JP7336614B1 - 積層フィルム - Google Patents

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Abstract

【課題】高い突刺強度を有する積層フィルムを提供する。【解決手段】ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)とポリイミド系樹脂含有層(PI-2)とを含む積層フィルムであって、前記積層フィルムの厚み方向の断面において、該積層フィルムの面内方向を0°方向、該積層フィルムの厚み方向を90°方向としたときに、レーザーラマン分光装置により測定される各層のピーク強度比が、式(I)~式(III):[〔I1(60)+I1(90)〕/P1]×[〔I2(0)+I2(30)〕/P2]≧0.145 (I)P1=I1(0)+I1(30)+I1(60)+I1(90) (II)P2=I2(0)+I2(30)+I2(60)+I2(90) (III)の関係を満たす、積層フィルム。【選択図】なし

Description

本発明は、ポリイミド系樹脂含有層を含む積層フィルム、特に、高周波帯域用のプリント回路基板やアンテナ基板に対応可能な基板材料などに利用できる積層フィルム、前記積層フィルムを含む積層シート及びフレキシブルプリント回路基板に関する。
フレキシブルプリント回路基板(以下、FPCと記載することがある)は、薄く軽量で可撓性を有するため、立体的、高密度な実装が可能であり、携帯電話、ハードディスク等の多くの電子機器に使用され、その小型化、軽量化に寄与している。従来、FPCには、耐熱性、機械物性、電気絶縁性に優れるポリイミド樹脂が広く用いられており、例えば、FPCに使用される銅張積層板(以下、CCLと略すことがある)等の金属張積層板として、ポリイミド系フィルムの片面又は両面に銅箔層を有する積層体が知られている。
近年、5Gと称される第5世代移動通信システムが本格的に普及しつつあり(例えば特許文献1)、5G以降の高速通信用途に適したポリイミド系フィルムが検討されている。
特開2021-161285号公報
FPCにおいて使用されるポリイミド系フィルムには、加工時等にフィルムの厚み方向に衝撃が加わる可能性があり、これに耐え得る突刺強度が求められる。しかし、誘電特性を適切な範囲に制御しながら機械物性を高めることは難しい。このため、突刺強度が高く、5G以降の高速通信用途に用い得るポリイミド系フィルムの開発が必要とされている。
本発明の目的は、高い突刺強度を有する積層フィルム、及び該積層フィルムを含む積層シート、並びにフレキシブルプリント回路基板を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)とポリイミド系樹脂含有層(PI-2)とを含む積層フィルムにおいて、レーザーラマン分光装置により測定される各層のピーク強度比が、特定の関係を満たすことにより上記課題を解決し得ることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の好適な態様を提供するものである。
[1]ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)とポリイミド系樹脂含有層(PI-2)とを含む積層フィルムであって、
前記積層フィルムの厚み方向の断面において、該積層フィルムの面内方向を0°方向、該積層フィルムの厚み方向を90°方向としたときに、レーザーラマン分光装置により測定される各層のピーク強度比は、式(I)~式(III):
[〔I(60)+I(90)〕/P1]×[〔I(0)+I(30)〕/P2]≧0.145 (I)
P1=I(0)+I(30)+I(60)+I(90) (II)
P2=I(0)+I(30)+I(60)+I(90) (III)
[式中、I(0)、I(30)、I(60)及びI(90)は、それぞれ、前記層(PI-1)における前記積層フィルムの0°、30°、60°及び90°方向と一致する偏光配置でのピーク強度比を表し、I(0)、I(30)、I(60)及びI(90)は、それぞれ、前記層(PI-2)における前記積層フィルムの0°、30°、60°及び90°方向と一致する偏光配置でのピーク強度比を表し、前記ピーク強度比は(1615cm-1付近のピーク強度)/(725cm-1付近のピーク強度)を表す]
の関係を満たす、積層フィルム。
[2]式(I)において、前記〔I(60)+I(90)〕/P1は0.230以上である、[1]に記載の積層フィルム。
[3]式(IV):
[〔I(60)+I(90)〕/P1]×[I(30)/P2]≧0.055 (IV)
の関係を満たす、[1]又は[2]に記載の積層フィルム。
[4]前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)と前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)との間に中間領域を有し、
前記中間領域は、走査型プローブ顕微鏡により、前記積層フィルムの厚み方向断面の弾性率を厚み方向に沿って連続的に測定したときに、該弾性率が、前記層(PI-1)の平均弾性率(1)から前記層(PI-2)の平均弾性率(2)に至るまで連続的に変化する領域であり、
前記中間領域の厚さは50nm以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の積層フィルム。
[5]前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)の厚みは、前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)の厚みの0.05~0.3倍である、[1]~[4]のいずれかに記載の積層フィルム。
[6]さらにポリイミド系樹脂含有層(PI-3)を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の積層フィルム。
[7]前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)及び前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)の少なくとも1層は、テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)を有するポリイミド系樹脂を含み、
前記構成単位(A)は、式(A1):
[式(A1)中、Ra1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
kは、0~2の整数を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A1)、及び/又は、式(A2):
[式(A2)中、Ra2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、lは、互いに独立に、0~3の整数である]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A2)を含む、[1]~[6]のいずれかに記載の積層フィルム。
[8]前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)及び前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)の少なくとも1層は、ジアミン由来の構成単位(B)を有するポリイミド系樹脂を含み、
前記構成単位(B)は、式(B1):
[式(B1)中、Rb1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
Wは、互いに独立に、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-COO-、-OOC-、-SO-、-SO-、-S-、-CO-、-N(R)-及び-CONH-からなる群から選択される2価の連結基、又は、単結合(但し、mは2以上であり、少なくとも1つのWは前記2価の連結基である)を表し、Rは水素原子、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表し、
mは1~4の整数を表し、
qは互いに独立に、0~4の整数を表す]
で表されるジアミン由来の構成単位(B1)を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の積層フィルム。
[9]前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)及び前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)は、テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)及びジアミン由来の構成単位(B)を有するポリイミド系樹脂を含み、
前記構成単位(A)は、式(A1):
[式(A1)中、Ra1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
kは、0~2の整数を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A1)、及び/又は、式(A2):
[式(A2)中、Ra2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、lは、互いに独立に、0~3の整数である]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A2)を含み、
前記構成単位(B)は、式(B1):
[式(B1)中、Rb1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
Wは、互いに独立に、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-COO-、-OOC-、-SO-、-SO-、-S-、-CO-、-N(R)-及び-CONH-からなる群から選択される2価の連結基、又は、単結合(但し、mは2以上であり、少なくとも1つのWは前記2価の連結基である)を表し、Rは水素原子、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表し、
mは1~4の整数を表し、
qは互いに独立に、0~4の整数を表す]
で表されるジアミン由来の構成単位(B1)を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の積層フィルム。
[10]前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)に含まれるポリイミド系樹脂は、前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)に含まれるポリイミド系樹脂とは異なる樹脂である、[1]~[9]のいずれかに記載の積層フィルム。
[11]前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)及び前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)は、それぞれ少なくとも二種のテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)を有するポリイミド系樹脂を含む、[1]~[10]のいずれかに記載の積層フィルム。
[12]少なくとも前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)に含まれるポリイミド系樹脂が有する前記構成単位(A)は、さらに、該構成単位(A)の総量に対して45モル%以下の式(A3):
[式(A3)中、Zは2価の有機基を表し、
a3は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
sは互いに独立に、0~3の整数を表す]
で表されるエステル結合含有テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A3)を含む、[9]~[11]のいずれかに記載の積層フィルム。
[13][1]~[12]のいずれかに記載の積層フィルムの片面又は両面に金属箔層を含む、積層シート。
[14][13]に記載の積層シートを含む、フレキシブルプリント回路基板。
本発明によれば、高い突刺強度を有する積層フィルムを提供することができる。
レーザーラマン分光測定を用いて0°方向(面内方向)と一致する偏光配置によりピーク強度比を測定する一例を示す概略図である。 本発明の一実施形態にかかる積層フィルム中の層(PI-1)及び層(PI-2)において、各ピーク強度比と角度方向との関係を示す概略図である。 本発明の一実施形態にかかる積層フィルムにおいて、試料断面の任意の点で得られたフォースカーブを示すグラフである。 本発明の一実施形態にかかる積層フィルムにおいて、試料断面のDMT弾性率像及び座標軸を示す図である。 図4のDMT弾性率像中のX=40,80,120,160,200の箇所を示す図である。 図4のDMT弾性率像中のX=40の弾性率プロファイルを示すグラフである。 図4のDMT弾性率像により得られる平均DMT弾性率プロファイルの9点移動平均線、中間領域及びその厚みを示すグラフである。 本発明の積層フィルムの層構成の一例を示す概略断面図である。
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。なお、本明細書に記載されている複数の上限値及び下限値は、任意に組合せて好適な数値範囲とすることができる。
[積層フィルム]
本発明の積層フィルムは、ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)とポリイミド系樹脂含有層(PI-2)とを含み、前記積層フィルムの厚み方向の断面において、該積層フィルムの面内方向を0°方向、該積層フィルムの厚み方向を90°方向としたときに、レーザーラマン分光装置により測定される各層のピーク強度比が、式(I)~式(III):
[〔I(60)+I(90)〕/P1]×[〔I(0)+I(30)〕/P2]≧0.145 (I)
P1=I(0)+I(30)+I(60)+I(90) (II)
P2=I(0)+I(30)+I(60)+I(90) (III)
[式中、I(0)、I(30)、I(60)及びI(90)は、それぞれ、前記層(PI-1)における前記積層フィルムの0°、30°、60°及び90°方向と一致する偏光配置でのピーク強度比を表し、I(0)、I(30)、I(60)及びI(90)は、それぞれ、前記層(PI-2)における前記積層フィルムの0°、30°、60°及び90°方向と一致する偏光配置でのピーク強度比を表し、前記ピーク強度比は(1615cm-1付近のピーク強度)/(725cm-1付近のピーク強度)を表す]
の関係を満たす。本明細書において、ポリイミド系樹脂含有層とはポリイミド系樹脂(PI系樹脂ということがある)を含んで構成される層を意味する。本発明の積層フィルムにおいて、PI系樹脂含有層に含有されるPI系樹脂は、通常芳香族PI系樹脂を含む。芳香族PI系樹脂は、芳香環(好ましくはベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環等)を含むPI系樹脂である。また、芳香族PI系樹脂を含むPI系樹脂含有層を、特に芳香族PI系樹脂含有層ともいう。さらに、本明細書において、ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)を、単に層(PI-1)ということがあり、層(PI-1)以外のポリイミド系樹脂含有層についても同様に、層(PI-2)及び層(PI―3)と表記することがある。
以下、図1及び図2を用いて、本発明におけるレーザーラマン分光の測定方法及び式(I)~(III)の求め方について詳細に説明する。図1は、レーザーラマン分光測定を用いて0°方向(面内方向)と一致する偏光配置によりピーク強度比を測定する一例を示す概略図である。図2は、本発明の一実施形態にかかる積層フィルム中の層(PI-1)及び層(PI-2)において、各ピーク強度比と角度方向との関係を示す概略図である。
(1-1)試験片(試料)の作成
積層フィルムの厚み方向の断面出しを行い、これを試験片(試料)とする。積層フィルムの厚み方向の断面が観察できれば試験片の作成方法は特に限定されないが、積層フィルムの厚みが薄い場合には、カットした積層フィルムの一部を樹脂包埋し、断面出しした試験片を作成することが好ましい。厚み方向の断面が見えるように樹脂包埋した後、例えばミクロトームに取り付けたナイフ等により、樹脂包埋した積層フィルムの表面(積層フィルムにおいては厚み方向断面)を切削して断面出しを行うことができる。好ましくは積層フィルムのTD方向及び厚み方向(ND方向)に沿って切削して断面出しを行う。
(1-2)各層における各角度方向でのピーク強度比の取得
レーザーラマン分光装置に1/2波長板を90°方向にセットにし、次に、図1に示されるように、レーザー偏光6の振動方向(0°方向)7と、試料1の面内方向5(好ましくはTD方向)とが平行になるように試料1の角度を調整し、試料1の層(PI-2)2の厚み方向における中心付近の測定箇所8、及び層(PI-1)3の厚み方向における中心付近の測定箇所8’で、それぞれラマン分光測定を実施してラマンスペクトルを得る。図2に示すように、この試料1の面内方向5と平行な角度を0°方向とする。なお、中心付近とは、試料1の表面における各層の厚み方向の距離をyとして、y=0~100を設定したときに、y=40~60の範囲、好ましくはy=45~55の範囲を意味する。
次いで、得られた層(PI-1)及び層(PI-2)それぞれにおけるラマンスペクトルにおいて、725cm-1付近のピークの強度と、1615cm-1付近のピーク強度とを求め、[(積層フィルムの0°方向と一致する偏光配置での1615cm-1付近のピーク強度)/(積層フィルムの0°方向と一致する偏光配置での725cm-1付近のピーク強度)]を算出することにより、ピーク強度比I(0)及びI(0)を求めることができる。
さらに、図2に示すように、0°方向での偏光配置にある試料1を回転(図2では右回転)させて、層(PI-1)及び層(PI-2)それぞれにおいて、上記の0°方向での偏光配置と同様の方法により、30°、60°及び90°方向の偏光配置でラマン分光測定を実施し、各角度方向でそれぞれラマンスペクトルを得る。得られた層(PI-1)のラマンスペクトルから、層(PI-1)の30°方向、60°方向及び90°方向のピーク強度比I(30)、I(60)、及びI(90)(層(PI-1)におけるx°方向のピーク強度比を「I(x)」と表記することがある)を得ることができ、また得られた層(PI-2)のラマンスペクトルから、層(PI-2)の30°方向、60°方向及び90°方向のピーク強度比I(30)、I(60)、及びI(90)(層(PI-2)におけるx°方向のピーク強度比を「I(x)」と表記することがある)を得ることができる。なお、ラマン分光測定により得られるラマンスペクトルは、例えば移動平均法を用いた平滑化処理や蛍光除去処理等を行うことが好ましい。また、ラマン分光測定により得られる各層の各角度方向におけるピーク強度は、それぞれ、少なくとも4回測定した平均値を用いることができる。
(x)及びI(x)において、1615cm-1付近のピーク強度は、PI系樹脂中の芳香環C=C伸縮振動に由来するピークであり得る。該芳香環C=C伸縮振動は、PI系樹脂の高分子鎖に沿って振動するので、芳香環C=C伸縮振動の振動方向は高分子鎖の配向方向とみなすことができる。ゆえに、PI系樹脂の配向方向とレーザー偏光の振動方向とが一致すると1615cm-1付近のピーク強度は強くなり得、逆に一致しないと該ピーク強度は弱くなり得る。一方、725cm-1付近のピーク強度は、PI系樹脂中の芳香環C-H変角振動に由来するピークであり得る。該芳香環C-H変角振動は等方的であり、レーザー偏光の振動方向に応じてほとんど変化し得ないので基準ピークとして用いることができる。つまり、I(x)は、積層フィルムのx°方向と一致する偏光配置、すなわち、x°方向と一致する偏光振動方向のレーザーを層(PI-1)の断面に当てたときの、基準ピーク強度に対する芳香環C=C伸縮振動に由来するピーク強度の割合ということができる。また、I(x)は、積層フィルムのx°方向と一致する偏光配置、すなわち、x°方向と一致する偏光振動方向のレーザーを層(PI-2)の断面に当てたときの、基準ピーク強度に対する芳香環C=C伸縮振動に由来するピーク強度の割合ということができる。つまり、I(x)が大きいほど、層(PI-1)中のPI系樹脂のx°方向の配向度が高くなることを示し、I(x)が大きいほど、層(PI-2)中のPI系樹脂のx°方向の配向度が高くなることを示す。
なお、本明細書において、「ピーク強度」とはピークの高さを意味する。また、本明細書において特に明記しない限り、「付近」とは、±30cm-1の範囲、好ましくは±10cm-1の範囲、より好ましくは±5cm-1の範囲を意味する。例えば、1615cm-1付近のピーク強度は、1615±30cm-1の範囲内、好ましくは1615±10cm-1の範囲内、より好ましくは1615±5cm-1の範囲内の最大ピーク強度を意味する。また、TD方向とは、積層フィルム製造時の機械流れ方向に垂直な方向を示し、ND方向とは、積層フィルムの厚み方向、すなわち、積層フィルム面内に対して垂直な方向を示す。
本発明者は、レーザーラマン分光装置を用いて分析可能な各層のピーク強度比に着目して検討を進めたところ、驚くべきことに、積層フィルムの所定の角度方向と一致する偏光配置でのピーク強度が式(I)~(III):
[〔I(60)+I(90)〕/P1]×[〔I(0)+I(30)〕/P2]≧0.145 (I)
P1=I(0)+I(30)+I(60)+I(90) (II)
P2=I(0)+I(30)+I(60)+I(90) (III)
の関係を満たすと、積層フィルムの突刺強度を向上できることを見出した。理由は定かではないが、以下の理由が考えられる。
式(I)中、〔I(60)+I(90)〕/P1(「配向パラメータA」又は「配向PA」ということがある)は、層(PI-1)の60°方向及び90°方向への配向成分の割合を示し、〔I(0)+I(30)〕/P2(「配向パラメータB」又は「配向PB」ということがある)は、層(PI-2)の0°方向及び30°方向への配向成分の割合を示すところ、配向パラメータAと配向パラメータBとの積が大きくなると、各層間での異なる方向への配向性の影響に起因して、機械物性の差が高くなる傾向があるので、厚み方向にかかった力を分散、吸収させやすく、突き刺す針への抵抗が高まるからだと考えられる。
式(I)中の[〔I(60)+I(90)〕/P1]×[〔I(0)+I(30)〕/P2](配向PA×配向PBと表記することがある)は、好ましくは0.147以上、より好ましくは0.150以上、さらに好ましくは0.155以上、さらにより好ましくは0.158以上、特に好ましくは0.160以上、特により好ましくは0.165以上、特にさらに好ましくは0.170以上、極めて好ましくは0.175以上、極めてより好ましくは0.180以上であり、例えば0.182超であってもよい。式(I)中の[配向PA×配向PB]が前記下限以上であると、積層フィルムの突刺強度をより向上できる。式(I)中の[〔I(60)+I(90)〕/P1]×[〔I(0)+I(30)〕/P2]は、好ましくは0.750以下、より好ましくは0.600以下、さらに好ましくは0.500以下、特に好ましくは0.300以下、特により好ましくは0.250以下、特にさらに好ましくは0.200以下である。[配向PA×配向PB]が前記下限以上、前記上限以下であると、積層フィルムの突刺強度をより向上でき、またドリル等による加工で貫通孔を設ける際に、バリの発生やバリが大きくなることを抑制することができる。
本発明の一実施形態において、式(I)中の[〔I(60)+I(90)〕/P1](配向PA)は、好ましくは0.230以上、より好ましくは0.240以上、さらに好ましくは0.250以上、さらにより好ましくは0.260以上、特に好ましくは0.270以上、特により好ましくは0.280以上、特にさらに好ましくは0.290以上、極めて好ましくは0.300以上である。配向PAが前記下限以上であると、厚み方向に受けた力を分散、吸収しやすくなるので、積層フィルムの突刺強度をより向上できる。式(I)中の[〔I(60)+I(90)〕/P1](配向PA)は、好ましくは0.850以下、より好ましくは0.700以下、さらに好ましくは0.500、さらにより好ましくは0.450以下、特に好ましくは0.400以下、特により好ましくは0.350以下であり、例えば0.300以下であってもよい。配向PAが前記上限以下であると、積層フィルムの突刺強度をより向上でき、またドリル等による加工で貫通孔を設ける際に、バリの発生やバリが大きくなることを抑制することができる。
本発明の一実施形態において、式(I)中の[〔I(0)+I(30)〕/P2](配向PB)は、好ましくは0.300以上、より好ましくは0.400以上、さらに好ましくは0.500以上、さらにより好ましくは0.550以上、特に好ましくは0.570以上であり、例えば0.590以上、0.600以上又は0.615以上であってもよい。配向PBが前記下限以上であると、厚み方向に対する強度(又は弾性力)が大きくなり得るため、積層フィルムの突刺強度をより向上でき、またドリル等による加工で貫通孔を設ける際に、バリの発生やバリが大きくなることを抑制することができる。式(I)中の[〔I(0)+I(30)〕/P2](配向PB)は、好ましくは0.900以下、より好ましくは0.850以下、さらに好ましくは0.800以下、さらにより好ましくは0.750以下、特に好ましくは0.700以下である。配向PBが前記上限以下であると、積層フィルムの突刺強度をより向上でき、また積層フィルムの柔軟性を向上することができる。
本発明の一実施形態において、本発明の積層フィルムは、更に、式(IV):
[〔I(60)+I(90)〕/P1]×[I(30)/P2]≧0.055 (IV)
の関係を満たすことが好ましい。本発明の積層フィルムが式(IV)の関係を満たすと、積層フィルムの突刺強度をより向上できる。これは、厚み方向に若干傾いた方向である30°方向の配向成分が増加すると、厚み方向にかかった力をより分散、吸収しやすくなり、高強度になりやすいからだと考えられる。
本発明の一実施形態において、式(IV)中の[〔I(60)+I(90)〕/P1](配向PA)×[I(30)/P2](配向パラメータC又は配向PCということがある)は、好ましくは0.060以上、より好ましくは0.063以上、さらに好ましくは0.067以上、さらにより好ましくは0.070以上、特に好ましくは0.073以上である。式(IV)中の[配向PA×配向PC]が前記下限以上であると、厚み方向にかかった力がより分散、吸収しやすくなるので、積層フィルムの突刺強度をより向上できる。式(IV)中の[配向PA×配向PC]は、好ましくは0.500以下、より好ましくは0.300以下、さらに好ましくは0.250以下、さらにより好ましくは0.200以下、特に好ましくは0.150以下、特により好ましくは0.100以下であり、例えば0.090以下又は0.073以下であってもよい。[配向PA×配向PC]が前記上限以下であると、積層フィルムの突刺強度をより向上でき、またドリル等による加工で貫通孔を設ける際に、バリの発生やバリが大きくなることを抑制することができる。
本発明の一実施形態において、式(IV)中の[I(30)/P2](配向PC)は、好ましくは0.150以上、より好ましくは0.170以上、さらに好ましくは0.200以上、さらにより好ましくは0.230以上である。配向PCが前記下限以上であると、積層フィルムの突刺強度をより向上できる。式(IV)中の[I(30)/P2](配向PC)は、好ましくは0.600以下、より好ましくは0.5000以下、さらに好ましくは0.400以下、さらにより好ましくは0.350以下、特に好ましくは0.300以下であり、例えば0.270以下であってもよい。配向PCが前記上限以下であると、積層フィルムの突刺強度をより向上でき、またドリル等による加工で貫通孔を設ける際に、バリの発生やバリが大きくなることを抑制しやすい。
本発明の一実施形態において、積層フィルムにおける前記[I(0)/P2]は、好ましくは0.200以上、より好ましくは0.250以上、さらに好ましくは0.300以上、さらにより好ましくは0.320以上であり、例えば0.350以上であってもよく、好ましくは0.600以下、より好ましくは0.550以下、さらに好ましくは0.500以下、さらにより好ましくは0.475以下、特に好ましくは0.450以下、特により好ましくは0.400以下である。前記[I(0)/P2]が前記範囲内であると、積層フィルムの突刺強度を高めやすく、またドリル等による加工で貫通孔を設ける際に、バリの発生やバリが大きくなることを抑制しやすい。
本発明の一実施形態において、積層フィルムにおける前記[I(60)/P2]は、好ましくは0.500以下、より好ましくは0.400以下、さらに好ましくは0.350以下、さらにより好ましくは0.300以下、特に好ましくは0.270以下、特により好ましくは0.250以下であり、例えば0.220以下、0.210以下又は0.200以下であってもよく、好ましくは0.050以上、より好ましくは0.100以上、さらに好ましくは0.125以上、さらにより好ましくは0.150以上、特に好ましくは0.170以上である。前記[I(60)/P2]が上記範囲内であると、積層フィルムの突刺強度を高めやすく、またドリル等による加工で貫通孔を設ける際に、バリの発生やバリが大きくなることを抑制しやすい。
本発明の一実施形態において、積層フィルムにおける前記[I(90)/P2]は、好ましくは0.500以下、より好ましくは0.400以下、さらに好ましくは0.300以下、さらにより好ましくは0.250以下、特に好ましくは0.230以下であり、例えば0.220以下、0.210以下又は0.205以下であってもよく、好ましくは0.050以上、より好ましくは0.100以上、さらに好ましくは0.150以上、さらにより好ましくは1.60以上、特に好ましくは1.80以上である。前記[I(90)/P2]が前記範囲内であると、積層フィルムの突刺強度を高めやすく、またドリル等による加工で貫通孔を設ける際に、バリの発生やバリが大きくなることを抑制しやすい。
本発明の一実施形態において、積層フィルムにおける前記[I(60)/P1]は、好ましくは0.030以上、より好ましくは0.050以上、さらに好ましくは0.075以上、さらにより好ましくは0.100以上、特に好ましくは0.130以上、特により好ましくは0.150以上であり、好ましくは0.500以下、より好ましくは0.300以下、さらに好ましくは0.250以下、さらにより好ましくは0.225以下、特に好ましくは0.200以下である。前記[I(60)/P1]が前記範囲内であると、積層フィルムの突刺強度を高めやすく、またドリル等による加工で貫通孔を設ける際に、バリの発生やバリが大きくなることを抑制しやすい。
本発明の一実施形態において、[I(90)/P1]は、好ましくは0.050以上、より好ましくは0.070以上、さらに好ましくは0.100以上、さらにより好ましくは0.120以上、特に好ましくは0.130以上、特により好ましくは0.145以上であり、好ましくは0.500以下、より好ましくは0.400以下、さらに好ましくは0.250以下、さらにより好ましくは0.200以下、特に好ましくは0.180以下であり、例えば0.150以下であってもよい。前記[I(90)/P1]が前記範囲内であると、積層フィルムの突刺強度を高めやすく、またドリル等による加工で貫通孔を設ける際に、バリの発生やバリが大きくなることを抑制しやすい。
本発明の一実施形態において、[I(0)/P1]は、好ましくは0.600以下、より好ましくは0.500以下、さらに好ましくは0.480以下であり、好ましくは0.100以上、より好ましくは0.200以上、さらに好ましくは0.250以上、さらにより好ましくは0.300以上、特に好ましくは0.350以上、特により好ましくは0.400以上である。前記[I(0)/P1]が前記範囲内であると、積層フィルムの突刺強度を高めやすく、またドリル等による加工で貫通孔を設ける際に、バリの発生やバリが大きくなることを抑制しやすい。
本発明の一実施形態において、[I(30)/P1]は、好ましくは0.600以下、より好ましくは0.500以下、さらに好ましくは0.450以下、さらにより好ましくは0.400以下、特に好ましくは0.320以下、特により好ましくは0.300以下、特にさらに好ましくは0.280以下、極めて好ましくは0.270以下であり、好ましくは0.150以上、より好ましくは0.170以上、さらに好ましくは0.200以上であり、例えば0.245以上であってもよい。前記[I(30)/P1]が前記範囲内であると、積層フィルムの突刺強度を高めやすく、またドリル等による加工で貫通孔を設ける際に、バリの発生やバリが大きくなることを抑制しやすい。
本発明の一実施形態において、本発明の積層フィルムは、層(PI-1)と層(PI-2)との間に中間領域を有することが好ましい。該中間領域は、走査型プローブ顕微鏡(SPMということがある)により、積層フィルムの厚み方向断面の弾性率を厚み方向に沿って連続的に測定したときに、該弾性率が、層(PI-1)の平均弾性率(1)から層(PI-2)の平均弾性率(2)に至るまで連続的に変化する領域である。本明細書において、「走査型プローブ顕微鏡により測定される弾性率」を「SPMによる弾性率」又は「DMT弾性率」ということがある。
本発明の積層フィルムは、中間領域を有することにより、積層フィルムの突刺強度をより向上できる。これは、DMT弾性率が厚み方向に沿って連続的に変化する中間領域を有すると厚み方向にかかる力を分散、吸収させやすくなるからだと推定される。
中間領域の厚みは、通常50nm以上、好ましくは100nm以上、より好ましくは250nm以上又は250nm超、さらに好ましくは270nm以上、さらにより好ましくは300nm以上、特に好ましくは350nm以上、特により好ましくは380nm以上、特にさらに好ましくは450nm以上、特にさらにより好ましくは600nm以上、極めて好ましくは1000nm以上、極めてより好ましくは1500nm以上、極めてさらに好ましくは1700nm以上、極めて特に好ましくは2000nm以上、極めて特により好ましくは2300nm以上であり、例えば、2600nm以上又は2700nm以上であってもよい。該中間領域の厚みが前記下限以上であると、厚み方向にかかる力をより分散、吸収させやすくなるため、積層フィルムの突刺強度をより向上できる。また、中間領域の厚みは、通常10000nm以下、好ましくは8000nm以下、さらに好ましくは5000nm以下、さらにより好ましくは3500nm以下であり、例えば3000nm以下、2800nm未満、又は2700nm以下であってもよい。中間領域の厚みが前記上限以下であると、ドリル等による加工で貫通孔を設ける際に、バリの発生やバリが大きくなることを抑制することができる。なお、積層フィルムがPI系樹脂含有層を3層以上有する場合、少なくともいずれかの隣接する2層のPI系樹脂含有層の間で中間領域の厚みが上記の範囲を満たすことが好ましい。なお、本明細書において、式(I)中の[配向PA×配向PB]、及び/又は式(IV)中の[配向PA×配向PC]を「パラメータX」ということがある。
以下、中間領域及びその厚さの測定方法について説明する。
(2-1)試験片(試料)の作成
積層フィルムの厚み方向の断面出しを行い、これを試験片(試料)とする。積層フィルムの厚み方向の断面が観察できれば試験片の作成方法は特に限定されないが、上記の(1-1)の項に記載の方法により試料を得ることができる。
(2-2)各層のDMT弾性率像の取得
積層フィルムにおけるDMT弾性率は、SPMにより求められる試料の変形量と試料にかかる荷重の関係(フォースカーブ)に対して、DMT(Derjaguim-Muller-Toporov)理論を適用することで求めることができ、試料上の2次元平面でマッピング測定を行うことでDMT弾性率像を取得することができる。例えば、Bruker社製のSPMに、ばね定数が4~60N/mのカンチレバーを取り付け、Peak Force QNM(Quantitative Nanomechanical Mapping)のモードを用い測定することで、DMT弾性率像を取得することができる。なお、DMT弾性率像を取得する範囲には、少なくとも隣接する2層及びそれらの界面が含まれるようにし、好ましくは隣接する2層の界面が中心付近(DMT弾性率像の縦軸(X軸)の中央付近)に位置するように設定することが好ましい。
次に、図3及び図4を用いて、各点におけるDMT弾性率の測定方法の詳細を説明する。なお、図3、図4、及び後述の図5~図7は、中間領域及びその厚さを求める方法をわかりやすく説明するために用いたものであり、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
図3は、本発明の一実施形態にかかる積層フィルムにおいて、試料断面の任意の点で得られたフォースカーブを示すグラフであり、図4は、本発明の一実施形態にかかる積層フィルムにおいて、試料断面のDMT弾性率像及び座標軸を示す図である。図3において、フォースカーブの縦軸(applied load/nN)は荷重F=kdで表され、横軸(indentation depth/nm)は試料の変形量δ=Δz-dで表される。kはバネ定数(N/m)を示し、dはバネの反り量(m)を示し、zは針の位置(m)を示す。dはレーザーで検知でき、zはピエゾスキャナーで感知できる。
まず、カンチレバーを試料に近づけると、試料と接触した後、カンチレバー探針の先端が最大荷重に達するまで試料に押し込まれる。これに伴い、図3に示すように押し込み過程のフォースカーブ(点A→点B→点C)を得ることができる。点Bにおいては、試料と接触したときに、凝着力の影響を受けるため、荷重が負の方向にかかる。次に、最大荷重まで試料に押し込まれたカンチレバーを引き戻すと、試料表面で除荷、凝着後、カンチレバー探針が試料表面から離れる。これに伴い、図3に示すように引戻過程のフォースカーブ(点C→点D→点E)を得ることができる。
各点におけるDMT弾性率は、引戻過程のフォースカーブに対して、DMT理論式による解析を行うことで算出できる。具体的には、フォースカーブの引戻過程におけるF値の最小値から最大値までの数値を0から1までの数値に置き換えたときに、0.05から0.7までの範囲についてフィッティングを行い、DMT弾性率を算出する。DMT弾性率像を取得したい範囲における全ての測定点でDMT弾性率を取得することによりDMT弾性率像を得ることができる。また、DMT理論式による解析は、SPMに付属の解析ソフト(例えば、NanoScope Analysis ver.2.00)の使用や、公知の方法で行うことができ、後者の場合、例えば、下記の式(a)などを用いて算出することができる。
[式中、Fは荷重(カンチレバー(バネ)が感知する力)を示し、Felasは弾性変形の応力を示し、Fadhは凝着力を示し、Eは弾性率(Pa又はN/m)を示し、Rはカンチレバー探針の先端半径(m)を示し、δは押し込み深さ(m)を示し、wは凝着エネルギー(N/m又はJ/m)を示し、Fadhにはフォースカーブの極小値(点EにおけるF値)を代入することができる]
SPM測定において、測定雰囲気は、室温、例えば24℃、大気下で行うことができ、カンチレバーの移動速度は0.4μm/s、最大荷重は40nNに設定できる。また、カンチレバーのバネ定数及び探針の先端半径は、SPM装置に内蔵されている数値を用いたり、公知の方法により算出することができる。例えばバネ定数はSader Methodにより算出された値であってもよく、探針の先端半径はReconstruction法により算出された値であってもよい。
(2-3)各層の平均DMT弾性率の算出
上記で得られたDMT弾性率像[上側が層(PI-2)、下側が層(PI-1)]を座標に読み替えたとき、例えば、DMT弾性率像のY座標を上から下に向かって0~1、X座標を左から右に向かって0~1としたとき、(X,Y)=(0,0)から(1,0.4)までのDMT弾性率の平均値を算出し、層(PI-2)の平均DMT弾性率(2)を得ることができる。また、(X,Y)=(0,0.6)から(1,1)までのDMT弾性率の平均値を算出し、層(PI-1)の平均DMT弾性率(1)を得ることができる。図4は、試料断面の横(面内方向)5μm×縦(厚み方向)5μmの範囲で、横256点×縦256点を測定することで得たDMT弾性率像を示し、左上端を(X,Y)=(0,0)、左下端を(X,Y)=(0,255)、右上端を(X,Y)=(255,0)、右下端を(X,Y)=(255,255)と座標を配置している。(0,0)から(255,99)までの256×100点のDMT弾性率の平均値を算出することで、層(PI-2)の平均DMT弾性率(2)を得ることができ、また、(X,Y)=(0,126)から(255,255)までの256×129点のDMT弾性率の平均値を算出することで、層(PI-1)の平均DMT弾性率(1)を得ることができる。
このようにして、層(PI-1)の平均DMT弾性率(1)及び層(PI-2)の平均DMT弾性率(2)を求めることができる。
上記のDMT弾性率像を得る範囲は、横(面内方向)及び縦(厚み方向)の距離が、好ましくは積層フィルムの厚みの0.05~0.6倍であり、より好ましくは0.08~0.5倍、さらに好ましくは0.1~0.4倍である。例えば、厚みが20~65μmの積層フィルムにおいて、DMT弾性率像を得る範囲は、横3μm以上×縦3μm以上であればよく、好ましくは横5μm以上×縦5μm以上、より好ましくは横10μm以上×縦10μm以上であり、横10μm×縦10μmであってよい。また、DMT弾性率を測定する点(箇所)の数は、中間領域を求める精度を上げる観点から、100点以上×100点以上であればよく、好ましくは128点以上×128点以上、より好ましくは200点以上×200点以上、さらに好ましくは256点以上×256点以上、さらにより好ましくは512点×512点であってよい。分解能は、DMT弾性率像を得る範囲と測定点数により一義的に決まるが、中間領域の厚さが小さい場合は、好ましくは40nm/pixcel以下、より好ましくは20nm/pixel以下の分解能で測定することが好ましい。
(2-4)中間領域及びその厚み
中間領域の厚みを算出する方法の一例を説明する。図5は、図4のDMT弾性率像中のX=40,80,120,160,200の箇所を示す図である。図6は、図4のDMT弾性率像中のX=40のDMT弾性率プロファイルを示すグラフである。図7は、図4のDMT弾性率像により得られる平均DMT弾性率プロファイルの9点移動平均線及び中間領域の厚みを示すグラフである(平均DMT弾性率プロファイルの9点移動平均線の中間領域付近を抜粋し、中間領域が中心付近となるようにY座標を付けなおした)。
上記で得られたDMT弾性率像(Y座標を上から下に向かって0~1、X座標を左から右に向かって0~1としたDMT弾性率像)において、例えばX座標において0.2間隔ごとに離れた位置で、それぞれY=0~1に対応するDMT弾性率プロファイル(横軸:pixel、縦軸:DMT弾性率(GPa))を得る。具体的には、DMT弾性率像においてX=0.2、Y=0~1[(X,Y)=(0.2,0)~(0.2,1)]におけるDMT弾性率を縦軸とし、対応するY座標を横軸としてプロットすることにより、X=0.2のときのDMT弾性率プロファイルを得ることができる。このDMT弾性率プロファイルを別のXの位置に対しても作成する。すなわち、DMT弾性率像において、積層フィルムの面内方向に等間隔に離れた複数のラインそれぞれにおいて、積層フィルムの厚み方向に沿って連続的に測定されたDMT弾性率のプロファイルを得る。
次に、得られた複数のDMT弾性率プロファイルについて、DMT弾性率像のY座標(0~1)ごとにDMT弾性率の平均値を算出し、平均DMT弾性率プロファイルを作成する。さらに平均DMT弾性率プロファイルにおいて、平均DMT弾性率プロファイルの9点移動平均線を作成する。その際、横軸のDMT弾性率像のY座標は、pixel単位からnm単位に換算する。次に、平均DMT弾性率プロファイルの9点移動平均線のグラフに、上記で求めた層(PI-1)の平均DMT弾性率(1)に相当する横線(横線1とする)と、上記で求めた層(PI-2)の平均DMT弾性率(2)に相当する横線(横線2とする)とを引くと、これらの横線1と横線2との間の領域を中間領域とすることができ、この領域の幅(Y座標の距離)を中間領域の厚みとすることができる。すなわち、中間領域は、積層フィルムの厚み方向断面のDMT弾性率を厚み方向に沿って連続的に測定したときに、該DMT弾性率が、層(PI-1)の平均DMT弾性率(1)から層(PI-2)の平均DMT弾性率(2)に至るまで連続的に変化する領域ということができる。
平均DMT弾性率プロファイルを得るために取得するプロファイルの数は、3点以上であればよく、好ましくは5点以上、より好ましくは5点であってよい。また、移動平均線は、5点以上の移動平均線であればよく、好ましくは9点以上、より好ましくは9点であってよい。
層(PI-1)の平均DMT弾性率(1)、層(PI-2)の平均DMT弾性率(2)及び中間領域の厚みを正確に測定する観点から、中間領域の厚みが弾性率像を得る範囲の60%を超えた場合には、視野を拡大し、再測定することが好ましい。中間領域の厚みは弾性率像を得る範囲の好ましくは60%以下である。
層(PI-1)及び層(PI-2)の平均DMT弾性率を測定する範囲は、層(PI-1)と層(PI-2)の間の中間領域を除く範囲であればよく、DMT弾性率像を得る範囲と中間領域の大きさに応じて適宜変更することができる。該範囲は、中間領域のおおよその位置を前記DMT弾性率像から予測し、決定することができるが、前述の平均DMT弾性率プロファイルの移動平均線において、DMT弾性率が連続的に変化しない領域を確認した上で決定することが好ましい。限定されないが、本発明の一実施形態では、例えば図7に示される9点移動平均線において、層(PI-1)に対応する略波形状部(1)と、層(PI-2)に対応する略波形状部(2)との間にDMT弾性率が連続的に変化する中間領域が存在するが、略波形状部(1)の中間領域に最も近い山の頂点(極大値)から、略波形状部(2)の中間領域に最も近い谷の頂点(極小値)までの範囲を除いて、層(PI-1)の平均DMT弾性率(1)及び層(PI-2)の平均DMT弾性率(2)を測定してもよい。また、平均DMT弾性率(1)及び平均DMT弾性率(2)は、それぞれ、好ましくは1500点以上、より好ましくは2000点以上、さらに好ましくは3000点以上、特に好ましくは5000点以上の測定値から求めることが好ましい。
中間領域及びその厚みは、上述の方法により特定することができる。なお、中間領域及びその厚みは、例えば実施例に記載の方法により求めることができる。
以下、図5~図7を用いて、中間領域及びその厚みを算出する方法の一例を更に具体的に説明する。図5は、図4のDMT弾性率像中のX=40,80,120,160,200の箇所を示す図である。図6は、図4のDMT弾性率像中のX=40のときのDMT弾性率プロファイルであり、X=40、Y=0~255[(X,Y)=(40,0)~(40,255)]におけるDMT弾性率を縦軸とし、対応するY座標を横軸としてプロットしたものである。同様にして、該DMT弾性率像において、X=80,120,160,200それぞれのときに、Y=0~255に対応するDMT弾性率プロファイルを作成することにより、5ラインそれぞれにおいて、積層フィルムの厚み方向に沿って連続的に測定されたDMT弾性率のプロファイルを得る。得られた5本のDMT弾性率プロファイルについて、DMT弾性率像のY座標(0~255)ごとにDMT弾性率の平均値を算出し、平均DMT弾性率プロファイルを作成し、さらに平均DMT弾性率プロファイルにおいて、図7に示すような平均DMT弾性率プロファイルの9点移動平均線を作成する。平均DMT弾性率プロファイルの該9点移動平均線のグラフと、層(PI-1)の平均DMT弾性率値を示す横線1、及び層(PI-2)の平均DMT弾性率値を示す横線2から、中間領域及びその厚みを求めることができる。
式(I)中の[配向PA×配向PB]、式(IV)中の[配向PA×配向PC]や中間領域の厚さは、それぞれ、各PI系樹脂含有層に含まれるPI系樹脂を構成する構成単位の種類及びそれらの構成、PI系樹脂の分子量、積層フィルムにおける各PI系樹脂含有層の構成及びその組み合わせ、及び/又は、成膜における塗工条件、イミド化時の多層塗膜の状態、イミド化条件等の製造方法などを適宜調整することによって制御し得る。例えば、後述する突刺強度の向上やDfの低減等に有利な好ましい態様、例えば、後述の好ましいPI系樹脂の構成単位及びその含有量、後述の好ましいPI系樹脂前駆体溶液に含まれる溶媒、後述の好ましいイミド化時の多層塗膜の状態、後述の好ましいイミド化条件等に基づいて、式(I)中の[配向PA×配向PB]、式(IV)中の[配向PA×配向PC]や中間領域の厚さを適宜調整することができる。特に、後述の通り、イミド化時に多層塗膜全体に溶媒が十分に存在した状態(又は良く馴染んだ状態)でイミド化すること、好ましくは後述の静置工程を経ることにより、式(I)中の[配向PA×配向PB]、式(IV)中の[配向PA×配向PC]や中間領域の厚さが大きくなる傾向があり、これらのパラメータXや中間領域の厚さを上記の所望の範囲に調整し得る。また、イミド化の際に多層塗膜全体に溶媒が十分に存在する状態を作ること、隣接する各PI系樹脂含有層を異なる層(好ましくはそれぞれmPI層及びTPI層)とすること、及び/又は隣接する各PI系樹脂含有層を異なる厚みとすること等により、式(I)中の[配向PA×配向PB]、式(IV)中の[配向PA×配向PC]や中間領域の厚さが大きくなりやすい傾向があり、これらのパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に調整しやすい。
<層構成>
式(I)~(III)を満たす積層フィルムを得るために好適な構成について説明する。式(I)~(III)を満たす積層フィルムは、高い突刺強度を有し、特に好ましくは高い突刺強度を有しながら、5G等の高速通信用途に適する誘電特性を有する。
なお、本明細書において、誘電特性とは、Df、Dk等の誘電に関する特性を意味し、誘電特性が高まる又は向上するとは、Df及び/又はDkが低減することをいう。また、機械物性とは、突刺強度、屈曲耐性、及び、弾性率(DMT弾性率を含む)を含む機械的物性を意味し、機械物性が高まる又は向上するとは、例えば、突刺強度、屈曲耐性、及び/又は弾性率が高くなることをいう。さらに、熱物性には、CTE、ガラス転移温度(以下、Tgと記載することがある)、熱による変性や劣化の程度等が含まれ得、熱物性が高まる又は向上するとは、例えば、CTEが低くなること、Tgが高くなること、及び/又は、熱による変性や劣化が少ないこと等を意味する。
本発明の積層フィルムは、PI系樹脂含有層(PI-1)とPI系樹脂含有層(PI-2)とを含む。本発明の積層フィルムは、これらのPI系樹脂含有層以外の他のPI系樹脂含有層を含んでいてもよく、PI系樹脂含有層以外の他の層を含んでいてもよい。他の層としては、PI系樹脂含有層を金属箔層に貼合するための粘接着剤層などが挙げられる。本発明の好適な実施形態では、積層フィルムの突刺強度を高める観点から、本発明の積層フィルムは、PI系樹脂含有層(PI-1)及びPI系樹脂含有層(PI-2)に加え、さらにPI系樹脂含有層(PI-3)を含むことが好ましい。かかる実施形態では、本発明の積層フィルムは、積層フィルムの突刺強度を高める観点から、PI系樹脂含有層(PI-2)、PI系樹脂含有層(PI-1)及びPI系樹脂含有層(PI-3)をこの順に含むことが好ましく、互いに隣接してこの順に含むことがより好ましい。なお、PI系樹脂含有層(PI-1)、PI系樹脂含有層(PI-2)及びPI系樹脂含有層(PI-3)(PI系樹脂含有層(PI-1)~(PI-3)又は層(PI-1)~(PI-3)と表記することがある)を含む積層フィルムを積層フィルム(L)ということがある。
本発明の好適な実施形態における積層フィルム9は、図8に示されるように、3層の隣接するPI系樹脂含有層11、PI系樹脂含有層12及びPI系樹脂含有層13から構成され、金属箔14上に積層されて積層シート10を構成し、パラメータXや中間領域の厚さを上記特定の範囲に制御しやすく、より一層高い突刺強度や誘電特性を実現し得る観点からは、好ましくはPI系樹脂含有層11が層(PI-2)に、PI系樹脂含有層12が層(PI-1)に、PI系樹脂含有層13が層(PI-3)に相当する。また、積層フィルム9は、層(PI-1)、層(PI-2)及び層(PI-3)以外の他のPI系樹脂含有層や、PI系樹脂含有層以外の他の層を含んでいてもよい。他の層としては、PI系樹脂以外のアクリル系樹脂などの高分子材料等から形成される粘接着剤層などが挙げられる。
本発明の一実施形態において、積層フィルムの厚みは、好ましくは20μm以上、より好ましくは25μm以上、さらに好ましくは30μm以上、さらにより好ましくは35μm以上、特に好ましくは40μm以上であり、好ましくは150μm以下、より好ましくは130μm以下、さらに好ましくは100μm以下、さらにより好ましくは90μm以下、特に好ましくは80μm以下、特により好ましくは70μm以下、特にさらに好ましくは60μm以下である。積層フィルムの厚みが前記範囲内であると、積層フィルムは、高い突刺強度やフレキシブルプリント回路基板等に適する柔軟性などの機械物性を備え得る。また、積層フィルムのDfを低減するとともに、突刺強度を向上させ得るため、フレキシブルプリント回路基板に適する機械物性と5G等の高速通信用途に適する誘電特性とをバランスよく備えた積層フィルムを得ることができる。
本発明の積層フィルムにおいて、層(PI-1)の厚みは10μm以上であり、層(PI-2)の厚みは2μm以上である。層(PI-1)及び層(PI-2)の厚みが前記下限以上であると、積層フィルムの突刺強度をより向上できる。層(PI-1)の厚みは、好ましくは15μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは30μm以上であり、好ましくは80μm以下、より好ましくは60μm以下、さらに好ましくは55μm以下、さらにより好ましくは50μm以下である。また、層(PI-2)の厚みは、好ましくは2.5μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは3.5μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下、さらに好ましくは10μm以下、さらにより好ましくは8μm以下である。なお、各層の厚みは、例えばレーザー顕微鏡やSPMなどを用いて測定でき、例えば、積層フィルムが層(PI-1)と層(PI-2)との間に前記中間領域を有する場合、SPMにより中間領域の厚みを求め、層(PI-1)の表面と中間領域との界面までの距離を層(PI-1)の厚みとし、層(PI-2)の表面と中間領域との界面までの距離を層(PI-2)の厚みとすることができる。また、例えば、積層フィルム(L)が層(PI-1)と層(PI-2)との間に中間領域1、層(PI-1)と層(PI-3)との間に中間領域2を有する場合、層(PI-1)の厚みは、上記のようにして、中間領域1、中間領域2、層(PI-2)及び層(PI-3)を求め、これらの合計厚みを積層フィルムの厚み(全厚)から差し引くことにより求めることができる。
本発明の積層フィルムが層(PI-3)を有する場合、層(PI-3)の厚みは、上記層(PI-2)の厚みの範囲から選択してもよい。層(PI-2)の厚みと層(PI-3)の厚みとは、互いに同じであっても、異なっていてもよいが、積層フィルムの反りを抑制する観点からは、好ましくは一方の値が他方の値の±25%の範囲内、より好ましくは±20%の範囲内である。また、積層フィルムが層(PI-3)を有する場合、層(PI-1)の厚みは、層(PI-1)と層(PI-2)との間の中間領域、層(PI-1)と層(PI-3)との間の中間領域、層(PI-2)及び層(PI-3)それぞれの厚さ、並びに積層フィルム全体の厚さを求め、積層フィルム全体の厚さから、2つの中間領域、層(PI-2)及び層(PI-3)の合計厚さを差し引いて求めてもよい。なお、各層の厚みは、例えば実施例に記載の方法により求めてもよい。
本発明の一実施形態において、層(PI-2)及びの厚みは、層(PI-1)の厚みの0.05~0.3倍であることが好ましい。前記厚みが前記関係にある場合、積層フィルムは、高い突刺強度やフレキシブルプリント回路基板に適する柔軟性などの機械物性を備え得る。また、積層フィルムのDfを低減するとともに、突刺強度を向上させ得るため、フレキシブルプリント回路基板に適する機械物性と5G等の高速通信用途に適する誘電特性とをバランスよく備えた積層フィルムを得ることができる。特に、積層フィルムの厚みが20~100μmであり、かつ、層(PI-2)の厚みが、それぞれ、層(PI-1)の厚みの0.05~0.3倍である場合に前記本発明の効果はより得られやすくなる。層(PI-2)の厚みは、それぞれ、層(PI-1)の厚みに対し、より好ましくは0.08倍以上、さらに好ましくは0.10倍以上、特に好ましくは0.12倍以上であり、より好ましくは0.25倍以下、さらに好ましくは0.23倍以下、特に好ましくは0.20倍以下である。なお、本発明の積層フィルムが層(PI-3)を有する場合、層(PI-3)の厚みは、上記層(PI-2)の範囲から選択してもよい。
本発明の積層フィルムにおいて、層(PI-1)及び層(PI-2)を構成するポリイミド系樹脂はその種類は特に限定されないが、優れた誘電特性を維持しつつ、突刺強度を高める観点から、層(PI-1)及び層(PI-2)はそれぞれ、非熱可塑性のポリイミド系樹脂含有層(以下、mPI層と記載することがある)又は熱可塑性のポリイミド系樹脂含有層(以下、TPI層と記載することがある)であることが好ましく、層(PI-1)及び層(PI-2)のうち、一方はmPI層であり、他方はTPI層であることがより好ましい。
mPI層は、一般に、フレキシブルプリント回路基板用途の積層フィルムにおいて主となるPI系樹脂含有層となる。TPI層は、積層フィルムを金属箔(例えば銅箔)と接着する接着層としても機能し得る層であり、積層フィルムにおいて金属箔と接し得る最外層に位置することが好ましい。
PI系樹脂含有層を3層以上含む積層フィルムにおいては、少なくとも1層のPI系樹脂含有層がmPI層であり、少なくとも1層(好ましくは少なくとも2層)のPI系樹脂含有層がTPI層であることが好ましく、TPI層、mPI層、TPI層をこの順に備えることがより好ましい。したがって、積層フィルム(L)においては、層(PI-1)はmPI層であることが好ましく、層(PI-2)及び層(PI-3)はそれぞれTPI層であることが好ましい。積層フィルム(L)がこのような層構成であると、mPI層において向上した熱物性を確保して、熱変性や劣化を抑制し、積層フィルムの寸法安定性を確保し得るとともに、TPI層によって金属箔(例えば銅箔)との接着性を高めることができる。
積層フィルム(L)に複数層のTPI層又はmPI層が含まれる場合、複数層含まれるTPI層又はmPI層の構成はそれぞれ同じであっても、異なっていてもよい。また、積層フィルム(L)においては、通常、層(PI-1)と、層(PI-2)及び層(PI-3)との構成は異なるが、層(PI-2)と層(PI-3)との構成は同じであっても、異なっていてもよい。
<PI系樹脂>
本発明の積層フィルムにおいて、各PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂は、式(I)~(III)を満たすようPI系樹脂含有層を構成し得るものであればよい。PI系樹脂は、イミド基を含む繰返し構造単位を含有する樹脂であり、イミド基及びアミド基の両方を含む繰り返し構造単位を含んでいてもよい。
なお、本発明において「非熱可塑性」のポリイミド系樹脂とは、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した40℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、かつ、300℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であるポリイミド系樹脂を意味し、「熱可塑性」のポリイミド系樹脂とは、40℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、かつ、300℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa未満であるポリイミド系樹脂を意味する。なお、貯蔵弾性率は、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
本発明において各PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂は、積層フィルムの突刺強度や誘電特性を高める観点から、テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)とジアミン由来の構成単位(B)とを含むことが好ましい。なお、本発明において「由来の構成単位」とは、「由来する構成単位」を意味し、例えば「テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)」は「テトラカルボン酸無水物に由来する構成単位(A)」を意味する。また、「PI系樹脂含有層が構成単位(A)を含む」とは、該「PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂が構成単位(A)を含む」ことを意味し、他の構成単位においても同様である。
(テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A))
テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)(以下、単に、構成単位(A)と略すことがある)は、例えば、式(1):
[式(1)中、Yは4価の有機基を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位であることが好ましい。
式(1)において、Yは、互いに独立に4価の有機基を表し、好ましくは炭素数4~40の4価の有機基を表し、より好ましくは環状構造を有する炭素数4~40の4価の有機基を表す。環状構造としては、脂環、芳香環、ヘテロ環構造が挙げられる。前記有機基は、有機基中の水素原子がハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基又はハロゲン化炭化水素基で置換されていてもよく、その場合、これらの基の炭素数は好ましくは1~8である。本発明においてPI系樹脂は、複数種のYを含み得、複数種のYは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。Yとしては、式(31)~式(40)で表される基又は構造;式(31)~式(40)で表される基中の水素原子がメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基;4価の炭素数1~8の鎖式炭化水素基などが挙げられる。
[式(31)~式(33)中、R19~R26及びR23’~R26’は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表し、R19~R26及びR23’~R26’に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
及びVは、互いに独立に、単結合(ただし、e+d=1のときを除く)、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-S-、-CO-、-N(R)-、又は式(a)
(式(a)中、R27~R30は、互いに独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、
Dは互いに独立に、単結合、-C(CH-又は-C(CFを表し、
iは1~3の整数を表し、
*は結合手を表す)
を表し、
は、水素原子、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表し、
e及びdは、互いに独立に、0~2の整数を表し(ただし、e+dは0ではない)、
fは0~3の整数を表し、
g及びhは、互いに独立に、0~4の整数を表し、
式(39)中、Zは2価の有機基を表し、
a3は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
sは互いに独立に、0~3の整数を表し、
式(40)中、Ra2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
lは、互いに独立に、0~3の整数を表し、
*は結合手を表す]。
本発明において各PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂は、それぞれ、積層フィルムの突刺強度、誘電特性や熱物性等を高める観点から、式(1)中のYとして、式(31)、式(32)、式(33)、式(39)及び式(40)で表される構造からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含むことが好ましく、ベンゼン骨格を含有する構造からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含むことがより好ましく、式(32)、式(39)及び式(40)で表される構造からなる群から選択される少なくとも1つの構造を含むことがさらに好ましい。
式(31)~式(33)において、R19~R26及びR23’~R26’は、互いに独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基が好ましく、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。
式(31)において、V及びVは、互いに独立に、好ましくは単結合(ただし、e+d=1のときを除く)、-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-又は-CO-を表し、より好ましくは単結合(ただし、e+d=1のときを除く)、-O-、-C(CH-又は-C(CF-を表す。
式(31)において、e及びdは、互いに独立に、好ましくは0又は1(ただし、e+dは0ではない)を表す。また、e+dは好ましくは1を表す。なお、式(31)において、eが0のときは、2つのベンゼン環はVで結合していないことを示し、dが0のときは、2つのベンゼン環はVで結合していないことを示す。
式(32)及び式(33)において、fは、好ましくは0又は1、より好ましくは0を表す。
式(33)において、g及びhは、互いに独立に、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1を表す。また、g+hは好ましくは0~2の整数を表す。なお、fが1以上の場合、複数のg及びhは、互いに独立に、同一であってもよく、異なっていてもよい。
式(a)において、R27~R30は、互いに独立に、好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子を表す。iは、好ましくは1又は2であり、iが2以上の場合、複数のD及びR27~R30は、互いに独立に、同一であってもよく、異なっていてもよい。
式(39)において、Zは、好ましくは炭素数4~40の2価の有機基を表し、より好ましくは環状構造を有する炭素数4~40の2価の有機基を表し、さらに好ましくは芳香環を有する炭素数4~40の2価の有機基を表し、特に好ましくは式(z1)、式(z2)及び式(z3):
[式(z1)~式(z3)中、Rz11~Rz14は、互いに独立に、水素原子、又はハロゲン原子を有してもよい1価の炭化水素基を表し、Rz2は、互いに独立に、ハロゲン原子を有してもよい1価の炭化水素基を表し、nは1~4の整数を表し、jは、互いに独立に、0~3の整数を表し、*は結合手を表す]
からなる群から選択される2価の有機基を表し、特により好ましくは式(z1)で表される2価の有機基を表す。
式(z1)において、Rz11~Rz14は、互いに独立に、好ましくは水素原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、より好ましくは水素原子、又はハロゲン原子を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、さらに好ましくは水素原子、又はハロゲン原子を有してもよい炭素数1~3のアルキル基、特に好ましくは水素原子を表す。式(z1)におけるRz11~Rz14を有するベンゼン環において、Rz11~Rz14の少なくとも1つがハロゲン原子を有してもよい1価の炭化水素基であってもよいが、Rz11~Rz14が全て水素原子であることが特に好ましい。
式(z1)において、nは、好ましくは1~3の整数、より好ましくは1又は2、さらに好ましくは2を表す。
式(z2)において、Rz2は、互いに独立に、好ましくはハロゲン原子を有してもよいアルキル基、より好ましくはハロゲン原子を有してもよい炭素数1~6のアルキル基、さらに好ましくはハロゲン原子を有してもよい炭素数1~3のアルキル基を表す。
式(z2)において、jは、好ましくは互いに独立に0又は1、より好ましくは0であり、さらに好ましくは、jは全て0である。
式(39)において、Ra3は、好ましくは互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表す。
a3に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、これらの中でも、Ra3は、互いに独立に、好ましくは炭素数1~6のアルキル基、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基を表す。
式(39)において、sは、好ましくは互いに独立に0~2の整数、より好ましくは0又は1を表す。
式(40)において、Ra2は、好ましくは互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表す。
a2に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、これらの中でも、Ra2としては、互いに独立に、好ましくは炭素数1~6のアルキル基、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基が挙げられる。
式(40)において、lは、好ましくは互いに独立に0~2の整数、より好ましくは0又は1を表す。
式(31)~式(33)、式(39)及び式(40)で表される構造の具体例としては、式(41)~式(56)で表される構造が挙げられる。なお、これらの式中、*は結合手を表す。
本発明の一実施形態において、PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂が式(1)中のYとして、式(31)~式(33)、式(39)及び式(40)で表される構造からなる群から選択される少なくとも1つを含む場合、式(1)中のYが式(31)~式(33)、式(39)及び式(40)で表される構造からなる群から選択される少なくとも1つで表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位の割合、特に式(1)中のYが式(32)、式(39)及び式(40)で表される構造からなる群から選択される少なくとも1つで表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位の割合は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であり、好ましくは100モル%以下である。前記割合が上記範囲であると、積層フィルムの突刺強度や誘電特性等の向上において有利である。
前記構成単位の割合は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。以下、PI系樹脂の構成単位の割合の算出において同じである。また、本明細書において、構成単位の「総量」とは、該構成単位が1つの単位からなる場合はその単位の量を表し、該構成単位が2以上の単位からなる場合はそれらの単位の合計量を表す。
(構成単位(A1)及び構成単位(A2))
本発明の一実施形態において、本発明の積層フィルムを構成する層(PI-1)及び層(PI-2)の少なくとも1層、又は層(PI-1)~層(PI-3)の少なくとも1層に含まれるPI系樹脂は、構成単位(A)を含み、該構成単位(A)が式(A1):
[式(A1)中、Ra1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
kは、0~2の整数を表す]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A1)(以下、単に構成単位(A1)と略すことがある)、及び/又は、式(A2):
[式(A2)中、Ra2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、lは、互いに独立に、0~3の整数である]
で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A2)(以下、単に構成単位(A2)と略すことがある)を含むことが好ましい。なお、本明細書において、「PI系樹脂含有層の少なくとも1層」又は「少なくとも1層のPI系樹脂含有層」は、「PI系樹脂含有層(PI-1)及びPI系樹脂含有層(PI-2)の少なくとも1層、又はPI系樹脂含有層(PI-1)~層(PI-3)の少なくとも1層」に読み替えることができる。
PI系樹脂が構成単位(A)として、構成単位(A1)及び/又は構成単位(A2)を含むと、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に制御しやすくなり、突刺強度や誘電特性を高めることができる。また、積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。
突刺強度、誘電特性やCTE等の向上の観点から、式(A1)及び式(A2)において、Ra1及びRa2は、好ましくは互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基である。
炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2-メチル-ブチル基、3-メチルブチル基、2-エチル-プロピル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。
炭素数1~6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基及びシクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
炭素数6~12のアリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基及びビフェニル基等が挙げられる。
a1及びRa2に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。これらの中でも、Ra1及びRa2は、互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
式(A1)におけるベンゼン環に結合する2つのカルボン酸無水物の結合位置は特に制限されないが、突刺強度、誘電特性やCTE等の向上の観点から、1,2-位と4,5-位、又は、1,2-位と3,4位であることが好ましく、1,2-位と4,5-位であることがより好ましい。kは、好ましくは0又は1であり、より好ましくは0である。
式(A2)におけるビフェニル骨格を構成するベンゼン環に結合する2つのカルボン酸無水物の結合位置は特に制限されず、2つのベンゼン環を結合する単結合を基準に、互いに独立に、3,4-、又は、2,3-であってもよく、突刺強度、誘電特性やCTE等の向上の観点から、3,4-であることが好ましい。
式(A2)におけるlは互いに独立に、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1、さらに好ましくは0である。
本発明の好適な一実施形態において、式(A1)は、式(A1-1):
で表される構成単位(A1-1)である。また、本発明の別の好適な一実施形態において、式(A2)は、式(A2-1):
で表される構成単位(A2-1)である。PI系樹脂が構成単位(A)として、構成単位(A1-1)及び/又は構成単位(A2-1)を含むと、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に制御しやすくなり、突刺強度や誘電特性の向上において有利になる。さらに、積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。
本発明の一実施形態において、PI系樹脂含有層が以下のいずれかの又は複数の構成を含むことが好ましい。
・積層フィルム中の層(PI-1)及び層(PI-2)、又は層(PI-1)~層(PI-3)においてPI系樹脂が、それぞれ構成単位(A1)及び構成単位(A2)の少なくとも一方を含む;
・積層フィルム中の層(PI-1)及び層(PI-2)、又は層(PI-1)~層(PI-3)においてPI系樹脂が、それぞれ構成単位(A1)を含む;
・積層フィルム中の少なくとも1層のPI系樹脂含有層、好ましくはTPI層においてPI系樹脂が構成単位(A1)と構成単位(A2)とを含む;
・積層フィルム中の少なくとも1層のPI系樹脂含有層、好ましくはTPI層においてPI系樹脂が構成単位(A1)と構成単位(A2)とを含み、かつ、別の少なくとも1層のPI系樹脂含有層、好ましくはmPI層においてPI系樹脂が構成単位(A1)及び/又は構成単位(A2)を含む。
・積層フィルム中の少なくとも1層のPI系樹脂含有層、好ましくはTPI層においてPI系樹脂が構成単位(A1)と構成単位(A2)とを含み、かつ、別の少なくとも1層のPI系樹脂含有層、好ましくはmPI層においてPI系樹脂が構成単位(A1)を含むが構成単位(A2)を実質的に含まない。なお、本明細書において、「構成単位を実質的に含まない」とは、その構成単位の含有量が1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下、特に好ましくは0.001質量%以下であることを意味する。例えば、構成単位(A2)を実質的に含まないとは、構成単位(A2)の含有量が、構成単位(A)の総量に対して1質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下、特に好ましくは0.001質量%以下であることを意味する。以下、他に明確に記載しない限り、他の構成単位に関しても同様である。
本発明の一実施形態において、PI系樹脂が構成単位(A1)及び/又は構成単位(A2)を含む場合、その含有量はそれぞれ、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上、さらにより好ましくは25%以上、特に好ましくは30モル%以上であり、また、好ましくは90モル%以下、より好ましくは85モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下、さらにより好ましくは75モル%以下、特に好ましくは70モル%以下である。構成単位(A1)及び構成単位(A2)の含有量がそれぞれ上記範囲であると、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に制御しやすくなり、突刺強度や誘電特性の向上において有利になる。さらに、積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。
また、本発明の一実施形態において、PI系樹脂が構成単位(A1)と構成単位(A2)とを含む場合、その含有量比(モル比、(A1):(A2))は、好ましくは10:90~90:10、より好ましくは15:85~80:20、さらに好ましくは20:80~70:30、さらにより好ましくは25:75~65:35である。構成単位(A1)と構成単位(A2)との含有量比が上記範囲であると、PI系樹脂が構成単位(A1)及び/又は構成単位(A2)を有することにより期待される本発明の上記効果が得られやすくなり、また、該効果をより一層高めることができる。
(構成単位(A3))
本発明の一実施形態において、本発明の積層フィルムを構成する層(PI-1)及び層(PI-2)の少なくとも1層、又は層(PI-1)~層(PI-3)の少なくとも1層に含まれるPI系樹脂は、構成単位(A)として、式(A3):
[式(A3)中、Zは2価の有機基を表し、
a3は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
sは互いに独立に、0~3の整数を表す]
で表されるエステル結合含有テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A3)(以下、単に、構成単位(A3)と略すことがある)を含んでいてもよい。
PI系樹脂が、構成単位(A)として構成単位(A3)を含むと、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に制御しやすく、積層フィルムの突刺強度や誘電特性の向上において有利になり得る。また、積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。さらに、比較的低温(例えば360℃以下)のイミド化温度においても突刺強度や誘電特性を高めることができるため、金属箔(例えば銅箔)との積層構成でPI系樹脂前駆体塗膜を熱イミド化することにより積層シートを製造しても金属箔表面の劣化を抑制して、高い突刺強度を有しながら高周波特性にも優れる積層シートを得ることができる。
式(A3)におけるRa3としては、先に記載の式(39)におけるRa3として例示したのと同様の基が挙げられ、好適な態様も同じである。
式(A3)におけるsは、互いに独立に、好ましくは0又は1、より好ましくは0を表す。
式(A3)におけるZとしては、先に記載の式(39)におけるZとして例示したのと同様の2価の有機基が挙げられ、好適な態様も同じである。
本発明の好適な一実施形態において、式(A3)は、式(A3-1)で表される構成単位(A3-1)又は式(A3-2)で表される構成単位(A3-2)であることが好ましい。
積層フィルムを構成するPI系樹脂含有層の少なくとも1層に含まれるPI系樹脂が、構成単位(A)として、構成単位(A3-1)及び/又は構成単位(A3-2)を含むと、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に制御しやすく、積層フィルムの突刺強度や誘電特性の向上において有利になり得る。また、積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。さらに、比較的低温(例えば360℃以下)のイミド化温度においても突刺強度や誘電特性を高めることができるため、金属箔(例えば銅箔)との積層構成でPI系樹脂前駆体塗膜を熱イミド化することにより積層シートを製造しても金属箔表面の劣化を抑制して、高い突刺強度を有しながら高周波特性にも優れる積層シートを得ることができる。
本発明の一実施形態において、積層フィルムを構成する少なくとも1層のPI系樹脂含有層、好ましくは少なくとも層(PI-1)、より好ましくはmPI層を構成するPI系樹脂が、構成単位(A)として構成単位(A3)、特に構成単位(A3-1)及び/又は構成単位(A3-2)を含むと、PI系樹脂が剛直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時に加熱により分岐構造を形成しやすく、積層フィルムの突刺強度をより向上できる。また、積層フィルムのDfがより一層低減しやすくなるとともに、CTEを低減し、積層フィルムの寸法安定性が高まる傾向にある。
本発明の一実施形態において、PI系樹脂が構成単位(A3)を含む場合、その含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは3モル%以上、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは7モル%以上、さらにより好ましくは10モル%以上であり、例えば、20モル%以上、30モル%以上、又は40モル%以上であってもよい。また、構成単位(A3)の含有量は、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは65モル%以下、さらにより好ましくは60モル%以下である。構成単位(A3)の含有量が上記範囲であると、PI系樹脂が構成単位(A3)を有することにより期待される本発明の上記効果が得られやすくなり、また、該効果をより一層高めることができる。
本発明の別の実施形態では、少なくともPI系樹脂含有層(PI-1)に含まれるPI系樹脂が有する構成単位(A)は、構成単位(A)の総量に対して好ましくは45モル%以下(0~45モル%)の構成単位(A3)を含む。すなわち、かかる実施形態では、該PI系樹脂が有する構成単位(A)は構成単位(A3)を含んでいなくても含んでいてもよく、構成単位(A3)を含む場合は45モル%以下の量で含む。さらに構成単位(A3)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、より好ましくは35モル%以下、さらに好ましくは25モル%以下、さらにより好ましくは15モル%以下、特に好ましくは5モル%以下、特により好ましくは1モル%以下であり、下限は0モル%であってよい。PI系樹脂中の構成単位(A3)、特に構成単位(A3-1)及び/又は構成単位(A3-2)の含有量が前記上限以下であると、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲により制御しやすく、積層フィルムの突刺強度や誘電特性をより向上できる。また、積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。
本発明の一実施形態では、積層フィルムを構成する少なくとも1層のPI系樹脂含有層、好ましくはTPI層においてPI系樹脂が構成単位(A1)と構成単位(A2)とを含み、かつ、別の少なくとも1層のPI系樹脂含有層、好ましくはmPI層においてPI系樹脂が構成単位(A1)、構成単位(A2)及び構成単位(A3)から選択される少なくとも2種の構成単位、好ましくは構成単位(A1)と構成単位(A2)及び/又は構成単位(A3)とを含むことがより好ましい。
(構成単位(A4))
本発明の一実施形態において、PI系樹脂は構成単位(A)として、構成単位(A1)、構成単位(A2)及び構成単位(A3)以外のテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A4)(以下、単に構成単位(A4)と略すことがある)を含んでいてもよい。
なお、本明細書において、「構成単位(A1)、構成単位(A2)及び構成単位(A3)以外のテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A4)」とは、構成単位(A1)、構成単位(A2)及び構成単位(A3)の何れにも該当しないテトラカルボン酸無水物由来の構成単位を意味し、「構成単位(A4)の含有量」とは、構成単位(A4)が複数存在する場合、構成単位(A4)の総量を意味する。
本発明の一実施形態において、構成単位(A4)としては、例えば、式(1)中のYが式(31)、式(33)~式(38)で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位が挙げられる。積層フィルムの突刺強度や誘電特性を向上する観点から、好ましくは式(1)中のYが式(42)、式(44)~式(49)又は式(53)で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位、より好ましくは式(1)中のYが式(42)、式(46)、式(49)又は式(53)で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位である。
本発明の一実施形態において、PI系樹脂が構成単位(A4)を含む場合、その含有量は、構成単位(A)の総量に対して、例えば0.01~55モル%、もしくは0.01~40モル%であってよく、好ましくは40モル%以下、より好ましくは35モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下、特に好ましくは25モル%以下であり、また、通常0.01モル%以上、好ましくは10モル%以上である。
(ジアミン由来の構成単位(B))
各PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂は、通常、ジアミン由来の構成単位(B)(以下、単に、構成単位(B)と略すことがある)を含有する。構成単位(B)は、例えば、式(2):
[式(2)中、Xは2価の有機基を表す]
で表されるジアミン由来の構成単位であることが好ましい。
式(2)において、Xは、2価の有機基を表し、好ましくは炭素数2~100の2価の有機基を表す。2価の有機基としては、例えば2価の芳香族基、2価の脂肪族基等が挙げられ、2価の脂肪族基としては、例えば2価の非環式脂肪族基又は2価の環式脂肪族基が挙げられる。これらの中でも、積層フィルムの突刺強度や誘電特性を高める観点から、2価の環式脂肪族基及び2価の芳香族基が好ましく、2価の芳香族基がより好ましい。2価の有機基は、有機基中の水素原子がハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基又はハロゲン化炭化水素基で置換されていてもよく、その場合、これらの基の炭素数は好ましくは1~8である。なお、本明細書において、2価の芳香族基は芳香族基を有する2価の有機基であり、その構造の一部に脂肪族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。また、2価の脂肪族基は脂肪族基を有する2価の有機基であり、その構造の一部にその他の置換基を含んでいてもよいが、芳香族基は含まない。
本発明の一実施形態において、PI系樹脂は、複数種のXを含み得、複数種のXは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。式(2)中のXとしては、例えば式(60)~式(65)で表される基(構造);式(60)~式(65)で表される基中の水素原子がメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基などが挙げられる。
[式(60)及び式(61)中、R及びRは、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、R及びRに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
Wは、互いに独立に、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-COO-、-OOC-、-SO-、-SO-、-S-、-CO-、-N(R)-又は-CONH-を表し、Rは水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表し、
t’は0~4の整数を表し、uは0~4の整数を表し、nは0~4の整数を表し、
式(62)中、環Aは炭素数3~8のシクロアルカン環を表し、
は炭素数1~20のアルキル基を表し、
rは0以上であって、(環Aの炭素数-2)以下の整数を表し、
S1及びS2は、互いに独立に、0~20の整数を表し、
式(60)~式(65)中、*は結合手を表す]。
式(2)中のXの他の例としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、プロピレン基、1,2-ブタンジイル基、1,3-ブタンジイル基、1,12-ドデカンジイル基、2-メチル-1,2-プロパンジイル基、2-メチル-1,3-プロパンジイル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基などの2価の非環式脂肪族基が挙げられる。2価の非環式脂肪族基中の水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよく、炭素原子はヘテロ原子、例えば酸素原子、窒素原子等で置換されていてもよい。
これらの中でも、積層フィルムの突刺強度や誘電特性を高める観点から、本発明におけるPI系樹脂は、式(2)中のXとして、式(60)及び式(61)で表される構造を含むことが好ましく、式(60)で表される構造を含むことがより好ましい。
式(60)及び式(61)において、各ベンゼン環又は各シクロヘキサン環の結合手は、-W-又は各ベンゼン環又は各シクロヘキサン環を結ぶ単結合を基準に、それぞれ、オルト位、メタ位、若しくはパラ位、又は、α位、β位、若しくはγ位のいずれに結合していてもよく、積層フィルムの突刺強度や誘電特性を高める観点から、好ましくはメタ位若しくはパラ位、又は、β位若しくはγ位、より好ましくはパラ位、又はγ位に結合することができる。ベンゼン環に直結するアミノ基と2価の連結基-W-とがメタ位にあると、ポリイミド分子鎖の柔軟性が向上する傾向にある。
式(60)及び式(61)において、R及びRは、互いに独立に、好ましくはハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基若しくはアリール基、より好ましくはハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基である。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、及び炭素数6~12のアリール基としては、先に例示したものが挙げられる。R及びRに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、該ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。R及びRは、互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフッ化アルキル基であることが好ましく、金属箔等との接着性の観点からは、フッ素を含有しない炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、フッ素を含有しない炭素数1~3のアルキル基であることがさらに好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
式(60)及び式(61)において、t’及びuは、互いに独立に、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1である。
式(60)及び式(61)において、Wは、互いに独立に、好ましくは単結合、-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-S-、-COO-、-OOC-又は-CO-であり、より好ましくは、単結合、-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-COO-、-OOC-又は-CO-であり、さらに好ましくは単結合、-O-、-CH-又は-C(CH-であり、特に好ましくは-O-又は-C(CH-である。
式(60)及び式(61)において、nは、好ましくは0~3の整数、より好ましくは1~3である。nが2以上の場合、複数のW、R、及びt’は互いに同一であってもよく、異なっていてもよく、-W-を基準とした各ベンゼン環の結合手の位置も同一であってもよく、異なっていてもよい。
本発明におけるPI系樹脂が、式(2)中のXとして、式(60)及び式(61)のいずれかで表される構造を2つ以上含む場合、一方の式(60)及び式(61)におけるW、n、R、R、t’及びuは、互いに独立に、他方の式(60)及び式(61)におけるW、n、R、R、t’及びuと同一であってもよく、異なっていてもよい。
式(62)において、環Aで表される炭素数3~8のシクロアルカン環としては、例えばシクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環が挙げられ、好ましくは炭素数4~6のシクロアルカン環が挙げられる。環Aにおいて、各結合手は、互いに隣接していてもよいし、隣接していなくてもよい。例えば、環Aがシクロヘキサン環である場合、2つの結合手はα位、β位又はγ位の位置関係にあってもよく、好ましくはβ位又はγ位の位置関係にあってもよい。
式(62)中のRは、好ましくは炭素数1~10のアルキル基である。式(62)中のrは、好ましくは0以上であり、好ましくは4以下である。式(62)中のS1及びS2は、互いに独立に、好ましくは0以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは15以下である。
式(60)~式(62)で表される構造の具体例としては、例えば式(71)~式(92)で表される構造が挙げられる。なお、これらの式中、*は結合手を表す。
本発明の一実施形態において、PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂が式(2)中のXとして、式(60)及び式(61)で表されるジアミン由来の構成単位を少なくとも1つ含む場合、式(2)中のXが、式(60)及び式(61)で表されるジアミン由来の構成単位の割合は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上又は50モル%超、さらに好ましくは70モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であり、好ましくは100モル%以下である。式(2)中のXが式(60)及び式(61)で表されるジアミン由来の構成単位の割合が上記の範囲であると、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性を高めることができる。また、積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。
(構成単位(B1))
本発明の一実施形態において、層(PI-1)及び層(PI-2)の少なくとも1層、又は層(PI-1)~(PI-3)の少なくとも1層がジアミン由来の構成単位(B)を含み、該構成単位(B)が式(B1):
[式(B1)中、Rb1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
Wは、互いに独立に、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-COO-、-OOC-、-SO-、-SO-、-S-、-CO-、-N(R)-及び-CONH-からなる群から選択される2価の連結基、又は、単結合(但し、mは2以上であり、少なくとも1つのWは前記2価の連結基である)を表し、Rは水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表し、
mは1~4の整数を表し、
qは互いに独立に、0~4の整数を表す]
で表されるジアミン由来の構成単位(B1)(以下、単に、構成単位(B1)と略すことがある)を含むことが好ましい。
PI系樹脂が、構成単位(B)として構成単位(B1)を含むと、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に制御しやすくなり、突刺強度や誘電特性を高めることができる。また、CTEを低減することができ、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できるとともに、金属箔との接着性の向上にも寄与し得る。さらに、比較的低温(例えば360℃以下)のイミド化温度においても得られる積層フィルムの突刺強度や誘電特性を高めることができるため、金属箔(例えば銅箔)との積層構成でPI系樹脂前駆体塗膜を熱イミド化することにより積層シートを製造しても金属箔表面の劣化を抑制して、高い突刺強度を有しながら高周波特性にも優れる積層シートを得ることができる。
式(B1)中のRb1としては、先に記載の式(60)におけるR及びRとして例示したのと同様の基が挙げられる。式(B1)中のqは、互いに独立に、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1である。また、式(B1)中のmは、積層フィルムの突刺強度、誘電特性やCTE等の向上の観点から、好ましくは1~3の整数、より好ましくは2又は3である。式(b2)において、複数のW、Rb2、及びqは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよく、各ベンゼン環の-NHを基準とした-W-の位置も同一であってもよく、異なっていてもよい。
式(B1)において、-W-は、互いに独立に、各ベンゼン環の-NHを基準に、それぞれ、オルト位、メタ位、若しくはパラ位、又は、α位、β位、若しくはγ位のいずれに結合していてもよく、好ましくはメタ位若しくはパラ位、又は、β位若しくはγ位、より好ましくはパラ位、又はγ位に結合することができる。mが2以上である場合、2つのWが結合するベンゼン環において、2つのWの結合位置は、互いにオルト位、メタ位、若しくはパラ位の関係、又は、α位、β位、若しくはγ位の関係であってもよく、好ましくはメタ位若しくはパラ位の関係、又は、β位若しくはγ位の関係であってもよい。
式(B1)で表される構造の具体例としては、例えば式(B1-1)~式(B1-6)で表される構造が挙げられる。

式(B1-1)~式(B1-6)中のRb1及びqは、式(B1)中のRb1及びqと同じに定義され、W~Wは、互いに独立に、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-COO-、-OOC-、-SO-、-SO-、-S-、-CO-、-N(R)-及び-CONH-からなる群から選択される2価の連結基を表し、Rは水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表す。なお、式(B1-4)において式(B1-3)と重複するものは式(B1-3)の化合物として扱う。
式(B1-1)~式(B1-6)中のRb1及びqとしては、式(B1)中のRb1及びqとして例示したものと同じ態様が例示され、好適な態様も同じである。
式(B1-1)~式(B1-6)中のW~Wは、互いに独立に、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-COO-、-OOC-、-SO-、-S-、-CO-又は-CONH-であることが好ましい。式(B1-1)中のWは、好ましくは-O-、-CH-、-C(CH-、-SO-、-S-又は-CO-である。式(B1-2)、式(B1-4)及び式(B1-6)中のW、W及びWは、それぞれ好ましくは-O-である。式(B1-3)中のWは、好ましくは-O-、-CH-、-C(CH-、-SO-、-CO-又は-CONH-であり、式(B1-5)中のWは、好ましくは-C(CH-、-O-、-SO-又は-CO-である。
本発明の一実施形態において、本発明の積層フィルム中の層(PI-1)及び層(PI-2)の少なくとも1層、又は層(PI-1)~(PI-3)の少なくとも1層が、構成単位(B)として、式(B1)中のmが1又は2であるジアミン由来の構成単位、例えば前記構成単位(B1-1)及び/又は構成単位(B1-2)を含むことが好ましい。mが2であるジアミン由来の構成単位としては、例えば、前記構成単位(B1-2)を含むことが好ましい。このような構成単位を含むと、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に制御しやすくなり、突刺強度や誘電特性を高めることができる。また、積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。さらに、これらの構成単位の含有は、積層フィルムと金属箔との接着性の向上にも寄与し得る。
本発明の別の実施形態において、本発明の積層フィルム中の層(PI-1)及び層(PI-2)の少なくとも1層、又は層(PI-1)~(PI-3)の少なくとも1層が、構成単位(B)として、mが3又は4であるジアミン由来の構成単位、例えば前記構成単位(B1-3)~構成単位(B1-6)を含むことが好ましく、mが3であるジアミン由来の構成単位を含むことがより好ましい。mが3であるジアミン由来の構成単位としては、例えば、前記構成単位(B1-5)を含むことが好ましい。このような構成単位を含むと、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に制御しやすくなり、突刺強度や誘電特性を高めることができる。また、積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。さらに、これらの構成単位の含有は、積層フィルムと金属箔との接着性の向上にも寄与し得る。
本発明の一実施形態において、構成単位(B1)は構成単位(B1-2)であることが好ましく、構成単位(B1-2)は、式(B1-2’)及び/又は式(B1-2’’)で表される構成単位であることがより好ましい。
式(B1-2’)及び式(B1-2’’)中のRb1、W、及びqは、式(B1-2)中のRb1、W、及びqと同じに定義される。
本発明の一実施形態において、式(B1-2’)又は式(B1-2’’)で表される構成単位は、それぞれ、式(B1-2’a)又は式(B1-2’’a)で表される構成単位であることが好ましい。
構成単位(B)として、上記構成単位を含むと、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に制御しやすくなり、突刺強度や誘電特性を高めることができる。また、積層フィルムのCTEが低減する傾向にあり、積層フィルムの寸法安定性の向上が期待できる。さらに、これらの構成単位の含有は、積層フィルムと金属箔との接着性の向上にも寄与し得る。
本発明の別の一実施形態において、構成単位(B1)は構成単位(B1-5)であることが好ましく、構成単位(B1-5)は、式(B1-5a)で表される構成単位であることがより好ましい。
構成単位(B)として、前記構成単位を含むと、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性の向上、CTEの低減等において有利になる。
本発明の一実施形態において、PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂が構成単位(B1)を含む場合、その含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは3モル%以上、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは7モル%以上、さらにより好ましくは10モル%以上であり、例えば20モル%以上、30モル%以上、又は40モル%以上であってもよい。構成単位(B1)の含有量が上記下限以上であると、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性の向上、CTEの低減等において有利になる。また、構成単位(B1)の総量が高くなると金属箔との接着性が高まる傾向にあるため、かかる観点からは、構成単位(B1)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、例えば50モル%以上、60モル%以上又は70モル%以上であってもよい。構成単位(B1)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは99モル%以下、より好ましくは95モル%以下、さらに好ましくは90モル%以下である。
<構成単位(B2)>
本発明の一実施形態において、本発明の積層フィルム中の層(PI-1)及び層(PI-2)の少なくとも1層、又は層(PI-1)~(PI-3)の少なくとも1層を構成するPI系樹脂が、構成単位(B)として、式(B2):
[式(B2)中、Rb2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
pは0~4の整数を表す]
で表されるビフェニル骨格含有ジアミン由来の構成単位(B2)(以下、単に、構成単位(B2)と略すことがある)を含むことが好ましい。構成単位(B)が前記構成単位(B2)を含むと、PI系樹脂が剛直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時の加熱により分岐構造を形成しやすく、また、結晶性が高まる傾向があるため、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性の向上、CTEの低減等において有利になる。
式(B2)において、Rb2は、好ましくは互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基若しくはアリール基を表し、より好ましくはハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表す。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、及び炭素数6~12のアリール基としては、上記に例示したものが挙げられる。Rb2に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、該ハロゲン原子としては、上記と同様のものが挙げられる。Rb2は互いに独立に、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のフッ化アルキル基であることが好ましく、さらに金属箔等との接着性の観点からは、フッ素を含有しない炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、フッ素を含有しない炭素数1~3のアルキル基であることがさらに好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
式(B2)において、pは、互いに独立に、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1である。
式(B2)において、各ベンゼン環に結合する-NH基は、各ベンゼン環を結ぶ単結合を基準に、それぞれ、オルト位、メタ位、若しくはパラ位、又は、α位、β位、若しくはγ位のいずれに結合していてもよく、積層フィルムの誘電特性、突刺強度向上やCTEの低減の観点から、好ましくはメタ位若しくはパラ位、又は、β位若しくはγ位、より好ましくはパラ位、又はγ位に結合することができる。
本発明の好適な一実施形態において、式(B2)は、式(B2’):
で表されることが好ましい。少なくとも1層のPI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂が、構成単位(B)として、構成単位(B2)、特に式(B2’)で表されるジアミン由来の構成単位を有するPI系樹脂を含むと、PI系樹脂が剛直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時の加熱により分岐構造を形成しやすく、また、結晶性が高まる傾向があるため、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性の向上、CTEの低減等において有利になる。さらに、比較的低温(例えば360℃以下)のイミド化温度においても前記効果が得られるため、金属箔(例えば銅箔)との積層構成でPI系樹脂前駆体塗膜を熱イミド化することにより積層シートを製造しても金属箔表面の劣化を抑制して、高い突刺強度を有しながら、高周波特性にも優れる積層シートを得ることができる。
本発明の一実施形態において、PI系樹脂が構成単位(B2)を含む場合、その含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上であり、例えば20モル%以上、30モル%以上、30モル%超、40モル%以上、又は50モル%以上であってもよい。構成単位(B2)の含有量が上記下限以上であると、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に制御しやすくなり、積層フィルムの突刺強度や誘電特性の向上、CTEの低減等において有利になる。また、構成単位(B1)は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは99モル%以下、より好ましくは95モル%以下、さらに好ましくは92モル%以下であり、例えば90モル%以下、80モル%以下、70モル%以下、又は60モル%以下であってもよい。
本発明の一実施形態において、PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂が構成単位(B1)と構成単位(B2)とを含む場合、それらの合計含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上、特に好ましくは70モル%以上、特により好ましくは80モル%以上、特にさらに好ましくは90モル%以上、特にさらにより好ましくは95モル%以上であり、好ましくは100モル%以下である。構成単位(B1)と構成単位(B2)との合計含有量が前記下限以上であると、PI系樹脂が構成単位(B1)及び構成単位(B2)を有することにより期待される本発明の上記効果が得られやすくなり、また、該効果をより一層高めることができる。
また、本発明の一実施形態において、PI系樹脂が構成単位(B1)と構成単位(B2)とを含む場合、その含有量比(モル比、(B1):(B2))は、好ましくは99:1~1:99、より好ましくは95:5~5:95、さらに好ましくは92:8~8:92であり、例えば92:8~20:80、又は90:10~60:40であってもよい。構成単位(B1)と構成単位(B2)との含有量比が上記範囲であると、PI系樹脂が構成単位(B1)及び構成単位(B2)を有することにより期待される本発明の上記効果が得られやすくなり、また、該効果をより一層高めることができる。
本発明の一実施形態において、積層フィルムを構成するPI系樹脂含有層が以下のいずれかの又は複数の構成を含むことが好ましい。
・積層フィルム中の層(PI-1)及び層(PI-2)、又は層(PI-1)~層(PI-3)においてPI系樹脂が、構成単位(B1)及び構成単位(B2)の少なくとも一方を含む;
・積層フィルム中の層(PI-1)及び層(PI-2)、又は層(PI-1)~層(PI-3)においてPI系樹脂が、構成単位(B1)を含む;
・積層フィルム中の層(PI-1)及び層(PI-2)、又は層(PI-1)~層(PI-3)においてPI系樹脂が、構成単位(B1)と構成単位(B2)とを含む。
・積層フィルム中の少なくとも1層のPI系樹脂含有層においてPI系樹脂が、構成単位(B1)と構成単位(B2)とを含む。
(構成単位(B3))
本発明の一実施形態において、構成単位(B)は、構成単位(B1)及び構成単位(B2)以外のジアミン由来の構成単位(B3)(以下、単に構成単位(B3)と略すことがある)を含んでいてもよい。構成単位(B3)としては、例えば、式(B1)中のmが0であるジアミン由来の構成単位、式(2)中のXが式(61)~式(64)で表されるジアミン由来の構成単位等が挙げられ、これらの中でも、式(2)中のXが式(74)で表されるジアミン由来の構成単位(p-フェニレンジアミン由来の構成単位)が好ましい。本明細書において、「構成単位(B1)及び構成単位(B2)以外のジアミン由来の構成単位(B3)」とは、構成単位(B1)及び構成単位(B2)の何れとも異なるジアミン由来の構成単位を意味する。
本発明の一実施形態において、構成単位(B)が構成単位(B3)を含む場合、構成単位(B3)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは25モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下であり、通常、0.01モル%以上である。
本発明の一実施形態において、PI系樹脂含有層(PI-1)に含まれるポリイミド系樹脂は、PI系樹脂含有層(PI-2)に含まれるPI系樹脂と同じ樹脂であっても異なる樹脂であってもよい。積層フィルムの突刺強度や誘電特性の向上、CTEの低減等の観点からは各層に含まれるPI系樹脂が異なる樹脂であることが好ましい。なお、該異なる樹脂とは、構成単位の種類が異なるものだけでなく、該構成単位の種類が同じであってもその含有量(又は比率)が異なるものも含む意味である。
本発明の一実施形態において、PI系樹脂含有層(PI-1)及びPI系樹脂含有層(PI-2)は、それぞれ少なくとも二種のテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)を有するポリイミド系樹脂を含むことが好ましい。このような実施形態であると、積層フィルムの突刺強度や誘電特性を向上しやすく、またCTEを低減しやすい。
本発明の一実施形態において、PI系樹脂含有層(PI-1)及びPI系樹脂含有層(PI-2)、又はPI系樹脂含有層(PI-1)~(PI-3)、好ましくはmPI層及びTPI層においてPI系樹脂が、構成単位(A)として構成単位(A1)及び/又は構成単位(A2)と、構成単位(B)として構成単位(B1)、好ましくは構成単位(B1)と構成単位(B2)とを含むことが好ましい。
本発明の好適な一実施形態において、積層フィルムを構成するPI系樹脂含有層(PI-1)、好ましくはmPI層に含まれるPI系樹脂が構成単位(A)として構成単位(A1)、構成単位(A2)及び構成単位(A3)から選択される少なくとも2種の構成単位(好ましくは構成単位(A1)と構成単位(A2)及び/又は構成単位(A3)と)を含み、PI系樹脂含有層(PI-2)、好ましくはTPI層に含まれるPI系樹脂が構成単位(A)として構成単位(A1)及び構成単位(A2)を含み、かつ、PI系樹脂含有層(PI-1)及びPI系樹脂含有層(PI-2)、好ましくはmPI層及びTPI層を構成するPI系樹脂がそれぞれ構成単位(B)として構成単位(B1)、好ましくは構成単位(B1)と構成単位(B2)とを含む。
本発明の好適な一実施形態において、さらにPI系樹脂含有層(PI-3)を含む場合、積層フィルム(L)を構成するPI系樹脂含有層(PI-1)、好ましくはmPI層に含まれるPI系樹脂が構成単位(A)として構成単位(A1)、構成単位(A2)及び構成単位(A3)から選択される少なくとも2種の構成単位(好ましくは構成単位(A1)と構成単位(A2)及び/又は構成単位(A3)と)を含み、PI系樹脂含有層(PI-2)及びPI系樹脂含有層(PI-3)、好ましくはTPI層に含まれるPI系樹脂が構成単位(A)として構成単位(A1)及び構成単位(A2)を含み、かつ、PI系樹脂含有層(PI-1)~(PI-3)、好ましくはmPI層及びTPI層を構成するPI系樹脂がそれぞれ構成単位(B)として構成単位(B1)、好ましくは構成単位(B1)と構成単位(B2)とを含む。
mPI層、TPI層、層(PI-1)、層(PI-2)及び任意に層(PI-3)が、それぞれ、上記構成単位を組み合わせて含んで構成されると、各層のPI系樹脂が剛直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時の加熱により分岐構造を形成しやすく、また、結晶性を高める傾向がある。さらに、隣接する2つの層間の相互作用を高めることができる。それゆえに、これらの層から構成される積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に制御しやすくなり、PI系樹脂が各構成単位を有することにより期待される本発明の上記各効果が得られやすくなり、また、該効果をより一層高めることができる。
<層(PI-1)>
本発明の一実施形態において、層(PI-1)を構成するPI系樹脂は、構成単位(A)として、構成単位(A1)及び/又は構成単位(A2)を含み、好ましくは構成単位(A1)、構成単位(A2)及び構成単位(A3)から選択される少なくとも2種の構成単位を含み、より好ましくは、構成単位(A1)と構成単位(A2)及び/又は構成単位(A3)とを含む。層(PI-1)がこれらの構成単位を含む場合、構成単位(A1)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは35モル%以上、特に好ましくは40モル%以上であり、好ましくは80モル%以下、より好ましくは75モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下、特に好ましくは65モル%以下である。構成単位(A2)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは35モル%以上、特に好ましくは40モル%以上であり、好ましくは80モル%以下、より好ましくは75モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下、特に好ましくは65モル%以下である。また、構成単位(A3)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは3モル%以上、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは7モル%以上、さらにより好ましくは10モル%以上であり、例えば、20モル%以上、30モル%以上、又は40モル%以上であってもよく、好ましくは75モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは65モル%以下、特に好ましくは60モル%以下である。また、別の実施形態では、構成単位(A3)の含有量は、好ましくは45モル%以下、より好ましくは35モル%以下、さらに好ましくは25モル%以下、さらにより好ましくは15モル%以下、特に好ましくは5モル%以下、特により好ましくは1モル%以下であり、下限は0モル%であってよい。
構成単位(A1)、構成単位(A2)及び/又は構成単位(A3)の含有量がそれぞれ上記範囲にあると、PI系樹脂が剛直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時の加熱により分岐構造を形成しやすく、また、結晶性を高める傾向がある。これにより、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に制御しやすくなり、突刺強度、誘電特性や熱物性に優れた積層フィルムを得ることができる。
一方、本発明の別の一実施形態において、層(PI-1)を構成するPI系樹脂における構成単位(A2)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは30モル%未満、より好ましくは25モル%以下、さらに好ましくは20モル%以下、特に好ましくは10モル%以下である。本発明の一実施形態においては、層(PI-1)は構成単位(A2)を実質的に含まなくてもよく、構成単位(A2)の含有量の下限は0モル%であり得る。
本発明の一実施形態において、層(PI-1)を構成するPI系樹脂は、構成単位(B)として、構成単位(B1)を含むことが好ましい。構成単位(B1)としては、構成単位(B1-2)及び構成単位(B1-5)を含むことが好ましく、構成単位(B1-2)を含むことがより好ましく、(B1-2’’)を含むことがさらに好ましい。層(PI-1)を構成するPI系樹脂における構成単位(B1)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは3モル%以上、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは7モル%以上、さらにより好ましくは10モル%以上であり、例えば20モル%以上、30モル%以上、又は40モル%以上であってもよく、また好ましくは80モル%以下、より好ましくは75モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下、特に好ましくは65モル%以下である。また、層(PI-1)を構成するPI系樹脂は、構成単位(B)として、構成単位(B2)をさらに含むことが好ましく、その含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上又は30モル%超、さらにより好ましくは35モル%以上、特に好ましくは40モル%以上であり、好ましくは99モル%以下、より好ましくは95モル%以下、さらに好ましくは92モル%以下であり、例えば90モル%以下、80モル%以下、70モル%以下、又は60モル%以下であってもよい。
構成単位(B1)及び/又は構成単位(B2)の含有量がそれぞれ上記範囲にあると、PI系樹脂が剛直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時の加熱により分岐構造を形成しやすく、また、結晶性を高める傾向がある。これにより、層(PI-1)の突刺強度の向上やDfの低減が可能であり、さらにCTEも効果的に低減することができるため、優れた突刺強度、誘電特性や熱物性を有する積層フィルムを得ることができる。
<層(PI-2)及び層(PI-3)>
本発明の一実施形態において、積層フィルムは、層(PI-2)を含み、さらに層(PI-3)を含むことができる。層(PI-2)及び層(PI-3)を構成するPI系樹脂は、それぞれ、構成単位(A)として構成単位(A1)を含み、好ましくは構成単位(A1)と構成単位(A2)とを含む。これらの構成単位を含む場合、構成単位(A1)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上であり、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは60モル%以下である。また、構成単位(A2)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上、さらにより好ましくは50モル%以上、特に好ましくは60モル%以上であり、好ましくは90モル%以下、より好ましくは85モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下、さらにより好ましくは75モル%以下である。
構成単位(A1)及び/又は構成単位(A2)の含有量がそれぞれ上記範囲にあると、PI系樹脂が剛直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時の加熱により分岐構造を形成しやすく、また、結晶性を高める傾向がある。これにより、層(PI-2)及び層(PI-3)の突刺強度の向上やDfの低減が可能であり、さらにCTEも効果的に低減することができるため、優れた突刺強度、誘電特性や熱物性を有する積層フィルムを得ることができる。また、金属箔との接着性の向上効果を期待できる。
本発明の一実施態様において、層(PI-2)及び層(PI-3)を構成するPI系樹脂中の構成単位(A3)の含有量は、構成単位(A)の総量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは8モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下、特に好ましくは3モル%以下である。本発明の一実施形態においては、層(PI-2)及び層(PI-3)は構成単位(A3)を実質的に含まなくてもよく、構成単位(A3)の含有量の下限は0モル%であり得る。
本発明の一実施形態において、層(PI-2)及び層(PI-3)を構成するPI系樹脂は、構成単位(B)として、構成単位(B1)を含むことが好ましい。構成単位(B1)としては、構成単位(B1-2)を含むことが好ましく、PI系樹脂の柔軟性を高める構成単位(B1-2’)を含むことがより好ましい。これらの層を構成するPI系樹脂における構成単位(B1)の含有量は、構成単位(B)の総量に対して、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは35モル%以上、特に好ましくは40モル%以上であり、好ましくは99モル%以下、より好ましくは95モル%以下であり、さらに好ましくは92モル%以下であり、例えば90モル%以下、80モル%以下、70モル%以下、又は60モル%以下であってもよい。また、構成単位(B)として、構成単位(B2)をさらに含むことが好ましく、その含有量は、好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上であり、例えば20モル%以上、30モル%以上、30モル%超、又は40モル%以上であってもよく、また好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは65モル%以下、特に好ましくは60モル%以下である。
層(PI-2)及び層(PI-3)を構成するPI系樹脂において、構成単位(B1)及び/又は構成単位(B2)の含有量がそれぞれ上記範囲にあると、PI系樹脂が剛直すぎず、ある程度自由度がある柔軟な構造となり得るため、イミド化時の加熱により分岐構造を形成しやすく、また、結晶性を高める傾向がある。これにより、層(PI-2)及び層(PI-3)の突刺強度の向上やDfの低減が可能であり、CTEも効果的に低減しうるのでより一層優れた突刺強度、誘電特性や熱物性を有する積層フィルムを得ることができる。また、金属箔との接着性の向上効果を期待できる。
上記構成単位(A)及び/又は構成単位(B)を含んで構成されるPI系樹脂の各種物性(分子量、ガラス転移温度など)は、積層フィルムにおける各PI系樹脂含有層の役割や用途等に応じて、例えば以下の好適な範囲等に基づき適宜決定すればよい。
本発明の一実施形態において、各PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂は、例えば上記の含ハロゲン原子置換基等によって導入することができる、ハロゲン原子、好ましくはフッ素原子を含有していてもよい。PI系樹脂がフッ素原子を含有する場合、得られるPI系樹脂含有層の比誘電率を低減しやすく、積層フィルムの誘電特性の向上につながる。PI系樹脂にフッ素原子を含有させるために好ましい含フッ素置換基としては、例えばフルオロ基及びトリフルオロメチル基が挙げられる。
また、本発明の別の一実施形態において、PI系樹脂は、得られるPI系樹脂含有層の金属箔に対する接着性を高める観点からは、フッ素原子を含有していないことが好ましい。このため、例えば、金属箔に接するPI系樹脂含有層、好ましくはTPI層、特に積層フィルム中の層(PI-2)及び層(PI-3)を構成するPI系樹脂は、フッ素原子を含有していないことが好ましい。また、PI系樹脂がフッ素を含有すると分子鎖間の相互作用を弱める傾向があるため、PI系樹脂がフッ素原子を含有していない場合、PI系フィルムのDfが低減される傾向がある。
PI系樹脂がハロゲン原子を含有する場合、PI系樹脂におけるハロゲン原子、特にフッ素原子の含有量は、PI系樹脂の質量を基準として、好ましくは0.1~35質量%、より好ましくは0.1~30質量%、さらに好ましくは0.1~20質量%、特に好ましくは0.1~10質量%である。ハロゲン原子の含有量が上記の下限以上であると、得られるPI系樹脂含有層の耐熱性及び誘電特性が高まりやすく、積層フィルムの誘電特性や熱物性の向上につながる。ハロゲン原子の含有量が上記の上限以下であると、コスト面で有利であり、CTEを低減しやすく、またPI系樹脂の合成が容易となる。
本発明の一実施形態において、PI系樹脂のイミド化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上であり、通常100%以下である。積層フィルムの突刺強度、誘電特性や熱物性を向上する観点から、イミド化率が上記の下限以上であることが好ましい。イミド化率は、PI系樹脂中のテトラカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量の2倍の値に対する、PI系樹脂中のイミド結合のモル量の割合を示す。なお、PI系樹脂がトリカルボン酸化合物を含む場合には、PI系樹脂中のテトラカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量の2倍の値と、トリカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量との合計に対する、PI系樹脂中のイミド結合のモル量の割合を示す。また、イミド化率は、IR法、NMR法などにより求めることができる。
本発明の一実施形態において、PI系樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、突刺強度を高める観点から、好ましくは5000以上、より好ましくは10000以上、さらに好ましくは15000以上、特に好ましくは20000以上である。また、ワニスの製造容易性や製膜性の観点から、好ましくは1200000以下、より好ましくは1000000以下、さらに好ましくは800000以下、特に好ましくは700000以下である。例えば、mPI層、特に、積層フィルム中の層(PI-1)のMwは、好ましくは5000~800000であり、より好ましくは10000~700000である。また、TPI層、特に積層フィルム中の層(PI-2)及び層(PI-3)のMwは、それぞれ、好ましくは10000~1000000であり、より好ましくは20000~900000である。
本発明の一実施形態において、本発明のPI系樹脂の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、突刺強度及び金属箔との接着性の観点から、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.3以上、さらに好ましくは1.5以上、特に好ましくは1.7以上であり、好ましくは15以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは11以下、特に好ましくは10以下である。例えば、mPI層、特に、積層フィルム中の層(PI-1)のMw/Mnは、好ましくは1.1~15であり、より好ましくは1.5~10である。また、TPI層、特に積層フィルム中の層(PI-2)及び層(PI-3)のMw/Mnは、それぞれ、好ましくは1.1~15であり、より好ましくは1.5~10である。なお、Mw及びMnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと記載することがある)測定を行い、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
本発明の一実施形態において、PI系樹脂のTgは、得られる積層フィルムの突刺強度の向上やDfの低減の観点から、好ましくは350℃以下、より好ましくは330℃以下、さらに好ましくは310℃以下、特に好ましくは300℃以下である。また、PI系樹脂のTgは、積層フィルムの突刺強度を高める観点、Dfの低減や熱物性の向上の観点から、好ましくは200℃以上、より好ましくは205℃以上、さらに好ましくは210℃以上、特に好ましくは220℃以上である。PI系樹脂含有層としてmPI層とTPI層を含む場合、mPI層を構成するPI系樹脂のTgは、好ましくは350℃以下、より好ましくは330℃以下、さらに好ましくは310℃以下、特に好ましくは295℃以下であり、好ましくは220℃以上、より好ましくは230℃以上、さらに好ましくは250℃以上、さらにより好ましくは260℃以上、特に好ましくは270℃以上である。mPI層を構成するPI系樹脂のTgが上記範囲であると、積層フィルムの突刺強度を高めることができ、また誘電特性や熱物性を高めることができる。TPI層を構成するPI系樹脂のTgは、好ましくは310℃以下、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは290℃以下、さらにより好ましくは270℃以下、特に好ましくは250℃以下であり、好ましくは200℃以上、より好ましくは210℃以上、さらに好ましくは220℃以上、特に好ましくは230℃以上である。TPI層を構成するPI系樹脂のTgが上記範囲であると、積層フィルムの突刺強度を高めることができ、またDfの低減や熱物性の向上の他、金属箔との接着性を高めることができる。PI系樹脂のTgは、動的粘弾性測定により測定できる。例えば、動的粘弾性測定装置を用いて得られる、貯蔵弾性率(Storage modulus、E’)と損失弾性率(Loss modulus、E”)の値の比であるtanδ曲線のピークに基づき算出できる。
PI系樹脂含有層としてmPI層とTPI層を含む一実施形態において、mPI層を構成するPI系樹脂のTgが、上記範囲内、好ましくは250~330℃であり、またTPI層を構成するPI系樹脂のTgが、上記範囲内、好ましくは220~300℃であると、各PI系樹脂は、回転運動の抑制された好ましい高次構造を形成しやすい傾向がある。このため、当該実施形態にある場合、配向性が維持された高次構造を有するPI系樹脂によって各PI系樹脂含有層を形成することができ、PI系樹脂含有層の厚み方向にかかる衝撃に対する強度が増し、積層フィルムの突刺強度が向上すると考えられる。また、各PI系樹脂中の極性基の回転が抑制され、電気エネルギーが熱運動として失われることが低減されると推定されるゆえに、Tgが上記範囲内にあるPI系樹脂を用いることにより、Dfが低い積層フィルムが得られると考えられる。さらに、このようなPI系樹脂を用いることにより、イミド化温度が例えば360℃以下の低温であっても、得られる積層フィルムの突刺強度や誘電特性を高めることができるため、金属箔(銅箔)との積層構成でPI系樹脂前駆体塗膜を熱イミド化することにより積層シートを製造しても金属箔表面の劣化を抑制でき、高い突刺強度を有しながら高周波特性にも優れる積層シート(CCL)を得ることができる。
PI系樹脂のTgは、PI系樹脂を構成する構成単位の種類やそれらの構成、PI系樹脂の分子量や製造方法、特にイミド化条件等を、適宜調整することによって調整し得、例えば本明細書内に好ましい態様として記載されている範囲内に調整することによって、上記範囲内に調整し得る。
<積層フィルムの製造方法>
本発明の積層フィルムは、例えば、積層フィルムに含まれる各PI系樹脂含有層を構成するPI系樹脂の構成に応じてそれぞれ適宜選択した、テトラカルボン酸無水物とジアミンとを反応させてPI系樹脂前駆体を得る工程、及び、得られたPI系樹脂前駆体をイミド化する工程を含む方法により製造することができる。
例えば、本発明の積層フィルムの製造方法としては、支持基材に、対応するPI系樹脂前駆体の溶液を塗布し、予備乾燥することにより多層塗膜を得た後、イミド化を行う方法が挙げられる。イミド化は支持基材を剥離した状態で行ってもよい。本発明の一実施形態では、塗膜全体に溶媒が十分に残存した状態、又は樹脂層間が良く馴染んだ状態でイミド化することにより、[配向PA×配向PB]を式(I)の範囲に、[配向PA×配向PC]を式(IV)の範囲に調整しやすく、また中間領域の厚さを上記の所望の範囲に調整しやすい。これらの理由は定かではないが、以下の理由が考えられる。
上記のようにイミド化の際に塗膜全体に溶媒が十分に残存した状態、又は樹脂層間が良く馴染んだ状態にあると、イミド化時まで樹脂分子の自由度が高くなるので得られる各PI系樹脂含有層に含まれるPI系樹脂の平面配向性が適度に低下し、面内方向から厚み方向までの種々の角度方向に配向性が乱れる傾向がある。そして、異なる2種以上のPI系樹脂含有層、好ましくはmPI層及びTPI層それぞれで配向性の乱れる程度に違いがあるために、一方の層における厚み方向側の配向成分(配向PA)と、もう一方の層における面内方向側の配向成分(配向PB)若しくは30°方向の配向成分(配向PC)との積が大きくなる傾向があると考えられる。また、上記のような状態であると、各層の界面付近において各層を構成するPI系樹脂が互いに混ざりやすくなり、中間領域ができやすくなるので、中間領域の厚みが大きくなると考えられる。
本発明の好適な実施形態では、本発明の積層フィルムは、例えば、支持基材に、対応するPI系樹脂前駆体の溶液を塗布及び予備乾燥して多層塗膜を得る工程(塗工及び予備乾燥工程ともいう);得られた多層塗膜を静置する工程(静置工程ともいう);並びに多層塗膜を加熱してPI系樹脂をイミド化する工程(イミド化工程ともいう)を含む方法により製造できる。なお、支持基材は剥離又は除去してもよい。かかる製造方法は、静置工程、好ましくは後述する低温下での静置工程を含んでいるため、得られる積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に調整しやすい。
(PI系樹脂前駆体の調製)
PI系樹脂前駆体の合成に用いられるテトラカルボン酸無水物としては、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸化合物;及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸化合物等が挙げられる。テトラカルボン酸化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。テトラカルボン酸化合物は、二無水物の他、酸クロリド化合物等のテトラカルボン酸化合物類縁体であってもよい。
テトラカルボン酸化合物としては、例えば、式(A1)で表されるテトラカルボン酸無水物、式(A2)で表されるテトラカルボン酸無水物、式(A3)で表されるテトラカルボン酸無水物が挙げられ、当該分野で公知のテトラカルボン酸化合物を適宜選択して用いることができる。
そのようなテトラカルボン酸化合物としては、例えば、無水ピロメリット酸(以下、PMDAと記載することがある)、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物(以下、BPADAと記載することがある)、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAと記載することがある)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(以下、6FDAと記載することがある)、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(以下、ODPAと記載することがある)、2,2’,3,3’-、2,3,3’,4’-又は3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)(以下、TAHQと記載することがある)、無水トリメリット酸と2,2’,3,3’,5,5’-ヘキサメチル-4,4’-ビフェノールとのエステル化物(以下、TMPBPと記載することがある)、4,4’-ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-イルカルボニルオキシ)ビフェニル(以下、BP-TMEと記載することがある)、2,3’,3,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3”,4,4”-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3”,4”-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2”,3,3”-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(以下、HPMDAと記載することがある)、2,3,5,6-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(以下、CBDAと記載することがある)、ノルボルナン-2-スピロ-α’-スピロ-2”-ノルボルナン-5,5’,6,6’-テトラカルボン酸無水物、p-フェニレンビス(トリメリテート無水物)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、4,5,10,11-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物などが挙げられる。中でも、得られる積層フィルムの突刺強度の向上、DfやCTEの低減等の観点から、BPDA、PMDA、TAHQ及び/又はBP-TMEを組み合わせて用いることが好ましい。これらのテトラカルボン酸化合物は単独又は二種以上組合せて使用できる。
PI系樹脂前駆体の合成に用いられるジアミン化合物としては、例えば、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン及びこれらの混合物が挙げられる。なお、本実施形態において「芳香族ジアミン」とは、芳香環を有するジアミンを表し、その構造の一部に脂肪族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。この芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環及びフルオレン環等が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環である。また「脂肪族ジアミン」とは、脂肪族基を有するジアミンを表し、その構造の一部にその他の置換基を含んでいてもよいが、芳香環は有しない。
ジアミン化合物としては、例えば、式(B1)で表されるジアミン、式(B2)で表されるジアミン、式(2)で表されるジアミン等が挙げられ、当該分野で公知のジアミン化合物を適宜選択して用いることができる。
そのようなジアミン化合物としては、例えば、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル(以下、m-Tbと記載することがある)、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(以下、TFMBと記載することがある)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(以下、1,3-APBと記載することがある)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(以下、TPE-Qと記載することがある)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(以下、TPE-Rと記載することがある)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(以下、BAPPと記載することがある)、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、4,4’-メチレンジアニリン、3,3’-メチレンジアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4”-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3”-ジアミノ-p-テルフェニル、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン(以下、p-PDAと記載することがある)、レゾルシノール-ビス(3-アミノフェニル)エーテル、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-tert-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-tert-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、ピペラジン、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビシクロヘキサン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4”-ジアミノ-p-ターフェニル、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)-2,5-ジ-tert-ブチルベンゼン、4,4’-(1,3-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、2,4-ジアミノ-3,5-ジエチルトルエン、2,6-ジアミノ-3,5-ジエチルトルエン、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-(ヘキサフルオロプロピリデン)ジアニリン、1,2-ジアミノエタン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,2-ジアミノプロパン、1,2-ジアミノブタン、1,3-ジアミノブタン、2-メチル-1,2-ジアミノプロパン、2-メチル-1,3-ジアミノプロパン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジアミン、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-ジアミノベンズアニリド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、9,9-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ビス[4,4’-(4-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、ビス[4,4’-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジンなどが挙げられる。中でも、得られる積層フィルムの突刺強度の向上、DfやCTEの低減等の観点から、m-Tb、BAPP、TPE-Q、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン及び/又はTPE-Rを組み合わせて用いることが好ましい。ジアミン化合物は単独又は二種以上組合せて使用できる。
なお、前記PI系樹脂前駆体は、得られるPI系フィルムの各種物性を損なわない範囲で、上記のPI系樹脂前駆体合成に用いられるテトラカルボン酸化合物に加えて、他のテトラカルボン酸、ジカルボン酸及びトリカルボン酸並びにそれらの無水物及び誘導体をさらに反応させたものであってもよい。
他のテトラカルボン酸としては、上記テトラカルボン酸化合物の無水物の水付加体が挙げられる。
ジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を組合せて用いてもよい。具体例としては、テレフタル酸;イソフタル酸;ナフタレンジカルボン酸;4,4’-ビフェニルジカルボン酸;3,3’-ビフェニルジカルボン酸;炭素数8以下である鎖式炭化水素、のジカルボン酸化合物及び2つの安息香酸が単結合、-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-又はフェニレン基で連結された化合物並びに、それらの酸クロリド化合物が挙げられる。
トリカルボン酸化合物としては、芳香族トリカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を組合せて用いてもよい。具体例としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸の無水物;2,3,6-ナフタレントリカルボン酸-2,3-無水物;フタル酸無水物と安息香酸とが単結合、-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-又はフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。
PI系樹脂前駆体の製造において、ジアミン化合物、テトラカルボン酸化合物、ジカルボン酸化合物及びトリカルボン酸化合物の使用量は、所望とするPI系樹脂前駆体の各構成単位の比率に応じて適宜選択できる。
本発明において、テトラカルボン酸化合物の総量1モルに対するジアミン化合物の総使用モル数をアミン比として定義する。本発明の好適な一実施形態においては、アミン比は、テトラカルボン酸化合物の総量1モルに対して、好ましくは0.90モル以上であり、好ましくは0.999モル以下である。また、別の一実施形態においては、アミン比は、テトラカルボン酸化合物の総量1モルに対して、好ましくは1.001モル以上であり、好ましくは1.10モル以下である。
本発明の一実施形態において、アミン比が1以下である場合、アミン比は好ましくは0.90モル以上0.999モル以下、より好ましくは0.95モル以上0.997モル以下、さらに好ましくは0.97モル以上0.995モル以下である。
本発明の一実施形態において、アミン比が1以上である場合、アミン比は好ましくは1.001モル以上1.10モル以下、より好ましくは1.002モル以上1.06モル以下、さらに好ましくは1.003モル以上1.05モル以下である
アミン比が1.0モルに近いと、合成時に急激に分子量が増大する傾向があり、1.0モルから大きく離れると得られるPI系樹脂の分子量が低下しやすい傾向がある。分子量が急激に増大すると、合成マスの中で不均一に成長して、PI系樹脂前駆体から得られるPI系樹脂の物性が安定しにくい傾向がある。一方、分子量が低すぎると機械物性が低下する傾向がある。
ジアミン化合物とテトラカルボン酸化合物との反応温度は、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、さらに好ましくは30℃以下である。また、ジアミン化合物とテトラカルボン酸化合物との反応温度は、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは15℃以上である。反応温度が上記の上限下限の範囲内であると、本発明の効果を得やすく、また、反応速度を高め、重合時間を短くできる傾向にある。反応時間は特に限定されず、例えば0.5~36時間程度、好ましくは1~24時間であってもよい。
ジアミン化合物とテトラカルボン酸化合物との反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、反応に影響を与えない限り特に限定されないが、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;フェノール、クレゾール等のフェノール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、乳酸エチル等のエステル系溶媒;γ-ブチロラクトン(以下、GBLと記載することがある)、γ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;テトラヒドロフラン及びジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;クロロホルム及びクロロベンゼン等の塩素含有溶媒;N,N-ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと記載することがある)、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと記載することがある)等のアミド系溶媒;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;N-メチルピロリドン(以下、NMPと記載することがある)等のピロリドン系溶媒;及びそれらの組合せなどが挙げられる。これらの中でも、溶解性の観点から、好ましくはフェノール系溶媒、ラクトン系溶媒、アミド系溶媒、ピロリドン系溶媒、より好ましくはアミド系溶媒を好適に使用できる。
本発明の一実施形態において、ジアミン化合物とテトラカルボン酸化合物との反応に用いる溶媒の沸点は、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に制御するためのイミド化条件に適していることが好ましく、好ましくは230℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは180℃以下であり、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上である。
ジアミン化合物とテトラカルボン酸化合物との反応は、必要に応じて、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の不活性雰囲気下又は減圧の条件下において行ってもよく、不活性雰囲気、例えば、窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気等の下、厳密に制御された脱水溶媒中で撹拌しながら行うことが好ましい。
得られるPI系樹脂前駆体は、慣用の方法により一旦単離してもよいが、単離することなく、PI系樹脂前駆体の合成により得られたPI系樹脂前駆体を含む反応液を、必要に応じて溶媒で適宜希釈し、PI系樹脂前駆体溶液として用いてもよい。
(塗工及び予備乾燥工程)
本発明における積層フィルムの製造において、塗工及び予備乾燥工程は、支持基材に、対応するPI系樹脂前駆体の溶液を塗布及び予備乾燥して多層塗膜を得る工程である。具体的には、支持基材に、対応するPI系樹脂前駆体の溶液を塗布及び予備乾燥することを複数回繰り返すことにより多層塗膜を得る方法(逐次パターンということがある)や、多層押出により、同時に各層に、対応するPI系樹脂前駆体の溶液を多層に積層した状態で塗布及び予備乾燥することにより多層塗膜を得る方法(同時パターンということがある)が挙げられる。
例えば、PI系樹脂含有層(PI-2)、PI系樹脂含有層(PI-1)及びPI系樹脂含有層(PI-3)をこの順に有する積層フィルム(L)の場合、逐次パターンでは、支持基材上に、PI系樹脂含有層(PI-2)に対応するPI系樹脂前駆体溶液を塗工し、予備乾燥させて塗膜を形成した後、該塗膜上に、PI系樹脂含有層(PI-1)に対応するPI系樹脂前駆体溶液を塗工し、予備乾燥させて2層塗膜を形成した後、該2層塗膜上に、PI系樹脂含有層(PI-3)に対応するPI系樹脂前駆体溶液を塗工し、予備乾燥させて3層塗膜を形成する工程であってもよい。また、同時パターンでは、多層押出等により、支持基材上に、PI系樹脂含有層(PI-2)に対応するPI系樹脂前駆体溶液、PI系樹脂含有層(PI-1)に対応するPI系樹脂前駆体溶液、及びPI系樹脂含有層(PI-3)に対応するPI系樹脂前駆体溶液を同時に塗工し、予備乾燥させて3層塗膜を形成する工程であってもよい。
PI系樹脂前駆体溶液に含まれる溶媒は、PI系樹脂前駆体の製造におけるジアミン化合物とテトラカルボン酸化合物との反応に用いる溶媒として例示のものが挙げられ、好ましくはラクトン系溶媒、アミド系溶媒、ピロリドン系溶媒、より好ましくはアミド系溶媒である。また、本発明の一実施形態において、PI系樹脂前駆体溶液に含まれる溶媒の沸点は、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に制御するためのイミド化条件に適していることが好ましく、好ましくは230℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは180℃以下、特に好ましくは170℃以下であり、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上である。
PI系樹脂前駆体溶液に含まれるPI系樹脂前駆体の含有量は、PI系樹脂前駆体溶液の総量に対して、好ましくは8質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは12質量%以上、特に好ましくは13質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは23質量%以下、特に好ましくは20質量%以下である。PI系樹脂前駆体の含有量が上記の範囲内であると、製膜時の加工性に優れる。
PI系樹脂前駆体溶液の塗膜は、公知の塗工方法又は塗布方法により、支持基材上にPI系樹脂前駆体溶液を塗工することで形成できる。公知の塗工方法としては、例えばワイヤーバーコーティング法、リバースコーティング、グラビアコーティング等のロールコーティング法、ダイコート法、カンマコート法、リップコート法、スピンコーティング法、スクリーン印刷コーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法、カーテンコート法、スロットコート法、流涎成形法等が挙げられる。支持基材上に1層ずつ又は複数回に分けてPI系樹脂前駆体溶液を塗工して複数層のPI系樹脂前駆体溶液の塗膜を形成してもよいし、同時に複数層のPI系樹脂前駆体溶液の積層塗膜を形成してもよい。同時に複数層の塗膜を形成する方法としては、例えば、共押出加工法、多層カーテン塗工法等を採用できる。
支持基材の例としては、金属箔(例えば銅箔)等の金属板(例えば銅板等)、SUS箔、SUSベルト等のSUS板、ガラス基板、PETフィルム、PENフィルム、本発明におけるPI系樹脂含有層以外の他のPI系樹脂フィルム、ポリアミド系樹脂フィルム等が挙げられる。中でも、耐熱性に優れる観点から、好ましくは銅板、SUS板、ガラス基板、PETフィルム、PENフィルム等が挙げられ、密着性及びコストの観点から、より好ましくは銅板、SUS板、ガラス基板又はPETフィルム等が挙げられる。本発明の一実施形態において、金属箔を構成する金属としては、例えば、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、チタン、タンタル、ステンレス及びこれらの合金等が挙げられる。これらの中でも、金属箔は、銅箔、銅合金箔、SUS箔、アルミニウム箔等が好ましく、導電性及び金属加工性の観点からは、銅箔又は銅合金箔がより好ましく、銅箔が特に好ましい。
塗工及び予備乾燥工程において、多層塗膜を予備乾燥する温度は、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、さらに好ましくは80℃以上、さらにより好ましくは90℃以上であり、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは130℃以下である。また、予備乾燥する時間は、好ましくは30秒以上、より好ましくは1分以上、さらに好ましくは5分以上、さらにより好ましくは10分以上であり、例えば15分以上、20分以上、又は25分以上であってもよく、また好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下、さらに好ましくは6時間以下、特に好ましくは1時間以下である。予備乾燥温度及び予備乾燥時間が前記範囲であると、イミド化時に多層塗膜に溶媒を残存した状態となりやすい。
(静置工程)
静置工程は、塗工及び予備乾燥工程で得られた多層塗膜を静置する工程である。イミド化工程前に、静置工程に供することにより、イミド化時に塗膜全体に溶媒が十分に残存した状態、又は樹脂層間が良く馴染んだ状態となりやすく、イミド化時まで樹脂分子の自由度を高くすることができる。この影響により、各PI系樹脂含有層に含まれるPI系樹脂の平面配向性が適度に低下し、面内方向から厚み方向までの種々の角度方向に配向性が乱れる傾向がある。そして、厚みの異なる2種以上のPI系樹脂含有層(好ましくはmPI層及びTPI層)それぞれで配向性の乱れる程度が異なるので、一方の層における厚み方向側の配向PAと、もう一方の層における面内方向側の配向PB若しくは30°方向の配向PCとの積が増加する傾向があると考えられる。また、静置工程に供することで、各層の界面付近において各層を構成するPI系樹脂が互いに混ざりやすくなるので、中間領域の厚みが大きくなり得ると考えられる。
静置工程において、多層塗膜を静置する時間(静置時間ともいう)は、静置する際の温度(静置温度ともいう)に応じて適宜選択でき、特に限定されないが、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上、さらに好ましくは12時間以上、さらにより好ましくは18時間以上、特に好ましくは22時間以上であり、例えば24時間以上、30時間以上、36時間以上、又は45時間以上であってもよい。多層塗膜の静置時間の上限は、特に限定されず、通常450時間以下、好ましくは100時間以下であってもよい。多層塗膜の静置時間が前記範囲であると、イミド化時に塗膜全体に溶媒が十分に残存した状態(又は良く馴染んだ状態)となりやすいので、積層フィルムにおけるパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲に調整しやすい。
また、本発明の好適な実施形態では、静置工程は、多層塗膜を低温下(好ましくは冷蔵下)で静置(又は保管)する工程であることが好ましい。低温下で静置(又は保管)することにより、塗膜全体に溶媒がさらに十分に残存した状態、又は樹脂層間がさらに良く馴染んだ状態を作りやすいため、イミド化時までの樹脂分子の自由度をさらに高くできるので、上述のパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲により調整しやすい。
静置工程において、多層塗膜の静置温度は、好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下、さらに好ましくは10℃以下、さらにより好ましくは8℃以下、特に好ましくは5℃以下である。多層塗膜の静置温度が前記上限以下である場合、イミド化時に塗膜全体に溶媒が十分に残存した状態(又は良く馴染んだ状態)をより作りやすいので、積層フィルムにおける上述のパラメータXや中間領域の厚さを所望の範囲にさらに調整しやすい。また、多層塗膜の静置温度の下限は、通常-30℃以上、好ましくは-20℃以上、さらに好ましくは-10℃以上、さらにより好ましくは-5℃以上、特に好ましくは0℃以上である。なお、静置工程は、例えば空気中又は不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、密閉空間で行ってもよい。
また、本発明の好適な実施形態において、上記の静置工程を含む製造方法により得られる積層フィルムは、式(I)や式(IV)を満たしやすく、また中間領域の厚さが上記の範囲を満たしやすいので、高い突刺強度が得られるやすいだけではなく、Dfを低く維持しやすい。
(イミド化工程)
イミド化工程は、例えば200℃以上500℃以下の熱処理によって、支持基材上の多層塗膜中の各PI系樹脂をイミド化する工程である。
本発明の一実施形態において、イミド化工程は、比較的速い速度で低温(第1温度という)から高温(第2温度という)まで昇温し、該高温下で保持する工程を含むことが好ましい。比較的速い速度で、好ましくは急速に昇温させてイミド化を進め、高温に到達させた後該温度で一定時間保持してイミド化を完了することで、PI系樹脂の高次構造や分岐構造の形成の点で有利となり得るため、得られる積層フィルムがDfを低く維持しつつ、突刺強度を向上しやすい。また、平滑な積層フィルムを得る観点からも有利となり得る。
本発明の一実施形態において、第1温度は、好ましくは20℃以上50℃以下、より好ましくは25℃以上35℃以下であり、第2温度は、好ましくは220℃以上450℃以下、より好ましくは250℃以上400℃以下、さらに好ましくは300℃以上380℃以下、特に好ましくは330℃以上360℃以下である。本発明の積層フィルムによれば、例えば360℃以下(好ましくは350℃以下)の比較的低温でイミド化を行っても、高い突刺強度を発現したり、Dfの低減が可能になる。さらに、イミド化温度が360℃以下(好ましくは350℃以下)であると、支持基材として銅箔を使用した場合においても、銅箔の熱劣化を抑制し得るため、高周波特性に優れた積層シートを得やすい。また、イミド化温度は、十分にイミド化率を向上する観点、突刺強度の向上やDfの低減の観点からは、好ましくは200℃以上、より好ましくは210℃以上、さらに好ましくは220℃以上である。
本発明の一実施形態において、第1温度から第2温度までの昇温は、一段階の昇温速度で行ってもよく、二段階以上の多段階の昇温速度で行ってもよい。本発明の一実施形態において、第1温度から第2温度までの昇温を一段階で行う場合、その昇温速度は、好ましくは3.5℃/分以上、より好ましくは5℃/分以上、さらに好ましくは7℃/分以上、さらにより好ましくは10℃/分以上、特に好ましくは15℃/分以上、特により好ましくは20℃/分以上であり、好ましくは50℃/分以下、より好ましくは40℃/以下、さらに好ましくは35℃/分以下である。二段階以上の多段階の昇温速度で行う場合、一段階目の昇温速度と二段階目の昇温速度は同一又は異なっていてもよく、一段階目より二段階目以降の方が速いことが好ましい。一段階目の昇温速度は、好ましくは1~15℃/分以下、より好ましくは3~12℃/分以下であってもよく、二段階目以降の昇温速度は、好ましくは3~35℃/分、より好ましくは8~25℃/分であってもよい。
上記のような昇温速度を採用すると、PI系樹脂の高次構造や分岐構造の形成の点で有利となり得るため、得られる積層フィルムがDfを低く維持しつつ、突刺強度を向上しやすい。また、平滑な積層フィルムを得る観点からも有利となり得る。
本発明の一実施形態において、第1温度から第2温度までの昇温時間は、これらの温度や昇温速度に応じて適宜選択でき、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下、さらに好ましくは2時間以下、特に好ましくは1時間以下であり、場合によっては50分以下であってもよく、また、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上、さらに好ましくは7分以上である。第1温度から第2温度までの昇温時間が上記の範囲であると、得られる積層フィルムがDfを低く維持しつつ、突刺強度を向上しやすい。
本発明の一実施形態において、第2温度における保持時間は、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上であり、好ましくは30分以下、より好ましくは20分以下、さらに好ましくは10分以下である。第1温度から第2温度までの昇温速度が上記範囲であり、さらに第2温度における保持時間が上記範囲にあると、PI系樹脂の高次構造や分岐構造の形成の点で有利となり得るため、得られる積層フィルムがDfを低く維持しつつ、突刺強度を向上しやすい。
イミド化後、支持基材上に形成された多層塗膜を支持基材から剥離することによって、積層フィルムを得ることができる。本発明の一実施形態において、支持基材が金属箔(例えば銅箔)の場合には、塗膜を金属箔から剥離することなく、金属箔上に積層フィルムが積層された積層シートを得ることもできる。
<積層フィルムの物性>
本発明の一実施形態において、積層フィルムを構成する各PI系樹脂含有層中のPI系樹脂の含有量は、それぞれ、該PI系樹脂含有層の質量に対して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。また、PI系樹脂の含有量の上限は特に制限されず、PI系樹脂含有層の質量に対して、例えば100質量%以下、99質量%以下、又は95質量%以下であってもよい。PI系樹脂の含有量が上記範囲であると、突刺強度、誘電特性や熱物性の向上した積層フィルムを得ることができる。
本発明の積層フィルムにおいて、各PI系樹脂含有層は、必要に応じて、フィラーを含むことができる。フィラーとしては、シリカ、アルミナ等の金属酸化物粒子、炭酸カルシウム等の無機塩、フッ素樹脂、シクロオレフィンポリマー等のポリマー粒子等が挙げられる。フィラーは単独又は2種以上を組合せて使用することができる。フィラーを含む場合、その含有量は、該PI系樹脂含有層の質量に対して、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下であり、好ましくは0.01質量%以上である。
また、本発明の一実施形態において、本発明の積層フィルムを構成する各PI系樹脂含有層は、それぞれ必要に応じて、添加剤を含むことができる。添加剤としては、例えば酸化防止剤、難燃剤、架橋剤、界面活性剤、相溶化剤、イミド化触媒、耐候剤、滑剤、抗ブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、無滴剤、顔料などが挙げられる。添加剤は単独又は二種以上組合せて使用できる。各種添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択でき、各種添加剤を含む場合、その合計含有量は、各PI系樹脂含有層の質量に対して、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下、特に好ましくは1質量%以下であり、好ましくは0.001質量%以上である。
プリント回路には、伝送損失が小さくなることが求められる。伝送損失は、誘電体で生じる電界によって発生する損失である誘電損失と、導体を流れる電流に起因して発生する損失である導体損失との和で表される。そして、誘電損失は、近似的に式(i)で表される指標Eに比例することが知られている。
E=Df×(Dk)1/2 (i)
[式(i)中、Dfは誘電正接を表し、Dkは比誘電率を表す]
5G等の高速通信用FPCで用いられる高周波数域では、誘電損失が大きくなる傾向にあるため、前記指標Eの値が小さく、誘電損失を抑制できる材料が特に求められている。
一方、高周波信号は導体のごく表面に電流が集中する。したがって、導体損失は接する誘電体の誘電特性に関連し、近似的に(Dk)1/2に比例することが知られている。
本発明の積層フィルムは、Df及びDkが小さく、誘電損失の指標E及び導体損失も小さくなるため、該積層フィルムを含む回路では伝送損失が低減できる。そのため、本発明の積層フィルムは、優れた誘電特性を維持しつつ(特に低いDfを維持しつつ)、高い突刺強度を発現できる。
本発明の一実施形態において、積層フィルムの10GHzにおける誘電損失の指標Eは、好ましくは0.0080以下、より好ましくは0.0075以下、さらに好ましくは0.0070以下、さらにより好ましくは0.0065以下、特に好ましくは0.0060以下、特により好ましくは0.0059以下である。前記指標Eが小さければ小さいほど該積層フィルムを含んでなる電子回路の伝送損失は低くなるため、前記指標Eの下限は特に制限されず、例えば0以上であってよい。
本発明の一実施形態において、積層フィルムの10GHzにおけるDfは、積層フィルムを電子回路に組み込んだ際に該電子回路の伝送損失を低減する観点から、好ましくは0.0040以下、より好ましくは0.0035以下、さらに好ましくは0.0034以下、さらにより好ましくは0.0033以下、特に好ましくは0.0032以下である。前記Dfが小さければ小さいほど該積層フィルムを含んでなる電子回路の伝送損失は低くなるため、前記Dfの下限は特に制限されず、例えば0以上であってよい。
本発明の一実施形態において、積層フィルムの10GHzにおけるDkは、好ましくは3.500以下、より好ましくは3.450以下、さらに好ましくは3.400以下である。
積層フィルムのDf及びDkは、ベクトルネットワークアナライザ及び共振器を用いて測定でき、例えば実施例に記載の方法で測定できる。
本発明の一実施形態において、積層フィルムの線膨張係数(CTE)は、好ましくは45ppm/K未満、より好ましくは40ppm/K以下、さらに好ましくは35ppm/K以下、さらにより好ましくは32ppm/K以下であり、例えば31ppm/K以下、30ppm/K以下、28ppm/K以下、25ppm/K以下、又は23ppm/K以下であってもよい。積層フィルムのCTEが上記の上限以下であると、熱物性に優れ、高い寸法安定性を有することが期待できる。また、積層フィルムのCTEは、好ましくは0ppm/K以上、より好ましくは5ppm/K以上、さらに好ましくは8ppm/K以上、特に好ましくは10ppm/K以上である。積層フィルムのCTEが、上記上限下限の範囲にあると、金属箔(特に銅箔)と積層フィルムのPI系樹脂含有層のCTEが近くなるため、金属箔からの積層フィルムの剥がれを抑制する効果が得られる。なお、CTEは、例えば熱機械分析装置(以下、「TMA」と記載することがある)により測定でき、実施例に記載の方法により求められる。
本発明の積層フィルムには、通常工業的に採用されている方法によって、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理等の表面処理が施されていてもよい。
本発明の一実施形態において、本発明の積層フィルムは、該積層フィルムの厚みを50μmに換算したときの突刺強度(値)が、好ましくは12.0以上、より好ましくは14.0N以上、さらに好ましくは16.0N以上、さらにより好ましくは20.0N以上、特に好ましくは23.0N以上である。言い換えると、本発明の積層フィルムの単位厚み当たりの突刺強度は、好ましくは0.24N/μm以上、より好ましくは0.28N/μm以上、さらに好ましくは0.32N/μm以上、さらにより好ましくは0.40N/μm以上、特に好ましくは0.46N/μm以上である。積層フィルムの突刺強度が前記下限以上であると、フィルムの厚み方向に衝撃を受けた際の破損を有効に抑制できる。積層フィルムの突刺強度の上限は、限定されず、例えば50N以下であってもよい。突刺強度は、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、JIS Z 1707に準拠して小型卓上試験機を用いて測定できる。具体的には、例えば後述する実施例に記載の方法により測定できる。
本発明の積層フィルムは、突刺強度が高いため、プリント回路基板やアンテナ基板に対応可能な基板材料などに好適に利用できる。また、本発明の積層フィルムは、Dfが低いため、高周波信号を伝送する高周波帯域であっても低い伝送損失を実現できる。そのため、特に5G等の高速通信用途のプリント回路基板やアンテナ基板に対応可能な基板材料として好適である。
[積層シート]
本発明の積層フィルムは、十分に高い突刺強度を有しながら、Dfを低減することが可能であるため、FPCに用いられる金属張積層板の形成に好適に使用し得る。したがって、本発明は、本発明の積層フィルムと金属箔層とを含む積層シートを包含する。本発明の一実施形態において、本発明の積層シートは、金属箔層を本発明の積層フィルムの片面のみに含んでいてもよく、両面に含んでいてもよい。
本発明の一実施形態において、金属箔層を構成する金属としては、上記に記載の金属が挙げられる。これらの中でも、金属箔層は、銅箔層、銅合金箔層、SUS箔層、アルミニウム箔層等が好ましく、導電性及び金属加工性の観点からは、銅箔層又は銅合金箔層がより好ましく、銅箔層が特に好ましい。
本発明の一実施形態において、金属箔層、特に銅箔層の厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上であり、また、回路の微細化をしやすく、屈曲耐性を向上しやすい観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下、特に好ましくは20μm以下である。金属箔層、特に銅箔層の厚さは、膜厚計等を用いて測定できる。なお、積層フィルムの両面に金属箔層、特に銅箔層を含む場合、各金属箔層、特に各銅箔層の厚さは互いに同じであっても異なっていてもよい。
本発明の積層シートは、本発明の積層フィルム及び金属箔層、特に銅箔層に加えて、機能層等の他の層を含んでいてもよい。機能層としては、例えば、接着層などが挙げられる。機能層は単独又は二種以上組合せて使用できる。
本発明の一実施形態において、本発明の積層シートは、金属箔層及び2層以上のPI系樹脂含有層からなる積層フィルムから構成される金属張積層板であってもよく、金属箔層、2層以上のPI系樹脂含有層と接着層とからなる積層フィルムから構成される金属張積層板であってもよいが、耐熱性、寸法安定性及び軽量化の観点からは、接着層を含まない金属張積層板であることが好ましい。
また、本発明の積層フィルムは、比較的低いイミド化温度で成膜可能であり、銅箔上でPI系樹脂前駆体塗膜の熱イミド化を行うことによって金属箔が銅箔である積層シートを製造しても、銅箔表面の劣化を抑制しながら十分に高い突刺強度や低いDfを実現できる。したがって、本発明の積層シートは、接着層を含んでいなくとも、優れた高周波特性を有する。
また、本発明の一実施形態において、本発明の積層フィルムと金属箔層、特に銅箔層とは直接接していてもよく、積層フィルムと金属箔層、特に銅箔層との間に機能層が挿入され、これらが機能層を介して接していてもよいが、突刺強度や熱物性を向上する観点からは、積層フィルムと金属箔層、特に銅箔層とが直接接していることが好ましい。
<積層シートの製造方法>
本発明の積層シートは、例えば、以下の工程:
金属箔上に、対応するPI系樹脂前駆体の溶液を塗布及び予備乾燥して多層塗膜を得る工程、
得られた多層塗膜を静置する工程、並びに
多層塗膜を加熱してPI系樹脂をイミドすることにより、本発明の積層フィルムを金属箔上に形成する工程
を含む方法により製造できる。
上記製造方法においては、先に記載の本発明の積層フィルムの製造方法における各工程の記載が同様に当てはまり、好適な態様等も同様である。
本発明の積層シートは、上記方法以外の方法、例えば、積層シートに含まれる金属箔以外の別の支持基材上にPI系樹脂前駆体溶液を塗工及び乾燥することにより得られるPI系樹脂前駆体の多層塗膜を、前記基材から剥離し、剥離された前記PI系樹脂前駆体の多層塗膜を金属箔に貼合せる方法により製造してもよい。PI系樹脂前駆体の多層塗膜と金属箔とを貼合せる方法としては、プレスによる方法、熱ロールを使用したラミネート方法等を採用してよく、貼合せる工程において、PI系樹脂前駆体のイミド化を同時に行ってもよい。しかし、本発明の積層フィルムは、比較的低いイミド化温度で成膜可能であり、銅箔上でPI系樹脂前駆体塗膜の熱イミド化を行うことによって金属箔が銅箔である積層シートを製造しても、銅箔表面の劣化を抑制しながら高い突刺強度や低いDfを実現できる。したがって、本発明の積層シートは、上記のような貼合工程を経ることなく製造しても、優れた高周波特性を有する。
[フレキシブルプリント回路基板]
本発明の積層フィルムは、突刺強度に優れるため、FPC基板材料として好適に利用できる。また、本発明の積層フィルムは、低いDfを有し得るため、該積層フィルムを組み込んでなる電気回路の伝送損失を低減することができる。さらに、本発明の積層フィルムは、CTEも低く、熱物性にも優れるため、FPC基板材料、特に5G等の高速通信用途のFPC基板材料として好適に利用できる。したがって、本発明は本発明の積層フィルム又は積層シートを含むフレキシブルプリント回路基板も包含する。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例で使用した略号は、以下の化合物を示す。
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
BP-TME:4,4’―ビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-イルカルボニルオキシ)ビフェニル
PMDA:無水ピロメリット酸
m-Tb:4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル
TPE-Q:1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
TPE-R:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
1.ポリイミド樹脂前駆体溶液の調製
(1)ポリイミド系樹脂前駆体溶液1
m-Tb 48.61g(228.9mmol)、及びTPE-Q 66.92g(228.9mmol)をDMAc 1598gに溶解させた後、BP-TME 118.22g(221.2mmol)を加えて窒素雰囲気下20℃で1時間撹拌した。その後、PMDA 48.25g(221.2mmol)を加えて窒素雰囲気下20℃で3時間撹拌し、PI系樹脂前駆体溶液1を得た。用いた酸二無水物モノマーに対するジアミンモノマーのモル比は1.04であった。
(2)ポリイミド系樹脂前駆体溶液2
m-Tb 9.87g(46.5mmol)、及びTPE―R 122.35g(418.5mmol)をDMAc 1890gに溶解させた後、PMDA 30.26g(138.7mmol)、及びBPDA 95.25g(323.7mmol)を順に加えて窒素雰囲気下20℃で3時間撹拌し、PI系樹脂前駆体溶液2を得た。用いた酸二無水物モノマーに対するジアミンモノマーのモル比は1.01であった。
(3)ポリイミド系樹脂前駆体溶液3
m-Tb 14.40g(67.8mmol)、及びTPE-Q 19.82g(67.8mmol)をDMAc 405gに溶解させた後、BP-TME 7.11g(13.3mmol)を加えて窒素雰囲気下20℃で1時間撹拌した。その後、PMDA 14.50g(66.5mmol)とBPDA 15.65g(53.2mmol)を加えて窒素雰囲気下20℃で3時間撹拌し、PI系樹脂前駆体溶液3を得た。用いた酸二無水物モノマーに対するジアミンモノマーのモル比は1.02であった。
(4)ポリイミド系樹脂前駆体溶液4
m-Tb 57.72g(271.9mmol)、及びTPE-Q 8.83g(30.2mmol)をDMAc 810gに溶解させた後、PMDA 32.53g(149.1mmol)とBPDA 43.87g(149.1mmol)を加えて窒素雰囲気下20℃で3時間撹拌し、PI系樹脂前駆体溶液4を得た。用いた酸二無水物モノマーに対するジアミンモノマーのモル比は1.01であった。
2.積層フィルムの作製
(1)実施例1
電解銅箔(厚さ12μm)の粗化面側(表面粗さ;Rz=0.6μm)に、上層/中層/下層として、上記で調製したPI系樹脂前駆体溶液2/PI系樹脂前駆体溶液1/PI系樹脂前駆体溶液2を、それぞれ乾燥厚みで5μm/40μm/5μmとなるように同時に塗工して、PI系樹脂前駆体溶液の3層積層塗膜を成形した。次いで、前記3層積層塗膜を100℃で12分間加熱して乾燥させた後、この銅箔と前記3層積層塗膜とからなる積層体を密封容器に入れて温度4℃の環境下で24時間静置した。その後、密閉容器から取り出した前記積層体が室温になったことを確認した後、金枠に固定し、酸素濃度1%雰囲気下で、10分間かけて30℃から320℃まで昇温した後、320℃で5分間保持した。得られたPI系樹脂含有層と銅箔とからなる銅箔付き積層フィルムを大容量の濃度40質量%の塩化第二鉄水溶液に室温で10分間浸漬した後、塩化第二鉄水溶液を純水で洗浄した。目視で銅の残存がないことを確認した後、80℃で1時間乾燥して、層(PI-2)(銅層側)、層(PI-1)及び層(PI-3)(TPI層、mPI層及びTPI層)の順に積層してなる積層フィルム1を得た。該積層フィルム1の厚みは50μmであり、層(PI-2)と層(PI-1)との間の中間領域の厚みは1800nmであり、層(PI-2)及び層(PI-3)の厚みはそれぞれ4.1μm、層(PI-1)の厚みは38.2μmであった。
(2)実施例2
電解銅箔(厚さ12μm)の粗化面側(表面粗さ;Rz=0.6μm)に、PI系樹脂前駆体溶液2を乾燥厚みが5μmとなるように塗工し、塗膜を得た。前記塗膜を120℃で10分間加熱して乾燥させ、その乾燥させた塗膜上にPI系樹脂前駆体溶液3を乾燥厚みが36μmとなるように塗工して2層積層塗膜を得た。前記2層積層塗膜を120℃で30分間加熱して乾燥させ、乾燥させた2層積層塗膜上にPI系樹脂前駆体溶液2を乾燥厚みが5μmとなるように塗工し、3層積層塗膜を得た。前記3層積層塗膜を120℃で30分間加熱して乾燥後、この銅箔と前記3層積層塗膜とからなる積層体を密封容器に入れて温度4℃の環境下で24時間静置した。その後、密閉容器から取り出した前記積層体が室温になったことを確認した後、金枠に固定し、酸素濃度1%雰囲気下で、10分間かけて30℃から320℃まで昇温した後、320℃で5分間保持した。得られたPI系樹脂含有層と銅箔とからなる銅箔付き積層フィルムを大容量の濃度40質量%の塩化第二鉄水溶液に室温で10分間浸漬した後、塩化第二鉄水溶液を純水で洗浄した。目視で銅の残存がないことを確認した後、80℃で1時間乾燥して、層(PI-2)(銅層側)、層(PI-1)及び層(PI-3)(TPI層、mPI層及びTPI層)の順に積層してなる積層フィルム2を得た。該積層フィルム2の厚みは46μmであり、層(PI-2)と層(PI-1)との間の中間領域の厚みは2500nmであり、層(PI-2)及び層(PI-3)の厚みはそれぞれ3.8μm、層(PI-1)の厚みは33.5μmであった。
(3)実施例3
上層/中層/下層として、PI系樹脂前駆体溶液2/PI系樹脂前駆体溶液4/PI系樹脂前駆体溶液2をそれぞれ乾燥厚みで5μm/36μm/5μmとなるように塗工した以外は実施例2と同様にして、層(PI-2)(銅箔層側)、層(PI-1)及び層(PI-3)(TPI層、mPI層及びTPI層)の順に積層してなる積層フィルム3を得た。該積層フィルム3の厚みは46μmであり、層(PI-2)と層(PI-1)との間の中間領域の厚みは2800nmであり、層(PI-2)及び層(PI-3)の厚みはそれぞれ3.6μm、層(PI-1)の厚みは33.2μmであった。
(4)実施例4
温度4℃の環境下で48時間静置した以外は、実施例1と同様にして、層(PI-2)(銅箔層側)、層(PI-1)及び層(PI-3)(TPI層、mPI層及びTPI層)の順に積層してなる積層フィルム4を得た。該積層フィルム4の厚みは50μmであり、層(PI-2)と層(PI-1)との間の中間領域の厚みは2900nmであり、層(PI-2)及び層(PI-3)の厚みはそれぞれ3.6μm、層(PI-1)の厚みは37.1μmであった。
(5)比較例1
上層/中層/下層として、PI樹脂前駆体溶液2/PI樹脂前駆体溶液1/PI樹脂前駆体溶液2をそれぞれ乾燥厚みで5μm/36μm/5μmとなるように塗工し、温度4℃の環境下で静置を行わずにすぐに320℃での熱処理を行った以外は実施例2と同様にして、層(PI-2)(銅箔層側)、層(PI-1)及び層(PI-3)(TPI層、mPI層及びTPI層)の順に積層してなる積層フィルム5を得た。該積層フィルム5の厚みは46μmであり、層(PI-2)と層(PI-1)との間の中間領域の厚みは2500nmであり、層(PI-2)及び層(PI-3)の厚みはそれぞれ4.9μm、層(PI-1)の厚みは35.8μmであった。
<膜厚測定>
実施例及び比較例で得られた積層フィルム1~5から、それぞれ、5mm×5mmで任意の箇所を切り出し、樹脂で包埋することで膜厚測定用サンプルを作成した。作成した膜厚測定用サンプルは、ミクロトームにより切削することで測定断面を作製し、レーザー顕微鏡を用いて、下記条件にて積層フィルムの厚みを測定した。
装置:オリンパス(株)製 LEXT OLS4100
観察倍率:100倍
<Df及びDkの測定>
実施例及び比較例で得られた積層フィルム1~5から、それぞれ、50mm×50mmの測定サンプルを切り出し、Df及びDkを以下の条件で測定した。なお、測定は、測定サンプルを23℃/50%RHで24時間サンプルを調湿した後に行った。
装置:アンリツ(株)製 コンパクトUSBベクトルネットワークアナライザ(製品名:MS46122B)
(株)エーイーティー製空洞共振器(TEモード 10GHzタイプ)
測定周波数:10GHz
測定雰囲気:23℃/50%RH
<線熱膨張係数(CTE)の測定>
実施例及び比較例で得られた積層フィルム1~5のCTEは、熱機械分析装置TMAを用いて、下記条件で測定を行い、50℃から100℃におけるCTEを算出した。
装置:(株)日立ハイテクサイエンス製 TMA/SS7100
荷重:50.0mN
温度プログラム:20℃から130℃まで5℃/分の速度で昇温
試験片:長さ40mm、幅5mm
<貯蔵弾性率の測定>
上記PI系樹脂前駆体溶液1~5から形成された各PI系樹脂の貯蔵弾性率は、以下の方法で作製したPI系樹脂フィルムを、下記条件で測定することにより求めた。
各PI系樹脂前駆体溶液を、乾燥厚みが30μmとなるようにガラス基板上に流涎成形し、PI系樹脂前駆体溶液の塗膜を成形した。前記塗膜を120℃で30分間加熱し、得られたフィルムをガラス基板から剥離した後、金枠にフィルムを固定した。金枠に固定したフィルムを酸素濃度1%雰囲気下で、10分間かけて30℃から320℃まで昇温した後、320℃で5分間維持し、PI系樹脂フィルムを得た。
動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御(株)製、DVA-220)を用い、次のような試料及び条件下で測定して、貯蔵弾性率(Storage modulus、E’)を得た。
試験片:長さ40mm、幅5mm、厚さ30μmの直方体
実験モード:単一周波数、定速昇温
実験様式:引張
サンプルつかみ間長:15mm
測定開始温度:室温~342℃
昇温速度:5℃/分
周波数:10Hz
静/動応力比:1.8
上記方法により測定した結果、PI系樹脂前駆体溶液1から形成されたPI系樹脂フィルムは、40℃における貯蔵弾性率が2.3×10Pa、300℃における貯蔵弾性率が2.8×10Paであり、PI系樹脂前駆体溶液2から形成されたPI系樹脂フィルムは、40℃における貯蔵弾性率が2.4×10Pa、300℃における貯蔵弾性率が1.1×10Paであり、PI系樹脂前駆体溶液3から形成されたPI系樹脂フィルムは、40℃における貯蔵弾性率が4.3×10Pa、300℃における貯蔵弾性率が3.0×10Paであり、PI系樹脂前駆体溶液4から形成されたPI系樹脂フィルムは、40℃における貯蔵弾性率が7.5×10Pa、300℃における貯蔵弾性率が4.8×10Paであった。
<突刺強度の測定>
実施例及び比較例で得られた積層フィルム1~5の突刺強度は、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、JIS Z 1707に準拠して株式会社島津製作所社製 小型卓上試験機 EZ-LXを用いて測定した。具体的には、幅50mm、長さ50mmの試験片を用いて、Φ2.5mmかつ先端形状直径0.5mm半円形の針の加圧子をロードセル50N、試験速度200mm/分の条件で試験を行い、破断点変位を測定し、その際の最大荷重を突刺強度とした。なお、突刺強度の測定は、層(PI-2)(TPI層)側から行った。
<中間領域の厚み、層(PI-1)~層(PI-3)の厚みの測定>
(試験片の作成)
実施例及び比較例で得られた各積層フィルム1~5の一部をカットし、厚み方向の断面が見えるように樹脂包埋した。次いで、ウルトラミクロトーム(Leica社製、「Leica EM UC7」)にガラスナイフを取り付け、積層フィルムの表面に対し垂直方向に刃を走査し、樹脂包埋したフィルムの表面に到達してから試験片の深さ方向(積層フィルムに対して面内方向)に100μm以上を切削した。その後、SYMナイフ(シンテック社製、「SYM2045 Ultra」)を取り付け、さらに1μm以上切削した。切削した断面を観察面とし、得られた試験片(試料)をSPM(Bruker社製;Dimension Icon)にセットした。なお、前記切削した断面(観察面)は層(PI-2)(TPI層)、層(PI-1)(mPI層)及び層(PI-3)(TPI層)を含むものである。
(SPMによる弾性率像の取得)
下記の条件で試料断面の機械的特性評価を実施し、DMT(Derjaguim-Muller-Toporov)理論に基づいて、DMT弾性率(GPa)を算出し、DMT弾性率像を得た。
具体的には、まず、カンチレバー探針と試料が接触する過程におけるピエゾスキャナーの変位量とカンチレバーの反り量を計測し、荷重Fと試料変形量δの関係を示す曲線(フォースカーブ)を得た。測定点毎に、得られたフォースカーブの引戻過程(カンチレバー探針が予め設定した最大荷重まで試料に押し込まれた時点から該探針が完全に試料表面から離れるまでの過程(図3に示すような点C→点D→点Eの過程)に対して、DMT理論式による解析を行うことでDMT弾性率を求めた。
解析においては、解析ソフト(NanoScope Analysis ver.2.00)を使用し、フォースカーブの引戻過程におけるF値の最小値から最大値までの数値を0から1までの数値に置き換えたときに、0.05から0.7までの範囲についてフィッティングを行い、DMT弾性率を算出した。試料断面の10μm×10μmの範囲で、横512点×縦512点においてDMT弾性率を算出し、これが格納されたDMT弾性率像を得た。
カンチレバーはRTESPA300(Bruker社製;公称バネ定数40N/m、公称探針先端半径8nm)を用いた。カンチレバーのバネ定数は、SPM装置に内蔵されているSader Method (文献A)によって算出された値を採用した。カンチレバーの探針先端半径は、SPM装置に内蔵されているReconstruction法(文献B)によって算出された先端から2nm上の位置における値を採用した。フォースカーブの取得はPeak Force QNM(Quantitative Nanomechanical Mapping)モードで、図4に示すような界面が中心に位置し、中心より上に層(PI-2)が位置し、中心より下に層(PI-1)が位置するように測定箇所を設定して行った。測定条件を下記に示す。
(文献A)Sader J.E., Sanelli J.A., Adamson B.D., Monty J.P., Wei X ., Crawford S.A., Rev. Sci. Instrum., 2012, Vol. 83, pp. 103705-1 to 103705-16
(文献B)ISO13095:2014
装置 :Dimension Icon (Bruker)
カンチレバー :RTESPA-300 (Bruker)
測定モード :Peak Force QNM
測定雰囲気 :24℃/大気下
測定範囲 :10μm×10μm(銅箔面側にあった層(PI-2)(TPI層)と層(PI-1)(mPI層)とを含む)
分解能 :512×512pixel(19.53nm/pixel)
カンチレバー移動速度:0.4μm/s
最大荷重 :40nN
Peak Force Frequency:1kHz
Peak Force Amplitude:30nm
Feedback Gain :Auto
(各層のSPMによる平均弾性率の算出)
得られたDMT弾性率像の左上端を(X,Y)=(0,0)、左下端を(X,Y)=(0,511)、右上端を(X,Y)=(511,0)、右下端を(X,Y)=(511,511)として、(0,0)から(511,99)までの512×100点のDMT弾性率値の平均値を、層(PI-2)の平均DMT弾性率(SPMにより測定された平均弾性率)とした。(X,Y)=(0,412)から(511,511)までの512×100点のDMT弾性率値の平均を、層(PI-1)の平均DMT弾性率(SPMにより測定された平均弾性率)とした。
(中間領域の厚み及び層(PI-2)の厚みの算出)
得られたDMT弾性率像においてX=50,150,250,350,450それぞれのときに、Y=0~511に対応するDMT弾性率プロファイルを得た。具体的には、DMT弾性率像においてX=50、Y=0~511[(X,Y)=(50,0)~(50,511)]におけるDMT弾性率を縦軸とし、対応するY(Y座標)を横軸としてプロットすることにより、X=50のときのDMT弾性率プロファイルを得た。このDMT弾性率プロファイルをX=150,250,350,450に対しても作成した。
次に、5本のDMT弾性率プロファイルについて、DMT弾性率像のY値毎(Y座標の0~511)にDMT弾性率の平均値を算出し、平均DMT弾性率プロファイルを作成した。さらに平均DMT弾性率プロファイルにおいて、nを0~511の任意の値として、Y=nとしたとき、n-4からn+4までの9点のDMT弾性率の平均をとり、Y=n(4<n<508)におけるDMT弾性率値とした(平均DMT弾性率プロファイルの9点移動平均線を作成した)。この線において、層(PI-1)の平均DMT弾性率(SPMにより測定された平均弾性率)から層(PI-2)の平均DMT弾性率(SPMにより測定された平均弾性率)に至るまで連続的に変化する領域を中間領域とし、この領域のY値幅を中間領域の厚みとした。このとき、Y値幅(pixel)を19.53pixel/nmで除することで、pixel単位からnm単位へ変換した。また、層(PI-2)の表面から、層(PI-2)と中間領域との界面までを層(PI-2)とし、それらの距離を層(PI-2)の厚み(nm)として算出した。
(層(PI-1)の厚みの算出)
実施例及び比較例で得られた積層フィルムにおいては、層(PI-3)(他方のTPI層)と層(PI-1)(mPI層)との間の中間領域及び層(PI-3)の厚みを、上記と同様の解析により算出した。上記レーザー顕微鏡で求めた積層フィルムの厚み(全厚)から、層(PI-2)、層(PI-3)及び2つの中間領域の厚みを除くことで、層(PI-1)(mPI層)の厚みを算出した。
<レーザーラマン分光法によるピーク強度比の算出>
実施例及び比較例で得られた各積層フィルム1~5の一部をカットし、厚み方向の断面が見えるように樹脂包埋した。次いで、ウルトラミクロトーム(Leica社製、「Leica EM UC7」)にガラスナイフを取り付け、積層フィルムの表面に対し垂直かつ積層フィルムの面内方向(TD方向)に沿うように刃を走査し、樹脂包埋したフィルムの表面に到達してから試験片の深さ方向に100μm以上を切削した。その後、SYMナイフ(シンテック社製、「SYM2045 Ultra」)を取り付け、さらに1μm以上切削した。切削した断面を観察面とし、得られた試験片(試料)を顕微ラマン装置(JASCO製:NRS-5000)にセットした。なお、前記切削した断面(観察面)は層(PI-2)(TPI層)、層(PI-1)(mPI層)及び層(PI-3)(TPI層)とを含むものである。
(装置の詳細)
装置 :NRS-5000 (JASCO)
励起波長 :785 nm
対物レンズ :100倍
グレーティング :L600/B500 nm
スリット幅 :200×1000 μm
アパーチャー :φ20 μm
レーザー強度 :11.4 mW
減光器 :100% (オープン)
露光時間 :120秒
積算回数 :2回
偏光子 :未使用
上記条件の下、1/2波長板を90°にし、レーザー偏光の振動方向と試料のTD方向が平行になるように試料の角度を設定した。層(PI-2)の中心付近及び層(PI-1)の中心付近でラマン分光測定を行い、得られたラマンスペクトルに対し13点移動平均法を用いることで平滑化処理を実施した。その後下記条件で蛍光除去処理を行った。
手法:Rolling Ball Algorithm
モデル形状:円
円半径:500
判定間隔:10 cm-1
さらに、処理後の層(PI-1)及び層(PI-2)におけるラマンスペクトルにおいて、725cm-1付近のピーク(芳香環C-H変角振動由来に相当し得るピーク)の強度と、1615cm-1付近のピーク(芳香環C=C伸縮振動由来に相当し得るピーク)の強度を求め、[(積層フィルムの面内方向(0°方向)と一致する偏光配置での1615cm-1付近のピーク強度)/(積層フィルムの面内方向(0°方向)と一致する偏光配置での725cm-1付近のピーク強度)]を算出し、層(PI-1)及び層(PI-2)それぞれの0°配向方向のピーク強度比I(0)及びI(0)を求めた。なお、ピークの強度はピークの高さである。
続いて、1/2波長板を90°で固定したまま、試料を回転させ、レーザー偏光の振動方向と積層フィルムの膜厚方向が平行になるように設定した。この設定で得られたラマンスペクトルに対し、同様のスペクトル処理を実施し、[(積層フィルムの厚み方向(90°方向)と一致する偏光配置での1615cm-1付近のピーク強度)/(積層フィルムの厚み方向(90°方向)と一致する偏光配置での725cm-1付近のピーク強度)]を算出し、層(PI-1)及び層(PI-2)それぞれの90°配向方向のピーク強度比I(90)及びI(90)を求めた。
同様にして、サンプルを回転させ、層(PI-1)及び層(PI-2)それぞれの30°配向方向のピーク強度比I(30)及びI(30)、60°配向方向のピーク強度比I(60)及びI(60)を求めた。
各ピーク強度は、4回測定した平均値とした。
<穴あけ加工部におけるバリの高さ測定>
実施例1~3で得られた積層フィルムから3cm×5cmの試験片を切り出し、層(PI-2)(TPI層)側を上にして発砲スチロールの板にテープでしっかりと固定した。直径φ1mmのドリル刃をBOSCH社製のドリル(GBM 13 RE)に取り付け、回転数2,600min-1の条件で、積層フィルムの真上から貫通孔をあけた。
積層フィルムの層(PI-2)(TPI層)側において、ドリルであけた貫通孔をレーザー顕微鏡(オリンパス(株)製、LEXT OLS4100)を用いて以下の条件にて観察し、貫通孔周囲のバリの高さ(積層フィルム表面からの高さ)を各サンプルで5か所求め、平均値を算出した。バリの高さの測定は、OLS4100の線粗さ測定機能を用いた。
実施例1~3のバリの高さは、それぞれ204μm、174μm、197μmであった。
観察倍率 : 5倍
カットオフ : λc:80μm
フィルタ : ガウシアンフィルタ
上記各測定を行った結果を表1及び表2に示す。表1中、突刺強度は、積層フィルムの厚みを50μmに換算したときの値である。
表1に示されるように、実施例1~4で得られた積層フィルムは、比較例1の積層フィルムと比べて、突刺強度が高いことが確認された。
1:試料(試験片)
2:層(PI-2)
3:層(PI-1)
4:厚み方向
5:面内方向
6:レーザー偏光
7:面内方向に平行な振動方向
8,8’:測定箇所
9:積層フィルム
10:積層シート
11:ポリイミド系樹脂含有層(層(PI-2)に相当)
12:ポリイミド系樹脂含有層(層(PI-1)に相当)
13:ポリイミド系樹脂含有層(層(PI-3)に相当)
14:金属箔層

Claims (14)

  1. ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)とポリイミド系樹脂含有層(PI-2)とを含む積層フィルムであって、
    前記積層フィルムの厚み方向の断面において、該積層フィルムの面内方向を0°方向、該積層フィルムの厚み方向を90°方向としたときに、レーザーラマン分光装置により測定される各層のピーク強度比は、式(I)~式(III):
    [〔I(60)+I(90)〕/P1]×[〔I(0)+I(30)〕/P2]≧0.145 (I)
    P1=I(0)+I(30)+I(60)+I(90) (II)
    P2=I(0)+I(30)+I(60)+I(90) (III)
    [式中、I(0)、I(30)、I(60)及びI(90)は、それぞれ、前記層(PI-1)における前記積層フィルムの0°、30°、60°及び90°方向と一致する偏光配置でのピーク強度比を表し、I(0)、I(30)、I(60)及びI(90)は、それぞれ、前記層(PI-2)における前記積層フィルムの0°、30°、60°及び90°方向と一致する偏光配置でのピーク強度比を表し、前記ピーク強度比は(1615cm-1付近のピーク強度)/(725cm-1付近のピーク強度)を表す]
    の関係を満たす、積層フィルム。
  2. 式(I)において、前記〔I(60)+I(90)〕/P1は0.230以上である、請求項1に記載の積層フィルム。
  3. 式(IV):
    [〔I(60)+I(90)〕/P1]×[I(30)/P2]≧0.055 (IV)
    の関係を満たす、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
  4. 前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)と前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)との間に中間領域を有し、
    前記中間領域は、走査型プローブ顕微鏡により、前記積層フィルムの厚み方向断面の弾性率を厚み方向に沿って連続的に測定したときに、該弾性率が、前記層(PI-1)の平均弾性率(1)から前記層(PI-2)の平均弾性率(2)に至るまで連続的に変化する領域であり、
    前記中間領域の厚さは50nm以上である、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
  5. 前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)の厚みは、前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)の厚みの0.05~0.3倍である、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
  6. さらにポリイミド系樹脂含有層(PI-3)を含む、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
  7. 前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)及び前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)の少なくとも1層は、テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)を有するポリイミド系樹脂を含み、
    前記構成単位(A)は、式(A1):
    [式(A1)中、Ra1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
    kは、0~2の整数を表す]
    で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A1)、及び/又は、式(A2):
    [式(A2)中、Ra2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、lは、互いに独立に、0~3の整数である]
    で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A2)を含む、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
  8. 前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)及び前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)の少なくとも1層は、ジアミン由来の構成単位(B)を有するポリイミド系樹脂を含み、
    前記構成単位(B)は、式(B1):
    [式(B1)中、Rb1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
    Wは、互いに独立に、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-COO-、-OOC-、-SO-、-SO-、-S-、-CO-、-N(R)-及び-CONH-からなる群から選択される2価の連結基、又は、単結合(但し、mは2以上であり、少なくとも1つのWは前記2価の連結基である)を表し、Rは水素原子、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表し、
    mは1~4の整数を表し、
    qは互いに独立に、0~4の整数を表す]
    で表されるジアミン由来の構成単位(B1)を含む、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
  9. 前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)及び前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)は、テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)及びジアミン由来の構成単位(B)を有するポリイミド系樹脂を含み、
    前記構成単位(A)は、式(A1):
    [式(A1)中、Ra1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
    kは、0~2の整数を表す]
    で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A1)、及び/又は、式(A2):
    [式(A2)中、Ra2は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、lは、互いに独立に、0~3の整数である]
    で表されるテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A2)を含み、
    前記構成単位(B)は、式(B1):
    [式(B1)中、Rb1は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
    Wは、互いに独立に、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-COO-、-OOC-、-SO-、-SO-、-S-、-CO-、-N(R)-及び-CONH-からなる群から選択される2価の連結基、又は、単結合(但し、mは2以上であり、少なくとも1つのWは前記2価の連結基である)を表し、Rは水素原子、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の一価の炭化水素基を表し、
    mは1~4の整数を表し、
    qは互いに独立に、0~4の整数を表す]
    で表されるジアミン由来の構成単位(B1)を含む、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
  10. 前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)に含まれるポリイミド系樹脂は、前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)に含まれるポリイミド系樹脂とは異なる樹脂である、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
  11. 前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)及び前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-2)は、それぞれ少なくとも二種のテトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A)を有するポリイミド系樹脂を含む、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
  12. 少なくとも前記ポリイミド系樹脂含有層(PI-1)に含まれるポリイミド系樹脂が有する前記構成単位(A)は、さらに、該構成単位(A)の総量に対して45モル%以下の式(A3):
    [式(A3)中、Zは2価の有機基を表し、
    a3は、互いに独立に、ハロゲン原子、又はハロゲン原子を有してもよいアルキル基、アルコキシ基、アリール基若しくはアリールオキシ基を表し、
    sは互いに独立に、0~3の整数を表す]
    で表されるエステル結合含有テトラカルボン酸無水物由来の構成単位(A3)を含む、請求項9に記載の積層フィルム。
  13. 請求項1又は2に記載の積層フィルムの片面又は両面に金属箔層を含む、積層シート。
  14. 請求項13に記載の積層シートを含む、フレキシブルプリント回路基板。
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