JP7338113B2 - 気体貯蔵放出化合物 - Google Patents

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Description

本発明は、ガスを貯蔵及び放出することができる気体貯蔵放出化合物に関する。
地球温暖化のような環境問題を解決するために、これまでの化石燃料に代わる、クリーンなエネルギー源の開発が進められている。このうち、水素は、資源が多様かつ豊富であり、燃焼性能特性・発熱量が良好であり、燃料電池や内燃機関による発電時に二酸化炭素が排出されない低環境負荷であることから、エネルギー源として有望なものの一つとされている。
水素をエネルギー源として用いるためには、変動する需要に柔軟に対応して供給を行うことができる、水素の貯蔵・放出システムの構築が必要である。しかし、水素は常温常圧で気体であるため、現在、タンクやボンベ等の容器を用い高圧水素ガスとして貯蔵されている。
これまで水素を利用する場合、高圧水素や液化水素をタンクローリーにより輸送する必要があった。また、水素貯蔵施設においても、高圧水素ガスタンクなどの大規模なインフラの整備が必要であった。
容器を用いた高圧水素ガスの貯蔵・放出システムに代えて、オンサイトで水素を使用する場合、水素と材料間の相互作用により低圧で大量かつ安全に貯蔵・放出できる、水素貯蔵材料を用いた水素貯蔵・放出システムが検討されている。水素貯蔵材料は、水素を選択的かつ可逆的に貯蔵及び放出できる材料である。水素貯蔵材料としては、水素貯蔵合金が有望とされているが、水素貯蔵能力に問題がある。また、不純物ガスによる性能低下や、レアメタルや高純度金属を原材料として使用することに伴うコスト上昇等の点において、改善の余地がある。さらに、水素貯蔵合金は、加工性が悪く、構成するチタンやマンガンなどの密度が6~8と大きいため貯蔵体の重量が大きくなり、水素貯蔵時には冷却が、水素放出時には加熱が必要であり、取り扱い性の点で問題がある。
ガス貯蔵放出材料としては、水素吸蔵合金が古くから知られている。また、水素吸蔵合金に代替する材料として、これまで種々の材料が研究開発されている。
特許文献1には、炭素-炭素結合からなるナノ炭素材料にホウ素化合物を混錬することにより製造された炭素-ホウ素結合を有する化合物を用い、加圧下にて水素を貯蔵させることが記載されている。しかし、炭素-炭素結合によって整然と形成されたナノ炭素材料を、長時間混錬する必要があるとともに水素貯蔵(吸収)時に2MPa以上の高い圧力が必要である。このため、原料から水素貯蔵に至るスキームが複雑であり、多大なエネルギーを必要とする。
特許文献2には、金属ホウ素化合物と金属塩化物とを混錬することにより得られる水素貯蔵材料が記載されている。しかし、製造工程において、化学蒸着法(CVD)などを用いることから、高いエネルギーを必要とし、一方で、熱分解が起こりやすく、材料として用いる場合、安定性に欠ける。
特許文献3には、ニッケルにポリビニルピロリドンなどの高分子を被覆させた化合物を用いて、水素貯蔵材料を構成することが記載されているが、水素貯蔵の後の放出能力が低い点で問題があった。
さらに、特許文献4~6には、有機高分子化合物からなる水素貯蔵材料が記載されている。
特開2007-152278号公報 特開2007-117989号公報 特開2008-266690号公報 特開2017-149683号公報 特開2018-199106号公報 国際公開第2015/005280号
本発明の解決しようとする課題は、新規な気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料を提供することである。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、特定の繰返し単位を有する気体貯蔵放出化合物及び該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料が、各種のガス、特に水素の貯蔵・放出特性に優れており、これを用いることにより上記課題が解決できることを見出した。
すなわち、上記課題を解決する本発明には、以下の構成が主に含まれる。
[1] 式(1)で表される構造単位と、式(2)及び/又は式(3)で表される構造単位とを有する、気体貯蔵放出化合物。
(式(1)~(3)中、k、m、n、p及びqは、それぞれ独立に1~30の整数である。また、同じ式の構造単位が直接結合せず、式(2)で表される構造単位と式(3)で表される構造単位とが直接結合しない。)
[2] 前記気体貯蔵放出化合物が、網目状構造を有する、[1]の気体貯蔵放出化合物。
[3] 少なくとも、式(4)で表される化合物を含むポリカルボン酸成分と、式(5)で表される化合物を含むポリアミン成分とを反応させる、[1]又は[2]の気体貯蔵放出化合物の製造方法。
(式(4)中、rは、1~30の整数であり、X及びYは、それぞれ独立に、OH、ハロゲン、OR(Rは1~6のアルキル基)又はNHR(Rは1~6のアルキル基)を表す。式(5)中、s及びtは、それぞれ独立に1~30の整数である。)
[4] [1]又は[2]の気体貯蔵放出化合物を含む、ガス貯蔵放出材料。
[5] ガスが、水素、二酸化炭素、窒素、希ガス、炭化水素ガスからなる群より選ばれる1種類以上である、[4]のガス貯蔵放出材料。
[6] ガスの貯蔵及び/又は放出が、加圧、減圧、昇温、降温、電位の印加及びエネルギー波の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法により行われる、[4]又は[5]のガス貯蔵放出材料。
[7] ガス貯蔵放出材料の形状が、粒子、繊維、フィルム、不織布、織布、多孔質体、成形体である、[4]~[6]いずれかのガス貯蔵放出材料。
本発明により、新規な気体貯蔵放出化合物、該気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料、特に、水素貯蔵・放出特性が非常に優れている、水素吸蔵合金よりも水素を多量に貯蔵できて単位体積当たりの重量が小さく、水素を貯蔵させる場合の冷却や放出させる際の加温のエネルギーが小さく、水素貯蔵・放出の制御が容易な気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料が提供される。
本発明の気体貯蔵放出化合物及びそれを含むガス貯蔵放出材料は、市販の化合物を用い、簡便な合成方法により得られることから、安価で汎用性が高い。また、水素貯蔵合金よりも軽量である高分子材料であるから、取り扱い性に優れ、効率の良い水素輸送が可能となる。さらに、水素の貯蔵・放出時に、加熱冷却、加圧減圧等の条件を温和なものとすることができることから、低いエネルギー利用下にて使用できる。そのため、余剰電力から得られた水素を利用施設に輸送する水素サプライチェーンを、安全に安価で構築することが可能である。
本発明の気体貯蔵放出化合物を含むガス貯蔵放出材料と、水素貯蔵合金との水素貯蔵・放出特性を示す図 本発明の気体貯蔵放出化合物における、式(1) で表される構造単位中のkの値に対する水素貯蔵・放出特性を示す図
以下、本発明の気体貯蔵放出化合物及びそれを含むガス貯蔵放出材料について説明する。
[気体貯蔵放出化合物]
本発明の気体貯蔵放出化合物は、式(1)で表される構造単位と、式(2)及び/又は式(3)で表される構造単位とを有している。
(式(1)~(3)中、k、m、n、p及びqは、それぞれ独立に1~30の整数である。また、同じ式の構造単位が直接結合せず、式(2)で表される構造単位と式(3)で表される構造単位とが直接結合しない。)
本発明において、式(1)中のkは1~30の整数、好ましくは3~20の整数、特に、10~20の整数であることが好ましい。kが0又は30超の整数の場合、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
式(1)で表される構造単位は、プロパン二酸(k=1)、ブタン二酸(k=2)、ペンタン二酸(k=3)、ヘキサン二酸(k=4)、ヘプタン二酸(k=5)、オクタン二酸(k=6)、ノナン二酸(k=7)、デカン二酸(k=8)、ウンデカン二酸(k=9)、ドデカン二酸(k=10)、トリデカン二酸(k=11)、テトラデカン二酸(k=12)、ペンタデカン二酸(k=13)、ヘキサデカン二酸(k=14)、ヘプタデカン二酸(k=15)、オクタデカン二酸(k=16)、ノナデカン二酸(k=17)、エイコサン二酸(k=18)、ヘンエイコサン二酸(k=19)、ドコサン二酸(k=20)、トリコサン二酸(k=21)、テトラコサン二酸(k=22)、ペンタコサン二酸(k=23)、ヘキサコサン二酸(k=24)、ヘプタコサン二酸(k=25)、オクタコサン二酸(k=26)、ノナコサン二酸(k=27)、トリアコンタン二酸(k=28)、ヘントリアコンタン二酸(k=29)、ドトリアコンタン二酸(k=30)、これらのジカルボン酸の反応性誘導体(酸ハロゲン化物、エステル化物及びアミド化物等)からなる群より選ばれる1種類以上の化合物から得られる。
本発明において、式(2)中のm及びnは、それぞれ独立に1~30の整数、好ましくはm=2~10の整数及びn=2~10の整数、特に好ましくはm=n=4~10の整数であることが好ましい。nやmが0又は30超の整数の場合、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
本発明において、式(3)中のp及びqは、それぞれ独立に1~30の整数、好ましくはp=2~10の整数及びq=2~10の整数、特に好ましくはp=q=4~10の整数であることが好ましい。pやqが0又は30超の整数の場合、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
式(2)及び(3)で表される構造単位は、HN-(CH)-NH-(CH)-NH、HN-(CH)-NH-(CH)-NH、HN-(CH)-NH-(CH)-NH、HN-(CH)-NH-(CH)-NH、HN-(CH)-NH-(CH)-NH、HN-(CH)-NH-(CH)-NH、HN-(CH)-NH-(CH)-NH、HN-(CH)-NH-(CH)-NH、HN-(CH)10-NH-(CH)10-NH、HN-(CH)12-NH-(CH)12-NH、HN-(CH)18-NH-(CH)18-NH、HN-(CH)20-NH-(CH)20-NH、HN-(CH)24-NH-(CH)24-NH及びHN-(CH)30-NH-(CH)30-NH等からなる群より選ばれる1種類以上の化合物から得られる。
本発明の気体貯蔵放出化合物は、式(1)~(3)で表される構造単位以外に、共重合単位を含んでいてもよい。
本発明の気体貯蔵放出化合物が含んでいてもよい共重合単位としては、例えば、下記式(6)~(8)で表され、式(1)~(3)で表される構造単位以外のものがあげられる。
(-OC-)-CO- ・・・(6)
(-HN-)-NH- ・・・(7)
(-HN-)(-CO-) ・・・(8)
(式(6)~(8)中、aは1~3の整数、bは1~3の整数、cは1~2の整数、dは1~2の整数である。Rはa+1価の有機基、Rはb+1価の有機基、Rはc+d価の有機基である。)
なお、式(1)~(3)、式(6)~(8)は、それぞれ、アミド結合(-HN-CO-又は>N-CO-)を形成することで結合している。
本発明において、式(6)で表される構造単位は、式(1)で表される構造単位を構成しないポリカルボン酸又はその反応性誘導体から、式(7)で表される構造単位は、式(2)又は(3)で表される構造単位を構成しないポリアミン化合物から、式(8)で表される構造単位は、(ジ)アミノ(ジ)カルボン酸、その反応性誘導体又はラクタムから、それぞれ得ることができる。
、R及びRとしては、それぞれ独立に、例えば、炭素数2~20の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数3~20の2価の脂環族炭化水素基又は炭素数6~20の2価の芳香族炭化水素基があげられる。好ましくは、それぞれ独立に、炭素数2~6のアルキレン基、フェニレン基等があげられる。
本発明の気体貯蔵放出化合物は、下記の繰返し単位A1及び/又は繰返し単位A2を含む。
繰返し単位A1:
繰返し単位A2:
さらに、本発明の気体貯蔵放出化合物は、繰返し単位A1及びA2以外の繰返し単位として、式(6)~(8)のいずれか1種以上の構造単位を含む「その他の繰返し単位」を含むことができる。なお、各繰返し単位は、それぞれ、アミド結合(-HN-CO-又は>N-CO-)により結合している。
本発明の気体貯蔵放出化合物における、繰返し単位A1の含有量は、気体貯蔵放出化合物中の全ポリアミド繰返し単位(繰返し単位A1、A2及び「その他の繰り返し単位」の合計量)に対して0~99.9モル%、好ましくは1~99モル%、より好ましくは5~50モル%とすることができる。
本発明の気体貯蔵放出化合物における、繰返し単位A2の含有量は、気体貯蔵放出化合物中の全ポリアミド繰返し単位(繰返し単位A1、A2及び「その他の繰り返し単位」の合計量)に対して0~90モル%、好ましくは1~80モル%、より好ましくは5~50モル%とすることができる。
本発明の気体貯蔵放出化合物における、その他の繰返し単位の含有量は、気体貯蔵放出化合物中の全ポリアミド繰返し単位(繰返し単位A1、A2及び「その他の繰り返し単位」の合計量)に対して0~90モル%、好ましくは1~80モル%、より好ましくは5~50モル%である。また、その他の繰り返し単位に含まれる各繰返し単位は、気体貯蔵放出化合物中の全ポリアミド繰返し単位(繰返し単位A1、A2及び「その他の繰り返し単位」の合計量)に対して、それぞれ、0~90モル%、好ましくは1~80モル%、より好ましくは5~50モル%である。
また、本発明の気体貯蔵放出化合物における、繰返し単位A1と、繰返し単位A2とのモル比は、A1/A2=0/100~100/0、好ましくは0.1/99.9~99.9~0.1、より好ましくは99/1~20/80とすることができる。
本発明の気体貯蔵放出化合物の分子量は、特に限定されないが、10,000~1,000,000、好ましくは70,000~700,000、より好ましくは80,000~300,000である。
[気体貯蔵放出化合物の製造方法]
前記気体貯蔵放出化合物は、少なくとも、式(4)で表される化合物を含むポリカルボン酸成分と、式(5)で表される化合物を含むポリアミン成分とを、公知のポリアミド重合反応手段を用いて反応させて得ることができる。
(式(4)中、rは、1~30の整数であり、X及びYは、それぞれ独立に、OH、ハロゲン、OR(Rは1~6のアルキル基)又はNHR(Rは1~6のアルキル基)を表す。式(5)中、s及びtは、それぞれ独立に1~30の整数である。)
<ポリカルボン酸成分>
ポリカルボン酸成分に含まれる式(4)で表される化合物としては、例えば、式中のX及びYがOHである化合物は、プロパン二酸(r=1)、ブタン二酸(r=2)、ペンタン二酸(r=3)、ヘキサン二酸(r=4)、ヘプタン二酸(r=5)、オクタン二酸(r=6)、ノナン二酸(r=7)、デカン二酸(r=8)、ウンデカン二酸(r=9)、ドデカン二酸(r=10)、トリデカン二酸(r=11)、テトラデカン二酸(r=12)、ペンタデカン二酸(r=13)、ヘキサデカン二酸(r=14)、ヘプタデカン二酸(r=15)、オクタデカン二酸(r=16)、ノナデカン二酸(r=17)、エイコサン二酸(r=18)、ヘンエイコサン二酸(r=19)、ドコサン二酸(r=20)、トリコサン二酸(r=21)、テトラコサン二酸(r=22)、ペンタコサン二酸(r=23)、ヘキサコサン二酸(r=24)、ヘプタコサン二酸(r=25)、オクタコサン二酸(r=26)、ノナコサン二酸(r=27)、トリアコンタン二酸(r=28)、ヘントリアコンタン二酸(r=29)、ドトリアコンタン二酸(r=30)、これらのジカルボン酸の反応性誘導体(酸ハロゲン化物、エステル化物及びアミド化物等)からなる群より選ばれる1種類以上である。
本発明においては、r=3~20の整数である化合物が好ましく、r=10~20の整数である化合物が特に好ましい。また、本発明においては、ジカルボン酸ハロゲン化物を用いることが、反応性等の点から好ましい。式(4)で表される化合物は、式(1)で表される構造単位を構成するモノマーである。
本発明において、ポリカルボン酸成分は、式(4)で表される化合物以外のポリカルボン酸又はその反応性誘導体(酸ハロゲン化物、エステル化物、アミド化物、無水物等)を含んでいてもよい。このようなポリカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ベンゾフェノン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸等の芳香族二塩基酸;シュウ酸、メチルマロン酸、マレイン酸、フマル酸、りんご酸、酒石酸、チオりんご酸、ジグリコール酸等の脂肪族二塩基酸;1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、ジシクロヘキサンメタン-4,4’-ジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸等の脂環族二塩基酸;トリメリット酸、水添トリメリット酸、ピロメリット酸、水添ピロメリット酸、トリメシン酸等の多塩基酸等からなる群より選ばれる1種類以上を用いることができる。
ポリカルボン酸成分中における、式(4)で表される化合物の含有量は、10~100モル%、好ましくは50~100モル%である。10モル%未満であると、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
<ポリアミン成分>
ポリアミン成分に含まれる式(5)で表される化合物としては、例えば、HN-(CH)-NH-(CH)-NH、HN-(CH)-NH-(CH)-NH、HN-(CH)-NH-(CH)-NH、HN-(CH)-NH-(CH)-NH、HN-(CH)-NH-(CH)-NH、HN-(CH)-NH-(CH)-NH、HN-(CH)-NH-(CH)-NH、HN-(CH)-NH-(CH)-NH、HN-(CH)10-NH-(CH)10-NH、HN-(CH)12-NH-(CH)12-NH、HN-(CH)18-NH-(CH)18-NH、HN-(CH)20-NH-(CH)20-NH、HN-(CH)24-NH-(CH)24-NH及びHN-(CH)30-NH-(CH)30-NH等からなる群より選ばれる1種類以上を用いることができる。
本発明においては、s=2~10の整数、t=2~10の整数である化合物、特に、s=t=4~10の整数である化合物が好ましい。
式(5)で表される化合物は、式(2)又は(3)で表される構造単位を構成するモノマーである。
本発明において、ポリアミン成分は、式(5)で表される化合物以外のポリアミン又はその反応性誘導体を含んでいてもよい。このようなポリアミンとしては、例えば、ジアミン、ポリアミンフェノール、その他ポリアミンがあげられる。
ジアミンとしては、例えば、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、2,3-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノトルエン、3,4-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノー1,2-ジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ジアミン;エチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミン等の脂肪族ジアミン;イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、ピペラジン等の脂環族ジアミン;2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、9,9-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン等のポリアミンフェノール;1,2,4-トリアミノベンゼン、3,4,4’-トリアミノジフェニルエーテル等の多官能アミン等からなる群より選ばれる1種類以上を用いることができる。
ポリアミン成分中における、式(5)で表される化合物の含有量は、10~100モル%、好ましくは50~100モル%である。10モル%未満であると、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
<その他の反応成分>
本発明においては、ポリアミド重合反応の際には、ポリカルボン酸成分及びポリアミン成分以外に、必要に応じて、アミノカルボン酸、ラクタム等をその他の反応成分として用いることができる。これにより、本発明の気体貯蔵放出化合物は、前記共重合単位(6)~(8)を含むこととなる。
アミノカルボン酸としては、例えば、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、9-アミノノナン酸、10-アミノカプリン酸、11-アミノウンドデカン酸、アミノ安息香酸等からなる群より選ばれる1種類以上を用いることができる。
ラクタムとしては、例えば、ε-カプロラクタム、ω-エナントラクタム、ω-ウンデカラクタム、ω-ラウロラクタム、α-ピロリドン、α-ピペリドン等からなる群より選ばれる1種類以上を用いることができる。
本発明において、ポリカルボン酸成分とポリアミン成分とのモル比は、ポリアミン成分1モルに対して、ポリカルボン酸成分が0.8~1.7モル、好ましくは0.9~1.6モル、より好ましくは0.95~1.45モルである。ポリカルボン酸成分の量が1.7モル超又は0.8モル未満であると、気体貯蔵放出化合物の分子量が十分に大きくならず、気体貯蔵放出特性が低下するおそれがある。
式(4)で表される化合物と、式(5)で表される化合物とのモル比は、式(4):式(5)=1:1.6~1:0.8、好ましくは1:1.5~1:0.9である。
また、ポリアミン成分1モルに対するその他の反応成分の量は、0~9モル、好ましくは0~2モルの範囲である。
本発明において、少なくとも、式(4)で表される化合物と、式(5)で表される化合物とを反応させる方法としては、公知のポリアミド重合反応手段を用いることができる。例えば、式(4)で表される化合物をジカルボン酸塩化物とし、式(5)で表される化合物と反応させる方法、式(4)で表される化合物をジカルボン酸ジエステルとし、金属触媒存在下において式(5)で表される化合物と反応させる方法、式(4)で表される化合物をジカルボン酸とし、カルボジイミド触媒存在下において式(5)で表される化合物と反応させる方法等があげられる。本発明においては、式(4)で表される化合物をジカルボン酸塩化物とし、式(5)で表される化合物と反応させる方法を用いることが好ましい。
本発明の気体貯蔵放出化合物は、式(3)で表される構造単位を含むことから、網目状構造を有している。この網目状構造が、水素分子を保持する壁のような役割を果たすことにより、気体、例えば、水素分子(水素ガス)を貯蔵放出する機能が発現するのではないかと推測されるが、この推測により本発明は何ら限定されない。
[ガス貯蔵放出材料]
本発明のガス貯蔵放出材料は、前記気体貯蔵放出化合物の1種類以上を1~100質量%、好ましくは10~100質量%、より好ましくは50~100質量%含んでいる。前記気体貯蔵放出化合物の含有量が1質量%未満であると、ガス貯蔵特性を十分に発揮することができない場合がある。
本発明のガス貯蔵放出材料に含まれていてもよい、前記式(1)で表される繰返し単位を有する気体貯蔵放出化合物以外の成分としては、例えば、樹脂、充填剤、各種添加剤等をあげることができる。
樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ウレタン系樹脂等があげられる。充填剤としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、タルク、クレー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、ガラスフレーク、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、有機繊維、有機ナノファイバー、無機ナノファイバー、金属ナノファイバー等があげられる。各種添加剤としては、特に限定されないが、例えば、有機顔料、無機顔料、染料等の着色剤、ゼオライトや活性炭等の吸着剤、可塑剤、抗菌剤、導電材等があげられる。
ガス貯蔵放出材料の形状は、任意の形状とすることができる。例えば、粒子、繊維、フィルム、不織布、織布、多孔質体、成形体等のいずれかとすることができる。
粒子である場合は、例えば、平均粒子径1μm~1mmの範囲で任意に調節することができる。
繊維である場合は、例えば、長さ1mm~10mm、直径0.1mm~5mmの範囲で任意に調節することができる。
フィルムである場合、例えば、厚さ10μm~1mmの範囲で任意に調整することができる。フィルムの幅及び長さは、任意の大きさとすることができる
不織布又は織布である場合は、例えば、目付20g/m~120g/mの範囲で任意に調整することができる。
多孔質体である場合は、例えば、見かけ密度0.3g/m~1.2g/m、空隙率5~80vol%の範囲で任意に調整することができる。
成形体である場合は、例えば、押出成形、射出成形等の任意の成形手段を用い、任意の形状の成形体に調整することができる。
本発明のガス貯蔵放出材料は、粒子、多孔質体、不織布、フィルム、繊維の形状であることが、製造の容易性、水素等のガスと接触する面積の調整、取り扱い性の向上等の点から好ましい。
[ガス]
本発明の気体貯蔵放出化合物が貯蔵・放出するガスは、特に限定されない。例えば、水素、二酸化炭素、窒素、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、ラドン)、炭化水素ガス(メタン、エタン、プロパン、ブタン、アセチレン等)、酸素、ハロゲンガス(フッ素、塩素)等からなる群より選ばれる1種類以上があげられる。好ましくは、水素、窒素、アルゴン、メタン、エタン、プロパン、アセチレンからなる群より選ばれる1種類以上であり、特に好ましくは水素である。
[ガスの貯蔵・放出方法]
本発明において、ガス貯蔵放出材料におけるガスの貯蔵(会合)・放出(離脱)方法は、ガス貯蔵放出材料、特に、水素貯蔵材料において、水素を貯蔵・放出させる公知の方法を用いることができる。
例えば、加圧、減圧、昇温(加熱)、降温(冷却)、電位の印加、紫外線、赤外線などのエネルギー波の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられる。
貯蔵手段として、好ましくは、加圧、減圧、昇温(加熱)、降温(冷却)、電位の印加からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられ、より好ましくは、加圧、減圧、昇温(加熱)、降温(冷却)からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられる。本発明において、特に好ましくは、加圧手段を含む方法が用いられる。
放出手段として、好ましくは、減圧、加圧、昇温(加熱)、降温(冷却)、電位の印加からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられ、より好ましくは、減圧、加圧、昇温(加熱)、降温(冷却)からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法があげられる。本発明において、特に好ましくは、減圧手段を含む方法が用いられる。
[ガス貯蔵放出材料の用途]
本発明のガス貯蔵放出材料は、ガス、特に水素を、常温(25℃±20℃)で大気圧下において安全に長期間貯蔵でき、貯蔵された水素を簡便な手段で放出させることができることから、水素貯蔵材料として有用である。
また、水素貯蔵合金が水素の貯蔵・放出特性を示さない大気圧未満の低圧状態においても、水素の貯蔵・放出特性に優れるものであるから、この点からも、水素貯蔵材料として有用である。
さらに、成形性に優れることから任意の形状に容易に加工することが可能であり、軽量であることから、運搬・保存を容易に行うことができる。
例えば、風力発電所で発電した電気を使い、水電解水素製造装置で水素を製造し、車載コンテナに収納した本発明のガス貯蔵放出材料に水素を貯蔵する。水素を貯蔵したガス貯蔵放出材料が収納されたコンテナを車両に搭載し、水素貯蔵材料タンクと純水素型燃料電池とを設備として有する温浴施設に運び、ガス貯蔵放出材料からこれら設備に水素を移送する。
燃料電池で発生する電気と温水は温浴施設で使用するとともに、水素移送時に「熱のカスケード利用」を行い、水素を貯蔵する側で発生する熱を、放出する側の加熱に利用する。また、水素貯蔵材料タンクから水素を放出するために必要な熱は、建物からの低温排熱を利用しエネルギー効率を向上させることができる。
以下に実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、実施例により何ら限定されるものではない。
[実施例1]
<気体貯蔵放出化合物の合成>
200ml丸底フラスコに、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン 1.9g(0.0088mol)及びテトラヒドロフラン2mlを添加し、25℃にて攪拌を行った。そこへドデカンジオイルジクロリド(Dodecanedioyl Dichloride)1.72g(0.0064mol)を入れ、2時間攪拌した。反応溶液にメタノール5mlを加え、沈殿を生じさせ、得られた沈殿物を0.45μm孔のメンブレンフィルターにて濾過し、沈殿物と濾液とに分けた。沈殿物は風乾した後、真空乾燥を行い、目的の化合物1を得た。
<構造の分析>
得られた化合物1について、Thermo Fisher Scientific社製Nicolet 6700FT-IR装置を用い、一回反射ATR法によりFT-IRを測定した。結果は以下のとおりとなった。
-CONH-:1416、1651、3184、3383(cm-1
-CH-:1466、2850、2924(cm-1
これより、下記の2種類の繰返し単位を有するポリアミド化合物であることが確認された。
<重量平均分子量>
得られた化合物1について、東ソー社製ゲルパーミュエーションクロマトグラフHLC-8420GPC EcoSEC EliteにTSKgel UP-SWカラムを装着し、ジメチルホルムアミド溶媒に溶解させた化合物1を注入し、カラム保持時間を測定した。得られたカラム保持時間から、分子量が判明しているポリスチレンを測定することで予め作成した検量線と比較計算して、化合物1のポリスチレン換算分子量を算出した結果、重量平均分子量は126,000であった。
<水素貯蔵放出能力の評価>
水素貯蔵放出能力の評価は、試験用粉末をSUS製サンプル菅に充填し、鈴木商館製PCT特性評価装置を用いてPCT曲線を観察することで行った。PCT特性測定装置は、物質が水素を吸放出するときの特性(P:圧力、C:貯蔵量(吸蔵量)、T:温度)を測定する装置で、ジーベルツ装置とも呼ばれるものである。
圧力に対する、化合物1の水素の貯蔵量(Adsorption:質量%)及び放出量(Desorption:質量%)との関係は、図1のとおりとなった。なお、ここでいう貯蔵量及び放出量は、化合物1の質量に対する水素の貯蔵量(吸収量)又は放出量を質量%として表したものである。
[比較例1]
チタン-鉄-マンガン系水素吸蔵合金を用いて、実施例1と同様に水素貯蔵放出能力を評価した。その結果、実施例1の気体貯蔵化合物(それを含むガス貯蔵放出材料)の方が高い水素貯蔵放出能力を示した。
[実施例2]
<式(1)で表される構造単位中のkの値による水素貯蔵放出能力の変化>
実施例1において用いられたドデカンジオイルジクロリド(Dodecanedioyl Dichloride)0.0064molを使用することに代えて、下記に示すジカルボン酸のジクロリド0.0064molを使用し、圧力が1.0MPaである場合について、各気体貯蔵化合物の水素貯蔵能力を、実施例1と同様にして測定した。結果を図2に示す。図2は、縦軸を水素貯蔵量(質量%)、横軸を式(1)で表される構造単位中のkの値としたものである。
(ジカルボン酸)
プロパン二酸(k=1)、ブタン二酸(k=2)、ペンタン二酸(k=3)、ヘキサン二酸(k=4)、ヘプタン二酸(k=5)、オクタン二酸(k=6)、ノナン二酸(k=7)、デカン二酸(k=8)、ウンデカン二酸(k=9)、ドデカン二酸(k=10;実施例1で使用)、トリデカン二酸(k=11)、テトラデカン二酸(k=12)、ペンタデカン二酸(k=13)、ヘキサデカン二酸(k=14)、ヘプタデカン二酸(k=15)、オクタデカン二酸(k=16)、ノナデカン二酸(k=17)、エイコサン二酸(k=18)、ヘンエイコサン二酸(k=19)、ドコサン二酸(k=20)、トリコサン二酸(k=21)、テトラコサン二酸(k=22)、ペンタコサン二酸(k=23)、ヘキサコサン二酸(k=24)、ヘプタコサン二酸(k=25)、オクタコサン二酸(k=26)、ノナコサン二酸(k=27)、トリアコンタン二酸(k=28)、ヘントリアコンタン二酸(k=29)、ドトリアコンタン二酸(k=30)
これらの結果より、本発明の気体貯蔵放出化合物及びそれを含むガス貯蔵放出材料は、比較例1の水素貯蔵合金と比較して、気体貯蔵放出化合物の質量に対する水素の貯蔵量(吸収量)及び放出量の質量%が大きく、水素の貯蔵・放出能力が高いことが判明した。
また、本発明の気体貯蔵放出化合物及びそれを含むガス貯蔵放出材料において、式(1)で表される構造単位中のkの値により水素の貯蔵・放出能力が変化すること、kが3~20の整数、特に、10~20の整数の場合に水素の貯蔵・放出能力が高いことが判明した。
これより、本発明の気体貯蔵放出化合物及びそれを含むガス貯蔵放出材料は、ガス、特に水素を貯蔵・放出することができる材料として有用であることが確認された。

Claims (5)

  1. 式(1)で表される構造単位と、式(2)及び/又は式(3)で表される構造単位とを有し、網目状構造を有する、気体貯蔵放出化合物。



    (式(1)~(3)中、k、m、n、p及びqは、それぞれ独立に1~30の整数である。また、同じ式の構造単位が直接結合せず、式(2)で表される構造単位と式(3)で表される構造単位とが直接結合しない。)
  2. 式(1)で表される構造単位と、式(2)及び/又は式(3)で表される構造単位;



    (式(1)~(3)中、k、m、n、p及びqは、それぞれ独立に1~30の整数である。また、同じ式の構造単位が直接結合せず、式(2)で表される構造単位と式(3)で表される構造単位とが直接結合しない。)
    とを有する、気体貯蔵放出化合物の製造方法であって、
    少なくとも、式(4)で表される化合物を含むポリカルボン酸成分と、式(5)で表される化合物を含むポリアミン成分とを反応させる、気体貯蔵放出化合物の製造方法。


    (式(4)中、rは、1~30の整数であり、X及びYは、それぞれ独立に、OH、ハロゲン、OR(Rは1~6のアルキル基)又はNHR(Rは1~6のアルキル基)を表す。式(5)中、s及びtは、それぞれ独立に1~30の整数である。)
  3. 式(1)で表される構造単位と、式(2)及び/又は式(3)で表される構造単位;



    (式(1)~(3)中、k、m、n、p及びqは、それぞれ独立に1~30の整数である。また、同じ式の構造単位が直接結合せず、式(2)で表される構造単位と式(3)で表される構造単位とが直接結合しない。)
    とを有する、気体貯蔵放出化合物を含む、ガス貯蔵放出材料であって、ガスが、水素、二酸化炭素、窒素、希ガス、炭化水素ガスからなる群より選ばれる1種類以上である、ガス貯蔵放出材料。
  4. ガスの貯蔵及び/又は放出が、加圧、減圧、昇温、降温、電位の印加及びエネルギー波の照射からなる群より選ばれる1つ以上の手段を含む方法により行われる、請求項3に記載のガス貯蔵放出材料。
  5. ガス貯蔵放出材料の形状が、粒子、繊維、フィルム、不織布、織布、多孔質体、成形体である、請求項3又は4に記載のガス貯蔵放出材料。
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