JP7356109B2 - 角形鋼管の変形性能の評価方法 - Google Patents

角形鋼管の変形性能の評価方法 Download PDF

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Description

本発明は、角形鋼管の変形性能の評価方法に関する。
長周期地震動のように継続時間が長い地震動を受ける鋼構造建物は、比較的小さな振幅による多数回の繰り返し塑性変形に対する変形性能が問題となる。そこで、角形鋼管柱の柱梁接合部の変形性能評価が行われている。該変形性能評価は、実大断面の鋼管を用いて構造曲げ試験を実施し、最終破断時の破壊形態までを評価できることが理想的である。しかし、高強度・厚肉材の実大断面における試験には、設備の更新や大型の試験装置が必要である。そこで、実大構造実験を行わずに、シミュレーションにより変形性能を評価する手法や、実大断面の鋼管から小型の試験体を切り出し、該小型の試験体を用いて変形性能を評価する手法が研究されている。
例えば、特許文献1には、実大構造実験を行わずに、シミュレーションにより角形鋼管の変形状態を評価する手法が開示されている。特許文献1に開示の手法は、ダイアフラム溶接部近傍の各部位の応力-ひずみ関係をFEM(Fine Element Method:有限要素法)解析により求め、局所ひずみが最も早く進行する部位を最危険部位とみなし、最危険部位における相当ひずみが素材の一様伸びに達した時点を終局変形状態と判定する。
また、非特許文献1には、実大断面コラムから1つの角部のみを取り出した部分断面モデル試験体の実験結果に基づいて、実大断面コラムの保有変形性能を評価する手法が開示されている。
特開2012-117995号公報
中野、岡本、高木ら、「部分断面モデルの断面設計と実大断面コラムへの変形性能の換算法:鉄骨造建築物の安全性向上に資する新自動溶接技術の開発 その8」、日本建築学会大会学術梗概集(関東)2011年8月、1535
しかしながら、構造物の耐震性能の評価には、破断時の破壊形態なども重要な要素であり、特許文献1に開示されている技術のように、実際の実験を行わずに、FEM解析のみにより破断現象をシミュレートすることは困難である。破断現象を確認するためには、実験が不可欠である。
また、非特許文献1に開示されている技術では、部分断面モデル試験体が実大断面コラムの1つの角部のみから構成された開断面となっており、評価角部の応力やひずみの分布状態が、閉断面である実大断面コラムの状態と異なると考えられる。そのため、非特許文献1に開示されている技術では、実大断面コラムに対し対等な評価ができていないと考えられる。
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、角形鋼管の変形性能の評価方法であって、実大断面の試験体から切り出した小型断面の試験体を用いて、実大断面の試験体を用いた場合と対等な評価をすることができる方法を提供することを目的とする。
本発明の態様1は、
試験体中央部に通しダイアフラムを配した角形鋼管に正負の交番繰り返し載荷する3点曲げ試験において、前記角形鋼管と前記通しダイアフラムの溶接接合部の変形性能を実大断面の試験体に代わって評価する方法であって、
前記実大断面の試験体のせん断スパン比との比率が下記式(1)を満たすように、前記実大断面の試験体から、前記実大断面の対角上に位置する2つの角部を評価部分として切り出して、鋼管となるように接合した小型断面モデルの試験体を用いて、前記角形鋼管と前記通しダイアフラムの溶接接合部の変形性能を評価する、角形鋼管の変形性能の評価方法である。
0.8≦実大断面の試験体のせん断スパン比/小型断面モデルの試験体のせん断スパン比≦1.2 ・・・(1)
せん断スパン比は、下記式(2)を用いて計算される。
せん断スパン比=L/B ・・・(2)
ここで、
L:鋼管長さ(mm)
B:鋼管断面における対角線長さ(mm)
本発明の態様2は、
前記小型断面モデルの試験体の載荷方法は、前記実大断面の試験体を用いた場合に角部溶接止端部に発生する相当塑性歪と同等になるように、交番繰り返し載荷の変位量を設定する、態様1に記載の角形鋼管の変形性能の評価方法である。
本発明の態様3は、
前記交番繰り返し載荷の変位量は、一様モデルおよび分割モデルの解析モデルを用いて導出される、載荷変位と角部溶接止端部の相当塑性歪の関係式から求められ、
前記分割モデルは、前記角形鋼管の平板部および角部の各々の0.2%耐力を用いる、態様2に記載の角形鋼管の変形性能の評価方法である。
本発明の態様4は、
前記関係式は、幅厚比D/tの関数である、態様3に記載の角形鋼管の変形性能の評価方法である。
ただし、
D:鋼管の辺長(mm)
t:鋼管の公称板厚(mm)
本発明によれば、実大断面の試験体から切り出した小型断面の試験体を用いて、実大断面の試験体を用いた場合と対等な評価をすることができる。
図1は、本発明の実施形態に係る実大断面コラムと小型断面モデルとにおける、一様モデルでの載荷変位と相当塑性歪との関係を示したグラフである。 図2は、本発明の実施形態に係る実大断面コラムと小型断面モデルとにおける、載荷変位と相当塑性歪との関係に、実大断面コラムの相当塑性歪に合わせこむように小型断面モデルの載荷変位を制御するイメージを記載した図である。 図3は、本発明の実施形態に係る3点曲げ試験機の概略図である。 図4Aは、本発明の実施形態に係る試験体の概略図である。 図4Bは、本発明の実施形態に係る試験体の概略図である。 図5は、本発明の実施形態に係る試験体に対する載荷のイメージを示した模式図である。 図6は、本発明の実施形態に係る標準的な載荷プログラムを示したグラフである。 図7は、本発明の実施形態に係る一般的なδの算出方法を示す図である。 図8は、本発明の実施形態に係る小型断面モデルの断面模式図である。 図9は、本発明の実施形態に係る小型断面モデルの作製イメージを示した模式図である。 図10は、本発明の実施形態に係る評価方法を示すフローチャートである。 図11は、本発明の実施形態に係る実大断面コラムの各種パラメータを示す模式図である。 図12は、本発明の実施形態に係る小型断面モデルを用いた場合の、試験体の概略断面図である。 図13は、本発明の実施形態に係る載荷プログラムの策定方法を示したフローチャートである。 図14Aは、実施例に係る実大断面コラムの解析モデルを示す図である。 図14Bは、実施例に係る小型断面モデルの解析モデルを示す図である。 図14Cは、実施例に係る実大断面コラムおよび小型断面モデルにおける溶接止端部近傍の解析モデルを示す図である。 図15は、実施例に係る各種幅厚比D/tにおける載荷変位と応力三軸度との関係を示したグラフである。 図16は、実施例に係る各種幅厚比D/tにおける載荷変位と相当塑性歪との関係を示したグラフである。 図17は、実施例に係る一様モデルにおける載荷変位と相当塑性歪との関係を示したグラフである。 図18は、実施例に係る幅厚比D/tと、図16の各曲線の傾きと、の関係を示したグラフである。 図19は、実施例に係る一様モデルにおける載荷変位と相当塑性歪との関係と、分割モデルにおける載荷変位と相当塑性歪との関係と、を合わせて示したグラフである。 図20は、実施例に係る実際に作製した実大断面コラムの模式図である。 図21は、実施例に係る実際に作製した小型断面モデルの模式図である。
[1.概要]
上述したように、高強度・厚肉材の実大断面における試験には設備の更新や大型の試験装置が必要である。そこで、本発明者らは、実大断面を有する鋼管(以下、「実大断面コラム」という場合がある。)から切り出された小型断面モデルの試験体(以下、単に「小型断面モデル」という場合がある。)を用いて、実大断面コラムの変形性状を評価する手法について鋭意研究した。しかし、断面の小型化により断面形状が大きく変わると、本来評価すべき実大断面コラムに対し対等な評価ができないと考えられる。
そこで、本発明者らは、実大断面コラムおよび小型断面モデルにおいて、載荷変位と角部溶接止端部における相当塑性歪との関係について鋭意研究した。その結果を図1に示す。図1は、FEA(Finite Element Analysis:有限要素法を用いた構造解析)により求めた、実大断面コラムと小型断面モデルとにおける、載荷変位と相当塑性歪との関係を示したグラフである。図1の横軸は、載荷変位δ/δを示している。δは、後述する一様モデルにおける柱の全塑性モーメントMに対応する変位量(mm)である。また、図1の縦軸は、相当塑性歪εeqを示している。相当塑性歪εeqは、後述する一様モデルにおける角部溶接止端部の相当塑性歪である。図1の「実大断面コラム(解析値)」および「小型断面モデル(解析値)」は、実験に用いる試験体をもとに作成した解析モデルにて、載荷変位と相当塑性歪の関係をFEAにより求めた結果を示している。また、図1の「実大断面コラム(推定値)」および「小型断面モデル(推定値)」は、後述の式1をもとに算出した、載荷変位と相当塑性歪の関係の推定値を示している。図1に示すように、小型断面モデルについて、実大断面コラムと同様に2δ、4δ・・と載荷すると、実大断面コラムと比べて発生する相当塑性歪は小さくなる。
そこで、本発明らは、従来の試験装置であっても、実大断面の変形性状を精度よく再現できる小型断面モデルによる評価について更に鋭意研究したところ、以下の(1)および(2)の知見を得て、本発明を完成した。
(1)実大断面コラムと小型断面モデルとでせん断スパン比を同等にすることにより、両者で塑性変形性状を同等とすることができる。
(2)最も応力が集中する角部溶接止端部の相当塑性歪に着目し、実大断面コラムと小型断面モデルとで同等の相当塑性歪が発生するような載荷プログラム(載荷履歴)を導出した。図2は、実大断面コラムと小型断面モデルとにおける、載荷変位と相当塑性歪との関係に、実大断面コラムの相当塑性歪に合わせこむように小型断面モデルの載荷変位を制御するイメージを記載した図である。図2に示すように、小型断面モデルにおいて、実大断面コラムで発生する相当塑性歪と同等となるような載荷プログラムを導出した。すなわち、実大断面コラムにおける載荷変位nδのときの相当塑性歪に対応する小型断面モデルにおける載荷変位((n+n’)δ)を求めることができる載荷プログラムを導出した。そして、当該載荷プログラムを用いて曲げ試験を行うことにより、実大断面コラムと同等の溶接止端部の塑性変形挙動を小型断面モデルにて再現することができることが分かった。特に、本発明者らは、FEAより、載荷変位と角部溶接止端部の相当塑性歪との関係は、D/t(幅厚比)と大きく相関があることを初めて見出した。D(mm)は、鋼管の辺長である。t(mm)は、鋼管の公称板厚である。この関係をふまえ、実大断面コラムと小型断面モデルのD/t(幅厚比)の違いに着目し、載荷プログラムを導出した。
[2.3点曲げ試験方法]
本発明の実施形態に係る変形性能の評価方法(以下、単に「本評価方法」という。)を説明する前に、本発明の実施形態でも用いられる3点曲げ試験方法を説明する。
[2-1.3点曲げ試験機]
図3は、3点曲げ試験機1の概略図である。図3の左図は、3点曲げ試験機1の正面図である。図3の右図は、3点曲げ試験機1の側面図である。本発明の実施形態では、実大断面コラムも小型断面モデルも図3に示すような3点曲げ試験機1を使用する。3点曲げ試験機1は、試験体2の中央部を固定し、ロードセル21を介して油圧ジャッキ22により両端(すなわち、ダイアフラム3とは反対側の鋼管の両端部)を載荷することにより、3点曲げ試験を実施する。
[2-2.試験体]
図4Aは、試験体2の概略図である。図4Bは、図4AのA-Aにおける断面図である。図5は、中央固定部のダイアフラム3の表面から一方側の端部4までの試験体2に対する載荷のイメージを示した模式図である。図4Aおよび図4Bに示すように、本実施形態では、試験体2は、角形鋼管であり、中央の柱梁接合部を通しダイアフラム形式としている。図4Bに示すように、試験体2は、断面が略正方形の管状で、角部はアールがつけられている。本発明においては、角部の曲率半径Rは、3.5×t(t:公称板厚)としている。また、中央固定部のダイアフラム3には大きな負荷がかかるため、変形しないよう補強材(リブ)5を設置している。図5に示すように、試験体2は、鋼管断面における上下対角線方向と平行方向に載荷される。そのため、当該対角線上にある鋼管の2つの角部であって、ダイアフラム3の表面との溶接止端部(図5の符号6で示した部位)には、最も応力が集中する。この部位を「角部溶接止端部」という。より詳細には、後述する図14Cに示すように、角部溶接止端部とは、鋼管母材の面と溶接ビードの表面とが交わる点であり、溶接の熱影響を大きく受ける部位である。
[2-3.標準的な載荷プログラム]
図6を参照して、日本鉄鋼連盟などで推奨されている標準的な載荷プログラム(載荷履歴)を説明する。図6は、標準的な載荷プログラム(載荷履歴)を示したグラフである。図6の横軸は、交番の繰り返し数を示している。図6の縦軸は、載荷変位を、後述する変位の基準値の倍数で示している。載荷プログラムは、鋼構造建物が受ける長周期地震動を想定して、図6に示すような漸増変位振幅による交番繰返し載荷を標準載荷プログラムとしている。本実施形態に係る3点曲げ試験では、ダイアフラム3を介して2つ鋼管が接合された試験体2の中央部を固定し、当該ダイアフラム3とは反対側の当該鋼管の端部で正負の交番繰り返し載荷する。
実大断面コラムでは、柱接合部の載荷時の変位の基準値は、鋼管の実測寸法、実測の平板部の0.2%耐力σから求められる。標準載荷プログラムでは、当該変位の基準値は、塑性化する構造要素の全塑性モーメントMに対応する変位量δとしている。まず、本載荷に先立ち、弾性範囲(降伏耐力の1/2程度の荷重レベル)で2回正負に加力を繰り返す予備載荷を行う。なお、図6では、予備載荷の記載を省略している。本載荷時の変位振幅は、基準変位量δの±2倍、±4倍、±6倍、±8倍を基本とし、各変形段階で2回繰り返す。なお、図7に一般的なδの算出方法を示す。
ここで、以下に、本実施形態で用いられる記号の説明をする。
t:鋼管の公称板厚(mm)
:鋼管平板部の実測板厚(mm)
R:鋼管断面における角部の曲率半径(mm)
D:鋼管の辺長(鋼管断面において、各辺を延長することによって得られる正方形の一片の長さ)(mm)
L:鋼管長さ(ダイアフラムの表面から載荷端部までの長さ)(mm)
A:鋼管の断面積(mm
B:鋼管断面における対角線長さ(mm)
I:断面二次モーメント(mm
Z:断面係数
:塑性断面係数(mm
p,p:角形鋼管平板部の塑性断面係数(mm
p,c:角形鋼管角部の塑性断面係数(mm
:柱の全塑性モーメント(kN・m)
p,c:分割モデルにおける柱の全塑性モーメント(kN・m)
Q:荷重(kN)
:分割モデルにおける荷重(kN)
δ:変位量(mm)
θ:回転角(mm)
δ:柱の全塑性モーメントMに対応する変位量(mm)
δp,c:分割モデルにおける柱の全塑性モーメントMp,cに対応する変位量(mm)
θ:柱の全塑性モーメントMに対応する弾性相対回転角(rad)
θp,c:分割モデルにおける柱の全塑性モーメントMp,cに対応する弾性相対回転角(rad)
σy平板部:角形鋼管平板部の0.2%耐力(N/mm
σy角部:角形鋼管角部の0.2%耐力(N/mm
εeq:角部溶接止端部の相当塑性歪
εeq,c:分割モデルにおける角部溶接止端部の相当塑性歪
上記の記号以外に図7で用いられている記号の意味は、以下の通りである。
E:ヤング率(N/mm
G:せん断弾性係数(N/mm
[3.小型断面モデル]
図8および図9を参照して、本発明の特徴的な小型断面モデル7について説明する。図8は、小型断面モデル7の断面模式図である。図9は、小型断面モデル7の作製イメージを示した模式図である。図8に示すように、小型断面モデル7は、評価角部8’と溶接金属9とを含む。図9に示すように、小型断面モデル7は、実大断面コラム10において最も応力の集中する角部溶接止端部6を含む2つの評価角部8(図9左図の上下の角部)のみを切り出して、これらの端部11を加工した後に(評価角部8’)、これらが溶接された鋼管とされている。溶接は、手溶接とした。2つの評価角部8の一方は、他方と同一の形状であり、2つの評価角部8の一方の加工された端部11が、他方の加工された端部11と溶接される。以上により、断面形状が実大断面コラム10と大きく変わらない。そのため、実大断面コラム10と同様の試験設備や計測要領にて対等な評価が可能となる。図9に示すように、実大断面コラムの辺長Dは、小型断面モデルの辺長D’に変調される。また、実大断面コラムの対角線長さBは、小型断面モデルの対角線長さB’に変調される。なお、図9では、端部11が加工された2つの評価角部8は、評価角部8’として示されている。また、上記端部11の加工は、溶接時にV開先となるように加工することが好ましい。
また、本評価方法では、小型断面モデル7のせん断スパン比が、実大断面コラム10のせん断スパン比と同等になるようにする。具体的には、実大断面コラム10のせん断スパン比と、小型断面モデル7のせん断スパン比との比率を、下記式(1)を満たすようにする。せん断スパン比は、下記式(2)で算出される。また、鋼管断面における対角線長さBは、鋼管角部のアール(曲率半径:R)を考慮して、辺長Dを用いて下記式(3)より算出することができる。小型断面モデル7のせん断スパン比を実大断面コラム10のせん断スパン比と同等とすることにより、塑性変形性状を同等とすることができる。
0.8≦実大断面コラムのせん断スパン比/小型断面モデルのせん断スパン比≦1.2 ・・・(1)
せん断スパン比=L(鋼管の中央固定部から端部までの鋼管長さ)/B(鋼管断面における対角線長さ) ・・・(2)

Figure 0007356109000001
[4.変形性能の評価方法]
図10を参照して、本評価方法を説明する。図10は、本評価方法を示すフローチャートである。本評価方法では、まず実大断面コラム10のサイズを確認する(ステップS1)。続いて、ステップS1で決定した実大断面コラム10のサイズに対応する小型断面モデル7の試験体サイズを決定する(ステップS2)。続いて、ステップS2で決定した試験体サイズに基づいて、小型断面モデル7を作製する(ステップS3)。続いて、鋼管平板部の板厚、並びに平板部及び角部の0.2%耐力を測定する(ステップS4)。続いて、ステップS4で測定した鋼管板厚及び0.2%耐力等を用いて、FEAにより導出された後述する関係式3(関係式3’)を用いて載荷プログラムを策定する(ステップS5)。続いて、ステップS5で策定した載荷プログラムを用いて3点曲げ試験を実施し、角形鋼管柱の変形性能を評価する(ステップS6)。以下に、各ステップの詳細を説明する。
[4-1.実大断面コラムのサイズ決定(ステップS1)]
まず、評価対象となる実大断面コラム10のサイズを、試験目的に応じて決定する。試験目的とは、例えば試験機荷重の制約の上限側で評価する、評価可能な最大鋼管長さで評価する、等である。図11に実大断面コラム10の各種パラメータとして、辺長D、対角線長さBおよび板厚tを示す。
[4-2.実大断面コラムに対応する小型断面モデルの試験体サイズの決定(ステップS2)]
上述したように、小型断面モデル7の試験体サイズは、ステップS1で決定した実大断面コラム10のサイズから算出されるせん断スパン比と、小型断面モデル7のせん断スパン比と、が同等となるように決定する。
[4-3.小型断面モデルの試験体を作製(ステップS3)]
ステップS2で決定した試験体サイズに基づいて、小型断面モデル7を作製する。作製方法は、実大断面コラム10と小型断面モデル7の作製に用いる鋼板は、同チャージ(すなわち、出鋼成分が同じ)、且つ同一圧延鋼板から採取することを前提とする。そして、小型断面モデル7は、以下のように作製することが好ましい。すなわち、実大断面の鋼管柱を製罐し、中央固定部のダイアフラムとロボット溶接する。続いて、鋼管長手方向に切断し、2つの評価角部8を切り出す。当該切断は、熱影響による変形を小さくするため、鋸切断加工が好ましい。続いて、上述したように、2つの評価角部の端部11を加工した後に、これらを溶接して小型断面モデル7を作製する(以下、このような工法を「第1工法」と呼ぶ)。第1工法をとることで、小型断面モデル7でも柱-ダイアフラム溶接部の実施工(ロボット溶接)を再現した評価が可能となる。第1工法とは異なり、例えば鋼管柱から小型断面を有する試験体を作製してから、該試験体をダイアフラムに溶接しようとした場合(以下、このような工法を「第2工法」と呼ぶ)、小型断面に対応した適切なロボット溶接プログラムが現状存在しない。第2工法は、実施工(ロボット溶接)と異なる溶接方法となる。そのため、第1工法は、第2工法より好ましい。
[4-4.平板部の板厚、及び平板部・角部の0.2%耐力を測定(ステップS4)]
鋼管平板部の板厚を測定する。鋼管平板部の引張試験の際に自動測寸機にて検出される板厚を実測板厚tとした。また、JISZ 2241(2011)に基づいて、鋼管平板部の0.2%耐力を測定する。試験片は、1A号試験片とする。また、JISZ 2241(2011)に基づいて、鋼管角部の0.2%耐力を測定する。いずれの0.2%耐力も、JISZ 2241による「耐力(オフセット法)」を用いて算出する。試験片は、鋼管角部外側のt/4位置より採取する4号試験片とする。以上測定された鋼管平板部の板厚t、及び平板部・角部の0.2%耐力は、後述する載荷プログラムの策定時に用いられる。
[4-5.FEAによる載荷プログラムの策定(ステップS5)]
FEAにより、小型断面モデル7における載荷プログラムを策定する。該載荷プログラムは、小型断面モデル7の角部溶接止端部6に負荷される相当塑性歪が、実大断面コラム10の角部溶接止端部6に負荷される相当塑性歪と同等になるように策定される。これにより、小型断面モデル7と実大断面コラム10とで対等な評価が可能となる。載荷プログラムの策定の詳細は、後述する。なお、相当塑性歪が「同等」とは、3%程度の誤差は許容される。
[4-6.載荷プログラムを用いた曲げ試験の実施(ステップS6)]
ステップS5で策定された載荷プログラムを用いて、小型断面モデル7について3点曲げ試験を実施する。図12は、小型断面モデル7を用いた場合の、図3AのA-Aに相当する位置における試験体2の概略断面図である。図12に示すように、実大断面モデルと同様に、中央固定部のダイアフラム3には大きな負荷がかかるため、変形しないよう補強材(リブ)12を設置している。3点曲げ試験は、従来の試験装置を用いて、上述した方法で実施する。これにより、高強度・厚肉材の実大断面コラム10を評価対象とする場合でも、小型断面モデルで代替し従来の試験装置を用いて変形性能を評価することができる。すなわち、小型断面モデルを用いて、実大断面の試験体を用いた場合と対等な評価をすることができる。
[5.載荷プログラムの策定方法]
次に、図10のステップS5における載荷プログラムの策定方法について詳細に説明する。図13は、載荷プログラムの策定方法を示したフローチャートである。
まず、従来文献を参照して、FEAに用いられる解析モデルの各種パラメータを算出する(ステップS51)。具体的には、断面二次モーメントI(mm)、断面係数Z、塑性断面係数Z(mm)、角形鋼管平板部の塑性断面係数Zp,p(mm)、角形鋼管角部の塑性断面係数Zp,c(mm)、一様モデルにおける柱の全塑性モーメントM(kN・m)、分割モデルにおける全塑性モーメントMp,c(kN・m)、一様モデルにおける柱の全塑性モーメントMに対応する弾性相対回転角θ(rad)、分割モデルにおける柱の全塑性モーメントMp,cに対応する弾性相対回転角θp,c(rad)、一様モデルにおける荷重Q、分割モデルにおける荷重Q、一様モデルにおける柱の全塑性モーメントMに対応する変位量δ(mm)、分割モデルにおける柱の全塑性モーメントMp,cに対応する変位量δp,c(mm)、鋼管の断面積A(mm)、および鋼管の曲率半径R(mm)を算出する。
ここで、上記「一様モデル」とは、上記ステップS4で測定した鋼管平板部の0.2%耐力σy平板部のみを考慮して算出した柱の全塑性モーメントM、柱の全塑性モーメントMに対応する変位量δに基づく解析モデルである。一様モデルは、従来の考え方と同様のものであるが、「分割モデル」との区別のため、「一様モデル」と呼ぶこととする。Mは、下記式(4)により算出される。

=Z×σy平板部 ・・・(4)
ここで、Zは、塑性断面係数である。
また、上記「分割モデル」とは、上記ステップS4で測定した鋼管平板部の0.2%耐力σy平板部および角形鋼管角部の0.2%耐力σy角部の各々を考慮して算出した柱の全塑性モーメントMp,c、柱の全塑性モーメントMp,cに対応する変位量δp,cに基づく解析モデルである。分割モデルは、本発明の特徴的な解析モデルであり、鋼管平板部の0.2%耐力σy平板部に加えて、鋼管角部の0.2%耐力σy角部も考慮されている。このため、分割モデルは、実現象に近い解析を実施することができる。Mp,cは、下記式(5)で算出される。

p,c=Zp,p×σy平板部+Zp,c×σy角部 ・・・(5)
ここで、Zp,pは平板部についての塑性断面係数、Zp,cは、角部についての塑性断面係数である。Zp,p+Zp,c=Zとなる。
続いて、一様モデルを用いて、FEAにより、幅厚比D/tをパラメータにした、載荷変位(δ/δ)と、角部溶接止端部6の相当塑性歪(εeq)と、の下記の関係式1を導出する(ステップS52)。γは定数である。関係式1の具体的な導出方法は、後述する。

εeq=f(D/t)×(δ/δ-γ) ・・・関係式1
続いて、分割モデルを用いて、FEAにより、幅厚比D/tをパラメータにした、載荷変位(δ/δp,c)と、角部溶接止端部6の相当塑性歪(εeq,c)と、の関係式2を、y切片を未知数αとして導出する(ステップS53)。関係式2の具体的な導出方法は、後述する。

εeq,c=g(D/t)×(δ/δp,c)-α ・・・関係式2
続いて、関係式1と関係式2との交点の値を用いて未知数αを算出し、D/tをパラメータにした分割モデルの載荷変位-相当塑性歪の関係式3を導出する(ステップS54)。算出された未知数αをβとする。関係式3の具体的な導出方法は、後述する。

εeq,c=g(D/t)×(δ/δp,c)-β ・・・関係式3
続いて、関係式3を用いて載荷プログラムを策定する(ステップS55)。具体的には、予め決められている各載荷ステップにおける実大断面コラムの変位量(2δp、4δp、6δp・・・)に対応する相当塑性歪(εeq,c)を関係式3より求める。そして、求めた各相当塑性歪(εeq,c)に対応する小型断面モデルの各変位量(δ/δp,c)を関係式3により求める。以上のようにして、載荷プログラムが策定される。このように策定された載荷プログラムを用いることにより、各載荷ステップにおいて、実大断面コラムの溶接止端部と小型断面モデルの溶接止端部とにおける相当塑性歪が同等になる。
また、上述した非特許文献1では、特定のコラムサイズに対する換算式が得られるものであって、評価対象のコラムサイズが変われば一から解析をやり直して関係を整理する必要がある。一方、本発明では、D/tの関数とした関係式のため、実験対象のコラムサイズ(D/t)が決まれば、それを関係式に代入するだけで実大断面コラムと小型断面モデルの相関を推定できる。本発明は、D/tの関数としたため、あらゆるコラムサイズに適用でき、汎用性のある関係式となっている。
なお、本実施形態は、試験体の中央部を固定し、ダイアフラムとは反対側の鋼管の端部に繰り返し載荷するが、これに限定されず、ダイアフラムとは反対側の鋼管の端部を固定し、ダイアフラムを含む中央部に繰り返し載荷する3点曲げ試験においても、上記と同様にして本発明を適用することができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適用し得る範囲で適当に変更を加えて実施する事ももちろん可能であり、それらはいずれも本発明の技術的な範囲に包含される。
[1.載荷プログラムの策定]
[1-1.解析モデル(図13のステップS51に対応)]
まず、載荷プログラムの導出に用いた解析モデルについて説明する。図14Aは、実大断面コラム10の解析モデルを示す図である。図14Bは、小型断面モデル7の解析モデルを示す図である。図14Cは、溶接止端部近傍の解析モデルを示す図である。解析モデルは、試験体の対称性を考慮し、中央の通しダイアフラム位置が固定端であると考え、図14A~図14Cに示すような片持ち柱の1/2モデルとし、ソリッド要素を用いた。図14Aおよび図14Bに示すように、解析モデルでは、片持ち柱先端で、矢印方向に荷重を加えている。図14Cに示すように、開先角度は35°、ルート間隔は7mm、余盛高さは10mmに設定した。
表1に解析モデル一覧を示す。解析モデルは、塑性変形性状を同等とするためせん断スパン比を概ね4~5で揃え、公称板厚t、実測板厚tは一律40mmとした。また、解析モデルは、鋼管の辺長Dを変えることで幅厚比D/tの異なるモデルとした。鋼管角部と平板部それぞれの0.2%耐力σを用いて算出した荷重Q、δをそれぞれQ、δp,cとした。平板部の0.2%耐力σy平板部は、JISZ 2241(2011)に基づいて、鋼管平板部の0.2%耐力を測定した。試験片は、1A号試験片とした。角部の0.2%耐力σy,角部は、JISZ 2241(2011)に基づいて、鋼管角部の0.2%耐力を測定した。試験片は、鋼管外側のt/4位置より採取する4号試験片とした。
解析には汎用非線形構造解析プログラムABAQUS(Ver6.14)(HKS社製)を使用した。載荷は実験時の載荷プログラムに応じた一方向単調載荷、塑性域における構成方程式は、von Misesの降伏条件、等方硬化則に従うものとした。なお、本来、解析に用いる物性値(すなわち、0.2%耐力)は実試験体から採取し測定したものを用いるのが望ましい。しかし、同鋼種及び同加工法であれば角部と平板部の強度比が大きく変わらない。そのため、本実施例では、実試験体とは異なるが、実試験体と同鋼種及び同加工法で作製した鋼管の物性値を用いた。なお、本解析より得られる関係式の適用される角形鋼管の実試験体の強度範囲は、平板部の降伏応力で385N/mm≦σy≦505N/mmとするが(すなわち、385N/mm≦σy≦505N/mmの範囲内の試験体であれば、本解析より得られる関係式3(関係式3’)を一律に適用することができる)、この範囲を満たさない強度の試験体についても、上記と同様の考え方で関係式を導出できるものである。
Figure 0007356109000002
[1-2.載荷プログラムの導出]
次に、載荷プログラムの導出について説明する。塑性変形挙動の支配因子として、角部溶接止端部の応力三軸度と相当塑性歪が考えられる。それぞれについて表1の解析モデルを用いて幅厚比D/tの影響をFEAにて調査した。図15は、各種幅厚比D/tにおける載荷変位と応力三軸度との関係を示したグラフである。図15に示すように、載荷変位-応力三軸度のグラフは、幅厚比D/tにあまり依存していないことが分かった。すなわち、応力三軸度についてはD/tによる影響が小さいことが分かった。一方、図16は、各種幅厚比D/tにおける載荷変位と相当塑性歪との関係を示したグラフである。図16に示すように、載荷変位-相当塑性歪のグラフは、幅厚比D/tに依存していることが分かった。すなわち、相当塑性歪については幅厚比D/tによる影響が大きいことが分かった。
本発明の対象とする小型断面モデルは、実大断面コラムの角部溶接止端部と同じ形状であり、応力三軸度は両者で変わらない。そのため、上述のような結果になったものと考えられる。そこで、実大断面コラムと小型断面モデルとの塑性変形挙動を合わせるにあたり、相当塑性歪のみに着目することとした。
[1-2-1.一様モデルにおける載荷変位-相当塑性歪の関係式1(図13のステップS52に対応)]
まず、鋼管平板部の0.2%耐力σy平板部のみを用いて算出したδに基づいて、図17に示すような載荷変位と溶接止端部の相当塑性歪との関係(すなわち、一様モデルにおける載荷変位と相当塑性歪との関係)をFEAから求める。図17に示すようなグラフを、表1の解析モデル番号A~Eについて、すなわち幅厚比D/tを変えたモデルについて作成したものが、上述の図16である。図16における各曲線の傾きf(D/t)と幅厚比D/tとの関係をまとめると、図18に示すようになる。図18のグラフの線形近似式を図18中に示した。該線形近似式は、図16における各曲線の傾きとD/tとの関係を示している。ここで、図16において、幅厚比D/tが変化しても、いずれの曲線のx切片も概ね0.5である。そのため、上記線形近似式と上記x切片とにより、下記の一様モデルにおける載荷変位-相当塑性歪の関係式1’が得られる。関係式1’は、上記関係式1に対応する。
Figure 0007356109000003
[1-2-2.分割モデルにおける載荷変位-相当塑性歪の関係式2(図13のステップS53に対応)]
次に、鋼管角部と平板部それぞれの0.2%耐力σを用いて算出したδp,cをもとに載荷変位と溶接止端部の相当塑性歪との関係(すなわち、分割モデルにおける載荷変位と相当塑性歪との関係)をFEAから求めた。上述の一様モデルの場合と同様に、曲線の傾きg(D/t)とD/tとの関係から、分割モデルにおける載荷変位-相当塑性歪の関係式2’が得られる。関係式2’は、上記関係式2に対応する。ただし、一様モデルでは幅厚比D/tが変化してもx切片がほぼ固定されていたのに対し、分割モデルではδ/δp,c≦2の領域については直線近似からの乖離が大きくなった。そのため、δ/δp,c>2の範囲で直線近似し、一旦y切片を未知数αとして関係式2’を得た。
Figure 0007356109000004
[1-2-3.分割モデルにおける載荷変位-相当塑性歪の関係式3(図13のステップS54に対応)]
図19は、一様モデルにおける載荷変位と相当塑性歪との関係(関係式1’)と、分割モデルにおける載荷変位と相当塑性歪との関係(関係式2’)と、を合わせて示したグラフである。より詳細には、図19は、一様モデルで解析したときの所定の幅厚比D/tにおける載荷変位と相当塑性歪との関係(関係式1’)と、分割モデルで解析したときの所定の幅厚比D/tにおける載荷変位と相当塑性歪との関係(関係式2’)と、を合わせて示している。図19に示すように、関係式1’と関係式2’とは、δ/δ=2付近で交わることが分かる。そこで、εeq,c(δ/δp,C=2)=εeq(δ/δ=2)とすると、関係式2’の未知数αが求まり、下記の分割モデルにおける載荷変位-相当塑性歪の関係式3’が導かれる。関係式3’は、上記関係式3に対応する。関係式3’をδ/δp,cについて解くと、関係式4が得られる。すなわち、変位量δ/δp,cが幅厚比D/tの関数である関係式4が得られる。
Figure 0007356109000005

Figure 0007356109000006
[1-2-4.載荷プログラムの策定(図13のステップS55に対応)]
予め決められている各載荷変位(4、6・・・)における実大断面コラムの相当塑性歪(εeq,c)を関係式3’より求めた。続いて、求めた各相当塑性歪(εeq,c)に対応する小型断面モデルの各載荷変位(δ/δp,c)を関係式4により求めた。なお、実大断面コラムの載荷変位2に対応する小型断面モデルの載荷変位は、関係式の適用外のため、実大断面コラムの載荷変位4、6および8に対応する小型断面モデルの各載荷変位(δ/δp,c)と、実大断面コラムの各載荷変位(δ/δ)との各々の比率の平均(すなわち、実大断面コラムの載荷変位4に対する小型断面モデルの載荷変位(δ/δp,c)の比率と、実大断面コラムの載荷変位6に対する小型断面モデルの載荷変位(δ/δp,c)の比率と、実大断面コラムの載荷変位8に対する小型断面モデルの載荷変位(δ/δp,c)の比率との平均)をとって、当該比率の平均値を、実大断面コラムの載荷変位2に乗ずることにより求めた。小型断面モデルの実験では、実大断面コラムの載荷変位4、6、8・・・に対応する小型断面モデルの各載荷変位についても、この当該比率の平均値を実大断面コラムの載荷変位に乗ずることにより決定し、これを載荷プログラムとした。このように策定された載荷プログラムを用いることにより、各載荷ステップにおいて、実大断面コラム10の溶接止端部と小型断面モデル7の溶接止端部とにおける相当塑性歪が同等になる。
[2.実験]
次に、実大断面コラム及び小型断面モデルの実際の試験体を用いて、載荷プログラムを策定し、当該載荷プログラムを用いて3点曲げ試験を実施することにより、本評価方法を検証した。
試験体は、表2に示すような断面が角形の鋼管を用いた。せん断スパン比は、実大断面コラムと小型断面モデルとで概ね7で合わせた。実大断面コラムのせん断スパン比/小型断面モデルのせん断スパン比は、0.94であり、本発明の規定を満足している。同チャージ、同一圧延鋼板から採取した550N/mm級の鋼板を成形して製作した実大断面コラムと小型断面モデルとを試験対象とした。鋼管角部の板厚には公称板厚を、鋼管平板部の板厚には実測板厚tを用いて、断面積Aを求めた。実際に作製した実大断面コラム10と小型断面モデル7の断面模式図をそれぞれ図20および図21に示した。
Figure 0007356109000007
関係式3’および関係式4を用いて策定した載荷プログラムと、相当塑性歪εeqとを、表3および表4に示した。表2に示した実試験体を用いた3点曲げ試験の試験結果を表5に示した。小型断面モデルの載荷プログラムを表3に示す。実大断面コラムの載荷変位(実験の制御誤差により、例えば2は2.06、4は4.12となっている)に対応する小型断面モデルの載荷変位を「載荷プログラム」として示している。(1)本発明の実施形態に係る載荷プログラム(表3の解析番号2)、(2)従来通りの2、4、6δ・・・で制御する載荷プログラム(表3の解析番号3)、(3)(n+0.5)δで制御する載荷プログラム(表3の解析番号4)の3通りとした。3通りの載荷プログラムについて、各実大断面コラムの相当塑性歪εeqと比較した。比較結果は表4に示した。
本実験では、表3および表4の解析番号1と解析番号2について検証を試みた。本発明の実施形態に係る載荷プログラムの妥当性を評価するポイントとして、終局を迎えるタイミング(すなわち、破断に至るタイミング)が同等であること、延性亀裂の発生タイミングが同等であること、累積塑性変形倍率が同等であることなどが挙げられる。これらは載荷変位がある程度大きいタイミングで生じる現象の評価であるため、策定したサイクルのうち、4δ時、6δ時および8δにおける、実大断面コラムと小型断面モデルの相当塑性歪εeqの比が0.97~1.03(乖離率3%以内)に収まる範囲を発明例とした。ここで、累積塑性変形倍率とは変形性能を表す指標の一つであり、実験より得られた累積塑性変形(rad)を柱の全塑性モーメントMに対応する弾性相対回転角θp(rad)で除した値のことである。このとき、小型断面モデルについては、θpではなくθp,conを用いる。θp,conの算出については、前述の載荷プログラムでの小型断面モデルの載荷変位(2.13、4.25、6.38・・・)にθp,cを乗じたものを実大断面コラムの載荷変位(2、4、6・・・)で除すことにより得られる。
解析番号2は、解析番号1の実大断面コラムの相当塑性歪εeqをよく再現できていた。解析番号3、4は、実大断面コラムの相当塑性歪εeqを再現できていないことが分かる。
また、表5に示したように、終局を迎えるタイミングは、実大断面コラムおよび小型断面モデル双方において、6δの負側1回目の載荷変位を試験体に負荷したときであった。このように、実大断面コラムおよび小型断面モデルとで、終局を迎えるタイミングが同等であった。また、延性亀裂の発生タイミングは、実大断面コラムおよび小型断面モデルの双方において、4δの正側1回目の載荷変位を試験体に負荷したときであった。このように、実大断面コラムおよび小型断面モデルとで、延性亀裂の発生タイミングが同等であった。累積塑性変形倍率は、実大断面コラムおよび小型断面モデル双方において40前後の値であり、同等の変形性能が得られた。ここで言う同等とは、実大断面コラムの累積塑性変形倍率に対し、小型断面モデルの累積塑性変形倍率が±5.0の範囲に収まっていることを言う。以上の結果から、小型断面モデルにおいて、実大断面コラムの塑性変形挙動を再現できた。
Figure 0007356109000008
Figure 0007356109000009
Figure 0007356109000010
以上のように、実大断面コラムの塑性変形性状を再現できる小型断面モデルを用いて、FEAより算出した換算式をもとに策定した載荷プログラムで実験することにより、実大断面コラムと同等の塑性変形性状が得られた。また、実大断面コラムに代わる小型断面モデルでの変形性能評価方法を確立できた。そのため、同方法を用いれば、実大断面コラムでは設備能力の不足により実験不可能な高強度角形鋼管と通しダイアフラムの溶接接合部の変形性能評価が、小型断面モデルにて可能となる。
1 3点曲げ試験機
2 試験体
3 ダイアフラム面
5、12 補強材
6 角部溶接止端部
7 小型断面モデル
8、8’ 評価角部
9 溶接金属
10 実大断面コラム

Claims (4)

  1. 試験体中央部に通しダイアフラムを配した角形鋼管に正負の交番繰り返し載荷する3点曲げ試験において、前記角形鋼管と前記通しダイアフラムの溶接接合部の変形性能を実大断面の試験体に代わって評価する方法であって、
    前記実大断面の試験体のせん断スパン比との比率が下記式(1)を満たすように、前記実大断面の試験体から、前記実大断面の対角上に位置する2つの角部を評価部分として切り出して、鋼管となるように接合した小型断面モデルの試験体を用いて、前記角形鋼管と前記通しダイアフラムの溶接接合部の変形性能を評価する、角形鋼管の変形性能の評価方法。
    0.8≦実大断面の試験体のせん断スパン比/小型断面モデルの試験体のせん断スパン比≦1.2 ・・・(1)
    せん断スパン比は、下記式(2)を用いて計算される。
    せん断スパン比=L/B ・・・(2)
    ここで、
    L:鋼管長さ(mm)
    B:鋼管断面における対角線長さ(mm)
  2. 前記小型断面モデルの試験体の載荷方法は、前記実大断面の試験体を用いた場合に角部溶接止端部に発生する相当塑性歪と同等になるように、交番繰り返し載荷の変位量を設定する、請求項1に記載の角形鋼管の変形性能の評価方法。
  3. 前記交番繰り返し載荷の変位量は、一様モデルおよび分割モデルの解析モデルを用いて導出される、載荷変位と角部溶接止端部の相当塑性歪の関係式から求められ、
    前記分割モデルは、前記角形鋼管の平板部および角部の各々の0.2%耐力を用いる、請求項2に記載の角形鋼管の変形性能の評価方法。
  4. 前記関係式は、幅厚比D/tの関数である、請求項3に記載の角形鋼管の変形性能の評価方法。
    ただし、
    D:鋼管の辺長(mm)
    t:鋼管の公称板厚(mm)
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