JP7392987B2 - 塗工液および金属光沢膜 - Google Patents

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特許法第30条第2項適用 〔1〕 ウェブサイトの掲載日:2019年6月7日 ウェブサイトのアドレス:http://www.isj-imaging.org/ICAI2019/ http://www.isj-imaging.org/ICAI2019/ICAI2019_P&A.pdf <資料> ウェブサイト公開・プログラム及びアブストラクト プリントアウト 〔2〕 発行日: 2019年7月4日 刊行物: 国際学会 ICAI2019(International Conference on Advanced Imaging 2019)予稿集 <資料> ICAI2019 予稿集 抜粋 〔3〕 開催日(公開日):2019年7月4日 集会名、開催場所:国際学会 ICAI2019(International Conference on Advanced Imaging 2019) 国立大学法人千葉大学 西千葉キャンパス構内 けやき会館
本発明は、塗工液および金属光沢膜に関する。
金属色は、優秀、高級、希少などの付加価値を付与するため、特別な色として認識されている。金属光沢膜を形成できる塗料は、例えば、メダル、トロフィー、自動車などの塗装に広く用いられている。
金属光沢膜としては、チオフェン重合体を含む金属光沢を有する膜が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
国際公開第2014/021405号
しかしながら、従来の金属光沢膜は、反射率が不十分であった。このため、反射率の高い金属光沢膜を形成できる塗工液が要求されていた。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、反射率の高い金属光沢膜を形成できる塗工液および反射率の高い金属光沢膜を提供することを目的とする。
[1] 金属光沢膜が形成される塗工液であって、
チオフェン重合体と、前記チオフェン重合体を溶解させる溶媒とを含み、
前記チオフェン重合体は、金属錯イオンのドープ率が2%以上60%以下のものであることを特徴とする塗工液。
[2] 前記金属錯イオンが、テトラクロロ鉄(III)イオンである[1]に記載の塗工液。
[3] 前記チオフェン重合体は、塩化物イオンのドープ率が20%以下のものである[1]または[2]に記載の塗工液。
[4] 前記チオフェン重合体が、アルコキシチオフェン、アミノチオフェン、ヒドロキシチオフェン、およびアルキルチオフェンから選ばれるいずれか1種以上の原料モノマーの重合体である[1]~[3]のいずれかに記載の塗工液。
[5] 前記チオフェン重合体が、3-メトキシチオフェン重合体である[1]~[3]のいずれかに記載の塗工液。
[6] 金属錯イオンのドープ率が2%以上60%以下であるチオフェン重合体を含むことを特徴とする金属光沢膜。
[7] 前記金属錯イオンが、テトラクロロ鉄(III)イオンである[6]に記載の金属光沢膜。
[8] 前記チオフェン重合体は、塩化物イオンのドープ率が20%以下のものである[6]または[7]に記載の金属光沢膜。
[9] 前記チオフェン重合体が、アルコキシチオフェン、アミノチオフェン、ヒドロキシチオフェン、およびアルキルチオフェンから選ばれるいずれか1種以上の原料モノマーの重合体である[6]~[8]のいずれかに記載の金属光沢膜。
[10] 前記チオフェン重合体が、3-メトキシチオフェン重合体である[6]~[8]のいずれかに記載の金属光沢膜。
本発明の塗工液は、金属錯イオンのドープ率が2%以上60%以下であるチオフェン重合体を含む。このため、反射率の高い金属光沢膜を形成できる。
本発明の金属光沢膜は、金属錯イオンのドープ率が2%以上60%以下であるチオフェン重合体を含むため、高い反射率を有する。
図1は、金属光沢膜A~Dを撮影した写真である。 図2(a)は、金属光沢膜A~Dの波長と反射率との関係を示したグラフである。図2(b)は、金蒸着膜と銅蒸着膜の波長と反射率との関係を示したグラフである。 金属光沢膜A~Dおよび金蒸着膜、銅蒸着膜のL色空間における色度aとbの関係を示したグラフである。 図4は、金属光沢膜A~DのX線回折結果を示したチャートである。 図5は、金属光沢膜A~Dの波長と屈折率との関係を示したグラフである。 図6は、金属光沢膜A~Dの波長と消衰係数との関係を示したグラフである。
以下、本発明の塗工液および金属光沢膜について、詳細に説明する。
[塗工液]
本実施形態の塗工液は、チオフェン重合体と、チオフェン重合体を溶解させる溶媒とを含む。本実施形態の塗工液は、これを塗布して乾燥させることにより、金属光沢膜が形成されるものである。本実施形態の塗工液を用いて形成した膜が金属光沢を有しているのは、以下に示す理由によるものであると推定される。すなわち、膜中のチオフェン重合体分子が規則的に配向していることによって、金属光沢に対応する特定の波長が反射される膜になっていることによるものと推定される。
(チオフェン重合体)
チオフェン重合体は、チオフェン環を有する化合物からなる原料モノマーの重合体である。チオフェン重合体は、下記一般式(1)で示される繰り返し単位を有する化合物である。
Figure 0007392987000001
(式(1)において、Rは置換基である。nは2以上である。)
一般式(1)において、Rは置換基である。チオフェン環に結合しているRの数は、1つのみであってもよいし、2つであってもよい。チオフェン環に2つのRが結合している場合、2つのRは同じであってもよいし、異なっていてもよい。チオフェン環に2つのRが結合している場合、2つのRは互いに結合して環を形成していてもよい。
また、2以上のチオフェン環に結合しているRは、それぞれ異なっていてもよいし、2以上のチオフェン環のうち一部または全部に結合しているRが、同じであってもよい。
一般式(1)において、Rは、金属光沢膜を形成できるチオフェン重合体となる置換基であればよい。具体的にRは、アルコキシ基、アミノ基、ヒドロキシル基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アリール基、シアノ基、ハロゲンから選ばれるいずれかであることが好ましく、アルコキシ基、アミノ基、ヒドロキシル基、アルキル基から選ばれるいずれかであることがより好ましい。Rがアルコキシ基、アミノ基、ヒドロキシル基、アルキル基から選ばれるいずれかであると、反射率の高い金属光沢膜を形成できる塗工液となる。
Rがアルコキシ基である場合、炭素数が1以上8以下のアルコキシ基であることが好ましい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert-ブトキシ基、フェノキシ基などが挙げられ、より反射率の高い金属光沢膜を形成できる塗工液となるため、メトキシ基であることが好ましい。
Rがアミノ基である場合、具体的には、アミノ基、チルアミノ基、カルボキシアミド基、アミノフェニル基などが挙げられる。
チオフェン重合体は、アルコキシチオフェン、アミノチオフェン、ヒドロキシチオフェン、およびアルキルチオフェンから選ばれるいずれか1種以上の原料モノマーの重合体であることが好ましく、反射率の高い金属光沢膜を形成できる塗工液となるため、3-メトキシチオフェン重合体であることがより好ましい。
一般式(1)において、nは重合度(繰り返し単位数)であり、2以上である。nは一般式(1)で示される繰り返し単位を有する化合物の重量平均分子量(Mw)が、200以上30000以下となる範囲内であることが好ましく、より好ましくは500以上10000以下となる範囲内である。一般式(1)で示される繰り返し単位を有する化合物の重量平均分子量(Mw)が200以上であると、良好な強度を有する金属光沢膜が得られる塗工液となるため好ましい。一般式(1)で示される繰り返し単位を有する化合物の重量平均分子量(Mw)が30000以下であると、塗工しやすい粘度の塗工液となるため好ましい。
本実施形態において、重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)測定法により求められたものである。
一般式(1)で示される繰り返し単位の両末端に結合している末端基としては、例えば、水素原子、ハロゲン基、アリル基、アリール基、アルキル基、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、ビニル基、エチニル基、アミノフェニル基、ヒドロキシフェニル基などが挙げられる。
チオフェン重合体は、金属錯イオンのドープ率が2%以上60%以下のものである。本実施形態の塗工液は、チオフェン重合体における金属錯イオンのドープ率が2%以上であるので、反射率の高い金属光沢膜を形成できる。また、チオフェン重合体における金属錯イオンのドープ率が60%以下であるため、雰囲気中の水分によって金属光沢(反射率)が低下しにくい金属光沢膜が得られる。チオフェン重合体は、より反射率の高い金属光沢膜を形成できる塗工液となるため、金属錯イオンのドープ率が5%以上35%以下のものであることが好ましい。
本実施形態において「チオフェン重合体における金属錯イオンのドープ率」とは、チオフェン重合体の有するチオフェン環(チオフェンユニット)の数に対する金属錯イオンの数の割合(%){(金属錯イオンの数/チオフェン環の数)×100}を意味する。
金属錯イオンとしては、例えば、テトラクロロ鉄(III)イオン、ヘキサシアノ鉄(III)イオン、テトラアンミン銅(II)イオン、ヘキサアコ鉄(III)イオン、テトラアコ銅(II)イオン、チオシアン酸鉄(III)イオンなどが挙げられる。これらの中でも特に、反射率の高い金属光沢膜を形成できる塗工液となるため、金属錯イオンがテトラクロロ鉄(III)イオンであることが好ましい。
チオフェン重合体は、塩化物イオンのドープ率が20%以下のものであってもよく、塩化物イオンのドープ率が17%以下のものであることが好ましく、塩化物イオンを含まないものであってもよい。チオフェン重合体における塩化物イオンのドープ率が20%以下であると、より反射率の高い金属光沢膜を形成できる塗工液となる。
本実施形態において「チオフェン重合体における塩化物イオンのドープ率」とは、チオフェン重合体の有するチオフェン環(チオフェンユニット)の数に対する塩化物イオンの数の割合(%){(塩化物イオンの数/チオフェン環の数)×100}を意味する。
(チオフェン重合体の製造方法)
本実施形態の塗工液に含まれるチオフェン重合体は、化学重合法など公知の製造方法により製造できる。化学重合法としては、例えば、液相および固相の少なくともいずれかにおいて、酸化剤を用いて原料モノマーを重合することにより、チオフェン重合体を製造する方法が挙げられる。
チオフェン重合体を製造する際に用いる酸化剤としては、金属錯イオンのドープされたチオフェン重合体が得られるものであればよく、公知の酸化剤を用いることができる。具体的には、酸化剤として、塩化鉄(III)無水和物、塩化鉄(III)六水和物、塩化銅(II)無水和物、塩化銅(II)二水和物、フェリシアン化カリウムなどの金属錯体を用いることできる。これらの中でも、ハロゲンイオンのドープされた親水性および水溶性の良好なチオフェン重合体が得られるため、酸化剤としてハロゲンを含む金属錯体を用いることが好ましく、特に、テトラクロロ鉄(III)イオンおよび塩化物イオンのドープされた親水性および水溶性の良好なチオフェン重合体が得られるため、塩化鉄(III)無水和物を用いることが好ましい。
チオフェン重合体を製造する際に用いる原料モノマーとしては、例えば、Rがアルコキシ基である一般式(1)で示される繰り返し単位を有する化合物を製造する場合、3-メトキシチオフェン、3,4-ジメトキシチオフェン、3-エトキシチオフェン、3,4-ジエトキシチオフェン、3-プロポキシチオフェン、3,4-ジプロポキシチオフェン、3-ブトキシチオフェン、3,4-ジブトキシチオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3,4-プロピレンジオキシチオフェン、3-tert-ブトキシチオフェン、3-フェノキシチオフェンから選ばれるいずれか1種以上を用いることができる。
Rがアミノ基である一般式(1)で示される繰り返し単位を有する化合物を製造する場合、原料モノマーとしては、例えば、3-アミノチオフェン、3,4-ジアミノチオフェン、3-メチルアミノチオフェン、3-ジメチルアミノチオフェン、3-チオフェンカルボキシアミド、4-(チオフェン-3-イル)アニリンから選ばれるいずれか1種以上を用いることができる。
チオフェン重合体の重合は、溶媒中で行うことが好ましい。チオフェン重合体の重合に用いる溶媒としては、原料モノマーおよび酸化剤を十分に溶解でき、効率よくチオフェン重合体を重合できるものを用いる。チオフェン重合体の重合に用いる溶媒としては、極性を有する有機溶媒を用いることが好ましい。
具体的には、チオフェン重合体の重合に用いる溶媒として、アセトニトリル、ニトロメタン、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレン、ニトロメタン、1-メチル-2-ピロリジノン、ジメチルスルホキシド、2-ブタノン、テトラヒドロフラン、アセトン、メタノール、アニソール、クロロホルム、酢酸エチル、ヘキサン、トリクロロエチレン、シクロヘキサノン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、エタノール、ブタノール、ピリジン、ジオキサンから選ばれる1種または2種以上を用いることができる。これらの溶媒の中でも、アセトニトリル、ニトロメタン、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレン、メタノールは、チオフェン重合体が可溶であるため、好ましい。
チオフェン重合体を製造する際に用いる溶媒の質量に対する原料モノマーの質量(溶媒:原料モノマー)は、効率よくチオフェン重合体を重合できるため、1:0.00007以上7以下であることが好ましく、より好ましくは1:0.0007以上0.7以下である。
また、チオフェン重合体を製造する際に用いる溶媒の質量に対する酸化剤の質量(溶媒:酸化剤)は、効率よくチオフェン重合体を重合できるため、酸化剤として塩化鉄(III)無水和物を用いる場合、1:0.0006以上6以下であることが好ましく、より好ましくは1:0.001以上0.6以下である。
チオフェン重合体を製造する際に用いる原料モノマーの質量に対する酸化剤の質量(原料モノマー:酸化剤)は、金属錯イオンを十分に含むチオフェン重合体が得られやすいため、1:0.01以上1000以下であることが好ましく、1:0.1以上100以下であることがより好ましい。
チオフェン重合体を製造する際には、原料モノマーを溶媒に溶解した原料モノマー溶液中に、酸化剤を溶媒に溶解した酸化剤溶液または酸化剤を添加して重合することが好ましい。
本実施形態では、金属錯イオンを十分に含むチオフェン重合体を製造するために、原料モノマー溶液中に、酸化剤溶液または酸化剤を、少量ずつ連続して添加して重合する方法を用いる。
本実施形態では、金属錯イオンを十分に含むチオフェン重合体を製造するために、原料モノマー溶液中に、酸化剤溶液を、少量ずつ連続して添加して重合する方法を用いることが好ましい。
原料モノマー溶液中に、酸化剤溶液または酸化剤を、少量ずつ連続して添加するために要する時間は、例えば、原料モノマーの質量に対する酸化剤の質量(原料モノマー:酸化剤)が1:2以上6以下である場合、2分以上360分以下とすることが好ましく、2分以上120分以下とすることがより好ましい。酸化剤溶液または酸化剤を添加する時間を2分以上とすると、チオフェン重合体に対する金属錯イオンのドープが促進される。したがって、金属錯イオンを十分に含むチオフェン重合体が生成されやすくなる。また、酸化剤溶液または酸化剤を添加する時間を360分以下にすると、チオフェン重合体を効率よく製造できる。
ここで、原料モノマーを溶媒に溶解した原料モノマー溶液中に、酸化剤を溶媒に溶解した酸化剤溶液または酸化剤を、少量ずつ連続して添加して重合することにより、チオフェン重合体に対する金属錯イオンのドープが促進される理由について説明する。以下、酸化剤として、塩化鉄(III)無水和物を用いる場合を例に挙げて説明する。
原料モノマー溶液中に、塩化鉄(III)無水和物を溶媒に溶解した塩化鉄(III)無水和物溶液または塩化鉄(III)無水和物を添加すると、原料モノマー溶液中で塩化鉄(III)無水和物が還元される。このことにより、塩化鉄(II)と塩化物イオンとが生成する。
原料モノマー溶液中に、塩化鉄(III)無水和物溶液または塩化鉄(III)無水和物を少量ずつ連続して添加した場合、原料モノマー溶液中で生成した塩化物イオンは、後から添加された塩化鉄(III)無水和物と反応して、テトラクロロ鉄(III)イオンを生成する。生成したテトラクロロ鉄(III)イオンは、チオフェン重合体にドープされる。このことにより、チオフェン重合体に対するテトラクロロ鉄(III)イオンのドープが促進されるものと推定される。
これに対し、例えば、原料モノマー溶液中に、塩化鉄(III)無水和物溶液または塩化鉄(III)無水和物の全量を一度に添加した場合、以下に示すように、チオフェン重合体に、塩化物イオンがドープされやすく、テトラクロロ鉄(III)イオンがドープされにくいものと推定される。
すなわち、塩化鉄(III)無水和物溶液または塩化鉄(III)無水和物の全量を一度に添加した場合、原料モノマー溶液中では、添加された塩化鉄(III)無水和物の還元反応が一斉に開始される。したがって、短時間で高濃度の塩化鉄(II)および塩化物イオンが生成される。その結果、塩化物イオンがチオフェン重合体にドープされやすくなる。また、塩化物イオンが高濃度で生成した後には、塩化物イオンと反応する塩化鉄(III)無水和物は供給されない。このため、塩化鉄(III)無水和物と塩化物イオンとの反応が生じにくいものと推定される。
このようにして製造したチオフェン重合体は、非常に安定である。したがって、製造したチオフェン重合体は、重合させた溶液中でそのまま保存してもよい。また、重合させた溶液中の溶媒を除去した後、溶媒を用いて洗浄し、乾燥させて、チオフェン重合体の粉末とし、これを保存してもよい。
チオフェン重合体の洗浄に使用する溶媒としては、例えば、チオフェン重合体を製造する際に使用できる溶媒と同様のものを用いることができる。チオフェン重合体の洗浄に使用する溶媒は、チオフェン重合体を製造する際に使用した溶媒と同じであってもよいし、異なっていてもよい。溶媒を用いてチオフェン重合体の洗浄を行うことにより、チオフェン重合体を重合させた溶液中に残留していた原料モノマーおよび/または酸化剤を除去できる。
(溶媒)
本実施形態の塗工液に含まれる溶媒としては、チオフェン重合体を溶解させることができるものであればよい。溶媒としては、例えば、水、極性有機溶媒、水と極性有機溶媒との混合溶媒などを用いることができる。極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、炭酸プロピレン、γ-ブチロラクトンなどを用いることができる。溶媒としては、取り扱いの安全性および人体への安全性が極めて高いため、水を用いることが好ましい。
本実施形態の塗工液中に含まれる溶媒の質量に対するチオフェン重合体の質量(溶媒:チオフェン重合体)は、例えば、1:0.01以上0.1以下とすることができ、好ましくは1:0.02以上0.04以下とすることができ、チオフェン重合体の分子量および溶媒の種類などに応じて適宜決定でき、特に限定されない。
本実施形態の塗工液は、チオフェン重合体と溶媒を含むものであればよく、必要に応じて、チオフェン重合体と溶媒の他に、別の成分を含有していてもよい。
別の成分としては、例えば、高分子物質、表面調整剤(例えば、レベリング剤、消泡剤など)、紫外線吸収剤などが挙げられる。
(塗工液の製造方法)
本実施形態の塗工液は、チオフェン重合体を溶媒に溶解させ、必要に応じて、上述した別の成分を含有して混合することにより製造できる。
本実施形態の塗工液は、金属錯イオンのドープ率が2%以上60%以下のチオフェン重合体を含む。このため、反射率の高い金属光沢膜を形成できる。この効果は、以下に示す理由によるものと推定される。
すなわち、チオフェン重合体に含まれる金属錯イオンが、チオフェン重合体における分子同士のπ-πスタッキング相互作用を強くすることによるものと推定される。チオフェン重合体における分子同士のπ-πスタッキング相互作用が強いと、分子の配向性が高くなって分子が高密度となる。その結果、本実施形態の塗工液を用いて形成した金属光沢膜は、屈折率および消衰係数が高く、高い反射率を有する。
[金属光沢膜]
次に、本実施形態の金属光沢膜について、詳細に説明する。
本実施形態の金属光沢膜は、金属錯イオンのドープ率が2%以上60%以下のチオフェン重合体を含む。チオフェン重合体は、上述した塗工液に含まれるチオフェン重合体と同様のものである。
本実施形態の金属光沢膜は、例えば、本実施形態の塗工液を塗布して乾燥させる方法により製造できる。本実施形態の塗工液を塗布する方法および乾燥させる方法としては、公知の方法を用いることができ、塗工液の塗布される被塗布面の形状および材質などに応じて適宜決定でき、特に限定されない。
本実施形態の金属光沢膜は、金属錯イオンのドープ率が2%以上60%以下のチオフェン重合体を含むため、高い反射率を有する。
また、本実施形態の金属光沢膜に含まれるチオフェン重合体は、空気中において非常に安定である。このため、本実施形態の金属光沢膜は、長期間空気中に放置しても劣化が殆どなく、長期間にわたり金色の金属光沢を維持できる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
(チオフェン重合体Aの製造)
原料モノマーとして、下記式(2)で示される3-メトキシチオフェンを用い、これを溶媒としてのアセトニトリルに溶解して、1.4質量%の原料モノマー溶液を得た。また、酸化剤として、塩化鉄(III)無水和物を用い、これを溶媒としてのアセトニトリルに溶解して、4.0質量%の酸化剤溶液を得た。
Figure 0007392987000002
原料モノマー溶液と酸化剤溶液とに用いた溶媒の合計質量に対する原料モノマーの質量の割合(溶媒:原料モノマー)は、1:0.0072とした。
また、原料モノマー溶液と酸化剤溶液とに用いた溶媒の合計質量に対する酸化剤の質量の割合(溶媒:酸化剤)は、1:0.020とした。
チオフェン重合体の製造に用いた原料モノマーの質量に対する酸化剤の質量の割合(原料モノマー:酸化剤)は、1:2.84とした。
その後、原料モノマー溶液中に、一定の供給量で30分間連続して、酸化剤溶液を添加しながら攪拌し、反応溶液とした。続いて、得られた反応溶液を2時間攪拌することにより、チオフェン重合体を重合した。
その後、チオフェン重合体を重合させた反応溶液中の溶媒を留去し、エタノールで洗浄し、50℃で1.5時間の真空乾燥を施した。これにより、チオフェン重合体Aの粉末を得た。
(チオフェン重合体Bの製造)
原料モノマー溶液中に、一定の供給量で8分間連続して、酸化剤溶液を添加しながら攪拌し、反応溶液としたこと以外は、チオフェン重合体Aと同様にして、チオフェン重合体Bの粉末を得た。
(チオフェン重合体Cの製造)
原料モノマー溶液中に、一定の供給量で2分間連続して、酸化剤溶液を添加しながら攪拌し、反応溶液としたこと以外は、チオフェン重合体Aと同様にして、チオフェン重合体Cの粉末を得た。
(チオフェン重合体Dの製造)
原料モノマー溶液中に、酸化剤溶液の全量を一度に添加して反応溶液としたこと以外は、チオフェン重合体Aと同様にして、チオフェン重合体Dの粉末を得た。
このようにして得られたチオフェン重合体A~チオフェン重合体Dについて、それぞれ以下に示す方法により、テトラクロロ鉄(III)イオンのドープ率および塩化物イオンのドープ率、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を調べた。
<テトラクロロ鉄(III)イオンのドープ率および塩化物イオンのドープ率>
チオフェン重合体A~チオフェン重合体Dを、それぞれ0.03gずつ蒸留水1gに溶解し、塗工液A~Dを得た。そして、塗工液A~Dをそれぞれ、表面に酸化インジウムスズ(ITO)からなる電極の形成された基板上に塗布し、乾燥させることにより、厚み1.6~2.7μmの分析用の金属光沢膜A~Dを得た。
その後、走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)(商品名;JSM-6510A、日本電子社製)を用いて、分析用の金属光沢膜A~D中に含まれるS、Cl、Feの原子数をそれぞれ調べた。その結果から、S、Cl、Feの原子数の比を算出した。そして、分析用の金属光沢膜A~D中のClおよびFeは、テトラクロロ鉄(III)イオンおよび塩化物イオンにのみ由来すると仮定して、上記の原子数の比を用いて、チオフェン重合体A~チオフェン重合体Dにおけるテトラクロロ鉄(III)イオンのドープ率および塩化物イオンのドープ率をそれぞれ求めた。
具体的には、例えば、チオフェン重合体Cにおけるテトラクロロ鉄(III)イオンのドープ率および塩化物イオンは、以下に示す方法により算出した。SEM-EDSを用いて測定した結果から、分析用の金属光沢膜Cに含まれるS、Cl、Feの原子数の比を求めた。その結果、S、Cl、Feの原子数の比(S:Cl:Fe)は1.000:0.270:0.018であった。このことから、チオフェン重合体Cの有するチオフェン環(チオフェンユニット)1個当たりの塩化物イオンの数は0.20個(すなわちドープ率20%)、テトラクロロ鉄(III)イオンの数は0.02個(すなわちドープ率2%)であることが分かった。
このようにして求めたチオフェン重合体A~チオフェン重合体Dにおけるテトラクロロ鉄(III)イオンのドープ率および塩化物イオンのドープ率を表1に示す。
表1に示すように、テトラクロロ鉄(III)イオンのドープ率は、大きいものから並べると、チオフェン重合体A、B、C、Dの順であった。塩化物イオンのドープ率は、大きいものから並べると、チオフェン重合体D、C、Bの順であった。チオフェン重合体Aからは、塩化物イオンが検出されなかった。
Figure 0007392987000003
<数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)>
チオフェン重合体A~チオフェン重合体Dについて、それぞれGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)測定法により、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を測定した。ゲル浸透クロマトグラフィーとしては、RI-2031 Plus(Jasco社製)を用いた。検出器としては、UV-4200(株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いた。カラムとしては、shodex KF-806M(昭和電工株式会社製)を用いた。
チオフェン重合体A~チオフェン重合体Dの数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)の測定結果を表2に示す。
表2に示すように、数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、大きいものから並べると、チオフェン重合体A、B、C、Dの順であった。
Figure 0007392987000004
(金属光沢膜の製造)
チオフェン重合体A~チオフェン重合体Dを、それぞれ0.03gずつ蒸留水1gに溶解し、塗工液A~Dを得た。
塗工液A~Dをそれぞれ、ガラス基板上に塗布し、18~22℃で17時間乾燥させることにより、厚み1.6~2.7μmの金属光沢膜A~Dを得た。図1は、金属光沢膜A~Dを撮影した写真である。
図1に示す金属光沢膜A~Cは、金属錯イオンであるテトラクロロ鉄(III)イオンのドープ率が、2%以上60%以下であるチオフェン重合体を含む本発明例である。金属光沢膜Dは、テトラクロロ鉄(III)イオンのドープ率が2%未満のチオフェン重合体を含む比較例である。
このようにして得られた金属光沢膜A~Dについて、それぞれ目視による観察を行い、以下に示す方法により、反射率、色度および色相角、X線回折における(100)面のピーク位置および周期間隔、屈折率および消衰係数を調べた。
<目視による観察>
金属光沢膜A~Dを目視により観察した。その結果、金属光沢膜A~Dは、いずれも金属光沢を有するものであった。より詳細には、金属光沢膜Aは、銅色光沢を有するものであった。また、金属光沢膜Bおよび金属光沢膜Cは、銅色と金色との間の色相の光沢を有するものであった。金属光沢膜Dは、金色光沢を有するものであった。
<反射率>
金属光沢膜A~Dについて、顕微紫外可視近赤外分光光度計(商品名;MSV-370、日本分光社製)を用いて、それぞれ正反射スペクトルを測定した。その結果を図2(a)に示す。図2(a)は、金属光沢膜A~Dの波長と反射率との関係を示したグラフである。
また、金属光沢膜A~Dについて、それぞれ正反射スペクトルを測定した結果から、最大正反射率を求めた。その結果を表3に示す。
Figure 0007392987000005
また、金属光沢膜A~Dと比較するために、蒸着法により厚み100nmの金蒸着膜と銅蒸着膜とを、それぞれガラス基板上に形成した。そして、得られた金蒸着膜と銅蒸着膜について、金属光沢膜A~Dと同様にして、それぞれ正反射スペクトルを測定した。その結果を図2(b)に示す。図2(b)は、金蒸着膜と銅蒸着膜の波長と反射率との関係を示したグラフである。
図2(a)に示すように、金属光沢膜Aは、オレンジ色(590-620nm)領域および赤色(620-750nm)領域の反射率が高く、紫色(380-450nm)領域、青色(450-495nm)領域、緑色(495-570nm)領域の反射率が低い。図2(a)に示す金属光沢膜Aの反射特性は、図2(b)に示す銅蒸着膜の反射特性に類似するものであった。
図2(a)に示すように、金属光沢膜Bおよび金属光沢膜Cは、オレンジ色領域および赤色領域に加えて、黄色(570-590nm)領域の反射率が高い。図2(a)に示す金属光沢膜Bおよび金属光沢膜Cの反射特性は、図2(b)に示す金蒸着膜と銅蒸着膜との間の反射特性であった。
図2(a)に示すように、金属光沢膜Dは、オレンジ色領域、赤色領域、黄色領域の反射率が高い。図2(a)に示す金属光沢膜Dの反射特性は、図2(b)に示す金蒸着膜の反射特性に類似するものであった。
表3に示すように、本発明例である金属光沢膜A~Cは、比較例である金属光沢膜Dと比較して、最大正反射率が高かった。また、最大正反射率の大きいものから並べると、金属光沢膜A、B、C、Dの順であった。
<色度および色相角>
金属光沢膜A~Dおよび金蒸着膜、銅蒸着膜について、分光測色計(商品名;CM-600d、コニカミノルタ社製)を用いて、それぞれL色空間における色度aを測定した。その結果を図3に示す。図3は、金属光沢膜A~Dおよび金蒸着膜、銅蒸着膜のL色空間における色度aとbの関係を示したグラフである。
また、金属光沢膜A~Dおよび金蒸着膜、銅蒸着膜について、色度aの測定結果を用いて、色相角を算出した。その結果を表4に示す。
Figure 0007392987000006
図3および表4に示すように、金属光沢膜Aの色相は、銅蒸着膜に類似するものであった。また、金属光沢膜Bおよび金属光沢膜Cの色相は、金蒸着膜と銅蒸着膜の間であった。また、金属光沢膜Dの色相は、金蒸着膜に類似するものであった。
<X線回折における(100)面のピーク位置および周期間隔>
金属光沢膜A~Dについて、それぞれX線回折スペクトル測定を行った。X線回折スペクトル測定装置としては、X‘Pert MRD(Malvern Panalytical社製)を用いた。そして、線源として、Cu-Kα(λ=1.5406Å,45kV,40mA)を用い、Out-of-plane配置にて2θ/ωスキャンモードで測定を行った。図4は、金属光沢膜A~DのX線回折結果を示したチャートである。
次に、金属光沢膜A~DのX線プロファイルをそれぞれフィッティングさせて、(100)面のピーク位置を求めた。また、金属光沢膜A~DのX線プロファイルから周期間隔を算出した。周期間隔の計算には、ブラッグ条件式を用いた。金属光沢膜A~Dの(100)面のピーク位置および周期間隔を表5に示す。
Figure 0007392987000007
図4および表5に示すように、金属光沢膜A~Dの(100)面のピーク位置は、角度の大きいものから並べると、金属光沢膜A、B、C、Dの順であった。また、金属光沢膜A~Dの周期間隔は、小さい(狭い)ものから並べると、金属光沢膜A、B、C、Dの順であった。金属光沢膜A~Dの(100)面のピーク位置は、各金属光沢膜A~Dに含まれるチオフェン重合体A~Dにおけるラメラ微結晶の層間間隔に対応する。金属光沢膜A~Cに含まれるチオフェン重合体A~Cでは、金属光沢膜Dに含まれるチオフェン重合体Dと比較して、周期間隔が狭く、分子が高密度に配列していることが確認できた。これは、チオフェン重合体A~Cでは、これに含まれるテトラクロロ鉄(III)イオンがチオフェン重合体A~Cにおける分子同士のπ-πスタッキング相互作用を増強したため、分子の配向性が高くなったことによるものであると推定される。
<屈折率および消衰係数>
金属光沢膜A~Dについて、それぞれ角度可変エリプソメーター(alpha-SE,J.A.Woollam社製)を用いて、入射角度65°、70°、75°でエリプソメトリー測定を行い、屈折率スペクトルおよび消衰係数スペクトルを求めた。エリプソメトリー測定のデータ解析にはJ.A.Woolam Complete EASE softwareを用いた。
図5は、金属光沢膜A~Dの波長と屈折率との関係を示したグラフである。また、図6は、金属光沢膜A~Dの波長と消衰係数との関係を示したグラフである。
図5および図6に示すように、金属光沢膜A~Cの屈折率および消衰係数は、金属光沢膜Dと比較して、高いものであった。これは、金属光沢膜A~Cに含まれるチオフェン重合体A~Cの分子が、金属光沢膜Dに含まれるチオフェン重合体Dの分子と比較して、高密度であることによるものであると推定される。
また、金属光沢膜A~Dの屈折率は、高いものから並べると、金属光沢膜A、B、C、Dの順であった。金属光沢膜A~Dの消衰係数も、高いものから並べると、ほぼ金属光沢膜A、B、C、Dの順であった。このことにより、金属光沢膜A、B、C、Dを最大正反射率の大きいものから並べると、図2(a)および表3に示すように、金属光沢膜A、B、C、Dの順になった。
より詳細には、光が膜面に垂直に入射したときの反射率rは、屈折率をnとし、消衰係数をkとすると、以下の式(1)で求められる。
Figure 0007392987000008
したがって、反射率rは、屈折率nおよび消衰係数kが高いほど、高い値となる。このことから、図2(a)に示すように、金属光沢膜A~Dの反射率が、高いものからA、B、C、Dの順になった理由は、金属光沢膜A、B、C、Dの屈折率および消衰係数が、この順に高いためであるといえる。

Claims (6)

  1. 金属光沢膜が形成される塗工液であって、
    チオフェン重合体と、前記チオフェン重合体を溶解させる溶媒とを含み、
    前記チオフェン重合体は、テトラクロロ鉄(III)イオンのドープ率が2%以上60%以下、塩化物イオンのドープ率が20%以下のものであることを特徴とする塗工液。
  2. 前記チオフェン重合体が、アルコキシチオフェン、アミノチオフェン、ヒドロキシチオフェン、およびアルキルチオフェンから選ばれるいずれか1種以上の原料モノマーの重合体である請求項1に記載の塗工液。
  3. 前記チオフェン重合体が、3-メトキシチオフェン重合体である請求項1または請求項2に記載の塗工液。
  4. テトラクロロ鉄(III)イオンのドープ率が2%以上60%以下、塩化物イオンのドープ率が20%以下であるチオフェン重合体を含むことを特徴とする金属光沢膜。
  5. 前記チオフェン重合体が、アルコキシチオフェン、アミノチオフェン、ヒドロキシチオフェン、およびアルキルチオフェンから選ばれるいずれか1種以上の原料モノマーの重合体である請求項4に記載の金属光沢膜。
  6. 前記チオフェン重合体が、3-メトキシチオフェン重合体である請求項4または請求項5に記載の金属光沢膜。
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