〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係るマイクロレンズアレイについて、図1を参照して説明する。図1の(a)は、本実施形態に係るマイクロレンズアレイ1の斜視図である。図1の(b)は、図1の(a)に示した直線A-A’に沿った断面におけるマイクロレンズアレイ1の断面図である。また、マイクロレンズアレイ1の製造方法について、図2及び図3を参照して説明する。図2の(a)は、マイクロレンズアレイ1の製造方法である製造方法S1のフローチャートである。図2の(b)は、製造方法S1に含まれる接合工程S12のフローチャートである。図3の(a)~(f)は、製造方法S1の各工程を図示した概略図である。
(マイクロレンズアレイ1の構成)
図1の(a),(b)に示すように、マイクロレンズアレイ1は、基板21とガラスシート41とにより構成されている。
請求の範囲に記載のガラス基板である基板21は、その厚さが薄い(本実施形態では、700μm)ガラス製の板状部材である。本実施形態では、基板21を構成するガラス材料として無アルカリガラスを採用している。また、基板21を平面視した場合の形状は、正方形である。
図1の(b)に示すように、基板21は、2つの主面である主面211,212と、4つの側面とにより構成されている。本願明細書において、主面とは、板状部材を構成する面のうち最も広い面積を有する面のことを意味する。主面211,212のうち、第1の主面である主面211は、z軸正方向側に位置し、第2の主面である主面212は、z軸負方向側に位置している。
なお、図1に図示した直交座標系は、(1)主面211の法線に沿う方向をz軸方向に定めており、(2)主面211の一辺に沿う方向をx軸方向に定めており、(3)主面211の上述した一辺に交わる別の一辺に沿う方向をy軸方向に定めている。また、z軸方向のうち主面212から主面211へ向かう方向をz軸正方向と定め、z軸正方向とともに右手系の直交座標系を形成するようにx軸正方向及びy軸正方向をそれぞれ定めている。
ガラスシート41は、もともとの状態(後述する突出部51~59を突出させる前の状態)、その厚さが極めて薄く(本実施形態では、30μm)、その表面が平坦なガラス製の層状部材である。なお、ガラスシート41の表面は、平滑で有ることが好ましいが、更に平滑であることが好ましい。以下において、平坦とは、その表面に巨視的な凹凸(例えば後述する突出部51~59のような凹凸など)が形成されていないことを意味し、平滑とは、その表面に微視的な凹凸(例えばその表面を研磨することによって生じる研磨痕など)が形成されていないことを意味する。
マイクロレンズアレイ1においては、ガラスシート41として、引き延ばしと呼ばれる工程(以下において、引き延ばし工程)を用いて成形されたガラスシートを採用している。引き延ばし工程は、もともとの厚さがガラスシート41よりも厚い(本実施形態では、数百μm)ガラス薄板を素材とし、そのガラス薄板を加熱しつつ引き延ばすことによって、その厚さを薄くする(本実施形態では、30μm)工程である。
本実施形態では、ガラスシート41を構成するガラス材料として、基板21と同じく無アルカリガラスを採用している。また、ガラスシート41を平面視した場合の形状は、基板21と同じく正方形である。
図1の(b)に示すように、ガラスシート41は、2つの主面である主面411,412と、4つの側面とにより構成されている。主面411,412のうち、第1の主面である主面411は、z軸負方向側に位置し、第2の主面である主面412は、z軸正方向側に位置している。また、ガラスシート41の厚さが極めて薄いため、4つの側面の高さは、極めて小さい。
以上のように、基板21とガラスシート41とは、同じガラス材料により構成されている。また、基板21とガラスシート41とは、主面211と主面411とが融着(いわゆるフュージョンボンディング:Fusion Bonding)されることによって、直接接合されている。
基板21の主面211には、9つのチャンバであるチャンバ31~39が3行3列のマトリクス状に形成されている(図3の(a)参照)。チャンバ31~39の各々は、主面211に形成された開口の形状が円形であり、且つ、主面211から主面212へ向かう方向(すなわちz軸負方向)に掘り込まれた凹部である。開口の直径及び凹部の深さは、何れも任意に定めることができる。本実施形態においては、開口の直径及び凹部の深さとして、それぞれ500μm及び1μmを採用している。
ガラスシート41のうち、チャンバ31~39の各々を封じる部分は、それぞれ、チャンバ31~39の底面から遠ざかる方向に向かって突出することによって突出部51~59を形成する(図1の(a),(b)参照)。
上述したように、ガラスシート41は、もともと1枚の層状部材であり、均一な厚さを有していた。突出部51~59のうち突出部51を用いて説明すれば、突出部51は、そのガラスシート41の一部を突出させることによって形成されている。そのため、突出部51を構成するガラスシートの厚さは、もともとのガラスシート41の厚さより薄くなっている。この厚さが薄くなる度合いは、突出部51の外縁部51bよりも突出部51の中央部51a(特許請求の範囲に記載の中央部分)の方が大きい。したがって、中央部51aの厚さtaは、外縁部51b(特許請求の範囲に記載の外縁部分)の厚さtbよりも薄い。厚さtaが厚さtbよりも薄いということは、図1の(b)に示した突出部54及び突出部57においても同じであり、当然のことながらそれ以外の突出部52,53,55,56,58,59についても同じである。
厚さtaが厚さtbよりも薄いため、突出部51~59は、いずれも凹レンズとして機能する。そこで、図1の(b)に示すように、主面211にチャンバ31が形成された基板21と、チャンバ31を封じている部分がドーム状に突出することによって構成された突出部51を含み、且つ、主面211に直接接合されたガラスシート41とは、マイクロレンズ11を構成する。また、マイクロレンズ12~19は、何れもマイクロレンズ11と同一に構成されている。
以上のように構成されたマイクロレンズアレイ1は、9つのマイクロレンズ11~19を備えている(図1の(a)参照)。マイクロレンズ11~19は、マイクロレンズアレイ1を平面視した場合に、3行3列のマトリクス状に(二次元的に)配列されている。
(マイクロレンズアレイ1の効果)
上述のように、マイクロレンズアレイ1が備えているマイクロレンズ11~19は、ガラス材料製である基板21及びガラスシート41により構成されており、凹レンズとして機能する。
ガラス材料製であるマイクロレンズ11~19は、樹脂材料製のマイクロレンズと比較して、光学特性(例えば透過率)が優れているという利点を有する。
また、マイクロレンズ11~19は、樹脂材料製のマイクロレンズと比較して、焦点距離などの光学特性が外部環境の温度変化の影響を受けにくいという利点を有する。これは、ガラス材料の熱膨張率が樹脂材料の熱膨張率よりも小さいためである。熱膨張率が小さいということは、外部環境の温度が大きく変化した場合であってもその形状変化が小さいことを意味する。したがって、マイクロレンズ11~19は、樹脂材料製のマイクロレンズと比較して、焦点距離などの光学特性が外部環境の温度変化の影響を受けにくい。
また、マイクロレンズ11~19は、以下に示す副次的な効果を奏することができる。
ガラス材料は、蛍光顕微鏡観察で励起光として用いられる波長の光(例えば近紫外光)を照射された場合であっても、蛍光を発しにくい。したがって、マイクロレンズ11~19は、蛍光顕微鏡観察に好適に用いることができる。
それに対して樹脂材料は、蛍光顕微鏡観察で励起光として用いられる波長の光を照射された場合に、蛍光を発しやすい。したがって、樹脂材料製のマイクロレンズを蛍光顕微鏡観察に用いた場合には、マイクロレンズ自身が発する蛍光がノイズとなり、サンプルが発する蛍光を十分に観察できない虞がある。これは、サンプルが発する蛍光が、マイクロレンズ自身が発する蛍光に埋もれてしまうためである。
また、ガラス材料は、樹脂材料と比較して、化学薬品に対する耐性が高い(換言すれば化学薬品に対する反応性が低い)。ガラス材料及び樹脂材料に対する攻撃性を有する化学薬品としては、酸性の化学薬品や、アルカリ性の化学薬品や、有機溶媒を含む化学薬品などが想定される。ガラス材料は、これらの化学薬品の何れに対しても、樹脂材料よりも高い耐性を有する。したがって、マイクロレンズ11~19は、化学薬品に対して直接接するような用途にも好適に用いることができる。
また、ガラス材料は、樹脂材料と比較して、高い温度に対する耐性が高い。これは、ガラス材料の軟化点が樹脂材料の軟化点よりも明らかに高いためである。したがって、マイクロレンズ11~19は、高温下で使用されるような用途にも好適に用いることができる。
また、マイクロレンズアレイ1を構成するマイクロレンズ11~19の各々において、キャビティ61~69の圧力は、マイクロレンズ11~19の外部の圧力(すなわち大気圧)を下回る。したがって、キャビティ61~69は、大気圧と比較して低気圧状態になっている。この構成によれば、マイクロレンズ11~19の各々は、その構造上、物理補強されている。したがって、マイクロレンズ11~19の強度は、キャビティ61~69が大気圧と等しい場合と比較して向上する。
また、キャビティ61~69が低気圧状態になっていることにより、その光学特性及び安定性がより向上する。この効果は、真空レンズ効果として知られている。
また、マイクロレンズ11~19の厚さ(基板21の主面212から突出部51~59の中央部51a~59aまでの距離)は、従来のカバーガラスの厚さと比較して大幅に薄い。例えば、従来のカバーガラスの厚さが170μmである場合、マイクロレンズ11~19の厚さは、従来のカバーガラスの厚さのわずか12.5%に相当する。
これにより、マイクロレンズ11~19は、レンズとしての作動距離を大幅に上げることができる。したがって、マイクロレンズ11~19は、高倍率且つ高NAであるレンズを用いた生物試料の観測に好適に利用可能である。換言すれば、マイクロレンズ11~19は、ドーム状容器や観測チップなどとして好適に利用可能である。
また、硬く脆い通常のガラス部材と異なり、ガラスシート41は、弾性を有する。換言すれば、ガラスシート41は、ガラス材料製でありながら可逆的に変形可能である。したがって、マイクロレンズ11~19は、圧力を印加することによってその形状を任意に変形可能である。換言すれば、マイクロレンズ11~19は、その形状を任意に変形することによってレンズの焦点をリアルタイム且つ高速に制御することができる。したがって、マイクロレンズ11~19は、高速に焦点を制御可能な高速動的レンズとしても利用可能である。
また、マイクロレンズ11~19において、基板21と、ガラスシート41とは、同じガラス材料により構成されていることが好ましい。
この構成によれば、基板21と、ガラスシート41とが異なるガラス材料により構成されている場合と比較して、基板21とガラスシート41との接合をより強固にすることができる。
また、この構成によれば、基板21の熱膨張率とガラスシート41の熱膨張率との間に差が生じない。したがって、外部環境の温度が大幅に変化した場合であっても、突出部51~19に歪みが生じることを抑制することができる。
また、マイクロレンズ11~19において、突出部51~19の厚さtaは、厚さtbよりも薄いことが好ましい。
この構成によれば、突出部51~19を含むマイクロレンズ11~19は、凹レンズとして機能する。したがって、ガラス材料製であり、且つ、凹レンズとして機能するマイクロレンズを提供することができる。
また、マイクロレンズ11~19において、ガラスシート41を構成するガラス材料は、無アルカリガラスであることが好ましい。
無アルカリガラスは、加工性が良好であるためガラスシートを容易に作製することができる。また、無アルカリガラス製のガラスシートを用いた場合、その良好な加工性に起因して、突出部を容易に作製することができる。したがって、上記の構成によれば、容易にガラス材料製のマイクロレンズを作製することができる。
また、マイクロレンズ11~19において、ガラスシート41を構成するガラス材料は、石英ガラスであってもよい。
石英ガラスは、様々なガラス材料の中でも優れた光学特性を有する。たとえば、石英ガラスは、他のガラス材料よりも波長が短い光(例えば近紫外線)を透過することができるため、そのような光を用いた顕微鏡観察に本マイクロレンズを用いることができる。また、石英ガラスは、他のガラス材料よりも膨張率が小さいため、その光学特性が外部環境の温度変化の影響をより受けにくい。
なお、マイクロレンズ11~19において、ガラスシート41を構成するガラス材料は、無アルカリガラス及び石英ガラスに限定されるものではなく、他の如何なるガラス材料であってもよい。その他のガラス材料としては、例えばソーダライムガラスが挙げられる。
なお、ここでは、ガラスシート41を構成するガラス材料について説明したが、基板21を構成するガラス材料についても同様である。
また、マイクロレンズ11~19において、基板21とガラスシート41とは、溶着していることが好ましい。
基板21とガラスシート41とが溶着していることによって、基板21とガラスシート41との接合をより一層強固にすることができる。
本実施形態において、マイクロレンズアレイ1は、平面視した場合に、マイクロレンズ11~19をマトリクス状に(二次元的に)配列することにより構成されている。ただし、マイクロレンズ11~19の配列は、マトリクス状に限らず、任意の形状を採用することができる。例えば、マイクロレンズ11~19の配列は、直線状(一次元的)であってもよい。
マイクロレンズ11~19の配列は、基板21に形成するチャンバ31~39の配列パターンによって定められる。後述するように、チャンバ31~39は、半導体デバイスを作製するための微細加工技術(例えばフォトリソグラフィーなど)を適用して容易に形成することができるため、チャンバ31~39の配列パターンは、任意に設計可能である。
本実施形態において、ガラスシート41は、厚さが当該ガラスシートよりも厚いガラス薄板を加熱しつつ引き延ばす工程(引き延ばし工程)によって、その厚さが薄くなるように成形されたガラスシートであることが好ましい。
引き延ばし工程を用いることによって、ガラス薄板の表面に微視的な傷が存在した場合であっても、その傷は、ガラス薄板を加熱しつつ引き延ばすことによって均等にならされる。すなわち、引き延ばしという工程を用いることによって、表面が平滑なガラスシート41を得ることができる。
なお、ガラス薄板の表面に存在しえる傷としては、研磨痕が挙げられる。研磨痕を含む表面の表面粗さは、研磨の方法に依存するが、典型的な鏡面仕上げを施した場合において1nm~20nm程度である。一方、引き延ばしと呼ばれる工程を用いて形成されたガラスシート41の表面粗さは、上述した研磨痕を含む表面の表面粗さを下回る(本実施形態では、0.5nm程度)。したがって、ガラスシート41として引き延ばしと呼ばれる工程を用いて形成されたガラスシートを採用したマイクロレンズアレイ1は、ガラスシートとして研磨ガラスシートを採用した場合と比較して、超平滑な表面特性を有し、優れた光学特性及び高い機械強度を有する。
なお、平坦なガラスシート41の一部を突出させることによって突出部51~59を形成する工程は、引き延ばし工程と同様の効果を奏する。すなわち、もともと平滑な表面を有するガラスシート41を突出させることによって形成された突出部51~59の表面は、突出していないガラスシート41の表面と比較して、さらに平滑(超平滑)である。
(マイクロレンズアレイ1のバリエーション)
本実施形態において、チャンバ31~39の開口の形状は、円形であるものとして説明した。すなわち、マイクロレンズ11~19を平面視した場合の形状は、円形であるものとして説明した。しかし、チャンバ31~39の開口の形状、すなわち、マイクロレンズ11~19を平面視した場合の形状は、任意に選択することができる。例えば、その形状は、楕円であってもよいし、四角形の4つの角を丸めた角丸四角形であってもよい。
また、その形状として、例えば縦横比が大きな長方形を採用することによって、突出部51~59の表面が球面の一部のような形状ではなく、円柱の側面の一部のような形状であるマイクロレンズ11~19を設計することができる。このようなマイクロレンズ11~19は、一種のシリンドリカルレンズのように機能する。
本実施形態において、突出部51~59は、それぞれ、チャンバ31~39の底面から遠ざかる方向(z軸正方向)に向かって突出するように構成されている。しかし、突出部51~59は、それぞれ、チャンバ31~39の底面に近づく方向(z軸負方向)に向かって突出するように構成されていてもよい。
また、本実施形態において、チャンバ31~39の各々と、突出部51~59の各々とにより形成された空間であるキャビティ61~69(例えばマイクロレンズ11の場合であればキャビティ61)には、空気が充填されている(図1の(b)参照)。しかし、キャビティ61~69には、それぞれ、空気の屈折率より大きな屈折率を有する透光性材料が充填されていてもよい。
図1に示すマイクロレンズ11~19のキャビティ61~69に、このような透光性材料を充填した場合、そのマイクロレンズ11~19は、それぞれ、凸レンズとして機能する。
また、上述したように、突出部51~59は、それぞれ、チャンバ31~39の底面に近づく方向(z軸負方向)に向かって突出するように構成されたマイクロレンズ11~19のキャビティ61~69に、このような透光性材料を充填した場合、そのマイクロレンズ11~19は、それぞれ、凹レンズとして機能する。
このように、キャビティ61~69に上述した透光性材料を充填することによって、凹レンズとして機能するマイクロレンズ11~19と、凸レンズとして機能するマイクロレンズ11~19とを任意に設計することができる。
また、キャビティ61~69に上述した透光性材料を充填することによって、焦点距離などの光学パラメータを設計するときの自由度を高めることができる。
(マイクロレンズアレイ1の別の用途)
マイクロレンズアレイ1は、マイクロレンズアレイとして利用することに加えて、以下のように、別の透光性を有する材料に対して凹凸を転写する転写モールドの一部としても利用可能である。
マイクロレンズアレイ1は、上述したようにガラス材料製である。したがって、マイクロレンズアレイ1は、自身を構成するガラス材料よりも融点が低い材料に対して、突出部51~59の表面形状に沿った凹凸を転写することができる。換言すれば、マイクロレンズアレイ1は、突出部51~59の表面形状に沿った凹凸を転写することによって、転写レンズを製造するための転写モールドとして利用可能である。
マイクロレンズアレイ1を用いて凹凸を転写するのに好適な材料としては、ポリメタクリル酸メチル(Poly-Methyl MethAcrylate、PMMA)や、金属塩含有PMMAや、エポキシ樹脂などの透光性を有する樹脂材料が挙げられる。なお、これらの透光性を有する樹脂材料は、透光性を有する樹脂材料の一例であり、これらに限定されるものではない。なお、凹凸を転写される材料は、透光性を有するとともに、空気の屈折率より大きな屈折率を有することが好ましい。この構成によれば、マイクロレンズアレイ1を用いて製造した転写レンズの焦点距離を設計する場合の自由度が高めることができる。
例えば、マイクロレンズアレイ1を用いて凹レンズとして機能する転写レンズを製造したい場合、図1に示したマイクロレンズアレイ1と、表面が凹凸を含まず、且つ、表面が平滑なガラス板とを組み合わせることによって転写モールドを構成する。図1の(b)に示した状態のマイクロレンズアレイ1の上方に、ガラスシート41の主面412とガラス板の平滑な表面とが対向し、且つ、平行になるように、ガラス板を固定する。すなわち、ガラス板の平滑な表面と、突出部51,54,57の中央部51a,54a,57aの各々との間隔が一定になるように、ガラス板を固定する。
この状態において、マイクロレンズアレイ1とガラス板との間に生じた空間に、溶融した状態の透光性を有する樹脂材料を充填し、この樹脂材料を徐冷することによって、突出部51~59の表面形状に沿った凹凸を転写した転写レンズが得られる。この転写レンズは、凹レンズとして機能する。
なお、上述したように、マイクロレンズアレイ1において、突出部51~59は、それぞれ、チャンバ31~39の底面に近づく方向(z軸負方向)に向かって突出するように構成されていてもよい。このようにチャンバ31~39側へ凹んだ突出部51~59は、マイクロレンズアレイ1の製造過程に含まれる圧力調整工程S13(図2参照)において、減圧を加圧にすることにより実現される。チャンバ31~39の底面に近づく方向に向かって突出部51~59が突出したマイクロレンズアレイ1を用いた場合、凸レンズとして機能する転写レンズを得ることができる。
また、上述した例では、マイクロレンズアレイ1と表面が凹凸を含まないガラス板とを組み合わせることによって転写モールドを構成した。しかし、ガラス部材の代わりに別のマイクロレンズアレイ1をマイクロレンズアレイ1に組み合わせることによって転写モールドを構成することもできる。すなわち、第1のマイクロレンズアレイ1と、第1のマイクロレンズアレイ1とは異なる第2のマイクロレンズアレイ1とを組み合わせることによって転写モールドを構成することもできる。
マイクロレンズアレイ1を用いた転写モールドは、例えば金属により構成された従来の転写モールドと比較して、安価に製造することができる。したがって、ガラス材料よりも融点が低い材料(例えば上述した樹脂材料)に対して、マイクロレンズアレイ1を用いた転写モールドを用いることによって、ガラス材料よりも融点が低い材料(例えば樹脂材料)製のマイクロレンズあるいはマイクロレンズアレイの製造コストを抑制することができる。
また、上述したように、ガラスシート41として、引き延ばし工程によって成形されたガラスシートを採用した場合には、表面が平滑であり、表面が転写された研磨痕をまったく含まない、超平滑な表面特性を有するマイクロレンズあるいはマイクロレンズアレイを転写レンズとして得ることができる。
(マイクロレンズアレイ1の製造方法S1)
マイクロレンズアレイ1の製造方法S1について、図2及び図3を参照して説明する。
図2の(a)に示すように、製造方法S1は、チャンバ形成工程S11と、接合工程S12と、圧力調整工程S13と、冷却工程S14とを含んでいる。
マイクロレンズアレイ1を製造するために、製造方法S1では、基板21と、ガラスシート41とを用いる。上述したように、基板21及びガラスシート41は、何れも無アルカリガラス製である。また、基板21の主面211,212は、何れも平坦である。
チャンバ形成工程S11は、基板21の主面211に9つのチャンバ31~39を形成する工程である。図3の(a)は、チャンバ31~39が形成された基板21の斜視図である。この工程では、半導体デバイスを作製するための微細加工技術(例えばフォトリソグラフィーなど)を適用可能である。チャンバ31~39を形成するためには、ドライエッチング及びウェットエッチングの何れを用いてもよい。本実施形態では、ドライエッチングを用いるものとする。
接合工程S12は、基板21の主面211と、ガラスシート41の主面411とを直接接合する工程である。この工程により、チャンバ31~39の各々の開口は、ガラスシート41によって封じられる。
より詳しくは、接合工程S12は、図2の(b)に示すように、接合工程S12は、洗浄工程S121と、密着工程S122と、溶着工程S123とを含んでいる。
洗浄工程S121は、基板21の表面とガラスシート41の表面とを洗浄する工程である。本実施形態では、図3の(b)に示すように、硫酸過水を用いて基板21とガラスシート41とを洗浄する。硫酸過水は、濃硫酸と過酸化水素水との混合物である。
なお、上述したように、ガラスシート41は、厚さがガラスシート41よりも厚いガラス薄板を加熱しつつ引き延ばすことによって、その厚さが薄くなるように成形されたガラスシート、すなわち、引き延ばし工程を用いて成形されたガラスシートであることが好ましい。
密着工程S122は、洗浄工程S121において洗浄したガラスシート41を、基板21の主面211の上に載置することによって、ガラスシート41の主面411と基板21の主面211とを密着させる工程である。この工程により、チャンバ31~39の各々の開口は、ガラスシート41によって封じられる(図3の(c)参照)。
溶着工程S123は、密着した状態の基板21とガラスシート41とを加熱することによって、基板21とガラスシート41とを溶着する工程である。本実施形態では、図3の(d)に示すように、密着した状態の基板21とガラスシート41とを加熱炉62の中にセットし、加熱することによって基板21とガラスシート41とを溶着する。接合工程S12において採用するガラス材料同士の接合手法は、フュージョンボンディング(FusionBonding)として知られている。
基板21とガラスシート41とを接合する接合手法としてフュージョンボンディングを採用することによって、基板21とガラスシート41との接合をより一層強固にすることができる。
本実施形態では、基板21とガラスシート41とを750℃まで加熱することによって基板21とガラスシート41とを溶着した。この加熱温度は、ガラスシート41の軟化点を上回る温度であればよく、その範囲内で適宜設定すればよい。また、加熱時間も、基板21とガラスシート41との溶着の強度が十分になるように適宜設定すればよい。
なお、本実施形態において用いる加熱炉62は、炉の内部が密閉されており、炉内の雰囲気(基板21及びガラスシート41を取り巻く雰囲気)のガス種や、炉内の雰囲気の圧力を調整(減圧及び加圧)可能なように構成されている。
圧力調整工程S13は、ガラスシート41の軟化点を上回る温度に基板21及びガラスシート41を加熱した状態において、チャンバ31~39を封じているガラスシート41の一部分がドーム状に突出するように、炉62の内部の雰囲気の圧力を調整する工程である。軟化点を上回る温度に加熱されることによってガラスシート41が軟化しており、その状態で炉62内の雰囲気の圧力を減圧することによって、チャンバ31~39を封じているガラスシート41の一部分が、チャンバ31~39の底面から遠ざかる方向に向かって突出し、突出部51~59が形成される(図3の(e)参照)。
なお、チャンバ31~39を封じているガラスシート41の一部分が、チャンバ31~39の底面に近づく方向に向かって突出した突出部51~59を形成したい場合には、炉62内の雰囲気の圧力を加圧すればよい。
以上のように、突出部51~59が突出する方向、及び、その突出の程度は、炉62の加熱温度と、炉62の雰囲気の圧力とを用いて制御することができる。
冷却工程S14は、炉62内の雰囲気の圧力を調整した状態のまま(図3の(f)の場合には、圧力を減圧した状態のまま)、ガラスシート41の軟化点を下回る温度まで基板21及びガラスシート41(換言すれば炉62内の雰囲気の温度)を徐冷する工程である。ガラスシート41の軟化点を下回る温度まで基板21及びガラスシート41を徐冷することにより、圧力調整工程S13のあとに基板21及びガラスシート41を冷却する場合に、突出部51~59に生じ得る歪みを抑制することができる。
なお、炉62内の温度がガラスシート41の軟化点を下回ったあとであれば、炉内の温度を低下させる速度(温度変化の傾き)を早くしてもよい。
〔変形例〕
(マイクロレンズアレイ1Aの構成)
マイクロレンズアレイ1の変形例であるマイクロレンズアレイ1Aについて、図4を参照して説明する。図4の(a)は、マイクロレンズアレイ1Aマイクロレンズ11Aの拡大断面図である。図4の(b)は、マイクロレンズ11の平面図である。
マイクロレンズアレイ1Aは、マイクロレンズアレイ1が備えているマイクロレンズ11~19のキャビティ61~69に、空気の屈折率より大きな屈折率を有する透光性材料からなる充填材を充填することによって得られる。そのため、マイクロレンズアレイ1Aは、マイクロレンズアレイ1の基本構造をそのまま有し、充填材を充填するための構成のみがマイクロレンズアレイ1と異なる。したがって、本実施形態では、マイクロレンズアレイ1Aの構成のうちマイクロレンズアレイ1と異なる構成についてのみ説明し、マイクロレンズアレイ1と同様の構成については、対応関係を示すのみに留める。
マイクロレンズアレイ1Aは、マイクロレンズアレイ1と同様に、9つのマイクロレンズを備えている。本実施形態では、その9つのマイクロレンズのうちマイクロレンズ11Aを用いて充填材を充填するための構成を説明する。その他の8つのマイクロレンズは、マイクロレンズ11Aと同じ構成を有する。
また、マイクロレンズ11Aを含む9つのマイクロレンズは、マイクロレンズ11~19と同様に、3行3列のマトリクス状に配列されている。
図4の(a)に示すマイクロレンズ11Aの断面図は、図1の(b)に示すマイクロレンズ11の断面図に対応する。
マイクロレンズ11Aは、基板21Aと、ガラスシート41Aとを備えている。基板21Aの主面211Aには、チャンバ31Aが形成されている。ガラスシート41Aは、チャンバ31Aを封じるように、主面211Aに対して直接接合されている。ガラスシート41Aは、チャンバ31Aを封じている部分がドーム状に突出することによって構成された突出部51Aを含んでいる。突出部51Aは、チャンバ31Aの底面から遠ざかる方向(z軸正方向)に向かって突出している。チャンバ31Aと突出部51Aとは、マイクロレンズ11Aに含まれる空間であるキャビティ61Aを構成する。
このように構成された、マイクロレンズ11Aと図1に示したマイクロレンズ11とを比較した場合、マイクロレンズ11Aの基板21A、チャンバ31A、ガラスシート41A、突出部51A、及びキャビティ61Aの各々は、それぞれ、マイクロレンズ11の基板21、チャンバ31、ガラスシート41、突出部51、及びキャビティ61の各々に対応する部材である。
ただし、チャンバ31Aは、図4の(b)に示すように、その開口の形状がチャンバ31の円形から変更されている。具体的には、チャンバ31Aは、メインチャンバ311Aと、充填溝312Aとからなる。メインチャンバ311Aは、チャンバ31と同様に、その開口の形状が円形である凹部である。充填溝312Aは、メインチャンバ311Aの中心からy軸負方向側に向かって掘り込まれた溝である。したがって、チャンバ31Aの開口は、鍵穴のような形状を有する。
また、ガラスシート41Aには、平面視した場合に、充填溝312Aと重畳する領域に、貫通孔413Aが形成されている。貫通孔413Aは、ガラスシート41Aの主面411Aから主面412Aまで貫通している。したがって、ガラスシート41Aに貫通孔413Aが設けられていることによって、チャンバ31Aと突出部51Aとにより形成された空間であるキャビティ61Aと、キャビティ61Aの外部とが連続した空間となる。したがって、図4の(a)に示すように、キャビティ61Aの内部に充填材81を充填することができる。
充填材81を構成する透光性材料は、マイクロレンズ11Aを用いて観察するときに用いる光に対して、透光性を有し、より好ましくは、透明である。また、この透光性材料は、空気の屈折率より大きな屈折率を有し、より好ましくは、基板21及びガラスシート41を構成するガラス材料の屈折率に近い屈折率を有する事が好ましい。
このように、キャビティ61Aに充填材81が充填されていることによって、キャビティ61Aを含むマイクロレンズ11Aは、凸レンズとして機能する。したがって、マイクロレンズ11Aは、ガラス材料製であり、且つ、凸レンズとして機能するマイクロレンズを提供することができる。
空気の屈折率より大きな屈折率を有する透光性材料としては、ポリメタクリル酸メチル(Poly-Methyl MethAcrylate、PMMA)や、金属塩含有PMMAや、エポキシ樹脂などの透光性を有する樹脂材料が挙げられる。なお、これらの透光性を有する樹脂材料は、空気の屈折率より大きな屈折率を有する透光性材料の一例であり、これらに限定されるものではない。
また、この透光性材料は、キャビティ61Aに充填するときには流動性を有する液状であり、その後、硬化することによって固体化又はゲル化する材料であることが好ましい。
硬化前の状態において流動性を有することにより、貫通孔413Aからキャビティ61Aに、透光性材料を容易に充填することができる。また、その後、固体化又はゲル化することによって、充填材81Aは、キャビティ61Aの内部に留まり、貫通孔413Aから流出することを防止できる。
なお、透光性材料が固体化又はゲル化せず液状のままである場合には、透光性材料をキャビティ61Aに充填した後に、貫通孔413Aを樹脂製の接着剤を用いて封止することが好ましい。この構成によれば、固体化又はゲル化しない透光性材料を充填材81を構成する材料として採用することができる。
(マイクロレンズ11Aのバリエーション)
本実施形態では、マイクロレンズ11Aがチャンバ31Aの底面から遠ざかる方向(z軸正方向)に向かって突出した突出部51Aを備え、そのキャビティ61Aに充填材81Aを充填したマイクロレンズ11Aについて説明した。しかし、マイクロレンズ11Aは、チャンバ31Aの底面に近づく方向(z軸負方向)に向かって突出した突出部51Aを採用していてもよい。
チャンバ31Aの底面に近づく方向に向かって突出するように構成されたマイクロレンズ11Aのキャビティ61Aに、このような透光性材料を充填した場合、そのマイクロレンズ11Aは、それぞれ、凹レンズとして機能する。
以上のように、キャビティ61Aに充填材81Aを充填することによって、凹レンズとして機能するマイクロレンズ11A、及び、凸レンズとして機能するマイクロレンズ11Aのいずれであっても任意に設計することができる。
また、キャビティ61Aに充填材81Aを充填することによって、キャビティ61Aを含めたマイクロレンズ11A全体がレンズとして機能する。したがって、充填材81Aを含むマイクロレンズ11Aは、焦点距離などの光学パラメータを設計するときの自由度を高めることができる。
(マイクロレンズアレイ1Aの製造方法S1A)
マイクロレンズアレイ1Aの製造方法である製造方法S1Aについて、図5を参照して説明する。図5は、製造方法S1Aのフローチャートである。
図5に示すように、製造方法S1Aは、チャンバ形成工程S11Aと、接合工程S12Aと、圧力調整工程S13Aと、冷却工程S14Aとを含んでいる。
製造方法S1Aのチャンバ形成工程S11A、接合工程S12A、圧力調整工程S13A、及び冷却工程S14Aの各々は、それぞれ、図2の(a)に示した製造方法S1のチャンバ形成工程S11、接合工程S12、圧力調整工程S13、及び冷却工程S14の各々に対応する。
なお、チャンバ形成工程S11Aは、チャンバ形成工程S11と比較して、開口が円形ではなく鍵穴のような形状を有するチャンバ31Aを形成する点が異なる。
そのうえで、製造方法S1Aは、貫通孔形成工程S15Aと、充填工程S16Aとを更に含んでいる。
貫通孔形成工程S15Aは、ガラスシート41Aのうち充填溝312Aと重畳する領域に貫通孔413Aが形成する工程である。この工程においても、半導体デバイスを作製するための微細加工技術(例えばフォトリソグラフィーなど)を適用可能である。
充填工程S16Aは、空気の屈折率より大きな屈折率を有する透光性材料をキャビティ61Aの内部に充填することによって充填材81を得る工程である。透光性材料が硬化又はゲル化する材料である場合、充填工程S16Aは、透光性材料を硬化又はゲル化させるための工程(加熱工程や紫外線照射工程など)を含む。一方、透光性材料が硬化又はゲル化しない材料である場合、充填工程S16Aは、貫通孔413Aを例えば樹脂製の接着剤を用いて封止する工程を含む。
製造方法S1Aによれば、キャビティ61Aに充填材81を充填したマイクロレンズ11を得ることができる。
〔実施例〕
第1の実施例に係るマイクロレンズ11について、図6及び図7を参照して説明する。以下におけるマイクロレンズ11は、特に断りがない限り、本実施例のマイクロレンズ11のことを指す。
図6の(a)は、マイクロレンズ11を平面視した場合の顕微鏡像である。図6の(b)は、マイクロレンズ11において突出部51を破断させた状態の電子顕微鏡像である。なお、図6の(a)及び(b)の各々の右下に図示した白い帯は、スケールバーである。図6の(a)及び(b)において、スケールバーの全長(横方向の長さ)は、150μmに対応する。
図7の(a)及び(c)は、マイクロレンズ11を用いて定規を観察するための構成の概略図である。(b)は、(a)に示した状態において観察した定規の画像である。(d)は、(c)に示した状態において観察した定規の画像である。なお、図7の(b)の右下に示した黒い帯は、スケールバーである。図7の(b)において、スケールバーの全長(横方向の長さ)は、100μmに対応する。
本実施例では、以下のようにしてマイクロレンズ11を製造した。
基板21として、厚さが0.7mmであるスライドガラスを採用した。このスライドガラスは、無アルカリガラス製である。
チャンバ31は、その開口の直径が500μmであり、その深さが1μmとなるように形成した。
ガラスシート41として、厚さが30μmであるガラスシートを採用した。このガラスシートは、無アルカリガラス製である。また、このガラスシート41の軟化点は、およそ750℃である。
溶着工程S123では、基板21及びガラスシート41をセットした炉62内の温度を、25℃から750℃まで1.5時間かけて上昇させ、その後、750℃を5時間に亘って維持した。
圧力調整工程S13では、炉62内の温度を750℃に保ったまま、炉62内の圧力を、ロータリーポンプを用いて減圧した。このときの炉62内の圧力は、およそ0Paだった。この750℃、0Paの状態を2時間に亘って維持した。
冷却工程S14では、炉62内の温度を750℃から600℃まで30分かけて低下させた。その後、炉62の出力を切り、炉62内を自然冷却した。
図6の(a)に示した顕微鏡像によれば、マイクロレンズ11は、平面視した場合の形状が略円形である突出部51を有することが分かった。図6の(a)において、中央部51aは階調が低く(色が薄く)、外縁部51bは階調が高く(色が濃く)表示されている。この階調の差は、突出部51における中央部51aと外縁部51bとの厚さの差を反映していると考えられる。
次に、マイクロレンズ11の突出部51を破断させた状態で、電子顕微鏡像を撮影した。図6の(b)に示した電子顕微鏡像によれば、破断させた突出部51の内部に空間であるキャビティ61が存在することが分かった。また、中央部51aの厚さtaが14μmであり、外縁部51bの厚さtbが30μmであることが分かった。
図7の(a)及び(c)に示すように、定規63の上にマイクロレンズ11を配置した状態で、マイクロレンズ11の上方から光学顕微鏡を用いて撮影した顕微鏡像が図7の(b)及び(d)である。図7の(b)及び(d)に図示した破線は、突出部51の輪郭を示す。
図7の(a)は、光学顕微鏡の焦点を突出部51の外側に位置する定規63に合焦させた状態を示している。図7の(c)は、光学顕微鏡の焦点を突出部51の中央に位置する定規63に合焦させた状態を示している。
図7の(b)に示した顕微鏡像によれば、突出部51の外側に位置する定規63の目盛が視認できるのに対して、突出部51の内側に位置する定規63の目盛は、ぼやけてしまい視認できない。
一方、図7の(d)に示した顕微鏡像によれば、突出部51の中心近傍に位置する定規63の目盛が視認できるのに対して、突出部51の外側に位置する定規63の目盛は、ぼやけてしまい視認できない。また、突出部51の中心近傍に位置する定規63の目盛は、部7の(b)に示した突出部51の外側に位置する定規63の目盛と比較して縮小されていることが分かった。すなわち、マイクロレンズ11が凹レンズとして機能していることが分かった。
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係るマイクロレンズアレイについて、図8を参照して説明する。図8は、本実施形態に係るマイクロレンズアレイ101の四面図である。すなわち、図8において、(1)左側中央に示した図は、マイクロレンズアレイ101の正面図であり、(2)左側上に示した図は、マイクロレンズアレイ101の上面図であり、(3)左側下に示した図は、マイクロレンズアレイ101の下面図であり、右側に示した図は、マイクロレンズアレイ101の右側面図である。
図8に示すように、マイクロレンズアレイ101は、基板121と、ガラスシート141と、ガラスシート142とを備えている。基板121は、第1主面及び第2種面である主面1211,1212を有し、ガラスシート141は、第1主面及び第2種面である主面1411,1412を有し、ガラスシート191は、第1主面及び第2種面である主面1911,1912を有する。
ガラスシート141は、その主面1411が主面1211と溶着されることによって、基板121と直接接合されている。同様に、ガラスシート191は、その主面1911が主面1212と溶着されることによって、基板121と直接接合されている。
基板121は、図4に示したマイクロレンズアレイ1Aの基板21Aと同様の機能を有し、ガラスシート141は、マイクロレンズアレイ1Aのガラスシート41Aと同様の機能を有する。また、マイクロレンズアレイ1は、直線状(一次元的)に配置された6つのマイクロレンズ111A~116Aを備えている。マイクロレンズ111A~116Aは、何れも、図4に示したマイクロレンズ111Aと同様に構成されている。したがって、本実施形態では、マイクロレンズ111A~116Aに関する説明を省略する。
マイクロレンズアレイ101の基板121は、主面1212にマイクロ流路192が形成されている点が基板21と異なる。マイクロ流路192は、マイクロレンズアレイ1を平面視した場合に、マイクロレンズ111A~116Aの各々の中心を結んだ直線に沿うように、主面1212から主面1211向かう方向に掘り込まれた微細な溝部である。
マイクロ流路192の幅は、特に限定されるものではない。本実施形態では、マイクロ流路192の幅を100μmとしている。また、マイクロ流路192の深さもまた、特に限定されるものではない。本実施形態では、マイクロ流路192の深さを50μmとしている。
ガラスシート191には、平面視した場合に、マイクロ流路192と重畳する領域に貫通孔193,194が形成されている。貫通孔193,194の各々は、マイクロ流路192と重畳する領域の両端部にそれぞれ形成されている。
貫通孔193,194は、ガラスシート191の主面1911から主面1912まで貫通している。したがって、ガラスシート191に貫通孔193,194が設けられていることによって、マイクロ流路192と、マイクロ流路192の外部とが連続した空間となる。したがって、貫通孔193から微量のサンプルを注入し、貫通孔194からサンプルを排出することによって、マイクロ流路192に沿ってサンプルを流すことができる。
以上のように、マイクロレンズアレイ101は、基板121の主面1211側に設けられたマイクロレンズ111A~116Aと、基板121の主面1212側に設けられたマイクロ流路192とを備えている。
マイクロレンズ111A~116Aの各々は、マイクロ流路192の異なる地点を観察可能なように配置されている。そのうえで、マイクロレンズ111Aを例にすれば、マイクロレンズ111Aは、チャンバ131Aの底面から遠ざかる方向に突出した突出部151Aを備えている。チャンバ131Aと突出部151Aとにより形成された空間であるキャビティ161Aには、空気の屈折率より大きな屈折率を有する透光性材料からなる充填材181Aが充填されている。したがって、マイクロレンズ111Aは、凸レンズとして機能する。マイクロレンズ112A~116Aの各々についても、マイクロレンズ111Aと同様である。
したがって、マイクロレンズアレイ101は、マイクロ流路192の異なる地点におけるサンプルの様子を、凸レンズとして機能するマイクロレンズ111A~116Aを用いて観察することができる。
なお、マイクロレンズアレイ101において、マイクロ流路192のパターンや、マイクロレンズ111A~116Aの各々が設けられる位置などは、特に限定されず、任意に設計することができる。
このようにマイクロ流路192が形成された基板は、マイクロ流体チップと呼ばれ、生化学プロセスを集積化するマイクロナノ化学と呼ばれる分野で広く利用されている。マイクロレンズアレイ101は、このようなマイクロ流体チップに、凸レンズとして機能するマイクロレンズ111A~116Aを集積化したものとも表現できる。
マイクロレンズアレイ101は、その全てがガラス材料により構成されている。したがって、マイクロレンズアレイ101は、図1に示したマイクロレンズアレイ1、及び、図4に示したマイクロレンズアレイ1Aのマイクロレンズ11Aと同様の効果を奏する。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
〔まとめ〕
本発明の態様1に係るマイクロレンズは、一対の主面のうち一方の主面である第1主面に1又は複数の凹部が形成されたガラス基板と、前記1又は複数の凹部を封じるように前記第1主面に対して直接接合されたガラスシートであって、前記1又は複数の凹部を封じている部分がドーム状に突出することによって構成された突出部を含むガラスシートと、を備えている。
上記の構成によれば、ガラス基板及びガラスシートは、何れも、読んで字のごとくガラス材料製である。このように構成されたマイクロレンズにおいて、ガラス基板に形成された1又は複数の凹部を封じている突出部は、レンズとして機能する。したがって、ガラス材料製のマイクロレンズを提供することができる。
ガラス材料製のマイクロレンズは、樹脂材料製のマイクロレンズと比較して、光学特性(例えば透過率)が優れているという利点を有する。
また、ガラス材料製のマイクロレンズは、樹脂材料製のマイクロレンズと比較して、焦点距離などの光学特性が外部環境の温度変化の影響を受けにくいという利点を有する。これは、ガラス材料の熱膨張率が樹脂材料の熱膨張率よりも小さいためである。熱膨張率が小さいということは、外部環境の温度が大きく変化した場合であってもその形状変化が小さいことを意味する。したがって、ガラス材料製のマイクロレンズは、樹脂材料製のマイクロレンズと比較して、焦点距離などの光学特性が外部環境の温度変化の影響を受けにくい。
なお、第1主面に形成する1又は複数の凹部の形状は、任意に設定可能である。したがって、本マイクロレンズは、平面視した場合の形状を任意に設定可能なマイクロレンズ、すなわち、任意形状マイクロレンズである。
(副次的な効果)
また、上記のように構成されたマイクロレンズは、以下に示す副次的な効果を奏することができる。
ガラス材料は、蛍光顕微鏡観察で励起光として用いられる波長の光(例えば近紫外光)を照射された場合であっても、蛍光を発しにくい。したがって、本マイクロレンズは、蛍光顕微鏡観察に好適に用いることができる。
それに対して樹脂材料は、蛍光顕微鏡観察で励起光として用いられる波長の光を照射された場合に、蛍光を発しやすい。したがって、樹脂材料製のマイクロレンズを蛍光顕微鏡観察に用いた場合には、マイクロレンズ自身が発する蛍光がノイズとなり、サンプルが発する蛍光を十分に観察できない虞がある。
また、ガラス材料は、樹脂材料と比較して、化学薬品に対する耐性が高い(換言すれば化学薬品に対する反応性が低い)。したがって、本マイクロレンズは、化学薬品に対して直接接するような用途にも好適に用いることができる。
また、ガラス材料は、樹脂材料と比較して、高い温度に対する耐性が高い。これは、ガラス材料の軟化点が樹脂材料の軟化点よりも明らかに高いためである。したがって、本マイクロレンズは、高温下で使用されるような用途にも好適に用いることができる。
また、硬く脆い通常のガラス部材と異なり、ガラスシートは、弾性を有する。換言すれば、ガラスシートは、ガラス材料製でありながら可逆的に変形可能である。したがって、本マイクロレンズは、圧力を印加することによってその形状を任意に変形可能である。換言すれば、本マイクロレンズは、レンズの焦点をリアルタイム且つ高速に制御することができる。したがって、本マイクロレンズは、高速に焦点を制御可能な高速動的レンズとしても利用可能である。
本発明の態様2に係るマイクロレンズは、上記態様1において、前記ガラス基板と、前記ガラスシートとは、同じガラス材料により構成されている、ことが好ましい。
上記の構成によれば、前記ガラス基板と、前記ガラスシートとが異なるガラス材料により構成されている場合と比較して、前記ガラス基板と前記ガラスシートとの接合をより強固にすることができる。
また、上記の構成によれば、ガラス基板の熱膨張率とガラスシートの熱膨張率との間に差が生じない。したがって、外部環境の温度が大幅に変化した場合であっても、突出部に歪みが生じることを抑制することができる。
本発明の態様3に係るマイクロレンズは、上記態様1又は2において、前記突出部の中央部分の厚さは、前記突出部の外縁部分の厚さよりも薄い、ことが好ましい。
上記の構成によれば、突出部は、凹レンズとして機能する。したがって、ガラス材料製であり、且つ、凹レンズとして機能するマイクロレンズを提供することができる。
本発明の態様4に係るマイクロレンズは、上記態様1~3の何れか一態様において、前記ガラスシートを構成するガラス材料が無アルカリガラスである、ことが好ましい。
無アルカリガラスは、加工性が良好であるためガラスシートを容易に作製することができる。また、無アルカリガラス製のガラスシートを用いた場合、その良好な加工性に起因して、突出部を容易に作製することができる。したがって、上記の構成によれば、容易にガラス材料製のマイクロレンズを作製することができる。
本発明の態様5に係るマイクロレンズは、上記態様1~3の何れか一態様において、前記ガラスシートを構成するガラス材料が石英ガラスである、ことが好ましい。
石英ガラスは、様々なガラス材料の中でも優れた光学特性を有する。たとえば、石英ガラスは、他のガラス材料よりも波長が短い光(例えば近紫外線)を透過することができるため、そのような光を用いた顕微鏡観察に本マイクロレンズを用いることができる。また、石英ガラスは、他のガラス材料よりも膨張率が小さいため、その光学特性が外部環境の温度変化の影響をより受けにくい。
本発明の態様6に係るマイクロレンズは、上記態様1~5の何れか一態様において、前記突出部が前記凹部から遠ざかる方向に向かって突出しており、前記凹部と前記突出部とにより形成された空間には、空気の屈折率より大きな屈折率を有する透光性材料からなる充填材が充填されている、ことが好ましい。
上記の構成によれば、前記透光性材料が充填された空間を含む本マイクロレンズは、凸レンズとして機能する。したがって、ガラス材料製であり、且つ、凸レンズとして機能するマイクロレンズを提供することができる。
本発明の態様7に係るマイクロレンズは、上記態様1~6の何れか一態様において、前記ガラス基板と前記ガラスシートとが溶着している、ことが好ましい。
上記の構成によれば、前記ガラス基板と前記ガラスシートとは、溶着(いわゆるフュージョンボンディング:Fusion Bonding)により接合されている。したがって、前記ガラス基板と前記ガラスシートとの接合をより一層強固にすることができる。
本発明の態様8に係るマイクロレンズは、上記態様1~7の何れか一態様において、前記ガラスシートは、厚さが当該ガラスシートよりも厚いガラス薄板を引き延ばすことによって、その厚さが薄くなるように成形されたガラスシートである、ことが好ましい。
ガラス薄板を引き延ばす工程によって、その厚さが薄くなるように成形されたガラスシートの表面は、ガラス薄板の表面を研磨することによってその厚さを薄くしたガラスシート(研磨ガラスシート)の表面よりも平滑である。なぜなら、ガラス薄板を引き延ばす工程において、ガラス薄板の表面に存在しえる傷(例えば研磨傷)が均等にならされるためである。例えば、鏡面仕上げのための研磨によって得られたガラス薄板の表面粗さは、1nm~20nmの範囲に含まれる。それに対して、ガラス薄板を引き延ばすことによって得られたガラスシートの表面粗さは、1nmを下回り、典型的には0.5nmである。したがって、ガラスシートとして研磨ガラスシートを採用した場合と比較して、本マイクロレンズは、超平滑な表面特性を有し、優れた光学特性及び高い機械強度を有する。
本発明の態様8に係るマイクロレンズアレイは、上記態様1~8の何れか一態様のマイクロレンズを複数備えている。マイクロレンズアレイを平面視した場合に、これらの複数のマイクロレンズは、一次元的又は二次元的に配列されている。
上記の構成によれば、ガラス材料製のマイクロレンズアレイを提供することができる。
本発明の態様10に係る転写モールドは、ガラス材料よりも融点が低い材料に対して凹凸を転写するガラス材料製の転写モールドであって、上記態様1~8の何れか一態様のマイクロレンズあるいは上記態様項9のマイクロレンズアレイを備えている。
上記の構成によれば、例えば金属により構成された従来の転写モールドと比較して、転写モールドを安価に製造することができる。したがって、ガラス材料よりも融点が低い材料(例えば樹脂材料)に対して、本転写モールドを用いることによって、ガラス材料よりも融点が低い材料(例えば樹脂材料)製のマイクロレンズあるいはマイクロレンズアレイの製造コストを抑制することができる。
また、記第1主面に対して直接接合されたガラスシートとして、厚さが当該ガラスシートよりも厚いガラス薄板を引き延ばすことによって、その厚さが薄くなるように成形されたガラスシートを採用した場合には、表面が平滑で研磨痕がまったく転写されていない、マイクロレンズあるいはマイクロレンズアレイを転写レンズとして得ることができる。すなわち、超平滑な表面特性を有する転写レンズを得ることができる。
本発明の態様11に係るマイクロレンズの製造方法は、ガラス基板を構成する一対の主面のうち一方の主面である第1主面に1又は複数の凹部を形成する凹部形成工程と、前記1又は複数の凹部を封じるようにガラスシートを前記第1主面に対して直接接合する接合工程と、前記ガラスシートの軟化点を上回る温度に前記ガラス基板及び前記ガラスシートを加熱した状態において、前記1又は複数の凹部を封じている前記ガラスシートの一部分がドーム状に突出することによって突出部を形成するように前記ガラス基板及び前記ガラスシートを取り巻く雰囲気の圧力を調整する圧力調整工程と、を含む。
上記の製造方法によれば、本発明の態様1に係るマイクロレンズを製造することができる。すなわち、ガラス材料製のマイクロレンズを提供することができる。
本発明の態様12に係るマイクロレンズの製造方法は、上記態様11において、前記圧力調整工程のあとに、前記雰囲気の圧力を調整した状態のまま、前記ガラスシートの軟化点を下回る温度まで前記ガラス基板及び前記ガラスシートを徐冷する冷却工程を更に含む、ことが好ましい。
上記の製造方法によれば、前記圧力調整工程のあとに前記ガラス基板及び前記ガラスシートを冷却する場合に生じ得る凹部に歪みを抑制することができる。
本発明の態様13に係るマイクロレンズの製造方法は、上記態様11又は12において、前記接合工程は、前記ガラス基板の表面と前記ガラスシートの表面とを洗浄する洗浄工程と、前記1又は複数の凹部を封じるように、洗浄された前記ガラスシートを洗浄された前記ガラス基板の前記第1主面に対して密着させる密着工程と、密着した状態の前記ガラス基板及び前記ガラスシートを加熱することによって、密着した状態の前記ガラス基板及び前記ガラスシートを溶着する溶着工程と、を含む、ことが好ましい。
上記の製造方法によれば、前記ガラス基板と前記ガラスシートとを溶着(いわゆるフュージョンボンディング:Fusion Bonding)により接合することができる。したがって、前記ガラス基板と前記ガラスシートとの接合をより一層強固にすることができる。
本発明の態様14に係るマイクロレンズの製造方法は、上記態様11~13の何れか一態様において、前記圧力調整工程は、前記突出部が前記凹部から遠ざかる方向に向かって突出するように前記雰囲気の圧力を調整する工程であり、前記凹部と前記突出部とにより形成された空間に、空気の屈折率より大きな屈折率を有する透光性材料を充填する充填工程を更に含んでいる、ことが好ましい。
上記の製造方法によれば、前記透光性材料が充填された空間は、凸レンズとして機能する。したがって、ガラス材料製であり、且つ、凸レンズとして機能するマイクロレンズを提供することができる。
本発明の態様15に係るマイクロレンズの製造方法は、上記態様11~14の何れか一態様において、前記接合工程において前記第1主面に対して直接接合されるガラスシートは、厚さが当該ガラスシートよりも厚いガラス薄板を引き延ばすことによって、その厚さが薄くなるように成形されたガラスシートである、ことが好ましい。
上記の構成によれば、本発明の態様8に係るマイクロレンズと同じ効果を奏する。