<本発明の第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照しながら説明する。
(1)窒化物結晶基板
図1を用い、本実施形態に係る窒化物結晶基板10について説明する。図1(a)は、本実施形態に係る窒化物結晶基板10を示す概略平面図であり、(b)は、本実施形態に係る窒化物結晶基板10を示す概略断面図である。
以下において、基板等の主面は、主に基板等の上側主面のことをいい、基板等の表面ということもある。また、基板等の裏面は、基板等の下側主面のことをいう。
図1(a)および(b)に示すように、本実施形態の窒化物結晶基板10(以下、基板10ともいう)は、後述の半導体積層物1および半導体装置2を製造する際に用いられる円板状の基板として構成されている。基板10は、III族窒化物半導体の単結晶からなり、本実施形態では、例えば、窒化ガリウム(GaN)の単結晶からなっている。
基板10の主面の面方位は、例えば、(0001)面(+c面、Ga極性面)である。
なお、基板10を構成するGaN結晶は、基板10の主面に対して所定のオフ角を有していても良い。オフ角とは、基板10の主面の法線方向と、基板10を構成するGaN結晶の主軸(c軸)とのなす角度のことをいう。具体的には、基板10のオフ角は、例えば、0°以上1.2°以下である。
また、基板10の主面における転位密度は、例えば、5×106個/cm2以下である。基板10の主面における転位密度が5×106個/cm2超であると、基板10上に形成される後述の半導体層20において局所的な耐圧を低下させてしまう可能性がある。これに対して、本実施形態のように、基板10の主面における転位密度を5×106個/cm2以下とすることにより、基板10上に形成される半導体層20において局所的な耐圧の低下を抑制することができる。
なお、基板10の主面は、エピレディ面であり、基板10の主面の表面粗さ(算術平均粗さRa)は、例えば、10nm以下、好ましくは5nm以下である。
また、基板10の直径Dは、特に制限されるものではないが、例えば、25mm以上である。基板10の直径Dが25mm未満であると、後述の半導体装置2の生産性が低下しやすくなる。このため、基板10の直径Dは、25mm以上であることが好ましい。また、基板10の厚さTは、例えば、150μm以上2mm以下である。基板10の厚さTが150μm未満であると、基板10の機械的強度が低下し自立状態の維持が困難となる可能性がある。このため、基板10の厚さTは、150μm以上とすることが好ましい。ここでは、例えば、基板10の直径Dが2インチとし、基板10の厚さTを400μmとする。
また、基板10は、例えば、n型不純物(ドナー)を含んでいる。基板10中に含まれるn型不純物としては、例えば、シリコン(Si)およびゲルマニウム(Ge)が挙げられる。基板10中にn型不純物がドーピングされていることにより、基板10中には、所定濃度の自由電子が生成されている。
(吸収係数等について)
本実施形態では、基板10は、赤外域の吸収係数について所定の要件を満たしている。
以下、詳細を説明する。
半導体積層物1および半導体装置2を製造する際には、例えば、後述のように、基板10上に半導体層20をエピタキシャル成長させる工程や、該半導体層20中の不純物を活性化させる工程などのように、該基板10を加熱する工程が行われることがある。例えば、基板10に対して赤外線を照射して基板10を加熱する場合には、基板10の吸収係数に基づいて加熱条件を設定することが重要となる。
ここで、図2は、ウィーンの変位則を示す図である。図2において、横軸は黒体温度(℃)を示し、縦軸は黒体輻射のピーク波長(μm)を示している。図2に示すウィーンの変位則によれば、黒体温度に対して黒体輻射のピーク波長が反比例する。ピーク波長をλ(μm)、温度をT(℃)としたとき、λ=2896/(T+273)との関係を有する。基板10を加熱する工程における所定の加熱源からの輻射が黒体輻射であると仮定すると、加熱温度に対応するピーク波長を有する赤外線が、加熱源から基板10に対して照射されることとなる。例えば、温度が約1200℃のときに、赤外線のピーク波長λは2μmとなり、温度が約600℃のときに、赤外線のピーク波長λは3.3μmとなる。
このような波長を有する赤外線を基板10に照射すると、基板10では、自由電子による吸収(自由キャリア吸収)が生じ、これにより、基板10が加熱されることとなる。
そこで、本実施形態では、基板10の自由キャリア吸収に基づいて、基板10における赤外域の吸収係数が、以下の所定の要件を満たしている。
図3は、本実施形態に係る製造方法によって製造されるGaN結晶における室温(27℃)で測定した吸収係数の、自由電子濃度依存性を示す図である。なお、図3は、後述の製造方法によってSiをドープして製造されるGaN結晶からなる基板の測定結果を示している。図3において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸はGaN結晶の吸収係数α(cm-1)を示している。また、GaN結晶中の自由電子濃度をnとし、所定の自由電子濃度nごとにGaN結晶の吸収係数αをプロットしている。図3に示すように、後述の製造方法によって製造されるGaN結晶では、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲において、自由キャリア吸収に起因して、長波長に行くにしたがってGaN結晶における吸収係数αが大きくなる(単調に増加する)傾向を示す。また、GaN結晶中の自由電子濃度nが高くなるにしたがって、GaN結晶における自由キャリア吸収が大きくなる傾向を示す。
本実施形態で用いられる基板10は、後述の製造方法によって製造されたGaN結晶からなっているため、本実施形態の基板10は、結晶歪みが小さく、また、酸素(O)やn型不純物以外の不純物(例えば、n型不純物を補償する不純物等)をほとんど含んでいない状態となっている。これにより、上記図3のような吸収係数の自由電子濃度依存性を示す。その結果、本実施形態の基板10では、以下のように、赤外域の吸収係数を自由キャリア濃度および波長の関数として近似することができる。
具体的には、波長をλ(μm)、27℃における基板10の吸収係数をα(cm-1)、基板10中の自由電子濃度をn(cm-3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、本実施形態の基板10では、少なくとも1μm以上3.3μm以下(好ましくは1μm以上2.5μm以下)の波長範囲における吸収係数αが、以下の式(1)により近似される。
α=nKλa ・・・(1)
(ただし、1.5×10-19≦K≦6.0×10-19、a=3)
なお、「吸収係数αが式(1)により近似される」とは、吸収係数αが最小二乗法で式(1)により近似されることを意味する。つまり、上記規定は、吸収係数が式(1)と完全に一致する(式(1)を満たす)場合だけでなく、所定の誤差の範囲内で式(1)を満たす場合も含んでいる。なお、所定の誤差は、例えば、波長2μmにおいて±0.1α以内、好ましくは±0.01α以内である。
なお、上記波長範囲における吸収係数αは、以下の式(1)’を満たすと考えてもよい。
1.5×10-19nλ3≦α≦6.0×10-19nλ3 ・・・(1)’
また、上記規定を満たす基板10のなかでも高品質な基板では、上記波長範囲における吸収係数αは、以下の式(1)’’により近似される(式(1)’’を満たす)。
α=2.2×10-19nλ3 ・・・(1)’’
なお、「吸収係数αが式(1)’’により近似される」との規定は、上述の規定と同様に、吸収係数が式(1)’’と完全に一致する(式(1)’’を満たす)場合だけでなく、所定の誤差の範囲内で式(1)’’を満たす場合も含んでいる。なお、所定の誤差は、例えば、波長2μmにおいて±0.1α以内、好ましくは±0.01α以内である。
上述の図3では、後述の製造方法によって製造されるGaN結晶における吸収係数αの実測値を細線で示している。具体的には、自由電子濃度nが1.0×1017cm-3のときの吸収係数αの実測値を細い実線で示し、自由電子濃度nが1.2×1018cm-3のときの吸収係数αの実測値を細い点線で示し、自由電子濃度nが2.0×1018cm-3のときの吸収係数αの実測値を細い一点鎖線で示している。一方で、上述の図3では、上記式(1)の関数を太線で示している。具体的には、自由電子濃度nが1.0×1017cm-3のときの式(1)の関数を太い実線で示し、自由電子濃度nが1.2×1018cm-3のときの式(1)の関数を太い点線で示し、自由電子濃度nが2.0×1018cm-3のときの式(1)の関数を太い一点鎖線で示している。図3に示すように、後述の製造方法によって製造されるGaN結晶における吸収係数αの実測値は、式(1)の関数によって精度良くフィッティングすることができる。なお、図3の場合(Siドープの場合)では、K=2.2×10-19としたときに、吸収係数αが式(1)に精度良く近似される。
このように、基板10の吸収係数が式(1)により近似されることにより、基板10の吸収係数を、基板10中の自由電子の濃度nに基づいて精度良く設計することができる。
また、本実施形態では、例えば、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲において、基板10の吸収係数αは、以下の式(2)を満たす。
0.15λ3≦α≦6λ3 ・・・(2)
α<0.15λ3であると、基板10に対して赤外線を充分に吸収させることができず、基板10の加熱が不安定となる可能性がある。これに対し、0.15λ3≦αとすることにより、基板10に対して赤外線を充分に吸収させることができ、基板10を安定的に加熱することができる。一方で、6λ3<αであると、後述のように基板10中のn型不純物の濃度が所定値超(1×1019at・cm-3超)であることに相当し、基板10の結晶性が低下する可能性がある。これに対し、α≦6λ3とすることにより、基板10中のn型不純物の濃度が所定値以下であることに相当し、基板10の良好な結晶性を確保することができる。
なお、基板10の吸収係数αは、以下の式(2)’または(2)’’を満たすことが好ましい。
0.15λ3≦α≦3λ3 ・・・(2)’
0.15λ3≦α≦1.2λ3 ・・・(2)’’
これにより、基板10を安定的に加熱可能としつつ、基板10のより良好な結晶性を確保することができる。
また、本実施形態では、例えば、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲において、基板10の主面内での吸収係数αの最大値と最小値との差(最大値から最小値を引いた差。以下、「基板10の面内吸収係数差」ともいう)をΔαとしたとき、Δα(cm-1)は、式(3)を満たす。
Δα≦1.0 ・・・(3)
Δα>1.0であると、赤外線の照射による加熱効率が基板10の主面内で不均一となる可能性がある。これに対し、Δα≦1.0とすることにより、赤外線の照射による加熱効率を基板10の主面内で均一にすることができる。
なお、Δαは、式(3)’を満たすことが好ましい。
Δα≦0.5 ・・・(3)’
Δα≦0.5とすることにより、赤外線の照射による加熱効率を基板10の主面内で安定的に均一にすることができる。
上記吸収係数αおよびΔαに関する式(2)および(3)の規定は、例えば、波長2μmにおける規定に置き換えることができる。
すなわち、本実施形態では、例えば、基板10における波長2μmでの吸収係数は、1.2cm-1以上48cm-1以下である。なお、基板10における波長2μmでの吸収係数は、1.2cm-1以上24cm-1以下であることが好ましく、1.2cm-1以上9.6cm-1以下であることがより好ましい。
また、本実施形態では、例えば、基板10の主面内における、波長2μmでの吸収係数の最大値と最小値との差は、1.0cm-1以内、好ましくは0.5cm-1以内である。
なお、基板10の面内吸収係数差の上限値について記載したが、基板10の面内吸収係数差の下限値は、小さければ小さいほどよいため、ゼロであることが好ましい。なお、基板10の面内吸収係数差が0.01cm-1であっても、本実施形態の効果を充分に得ることができる。
ここでは、温度が約1200℃であるときの赤外線のピーク波長に相当する波長2μmにおいて、基板10の吸収係数の要件を規定した。しかしながら、基板10の吸収係数について上記要件を満たすことによる効果は、温度が約1200℃であるときに限定されるものではない。というのも、加熱源から照射される赤外線のスペクトルは、ステファン-ボルツマンの法則に従って所定の波長幅を有し、温度が1200℃以外であったとしても波長2μmの成分を有している。このため、温度が1200℃に相当する波長2μmにおいて基板10の吸収係数が上記要件を満たせば、温度が1200℃以外に相当する波長においても、基板10の吸収係数や、基板10の主面内における吸収係数の最大値と最小値との差は、所定の範囲内となる。これにより、温度が1200℃以外であったとしても、基板10を安定的に加熱するとともに、基板10に対する加熱効率を主面内で均一にすることができる。
ところで、上述の図3は、GaN結晶の吸収係数を室温(27℃)で測定した結果である。このため、基板10を加熱する工程での所定の温度条件下における基板10の吸収係数を考える場合には、所定の温度条件下におけるGaN結晶の自由キャリア吸収が、室温の温度条件下におけるGaN結晶の自由キャリア吸収に対してどのように変化するのかを考慮する必要がある。
図4は、GaN結晶の温度に対する、真性キャリア濃度を示す図である。図4に示すように、基板10を構成するGaN結晶では、温度が高くなるにつれて、バンド間(価電子帯と伝導帯との間)で熱励起される真性キャリア濃度niの濃度が高くなる。しかしながら、たとえGaN結晶の温度が1300℃付近となったとしても、GaN結晶のバンド間で熱励起される真性キャリア濃度niの濃度は、7×1015cm-3未満であり、n型不純物のドーピングによってGaN結晶中に生成される自由キャリアの濃度(例えば1×1017cm-3)よりも充分に低い。すなわち、GaN結晶の自由キャリア濃度は、GaN結晶の温度が1300℃未満の温度条件下で、n型不純物のドーピングによって自由キャリア濃度が定まる、いわゆる外因性領域内となっていると言える。
つまり、本実施形態では、少なくとも後述の半導体積層物1および半導体装置2の製造工程での温度条件下(室温(27℃)以上1250℃以下の温度条件下)において基板10のバンド間で熱励起される真性キャリアの濃度が、室温の温度条件下においてn型不純物のドーピングによって基板10中に生じる自由電子の濃度よりも低い(例えば1/10倍以下)。これにより、基板10を加熱する工程での所定の温度条件下での基板10の自由キャリア濃度が、室温の温度条件下での基板10の自由キャリア濃度とほぼ等しいと考えることができ、所定の温度条件下での自由キャリア吸収が、室温での自由キャリア吸収とほぼ等しいと考えることができる。つまり、上述したように、室温において、基板10における赤外域の吸収係数が上記所定の要件を満たす場合、所定の温度条件下においても、基板10における赤外域の吸収係数が上記所定の要件をほぼ維持していると考えることができる。
また、本実施形態の基板10では、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における吸収係数αが式(1)により近似されることから、所定の波長λでは、基板10の吸収係数αは、自由電子濃度nに対してほぼ比例する関係を有している。
図5(a)は、本実施形態に係るに係る製造方法によって製造されるGaN結晶における自由電子濃度に対する波長2μmでの吸収係数の関係を示す図である。図5(a)において、下側の実線(α=1.2×10-18n)は、K=1.5×10-19およびλ=2.0を式(1)に代入した関数であり、上側の実線(α=4.8×10-18n)は、K=6.0×10-19およびλ=2.0を式(1)に代入した関数である。また、図5(a)では、SiをドープしたGaN結晶だけでなく、GeをドープしたGaN結晶も示している。また、透過測定により吸収係数を測定した結果と、分光エリプソメトリ法により吸収係数を測定した結果とを示している。図5(a)に示すように、波長λを2.0μmとしたとき、後述の製造方法によって製造されるGaN結晶の吸収係数αは、自由電子濃度nに対してほぼ比例する関係を有している。また、後述の製造方法によって製造されるGaN結晶における吸収係数αの実測値は、1.5×10-19≦K≦6.0×10-19の範囲内で、式(1)の関数によって精度良くフィッティングすることができる。なお、後述の製造方法によって製造されるGaN結晶は高品質であるため、吸収係数αの実測値は、K=2.2×10-19としたときの式(1)の関数、すなわち、α=1.8×10-18nによって精度よくフィッティングすることができる場合が多い。
本実施形態では、上記した基板10の吸収係数αが自由電子濃度nに対して比例することに基づいて、基板10中における自由電子濃度nが、以下の所定の要件を満たしている。
本実施形態では、例えば、基板10中における自由電子濃度nは、1.0×1018cm-3以上1.0×1019cm-3以下である。これにより、式(1)より、基板10における波長2μmでの吸収係数を1.2cm-1以上48cm-1以下とすることができる。なお、基板10中における自由電子濃度nは、1.0×1018cm-3以上5.0×1018cm-3以下であることが好ましく、1.0×1018cm-3以上2.0×1018cm-3以下であることがより好ましい。これにより、基板10における波長2μmでの吸収係数を、好ましくは1.2cm-1以上24cm-1以下とし、より好ましくは1.2cm-1以上9.6cm-1以下とすることができる。
また、上述のように基板10の主面内における吸収係数αの最大値と最小値との差をΔαとし、基板10の主面内における自由電子濃度nの最大値と最小値との差をΔnとし、波長λを2.0μmしたとき、式(1)を微分することにより、以下の式(4)が求められる。
Δα=8KΔn ・・・(4)
本実施形態では、例えば、基板10の主面内における自由電子濃度nの最大値と最小値との差Δnは、8.3×1017cm-3以内、好ましくは4.2×1017cm-3以内である。これにより、式(4)より、波長2μmでの吸収係数の最大値と最小値との差Δαを、1.0cm-1以内、好ましくは0.5cm-1以内とすることができる。
なお、Δnの上限値について記載したが、Δnの下限値は、小さければ小さいほどよいため、ゼロであることが好ましい。なお、Δnが8.3×1015cm-3であっても、本実施形態の効果を充分に得ることができる。
本実施形態では、基板10中の自由電子濃度nは、基板10中のn型不純物の濃度と等しくなっており、基板10中のn型不純物の濃度が、以下の所定の要件を満たしている。
本実施形態では、例えば、基板10中におけるn型不純物の濃度は、1.0×1018at・cm-3以上1.0×1019at・cm-3以下である。これにより、基板10中における自由電子濃度nを、1.0×1018cm-3以上1.0×1019cm-3以下とすることができる。なお、基板10中におけるn型不純物の濃度は、1.0×1018at・cm-3以上5.0×1018at・cm-3以下であることが好ましく、1.0×1018at・cm-3以上2.0×1018at・cm-3以下であることがより好ましい。これにより、基板10中における自由電子濃度nを、好ましくは1.0×1018cm-3以上5.0×1018cm-3以下とし、より好ましくは1.0×1018cm-3以上2.0×1018cm-3以下とすることができる。
また、本実施形態では、例えば、基板10の主面内におけるn型不純物の濃度の最大値と最小値との差(以下、n型不純物の面内濃度差ともいう)は、8.3×1017at・cm-3以内、好ましくは4.2×1017at・cm-3以内である。これにより、基板10の主面内における自由電子濃度nの最大値と最小値との差Δnを、n型不純物の面内濃度差と等しく、8.3×1017cm-3以内、好ましくは4.2×1017cm-3以内とすることができる。
なお、n型不純物の面内濃度差の上限値について記載したが、n型不純物の面内濃度差の下限値は、小さければ小さいほどよいため、ゼロであることが好ましい。なお、n型不純物の面内濃度差が8.3×1015at・cm-3であっても、本実施形態の効果を充分に得ることができる。
さらに、本実施形態では、基板10中の各元素の濃度が、以下の所定の要件を満たしている。
本実施形態では、n型不純物として用いられるSi、GeおよびOのうち、添加量の制御が比較的難しいOの濃度が極限まで低くなっており、基板10中のn型不純物の濃度は、添加量の制御が比較的容易であるSiおよびGeの合計濃度によって決定されている。
すなわち、基板10中のOの濃度は、基板10中のSiおよびGeの合計の濃度に対して無視できるほど低く、例えば、1/10以下である。具体的には、例えば、基板中10のOの濃度は1×1017at・cm-3未満であり、一方で、基板10中のSiおよびGeの合計の濃度は1×1018at・cm-3以上1.0×1019at・cm-3以下である。これにより、基板10中のn型不純物の濃度を、添加量の制御が比較的容易であるSiおよびGeの合計濃度によって制御することができる。その結果、基板10中の自由電子濃度nを、基板10中のSiおよびGeの合計の濃度と等しくなるよう精度良く制御することができ、基板10の主面内における自由電子の濃度の最大値と最小値との差Δnを、所定の要件を満たすよう精度良く制御することができる。
また、本実施形態では、基板10中のn型不純物以外の不純物の濃度は、基板10中のn型不純物の濃度(すなわちSiおよびGeの合計の濃度)に対して無視できるほど低く、例えば、1/10以下である。具体的には、例えば、基板中10のn型不純物以外の不純物の濃度は1×1017at・cm-3未満である。これにより、n型不純物からの自由電子の生成に対する阻害要因を低減することができる。その結果、基板10中の自由電子濃度nを、基板10中のn型不純物の濃度と等しくなるよう精度良く制御することができ、基板10の主面内における自由電子の濃度の最大値と最小値との差Δnを、所定の要件を満たすよう精度良く制御することができる。
なお、本発明者等は、後述の製造方法を採用することにより、基板10中の各元素の濃度を、上記要件を満たすよう安定的に制御することができることを確認している。
後述の製造方法によれば、基板10中のOおよび炭素(C)の各濃度を5×1015at・cm-3未満まで低減させることができ、さらには、基板10中の鉄(Fe)、クロム(Cr)、ボロン(B)等の各濃度を1×1015at・cm-3未満まで低減させることが可能であることが分かっている。また、この方法によれば、これら以外の元素についても、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)による測定における検出下限値未満の濃度にまで低減させることが可能であることが分かっている。
さらに、本実施形態において後述の製造方法によって製造される基板10では、自由キャリア吸収による吸収係数が従来の基板の吸収係数よりも小さいことから、本実施形態の基板10では、従来の基板よりも、移動度(μ)が高くなっていると推定される。これにより、本実施形態の基板10中の自由電子濃度が従来の基板中の自由電子濃度と等しい場合であっても、本実施形態の基板10の抵抗率(ρ=1/enμ)は、従来の基板の抵抗率よりも低くなっている。具体的には、基板10中における自由電子濃度nが1.0×1018cm-3以上1.0×1019cm-3以下であるとき、基板10の抵抗率は、例えば、2.2mΩ・cm以上17.4mΩ・cm以下である。
(2)半導体積層物
次に、図6を用い、本実施形態に係る半導体積層物(結晶積層体)1について説明する。図6は、本実施形態に係る半導体積層物1を示す概略断面図である。
まず、本実施形態の半導体積層物1の概要について説明する。
図6に示すように、本実施形態の半導体積層物1は、後述の半導体装置2を製造する際に用いられる基板状の中間体として構成されている。半導体積層物1は、例えば、基板10と、半導体層(半導体積層構造、半導体積層体、またはエピタキシャル成長層)20と、を有している。
基板10は、上述の窒化物結晶基板のことであり、基板10における赤外域の吸収係数は、上述の要件を満たしている。
半導体層20は、基板10の主面上にエピタキシャル成長させることにより形成されている。半導体層20は、III族窒化物半導体の単結晶からなり、本実施形態では、例えば、基板10と同様にGaNの単結晶からなっている。
本実施形態では、半導体層20の表面(主面)は、赤外域の反射率について所定の要件を満たしている。具体的には、半導体層20の表面の反射率は、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲において、5%以上30%以下である。これにより、基板10(半導体積層物1)を加熱する工程において、基板10に赤外線を充分に行き届かせることができる。その結果、基板10を安定的に加熱することができる。
なお、半導体層20の表面の表面粗さ(算術平均粗さRa)は、例えば、1nm以上30nm以下である。これにより、半導体層20の表面の反射率を、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲において、5%以上30%以下とすることができる。
次に、本実施形態の半導体積層物1の具体的な構成について説明する。
本実施形態の半導体積層物1は、例えば、高耐圧のpn接合ダイオードとしての半導体装置2を製造する際に用いられる中間体として構成されている。半導体積層物1のうちの半導体層20は、例えば、積層構造を有している。具体的には、半導体層20は、例えば、下地n型半導体層21と、ドリフト層22と、第1p型半導体層23と、第2p型半導体層24と、を有している。
(下地n型半導体層)
下地n型半導体層21は、基板10の結晶性を引き継いでドリフト層22を安定的にエピタキシャル成長させるバッファ層として、基板10の主面に接するよう設けられている。また、下地n型半導体層12は、n型不純物を含むn型GaN層として構成されている。下地n型半導体層12中に含まれるn型不純物としては、基板10と同様に、例えば、SiおよびGeが挙げられる。下地n型半導体層12中のn型不純物の濃度は、基板10とほぼ等しく、例えば、1.0×1018at・cm-3以上1.0×1019at・cm-3以下である。
下地n型半導体層21の厚さは、ドリフト層22の厚さよりも薄く、例えば、0.1μm以上3μm以下である。
(ドリフト層)
ドリフト層22は、下地n型半導体層21上に設けられ、低濃度のn型不純物を含むn型GaN層として構成されている。ドリフト層22中のn型不純物としては、下地n型半導体層21中のn型不純物と同様に、例えば、SiおよびGeが挙げられる。
ドリフト層22中のn型不純物濃度は、基板10および下地n型半導体層21のそれぞれのn型不純物濃度よりも低く、例えば、1.0×1015at・cm-3以上5.0×1016at・cm-3以下である。ドリフト層22のn型不純物濃度を1.0×1015at・cm-3以上とすることにより、半導体装置2のオン抵抗を低減することができる。一方で、ドリフト層22のn型不純物濃度を5.0×1016at・cm-3以下とすることにより、半導体装置2の所定の耐圧を確保することができる。
ドリフト層22は、半導体装置2の耐圧を向上させるため、例えば、下地n型半導体層21よりも厚く設けられている。具体的には、ドリフト層22の厚さは、例えば、3μm以上40μm以下である。ドリフト層22の厚さを3μm以上とすることにより、半導体装置2の所定の耐圧を確保することができる。一方で、ドリフト層22の厚さを40μm以下とすることにより、半導体装置2のオン抵抗を低減することができる。
(第1p型半導体層)
第1p型半導体層23は、ドリフト層22上に設けられ、p型不純物(アクセプタ)を含むp型GaN層として構成されている。第1p型半導体層23中のp型不純物としては、例えば、マグネシウム(Mg)が挙げられる。また、第1p型半導体層23中のp型不純物濃度は、例えば、1.0×1017at・cm-3以上2.0×1019at・cm-3以下である。
なお、第1p型半導体層23の厚さは、ドリフト層22の厚さよりも薄く、例えば、100nm以上500nm以下である。
(第2p型半導体層)
第2p型半導体層24は、第1p型半導体層23上に設けられ、高濃度のp型不純物を含むp型GaN層として構成されている。第2p型半導体層24中のp型不純物としては、第1p型半導体層23と同様に、例えば、Mgが挙げられる。また、第2p型半導体層24中のp型不純物濃度は、第1p型半導体層23中のp型不純物濃度よりも高く、例えば、5.0×1019at・cm-3以上2.0×1020at・cm-3以下である。
第2p型半導体層24中のp型不純物濃度を上述の範囲内とすることにより、第2p型半導体層24と後述するp型電極とのコンタクト抵抗を低減させることができる。
なお、第2p型半導体層24の厚さは、第1p型半導体層23の厚さよりも薄く、例えば、10nm以上50nm以下である。
(3)半導体積層物の製造方法および半導体装置の製造方法
次に、図6~図12を用い、本実施形態に係る半導体積層物1の製造方法および半導体装置2の製造方法について説明する。図7は、気相成長装置200の概略構成図である。
図8(a)は、種結晶基板5上にGaN結晶膜6を厚く成長させた様子を示す図であり、(b)は、厚く成長させたGaN結晶膜6をスライスすることで複数の窒化物結晶基板10を取得した様子を示す図である。図9(a)は、窒化物結晶基板10または半導体積層物1が載置される保持部材300を示す概略上面図であり、(b)は、窒化物結晶基板10または半導体積層物1が載置される保持部材300を示す概略正面図である。図10(a)、(b)、図11(a)および(b)は、半導体装置の製造工程を示す概略断面図である。図12は、本実施形態に係る半導体装置2を示す概略断面図である。以下、ステップをSと略す。
(S110:基板用意工程)
まず、基板10を用意する基板用意工程S110を行う。本実施形態の基板用意工程S110は、例えば、基板作製工程S112と、測定工程S114と、判定工程S116と、を有している。
(S112:基板作製工程)
以下に示すハイドライド気相成長装置(HVPE装置)200を用いて、基板10を作製する。
(HVPE装置の構成)
基板10の製造に用いるHVPE装置200の構成について、図7を参照しながら詳しく説明する。
HVPE装置200は、成膜室201が内部に構成された気密容器203を備えている。成膜室201内には、インナーカバー204が設けられているとともに、そのインナーカバー204に囲われる位置に、種結晶基板(以下、種基板ともいう)5が配置される基台としてのサセプタ208が設けられている。サセプタ208は、回転機構216が有する回転軸215に接続されており、その回転機構216の駆動に合わせて回転可能に構成されている。
気密容器203の一端には、ガス生成器233a内へ塩化水素(HCl)ガスを供給するガス供給管232a、インナーカバー204内へアンモニア(NH3)ガスを供給するガス供給管232b、インナーカバー204内へ後述するドーピングガスを供給するガス供給管232c、インナーカバー204内へパージガスとして窒素(N2)ガスおよび水素(H2)ガスの混合ガス(N2/H2ガス)を供給するガス供給管232d、および、成膜室201内へパージガスとしてのN2ガスを供給するガス供給管232eが接続されている。ガス供給管232a~232eには、上流側から順に、流量制御器241a~241e、バルブ243a~243eがそれぞれ設けられている。ガス供給管232aの下流には、原料としてのGa融液を収容するガス生成器233aが設けられている。ガス生成器233aには、HClガスとGa融液との反応により生成された塩化ガリウム(GaCl)ガスを、サセプタ208上に配置された種基板5等に向けて供給するノズル249aが設けられている。ガス供給管232b,232cの下流側には、これらのガス供給管から供給された各種ガスをサセプタ208上に配置された種基板5等に向けて供給するノズル249b,249cがそれぞれ接続されている。ノズル249a~249cは、サセプタ208の表面に対して交差する方向にガスを流すよう配置されている。ノズル249cから供給されるドーピングガスは、ドーピング原料ガスとN2/H2ガス等のキャリアガスとの混合ガスである。ドーピングガスについては、ドーピング原料のハロゲン化物ガスの熱分解を抑える目的でHClガスを一緒に流してもよい。ドーピングガスを構成するドーピング原料ガスとしては、例えば、シリコン(Si)ドープの場合であればジクロロシラン(SiH2Cl2)ガスまたはシラン(SiH4)ガス、ゲルマニウム(Ge)ドープの場合であればテトラクロロゲルマン(GeCl4)ガス,ジクロロゲルマン(GeH2Cl2)ガスまたはゲルマン(GeH4)ガスを、それぞれ用いることが考えられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
気密容器203の他端には、成膜室201内を排気する排気管230が設けられている。排気管230には、ポンプ(あるいはブロワ)231が設けられている。気密容器203の外周には、ガス生成器233a内やサセプタ208上の種基板5等を領域別に所望の温度に加熱するゾーンヒータ207a,207bが設けられている。また、気密容器203内には成膜室201内の温度を測定する温度センサ(ただし不図示)が設けられている。
上述したHVPE装置200の構成部材、特に各種ガスの流れを形成するための各部材については、後述するような低不純物濃度の結晶成長を行うことを可能にすべく、例えば、以下に述べるように構成されている。
具体的には、図7中においてハッチング種類により識別可能に示しているように、気密容器203のうち、ゾーンヒータ207a,207bの輻射を受けて結晶成長温度(例えば1000℃以上)に加熱される領域であって、種基板5に供給するガスが接触する領域である高温領域を構成する部材として、石英非含有およびホウ素非含有の材料からなる部材を用いることが好ましい。具体的には、高温領域を構成する部材として、例えば、炭化ケイ素(SiC)コートグラファイトからなる部材を用いることが好ましい。その一方で、比較的低温領域では、高純度石英を用いて部材を構成することが好ましい。つまり、比較的高温になりHClガス等と接触する高温領域では、高純度石英を用いず、SiCコートグラファイトを用いて各部材を構成する。詳しくは、インナーカバー204、サセプタ208、回転軸215、ガス生成器233a、各ノズル249a~249c等を、SiCコートグラファイトで構成する。なお、気密容器203を構成する炉心管は石英とするしかないので、成膜室201内には、サセプタ208やガス生成器233a等を囲うインナーカバー204が設けられているのである。気密容器203の両端の壁部や排気管230等については、ステンレス等の金属材料を用いて構成すればよい。
例えば、「Polyakov et al. J. Appl. Phys. 115, 183706 (2014)」によれば、950℃で成長することにより、低不純物濃度のGaN結晶の成長が実現可能なことが開示されている。ところが、このような低温成長では、得られる結晶品質の低下を招き、熱物性、電気特性等において良好なものが得られない。
これに対し、本実施形態の上述したHVPE装置200によれば、比較的高温になりHClガス等と接触する高温領域では、SiCコートグラファイトを用いて各部材を構成している。これにより、例えば、1050℃以上というGaN結晶の成長に適した温度域においても、石英やステンレス等に起因するSi、O、C、Fe、Cr、Ni等の不純物が結晶成長部へ供給されることを遮断することができる。その結果、高純度で、かつ、熱物性および電気特性においても良好な特性を示すGaN結晶を成長させることが実現可能である。
なお、HVPE装置200が備える各部材は、コンピュータとして構成されたコントローラ280に接続されており、コントローラ280上で実行されるプログラムによって、後述する処理手順や処理条件が制御されるように構成されている。
(基板10の製造工程)
続いて、上述のHVPE装置200を用いて種基板5上にGaN単結晶をエピタキシャル成長させ、その後、成長させた結晶をスライスして基板10を取得するまでの一連の処理について、図7を参照しながら詳しく説明する。以下の説明において、HVPE装置200を構成する各部の動作はコントローラ280により制御される。
基板10の製造工程は、搬入ステップと、結晶成長ステップと、搬出ステップと、スライスステップと、を有している。
(搬入ステップ)
具体的には、先ず、反応容器203の炉口を開放し、サセプタ208上に種基板5を載置する。サセプタ208上に載置する種基板5は、後述する基板10を製造するための基(種)となるもので、窒化物半導体の一例であるGaNの単結晶からなる板状のものである。
サセプタ208上への種基板5の載置にあたっては、サセプタ208上に載置された状態の種基板5の表面、すなわちノズル249a~249cに対向する側の主面(結晶成長面、下地面)が、GaN結晶の(0001)面、すなわち+C面(Ga極性面)となるようにする。
(結晶成長ステップ)
本ステップでは、反応室201内への種基板5の搬入が完了した後に、炉口を閉じ、反応室201内の加熱および排気を実施しながら、反応室201内へのH2ガス、或いは、H2ガスおよびN2ガスの供給を開始する。そして、反応室201内が所望の処理温度、処理圧力に到達し、反応室201内の雰囲気が所望の雰囲気となった状態で、ガス供給管232a,232bからのHClガス、NH3ガスの供給を開始し、種基板5の表面に対してGaClガスおよびNH3ガスをそれぞれ供給する。
これにより、図8(a)に断面図を示すように、種基板5の表面上にc軸方向にGaN結晶がエピタキシャル成長し、GaN結晶6が形成される。このとき、SiH2Cl2ガスを供給することで、GaN結晶6中に、n型不純物としてのSiを添加することが可能となる。
なお、本ステップでは、種基板5を構成するGaN結晶の熱分解を防止するため、種基板5の温度が500℃に到達した時点、或いはそれ以前から、反応室201内へのNH3ガスの供給を開始するのが好ましい。また、GaN結晶6の面内膜厚均一性等を向上させるため、本ステップは、サセプタ208を回転させた状態で実施するのが好ましい。
本ステップでは、ゾーンヒータ207a,207bの温度は、ガス生成器233aを含む反応室201内の上流側の部分を加熱するヒータ207aでは例えば700~900℃の温度に設定し、サセプタ208を含む反応室201内の下流側の部分を加熱するヒータ207bでは例えば1000~1200℃の温度に設定するのが好ましい。これにより、サセプタ208は1000~1200℃の所定の温度に調整される。本ステップでは、内部ヒータ(ただし不図示)はオフの状態で使用してもよいが、サセプタ208の温度が上述の1000~1200℃の範囲である限りにおいては、内部ヒータを用いた温度制御を実施しても構わない。
本ステップのその他の処理条件としては、以下が例示される。
処理圧力:0.5~2気圧
GaClガスの分圧:0.1~20kPa
NH3ガスの分圧/GaClガスの分圧:1~100
H2ガスの分圧/GaClガスの分圧:0~100
SiH2Cl2ガスの分圧:2.5×10-5~1.3×10-3kPa
また、種基板5の表面に対してGaClガスおよびNH3ガスを供給する際は、ガス供給管232a~232bのそれぞれから、キャリアガスとしてのN2ガスを添加してもよい。N2ガスを添加してノズル249a~249bから供給されるガスの吹き出し流速を調整することで、種基板5の表面における原料ガスの供給量等の分布を適切に制御し、面内全域にわたり均一な成長速度分布を実現することができる。なお、N2ガスの代わりにArガスやHeガス等の希ガスを添加するようにしてもよい。
(搬出ステップ)
種基板5上に所望の厚さのGaN結晶6を成長させたら、反応室201内へNH3ガス、N2ガスを供給しつつ、また、反応室201内を排気した状態で、ガス生成器233aへのHClガスの供給、反応室201内へH2ガスの供給、ゾーンヒータ207a、207bによる加熱をそれぞれ停止する。そして、反応室201内の温度が500℃以下に降温したらNH3ガスの供給を停止し、反応室201内の雰囲気をN2ガスへ置換して大気圧に復帰させる。そして、反応室201内を、例えば200℃以下の温度、すなわち、反応容器203内からのGaNの結晶インゴット(主面上にGaN結晶6が形成された種基板5)の搬出が可能となる温度へと降温させる。その後、結晶インゴットを反応室201内から外部へ搬出する。
(スライスステップ)
その後、搬出した結晶インゴットを例えばGaN結晶6の成長面と平行な方向にスライスすることにより、図8(b)に示すように、1枚以上の基板10を得ることができる。
基板10の各種組成や各種物性等は、上述した通りであるので説明を割愛する。このスライス加工は、例えばワイヤソーや放電加工機等を用いて行うことが可能である。基板10の厚さは250μm以上、例えば400μm程度の厚さとする。その後、基板10の表面(+c面)に対して所定の研磨加工を施すことで、この面をエピレディなミラー面とする。なお、基板10の裏面(-c面)はラップ面あるいはミラー面とする。
(S114:測定工程)
複数の基板10が作製されたら、複数の基板10のそれぞれに対して光を照射し、複数の基板10のそれぞれにおいて赤外域の吸収係数を測定する。このとき、基板10の主面内のうち少なくとも2点以上において赤外域の吸収係数を測定する。なお、このとき、基板10の主面内のうちの測定箇所を、例えば、2点以上10点以下とし、好ましくは3点以上5点以下とする。測定箇所が1点のみであると、基板10の主面内における吸収係数差を求めることができない。一方で、測定箇所が10点超であると、測定工程に係る時間が長くなり、基板10の生産性が低下する可能性がある。
また、少なくとも、基板10の主面の中心と、基板10の主面の中心から径方向に所定距離離れた位置とにおいて、吸収係数を測定することが好ましい。ここで、上記基板作製工程S112では種基板5を回転させながらGaN結晶6を成長させるため、基板10の吸収係数は、基板10の主面の中心に対して同心円状に等しくなる傾向がある。したがって、少なくとも基板10の主面の中心と、基板10の主面の中心から径方向に所定距離離れた位置とにおいて吸収係数を測定することにより、基板10の主面内における吸収係数の分布を正確に把握(予測)することができる。なお、基板10の主面の中心以外の測定位置は、例えば、基板10の主面の中心から径方向に、基板10の半径に対して20%以上80%以下の距離だけ離れた位置とする。
(S116:判定工程)
次に、測定された基板10の吸収係数に基づいて、基板10が赤外域の吸収係数について所定の要件を満たしているか否かを判定する。具体的には、例えば、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における吸収係数αが上記式(1)により近似されるかを判定する。また、例えば、基板10における波長2μmでの吸収係数が1.2cm-1以上48cm-1以下であり、且つ、基板10の主面内における波長2μmでの吸収係数の最大値と最小値との差が1.0cm-1以内であるかを判定する。このとき、基板作製工程S112で得られた複数の基板10のそれぞれに対して、上記判定を行う。
次に、上記判定結果に基づいて、複数の基板10のうち、赤外域の吸収係数についての上記要件を満たす基板10を良品として選別し、上記要件を満たさない基板10を排除する。これにより、後述の基板10を加熱する工程で精度良くかつ再現性良く加熱することが可能な基板10を良品として選別することができ、また、後述の基板10を加熱する工程での加熱効率を均一にすることが可能な基板10を良品として選別することができる。
なお、基板10における波長2μmでの吸収係数が1.2cm-1以上24cm-1以下であり、且つ、基板10の主面内における波長2μmでの吸収係数の最大値と最小値との差が0.5cm-1以内であるかを判定し、複数の基板10のうち、赤外域の吸収係数についての上記要件を満たす基板10を最良品として選別してもよい。
以上により、図1に示すように、本実施形態の基板10が製造される。
以下、良品(または最良品)として選別された基板10を用い、半導体積層物1および半導体装置2を製造する。以下の工程では、少なくとも1工程として、基板10に対して少なくとも赤外線を照射し、基板10を加熱する工程を行う。本実施形態において基板10を加熱する工程としては、例えば、半導体層形成工程S120、活性化アニール工程S130、保護膜形成工程S143、オーミックアロイ工程S146などが挙げられる。
(S120:半導体層形成工程)
次に、例えば、有機金属気相成長法(MOVPE:Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)により、基板10に対して少なくとも赤外線を照射し、基板10上に半導体層20をエピタキシャル成長させる。
このとき、基板10が赤外域の吸収係数について上記要件を満たすことで、基板10への赤外線の照射によって基板10を安定的に加熱し、基板10の温度を精度よく制御することができる。また、赤外線の照射による加熱効率を該基板10の主面内で均一にすることができる。その結果、半導体層20の結晶性、厚さ、各種不純物濃度等を精度良く制御し、基板10の主面内で均一にすることができる。
具体的には、例えば、以下の手順により、本実施形態の半導体層20を形成する。
まず、MOVPE装置(不図示)の処理室内に基板10を搬入する。
このとき、図9(a)および(b)に示すように、保持部材300上に基板10を載置する。保持部材300は、例えば、3つの凸部300pを有し、当該3つの凸部300pによって基板10を保持するよう構成されている。これにより、基板10を加熱する際、保持部材300から基板10への熱伝達ではなく、主に、基板10に対して赤外線を照射することにより、基板10の加熱を行うことができる。ここで、基板10の加熱を板状の保持部材からの熱伝達によって行う場合(或いは熱伝達を組み合わせて行う場合)、基板10の裏面状態や保持部材の表面状態によっては、基板10をその面内全域にわたって均一に加熱することが困難となる。また、基板10の加熱に伴って基板10に反りが生じ、基板10と保持部材との接触具合が徐々に変化する可能性がある。このため、基板10の加熱条件がその面内全域にわたって不均一になる場合もある。これに対し、本実施形態では、上記のような保持部材300を用い、基板10の加熱を、主に基板10に対して赤外線を照射することによって行うことにより、このような課題を解消することができ、基板10を主面内で安定的に均一に加熱することができる。
なお、熱伝達による影響を低減するため、凸部300pと基板10との間の接触面積が、基板10の被支持面の5%以下、好ましくは3%以下の大きさとなるように、凸部300pの形状や寸法を適正に選択することが好ましい。
基板10を保持部材300上に載置したら、MOVPE装置の処理室内に、水素ガスおよびNH3ガス(さらにN2ガス)を供給し、所定の加熱源(例えばランプヒータ)から基板10に対して赤外線を照射し、基板10を加熱する。基板10の温度が所定の成長温度(例えば1000℃以上1100℃以下)となったら、例えば、III族有機金属原料としてトリメチルガリウム(TMG)と、V族原料としてNH3ガスとを、基板10に対して供給する。これと同時に、例えば、n型不純物原料としてSiH4ガスを基板10に対して供給する。これにより、基板10上に、n型GaN層としての下地n型半導体層21をエピタキシャル成長させる。
次に、下地n型半導体層21上に、下地n型半導体層21よりも低濃度のn型不純物を含むn型GaN層としてのドリフト層22をエピタキシャル成長させる。
次に、ドリフト層22上に、p型GaN層としての第1p型半導体層23をエピタキシャル成長させる。このとき、n型不純物原料に代えて、例えば、p型不純物原料としてビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を基板10に対して供給する。
次に、第1p型半導体層23上に、第1p型半導体層23よりも高濃度のp型不純物を含むp型GaN層としての第2p型半導体層24をエピタキシャル成長させる。
第2p型半導体層24の成長が完了したら、III族有機金属原料の供給と、基板10の加熱とを停止する。そして、基板10の温度が500℃以下となったら、V族原料の供給を停止する。その後、MOVPE装置の処理室内の雰囲気をN2ガスへ置換して大気圧に復帰させるとともに、処理室内を基板搬出可能な温度にまで低下させた後、成長後の基板10を処理室内から搬出する。
これにより、図6に示すように、本実施形態の半導体積層物1が製造される。
(S130:活性化アニール工程)
次に、例えば、所定の加熱処理装置(不図示)により、不活性ガスの雰囲気下で、基板10に対して少なくとも赤外線を照射し、半導体積層物1をアニールする。これにより、第1p型半導体層23および第2p型半導体層24のそれぞれからp型不純物に対して結合した水素(H)を脱離させ、第1p型半導体層23および第2p型半導体層24のそれぞれの中のp型不純物を(電気的に)活性化させる。
このとき、半導体層20のうち少なくともドリフト層22は、自由電子濃度が低く、赤外域での吸収係数が低いため、加熱され難い。これに対し、本実施形態では、所定の加熱源(例えばランプヒータ)からの赤外線の照射により少なくとも基板10を加熱し、第1p型半導体層23および第2p型半導体層24を加熱する。
また、このとき、基板10が赤外域の吸収係数について上記要件を満たすことで、基板10への赤外線の照射によって基板10を安定的に加熱し、基板10の温度を精度よく制御することができる。また、赤外線の照射による加熱効率を該基板10の主面内で均一にすることができる。その結果、第1p型半導体層23および第2p型半導体層24のそれぞれの中のp型不純物の活性化具合(活性化率、自由正孔濃度)を精度良く制御し、基板10の主面内で均一にすることができる。
また、このとき、図9(a)および(b)に示す保持部材300を用い、基板10を加熱する。これにより、保持部材300から基板10への熱伝達ではなく、主に、基板10に対して赤外線を照射することにより、基板10の加熱を行うことができる。その結果、基板10を主面内で安定的に均一に加熱することができる。
なお、このとき、不活性ガス雰囲気を、例えば、N2ガス、またはアルゴン(Ar)ガス等の希ガスを含む雰囲気とする。また、基板10(半導体積層物1)の温度を、例えば、500℃以上700℃以下とし、アニール時間を、例えば、3分以上30分以下とする。
(S140:半導体装置作製工程)
次に、上記した半導体積層物1を用いて半導体装置2を作製する半導体装置作製工程S140を行う。本実施形態の半導体装置作製工程S140は、例えば、メサ形成工程S141と、第1p型電極形成工程S142と、保護膜形成工程S143と、第2p型電極形成工程S144と、n型電極形成工程S145と、オーミックアロイ工程S146と、を有している。
(S141:メサ形成工程)
次に、第2p型半導体層24上に所定のレジストパターン(不図示)が形成された状態で、例えば、反応性イオンエッチング法(RIE:Reactive Ion Etching)により、第2p型半導体層24、第1p型半導体層23、およびドリフト層22の一部をエッチングする。
これにより、図10(a)に示すように、第2p型半導体層24、第1p型半導体層23、およびドリフト層22にメサ構造29を形成する。その後、レジストパターンを除去する。
(S142:第1p型電極形成工程)
次に、メサ構造29およびドリフト層22の表面を覆うように、例えばスパッタ法によりパラジウム(Pd)/ニッケル(Ni)膜を形成し、フォトリソグラフィによりPd/Ni膜を所定の形状にパターニングする。
これにより、図10(b)に示すように、メサ構造29の上面、すなわち第2p型半導体層24の上に、第1p型電極(第1アノード)320を形成する。
(S143:保護膜形成工程)
次に、メサ構造29およびドリフト層22の表面を覆うように、例えばスピンコート法によりSOG(Spin On Glass)膜を形成する。このとき、SOG膜の厚さを、例えば、100nm以上500nm以下とする。
次に、例えば、所定の加熱処理装置(不図示)により、例えばN2ガスなどの不活性ガスの雰囲気下で、基板10に対して少なくとも赤外線を照射し、半導体積層物1をアニールする。これにより、SOG膜から有機溶媒成分を揮発させ、SOG膜を硬化させる。
このとき、SOG膜における赤外域での吸収係数は低いため、SOG膜自体は、赤外線の照射によって加熱され難い。これに対し、本実施形態では、所定の加熱源(例えばランプヒータ)からの赤外線の照射により少なくとも基板10を加熱し、SOG膜を加熱する。
また、このとき、基板10が赤外域の吸収係数について上記要件を満たすことで、基板10への赤外線の照射によって基板10を安定的に加熱し、基板10の温度を精度よく制御することができる。また、赤外線の照射による加熱効率を該基板10の主面内で均一にすることができる。その結果、SOG膜の膜質(SOG膜からの溶媒の揮発具合や硬化具合等)を精度良く制御し、基板10の主面内で均一にすることができる。
また、このとき、図9(a)および(b)に示す保持部材300を用い、基板10を加熱する。これにより、保持部材300から基板10への熱伝達ではなく、主に、基板10に対して赤外線を照射することにより、基板10の加熱を行うことができる。その結果、基板10を主面内で安定的に均一に加熱することができる。
なお、このとき、不活性ガス雰囲気を、例えば、N2ガス、またはArガス等の希ガスを含む雰囲気とする。また、基板10(半導体積層物1)の温度を、例えば、200℃以上500℃以下とし、アニール時間を、例えば、30分以上3時間以下とする。
SOG膜を形成したら、SOG膜上に、例えばスパッタ法によりシリコン酸化膜(SiO2膜)を形成する。なお、SiO2膜の厚さを、例えば、100nm以上500nm以下とする。SOG膜上にSiO2膜を形成したら、フォトリソグラフィによりこれらの酸化膜を所定の形状にパターニングする。
これにより、図11(a)に示すように、メサ構造29の外側のドリフト層22の表面、メサ構造29の側面、および第2p型半導体層24の表面の一部(メサ構造29の上面の周囲)を覆うように、保護膜40を形成する。
(S144:第2p型電極形成工程)
次に、保護膜40の開口内の第1p型電極32および保護膜40を覆うように、例えばスパッタ法によりTi/Al膜を形成し、フォトリソグラフィによりTi/Al膜を所定の形状にパターニングする。
これにより、図11(b)に示すように、保護膜40の開口内で第1p型電極32に接するとともに、保護膜40上において第1p型電極32よりも外側に延在しメサ構造29を覆うように、第2p型電極(p型電極パッド)34を形成する。詳細には、第2p型電極34は、半導体積層物1を上方から平面視したときに、メサ構造29の外側のドリフト層22の表面の一部、メサ構造29の側面、およびメサ構造29の上面と重なるように形成される。これにより、第1p型電極32の端部や、メサ構造29の側面近傍のpn接合界面付近に電界が集中することを抑制することができる。
(S145:n型電極形成工程)
次に、基板10の裏面側に、例えばスパッタ法によりTi/Al膜を形成し、フォトリソグラフィによりTi/Al膜を所定の形状にパターニングする。これにより、基板10の裏面側に、n型電極36を形成する。
(S146:オーミックアロイ工程)
次に、例えば、所定の加熱処理装置(不図示)により、不活性ガスの雰囲気下で、半導体積層物1に対して少なくとも赤外線を照射し、半導体積層物1をアニールする。これにより、第1p型電極32、第2p型電極34およびn型電極36のそれぞれを構成する各金属膜の密着性を向上させるとともに、第2p型半導体層24に対する第1p型電極32の接触抵抗、第1p型電極32に対する第2p型電極34の接触抵抗、および基板10に対するn型電極36の接触抵抗を低減させる。
このとき、所定の加熱源(例えばランプヒータ)からの赤外線の照射により、第1p型電極32、第2p型電極34およびn型電極36を直接加熱する。さらに、赤外線の照射により基板10を加熱し、第1p型電極32、第2p型電極34およびn型電極36を加熱する。
また、このとき、基板10が赤外域の吸収係数について上記要件を満たすことで、基板10への赤外線の照射によって基板10を安定的に加熱し、基板10の温度を精度よく制御することができる。また、赤外線の照射による加熱効率を該基板10の主面内で均一にすることができる。その結果、第2p型半導体層24に対する第1p型電極32の接触抵抗、第1p型電極32に対する第2p型電極34の接触抵抗、および基板10に対するn型電極36の接触抵抗を基板10の主面内で均一にすることができる。
また、このとき、図9(a)および(b)に示す保持部材300を用い、基板10を加熱する。これにより、保持部材300から基板10への熱伝達ではなく、主に、基板10に対して赤外線を照射することにより、基板10の加熱を行うことができる。その結果、基板10を主面内で安定的に均一に加熱することができる。
なお、このとき、不活性ガス雰囲気を、例えば、N2ガス、またはArガス等の希ガスを含む雰囲気とする。また、基板10(半導体積層物1)の温度を、例えば、500℃以上700℃以下とし、アニール時間を、例えば、30分以上3時間以下とする。
その後、半導体積層物1をダイシングし、所定の大きさのチップに切り分ける。
以上により、図12に示すように、本実施形態の半導体装置2が製造される。
(4)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
(a)本実施形態の製造方法により製造される基板10は、結晶歪みが小さく、また、Oやn型不純物以外の不純物(例えば、n型不純物を補償する不純物等)をほとんど含んでいない状態となっている。これにより、本実施形態の基板10では、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における吸収係数αを所定の定数Kおよび定数aを用いて上記式(1)(α=nKλa)により近似することができる。その結果、基板10に対して少なくとも赤外線を照射し基板10を加熱する工程での加熱条件を容易に設定することができ、該基板10を精度良くかつ再現性良く加熱することができる。
なお、参考までに、従来の製造方法によって製造されるGaN結晶では、吸収係数αを、上記式(1)によって上記規定の定数Kおよび定数aを用いて精度良く近似することが困難である。
ここで、図5(b)は、自由電子濃度に対する波長2μmでの吸収係数の関係を比較する図である。図5(b)において、本実施形態の製造方法により製造されるGaN結晶の吸収係数だけでなく、論文(A)~(D)に記載されたGaN結晶の吸収係数も示している。
論文(A):A.S. Barker Physical Review B 7 (1973) p743 Fig.8
論文(B):P. Perlin, Physicsl Review Letter
75 (1995) p296 Fig。1 0.3GPaの曲線から推定。
論文(C):G. Bentoumi, Materical Science Engineering B50 (1997) p142-147 Fig.1
論文(D):S. Porowski, J. Crystal Growth 189-190 (1998) p.153-158 Fig.3 ただし、T=12K
図5(b)に示すように、論文(A)~(D)に記載の従来のGaN結晶における吸収係数αは、本実施形態の製造方法により製造されるGaN結晶の吸収係数αよりも大きかった。また、従来のGaN結晶における吸収係数αの傾きは、本実施形態の製造方法により製造されるGaN結晶の吸収係数αの傾きと異なっていた。なお、論文(A)および(C)では、吸収係数αの傾きが、自由電子濃度nが大きくなるにしたがって変化しているようにも見受けられた。このため、論文(A)~(D)に記載の従来のGaN結晶では、吸収係数αを、上記式(1)によって上記規定の定数Kおよび定数aを用いて精度良く近似することが困難であった。具体的には、例えば、定数Kが上記規定の範囲よりも高くなっていたり、定数aが3以外の値となっていたりする可能性があった。
これは、以下の理由によるものと考えられる。従来のGaN結晶中には、その製造方法に起因して、大きな結晶歪みが生じていたと考えられる。GaN結晶中に結晶歪みが生じていると、GaN結晶中に転位が多くなる。このため、従来のGaN結晶では、転位散乱が生じ、転位散乱に起因して、吸収係数αが大きくなったり、ばらついたりしたと考えられる。または、従来の製造方法によって製造されるGaN結晶では、意図せずに混入するOの濃度が高くなっていたと考えられる。GaN結晶中にOが高濃度に混入すると、GaN結晶の格子定数aおよびcが大きくなる(参考:Chris G. Van de Walle, Physical Review B vol.68, 165209 (2003))。このため、従来のGaN結晶では、Oによって汚染された部分と、比較的純度の高い部分との間で、局所的な格子不整合が生じ、GaN結晶中に結晶歪みが生じていたと考えられる。その結果、従来のGaN結晶では、吸収係数αが大きくなったり、ばらついたりしたと考えられる。または、従来の製造方法によって製造されるGaN結晶では、n型不純物を補償する補償不純物が意図せずに混入し、補償不純物の濃度が高くなっていたと考えられる。補償不純物の濃度が高いと、所定の自由電子濃度を得るために、高濃度のn型不純物が必要となる。このため、従来のGaN結晶では、補償不純物およびn型不純物を含む合計の不純物濃度が高くなり、結晶歪みが大きくなっていたと考えられる。その結果、従来のGaN結晶では、吸収係数αが大きくなったり、ばらついたりしたと考えられる。なお、実際にOを含み格子が歪んだGaN自立基板では、同じ自由電子濃度を有する本実施形態の基板10と比較して、(移動度が低く)吸収係数αが高いことを確認している。
このような理由により、従来のGaN結晶では、吸収係数αを、上記式(1)によって上記規定の定数Kおよび定数aを用いて精度良く近似することが困難であった。つまり、従来のGaN結晶では、吸収係数を自由電子の濃度nに基づいて精度良く設計することは困難であった。このため、従来のGaN結晶からなる基板では、基板に対して少なくとも赤外線を照射し基板を加熱する工程において、基板によって加熱効率がばらつき易く、基板の温度を制御することが困難となっていた。その結果、基板ごとの温度の再現性が低くなる可能性があった。
これに対し、本実施形態の製造方法により製造される基板10は、結晶歪みが小さく、また、Oやn型不純物以外の不純物をほとんど含んでいない状態となっている。本実施形態の基板10の吸収係数は、結晶歪み起因の散乱(転位散乱)による影響が小さく、主にイオン化不純物散乱に依存している。これにより、基板10の吸収係数αのばらつきを小さくすことができ、基板10の吸収係数αを所定の定数Kおよび定数aを用いて上記式(1)により近似することができる。基板10の吸収係数αが上記式(1)により近似可能であることで、基板10の吸収係数を、基板10中へのn型不純物のドーピングによって生じる自由電子の濃度nに基づいて精度良く設計することができる。基板10の吸収係数を自由電子の濃度nに基づいて精度良く設計することで、基板10に対して少なくとも赤外線を照射し基板10を加熱する工程において、加熱条件を容易に設定することができ、基板10の温度を精度良く制御することができる。その結果、基板10ごとの温度の再現性を向上させることができる。このようにして、本実施形態では、基板10を精度良くかつ再現性良く加熱することが可能となる。
(b)本実施形態では、結晶歪みが小さい基板10上に半導体層30を成長させることで、半導体層30においても結晶歪みを小さくすることができ、半導体層30の結晶性を向上させることができる。また、基板10の温度を精度良く制御することで、基板10上に成長する半導体層20等の結晶性、厚さ、各種不純物濃度等を精度良く制御することができる。これらにより、半導体層2を高品質に製造することができ、半導体装置2ごとの特性を均一にすることができる。
例えば、半導体装置2が発光ダイオードやレーザダイオード等の発光素子である場合には、発光層の結晶歪みを小さくすることで、発光素子としての半導体装置2の発光効率を向上させることができる。また、インジウム(In)の取り込み量が発光層の成長温度に依存するため、基板10の温度を精度良く制御することで、発光層中のInの組成比を精度良く制御することができる。これにより、発光素子としての半導体装置2ごとの発光波長を均一にすることができる。
(c)本実施形態の製造方法によって製造される基板10では、自由キャリア吸収による吸収係数が従来の基板の吸収係数よりも小さいことから、本実施形態の基板10の抵抗率は、従来の基板の抵抗率よりも低くなっている。
ここで、参考までに、従来のGaN結晶では、図5(b)に示すように、所定の自由電子濃度での自由キャリア吸収による吸収係数が大きいことから、移動度(μ)が低くかったと考えられる。このため、従来のGaN結晶では、抵抗率(ρ=1/enμ)が高くなっていたと考えられる。その結果、従来のGaN結晶からなる基板を用いた半導体装置では、オン抵抗が高くなっていたと考えられる。
従来のGaN結晶において所望の抵抗率を得るためには、n型不純物の濃度を高くすることが考えられる。しかしながら、n型不純物の濃度を高くしていくと、移動度が低下していく傾向があることから、従来のGaN結晶において所望の抵抗率を得るためには、n型不純物の濃度を過剰に高くする必要があった。このため、従来のGaN結晶では、結晶歪みが大きくなり易かった。その結果、従来のGaN結晶では、吸収係数αが大きくなったり、ばらついたりし易かった。
これに対し、本実施形態の製造方法によって製造される基板10では、自由キャリア吸収による吸収係数が従来の基板の吸収係数よりも小さいことから、本実施形態の基板10では、従来の基板よりも、移動度が高くなっていると推定される。これにより、本実施形態の基板10中の自由電子濃度が従来の基板中の自由電子濃度と等しい場合であっても、本実施形態の基板10の抵抗率は、従来の基板の抵抗率よりも低くなっている。その結果、本実施形態の基板10を用いた半導体装置2のオン抵抗を低くすることができる。
また、本実施形態の基板10では、所望の抵抗率を得るためのn型不純物の濃度を、従来の基板中のn型不純物濃度よりも低くすることができる。これにより、結晶歪みを小さくし、基板10の結晶性を向上させることができる。その結果、基板10の吸収係数αのばらつきを小さくしつつ、基板10の所望の抵抗率を得ることができる。
(d)本実施形態の基板10の吸収係数αについて、0.15λ3≦αとすることで、基板10に対して赤外線を充分に吸収させることができ、基板10を安定的に加熱することができる。また、Δα≦1.0とすることで、基板10を加熱する工程において、赤外線の照射による加熱効率を基板10の主面内で均一にすることができる。これにより、基板10を用いて製造される半導体積層物1の品質を基板10の主面内で均一にすることができる。その結果、半導体積層物1を用いて製造される半導体装置2の品質および歩留りを向上させることができる。
(e)27℃以上1250℃以下の温度条件下において基板10のバンド間で熱励起される真性キャリアの濃度は、27℃の温度条件下においてn型不純物のドーピングによって基板10中に生じる自由電子の濃度よりも低い。当該条件を満たすことで、基板10を加熱する工程での所定の温度条件下での基板10の自由キャリア濃度が、室温の温度条件下での基板10の自由キャリア濃度とほぼ等しいと考えることができる。これにより、所定の温度条件下での自由キャリア吸収が、室温での自由キャリア吸収とほぼ等しいと考えることができる。つまり、上述したように、室温において、基板10における赤外域の吸収係数が上記所定の要件を満たす場合、所定の温度条件下においても、基板10における赤外域の吸収係数が上記所定の要件をほぼ維持していると考えることができる。
(f)n型不純物のドーピングによって基板10中に生じる自由電子の濃度は、27℃の温度条件下において、1×1018cm-3以上であり、基板10の主面内における、自由電子濃度の最大値と最小値との差は、8.3×1017cm-3以内である。これにより、基板10における波長2μmでの吸収係数を1.2cm-1以上とすることができ、基板10の主面内における、波長2μmでの吸収係数の最大値と最小値との差を1.0cm-1以内とすることができる。
(g)基板10中のOの濃度は、基板10中のSiおよびGeの合計の濃度に対して1/10倍以下である。これにより、基板10中のn型不純物の濃度を、添加量の制御が比較的容易であるSiおよびGeの合計濃度によって制御することができる。基板10中のn型不純物の濃度を容易に制御可能となることで、基板10中の自由電子濃度nを、所定の要件を満たすよう精度良く制御することができ、基板10の主面内における自由電子の濃度の最大値と最小値との差Δnを、所定の要件を満たすよう精度良く制御することができる。その結果、基板10における吸収係数を精度良くかつ再現性良く調整することができ、基板10の主面内における吸収係数を安定的に均一にすることができる。
<本発明の第2実施形態>
上述の実施形態では、半導体積層物1が、pn接合ダイオードとしての半導体装置2を製造するよう構成される場合について説明したが、以下の第2実施形態のように、半導体積層物1は、他のデバイスを製造するよう構成されていてもよい。本実施形態では、上述の実施形態と異なる要素についてのみ説明する。
(1)半導体積層物
図13(a)を用い、本実施形態に係る半導体積層物1について説明する。図13(a)は、本実施形態に係る半導体積層物1を示す概略断面図である。
図13(a)に示すように、本実施形態の半導体積層物1は、例えば、ショットキーバリアダイオード(SBD)としての半導体装置2を製造する際に用いられる中間体として構成されている。半導体積層物1は、例えば、基板10と、半導体層20と、を有している。また、半導体層20は、例えば、下地n型半導体層21と、ドリフト層22と、を有し、p型半導体層を有していない。なお、基板10、下地n型半導体層21およびドリフト層22は、第1実施形態の基板10、下地n型半導体層21およびドリフト層22とそれぞれ同様である。ただし、ドリフト層22は、p型不純物の被注入部(符号不図示)を有している。
(2)半導体積層物の製造方法および半導体装置の製造方法
次に、図13~図15を用い、本実施形態に係る半導体積層物1の製造方法および半導体装置2の製造方法について説明する。図13(b)、図14(a)、(b)、図15(a)は、半導体装置の製造工程を示す概略断面図であり、図15(b)は、本実施形態に係る半導体装置2を示す概略断面図である。
(S210~S220:基板用意工程および半導体層形成工程)
図13(a)に示すように、p型半導体層を形成しない点を除いて第1実施形態の基板用意工程S110~半導体層形成工程S120と同様にして、半導体積層物1を製造する。
(S240:半導体装置作製工程)
次に、上記した半導体積層物1を用いて半導体装置2を作製する半導体装置作製工程S240を行う。本実施形態の半導体装置作製工程S240は、例えば、イオン注入工程S241と、活性化アニール工程S242と、保護膜形成工程S243と、p型電極形成工程S244と、n型電極形成工程S245と、オーミックアロイ工程S246と、を有している。
(S241:イオン注入工程)
まず、図13(b)に示すように、半導体層20上に、例えばスパッタ法によりシリコン窒化膜(SiNx膜)または窒化アルミニウム膜(AlN膜)からなる表面側キャップ層52を形成する。これにより、ドリフト層22へのイオン注入の際に、ドリフト層22へのダメージを抑制することができ、また、後述の活性化アニール工程S242において、ドリフト層22からの窒素(N)抜けを抑制することができる。なお、このとき、表面側キャップ層52の厚さを、例えば、20nm以上50nm以下とする。
表面側キャップ層52を形成したら、図14(a)に示すように、表面側キャップ層52上に所定のレジストパターン54を形成する。このとき、レジストパターン54において、平面視でドリフト層22の被注入部の位置に開口(符号不図示)を形成する。なお、本実施形態では、レジストパターン54の開口を例えば平面視でリング状とする。
レジストパターン54を形成したら、レジストパターン54の開口を介してドリフト層22の被注入部に対して、p型不純物をイオン注入する。これにより、ドリフト層22中(例えばドリフト層22の表面側領域の一部)に、p型不純物を含むp型領域25を形成する。なお、p型領域25は、例えば、平面視でリング状となる。
このとき、イオン注入されるp型不純物を、例えば、Mg、C、鉄(Fe)、ベリリウム(Be)、亜鉛(Zn)、バナジウム(V)、およびアンチモン(Sb)からなる群より選択される少なくともいずれかとする。また、このとき、p型不純物をイオン注入する際の加速電圧を、例えば、10keV以上100keV以下とし、ドーズ量を、例えば、1×1013cm-2以上1×1015cm-2以下とする。これにより、p型領域25中のp型不純物濃度の最大値は、例えば、1×1018at・cm-3以上1×1020at・cm-3以下となり、ドリフト層22の表面からのp型領域25の深さは、例えば、50nm以上300nm以下となる。
p型不純物をイオン注入したら、レジストパターン54を除去する。
(S242:活性化アニール工程)
次に、図14(b)に示すように、基板10の裏面側に、例えばスパッタ法によりSiNx膜またはAlN膜からなる裏面側キャップ層56を形成する。これにより、後述の活性化アニール工程S242において、基板10からの窒素(N)抜けを抑制することができる。なお、このとき、裏面側キャップ層56の厚さを、例えば、20nm以上50nm以下とする。
裏面側キャップ層56を形成したら、例えば、所定の加熱処理装置(不図示)により、不活性ガスの雰囲気下で、基板10に対して少なくとも赤外線を照射し、半導体積層物1をアニールする。これにより、イオン注入工程S241において半導体層20が受けた結晶ダメージを回復させ、p型領域25中のp型不純物を結晶格子中に組み込んで(電気的に)活性化させる。
このとき、半導体層20のうち少なくともドリフト層22は、自由電子濃度が低く、赤外域での吸収係数が低いため、加熱され難い。これに対し、本実施形態では、所定の加熱源(例えばランプヒータ)からの赤外線の照射により少なくとも基板10を加熱して、半導体層20を加熱する。
また、このとき、基板10が赤外域の吸収係数について上記要件を満たすことで、基板10への赤外線の照射によって基板10を安定的に加熱し、基板10の温度を精度よく制御することができる。また、赤外線の照射による加熱効率を該基板10の主面内で均一にすることができる。その結果、p型領域25中のp型不純物の活性化具合(活性化率、自由正孔濃度)を精度良く制御し、基板10の主面内で均一にすることができる。
また、このとき、図9(a)および(b)に示す保持部材300を用い、基板10を加熱する。これにより、保持部材300から基板10への熱伝達ではなく、主に、基板10に対して赤外線を照射することにより、基板10の加熱を行うことができる。その結果、基板10を主面内で安定的に均一に加熱することができる。
また、このとき、アニール処理は、例えば、開始温度からアニール温度までの昇温を3~30秒の範囲内の時間で行い、アニール温度での保持を20秒~3分の範囲内の時間行い、その後、アニール温度から停止温度までの降温を1~10分の範囲内の時間で行うといった処理手順、処理条件で行う。停止温度および開始温度を、それぞれ、例えば500~800℃の範囲内の温度とする。アニール温度を、例えば1100℃以上1250℃以下の範囲内の温度とする。アニール処理の不活性ガス雰囲気を、N2ガス、またはArガス等の希ガスを含む雰囲気とし、その圧力を、例えば100~250kPaの範囲内の圧力とする。
アニール処理が完了したら、図15(a)に示すように、所定の溶媒で表面側キャップ層52および裏面側キャップ層56を除去する。
(S244:p型電極形成工程)
次に、半導体層20を覆うように、例えばスパッタ法によりPd/Ni膜を形成し、フォトリソグラフィによりPd/Ni膜を所定の形状にパターニングする。これにより、平面視でp型電極31の外周部がp型領域25と重なるように、p型電極31を形成する。
(S145:n型電極形成工程)
次に、基板10の裏面側に、例えばスパッタ法によりTi/Al膜を形成し、フォトリソグラフィによりTi/Al膜を所定の形状にパターニングする。これにより、基板10の裏面側に、n型電極36を形成する。
(S246:オーミックアロイ工程)
次に、第1実施形態のオーミックアロイ工程S146と同様にして、オーミックアロイ工程S246を行う。
その後、半導体積層物1をダイシングし、所定の大きさのチップに切り分ける。
以上により、図15(b)に示すように、本実施形態の半導体装置2が製造される。半導体装置2では、ドリフト層22の表面側にガードリングとしてのp型領域25が形成されていることで、p型電極31周辺の電界集中を抑制することができる。その結果、半導体装置2の耐圧を向上させることができる。
(3)本実施形態により得られる効果
本実施形態では、イオン注入後の活性化アニール工程S242において、赤外域の吸収係数について上記要件を満たす基板10を加熱することで、半導体層20を加熱し、p型領域25中のp型不純物を活性化させる。
ここで、イオン注入後の活性化アニール工程は、結晶ダメージを抑制しつつp型不純物を活性化させるため、高温で且つ短時間で行われることが多い。このため、従来のGaN結晶からなる基板のように吸収係数を自由電子濃度nによって設計することが困難であると、基板によって加熱効率が大きくばらつく可能性がある。その結果、基板ごとにp型不純物の活性化具合にばらつきが生じたり、基板ごとに半導体層の結晶ダメージ(例えばN抜け)にばらつきが生じたりする可能性がある。また、基板の主面内で加熱効率にばらつきが生じていると、基板の主面内でp型不純物の活性化具合にばらつきが生じたり、半導体層の結晶ダメージが基板の主面内で不均一に生じたりする可能性がある。
これに対し、本実施形態では、基板10が赤外域の吸収係数について上記要件を満たすことで、イオン注入後の活性化アニール工程S242において、赤外線の照射によって加熱される基板10の温度を精度良く制御し、基板10ごとの温度の再現性を向上させることができる。これにより、基板ごとのp型不純物の活性化具合のばらつきを抑制することができる。また、基板ごとの半導体層の結晶ダメージのばらつきを抑制することができ、適切なキャップ層の形成により半導体層の結晶ダメージ自体を容易に抑制することができる。また、基板10が赤外域の吸収係数について上記要件を満たすことで、赤外線の照射による加熱効率を該基板10の主面内で均一にすることができる。これにより、活性化アニール工程S242において、p型不純物の活性化具合を基板10(半導体層20)の主面内で均一にすることができ、半導体層20において局所的な結晶ダメージの発生を抑制することができる。これらの結果、半導体積層物1を用いて製造される半導体装置2の品質および歩留りを向上させることができる。
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
上述の実施形態では、基板10および半導体層20がそれぞれGaNからなっている場合について説明したが、基板10および半導体層20は、GaNに限らず、例えば、AlN、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウム(InN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)等のIII族窒化物半導体、すなわち、AlxInyGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)の組成式で表されるIII族窒化物半導体からなっていてもよい。
上述の実施形態では、半導体層20が基板10と同じIII族窒化物半導体(GaN)からなっている場合について説明したが、半導体層20は、基板10と異なるIII族窒化物半導体からなっていてもよい。
上述の実施形態では、基板作製工程S112においてGaN単結晶からなる種基板5を用いて基板10を作製する場合について説明したが、基板10を以下の方法により作製してもよい。例えば、サファイヤ基板等の異種基板上に設けられたGaN層を下地層として用い、ナノマスク等を介してGaN層を厚く成長させた結晶インゴットを異種基板から剥離させ、この結晶インゴットから複数の基板10を切り出してもよい。
上述の実施形態では、半導体層形成工程S120において、MOVPE法により半導体層20を形成する場合について説明したが、HVPE法などの他の気相成長法や、フラックス法やアモノサーマル法などの液相成長法により半導体層20を形成してもよい。
上述の第1実施形態では、半導体装置2がpn接合ダイオードであり、上述の第2実施形態では、半導体装置2がSBDである場合について説明したが、半導体装置2は、n型不純物を含む基板10を用いていれば、他のデバイスとして構成されていてもよい。例えば、半導体装置2は、発光ダイオード、レーザダイオード、ジャンクションバリアショットキーダイオード(JBS)、バイポーラトランジスタ等であってもよい。
上述の第2実施形態では、イオン注入工程S241において半導体層20にp型不純物をイオン注入する場合について説明したが、必要に応じて、半導体層20にn型不純物などの他の不純物をイオン注入してもよい。
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
(付記1)
III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含む窒化物結晶基板であって、
波長をλ(μm)、27℃における前記窒化物結晶基板の吸収係数をα(cm-1)、前記窒化物結晶基板中の自由電子濃度をn(cm-3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における前記吸収係数αは、以下の式(1)により近似される
窒化物結晶基板。
α=nKλa ・・・(1)
(ただし、1.5×10-19≦K≦6.0×10-19、a=3)
(付記2)
少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における前記吸収係数αは、以下の式(1)’’により近似される
付記1に記載の窒化物結晶基板。
α=2.2×10-19nλ3 ・・・(1)’’
(付記3)
前記窒化物結晶基板の主面内における前記吸収係数αの最大値と最小値との差をΔαとしたとき、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲において、前記吸収係数αおよび前記Δαは、以下の式(2)および(3)を満たす
付記1又は2に記載の窒化物結晶基板。
α≧0.15λ3 ・・・(2)
Δα≦1.0 ・・・(3)
(付記4)
III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含む窒化物結晶基板であって、
前記窒化物結晶基板における波長2μmでの吸収係数は、1.2cm-1以上であり、
前記窒化物結晶基板の主面内における、波長2μmでの吸収係数の最大値と最小値との差は、1.0cm-1以内である
窒化物結晶基板。
(付記5)
27℃以上1250℃以下の温度条件下において前記窒化物結晶基板のバンド間で熱励起される真性キャリアの濃度は、27℃の温度条件下において前記n型不純物のドーピングによって前記窒化物結晶基板中に生じる自由電子の濃度よりも低い
付記1~4のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板。
(付記6)
前記n型不純物のドーピングによって前記窒化物結晶基板中に生じる自由電子の濃度は、27℃の温度条件下において、1×1018cm-3以上であり、
前記窒化物結晶基板の前記主面内における、自由電子濃度の最大値と最小値との差は、8.3×1017cm-3以内である
付記1~5のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板。
(付記7)
前記窒化物結晶基板中の前記n型不純物の濃度は、1.0×1018at・cm-3以上であり、
前記窒化物結晶基板の前記主面内における、前記n型不純物の濃度の最大値と最小値との差は、8.3×1017at・cm-3以内である
付記1~6のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板。
(付記8)
前記窒化物結晶基板中の酸素の濃度は、前記窒化物結晶基板中のシリコンおよびゲルマニウムの合計の濃度に対して1/10倍以下である
付記1~7のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板。
(付記9)
前記窒化物結晶基板中の酸素の濃度は、1×1017at・cm-3未満であり、
前記窒化物結晶基板中のシリコンおよびゲルマニウムの合計の濃度は、1×1018at・cm-3以上である
付記8に記載の窒化物結晶基板。
(付記10)
III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含む窒化物結晶基板と、
前記窒化物結晶基板上に設けられ、III族窒化物半導体からなる半導体層と、
を有し、
波長をλ(μm)、27℃における前記窒化物結晶基板の吸収係数をα(cm-1)、前記窒化物結晶基板中の自由電子濃度をn(cm-3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における前記吸収係数αは、以下の式(1)により近似される
半導体積層物。
α=nKλa ・・・(1)(ただし、1.5×10-19≦K≦6.0×10-19、a=3)
(付記11)
III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含む窒化物結晶基板と、
前記窒化物結晶基板上に設けられ、III族窒化物半導体からなる半導体層と、
を有し、
前記窒化物結晶基板における波長2μmでの吸収係数は、1.2cm-1以上であり、
前記窒化物結晶基板の主面内における、波長2μmでの吸収係数の最大値と最小値との差は、1.0cm-1以内である
半導体積層物。
(付記12)
前記半導体層の表面の反射率は、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲において、5%以上30%以下である
付記10又は11に記載の半導体積層物。
(付記13)
前記半導体層は、前記窒化物結晶基板上に設けられp型不純物を含むp型半導体層を有する
付記10~12のいずれか1つに記載の半導体積層物。
(付記14)
前記半導体層は、不純物の被注入部を有する
付記10~12のいずれか1つに記載の半導体積層物。
(付記15)
III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含む窒化物結晶基板を用意する工程と、
前記窒化物結晶基板に対して少なくとも赤外線を照射し、前記窒化物結晶基板を加熱する工程と、
を有し、
前記窒化物結晶基板を用意する工程では、
前記窒化物結晶基板として、波長をλ(μm)、27℃における前記窒化物結晶基板の吸収係数をα(cm-1)、前記窒化物結晶基板中の自由電子濃度をn(cm-3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における前記吸収係数αは、以下の式(1)により近似される基板を用意する
半導体積層物の製造方法。
α=nKλa ・・・(1)
(ただし、1.5×10-19≦K≦6.0×10-19、a=3)
(付記16)
III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含む窒化物結晶基板を用意する工程と、
前記窒化物結晶基板に対して少なくとも赤外線を照射し、前記窒化物結晶基板を加熱する工程と、
を有し、
前記窒化物結晶基板を用意する工程では、
前記窒化物結晶基板として、波長2μmでの吸収係数が1.2cm-1以上であり、且つ、主面内における波長2μmでの吸収係数の最大値と最小値との差が1.0cm-1以内である基板を用意する
半導体積層物の製造方法。
(付記17)
前記窒化物結晶基板を加熱する工程として、前記窒化物結晶基板上にIII族窒化物半導体からなる半導体層をエピタキシャル成長させる工程を有する付記15又は16に記載の半導体積層物の製造方法。
(付記18)
前記窒化物結晶基板上に、前記半導体層を構成する層としてp型不純物を含むp型半導体層をエピタキシャル成長させる工程と、
前記窒化物結晶基板を加熱する工程として、前記窒化物結晶基板を加熱して、前記p型半導体層中の前記p型不純物を活性化させる工程と、
を有する
付記17に記載の半導体積層物の製造方法。
(付記19)
前記半導体層中に所定の導電型の不純物をイオン注入する工程と、
前記窒化物結晶基板を加熱する工程として、前記窒化物結晶基板を加熱して、前記半導体層中の前記不純物を活性化させる工程と、
を有する
付記17に記載の半導体積層物の製造方法。
(付記20)
前記窒化物結晶基板の裏面および前記半導体層の主面のうち少なくともいずれかに接するように電極を形成する工程と、
前記窒化物結晶基板を加熱する工程として、前記窒化物結晶基板を加熱して、前記電極の接触抵抗を低減させる工程と、
を有する
付記17~19のいずれか1つに記載の半導体積層物の製造方法。
(付記21)
前記半導体層上に保護膜を形成する工程と、
前記窒化物結晶基板を加熱する工程として、前記窒化物結晶基板を加熱して、前記保護膜を硬化させる工程と、
を有する
付記17~20のいずれか1つに記載の半導体積層物の製造方法。
(付記22)
前記窒化物結晶基板を用意する工程は、反応容器内に種結晶基板とIII族元素を含む原料とを搬入し、所定の結晶成長温度に加熱された前記種結晶基板に対して前記原料のハロゲン化物と窒化剤とを供給することで、前記種結晶基板上に前記III族元素の窒化物の結晶を成長させる結晶成長工程を有し、
前記結晶成長工程では、
前記反応容器内のうち少なくとも前記結晶成長温度に加熱される領域であって、前記種結晶基板に供給されるガスが接触する領域である高温領域を構成する部材として、少なくともその表面が石英非含有およびホウ素非含有の材料からなる部材を用いる
付記17~21のいずれか1つに記載の半導体積層物の製造方法。
(付記23)
前記高温領域を構成する部材として、炭化ケイ素コートグラファイトからなる部材を用いる
付記22に記載の半導体積層物の製造方法。
(付記24)
III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含む窒化物結晶基板を用意する工程と、
前記窒化物結晶基板に対して少なくとも赤外線を照射し、前記窒化物結晶基板を加熱する工程と、
を有し、
前記窒化物結晶基板を用意する工程は、
前記窒化物結晶基板の27℃での赤外域の吸収係数を測定する工程と、
測定された前記窒化物結晶基板の吸収係数に基づいて、波長をλ(μm)、前記窒化物結晶基板の吸収係数をα(cm-1)、前記窒化物結晶基板中の自由電子濃度をn(cm-3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における前記吸収係数αが、以下の式(1)により近似されるかを判定する工程と、
を有する
半導体積層物の製造方法。
α=nKλa ・・・(1)
(ただし、1.5×10-19≦K≦6.0×10-19、a=3)
(付記25)
III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含む窒化物結晶基板を用意する工程と、
前記窒化物結晶基板に対して少なくとも赤外線を照射し、前記窒化物結晶基板を加熱する工程と、
を有し、
前記窒化物結晶基板を用意する工程は、
前記窒化物結晶基板の主面内のうち少なくとも2点以上において赤外域の吸収係数を測定する工程と、
測定された前記窒化物結晶基板の吸収係数に基づいて、前記窒化物結晶基板における波長2μmでの吸収係数が1.2cm-1以上であり、且つ、前記窒化物結晶基板の主面内における波長2μmでの吸収係数の最大値と最小値との差が1.0cm-1以内であるかを判定する工程と、
を有する
半導体積層物の製造方法。
(付記26)
III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含む窒化物結晶基板を用意する工程と、
前記窒化物結晶基板に対して少なくとも赤外線を照射し、前記窒化物結晶基板を加熱する工程と、
を有し、
前記窒化物結晶基板を用意する工程では、
前記窒化物結晶基板として、波長をλ(μm)、27℃における前記窒化物結晶基板の吸収係数をα(cm-1)、前記窒化物結晶基板中の自由電子濃度をn(cm-3)、Kおよびaをそれぞれ定数としたときに、少なくとも1μm以上3.3μm以下の波長範囲における前記吸収係数αは、以下の式(1)により近似される基板を用意する
半導体装置の製造方法。
α=nKλa ・・・(1)
(ただし、1.5×10-19≦K≦6.0×10-19、a=3)
(付記27)
III族窒化物の結晶からなり、n型不純物を含む窒化物結晶基板を用意する工程と、
前記窒化物結晶基板に対して少なくとも赤外線を照射し、前記窒化物結晶基板を加熱する工程と、
を有し、
前記窒化物結晶基板を用意する工程では、
前記窒化物結晶基板として、波長2μmでの吸収係数が1.2cm-1以上であり、且つ、主面内における波長2μmでの吸収係数の最大値と最小値との差が1.0cm-1以内である基板を用意する
半導体装置の製造方法。