以下、操舵制御装置を電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という。)の制御装置に具体化した一実施の形態を説明する。
図1に示すように、EPS10は、操舵機構20、操舵補助機構30、およびECU(電子制御装置)40を備えている。
操舵機構20は、ステアリングホイール21に連結されるステアリングシャフト22、および車幅方向(図1中の左右方向)に沿って延びる転舵シャフト23を有している。ステアリングシャフト22は、ステアリングホイール21側から順に、コラムシャフト22a、インターミディエイトシャフト22b、およびピニオンシャフト22cが連結されてなる。ピニオンシャフト22cのピニオン歯は、転舵シャフト23のラック歯23aに噛み合わされている。転舵シャフト23の両端には、それぞれタイロッド24を介して左右の転舵輪25が連結されている。ステアリングホイール21の回転操作に伴い転舵シャフト23が直線運動することにより、転舵輪25,25の転舵角θwが変更される。
操舵補助機構30は、操舵を補助するための駆動力であるアシスト力の発生源であるモータ31を備えている。モータ31としては、たとえば三相(U相、V相、W相)のブラシレスモータが採用される。モータ31は、減速機構32を介してコラムシャフト22aに連結されている。減速機構32はモータ31の回転を減速し、当該減速した回転力をコラムシャフト22aに伝達する。すなわち、ステアリングシャフト22にモータ31のトルクがアシスト力として付与されることにより、運転者のステアリングホイール21の操作が補助される。
ECU40は、車両に設けられる各種のセンサの検出結果に基づきモータ31を制御する。センサとしては、たとえば車速センサ51、トルクセンサ52および回転角センサ53が挙げられる。車速センサ51は車速Vを検出する。トルクセンサ52は、コラムシャフト22aに設けられていて、ステアリングシャフト22に付与される操舵トルクτを検出する。回転角センサ53はモータ31に設けられていて、モータ31の回転角θmを検出する。
つぎに、ECU40の構成を説明する。
図2に示すように、ECU40は、電源回路41、マイクロコンピュータ42、プリドライバ43、およびインバータ44を有している。
電源回路41は、電源線61を介して車載の直流電源であるバッテリ62に接続されている。電源回路41はバッテリ62の電圧(たとえば初期電圧あるいは公称電圧である12V)をマイクロコンピュータ42の動作に適した電圧(たとえば5V)に変換し、当該変換した電圧をマイクロコンピュータ42へ供給する。また、電源回路41はバッテリ62の電圧をプリドライバ43の動作に適した電圧に変換し、当該変換した電圧をプリドライバ43へ供給する。
電源回路41は、電解コンデンサなどからなるバックアップ回路41aを有している。バックアップ回路41aは、バッテリ62から電源回路41への電力供給が停止した場合に、マイクロコンピュータ42およびプリドライバ43に対する電力供給を設定時間だけ保持するための回路である。ちなみに、ECU40の外部において、電源線61には電源スイッチ63が設けられている。電源スイッチ63の操作を通じて電源線61の導通がオンオフされる。
マイクロコンピュータ42は、たとえば電源スイッチ63がオフからオンに切り替えられたとき、プリドライバ43の初期設定を行う。そのうえでマイクロコンピュータ42は、モータ31の駆動制御を通じてアシスト力を発生させるアシスト制御を実行する。マイクロコンピュータ42は、操舵トルクτおよび車速Vに基づきモータ31に発生させるべき目標アシストトルクを演算する。マイクロコンピュータ42は、目標アシストトルクに応じた電流指令値を演算し、モータ31に供給される実際の電流の値を電流指令値に追従させる電流フィードバック制御を実行することにより、プリドライバ43に対する指令信号S1(PWM信号)を生成する。マイクロコンピュータ42は、回転角センサ53を通じて検出されるモータ31の回転角θmを使用してモータ31に対する通電を制御する。モータ31に供給される実際の電流値は、インバータ44とモータ31との間の給電経路に設けられる電流センサ64を通じて検出される。
マイクロコンピュータ42は、インバータ44に対するフェイルセーフ機能として、電流センサ64を通じてモータ31の電流値Imを監視し、この電流値Imに基づきインバータ44の異常を検出する。マイクロコンピュータ42は、たとえばプリドライバ43に対する指令信号S1を生成しているにもかかわらず、インバータ44からモータ31へ指令信号S1に応じた電力の供給が行われていない場合、インバータ44に何らかの異常が発生した旨判定する。マイクロコンピュータ42は、インバータ44に異常が発生した旨判定されるとき、フェイルセーフとしてプリドライバ43に対する指令信号S1の生成を停止する。これは、インバータ44に異常が発生した場合、安定してモータ31を駆動できないおそれがあるからである。
プリドライバ43は、マイクロコンピュータ42によって初期設定される。プリドライバ43は、初期設定されることによって動作することが可能となる。設定内容は、プリドライバ43が動作するうえで必要となる項目であって、たとえばプリドライバ43の駆動電圧、あるいは各種機能のオンオフなどが挙げられる。プリドライバ43は、マイクロコンピュータ42により生成される指令信号S1に基づき、インバータ44を動作させるための駆動信号S2を生成する。
プリドライバ43は、電圧監視回路43aを有している。電圧監視回路43aは、電源回路41から供給される電圧、すなわちプリドライバ43の電源電圧を監視する。プリドライバ43は、電圧監視回路43aを通じて電源電圧の低下が検出されるとき、自己の設定状態を初期設定が行われる前の初期状態にリセットすることにより動作を停止する。これにより、駆動信号S2の生成も停止される。なお、プリドライバ43の初期状態とは、プリドライバ43が動作するうえで必要となる項目であって、たとえばプリドライバ43の駆動電圧、あるいは各種機能のオンオフなどの項目が設定されていない状態をいう。
電圧監視回路43aは、次式(A)で表されるように、検出されるプリドライバ43の電源電圧を示す電圧Vpがしきい値電圧Vthよりも小さいとき、プリドライバ43の電源電圧が低下した旨判定する。しきい値電圧Vthは、たとえばプリドライバ43を適切に動作させるために必要とされる電圧に基づき設定される。
Vp<Vth …(A)
プリドライバ43は、電源電圧が低下した旨判定されるとき、その旨示す異常検出信号S3を生成し、当該生成される異常検出信号S3をマイクロコンピュータ42へ送信する。異常検出信号S3には、プリドライバ43の電源電圧の低下が検出されたこと、およびプリドライバ43がリセットして初期状態に戻ったことを示す情報が含まれている。
インバータ44は、引込線65を介してバッテリ62に接続されている。より正確には、電源線61におけるバッテリ62と電源スイッチ63との間には接続点P1が設けられている。引込線65は、接続点P1とインバータ44との間を接続している。インバータ44は、複数のスイッチング素子を有している。スイッチング素子としては、たとえばFET(field-effect transistor)、特にMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor-Field-Effect-Transistor)が多く採用される。
インバータ44は、プリドライバ43により生成される駆動信号S2に基づいて各スイッチング素子がスイッチング動作を行うことにより、バッテリ62から供給される直流電力を三相交流電力に変換する。インバータ44を通じて指令信号S1に応じた電流がモータ31に供給されることにより、モータ31は目標アシストトルクに応じたトルクを発生する。モータ31のトルクは、運転者による操舵を補助するアシスト力として、減速機構32を介して車両の操舵機構(ここでは、コラムシャフト22a)に付与される。
つぎに、インバータ44の構成を説明する。
図3に示すように、インバータ44は直列に接続された2つのFETを1組とする3組のスイッチングアーム(単相ハーフブリッジともいう。)がバッテリ62の+端子と-端子との間において並列に接続されてなる。図3中の「+B」はバッテリ62の電圧を示す。また、バッテリ62の-端子はグランドである。
FET71,72はU相に対応するスイッチングアームを、FET73,74はV相に対応するスイッチングアームを、FET75,76はW相に対応するスイッチングアームを構成する。また、FET71,73,75は電源側に、FET72,74,76はグランド側に設けられている。6つのFET71~76には、それぞれ還流ダイオード78が設けられている。各還流ダイオード78は、各FET71~76と並列に接続されている。各還流ダイオード78のカソードはバッテリ62の+端子側に、各還流ダイオード78のアノードはバッテリ62の-端子側に接続されている。
FET71とFET72との間の中点Pu、FET73とFET74との間の中点Pv、およびFET75とFET76との間の中点Pwは、給電線77u,77v,77wを介してモータ31の各相のコイルに接続されている。また、FET71とFET72との中点Pu、FET73とFET74との中点Pv、およびFET75とFET76との中点Pwは、信号線79u,79v,79wを介してプリドライバ43に接続されている。
プリドライバ43により生成される駆動信号S2に基づきFET71~76のオンオフが切り替わることによって、バッテリ62から供給される直流電力が三相の交流電力に変換される。この変換される三相の交流電力が給電線77u~77wを介してモータ31の各相のコイルに供給されることによりモータ31が駆動する。ちなみに、駆動信号S2は、各FET71~76に対応する6つの駆動信号α1~α6を含む。
プリドライバ43は、信号線79u,79v,79wを介して接続されるFET71とFET72との間の中点Pu、FET73とFET74との間の中点Pv、およびFET75とFET76との間の中点Pwに生じる電位をモータ31の各相の端子電圧として検出する。
各給電線77u~77wにおいて、インバータ44とモータ31との間には、相開放リレー80u,80v,80wが設けられている。相開放リレー80u,80v,80wとしては、たとえばFETが採用される。相開放リレー80u,80v,80wは、インバータ44が正常に動作している通常時にはオンした状態に維持される。これに対し、インバータ44において断線故障あるいは短絡故障などが発生した場合、相開放リレー80u,80v,80wはオンした状態からオフした状態へ切り替えられる。これら相開放リレー80u,80v,80wがオフされた場合、インバータ44とモータ31の三相のコイル群との間の給電経路が遮断されることにより、インバータ44からモータ31のコイル群への給電が遮断される。
<電源投入時のマイクロコンピュータの動作>
つぎに、電源投入時におけるマイクロコンピュータ42の動作を説明する。
マイクロコンピュータ42は、電源スイッチ63がオフからオンへ切り替えられることにより電源回路41からの給電が開始されたとき、いわゆるイニシャルチェックを実行する。イニシャルチェックとは、モータ31に対する給電を開始する前の初期検査であって、たとえばインバータ44および相開放リレー80u,80v,80wなどのモータ31を駆動させるための部分の異常を検査することをいう。
図4のフローチャートに示すように、マイクロコンピュータ42は、電源が投入されることを契機として、イニシャルチェックを実行し(ステップS101)、そのイニシャルチェックの結果が正常であるかどうかを判定する(ステップS102)。
マイクロコンピュータ42は、イニシャルチェックの結果が正常である旨示すものであるとき(ステップS102でYES)、アシスト制御の実行を許可する(ステップS103)。マイクロコンピュータ42は、アシスト制御の実行が許可された状態において、ステアリングホイール21が操作されない場合、いわゆるアシスト開始待ちの状態を維持する。マイクロコンピュータ42は、アシスト開始待ちの状態においてステアリングホイール21が操作されるとき、操舵状態に応じてモータ31に対する給電を制御するアシスト制御を実行する。これに対し、マイクロコンピュータ42は、イニシャルチェックの結果が正常でない旨示すものであるとき(ステップS102でNO)、定められたフェイルセーフ制御を実行する(ステップS104)。マイクロコンピュータ42は、フェイルセーフ制御として、たとえばモータ31に対するアシスト制御の実行、すなわちモータ31への給電を許可しない。この制御状態においては、ステアリングホイール21が操作された場合であれ、モータ31への給電は開始されない。
<イニシャルチェック>
つぎに、イニシャルチェックについて詳細に説明する。
イニシャルチェックによって検査すべき項目は数多く存在するところ、これら項目の内容および検査を実行する順番は、製品仕様あるいはECU40が有する機能などに応じて決定される。また、イニシャルチェックの実行過程において、プリドライバ43の初期設定が行われる。
図5のフローチャートに示すように、ここではイニシャルチェックによって検査すべき項目として第1~第N(ただし、「N」は自然数である。)の検査項目が存在し、これら第1~第Nの検査はこの順番で実行される。検査項目には、つぎの4つの項目B1~B4が含まれる。マイクロコンピュータ42は、イニシャルチェックの実行過程において、定められたタイミングでプリドライバ43の初期設定を行う(ステップS201)。この後、マイクロコンピュータ42は、ステップS202で項目B1の検査を、ステップS203で項目B2の検査を、ステップS204で項目B3の検査を、ステップS205で項目B4の検査を行う。ただし、項目B1~B4の検査の間に他の項目の検査が実行されてもよい。
(B1)電源側およびグランド側のFETのドレインとソースとの間の短絡故障の検査
(B2)電源側のFETのゲートとソースとの間の短絡故障の検査
(B3)電源側およびグランド側のFETの開放故障の検査
(B4)相開放リレーの開放故障の検査
以下、プリドライバ43の初期設定の手順、および各項目B1~B4の検査の手順を詳細に説明する。
<プリドライバの初期設定の手順>
まず、プリドライバ43の初期設定の手順を説明する。
図6のシーケンス図に示すように、マイクロコンピュータ42は、プリドライバ43に対して初期設定指令S0を送信する(ステップS301)。初期設定指令S0は、プリドライバ43の初期設定を行うための信号であって、プリドライバ43が動作するうえで必要となる設定情報が含まれている。
プリドライバ43は、マイクロコンピュータ42からの初期設定指令S0が受信されるとき(ステップS302)、この受信される初期設定指令S0に含まれる設定情報に基づき初期設定を行う(ステップS303)。これにより、プリドライバ43は起動して動作を開始する。プリドライバ43は、初期設定が完了すると、その旨示す設定完了信号S5をマイクロコンピュータ42へ送信する。
マイクロコンピュータ42は、プリドライバ43からの設定完了信号S5が受信されるとき(ステップS305)、プリドライバ43の初期設定が完了したことを認識し、つぎに実行するべき検査項目の検査を実行する。本実施の形態では、各項目(B1)~(B4)を順番に実行する。
<項目B1の検査手順>
つぎに、各FET71~76におけるドレインとソースとの間の短絡故障の検査手順を説明する。ここでは、U相のスイッチングアームを構成する電源側のFET71およびグランド側のFET72について説明する。残るV相のFET73,74およびW相に対応するFET75,76のドレインとソースとの間の短絡についてもU相のFET71,72と同様にして検査することができる。
図7に示すように、信号線79uに設定される接続点P2は、2つの分圧抵抗R1,R2を介してグランドに接続されている。信号線79uに生じる電圧は、分圧抵抗R1,R2によって分圧される。マイクロコンピュータ42は、分圧抵抗R1,R2によって分圧される電圧を取り込み、この取り込まれる電圧に基づきFET71,72のドレインとソースとの間の短絡故障を検査する。
マイクロコンピュータ42は、電源側のFET71のドレインとソースとの間の短絡故障を検査する場合、プリドライバ43の電源をオフする。すなわち、マイクロコンピュータ42は、電源回路41からプリドライバ43への給電を停止させる。FET71のドレインとソースとの間に短絡が発生していない場合、FET71とFET72との中点Pu、すなわち信号線79uには電圧が発生しない。これに対し、FET71のドレインとソースとの間に短絡が発生している場合、FET71とFET72との中点Pu、すなわち信号線79uに電圧が発生する。このことを利用して、マイクロコンピュータ42はFET71のドレインとソースとの間に短絡故障が発生しているかどうかを検査する。マイクロコンピュータ42は、信号線79uに電圧が発生していないとき、FET71のドレインとソースとの間に短絡は発生していない旨判定する。また、マイクロコンピュータ42は、信号線79uに電圧が発生しているとき、FET71のドレインとソースとの間に短絡が発生している旨判定する。
マイクロコンピュータ42は、グランド側のFET72のドレインとソースとの間の短絡故障を検査する場合、プリドライバ43の電源をオンする。すなわち、マイクロコンピュータ42は、電源回路41からプリドライバ43への給電を許容する。FET72のドレインとソースとの間に短絡が発生していない場合、図7に二点鎖線の矢印Y1で示すように、プリドライバ43からのリーク電流は分圧抵抗R1,R2を介してグランドに流れ込む。このため、2つの分圧抵抗R1,R2の接続点P3にはリーク電流に応じた電圧が発生する。これに対し、FET72のドレインとソースとの間に短絡が発生している場合、図7に破線の矢印Y2で示すように、プリドライバ43からのリーク電流は、FET72を介してグランドに流れ込む。このため、2つの分圧抵抗R1,R2の接続点P3には電圧が発生しない。このことを利用して、マイクロコンピュータ42はFET72のドレインとソースとの間に短絡故障が発生しているかどうかを検査する。マイクロコンピュータ42は、接続点P3に電圧が発生しているとき、FET72のドレインとソースとの間に短絡は発生していない旨判定する。また、マイクロコンピュータ42は、接続点P3に電圧が発生していないとき、FET72のドレインとソースとの間に短絡が発生していると判定する。
なお、残る信号線79v,79wについても、信号線79uと同様に2つの分圧抵抗を介してグランドに接続される。マイクロコンピュータ42は、2つの分圧抵抗によって分圧される電圧に基づきFET73,74のドレインとソースとの間の短絡故障、ならびにFET75,76のドレインとソースとの間の短絡故障を検査する。
<項目B2の検査手順>
つぎに、電源側のFETにおけるゲートとソースとの間の短絡故障の検査手順を説明する。
図8のフローチャートに示すように、マイクロコンピュータ42は電源側のすべてのFET71,73,75をオンする(ステップS401)。マイクロコンピュータ42は、各FET71,73,75のデューティ比がそれぞれ100%になるように指令信号S1を生成する。デューティ比とは、FETがオンとオフとを繰り返す周期(パルス周期)に対するFETのオン時間の割合をいう。
つぎに、マイクロコンピュータ42は、プリドライバ43に対して要求信号S6を送信する(ステップS402)。この要求信号S6は、プリドライバ43に対して電源側のFET71,73,75におけるゲートとソースとの間の電圧を検出し、その検出した結果を送信することを要求する信号である。
プリドライバ43は、マイクロコンピュータ42からの要求信号S6が受信されるとき(ステップS403)、電源側の3つのFET71,73,75におけるゲートとソースとの間の電圧を検出し(ステップS404)、それら検出される電圧の検出結果を含む応答信号S7をマイクロコンピュータ42へ送信する(ステップS405)。
マイクロコンピュータ42は、プリドライバ43からの応答信号S7が受信されるとき(ステップS406)、この受信される応答信号S7に含まれる電圧の検出結果に基づき電源側の3つのFET71,73,75の異常を判定する(ステップS407)。ここでは、電源側の3つのFET71,73,75の異常として、それらFET71,73,75におけるゲートとソースとの間に短絡故障が発生しているかどうかが判定される。
マイクロコンピュータ42は、電圧の検出結果がハイレベルの電圧を示すものであるとき、電源側の各FET71,73,75におけるゲートとソースとの間に短絡故障が発生していない正常な状態である旨判定する。また、マイクロコンピュータ42は、電圧の検出結果がローレベルの電圧を示すものであるとき、電源側の各FET71,73,75におけるゲートとソースとの間に短絡故障が発生している異常な状態である旨判定する。
これは、つぎの観点に基づく。すなわち、たとえばFET71が正常な状態である場合、FET71のゲートに対する駆動信号α1の印加を通じてFET71のゲートとソースとの間の電圧であるゲート電圧がゲートしきい値電圧を超えることによりFET71はオンする。すなわち、FET71のゲートとソースとの間の電圧はハイレベルの電圧となる。これに対し、FET71のゲートとソースとの間に短絡が発生している場合、FET71のゲートに対する駆動信号α1の印加を通じて、電荷がFET71のゲート、ソースおよびFET71に寄生している還流ダイオード78を介してバッテリ62側へ回り込む。このことに起因して、FET71のゲート電圧がゲートしきい値電圧を超えないことによりFET71はオンしない。すなわち、FET71はオフされた状態に維持されるため、FET71のゲートとソースとの間の電圧はローレベルの電圧となる。なお、残る電源側の2つのFET73,75についてもFET71と同様にしてゲートとソースとの間の短絡故障が検査される。
ちなみに、電源側のFET71,73,75におけるゲートとソースとの間の短絡故障を検査するに際して、電源側の各FET71,73,75をオンさせない場合、各FET71,73,75のゲートとソースとの間の短絡故障を検出することが困難となる。これは、つぎの理由による。
図9に矢印Y3で示すように、たとえば電源側のFET71のゲートとソースとの間に短絡故障が発生している場合、プリドライバ43からのリーク電流に基づくFET71のゲートの電荷は、ソースおよび還流ダイオード78を経由してバッテリ62へ回り込む。このため、FET71のゲートとソースとの間に短絡故障が発生している異常状態と、FET71のゲートとソースとの間に短絡故障が発生していない正常状態とでは、FET71のゲートとソースとの間の電圧の差分として還流ダイオード78の電圧降下分の電圧が現れるのみである。すなわち、FET71が正常である場合のゲートとソースとの間の電圧と、FET71のゲートとソースとの間に短絡故障が発生している場合のゲートとソースとの間の電圧との間には、ほとんど差が発生しない。また、FET71が正常である場合のゲートとソースとの間の電圧と、FET71のゲートとソースとの間に短絡故障が発生している場合のゲートとソースとの間の電圧との差は、インバータ44のハードウェア上のばらつきによる許容範囲内の値にしかならないこともある。このため、マイクロコンピュータ42は、FET71のゲートとソースとの間に短絡故障が発生していない正常な状態と、ゲートとソースとの間に短絡故障が発生している異常な状態とを切り分けて判定することが困難となる。残る電源側のFET73,75についてもFET71と同様である。
図8のフローチャートに示すように、マイクロコンピュータ42は、先のステップS407において、電源側の各FET71,73,75が異常な状態ではない旨判定されるとき(ステップS407でNO)、つぎの項目の検査を実行する。本実施の形態では、先の図5のフローチャートに示されるように、つぎの検査として各FET71~76の開放故障の検査が行われる。
これに対して、マイクロコンピュータ42は、先のステップS407において、電源側の各FET71,73,75が異常な状態である旨判定されるとき(ステップS407でYES)、カウンタのカウント値Nをインクリメントする(ステップS408)。インクリメントとは、カウント値Nに所定数(ここでは、「1」)を加算することをいう。カウンタはマイクロコンピュータ42に設けられるものであって、電源側の各FET71,73,75のゲートとソースとの間に短絡が発生している旨判定された回数を計数する。すなわち、カウンタのカウント値Nは、各FET71,73,75のゲートとソースとの間に短絡が発生している旨判定された回数を示す。
つぎに、マイクロコンピュータ42は、カウント値Nが回数しきい値Nth以上であるかどうかを判定する(ステップS409)。回数しきい値Nthは、誤って異常を確定することを避ける観点に基づき、たとえば「3」に設定される。ただし、回数しきい値Nthは、製品仕様などに応じて「1」もしくは「2」または「4」以上の値に設定されてもよい。
マイクロコンピュータ42は、カウント値Nが回数しきい値Nthよりも大きくないとき(ステップS409でNO)、先のステップS402へ処理を移行する。
マイクロコンピュータ42は、カウント値Nが回数しきい値Nthよりも大きいとき(ステップS409でYES)、異常を確定し(ステップS410)、定められたフェイルセーフ制御を実行する(ステップS411)。マイクロコンピュータ42は、フェイルセーフ制御として、たとえばアシスト制御の実行開始、すなわちモータ31への給電開始を許可しない。
<項目B3の検査手順>
つぎに、各FET71~76の開放故障の検査手順を説明する。ここでは、U相のスイッチングアームを構成する電源側のFET71およびグランド側のFET72について説明する。残るV相のFET73,74およびW相に対応するFET75,76の開放故障についてもU相のFET71,72と同様にして検査することができる。
マイクロコンピュータ42は、U相のFET71,72の開放故障を検査する場合、これら2つのFET71,72をオンする。マイクロコンピュータ42は、たとえば2つのFET71,72のデューティ比がそれぞれ50%になるように指令信号S1を生成する。
2つのFET71,72が両方とも正常である場合、FET71とFET72との中点Pu、すなわち信号線79uに生じる電圧は、バッテリ62の電圧の半分程度の電圧(+B/2)になる。これに対し、2つのFET71,72のうち電源側のFET71に開放故障が発生している場合、FET71とFET72との中点Pu、すなわち信号線79uに生じる電圧はグランドレベルの電圧となる。また、2つのFET71,72のうちグランド側のFET72に開放故障が発生している場合、FET71とFET72との中点Pu、すなわち信号線79uに生じる電圧は、バッテリ62の電圧(+B)と同レベルの電圧となる。このことを利用して、マイクロコンピュータ42はFET71,72の開放故障を検査する。
マイクロコンピュータ42は、先の図7に示される2つの分圧抵抗R1,R2によって分圧される電圧を取り込み、この取り込まれる電圧に基づき信号線79uに生じる電圧を認識することが可能である。マイクロコンピュータ42は、信号線79uに生じる電圧がバッテリ62の電圧の半分程度の電圧(+B/2)であるとき、2つのFET71,72のいずれにも開放故障は発生していない旨判定する。また、マイクロコンピュータ42は、信号線79uに生じる電圧がグランドレベルであるとき、2つのFET71,72のうち電源側のFET71に開放故障が発生している旨判定する。また、マイクロコンピュータ42は、信号線79uに生じる電圧がバッテリ62の電圧(+B)と同レベルの電圧であるとき、2つのFET71,72のうちグランド側のFET72に開放故障が発生している旨判定する。
<項目B4の検査手順>
つぎに、相開放リレー80u,80v,80wの開放故障の検査手順を説明する。
マイクロコンピュータ42は、相開放リレー80u,80v,80wをオンした状態でインバータ44の各FET71~76を駆動させる。相開放リレー80u,80v,80wがいずれも正常な状態であるとき、給電線77u,77v,77wには電圧が生じる。これに対し、3つの相開放リレー80u,80v,80wのうち少なくとも一つに開放故障が発生しているとき、その開放故障が発生している相開放リレーが設けられた給電線には電圧が生じない。このことを利用して、マイクロコンピュータ42は、相開放リレー80u,80v,80wの開放故障を検査する。
マイクロコンピュータ42は、インバータ44の各FET71~76を駆動させた状態、かつ相開放リレー80u,80v,80wに対してオンする旨の指令を与えている状態において、給電線77u,77v,77wに電圧が生じている場合、相開放リレー80u,80v,80wに開放故障は発生していない旨判定する。これに対し、マイクロコンピュータ42は、インバータ44の各FET71~76を駆動させた状態、かつ相開放リレー80u,80v,80wに対してオンする旨の指令を与えている状態であるにも関わらず、給電線77u,77v,77wに電圧が生じていない場合、相開放リレー80u,80v,80wに開放故障が発生していると判定する。ちなみに、マイクロコンピュータ42は、図示しない電圧センサを通じて、給電線77u,77v,77wに生じる電圧を検出することが可能である。
<マイクロコンピュータの動作>
つぎに、プリドライバ43の電源電圧の低下が検出されるときのマイクロコンピュータ42の動作を説明する。ここでは、モータ31に対する給電制御が行われている場合に、プリドライバ43の電源電圧に瞬断が発生した状況を想定する。この瞬断の発生時、プリドライバ43は、異常検出信号S3を生成して動作を停止する。
図10のフローチャートに示すように、マイクロコンピュータ42は、プリドライバ43により生成される異常検出信号S3が受信されるとき(ステップS501)、インバータ44に対する異常検出機能を無効化する(ステップS502)。これは、マイクロコンピュータ42が、プリドライバ43の動作停止に伴うインバータ44の動作停止、ひいてはモータ31への給電停止を異常として誤検出することを抑制するためである。
この後、マイクロコンピュータ42は、プリドライバ43の初期設定をやり直すために、再びイニシャルチェックを実行する(ステップS503)。マイクロコンピュータ42は、このイニシャルチェックの実行過程においてプリドライバ43に対して初期設定指令S0を送信する。初期設定指令S0は、プリドライバ43の初期設定を行うための信号であって、プリドライバ43が動作するうえで必要となる設定情報が含まれている。
つぎに、マイクロコンピュータ42は、プリドライバ43からの異常検出信号S3が受信されるかどうかを判定する(ステップS504)。
マイクロコンピュータ42は、異常検出信号S3が受信されるとき(ステップS504でYES)、定められた異常報知を実行する(ステップS505)。これは、プリドライバ43の初期設定をやり直したにもかかわらずプリドライバ43は依然として動作を停止した状態であることから、電源電圧の低下は一時的な事象ではない、またはプリドライバ43自体やその周辺回路に異常(たとえば電源線65の断線)が発生しているおそれがあるためである。マイクロコンピュータ42は、異常報知動作として、たとえば車室内の警告灯を点灯させたり、スピーカを通じて警告音を発生させたりする。これにより、運転者に異常が報知される。ちなみに、この場合にはモータ31への給電が停止されているため、操舵の補助は行われない。
マイクロコンピュータ42は、先のステップS504において、異常検出信号S3が受信されないとき(ステップS504でNO)、インバータ44に対する異常検出機能を有効化する(ステップS506)。これは、瞬断から復帰してプリドライバ43の電源電圧が回復するとともに、プリドライバ43の初期設定がやり直されることにより、プリドライバ43が正常に動作を開始したと考えられるからである。プリドライバ43が正常に動作を開始することにより、モータ31への給電、ひいては操舵の補助が再開される。
<プリドライバの動作>
つぎに、プリドライバ43の電源電圧の低下が検出されるときのプリドライバ43の動作を説明する。ここでも、モータ31に対する給電制御が行われている場合に、プリドライバ43の電源電圧に瞬断が発生した状況を想定する。
図11のフローチャートに示すように、プリドライバ43は、自己の電源電圧の低下が検出されるとき(ステップS601)、異常検出信号S3をマイクロコンピュータ42へ送信し(ステップS602)、自己の設定状態を初期設定が行われる前の初期状態にリセットする(ステップS603)。これにより、プリドライバ43は動作、すなわち駆動信号S2の生成を停止する。
つぎに、プリドライバ43は、マイクロコンピュータ42からの初期設定指令S0が受信されるとき(ステップS604)、当該受信される初期設定指令S0に基づき自己の初期設定を再び行う(ステップS605)。これにより、プリドライバ43は再び動作を開始する。プリドライバ43は、初期設定が完了したとき、その旨示す設定完了信号S5をマイクロコンピュータ42へ送信する(ステップS606)。
つぎに、プリドライバ43は、自己の電源電圧の低下が検出されるかどうかを判定する(ステップS607)。
プリドライバ43は、自己の電源電圧の低下が検出されるとき(ステップS607でYES)、その電源電圧の低下が一時的なものではないおそれがあるとして、電源電圧の異常を確定し(ステップS608)、異常検出信号S3をマイクロコンピュータ42へ送信する(ステップS609)。この後、プリドライバ43は、再び自己の状態を初期状態にリセットし(ステップS210)、処理を終了する。これにより、プリドライバ43は動作、すなわち駆動信号S2の生成を停止する。
これに対し、プリドライバ43は、先のステップS607において、電源電圧の低下が検出されないとき(ステップS607でNO)、動作を再開し(ステップS611)、処理を終了する。すなわち、プリドライバ43は、マイクロコンピュータ42により生成される指令信号S1に基づき、インバータ44に対する駆動信号S2の生成を再開する。これにより、モータ31への給電が再び開始される。
<実施の形態の作用>
つぎに、本実施の形態の作用を説明する。
まず、マイクロコンピュータ42の比較例として、イニシャルチェックにおいて電源側のFET71,73,75のゲートとソースとの間の短絡故障を検出しない構成あるいは当該短絡故障を検出できない構成が採用される場合について説明する。この構成を採用する場合、つぎのようなことが懸念される。
すなわち、FET71のゲートとソースとの間に短絡故障が発生している場合であれ、これがイニシャルチェックでは検出されないため、他の項目の検査の結果に異常がなければ、マイクロコンピュータ42の制御状態はアシスト開始待ちの状態へ遷移する。しかし、このアシスト開始待ちの状態においてステアリングホイール21が操作されることによってマイクロコンピュータ42の制御状態がアシスト開始待ちの状態からアシスト制御の実行開始の状態へ遷移したとき、プリドライバ43の電源電圧が低下するおそれがある。これは、つぎの理由による。
図12に二点鎖線の矢印Y4で示されるように、アシスト制御の実行中において、たとえば電源側のFET71のゲートとソースとの間に短絡故障が発生した場合、プリドライバ43により生成される駆動信号S2は、モータ31のU相のコイル、他相(ここでは、V相)のコイル、および他相に対応するグランド側のFET(ここでは、FET80v)を介して、グランドに流れ込む。すなわち、FET71のゲートは地絡状態となる。このため、ステアリングホイール21が操作されると、プリドライバ43の給電能力を超えて電力が消費されることにより、プリドライバ43の電源電圧がしきい値電圧Vthよりも小さい値に低下するおそれがある。
この電源側のFET71,73,75のゲートとソースとの間の短絡故障に起因するプリドライバ43の電源電圧の低下を契機として、マイクロコンピュータ42によるイニシャルチェックが再び実行される。このイニシャルチェックの実行過程においてプリドライバ43の再度の初期設定が完了した後、ステアリングホイール21が操作されていない状態であれば、FET71のゲートとソースとの間に短絡故障が発生していてもプリドライバ43の電源電圧は低下しないため、プリドライバ43は再び動作を開始する。しかし、プリドライバ43が再び動作を開始した後、ステアリングホイール21が操作されるとき、再びプリドライバ43の電源電圧が低下する。
このように、イニシャルチェックにより電源側のFET71,73,75のゲートとソースとの間の短絡故障が検出されない場合、これに起因してマイクロコンピュータ42によるイニシャルチェックが繰り返し実行されるおそれがある。また、製品仕様などによっては、イニシャルチェックが実行されているときには警告灯を点灯させる一方、イニシャルチェックが完了したときには警告灯を消灯する構成が採用されることも考えられる。この構成が採用されている場合、マイクロコンピュータ42によるイニシャルチェックが繰り返し行われることにより、警告灯が点灯したり消灯したりするおそれがある。
この点、本実施の形態では、マイクロコンピュータ42は、イニシャルチェックの実行過程において、電源側のすべてのFET71,73,75をオンした状態における電源側のFET71,73,75におけるゲートとソースとの間の電圧に基づき、電源側のFET71,73,75におけるゲートとソースとの間の短絡故障を検出することができる。
マイクロコンピュータ42は、イニシャルチェックによって、電源側のFET71,73,75のゲートとソースとの間の短絡故障が検出されるとき、フェイルセーフ制御として、モータ31に対するアシスト制御の実行を許可しない。すなわち、ステアリングホイールが操作された場合であれ、モータ31への給電は開始されない。マイクロコンピュータ42は指令信号S1を生成しないため、プリドライバ43も駆動信号S2を生成しない。このため、駆動信号S2が、短絡故障が発生しているFETに対応する相のモータコイル、他相のモータコイル、および他相に対応するグランド側のFETを介して、グランドに流れ込むこともない。したがって、プリドライバ43の給電能力を超えて電力が消費されることもないため、プリドライバ43の電源電圧がしきい値電圧Vthよりも小さい値に低下することもない。
したがって、イニシャルチェックによって電源側のFET71,73,75のゲートとソースとの間の短絡故障が検出された以降、マイクロコンピュータ42によるイニシャルチェックが繰り返し実行されることを回避することができる。また、製品仕様などに基づき、イニシャルチェックが実行されているときには警告灯を点灯させる一方、イニシャルチェックが完了したときには警告灯を消灯する構成が採用されている場合、警告灯の点灯と消灯とが繰り返されることもない。マイクロコンピュータ42によるイニシャルチェックが繰り返し行われることがないからである。
<実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)マイクロコンピュータ42は、ECU40が有する制御機能に応じてより適切なイニシャルチェックを行う。すなわち、マイクロコンピュータ42は、イニシャルチェックの実行過程において、電源側のすべてのFET71,73,75をオンした状態での電源側のFET71,73,75におけるゲートとソースとの間の電圧に基づき、電源側のFET71,73,75におけるゲートとソースとの間の短絡故障を検出することができる。このため、イニシャルチェックにおいて、インバータの異常をより適切に検出することができる。
(2)また、マイクロコンピュータ42は、イニシャルチェックにおいて電源側のFET71,73,75におけるゲートとソースとの間の短絡故障が検出されるとき、アシスト制御の実行、すなわちモータ31への給電を許可しない。プリドライバ43の給電能力を超えるような状況が発生しないため、プリドライバ43の電源電圧が低下することもない。したがって、電源側のFET71,73,75におけるゲートとソースとの間の短絡故障に起因してプリドライバ43のリセット、ひいてはマイクロコンピュータ42によるイニシャルチェックが繰り返し行われることを回避することができる。
(3)電源側のFET71,73,75におけるゲートとソースとの間の短絡故障の検査においては、電源側のすべてのFET71,73,75をオンする。このため、グランド側のFET72,74,76に短絡故障が発生していた場合、スイッチングアームが短絡したアーム短絡状態となるため、インバータ44に過電流が生じる。この点、本実施の形態では、マイクロコンピュータ42は、イニシャルチェックにおいて、電源側のFET71,73,75におけるゲートとソースとの間の短絡故障の検査を、電源側のFET71,73,75の短絡故障の検査およびグランド側のFET72,74,76の短絡故障の検査よりも後に実施する。イニシャルチェックにおいて、グランド側のFET72,74,76の短絡故障が検出された場合、電源側のFET71,73,75におけるゲートとソースとの間の短絡故障の検査に移行することなく、フェイルセーフ制御(ここでは、アシスト制御の非実行)が実行開始される。このため、電源側のFET71,73,75におけるゲートとソースとの間の短絡故障の検査を実行することによってインバータ44に過電流が発生することが抑制される。
(4)電源側のFET71,73,75におけるゲートとソースとの間に短絡故障が発生している場合、モータ31における各相の端子電圧(各信号線79u,79v,79w)がその時々の理想的な電圧と異なる値になる。このため、電源側のFET71,73,75におけるゲートとソースとの間に短絡故障が発生している状態では、電源側のFET71,73,75およびグランド側のFET72,74,76の開放故障の検査、ならびに相開放リレー80u,80v,80wの開放故障の検査を正確に行うことができないおそれがある。この点、本実施の形態では、マイクロコンピュータ42は、電源側のFET71,73,75におけるゲートとソースとの間の短絡故障の検査を、FET71~76の開放故障の検査、および相開放リレー80u,80v,80wの開放故障の検査の前に実施する。イニシャルチェックにおいて、電源側のFET71,73,75におけるゲートとソースとの間の短絡故障が検出された場合、FET71~76の開放故障の検査、および相開放リレー80u,80v,80wの開放故障の検査に移行することなく、フェイルセーフ制御(ここでは、アシスト制御の非実行)が実行開始される。FET71~76の開放故障の検査、および相開放リレー80u,80v,80wの開放故障の検査が無駄に実行されることを抑制することができる。
(5)マイクロコンピュータ42は、イニシャルチェックにおいて電源側のFET71,73,75のゲートとソースとの間の短絡故障を検査するとき、当該短絡故障の検出回数を示すカウンタのカウント値Nが回数しきい値Nth以上となったとき、異常を確定する。このため、誤って異常を確定することが抑制される。また、カウンタのインクリメントは、電源側のFET71,73,75のゲートとソースとの間の短絡故障の検査中に限定される。このため、カウンタのカウント値が他のイニシャルチェック項目の検査中に誤ってインクリメントされることが抑制される。ちなみに、マイクロコンピュータ42のカウンタは、電源側のFET71,73,75のゲートとソースとの間の短絡故障の検査がやり直される場合はリセットされないが、散発的な誤カウントの累積による異常確定を回避するため、電源側のFET71,73,75のゲートとソースとの間の短絡故障の検査を通過するたびにリセットされる。
(6)プリドライバ43には電源回路41から電力が供給される。このため、バッテリ62からプリドライバ43へ電力を供給する場合に比べて、プリドライバ43からインバータ44へ向けて流れるリーク電流を抑制することができる。ただし、電源回路41の給電能力はバッテリ62に比べて劣ることがある。このため、電源側のFET71,73,75におけるゲートとソースとの間に短絡故障が発生している場合、プリドライバ43により生成される駆動信号S2が最終的にはグランドへ流れるところ、必要とされる電力が結果的にプリドライバ43の給電能力を超えるような状況が発生しやすい。すなわち、プリドライバ43の電源電圧が低下しやすいため、プリドライバ43のリセットおよびマイクロコンピュータ42によるイニシャルチェックの繰り返しも発生しやすい。したがって、イニシャルチェックにおいて電源側のFET71,73,75におけるゲートとソースとの間の短絡故障が検出されるときにはアシスト制御の実行を許可しない構成を有するマイクロコンピュータ42は、プリドライバ43の電源として電源回路41が採用されるECU40に好適である。
また、本実施の形態によれば、先の(1)~(6)の効果に加え、以下の効果を得ることもできる。
(7)プリドライバ43は、自己の電源電圧の低下が検出されるとき、異常検出信号S3をマイクロコンピュータ42へ送信するとともに、自己の状態を初期設定が行われる前の初期状態にリセットして動作を停止する。マイクロコンピュータ42は、プリドライバ43からの異常検出信号S3が受信されるとき、プリドライバ43の初期設定をやり直す。プリドライバ43は、自己の再初期設定が完了した後、自己の電源電圧の低下が検出されないとき、動作を再開する。すなわち、プリドライバ43は、マイクロコンピュータ42からの指令信号S1に基づいてインバータ44に対する駆動信号S2を再び生成し始める。したがって、ECU40が、電源電圧の低下に対して自己の動作を停止するプリドライバ43を有する場合であれ、このECU40は、プリドライバ43の電源電圧が一時的な低下から回復したとき、モータ31を再び動作させることができる。
(8)マイクロコンピュータ42は、プリドライバ43からの異常検出信号S3が受信されるとき、インバータ44に対する異常検出機能(インバータ44からモータ31へ供給される電流値Imの監視機能)を無効化する。マイクロコンピュータ42は、初期設定指令S0を送信した後、異常検出信号S3が受信されなくなったとき、インバータ44に対する異常検出機能を有効化する。このため、マイクロコンピュータ42が、プリドライバ43の電源電圧の一時的な低下に起因するインバータ44の動作停止(モータ31への給電停止)を、インバータ44の異常として誤って判定することを抑制することができる。
プリドライバ43が自己の電源電圧の低下を検出したとき、プリドライバ43は駆動信号S2の生成を停止するため、インバータ44の動作も停止する。このため、マイクロコンピュータ42の異常検出機能が有効化されている場合、マイクロコンピュータ42は、指令信号S1を生成しているにも関わらずモータ31へ給電されていないことに基づき、インバータ44に異常が発生した旨誤って判定し、フェイルセーフとしてアシスト制御の実行(指令信号S1の生成)を停止するおそれがある。この場合、アシスト制御の実行の停止後、プリドライバ43の電源電圧が回復した場合であれ、マイクロコンピュータ42はアシスト制御の実行を自発的に再開できない場合がある。したがって、プリドライバ43により異常検出信号S3が生成される状況である場合、瞬断などの一時的な電圧低下であることも考えられることから、マイクロコンピュータ42の異常検出機能を一時的に無効化することが好ましい。
(9)マイクロコンピュータ42は、イニシャルチェックをやり直したにもかかわらず、異常検出信号S3が受信されるとき、定められた異常報知動作を実行する。これは、イニシャルチェックでは検出することができない異常、あるいはイニシャルチェックの検査項目に含まれない何らかの異常が発生しているおそれがあるからである。異常報知動作を通じて異常が発生したことを運転者に伝えることにより、運転者に何らかの対応を促すことができる。
(10)プリドライバ43は、電圧監視回路43aにより検出される電源電圧Vpがしきい値電圧Vthを下回ったとき、自己の電源電圧の低下を検出する。このようにすれば、プリドライバ43は、しきい値電圧Vthを基準として適切に自己の電源電圧の低下を検出することができる。
(11)EPS10には、瞬断などの一時的な電圧低下から復帰した後、モータ31の駆動を再開してアシスト力を発生することが要求される。本実施の形態のECU40によれば、プリドライバ43の電源電圧が一時的な低下から復帰したとき、モータ31を再び動作させることができる。このため、ECU40はEPS10に好適である。
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・本実施の形態では、電源回路41からプリドライバ43へ電力を供給するようにしたが、バッテリ62からプリドライバ43へ電力を供給するようにしてもよい。この場合、プリドライバ43の電圧監視回路43aは、電源電圧としてバッテリ62の電圧を監視する。バッテリ62の電圧の異常を判定する際の基準であるしきい値電圧Vthは、たとえばインバータ44を適切に動作させるために必要とされる電圧に基づき設定される。プリドライバ43は、電圧監視回路43aによりバッテリ62の電圧が低下した旨判定されるとき、その旨示す異常検出信号S3を生成する。このようにしても、本実施の形態の(1)~(11)と同様の効果を得ることができる。
・アシスト制御の実行中においては、つぎのようにして電源側のFET71,73,75のゲートとソースとの間の短絡故障を検出するようにしてもよい。すなわち、電源側のFET71,73,75のゲートとソースとの間が短絡している場合、FET71,73,75をオンさせることができない。このため、モータ31に対してマイクロコンピュータ42により生成される指令信号S1に応じた電流を供給することができない。マイクロコンピュータ42は、電流センサ64を通じて指令信号S1に応じた電流がモータ31に供給されていないことが検出されるとき、定められたフェイルセーフ制御として、たとえばアシスト制御の実行を停止、すなわちモータ31への給電を停止する。
・イニシャルチェックにおける検査項目として、グランド側のFET72,74,76のゲートとソースとの間の短絡故障の検査を設けてもよい。グランド側のFET72,74,76のゲートとソースとの間の短絡故障は、電源側のFET71,73,75と同様にして検出することが可能である。
・プリドライバ43は、図11のフローチャートにおけるステップS605において、再初期設定が行われた後、電源電圧の低下が検出されるとき(ステップS607でYES)、即時にバッテリ62の電圧の異常を確定したが、つぎのようにしてもよい。たとえば、プリドライバ43は、図11のステップS607の判定処理が実行された時点を基準として、所定のしきい値時間だけ電源電圧の低下が継続するとき、電源電圧の異常を確定する。
・プリドライバ43は、図11のフローチャートにおけるステップS605において、再初期設定が行われた後、電源電圧の低下が検出されないとき(ステップS607でNO)、即時に動作を再開したが、つぎのようにしてもよい。たとえば、プリドライバ43は、図11のステップS607の判定処理が実行された時点を基準として、所定のしきい値時間だけ電源電圧の低下が検出されないとき、動作を再開する。
・マイクロコンピュータ42は、図10のフローチャートにおけるステップS503において初期設定指令S0を送信した後、プリドライバ43からの異常検出信号S3が受信されるとき(ステップS504でYES)、即時に異常報知を行ったが、つぎのようにしてもよい。たとえば、マイクロコンピュータ42は、ステップS503において初期設定指令S0を送信した後、異常検出信号S3が受信されるとき(ステップS504でYES)、所定のしきい値回数だけ初期設定指令S0の送信(ただし、イニシャルチェックは行わない。)と異常検出信号S3の受信判定(ステップS504)を繰り返す。マイクロコンピュータ42は、しきい値回数だけプリドライバ43の初期設定をやり直したにもかかわらず、異常検出信号S3が受信されるとき、異常報知を行う(ステップS505)。
・マイクロコンピュータ42として、プリドライバ43において電源電圧の異常が確定されたとき、異常報知を行わない構成を採用してもよい。この場合、マイクロコンピュータ42が実行する処理として、図10のフローチャートにおけるステップS505の処理を割愛することができる。すなわち、マイクロコンピュータ42は、ステップS504において異常検出信号S3を受信した旨判定されるとき(ステップS504でYES)、異常報知を行うことなく処理を終了する。
・異常報知動作は、プリドライバ43のリセットと関係なく実行されるものであってもよい。この場合、ECU40におけるマイクロコンピュータ42以外の部分が異常報知動作を行ってもよい。
・マイクロコンピュータ42として、インバータ44に対する異常検出機能を割愛した構成を採用してもよい。この場合、マイクロコンピュータ42が実行する処理として、図10のフローチャートにおけるステップS502,S506の処理を割愛することができる。すなわち、マイクロコンピュータ42は、ステップS501においてプリドライバ43からの異常検出信号S3を受信した後、ステップS503へ処理を移行してイニシャルチェックの実行過程において初期設定指令S0をプリドライバ43へ送信する。また、マイクロコンピュータ42は、ステップS504の判定処理において異常検出信号S3が受信されない旨判定されるとき(ステップS504でNO)、処理を終了する。
・本実施の形態では、マイクロコンピュータ42は、プリドライバ43により生成される異常検出信号S3が受信されるとき、プリドライバ43の初期設定をやり直すために再びイニシャルチェックを実行するようにしたが(図10のステップS503)、先の図5に示されるすべての検査項目(第1の検査~第Nの検査)を実行しなくてもよい。たとえば、マイクロコンピュータ42は、2回目以降のイニシャルチェックを行う際、少なくとも先の図5に示されるステップS201の処理(プリドライバ43の初期設定)を実行するようにしてもよい。また、マイクロコンピュータ42は、2回目以降のイニシャルチェックを行う際、少なくとも先の図5に示されるステップS201~ステップS205の処理を実行するようにしてもよい。このように、製品仕様などによっては2回目以降のイニシャルチェックではその検査項目の一部を行わないことが要求されることもあるところ、このような要求に応えることができる。
・本実施の形態では、ECU40の搭載先として、モータ31のトルクをステアリングシャフト22に伝達するタイプの操舵装置を一例として挙げたが、たとえばモータのトルクを転舵シャフト23に伝達するタイプの操舵装置であってもよい。
・本実施の形態では、操舵制御装置を電動パワーステアリング装置のECU40に具体化したが、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置の制御装置に具体化してもよい。このタイプの操舵装置は、ステアリングシャフトに付与される操舵反力の発生源である反力モータ、および転舵輪を転舵させる転舵力の発生源である転舵モータを有している。制御装置は、反力モータに対する給電制御を通じて操舵反力を発生させる反力制御を実行する。また、制御装置は、転舵モータに対する給電制御を通じて転舵輪を転舵させる転舵制御を実行する。