方法が挙げられる。つまり、第一工程S1では、例えば、ワークWの表面にレーザピーニングを施し、ワークWにレーザ波を照射することにより、ワークWに平面波状の衝撃波を付与する。
図2は、第一工程に用いられるレーザ照射装置を示す構成図である。図2に示されるように、レーザ照射装置10は、レーザ発振器11と、反射ミラー12,13と、集光レンズ14と、加工ステージ15と、制御装置16と、を備える。レーザ発振器11は、パルスレーザビームLを発振する装置である。反射ミラー12,13は、レーザ発振器11で発振されたパルスレーザビームLを集光レンズ14まで伝送する。集光レンズ14は、パルスレーザビームLをワークWの加工位置に集光させる。加工ステージ15は、内部が水等の透明液体Tからなる媒体で満たされた水槽である。ワークWは、透明液体Tに浸漬された状態で加工ステージ15に配置されている。
レーザ照射装置10は、制御装置16によって制御される。制御装置16は、例えばPLC(ProgrammableLogic Controller)又はDSP(Digital Signal Processor)などのモーションコントローラとして構成される。制御装置16は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、RAM(RandomAccess Memory)及びROM(Read Only Memory)などのメモリと、タッチパネル、マウス、キーボード、ディスプレイなどの入出力装置と、ネットワークカードなどの通信装置とを含むコンピュータシステムとして構成されてもよい。制御装置16は、メモリに記憶されているコンピュータプログラムに基づくプロセッサの制御のもとで各ハードウェアを動作させることにより、制御装置16の機能を実現する。
第一工程S1では、ワークWに対して透明液体Tを介してパルスレーザビームLが照射される。パルスレーザビームLは、レーザ発振器11により発振された後、反射ミラー12,13からなる光学系により集光レンズ14まで伝送される。続いて、パルスレーザビームLは、集光レンズ14により集光され、透明液体Tを介してワークWの表面に照射される。パルスレーザビームLの照射は、加工ステージ15の操作と対応して行われる。照射条件(例えば、スポット径、パルスエネルギー、又は照射密度)は、適宜設定される。
パルスレーザビームLがワークWの表面に照射されると、ワークWの表面でレーザアブレーションが発生し、プラズマが発生する。大気中であれば、照射点の材料が気化する。ワークWにおける照射点は透明液体Tで覆われているので、プラズマによる平面波状の衝撃波がワークWに伝達される。これにより、ワークWの表層部のレーザピーニングが施工された範囲では、結晶組織が高密度転移し、残留圧縮応力が付与される。
(第二工程)
第二工程S2は、第一工程S1後のワークWに球面波状の衝撃波、又は、物理的な接触による圧力を付与することでワークWを塑性変形させる工程である。球面波状の衝撃波とは、ワークWの内部に接触点を中心として球面波状に伝搬される衝撃波である。球面波状の衝撃波は、ワークWの内部で色々な方向に拡散される。球面波状の衝撃波は、平面波状の衝撃波のようにワークWの表面から深い位置には伝搬せず、主にワークWの表面に沿って伝搬する。このため、第一工程S1におけるワークWの有効加工深さd1は、第二工程S2におけるワークWの有効加工深さd2よりも深い。有効加工深さd2は、例えば、0.3mm未満である。
第二工程S2では、ワークWを塑性変形させることにより、ワークWの材料組織を変態させる。例えば、ワークWが真空浸炭材のように残留オーステナイトを含む場合、第二工程では、ワークWの残留オーステナイトを加工誘起マルテンサイト変態させる。残留オーステナイトから誘起マルテンサイトに変態すると、体積が膨張する。体積の膨張に伴い、誘起マルテンサイト周辺の母相に歪が生じる。これにより、誘起マルテンサイトの周辺の母材に歪が生じる。第二工程では、ワークWの表層部の残留オーステナイト量を10体積%以上減少させる。
ワークWに球面波状の衝撃波を付与する方法としては、例えば、ショットピーニング、ニードルピーニング、超音波ピーニング、ハンマーピーニング、バレル研磨、又はブラスト加工が挙げられる。ショットピーニングでは、無数のピーニングメディア(噴射材又は投射材)を高速度でワークWの表面に衝突させる。ピーニングメディアは、金属、セラミックス、又はガラスからなる球である。ワークWに対してショットピーニングを行うことにより、ワークWに物理的な衝突による衝撃を付与することができる。その結果、ワークWに球面波状の衝撃波を付与することができる。つまり、第二工程S2では、ワークWにショットピーニングを行うことにより、ワークWに球面波状の衝撃波を付与することができる。更に換言すると、第二工程S2では、物理的な衝突により、ワークWに球面波状の衝撃波を付与することができる。物理的な衝突によれば、ワークWを容易に塑性変形させることができる。更に、物理的な衝突によれば、ワークWの表層部の温度が瞬間的に高くなる。この温度上昇により、上述の材料組織の変態が促進される。
ワークWに物理的な接触による圧力を付与する方法としては、例えば、バニシングが挙げられる。つまり、第二工程S2では、例えば、ワークWに対してバニシングを行うことにより、ワークWに物理的な球面波状の衝撃波を付与することができる。
図3は、第二工程に用いられるショットピーニング装置を示す構成図である。図3には、ショットピーニング装置30の要部が模式的に示されている。図3に示されるショットピーニング装置30は、直圧式(加圧式)のショットピーニング装置である。ここでは、直圧式について説明するが、ショットピーニング装置30は吸引式(重力式)であってもよい。ショットピーニング装置30は、キャビネット32と、ステージ36と、ステージ保持軸38と、噴射装置40と、制御装置26とを備えている。キャビネット32の内部には、加工室34が形成されている。加工室34では、ワークWに噴射材を衝突させることにより、ワークWのショットピーニング加工が行われる。ステージ36は、加工室34内に設けられている。ステージ36には、ワークWが載置される。ステージ36は、ステージ保持軸38により保持されている。
噴射装置40は、噴射材タンク42と、噴射材供給装置(ショットホッパー)44と、加圧タンク46と、コンプレッサ52と、ノズル64と、を備える。噴射材タンク42は、噴射材供給装置44を介して加圧タンク46に接続されている。噴射材供給装置44は、加圧タンク46との間に設けられたポペット弁44Iを有している。ポペット弁44Iが開かれた状態では、噴射材タンク42から噴射材供給装置44を経て適量の噴射材が加圧タンク46へ送られる。
コンプレッサ52は、配管50によりノズル64と接続されている。コンプレッサ52は、配管50及び配管48により加圧タンク46とも接続されている。配管48は、配管50から分岐して加圧タンク46のエア流入口46Aに接続されている。配管48にはエア流量制御弁54が設けられている。このエア流量制御弁54が開かれることで、コンプレッサ52からの圧縮空気が、配管50及び配管48を通じて、加圧タンク46に供給される。これにより、加圧タンク46内が加圧される。
加圧タンク46のショット流出口46Bには、カットゲート56が設けられている。ショット流出口46Bには、配管50から分岐した配管58が接続されている。配管50において、配管58との接続部は、配管48との接続部よりもノズル64側に位置している。配管58には、ショット流量制御弁60が設けられている。配管50において、配管58との接続部と配管48との接続部との間には、エア流量制御弁62が設けられている。配管50における配管58との接続部は、加圧タンク46から供給された噴射材と、コンプレッサ52から供給された圧縮空気とが混合されるミキシング部50Aを構成している。噴射材及び圧縮空気は、ミキシング部50Aで混合されてノズル64に送られる。ノズル64は、キャビネット32内の側部に配置されている。ノズル64は、噴射材を含む圧縮空気を加工室34のワークWに向けて噴射し、噴射材をワークWに衝突させる。
ショットピーニング装置30は、制御装置26によって制御される。制御装置26は、例えばPLC又はDSPなどのモーションコントローラとして構成される。制御装置26は、CPUなどのプロセッサと、RAM及びROMなどのメモリと、タッチパネル、マウス、キーボード、ディスプレイなどの入出力装置と、ネットワークカードなどの通信装置とを含むコンピュータシステムとして構成されてもよい。制御装置26は、メモリに記憶されているコンピュータプログラムに基づくプロセッサの制御のもとで各ハードウェアを動作させることにより、制御装置26の機能を実現する。
ショットピーニング装置30は、圧縮空気により噴射材を噴射する噴射装置40を備えるが、インペラにより投射材を加速させて投射する投射装置を備えてもよい。
ショットピーニング装置30は、分級機構と、集塵機と、循環装置とを更に備え、噴射材を再使用するように構成されてもよい。集塵機は、分級機構を介して加工室34と連結されている。集塵機は、加工室34の下部に落下した噴射材及びワークWの切粉(これらを総じて粉粒体と記す)を吸引し、分級機構に移送する。分級機構は、例えば風力式である。分級機構は、移送された粉粒体を再使用可能な噴射材と、その他の微粉とに分級する。その他の微粉は集塵機に回収される。循環装置は、再使用可能な噴射材をパケットエレベータ、スクリューコンベア、及びセパレータを経て噴射材タンク42に供給する。
以上説明したように、実施形態に係る表面処理方法において、第一工程S1では材料組織を高密度転移させるので、ワークWの表層部をき裂が進展し難い表面とすることができる。また、第二工程S2ではワークWを塑性変形させるので、ワークWの表面をき裂の起点が生じ難い表面とすることができる。したがって、第一工程S1及び第二工程S2を組み合わせることにより、き裂の発生及びき裂の進展が抑制された表面及び表層部をワークWに付与することができる。よって、特許文献1の表面処理方法のようにショットピーニングのみを行う場合に比べて、ワークWの疲労強度を更に向上させることができる。
第一工程S1におけるワークWの有効加工深さd1は、第二工程S2におけるワークWの有効加工深さd2よりも深い。このため、ワークWの表面からより深い位置まで残留圧縮応力を付与することができる。第一工程S1では、ワークWにレーザ波を照射することにより、ワークWに平面波状の衝撃波を付与する。レーザ波は直進性を有する高速の衝撃波であるため、深さ方向において格子間歪を付与する。よって、残留圧縮応力を深い位置まで付与することができる。
第二工程S2では、ワークWを塑性変形させることにより、ワークWの材料組織を変態させる。よって、確実にワークWの表面をき裂の起点が生じ難い表面とすることができる。第二工程S2では、物理的な衝突により、ワークWに球面波状の衝撃波を付与する。このため、ワークWを容易に塑性変形させることができる。第二工程S2では、ワークWにショットピーニングを行うことにより、ワークWに球面波状の衝撃波を付与する。ショットピーニングは、物理的な接触により、ワークWの表面の接触点近傍に格子間歪を付与する。これにより、接触点近傍に残留圧縮応力を付与することができる。
第二工程S2では、ワークWの材料組織を加工誘起マルテンサイト変態させる。よって、金属組織が体積膨張を起こし、母相に歪を生じさせる。これにより、残留圧縮応力を付与することができる。第二工程S2では、ワークWの表層部の残留オーステナイト量を10体積%以上減少させる。このように、10体積%以上の残留オーステナイトを加工誘起マルテンサイト変態させることができるので、残留圧縮応力を十分に付与することができる。
本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
以下、実験例について説明する。
まず、実施形態に係る表面処理を行っていない試料(以下、「試料NP」)、第一工程(レーザピーニング)のみを行った試料(以下、「試料LP」)、第二工程(ショットピーニング)のみを行った試料(以下、「試料SP」)、及び、実施形態に対応する表面処理、すなわち、第一工程を行った後、第二工程を行った試料(以下、「試料LP+SP」)を準備した。各試料は、有効硬化層深さECD(Effective Case Depth)が0.7mm程度となるように真空浸炭焼き入れ処理したクロムモリブデン鋼(JIS規格:SCM420H)を用いて準備した。
レーザピーニングは、スポット径を1.0mm、パルスエネルギーを987mJ、及び、照射密度を98Pulses/mmとして行った。
ショットピーニングは、アモルファス材質の丸い金属球からなるショット(AM50B)を用い、噴射圧力を0.5MPa、噴射量を13.5kg/min、カバレージを300%以上、試料の移動速度を1800mm/minとして行った。アルメンストリップを用いて測定したアークハイトは0.275mmNであった。
図4は、アークハイトの測定方法を示す図である。図4において、図3と共通する部分には図3と同じ符号が付されている。図4に示されるように、ノズル64の先端から、アルメンストリップSの表面までの、ノズル64の中心軸Cに沿う距離Hを200mmに設定した。アルメンストリップSが載置されたステージ36を矢印Aに沿って移動させることにより、アルメンストリップSを移動させ、上記条件でショットピーニングを行った。
図5は、試料にショットピーニングを行う方法を示す図である。図5において、図3と共通する部分には図3と同じ符号が付されている。図5に示されるように、ノズル64の先端から、試料であるワークWの表面までの、ノズル64の中心軸Cに沿う距離Hを200mmに設定した。ワークWが載置されたステージ36を矢印Aに沿って移動させることにより、ワークWを移動させ、上記条件でショットピーニングを行った。
(残留応力)
各試料の残留応力を測定した。残留応力の測定は、パルステック工業株式会社製の残留応力測定装置μ-X360を用い、cosα法により行った。Cr管球を用い、照射径をφ1.0mm、コリメータ径をφ1.0mm、及び、測定角度を35度とした。
図6は、残留応力の測定結果を示すグラフである。図6において、横軸は試料の表面からの深さ(μm)を示し、縦軸は残留応力(MPa)を示す。マイナスが圧縮応力であり、プラスが引張応力である。
図6に示されるように、第一工程を行った試料LP及び試料LP+SPでは、表面から1mmの深さまで残留圧縮応力が付与された。つまり、第一工程における有効加工深さは1mmであった。第二工程のみを行った試料SPでは、試料の表面から50μmの深さまで残留圧縮応力が付与された。つまり、第二工程における有効加工深さは50μmであった。
試料LP及び試料LP+SPでは、特に、深さ10μm以上50μm以下の範囲で残留圧縮応力の値が大きい。第一工程のみを行った試料LPでは、最表層で残留圧縮応力の値が小さくなっている。このようにレーザピーニングによれば、試料の深い位置まで残留圧縮応力を付与できるものの、試料の最表層ではレーザ照射の熱影響により、残留圧縮応力が十分に付与できないと考えられる。
試料LP+SPでは、試料LPに比べて、試料の最表層における残留圧縮応力の値が大きくなっている。このように、レーザピーニング後にショットピーニングを行うことにより、試料の最表層にも残留圧縮応力が十分に付与できることが分かった。なお、ショットピーニング後にレーザピーニングを行った場合は、試料の最表層にレーザ照射の熱影響が残り、残留圧縮応力が十分に付与されない。
(残留オーステナイト量)
各試料の残留オーステナイト量を測定した。残留オーステナイト量の測定は、パルステック工業株式会社製の残留応力測定装置μ-X360を用い、cosα法により行った。Cr管球を用い、照射径をφ1.0mm、コリメータ径をφ1.0mm、及び、測定角度を0度とした。
図7は、残留オーステナイト量の測定結果を示すグラフである。図7において、横軸は試料の表面からの深さ(μm)を示し、縦軸は残留オーステナイト量(体積%)を示す。残留オーステナイトは体積を有する結晶であるが、ここでは、試料の深さ方向に直交する断面に占める残留オーステナイトの面積%を便宜的に残留オーステナイト量(体積%)とする。図7に示されるように、最表層における残留オーステナイト量は、表面処理を行っていない試料NPでは20体積%以上であるのに対し、第二工程を行った試料SP及び試料LP+SPではほぼ0(1体積%未満)であった。20体積%以上の残留オーステナイトが第二工程によって加工誘起マルテンサイト変態したと考えられる。
(硬さ)
各試料の硬さを測定した。硬さの測定は、株式会社ミツトヨ製の硬さ試験機HMを用いて行った。図8は、硬さの測定結果を示すグラフである。図8において、横軸は試料の表面からの深さ(μm)を示し、縦軸はビッカース硬さ(HV)を示す。図8に示されるように、試料LP+SPでは、0μmから400μmの深さにおいて、試料LP及び試料SPよりも硬くなっていることが分かった。試料SPでは、最表層には硬さが付与されているものの、50μm以上の深さ位置には硬さが付与されないことが分かった。
(歪量)
各試料のKAM(Kernel Average Misorientation)値を日本電子株式会社製の走査電子顕微鏡JSM-7200Fを用いて測定した。KAM値は、電子後方散乱回折(EBSD:Electron Back Scatter Diffraction)法に基づく結晶方位解析において、隣接する測定点の間の結晶方位の差である局所方位差を示す数値である。KAM値は、歪量を定量的に評価するパラメータである。KAM値が大きいほど、結晶粒内の局所方位差が大きいことを示す。つまり、KAM値が大きいほど、歪量が大きくなっていることを意味する。
図9は、KAM値の測定結果を示すグラフである。図9において、横軸は試料の表面からの深さの範囲(μm)を示し、縦軸は各深さ範囲における平均のKAM値(deg)を示す。図9に示されるように、試料NPでは、最表層(深さ0~10μm)における平均のKAM値は、約0.1degであった。KAM値は、深さ30μmまでは内部に進むにつれて大きくなり、深さ30μm以降は約0.5deg付近を横這いであった。試料NPでは、熱処理による初期歪によりKAM値が約0.5degで横這いという結果になったと考えられる。最表層(深さ0~10μm)では、表面側からの拘束力がないので、約0.1deg程度であったと考えられる。
試料LPでは、深さ110μmまではKAM値が約0.8degとなり、試料NPの結果と比較すると大きくなっている。深さ110μm以降はKAM値が減少し、試料NPと比較して少し高い値になっている。図7に示される残留オーステナイト量の測定結果によれば、試料NPの残留オーステナイト量と試料LPの残留オーステナイト量との差は、深さ10μm~200μmにわたって同程度である。つまり、レーザピーニングによるマルテンサイト変態の影響は、深さ10μm~200μmにわたって同程度であると考えられる。よって、試料LPのKAM値が深さ110μm以降で減少したのは、内部側の拘束力が弱まったためと考えられる。
試料SPでは、最表層(深さ0~10μm)のKAM値は1.4degである。試料SPのKAM値は、内部に進むにつれて減少し、深さ30μm以降で0.8degに近づく。試料SPのKAM値は、試料NPのKAM値と比較して大きくなっている。試料SPのKAM値は、深さ130μmまで試料LPのKAM値よりも高い値になっている。試料SPのKAM値は、深さ130μm以降で急激に減少し、試料LPのKAM値より少し低い値になっている。
試料SPにおけるKAM値の増加は、加工誘起マルテンサイト変態により、金属組織が体積膨張を起こし、大きな歪が生じたことに起因する。図7に示される残留オーステナイト量の測定結果によれば、試料NPの残留オーステナイト量と試料LPの残留オーステナイト量との差は、深さ0μmにおいて最大であり、内部に進むにつれて減少し、深さ40μmで0となっている。つまり、ショットピーニングによるマルテンサイト変態の影響は、深さ0μmにおいて最大であり、内部に進むにつれて減少し、深さ40μm以降でなくなると考えられる。このことから、試料SPのKAM値は、深さ40μmまで減衰方向を示し、その後はマルテンサイト変態の影響がなくなるので、粒内歪の影響によって0.8deg程度になっていると考えられる。130μmより深い部分ではマルテンサイト変態及び粒内歪の影響がないため、初期歪を有した試料NPと同等の値程度まで減少したと考えられる。
試料LP+SPにおける最表層(深さ0~10μm)のKAM値は、1.2degである。試料LP+SPのKAM値は、内部に進むにつれて減少し、深さ30μm以降は試料LP及び試料SPのKAM値と同等であり、深さ120μm以降は約1まで上昇した。試料LP+SPのKAM値の増加は、レーザピーニングによる塑性変形に加え、加工誘起マルテンサイト変態により、金属組織が体積膨張を起こし、大きな歪が生じたことに起因する。
(表面粗さ)
各試料の表面粗さを測定した。表面粗さの測定は、株式会社東京精密製のSurfcom1400を用い、表面粗さのJIS規格であるJIS B0601;2001に基づき行った。各試料について、表面粗さ曲線を3回ずつ取得し、算術平均粗さRaとその平均値、及び、最大高さRzとその平均値を求めた。表1は、算術平均粗さRaの測定結果を示す。表2は、最大高さRzの測定結果を示す。
Figure 0007435309000001
Figure 0007435309000002
表1及び表2に示されるように、試料LPの表面粗さが最も高い。試料LPでは、レーザピーニングの熱影響により、面精度が悪化したと考えられる。試料SPの表面粗さは、試料NPの表面粗さよりは高いものの、レーザピーニングを行った試料LP及び試料LP+SPの表面粗さよりは低い。ショットピーニングによれば、面精度の悪化が抑制できることが分かった。試料LP+SPの表面粗さは、試料LPの表面粗さよりも低い。レーザピーニングにより悪化した面精度が、ショットピーニングにより改善されたと考えられる。
W…ワーク。

Claims (6)

  1. ワークに平面波状の衝撃波を付与することで前記ワークの材料組織を高密度転移させる第一工程と、
    前記第一工程後の前記ワークに研削を行うことなく、物理的な衝突により、前記ワークに球面波状の衝撃波を付与することで前記ワークを塑性変形させる第二工程と、を含み、
    前記第二工程では、前記ワークを塑性変形させることにより、前記ワークの材料組織を変態させる、
    表面処理方法。
  2. 前記第一工程における前記ワークの有効加工深さは、前記第二工程における前記ワークの有効加工深さよりも深い、
    請求項1に記載の表面処理方法。
  3. 前記第一工程における前記ワークの有効加工深さは、0.3mm以上であり、
    前記第二工程における前記ワークの有効加工深さは、50μm以下である、
    請求項1又は2に記載の表面処理方法。
  4. 前記第二工程では、前記ワークの材料組織を加工誘起マルテンサイト変態させる、
    請求項1~3のいずれか一項に記載の表面処理方法。
  5. 前記第一工程では、前記ワークにレーザ波を照射することにより、前記ワークに平面波状の衝撃波を付与し、
    前記第二工程では、前記ワークにショットピーニングを行うことにより、前記ワークに球面波状の衝撃波を付与する、
    請求項1~4のいずれか一項に記載の表面処理方法。
  6. 前記第二工程では、前記ワークにおける残留オーステナイト量を10体積%以上減少させる、
    請求項1~5のいずれか一項に記載の表面処理方法。
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