JP7386112B2 - Akr1c1、akr1c2およびakr1c3の産生促進剤 - Google Patents

Akr1c1、akr1c2およびakr1c3の産生促進剤 Download PDF

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Description

本発明は、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の産生促進剤に関する。
アルド-ケトレダクターゼファミリー1(aldo-keto reductase family 1)に属する、AKR1C1(アルド-ケトレダクターゼファミリー1、メンバーC1)、AKR1C2(アルド-ケトレダクターゼファミリー1、メンバーC2)およびAKR1C3(アルド-ケトレダクターゼファミリー1、メンバーC3)は、様々な疾患および生体反応に関与することが知られている。
具体的に、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3は、(i)ホルモン(例えば、男性ホルモン、女性ホルモン)の形成、(ii)癌(例えば、子宮内膜癌、乳癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、白血病)の発生、(iii)癌の治療効果の発現、および、(iv)脳機能の発現、などに関与することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
Chen-Ming Zeng, et.al., Aldo-Keto Reductase AKR1C1-AKR1C4, Frontiers in Pharmacology, 8, 119 2017
上述したとおり、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3は種々の生体反応に関与していると考えられている。このため、本発明者らは、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の機能解析あるいは機能活用の観点から、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の産生を促進する産生促進剤の開発を行うことが有用であると考えた。
本発明は、上述の問題に鑑みなされたものであって、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の産生を促進する産生促進剤を提供することを目的とする。
本発明者らが鋭意検討した結果、ククイナッツオイルがAKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の産生を促進できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明の一態様に係る産生促進剤は、ククイナッツオイルを有効成分として含有する、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3からなる群から選択される少なくとも1つの酵素の産生促進剤である。
本発明の一実施形態によれば、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の産生を促進する産生促進剤を提供することができる。
AKR1C1、AKR1C2、およびAKR1C3のmRNAの発現量を示すグラフである。 AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3のタンパク質の発現を示すウェスタンブロットの像、並びに、AKR1C1のタンパク質の発現量、AKR1C2のタンパク質の発現量、およびAKR1C3のタンパク質の発現量を示すグラフである。 培地中に分泌されたPGF2αの濃度を示すグラフである。
本発明について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態および実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書中、数値範囲に関して「A~B」と記載した場合、当該記載は「A以上B以下」を意図する。
〔1.産生促進剤〕
本発明の一実施形態に係る産生促進剤(以下、「本発明の産生促進剤」ともいう)は、ククイナッツオイルを有効成分として含有し、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3からなる群から選択される少なくとも1つの酵素の産生を促進するものである。
プロスタグランジンの合成経路の一例として、(i)PGHからPGF2αを合成し、次いで、当該PGF2αから15-Keto Prostaglandin Fαを合成する経路、(ii)PGHからPGEを合成し、次いで、当該PGEからPGF2αを合成し、次いで、当該PGF2αから15-Keto Prostaglandin Fαを合成する経路、および、(iii)PGHからPGEを合成し、次いで、当該PGEから15-Keto Prostaglandin Eを合成する経路を挙げることができる。AKR1C2およびAKR1C3は、上述した(i)の経路において、PGHからPGF2αを合成する経路に関与している。一方、AKR1C1は、上述した(ii)の経路において、PGEからPGF2αを合成する経路に関与している。それ故に、本発明の産生促進剤は、プロスタグランジンのバランス(量比)を変えることによって、プロスタグランジンが関与する様々な疾患および生体反応の制御などに、広く利用することができる。後述する実施例でも示すように、本発明の産生促進剤は、PGF2αの分泌量を増加させ得る。それ故に、本発明の産生促進剤は、特に、PGF2αの分泌量を増加させることによって、PGF2αが関与する様々な疾患および生体反応の制御などに、広く利用することができる。
より具体的に、本発明の産生促進剤は、ククイナッツオイルを有効成分として含有し、かつ、(a)AKR1C1の産生を促進するもの、(b)AKR1C2の産生を促進するもの、(c)AKR1C3の産生を促進するもの、(d)AKR1C1およびAKR1C2の産生を促進するもの、(e)AKR1C1およびAKR1C3の産生を促進するもの、(f)AKR1C2およびAKR1C3の産生を促進するもの、または、(g)AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の産生を促進するもの、であり得る。
実施例で示すように、本発明の産生促進剤は、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の全ての酵素の産生を促進する能力を有している。例えば、本発明の産生促進剤の投与対象が、3つの酵素のうちの特定の酵素のみを発現する能力を有する場合には、本発明の産生促進剤を、当該特定の酵素の産生促進剤として利用することができる。あるいは、本発明の産生促進剤に、3つの酵素のうちの特定の酵素の産生および/または活性などを抑制する物質(例えば、RNA干渉を引き起こすポリヌクレオチド、中和抗体など)を加えれば、本発明の産生促進剤を、当該特定の酵素以外の酵素の産生促進剤として、より特異性高く利用することができる。当該構成であれば、3つの酵素のうちの所望の酵素のみの産生を促進することによって、所望しない効果の発現を抑えつつ、所望の効果のみを発現させることができる。
後述する実施例でも明らかなように、本明細書において「産生促進剤」は、DNAからmRNAへの転写を促進するものであり得、mRNAからタンパク質への翻訳を促進するものであり得、DNAからmRNAへの転写を促進し、かつ、mRNAからタンパク質への翻訳を促進するものであり得る。
ククイナッツオイルは、ククイ(kukui、学名:Aleurites moluccana L. Willd.)の種子から得られるオイルである。ククイナッツオイルの取得方法は、限定されず、例えばククイの実を圧搾(例えば、低温圧搾)することによって取得することができる。ククイの実を圧搾すれば、淡黄色の液状油としてククイナッツオイルを取得することができる。勿論、市販のククイナッツオイルを本発明に用いることも可能である。
本発明の産生促進剤に含有されるククイナッツオイルの量は、特に限定されず、例えば、(i)産生促進剤を100体積%とした場合に、0.001体積%~100体積%であってもよく、0.001体積%~90体積%であってもよく、0.001体積%~80体積%であってもよく、0.001体積%~70体積%であってもよく、0.001体積%~60体積%であってもよく、0.001体積%~50体積%であってもよく、0.001体積%~40体積%であってもよく、0.001体積%~30体積%であってもよく、0.001体積%~20体積%であってもよく、0.001体積%~10体積%であってもよく、0.001体積%~1体積%であってもよく、0.001体積%~0.01体積%であってもよく、または、(ii)産生促進剤を100質量%とした場合に、0.001質量%~100質量%であってもよく、0.001質量%~90質量%であってもよく、0.001質量%~80質量%であってもよく、0.001質量%~70質量%であってもよく、0.001質量%~60質量%であってもよく、0.001質量%~50質量%であってもよく、0.001質量%~40質量%であってもよく、0.001質量%~30質量%であってもよく、0.001質量%~20質量%であってもよく、0.001質量%~10質量%であってもよく、0.001質量%~1質量%であってもよく、0.001質量%~0.01質量%であってもよい。後述する実施例でも明らかなように、本発明の産生促進剤は、有効成分の濃度が低い場合であっても、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の産生を効果的に促進することができる。
本発明の産生促進剤には、本発明の機能を妨げない範囲内で、ククイナッツオイル以外の成分を配合することができる。ククイナッツオイル以外の成分としては、例えば、水、アルコ-ル、多価アルコール、水溶性高分子、酸化防止剤、pH調整剤、紫外線防止剤、金属イオン封鎖剤、増粘剤、界面活性剤、精製水、香料、防腐剤、抗菌剤、油剤、高級脂肪酸、脂肪酸エステル、保湿剤、清涼剤、色素、ホルモン類、ビタミン類、アミノ酸類、収れん剤、胎盤抽出物、エラスチン、コラーゲン、ムコ多糖、アロエ抽出物、ヘチマ水、ローヤルゼリー、バーチ、ニンジンエキス、カモミラエキス、甘草エキス、サルビアエキス、アルテアエキス、セイヨウノコギリソウエキス等の生薬成分を挙げることができる。
ククイナッツオイルは、水性溶媒に溶解し難いため、本発明の産生促進剤は、ククイナッツオイルの水性溶媒への溶解を助ける物質を含むことが好ましい。当該物質としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール、および、界面活性剤が挙げられる。生体への毒性が低く、かつ、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の産生に影響を与え難いという観点から、これらの物質の中では、DMSO、および、エタノールが好ましい。
本発明の産生促進剤には、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3のうちの特定の酵素の産生および/または活性などを抑制する物質(例えば、AKR1C1、AKR1C2またはAKR1C3のmRNAに対してRNA干渉を引き起こすポリヌクレオチド、AKR1C1、AKR1C2またはAKR1C3のタンパク質の中和抗体など)を配合してもよい。当該構成であれば、3つの酵素のうちの所望の酵素のみの産生を促進することによって、所望しない効果の発現を抑えつつ、所望の効果のみを得ることができる。
本発明の産生促進剤に含有されるククイナッツオイル以外の成分の量は、特に限定されず、例えば、(i)産生促進剤を100体積%とした場合に、0体積%~99.999体積%であってもよく、10体積%~99.999体積%であってもよく、20体積%~99.999体積%であってもよく、30体積%~99.999体積%であってもよく、40体積%~99.999体積%であってもよく、50体積%~99.999体積%であってもよく、60体積%~99.999体積%であってもよく、70体積%~99.999体積%であってもよく、80体積%~99.999体積%であってもよく、90体積%~99.999体積%であってもよく、99体積%~99.999体積%であってもよく、99.99体積%~99.999体積%であってもよく、または、(ii)産生促進剤を100質量%とした場合に、0質量%~99.999質量%であってもよく、10質量%~99.999質量%であってもよく、20質量%~99.999質量%であってもよく、30質量%~99.999質量%であってもよく、40質量%~99.999質量%であってもよく、50質量%~99.999質量%であってもよく、60質量%~99.999質量%であってもよく、70質量%~99.999質量%であってもよく、80質量%~99.999質量%であってもよく、90質量%~99.999質量%であってもよく、99質量%~99.999質量%であってもよく、99.99質量%~99.999質量%であってもよい。
本発明の産生促進剤の投与対象は、特に限定されず、ヒトであってもよく、非ヒト動物(例えば、家畜、愛玩動物、および、実験動物)であってもよい。非ヒト動物としては、例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、および、ラットなどが挙げられる。
本発明の産生促進剤は、任意の投与経路によって投与対象に投与され得る。投与経路の例としては、経口投与、非経口投与、経皮投与、経粘膜投与、経静脈投与が挙げられる。したがって、本発明の産生促進剤の剤型は、外用薬(より具体的に、皮膚用外用薬、頭皮用外用薬、頭髪用外用薬)、内服薬、注射剤などの医薬品、医薬部外品、または、化粧品であり得る。勿論、本発明は、これらに限定されない。
本発明の産生促進剤を投与する場合、所望の効果が得られるならば、投与間隔に制限はない。上記投与間隔は、例えば、1時間に1回、6時間に1回、12時間に1回、1日間に1回、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、1箇月間に1回、2箇月間に1回、3箇月間に1回、4箇月間に1回、5箇月間に1回、6箇月間に1回、または、1年間に1回であり得る。
〔2.産生促進剤の用途〕
AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3は、様々な疾患および生体反応に関与することが知られている。具体的に、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3は、(i)プロスタグランジンの産生、(ii)育毛、(iii)緑内障の発生、(iv)男性ホルモンおよび/または女性ホルモンの形成、(v)癌(例えば、子宮内膜癌、乳癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、白血病)の発生、および、(vi)癌の治療効果などに、広く関与することが知られている。それ故に、本発明の産生促進剤は、(i)~(vi)の少なくとも1つを制御するための制御剤として利用され得る。
より具体的に、本発明の産生促進剤は、プロスタグランジン産生促進剤、育毛剤、頭髪用化粧料、緑内障の治療薬、ホルモン産生制御剤、抗癌剤、または、発癌剤として利用され得る。プロスタグランジン産生促進剤としては、PGF2α産生促進剤、PGD2産生促進剤、PGE2産生促進剤などが挙げられる。
AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3は、特定の疾患では発現が上昇し、これらの疾患において、症状の発生または重篤化などに関与していると推測される。そのため、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の産生促進剤を用いて、当該産生促進剤の効果を打ち消す物質をスクリーニングすれば、当該物質を特定の疾患の治療薬として利用できると考えられる。つまり、本発明の産生促進剤は、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の新たな阻害剤を用いた創薬に役立てられ、新たな薬(例えば、抗癌剤)の発見に利用され得る。
逆に、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の発現が上昇するほど、生体にとって好ましい効果(例えば、プロスタグランジン産生効果、育毛効果)が生じる場合もある。そのため、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の産生促進剤を用いて、当該産生促進剤の効果を増強する物質をスクリーニングすれば、当該物質を、様々な薬(例えば、プロスタグランジン産生促進剤、育毛剤)として、または、当該薬の副成分として利用できると考えられる。つまり、本発明の産生促進剤は、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の新たな生産促進剤を用いた創薬に役立てられ、新たな薬(例えば、プロスタグランジン産生促進剤、育毛剤)の発見に利用され得る。
それ故に、本発明は、以下のようなスクリーニング方法を包含する:
被験体(例えば、生体から採取した細胞若しくは組織、または、株化された細胞など)と、ククイナッツオイルを有効成分として含有する産生促進剤と、を接触させた後、当該被験体にて産生されるAKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3からなる群から選択される少なくとも1つの酵素(例えば、酵素のmRNA、または、酵素のタンパク質)の産生量αを検出する工程と、
被験体(例えば、生体から採取した細胞若しくは組織、または、株化された細胞など)と、ククイナッツオイルを有効成分として含有する産生促進剤と、薬剤の候補物質と、を接触させた後、当該被験体にて産生されるAKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3からなる群から選択される少なくとも1つの酵素(例えば、酵素のmRNA、または、酵素のタンパク質)の産生量βを検出する工程と、
(i)上記産生量αよりも上記産生量βが小さいときに(例えば、β<α、好ましくはβ≦0.7α、より好ましくはβ≦0.5α)、上記候補物質を薬剤(例えば、抗癌剤)の有効成分または副成分として選択する工程、または、(ii)上記産生量αよりも上記産生量βが大きいときに(例えば、α<β、好ましくは1.5α≦β、より好ましくは2.0α≦β)、上記候補物質を薬剤(例えば、プロスタグランジン産生促進剤、育毛剤)の有効成分または副成分として選択する工程、を含む、薬剤のスクリーニング方法。
なお、上記スクリーニング方法は、「被験体と、ククイナッツオイルを有効成分として含有する産生促進剤と、を接触させた後、当該被験体にて産生されるAKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3からなる群から選択される少なくとも1つの酵素の産生量αを検出する工程」を含まなくてもよい。この場合には、スクリーニング方法とは別に当該工程を行って、予め産生量αのデータベースを作製し、当該データベースを上述した(i)または(ii)の工程に利用すればよい。
〔3.その他〕
本発明は、以下のように構成することもできる。
〔1〕AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3からなる群から選択される少なくとも1つの酵素の産生促進剤を製造するための、ククイナッツオイルの使用。
〔2〕ククイナッツオイルを有効成分として含有する産生促進剤を被験体(例えば、哺乳類、非ヒト哺乳類、霊長類、偶蹄類、奇蹄類、齧歯類、ウサギ目、または、食肉類)に投与する工程を有する、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3からなる群から選択される少なくとも1つの酵素の産生促進方法。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例では細胞実験にて多用されるHaCaT細胞(ヒト角化上皮細胞株)を使用している。HaCaT細胞は、代表的な培養細胞であって、本発明の効果は、勿論、HaCaT細胞以外の細胞においても得られ得る。
〔1.材料および方法〕
(細胞培養)
HaCaT細胞を用いて、ククイナッツオイル(AMS oil、日本サーファクタント工業株式会社製)によるAKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の産生促進を確認した。
ククイナッツオイルは水に不溶であるため、ククイナッツオイルとジメチルスルホキシド(DMSO)とを、1:9の体積比にて混合して、当該混合物を試験に使用した。また、DMSOを対照試験に使用した。
まず、10%ウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum(FBS))、および、1% antibiotics-antimicotics(Thermo Fisher Scientific社製、15240062)が添加された、高グルコース含有、およびグルタミン含有の培地(DMEM培地:Dulbecco's modified Eagle medium)を用いて、直径60mmのディッシュ上に、HaCaT細胞を播種した。
当該培地に対して、上述したククイナッツオイルとDMSOとの混合物、または、DMSOを加えた。培地へ加える混合物の量は、培地中のククイナッツオイルの最終量が0.01体積%、または、0.001体積%となるように調節した。一方、培地へ加えるDMSOの量は、培地中のDMSOの最終量が0.09体積%となるように調節した。
培地へ混合物またはDMSOを加えた後、37℃、5%COの環境下で、1~3日間、HaCaT細胞の培養を行った。
所定の培養時間が経過した後(具体的には、培養を開始してから1日後、2日後、または、3日後)、HaCaT細胞、または、培地を回収し、当該HaCaT細胞を用いてAKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の産生促進を確認し、当該培地を用いてPGF2αの分泌を確認した。なお、HaCaT細胞を回収する場合には、回収の1日前に、全てのサンプルにて培地を新しい培地に交換した。
(PCRによる、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3のmRNAの発現解析)
PCRによる、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3のmRNAの発現解析を行った。
TRI Reagent(Morecular Research Center Center, Inc, TR118)を用いて、各サンプルのHaCaT細胞から、全RNAを抽出した。全RNAの抽出液にクロロホルムを加えた後、mRNAを含む水層を回収した。当該水層にイソプロパノールを加えて、mRNAを沈殿させた。沈殿したmRNAを70%エタノールによって洗浄した後、当該mRNAをRNaseが混入していない水に溶解させて、RNAサンプルを得た。
逆転写酵素QuantiTect Reverse Transcription Kit(Qiagen、205315)を用いて、当該RNAサンプルからcDNAを合成した。Thunderbird SYBR qPCR Mix(TOYOBO、QPS-201)を用いて、得られたcDNAを鋳型として遺伝子配列を特異的に増幅させた。使用したプライマーを表1に示す。
GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)のmRNAの発現量に基づいて、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3のmRNAの発現量を補正した。PCRは、ViiA(登録商標)7 Real Time PCR System(Thermo Fisher Scientific)を用いて行った。当該PCRでは、95℃にて15秒間の変性反応、55℃にて10秒間のアニーリング反応、および、72℃にて30秒間の伸長反応からなる反応サイクルを40回行った。
Figure 0007386112000001
(ウェスタンブロットによる、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3のタンパク質の発現解析)
ウェスタンブロットによる、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3のタンパク質の発現解析を行った。
各サンプルのHaCaT細胞をリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline、PBS)で洗浄した後、RIPA lisys buffer(Santa Cruz Biotechnology、SC-24948)を用いてHaCaT細胞を溶解して、細胞溶解液を作製した。各細胞溶解液中のタンパク質の量をPierce(登録商標) BCA Protein Assay Kit(Thermo Fisher Scientific社製、23227)を用いて定量した後、x4 laemmli buffer(Bio Rad、1610747)を各細胞溶解液に加えて、タンパク質濃度が同一になるように調節し、ウェスタンブロット用試料を調製した。
TGX(登録商標)FastCast(登録商標)アクリルアミド溶液キット12%(Bio Rad、1610175)を用いてゲルを作製し、当該ゲルにウェスタンブロット用試料を供し、電気泳動を行った。
Transblot(登録商標)Turbo(登録商標)システム(Bio Rad、1704150)を用いて、ゲル中にて分離されたタンパク質をメンブレンに転写した後、抗体反応にて、メンブレンに転写されたAKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3のタンパク質の検出を行った。
一次抗体としては、抗AKR1C1抗体(1:1000、Abcam、ab192785)、抗AKR1C2抗体(1:1000、Affinity Biosciences、DF3757)、抗AKR1C3抗体(1:1000、Abcam、ab209899)、または、抗β-アクチン抗体(1:1000、Cell Signaling Technology、4970)を、5%BSAおよび0.01%Tween 20(Merck、P9416)含有トリス緩衝生理食塩水(Tris Buffered Saline、TBST)に希釈したものを用いた。一次抗体とメンブレンとの反応は、4℃にて一晩、一次抗体とメンブレンとを接触させることによって行った。当該接触の後、メンブレンをTBSTにて洗浄し、当該メンブレンを二次抗体との反応に用いた。
二次抗体としては、ヤギ抗ウサギIgG(H+L)抗体とHRPとの複合体(1:2000、Bio Rad、1706515)を用いた。二次抗体とメンブレンとの反応は、室温にて90分間、二次抗体とメンブレンとを接触させることによって行った。当該接触の後、メンブレンをTBSTにて洗浄し、当該メンブレンを化学発光に用いた。
Amersham ECL Western Blotting Detection Reagents(GE Healthcare Life Science、RPN2106)を用いて、メンブレン上のHRPを化学発光させ、Amersham Imager 600(GE Healthcare Life Science)を用いて、当該発光(換言すれば、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3のタンパク質)の検出を行った。得られた発光画像をImage Jを用いて解析して、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3のタンパク質の量を定量した。更に、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3のタンパク質の量は、β-アクチンのタンパク質の量に基づいて補正した。
(ELISA法によるPGF2αの分泌量解析)
ELISA法による、PGF2αの分泌量解析を行った。
各サンプルの培養上清を回収し、4℃、300×gで5分間遠心分離を行い、細胞成分を含まない上清のみを回収した。PGF2α ELISA kit(Enzo、ADI-900-069)、および、マイクロプレートリーダーGloMax(登録商標) Discover Microplate Reader GM3000(Promega)を用い、これらに添付のプロトコールにしたがって、培地中に分泌されたPGF2αの濃度を解析した。
〔2.結果〕
(mRNAの発現解析の結果)
図1に、0.01体積%のククイナッツオイルを含有する培地を用いて2日間培養した試験(AMS0.01%(day2))と、ククイナッツオイルを含まず、0.09体積%のDMSOを含有する培地を用いて2日間培養した試験(control)と、における、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3のmRNAの発現解析の結果を示す。
この結果より、ククイナッツオイルを添加して培養した場合において、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3のmRNAの発現が増加していることが示された。つまり、ククイナッツオイルは、mRNAレベルにて、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の産生を促進し得ることが示された。
(タンパク質の発現解析の結果)
図2に、0.001体積%のククイナッツオイルを含有する培地を用いて1~3日間培養した試験(AMS0.001%)と、0.01体積%のククイナッツオイルを含有する培地を用いて1~3日間培養した試験(AMS0.01%)と、0.09体積%のDMSOを含有する培地を用いて1~3日間培養した試験(control)と、における、ウェスタンブロットによるタンパク質の発現量の解析結果を示す。なお、図2に、各サンプルのウェスタンブロットの像を示す。培養日数である1~3日間の各々をD1、D2およびD3と表している。また、図2に、ウェスタンブロットの像から得られたAKR1C1のタンパク質の定量結果、ウェスタンブロットの像から得られたAKR1C2のタンパク質の定量結果、ウェスタンブロットの像から得られたAKR1C3のタンパク質の定量結果を示す。
図2の結果より、ククイナッツオイルを添加したすべてのサンプルにおいて、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3のタンパク質の発現が増加していることが示された。さらに、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の発現量は、培養する時間およびククイナッツオイルの濃度に比例して増加することが示された。つまり、ククイナッツオイルは、タンパク質のレベルにて、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の産生を促進し得ることが示された。
(PGF2αの分泌量解析)
図3に、0.001体積%のククイナッツオイルを含有する培地を用いて1~3日間培養した試験(AMS0.001%)と、0.01体積%のククイナッツオイルを含有する培地を用いて1~3日間培養した試験(AMS0.01%)と、0.09体積%のDMSOを含有する培地を用いて1~3日間培養した試験(control)と、における、ELISA法によるPGF2αの培地中への分泌量の解析結果を示す。
図3で示すように、ククイナッツオイルを添加したすべてのサンプルにおいて、培地中へのPGF2αの分泌量が増加していることが示された。さらに、PGF2αの分泌量はククイナッツオイルを添加していないサンプルにおいては、培養日数が増加しても変化していないのに対し、ククイナッツオイルを添加したサンプルにおいては培養日数が増加するにつれて、PGF2αの分泌量も増加していることが示された。また、ククイナッツオイルの濃度が高いほど、PGF2αの分泌量が増加することが示された。したがって、この結果より、ククイナッツオイルによって、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3の産生が促進され、その結果、これらの酵素がPGF2αの産生をも促進していることが示された。
本発明の産生促進剤は、種々の技術分野、とりわけ、製薬および医療分野等において有用である。より具体的に、本発明の産生促進剤は、プロスタグランジン産生促進剤、育毛剤、頭髪用化粧料、緑内障の治療薬、ホルモン産生制御剤、抗癌剤、発癌剤、および、薬剤のスクリーニングなどに利用できる。

Claims (1)

  1. ククイナッツオイルを有効成分として含有哺乳類の細胞に対するものである、AKR1C1、AKR1C2およびAKR1C3からなる群から選択される少なくとも1つの酵素の産生促進剤。
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