JP7321445B2 - 微生物培養方法、微生物培養装置、及び、二酸化炭素還元装置 - Google Patents
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Description
また、本発明は微生物培養装置、及び、二酸化炭素還元装置を提供することも課題とする。
[2] 上記電気化学セルが更に参照電極を有する、[1]に記載の微生物培養方法。
[3] 上記培養液が実質的に水素を含有しない、[1]又は[2]に記載の微生物培養方法。
[4] 上記一対の電極の少なくとも一方が導電性ダイヤモンド電極である、[1]~[3]のいずれかに記載の微生物培養方法。
[5] 実質的に酸素ガスを含有しない雰囲気で行われる、[1]~[4]のいずれかに記載の微生物培養方法。
[6] 水を含有する培養液を収容するためのセルと、上記培養液に接するように上記セル内に配置された一対の電極と、上記一対の電極を互いに隔離するよう配置された陽イオン交換膜と、を有する電気化学セルを有し、上記一対の電極の少なくとも一方が、導電性ダイヤモンド電極である、微生物培養装置。
[7] [6]に記載の微生物培養装置を有する二酸化炭素還元装置。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本発明の実施形態に係る微生物培養方法(以下、「本培養方法」ともいう。)は、水と微生物とを含有する培養液と、上記培養液に接するように配置された一対の電極と、を有する電気化学セルを用いて、上記一対の電極間に電位差を発生させ、上記培養液中の微生物を増殖させる、微生物培養方法であって、上記電気化学セルは上記一対の電極を互いに隔離するように配置された陽イオン交換膜を有し、上記微生物は細胞外固体から電子を取り込む機能を有する特定微生物である、微生物培養方法である。
すなわち、非特許文献1に記載された方法によれば、D.ferrophilusIS5株のエネルギー代謝(典型的には15N/Ntotalによって示される)が活性化されるものの、電子(印加された電位)を唯一のエネルギー源とした場合には、特定微生物を増殖させることまでは困難であることを示していると考えられた。
その結果、一対の電極を互いに隔離するように配置された陽イオン交換膜を有する電気化学セルを用いることで、驚くべきことに、特定微生物のエネルギー代謝が著しく活性化されることを本発明者らは初めて知見し本発明を完成させた。
そもそも、従来の電気培養においては、電極電位をより負にすることは、微生物の生長にとっては不利であり、自然界における特定微生物の生育環境にあわせ、電極電位を負にしすぎることなく、比較的マイルドな条件にて培養することが好ましいと考えられてきた。
そのため、対電極で発生する上記活性酸素種の影響は無視できるほどに小さく、従来知覚されなかったものと推測される。
以下では、本培養方法についての詳細を説明する。
図1は本微生物培養方法に適用可能な微生物培養装置10の模式図である。
微生物培養装置10は、電気化学セルECCと、上記電気化学セルECCに接続された制御装置17とを有している。電気化学セルECCは、作用電極11と、対電極12からなる一対の電極と、参照電極13と、チャンバ14と、作用電極11、及び、対電極12を隔離する陽イオン交換膜16とを有している。
電気化学セルECCにおいて、作用電極11、対電極12、及び、参照電極13は、チャンバ14に収容された水と特定微生物とを含有する培養液15と接するように配置されている。
制御装置17は、電極間の電位、及び、電流を制御することができ、かつ、電極間の電位、及び、電流を計測できるよう構成されており、典型的にはポテンシオ/ガルバノスタット(P/Gスタット)である。
なお、培養液の電位を設定するために必要な作用電極11と対電極12との間の電流量が予め分かっている場合には、電気化学セルが参照電極を有さなくても、電位の制御が可能である。
本培養方法は、特定細菌を増殖せしめる程度にエネルギー代謝を活性化させるために、作用電極11の電極電位をより負に調整する。すなわち、作用電極11と対電極12との間に電位差を生じさせる。
このとき、対極では、電極反応によってスーパーオキシド等の活性酸素種が生成すると推測されるが、本培養方法で用いる電気化学セルは両電極を隔離する陽イオン交換膜を有しているため、両電極間のイオン伝導は維持しつつ、活性酸素種が作用電極側に輸送されるのを抑制することができる。そのため、本発明の効果が得られるものと推測される。
本培養方法は、実質的に酸素を含有しない雰囲気で行われることが好ましい。この場合、図1のHSに実質的に酸素を含有しないガスが充填されていればよいが、より好ましくは、微生物培養装置が配置される雰囲気自体が酸素を実質的に含有しないことが好ましい。
なお、本明細書において、雰囲気が酸素を含有しないとは、雰囲気ガス中における酸素(ガス)の含有量が体積基準で100ppm以下であることを意味し、50ppm以下であることが好ましく、5ppm以下であることがより好ましい。
微生物培養装置10のチャンバ14には、水と微生物とを含有する培養液が充填されている。培養液は、特定微生物を増殖させるための場としての機能と、作用電極11と対電極12との間のイオン伝導の媒体としての機能とを有し、水を含有していれば、固体であっても液体であってもよい。固体である場合、ヒドロゲルである形態が挙げられる。
培養液は特定微生物を含有する。培養液が特定微生物を含有する形態としては特に制限されないが、例えば、調製した培養液に特定微生物を添加する方法、及び、特定微生物を含有する液体を培養液として用いる(環境から取得したサンプルを培養液とする)方法等が挙げられる。
培養液は酸化還元物質を含有していてもよい。酸化還元物質は、培養液と接している作用電極11、及び/又は、対電極12と可逆的に酸化還元反応を生じる物質であり、かつ、特定微生物の生育を阻害しない物質が好ましい。このような成分としては、例えば、鉄イオンが挙げられる。
酸化還元物質が培養液中でより安定的に存在する点で、鉄イオンをキレート剤に配位させて用いてもよい。キレート剤としては、例えば、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、テトラエチレントリアミン(TET)、エチレンジアミン(EDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、クエン酸、シュウ酸、クラウンエーテル、ニトリロテトラ酢酸、エデト酸二ナトリウム、エデト酸ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、ペニシラミン、ペンテテートカルシウム三ナトリウム、ペンテト酸、スクシメル、及び、エデト酸トリエンチン等が挙げられる。
なお、培養液は、酸化還元物質の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。培養液が、2種以上の酸化還元物質を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
なお、培養液が酸化還元物質を実質的に含有しないとは、培養液中における酸化還元物質の含有量が0.1mmol/L未満であることを意味し、0.01mmol/L以下が好ましく、0.001mmol/L以下がより好ましい。
また、培養液は実質的に水素を含有しないことが好ましく、培養液が水素を含有しないとは、培養液中における水素の含有量が、100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、10質量ppm以下であることが更に好ましく、1質量ppm以下であることが特に好ましい。
電解質としては特に制限されず、公知の電解質が使用可能である。電解質としては、例えば、塩化ナトリウム、及び、塩化カリウム等が挙げられる。
培養液は、微生物の生育に必要な栄養源を含有することが好ましい、このような成分としては例えば、乳酸ナトリウム、KH2PO4、NH4Cl、MgCl2、及び、カザミノ酸等が挙げられる。
本培養方法に用いられる電気化学セルは一対の電極を有する。また、更に参照電極を有していることが好ましい。
これらの電極としては特に制限されないが、例えば、金属を用いて形成することができる。金属としては、例えば、金、白金、銀、銅、パラジウム、イリジウム、ルテニウム、アルミニウム、ニッケル、チタン、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛、及び、これらの混合物を用いることができる。また、上記以外にも例えば、炭素(黒鉛)等も使用可能である。また、参照電極及び対電極としては、銀/塩化銀等も使用可能である。
樹脂としては、例えば、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリメタクリレート(PMMA)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、及び、ガラスエポキシ等が挙げられる。
なかでも、ホウ素をドープしたホウ素ドープダイヤモンドは、電位窓が広く、他の電極材料と比較してバックグランド電流が小さいといった有利な性質を有することから好ましい。
すなわち、培養液が水素を実質的に含有しない方が、特定微生物をより選択的に培養できる点で好ましい。
陽イオン交換膜は、作用電極11と対電極12とを隔離し、対電極12において生じる活性酸素種等が作用電極11側へと移動するのを抑制する機能を有する。
陽イオン交換膜としては、特に制限されず、電気化学セル用として公知の陽イオン(カチオン)交換膜を使用することができる。電気化学セルが陽イオン交換膜を有していると、対電極における反応で生じた活性酸素種が作用電極側へと移動を抑制し、結果として、特定微生物のエネルギー代謝が増殖可能な程度に向上するものと推測される。
本発明の実施形態に係る微生物培養装置は、水を含有する電解液を収容するためのセルと、上記電解液に接するように上記セル内に配置された一対の電極と、上記一対の電極を互いに隔離するよう配置されたイオン交換膜と、を有する電気化学セルを有し、上記一対の電極の少なくとも一方が、導電性ダイヤモンド電極である、微生物培養装置である。
また、電位窓が広いため、作用電極をより負にしても、作用電極における反応で水素がより発生しにくい。水素は電子メディエータとしての機能を有するため、上記微生物培養装置によれば、電子メディエータである水素の発生をより抑制しつつ、更に、作用電極の電位をより負に制御できるため、より選択的、かつ、効率的に特定微生物を培養できる。
本発明の実施形態に係る二酸化炭素還元装置は、上記微生物培養装置を有する二酸化炭素還元装置である。
特定微生物は細胞外固体から電子を取り込み、複数のタンパク質を介してプロトン駆動力とNADHとを生成し、上記によってケルビン回路を駆動し、二酸化炭素を固定する機能を有する。上記微生物培養装置を用いて特定微生物のエネルギー代謝を向上させ、炭素源として二酸化炭素を加えることで、効率的に二酸化炭素を固定することが可能である。
D.ferrophilusIS5(DSM番号15579)は,CO2/N2(20:80,v/v)の無酸素条件下,28℃で100mlのDSMZ195c培地を含むブチルゴム栓付きバイアル中で前培養した。5日後,培養物には少量の黒色硫化鉄沈殿剤が含まれていた。
なお、DSMは、「Deutsche Sammlung von Mikroorganismen」の略、DSMZは、「Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen」の略である。
特定微生物の培養は、100%N2を充填したCOY嫌気性チャンバー内に保持された3電極反応器を用いて行った。上記3電極反応器は、イオン交換膜を有し、作用電極と対電極とが上記イオン交換膜で隔離され、参照電極を有するH型セルの3電極反応器である。
白金線、及び、Ag/AgCl(sat.KCl)をそれぞれ対電極、及び、参照電極として使用した。
・NaCl :457mM
・MgCl2 :47mM
・KCl :7.0mM
・NaHCO3 :5.0mM
・CaCl2 :1.0mM
・K2HPO4 :1.0mM
・Na+-Hepes液(pH7.5) :25mM
・亜セレン酸タングステン酸塩溶液 :1mL
(12.5mMのNaOH、11.4mMのNa2SeO3・5H2O、及び、12.1mMのNa2WO42H2O)
・微量元素溶液SL-10(DSMZ320培地に記載されている):1mL
・Na2SO4(電子受容体) :21mM
・[15N]NH4Cl :1mM
・[13C-1]Na acetate(炭素源) :1mM
ITO電極は文献(Saitoら、Electrochemistry, 85(8), 444-446 (2017))に記載された方法でnanoSIMS分析用サンプルに調製された。
具体的には、セルアタッチメントを有するITO電極を、7mm×7mmの小片に切断して、NanoSIMSサンプルホルダーに適合させた。電位差なしでガラスバイアル中で培養した細胞(oc条件)を、0.01%(w/v)ポリ-L-リジン溶液で前処理した7mmx7mmITO電極片の表面に移した。
図3及び図4において、横軸は、単一細胞における13C/Ctotalを表しており、縦軸は、単一細胞における15N/Ntotalを表している。
また、印加電位が-0.4Vである図3と比較して、印加電位が-0.4Vより負である(-0.5V)図4は、菌体細胞内における同位体N(15N)に対する、同位体C(13C)の割合(C/N比)がより高かった。なお、C/N比は、図3及び図4に示した回帰線(破線)の傾きから判断できる。
C(炭素)の同化過程にはエネルギー(ATP)が必要であるため、Cの取り込み比率がより高い図5(印加電位が-0.4Vより負)の菌体は電極からより多くのエネルギーを獲得したことが示唆された。
細胞のN同位体比(15N/Ntotal)が0%の微生物細胞が同位体窒素(15N)のみを取り込んで生長し、分裂して元と同じ大きさの細胞2つになった場合、15N/Ntotalは50%になると考えられる。図5によれば、電極上で培養した菌体の一部において15N/Ntotalが50%を超えた結果(図中、網掛けの部分)から、一部の微生物細胞が電極上で分裂したことが示唆された。
11 作用電極
12 対電極
13 参照電極
14 チャンバ
15 培養液
16 陽イオン交換膜
17 制御装置
Claims (9)
- 微生物培養方法であって、
水及び微生物を含有し、酸化還元物質の含有量が0.01mmol/L以下である培養液と、前記培養液に接するように配置された一対の電極と、前記一対の電極を互いに隔離するように配置された陽イオン交換膜と、を有する電気化学セルを用意することと、
前記一対の電極間に電位差を発生させ、前記一対の電極のうち、電極電位をより負に調整した一方の電極から、前記培養液中の前記微生物が電子を取り込み代謝に用いることにより、前記微生物を増殖させることと、を含み、
前記微生物の増殖において、前記電極からの電子が唯一のエネルギー源であり、
前記微生物は、鉄還元細菌、及び、鉄酸化細菌からなる群から選択される少なくとも1種である、微生物培養方法。 - 前記電気化学セルが更に参照電極を有する、請求項1に記載の微生物培養方法。
- 前記培養液中における水素の含有量が、100質量ppm以下である、請求項1又は2に記載の微生物培養方法。
- 前記一対の電極の少なくとも一方が導電性ダイヤモンド電極である、請求項1~3のいずれか1項に記載の微生物培養方法。
- 酸素ガスの含有量が体積基準で100ppm以下である雰囲気で行われる、請求項1~4のいずれか1項に記載の微生物培養方法。
- 前記培養液中の前記酸化還元物質の含有量が0.001mmol/L以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の微生物培養方法。
- 請求項1~6のいずれか一項に記載の微生物培養方法を実施するための微生物培養装置であって、
水を含有し、酸化還元物質の含有量が、0.01mmol/L以下である、微生物を培養するための培養液と、
前記培養液を収容するためのセルと、
前記培養液に接するように前記セル内に配置された一対の電極と、
前記一対の電極を互いに隔離するよう配置された陽イオン交換膜と、を有する電気化学セルを有し、
前記一対の電極の少なくとも一方が、導電性ダイヤモンド電極である、微生物培養装置。 - 前記培養液中の前記酸化還元物質の含有量が0.001mmol/L以下である、請求項7に記載の微生物培養装置。
- 請求項7又は8に記載の微生物培養装置を有する二酸化炭素還元装置。
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