以下、図面を参照して、実施形態に係る超音波診断装置、信号処理方法、及び信号処理プログラムを説明する。なお、実施形態は、以下の実施形態に限られるものではない。また、一つの実施形態に記載した内容は、原則として他の実施形態にも同様に適用される。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置1の構成例を示すブロック図である。図1に示すように、第1の実施形態に係る超音波診断装置1は、装置本体100、超音波プローブ101、入力インタフェース102、及びディスプレイ103を備える。超音波プローブ101、入力インタフェース102、及びディスプレイ103は、装置本体100と通信可能に接続される。
超音波プローブ101は、被検体Pの体表面に接触され、超音波の送受信(超音波走査)を行う。例えば、超音波プローブ101は、所定方向に1次元で配列された複数の圧電振動子(振動子とも呼ばれる)を有する1Dアレイプローブ(探触子)である。これら複数の圧電振動子は、後述する装置本体100が有する送信回路130から供給される駆動信号に基づいて、超音波を発生させる。発生した超音波は、被検体内の音響インピーダンスの不整合面で反射され、組織内の散乱体によって散乱された成分等を含む反射波信号として複数の圧電振動子にて受信される。超音波プローブ101は、複数の圧電振動子にて受信した反射波信号を、受信回路140へ送る。
超音波プローブ101は、ケーブルを介して装置本体100に接続される。超音波プローブ101としては、セクタ走査対応、リニア走査対応、コンベックス走査対応などがあり、診断部位に応じて任意に選択される。
なお、本実施形態では、超音波プローブ101として1Dアレイプローブを用いる場合を説明するが、これに限定されるものではない。例えば、超音波プローブ101としては、複数の圧電振動子が格子状に2次元で配置された2Dアレイプローブや、1次元で配列された複数の圧電振動子が機械的に揺動することで3次元領域を走査するメカニカル4Dプローブなど、如何なる形態の超音波プローブが用いられてもよい。
入力インタフェース102は、マウス、キーボード、ボタン、パネルスイッチ、タッチコマンドスクリーン、フットスイッチ、トラックボール、ジョイスティック等を有し、超音波診断装置1の操作者からの各種設定要求を受け付け、装置本体100に対して受け付けた各種設定要求を転送する。
ディスプレイ103は、超音波診断装置1の操作者が入力インタフェース102を用いて各種設定要求を入力するためのGUI(Graphical User Interface)を表示したり、装置本体100において生成された超音波画像データ等を表示したりする。
装置本体100は、超音波プローブ101が受信した反射波信号に基づいて、超音波画像データを生成する装置である。図1に示すように、装置本体100は、例えば、制御回路110、電源回路120、送信回路130、受信回路140、信号処理回路150、画像処理回路160、及び記憶回路170を有する。制御回路110、電源回路120、送信回路130、受信回路140、信号処理回路150、画像処理回路160、及び記憶回路170は、互いに通信可能に接続される。
制御回路110は、超音波診断装置1の処理全体を制御するプロセッサである。具体的には、制御回路110は、入力インタフェース102を介して操作者から入力された各種設定要求や、記憶回路170から読み込んだ各種制御プログラム及び各種データに基づいて、電源回路120、送信回路130、受信回路140、信号処理回路150、及び画像処理回路160等の処理を制御する。また、制御回路110は、記憶回路170が記憶する超音波画像データをディスプレイ103に表示させる。
例えば、制御回路110は、送信制御回路111及びクロック制御回路112を備える。送信制御回路111は、入力インタフェース102を介して操作者によって設定された送信条件などに基づいて、超音波パルスの繰り返し周波数(PRF:pulse repetition frequency)を決定する。
クロック制御回路112は、送信制御回路111によって決定されたPRFに従う、送信パルスの送信タイミングを示すクロック信号(以下、「送信クロック信号」と表記する)に基づいて送信パルスを繰り返し送信させるように送信回路130を制御する。クロック制御回路112は、後述するスイッチング電源回路122のスイッチング動作のタイミングを示すクロック信号(以下、「電源クロック信号」と表記する)が、送信クロック信号に位相同期するように電源回路120を制御する。例えば、クロック制御回路112は、電源クロック信号の初期位相が送信クロック信号に同期するように電源回路120を制御する。なお、制御回路110は、送信回路130に超音波パルスを繰り返し送信させる制御を行うとともに、スイッチング電源回路122のスイッチング動作のタイミングを、超音波パルスのタイミングに同期させる制御を行う「制御部」の一例である。
電源回路120は、装置本体100内部の各部へ電源を供給する装置である。例えば、電源回路120は、電源クロック発生回路121及びスイッチング電源回路(DC-DC等価回路)122を備える。なお、電源回路120は、送信回路130に電源を供給する「電源部」の一例である。
電源クロック発生回路121は、クロック制御回路112の制御の下、電源クロック信号を発生する。つまり、電源クロック発生回路121は、電源クロック信号を発生し、スイッチング電源回路122のトランジスタなどのスイッチング素子をスイッチング(ON/OFF)することにより、所望の電圧を発生させる。
なお、電源クロック発生回路121は、プリント基板上のオンボード電源であるスイッチング電源回路122のスイッチング素子をスイッチングする場合に限定されるものではない。電源クロック発生回路121は、PSU(Power Supply Unit)を構成するAC-DC回路やDC-DC回路のスイッチング素子をスイッチングする場合であってもよい。
スイッチング電源回路122は、制御回路110、送信回路130、受信回路140、信号処理回路150、画像処理回路160、及び記憶回路170のうち少なくとも一つに対する駆動電圧を発生する。また、スイッチング電源回路122は、超音波プローブ101、入力インタフェース102、及びディスプレイ103のうち少なくとも一つに対する駆動電圧を発生してもよい。なお、スイッチング電源回路122が、制御回路110、送信回路130、受信回路140、信号処理回路150、画像処理回路160、及び記憶回路170に対する駆動電圧を発生する場合、それら構成部材のそれぞれに対して異なる駆動電圧を発生する複数のスイッチング電源回路122が接続されてもよい。また、スイッチング電源回路122は、超音波診断装置1の構成要素各部における基板に実装されてもよい。
図2は、第1の実施形態に係るスイッチング電源回路122の構造例を示す図である。図2に示すように、スイッチング電源回路122は、入力コンデンサ122A、トランジスタ122B、ダイオード122C、パワーインダクタ122D、及び出力(平滑)コンデンサ122Eを備える。スイッチング電源回路122は、図示しないAC-DCコンバータ回路から直流電流が入力される(直流入力)。
トランジスタ122BのON/OFFの切り換えは、電源クロック発生回路121から発生される電源クロック信号によって行われる。トランジスタ122BがONの状態では、入力から出力に流れる電流によりパワーインダクタ122Dにエネルギーが蓄えられる。一方、トランジスタ122BがOFFの状態では、パワーインダクタ122Dは電流を保とうとして起電力を発生させ、ダイオード122Cを通して電流が流れ、スイッチング電源回路122から電流が出力される(直流出力)。
図1の説明に戻る。送信回路130は、超音波プローブ101による超音波の送信を制御する。例えば、送信回路130は、後述する制御回路110の指示に基づいて、振動子ごとに所定の送信遅延時間が付与されたタイミングで超音波プローブ101に駆動信号(駆動パルス)を印加する。これにより、送信回路130は、超音波がビーム状に集束された超音波ビームを送信させる。なお、送信回路130は、超音波プローブ101から超音波パルスを送信させる「送信部」の一例である。
受信回路140は、送信超音波が体内組織で反射された反射波信号の受信を制御する。例えば、受信回路140は、制御回路110の指示に基づいて、超音波プローブ101が受信した反射波信号に所定の遅延時間を与えて整相加算処理を行う。これにより、反射波信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調される。なお、受信回路140は、超音波パルスの送信に応じて被検体P内で発生する反射波を受信し、第1受信信号を出力する「受信部」の一例である。
図3は、第1の実施形態に係る送信回路130及び受信回路140の構造例を示す図である。図3に示す例では、超音波プローブ101は、N個の振動子(振動子101-1、・・・振動子101-N)を備える。各振動子は、各チャンネルに対応する。
図3に示すように、送信回路130は、送信クロック発生回路131、レートパルス発生回路132、送信遅延回路133、及びパルサ134を備える。送信クロック発生回路131は、クロック制御回路112の制御の下、送信クロック信号を発生する。レートパルス発生回路132は、送信クロック発生回路131で発生された送信クロック信号に従って、超音波の送信レートを決定するためのレートパルスを発生する。超音波の送信レートとは、毎秒送信される超音波パルスの数に対応する。
送信遅延回路133は、超音波の指向性を決めるために、レートパルスに必要な適当な遅延を与え遅延駆動信号を発生する。遅延駆動信号は、トリガパルスとも呼ばれる。パルサ134は、遅延駆動信号に位相同期して超音波プローブ101が備えるN個の振動子(振動子101-1、・・・振動子101-N)に対して中心周波数foの高周波の信号パルスを印加する。この信号パルスを受けて、超音波プローブ11の振動子が機械的に振動する。これにより、中心周波数foの送信パルスが発生され、被検体に送信される。
受信回路140は、N個のプリアンプ(PreAmp)141-1~141-N、N個のADC(Analog to Digital Converter)142-1~142-N、RF(Radio Frequency)メモリ143、CPU(Central Processing Unit)メモリ144、フィルタ処理回路145、及び受信ビームフォーマー146を備える。なお、N個のプリアンプ141-1~141-Nを区別無く総称する場合、「プリアンプ141」と記載する。また、N個のADC142-1~142-Nを区別無く総称する場合、「ADC142」と記載する。すなわち、受信回路140には、プリアンプ141及びADC142が振動子(チャンネル)ごとに設けられる。
プリアンプ141は、各振動子によって受信された微小な反射波信号(受信信号)を増幅する。ADC142は、各プリアンプ141において所定の大きさに増幅されたアナログの反射波信号をデジタル信号(RF信号)に変換する。RF信号は、RFメモリ143に一時保存された後に、CPUメモリ144に転送される。
フィルタ処理回路145は、スイッチングノイズなどの周期的ノイズを除去するフィルタ処理を実行する。フィルタ処理回路145については、後に詳述する。フィルタ処理回路145は、フィルタ処理後の受信信号を受信ビームフォーマー146へ送る。なお、フィルタ処理回路145は、フィルタ処理部の一例である。また、フィルタ処理前の受信信号を「第1受信信号」とも記載し、フィルタ処理後の受信信号を「第2受信信号」とも記載する。
受信ビームフォーマー146は、ビームフォーミング機能を実行する。つまり、受信ビームフォーマー146は、超音波反射波を集束するための集束用遅延時間と、受信指向性を設定するための偏向用遅延時間とを、フィルタ処理後のRF信号各々に対して与える。そして、受信ビームフォーマー146は、集束用遅延時間と偏向用遅延時間とが与えられたRF信号の位相を合わせて加算し(整相加算処理)、反射波データを生成する。受信ビームフォーマー146は、生成した反射波データを信号処理回路150に送る。
図1の説明に戻る。信号処理回路150は、受信回路140が反射波信号から生成した反射波データに対して各種の信号処理を行う。例えば、信号処理回路150は、Bモード(Brightness mode)処理回路151及びドプラ(Doppler)処理回路152を備える。
Bモード処理回路151は、反射波データに対して対数増幅、包絡線検波処理等を行って、複数のサンプル点(観測点)それぞれの信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。Bモード処理回路151は、生成したBモードデータを画像処理回路160へ送る。
ドプラ処理回路152は、反射波データから速度情報を周波数解析することで、走査範囲内にある移動体のドプラ効果に基づく運動情報をサンプル点ごとに抽出したデータ(ドプラデータ)を生成する。具体的には、ドプラ処理回路152は、移動体の運動情報として、平均速度、分散値、パワー値などを、複数のサンプル点それぞれで抽出したドプラデータを生成する。ここで、移動体とは、例えば、血流や、心壁等の組織、造影剤である。本実施形態に係るドプラ処理回路152は、血流の運動情報(血流情報)として、血流の平均速度、血流の平均分散値、血流の平均パワー値等を、複数のサンプル点それぞれで推定した情報を生成する。すなわち、血流情報は、各サンプル点の血流に基づく値(血流を表す値)を含む情報である。
画像処理回路160は、信号処理回路150が生成したデータから超音波画像データを生成する。例えば、画像処理回路160は、信号処理回路150において走査方向単位で生成されたBモードデータ及びドプラデータを、テレビなどに代表される一般的なビデオフォーマットの走査線信号列に変換し、表示用画像としての超音波画像データを生成する。画像処理回路160は、生成した超音波画像データをビデオ信号としてディスプレイ103に出力させる。
例えば、画像処理回路160は、Bモード処理回路151が生成したBモードデータから、反射波の強度を輝度で表したBモード画像データを生成する。また、画像処理回路160は、ドプラ処理回路152が生成したドプラデータから、移動体情報(血流情報)を表すドプラ画像データを生成する。このドプラ画像データは、速度画像データ、分散画像データ、パワー画像データ、又は、これらを組み合わせた画像データである。なお、画像処理回路160は、フィルタ処理後の受信信号に基づいて、超音波画像データを生成する「画像生成部」の一例である。
記憶回路170は、各種データを記憶する記憶装置である。例えば、記憶回路170は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等により実現される。
例えば、記憶回路170は、超音波送受信、画像処理及び表示処理を行うための制御プログラムや、診断情報(例えば、患者ID、医師の所見等)や、診断プロトコルや各種ボディーマーク等の各種データを記憶する。また、記憶回路170は、信号処理回路150及び画像処理回路160により生成されたデータを記憶する。また、記憶回路170に記憶されるデータは、インタフェース部を介して、外部装置へ転送することができる。
ところで、超音波診断装置の直流電源部は、高効率化、小型化、低価格化が可能なスイッチング電源が通常用いられる。このスイッチング電源に起因するスイッチングノイズ(すなわち、スイッチング駆動信号の高調波成分)は、被検体から収集される微小な反射波信号に混入することにより画質を低下させる場合がある。
スイッチングノイズの影響を低減させるため、ドプラ法においてクラッタ成分の除去に利用されているクラッタフィルタ(カラードプラではMTI(Moving Target Indicator)フィルタとも呼ばれる)でスイッチングノイズを除去する方法(以下、提案方法と記載する)が提案されている。したがって、ドプラ法で撮像する場合には、上記の提案方法によってスイッチングノイズを除去することができる。
しかしながら、Bモード系においてはクラッタフィルタが適用されないため、上記の提案方法によってスイッチングノイズを除去することができない。また、ドプラ系でもTDI(Tissue Doppler Imaging)やストレイン・エラストグラフィーのようにMTIフィルタが適用されない場合には、上記の提案方法によるスイッチングノイズの除去ができないために、速度誤差の原因になっている。また、スイッチングノイズは、スイッチング電源の出力部や電源ラインに対するフィルタ回路の挿入、スイッチング電源や電源ラインに対するシールド、更には、装置本体100及び電源回路120に対するグラウンド強化等の対策によって低減させることは可能である。しかしながら、このようなスイッチングノイズへの対処は、装置の小型化を進めるうえで障害となる。
そこで、第1の実施形態に係る超音波診断装置1は、画質を向上させるために、以下に説明する構成を備える。
すなわち、超音波診断装置1において、送信回路130は、複数のチャンネルを有する超音波プローブ101から超音波パルスを送信させる。受信回路140は、超音波パルスの送信に応じて被検体P内で発生する反射波を受信し、受信信号を出力する。電源回路120は、送信回路130に電源を供給する。制御回路110は、送信回路130に超音波パルスを繰り返し送信させる制御を行うとともに、電源回路120のスイッチング動作のタイミングを、超音波パルスのタイミングに同期させる制御を行う。フィルタ処理回路145は、受信信号のうちチャンネル間で相関がある成分(例えば、チャンネル間で相関が高い成分)を除去するフィルタ処理を実行し、フィルタ処理後の受信信号を出力する。画像処理回路160は、フィルタ処理後の受信信号に基づいて、超音波画像データを生成する。
なお、本実施形態において、「ドプラ系」とは、同一のラスタに対して複数回のスキャンを繰り返し行う撮像方法の総称である。また、「Bモード系」とは、ドプラ系とは異なり、異なるラスタに対する超音波パルスの送信を繰り返し行う撮像方法の総称である。基本的に、ドプラ系にはクラッタフィルタを適用可能であり、Bモード系にはクラッタフィルタを適用不可能である。
ここで、制御回路110によるスイッチング動作の同期制御について説明する。図4は、第1の実施形態に係る制御回路110によるスイッチング動作の同期制御について説明するための図である。図4において、CLKは、超音波診断装置1に搭載された高精度なシステムクロック(基準クロック)を示す。TRATEは、レートパルス発生回路132の出力信号を示す。SWCLKは、電源クロック発生回路121の出力信号を示す。ECHOは、エコー信号(反射波信号)を示す。NOISE-RFは、RF信号に含まれるスイッチングノイズを示す。NOISE-IQは、IQ信号に含まれるスイッチングノイズを示す。
図4に示すように、制御回路110において、クロック制御回路112は、レートパルス発生回路132の出力信号と同期したクロックを電源クロック発生回路121に発生させる。つまり、電源クロック発生回路121は、送信パルスの発生のタイミングに合わせて電源クロックをリセットする。
具体的には、超音波診断装置1内の各部のタイミングは、CLKに同期する。例えば、TRATEの立ち下がりの時刻(時刻t1及び時刻t2)は、CLKに同期しており、この時刻が超音波パルス送信の基準である。つまり、送信遅延回路133がt1,t2に対して所定の送信遅延を与え、その後、パルサ134が送信パルスを発生させる。SWCLKは、送信パルスの基準信号に対してCLKの精度で同期する。例えば、時刻t2では、TRATEの立ち下がりに同期してSWCLKにリセットが掛かり再同期される。
受信回路140の各ADC142から出力されるRF信号には、SWCLKに起因してNOISE-RFが混入してしまう。RF信号に受信中心周波数を複素ミキシング(demodulationとも呼ばれる)して帯域制限したIQ信号は、ノイズの高調波成分だけが残存してNOISE-IQとなる。NOISE-IQはエコー帯域と重なっているので、ECHOとNOISE-IQとを区別することができない。なお、スイッチングノイズは、プリアンプ141又はそれ以前の段階で混入すると考えられている。
そこで、以後の処理においてスイッチングノイズを区別するために、制御回路110は、図4に示すように、電源回路120のスイッチング動作のタイミングを、超音波パルスの送信タイミングに同期させる制御を行う。この結果、時刻t1以降に混入するNOISE-IQのタイミングと、時刻t2以降に混入するNOISE-IQのタイミングとが同位相となる。なお、図4では、スイッチング動作のタイミングを、超音波パルスの送信タイミングに同期させる場合を説明したが、これに限らず、例えば、超音波パルスの受信タイミングに同期させる制御を行っても良い。
次に、送信タイミングに同期されたスイッチングノイズが混入したエコー信号の周波数特性について説明する。図5A及び図5Bは、スイッチングノイズが混入したエコー信号の周波数特性について説明するための図である。図5Aには、ある3つのチャンネル(ch1,ch2,ch3)における受信RF信号の時間波形を例示する。また、図5Bには、図5Aに示した時間波形の周波数特性を例示する。
図5A及び図5Bの条件下では、超音波送信によるエコー信号が小さく、スイッチングノイズが相対的に大きいことがわかる。図5Bにおいて、240kHzの低周波信号は、いずれのチャンネルにおいても同位相であることが分かる。つまり、240kHzのスイッチングノイズは、いずれのチャンネルの受信信号においても同位相であることが分かる。また、240kHz、480kHz、720kHzといった電源クロック信号の基本波と高調波の成分がノイズとしてかなり大きなレベルにあることが分かる。
以上の周波数特性から、送信タイミングに同期されたスイッチングノイズ及びエコー信号には、以下の2つの性質があると言える。なお、以下の説明において、「電源ノイズ」と表記した場合、送信タイミングに同期されたスイッチングノイズを表す。
まず、電源ノイズとエコー信号の「性質1」について説明する。「性質1」は、「電源ノイズは、同一の超音波パルス送信においてはチャンネル間で同位相であるが、点反射体からのエコー信号は、チャンネル間で同位相にはならない。」というものである。エコー信号が同位相にならないという性質は、同位相にするために受信ビームフォーミングが行われていることから容易に理解できる。
次に、電源ノイズとエコー信号の「性質2」について説明する。「性質2」は、「電源ノイズは、時間的に近い超音波パルス送信であれば同じチャンネルにおいて変化しない(変化が小さい)が、点反射体からのエコー信号は、送信ラスタの位置が異なると同じチャンネルであってもエコー信号の位置が変化する。」というものである。ここで、「時間的に近い超音波パルス送信」と表記したのは、電源回路120の負荷が変わると電源クロック信号の周波数又はデューティ比を変える制御が行われるためである。この変化は100msec以上掛けて行われるので、時間的に近い超音波パルス送信間(例えば、1フレーム内の送信)であれば電源ノイズは同条件とみなしても差し支えない。
そこで、第1の実施形態に係るフィルタ処理回路145は、上記の「性質1」及び「性質2」を利用して、電源ノイズが混入したエコー信号から、電源ノイズを除去する。
すなわち、フィルタ処理回路145は、受信信号のうちチャンネル間で相関がある成分を除去するフィルタ処理を実行し、フィルタ処理後の受信信号を出力する。例えば、フィルタ処理回路145は、超音波パルスの異なる送信において受信された受信信号を用いて、フィルタ処理を実行する。具体的には、フィルタ処理回路145は、チャンネル番号及びサンプル番号で定義される行方向と、送信ラスタ番号で定義される列方向とに基づく行列を用いて、主成分分析を含むフィルタ処理を実行する。なお、以下の説明において、「フィルタ処理」と表記した場合、フィルタ処理回路145によるフィルタ処理を表す。
図6A、図6B、及び図6Cは、第1の実施形態に係るフィルタ処理回路145の処理を説明するための図である。図6A、図6B、及び図6Cにおいて、送信ラスタ番号は「nx」であり、サンプル番号は「nz」であり、チャンネル番号は「nc」である。なお、第1の実施形態では、送信ラスタごとに超音波パルスを1回送信するので、送信ラスタ番号は送信パルス回数と同義である。
図6Aの上側に示した各画像は、ある送信ラスタ位置において受信したRF信号を、チャンネル番号を右方向に、サンプル番号を下方向にそれぞれ配列した擬似的な画像である。画像I10-1は、送信ラスタ番号「1」のRF信号に対応し、画像I10-2は、送信ラスタ番号「2」のRF信号に対応し、画像I10-nは、送信ラスタ番号「nx」のRF信号に対応する。つまり、画像I10-1から画像I10-nまでの各画像のRF信号の総和は、例えば、1フレーム分のBモード画像データに相当する。
図6Aに示すように、フィルタ処理回路145は、全ての送信ラスタにおいて受信されたRF信号を並べ替えて、データ行列Dを生成する。このデータ行列Dは、チャンネル番号及びサンプル番号で定義される行方向と、送信ラスタ番号で定義される列方向とに基づく行列で表される。つまり、データ行列Dの行方向にはnz*nc個のデータが配列され、列方向にはnx個のデータが配列される。
具体的には、フィルタ処理回路145は、送信ラスタ番号「1」の画像I10-1に含まれるRF信号を、チャンネル番号とサンプル番号で定義される1次元データとして配列する。また、フィルタ処理回路145は、送信ラスタ番号「2」の画像I10-2に含まれるRF信号を、チャンネル番号とサンプル番号で定義される1次元データとして配列する。同様に、フィルタ処理回路145は、送信ラスタ番号「nx」の画像I10-nxに含まれるRF信号を、チャンネル番号とサンプル番号で定義される1次元データとして配列する。そして、フィルタ処理回路145は、1次元データとして配列された各送信ラスタのRF信号を、送信ラスタの順に列方向に配列する。これにより、フィルタ処理回路145は、図6Aの下側に示すデータ行列Dを生成する。
続いて、図6Bに示すように、フィルタ処理回路145は、主成分分析として、ロバスト主成分分析(RPCA:Robust Principal Component Analysis)を行って、データ行列Dを低ランク行列Lとスパース行列Sとに分離する。ここで、ロバスト主成分分析は、下記の式(1)で示される。
式(1)において、Dは、入力行列である。Lは、低ランク行列(low-rank matrix)である。Sは、スパース行列(sparse matrix)である。||・||*(*は下付き)は、核ノルム(特異値の和)である。||・||1(1は下付き)は、L1ノルム(絶対値の和)である。λは、||L||*(*は下付き)と||S||1(1は下付き)のバランス調整である。
ここで、低ランク行列Lが電源ノイズに対応し、スパース行列Sがエコー信号に対応する。そこで、フィルタ処理回路145は、図6Cに示すように、スパース行列Sを元のチャンネルごとのRF信号の配列に並べ替える。これにより、フィルタ処理回路145は、画像I20-1、画像I20-2、・・・画像I20-nを生成する。画像I20-1、画像I20-2、・・・画像I20-nの各画像は、ある送信ラスタ位置において受信したRF信号を、チャンネル番号を右方向に、サンプル番号を下方向にそれぞれ配列した擬似的な画像である。
図7は、第1の実施形態に係るフィルタ処理のアルゴリズムを説明するための図である。図7において、式の表記はMATLAB(登録商標)に従っている。D’は、データ行列Dの複素共役転置を表す。reshapeは、配列の次元の変更を表す。permuteは、次元の再配列を表す。なお、#より右側は、コメント文である。
図7のアルゴリズムでは、一連の送信スキャンを複数回行ったフレーム番号(1~nf)も導入している。同一送信ラスタで同一チャンネルの同一深さのRF信号は、フレーム番号が異なっていても、電源ノイズは同一位相である。一方、エコー信号は、被検体Pの動きがある場合には異なる。なお、図7では、隣接するnfフレームのRF信号を使用するものとする。出力は、nfフレームの中央のフレーム(round(nf/2)番目のフレーム)を出力する。なお、図6A~図6Cの例のようにnf=1として、1フレーム分のRF信号を用いてフィルタ処理を行うことも可能である。
また、フィルタ処理回路145は、全ての送信ラスタにおいて受信された受信信号を一纏めにしてフィルタ処理を実行するだけでなく、所定数(1以上の整数)の送信ラスタを含むグループに分けてフィルタ処理を実行してもよい(グループ化)。例えば、フィルタ処理に用いるアルゴリズムの計算時間オーダーが多項式時間以上の場合(例えばO(n2)等)に、計算規模を抑えることで計算時間を低減することができる。この時、一般にフィルタ処理の性能は信号数が多いほど高いので、計算時間低減と性能のバランスを見てグループ化する数を決めるとよい。この場合、受信回路140は、複数の送信ラスタそれぞれにおいて受信された第1受信信号を、所定数の送信ラスタを含むグループ単位で受信する。そして、フィルタ処理回路145は、各グループの第1受信信号に対してフィルタ処理を実行することで、各グループの第2受信信号を出力する。
更に、グループ化した上で、1グループの送信ラスタの測定(受信)が完了した時点でフィルタ処理を開始し、同時に残りのグループの送信ラスタ測定を行うことで、測定とフィルタ処理を並列化して計算時間の短縮を図ってもよい。この場合、受信回路140は、各グループの第1受信信号を順次受信する。そして、フィルタ処理回路145は、受信済みのグループの第1受信信号に対するフィルタ処理を、未受信のグループの第1受信信号の受信処理の並列処理として実行する。
また、フィルタ処理は1送信ラスタ内のチャンネルに対して行ってもよい。すなわち、行方向がサンプル番号、列方向がチャンネル番号である行列に対してフィルタ処理を行う。つまり、フィルタ処理回路145は、超音波パルスの各送信ラスタ番号の第1受信信号に対して、サンプル番号で定義される行方向と、チャンネル番号で定義される列方向とに基づく行列を用いたフィルタ処理を実行する。送信ラスタの場合と同様の効果を得るために、列方向のチャンネル番号をグループ化して処理してもよい。
図7に示すように、フィルタ処理回路145は、各チャンネルのRF信号をRFメモリからCPUメモリへ転送する(ステップS101)。続いて、フィルタ処理回路145は、CPUメモリ内部におけるデータ(Rf(z、c、x、f))を図示のように定義する(ステップS102)。そして、フィルタ処理回路145は、行列配置の変形を行う(ステップS103)。そして、フィルタ処理回路145は、データ行列Dに対してロバスト主成分分析を行って、低ランク行列Lとスパース行列Sに分解する(ステップS104)。そして、フィルタ処理回路145は、行列配置の変形を行う(ステップS105)。
このように、フィルタ処理回路145は、各チャンネルにおいて受信されたRF信号を用いて、フィルタ処理を実行する。一例としては、フィルタ処理回路145は、ロバスト主成分分析を含むフィルタ処理を実行し、スパース成分をフィルタ処理後の受信信号として出力する。そして、フィルタ処理後の受信信号は、後段の処理により超音波画像データに変換される。
上述してきたように、第1の実施形態に係る超音波診断装置1において、送信回路130は、超音波プローブ101から超音波パルスを送信させる。受信回路140は、超音波パルスの送信に応じて被検体P内で発生する反射波を受信し、受信信号を出力する。電源回路120は、送信回路130に電源を供給する。制御回路110は、送信回路130に超音波パルスを繰り返し送信させる制御を行うとともに、電源回路120のスイッチング動作のタイミングを、超音波パルスのタイミングに同期させる制御を行う。フィルタ処理回路145は、受信信号のうちチャンネル間で相関がある成分を除去するフィルタ処理を実行し、フィルタ処理後の受信信号を出力する。画像処理回路160は、フィルタ処理後の受信信号に基づいて、超音波画像データを生成する。これにより、超音波診断装置1は、スイッチングノイズの影響を低減させ、画質を向上させることができる。例えば、超音波診断装置1は、ドプラ系のクラッタフィルタに頼ることなく、Bモード系及びドプラ系の双方において、スイッチングノイズを除去することができる。
図8A及び図8Bは、第1の実施形態に係るフィルタ処理の効果を説明するための図である。図8A及び図8Bには、図5A及び図5BのRF信号に対するフィルタ処理により電源ノイズが除去されたたRF信号の時間波形及び周波数特定を例示する。
図8Aに示す時間波形では、図5Aの時間波形と比較して低周波の電源ノイズが除去されている。また、図8Bに示す周波数特性では、図5Bの周波数特性と比較して、240kHzの電源ノイズの基本波と、480kHz、720kHzの電源ノイズの高調波、更には1MHzから2MHzの高調波のレベルが低下している。
図9は、第1の実施形態に係るフィルタ処理の効果を説明するための図である。図9には、超音波プローブ101の中央の送信ラスタ位置で得られた全チャンネルのRF信号を直接検波して表示した画像I30~画像I33を例示する。各画像I30~画像I33において、横方向がチャンネル番号に対応し、縦方向がサンプル番号に対応する。各画像I30~画像I33は、極性の異なる2回の送信波形を送信して各チャンネルの受信信号ごとに加算して組織からの非線形信号を得る組織ハーモニックイメージング(THI:Tissue Harmonic Imaging)モードで撮像したものである。なお、THIモードでは、加算前のそれぞれの極性の送信パルスに対する受信信号に対してフィルタ処理を行っている。
画像I30は、RF信号を映像化した画像であり、1MHz以下の電源ノイズ成分も映像化されている。このため、図5Aの時間波形に見られるような低周波の電源ノイズが各チャンネルにほぼ同相で入り、横方向に帯状になって描出されている。画像I31は、RF信号に対してフィルタ処理を行って映像化した画像である。つまり、画像I31は、図8Aの時間波形のRF信号を直接検波して表示したものに相当する。画像I31は、画像I30と比較して帯状の電源ノイズが大幅に低減している。画像I32は、RF信号を超音波の受信中心周波数でミキシングして超音波信号が存在する周波数だけに帯域制限を掛けたIQ信号を検波して表示したものである。画像I33は、ロバスト主成分分析を行った後のRF信号をIQ信号に変換して表示したものである。画像I32では、超音波画像の中に帯状の電源ノイズが描出されているが、画像I33では電源ノイズはほとんど描出されていない。
なお、図9の画像I30~画像I33は、電源ノイズを見やすくするためにゲインを上げているが、全て同じ表示ダイナミックレンジの画像である。通常の超音波画像は、画像I32又は画像I33であり、画像I30及び画像I31は、フィルタ処理の効果を示すために図示したものである。
また、図9のTHIモードでは、加算前のそれぞれの極性の送信パルスに対する受信信号に対してフィルタ処理を行う場合を説明したが、加算後にフィルタ処理を行うことも可能である。すなわち、フィルタ処理回路145は、組織ハーモニックイメージングを含むBモード法により収集された受信信号を用いて、フィルタ処理を実行する。
図10は、第1の実施形態に係るフィルタ処理の効果を説明するための図である。図10には、異なる送信ラスタの各チャンネルの受信信号を示した画像I40~画像I45である。なお、図10の各画像のゲインは、図9と比較して下げており、表示ダイナミックレンジも狭くしている。
画像I40は、左端の送信ラスタに対する受信信号の画像である。画像I41は、中央の送信ラスタに対する受信信号の画像である。画像I42は、右端の送信ラスタに対する受信信号の画像である。
画像I40では、破線で囲んだ部分に水平方向に明るい輝度の電源ノイズが描出される。画像I41及び画像I42にも同様の部分で水平方向の電源ノイズが描出される。電源ノイズが水平方向に描出されるのは、全てのチャンネルで同相のノイズだからである。一方、画像I41に描出されるワイヤからのエコー信号は、チャンネル間で双曲線を描いている。この双曲線は、上記の「性質1」に起因する。画像I40~画像I42で同じ位置に水平方向のノイズが描出されるのは、上記の「性質2」に起因する。
画像I43~画像I45は、画像I40~画像I42のRF信号に対してフィルタ処理を行って画像化したものである。画像I43~画像I45では、画像I40~画像I42で描出されていた水平方向の電源ノイズがほぼ消失している。このように、ビームフォーミングを行う前のチャンネル画像においても電源ノイズが低減しているのが分かる。
図11は、第1の実施形態に係るフィルタ処理の効果を説明するための図である。図11には、ビームフォーミング後の画像を例示する。画像I50は、電源ノイズが除去されていない画像であり、画像I51は、フィルタ処理後にビームフォーミングを行った画像である。フィルタ処理により、破線の部分の電源ノイズが消失しているのが分かる。
以上により、第1の実施形態に係る超音波診断装置1において、フィルタ処理回路145は、異なるラスタに対して繰り返し送信された超音波パルスに応じて発生した受信信号を用いて、フィルタ処理を実行する。このため、フィルタ処理回路145は、クラッタフィルタを適用できなかったBモード系の撮像方法によって収集された受信信号に対しても、電源ノイズを除去することができる。また、超音波診断装置1は、Bモード系の撮像方法のみならず、ドプラ系の撮像方法に対しても適用可能である。
(変形例1:ロバスト主成分分析以外の相関分析方法)
なお、第1の実施形態では、主成分分析の一例としてロバスト主成分分析が適用される場合を説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、フィルタ処理回路145は、主成分分析(ロバスト主成分分析ではない通常の主成分分析)又は特異値分解を含むフィルタ処理を実行し、主成分ではない信号を第2受信信号として出力する。
例えば、フィルタ処理回路145は、電源ノイズ成分を主成分とするランク数を事前に設定しておくか、ランク数を決定する論理を組み立てて置くことで、主成分を抽出する。そして、フィルタ処理回路145は、抽出した主成分を原信号から減算することで、電源ノイズが除去された信号を得ることができる。
また、電源ノイズは「チャンネル間で同位相である」と記載したが、主成分分析の性質から考えると、「チャンネル間で相関がある信号である」と言い換えられる。主成分分析及びロバスト主成分分析を行うための数学的な手法として、式(1)のデータ行列Dを特異値分解(Singular Value Decomposition)する方法や、データ行列Dの相関行列を固有値分解(Eigen Value Decomposition)する方法、そして、スパース性を利用して高速演算を行う方法が知られており、いずれの計算方法を用いても良い。固有値分解による分離、特異値分解による分離、カルーネンレーベ(Karhunen-Loeve)変換による分解、固有空間法による部分空間への近似、と呼ばれる手法は、基本的には主成分分析(Principal Component Analysis)と同一手法、或いは主成分分析を使った手法であるので、上記のロバスト主成分分析に代えて適用可能である。
(変形例2:電源ノイズ以外のノイズへの適用)
また、第1の実施形態では、電源ノイズを除去する場合を説明したが、上記の「性質1」及び「性質2」を有するノイズであれば、電源ノイズに限らず様々なノイズを除去することが可能である。つまり、除去対象となるノイズがチャンネル間で同位相であることと、異なる送信であっても除去対象となるノイズはあまり変化しないことが要件となる。
例えば、平面波や拡散波を用いて送信を行った場合に、鏡面反射体があるとその位置から全チャンネルで同位相の入力信号が入り、そのために特にパワードプラ系の影像法において同心円状にアーティファクトが発生する。この同位相のアーティファクトを除去する方法として上記のフィルタ処理を適用することができる。
この場合、除去対象となるノイズが同位相で入力される鏡面反射体からの信号に変わる点を除き、基本的には第1の実施形態にて説明したフィルタ処理が同様に適用可能である。ただし、平面波又は拡散波送信では、1回の送信で全受信ラスタが構成されるため、送信ラスタ数(nx)は「1」となる。そこで、この場合には、送信フレーム数(nf)を100~500程度に設定して適用するのが好適である。
なお、平面波や拡散波送信に限らず、各チャンネルに同位相で入ってくる鏡面反射体からのアーティファクトの除去に有効である。更に、超音波ビームに対して垂直に存在する長い物体からのエコーも、各チャンネルで同位相となるので、この場合に発生する非常に強力な壁面エコーの強度を下げることができる。
他にも、チャンネル間に同位相で入ってくるノイズとしては、例えば、アナログFIFOの書き込み/読み出しの切り替えによる周期的ノイズが知られている。この場合にも、第1の実施形態にて説明したフィルタ処理により、周期的ノイズを除去することができる。
なお、電源ノイズを除去対象とせず、他のノイズの除去のみを行う場合には、第1の実施形態にて説明したスイッチング動作の同期制御、及び、同期制御に関する構成(クロック制御回路112等)は不要である。
(第2の実施形態)
第1の実施形態にて説明したフィルタ処理は、組織ドプラ法(TDI:Tissue Doppler Imaging)又はストレイン・エラストグラフィー(Strain Elastography)により収集された受信信号に対しても適用可能である。ストレイン・エラストグラフィーはプローブを手で軽く上下に動かすことで生体組織にひずみを与えて、そのひずみ量を超音波で計測するものである。ここではこのひずみの計測に組織ドプラ法を用いるものとする。すなわち、フィルタ処理回路145は、組織ドプラ法又はストレイン・エラストグラフィー(以下、単に「エラストグラフィー」と記載する)により収集された受信信号を用いて、フィルタ処理を実行する。
TDIによる組織の動きの速度検出や、エラストグラフィーにおける組織の変位計測は、カラードプラ法と同様に同一方向に複数回の送信を行って同一サンプル点からの受信信号を自己相関法によって組織の動きによるドプラ周波数の推定を行う。この場合、電源にスイッチングノイズがあり、スイッチングクロックは送信に同期しているものとする。カラードプラの場合は、同一サンプル点からの受信信号列に対してハイパスフィルタを掛けるのでドプラ周波数がDCである電源ノイズを除去することが可能である。しかし、TDIやエラストグラフィーではハイパスフィルタを掛けないので電源ノイズを除去することができない。以下、この問題点について説明する。
あるサンプル点における組織の動きと電源ノイズは、下記の式(2)で表される。
式(2)において、s(n)は観測信号であり、nは信号列の番号であり、Aは組織からのエコー振幅であり、fdは組織ドプラ周波数であり、Tは受信信号列の時間間隔であり、φは初期位相であり、Bはそのサンプル点での電源ノイズの振幅である。
s(n-1)とs(n)とのラグ1の自己相関信号は、下記の式(3)から求まる。なお、式(3)では、fdは小さいという近似を使用している。
したがって、c(n)の偏角θは、下記の式(4)で表される。
つまり、c(n)の偏角θは、電源ノイズがない場合の偏角θ0(0は下付き)と異なる。偏角θ0(0は下付き)は、下記の式(5)で表される。
このように、電源ノイズがあるとTDIやエラストグラフィーの際の組織の動きによる偏角が異なるので、組織ドプラ周波数fdを推定する際に誤差が発生する。
次に、誤差の要因となる電源ノイズを除去する方法について説明する。なお、フィルタ処理の処理内容は、第1の実施形態にて説明した内容と基本的に同様である。
例えば、図6A~図6Cでは、図5(図6AC)(実施例1)ではBモード用に異なる位置の送信ラスタの番号を列方向として、それぞれの送信による受信信号を行方向とした行列を作成した。
ただし、TDI及びエラストグラフィーでは、同一方向に複数回の送信を行う点が相違する。そこで、第2の実施形態では、フィルタ処理回路145は、同一方向に複数回行われる送信番号で定義される列方向と、実施例1と同様にサンプル番号とチャンネル番号で定義される行方向とに基づく行列を用いて、フィルタ処理を実行する。
この際、電源ノイズは超音波の波連長よりも長い範囲に渡って発生するので、空間的な相関が大きくなる。つまり、電源ノイズは主成分となる。一方、被検体P(生体)の動き自体は広い範囲に渡ってある程度一定な動きをするが、スペックルで構成される超音波の受信エコーは波連長以下の相関しかないので、電源ノイズよりは相関行列の固有値は小さくなる。そこで、主成分分析において適切な閾値を設定することで、電源ノイズの固有値と生体の動きによる固有値を分離することが可能である。これは、式(1)に示したλで調整することが可能である。
なお、上記の説明では、フィルタ処理に係る行列の列方向を同一方向の送信番号で定義したが、列方向を同一方向の送信及び隣接するラスタで定義することも可能である。つまり、同一方向への送信回数をN1とし、位置の異なるラスタ数をN2とすれば、列方向はN1*N2のサイズとなる。この定義が良い理由は、電源ノイズは送信位置が変わっても同相であるのに対して、組織の動きは送信位置が変わると変化するからである。これによって、相関行列は、電源ノイズの固有値が組織の動きによる固有値よりもより更に大きくなって両者を分離しやすくなる。
以上、第2の実施形態に係る超音波診断装置1によれば、TDIやエラストグラフィーの場合においても、電源ノイズを除去することが可能になり、更にはTDIやエラストグラフィーにおける電源ノイズによる速度誤差を低減することができる。
(その他の実施形態)
上述した実施形態以外にも、種々の異なる形態にて実施されてもよい。
例えば、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。更に、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部又は任意の一部が、CPU及び当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、或いは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
また、例えば、上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサは記憶回路150に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、記憶回路150にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。更に、各図における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
また、上記の実施形態において説明した各処理のうち、自動的に行なわれるものとして説明した処理の全部又は一部を手動的に行なうこともでき、或いは、手動的に行なわれるものとして説明した処理の全部又は一部を公知の方法で自動的に行なうこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
また、上記の実施形態で説明した信号処理方法は、予め用意された信号処理プログラムをパーソナルコンピュータやワークステーション等のコンピュータで実行することによって実現することができる。この信号処理プログラムは、インターネット等のネットワークを介して配布することができる。また、この信号処理プログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO、DVD等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
すなわち、信号処理プログラムは、超音波プローブから超音波パルスを送信させ、前記超音波パルスの送信に応じて被検体内で発生する反射波を受信することで、第1受信信号を生成し、前記第1受信信号のうちチャンネル間で相関がある成分を除去するフィルタ処理を実行することで、第2受信信号を生成し、前記第2受信信号に基づいて、超音波画像データを生成する、各処理をコンピュータに実行させる。また、信号処理方法は、この信号処理プログラムをコンピュータで実行することによって実現することができる。
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、画質を向上させることができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。