以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。本発明は、モータ駆動により同一パターンの動作を繰り返す機械の負荷を監視する際に、例えばモータ電流iに基づいてその繰り返しの1サイクル時間tcを判定し、モータトルクTの二乗平均平方根(RMS)から求められる実効トルクにより、機械負荷の異常を判断することを特徴とする。
これにより、簡易な処理にて機械負荷の僅かな変化を定量的に捉えることができ、機械負荷が異常の場合、機械を停止することでそのダメージを最小限に抑えることができる。
以下、電動プレスを例に挙げて本発明の実施形態を説明するが、本発明は、電動プレスに適用があるだけでなく、他の機械にも適用がある。要するに本発明は、モータ駆動により同一パターンの動作を繰り返す機械について適用がある。
〔電動プレスの構成〕
まず、本発明の実施形態によるモータ制御装置の制御対象である電動プレスの構成について説明する。図1は、電動プレスの構成例を示す図である。
この電動プレス10は、サーボモータ11、モータエンコーダ12、クランクエンコーダ13、ピニオンギヤ14、メインギヤ15、ブレーキ16、クランクシャフト17、コネクティングロッド18及びスライド19を備えて構成される。
サーボモータ11及びピニオンギヤ14は直接接続されており、後述するモータ制御装置2の制御の下で、後述するインバータ24から供給される電力により、サーボモータ11が回転する。
サーボモータ11が回転すると、ピニオンギヤ14及びメインギヤ15の減速比により倍力され、クランクシャフト17が回転する。クランクシャフト17が回転すると、コネクティングロッド18を介してスライド19が昇降する。スライド19が昇降することにより、プレス加工が行われる。
このように、電動プレス10は、サーボモータ11が回転することにより、ピニオンギヤ14、メインギヤ15、クランクシャフト17及びコネクティングロッド18を介して、スライド19を昇降させる構造になっている。
サーボモータ11には、その回転位置及び回転速度を検出するためのモータエンコーダ12が取り付けられている。また、クランクシャフト17には、そのクランク角度を検出するためのクランクエンコーダ13が取り付けられている。
ブレーキ16は、後述するモータ制御装置2により当該電動プレス10の負荷異常等の所定の条件が判定されたときに、サーボモータ11が停止するように作動する。ブレーキ16の作動により、サーボモータ11が停止し、スライド19の昇降動作を停止させることができる。
〔モータ制御システム〕
次に、図1に示した電動プレス10及び当該電動プレス10を制御するモータ制御装置を含むモータ制御システムについて説明する。図2は、本発明の実施形態によるモータ制御装置を含むモータ制御システムの構成例を示す全体図である。
このモータ制御システム1は、交流電源21、電源コンバータ22、エネルギー蓄電装置23、インバータ24、動力遮断器25、ブレーキ電磁弁26、電動プレス10及びモータ制御装置2を備えて構成される。
交流電源21から供給される電力は、電源コンバータ22に入力される。電源コンバータ22は、入力した交流電力を直流電力に変換する。電源コンバータ22の出力側に接続された直流母線22aは、エネルギー蓄電装置23の入力側に接続されていると共に、インバータ24の入力側に接続されている。エネルギー蓄電装置23は、大容量の電解コンデンサまたは電気二重層コンデンサが単体で構成されるか、またはこれらを組み合わせて構成される。
エネルギー蓄電装置23には、交流電源21から電源コンバータ22を介して供給される電源のエネルギーと、サーボモータ11からインバータ24を介して供給される回生エネルギーとが蓄積される。この蓄積されたエネルギーは、主に、電動プレス10によるプレス加工を行う力行時に使用される。
インバータ24は、モータ制御装置2からモータ位置指令を入力し、モータ位置指令に従い半導体スイッチング素子がオン/オフ制御され、3相交流電力を、動力遮断器25を介してサーボモータ11へ供給する。これにより、サーボモータ11が回転し、ピニオンギヤ14、メインギヤ15、クランクシャフト17及びコネクティングロッド18を介して、スライド19を昇降させることができる。
また、インバータ24は、当該インバータ24内に設けられた図示しない電流センサ及び電圧センサを用いて、サーボモータ11に流れるモータ電流i及び電圧等を検出する。また、インバータ24は、モータエンコーダ12からモータエンコーダFB(フィードバック)信号を入力し、サーボモータ11の回転速度及び回転位置を検出し、モータ電流i等をモータ制御装置2へ出力する。尚、モータ制御装置2は、図示しない電流センサ及び電圧センサを用いて、モータ電流i等を直接検出するようにしてもよい。
モータ制御装置2は、電動プレス10の加工目的に応じたスライドモーションの運転条件に従い、モータ速度等の運転パターンを生成し、運転パターンに応じたモータ位置指令を生成してインバータ24へ出力する。
モータ制御装置2は、インバータ24からモータ電流i等を入力すると共に、モータエンコーダ12からモータエンコーダFB信号、及びクランクエンコーダ13からクランクエンコーダFB信号をそれぞれ入力する。そして、モータ制御装置2は、モータエンコーダFB信号に基づいて、サーボモータ11の回転速度及び回転位置を検出し、クランクエンコーダFB信号に基づいて、クランクシャフト17のクランク角度を検出する。
ここで、モータエンコーダFB信号に誤りがある場合、モータ制御装置2はサーボモータ11を制御することができなくなる。このため、クランクエンコーダFB信号を用いることで、モータエンコーダFB信号に誤りがなく、モータエンコーダ12が正常であることが判断される。具体的には、モータ制御装置2は、サーボモータ11の回転位置を換算したクランク角度とクランクシャフト17のクランク角度とを比較し、入力したモータエンコーダFB信号が正常であるか、または異常であるかを判断する。
モータ制御装置2は、入力したモータ電流i等、並びにサーボモータ11の回転速度及び回転位置を用いて、サーボモータ11の位置制御、速度制御及びトルク制御を実現するために、前述のモータ位置指令を生成する。
モータ制御装置2は、電動プレス10の運転に先立って、解放信号をオンにしてブレーキ電磁弁26へ出力すると共に、通電信号をオンにして動力遮断器25へ出力する。これにより、ブレーキ電磁弁26を介して、電動プレス10のブレーキ16が解放され、サーボモータ11が動作できる状態となる。また、動力遮断器25は短絡状態となり、後述するインバータ24からサーボモータ11へ電力が供給される状態となる。
本発明の実施形態においては、モータ制御装置2は、モータ電流i等に基づいて、1サイクル時間tcを求め、1サイクル時間tcにおけるモータトルクTの二乗平均平方根を実効トルク現在値Trmsとして算出する。そして、モータ制御装置2は、実効トルク現在値Trmsと実効トルク正常値TSとを比較することで、負荷異常を検出し、解放信号をオフにしてブレーキ電磁弁26へ出力すると共に、通電信号をオフにして動力遮断器25へ出力する。
これにより、ブレーキ電磁弁26を介して、電動プレス10のブレーキ16が作動し、サーボモータ11は停止状態となる。また、動力遮断器25は遮断状態となり、インバータ24からサーボモータ11への電力供給が停止する。
このように、1サイクル時間tcにおけるモータトルクTの二乗平均平方根を実効トルク現在値Trmsとし、実効トルク現在値Trmsを用いて、電動プレス10の負荷異常を検出するようにした。これにより、電動プレス10の負荷を監視する際に、1サイクル時間tcにおけるモータトルクTの二乗平均平方根を算出すればよいから、簡易な処理にて機械負荷の僅かな変化を捉えることができる。モータ制御装置2の詳細については後述する。
一般に、電動プレス10のサーボモータ11は、プレスが持つ大きなイナーシャの駆動系を回すために、大容量のモータが用いられる。電動プレス10の経年変化により機械負荷が増えた場合であっても、サーボモータ11が大容量であるため、高トルクを発生することができる。つまり、サーボモータ11は、外観上運転条件通りに動作するため、従来技術では、電動プレス10における機械側の異常を捉えることができない。
また、フライホイールを用いた従来の機械プレスでは、比較的小容量のモータを用いて大きなフライホイールを回し、フライホイールの駆動力によって、ピニオンギヤ14を介してスライド19を昇降させる。機械プレスの負荷が増えた場合には、プレス加工の仕事量によりフライホイールが減速した分を、フライホイールを駆動させるモータが加速することで補う必要がある。しかし、機械負荷の影響で、フライホイールの速度を回復させることができず、徐々にスローダウンしてしまう。
このような機械プレスにおいては、フライホイールの速度を監視することで、機械負荷の僅かな変化を捉えることができ、機械プレスの異常を判断することができる。しかし、プレスの電動化に伴い、電動プレス10では、機械側の異常を察知することが難しい。
そこで、本発明の実施形態においては、モータ制御装置2は、電動プレス10の1サイクル時間tcにおけるモータトルクTの二乗平均平方根を実効トルク現在値Trmsとして算出し、実効トルク正常値TSに基づいて、負荷異常を検出するようにした。
〔モータ制御装置2〕
次に、図2に示したモータ制御装置2について詳細に説明する。図3は、本発明の実施形態によるモータ制御装置2の構成例を示すブロック図である。
このモータ制御装置2は、運転条件設定部31、運転選択部32、両手操作部33、安全防護部34、プレス制御部35、モーション指令部36、モーション制御部37、ブレーキ制御部38及び負荷監視部39を備えている。
運転条件設定部31は、電動プレス10の加工目的に応じたスライドモーションの運転条件を設定し、運転条件をモーション指令部36に出力する。例えば電動プレス10を用いて絞り加工を行う場合、運転条件設定部31は、スライド19の速度が加工域で等速になるように、スライド19の位置及び速度の運転条件を設定する。
また、運転条件設定部31は、負荷監視部39から実効トルク現在値Trms及び負荷異常信号を入力する。そして、運転条件設定部31は、負荷監視部39により機械負荷が正常であると判定されたときの(負荷異常信号を入力していないときの)実効トルク現在値Trmsに基づいて、実効トルク正常値TSを求める。例えば運転条件設定部31は、機械負荷が正常であると判定されたときの実効トルク現在値Trmsを収集し、平均値を実効トルク正常値TSとして求める。そして、運転条件設定部31は、実効トルク正常値TSを負荷監視部39に出力する。この場合、運転条件設定部31は、電動プレス10により良品が生産されたときの実効トルク現在値Trmsを収集し、平均値を実効トルク正常値TSとして求めるようにしてもよい。
運転選択部32は、作業者の操作に従い、電動プレス10の運転種類を「寸動運転」、「安全一行程運転」及び「連続運転」から選択し、運転種類をプレス制御部35に出力する。
「寸動運転」は、金型の段取り作業等を行うときに選択される。「安全一行程運転」は、作業者が材料の取出し及び挿入を行い、その後にプレス運転操作する単発プレス作業を行うときに選択される。「連続運転」は、加工対象の材料を自動で供給するフィーダ装置と当該電動プレス10とを組み合わせて自動生産を行う場合の連続プレス作業を行うときに選択される。
両手操作部33は、作業者が図示しない起動装置を両手で同時に操作すると、起動装置からの信号を受けて、起動信号をプレス制御部35及びブレーキ制御部38に出力する。起動装置は、作業者が危険域内へ侵入することを防ぎ、確実な安全距離を保つための手段として、プレス機械では一般的に使用される装置である。
安全防護部34は、図示しない安全防具装置からの安全を示す信号を受けて、オンの安全信号をブレーキ制御部38に出力する。安全防具装置は、電動プレス10の操作者または周囲の作業者の安全防護手段であり、危険域と隔離するためのガード域または危険域への侵入を検出して電動プレス10を停止するためのライトカーテンから構成される。ガード域または危険域への侵入が検出されない場合、安全を示すオンの信号がモータ制御装置2の安全防護部34へ出力される。
一方、ガード域または危険域への侵入が検出された場合、安全を示す信号がオフとなる。これにより、安全防護部34からブレーキ制御部38に出力していた安全信号がオフとなり、結果として、電動プレス10のブレーキ16が作動してサーボモータ11が停止し、インバータ24からサーボモータ11への電力供給が停止する。
プレス制御部35は、運転選択部32から運転種類(「寸動運転」、「安全一行程運転」及び「連続運転」を示す情報)を入力すると共に、両手操作部33から起動信号を入力する。また、プレス制御部35は、ブレーキ制御部38から安全信号を入力する。安全信号は、安全防護部34からブレーキ制御部38を介してプレス制御部35に入力される。
プレス制御部35は、運転種類に従い、電動プレス10の制御を開始し、起動信号及び安全信号を用いて、運転種類に応じた運転のための条件判断、起動判断及び停止判断を行う。また、プレス制御部35は、条件判断、起動判断及び停止判断の結果を判断結果としてモーション指令部36に出力し、判断結果に基づいて電動プレス10が運転中であることを判定すると、プレス運転中の状態信号をブレーキ制御部38に出力する。
モーション指令部36は、運転条件設定部31からスライドモーションの運転条件を入力すると共に、プレス制御部35から判断結果を入力する。モーション指令部36は、運転条件に基づいて、単位時間毎のクランク角度、スライド位置、モータ速度等に展開したデータ配列からなる運転パターンを生成し、運転パターンに応じた動作指令を生成してモーション制御部37に出力する。
運転条件は、運転条件設定部31において、スライド19の下死点上の高さを基準に設定される。このため、クランクの偏心量並びにピニオンギヤ14及びメインギヤ15のギヤ減速比から、スライド19が運転条件に従った動作となるように、クランク角度、スライド位置、モータ速度等に展開した運転パターンを生成することができる。
ここで、モーション指令部36は、プレス制御部35から入力した判断結果がプレス起動判断である場合、運転条件設定部31から入力した運転条件に従い、スライドモーションの運転パターンを生成し、その動作指令を生成してモーション制御部37に出力する。
モーション制御部37は、モーション指令部36から動作指令を入力すると共に、モータエンコーダ12からモータエンコーダFB信号を、クランクエンコーダ13からクランクエンコーダFB信号をそれぞれ入力する。モーション制御部37は、モータエンコーダFB信号に基づいて、サーボモータ11の回転速度及び回転位置を検出し、クランクエンコーダFB信号に基づいて、クランクシャフト17のクランク角度を検出する。
モーション制御部37は、動作指令に従い、サーボモータ11の回転速度及び回転位置等に基づいて、クランク角度が時間毎に刻々と変化する目標クランク角度に動作させるためのサーボモータ11の位置制御、速度制御及びトルク制御を実現するモータ位置指令を生成する。そして、モーション制御部37は、モータ位置指令をインバータ24に出力する。これにより、インバータ24にて、モータ位置指令に従いサーボモータ11が制御される。
ここで、モータエンコーダFB信号に誤りがある場合、モータ制御装置2はサーボモータ11を制御することができなくなる。このため、モーション制御部37は、クランクエンコーダFB信号を用いて、モータエンコーダFB信号に誤りがなく、モータエンコーダ12が正常であることを判断する。
具体的には、モーション制御部37は、モータエンコーダFB信号に基づいて検出したサーボモータ11の回転位置を、ピニオンギヤ14及びメインギヤ15のギヤ減速比を用いてクランク軸位置を示すクランク角度に換算する。そして、モーション制御部37は、換算したクランク角度と、クランクエンコーダFB信号に基づいて検出したクランク角度とを常時比較し、この比較結果から、モータエンコーダ12が正常であるか否かを判断する。例えば、モーション制御部37は、換算したクランク角度が、検出したクランク角度を基準とする所定の閾値範囲内にある場合、モータエンコーダ12が正常であると判断する。
ブレーキ制御部38は、両手操作部33から起動信号を、安全防護部34から安全信号をそれぞれ入力すると共に、プレス制御部35からプレス運転中の状態信号を入力する。
ブレーキ制御部38は、起動信号及び安全信号を入力した場合、図示しない安全防護装置が安全状態であると判断する。そして、ブレーキ制御部38は、解放信号をオンにしてブレーキ電磁弁26へ出力すると共に、通電信号をオンにして動力遮断器25へ出力する。これにより、ブレーキ電磁弁26を介して、電動プレス10のブレーキ16が解放され、サーボモータ11が動作できる状態となる。また、動力遮断器25は短絡状態となり、後述するインバータ24からサーボモータ11へ電力が供給される状態となる。
一方、ブレーキ制御部38は、安全防護部34からの安全信号がオフに変化する等して、図示しない安全防護装置が安全状態でないと判断した場合、ブレーキ電磁弁26への解放信号をオフにすると共に、動力遮断器25への通電信号をオフにする。
ここで、ブレーキ制御部38は、プレス制御部35からプレス運転中の状態信号を入力しているときに、安全信号がオフに変化した場合、サーボモータ11が減速して停止した後に、ブレーキ電磁弁26への解放信号をオフにすると共に、動力遮断器25への通電信号をオフにする。
これにより、ブレーキ電磁弁26を介して、電動プレス10のブレーキ16が作動し、サーボモータ11は停止状態となる。また、動力遮断器25は遮断状態となり、インバータ24からサーボモータ11への電力供給が停止する。
負荷監視部39は、インバータ24からモータ電流i等を入力すると共に、運転条件設定部31から実効トルク正常値TSを入力する。そして、負荷監視部39は、モータ電流i等に基づいて1サイクル時間tcを判定し、1サイクル時間tcにおけるモータトルクTの二乗平均平方根を実効トルク現在値Trmsとして算出する。負荷監視部39は、実効トルク現在値Trmsを運転条件設定部31に出力する。
負荷監視部39は、実効トルク現在値Trmsと実効トルク正常値TSとを比較することで、負荷異常を検出し、負荷異常信号を運転条件設定部31及びブレーキ制御部38に出力する。
これにより、負荷異常信号に従い、ブレーキ電磁弁26を介して、電動プレス10のブレーキ16が作動し、サーボモータ11は停止状態となると共に、動力遮断器25は遮断状態となり、インバータ24からサーボモータ11への電力供給が停止する。
〔負荷監視部39〕
次に、図3に示した負荷監視部39について詳細に説明する。図4は、負荷監視部39の構成例を示すブロック図である。この負荷監視部39は、1サイクル時間判定部40、トルク記憶部41、実効トルク算出部42及び実効トルク比較部43を備えている。以下、負荷監視部39の各構成部について、フローチャートを参照してそれぞれ説明する。
(1サイクル時間判定部40)
図5は、図4に示した1サイクル時間判定部40の処理例を示すフローチャートであり、モータ電流iを入力する場合を示している。図5に示す処理は、モータ電流iが入力されるサンプリング時間Δt毎に行われる。
1サイクル時間判定部40は、インバータ24からモータ電流iを入力する(ステップS501)。そして、1サイクル時間判定部40は、時間軸上におけるモータ電流iの最大値または最小値の繰り返しポイントを特定する(ステップS502)。これにより、電動プレス10のスライド19が昇降を繰り返す際の機械的な1サイクルのタイミングを、時間軸上のポイントとして捉えることができる。
1サイクル時間判定部40は、繰り返しポイントの時間差を求め、当該時間差を1サイクル時間tcとして判定する(ステップS503)。これにより、スライド19が昇降を繰り返す際の機械的な1サイクルの時間である1サイクル時間tcが判定される。
1サイクル時間判定部40は、1サイクル時間tcを実効トルク算出部42に出力する(ステップS504)。
尚、図5の例では、1サイクル時間判定部40は、モータ電流iを用いて1サイクル時間tcを判定するようにしたが、後述するように、スライド位置、モータトルクTまたはモータ出力(電力)Pを用いて1サイクル時間tcを判定するようにしてもよい。
要するに、1サイクル時間tcを判定するために用いるデータは、インバータ24がサーボモータ11を制御することで得られるサーボモータ11の動作に関する情報であって、スライド19が昇降を繰り返す際の繰り返しポイントを特定可能な情報であれば何でもよい。
1サイクル時間判定部40は、モータトルクTを用いて1サイクル時間tcを判定する場合、インバータ24から入力したモータ電流iに基づいてモータトルクTを算出するようにしてもよいし、インバータ24からモータトルクTを入力するようにしてもよい。また、1サイクル時間判定部40は、モータ出力Pを用いて1サイクル時間tcを判定する場合、モータ電流iに基づいてモータ出力Pを算出するようにしてもよいし、インバータ24からモータ出力Pを入力するようにしてもよい。モータトルクT及びモータ出力Pについては後述する。
(トルク記憶部41)
図6は、図4に示したトルク記憶部41の処理例を示すフローチャートである。図6に示す処理は、モータ電流iのサンプリング時間Δt毎に行われる。
トルク記憶部41は、インバータ24からモータ電流iを入力する(ステップS601)。そして、トルク記憶部41は、以下の式のとおり、モータ電流i(A)に、予め設定されたサーボモータ11のトルク定数k(N・m/A)を乗算し、モータトルクT(T・m)を求める(ステップS602)。
[数1]
T=i×k ・・・(1)
ここで、モータトルクTは、電動プレス10の運転状況または外乱トルクの有無に応じて逐次変化するデータである。
トルク記憶部41は、以下の式のとおり、モータトルクTを二乗し、二乗した結果にモータ電流iのサンプリング時間Δtを乗算し、単位時間(サンプリング時間Δt)あたりのトルク二乗値TTを求める(ステップS603)。
[数2]
TT=T2×Δt ・・・(2)
トルク記憶部41は、単位時間あたりのトルク二乗値TTを記憶する(ステップS604)。これにより、トルク記憶部41には、単位時間毎に、単位時間あたりのトルク二乗値TTが記憶される。この単位時間あたりのトルク二乗値TTは、実効トルク算出部42により読み出され、実効トルク現在値Trmsを算出するために用いられる。
(実効トルク算出部42)
図7は、図4に示した実効トルク算出部42の処理例を示すフローチャートである。図7に示す処理は、モータ電流iのサンプリング時間Δt毎に行われる。
実効トルク算出部42は、1サイクル時間判定部40から1サイクル時間tcを入力すると共に(ステップS701)、トルク記憶部41から単位時間あたりのトルク二乗値TTを読み出す(ステップS702)。
実効トルク算出部42は、1サイクル時間tc分のトルク二乗値TT(=T2×Δt)を加算する(1サイクル時間tcに対応するそれぞれの単位時間あたりのトルク二乗値TTの総和を算出する)。そして、実効トルク算出部42は、加算結果を1サイクル時間tcで除算し、除算結果の平方根を実効トルク現在値Trmsとして求める(ステップS703)。この場合、除算結果が1サイクル時間tcにおけるモータトルクTの二乗平均であり、実効トルク現在値Trmsが1サイクル時間tcにおけるモータトルクTの二乗平均平方根である。
つまり、実効トルク算出部42は、以下の式のとおり、1サイクル時間tcにおけるモータトルクTの二乗平均平方根を算出し、これを実効トルク現在値Trms(N・m)とする。
[数3]
Trms=√(ΣTT/tc)=√(Σ(T2×Δt)/tc) ・・・(3)
実効トルク算出部42は、実効トルク現在値Trmsを運転条件設定部31及び実効トルク比較部43に出力する(ステップS704)。
1サイクル時間tcにおけるモータトルクTの二乗平均平方根である実効トルク現在値Trms(N・m)は、後段の実効トルク比較部43において、機械負荷の僅かな変化を捉えるために用いられる。ここで、モータトルクTを用いた場合には、機械負荷の僅かな変化を捉えることができない。なぜならば、モータトルクTは、電動プレス10の運転状況または外乱トルクの有無に応じて逐次変化するからである。
(実効トルク比較部43)
図8は、図4に示した実効トルク比較部43の処理例を示すフローチャートである。図8に示す処理は、モータ電流iのサンプリング時間Δt毎に行われる。
実効トルク比較部43は、運転条件設定部31から実効トルク正常値TSを入力すると共に(ステップS801)、実効トルク算出部42から実効トルク現在値Trmsを入力する(ステップS802)。
実効トルク比較部43は、実効トルク現在値Trmsが実効トルク正常値TSを基準とした所定範囲内にあるか否かを判定する(ステップS803)。
具体的には、実効トルク比較部43は、予め設定された許容幅ΔSを2で除算し、実効トルク正常値TSから除算結果を減算し、許容下限値(TS-ΔS/2)を求める。また、実効トルク比較部43は、実効トルク正常値TSにその除算結果を加算し、許容上限値(TS+ΔS/2)を求める。実効トルク比較部43は、実効トルク現在値Trmsが許容下限値以上かつ許容上限値以下である(TS-ΔS/2≦Trms≦TS+ΔS/2)か否かを判定する。
実効トルク比較部43は、ステップS803において、実効トルク現在値Trmsが所定範囲内にあると判定した場合(ステップS803:Y)、すなわち、実効トルク現在値Trmsが許容下限値以上かつ許容上限値以下である(TS-ΔS/2≦Trms≦TS+ΔS/2)と判定した場合、電動プレス10の機械負荷は正常であると判断する(ステップS804)。
電動プレス10の機械負荷が正常であると判断されたときの実効トルク現在値Trmsは、図3に示した運転条件設定部31により収集される。そして、前述のとおり、運転条件設定部31は、実効トルク現在値Trmsに基づいて実効トルク正常値TSを求める。
一方、実効トルク比較部43は、ステップS803において、実効トルク現在値Trmsが所定範囲内にないと判定した場合(ステップS803:N)、すなわち、実効トルク現在値Trmsが許容下限値よりも小さい、または許容上限値よりも大きい(Trms<TS-ΔS/2またはTS+ΔS/2<Trms)と判定した場合、電動プレス10の機械負荷は異常であると判断する(ステップS805)。
実効トルク比較部43は、ステップS805から移行して、負荷異常信号を運転条件設定部31及びブレーキ制御部38へ出力する(ステップS806)。
これにより、ブレーキ制御部38が負荷異常信号を入力すると、ブレーキ電磁弁26を介して、電動プレス10のブレーキ16が作動し、サーボモータ11は停止状態となる。また、動力遮断器25は遮断状態となり、インバータ24からサーボモータ11への電力供給が停止する。
〔1サイクル時間tc判定処理の具体例〕
次に、図4に示した負荷監視部39の1サイクル時間判定部40が1サイクル時間tcを判定する処理について、モーションの種別毎に具体例を詳細に説明する。
(クランクモーション)
まず、クランクモーション時における1サイクル時間tcを判定する処理について説明する。クランクモーションとは、機械プレスと同様な動きを電動プレス10で再現した動作をいう。
図9は、クランクモーション時のスライド位置等の特性を表す図である。横軸は時間(秒)を示し、実線はスライド位置(mm)の特性を示し、点線はモータトルクT(N・m)の特性を示し、二重線はモータ出力P(W)の特性を示す。縦軸にはスライド位置(mm)のみの目盛りが示されている。後述する図10及び図11についても同様である。
モータ制御装置2がサーボモータ11を等速で回転させることにより、クランクシャフト17も等速で回転する。そして、クランクシャフト17が回転することにより、コネクティングロッド18を介してスライド19は、上死点と下死点との間を交互に昇降する。
このため、時間軸上のスライド位置は、実線に示すように、サインサーブに似た特性で変化する。このときの時間軸上のモータトルクT及びモータ出力Pは、それぞれ点線及び二重線に示すように変化する。
サーボモータ11を等速で回転させてプレス加工を行わない無負荷運転では、モータ負荷は、機械の摩擦抵抗及びギヤ効率による損失分となるため、ある一定量のモータトルクTが発生するだけとなる。
図9に示したモータトルクT及びモータ出力Pは、実際にプレス加工を行う負荷運転における特性を表したものであり、プレス加工時に受ける反力はサーボモータ11から見ると外乱トルクとなる。
このため、点線に示すように、モータトルクTは下死点の手前で発生している。また、モータ出力Pは、以下の式のとおり、サーボモータ11の角速度ω(rad/秒)にモータトルクTを乗算することにより求められる。
[数4]
P=ω×T ・・・(4)
クランクモーション時においては、スライド19は1サイクル運転毎に必ず上死点を通過する。このため、1サイクル時間tcは、スライド位置が上死点にある時間位置を利用して求めることができる。
具体的には、モータ制御装置2に備えた負荷監視部39の1サイクル時間判定部40は、クランクエンコーダ13からクランクエンコーダFB信号を入力してクランク角度を求める。そして、1サイクル時間判定部40は、クランク角度に基づいて、スライド位置が上死点にあることを判断して繰り返しポイントt1a(2.0秒)及びt1b(4.0秒)を特定する。1サイクル時間判定部40は、繰り返しポイントの時間差C1(t1a-t1b=2.0秒)を1サイクル時間tcとして判定する。
また、1サイクル時間tcは、モータトルクTまたはモータ出力Pの最大値の時間位置を利用して求めることができる。
具体的には、1サイクル時間判定部40は、モータトルクTまたはモータ出力Pの最大値の繰り返しポイントt2a(1.0秒)及びt2b(3.0秒)を特定する。そして、1サイクル時間判定部40は、繰り返しポイントの時間差C2(t2a-t2b=2.0秒)を1サイクル時間tcとして判定する。
尚、モータ電流iの特性はモータトルクTと同様である。このため、1サイクル時間判定部40は、モータトルクTの代わりにモータ電流iを用いることで、モータトルクTを用いた場合と同様の1サイクル時間tcを判定することができる。後述する図10及び図11についても同様である。
(クランク減速モーション)
次に、クランク減速モーション時における1サイクル時間tcを判定する処理について説明する。クランク減速モーションとは、プレス加工時のみスライド19の動作速度を下げる動作をいう。
図10は、クランク減速モーション時のスライド位置等の特性を表す図である。プレス加工時の速度はプレス金型で制限されるために、生産量増加のためにむやみに速度を上げることはできない。機械プレスは金型で制限された速度に合わせて、速度を全体的に下げる必要があるが、電動プレス10の場合は、速度の可変速が自在であるため、プレス加工時のみ速度を下げ、非加工時は速度を上げることで、生産量を増加することができる。
モータ制御装置2がサーボモータ11をプレス加工時に減速回転させることにより、クランクシャフト17もプレス加工時に減速回転する。そして、スライド19は、クランクモーション時と同様に、上死点と下死点との間を交互に昇降する。
図9に示したクランクモーション時の特性と、図10に示すクランク減速モーション時の特性とを比較すると、クランクモーション時及びクランク減速モーション時において、1サイクル時間tcは、スライド位置、モータトルクT及びモータ出力Pを用いて求めることができる点で共通する。一方、クランクモーション時においては、モータトルクT及びモータ出力Pの最大値の時間位置が同じであるのに対し、クランク減速モーション時においては、これらの時間位置が異なる点で相違する。
クランク減速モーション時においては、クランクモーション時と同様に、スライド19は1サイクル運転毎に必ず上死点を通過する。このため、1サイクル時間tcは、スライド位置が上死点にある時間位置を利用して求めることができる。
具体的には、1サイクル時間判定部40は、クランクエンコーダ13からクランクエンコーダFB信号を入力してクランク角度を求める。そして、1サイクル時間判定部40は、クランク角度に基づいて、スライド位置が上死点にあることを判断して繰り返しポイントt1a(3.3秒)及びt1b(6.6秒)を特定する。1サイクル時間判定部40は、繰り返しポイントの時間差C1(t1a-t1b=3.3秒)を1サイクル時間tcとして判定する。
また、前述のとおり、1サイクル時間tcは、モータトルクTの最大値の時間位置を利用して求めることができる。
具体的には、1サイクル時間判定部40は、モータトルクTの最大値の繰り返しポイントt2a(1.8秒)及びt2b(5.1秒)を特定する。そして、1サイクル時間判定部40は、繰り返しポイントの時間差C2(t2a-t2b=3.3秒)を1サイクル時間tcとして判定する。
クランク減速モーション時のモータトルクTはプレス加工時に最大となるが、モータ出力Pは、前記式(4)のとおり、モータの角速度ωにモータトルクTを乗算した値であるため、プレス加工終了後の下死点過ぎの加速時に最大値を迎える。
このため、前述のとおり、1サイクル時間tcは、モータ出力Pの最大値の時間位置を利用して求めることができる。
具体的には、1サイクル時間判定部40は、モータ出力Pの最大値の繰り返しポイントt3a(2.5秒)及びt3b(5.8秒)を特定する。そして、1サイクル時間判定部40は、繰り返しポイントの時間差C3(t3a-t3b=3.3秒)を1サイクル時間tcとして判定する。
(振り子モーション)
次に、振り子モーション時における1サイクル時間tcを判定する処理について説明する。振り子モーションとは、電動プレス10のスライド位置がある一定位置(後述する図11では400mm)以下になるように、クランクシャフト17の動作角度範囲を定めて、サーボモータ11の正転と逆転を繰り返しながら運転する動作をいう。
図11は、振り子モーション時のスライド位置等の特性を表す図である。振り子モーションは、スライド位置を、プレス加工に最低限必要なスライドストロークとすることで、クランクモーションよりも生産性を向上させることができる特徴を有する。
図11の例では、下死点のスライド位置0mmに対して上死点のスライド位置は800mmであるが、振り子モーションにより制限された上死点(仮想上死点)のスライド位置は400mmとなっている。
振り子モーション時においては、スライド19は、1サイクル運転毎に上死点を通過しないで、予め設定された仮想上死点と下死点との間の運転となる。このため、1サイクル時間tcは、スライド位置が仮想上死点にある時間位置を利用して求めることができる。
具体的には、1サイクル時間判定部40は、クランクエンコーダ13からクランクエンコーダFB信号を入力してクランク角度を求める。そして、1サイクル時間判定部40は、クランク角度に基づいて、スライド位置が仮想上死点にあることを判断して繰り返しポイントt1a(1.4秒)及びt1b(2.8秒)を特定する。1サイクル時間判定部40は、繰り返しポイントの時間差C1(t1a-t1b=1.4秒)を1サイクル時間tcとして判定する。
しかしながら、スライド位置が仮想上死点にあることを判断するのは、現実的に容易ではない。なぜならば、サーボモータ11とスライド19との間には減速機構及びクランク機構が設けられており、機械の駆動機構を全て理解した上でスライド位置を求めるための複雑な演算を行わなければならないからである。
そこで、1サイクル時間tcは、スライド位置の代わりに、モータトルクTまたはモータ出力Pの最大値の時間位置を利用することが妥当であると想定される。
まず、点線で示したモータトルクTの特性を参照して、モータトルクTが最大となるのは、正転運転におけるスライド加速時t2a(0.2秒)である。スライド19は、下死点を通過後の1.0秒後から減速し、減速停止した時点t1a(1.4秒)で正転運転から逆転運転に切り替わる。逆転運転におけるスライド加速時のモータトルクTはマイナス値となるため、モータトルクTは最大値であると判断されない。スライド19が逆転運転における下死点を通過した後のスライド減速時t2b(2.4秒)に、モータトルクTが最大値となる。
この場合、1サイクル時間判定部40は、モータトルクTの最大値の繰り返しポイントt2a(0.2秒)及びt2b(2.4秒)を特定する。そして、1サイクル時間判定部40は、繰り返しポイントの時間差C2(t2a-t2b=2.2秒)を1サイクル時間tcとして判定する。しかし、この1サイクル時間tcは誤りである。
1サイクル時間判定部40は、サーボモータ11の回転方向を条件に追加して象限を切り替えることにより、正しい1サイクル時間tcを求めることができるものと考えられる。しかし、モータトルクTの最大値の時間位置を利用する手法では、本例のように、正転運転におけるスライド加速時t2a(0.2秒)のモータトルクTと、プレス加工時t3a(0.7秒)のモータトルクTとが近い値をとる場合には、モータトルクTの最大値の繰り返しポイントを正しく特定できないことがあり得る。
このため、モータトルクTの最大値の時間位置を利用して1サイクル時間tcを求める手法は妥当ではない。
そこで、1サイクル時間tcは、モータ出力Pの最大値の時間位置を利用することで、正確に求める。
具体的には、1サイクル時間判定部40は、モータ出力Pの最大値の繰り返しポイントt3a(0.7秒)及びt3b(2.1秒)を特定する。そして、1サイクル時間判定部40は、繰り返しポイントの時間差C3(t3a-t3b=1.4秒)を1サイクル時間tcとして判定する。
このように、1サイクル時間tcを用いて常に最新の実効トルク現在値Trmsを求めることができるため、実効トルク正常値TSとの比較判断により、経年変化による電動プレス10の機械負荷の僅かな変化を捉えて電動プレス10を停止することができる。そして、電動プレス10のダメージを最小限に抑えることが可能となる。
以上、クランクモーション時、クランク減速モーション時及び振り子モーション時における1サイクル時間tcの判定手法について説明した。これらのモーションの種別は、作業者の操作により設定される。具体的には、モータ制御装置2の運転条件設定部31は、作業者の操作に従い、モーションの種別を入力し、当該モーションの種別を負荷監視部39の1サイクル時間判定部40に出力する。
1サイクル時間判定部40は、運転条件設定部31からモーションの種別を入力する。そして、1サイクル時間判定部40は、モーションの種別がクランクモーションまたはクランク減速モーションである場合、スライド位置、モータトルクT及びモータ出力Pのうちのいずれかを用いて、1サイクル時間tcを判定する。また、1サイクル時間判定部40は、モーションの種別が振り子モーションである場合、モータ出力Pを用いて1サイクル時間tcを判定する。
尚、クランクモーション、クランク減速モーション及び振り子モーションは、モーションの一例であり、他の種別のモーションで動作することもあり得る。
また、クランクモーション時、クランク減速モーション時及び振り子モーション時において、1サイクル時間tcを判定するために、スライド位置のような機械稼働部の位置を利用する手法では、制御対象となる機械が変わる度に、機械構造を理解した上で運転条件と付き合わせしながら演算を行う必要があるため、処理が複雑になる。
そこで、1サイクル時間判定部40は、モータトルクTまたはモータ出力Pを用いて、1サイクル時間tcを判定するのが好適である。
以上のように、本発明の実施形態のモータ制御装置2によれば、負荷監視部39の1サイクル時間判定部40は、時間軸上におけるモータ電流i等の最大値または最小値の繰り返しポイントを特定し、繰り返しポイントの時間差を求め、当該時間差を1サイクル時間tcとして判定する。
トルク記憶部41は、モータ電流iに所定のトルク定数kを乗算してモータトルクTを求め、モータトルクTを二乗し、二乗した結果にモータ電流iのサンプリング時間Δtを乗算し、単位時間あたりのトルク二乗値TTを求める。そして、トルク記憶部41は、単位時間あたりのトルク二乗値TTを記憶する。これにより、トルク記憶部41には、単位時間毎に、単位時間あたりのトルク二乗値TTが記憶される。
実効トルク算出部42は、単位時間あたりのトルク二乗値TTを1サイクル時間tcだけ加算し、加算結果を1サイクル時間tcで除算し、除算結果の平方根を求めることで、モータトルクTの二乗平均平方根を算出し、これを実効トルク現在値Trmsとする。
実効トルク比較部43は、実効トルク現在値Trmsが実効トルク正常値TSを基準とした所定範囲内にあるか否かを判定する。実効トルク比較部43は、実効トルク現在値Trmsが所定範囲内にあると判定した場合、電動プレス10の機械負荷は正常であると判断する。一方、実効トルク比較部43は、実効トルク現在値Trmsが所定範囲内にないと判定した場合、電動プレス10の機械負荷は異常であると判断し、負荷異常信号を出力する。
これにより、負荷異常信号に基づいて、ブレーキ電磁弁26を介して、電動プレス10のブレーキ16が作動し、サーボモータ11が停止状態となり、動力遮断器25は遮断状態となり、インバータ24からサーボモータ11への電力供給が停止する。つまり、実効トルク現在値Trmsが実効トルク正常値TSを基準とした所定範囲内にない場合、電動プレス10の機械負荷は異常であると判断され、電動プレス10が停止する。
従来技術では、モータ電流iのピーク値等を監視することで、電動プレス10の機械負荷の異常を判断していたが、電動プレス10の機械負荷の僅かな変化を捉えることができなかった。また、従来は、電動プレス10の機械負荷の僅かな変化を捉えるために、モータ電流i等を収集して解析するための外部記憶装置が必要であり、コスト及び労力が必要であった。
本発明の実施形態では、モータ制御装置2が、インバータ24によりサーボモータ11を制御するために必要なモータ電流i等を利用し、1サイクル時間tcを判定すると共に、モータトルクTの二乗平均平方根を算出してこれを実効トルク現在値Trmsとし、そして、実効トルク現在値Trmsが実効トルク正常値TSを基準とした所定範囲内にない場合、電動プレス10の機械負荷は異常であると判断し、電動プレス10を停止するようにした。
これにより、電動プレス10の種類または構造に関わることなく、予め設定された運転条件下で実効トルク現在値Trmsを常に算出し、機械負荷の異常を判断することができる。また、モータトルクTの二乗平均平方根を算出することで、電動プレス10の機械負荷の異常を判断することができるため、簡易な処理にて機械負荷の僅かな変化を捉えることができ、精度の高い異常判断が可能となる。
例えば設備機械への給油が不足したり、設備機械のベアリングが欠けたりした場合に、負荷トルクが極端に大きく増加する前の状態、すなわち負荷トルクが徐々に増加する状態を捉えることができる。
また、機械負荷の僅かな変化を捉えて電動プレス10を停止することができるため、電動プレス10のダメージを最小限に抑えることが可能となる。さらに、機械負荷の僅かな変化は、モータ制御装置2におけるモータ電流i等の内部データを利用して捉えることができるため、新たなセンサが不要となり、また、必要なデータを収集する外部記憶装置も不要となり、コスト及び労力を低減することができる。
以上、実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その技術思想を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
前記実施形態では、インバータ24は、当該インバータ24内に設けられた図示しない電流センサ等からモータ電流i等を検出し、負荷監視部39は、当該モータ電流i等を用いて1サイクル時間tcを判定し、実効トルク現在値Trmsを算出するようにした。
これに対し、インバータ24は、入力側に接続された直流母線22aの箇所に設けられた電圧センサから直流母線電圧を検出し、負荷監視部39は、当該直流母線電圧を用いて1サイクル時間tcを判定し、実効トルク現在値Trmsを算出するようにしてもよい。具体的には、負荷監視部39の1サイクル時間判定部40は、時間軸上における直流母線電圧の最大値または最小値の繰り返しポイントを特定し、繰り返しポイントの時間差を求め、当該時間差を1サイクル時間tcとして判定する。
また、モータ制御装置2に備えた負荷監視部39は、インバータ24内の電流センサ等により検出されたモータ電流i等を監視している。このため、モータ制御装置2が負荷監視部39を備える代わりに、インバータ24が負荷監視部39を備えるようにしてもよい。この場合、インバータ24に備えた負荷監視部39は、モータ制御装置2の運転条件設定部31から実効トルク正常値TSを入力する。そして、負荷監視部39は、実効トルク現在値Trmsと実効トルク正常値TSとを比較することで負荷異常を検出し、負荷異常信号をモータ制御装置2の運転条件設定部31及びブレーキ制御部38へ出力する。
インバータ24が負荷監視部39を備えることにより、インバータ24内部にて検出されたモータ電流i等を直接使用して負荷監視を行うことができ、モータ電流i等を負荷監視のためにモータ制御装置2へ出力する必要がないため、処理及び構成が簡易になる。
また、電動プレス10のようにプレス加工に応じてモータ負荷が変化する場合は、実効トルク現在値Trmsを、不良品の検出のために用いるようにしてもよい。具体的には、モータ制御装置2は、良品加工時の実効トルク現在値Trmsを良品加工時実効トルク正常値として設定し、プレス加工時の実効トルク現在値Trmsと良品加工時実効トルク正常値とを比較する。モータ制御装置2は、例えばプレス加工時の実効トルク現在値Trmsが良品加工時実効トルク正常値を基準とした所定範囲内にない場合、不良品が発生したものと判断する。
また、モータ制御装置2の負荷監視部39は、実効トルク現在値Trmsと、サーボモータ11の定格トルクまたはインバータ24等の定格電流との間の比率を算出し、これを負荷率として表すようにしてもよい。これにより、サーボモータ11及びインバータ24の定格仕様(負荷率100%)に対して余裕のある運転状態であるか、または余裕のない運転状態であるかを判断することができる。また、運転条件が機械側で固定化され、実際の動作パターンの内容が不明である状況においても、機械負荷の正常時から異常時へ変化した状態を容易に捉えることが可能となる。