JP7264465B2 - 電極構造体、電気化学測定装置、及び電気化学測定方法 - Google Patents

電極構造体、電気化学測定装置、及び電気化学測定方法 Download PDF

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Description

本発明は、電気化学測定用の電極構造体、及び当該電極構造体が接続されることにより電気化学測定を行う電気化学測定装置、並びに電気化学測定方法に関する。
電気化学測定は、作用極、参照極、及び対極の3本の電極を用いて行われるのが通例である。作用極では注目する電極反応が進み、参照極は作用極の電位制御の基準に用いられ、対極は作用極と対になって電流を流す(非特許文献1:第21頁参照)。
この電気化学測定を利用して、水中の微量成分の濃度を測定することが行われている(特許文献1参照)。また、電気化学測定に用いられる電極を、使い捨て可能なセンサストリップ構造とした技術が知られている(特許文献2参照)。しかし、従来の技術では、飲料水、環境土壌水(田の水など)、尿、血液中の重金属濃度に関する国の基準である10ppbの重金属濃度を精度良く測定することは容易ではなく、より感度の高い測定を可能にする電極の構造が求められていた。
特開平11-248668号公報 特表2006-514300号公報
電気化学会編「電気化学測定マニュアル・基礎編」丸善出版株式会社 2002年発行
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、測定感度を高める電極構造体、電気化学測定装置、及び電気化学測定方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明のうち第1の態様によるものは、電気化学測定用の電極構造体であって、電気絶縁性の基体と、前記基体に配置された1以上の電極群と、を備えている。前記1以上の電極群は互いに同一であり、その各々は、前記基体に、作用極、参照極、対極、対極、参照極、作用極の順序で、かつ線対称に配置された6電極を含む第1電極群、又は、対極、参照極、作用極、作用極、参照極、対極の順序で、かつ線対称に配置された6電極を含む第2電極群である。
この構成によれば、基体に、作用極、参照極、対極の順序で配置された電極の組を有する従来の電極構造体に比べ、さらに、この従来の電極の組が基体に複数組配置された電極構造体に比較しても、測定信号に、高いS/N比が得られ、優れた変動係数(CV;coefficient of variation)が得られる。すなわち、より感度の高い測定が可能となる。
本発明のうち第2の態様によるものは、第1の態様による電極構造体であって、前記1以上の電極群の各々は、前記第1電極群である。
この構成によれば、高いS/N比が得られ、優れたCVが得られることが、実証されている。特に、本構成の電極構造を微分パルスボルタンメトリーに適用することにより、飲料水中の重金属の汚染基準である10ppbの重金属濃度を、感度良く検出できることが実証されている。
本発明のうち第3の態様によるものは、第1又は第2の態様による電極構造体であって、前記1以上の電極群は、1つの電極群である。
この構成によれば、最も簡素な構造で、高いS/N比が得られ、優れたCVが得られる。
本発明のうち第4の態様によるものは、第1から第3のいずれかの態様による電極構造体が着脱可能に接続されることにより、電気化学測定を行う電気化学測定装置であり、前記1以上の電極群が着脱可能に電気的に接続されるコネクタを備えている。
この構成によれば、本発明の電極構造体を用いることにより、高いS/N比が得られ、優れたCVが得られる電気化学測定を行うことができる。
本発明のうち第5の態様によるものは、電気化学測定方法であって、1以上の電極群を配置することと、前記1以上の電極群を使って電気化学測定を行うことと、を含んでいる。前記1以上の電極群は互いに同一であり、その各々は、作用極、参照極、対極、対極、参照極、作用極の順序、又は対極、参照極、作用極、作用極、参照極、対極の順序で、かつ線対称に配置された6電極を含んでいる。
この構成によれば、作用極、参照極、対極の順序で3電極を配置して行う従来の電気化学測定方法に比べ、さらに、この従来の3電極の組を並列に複数組配置して行う電気化学測定方法に比較しても、測定信号に、高いS/N比が得られ、優れたCVが得られる。すなわち、より感度の高い測定が可能となる。
以上のように本発明によれば、測定感度を高める電極構造体、電気化学測定装置、及び電気化学測定方法が実現する。
3電極を用いた周知の電気化学測定の原理を示す概略説明図である。 図1に例示される電気化学測定を実行するための周知の電気化学測定装置の概略構成を例示するブロック図である。 図1に例示される電気化学測定を実行するために、作用極に印加される電位の波形の概略を例示する波形図である。 図1に例示される電気化学測定を用いて得られる水中の重金属濃度の測定結果を模式的に例示するグラフである。 図4に例示される測定結果のばらつきを模式的に説明するグラフである。 図4に例示される測定結果について、CVを模式的に説明するグラフである。 本発明の実施の形態による電極構造体を例示する平面図である。 図7に例示される電極構造体が着脱可能に接続される、本発明の一実施の形態による電気化学測定装置の概略構造を例示する図である。 図7の電極構造体及び図8の電気化学測定装置を用いて水中の重金属濃度を測定した結果を示すグラフである。 図9の比較例を示すグラフである。 本発明の別の実施の形態による電極構造体及び電気化学測定装置の概略構成を例示する図である。 本発明のさらに別の実施の形態による電極構造体の概略構成を例示する平面である。
図1は、3電極を用いた周知の電気化学測定の原理を示す概略説明図である。図示に例示するように、電気化学測定は、作用極1(W)、参照極3(R)、及び対極5(C)の3本の電極を用いて行われるのが通例である。作用極1では注目する電極反応が進み、参照極3は作用極1の電位制御の基準に用いられ、対極5は作用極1と対になって電流Iを流す(非特許文献1:第21頁参照)。電位の正確さを保つために、参照極3には、電流iは殆ど流されない。作用極1の電位Eは、参照極3の電位を基準に制御され、かつ測定される(同第15ページ参照)。
かかる3電極系の電気化学測定を行う電気化学測定装置として、ポテンショスタットが知られている。ポテンショスタットは、参照極3に対する作用極1の電位Eを制御しつつ、作用極1の電位Eを測定するとともに、作用極1と対極5との間に流れる電流Iをも測定することのできる装置である。ポテンショスタットでは、参照極3に接続される端子の内部抵抗が非常に高く設定されているため、参照極3には、電流iが殆ど流れない(以上、非特許文献1第17頁参照)。
図2は、図1に例示される電気化学測定を実行するための電気化学測定装置の概略構成を例示するブロック図である。この装置150は、3電極系として構成される電極100に接続されることにより、電気化学測定に供される。電気化学測定装置150は、ポテンショスタットとして構成されており、電圧印加部11、電流検出部13、制御部15、演算制御部17、電源19、操作部21、表示部23及び外部出力端子25を有している。電圧印加部11は、電極100に電圧を印加する。電流検出部13は、作用極1と対極5を流れる電流Iを検出する。制御部15は、電圧印加部11が印加する電圧の波形を、電圧印加部11に指示する。演算制御部17は、電流検出部13が検出した電流Iに、増幅、ノイズ低減、デジタル化、平均操作、標準偏差の算出、変動係数(CV;coefficient of variation)の算出などのデータ処理を施す。表示部23は、演算制御部17により処理されたデータを、表示画面(図示略)に表示する。外部出力端子25は、演算制御部17により処理されたデータを、外部へ出力する。操作部21は、演算制御部17による加工処理の仕方を、測定者の手動にもとづき指示する。電源19は、制御部15、演算制御部17その他の構成要素に、電力を供給する。制御部15、演算制御部17、及び表示部23は、例えば、プログラムを記憶した半導体メモリと、このプログラムに従って動作するマイクロプロセッサとによって、実現される。
水中に微量に含まれる鉛(Pb)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、水銀(Hg)、マグネシウム(Mg)、ヒ素(As)、銅(Cu)などの重金属の濃度を測定するには、作用極1に電位Eを印加する。それにより、水中においてイオンである重金属を作用極1に析出させることができ、そのときに流れる電流Iにより、析出した重金属の水中の濃度を計測することができる。析出する重金属の水中濃度が高いほど、電流Iは大きくなる。重金属が作用極1に析出するときの電位Eは、重金属ごとに異なる固有の値であることから、電位Eをスキャンすることにより、複数種類の重金属の濃度を測定することも可能である。
電気化学測定法のうち、特にパルスボルタンメトリーは、測定感度が高く、微量分析に適することが知られている(同第121頁参照)。パルスボルタンメトリーは、毎回異なるパルス状の電位を、作用極1に周期的に印加し、一定時間毎に電流を計る手法である(同頁参照)。図3は、図1に例示される電気化学測定を実行するために、作用極1に印加される電位Eの波形の概略を例示する波形図である。この電位Eの波形は、パルスボルタンメトリーのうち、特に、微分パルスボルタンメトリー(DPV)に基づくものである。DPVは、図示例のように、パルス幅Tpwのパルスを周期Tppで繰り返し、繰り返し毎に、パルス高さEdを一定に保ちつつ、パスル印加後の電位を順方向(パルスの方向)に、少しずつ変えてゆく。
図4は、図1に例示される電気化学測定を用いて得られる水中の重金属濃度の測定結果を、模式的に例示するグラフである。測定装置として、図2に例示した電気化学測定装置150を使用し、電位Eの波形として、図3に例示したDPVに基づく波形が、電極100の作用極1に印加されたものと想定している。作用極1に印加される電位Eが、図3の波形に基づいてスキャンされ、それに伴い電流Iが検出されることにより、図4のグラフが得られる。図4に例示するように、電位Eのスキャン範囲内で、いくつかの(図示例では3種の)重金属の電気化学反応である析出反応に伴う電流Iのピークが観測される。図示例の3種の重金属は、例えば鉛(Pb)、及びその他の2種の重金属(仮にM1、M2と記す)である。各重金属は、固有の電位Eにおいて、作用極1に析出し、それぞれの水中の濃度に応じて、作用極1と対極5との間に電流Iを流す。測定者は、電流Iにピークが現れる電位Eの値から、重金属の種類を特定することができる。そして、電流Iのピーク値あるいは、ピークの総面積から、対応する重金属の水中の濃度を特定することができる。
図5は、図1に例示される測定結果のばらつきを模式的に説明するグラフである。図5には、例として、鉛(Pb)に対応するピークのみを表している。測定対象とされる水の鉛濃度が一定であったとしても、電極100を新たに交換しつつ測定を繰り返すと、一般に電流Iのピークの波形は、ある程度のばらつきを示す。図5は、ある測定では、鉛濃度が1000ppbに対応する電流Iのピーク波形が得られるとともに、別の測定では、600ppbに対応するピーク波形が得られることを、模式的に表している。
図6は、図4に例示される測定結果について、変動係数(CV;coefficient of variation)を模式的に説明するグラフである。例えば、水中の鉛濃度が一定の1000ppbであっても、検出される電流Iには、図6(a)に例示するようにばらつきが現れる。図6(a)の縦軸は、ある電流Iが検出される頻度を表している。この頻度分布から、標準偏差σを導くことができる。電流Iの代表値A(平均値、最頻値、又は中央値)に対する標準偏差σを百分率で表現した指標がCVである。CVが小さいほど、電流Iの検出値のばらつき、言い換えると、対応する重金属(Pb)の濃度の測定値のばらつきが、小さいことを意味する。
図6(b)に例示するように、水中の特定の重金属(一例として鉛)の濃度と、検出される電流Iとの間には、本来、比例関係が認められる。しかし、標準偏差σによって表されるように、電流Iの検出値には、ばらつきが現れる。電流Iの検出値の代表値A(図中の直線に対応する)に相対的な標準偏差σ、すなわちCVは、重金属濃度が低いほど大きくなる。そして、ある限度を超えて重金属濃度が低い場合には、CVが過大となり、もはや電流Iの検出値は信用できなくなる。このように、重金属濃度が、ある限度を超えて低い場合には、電流Iの検出値に対して、その誤差が無視できない大きさとなることにより、重金属濃度は測定不能となる。
上記の標準偏差σ及びCVは、電極100を交換しつつ繰り返し行う測定の結果の間のばらつきを反映したパラメータである。この種のばらつきとは別に、測定に使用する電気化学測定装置150の出力には、電気化学測定装置150自身の特性に由来する電気的ノイズが重畳する。水中の重金属濃度が低いほど、出力に含まれる有効な信号は微弱となるので、有効な信号とノイズとの比であるS/N比は低くなる。重金属濃度が、ある限度を超えて低い場合には、S/N比が過度に低くなり、もはや、出力から信号とノイズとを選り分けて、信号を取り出すことができなくなる。このように、電気化学測定装置150の出力のS/N比によっても、重金属濃度に測定限界が現れる。
背景技術欄にも記載した通り、従来の3電極系の電気化学測定では、飲料水、環境土壌水(田の水など)、尿、血液中の重金属濃度に関する国の基準である10ppbの重金属濃度を、精度良く測定することは容易ではなかった。本願発明者らは、この問題を、電極100の構造を改善することにより、解決できることを、試行錯誤を通じて見いだしたのである。
図7は、本発明の実施の形態による電極構造体を例示する平面図である。図7(a)に例示する電極構造体101では、電気絶縁性の基板31の主面に、作用極33、参照極35、対極37、対極39、参照極41、作用極43が、この順序で配設されている。これらの電極33、35、37、39、41、43は、基板31の中心線49に対して、線対称となるように配置されている。基板31の材料は、例えば合成樹脂であり、一例としてエポキシ樹脂やPET、PC、 PMMAなどがあげられる。
電極構造体101には、基板31と6つの電極33、35、37、39、41、43との一部を覆うように、電気絶縁性の皮膜状の被覆体47が、さらに配設されている。基板31と被覆体47とは、合わせて基体40を構成する。被覆体47は、6つの電極33、35、37、39、41、43のうち、測定対象となる溶液に触れる一方端部と、電気化学測定装置のコネクタ45の端子(図示略)に触れる他方端部とが、露出するように、基板31と6つの電極33、35、37、39、41、43との一部を覆っている。
電極構造体101は、例えば、基板1の主面上に6つの電極33、35、37、39、41、43を配設した後に、被覆体47を、基板31と6つの電極33、35、37、39、41、43とを覆うように設けることにより、製造可能である。被覆体47の材料は、電気絶縁性皮膜を形成するものであれば足り、例えば、レジスト用樹脂、フェノール樹脂、あるいは漆樹脂などが使用可能である。これらの材料のいずれかを塗布することにより、被覆体47を形成することができる。電極33、35、37、39、41、43の材料は、例えばカーボンである。参照極35,41の一方端部の主面は、参照極35,41を安定させるために、銀-塩化銀によって覆われている。銀-塩化銀が配設される領域は、図7において、参照極35,41の一方端部の主面上の矩形領域により例示している。これにより、重金属の電位ピークが出現する電位Eの再現性が高められる。
図7(b)に例示する電極構造体121は、電極構造体101の性能を比較するために、電極構造体101のうち、中心線49により分割される一方側のみを構成することにより、従来の3電極構造としたものである。電極構造体121では、電気絶縁性の基板32の主面に、作用極33、参照極35、及び対極37が、この順序で配設されている。また、電気絶縁性の被覆体49が、基板31と3つの電極33、35、37との一部を覆っている。従って、電極構造体121は、電極構造体101の性能試験に対する比較実験に適している。基板32と被覆体49は、合わせて基体30を構成する。
図7(c)に例示する電極構造体102は、図7(a)に例示した電極構造体101とは、6つの電極33、35、37、39、41、43のうち、溶液に触れる一方端部の形状が異なっている。このように、電極33、35、37、39、41、43は、様々な形状を採り得る。一般に、電極反応が進行する作用極33,43と対極37,39とのいずれか、又は双方は、溶液に触れる一方端部が広く形成されるのが望ましい。図7(d)に例示する電極構造体122は、電極構造体102のうち、中心線49により分割される一方側のみを構成することにより、従来の3電極構造としたものである。電極構造体122は、電極構造体102の性能試験に対する比較実験に適している。
図8は、電極構造体101が着脱可能に接続される、本発明の一実施の形態による電気化学測定装置の概略構造を例示する図である。この電気化学測定装置151は、6電極を有する電極構造体101を着脱自在に接続可能なコネクタ45を有している。コネクタ45には6個の端子(図示略)が並んでおり、これらの端子が、それぞれ電極構造体101の6電極に接触する。コネクタ45は、一例として、電気化学測定装置151が内蔵する回路基板50に設置されている。回路基板50には、電極構造体101の6つの電極33、35、37、39、41、43に接続されるコネクタ45の6端子と、接続部53とを、電気的に接続する配線51が配設されている。配線51は、作用極33、43に接続される2端子(W)を、接続部53において互いに電気的に接続し、参照極35,41に接続される2端子(R)を、接続部53において互いに電気的に接続し、対極37,39に接続される2端子(C)を、接続部53において互いに電気的に接続する。
このようにして、接続部53を通じて、電極構造体101の6つの電極33、35、37、39、41、43は、電圧印加部11及び電流検出部13に接続される。すなわち、電気化学測定装置151は、コネクタ45が6電極に対応する構造である点、並びに6電極をあたかも3電極であるかのように接続する配線51及び接続部53が設けられる点において、従来の電気化学測定装置150とは異なっている。電気化学測定装置151は、6電極を有する電極構造体101を適用可能とするものの、測定の原理については、3電極系の電気化学測定を行う装置である点において、従来の電気化学測定装置150と変わりはない。図示の例では、配線51は、6電極の各々に1本ずつ配線されているように表されているが、各配線が、対応する電極を流れる電流の通り道となる電流配線と、対応する電極の電位を計測するための電圧配線とに分離されていてもよい。配線51が、このように分離されている場合には、各電流配線を流れる電流の影響を排して、電位をより高い精度で計測することが可能となる。
図9は、図7(c)に例示した電極構造体102及び図8に例示した電気化学測定装置151を用いて、水溶液中の重金属濃度を測定した結果を示すグラフである。横軸は作用極33、43に印加した電位E(図1参照)の計測値を表し、縦軸は作用極33、43と対極37,39との間を流れる電流I(図1参照)の計測値を表している。測定の対象とした水溶液は、鉛500ppbの水溶液である。この水溶液は、100ppmの鉛標準溶液(Wako Standard solution, 100ppm)を、蒸留水により希釈することにより得ている。電気化学測定装置151は、従来の電気化学測定装置150を、コネクタ45及び配線51について改造することにより得ている。測定方法は、図3に例示する微分パルスボルタンメトリー(DPV)である。測定を行った結果、図9に示すように、-820mVの電位Eの付近において、電流Iに明瞭な1つのピークが観測された。このピークは、鉛に対応するピークである。
図10は、図9に結果を示した測定に対する比較例の測定の結果を示すグラフである。比較例の測定には、図7(d)に例示した電極構造体122を、互いに線対称に配置するのではなく、単純に2枚並列に配置したものを用いている。並列に配置される2枚の電極構造体122を接続可能なように、電気化学測定装置151では、配線51を変更している。測定方法は、同じく微分パルスボルタンメトリー(DPV)である。測定を行った結果、図10に示すように、鉛に対応する-820mVの電位Eの付近において、電流Iにピークが観測されたが、そのピークの高さは図9のピークよりも遙かに低く、しかも、2つのピークに分離している。これらの測定結果は、2枚並列に配置した電極構造体122を用いた測定よりも、電極構造体102を用いた測定では、水溶液中の鉛の濃度の測定の精度と感度が、著しく改善されることを教示している。
本願発明者らは、さらに、電極構造体102及び2枚並列に配置した電極構造体122の他に、単一の電極構造体122をも用いて、鉛濃度を様々に調整した水溶液について、鉛濃度を測定した。表1は、その結果を示している。測定結果からCV及びS/N比を抽出し、それらの値を表1に示している。S/N比は、計測される信号とノイズとの電流の比によって表している。表1において、「6芯」は電極構造体102を表し、「3芯ダブル」は2枚並列に配置した電極構造体122を表し、「3芯」は単一の電極構造体122を表している。水溶液は、上記と同様に、100ppmの鉛標準溶液(Wako Standard solution, 100ppm)を、蒸留水により希釈することにより得ている。単一の電極構造体122を用いた測定では、電気化学測定装置151とはコネクタ45及び配線51が異なる従来の電気化学測定装置150を用いている。
Figure 0007264465000001
表1に示すように、単一の電極構造体122(3芯)を用いた測定では、10ppb以下の鉛濃度の測定は不可能であった。これに対し、電極構造体102(6芯)を用いた測定、及び2枚並列に配置した電極構造体122(3芯ダブル)を用いた測定では、5ppbの鉛濃度の測定も可能である。しかし、これら両者を比較すると、電極構造体102(6芯)を用いた測定では、5ppbの鉛濃度を含めて、全ての鉛濃度の測定において、2枚並列に配置した電極構造体122(3芯ダブル)を用いた測定よりも、S/N比が高く、CVが低くなっている。すなわち、電極構造体102(6芯)を用いた測定は、2枚並列に配置した電極構造体122(3芯ダブル)を用いた測定よりも、鉛濃度の測定精度が高く、より低い鉛濃度に対しても測定感度が高いことが理解される。
単一の電極構造体122(3芯)を用いた測定よりも、2枚並列に配置した電極構造体122(3芯ダブル)を用いた測定では、測定精度及び測定感度が高いことは、理論上、電流Iがおおよそ2倍になることが期待されることから、予測することができる。しかし、2枚並列に配置した電極構造体122(3芯ダブル)を用いた測定よりも、電極構造体102(6芯)を用いた測定では、測定精度及び測定感度がさらに高いことは、本願発明者らが試行錯誤を繰り返す中で見いだしたもので、予測を超えたものである。特に、500ppbの鉛濃度以下において、CVの改善が著しい。
(その他の実施の形態)
実験に用いた電極構造体102(6芯)と、2枚並列に配置した電極構造体122(3芯ダブル)を比較すると、前者(6芯)では、作用極33、参照極35、対極37の組と、作用極43、参照極41、対極39の組は、対称に配置される。従って、双方の組で生じる電気化学反応も互いに同等となることが期待される。これに対し、後者(3芯ダブル)では、2枚の電極構造体122は、互いに非対称となるように配置される。従って、2枚の電極構造体122の間で、作用極33に流れる電流が必ずしも一致しなくなることが予測される。なぜなら、一方の作用極33は、参照極35を挟んで対極37から遠く離れるのに対し、他方の作用極33は対極37に隣接するからである。作用極33が置かれる環境が、2枚の電極構造体122の間で異なる以上、作用極33に生じる電気化学反応の進行に差異が現れ、作用極33を流れる電流にも差異が現れることは、予測し得ることである。この電気化学反応のアンバランスが、後者(3芯ダブル)において、溶液中の鉛濃度によっては電流Iのピークが二つに分離し、CVを悪くしている原因でもあろうと推測される。
そうであれば、電極構造体102(6芯)が、2枚並列に配置した電極構造体122(3芯ダブル)よりも優れている要因は、電極配置の対称性にある、ということができる。すなわち、電極が増えることにより、S/N比及びCVが改善され、しかも、電極配置の対称性によって、その改善効果が妨げられないことが、電極構造体102(6芯)の優位性の要因であると考えられる。従って、図7(a),(c)に例示したように、作用極33、参照極35、対極37、対極39、参照極41、作用極43を、この順序で配設する代わりに、図11に例示するように、対極37、参照極35、作用極33、作用極43、参照極41、対極39の順序で配設しても、同様に優れた測定精度、測定感度が得られることが期待される。このように構成された電極構造体103を用いた測定を行う電気化学測定装置152は、例えば、電気化学測定装置151(図8)から、コネクタ45を、電極構造体103を接続可能なコネクタ65に置き換え、回路基板50上の配線51を、図11に例示する配線61に置き換えることによって構成可能である。
上述の通り、電極構造体102(6芯)の優位性が、電極配置の対称性に基づくものであれば、図12に電極構造体104として例示するように、作用極33、参照極35、対極37、対極39、参照極41、作用極43を一組とする電極の組を、複数組(図示例では2組)配置しても、優位性が発揮されることが期待される。すなわち、電極が増えることにより、S/N比及びCVがさらに改善され、電極配置の対称性によって、その改善効果が妨げられないことが期待される。同様に、対極37、参照極35、作用極33、作用極43、参照極41、対極39を一組とする電極の組を、複数組配置しても、優位性が発揮されることが期待される。図12には、電極構造体104が着脱自在に接続されるコネクタ75を、同時に例示している。
図9、図10及び表1に示した測定実験では、測定方法として、微分パルスボルタンメトリーを用いている。しかし、電極構造体101~104等の優位性が、電極配置の対称性に基づくものであることが推定されることから、パルスボルタンメトリー一般、さらには、3電極系の電気化学測定一般に対しても、電極構造体101~104等は、優位性を発揮することが期待される。
電極構造体101~104として、作用極33、参照極35、対極37、対極39、参照極41、作用極43が、基体40に配置された例を示した(図7参照)。これに対し、基体40の有無に関わりなく、これらの6電極を線対称となるように配置して、電気化学測定を行うことも可能であり、同様に、優れた測定精度、測定感度が得られることが期待される。
1 作用極、 3 参照極、 5 対極、 11 電圧印加部、 13 電流検出部、 15 制御部、 17 演算制御部、 19 電源、 21 操作部、 23 表示部、 25 外部出力端子、 30 基体、 31 基板、 32 基板、 33 作用極、 35 参照極、 37 対極、 39 対極、 40 基体、 41 参照極、 43 作用極、 45 コネクタ、 47 被覆体、 49 中心線、 50 回路基板、 51 配線、 53 接続部、 61 配線、 65 コネクタ、 100 電極、 101,102,103,104,121,122 電極構造体、 150,151,152 電気化学測定装置、 電流 I、 電流 i、 電位 E、 パルス幅 Tpw、 パルスを周期 Tpp、 パルス高さ Ed。

Claims (5)

  1. 電気化学測定用の電極構造体であり、
    電気絶縁性の基体と、
    前記基体に配置された1以上の電極群と、を備え、
    前記1以上の電極群は互いに同一であり、その各々は、前記基体に、
    作用極、参照極、対極、対極、参照極、作用極の順序で、直線状に、かつ隣り合う前記2つの対極の中間に位置する対称軸に対して線対称に配置された6電極を含む第1電極群、又は、
    対極、参照極、作用極、作用極、参照極、対極の順序で、直線状に、かつ隣り合う前記2つの作用極の中間に位置する対称軸に対して線対称に配置された6電極を含む第2電極群である、電極構造体。
  2. 前記1以上の電極群の各々は、前記第1電極群である、請求項1に記載の電極構造体。
  3. 前記1以上の電極群は、1つの電極群である、請求項1又は2に記載の電極構造体。
  4. 請求項1から3のいずれかに記載の電極構造体が着脱可能に接続されることにより、電気化学測定を行う電気化学測定装置であり、前記1以上の電極群が着脱可能に電気的に接続されるコネクタを備える、電気化学測定装置。
  5. 1以上の電極群を配置することと、
    前記1以上の電極群を使って電気化学測定を行うことと、を含み、
    前記1以上の電極群は互いに同一であり、その各々は、
    作用極、参照極、対極、対極、参照極、作用極の順序で、直線状に、かつ隣り合う前記2つの対極の中間に位置する対称軸に対して線対称に配置された6電極、又は対極、参照極、作用極、作用極、参照極、対極の順序で、直線状に、かつ隣り合う前記2つの作用極の中間に位置する対称軸に対して線対称に配置された6電極を含む、電気化学測定方法。
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