JP7313727B2 - 薬剤感受性測定方法、及び、薬剤感受性測定装置 - Google Patents

薬剤感受性測定方法、及び、薬剤感受性測定装置 Download PDF

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Description

本発明は、薬剤感受性測定方法、及び、薬剤感受性測定装置に関する。
特許文献1には、微生物の薬剤感受性を測定する方法として、「測定対象微生物および所定の薬剤を含む第1溶液中の溶存酸素量、および測定対象微生物を含むとともに、薬剤を含まない第2溶液中の溶存酸素量を、それぞれ酸素電極(1a)(2a)を用いて検出することにより薬剤感受性を測定する方法であって、両酸素電極(1a)(2a)からの出力信号を、第1の所定時間の間、第2の時間間隔で収集し、各酸素電極(1a)(2a)からの各出力信号を、その前後の所定個数の出力信号を用いて移動平均化し、移動平均化された各出力信号の時間微分値を算出し、この両時間微分値を用いて薬剤感受性を測定することを特徴とする薬剤感受性測定方法。」が記載されている。
特開2001-258592号公報
特許文献1に記載された方法によれば、微生物に対する薬剤感受性を測定できるものの、上記測定方法により測定される薬剤感受性は、微生物が生体内に存在する場合における薬剤感受性を必ずしも反映しない場合があることを、本発明者らは知見している。
そこで、本発明は、対象とする微生物がバイオフィルムを形成した状態であっても、薬剤感受性を正確に測定できる、薬剤感受性測定方法の提供を課題とする。また、本発明は、薬剤感受性測定装置を提供することも課題とする。
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
[1] 微生物と媒体とを含有する試験液と、上記試験液に接触するように配置された2つ以上の電極と、を有する電気化学セルの上記電極上において微生物を付着培養する工程と、上記試験液中に薬剤を投与し、上記電極から得られる電気化学的な応答の変化によって上記微生物の上記薬剤に対する感受性を判断するための情報を得る工程と、を有する薬剤感受性測定方法。
[2] 上記付着培養する工程が、上記微生物により上記電極上にバイオフィルムを形成させる工程である、[1]に記載の薬剤感受性測定方法。
[3] 上記微生物は、細胞外固体から直接電子を取り込む機能、及び、細胞外固体へと直接電子を与える機能からなる群より選択される少なくとも一方の機能を有する、細胞内外で電子移動が可能な特定微生物である、[1]又は[2]に記載の薬剤感受性測定方法。
[4] 上記電子移動は、発酵代謝により行われる[3]に記載の薬剤感受性測定方法。
[5] 上記応答の変化が、単位時間当たりの電流値の変化である[1]~[4]のいずれかに記載の薬剤感受性測定方法。
[6] 微生物と媒体を含有する試験液収容可能な容器、及び、上記試験液に接触するように上記容器内に配置された少なくとも2つの電極を有する付着培養部と、上記付着培養部において培養された微生物に対して薬剤を投与した際に上記電極から得られた電気化学的な応答を測定する測定部と、を有する薬剤感受性測定装置。
[7] 微生物と媒体とを含有する試験液が収容される容器内に、前記試験液と接触するように配置された、少なくとも2つの電極と電気的に接続される、付着培養部と、
上記付着培養部において培養された微生物に対して薬剤を投与した際に上記電極から得られた電気化学的な応答を測定する測定部と、を有する薬剤感受性測定装置。
[8] 微生物と媒体とを含有する試験液を、上記試験液を収容可能であって、収容された上記試験液と接するよう配置された少なくとも2つの電極を有する容器に収容することと、上記電極上で上記微生物を付着培養することと、上記試験液中に薬剤を投与し、上記電極から得られる電気化学的な応答の変化によって上記微生物の上記薬剤に対する感受性を判断するための情報を得ることと、を有する薬剤感受性測定方法。
[9] 上記付着培養が、上記微生物により上記電極上にバイオフィルムを形成させる工程である、[8]に記載の薬剤感受性測定方法。
[10] 上記微生物は、細胞外固体から直接電子を取り込む機能、及び、細胞外固体へと直接電子を与える機能からなる群より選択される少なくとも一方の機能を有する、細胞内外で電子移動が可能な特定微生物である、[8]又は[9]に記載の薬剤感受性測定方法。
[11] 上記電子移動は、発酵代謝により行われる[10]に記載の薬剤感受性測定方法。
[12] 上記応答の変化が、単位時間当たりの電流値の変化である[8]~[11]のいずれかに記載の薬剤感受性測定方法。
[13] 微生物と媒体とを含有する試験液が収容される二次元アレイ状に配置された複数のウェルごとに、上記試験液と接触するように上記ウェル内に配置された2つ以上の電極のそれぞれと電気的に接続される、付着培養部と、上記付着培養部において培養された微生物に対して薬剤を投与した際に上記電極から得られた電気化学的な応答を測定する測定部と、を有する薬剤感受性測定装置。
[14] 微生物と媒体とを含有する複数の試験液を、上記試験液を収容可能であって、収容された上記試験液と接するよう配置された少なくとも2つの電極を有する複数のウェルにそれぞれ収容することと、上記電極上で上記微生物を付着培養することと、上記試験液中に薬剤を投与し、上記電極から得られる電気化学的な応答の変化によって、上記ウェルごとに上記微生物の上記薬剤に対する感受性を判断するための情報を得ることと、を有する薬剤感受性測定方法。
本発明によれば、本発明は、対象とする微生物がバイオフィルムを形成した状態であっても、薬剤感受性を正確に測定できる、薬剤感受性測定方法、及び、薬剤感受性測定装置を提供できる。
本薬剤感受性測定方法のフローを表す図である。 培養工程において使用可能な測定装置の第1の実施形態を表す模式図である。 測定装置の機能ブロック図である。 作用電極上で付着培養された微生物の代謝反応の説明図である。 微生物が電子伝達物質を介して電極との間で電子を授受する形態の反応の説明図である。 培養工程から、それに続く薬剤投与工程における作用電極の電気化学的応答を示す説明図である。 本発明の第2の実施形態に係る測定装置のブロック図である。 本発明の第2の実施形態に係る測定装置のハードウェア構成図である。 本発明の第2の実施形態に係る薬剤感受性測定方法のフロー図である。 本発明の第3の実施形態に係る測定装置のブロック図である。 本発明の第3の実施形態に係る測定装置のハードウェア構成図である。 電極付きマルチウェルプレートの分解斜視図である。 電極付きマルチウェルプレートの平面図である。 電極付きマルチウェルプレートにおけるウェルの拡大平面図と、その裏面を表す図である。 本発明の第3の実施形態に係る薬剤感受性測定方法のフロー図である。 バイオリアクターを用いて検出された電流の経時変化である。 バイオリアクターを用いて検出された電流の経時変化である。 バイオリアクターを用いて検出された電流の経時変化である。
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
[薬剤感受性測定方法(第1の実施形態)]
本発明の第1の実施形態に係る薬剤感受性測定方法は、媒体と、上記媒体と接触するように配置された2つ以上の電極と、を有する電気化学セルの上記電極上において微生物を付着培養する工程(以下、「培養工程」ともいう。)と、上記媒体、及び、上記微生物からなる群より選択される少なくとも一方に薬剤を投与し、上記電極から得られる電気化学的な応答の変化によって上記微生物の上記薬剤に対する感受性を判断するための情報を得る工程(以下、「薬剤投与工程」ともいう。)と、を有する薬剤感受性測定方法である。
本発明者らは、特許文献1に記載された方法により測定される薬剤感受性が、生体内における対象微生物の薬剤感受性を反映しない場合がある原因について鋭意検討を続けてきた。その結果、微生物が生体内の組織等に付着して固定し、多糖類、及び、タンパク質等からなる細胞外マトリクス(バイオフィルム)を形成し、そのバイオフィルム内に存在する場合、薬剤に対する感受性が変化する(典型的には、感受性が低下する)ことにその原因があることを見出した。
すなわち、特許文献1に記載された方法等の従来の方法では、溶液中に浮遊、又は、可逆的に付着した状態の微生物に対して薬剤を投与し、その影響を評価しているため、上記の様な問題があると考えられた。
一方で、バイオフィルムを形成した状態の微生物の代謝反応の変化をバイオフィルム外から計測することは従来困難と考えられてきた。
これに対し、本発明者らは、バイオフィルムの内部に存在する微生物のエネルギー産生メカニズム(代謝反応)、特に嫌気条件下での発酵メカニズムに着目した。そこで、口腔内でバイオフィルムを形成する病原性微生物として知られるS.mutansを例に、バイオフィルム内部における微生物の代謝反応の変化を検出する方法を検討してきた。
その結果、バイオフィルム内部に微生物が存在する場合、上記微生物の代謝によって、バイオフィルム内外、及び、微生物細胞の内外において電子移動が起こることがあることを実験的に突き止めた。
より具体的には、S.mutansがバイオフィルム内で糖を代謝すると、乳酸、酢酸、及び、ギ酸等の有機酸、水素、並びに、二酸化炭素等が産生され、バイオフィルム内のpHが低下し、還元環境となる。
このような還元条件下では、NADHの酸化によるNAD+の再生が起こりにくくなるため、発酵によるエネルギー産生の最大化が妨げられる。
このとき、S.mutansは、細胞表面に存在するタンパク質を介して、細胞外へと電子を排出して、NADH/NAD+の比を制御しているものと推測される。更に、細胞内外、及び、バイオフィルム内外の電子移動にリボフラビンが寄与していることも本発明者らは実験的に確かめている。
S.mutansのような微生物のバイオフィルム内でのエネルギー代謝反応が、細胞内外、及び、バイオフィルム内外の電子移動により検出できることが本発明者らによって初めて明らかにされ、これにより着想を得て本発明は完成された。
本薬剤感受性測定方法は、電極上で微生物を付着培養し、上記微生物のエネルギー代謝等を電気化学的応答として検出し、ここに薬剤を投与することで、上記電気化学的応答の変化をもとに上記微生物の薬剤感受性を評価する点に特徴の一つがある。
図1は、本薬剤感受性測定方法のフローを表す図である。本薬剤感受性測定方法は、微生物と媒体とを含有する試験液と、上記試験液に接触するように配置された2つ以上の電極と、を有する電気化学セルの上記電極上において微生物を付着培養する工程(S01)と、上記試験液中に薬剤を投与し、上記電極から得られる電気化学的な応答の変化によって上記微生物の上記薬剤に対する感受性を判断するための情報を得る工程(S02)と、を有する薬剤感受性測定方法である。以下では、本方法の各工程について詳述する。
〔培養工程〕
培養工程は、微生物と媒体とを含有する試験液と、上記試験液と接触するように配置された2つ以上の電極と、を有する電気化学セルの上記電極上において微生物を付着培養する工程である。本工程によれば、薬剤感受性を測定する対象となる微生物を培養し、測定の準備を行うことができる。
<測定装置(第1の実施形態)>
図2は、上記工程において使用可能な測定装置の一実施形態を表す模式図である。図2において電気化学セル11は、作用電極12、対電極13、及び、参照電極14と、容器15に収容された試験液16と、を有している。各電極は試験液16と接するように配置されている。各電極は、制御装置17と電気的に接続されている。制御装置17は、各電極の間の電流値、及び、電位差のそれぞれの測定、及び、調整が可能なよう構成されており、これによって媒体の電位を制御することができる。制御装置17は典型的には、ポテンシオ/ガルバノスタット(P/Gスタット)が使用できる。
図2において、電気化学セル11は3つの電極を有しているが、本方法に使用される電気化学セルとしては上記に制限されず、少なくとも2つの電極を有していればよい。
電気化学セル11が3つの電極を有している場合、1つ以上を参照電極とし、制御装置17により上記参照電極には電流が流れないように制御することによって、電極電位をより正確に測定、及び/又は、制御することができるため、好ましい。なお、電位を設定するために必要な電極の間の電流量が予め分かっている場合には、電気化学セルが参照電極を有さなくても、電位の制御が可能である。
(電極)
上記測定装置は、作用電極12、対電極13、及び、参照電極14を有しているが、測定装置としては上記に制限されない。例えば、対電極に代えて、別の参照電極を有していてもよい。
電極の材料としては特に制限されず、公知の電極材料を用いることができる。電極材料としては、例えば、炭素、金、白金、銀、モリブデン、コバルト、ニッケル、パラジウム、及び、ルテニウム等が挙げられ、酸化インジウムスズ等であってもよく、電極用として公知の材料を用いることができる。
また、形状等についても特に制限されず、電気化学測定セル用として公知の電極が使用できる。なかでも、より少ない量の試験液(具体的には、0.001~5ml)でも好感度に検出できる点で、試験液に接する電極の面積として1cm以下であることが好ましい。
なお、参照電極としては、公知の参照電極を使用でき、例えば、銀/塩化銀電極等が使用可能である。また、対電極としては、上記の各電極と同様の材料を使用できる。
(容器)
容器15としては特に制限されず、公知の容器が使用できる。容器は絶縁性材料で構成されることが好ましく、例えば、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、及び、ポリエチレン(PE)等の熱可塑性樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、ガラス、セラミック、紙のような絶縁性材料で形成される。容器の大きさとしては特に制限されないが、使用する試料溶液の量に応じて適宜選択可能であり、0.001~100ml程度の容量であることが好ましい。
また、容器は気密に構成されていてもよい。容器が気密に構成されている場合、より好感度な測定が可能となる場合がある。容器を気密に構成する方法としては特に制限されず、公知の方法が適用できる。例えば、容器と、容器の開口部を覆う蓋部とを有する蓋つき容器を用いる方法、及び、容器をガスバリアシート等で被う方法等が挙げられる。
(試験液)
試験液は、微生物と媒体とを含有する。媒体としては特に制限されず、微生物の培養用として公知の媒体を用いることができる。媒体は液体であってもよいし、固体であってもよいが、取り扱い性により優れ、より優れた本発明の効果が得られる点で、液体が好ましく、液体としては特に制限されないが、水を含有することが好ましい。
媒体が含有してもよい他の成分としては、例えば、酸化還元物質、電解質、及び、栄養源化合物等が挙げられる。
・酸化還元物質
酸化還元物質は、作用電極、及び、対電極との間で可逆的に酸化還元反応を生じる物質であり、かつ、微生物の生育を阻害しない物質が好ましい。このような成分としては、例えば、鉄イオンが挙げられる。酸化還元物質は、電子伝達機能を有し、典型的には電子伝達物質である。
酸化還元物質としては、媒体中でより安定的に存在する点で、鉄イオンをキレート剤に配位させて用いてもよい。キレート剤としては、例えば、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、テトラエチレントリアミン(TET)、エチレンジアミン(EDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、クエン酸、シュウ酸、クラウンエーテル、ニトリロテトラ酢酸、エデト酸二ナトリウム、エデト酸ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、ペニシラミン、ペンテテートカルシウム三ナトリウム、ペンテト酸、スクシメル、及び、エデト酸トリエンチン等が挙げられる。
また、鉄イオン以外にも、フェロシアン化カリウム、アントラキノンジスル及び、ホン酸ナトリウム等のキノン化合物;メチルビオロゲン;等を用いることができる。これらの物質も酸化還元反応により、酸化体と還元体に可逆的に変化する。
媒体中にける酸化還元物質の含有量としては特に制限されないが、一般に0.001~100mmol/Lであることが好ましい。
なお、媒体は、酸化還元物質の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。媒体が、2種以上の酸化還元物質を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
・電解質
電解質としては特に制限されず、公知の電解質が使用可能である。電解質としては、例えば、塩化ナトリウム、及び、塩化カリウム等が挙げられる。
・栄養源
媒体は、微生物の生育に必要な栄養源を含有することが好ましい、このような成分としては例えば、乳酸ナトリウム、KHPO、NHCl、MgCl、及び、カザミノ酸等が挙げられる。
・微生物
試験液が含有する微生物は薬剤感受性の測定を行う対象となる微生物であり、その種類としては特に制限されない。また、試験液が含有する微生物は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
試験液としては、例えば、Streptococcus mutans、及び、Streptococcus sanguinis等の連鎖球菌属(Streptococcus);Porphyromonas gingivalis等のポルフィロモナス属(Porphyromonas);Aggregatibacter actinomycetemcomitans等のアグリゲイティバクター属(Aggregatibacter);Geobacter metallireducens、Geobacter sulfurreducens、Geobacter lovleyi等のゲオ(ジオ)バクタ―属菌;Shewanella oneidensis MR-1等のShewanella属菌;デスルフォビブリオ(Desulfovibrio )属菌;Acidithiobacillus ferrooxidans等のAcidithiobacillus(アシドチオバシラス)属菌;Clostridium pasteurianum菌等のClostridium属菌;等の細菌が挙げられる。
また、Corynebacterium属、Mycobacterium属、Enterococcus属、Staphylococcus属、Streptococcus属、Peptostreptococcus属、Listeria属、Clostridium属、Mycoplasma属、Brucella属、Neisseria属、Alcaligenes属、Bordetella属、Legionella属、Acinetobacter属、Pseudomonas属、Escherichia属、Budvicia属、Buttiauxella属、Cedecea属、Citrobacter属、Edwardsiella属、Enterobacter属、Erwinia属、Ewingella属、Hafnia属、Klebsiella属、Kluyvera属、Leclercia属、Leminorella属、Moellerella属、Morganella属、Obesumbacterium属、Pantoea属、Pragia属、Proteus属、Providencia属、Rahnella属、Salmonella属、Serratia属、Tatumella属、Trabulsiella属、Xenorhabdus属、Yersinia属、Yokenella属、Vibrio属、Campylobacter属、Helicobacter属、Bacteroides属、Leptospira属、Haemophilus属、その他クラミジア等が挙げられる。
真菌類としては、例えば、Cryptococcus属、Candida属等の酵母様真菌、Aspergillus属等の糸状菌等が挙げられる。
なお、培養液は、特定微生物の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。
(機能)
図3は、上記測定装置の機能ブロック図である。測定装置20において、試験液を収容可能な容器、作用電極、対電極、及び、参照電極から構成される付着培養部21は、制御装置17内に配置された基板を介して、基板上に配置された制御部22と電気的に接続されている。
調整部23は、制御部22により制御され、付着培養部21の各電極間の電位、及び、電流を調整する。また、電気化学的な応答(電流値、及び、電位)は、制御部22に制御された測定部24によって測定される。
制御部22はプロセッサである。例えば、制御部22は、中央演算装置(CPU)、マイクロプロセッサ、プロセッサコア、マルチプロセッサ、ASIC(application-specific integrated circuit)、及び、FPGA(field programmable gate array)等が挙げられるが、上記に限定されない。
制御部22は、記憶部25に記憶されているプログラムを読み出し、このプログラムに従って、調整部23、測定部24、及び、記憶部25を制御し、並びに、所定の演算処理を実施する。
また、制御部22は、プログラムに従った演算結果を、記憶部25に適宜書き込んだり読み出したりすることができる。
記憶部25のストレージ機能は、例えばHDD(ハードディスクドライブ)及びSSD(ソリッドステートドライブ)といった不揮発性メモリによって実現される。また、記憶部25は、制御部22による演算処理の途中経過等を書き込む又は読み出すためのメモリとしての機能を有していてもよい。記憶部のメモリ機能は,RAM(ランダムアクセスメモリー)やDRAM(ダイナミックランダムアクセスメモリー)といった揮発性メモリにより実現される。
上記付着培養部で測定対象となる微生物を培養し、作用電極の電位を調整し、電子を受け取ることが可能な条件に制御すると、作用電極の電流値によって微生物の代謝反応を検出することができる。
図4は、作用電極12上で付着培養された微生物の代謝反応の説明図である。作用電極12上に付着した微生物31は、バイオフィルム33を形成し、細胞外膜に存在するタンパク質32を介して作用電極12へと電子を放出する。この電子移動を電流値として検出することにより、バイオフィルム内における微生物31の代謝反応を検出することができる。
なお、図3においてはバイオフィルム33内に、微生物31の細胞が1つ記載されているが、上記は模式図であり、バイオフィルム33内では、一般的には、微生物31を含むコロニーが形成されている。
また、図4においては、微生物31から作用電極12に電子が移動しているが、微生物31の種類、及び、電極の条件によっては、代謝反応によって作用電極12から微生物31への電子移動が起きることもあり、上記を検出する形態であってもよい。
また、図4は細胞外固体である電極に直接電子移動する形態であるが、本方法は、図5に示したとおり、微生物が電子伝達物質41、及び、42を介して電極との間で電子を授受する形態の反応も検出可能である。なお電子伝達物質41、及び、42としては例えば、リボフラビン等が挙げられる。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する点で、微生物としては、細胞外固体から直接電子を取り込む機能、及び、細胞外固体へと直接電子を与える機能からなる群より選択される少なくとも一方の機能を有する、細胞内外で電子移動が可能な特定微生物であることが好ましい。
このような特定微生物としては特に制限されないが、例えば、鉄還元細菌、及び、鉄酸化細菌等が挙げられる。より具体的には、Geobacter metallireducens、Geobacter sulfurreducens、Geobacter lovleyi等のゲオ(ジオ)バクタ―属菌;Shewanella oneidensis MR-1等のShewanella属菌;デスルフォビブリオ(Desulfovibrio )属菌;Acidithiobacillus ferrooxidans等のAcidithiobacillus(アシドチオバシラス)属菌;Clostridium pasteurianum菌等のClostridium属菌;等が挙げられる。
また、上記電子移動が発酵代謝により行われることもより好ましい。微生物(特に細菌)は一般的に、「呼吸」と「発酵」という代謝反応によって有機物を分解してエネルギーを得ることが知られている。有機物を分解する際に、電子(還元力)が生じ、呼吸代謝では、この電子を細胞外の物質に渡してエネルギーを得ているのに対し、発酵では細胞外への電子の移動は原則としてなく、これまで、上記の電子移動の機能を有する菌は発酵は行わないと考えられてきた。
しかし、本発明者らの検討により、上記の機能を有する菌、特に病原性細菌が発酵による電子移動を行うことができることを見出した。発酵による電子移動は、呼吸による電子移動と比較して、細胞内における余剰の電子を電極に渡すものであると推測される。
上記の微生物は、生体内においても同様の代謝を行っていると考えられる。本発明の実施形態に係る薬剤感受性測定方法は、電極間の電位差等を調整することで、対象となる菌(特に病原性細菌)の代謝を目的に応じて制御できる。例えば、生体内の環境に近づけ、より発酵を優勢にする制御が可能な点で、病原性細菌に対する薬剤の感受性をより正確に評価できる点で好ましい。
また、本工程において行われる付着培養は、対象とする微生物により電極上にバイオフィルムを形成する工程であることが好ましい。上記微生物は、体内においてバイオフィルムを形成し、その内部にて病原性を発揮することがあることを本発明者らは明らかにしている。
電極上にバイオフィルムが形成させる方法としては特に制限されず、公知の培養方法を使用可能であり、バイオフィルムの形成状況は、得られる電気化学的な応答(例えば、得られる電流値が定常状態となること)により検知できる。
〔薬剤投与工程〕
薬剤投与工程は、試験液中に薬剤を投与し、上記電極から得られる電気化学的な応答の変化によって上記微生物の上記薬剤に対する感受性を判断するための情報を得る工程である。
図6は、すでに説明した培養工程から、それに続く薬剤投与工程における作用電極の電気化学的応答を示す説明図である。
図6において、横軸は、時間、縦軸は作用電極の電流値を示している。
すでに説明した培養工程において、電気化学セルに微生物が加えられる(T1)。電気化学セルに微生物を加える方法としては特に制限されないが、液体培地を用いて微生物を予備的に培養し、上記により得られた培養液を電気化学セルの媒体に添加する方法等が挙げられる。
電気化学セルに添加された微生物は浮遊状態、又は、可逆的な付着状態で、増殖する。このとき、作用電極の電流値は漸増する。
次に、一定時間が経過すると、作用電極の電流値が略一定となり変化が小さくなる(図6中、「P1」で示した領域)。これは、微生物が作用電極に付着して固定し、コロニーを形成し、その後、多糖類、及び、タンパク質等から構成されるバイオフィルム形成して恒常性を保った形態となったことを示すと考えられる。
薬剤投与工程は、上記「P1」の領域にある際に実施することが好ましい。すなわち、電気化学的な応答が時間に対して略一定となった際に薬剤を投与することが好ましい。このようにすることで、微生物がバイオフィルムを形成した状態における薬剤感受性をより正確に測定することができる。
薬剤を試験液中に投与する方法としては特に制限されないが、試験液に薬剤を直接投与するか、又は、薬剤を予め他の媒体に溶解、又は、分散し、得られた溶液、又は、分散液を試験液中に投与する方法が挙げられる。
薬剤が投与され、投与された薬剤が微生物の活性に影響を与えるかは、典型的には、T2後の電流値の変化の傾向から評価することができる。
投与された薬剤が微生物の活性に与える影響が小さい場合、電流値はほとんど変化せず、(B)となる。一方で、投与された薬剤が微生物の活性に何らかの影響を与える場合、応答は電流値が増加する(A)、又は、電流値が低下する(C)となる。
上記電気化学的な応答の変化から、微生物の薬剤に対する感受性を判断するための情報を得る方法としては特に制限されないが、例えば、電流値の変化量、時間の一階微分値、時間の二階微分値、最大(最小)電流値、最大(最小)電流値に至るまでの時間、及び、電流値の立ち上がり方等の情報を抽出すればよい。上記の情報を例えば、異なる薬剤(例えば、対照とする薬剤)の間で比較すれば、相対的な薬剤感受性を判断することができる。
なかでも、より正確な結果が得られる点で、応答の変化を単位時間当たりの電流値の変化として、微生物の薬剤に対する感受性を判断するための情報を得ることが好ましい。
また、微生物の薬剤に対する感受性を判断するための情報は上記測定結果と他の方法による測定結果とを組み合わせたものであってもよい。他の方法による測定結果としては、例えば、媒体中の生菌を蛍光標識して顕微鏡で観察した結果等が挙げられる。
[測定装置(第2の実施形態)]
本発明の第2の実施形態に係る薬剤感受性測定装置は、微生物と媒体とを含有する試験液が収容される容器に、前記試験液と接触するように配置された、少なくとも2つの電極と電気的に接続される、付着培養部と、上記付着培養部において培養された微生物に対して薬剤を投与した際に上記電極から得られた電気化学的な応答を測定する測定部と、を有する薬剤感受性測定装置である。
図7は、上記実施形態に係る測定装置のブロック図であり、図8は上記測定装置のハードウェア構成図である。
図7に示す測定装置70は、付着培養部71と、制御部72と、調整部73と、測定部74と、記憶部75と、表示装置76aと、入力装置76bと、で構成されている。ユーザーは、表示装置76aに表示される内容に従って入力装置76bを操作することによって、薬剤感受性測定の開始、終了、及び、結果の閲覧等ができる。
付着培養部71は、容器80に配置された作用電極WE(77)、参照電極RE(78)、及び、対電極CE(79)と電気的に接続可能に構成されている。容器80には微生物と媒体とを含有する試験液が収容可能であり、作用電極WE(77)、参照電極RE(78)、及び、対電極CE(79)は上記試験液と接触するように配置されている。
なお、電極付き容器81は、作用電極77と、参照電極78と、対電極79とを有しているが、本実施形態に係る測定装置に用いる電極付き容器81としては上記に制限されず、2つ以上の電極を有していればよい。
測定部74は、付着培養部71と電気的に接続され、制御部72により制御され、作用電極77と、参照電極78と、対電極79とを制御して、試験液の電気化学的な応答を測定できる。
また、調整部73は、制御部72により制御され、付着培養部71の各電極間の電位、及び、電流を調整する。
図8のハードウェア構成図に示したとおり、制御部72は、プロセッサ72a、及び、記憶装置72bとを有しており、調整部73は、記憶装置72bに格納されたプログラムと、プロセッサ72aに対応している。また、測定部74は、制御部72により制御される。付着培養部71は、電極付き容器80が有する電極と接続可能な端子を有し、電極付き容器80と付着培養部71とは測定時には電気的に接続される。電極付き容器80は、付着培養部71と着脱可能に構成されており、試料液ごとに新たな電極付き容器80に取り替えて使用してもよい。
プロセッサ72aは、中央演算装置(CPU)、マイクロプロセッサ、プロセッサコア、マルチプロセッサ、ASIC(application-specific integrated circuit)、FPGA(field programmable gate array)、及び、GPU(Graphics Processing Unit)等が挙げられるが、上記に限定されない。
プロセッサ72aは、記憶装置72bに記憶されているプログラムを読み出し、このプログラムに従って、各部を制御し、また、所定の演算処理を実施することができる。
また、プロセッサ72aは、プログラムに従った演算結果を、記憶装置72bに適宜書き込んだり読み出したりすることができる。
記憶装置72bのストレージ機能は、例えばHDD(ハードディスクドライブ)及びSSD(ソリッドステートドライブ)といった不揮発性メモリによって実現される。また、記憶装置72bは、プロセッサ72aによる演算処理の途中経過等を書き込む又は読み出すためのメモリとしての機能を有していてもよい。記憶装置72bのメモリ機能は、RAM(ランダムアクセスメモリー)やDRAM(ダイナミックランダムアクセスメモリー)といった揮発性メモリにより実現される。典型的には、プロセッサ72a、及び、記憶装置72bはコンピュータを構成している。
なお、表示装置76a、入力装置76b、及び、制御部72は、タブレット端末であってもよい。タブレット端末は測定部74、付着培養部71と有線接続されていてもよいし、近距離無線通信によって相互に通信可能に構成されていてもよい。
上記測定装置70によれば、電極付き容器80を試験液ごとに交換することができるため、試料液間のコンタミネーションを防止することができ、より正確に薬剤感受性を測定することができる。
<薬剤感受性測定方法(第2の実施形態)>
本発明の第2の実施形態に係る薬剤感受性測定方法は、微生物と媒体とを含有する試験液を、上記試験液を収容可能であって、収容された上記試験液と接するよう配置された少なくとも2つの電極を有する容器に収容することと(収容工程)、上記電極上で上記微生物を付着培養することと(付着培養工程)、上記試験液中に薬剤を投与し、上記電極から得られる電気化学的な応答の変化によって上記微生物の上記薬剤に対する感受性を判断するための情報を得ること(薬剤投与工程)と、を有する薬剤感受性測定方法である。
図9は本実施形態に係る薬剤感受性の測定方法のフロー図である。まず、薬剤感受性を測定する対象となる微生物と媒体とを含有する試験液が準備され、上記試験液が電極付き容器80に収容される(収容工程;S901)。試験液の収容はユーザー操作によって行われてもよく、自動分注装置等によって行われてもよい。試験液が収容された電極付き容器80の各電極は付着培養部71と電気的に接続される。
なお、媒体の成分、及び、対象となる微生物等についてはすでに説明したとおりである。
次に、電極上において微生物が付着培養される(培養工程;S902)。容器に収容された試験液中の微生物は浮遊状態、又は、可逆的な付着状態で増殖する。その後、電極(例えば、作用電極)に付着して固定し、コロニーを形成し、更に、バイオフィルムを形成して恒常性を保った形態となる。付着培養の方法としては特に制限されず公知の方法が使用できる。例えば、電極間の電位差を所定の値に保持する方法等が挙げられる。付着培養が進んでいるか否かは、すでに説明したとおり、試験液の電気化学的応答等により確認できる。
次に、試験液中に薬剤が投与され、電極から得られる電気化学的な応答の変化によって、微生物の薬剤に対する感受性を判断するための情報を得ることができる(薬剤投与工程;S903)。上記情報については図6等によってすでに説明したとおりである。
[測定装置(第3の実施形態)]
本発明の第3のの実施形態に係る測定装置は、微生物と媒体とを含有する試験液が収容される二次元アレイ状に配置された複数のウェルごとに、上記試験液と接触するように上記ウェル内に配置された2つ以上の電極のそれぞれと電気的に接続される付着培養部と、上記付着培養部において培養された微生物に対して薬剤を投与した際に上記電極から得られた電気化学的な応答を測定する測定部と、を有する薬剤感受性測定装置である。
図10は、上記実施形態に係る測定装置90のブロック図であり、図11は上記測定装置のハードウェア構成図である。
図10に示す測定装置90は、付着培養部91と、制御部92と、調整部93と、測定部94と、記憶部95と、表示装置96aと、入力装置96bと、で構成されている。ユーザーは、表示装置96aに表示される内容に従って入力装置96bを操作することによって、薬剤感受性測定の開始、終了、及び、結果の閲覧等ができる。
付着培養部91は、電極付きマルチウェルプレート120と電気的に接続可能に構成され、測定時には電気的に接続される。電極付きマルチウェルプレート120は、試験液を収容可能な96個のウェル100-1~ウェル100-96を有している。ウェル100-1~ウェル100-96は、その底部に、作用電極WE(97-1~97-96)、参照電極RE(98-1~98-96)、及び、対電極CE(99-1~99-96)をそれぞれ有しており、ウェルごとに収容される試験液と接触するように配置されている。
付着培養部91は、電極付きマルチウェルプレート120内に配置された作用電極WE(97-1~97-96)、参照電極RE(98-1~98-96)、及び、対電極CE(99-1~99-96)とウェルごとに電気的に接続可能に構成されている。
なお、電極付き容器80は、作用電極77と、参照電極78と、対電極79とを有しているが、本実施形態に係る測定装置に用いる電極付き容器80としては上記に制限されず、各ウェルに2つ以上の電極を有していればよい。
測定部94は、付着培養部91と電気的に接続され、制御部92により制御され、作用電極97-1~97-96と、参照電極98-1~98-96と、対電極99-1~99-96とを制御して、ウェル100-1~100-96の試験液の電気化学的な応答をウェル毎に測定できる。
また、調整部93は、制御部92により制御され、付着培養部91の各電極間の電位、及び、電流を調整する。
図11のハードウェア構成図に示したとおり、制御部92は、プロセッサ92a、及び、記憶装置92bとを有しており、調整部93は、記憶装置92bに格納されたプログラムと、プロセッサ92aに対応している。また、測定部94は、制御部92により制御される。付着培養部91は、電極付きマルチウェルプレート120が有する各電極と個別に接続可能な端子を有し、電極付きマルチウェルプレート120と付着培養部91とは測定時には電気的に接続される。電極付きマルチウェルプレート120は、付着培養部91と着脱可能に構成されており、試料液ごとに新たな電極付きマルチウェルプレート120に取り替えて使用してもよい。なお、各ハードウェアの具体例はすでに説明したのと同様である。
図12は、電極付きマルチウェルプレートの分解斜視図であり、図13は、電極付きマルチウェルプレートの平面図である。電極付きマルチウェルプレート120は、プレート上部121と、プレート底部128とから構成されている。
プレート上部121は、上部基材122、外壁123、上部表面124(図13参照)、内面125を有する壁126によって構成されている。マルチウェルプレート120のプレート上部121は円筒状の貫通孔Hを有し、貫通孔Hの側面は壁126の内面125で画定される。プレート上部121は、プレート上部121とともにウェル127を画定するプレート底部128と組み合わされている。
プレート底部128は、下部基板129と、下部基板129上に配置された作用電極130、対電極131、及び、参照電極132とを有しており、プレート上部121と組み合わされることで、貫通孔Hの一方の開口が塞がれ、その結果、上部に開口を有する円筒状のウェル127が画定される。
電極付きマルチウェルプレート120は、96個のウェルを有するマルチウェルプレートとして構成されているが、本装置に用いられるマルチウェルプレートが有するウェルの個数は上記に制限されず、例えば、1個、6個、24個、96個、384個、1536個、6144個、及び、9600個等であってもよい。また、各ウェルの体積は、10nL~10mLの範囲であることが好ましい。
図13に示したとおり、ウェル127は、内面125を有する壁126、作用電極130、対電極131、及び、参照電極132を有する。図12に示すように、壁126の内面125によって円筒形の体積が画定される。この円筒形の部分に試料溶液が収容される。対電極131は、この円筒形体積の底部で、内面125と円形の作用電極130との間の環状の領域内に延びている。
図14は、ウェルの拡大平面図と、その裏面を示す図である。作用電極130、対電極131、及び、参照電極132は、ウェル内のプレート底部に設けられたビアホールによって、作用電極、対電極、及び、参照電極のそれぞれに対応する裏面の配線141、142、143とそれぞれ接続されており、裏面の各配線は、接続端子144、145、146を有している。
付着培養部91は、ウェルごとに配置された電極のそれぞれの接続端子と一対一で対応する端子を有しており、上記端子により付着培養部91と接続され、ウェル毎の電気化学測定を実施できる。
プレートの材料としては特に制限されないが、ポリエチレン、セルロースアセテート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリイミド、及び、ポリスチレン等の樹脂が好ましい。
電極、配線、及び、接続端子の材料としては特に制限されないが、白金、金、ITO(酸化インジウムスズ)、炭素、及び、導電性高分子等を用いることができる。
本実施形態に係る測定装置は、複数のウェルを有する電極付きマルチウェルプレートを用いて測定できるため、多くの微生物の薬剤感受性をより簡便に測定することができる。また、多くの条件(薬剤の種類、及び、添加量等)における薬剤感受性をより簡便に測定することもできる。
<薬剤感受性測定方法(第3の実施形態)>
本発明の第3の実施形態に係る薬剤感受性測定方法は、微生物と媒体とを含有する複数の試験液を、上記試験液を収容可能であって、収容された上記試験液と接するよう配置された少なくとも2つの電極を有する複数のウェルにそれぞれ収容することと、上記電極上で上記微生物を付着培養することと、上記試験液中に薬剤を投与し、上記電極から得られる電気化学的な応答の変化によって、上記ウェルごとに上記微生物の上記薬剤に対する感受性を判断するための情報を得ることと、を有する薬剤感受性測定方法である。
図15は、本実施形態に係る薬剤感受性測定方法のフロー図である。まず、薬剤感受性を測定する対象となる微生物と媒体とを含有する試験液が複数準備され、上記試験液が電極付きマルチウェルプレート120の各ウェルにそれぞれ収容される(収容工程;S1501)。試験液の収容はユーザー操作によって行われてもよく、自動分注装置等によって行われてもよい。試験液が収容された電極付きマルチウェルプレート120の各電極は付着培養部91と電気的に接続される。
なお、媒体の成分、及び、対象となる微生物等についてはすでに説明したとおりである。
次に、各ウェルごとに電極上において微生物が付着培養される(培養工程;S902)。容器に収容された試験液中の微生物は浮遊状態、又は、可逆的な付着状態で増殖する。その後、電極(例えば、作用電極)に付着して固定し、コロニーを形成し、更に、バイオフィルムを形成して恒常性を保った形態となる。付着培養の方法としては特に制限されず公知の方法が使用できる。例えば、電極間の電位差を所定の値に保持する方法等が挙げられる。付着培養が進んでいるか否かは、すでに説明したとおり、試験液の電気化学的応答等により確認できる。
次に、試験液中に薬剤が投与され、電極から得られる電気化学的な応答の変化によって、各ウェルごとに微生物の薬剤に対する感受性を判断するための情報を得ることができる(薬剤投与工程;S903)。上記情報については図6等によってすでに説明したとおりである。
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
・培地組成(1リットル中)
NaHCO: 2.5g
CaCl +2HO: 0.08g
NHCl: 1g
MgCl 6HO: 0.2g
NaCl: 10g
HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid): 1.2g
Yeast extract: 0.5g
[実施例1]
Streptococcus mutans UA159を上記培地中、37℃で24時間嫌気的に増殖させた。次に、増殖させた細菌を回収し、2000gで10分間、遠心分離し2回洗浄した。
次に、底部にITO製の作用電極、中央に参照電極(飽和KCl中のAg/AgCl)、及び、白金製の対電極を配置したバイオリアクター(電気化学セルに対応する)であって、シリコーンシートで気密に構成されたバイオリアクターを準備した。
次に、4.5mLの上記培地をバイオリアクターに満たし、200μL、又は、100μLのグルコース250mMを上記培地と混合し、15分間Nバブリングすることによって空気を除去した。
作用電極上に0.2Vを連続的に印加し、得られた電流をいわゆるクロノアンペロメトリー測定として記録するように、作用電極、参照電極、及び、対電極をポテンシオスタット(ref)に接続し、バイオリアクターを37℃でインキュベートした。
次に、記録された電流を安定化させた後、上記培地中で洗浄したS.mutansを0.1 ODunit(ODはOptical Densityの略語である。λ=600nm)の終濃度で上記バイオリアクターに添加した。
図16には、上記の様にして調整したバイオリアクターを用いて検出された電流の経時変化を示した。図16において、横軸は時間(h)を表し、縦軸は電流値(μA)を示している。図16から、電流値は、当初(15~20時間まで)増大し、その後、略一定となった(~145時間)。なお、上記は培養工程に対応する。
図16に戻り、次に、培養開始6日経過後、終濃度20%のエタノールを添加(図16中の矢印の時点)したところ、電流値はベースラインまで下降した。上記の結果から、所定の濃度のエタノールがバイオフィルムを形成した状態のS.mutansの活性に影響を与える(本実施例においては死滅したと考えらえる)ことが確認された。すなわち、上記は本発明の測定方法における薬剤投与工程に対応する。
[実施例2]
実施例1と同様の方法により調整したバイオリアクターを用いて、S.mutansのアンピシリンに対する感受性を調べた。アンピシリンは、細胞壁形成を阻害することによって細菌の増殖を抑制することが知られている。
アンピシリンは、アンピシリンナトリウム粉末(Wako 016-23301)からアンピシリンナトリウム0.1g/Lの母液を調製し、上記母液の80μLをバイオリアクターに約1.6μg/mLの終濃度で加えた。結果は図17に示した。
図17の結果から、アンピシリンを添加(図17中の矢印の時点)したところ、電流値が経時的に低下することがわかった。しかし、実施例2の条件(添加量等)では電流値がベースラインまでは低下しないこともわかった。
本発明者らは顕微鏡(共焦点顕微鏡)観察によって、アンピシリン添加後の培養液中にStreptococcus mutans UA159の生菌が存在していることを確認しており、本方法によれば、薬剤感受性の定量評価も可能であることがわかった。
[実施例3]
実施例2と同様の方法により調整したバイオリアクターを用いて、S.mutansのトリクロサンに対する感受性を調べた。トリクロサンは0.03mmol/L、すなわち8.67μg/mLで使用された。まず、10%メタノール水溶液10mLにトリクロサン8.67mgを溶解させ母液を調製した。次に、0.003mmol/Lの終濃度となるよう、上記母液の5μLをバイオリアクターに添加(図18中、左側の矢印の時点)し、3時間の反応を観察した。次に、0.03mmol/Lの終濃度となるよう、上記母液の45μLをバイオリアクターに添加(図18中、右側の矢印)した。結果は図18に示した。
図18の結果から、トリクロサンを添加したことで、電流値が低下することがわかった。また、実施例2の結果と比較すると、実施例3ではベースライン付近まで電流値が低下していることがわかった。トリクロサンは、アンピシリンと異なる機序(解糖作用の阻害)により細菌類に影響することが知られている。上記の結果から、本発明の薬剤感受性測定方法によれば、電気化学的な応答、
具体的には図16~18で示した応答の違いによって、薬剤の作用機序等に由来する感受性の差を評価するための情報が得られることがわかった。
11:電気化学セル
12、77、130:作用電極
13、79、131:対電極
14、78、132:参照電極
15、76:容器
16:試験液
17:制御装置
20、70、90:測定装置
21、71、91:付着培養部
22、72、92:制御部
23、73、93:調整部
24、74、94:測定部
25、75、95:記憶部
80:容器
81:電極付き容器
120:電極付きマルチウェルプレート
121:プレート上部
122:上部基材
123:外壁
124:上部表面
125:内面
126:壁
127:ウェル
128:プレート底部
129:下部基板
141、142、143:配線
144、145、146:接続端子

Claims (7)

  1. 微生物の薬剤感受性測定方法であって、
    前記微生物媒体、及び、前記微生物の発酵代謝によって分解される有機物を含有する試験液と、前記試験液に接触するように配置された2つ以上の電極と、を有する電気化学セルの前記電極上において前記微生物を付着培養する工程と、
    前記電極に連続的に電位を印加して、前記微生物内部における前記有機物の発酵代謝による細胞内外での電子移動を、前記電極から単位時間当たりの電流値として検出し、前記試験液中に、前記微生物を死滅させる、及び/又は、微生物の増殖を抑制する薬剤を投与して、前記電流値低下量によって前記微生物の前記薬剤に対する感受性を判断するための情報を得る工程と、を有する薬剤感受性測定方法。
  2. 前記付着培養する工程が、前記微生物により前記電極上にバイオフィルムを形成させる工程である、請求項1に記載の薬剤感受性測定方法。
  3. 前記微生物は、細胞外固体から直接電子を取り込む機能、及び、細胞外固体へと直接電子を与える機能からなる群より選択される少なくとも一方の機能を有する、細胞内外で電子移動が可能な特定微生物である、請求項1又は2に記載の薬剤感受性測定方法。
  4. 微生物の薬剤感受性測定方法であって、
    前記微生物媒体、及び前記微生物の発酵代謝によって分解される有機物を含有する試験液を、
    前記試験液を収容可能であって、収容された前記試験液と接するよう配置された少なくとも2つの電極を有する容器に収容することと、
    前記電極上で前記微生物を付着培養することと、
    前記電極に連続的に電位を印加して、前記微生物内部における前記有機物の発酵代謝による細胞内外での電子移動を、前記電極から単位時間当たりの電流値として検出し、前記試験液中に、前記微生物を死滅させる、及び/又は、微生物の増殖を抑制する薬剤を投与して、前記電流値低下量によって前記微生物の前記薬剤に対する感受性を判断するための情報を得ることと、を有する薬剤感受性測定方法。
  5. 前記付着培養が、前記微生物により前記電極上にバイオフィルムを形成させる工程である、請求項に記載の薬剤感受性測定方法。
  6. 前記微生物は、細胞外固体から直接電子を取り込む機能、及び、細胞外固体へと直接電子を与える機能からなる群より選択される少なくとも一方の機能を有する、細胞内外で電子移動が可能な特定微生物である、請求項4又は5に記載の薬剤感受性測定方法。
  7. 微生物の薬剤感受性測定方法であって、
    前記微生物媒体、及び前記微生物の発酵代謝によって分解される有機物を含有する複数の試験液を、
    前記複数の試験液をそれぞれ収容可能であって、収容された前記複数の試験液と接するよう配置された少なくとも2つの電極を有する複数のウェルにそれぞれ収容することと、
    前記電極上で前記微生物を付着培養することと、
    前記電極に連続的に電位を印加して、前記微生物内部における前記有機物の発酵代謝による細胞内外での電子移動を、前記電極から単位時間当たりの電流値として検出し、前記試験液中に、前記微生物を死滅させる、及び/又は、微生物の増殖を抑制する薬剤を投与して、前記電流値低下量によって、前記複数のウェルのそれぞれについて前記微生物の前記薬剤に対する感受性を判断するための情報を得ることと、を有する薬剤感受性測定方法。
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