JP7326613B2 - シンチレータ及び荷電粒子線装置 - Google Patents
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Description
本発明は、シンチレータおよび荷電粒子線装置に関する。
試料に電子線等の荷電粒子線を照射することによって得られる荷電粒子を検出する荷電粒子線装置には、荷電粒子を検出するための検出器が設けられている。例えば、電子ビームを試料に走査することによって、試料から放出された電子を検出する場合、電子検出器にポスト電圧と呼ばれる8~10kV程度の正電圧を印加することによって、電子を検出器のシンチレータに導く。あるいは、電子の軌道上に検出器を設け、ポスト電圧を印加せずシンチレータに電子を入射させる方法も考えられる。電子の衝突によってシンチレータにて発生した光はライトガイドに導かれ、光電管などの受光素子によって電気信号に変換され、画像信号や波形信号となる。
特許文献1には、不純物が添加されたZnOからなり、放射線の入射に応じてシンチレーション光を生成する発光層を有するシンチレータが開示されている。
シンチレータには、残光強度の低減や発光強度の増加による検出効率向上が必要とされる。シンチレータ内で励起されたキャリアの再結合により発光するが、残留キャリアが遅れて発光すると残光の原因となる、また、発光部がキャリアの再結合確率の低い構造の場合は、発光強度が低くなる。
上述した特許文献1では、高速応答特性を有する材料を用い、さらに発光層の電子濃度を調整することで、蛍光寿命の短く発光効率の高いシンチレータとすることを特徴としている。ただし、残留キャリアによる残光の低減や、発光部構造改良による発光強度増加は考慮されていない。
本発明の目的は、上記事情に鑑み、残光強度を低減し、発光部の構造を改良することで、残光強度低減と発光強度増加を両立するシンチレータおよび荷電粒子線装置を提供することにある。
上記目的を達成するための本発明のシンチレータの一態様は、基材と、バッファ層と、発光部と、第1の導電層と、がこの順で積層され、発光部は、Ga、Zn、In、Al、Cd、Mg、CaおよびSrからなる群より選択される1種類以上の元素を含み、基材と発光部との間に第2の導電層が設けられていることを特徴とする。
また、上記目的を達成するための本発明の荷電粒子線装置の一態様は、分析対象物に電子線を照射する電子源と、分析対象物に電子線が照射された際に放出される2次粒子を検出する2次粒子検出器と、を備え、2次粒子検出器が、上述した本発明のシンチレータを有することを特徴とする。
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
本発明によれば、残光強度を低減し、発光部の構造を改良することで、残光強度低減と発光強度増加を両立するシンチレータおよび荷電粒子線装置を提供できる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
[荷電粒子線装置]
以下、シンチレータを検出素子とする検出器を設けた荷電粒子線装置について説明する。以下では、荷電粒子線装置として電子顕微鏡、特に走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)の例について説明する。
以下、シンチレータを検出素子とする検出器を設けた荷電粒子線装置について説明する。以下では、荷電粒子線装置として電子顕微鏡、特に走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)の例について説明する。
まず始めに、検出器を搭載する荷電粒子線装置の構成について説明する。図1は本発明の荷電粒子線装置の第1の例を示す断面模式図である。図1に示すように、荷電粒子線装置(電子顕微鏡)1aは、分析対象物(試料)4と、試料4に電子線(1次電子線)3を照射する電子源2と、電子線3が照射された試料4から放出される荷電粒子(2次粒子)5を検出する検出器6とを備える。電子源2は電子光学鏡筒7に収容され、試料4は試料室8に収容される。
検出器6は、シンチレータ50と、ライトガイド51と、受光素子52とを有する。2次粒子5は、ポスト電圧を印加して検出器6のシンチレータ50に引き込まれ、シンチレータ50で発光が起こる。シンチレータ50の発光は、ライトガイド51により導光され、受光素子52で電気信号に変換される。
図2は本発明の荷電粒子線装置の第2の例を示す断面模式図である。図2に示す荷電粒子線装置(電子顕微鏡)1bでは、試料4の直上部に2次粒子検出器6のシンチレータ50を配置することで、試料4から放出された2次粒子5にポスト電圧を印加せずにシンチレータ50に入射させることができる。また、シンチレータ50について、2次粒子5が入射する面を大きくすることで、広い角度範囲で放出された2次粒子5を検出することができる。そのため、2次粒子5として、2次電子よりも量が少ない反射電子についても、高効率での検出が可能となり、高精度での像観察や測定が可能となる。
図1の荷電粒子線装置1aおよび図2の荷電粒子線装置1bに共通して、シンチレータ50およびライトガイド51は、1次電子線3の軌道を阻害しなければ、種々の形状とすることができる。例えば、1次電子線3を中心とした円環型とすることが考えられる。シンチレータ50についてはライトガイド51の全面を覆う形状としても、一部を覆う形状としても良い。他に、シンチレータ50を荷電粒子線装置の内壁や部品に沿った位置に配置することも可能である。また、受光素子52の数は1つでも複数でも良く、シンチレータ50の発光を入力できればどの位置に置いても良い。図1では試料室8外に受光素子52が配置されているが、試料室8内に置いても良い。
受光素子52は、光電子増倍管や半導体を用いた受光素子等が使用可能である。また、シンチレータ50からの受光素子52への光の入力は、図1および図2ではライトガイド51を用いているが、他の方法や他の配置で光を入力しても良い。
受光素子52で得られた信号は、電子線照射位置と対応付けて画像に変換し表示する。1次電子線3を試料4に集束して照射するための電子光学系、即ち、偏向器、レンズ、絞りおよび対物レンズ等は図示を省略している。電子光学系は電子光学鏡筒7に設置されている。試料4は試料ステージ(図示せず)に載せることで移動可能な状態となっており、試料4と試料ステージは試料室8に配置されている。試料室8は一般的には真空状態に保たれている。また、図示を省略しているが、電子顕微鏡には全体および各部品の動作を制御する制御部や、画像を表示する表示部、使用者が電子顕微鏡の動作指示を入力する入力部等が接続されている。
この電子顕微鏡は構成の1つの例であり、本発明の荷電粒子線装置は、後述する本発明のシンチレータを備えた電子顕微鏡であれば、他の構成でも適用が可能である。また、2次粒子5には、透過電子および走査透過電子等も含まれる。また、図1および図2では簡単のために2次粒子検出器6を1つのみ示しているが、反射電子検出用検出器と2次電子検出用検出器等を別々に設けても良いし、方位角または仰角を弁別して検出するために複数の検出器を設けていても良い。
[シンチレータ]
次に、本発明のシンチレータ50について説明する。図3は本発明のシンチレータの第1の例を示す断面模式図である。図3に示すように、シンチレータ50aは、基材10と、バッファ層11と、発光部9と、第1の導電層12とがこの順で積層された構成を有する。第1の導電層12は、荷電粒子線装置内において、検出対象となる荷電粒子が入射する側に形成される。また、基材10と発光部9との間に第2の導電層13を有する。言い換えると、発光部9より基材10側に第2の導電層13を有する。
次に、本発明のシンチレータ50について説明する。図3は本発明のシンチレータの第1の例を示す断面模式図である。図3に示すように、シンチレータ50aは、基材10と、バッファ層11と、発光部9と、第1の導電層12とがこの順で積層された構成を有する。第1の導電層12は、荷電粒子線装置内において、検出対象となる荷電粒子が入射する側に形成される。また、基材10と発光部9との間に第2の導電層13を有する。言い換えると、発光部9より基材10側に第2の導電層13を有する。
シンチレータ50aを構成する各層の材料は、例えば、基材10はサファイア、バッファ層11およびシンチレータ発光部9はGa(ガリウム)、Zn(亜鉛)、In(インジウム)、Al(アルミニウム)、Cd(カドミウム)、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)およびSr(ストロンチウム)よりなる群から選択された1種類以上の元素を含み、第1の導電層12はAl、ZnおよびAg(銀)よりなる群から選択された1種類以上の元素を含み、第2の導電層13はZnを含む材料とすることができる。バッファ層11、発光部9、第1の導電層12および第2の導電層13は、気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)によって成膜することができる。
シンチレータ発光部9に残留するキャリアを第2の導電層13から除去することで、残留キャリアによる遅い発光(残光)を低減できる。第2の導電層13は、図3ではバッファ層11と発光部9の界面に設けられているが、基材10とバッファ層11の界面等に設けられていても良い。発光部9より基材10側にあれば残留キャリアを除去することができる。
基材10は、例えば1/2~4インチφの円盤状であり、バッファ層11、第2の導電層13および発光部9、を成長させ、第1の導電層12を形成した後に所定のサイズに切り出したものをシンチレータとして用いることができる。基材10とバッファ層11または第2の導電層13の界面は、平面でも凹凸のある構造でも良い。例えば、断面を見た時に、構造ピッチ10~10000nmかつ構造高さ10~10000nmの突起状構造が連続的に形成されている構造を用いれば、シンチレータ発光部9での発光を基材10側に取り出せる確率が増加し、発光出力を向上させることができる。
バッファ層11の厚さは、1μm以上10μm以下とすることが好ましい。バッファ層11が1μmより薄いと、シンチレータ発光部9に歪みが生じ、残光が増加する可能性がある。また、バッファ層11が10μmより厚いと、発光した光がバッファ層11内で吸収され、シンチレータからの光取り出し量が減少する可能性がある。
シンチレータ発光部9の厚さは200nm以上10μm以下とすることが好ましい。シンチレータ発光部9が200nmより薄いと、発生するキャリア数が少ないため発光強度が低くなる。また、シンチレータ発光部9が10μmより厚いと、発光してもバッファ層11側に光が到達する前にシンチレータ発光部9内で吸収され、シンチレータからの光取り出し量が減少する可能性がある。
シンチレータ発光部9の厚さは200nm以上10μm以下とすることが好ましい。シンチレータ発光部9が200nmより薄いと、発生するキャリア数が少ないため発光強度が低くなる。また、シンチレータ発光部9が10μmより厚いと、発光してもバッファ層11側に光が到達する前にシンチレータ発光部9内で吸収され、シンチレータからの光取り出し量が減少する可能性がある。
第1の導電層12の厚さは、40nm以上500nm以下とすることが好ましい。第1の導電層12が40nmより薄いと、2次粒子5が入射する際に帯電する可能性がある。また、第1の導電層12が500nmより厚いと、2次粒子5が第1の導電層12を通過する際にエネルギーを損失し、シンチレータ発光部9への荷電粒子線の入射量が減少する可能性がある。第1の導電層12の材質は、導電性のある材料であれば、Al、ZnおよびAg以外にも他の材質や合金等を用いることができる。
第2の導電層13の厚さは、10nm以上とすることが好ましい。第2の導電層13が10nmより薄いと、第2の導電層13が形成されない部分ができ、その部分に帯電する可能性がある。第2の導電層13の材質は、Znを含むことが好ましいが、導電性があり発生した光を透過できる材料であれば、Zn以外にも他の材質や合金等を用いることができる。
第2の導電層13の厚さは、10nm以上とすることが好ましい。第2の導電層13が10nmより薄いと、第2の導電層13が形成されない部分ができ、その部分に帯電する可能性がある。第2の導電層13の材質は、Znを含むことが好ましいが、導電性があり発生した光を透過できる材料であれば、Zn以外にも他の材質や合金等を用いることができる。
図4は本発明のシンチレータの第2の例を示す断面模式図である。図4に示すシンチレータ50bは、発光部9が発光層14および障壁層15の積層体で構成されている点が図3に示すシンチレータ50aと異なる。発光部9と基材10との間には、図示されていないが、図3と同様に第2の導電層が設けられている。
シンチレータ50bを構成する各層の材料は、上述した図3のシンチレータ50aと同様に、例えば、基材10はサファイア、バッファ層11、発光層14および障壁層15はZn、Cd、Mg、CaおよびSrよりなる群から選択された1種類以上の元素を含み、第1の導電層12はAl、ZnおよびAgよりなる群から選択された1種類以上の元素を含む材料とすることができる。バッファ層11、発光層14および障壁層15は、気相成長法によって成膜することができる。上述した材料で構成された積層体からなるシンチレータ発光部9は、量子井戸構造を有し、高い発光強度を得ることができる
基材10、バッファ層11、シンチレータ発光部9および第1の導電層の形状や厚みについては、上述の図3と同様である。
発光層14のバンドギャップエネルギー(Eg)は障壁層15より小さいことが好ましい。発光層14のEgが障壁層より小さいと発光層14へキャリアが集まりやすくなり、キャリアの再結合による発光確率が向上する。
発光層14の厚さaと障壁層15の厚さbの関係は、具体的には、b/a=5以上50以下とすることが好ましい。b/aが5より小さいと、発光層14で生じた格子定数のずれが障壁層15で抑制できずに歪みが生じ、残光が増加する可能性がある。また、b/aが50より大きいと、障壁層15を移動するキャリアの発光層14への到達確率が減少し、発光強度が低下する可能性がある。また、更に発光強度向上と残光強度低下の効果を良く発現させるためには、b/aは11以上25以下であることが望ましい。
障壁層15の厚さbは、10nm以上100nm以下とすることが好ましい。厚さbが10nmより薄いと、シンチレータ発光部9の積層体に歪みが生じて発光強度の低下や残光強度の増加が起きる可能性がある。また、厚さbが100nmより厚いと、障壁層15を移動するキャリアの発光層14への到達確率が減少し、発光強度が低下する可能性がある。
発光層14と障壁層15は、交互に複数層積層されていることが好ましい。障壁層15が厚いとキャリアの発生数が増加するが、厚すぎると発光層14へのキャリアの到達確率が減少し、発光強度が低下する可能性がある。この時、発光層14と障壁層15を複数交互に積層することで、それぞれの障壁層15の厚さを維持したまま、シンチレータ発光部9の積層体に含まれる障壁層15の総厚を増加できるため、キャリア数の増加とキャリアの発光層14への到達確率向上を両立することが可能となる。
発光層14と障壁層15の層数は、それぞれ5以上25以下とすることが好ましい。層数が5より少ないと、シンチレータ発光部9の積層体を厚くすることができず発光強度が低くなる可能性がある。また、層数が25より多いと、格子定数の異なる層を多数積層することにより歪みが生じ、発光強度の低下や残光強度の増加が起きる可能性がある。更に、積層体が厚くなるため、積層体の中で光が吸収されて光取り出し量が減少する可能性がある。
図5は本発明のシンチレータの第3の例を示す断面模式図である。図5に示すシンチレータ50cは、図3もしくは図4に示すシンチレータ50a,50bの発光部9およびバッファ層11の組み合わせを繰り返し積層した構成を有する。図5では発光部9を発光層14と障壁層15の積層体としているが、図3に示したような単層の発光部9としてもよい。発光部9と基材10との間には、図示されていないが、図3と同様に第2の導電層が設けられている。
発光部9およびバッファ層11の最上部から最下部までの厚みは200nm以上10μm以下とすることが好ましい。発光部9およびバッファ層11が200nmより薄いと、発生するキャリア数が少ないため発光強度が低くなる。また、発光部9およびバッファ層11が10μmより厚いと、発光した光が発光部9もしくはバッファ層11内で吸収され、シンチレータからの光取り出し量が減少する可能性がある。
2次粒子5の電圧が高いとシンチレータ50への侵入距離が大きくなるため、2次粒子5によるキャリアの励起量を増加させるには、シンチレータ発光部9を2次粒子5の侵入距離に応じて厚くする必要がある。この時、シンチレータ発光部9のみを厚く積層すると、特に図4に示した発光層14と障壁層15の積層体とした場合は構造の歪みが増加する可能性があり、残光が増加すると考えられる。一方、シンチレータ発光部9とバッファ層11を繰り返し積層した場合、バッファ層11の積層により歪みが減少するため、残光の増加なく発光強度を増加することができる。
図3~5に示したバッファ層11、シンチレータ発光部9、発光層14、障壁層15、第1の導電層12および第2の導電層13の層厚や層数については、透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope,TEM)やX線等を用いることにより測定できる。
発光部9としては、特にZnO(酸化亜鉛)を含む材料を用いることが好ましい。ZnOを含むと発光の減衰が速いため、残光の低減と発光強度の増加を高いレベルで両立できる。また、ZnOを含む発光部9を量子井戸構造にする場合、Cdを添加することでEgを大きくし、Mgを添加することでEgを小さくすることができる。
シンチレータの発光波長は450nm以下とすることが好ましい。特にZnOでは添加物がない場合の発光波長が380nmであるのに対し、Mg等を添加することで長波長化するが、発光波長が450nmより大きくなると、添加量の増加により構造が変化し、歪みが生じて残光が増加する可能性がある。
LED(発光ダイオード)の場合、電流注入によりp型半導体とn型半導体の間にあるpn接合部分でキャリアが再結合し発光するのに対し、図3~5に示したシンチレータでは、n型構造中で入射した荷電粒子によるキャリアの励起および再結合による発光が起こる。そのため、pn接合させずに発光させることができるため、p型構造を形成する必要がない。この点で本発明のシンチレータとLEDとは異なる。
上記説明のシンチレータでは、シンチレータ内の上下方向(第1の導電層12から基材10に向けた方向)だけでなく、左右方向にも光を伝播することができる。そのため、図2のように試料4からの2次粒子5の入射面が大きなシンチレータ50について、入射面と90度の角度を付けて設けられた面を有する受光素子52にライトガイド51で導光する場合でも、シンチレータ50の内部を光が伝播することで受光素子52での光の検出効率を向上させることができる。
図6は、シンチレータの第2の導電層13の有無と残光との関係を示したグラフである。シンチレータは図3に示す構成とし、基材10(2インチφのサファイア基板)、バッファ層11(1μmのZnO層)、発光部9(1μmのZnO:Ga)、第1の導電層12(80nmのAl)を積層した。第2の導電層13(10nmのZnO)があるサンプルと第2の導電層13が無いサンプルを用意した。バッファ層11、発光部9および第2の導電層13は、CVDで成膜した。
図6では、発光強度の時間変化を示しており、シンチレータをオシロスコープに接続した時の波形である。印加電圧は10kVとした。第2の導電層13がない場合(図6の実線のグラフ)は発光の立下りの傾きが小さく、残光が大きいことがわかる。一方、第2の導電層13がある場合(図6の破線のグラフ)は、発光の立下りの傾きが大きく、残光がより減少していることがわかる。第2の導電層13を有することで、発光の立上りから最大強度の10%まで発光が減衰するまでの時間を5nsより小さくできる。
なお、発光部9が図4の量子井戸構造および図5の発光部9とバッファ層11とを積層したシンチレータであっても、上述した図6と同様に、残光が低減できることを別途確認している。
図7は発光部の構造と発光強度との関係を示したグラフである。図7では、構成1:シンチレータ発光部9を1μmの単層とした場合、構成2:量子井戸構造を有するシンチレータ発光部9およびバッファ層11を1組積層して発光部9を1μmとした場合、構成3:量子井戸構造を有するシンチレータ発光部9およびバッファ層11を5組積層して発光部9の最上部から最下部までを10μmとした場合とした。構成1~構成3のシンチレータを電子顕微鏡に搭載し、10kVおよび60kVでの像の明るさ(発光強度)を示している。構成1と構成2の比較から、シンチレータ発光部9を単層とした場合に比較し、量子井戸構造とすることで発光強度が増加することがわかる。また、構成1・構成2と構成3との比較から、シンチレータ発光部9の厚みを増加させることで、特に高電圧の60kVにおいて発光強度が増加することがわかる。
上記説明では、主にシンチレータを走査電子顕微鏡等の検出器に適用した例を説明したものであるが、質量分析装置の検出器として、本発明の荷電粒子線装置用シンチレータを採用しても良い。
質量分析装置は、イオンを電磁気的作用により質量分離し、測定対象イオンの質量/電荷比を計測するものである。図8は本発明の荷電粒子線装置の第3の例を示す断面模式図である。図8では、荷電粒子線装置1cとして質量分析装置の構成を示している。図8に示す質量分析装置1cは、分析対象である試料をイオン化するイオン化部60と、イオン化部60において取り出されたイオンを質量選択する質量分離部61と、質量分離部61において質量選択されたイオンを電極に衝突させて荷電粒子に変換するコンバージョンダイノード(変換電極)62と、コンバージョンダイノード62で発生した荷電粒子を検出する2次粒子検出器6を有する。
イオン化部60のイオン化の方法として、ESI(Electrospray Ionization)、APCI(Atmospheric Pressure Chemical Ionization)、MALDI(Matrix-Assisited Laser Desorption Ionization)およびAPPI(Atmospheric Pressure Photo-Ionization)等がある。また、質量分離部61には、QMS(Quadrupole Mass Spectrometer)型、Iontrap型、時間飛行(Time-Of-Flight)型、FT-ICR(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance)型、Orbitrap型あるいはそれらの複合型等がある。
2次粒子検出器6は、図1および図2に示した2次粒子検出器6と同様の構成を有しており、本発明のシンチレータ50を備えている。本発明の荷電粒子線装置用シンチレータ50を適用することによって、高速かつ高感度分析が可能な質量分析装置1cの提供が可能となる。
以上、説明した通り、本発明によれば、残光強度を低減し、発光強度を増加した荷電粒子線装置用シンチレータを提供できることが示された。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
上述した本発明の実施形態では、本発明の荷電粒子線装置としてSEMおよび質量分析装置を例にして説明したが、本発明の荷電粒子線装置はこれらに限られるものではない。イオンビームを用いた他の装置への適用も可能である。
また、SEMを用いた場合の用途としても、観察のみでは無く、半導体パターンの計測装置および検査装置等にも適用可能である。
さらに、本発明のシンチレータは。荷電粒子線装置に限らず、放射線を検出する放射線検出器にも適用可能である。
1a、1b…荷電粒子線装置(電子顕微鏡)、1c…荷電粒子線装置(質量分析装置)、2…電子源、3…1次電子線、4…分析対象物(試料)、5…2次粒子、6…2次粒子検出器、7…電子光学鏡筒、8…試料室、9…シンチレータ発光部、10…基材、11…バッファ層、12…第1の導電層、13…第2の導電層、14…発光層、15…障壁層、50,50a,50b,50c…シンチレータ、51…ライトガイド、52…受光素子、60…イオン化部、61…質量分離部、62…変換電極。
Claims (15)
- 基材と、バッファ層と、発光部と、第1の導電層と、がこの順で積層され、
前記発光部は、Ga、Zn、In、Al、Cd、Mg、CaおよびSrからなる群より選択される1種類以上の元素を含み、
前記基材と前記発光部との間に第2の導電層が設けられていることを特徴とするシンチレータ。 - 前記発光部は、発光層と障壁層との積層体を有し、前記発光層および前記障壁層は、Zn、Cd、Mg、CaおよびSrよりなる群から選択された1種類以上の元素を含むことを特徴とする請求項1に記載のシンチレータ。
- 前記第2の導電層が前記バッファ層と前記発光部との間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のシンチレータ。
- 前記第2の導電層が前記基材と前記バッファ層との間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のシンチレータ。
- 前記第2の導電層の膜厚が10nm以上であることを特徴とする請求項1に記載のシンチレータ。
- 前記発光部と前記バッファ層とが複数積層されていることを特徴とする請求項1に記載のシンチレータ。
- 前記発光層のバンドギャップエネルギーが前記障壁層より小さいことを特徴とする請求項2に記載のシンチレータ。
- 前記発光部からの発光波長のピークが450nm以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のシンチレータ。
- 前記基材の表面が凹凸構造を有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のシンチレータ。
- 前記第1の導電層がAl、ZnおよびAgよりなる群から選択された1種類以上の元素を含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のシンチレータ。
- 前記第2の導電層がZnを含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のシンチレータ。
- 前記発光部がZnOを含むことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のシンチレータ。
- 分析対象物に電子線を照射する電子源と、前記分析対象物に前記電子線が照射された際に放出される2次粒子を検出する2次粒子検出器と、を備え、
前記2次粒子検出器が、請求項1から7のいずれか1項に記載の前記シンチレータを有することを特徴とする荷電粒子線装置。 - 前記シンチレータが、前記2次粒子が放出される前記分析対象物の直上に設けられていることを特徴とする請求項13に記載の荷電粒子線装置。
- 前記荷電粒子線装置が、電子顕微鏡装置または質量分析装置であることを特徴とする請求項14に記載の荷電粒子線装置。
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