JP7375670B2 - 方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、変圧器などの鉄心材料に好適な、特に鉄損特性に優れる方向性電磁鋼板およびその製造方法に関するものである。
電磁鋼板は、変圧器や発電機の鉄心材料として広く用いられている。特に、方向性電磁鋼板は、その結晶方位がGoss方位と呼ばれる{110}<001>方位に高度に集積しており、変圧器や発電機のエネルギーロスの低減に直接つながる良好な鉄損特性を有している。この鉄損を低減する手段としては、板厚の低減、Si含有量の増加、結晶方位の配向性向上、鋼板への張力付与、鋼板表面の平滑化、二次再結晶粒の微細化などが有効である。
方向性電磁鋼板の製造工程において、二次再結晶焼鈍は鋼板をコイル状態(巻き取られて湾曲した状態)にして焼鈍炉内に装入して行うのが通例である。かように、鋼板をコイル状態にして二次再結晶焼鈍を行った場合、湾曲した状態にて結晶配向性がよくなる向きに二次再結晶粒が成長する。その結果、その後の平坦化焼鈍で鋼板が曲げ戻されると、湾曲時の曲率分だけ、結晶方位が仰角または俯角の方向にずれてしまう。このような1つの二次再結晶粒内での結晶方位変動を抑制するには、コイル長手方向への二次再結晶粒の成長を抑制することが重要である。そのための有望な手段が二次再結晶粒の微細化である。
この二次再結晶粒を微細化させる技術として、例えば、特許文献1には、電子ビームを冷延鋼板に線状に照射することで、その照射部を部分的に急速加熱して一次再結晶集合組織を改善(Goss方位強度を高める)する技術が開示されている。この技術を利用すれば、Goss方位二次再結晶粒の種となる一次再結晶中のGoss方位近傍の結晶粒が増加し、成長するGoss粒の数が増加し、ある程度の二次再結晶粒が微細化する。その結果、粒界面積が増加するために、粒界に生成する磁極量が増え、磁区が細分化されて低鉄損化が実現する。
また、二次再結晶粒界を制御する他の技術として、特許文献2には、電子ビームやショットピーニング、薬剤塗布を線状に行い、その線状領域において鋼板表層部に正常粒成長した粒を成長させ、その粒によってピン止め力(インヒビター効果)を増大させる技術が開示されている。この技術では、Goss方位以外の結晶方位の悪い二次再結晶粒の成長が正常粒成長粒によって抑制されることにより、従来では成長が遅れて蚕食されてしまうような、Goss方位近傍の結晶方位のよい二次再結晶粒も成長可能になる。そのため、従来よりも(結晶方位のよい)二次再結晶粒を微細化することが可能である。
特開平3-104823号公報 特開昭50-137819号公報
上記した特許文献1および2に記載の方法によって、良好な鉄損特性が得られるようになったが、今後も強化されると予測される変圧器の効率に関する規制をクリアすること、或いは、顧客から要求される特性レベルを満足すること、に備えることも必要であり、さらなる鉄損特性の改善が求められている。
特に、特許文献2に記載された技術は、その適用によって結晶方位のよい二次再結晶粒を成長させることができるが、この結晶方位のよい二次再結晶粒は、機械的または熱的に線状域で正常粒成長した結晶粒を蚕食して線状域を越えて成長することによって粗大になっていく。その結果、線状に粒界が形成されるのは、結晶方位のよい二次再結晶粒ではなく、線状域を越えられないそれ以外の結晶方位の悪い二次再結晶粒のみになって、(結晶方位のよい)二次再結晶粒を微細化する効果を十分に享受することができない点、改善の余地が大きかった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、極めて低い鉄損の方向性電磁鋼板を提供することを目的とする。
さて、鋼板をコイル状態にして二次再結晶焼鈍を行った場合に問題となる、1つの二次再結晶粒内での結晶方位変動を抑制するには、二次再結晶粒を微細化してコイル長手方向への二次再結晶粒の成長を抑制することが有効である。
そこで、発明者らは、Goss方位粒の存在頻度を増加させることおよび、Goss方位粒の存在頻度が同じであっても、Goss方位二次再結晶粒の成長個数を増やすことにより、二次再結晶粒の更なる細粒化を実現する方途について検討した。また、通常、二次再結晶粒の粒成長性に異方性を付与することは想定されていないが、二次再結晶粒の圧延方向への成長を意図的に抑制することによって、コイル湾曲に起因する鉄損特性の劣化を防止する方途についても検討した。
ここで、上記の検討事項と共通する技術的背景を有する技術としては、上述した特許文献2に開示されている技術が挙げられる。この技術の問題点は、結晶方位のよい二次再結晶粒による他の結晶粒の蚕食が抑制できずにGoss方位二次再結晶粒が粗大化してしまうことであり、発明者らはこの問題点に対する解決策を模索した。まず、特許文献2に開示されている条件によっては、結晶方位のよい二次再結晶粒による蚕食が抑制できない理由を調査し、その改善策を検討した。その結果、電子ビーム照射の電流値を大きくすると、照射した領域において結晶方位のよい二次再結晶粒による蚕食が抑制される傾向が認められた。この理由としては、電流値を大きくすることによって、これまで蚕食されていた正常粒成長で粗大化する結晶粒の範囲が板厚方向に延びたためと考えた。一方で、圧延方向における正常粒成長粒の成長範囲も増大したため、正常粒成長した粒が高頻度で最終製品に残留していた。また、電子ビーム照射を行った場所以外では、二次再結晶が正常に行われていない領域が認められた。これは、電子ビーム照射によって結晶方位のよい二次再結晶粒の蚕食が抑制されても、一次再結晶組織内のGoss方位近傍の結晶粒(以下、Goss粒の種ともいう)の存在頻度が少なかったため、成長できるGoss方位二次再結晶粒が少なくなったためと考えている。
そこで、電子ビーム照射条件を高出力かつ高速走査とし、照射部を急速加熱して、Goss方位以外の二次再結晶粒の成長を防止する粗大な一次再結晶粒の形成と、その周囲部でのGoss方位近傍の一次再結晶粒の存在頻度向上との、両立をはかった。その結果、上述の、電子ビーム照射を行った場所以外での二次再結晶不良の問題は解決された。
以上の検討により、粗大な一次再結晶粒(正常成長粒)の形成領域を圧延方向には狭く、板厚方向には深くすることが、Goss方位二次再結晶粒が正常成長粒を蚕食して粗大化することを抑制するためには重要であることが明らかになった。その達成手段を種々検討した結果、冷間圧延後かつ脱炭焼鈍前において、冷延鋼板表面に加速電圧60kV以上で電子ビームを照射し、前記電子ビームの径が照射幅全域において最も小さくなる位置を、前記冷延鋼板の内部とする、前記電子ビームのフォーカス調整を行うことによって、実現可能であることが判明した。
次に、上記した新規知見に至った実験結果について詳細を述べる。
[実験1]
0.23mm厚の方向性電磁鋼板を製造する際の途中工程材である冷延鋼板に、電子ビームを圧延直角方向に走査することを圧延方向へ30mm間隔で行った。その際、ビーム径が最小となる位置を冷延鋼板の板厚方向へ変化させた。その後、公知の手法を用いて脱炭焼鈍、MgO塗布、仕上げ(二次再結晶)焼鈍、平坦化焼鈍、そして張力被膜塗布を行って製品板とした。かくして得られた製品板の鉄損特性を調査した。各製品板における鉄損特性とビーム径が最小となる位置との関係を図1に示す。ここで、図1における「ビーム径が最小となる位置」は、図2に示すように、冷延鋼板の表面を基準(ゼロ)として該鋼板の外側方向をマイナス側および鋼板の内側方向をプラス側として、それぞれ鋼板表面からの距離にて示している。
なお、電子ビーム照射領域内において、電子ビーム照射装置の収束コイルから冷延鋼板までの距離は照射領域内の位置によって異なるため、収束電流値一定でビームを偏向させると、ビーム径が最小となる位置も照射領域内の位置によって変動する。ここでは、収束電流値を動的に変化させるダイナミックフォーカス機能を照射装置に導入して、ビームの走査範囲内にてビーム径が最小となる位置が変動しないように調整した。このビーム径が最小となる位置の調整は、収束電流値を変化させることで行った。フォーカス制御パラメータ(ここでは収束電流値)以外は変化させず、加速電圧100kV、走査速度(偏向速度)36m/s、圧延方向の照射線間隔10mmおよび圧延直角方向の停留点間隔0.32mmとした。電子ビームの走査(偏向)パターンは、一定速度での均一移動ではなく、移動・停留・移動・停留を繰り返すパターン(ドット状照射:以下、停留と停留との間隔を停留点間隔として示す)とした。よって、前述した走査(偏向)速度は平均値である(これ以降も停留点間隔が示されている場合は、電子ビームをドット状に照射していることを意味しており、走査速度は平均値で示されている)。ビーム電流については最も鉄損改善効果が認められた20mAのデータを用いて評価を行った。また、ジャストフォーカス時のビーム径(最小ビーム径)は230μmであった。
従来、電子ビームは鋼板の表面上でジャストフォーカスになる(ビーム径が最小となる)ように調整するのが一般的である。ここで、図1に示すように、ビーム径が最小となる位置が鋼板表面から離れた上方にある(以下、アッパーフォーカスともいう)場合、鋼板表面でジャストフォーカスになるように調整した位置0mmよりも、鉄損は大きくなる。一方で、ビーム径が最小となる位置が鋼板内部にある(以下、アンダーフォーカスともいう)場合、ビーム径が最小となる位置が0mm超+0.23mm(板厚)未満にあれば、鉄損が大幅に低下する領域が存在することが明らかになった。ちなみに、ビーム径が最小となる位置が鋼板の板厚を超えた位置にある(以下、デフォーカスという)場合、鉄損は大きくなった。
さらに、フォーカス位置を冷延鋼板表面に対して、アッパーフォーカス(最も鉄損が大きい)、ジャストフォーカス、アンダーフォーカス(最も鉄損が小さい)にして得られた各製品板を酸洗することにより、張力被膜およびフォルステライト被膜を除去し、その後硝酸エッチングを実施して、二次再結晶粒の観察を行った。その観察結果に基づく二次再結晶粒組織の模式図を、図3A~図3Cに示す。これらの二次再結晶粒組織を比較すると、二次再結晶粒径はアッパーフォーカス条件(図3A)において最も大きく、ついでジャストフォーカス条件(図3B)、アンダーフォーカス条件(図3C)の順となっていた。すなわち、アッパーフォーカス条件ではGoss方位二次再結晶粒による正常成長粒の蚕食がほとんど抑制されず、ジャストフォーカス条件では、Goss方位二次再結晶粒による正常成長粒の蚕食が電子ビーム照射場所で一部抑制されるものの、抑制されていない部分も生じていた。アンダーフォーカス条件では、電子ビーム照射場所でGoss方位二次再結晶粒による正常成長粒の蚕食が止まっており、圧延方向に対する二次再結晶粒の長さが最も短くなっていた。また、二次再結晶粒径も最も小さくなっていた。
以上の結果を踏まえ、図1に示した電子ビームのフォーカス状態に応じて鉄損特性が変化した理由については、次のように考えている。まず、アッパーフォーカス条件では、鋼板内部に十分なビームエネルギーが投入されず、一次再結晶さえ起らず、照射しない場合と同じように脱炭焼鈍時に一次再結晶集合組織が形成された。この場合、電子ビーム照射による加熱速度が非常に遅いので、一次再結晶集合組織内のGoss粒の種が存在する頻度が増加することなく、電子ビーム未照射と同じように粗大な二次再結晶粒が形成された。また、電子ビーム照射によって、冷延鋼板に粗大な再結晶粒が形成されなかったことから、電子ビームの照射場所で期待していた二次再結晶粒成長の阻害が実現されなかった。
ジャストフォーカス条件においては、冷延鋼板の電子ビーム照射場所に再結晶組織が観察されたことから、電子ビーム照射による急速加熱によりGoss粒の種が多く形成され、アッパーフォーカス条件よりも二次再結晶粒が小さくなったと考えられた。一方、電子ビーム照射によって形成された再結晶粒の板厚方向への広がりが不足していたことから、結晶方位の良い二次再結晶粒による蚕食を抑制することが不十分であったものと考えられる。
アンダーフォーカス条件においては、電子ビーム照射によって再結晶粒が板厚方向深くまで形成されていたことから、二次再結晶粒による圧延方向への蚕食を抑制することに成功したものと考えられる。この成長性抑制によって、従来蚕食されて消滅していたGoss粒が成長可能になるため、Goss粒の種の存在頻度が同じでも、成長性を抑制した方が二次再結晶粒の数が増え、二次再結晶粒径は小さくなると考えられる。さらに、電子ビーム照射に伴う急速加熱によるGoss粒の種の存在頻度を高める効果の相乗もあり、二次再結晶粒径が最も小さくなった。その結果、磁極量増大(粒界の増加)による磁区細分化および二次再結晶粒内の圧延方向に対する結晶方位(β角)変動の抑制(結晶配向性の向上)により、最も低鉄損が実現したものと考えている。
[実験2]
エネルギーを鋼板の厚さ方向深くまで投入する他の手段としては、加速電圧を高めることが考えられる。そこで、方向性電磁鋼板を製造する際の途中工程材である、0.30mm厚の冷延鋼板に、加速電圧を10~500kVの範囲で変化させて、電子ビームを圧延直角方向に走査することを圧延方向へ15mm間隔で行った。その際、ビーム径が最小となる位置を板厚方向へ変位させた。その後、公知の手法を用いて脱炭焼鈍、MgO塗布、仕上げ(二次再結晶)焼鈍、平坦化焼鈍、そして張力被膜塗布を行って製品板とした。
なお、電子ビーム照射は、収束電流(フォーカス粗調整)値は一定のままにして、フォーカスのファイン調整をする機能を持つダイナミックフォーカスコイルを動的に変化させて、ビームの走査範囲内にてビーム径が最小となる位置が同一になるように調整した。その他の電子ビーム照射パラメータは、出力0.5kW、走査速度10m/s、圧延方向の照射線間隔15mmおよび圧延直角方向の停留点間隔0.10mmとした。アンダーフォーカス条件では、ビーム最小位置を鋼板表面から0.05mmの深さに設定した。ビーム電流は出力が一定になるように加速電圧によって変化させた。
かくして得られた製品板の鉄損特性を調査し、加速電圧と鉄損特性との関係について整理した結果を図4に示す。図4に示すように、ジャストフォーカス条件では加速電圧をどれだけ上げても、アンダーフォーカス条件で認められるような鉄損が大きく改善する条件が存在しないことが確認された。一方、アンダーフォーカス条件でも加速電圧が60kV未満になると、ジャストフォーカス条件で最も良好であった結果と同等の鉄損改善効果は得られないことが明らかになった。従って、加速電圧60kV以上とアンダーフォーカス条件の組み合わせることが、鉄損の改善に極めて有効であることが明らかになった。
[実験3]
上記の通り、加速電圧60kV以上かつアンダーフォーカス条件で電子ビーム照射することによって、結晶方位のよい二次再結晶粒についても蚕食防止が可能になることが明らかになった。そこで、どの程度の蚕食防止効果が得られれば、鉄損低減効果が表れるのか、どの程度正常粒成長した微細粒が残留したら鉄損が劣化するのかを調査した。
上記したように、蚕食防止には、電子ビーム照射によって再結晶粒が板厚方向深くまで形成されることが重要であり、この再結晶粒は二次再結晶後の製品板において二次再結晶粒界となることから、二次再結晶粒界の存在をもって蚕食防止効果を評価してみた。すなわち、二次再結晶粒界について、図5に示す定義に従って、鋼板の圧延方向に3mmの幅で圧延直角方向へ延びる領域R内における、前記圧延直角方向に二次再結晶粒界が連続的に存在している割合ΣA/L(以下、二次再結晶粒界の存在割合ともいう)を測定し、この二次再結晶粒界の存在割合と鉄損との関係を調査した。
ここで、上記二次再結晶粒界の存在割合および残留微細粒の面積率と鉄損との関係を評価するために、次に示すように、ビーム電流を種々に変化させて電子ビーム照射を行って試料を作製した。すなわち、方向性電磁鋼板を製造する際の途中工程材である0.30mm厚の冷延鋼板に、電子ビームを圧延直角方向に走査することを圧延方向へ18mm間隔で行った。その際、ビーム径が最小となる位置を板厚方向へ変位させた。その後、公知の手法を用いて脱炭焼鈍、MgO塗布、仕上げ(二次再結晶)焼鈍、平坦化焼鈍、そして張力被膜塗布を行って製品板とし、得られた製品板の鉄損特性を調査した。
なお、電子ビーム照射は、収束電流を動的に変化させて、ビームの走査範囲内にてビーム径が最小となる位置が圧延直角方向に照射したビームの幅方向のどこであっても同一になるように調整した。その他の電子ビーム照射パラメータは、加速電圧60kV、走査速度10m/s、圧延方向の照射線間隔18mmおよび圧延直角方向の停留点間隔0.32mmとした。また、アンダーフォーカス条件は、ビーム最小位置を鋼板表面から0.03mmの深さに設定し、ビーム電流は0.5mA~20mAの範囲で変化させた。
図6にビーム電流と鉄損との関係を示す。ビーム電流が増加するにしたがって、鉄損は改善する傾向を示したが、ビーム電流が大きくなりすぎると却って鉄損が劣化する傾向を示した。ビーム電流の増加による鉄損改善は、正常粒成長した粒が板厚のより深い位置にまで形成され、Goss方位二次再結晶粒による蚕食を抑制する効果が増大したためと考えられる。一方、ビーム電流が大きくなりすぎたことによる鉄損劣化は、過大なビーム電流により正常成長粒が圧延方向へ増大しすぎて、二次再結晶粒が、Goss方位以外の正常粒成長粒を二次再結晶焼鈍時に蚕食することができなかったためと考えられる。
図6に測定結果を示した各試料について、上記した図5に示したところに従う二次再結晶粒界の存在割合を求めた。すなわち、100mm(圧延直角方向)×300mm(圧延方向)のサイズの試料を用いて、試料内に存在する電子ビーム照射部に相当する部分の全てについて二次再結晶粒界の存在割合を求め、得られた値の平均値を各試料の二次再結晶粒界の存在割合とした。なお、電子ビーム照射部に相当する部分の二次再結晶粒界の存在割合は、図5に示すような圧延方向に3mm幅の帯状帯を鋼板の圧延方向に移動させつつ、逐次「ΣA/L(%)」を算出していき、その最大値とした。
さらに、Goss方位からのずれが15°以上の結晶粒を残留微細粒と定義し、電子ビーム照射部を中心線とする圧延方向3mmの帯状領域R(図5参照)に存在する残留微細粒を、前記帯状領域Rの全面積に対する残留微細粒の総面積の比率として評価した。なお、電子ビーム照射部における残留微細粒の面積率は、帯状領域での粒界割合が最大となったときの、帯状領域内での残留微細粒の面積率である。帯状領域内の残留微細粒面積率は以下のように導出可能である。すなわち、ラウエ回折装置を用いて、帯状全領域でラウエ回折スポットを任意測定ピッチで測定する。その結果、各測定点の結晶方位が導出される。この測定結果のうち、Goss方位からのずれが15°以上となる測定数の割合を面積率とする。
上記に従って得られた二次再結晶粒界の存在割合と鉄損との関係を図7に、残留微細粒面積率と鉄損との関係を図8に、それぞれ示す。まず、図7に示すように、二次再結晶粒界の存在割合が80%以上であれば、極めて低い鉄損が得られることがわかる。同様に、図8に示すように、残留微細粒20%を超えると鉄損が大幅に増大するため、20%以下とする必要があり、好ましくは5%以下である。残留微細粒面積率が5%以下であれば、極めて低い鉄損が得られることがわかる。なお、図7において、二次再結晶粒界の存在割合が100%以上であっても鉄損がジャストフォーカスの場合と同じ程度の事例があるが、これらの事例は残留微細粒面積率が影響を及ぼしている。残留微細粒面積率が0%であっても鉄損がジャストフォーカスの場合と同じ程度の事例があるが、これらの事例は二次再結晶粒界の存在割合が80%未満である。
[実験4]
以上の実験1~3により、電子ビーム照射によって粗大な正常粒成長粒を形成させるには、急速加熱を行うことが重要であることが明らかになった。そこで、急速加熱を行うために必要となる、電子ビームの照射条件について検討を行った。すなわち、方向性電磁鋼板を製造する際の途中工程材である0.23mm厚の冷延鋼板に、電子ビームを圧延直角方向に走査することを圧延方向へ10mm間隔で行った。その際、電子ビームの走査速度を0.01~100m/sの範囲で変化させた。その後、公知の手法を用いて脱炭焼鈍、MgO塗布、仕上げ(二次再結晶)焼鈍、平坦化焼鈍、そして張力被膜塗布を行って製品板とし、得られた製品板の鉄損特性を調査した。
なお、電子ビーム照射は、収束電流(フォーカス粗調整)値は一定のままで、フォーカスのファイン調整をする機能を持つダイナミックフォーカスコイルを動的に変化させて、ビームの走査範囲内にてビーム径が最小となる位置が同一になるように調整した。走査速度以外の電子ビーム照射条件は次の通り、加速電圧90kV、圧延方向の照射線間隔10mm、ビーム電流10mAおよび圧延直角方向の停留点間隔0.64mm、ビーム最小位置を鋼板表面から0.18mmの深さに設定した。ジャストフォーカス時のビーム径(最小ビーム径)は280μmであった。
各製品板における鉄損特性と走査速度との関係を図9に示す。同図に示すように、走査速度を1.0m/s以上とすることによって、良好な鉄損特性が得られていることが分かる。これは、急速加熱により蚕食を抑制する粗大な正常粒成長粒の周りに、適正なサイズでGoss方位を持つ一次再結晶粒の個数が増加し、二次再結晶不良部が形成されなかったためと考えられる。鋼板の全面にわたって良好な二次再結晶粒とするためには、隣り合う照射線の間の部分に相当する、幅×10mmの領域に存在するGoss方位を持つ一次再結晶粒を増やすことが重要である。なぜなら、二次再結晶粒は電子ビーム照射部に相当する3mm幅の部分を超えて蚕食しないので、この10mm間隔の領域に二次粒の種が存在する必要があり、Goss方位を持つ一次再結晶粒が存在しない場合や少ない場合は、その10mm間隔領域は全面あるいは部分的に二次再結晶不良となってしまうからである。走査速度が1.0m/sより遅いと、急熱処理が不十分となるため、Goss方位を持つ一次再結晶粒が不足し、二次再結晶不良となる面積が増大し、そのために鉄損が劣化したものと考えられる。
[実験5]
さらに、急速加熱を行うために必要となる、電子ビームの照射条件について検討を行ったところ、エネルギーを板厚方向に多く導入する手段として、鋼板の両面から電子ビーム照射を行うことも有効であることに想到し、そのための条件について実験および評価を行った。すなわち、0.27mm厚の方向性電磁鋼板を製造する際の途中工程材である冷延鋼板に、電子ビームを圧延直角方向に走査することを圧延方向へ30mm間隔で行った。その際、電子ビーム径が最小となる位置を板厚方向へ変位させた。その後、公知の手法を用いて脱炭焼鈍、MgO塗布、仕上げ(二次再結晶)焼鈍、平坦化焼鈍、そして張力被膜塗布を行って製品板とし、得られた製品板の鉄損特性を調査した。
なお、電子ビーム照射は、収束電流(フォーカス粗調整)値は一定のままで、フォーカスのファイン調整をする機能を持つダイナミックフォーカスコイルを動的に変化させて、電子ビームの走査範囲内にてビーム径が最小となる位置が同一になるように調整した。その他の電子ビーム照射条件を表1に示す。なお、両面照射を行う場合は、鋼板の圧延方向に対する照射位置が同じになるように実施した。
表1のNo.1および2は、ジャストフォーカス条件であって急速加熱が不十分である結果、Goss方位を持つ結晶粒が少なく、さらには正常粒成長粒の板厚方向への生成距離が不十分であり、結晶方位の良好な二次再結晶粒の蚕食抑制ができない比較例である。No.1とNo.2との相違は電子ビーム照射が片面か両面かである。No.1と2とを比較すると、両面照射することにより鉄損が大幅に改善することがわかる。片面照射の場合、Goss方位を持つ結晶粒の分布は照射面側および非照射面側で同じであるため、二次再結晶粒の成長確率は同じになるが、非照射面はGoss方位以外の粒を抑制する正常粒成長が存在しないことから、より粗大な二次再結晶粒が形成されてしまうと考えられる。一方、両面照射の場合は、裏面にも正常粒成長粒が存在するため、片面照射の場合ほどは二次再結晶粒が粗大化しない。このことが、鉄損0.05W/kgの差として現れたものと考えられる。
No.3および4は、ジャストフォーカス条件であるが走査速度が速いために急速加熱が十分であり、Goss方位を持つ二次再結晶粒は多い。しかしながら、正常粒成長粒の板厚方向への生成距離が不十分であり、結晶方位の良好な二次再結晶粒の蚕食抑制ができない条件である。この場合、片面照射(No.3)と両面照射(No.4)の特性差は非常に少ない。鋼板の片面を急速加熱すると、照射面側にGoss方位を持つ結晶粒が非常に多くなるため、非照射面側から二次再結晶粒が成長する確率が大幅に下がる。よって、上記のNo.1で認められた非照射面側からの二次再結晶粒成長に起因した二次再結晶粒粗大化は起こりにくい。両面照射との鉄損差(0.01W/kg)は、単純にGoss方位を持つ結晶粒の頻度が2倍になり、より細粒化しやすくなったためと考えられる。
No.5および6は、アンダーフォーカス条件である。この場合は、No.3,4と同じく、片面照射と両面照射との差は、Goss方位を持つ結晶粒の頻度の差のみであり、鉄損の差は非常に小さくなっている。すなわち、片面でも両面と同様に鉄損が低減されており、その絶対値もジャストフォーカス条件より低く、期待通りの鉄損が得られていることが分かる。
Figure 0007375670000001
本発明は上記の各実験によって得られた知見に立脚するものである。すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである
(1)鋼板の圧延方向に3mmの幅で圧延直角方向へ前記鋼板の全幅にわたって延びる領域内における、前記圧延直角方向に二次再結晶粒界が連続的に存在している割合が80%以上である、帯状領域が、前記圧延方向に間隔を置いて存在し、前記帯状領域における、結晶方位がGoss方位に対して15°以上外れた結晶粒の、前記帯状領域の全面積に対する比が20%以下である方向性電磁鋼板。
(2)前記帯状領域における、結晶方位がGoss方位に対して15°以上外れた結晶粒の、前記帯状領域の全面積に対する比が5%以下である前記(1)に記載の方向性電磁鋼板。
(3)前記帯状領域の前記圧延方向における存在間隔が10~100mmである前記(1)または(2)に記載の方向性電磁鋼板。
(4)磁束密度B8が1.94T以上である前記(1)から(3)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板。
(5)方向性電磁鋼板用の鋼素材を熱間圧延し、1回もしくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚の冷延鋼板とした後に脱炭焼鈍を施し、その後MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布して仕上げ焼鈍を施す、方向性電磁鋼板の製造工程において、
前記冷間圧延後かつ前記脱炭焼鈍前に、前記冷延鋼板の表面に加速電圧60kV以上および走査速度1.0m/s以上で電子ビームを前記冷延鋼板の圧延直角方向へ照射するに当たり、前記電子ビームの径が照射幅全域において最も小さくなる位置を前記冷延鋼板の表面より内側とする、前記電子ビームのフォーカス調整を行う方向性電磁鋼板の製造方法。
(6)前記電子ビームの径が最も小さくなる位置を、前記冷延鋼板の表面から板厚中心までの範囲に設定する前記(5)に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
本発明によれば、電子ビーム照射部において圧延直角方向に二次再結晶粒界が連続的に存在している割合を適正に制御することによって、更なる二次再結晶粒細粒化および二次再結晶粒内の配向性変化抑制が実現し、現状以上に低鉄損の方向性電磁鋼板を得ることが可能になる。従って、その方向性電磁鋼板を鉄心とした変圧器は高いエネルギー使用効率の実現が可能になるため、産業上有用である。
製品板における鉄損特性とビーム径が最小となる位置との関係を表すグラフである。 製品板におけるビーム径が最小となる位置を示す概略図である。 鋼板表面に対する電子ビームのフォーカス位置(アッパーフォーカス)と二次再結晶粒の関係を表す模式図である。 鋼板表面に対する電子ビームのフォーカス位置(ジャストフォーカス)と二次再結晶粒の関係を表す模式図である。 鋼板表面に対する電子ビームのフォーカス位置(アンダーフォーカス)と二次再結晶粒の関係を表す模式図である。 電子ビームのフォーカス位置が異なる場合について、加速電圧と鉄損特性との関係を表すグラフである。 電子ビームが照射された周辺の帯状領域における、圧延直角方向の二次再結晶粒界の存在割合を定義する模式図である。 電子ビームのフォーカス位置が異なる場合について、ビーム電流の強度と鉄損特性との関係を表すグラフである。 二次再結晶粒界の存在割合と鉄損との関係を表すグラフである。 残留微細粒面積率と鉄損との関係を表すグラフである。 鉄損特性と走査速度との関係を表すグラフである。 本発明を満足する鋼板における、二次再結晶粒界の存在形態を定義する模式図である。
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明は、方向性電磁鋼板に二次再結晶粒界の存在割合および残留微細粒面積率が所定の範囲にあれば他の要件は特に問わない。従って、鋼板の成分組成も限定されず、二次再結晶が生じる成分組成であればよい。また、インヒビターを利用する場合、例えばAlN系インヒビターを利用する場合であればAlおよびNを、またMnSやMnSe系インヒビターを利用する場合であればMnとSeおよび/またはSを、それぞれ適量含有させればよい。勿論、両インヒビターを併用してもよい。この場合におけるAl、N、SおよびSeの好適含有量はそれぞれ、Al:0.01~0.065質量%、N:0.005~0.012質量%、S:0.005~0.03質量%、Se:0.005~0.03質量%である。
さらに、本発明は、Al、N、S、Seの含有量を制限した、インヒビターを使用しない方向性電磁鋼板にも適用することができる。この場合には、Al、N、SおよびSe量はそれぞれ、Al:100質量ppm以下、N:50質量ppm以下、S:50質量ppm以下、Se:50質量ppm以下に抑制することが好ましい。
ここで、本発明の方向性電磁鋼板の製造に供する鋼素材(鋼スラブ)における好適な基本成分および任意添加成分について具体的に述べる。
C:0.08質量%以下
Cは、熱延板組織の改善のために添加をするが、0.08質量%を超えると、製造工程中に磁気時効の起こらない50質量ppm以下までCを低減することが困難になるため、0.08質量%以下とすることが好ましい。なお、下限はCを含まない素材でも二次再結晶が可能であるので特に設ける必要はないが、熱延板組織の改善の観点からは、0.01質量%以上添加することが好ましい。
Si:2.0~8.0質量%
Siは、鋼の電気抵抗を高め、鉄損を改善するのに有効な元素であるが、含有量が2.0質量%に満たないと十分な鉄損低減効果が達成できない、おそれがある。一方、8.0質量%を超えると加工性が著しく低下し、また磁束密度も低下するため、Si量は2.0~8.0質量%の範囲とすることが好ましい。より好ましくは、2.5~4.0質量%である。
Mn:0.005~1.0質量%
Mnは、熱間加工性を良好にする上で必要な元素であるが、含有量が0.005質量%未満ではその添加効果に乏しい。一方、1.0質量%を超えると製品板の磁束密度が低下するため、Mn量は0.005~1.0質量%の範囲とすることが好ましい。より好ましくは、0.01~0.1質量%である。
上記の基本成分以外に、磁気特性改善成分として、次に述べる元素のうちから選んだ1種以上を、適宜含有させることができる。
Ni:0.03~1.50質量%、Sn:0.01~1.50質量%、Sb:0.005~1.50質量%、Cu:0.03~3.0質量%、P:0.03~0.50質量%、Mo:0.005~0.10質量%およびCr:0.03~1.50質量%
Ni:0.03~1.50質量%
Niは、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させるために有用な元素である。しかしながら、含有量が0.03質量%未満では磁気特性の向上効果が小さく、一方1.5質量%を超えると二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化する、おそれがある。そのため、Ni量は0.03~1.5質量%の範囲とすることが好ましい。
また、Sn、Sb、Cu、P、CrおよびMoはそれぞれ磁気特性の向上に有用な元素であるが、いずれも上記した各成分の下限に満たないと、磁気特性の向上効果が小さい。一方、上記した各成分の上限量を超えると、二次再結晶粒の発達が阻害されるため、それぞれ上記の範囲で含有させることが好ましい。
なお、上記成分以外の残部は、製造工程において混入する不可避的不純物およびFeである。本発明の方向性電磁鋼板の製造に用いる鋼素材において、上記成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。なお、Cは一次再結晶焼鈍で脱炭され、Al,N,SおよびSeは仕上焼鈍において純化されるため、仕上焼鈍後の鋼板(製品板)では、これらの成分はAl:0.01質量%以下、 C,N,S,Se:それぞれ0.005質量%以下に低減される。
次いで、上記した成分組成を有する鋼素材は、常法に従い加熱して熱間圧延に供するが、例えばスラブに鋳造後に、加熱せずに直ちに熱間圧延してもよい。薄鋳片の場合には熱間圧延しても良いし、熱間圧延を省略してそのまま以後の工程に進んでもよい。
さらに、必要に応じて熱延板焼鈍を施す。このとき、ゴス組織を製品板において高度に発達させるためには、熱延板焼鈍温度として800~1100℃の範囲が好適である。熱延板焼鈍温度が800℃未満であると、熱間圧延でのバンド組織が残留し、整粒した一次再結晶組織を実現することが困難になり、二次再結晶の発達が阻害される、おそれがある。一方、熱延板焼鈍温度が1100℃を超えると、熱延板焼鈍後の粒径が粗大化しすぎるために、整粒した一次再結晶組織の実現が極めて困難となる、おそれがある。
熱延板焼鈍後は、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施した後、脱炭焼鈍前までに電子ビーム照射を行う。脱炭焼鈍ラインとは別のラインで実施してもよいし、脱炭焼鈍ライン内で通常の一次再結晶反応が実施される前に電子ビーム照射装置を組み込んで実施してもかまわない。ここで、電子ビーム照射によって、冷延鋼板組織内に粗大な正常粒成長粒を形成するに当たり、照射幅全域でビームが最も小さくなる位置(焦点位置)を鋼板表面より内側に設定(アンダーフォーカス条件)することが肝要である。より好ましくは、鋼板の表面から板厚中心までの位置に調整することである。位置調整の方法は特に限定されないが、ダイナミックフォーカス制御を適用し、フォーカス調整を行うコイル、例えば収束コイルへの電流を調整するのが好適である。また、加速電圧は鋼板への電子の透過能に影響を与える因子であるので60kV以上にすることが必要である。より好ましくは100kV以上である。この二つの照射条件を採用すれば、深く・細い範囲に粗大な再結晶組織を形成することが可能になり、結晶方位が良好な二次再結晶粒の成長性も抑制することが可能になる。その上、最終製品には粗大な再結晶組織を残留させないことも可能になる。
また、結晶方位が良好な二次再結晶粒の粒成長性も抑制しながら、鋼板全面に二次再結晶粒を形成させるためには、急速加熱によってGoss方位を持つ結晶粒を増やすことが必須である。そのためには、電子ビームの走査速度を1m/s以上とし、必要サイズの微細粒を形成させればよい。より好ましくは10m/s以上である。
上記方法を採用しない場合は、二次再結晶粒の抑制と微細粒の消滅、二次再結晶粒を微細にした上での全面二次再結晶化を両立させることができず、最大限の鉄損低減効果が得られない。上記方法を採用することによって、鉄損改善効果が向上する理由は以下の3点である。
(i)深く細い領域に高エネルギーが投入されるため、通常の脱炭焼鈍時に得られる(一次)再結晶粒より大きい再結晶組織が圧延方向には狭く、板厚方向には深く形成することが可能となる。その結果、最終仕上げ焼鈍時に結晶方位の良好な二次再結晶粒もその深く細い領域で成長性が阻害されるために、Goss粒の種の存在頻度が同じ場合でもより効率的に二次再結晶粒の微細化が可能になる。
(ii)粗大な一次再結晶組織周辺では、脱炭焼鈍時に形成される一次再結晶粒と同サイズの一次再結晶組織が形成される。ただし、加熱速度が大きくなり、超急速加熱となっているのでGoss粒の種の存在頻度も増加して、二次再結晶粒の微細化に寄与する。
(iii)圧延方向への二次再結晶粒の成長抑制は、コイルで行う仕上げ焼鈍に特有の、二次再結晶粒内で発生する結晶方位のずれを抑制することになる。この結晶配向性のずれ抑制も、低鉄損化に大きく寄与している。
ビーム電流については、設定した加速電圧、走査速度で所望の正常粒成長粒ができるように調整すればよい。この適正範囲は素材の製造条件(圧下率や焼鈍温度、組成)によって変動するので特に限定されない。素材の製造条件は結晶方位制御やフォルステライト被膜制御などで決定されるので、本発明の目的のために素材の製造条件を変更するのは容易ではない。よって、必須とした加速電圧、フォーカス設定以外のビーム電流を含む電子ビーム照射条件は、素材の製造条件に応じて、適時決定すればよく、特に限定されるものではないが、多くのケースで共通して採用可能な好適条件範囲は以下の通りである。
・照射方向は圧延方向に対して60°~90°の方向、
・10~100mm程度の照射間隔、
・ビーム電流:0.1~100mA、
・ビーム径:0.01~0.3mm、
・ビーム停留点間隔:0.04~0.8mm。
冷延鋼板に電子ビームを照射した後、脱炭焼鈍を行い、焼鈍分離剤を塗布し、二次再結晶およびフォルステライト被膜の形成を目的として最終仕上げ焼鈍を施す。最終仕上げ焼鈍後には、平坦化焼鈍を行って形状を矯正することが有効である。なお、本発明では、平坦化焼鈍前または後に、鋼板表面に絶縁コーティングを施す。ここに、この絶縁コーティングは、本発明では、鉄損低減のために、鋼板に張力を付与できるコーティング(以下、張力コーティングという)を意味する。なお、張力コーティングとしては、シリカを含有する無機系コーティングや物理蒸着法、化学蒸着法等によるセラミックコーティング等が挙げられる。
このようにして得られた鋼板に、更なる鉄損低減を目的としてレーザ、プラズマ、電子ビーム等を照射して、磁区を細分化することも可能である。また、最終冷延後の鋼板に印刷等によりエッチングレジストを付着させたのち、非付着域に電解エッチング等の処理により線状溝を形成することも可能である。
上記に従って得られた方向性電磁鋼板において、板厚は工業的には0.10mm~0.35mm程度とすることが好ましい。また、圧延方向に3mmの幅を持った圧延直角方向に対する帯状領域内に、圧延直角方向に二次再結晶粒界が連続的に存在している割合が80%以上となると、従来を凌駕する鉄損低減効果が得られるため、存在割合は80%以上に限定する。ここで、二次再結晶粒界の存在割合(ΣA/L)が80%以上である鋼板は、図10に模式的に示すとおり、製品板より被膜を除去し、エッチングにより粒界を明確にさせた後、スキャナーで圧延方向に連続的にスキャンする。その後、得られた画像で、圧延方向に3mm幅の帯状帯を鋼板の圧延方向に移動させつつ、逐次ΣA/L(%)を算出することによって、圧延直角方向へ二次再結晶粒界が鋼板全幅の80%以上で延びる領域が特定される。このスキャンを圧延方向へ順次行うことによって特定されるΣA/L≧80%の帯状領域が間隔をおいて複数あれば、本発明を満足する鋼板である。すなわち、二次再結晶後の鋼板では、冷延鋼板に照射した電子ビームの痕跡は直接残らないが、本発明に適合する条件で冷延鋼板に電子ビームを照射した場合、二次再結晶後の鋼板にはこのような帯状領域として反映されることになる。
この帯状領域内に残存する上記した所定結晶方位を外れた残留微細粒は、存在しても従来材以上の鉄損を得ることが可能であるものの、鉄損低減効果を妨げることから、帯状領域全体の面積に対する割合が20%以下、好ましくは5%以下に限定する。
さらに、本手法適用による更なる鉄損改善効果は、磁区細分化処理前の磁区が太い鋼板の方がより大きく得られる。磁区細分化処理前の磁区が太いことは、磁束密度が高いことを意味しており、本手法の適用は磁束密度B8が1.94T以上の鋼板に適用することがより有効である。
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、本発明は、該実施例によって何ら限定されるものではない。本発明の実施形態は、本発明の趣旨に適合する範囲で適宜変更することが可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に包含される。
表2に示す成分を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、連続鋳造にて製造し、1420℃に加熱後、熱間圧延により板厚:2.0mmの熱延板としたのち、900℃で10秒の熱延板焼鈍を施した。ついで、冷間圧延により中間板厚:1.1mmとし、酸化度PH2O/PH2=0.32、温度:1070℃、時間:30秒の条件で中間焼鈍を実施した。その後、塩酸による酸洗を施し中間焼鈍板表面のサブスケールを除去したのち、再度、冷間圧延を実施して、板厚:0.20mmの冷延鋼板とした。
ついで、表3に示す条件にて電子ビームを冷延鋼板の圧延直角方向へ線状に照射し、均熱温度860℃で30秒保持する脱炭焼鈍を施し、その後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、二次再結晶・フォルステライト被膜形成および純化を目的とした最終仕上げ焼鈍を1180℃および100時間の条件で実施した。そして、未反応の焼鈍分離剤を除去した後に、50%のコロイダルシリカおよびリン酸アルミニウムからなるコーティング液を塗布し、平担化焼鈍も兼ねた張力コーティング焼き付け処理(焼き付け温度850℃)を施した。かくして得られた製品板について、二次再結晶粒界の存在割合および残留微細粒の全面積比を測定するとともに、鉄損および磁束密度を評価した。その測定並びに評価の結果を表3に併記する。
本発明を満足する発明例は、良好な鉄損特性を有していることが分かる。No.1-4とNo.27-30で磁束密度の影響を比較すると、発明例の場合(No.3,4,29,30)は磁束密度が高い方が低鉄損であり、比較例の場合(No.1,2,27,28)は、磁束密度が高い方が鉄損は大きい。磁束密度が高い材料の方が磁区幅は太くなるために、磁区細分化効果が不十分な比較例では、磁束密度が高い材料の方が鉄損は大きくなったと考えられる。一方、本発明を適用した場合は十分な磁区細分化効果が得られるため、磁束密度が高い材料は結晶方位が良好な分だけ低鉄損となったと考えられる。
また、各比較例において良好な鉄損が得られなった原因はそれぞれ次のように考えている。No.1,2,6,7,8,27,28,32,33,34はフォーカス設定が不適切のため、正常粒成長粒の板厚方向への形成がたりず、Goss方位二次再結晶粒の蚕食が十分に抑制できなかったために、鉄損が十分に下がらなかった。また、フォーカスのずれが大きくなるほど、発明範囲外の部分でも正常粒成長粒が形成しにくくなるので、ずれが大きいサンプルほど鉄損が大きくなった。No.9,35は、正常粒成長粒は板厚方向に深く形成されるが、加熱速度(走査速度)が遅いために、Goss方位を持つ結晶粒が少ない。この結果、結晶方位の良好な二次再結晶粒は成長性が低下するが、その代わりに成長する二次再結晶粒が存在せず、部分的に二次再結晶不良部が存在しているため、鉄損が大幅に悪くなった。No.13,14,39、40は加速電圧が低くかつ走査速度が遅いので、正常粒成長粒の形成が不十分かつGoss方位を持つ結晶粒が少ない。片面照射では、非照射面側はGoss方位以外の二次再結晶粒の成長が抑制されず成長可能であるので、全体として最も粗大な二次再結晶粒が形成されやすい。一方、両面照射では、Goss方位以外の二次再結晶粒の成長が両側で抑制されるので、不十分ではあるが粗大化は抑制される傾向となる。この結果として、片面照射では鉄損が大きく、両面照射にすると鉄損が大きく改善したと思われる。No.15,16,17,18,41,42,43,44は、加速電圧が低く、正常粒成長粒の形成が不十分のため、結晶粒微細化効果が期待通り得られなかったので、鉄損が悪くなった。No.25,26,51,52は、ビーム出力が過大であったために、正常粒成長粒が過度に粗大化してしまった結果、製品板にこのGoss方位以外の正常粒成長粒が残留したために、鉄損が劣化した。
Figure 0007375670000002
Figure 0007375670000003

Claims (4)

  1. 鋼板の圧延方向に3mm幅であり、板幅方向へ直線状に行った電子ビーム照射部を中心線として含み、当該3mm幅中で、[二次再結晶粒界が連続的に存在している領域の両端を板幅方向に垂直に下ろした場合の板幅方向の長さの総計]/[板幅]×100が80%以上である、帯状領域が、前記圧延方向に間隔を置いて存在し、前記帯状領域における、結晶方位がGoss方位に対して15°以上外れた結晶粒の、前記帯状領域の全面積に対する比が5%以下であり、前記帯状領域の前記圧延方向における存在間隔が10~100mmである方向性電磁鋼板。
  2. 磁束密度B が1.94T以上である請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
  3. 請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法であって、方向性電磁鋼板用の鋼素材を熱間圧延し、1回もしくは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終板厚の冷延鋼板とした後に脱炭焼鈍を施し、その後MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布して仕上げ焼鈍を施す、方向性電磁鋼板の製造工程において、
    前記冷間圧延後かつ前記脱炭焼鈍前に、前記冷延鋼板の表面に加速電圧60kV以上および走査速度1.0m/s以上で電子ビームを前記冷延鋼板の圧延直角方向へ照射するに当たり、前記電子ビームの径が照射幅全域において最も小さくなる位置を前記冷延鋼板の表面より内側とする、前記電子ビームのフォーカス調整を行う方向性電磁鋼板の製造方法
  4. 前記電子ビームの径が最も小さくなる位置を、前記冷延鋼板の表面から板厚中心までの範囲に設定する請求項3に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
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