JP7290545B2 - ピラニ真空計 - Google Patents

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本発明は、ピラニ真空計に関し、より詳しくは、フィラメントへの給電開始(即ち、測定開始)直後から、気体分子の平均自由行程がフィラメント直径の10倍の圧力(以下、「既定の圧力P」という)以下の圧力領域を精度よく測定できるようにしたものに関する。
この種のピラニ真空計は例えば特許文献1で知られている。このものは、真空チャンバや密閉容器などの測定対象物に装着可能な筒状のエンベロップと、エンベロップ内に設けられる線状のフィラメントと、フィラメントの周囲を囲う、フィラメントの長手方向両端が開口された金属製で円形の断面を持つ筒体と、筒体に取り付けられてその温度を測定する温度センサと、フィラメントに対する給電を制御すると共に、フィラメントの温度変化に伴う抵抗変化に基づいて気体圧力を指示する制御ユニットとを備える。
フィラメントは、制御ユニットの検出回路を構成するブリッジ回路にその一部として組み込まれ、例えば、定温度型のピラニ真空計では、ブリッジ回路の非平衡電圧が検出されると、フィラメントの抵抗(温度)が所定値に保持されるように、制御ユニットの電源回路によりブリッジ回路に対する給電電力(通電電流)をフィードバック制御してブリッジ回路の平衡を維持する。これにより、制御ユニットは、その給電電力(印加電圧)に基づいて気体圧力の指示値を得ることができる。このとき、温度センサで筒体の温度を測定し、この測定した温度を基に気体圧力の指示値を補正することで、特に10Pa以上の圧力(言い換えると、粘性流領域から大気圧近傍の圧力まで)にて気体圧力の変動に対する指示値の応答性が向上し、フィラメント周囲の気体温度の変動の影響を抑制して精度よく気体圧力を測定できる。
ところで、既定の圧力P以下の圧力領域では、フィラメントを支持している部材を介した固体熱伝導と輻射による熱エネルギーの移動とが支配的になる。このため、フィラメントに対する給電を開始し、測定を開始した当初は、筒体から、これより熱容量の大きいエンベロップに熱エネルギーの移動があり、また、エンベロップは接続される測定対象物からの熱流束の収支にも左右され、これに起因して気体圧力の指示値が不安定になるという問題がある。即ち、既定の圧力P以下の圧力領域では、筒体及びエンベロップの温度が所定温度に安定するまでの数十分以上の間、精度よく気体圧力の指示値が得られない。これを具体的に説明すると、既定の圧力P以下の圧力領域においては、輻射による熱伝導と固体熱伝導を考慮すると、単位時間あたりにフィラメントから奪われる熱量Qは次式1により表される。
Q=IR=Qg+Qr+Qs・・・(式1) この場合、Qgが気体分子により奪われる熱量、Qrが輻射により奪われる熱量、Qsが固体熱伝導により奪われる熱量、Iがフィラメントに流れる電流、Rが抵抗値である。
また、気体分子の平均自由行程λがフィラメントの直径dよりも十分大きい時、分子流領域での気体分子により奪われる熱量Qgは次式2により表される。
Qg=αΛS(T-T)p・・・(式2) この場合、αが適用係数、Λが自由分子の熱伝導率、Sがフィラメントの伝熱面積、Tがフィラメントの温度、Tが筒体の温度、pが圧力である。
輻射により奪われる熱量Qrは、次式3により表される。
Qr=εσS(T-T )・・・(式3) この場合、εが固体の輻射率、σがステファン-ボルツマン定数である。
固体熱伝導Qsにより奪われる熱量は、次式4により表される。
Qs=λS(T-T)/L・・・(式4) この場合、λが固体の熱伝導率、Sがフィラメントの断面積、Lが代表長さである。なお、フィラメントが螺旋状の場合には螺旋体とみなした最外径をフィラメントの直径dとし、これに実験的な補正係数を乗じて近似することで上記の式が利用できる。
ここで、フィラメントの温度Tと筒体の温度Tが一定である条件にすると、式3、式4は定数となる。式1に式2を代入し、輻射による熱伝導と固体熱伝導で移動する熱量を供給するためだけに流れる電流をI、フィラメントの抵抗をRとし、Qr+QsをQ=I Rとして書き換えると、Q=IR=αλS(T-T)p+I Rとなる。そして、αΛS(T-T)を定数Aとおくと、p=(IR-I R)/Aとなる。すると、フィラメントを流れる電流Iを測定すれば、圧力測定ができることが判る。この場合、フィラメントの放射率εは、その材質により定まるため、既定の圧力P以下の圧力領域では、測定精度を高める上で筒体の温度Tが重要となるものの、筒体は、通常、大気に接触している端子台に固定され、端子台がエンベロップに固定されている。このため、筒体の温度Tが、フィラメントに対する給電開始からの時間経過と共にエンベロップの温度Tとの平衡した温度になる。すると、Tの温度に加えTの温度を加味すれば、熱平衡に至るまでの間の圧力指示値の補正を行うことができることが判る。このような場合、エンベロップに、他の温度センサを更に取り付け、この測定したエンベロップの温度を基に気体圧力の指示値を補正すれば、測定開始直後(つまり、筒体の温度が安定する前)でも、気体圧力の指示値を安定して得ることができるが、これでは、部品点数が増加してコストアップを招来する。加えて、エンベロップに取り付けた温度センサの測定値は、エンベロップの熱容量に起因する時間遅れ要素を排除することが原理的に不可能であり、時間応答性の面から見た場合、気体圧力の指示値を即時に安定して得ることはできなかった。
特許第4878289号公報
本発明は、以上の点に鑑み、部品点数を増加させることなく、筒体及びエンベロップの温度が所定温度に安定する前でも精度よく気体圧力を測定することができるピラニ真空計を提供することをその課題とするものである。
上記課題を解決するために、本発明のピラニ真空計は、測定対象物に装着可能な筒状のエンベロップと、エンベロップ内に設けられる線状または螺旋状のフィラメントと、フィラメントの周囲を囲う、フィラメントの長手方向両端が開口された筒体と、筒体の温度を測定する温度センサと、フィラメントに対する給電を制御すると共に、フィラメントの温度変化に伴う抵抗変化に基づいて気体圧力を指示する制御ユニットとを備え、制御ユニットが、フィラメントに対する給電電力と温度センサで測定した筒体の温度とからエンベロップの温度を推測し、この推測した温度を基に、抵抗変化から検出される気体圧力の指示値を補正することを特徴とする。
本発明によれば、制御ユニットが、筒体の温度とフィラメントに投入された電力による発熱分とを演算することでエンベロップの温度を推測することができ、この推測した温度を基に、抵抗変化から検出される気体圧力の指示値を補正する構成を採用することで、エンベロップの温度を測定するための機器(温度センサ)を用いることなく、筒体及びエンベロップの温度が所定温度に安定する前でも、言い換えると、フィラメントへの給電開始(即ち、測定開始)直後から、既定の圧力P以下の気体圧力を精度よく測定することができる。
また、本発明においては、前記制御ユニットに、前記温度センサからの出力を直接取り込み、この取り込んだ出力値を基に気体圧力の指示値を補正する構成を採用することが好ましい。これによれば、制御ユニットの検出回路(ブリッジ回路)に影響を与えず、有利である。
本発明の実施形態のピラニ真空計の制御ユニットのブロック図。 ピラニ真空計のセンサ部の構成を説明する断面図。 フィラメントに対する給電開始から所定時間経過までにおける筒体の温度を測定したときのグラフ。 内部温度Tに対する外部温度Tのグラフ。 フィラメントに対する給電開始からの外部温度Tの推測結果のグラフ。 所定圧力における内部温度Tとフィラメントへの給電電力とから推測した外部温度Tの推測結果のグラフ。 フィラメントへの給電開始直後からの印加電圧の変化を示すグラフ。 給電開始から所定時間経過後の外部環境温度における印加電圧の変化のグラフ。 補正後の印加電圧の経時変化を示すグラフ。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態のピラニ真空計を説明する。以下において、上、下といった方向を示す用語は、測定対象物に対するピラニ真空計の装着姿勢である図1を基準にする。
図1及び図2を参照して、PGは、本実施形態のピラニ真空計である。ピラニ真空計PGは、センサ部Suと制御ユニットCuとを備え、センサ部Suは、図2に示すように、上端に取付フランジ11を設けた円筒状のエンベロップ1を備える。エンベロップ1の下端は、端子台2により気密に閉塞されている。端子台2には、相互に電気的に絶縁させ且つ気密保持させて複数本の接続端子3a~3eが貫装されている。端子台2は、所謂ハーメチックシールで構成することができる。
エンベロップ1内には、接続端子3a(図2中、最左側)に支持させて上下方向に長手のフィラメントサポート4が設けられている。フィラメントサポート4は、上端をエンベロップ1の内方に向けて屈曲させた金属製の棒状または板状の部材で構成される。そして、フィラメントサポート4上端の屈曲部分41と接続端子3bとの間に線状のフィラメント5が架設されている。フィラメント5としては、線径がφ25μm程度の白金などの金属製線材が用いられる。また、フィラメント5の周囲には、接続端子3cに支持させて、且つ、フィラメント5を囲むようにして上下両端が開口された円形の断面を持つ筒体6が設けられている。この場合、筒体6は、熱伝導性に優れた例えば金属材料から構成され、フィラメント5の長さの80%以上を覆うように定寸されている。筒体6の外表面には、熱電対等で構成される温度センサ7が取り付けられ、接続端子3d,3eを介して出力できるようになっている。
一方、制御ユニットCuは、図示省略の給電回路を有する制御部Cpと、フィラメント5が一部に組み込まれる検出回路Dpを備える。検出回路Dpは、増幅器(OPアンプ)8aと、フィラメント5と共にブリッジ回路を構成する3個の抵抗8b~8dとを備え、制御部Cpの給電回路を介してフィラメント5に所定電力(例えば、5V)が供給されると共に、増幅器(OPアンプ)8a駆動用の電圧(例えば、15V)が供給されるようになっている。なお、フィラメント5の温度変化に伴う抵抗変化から気体圧力を得る方法は、公知のものであるため、ここでは、検出回路Dpの具体的構成を含め、これ以上の説明は省略する。
ところで、上記構成のピラニ真空計PGでは、フィラメント5に対する給電を開始し、測定を開始した当初は、筒体6から、これより熱容量の大きいエンベロップ1に熱エネルギーの移動があるので、既定の圧力P以下の圧力領域では、筒体6及びエンベロップ1の温度が所定温度に安定するまでの数十分以上の間、精度よく気体圧力の指示値が得られない(なお、既定の圧力Pは、一般に広く利用されるピラニ真空計の場合、気体分子の平均自由行程がフィラメントの直径25×10-6mの10倍程度になる圧力、即ち、窒素ガス、300Kにて27.2Paとなる)。このため、筒体6及びエンベロップ1の温度が所定温度に安定する前でも精度よく気体圧力を測定することができるように構成しておくことが好ましい。本発明の実施形態では、制御ユニットCuの制御部Cpに、温度センサ(以下、「内部温度センサ」ともいう)7からの出力を直接取り込み、この取り込んだ値からエンベロップ1の温度を推測し、気体圧力の指示値を補正するように構成した。以下に、気体圧力の指示値の補正につき、具体的に説明する。
先ず、上記ピラニ真空計PGとして定温度型のものを用い、フィラメント5に対する給電開始(即ち、測定開始)から所定時間(20分)経過までにおける室温からの筒体6の温度Tを測定し、その結果を図3に示す。これによれば、時間の経過と共に、フィラメント5に対する給電電力は低下し、その後、一定の値を示す一方で、筒体6の温度Tは、測定開始直後から温度が上昇し、その後、一定の値を示すようになる。このとき、エンベロップ1の外表面(大気と接する面)にも他の温度センサ(以下、「外部温度センサ」ともいう)を取り付けてその外部温度Tを測定し、筒体6の温度T(以下、「内部温度T」ともいう」を横軸に、外部温度Tを縦軸に取ったときの近似したグラフを図4に示す。これによれば、外部温度Tが、内部温度Tに対して略正比例して上昇していることが判る。
以上を考慮して、温度センサ7からの出力からエンベロップ1の温度Tの推測を次式5により行った。
=AT+BE+C・・・(式5) この場合、Aは、図4における内部温度Tに対する外部温度Tの傾きである。また、ピラニ真空計PGの原理から圧力値に正比例してフィラメント5への投入電力Eが大きくなり、これに応じて、フィラメント5の周囲に位置する筒体6の温度Tも上昇するので、Bは、圧力変動による温度Tの温度変動を相殺するためにフィラメント5に対する投入電力Eにかける係数、Cは、調整のための定数とした。そして、フィラメント5に対する給電開始(即ち、測定開始)から所定時間経過までに外部温度Tを実際に推測した結果を図5に示す。これによれば、給電開始直後から安定した外部温度Tの推測が可能であることが判る。
次に、10-2Paから大気圧(10Pa)までの各所定圧力にて、筒体6の温度Tとフィラメント5への給電電力とからエンベロップ1の温度Tを推測(算出)したときの結果を図6に示す。このとき、測定対象物を恒温槽とし、槽内を0℃、+25℃、+50℃に夫々設定し、十分に温度平衡に達した後に測定を開始している。これによれば、いずれの圧力においても恒温槽温度(外部環境温度)を良く再現していることが判る。更に、外部環境温度に対するブリッジ電圧の変動値を予め考慮するために、+10℃、+25℃、+40℃の環境に温度平衡に達するまでピラニ真空計PGを放置し、フィラメント5への給電開始直後からの印加電圧を測定し、その結果を図7に示す。これによれば、給電開始直後から印加電圧は低下しはじめ、10分前後経過後から安定した値になることが判る。また、外部環境温度が高ければ印加電圧は低い値に、外部環境温度が低ければ印加電圧は高い値になる。また、0、10、20分経過後の各外部環境温度における印加電圧の変化を測定し、その結果を図8に示す。これによれば、それぞれの経過時間後にて、温度を変化させると印加電圧は直線にのることが判り、温度に反比例していることが判る。同時に10分以内に安定した指示値を示していることが判る。この外部環境温度差によるブリッジ電圧の変化を補正するために、Tを用いて補正を行っている。補正前の印加電圧をV、補正後の印加電圧をV、Dを定数とすると、補正後の印加電圧Vは、次式6で求められる。
=V×(1+D×T)・・・(式6)
補正後の印加電圧Vの経時変化を示したグラフを図9に示す。外部温度が高ければ、補正後の印加電圧Vは高い値に、外部温度が低ければ補正後の印加電圧Vは低い値になることが判る。これにより、上記図3の温度Tの測定値の変化に近似し、予め用意した圧力換算テーブルを推測温度Tの値を用いてシフトさせれば、再現良い圧力値へ変換が可能になる。
以上の実施形態によれば、制御ユニットCuが、筒体6の温度Tとフィラメント5に投入された電力Eによる発熱分とを演算することでエンベロップ1の温度Tを推測することができ、この推測した温度Tを基に、抵抗変化から検出される気体圧力の指示値を補正する構成を採用することで、エンベロップ1の温度Tを測定するための機器(温度センサ)を用いることなく、筒体6の温度Tが所定温度に安定する前でも、言い換えると、フィラメント5への給電開始(即ち、測定開始)直後から、既定の圧力P以下の圧力を精度よく測定することができる。また、制御ユニットCuに、温度センサ7からの出力を直接取り込み、この取り込んだ出力値を基に気体圧力の指示値を補正する構成を採用することで、制御ユニットCuの検出回路Dp(ブリッジ回路)に影響を与えず、有利である。また、上記ピラニ真空計PGは、エンベロップ1の温度、ひいては、エンベロップ1が装着される測定対象物の温度も推測できるため、測定対象物の壁面温度を測定し、出力する機能も持つことが可能と判る。更に、本実施形態のピラニ真空計PGを用いることで、測定精度保証は、5×10-2Pa~1×10-1Paの圧力範囲で±20%、1×10-1Pa~1×10Paの圧力範囲で±10%、1×10Pa~1×10Paの圧力範囲で±20%とでき、産業に資する手法となる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、ピラニ真空計PGとして定温度型のものを例に説明したが、定電圧(定電流)型のものであってもよく、また、フィラメント5としては、線状のものの他、螺旋状のものであってもよい。更に、大気圧より低い圧力を測定する当初(測定開始当初)に、外部温度が圧力測定に影響を与える真空計であれば、本発明は広く適用でき、このような真空計としては、熱電対真空計、サーミスタ真空計やバイメタル真空計が挙げられる。
Cu…制御ユニット、PG…ピラニ真空計、T…筒体6の温度、T…エンベロップ1の温度、1…エンベロップ、5…フィラメント、6…筒体、7…温度センサ。

Claims (2)

  1. 測定対象物に装着可能な筒状のエンベロップと、エンベロップ内に設けられる線状または螺旋状のフィラメントと、フィラメントの周囲を囲う、フィラメントの長手方向両端が開口された筒体と、筒体の温度を測定する温度センサと、フィラメントに対する給電を制御すると共に、フィラメントの温度変化に伴う抵抗変化に基づいて気体圧力を指示する制御ユニットとを備えるピラニ真空計において、
    制御ユニットが、フィラメントに対する給電電力と温度センサで測定した筒体の温度とからエンベロップの温度を推測し、この推測した温度を基に、抵抗変化から検出される気体圧力の指示値を補正することを特徴とするピラニ真空計。
  2. 前記制御ユニットに、前記温度センサからの出力を直接取り込み、この取り込んだ出力値を基に気体圧力の指示値を補正するように構成したことを特徴とする請求項1記載のピラニ真空計。
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