JP7296687B1 - アルミニウム又はその合金の材料及びその製造方法 - Google Patents

アルミニウム又はその合金の材料及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

本発明はアルミニウム素地表面に形成した陽極酸化皮膜に、幅0.1~10μmのクラックを1cm2当たり平均10~1000本入れ、クラック中及び周囲に金属を析出、沈着させることにより、素材と表面の間に体積抵抗値が103Ω以下の皮膜を形成することに関する。当該皮膜を備えた材料は、帯電防止性、電磁波シールド性、導電性を併せ持ち、硬く、耐摩耗性のある、従来にない実用性に即したものである。

Description

本発明は、帯電防止と電気特性に優れたアルミニウム又はその合金の材料及びその製造方法に関する。
アルミニウム陽極酸化皮膜(以下、アルマイトと呼ぶ。)は電気的には絶縁材料として開発されたが、加飾技術、耐食技術、硬さ・耐摩耗性技術等の改良を行うことにより今日のアルミニウムの発展の一翼を担ってきた。近年電子機器においては、半導体を含む製品で筐体、部品等も傷、腐食等の防止のためにアルマイト処理又は塗装を行うが、アルマイトを使用する場合は皮膜が10~10Ωの絶縁性のために静電気によるスパークで電子回路の破損する事故が多々ある。これを防ぐために、アルマイトの抵抗を目的別に段階的下げることにより、静電気の発生を防ぎ、スパークによる事故防止法、スマートホン、衛星放送、タクシー無線等の電波領域の電磁界シールド効果の創出、導電性による任意のアース位置、マスキング工程を除くことによるコストダウン等の問題解決が、陽極酸化皮膜の出発点である絶縁材料という概念を打ち破ると共に、従来の特性に加えて各段階的な電気特性を有する陽極酸化皮膜の開発、実用化が待ち望まれている。
アルマイトの陽極酸化皮膜は多孔質層とバリアー層より成り立っており、絶縁材料として広く利用されている。また、1970~80年代に硫酸皮膜を硬くする手法として、バリアー層を除去し、電解着色技術で多孔質層に金属を析出させた時に導電性があることを確認したことを示した論文が出されている。(非特許文献1)
この論文で達成された皮膜硬度はせいぜいHV330程度の硬さで、また場合により皮膜の耐食性を全くなくしてしまうという欠点がある。さらに表面と素地との間の体積抵抗が小さくなることが確かに認められるが例えばこの材料をスパーク防止、電子部品の電気的破壊防止の目的で利用した場合、金属を析出させる多孔質層の孔は径が10~100nm未満の極めて微小な細孔であること、及びこれらの孔が各々独立していることが原因で孔に析出された金属の径が極めて微小なために電圧を加えたときに流れる電流は一つ一つの孔では極めて小さく、又全ての孔の析出物が素材層まで届かないので、接触面積を大きくしないと十分な導通性が得られず、電気的導通性が比較的簡単に破壊されることがある。例えば、LED1つを乾電池の6Vで点灯する場合は問題ないが、1.5Vの豆電球を点灯させると、瞬間的に点灯するがすぐ切れてしまうことがあり永続的使用に難があったり、また広い用途に応用するには不十分であったりすることが判明した。
アルミニウム金属の陽極酸化皮膜にはクラックを生じさせないようにすることが本来の技術であるが、特殊目的のためにクラックを生じさせることが知られている。例えば450℃以上の加温処理で生成したクラック面に、セラミックと低融点ガラスとの混合系を塗布し、クラック内にも充填するが、同時に皮膜全面にもセラミックコートを形成した複層コートとしてアルミニウム素材の耐熱性を向上させ、自動車等のエンジン用に利用しようとする技術が開示されている(特許文献1)。この方法では低融点ガラスとセラミックとを、陽極酸化皮膜上に複層コートすることができるがこれら成分をセラミック内部のみに充填させることができない。一方、実質的にクラック内部のみに種々の物質を充填することができれば本来の陽極酸化皮膜の特徴を残したままアルミニウム素材に新たな性能を付与することが可能となる。
金属表面材料Vol33,No5 232-237(1982)
第6470493号 公報
本発明は、アルマイトの表面と素地との体積抵抗が小さく電導性を持ち、その小さい抵抗値はどのような使用形態でも不変で、使用態様によっても不変で、広い用途に応用可能な軽量のアルミニウム材料又はその合金からなる材料及びその製造方法を提供するものである。
本発明の第1の側面によれば、アルミニウム素地表面に陽極酸化皮膜、バリアー層、及び導電性の金属からなる陽極酸化皮膜構造を有し、前記陽極酸化皮膜表面から見た時に、幅が0.1~10μmのクラックが1cm当たり平均で10~1000本の範囲で存在し、前記導電性の金属はクラック中及び表面のクラック近傍に存在しており、全クラック数の5%以上がバリアー層を通過して素地層に達しており、前記陽極酸化皮膜の表面と素地の間を4端子法で計測した体積抵抗値が1000(10)Ω以下であり、前記陽極酸化皮膜がビッカース硬さでHV300以上であることを特徴とする、アルミニウム又はその合金からなる材料が提供される。
前記クラックの平均本数は前記陽極酸化皮膜表面を任意で切り取った1cmの4つの端面を横断するクラック数の1端面当たりの平均の数であり、前記クラックは互いに連結したクラックを含み、前記導電性の金属はクラック中及び表面のクラック近傍に存在し、前記材料の表面は主に前記陽極酸化皮膜とすることができる。
前記クラック中に存在する前記導電性の金属は液体中又は常圧もしくは減圧の気体中にて析出又は沈着され、その少なくとも一部は前記陽極酸化皮膜の表面から素地層に連続していることができる。
前記クラック中に存在する前記導電性の金属は液体中又は常圧もしくは減圧の気体中にて析出又は沈着され、その少なくとも一部は前記陽極酸化皮膜の表面から素地層に連続していることができる。
前記陽極酸化皮膜の表面を形成する層の耐摩耗性は、一般皮膜条件における往復運動平面摩耗試験で、30ds/μm以上であることが好ましい。
平均の体積抵抗値が10(10)Ω以下であり、電磁波シールド効果が周波数500KHz~1GHzの範囲において30dB以上の前記陽極酸化皮膜を有することが好ましい。
塩水噴霧試験機による120時間の耐食性が、RN9以上であることが好ましい。
前記陽極酸化皮膜は、皮膜厚さが6~60μmであり、色調が調整可能であるこが好ましい。
本発明の第2の側面によれば、アルミニウム又はその合金の材料の製造方法であって、
液温が0℃~18℃の陽極酸化処理で陽極酸化皮膜を形成する第1工程と、
液体中又は常圧もしくは減圧の気体中にて100~350℃に加温することによって前記陽極酸化皮膜の表面から見た時に幅が0.1~10μmのクラックを1cm当たり平均で10~1000本の範囲で形成する第2工程と、
電解処理又は加圧~減圧容器中での振動沈着処理でクラック中及びクラック表面近傍に金属を析出又は沈着させる第3工程を含み、
全クラック数の5%以上が前記陽極酸化皮膜のバリアー層を通過して素地層に達しており、前記陽極酸化皮膜の表面と素地の間を4端子法で計測した平均の体積抵抗値が1000(10)Ω以下の性能を有し、ビッカース硬さでHV300以上の皮膜硬さを持つ陽極酸化皮膜構造を有するアルミニウム又はその合金からなる材料の製造方法が提供される。
前記第2工程が、液体は水、もしくは多価アルコールの単独又は混合液で、気体はアルゴン、二酸化炭素もしくは空気の単独又は混合気体を使用し、加温時間が10秒から30分で、前記陽極酸化皮膜にクラックを形成する工程を含むことができる。
第1工程により生成した陽極酸化皮膜の表面、断面の模式図。 第2工程により生成したクラックの表面、断面の模式図。 第3工程によりクラック中への金属析出時の模式図。 直流方式4端子測定方法の模式図。
1.クラック
2.陽極酸化皮膜
3.バリアー層
4.素地層(アルミニウム)
5.クラック中の金属の析出
6.多孔質層
7.抵抗計:RM3548
8.直流定電圧電源
9.電圧計
10.金めっき電極
以下、本発明の実施形態を具体的に説明するが本発明は後述する実施形態に限定されることはない。また、本明細書において、数値の前に使用される「約」とは、当該数値又は数値範囲の境界値に対して±20%の許容範囲を有する。また、数値、範囲などを規定する数値又は対象の前に使用される「主に」、「概ね」などは、50%以上を意味する。
本発明の実施形態の材料は、アルミニウム素地表面に多孔質層、バリアー層、及び電導性金属からなる陽極酸化皮膜構造を有し、皮膜表面から見た時に、幅が0.1~10μmのクラックが1cm当たり平均で10~1,000本の範囲で存在し、金属はクラック中及び表面のクラック近傍に存在することが好ましい。また、本実施形態の材料は、全クラック数の約5%以上がバリアー層を通過して素地層に達しており、皮膜表面と素地の間を4端子法で計測した平均体積抵抗値が1000(10)Ω以下の性能を持ち、ビッカース硬さ試験機の皮膜断面法でHV300以上の皮膜硬さを持つ陽極酸化皮膜を有することが好ましい。
本発明における材料の体積抵抗の測定は、低抵抗測定に優れている直流方式4端子法(電圧降下法)を抵抗計RM3458(日置電機株式会社製)にて測定することができる。本実施形態の材料の表面と素地の間の体積抵抗は、1000(10)Ω以下の導電性を示し、供給する電流の多寡によらず導通回路が破壊されることがなく長期間に亘って低い体積抵抗値を保つことができる。このため、本実施形態の材料は、色々な分野に広く使用、応用が可能となる。
本発明のアルミニウム系材料は皮膜表面から見た時に、幅が0.1~10μmのクラックが1cm当たり平均で10~1,000本の範囲で存在することができる。このクラックの少なくとも約5%以上は、表面からバリアー層を通過してアルミニウム系の素地層に達しており、その内部には電導性を有する金属が存在することが好ましい。さらに、その金属の一部は表面のクラックから素地層まで連続して存在することがさらに好ましい。本実施形態の上述した陽極酸化皮膜構造によって、表面と素地の間の電気を4端子法で計測した平均的な体積抵抗値が1000(10)Ω以下に維持することができる。
本実施形態におけるクラックの平均本数は、クラックを形成した皮膜表面を任意で切り取った1cmの4端面を横断するクラック数の1端面当たりの本数の平均値として定義される。材料表面のクラックの幅は、例えばカールツァイス社製のAxiolmagerA2mの顕微鏡で倍率を1000倍にして自動計測して計測することができる。より具体的には、本実施形態のクラックの幅は、倍率50倍で撮影した画像をプリントした後、プリント出力上で目視カウント及び確認したものである。
本発明のアルミニウム系材料は皮膜表面に目視で確認できるレベルのクラックが存在し、各々のクラックには導電性の金属が表面から素地に到る形で充填されることを特徴とする。導電性の金属の充填率によって表面と素地の間の体積抵抗を1000(10Ω)~1Ω以下の範囲で調整することができる。体積抵抗は、導電性の金属のクラック内部への充填率を調整することにより調整でき、例えば充填率を小さくして1000(10)Ω以下~1Ω程度としたときには主に帯電防止能だけを必要とする用途に利用が可能である。また、体積抵抗を1Ω以下とした実施形態では、帯電防止能は勿論のこと、電磁シールド性、導電性を必要とする用途、電子部品のスパーク等による破壊防止を必要とする用途、等々体積抵抗に応じた広い用途に利用できる。
本発明の材料の製造方法は、以下の工程を含む。
(1)アルミニウム又はその合金を0℃~25℃で陽極酸化処理を行い陽極酸化皮膜を形成する第1工程、
(2)液体中又は常圧もしくは減圧の気体中にて100~350℃に加温することによって皮膜表面から見た時に幅が0.1~10μmのクラックを1cm当たり平均で10~1000本の範囲で形成する第2工程、
(3)電解処理又は加圧~減圧容器中での振動沈着処理でクラック中及びクラック表面近傍に金属を析出又は沈着させる第3工程
を含むことができる。
好ましい実施形態の製造方法により製造される材料は、全クラック数の5%以上が陽極酸化皮膜のバリアー層を通過して素地層に達することが好ましい。また、好ましい実施形態の製造方法により製造される材料は、皮膜表面と素地との間を4端子法で計測した体積抵抗値が1000(10)Ω以下を有することが好ましい。また、好ましい実施形態の製造方法により製造される材料は、ビッカース硬さ試験機による皮膜断面法(JIS Z2244)での測定値で、HV300以上の皮膜硬さを持つ陽極酸化皮膜構造を有することが好ましい。本実施形態の製造方法により製造される材料は、形成された皮膜の厚さを約20~40μmとすることが好ましい。図1には、製造された本実施形態の材料に形成された皮膜の断面模式図を図1に示す。
本発明の材料の製造方法において、第1工程で陽極酸化皮膜を形成する電解法は、直流法、交直重畳法、パルス法、PRパルス法の単独又はこれらの2つ以上の組み合わせた波形を用いることができる。また、電解液としては、無機酸、無機酸+有機酸の混合液を用いることが好ましい。他の実施形態では、第1の工程の終了後、製造した陽極酸化皮膜を同じ電解液中にて段階的に電圧を下げ、実質的に0Vもしくはそれ近くに下げてバリアー層の一部を除去した後、第2工程のクラック形成工程に進むことも可能である。さらに、電解液の温度は、0℃~25℃の範囲、より好ましくは、0℃~20℃、より好ましくは、0℃~18℃とすることが、陽極酸化皮膜の均一性、高い電磁波シールド効果及び磁界シールド効果を得ることができるので、好ましい。
本実施形態の製造方法の第2工程である陽極酸化皮膜へのクラック形成は、水もしくは多価アルコールの単独又は混合の液体中にて、又は加圧~減圧の例えばアルゴン、二酸化炭素もしくは空気などの気体の単独又は混合気体中にて、時間として10秒から30分、100~350℃、特に好ましくは120~250℃に加温することにより行うことができる。本実施形態において、アルゴン、二酸化炭素などの不活性ガスを用いる場合には、雰囲気炉を用いるのが好ましく、不活性気体中でクラックを形成した場合には特にクラック部の酸化を少なくすることができるので好ましい。
形成されたクラックは、皮膜表面から観察した場合に幅が0.1~10μmであり、1cm当たり平均で10~1000本の範囲で存在することが好ましい。また各々のクラックは、相互に連続している多数の部分を有し、かつ全クラックの約5%以上が陽極酸化皮膜のバリアー層を通過して素地層に達することが好ましい。クラックの幅は0.1μm以上を有していることが好ましく、0.1μm以下の幅のクラックの存在を除外することはないが、本実施形態では、0.1μm以下のクラックは、1cm当たりの存在するクラック数には数えない。0.1μmを超えるクラック幅は普通の陽極酸化皮膜に存在する多孔質層の孔の径よりも桁違いに大きく、金属などの充填において有利に作用する。一方、10μm以上の幅のクラックは材料表面の滑らかさや外観を損ねるので無い方が好ましい。図2には、クラックが形成されたときの表面模式図と断面模式図を示す。図2(b)中、クラック1は、素地層4まで達したクラックを示し、クラック1aは素地層まで到達していないクラックを示す。
本実施形態の第3工程におけるクラック中に金属を析出又は沈着は、金属及び/又は金属イオン含む液中で、浸漬法、超音波浸漬法、電気泳動法、電解法、又は減圧容器中におけるイオンプレーティング法でなされる。用いられる金属としては銅、亜鉛、ニッケル、スズ、金、銀、パラジウム、ロジウム、白金で、特に金、銀、亜鉛、スズ、銅が好ましい。またクラック中に析出した導電性の金属の少なくとも一部は表面からバリアー層を通過して素地層に達しており、クラック中の金属充填率は少なくとも約30%以上であることが好ましい。充填率が小さ過ぎると4端子法で計測した表面と素地の間の平均の体積抵抗を1000(10)Ω以下とすることができないためである。図3にクラック中に金属が析出又は沈着されたときの断面模式図を示す。
本発明の皮膜断面硬さはJIS-Z2244(ビッカース硬さ試験)法にて荷重0.098N(10grf)、保持時間15秒で測定した値とすることができる。本実施形態の皮膜の断面硬さは、上記定義の測定法においてHV300以上の硬さを有することが確認された。
皮膜厚さは(株)ケット科学研究所社製渦電流膜厚計(LH-373)で、JIS‐H8680‐2(渦電流式測定法)を用い校正用標準板(プラスチックフィルム)にて校正した後に計測した値とすることができる。本実施形態の陽極酸化皮膜の厚さ約6~60μmの範囲とすることが好ましく、より好ましくは約10~50μm、特に好ましくは約20~40μmの厚さで、色調が素地色~褐色系~黒系の皮膜を有しており、調整可能である。
本実施形態の材料は帯電防止能や導電性を有するものであるが、帯電防止と導電性の違いは主に体積抵抗値の違いである。種々の異なる数値が提案されているが、例えば樹脂メーカーによると、一般的には抵抗値との関係は以下のとおりとされている。
1011Ω以上: 絶縁性 :電気を流さない
10 Ω以上: 静電気拡散性 :静電気を帯電させない
10 Ω以上:静電気を穏やかに緩やかに逃がす
10 Ω以上:静電気を素早く逃がす。
帯電防止能は物体に帯電した静電気を逃がす性能であり、これは物体の体積抵抗値にほぼ比例する。また、通常の耐電防止は体積抵抗値が109~13であり、静電気拡散性は106~8と呼ばれており、メーカーによって様々である。帯電防止剤、静電気拡散剤にはイオン系、非イオン系、両性帯電防止、界面活性剤、シリコン系のものがあり、又は樹脂等に金属イオン等を混ぜ帯電防止能を付与したりしている。101~5Ωの抵抗値を持つものとしては素材にカーボンを練り込む又は塗装する導電塗料がしられており、本発明材料の帯電防止能は体積抵抗値で10Ω以下のカーボンにより得られる帯電防止領域と同等である。この範囲での使用は従来の100V,200V等の高い電圧でなく、近年の電子機器、半導体機器の様な低い電圧による帯電防止を導電性マット、床材、フロアに使用することが好ましい。
なお、本実施形態における体積抵抗の測定方法を図4に示す。本実施形態では、低抵抗測定に優れている直流方式4端子法(電圧降下法)を用いる。抵抗計RM3548(日置電機株式会社製):7を用いて端子を陽極酸化皮膜の表面:2と素地層:4とに1cmの銅に金メッキをした電極:10を圧迫し、表面に50g/cmの加重をかけ体積抵抗を測定する。ビッカース硬さ試験は顕微鏡断面測定法により(株)島津製作所社製の微小硬度計(HMV-G-XY-D)を用いて荷重10gfで15秒行って測定した平均皮膜硬さを示す。但し、皮膜厚さが20μm以下の場合にはヌープ式の圧子を用いて同一荷重、同一時間にて測定したものである。
本発明の耐摩耗性試験は往復運動平面摩耗試験機を用いて行い、試験方法はJIS‐H8682‐1(往復運動平面摩耗試験)の「7.4試験条件の一般皮膜条件」を適用することができる。また、評価は1μm当たりの往復摩耗回数で表し、30ds/μm以上の耐摩耗性を持つことが好ましい。
本実施形態の材料に形成される皮膜の平均的な体積抵抗値が10(10)Ω以下の場合、良好な電磁波シールド効果を提供することができる。電磁波シールド効果測定はKEC法にて100KHz-1000MHz(1GHz)までの電解、磁界測定を行った結果、電界、磁界とも30db以上あることが好ましい。この値は、アルミニウム素地と同じ値で、アルミニウムの限界値と同等のシールド効果を持っていることが示された。
すなわち、本実施形態の材料は、硬さ、耐摩耗性があり、耐食性があることにより腐食がされにくく、シールド効果が長期にわたり安定に保たれ、しかも傷が付きにくい材料としての役割が加わり、さらに長時間使用表面からの摩擦、摩耗、腐食による皮膜の減少が起こっても皮膜表面が常に新しくなり、それに伴って真新しい析出金属が常に顔を出すという性質が提供される。このため、本実施形態の材料は、皮膜がなくなるまで使い続けられる特殊な構造を持った材料及びその製造方法が提供される。
本発明の耐食試験はJIS‐Z2371の中性塩水噴霧試験機STP‐90V‐4(株)スガ試験機株式会社製)を用いて、連続噴霧時間120時間として検体を製造する。また検体の評価法は、JIS‐H8679‐1(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜に発生した孔食の評価方法‐第1部:レイティングナンバー方法(RN)にて評価することができる。
より具体的には、耐食試験はJIS‐Z2371の中性塩水噴霧試験機(株)スガ試験機社製)を用いて、連続噴霧時間120時間検体を調整する。評価法としては検体に発生した孔食を、JIS‐H8679‐1(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜に発生した孔食の評価方法‐第1部:レイティングナンバー方法(RN)にて行う。
実際は塩水噴霧試験機より取り出した後、表面の腐食生成物を物理的、化学的に除去し、乾燥後レイティングナンバー標準図表と比較して評価する。電磁波シールド効果測定はKFC法にて100KHz-1000MHz(1GHz)までの電界、磁界を測定し、結果を減衰率dbにて表す。
以下、本発明を、具体的な実施例の実施形態を使用して説明する。なお、本発明は、後述する実施形態に限定されることはない。
(前処理)
アルミニウムA1050材(Si 0.25%、Mn0.05%以下)で50×100×t1.0mmのテストピースを前処理として、エマルジョン脱脂・45℃×5分―5%硝酸・室温×3分-エッチング20%水酸化ナトリウム・室温×1分―脱スマット・10%硫酸・室温×3分を行なった。
(第1工程)
第1工程は電解液を硫酸160±5g/Lに、添加剤1としてシュウ酸15±2g/L、添加剤2としてマロン酸8±1g/Lを加えたものとし、液温0±1℃、電源は直流波形を用い、電流密度1.0~1.4A/dmで90分行なった。但し、以下の各工程間は十分に水洗を行う。
(第2工程及び第3工程)
第2工程は180℃の恒温槽にて10分加温する。その後、第3工程として硫酸亜鉛300g/L,硫酸アンモニウム30g/L,ホウ酸30g/L,添加剤15g/L,温度25±2℃、電解条件は電圧1.0V、電解時間15分の電解を行い、十分に洗浄を行った。得られた皮膜表面のクラック数は1端面の平均で23個、幅は0.8~2.1μmあり、皮膜表面とアルミニウム素地間を図4の4端子法で計測すると測定個所により0.02~25Ωで平均の体積抵抗値は3.7Ω、顕微鏡断面測定法による平均皮膜硬さはHV375で、一般皮膜条件にて往復運動平面摩擦試験で257ds/μmであり、平均皮膜厚さは36.1μm、色調は褐色、耐食性は120時間でRN9.5以上、表面が部分的に白く変色した材料が得られた。また得られた材料の電磁波シールド効果は電界が38dB以上,磁界が36dB以上であった。
材料、前処理、第2工程、第3工程及び各種計測は実施例1と同様に行い、第1工程の電解液をシュウ酸30g/Lに、添加剤1として硫酸5g/L、添加剤2として酒石酸8g/Lを加え、液温18±1℃、電源はパルス波形を用い、オンタイム6秒、オフタイム4秒を1サイクルとして、電流密度2.0A/dmで60分行なった。但し各工程間は十分に水洗を行った。この結果、皮膜表面のクラック数は1端面の平均は8個、幅は細すぎて計測不可、皮膜表面とアルミニウム素地間を図4の4端子法で計測すると測定個所により8~27KΩで平均体積抵抗は13KΩ、顕微鏡断面測定法による平均皮膜硬さはHV436で、平均皮膜厚さは21.3μm、表面が部分的に白く変色しているものの、色調は概ね褐色系、耐食性は120時間でRN10、電磁波シールド効果は電界が30dB、磁界が30dBとなり実施例1に比較して電磁波シールド性及び磁界シールド性は低下したものの、十分な特性が得られた。
材料、前処理、第1工程、第3工程及び各種計測は実施例1と同様に行い、第2工程の加温条件を変化させたときのクラックの数、幅、抵抗値を表1に示す。(1)この時の抵抗値の「OV」は抵抗値オーバーを示し、(2)クラック数は50倍の画像をプリントしたときの2mm角を5倍した数値で全て5の倍数になっている。
Figure 0007296687000001
材料、前処理、第2工程、第3工程及び各種計測は実施例1と同様に行い、第1工程の電解液を硫酸150g/L、遊離硫酸5g/Lとし、電解温度10±1℃、電流密度1.0A/dm、皮膜厚さ、15μmを行った結果を「表2」に示す。OVはオーバーを示す。
Figure 0007296687000002
比較例1
材料、前処理、第1工程、第3工程及び各種計測は実施例1と同様に行い、第2工程を除き、通常作業での陽極酸化処理各工程間での最大温度差によるクラックの幅、数量を調べた。例えば実施例1では電解温度「0±1℃」と水洗温度15~20℃の温度差、常温封孔、JIS-H8601による陽極酸化皮膜では電解処理温度が「20±1℃」と沸騰水封孔の処理温度「95℃以上」との温度差によるクラック発生と体積抵抗を比較すると表3となった。クラック幅は狭すぎて測定不可、体積抵抗は全てがオーバーしていた。
Figure 0007296687000003
比較例2
材料、前処理、第1工程、第3工程及び各種計測は実施例1と同様に行い、第2工程を30℃、50℃のお湯と25KHz、100KHzの超音波洗浄機組み合わせと単独で行い、30℃、50℃では抵抗値がオーバーし、30℃,50℃と超音波清浄器を組み合わせたが抵抗値は同様にオーバーした。なお、この時の表面には微小なクラックが発生していた。
材料、前処理、第1工程、第3工程及び各種計測は実施例1と同様に行い、最終電圧は42Vとなった。第2工程は電源を切らずに第1電解の最終電圧42Vを2分保ち、その後2V下げ40Vで、1.5分保持し、次に35Vで1.5分保持、30Vで、1.5分保持を10Vまで繰り返し、10Vで2分保持後8V、6V、4V、2V,0Vと順次下げた。この時の保持時間は各2分で、21分で0Vになり、さらに0Vで4分保持し開始から25分で電解槽より取り出し水洗を十分に行い乾燥した。その後、第3工程としてさらに実施例1の第2工程を行い、さらに追加的な第3工程を行って、材料を得た。
得られた材料の皮膜表面のクラック数は1端面の平均は27個、幅は0.6~3.2μmあり、皮膜表面とアルミニウム素地間を図4の4端子法で計測すると測定個所により0.006(6×10-3)~0.04(4×10-2)Ωで平均体積抵抗は0.015(1.5×10-2)Ω、顕微鏡断面測定法による平均皮膜硬さはHV378で、一般皮膜条件における往復運動平面摩擦試験は、262ds/μmであり、平均皮膜厚さは35.7μm、色調は褐色、耐食性は120時間でRN9.8以上、表面が部分的に白く変色した材料が得られた。また、電磁波シールド効果は電界が40dB以上,磁界が37dB以上となった。
以上、本発明を説明してきたが本発明は開示された実施形態及び実施例に限定されることは無く、当業者において、自明又は均等的な範囲における代替、修正、又は変更が可能であり、そのような本願の作用効果を奏する代替、修正、又は変更は、本発明の範囲内に含まれるものである。
本発明の材料はアルミニウムの陽極酸化皮膜で1000(10)Ω以下の低抵抗の皮膜とHV300以上の硬さを併せ持つことにより、低抵抗領域の帯電防止とさらに低い1Ω以下での500KHz~1000MHzまでの電磁波シールド性、導電性に特徴があり、筐体、電子機器におけるスパークによる破損防止、シールド性によるノイズの防止、LED~豆電球が点灯する導電性皮膜を軽量で硬い摺動性のある材料として使用されることを期待される。

Claims (12)

  1. アルミニウム素地表面に陽極酸化皮膜、バリアー層、及び導電性の金属からなる陽極酸化皮膜構造を有し、前記陽極酸化皮膜の表面から見た時に、幅が0.1~10μmのクラックが1cm当たり平均で10~1000本の範囲で存在し、前記導電性の金属はクラック中及びクラックの表面近傍に存在しており、全クラック数の5%以上がバリアー層を通過して素地層に達しており、前記陽極酸化皮膜の表面と素地の間を4端子法で計測した体積抵抗値が1000(10)Ω以下であり、前記陽極酸化皮膜がビッカース硬さでHV300以上であることを特徴とする、アルミニウム又はその合金からなる材料。
  2. 前記クラックの平均本数は前記陽極酸化皮膜の表面を任意で切り取った1cmの4つの端面を横断するクラック数の1端面当たりの平均の数であり、前記クラックは互いに連結したクラックを含み、前記導電性の金属はクラック中及び前記クラックの表面近傍に存在し、前記材料の表面は主に前記陽極酸化皮膜であることを特徴とする、請求項1のアルミニウム又はその合金からなる材料。
  3. 前記クラック中に存在する前記導電性の金属の一部は前記陽極酸化皮膜の表面から素地層に連続していることを特徴とする、請求項1のアルミニウム又はその合金からなる材料。
  4. 前記クラック中に存在する前記導電性の金属の一部は前記陽極酸化皮膜の表面から素地層に連続していることを特徴とする、請求項2のアルミニウム又はその合金からなる材料。
  5. 前記陽極酸化皮膜の表面を形成する層の耐摩耗性は、一般皮膜条件における往復運動平面摩耗試験で、30ds/μm以上であることを特徴とする、請求項1のアルミニウム又はその合金からなる材料。
  6. 前記陽極酸化皮膜の表面を形成する層の耐摩耗性は、一般皮膜条件における往復運動平面摩耗試験で、30ds/μm以上であることを特徴とする、請求項2のアルミニウム又はその合金からなる材料。
  7. 前記陽極酸化皮膜の表面を形成する層の耐摩耗性は、一般皮膜条件における往復運動平面摩耗試験で、30ds/μm以上であることを特徴とする、請求項3のアルミニウム又はその合金からなる材料。
  8. 平均の体積抵抗値が10(10)Ω以下であり、電磁波シールド効果が周波数500KHz~1GHzの範囲において30dB以上の前記陽極酸化皮膜を有することを特徴とする請求項1のアルミニウム又はその合金からなる材料。
  9. 塩水噴霧試験機による120時間の耐食性が、RN9以上であることを特徴とする請求項1のアルミニウム又はその合金からなる材料。
  10. 前記陽極酸化皮膜は、皮膜厚さが6~60μmであり、色調が調整可能であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一つのアルミニウム又はその合金からなる材料。
  11. アルミニウム又はその合金の材料の製造方法であって、
    0℃~25℃で陽極酸化処理で陽極酸化皮膜を形成する第1工程と、
    液体中又は常圧もしくは減圧の気体中にて100~350℃に加温することによって前記陽極酸化皮膜の表面から見た時に幅が0.1~10μmのクラックを1cm当たり平均で10~1000本の範囲で形成する第2工程と、
    電解処理又は加圧~減圧容器中での振動沈着処理でクラック中及びクラック表面近傍に金属を析出又は沈着させる第3工程を含み、
    全クラック数の5%以上が前記陽極酸化皮膜のバリアー層を通過して素地層に達しており、前記陽極酸化皮膜の表面と素地の間を4端子法で計測した平均の体積抵抗値が1000(10)Ω以下の性能を有し、ビッカース硬さでHV300以上の皮膜硬さを持つ陽極酸化皮膜構造を有するアルミニウム又はその合金からなる材料の製造方法。
  12. 前記第2工程が、液体は水、もしくは多価アルコールの単独又は混合液で、気体はアルゴン、二酸化炭素もしくは空気の単独又は混合気体を使用し、加温の時間が10秒から30分で、前記陽極酸化皮膜にクラックを形成する工程を含むことを特徴とする請求項11のアルミニウム又はその合金からなる材料の製造方法。
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