JP7280470B2 - 特定アミノ酸またはアミノ酸様物質による低酸素応答制御 - Google Patents

特定アミノ酸またはアミノ酸様物質による低酸素応答制御 Download PDF

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Description

本開示は、特定アミノ酸またはアミノ酸様物質による低酸素誘導因子阻害作用を利用した、生物学的応用の分野に関する。より詳細には、例えば、医薬、サプリメント、健康食品、化粧品、研究用試薬の分野に関する。一例としては、低酸素誘導因子阻害作用を利用した、網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患、がん、神経変性、もしくは自己免疫疾患の治療又は予防剤に関する。
HIF(hypoxia-inducible factor:低酸素誘導因子)は、細胞に対する酸素供給が不足状態に陥った際に誘導される転写因子であり、低酸素適応応答、幹細胞の維持や炎症の制御などの恒常性維持など、多彩な生理活性を有しているが、一方でHIFが過剰発現することががんの発症・進展に大きく関わっていると考えられている。
そのため、例えば、非特許文献1に開示されるように、HIFは、がん治療のターゲットとして研究されている。また、がんのみでなく、眼科領域における網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患等についても、近年、低酸素誘導因子(hypoxia-inducible factor;HIF)が発生から病態生理にいたるまで重要な役割を担っていることが明らかになっている。非特許文献2に開示されるように、眼科領域におけるHIF阻害剤の治療的介入の可能性に関していくつかの報告がある。
既存のHIF阻害剤の多くは非特許文献1に開示されるように抗がん剤であるため、細胞毒性が強く、例えば、眼疾患に対しそのまま臨床応用することが難しく、具体的な創薬に関する報告はまだない。その為、安全性の高い新規HIF阻害剤が求められている。
本明細書において、特定アミノ酸またはアミノ酸様物質を含有する、低酸素誘導因子(HIF)を阻害するための組成物が提供される。特定アミノ酸またはアミノ酸様物質は、タウリンもしくはタウリン様物質、ヒスチジンもしくはヒスチジン様物質、あるいはそれらの両方であり得る。1つの側面において、かかる組成物は、細胞毒性が低くより安全性の高い新規なHIF阻害剤を提供し得る。かかる組成物は、抗がん剤としてのみではなく、眼科治療に適したものとして使用することも可能である。HIF阻害剤を含む組成物は、例えば、網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患及び、がん、神経変性、もしくは自己免疫疾患に対する治療又は予防剤として提供され得る。
1つの局面において、本開示の組成物は、タウリン、タウリン誘導体、タウリン類似体、タウリン前駆体、タウリン代謝物、またはタウリン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩を含み得る。
1つの局面において、本開示の組成物は、ヒスチジン、ヒスチジン誘導体、ヒスチジン類似体、ヒスチジン前駆体、ヒスチジン代謝物、またはヒスチジン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩を含み得る。
1つの局面において、本開示の組成物は、タウリン、タウリン誘導体、タウリン類似体、タウリン前駆体、タウリン代謝物、またはタウリン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩と、ヒスチジン、ヒスチジン誘導体、ヒスチジン類似体、ヒスチジン前駆体、ヒスチジン代謝物、またはヒスチジン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩とを含み得る。
本開示の実施形態の例として、以下が挙げられる。
(項目1)
低酸素誘導因子(HIF)を阻害するための組成物であって、タウリン、タウリン誘導体、タウリン類似体、タウリン前駆体、タウリン代謝物、またはタウリン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩を含む、組成物。
(項目2)
タウリンを含む、前記項目に記載の組成物。
(項目3)
低酸素誘導因子(HIF)を阻害するための組成物であって、ヒスチジン、ヒスチジン誘導体、ヒスチジン類似体、ヒスチジン前駆体、ヒスチジン代謝物、またはヒスチジン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩を含む、組成物。
(項目4)
ヒスチジンを含む、前記項目に記載の組成物。
(項目5)
低酸素誘導因子(HIF)を阻害するための組成物であって、
タウリン、タウリン誘導体、タウリン類似体、タウリン前駆体、タウリン代謝物、またはタウリン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩と、
ヒスチジン、ヒスチジン誘導体、ヒスチジン類似体、ヒスチジン前駆体、ヒスチジン代謝物、またはヒスチジン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩とを含む、組成物。
(項目6)
タウリンおよびヒスチジンを含む、前記項目に記載の組成物。
(項目7)
HIFと関連する疾患、障害又は症状の治療又は予防のための、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目8)
網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患、がん、神経変性、もしくは自己免疫疾患の治療又は予防のための、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目A1)
低酸素誘導因子(HIF)を阻害するための方法であって、タウリン、タウリン誘導体、タウリン類似体、タウリン前駆体、タウリン代謝物、またはタウリン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩を投与する工程を含む、方法。
(項目A2)
タウリンを投与する工程を含む、前記項目に記載の方法。
(項目A3)
低酸素誘導因子(HIF)を阻害するための方法であって、ヒスチジン、ヒスチジン誘導体、ヒスチジン類似体、ヒスチジン前駆体、ヒスチジン代謝物、またはヒスチジン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩を投与する工程を含む、方法。
(項目A4)
ヒスチジンを投与する工程を含む、前記項目に記載の方法。
(項目A5)
低酸素誘導因子(HIF)を阻害するための方法であって、
タウリン、タウリン誘導体、タウリン類似体、タウリン前駆体、タウリン代謝物、またはタウリン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩と、
ヒスチジン、ヒスチジン誘導体、ヒスチジン類似体、ヒスチジン前駆体、ヒスチジン代謝物、またはヒスチジン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩とを投与する工程を含む、方法。
(項目A6)
タウリンおよびヒスチジンを投与する工程を含む、前記項目に記載の方法。
(項目A7)
HIFと関連する疾患、障害又は症状の治療又は予防のための、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目A8)
網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患、がん、神経変性、もしくは自己免疫疾患の治療又は予防のための、前記項目のいずれかに記載の方法。
(項目B1)
低酸素誘導因子(HIF)を阻害するための組成物を製造するための、タウリン、タウリン誘導体、タウリン類似体、タウリン前駆体、タウリン代謝物、またはタウリン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩の使用。
(項目B2)
前記組成物がタウリンを含む、前記項目に記載の使用。
(項目B3)
低酸素誘導因子(HIF)を阻害するための組成物を製造するための、ヒスチジン、ヒスチジン誘導体、ヒスチジン類似体、ヒスチジン前駆体、ヒスチジン代謝物、またはヒスチジン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩の使用。
(項目B4)
前記組成物がヒスチジンを含む、前記項目に記載の使用。
(項目B5)
低酸素誘導因子(HIF)を阻害するための組成物を製造するための、
タウリン、タウリン誘導体、タウリン類似体、タウリン前駆体、タウリン代謝物、またはタウリン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩と、
ヒスチジン、ヒスチジン誘導体、ヒスチジン類似体、ヒスチジン前駆体、ヒスチジン代謝物、またはヒスチジン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩との使用。
(項目B6)
前記組成物がタウリンおよびヒスチジンを含む、前記項目に記載の使用。
(項目B7)
前記組成物が、HIFと関連する疾患、障害又は症状の治療又は予防のためのものである、前記項目のいずれかに記載の使用。
(項目B8)
前記組成物が、網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患、がん、神経変性、もしくは自己免疫疾患の治療又は予防のためのものである、前記項目のいずれかに記載の使用。
(項目C1)
低酸素誘導因子(HIF)を阻害するために使用する化合物の組み合わせであって、タウリン、タウリン誘導体、タウリン類似体、タウリン前駆体、タウリン代謝物、またはタウリン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩を含む、化合物。
(項目C2)
前記化合物がタウリンを含む、前記項目に記載の化合物。
(項目C3)
低酸素誘導因子(HIF)を阻害するために使用する化合物の組み合わせであって、ヒスチジン、ヒスチジン誘導体、ヒスチジン類似体、ヒスチジン前駆体、ヒスチジン代謝物、またはヒスチジン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩を含む、化合物。
(項目C4)
前記化合物がヒスチジンを含む、前記項目に記載の化合物。
(項目C5)
低酸素誘導因子(HIF)を阻害するために使用する化合物の組み合わせであって、
タウリン、タウリン誘導体、タウリン類似体、タウリン前駆体、タウリン代謝物、またはタウリン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩と、
ヒスチジン、ヒスチジン誘導体、ヒスチジン類似体、ヒスチジン前駆体、ヒスチジン代謝物、またはヒスチジン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩とを含む、化合物の組み合わせ。
(項目C6)
前記化合物の組み合わせがタウリンおよびヒスチジンを含む、前記項目に記載の化合物の組み合わせ。
(項目C7)
HIFと関連する疾患、障害又は症状の治療又は予防のために使用する、前記項目のいずれかに記載の化合物または化合物の組み合わせ。
(項目C8)
網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患、がん、神経変性、もしくは自己免疫疾患の治療又は予防のために使用する、前記項目のいずれかに記載の化合物または化合物の組み合わせ。
本開示において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
本開示によれば、細胞毒性を低く抑えた上で、HIF阻害効果を奏することができる。
図1は、それぞれの細胞とそれぞれのHIF安定化条件における、各被験物質の結果を示す図である。図1の上のパネルは、DMOG誘導RH-ARPE19細胞における結果を示す。図1上パネル中、「MQ」は、水のみ(すなわち、DMOG誘導を行っていない)、「DMOG+・・・」は、DMOG誘導に加えて記載される物質が添加されたことを示す。「Topo」は、topotecanを添加した系、「DXR」はdoxorubicinを添加した系をそれぞれ意味する。後述する図においても、この点は同様である。図1の下のパネルは、低酸素誘導RH-ARPE19細胞における結果を示す。 図2は、マウスレーザー誘発性脈絡膜新生血管モデルにおける1週間処置後の脈絡膜病的血管新生を示す図である。CNVの縦軸は、アイソレクチン-B4染色により染色された脈絡膜病的血管新生の体積(μm)である。 図3は、マウス酸素誘導網膜症モデルにおける、処置後の(1)網膜病的血管新生(Neovasculartufts)の面積の網膜全体における割合と、(2)無血管領域(vaso-obliteration)の面積の網膜全体における割合とを示すグラフである。面積の割合は、ビヒクル処置に対する相対値を表す。 図4は、マウス酸素誘導網膜症モデル(Oxygen-induced retinopathy:OIR)における、ヒスチジン処置後の網膜電図(ERG)の測定結果を示すグラフである。「Light adapted ERG」は主に錐体系、「Dark adapted ERG」は光強度が小さい場合には主に桿体系機能、光強度が大きい場合には錐体+桿体の混合機能を測定した結果であり、それぞれ光強度に対する振幅を示すグラフである(横軸:光強度、縦軸:振幅)。また、「a wave」は視細胞の応答を示し、「b wave」はMuller細胞と双極細胞の応答を示す。グラフはそれぞれ左から、NOX(無処置)、OIR-MQ(ネガティブコントロール)、OIR-histidine(ヒスチジン投与群)の結果を示す。 図5は、マウス酸素誘導網膜症モデル(Oxygen-induced retinopathy:OIR)における、タウリン処置後の網膜電図(ERG)の測定結果を示すグラフである。「Light adapted ERG」は主に錐体系、「Dark adapted ERG」は光強度が小さい場合には主に桿体系機能、光強度が大きい場合には錐体+桿体の混合機能を測定した結果であり、それぞれ光強度に対する振幅を示すグラフである(横軸:光強度、縦軸:振幅)。また、「a wave」は視細胞の応答を示し、「b wave」はMuller細胞と双極細胞の応答を示す。グラフはそれぞれ左から、NOX(無処置)、OIR-MQ(ネガティブコントロール)、OIR-taurine(タウリン投与群)の結果を示す。 図6Aは、低酸素でHIF発現を安定化したARPE19細胞において、各被験物質を添加した後の、HIF(Hif1a遺伝子)と、その下流の因子(Vegf)の遺伝子発現を、qPCRによって測定した結果を示すグラフである。縦軸は、無処置(NOX)に対する発現の相対値を表す。図6Bは、低酸素でHIF発現を安定化したARPE19細胞において、各被験物質を添加した後の、HIFタンパク質の発現をウェスタンブロッティングによって測定した結果を示す図である。
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
<定義>
本明細書において「低酸素誘導因子(Hypoxia Inducible Factor;HIF)」とは、細胞に対する酸素供給が不足状態に陥った際に誘導されてくるタンパク質であり、転写因子として機能するものである。HIFには、数個種類があるが、特に言及しない限り、本明細書ではそれらをまとめてHIFとして取り扱う。HIF-αにはHIF-1α、HIF-2α、HIF-3αが存在するが、これらはいずれも細胞内に構成的に発現しているHIF-1βとヘテロ二量体と結合する能力を持つ。HIF-1αは正常酸素圧下でも産生はされるがタンパク質分解酵素複合体である26Sプロテアソームにより分解されてしまうため機能しないとされている。
本明細書において、「HIF阻害」は、HIFによる転写制御を阻害することを指す。
本明細書において「低酸素誘導因子(HIF)」の「阻害剤」または「HIF阻害剤」とは、HIFを阻害し得る任意の因子を指す。
本明細書において、「HIFと関連する疾患、障害又は症状」とは、HIFが関連する任意の疾患、障害又は症状を言い、網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患、がん、神経変性、もしくは自己免疫疾患の他、糖尿病、慢性心疾患を挙げることができる。
本明細書における「有効成分」は、網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患、がん、神経変性、もしくは自己免疫疾患の治療又は予防効果を得るために必要な量で含有される成分を指し、効果が所望のレベル未満にまで損なわれない限りにおいて、他の成分も含有されてよい。また、本開示の治療又は予防剤は、本明細書に記載される特定の物質そのものを治療又は予防剤としてもよいが、製剤化されたものであってもよい。また、本開示の治療又は予防剤の投与経路は、経口又は非経口のいずれであってもよく、治療又は予防剤の形態等に応じて適宜設定することができる。
「患者」または「被験体」は、ヒト、またはヒトを除く哺乳動物(例えば、マウス、モルモット、ハムスター、ラット、ネズミ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、マーモセット、サル、またはチンパンジー等の1種以上)を含む。
<HIF阻害剤>
本開示の1つの局面では、HIF阻害剤が提供される。本開示のHIF阻害剤は、特定アミノ酸またはアミノ酸様物質を含む。HIF(低酸素誘導因子)は、細胞に対する酸素供給が不足状態に陥った際に誘導されてくるタンパク質であり、転写因子として機能する。HIFとしては、例えば、HIF-1α、HIF-2α、およびHIF-3αなどが挙げられる。HIFは任意の動物のものであり得るが、好ましくは哺乳動物のものであり得、より好ましくは霊長類(ヒトであり得る)のものであり得る。HIFは、核内へ移行した後にHIF-1βとのヘテロ二量体を形成したり、CBP/p300などのヒストンアセチル化酵素と結合し、これらの複合体がDNA上の低酸素応答性領域(Hypoxia
Responsive Element、HRE)と呼ばれる応答エレメント(5’-ACGTG-3’)に結合することにより、転写因子として作用する。本明細書において、「HIF阻害」は、HIFによる転写制御を阻害することにより測定することができる。かかる転写制御の阻害は、HIF自体の阻害に加えて、HIFと複合体を形成する因子、または下流に存在する因子の阻害を含み得る。
ある化合物または混合物がHIF阻害活性を有していることは、当業者は、本明細書の実施例に記載されるように確認することが可能である。例えば、細胞にHREの下流にルシフェラーゼを連結したコンストラクトを導入し、塩化コバルトまたはDMOGなどでHIFを誘導し、被験化合物または被験材料を細胞に添加することで、HIF阻害活性の確認が可能である。当業者は、本開示の特定アミノ酸の代謝物、誘導体または類似体などについて、HIF阻害活性を有するものであるかを本明細書の実施例に従って確認することができる。
<アミノ酸>
本開示において、特定アミノ酸またはその組み合わせを用いたHIF阻害剤が提供され得る。特定アミノ酸は、好ましくは、タウリンまたはヒスチジンである。本明細書の実施例において、これらの特定アミノ酸のHIF阻害効果が実証されている。本開示において、これらのアミノ酸の薬学的に許容され得る塩もまた使用可能である。「アミノ酸」は狭義にはアミノ基を含有するカルボン酸を指すが、本開示においては、タウリンを含めたアミノ基を含有する有機酸を包含するものとして用いられる。
本開示において、あるアミノ酸に対する「アミノ酸様物質」もまた使用し得る。あるアミノ酸に対するその前駆体、その代謝物、その誘導体、その類似体およびそのアミノ酸の生合成に必要な物質をまとめてそのアミノ酸に対する「アミノ酸様物質」と称し得る。あるアミノ酸が活性を有する場合に、そのアミノ酸に対するアミノ酸様物質を同様の活性を生じさせるものと期待して使用し得る。本開示においては、HIF阻害活性を有する、特定アミノ酸の「アミノ酸様物質」を使用してもよい。
本開示において使用する特定アミノ酸またはアミノ酸様物質は、遊離体のみならず、塩の形態で使用することもできる。このような塩としては、薬学的に許容され得る塩を選択することが好ましく、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
<タウリン>
タウリンは、構造式がHN-CH-CH-SOHの物質であり、IUPAC名は2-アミノエタンスルホン酸である。本開示において、タウリン前駆体、タウリン代謝物、タウリン誘導体、タウリン類似体およびタウリン生合成に必要な物質を総合して「タウリン様」物質と称し得る。本明細書の実施例において、タウリンのHIF阻害効果、脈絡膜病的血管新生抑制効果、網膜血管新生抑制効果、網膜神経保護効果が示されている。本開示は、それらの効果を利用した、タウリンまたはタウリン様物質を含む組成物を提供し得る。
本開示において、タウリン様物質は、タウリン前駆体、タウリン代謝物、タウリン誘導体、タウリン類似体およびタウリン生合成に必要な物質からなる群から選択され得る。タウリン自体の他にも、タウリン前駆体、タウリン代謝物、タウリン誘導体、タウリン類似体およびタウリン生合成に必要な物質は、被験体の血中または投与部位におけるタウリン量を増加させるか、またはタウリンによる活性と同様の活性を増大させることが可能であると考えられる。
本開示において、「タウリン前駆体」とはヒトまたは動物に投与されたときに直接または間接的にタウリンに変換される物質を意味する。タウリン前駆体として、システイン、シスタチオニン、ホモシステイン、S-アデノシルホモシステイン、セリン、N-アセチル-システイン、グルタチオン、N-ホルミルメチオニン、S-アデノシルメチオニン、ベタイン、メチオニンからなる群の中から選択される1または複数が挙げられる。
本開示において、「タウリン代謝物」とは、生体内でのタウリンの変換により生成される物質を意味する。タウリン代謝物として、ヒポタウリン、チオタウリン、タウロコール酸塩からなる群から選択される1または複数が挙げられる。
本開示において、「タウリン誘導体」とは、タウリンの構造において少なくとも一つの構造上の相違、例えば一つまたは複数の化学変化を生じさせた物質、例えばタウリンで見られる原子または化学基を異なる原子または異なる化学基で少なくとも一つ置換した物質である。タウリン誘導体として、例えば、アセチルホモタウリネート、およびピペリジノ-、ベンズアミド-、フタルイミド-またはフェニルスクシニルイミドタウリン誘導体からなる群等の種々の単位の中から選択される。タウリン誘導体の例として、タウロリジン(4,4'-メチレン-ビス(テトラヒドロ-2H-1,2,4-チアジアジン-1,1-ジオキシドまたはタウロリン)、タウラルタムおよびタウリンアミド、クロロハイドレート-N-イソプロピルアミド-2-(1-フェニルエチル)アミノエタンスルホン酸からなる群から選択される1または複数が挙げられる。
本開示において、「タウリン類似体」とは、タウリンに類似する構造を有し、同じ生物学活性を発揮する物質、例えば、HIF阻害活性、脈絡膜病的血管新生抑制効果、網膜血管新生抑制効果、網膜神経保護効果を有する物質である。タウリン類似体としては、(+/-)ピペリジン-3-スルホン酸(PSA)、2-アミノエチルホスホン酸(AEP)、(+/-)2-アセチルアミノシクロヘキサンスルホン酸(ATAHS)、2-アミノベンゼンスルホネート(ANSA)、ヒポタウリン、±トランス-2-アミノシクロペンタンスルホン酸(TAPS)、8-テトラヒドロキノレインスルホン酸(THQS)、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-エタンスルホン酸(HEPES)、β-アラニン、グリシン、グアニジノエチルスルフェート(GES)、3-アセトアミド-1-プロパンスルホン酸からなる群から選択される1または複数が挙げられる。
本開示においてタウリン生合成に必要な物質には、インビボでタウリン生合成に関与する全ての物質、例えば酵素およびそれをコードする遺伝子(核酸分子)ならびに酵素補助因子、従って、システインジオキシゲナーゼ(EC1.13.11)、スルフィノアラニンデカルボキシラーゼ(EC4.1.1.29)およびこれらをコードする遺伝子(核酸分子)、ならびにこれらの酵素補助因子が含まれる。タウリン生合成に必要な物質として、ビタミンB6(またはピリドキサール-5’-リン酸)、ビタミンB12(コバラミン)、葉酸、リボフラビン、ピリドキシン、ナイアシン、チアミン(チアミンピロリン酸)およびパントテン酸からなる群から選択される1または複数が挙げられる。これらのタウリン生合成に必要な物質の提供は、遺伝子操作(例えば、ゲノム編集)などで達成されてもよい。
<ヒスチジン>
ヒスチジンはアミノ酸の一種で、2-アミノ-3-(1H-イミダゾール-4-イル)プロピオン酸である。本明細書において、単にヒスチジンと記載する場合には、L体とD体を区別しない。本開示において、ヒスチジンとして、L-ヒスチジンまたはD-ヒスチジンあるいはそれらの薬学的に許容され得る塩を使用することが可能である。
本開示において、ヒスチジン前駆体、ヒスチジン代謝物、ヒスチジン誘導体、ヒスチジン類似体およびヒスチジン生合成に必要な物質を総合して「ヒスチジン様」物質と称し得る。本明細書の実施例において、ヒスチジンのHIF阻害効果、脈絡膜病的血管新生抑制効果、網膜血管新生抑制効果、網膜神経保護効果が示されている。本開示は、それらの効果を利用した、ヒスチジンまたはヒスチジン様物質を含む組成物を提供し得る。
本開示において、ヒスチジン様物質は、ヒスチジン前駆体、ヒスチジン代謝物、ヒスチジン誘導体、ヒスチジン類似体およびヒスチジン生合成に必要な物質からなる群から選択され得る。ヒスチジン自体の他にも、ヒスチジン前駆体、ヒスチジン代謝物、ヒスチジン誘導体、ヒスチジン類似体およびヒスチジン生合成に必要な物質は、被験体の血中または投与部位におけるヒスチジン量を増加させるか、またはヒスチジンによる活性と同様の活性を増大させることが可能であると考えられる。
本開示において、「ヒスチジン前駆体」とはヒトまたは動物に投与されたときに直接または間接的にタウリンに変換される物質を意味する。ヒスチジン前駆体として、L-ヒスチジン及びβアラニンからなるカルノシンや、βアラニンと1-メチルヒスチジンからなるアンセリン、βアラニンと3-メチルヒスチジンからなるバレニン、ホモカルノシン(γアミノブチリルL-ヒスチジン)、N-アセチルL-ヒスチジン、N-アセチルカルノシン、N-アセチルアンセリンからなる群から選択される1または複数が挙げられる。
本開示において、「ヒスチジン代謝物」とは、生体内でのヒスチジンの変換により生成される物質を意味する。ヒスチジン代謝物として、ウロカニン酸、イミダゾールー4―オンー5―プロピオン酸、ホルムイミノグルタミン酸、グルタミン酸、2―オキシグルタミン酸などからなる群から選択される1または複数が挙げられる。
本開示において、「ヒスチジン誘導体」とは、ヒスチジンの構造において少なくとも一つの構造上の相違、例えば一つまたは複数の化学変化を生じさせた物質、例えばヒスチジンで見られる原子または化学基を異なる原子または異なる化学基で少なくとも一つ置換した物質である。ヒスチジン誘導体として、例えば、アンセリン(N-β-アラニル-1-メチル-L-ヒスチジン)、カルノシン(β-アラニル-L-ヒスチジン)、N-アセチル-DL-ヒスチジン一水和物、N-アセチル-L-ヒスチジン一水和物、ベンゾイル-L-ヒスチジン一水和物、N(α)-カルボベンゾキシ-L-ヒスチジン、N(α)-(tert-ブトキシカルボニル)-L-ヒスチジン、N(α)-(tert-ブトキシカルボニル)-τ-(p-トルエンスルホニル)-L-ヒスチジン、τ-ベンジル-N(α)-(tert-ブトキシカルボニル)-L-ヒスチジン、N(α)-カルボベンゾキシ-D-ヒスチジン、N-ホルミル-L-ヒスチジン、N(α)-[(9H-フルオレン-9-イルメトキシ)カルボニル]-τ-(トリフェニルメチル)-L-ヒスチジン、N(α)-[(9H-フルオレン-9-イルメトキシ)カルボニル]-τ-(トリフェニルメチル)-D-ヒスチジン、L-ヒスチジンメチルエステル二塩酸塩、D-ヒスチジンメチルエステル二塩酸塩、N(α)-アクリロイル-N(π)-メチル-L-ヒスチジン、N(α)-アクリロイル-N(π)-エチル-L-ヒスチジン、N(α)-クロトノイル-N(π)-メチル-L-ヒスチジン、N(α)-クロトノイル-N(π)-エチル-L-ヒスチジン、N(α)-3-メチルクロトノイル-N(π)-メチル-L-ヒスチジン、N(α)-3-フェニルプロペノイル-N(π)-メチル-L-ヒスチジン、N(α)-2-メチル-2-ブテノイル-N(π)-メチル-L-ヒスチジン、N(α)-アクリロイル-N(π)-プロピル-L-ヒスチジン、N(α)-3-メチルクロトノイル-N(π)-エチル-L-ヒスチジン、N(α)-3-フェニルプロペノイル-N(π)-エチル-L-ヒスチジン、N(α)-2-メチル-2-ブテノイル-N(π)-エチル-L-ヒスチジン、N(α)-クロトノイル-N(π)-プロピル-L-ヒスチジン、N(α)-アクリロイル-N(π)-イソプロピル-L-ヒスチジン、N(α)-アクリロイル-L-ヒスチジン、N(α)-アクリロイル-N(π)-メチル-D-ヒスチジン、N(α)-3-(4-メチルフェニル)アクリロイル-N(π)-メチル-L-ヒスチジン、N(α)-3-(4-メトキシフェニル)アクリロイル-N(π)-メチル-L-ヒスチジン、N(α)-3-(4-クロロフェニル)アクリロイル-N(π)-メチル-L-ヒスチジン、N(α)-3-(3,4-ジクロロフェニル)アクリロイル-N(π)-メチル-L-ヒスチジン、N(α)-3-(4-フルオロフェニル)アクリロイル-N(π)-メチル-L-ヒスチジン、N(α)-3-(3,5-ビストリフルオロメチルフェニル)アクリロイル-N(π)-メチル-L-ヒスチジン、N(α)-3-(4-イソブチルフェニル)アクリロイル-N(π)-メチル-L-ヒスチジン、N(α)-3-(3,4-ジメトキシフェニル)アクリロイル-N(π)-メチル-L-ヒスチジン、N(α)-3-(4-ニトロフェニル)アクリロイル-N(π)-メチル-L-ヒスチジン、N(α)-3-(3-シアノフェニル)アクリロイル-N(π)-メチル-L-ヒスチジン、N(α)-3-(3-メトキシフェニル)アクリロイル-N(π)-メチル-L-ヒスチジン、N(α)-アクリロイル-N(π)-ベンジル-L-ヒスチジン、N(α)-アクリロイル-N(π)-4-クロロベンジル-L-ヒスチジン、N(α)-アクリロイル-N(π)-4-メチルベンジル-L-ヒスチジン、N(α)-メタクリル-N(π)-メチル-L-ヒスチジンからなる群から選択される1または複数が挙げられる。
本開示において、「ヒスチジン類似体」とは、ヒスチジンに類似する構造を有し、同じ生物学活性を発揮する物質、例えば、HIF阻害活性、脈絡膜病的血管新生抑制効果、網膜血管新生抑制効果、網膜神経保護効果を有する物質である。ヒスチジン類似体として、アルギニン、オルニチン、グルタミン酸5―セミアルデヒド、グルタミン、プロリン、プロリン5―カルボン酸などからなる群から選択される1または複数が挙げられる。
本開示においてヒスチジン生合成に必要な物質には、インビボでヒスチジン生合成に関与する全ての物質が挙げられる。ヒスチジンの生合成はATPのアデニン部分とホスホリボシルピロ燐酸からイミダゾールグリセロ燐酸が形成され、これにアミノ基転移反応が起ることで達成される。従って、例えば酵素およびそれをコードする遺伝子(核酸分子)ならびに酵素補助因子、従って、グルコース6リン酸、リボース5リン酸、ホスホリボシル2リン酸、イミダゾール-グリセロール-3リン酸などが挙げられる。これらのヒスチジン生合成に必要な物質の提供は、遺伝子操作(例えば、ゲノム編集)などで達成されてもよい。
本開示において、組成物は、タウリンまたはタウリン様物質と、ヒスチジンまたはヒスチジン様物質との両方を含み得る。L-/D-ヒスチジン単独よりも、タウリンを同時に加えることでHIF抑制効果が強まることがあり得、相乗的な効果が期待され得る。
<治療又は予防剤>
本開示のHIF阻害剤は、疾患の治療又は予防剤として利用可能であることが期待される。したがって、本開示は、HIFと関連する疾患、障害又は症状の予防または治療に用いられることが理解される。例えば、HIFの阻害によって、網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患、がん、神経変性、もしくは自己免疫疾患の治療又は予防剤が提供され得る。本開示においてまた、特定アミノ酸またはアミノ酸様物質を含む疾患の治療又は予防剤が提供され得る。
特に、本開示の治療剤又は予防剤は、細胞毒性がないため、有用であり得る。また、本開示の治療剤又は予防剤は、例えば、眼科領域の疾患(眼のがん、網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患等)等に有用である。
本開示のHIF阻害剤は、脈絡膜病的血管新生の治療又は予防に用いられ得る。本開示のHIF阻害剤は、血管新生抑制効果を有し、血管新生の抑制のために用いられ得る。本開示のHIF阻害剤は、線維性組織増殖の抑制効果を有し、線維性組織増殖(瘢痕形成)の抑制に用いられ得る。本開示のHIF阻害剤は、網膜変性疾患の治療又は予防に用いられ得る。
本開示の治療又は予防剤の対象疾患は、網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患及び、神経変性、もしくは自己免疫疾患のいずれであってもよいが、がんの治療又は予防に適している。
本開示の治療又は予防剤の対象疾患となるがんは、特に限定されないが、眼瞼悪性腫瘍、角・結膜悪性腫瘍、眼内悪性腫瘍、眼窩悪性腫瘍、肺がん、前立腺がん、乳がん、肝がん、胃がん、大腸がん、甲状腺がん、腎臓がん、子宮がん、卵巣がん、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、悪性リンパ腫、急性・慢性白血病、骨髄異形成症候群(MDS)、骨髄増殖性腫瘍等が挙げられる。
本開示の治療又は予防剤の対象疾患となる網膜変性疾患は、特に限定されないが、萎縮型加齢黄斑変性、網膜色素変性、遺伝性黄斑ジストロフィ等が挙げられる。
本開示の治療又は予防剤の対象疾患となる神経変性は、特に限定されないが、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン症候群、アルツハイマー病、進行性核上性麻痺、ハンチントン病、多系統萎縮症、脊髄小脳変性等が挙げられる。
本開示の治療又は予防剤の対象疾患となる網脈絡膜病的血管新生疾患は、特に限定されないが、未熟児網膜症、糖尿病網膜症、増殖硝子体網膜症、加齢黄斑変性、VHL(Von Hippel-Lindau)病等が挙げられる。
本開示の治療又は予防剤の対象疾患となる自己免疫疾患は、特に限定されないが、ぶどう膜炎、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、抗リン脂質抗体症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎、強皮症、シェーグレン症候群、IgG4関連疾患、血管炎症候群、混合性結合組織病、臓器特異的自己免疫疾患等が挙げられる。
<製剤>
本開示の阻害剤、治療又は予防剤などの医薬または組成物は、その適用に合わせた形態に製剤化されて提供され得る。例えば、本開示における阻害剤、治療又は予防剤などの医薬または組成物は、眼科用組成物である場合に、眼注射液、眼軟膏、点眼剤または眼灌流液として提供され得る。
経口投与の場合、有効成分が含まれるように錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤等の種々の形状に製剤化して用いてもよく、製剤中に一般に使用される結合剤、包含剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤のような添加剤を含有させてもよい。また、これらのほか、経口投与の場合における製剤は、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等の液体状態として製剤化してもよく、使用時に再溶解される乾燥状態のものとして製剤化してもよい。
非経口投与の場合、有効成分が含まれるように単位投与量アンプルもしくは多投与量容器又はチューブ内に収容された状態に製剤化してもよく、また、安定剤、緩衝剤、保存剤、等張化剤等の添加剤も含有させてもよい。また、非経口投与の場合における製剤は、使用時に、適当な担体(滅菌水等)で再溶解可能な粉体に製剤化されてもよい。非経口投与としては、硝子体内投与、結膜下投与、前房内投与、点眼投与、腹腔内投与等が挙げられる。患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。その投与量は、年齢、投与経路、投与回数により異なり、当業者であれば適宜選択できる。
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下を含め本明細書において提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
本開示において、特定アミノ酸または特定アミノ酸様物質を含む、網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患、がん、神経変性、もしくは自己免疫疾患の治療又は予防のための組成物が提供され得る。
好ましくは、本開示は、網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患、がん、神経変性、もしくは自己免疫疾患などのHIFと関連する疾患、障害又は症状の治療又は予防等の用途で用いるために、低酸素誘導因子(HIF)を阻害するための組成物であって、(a)タウリン、タウリン誘導体、タウリン類似体、タウリン前駆体、タウリン代謝物、またはタウリン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩(好ましくはタウリンまたはその薬学的に許容可能な塩)、ならびに/あるいは(b)ヒスチジン、ヒスチジン誘導体、ヒスチジン類似体、ヒスチジン前駆体、ヒスチジン代謝物、またはヒスチジン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩(好ましくはヒスチジンまたはその薬学的に許容可能な塩)を含む、組成物またはキットを提供する。
本明細書において(a)および(b)は単独または組み合わせて用いられ得る。
本開示の組成物は、網膜変性疾患の治療又は予防のためのものであってよく、また、網膜変性疾患において網膜神経を保護するためのものであってよい。本開示の組成物は、網膜病的血管新生疾患の治療又は予防のためのものであってよく、また、網膜病的血管新生疾患において病的血管新生を抑制するためのものであってよい。本開示の組成物は、脈絡膜病的血管新生疾患の治療又は予防のためのものであってよく、また、脈絡膜病的血管新生疾患において病的血管新生を抑制するためのものであってよい。
本開示において、特定アミノ酸または特定アミノ酸様物質を投与する工程を含む、網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患、がん、神経変性、もしくは自己免疫疾患の治療又は予防の方法が提供され得る。
好ましくは、本開示は、網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患、がん、神経変性、もしくは自己免疫疾患などのHIFと関連する疾患、障害又は症状の治療又は予防等のための方法であって、(a)タウリン、タウリン誘導体、タウリン類似体、タウリン前駆体、タウリン代謝物、またはタウリン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩(好ましくはタウリンまたはその薬学的に許容可能な塩)、ならびに/あるいは(b)ヒスチジン、ヒスチジン誘導体、ヒスチジン類似体、ヒスチジン前駆体、ヒスチジン代謝物、またはヒスチジン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩(好ましくはヒスチジンまたはその薬学的に許容可能な塩)の有効量をそれを必要とする被験者に投与する工程を含む、方法を提供する。
あるいは、(a)タウリン、タウリン誘導体、タウリン類似体、タウリン前駆体、タウリン代謝物、またはタウリン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩(好ましくはタウリンまたはその薬学的に許容可能な塩)、ならびに/あるいは(b)ヒスチジン、ヒスチジン誘導体、ヒスチジン類似体、ヒスチジン前駆体、ヒスチジン代謝物、またはヒスチジン生合成に必要な物質、あるいはそれらの薬学的に許容可能な塩(好ましくはヒスチジンまたはその薬学的に許容可能な塩)の有効量をそれを必要とする対象に投与する工程を含む、低酸素誘導因子(HIF)を阻害するための方法を提供する。
本明細書において(a)および(b)は単独または組み合わせて用いられ得、その投与のタイミングは同時であっても異時であってもよく、連続的であってもよく、時間を空けて別々に投与されてもよい。
本開示の方法は、網膜変性疾患の治療又は予防のためのものであってよく、また、網膜変性疾患において網膜神経を保護するためのものであってよい。本開示の方法は、網膜病的血管新生疾患の治療又は予防のためのものであってよく、また、網膜病的血管新生疾患において病的血管新生を抑制するためのものであってよい。本開示の方法は、脈絡膜病的血管新生疾患の治療又は予防のためのものであってよく、また、脈絡膜病的血管新生疾患において病的血管新生を抑制するためのものであってよい。
本開示において、網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患、がん、神経変性、もしくは自己免疫疾患の治療又は予防のための医薬の製造における特定アミノ酸または特定アミノ酸様物質の使用が提供され得る。本開示において、網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患、がん、神経変性、もしくは自己免疫疾患の治療又は予防のための、特定アミノ酸または特定アミノ酸様物質、あるいはそれらの使用が提供され得る。
理論に束縛されることを望まないが、本開示は、上記(a)および/または(b)を用いることで、安全性の高い、網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患、がん、神経変性、もしくは自己免疫疾患などのHIFと関連する疾患、障害又は症状の治療又は予防を実現することができる。特に(a)および(b)を組み合わせることにより、さらに顕著に改善された、安全性の高い、網膜変性疾患、網脈絡膜病的血管新生疾患、がん、神経変性、もしくは自己免疫疾患などのHIFと関連する疾患、障害又は症状の治療又は予防を実現することができる。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
以下に実施例を記載する。以下の実施例で用いる生物の取り扱いは、必要な場合、監督官庁で規定される基準を遵守した。試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma-Aldrich、など)の同等品でも代用可能である。
(実施例1:ルシフェラーゼアッセイによるアミノ酸のHIF阻害活性の確認実験)
(材料および方法)
ヒト網膜色素上皮細胞株(ARPE19)(ATCC、Catalog番号:CRL-2302)に対しレ
ンチウイルスを用いてHIF活性依存的-Firefly-Luciferase(QIAGEN、Catalog番号:CLS-007L)と内在性コントロールCMV-Renilla-Luci
ferase(QIAGEN、Catalog番号:CLS-RHL)をともに遺伝子導入し安定発現株を作成した。この細胞に対して、プロリル水酸化酵素(PHD)阻害剤であるジメチルオキサロイルグリシン(DMOG)の添加、あるいは低酸素条件培養(3%酸素で培養)することによりHIFを安定化させ、さらにルシフェリンを加えることによりHIF活性と相関する発光シグナルを得ることができる。この細胞に対して種々の試料を添加し、DMOG誘導HIF活性に対する候補物質のHIF阻害効果を確認した。
具体的には96well plate(Corning、Catalog番号:3783)へARPE19細胞を1×10個ずつ播種した。細胞がplate底面へ生着した後に、DMOGを1mmol/lの濃度で添加するか、低酸素条件培養(3%酸素で培養)し、HIF活性を誘導した。DMOG添加24時間後にPromega社製Dual-Glo Luciferase assay systemを用いて発光強度の測定を行った。また、候補物質の添加は1mg/mlの濃度で行った。
まず、活性測定系について、ポジティブコントロールとしてHIF阻害活性を有するtopotecan(Cayman Chemical、Catalog番号:119413-54-6)とdoxorubi
cin(東京化成、Catalog番号:D4193)を用いて、活性の確認をした。ネガティ
ブコントロールとして、水のみの添加を使用した(MQ)。
(結果)
図1に、それぞれの細胞とそれぞれのHIF安定化条件における、各被験物質の結果を示した。図1の上のパネルは、DMOG誘導ARPE19細胞における結果を示す。図1上パネル中、「MQ」は、水のみ(すなわち、DMOG誘導を行っていない)、「DMOG+・・・」は、DMOG誘導に加えて記載される物質が添加されたことを示す。「Topo」は、topotecanを添加した系、「DXR」はdoxorubicinを添加した系をそれぞれ意味する。後述する図においても、この点は同様である。図1の下のパネルは、低酸素誘導ARPE19細胞における結果を示す。タウリンと、ヒスチジンは、それぞれHIF阻害活性を有することが示された。
(実施例2:マウスレーザー誘発性脈絡膜新生血管モデル(Laser-Choroidal neovascularization)における特定アミノ酸の効果)
(材料および方法)
7週齢のC57BL/6Jマウスを用いた。0日目に、マウスの眼に対し、75μm波長、200mWのアルゴンレーザー(NOVUS spectra、レーザー発生装置入手先:Lumenis)を0.1秒照射し、Bruch’s膜を破壊し、レーザー誘発性脈絡膜新生血管モデ
ルを作製した。
Vehicle(MQ)(純水)、ヒスチジン(5000mg/kg/日)、タウリン(400mg/kg/日)をマウスに対して5日にわたり経口投与した(Vehicle
3匹6眼 n=19、ヒスチジン 3匹6眼 n=30、タウリン 3匹6眼 n=28)1週間の処置期間の終了後、マウスを安楽死させ、眼球を摘出し、ホールマウントを作製した。ホールマウントは、網膜色素上皮(RPE)・脈絡膜・強膜の複合物を含む。ホールマウントをアイソレクチン-B4で染色した。
脈絡膜病的血管新生(CNV)の程度を、以下のとおり測定した。アイソレクチン-B4染色により染色された脈絡膜病的血管新生を共焦点レーザー顕微鏡LSM-710(Zeiss)により撮影し、IMARIS(Bitplane)により体積の測定を行なった。
(結果)
レーザー処置後1週目の結果が図2に示される。CNV(脈絡膜病的血管新生)に対するタウリン単独またはタウリン併用での抑制効果が認められ、タウリンのCNV抑制効果が示唆された。
(実施例3:マウス酸素誘導網膜症モデル(Oxygen-inducedretinopathy:OIR)における、血管新生抑制効果)
(材料および方法)
新生仔マウス(C57BL/6Jマウス)を、酸素コントローラーと接続したアニマルチャンバー中で、生後8日から11日まで高酸素(85%)に曝露した。これにより、網膜血管網が退縮した。生後11日から17日まで通常酸素条件下で飼育した。これにより、相対的な低酸素により病的血管新生を誘導した。このように網膜症を誘導したマウス酸素誘導網膜症モデル(OIRモデル)は、未熟児網膜症や糖尿病網膜症などのモデルとして使用される。
生後12日目~16日目に、ヒスチジン3000mg/kg/日、タウリン400mg/kg/日またはvehicle(純水)を、計5回経口投与した。ヒスチジン投与群3匹、タウリン投与群3匹、vehicle投与群3匹。17日目にマウスを安楽死させ、眼球を摘出し、ホールマウントを作製した。ホールマウントは、イソレクチン-B4染色した。
網膜病的血管新生の程度を、以下のとおり測定した。評価項目として(1)網膜病的血管新生(Neovasculartufts)の面積と、(2)無血管領域(vaso-obliteration)の面積とを評価した。
(結果)
結果は、図3に示される。網膜病的血管新生(Neovascular tufts)に有意な減少が見られたことから、ヒスチジン・タウリンのHIF抑制を介した網膜病的血管新生抑制効果が示唆された。
(実施例4:マウス酸素誘導網膜症モデル(OIR)における、網膜神経保護効果)
(材料および方法)
実施例3と同様に、マウス酸素誘導網膜症モデル(OIRモデル)を作製した。生後12日目~16日目に、ヒスチジン3000mg/kg/日、タウリン400mg/kg/日またはvehicle(純水)を、計5回経口投与した。ヒスチジン投与群3匹、タウリン投与群3匹、vehicle投与群3匹。17日目に眼球における網膜電図(ERG)を測定した。
ERGは、以下のとおり測定した。
網膜電図(Electric retinogram:ERG)評価
12時間の暗順応後にMMB麻酔、両眼散瞳を施行した。LED刺激装置及び解析システム(PuREC;メイヨー社製)を用いて、杆体(Rod;暗順応、0.00005~0.02cds/m)、混合(Mix;暗順応、0.1~50cds/m)、錐体(Cone;明順応、4~20cds/m)の刺激を段階的に与えて両眼のERGを測定した。各々のa波、b波の振幅を用いて評価した。結果を図4、5に示す。
(結果)
図4はヒスチジン投与群及びMQ投与群のERG測定結果を示す図であり、図5はタウリン投与群及びMQ投与群のERG測定結果を示す図である。上段はCone ERG b波を用いた場合の振幅を示し、下段はRodまたはMix ERG a波、b波をそれぞれ用いた場合の振幅を示す。
図5に示した結果から明らかなように、Cone ERG、Rod ERG及びMix
ERGにおいてタウリン群はVehicle群に対して有意に振幅減少を抑制しており、タウリン投与によってOIRモデルマウスにおける網膜変性から網膜神経細胞を保護でき
ていることが示唆される。
(実施例5:ARPE19細胞における、qPCRによる特定アミノ酸を用いたHIF発現抑制の確認)
(材料および方法)
ヒト網膜色素上皮細胞株(ARPE19)に対し、1%Oの低酸素条件での培養によりHIFを安定化した。HIFを安定化した細胞に対し、1%の各被験物質を添加した。12時間のインキュベーションの後、細胞からTRI Reagent(コスモ・バイオ株式会社、TR118)により全RNAを抽出した。逆転写反応をReverTra Ace(登録商標) qPCR RT Master Mix(TOYOBO, FSQ-301)を用いて行った。qPCRにより、Hif1aと、その
下流の遺伝子にあたるVegf遺伝子の遺伝子発現を定量した。qPCRはTHUNDERBIRD(登
録商標) SYBR(登録商標) qPCR Mix(TOYOBO、QPS-201)を用いて行った。プライマー配列は以下の通りであった。
HIF-1α forward:GGTTCCAGCAGACCCAGTTA(配列番号1)、
HIF-1α reverse:AGGCTCCTTGGATGAGCTTT(配列番号2)、
VEGF forward:CCTGGTGGACATCTTCCAGGAGTACC(配列番号3)、
VEGF reverse:GAAGCTCATCTCTCCTATGTGCTGGC(配列番号4)
(結果)
結果を図6Aに示す。タウリンまたはヒスチジンにより、Hif1aと、Hif1a下流の血管新生促進因子との抑制傾向が見られた。
図6Aの結果から、ARPE19細胞の系において、タウリンまたはヒスチジンにより、vegf遺伝子の発現量は低下することがわかった。この結果から、ヒスチジン及びタウリンのHIF下流遺伝子群に対する抑制効果が示された。
(実施例6:ARPE19における、ウェスタンブロットによる特定アミノ酸を用いたたHIF発現抑制の確認)
(材料および方法)
ヒト網膜色素上皮細胞株(ARPE19)に対し、1%Oの低酸素条件での培養によりHIFを安定化した。HIFを安定化した細胞に対し、1%の各被験物質を添加した。ポジティブコントロールとしてHIF阻害活性を有するTopotecan(Topo)とDoxorubicin(DXR)を用い、ネガティブコントロールとして純水(MQ)を用いた。
48時間のインキュベーション後、各細胞群から細胞溶解バッファー(150mM NaCl、1% NP-40、0.5% sodium deoxycholate、0.1% SDS、50mM Tris HCL pH7.5)にてタンパク抽出を行なった。各サンプルをSDS-PAGEにより電気泳動後、polyvinylidene fluoride(PVDF)メンブレンへの転写を行なった。5%スキムミルクにより室温にて1時間のブロッキング後、1次抗体として抗HIF1α抗体(1:1000、Cell Signaling Technology、36169)、抗HIF2α抗体(1:1000、Novus Biologicals、NB10
0‐122)、および抗βactin抗体(1:10000, Sigma, A5316)を使用し4℃で一晩インキュベーションした。その後HRP標識2次抗体(1:4000, GE healthcare life science, NA934(HIF1α、HIF2α)、1:15000, GE healthcare life science, NA931(βactin))を使用し室温にて1時間のインキュベーションを行なった。EzWestLumi plus chemiluminescent detection reagent (ATTO Corp. 2332638)にてシグナル検出を行い、ImageQuant LAS 4000mini(GE Healthcare)にて化学発光反応
をおこなった。
(結果)
結果は図6Bに示す。ウェスタンブロットの染色強度から、タウリンまたはヒスチジンにより、細胞におけるHIFタンパク質(HIF1αおよびHIF2α)のタンパク質発現が抑制され得ることが示された。
図6Bの結果から、ARPE19細胞の系において、タウリンまたはヒスチジンにより、HIF1αおよびHIF2αのタンパク質発現量は低下することがわかった。この結果から、ヒスチジン及びタウリンのHIFに対する抑制効果が示された。
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみ、その範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様に、その内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本願は、日本国特許庁に2019年11月29日に出願された特願2019-216993に対して優先権主張をするものであり、その内容はその全体があたかも本願の内容を構成するのと同様に参考として援用される。
本開示は、HIFと関連する疾患、障害、または症状に対して予防または治療に用い得る原料を提供する。
配列番号1:HIF-1αフォワードプライマー
配列番号2:HIF-1αリバースプライマー
配列番号3:VEGFフォワードプライマー
配列番号4:VEGFリバースプライマー

Claims (3)

  1. 低酸素誘導因子(HIF)を阻害するための組成物であって、
    タウリン、あるいはその薬学的に許容可能な塩と、
    ヒスチジン、あるいはその薬学的に許容可能な塩とを含む、組成物。
  2. タウリンおよびヒスチジンを含む、請求項1に記載の組成物。
  3. 網膜変性疾患または網脈絡膜病的血管新生疾患の治療又は予防のための、請求項1または2に記載の組成物。
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