JP7255741B2 - 材料設計装置、およびマテリアルズインフォマティクスによる材料開発方法 - Google Patents

材料設計装置、およびマテリアルズインフォマティクスによる材料開発方法 Download PDF

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Description

本開示は、材料設計装置、およびマテリアルズインフォマティクスによる材料開発方法に関する。
材料開発の分野では、所望の材料特性を実現するため、材料の組成および作製条件を理論的予測および実験に基づいて適正化することが行われてきた。従来、このような組成・作製条件の適正化は、材料開発者の経験に依存することが多かった。しかし、材料の高性能化が進展するに伴って材料を構成する元素の種類が増え、組織が複雑化したため、所望の材料特性を得るために必要な実験回数が増加して、材料開発に要する時間、労力、コストの増加が顕著になってきた。
これらの課題に対し、データマイニングなどの情報科学を利用して新材料や代替材料を効率的に探索するマテリアルズインフォマティクス(Materials Informatics)が注目されている。また、日本では、マテリアルズインテグレーション(Materials Integration)による材料開発が検討されている。マテリアルズインテグレーションとは、材料科学の成果に、理論、実験、解析、シミュレーション、データベースなどの科学技術を融合して、材料の研究開発を支援することを目指す総合的な材料技術ツールと定義される。
特許文献1は、複数の組成からなる材料、または、複数の製造条件の組合せにより製造される材料を含む設計対象材料を設計するための材料設計装置を開示している。この装置は、設計対象材料の設計条件を含む入力情報と材料特性値を含む出力情報との対応関係を機械学習により取得した学習済みモデルを利用している。
非特許文献1は、材料の組成および材料の製造条件(プロセス)に基づいて、材料の組織および特性を予測し、そこから更に材料の性能を予測するシステムを記載している。このシステムには、材料に関する「組成」、「プロセス」、「組織」、および「特性」などの一連のデータと、データを補足するメタデータとが格納される。
国際公開第2020/090848号
小関敏彦「材料データとマテリアルズインテグレーション」情報管理 Vol.59、No.3、p.165(2016).
特許文献1に記載されている装置では、材料の「組成」および「プロセス」から材料の「特性」を予測するためのモデルが作製される。非特許文献1は、材料の「特性」が材料の「組成」と材料の「組織」によって決まることに着目し、材料の「組織」のデータを「プロセス」および「特性」のデータと組み合わせて利用することを記載している。材料の「組織」に関するデータは、後に詳しく説明するように、例えば、X線回折法、光学顕微鏡、または走査電子顕微鏡を用いた測定・観察によって得られる。
しかしながら、このような「組織」に関するデータには、組織を測定・観察する者の技能に大きく依存してデータの信頼性が大きく変動するという課題と、大量のデータを機械的に取得することが難しいという課題がある。
本開示の実施形態は、上記の課題を解決することが可能な材料設計装置、およびマテリアルズインフォマティクスによる材料開発方法を提供する。
本開示は、非限定的で例示的な態様において、目的とする材料を設計するための材料設計装置において、個々の試料における組成データ、プロセスデータ、および特性データの少なくとも1つを示す第1データと、前記試料における「磁化温度依存性に基づく特徴量」を含む組織データを示す第2データと、を含むデータに基づいて、前記材料の特性を規定する変数、前記材料の組成を規定する変数、および/または、前記材料のプロセスを規定する変数を出力する。
ある実施形態において、前記第1データは、前記組成データとして、前記個々の試料に含まれる元素の種類、および前記元素の組成比率を含み、前記プロセスデータとして、前記個々の試料を製造する工程で実行された熱処理条件を規定するパラメータを含む。
ある実施形態において、前記第1データは、前記特性データとして、前記個々の残留磁束密度、保磁力、飽和磁化、および透磁率の少なくとも一つを含む。
ある実施形態において、前記第2データは、前記組織データとして、前記個々の試料に含まれる主相の結晶構造を規定するパラメータを含む。
本開示は、非限定的で例示的な態様において、目的とする材料を設計するための材料設計装置において、目的変数である組成データ、プロセスデータ、および特性データの少なくとも1つを示す第1の変数と、説明変数である「磁化温度依存性に基づく特徴量」を含む組織データを示す第2の変数と、に基づく数理モデルから前記材料の組成、プロセス、特性、および組織を規定する少なくとも一つの変数を出力する。
ある実施形態において、前記「磁化温度依存性に基づく特徴量」は、「磁気相転移に関する特徴量」である。
ある実施形態において、前記「磁気相転移に関する特徴量」は、キュリー温度およびネール温度の少なくとも一方を含む。
ある実施形態において、前記データは、複数の企業がアクセス可能なデータベースに格納し、該複数の企業から収集される前記データの集合であるビッグデータとして管理される。
本開示は、非限定的で例示的な態様において、目的とする材料を探索するマテリアルズインフォマティクスによる材料開発方法において、個々の試料における組成データ、プロセスデータ、および特性データの少なくとも1つを示す第1データと、前記試料における「磁化温度依存性に基づく特徴量」を含む組織データを示す第2データと、を含むデータに基づいて、前記材料の特性、前記材料の組成、および/または、前記材料のプロセスを予測する。
本開示は、非限定的で例示的な態様において、目的とする材料を探索するマテリアルズインフォマティクスによる材料開発方法において、目的変数である組成データ、プロセスデータ、および特性データの少なくとも1つを示す第1の変数と、説明変数である「磁化温度依存性に基づく特徴量」を含む組織データを示す第2の変数と、に基づく数理モデルから前記材料の組成、プロセス、特性、および組織を規定する少なくとも一つの変数を予測する。
本開示の実施形態によれば、新材料や代替材料を効率的に探索することが可能になる。
図1は、本開示によるデータベースに登録されるデータの種類を説明するための模式図である。 図2は、試料測定部に磁場勾配を付与したTG(Thermogravity)測定装置の一例を示す模式図である。 図3は、本開示の実施形態における材料データ処理システムの構成例を模式的に示す図である。 図4は、データ処理装置200のハードウェア構成例を示すブロック図である。 図5は、クラウドサーバー300がデータベース100を備える構成例を示すブロック図である。 図6は、複数のデータベース100と、複数のデータ処理装置200とを備える材料データ処理システム1000の例を模式的に示す図である。 図7Aは、熱重量測定装置の温度プロファイル(破線)および測定値(実線)を示すグラフの例である。 図7Bは、図7Aの測定データに基づく、TG測定値の温度依存性の例を示すグラフである。 図7Cは、図7Bに示されるTG測定値の曲線の温度での1階微分を示すグラフである。 図8Aは、製造プロセスのうち熱処理条件が異なるY3.1 Sm5.3 Fe69.2 Co13.9 Ti4.1 Cu4.5 合金試料について、TG測定値を温度で微分した値の温度依存性を示すグラフである。 図8Bは、縦軸が矢印Dのピークが生じる温度(ThMn12 型化合物相のキュリー温度T )、横軸が熱処理温度のグラフである。 図9Aは、本開示の実施形態におけるデータベースに登録する項目を示すテーブルの一部の例を示す図である。 図9Bは、本開示の実施形態におけるデータベースに登録する項目を示すテーブルの一部の例を示す図である。 図9Cは、本開示の実施形態におけるデータベースに登録する項目を示すテーブルの一部の例を示す図である。 図9Dは、本開示の実施形態におけるデータベースに登録する項目を示すテーブルの一部の例を示す図である。 図10は、本開示の実施形態におけるデータベースに各種データを登録する処理の例を模式的に示す図である。 図11は、本開示の実施形態における材料データ処理システムの基本的な構成例を模式的に示す図である。 図12は、本開示の実施形態による材料データ処理システムの第1の例におけるデータ処理の例を示す機能ブロック図である。 図13は、本開示の実施形態による材料データ処理システムの第2の例におけるデータ処理の例を示す機能ブロック図である。 図14は、本開示の実施形態による材料データ処理システムの第3の例におけるデータ処理の例を示す機能ブロック図である。 図15は、本開示の実施形態による材料データ処理システムの第4の例におけるデータ処理の例を示す機能ブロック図である。 図16は、本開示の実施形態による材料データ処理システムの第5の例におけるデータ処理の例を示す機能ブロック図である。 図17は、本開示の実施形態による材料データ処理システムの第6の例におけるデータ処理の例を示す機能ブロック図である。
特許文献1に記載されている装置は、データベースに相当する「設計条件~材料特性テーブル」を備えている。このテーブルには、鉄合金伸延材における「C(炭素)」、「B(ホウ素)」、「N(窒素)」、「Si(シリコン)」などの組成に関する情報、「鋳造」、「熱間加工」、「熱処理」などの製造方法における各工程の条件、「オーステナイト結晶粒度」、「フェライト結晶粒度」などの組織、「0.2%耐力」、「引張強度」などの材料特性に関するデータが格納される。
従来、「組織」に関するデータは、例えば金属材料やセラミックス材料の場合、材料中に存在する相(化合物)の種類、各相の割合、各相のサイズ、組成などの情報を含む。これらの情報のうち、相の種類および割合を求める方法としては、X線回折法(XRD:X-Ray Diffraction)が用いられる。各相のサイズは、材料を断面研磨し、光学顕微鏡または走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察した後、画像解析で求められる。各相の組成は、SEMに付属するエネルギー分散分光装置(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)または電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)などによって求めることが多い。
しかしながら、材料中で着目する相のサイズが極めて小さい場合、SEM/EDX、あるいはEPMAで組成を評価しようとすると、入射する電子線の拡がりによって、着目する相の周囲に存在する別の相における組成の情報が重畳してしまい、正確な情報を得ることが困難になる。また、SEM/EDX、およびEPMAは、観察試料の前処理と観察に時間がかかるだけでなく、試料前処理と観察における観察者の技能および主観(どの領域を評価するか)によってデータの質が大きく変動する場合がある。さらに、得られたデータから相比率、各相の組成を求めるためには、画像処理などの煩雑な手続きが必要となるため、データ科学の利用に必要な大量のデータを得ることが難しい。
一方、XRDで得られた回折ピークから格子定数を求めたり、リートベルト解析などの精密な測定によって結晶構造の詳細情報を得たりすることが可能である。しかしながら、例えば、磁性材料の場合は、同じ材料中に存在する異なる相の結晶構造の違いが特定の超格子反射の有無のみに反映される場合があり、着目する相が微量しか存在しない場合には、検出することが困難である。また、同じ結晶構造を有するが組成の異なる複数の相が材料中に共存していた場合、これらを分離することが困難である。
このように、微細な構成相によって特性が敏感に影響を受ける材料、特に磁性材料の場合、測定者の技能や主観に大きく依存することなく、組織に関するデータを効率的かつ感度よく取得することが難しいという課題がある。このことは、特に磁性材料の分野において、マテリアルズインフォマティクスを駆使して新材料や代替材料を探索することを非常に困難なものとする可能性がある。
本開示によるデータベース、材料データ処理システム、およびデータベースの作成方法は、上記の課題を解決することを可能にする。以下、この点を説明する。
<データベースにおけるデータの種類>
まず、図1を参照して、本開示によるデータベースの実施形態で用いるデータの種類を説明する。本開示によるデータベースは、個々の試料に固有の識別子が紐付けられたデータを格納する。このデータベースが格納するデータは、第1データと第2データとを含む。第1データは、組成データ、プロセスデータ(作製条件)、および特性データの少なくとも1つを含む。図1の例において、第1データは、組成データ、プロセスデータ、および特性データのすべてを含んでいるが、これらのすべてを含む必要はない。また、第1データは、組成データ、プロセスデータ、および特性データ以外のデータを含んでいてもよい。
図1に示すように、第2データは、組織データを含む。本開示のデータベースでは、この第2データ(組織データ)の内容に特徴を有している。
以下、「組成データ」、「プロセスデータ」、「特性データ」、および「組織データ」を説明する。
「組成データ」は、材料の「組成」を規定する情報であり、構成元素の種類および組成比率を含む。また、「組成データ」は、不可避的不純物、または含有量が制御された微量元素(意図的に添加された元素に加え、不純物を含む)の種類および組成を規定する情報を含み得る。
「プロセスデータ」は、材料の「プロセス」を規定する情報であり、材料を製造する工程における種々の製造条件(温度、雰囲気、熱履歴、印加圧力など)に関する情報を含む。
「特性データ」は、材料の「特性」を規定する情報であり、材料の機械的特性、物理的・化学的性質などを含む。ここでは、「特性データ」を材料の「性能」と区別している。「性能」は、材料が部材として使用された場合に示す対候性や信頼性に関する性質であり、材料の使用環境に依存する評価項目である。本明細書では、「特性」を規定する情報および/または特徴量を「材料特性」と呼ぶ場合がある。
「組織データ」は、材料の「組織」を規定する情報であり、一般には、材料を構成する各相の割合、結晶構造、分子構造、単結晶/多結晶/アモルファスの区別、多結晶の場合における結晶粒の形状およびサイズ、結晶方位、粒界、双晶または積層欠陥、転移などの欠陥の種類および密度、粒界および粒内の溶質元素の偏析などに関する情報を含み得る。本明細書では、「組織」を規定する情報および/または特徴量を「組織特徴」と呼ぶ場合がある。
<磁化温度依存性に基づく特徴量>
本開示のデータベースでは、従来、材料の「特性」を規定する情報(特性データ)として扱われていた「磁気相転移」に関する情報を、材料の「組織」を規定する指標(組織データ)として活用する。具体的には、組織データが、個々の試料における磁化温度依存性に基づく特徴量を含むようにデータベースが構成される。このことによって実現する利点は以下の通りである。
まず、磁気相転移に関する情報である「磁化温度依存性に基づく特徴量」について説明する。磁気相転移の代表例は「強磁性-常磁性転移」である。このような磁気相転移が起こる温度は、キュリー温度(T )またはキュリー点と呼ばれる。材料のキュリー温度は、材料を構成する相の結晶構造および組成などに強く依存する。前述したように、従来、キュリー温度は、磁性材料の「特性」を示す指標として用いられてきた。例えば、永久磁石材料の場合、一般的にはキュリー温度が高い方が高温まで安定して使用できるという点で優れた材料と判断される。また、感温磁性材料や磁気冷凍材料では、機能させたい温度にキュリー温度を設定することが求められている。
このような従来の技術常識に反して、本発明者らは、磁気相転移そのものが材料中の磁性相の結晶構造や組成を反映する固有の物性であることに着目し、材料の「特性」の優劣を判断する指標(特性データ)ではなく、結晶構造および組成のような「組織」を反映した指標(組織データ)として、磁気相転移の測定値を活用することを着想した。後述するように、「磁気相転移」に関する情報、すなわち「磁化温度依存性に基づく特徴量」の取得は、データを採取する者の個人的な技能によってデータの質が変動することが少なく、機械的にデータを取得することも可能である。このような測定値を「組織」の特徴量として利用することにより、従来のデータベースからは構築できなかったような数理モデルを構築することが可能になり、マテリアルズインフォマティクスによる材料開発を推し進めることが期待される。
本開示によるデータベース、材料データ処理システム、およびデータベースの作成方法の実施形態において、対象とする材料は、永久磁石、および、軟磁性材料などの磁性材料に限定されない。例えば、材料中に生成される相の少なくともひとつが磁気相転移を生じ得る場合にも、本開示のデータベース、材料データ処理システム、およびデータベースの作成方法は有効に適用され得る。また、「磁気相転移を有する相の存在が材料中に確認できない」という情報も、材料の組織を規定する有益な情報となり得る。
<磁化温度依存性に基づく特徴量の抽出>
磁化温度依存性に基づく特徴量が磁気相転移に関する特徴量である例について説明する。この例において、磁気相転移に関する特徴量は、「強磁性-常磁性転移」によって生じる組織的特徴を示す特徴量であり、キュリー温度によって規定され得る。なお、本開示における「強磁性」は、「フェロ磁性」のみならず、「フェリ磁性」も含むものとする。「反強磁性-常磁性転移」によって生じる組織的特徴を示す特徴量を利用してもよい。そのような特徴量は、ネール温度によって規定される。
「強磁性-常磁性転移」あるいは「キュリー温度」の検出は、例えば、試料振動型磁束計(VSM)を用いて、試料となる材料から発生する磁束量の温度依存性を求めることによって実行できる。また、熱磁気天秤のように外部から付与した磁界によって材料が受ける力の大きさの温度依存性を求める方法、あるいは、示差走査熱量計(DSC)を用いて磁気相転移に伴うエントロピーの変化を測定する方法によっても実行可能である。これらの方法のなかで、熱磁気天秤、特に熱重量測定装置(TG:Thermogravity)を用いる測定方法は、簡便かつ高感度での測定が可能であるという点で有用である。以下、TG装置を用いて、磁気相転移に関する特徴量を抽出する例を説明する。
図2は、試料測定部に磁場勾配を付与したTG装置の一例を示す模式図である。図2のTG装置10は、測定試料12を保持するホルダー14を一端に有するビーム部16と、測定試料12を加熱するヒーター18を有する電気炉20と、ビーム部16の他端に接続されて測定試料12の重量変化を検出する重量測定部22とを備えている。ビーム部16は、支点として機能する支持部24によって支持されている。
一般的なTG装置では、重量測定部22が、測定試料12を加熱した時に測定試料12で起こる熱分解などの反応に伴う重量変化を測定する。磁気相転移に関する特徴量を抽出する場合は、測定時に測定試料12の外部から磁場勾配を付与する。これにより、図2の白い矢印で示されるように測定試料12に磁気的な吸引力を及ぼすことができる。その結果、測定試料12の重量には磁気吸引力が重畳され、重量測定部22が測定する「重量」の値には、測定試料12に及ぶ磁気的吸引力も含まれることになる。磁気的吸引力は、測定試料12の「磁化」の大きさに対応する。このため、測定試料12で強磁性から常磁性への相転移が生じると、測定試料12の磁化が急激に変化するため、重量測定部22によって測定される「重量」の変化として相転移を検出することが可能になる。
図2の例において、測定試料12と重量測定部22が水平方向に配置されているが、鉛直方向に配置されていてもよい。TG装置10には、示差熱分析(DTA)または示差走査熱量分析(DSC)が同時に可能な機能が付加され得る。この場合、測定試料12と参照試料を装置にセットして測定する場合がある。本実施態様における参照試料としては、アルミナなどの常磁性材料(測定温度範囲の全域で強磁性が発現しない材料)を用いることが好ましい。
測定試料12に磁場勾配を付与する磁場印加の構成は、個々の試料の測定間での再現性を確保できる限り、任意である。このような磁場印加は、希土類磁石などの永久磁石を装置に設けることにより容易に実現することができる。磁場勾配の大きさは、測定試料12の量などによって適宜選定される。ある実施態様において、0.1mT/mm程度であり得る。磁場勾配が大きな方が高い感度で相転移を検出できる。したがって、磁場勾配は、0.5mT/mm以上であることが好ましく、1mT/mm以上であることがさらに好ましい。
測定試料12は、例えばアルミナ製の容器(パン)に入れてTG装置10のホルダー14にセットされ得る。例えばNd-Fe-B系焼結磁石のように、磁気的な異方性を有する測定材料をバルク体のままで測定すると、セットする方向によって磁気的な吸引力が変動し得る。このような変動を抑制するには、測定試料12を粉砕し、篩を用いて特定の粒度範囲の粉末粒子を回収して、粉末を測定試料12とすることが好ましい。粉砕粒度は、測定材料によって適宜選定されるが、ある実施態様において、500μm以下である。易酸化性材料を測定する場合は、測定時の不活性ガスに含まれる微量の酸素に起因する測定試料の酸化による重量増加を抑制できるよう、粉砕粒度を粗くしてもよい。
磁気的吸引力の温度変化は、測定試料の温度を上昇させるとき、および、低下させるときの少なくとも一方で測定することができる。測定時の雰囲気は、測定試料によって適宜選択される。測定試料が、例えば希土類磁石のような易酸化性の材料の場合、測定中の酸化反応による重量変化や、反応による新たな強磁性相の発生を回避するため、アルゴンガスなどの不活性ガスが採用され得る。また、不活性ガス中の不純物を除去するためのゲッター材などを装置に組み込んでもよい。
なお、TG装置などの熱磁気天秤には、公知の試料自動交換機能を付加することができる。このような態様のもと、測定試料名、および測定条件などの情報をあらかじめ登録しておくことにより、測定を自動化することができ、効率的に大量の測定を行うことができる。このように、磁化温度依存性に基づく特徴量の抽出は、光学顕微鏡、SEM/EDX、EPMA、あるいはXRDによる回折ピークからの結晶構造の解析などの、従来の組織データ取得方法に比べて、測定者の技量や主観に依存しないデータの取得が容易である。
<実施形態>
以下、本開示の実施形態を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略することがある。例えば、既によく知られた事項の詳細な説明および実質的に同一の構成に関する重複する説明を省略することがある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似の機能を有する構成要素については、同一の参照符号を付している。
以下の実施形態は例示であり、本開示の技術は以下の実施形態に限定されない。例えば、以下の実施形態で示される数値、形状、材料、ステップ、ステップの順序、表示画面のレイアウトなどは、あくまでも一例であり、技術的に矛盾が生じない限りにおいて種々の改変が可能である。また、技術的に矛盾が生じない限りにおいて、一の態様と他の態様とを組み合わせることが可能である。
[データベースの基本構成]
本開示のデータベースは、個々の試料に固有の識別子が紐付けられたデータを格納するデータベースである。データベースは、コンピュータがプログラムに従って処理することが可能な構造を有するデータのセットであり、コンピュータなどのハードウェア資源を利用して処理される。データベースは、記憶装置に格納された種々のデータを構成要素とするため、以下、簡単のため、データベースのデータを格納する記憶装置をデータベースと呼ぶことがある。本開示におけるデータベースの構造は、格納するデータが、個々の試料における組成データ、プロセスデータ、および特性データの少なくとも1つを示す第1データと、個々の試料における組織データを示す第2データとを含むように構成されている(図1参照)。各データは、デジタルデータのフォーマットを有しているが、そのフォーマットの内容は特に限定されない。本実施形態における組織データは、個々の試料における磁化温度依存性に基づく特徴量を含んでおり、少なくともこの点において、従来のデータベースとは全く異なる。この特徴量は、例えば、図2を参照しながら説明した装置によって測定することができる。前述したように、従来の組織データの取得に比べて、磁化温度依存性に基づく特徴量については、測定者の技量や主観によることなく、必要なデータを大量に取得することが容易になる。
磁化温度依存性に基づく特徴量の例は、磁気相転移に関する特徴量を含む。磁化温度依存性に基づく特徴量の具体例は、キュリー温度およびネール温度の少なくとも一方である。
ある態様において、第1データは、組成データとして、個々の試料に含まれる元素の種類、および元素の組成比率を含む。また、第1データは、プロセスデータとして、個々の試料を製造する工程で実行された熱処理条件を規定するパラメータを含み得る。更に、第1データは、特性データとして、個々の残留磁束密度、保磁力、飽和磁化、および透磁率の少なくとも一つを含んでいてもよい。一方、第2データは、組織データとして、個々の試料に含まれる主相の結晶構造を規定するパラメータを含み得る。
[材料データ処理システムの構成]
図3は、本開示の材料データ処理システムの概要を説明するための模式図である。本実施形態における材料データ処理システム1000は、データベース100と、データ処理装置200とを備える。データ処理装置200は、データベース100にアクセスして、データベース100に格納されているデータを読み出すことができる。また、データ処理装置200は、ユーザによる種々の入力を受け、新材料または代替材料の開発に有用な出力を提供するように構成されている。
データベース100は、半導体メモリ、磁気記憶装置、または光学記憶装置などの1また複数の記憶装置に格納され、上述したデータ構造を有している。データベース100を構成する記憶装置は、複数の異なる位置に分散していてもよい。データベース100に含まれるデータは、図1の第1データおよび第2データを含む。データベース100に格納されるデータは、例えば、実際に作製された個々の材料から測定器または試験機などの装置を用いて取得され得る。また、これらのデータは、後述するネットワークを介して、他の記憶装置に記憶されている各種の情報(文献情報など)から収集されてもよい。
データベース100は、例えば数年、10年、20年またはそれ以上の長い年月の間、設計、開発および製造の段階で取得された膨大なデータを蓄積し得る。材料メーカまたは試験装置メーカなどから構成されるコンソーシアムが設立され、多くの企業がデータベース100にアクセスできれば、多くの企業から収集される膨大なデータの集合はビッグデータとして管理され得る。
データ処理装置200は、例えば、本体201および表示装置220を備える。データ処理装置の本体201には、データベース100に蓄積された膨大なデータの中から、例えば、目的とする所望の材料特性に類似する材料特性を有する材料に関連付けされたデータを検索するために利用されるソフトウェア(またはファームウェア)が実装されていてもよい。そのようなソフトウェアは、例えば光ディスクなどのコンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録されてパッケージソフトウェアとして販売されたり、インターネットを介して提供されたりし得る。なお、データ処理装置200が実行する動作の例については、のちに詳しく説明する。
表示装置220は、例えば、液晶ディスプレイまたは有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイであり得る。表示装置220は、本体201から出力されるデータに基づいて、種々の情報を表示することが可能である。
データ処理装置200の一例は、パーソナルコンピュータまたはタブレット端末である。データ処理装置200は、材料データ処理システムとして機能する専用の装置であってもよい。
図4は、データ処理装置200のハードウェア構成例を示すブロック図である。データ処理装置200は、入力装置210、表示装置220、通信I/F230、記憶装置240、プロセッサ250、ROM(Read Only Memory)260およびRAM(Random Access Memory)270を備える。これらの構成要素は、バス280を介して相互に接続される。
入力装置210は、ユーザからの指示をデータに変換してコンピュータに入力するための装置である。入力装置210は、例えばキーボード、マウスまたはタッチパネルである。
通信I/F230は、データ処理装置200とデータベース100との間でデータ通信を行うためのインタフェースである。例えば、通信I/F230は、USB、IEEE1394(登録商標)、またはイーサネット(登録商標)などに準拠した有線通信を行うことができる。通信I/F230は、Bluetooth(登録商標)規格および/またはWi-Fi(登録商標)規格に準拠した無線通信を行うことができる。いずれの規格も、2.4GHz帯の周波数を利用した無線通信規格を含む。
記憶装置240は、例えば、半導体メモリ、磁気記憶装置、または光学記憶装置、またはそれらの組合せである。光学記憶装置の例は、光ディスクドライブである。磁気記憶装置の例は、ハードディスクドライブ(HDD)または磁気テープ記録装置である。
プロセッサ250は、1または複数の半導体集積回路であり、中央演算処理装置(CPU)またはマイクロプロセッサとも称される。プロセッサ250は、ROM260に格納された、最適材料を検索するための命令群を記述したコンピュータプログラムを逐次実行し、所望の処理を実現する。プロセッサ250は、CPUを搭載したFPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphic Processer Unit)、ASIC(Application SpecificIntegrated Circuit)、またはASSP(Application Specific Standard Product)を含む用語として広く解釈される。
ROM260は、例えば、書き込み可能なメモリ(例えばPROM)、書き換え可能なメモリ(例えばフラッシュメモリ)、または読み出し専用のメモリである。ROM260は、プロセッサの動作を制御するプログラムを記憶している。ROM260は、単一の記録媒体である必要はなく、複数の記録媒体の集合であり得る。複数の集合体の一部は取り外し可能なメモリであってもよい。
RAM270は、ROM260に格納された制御プログラムをブート時に一旦展開するための作業領域を提供する。RAM270は、単一の記録媒体である必要はなく、複数の記録媒体の集合であり得る。
図3の例において、データベース100は、データ処理装置200とは異なる別のハードウェアである。しかし、膨大なデータを記憶した記憶媒体をデータ処理装置200の本体201に読み込むことによって、当該記憶媒体をデータベース100として機能させることも可能である。
また、データベース100は、クラウドサーバーが備えていてもよい。図5は、クラウドサーバー300がデータベース100を備える構成例を示すブロック図である。図5に示される例において、材料データ処理システム1000は、複数のデータ処理装置200と、クラウドサーバー300のデータベース100とを備える。クラウドサーバー300は、プロセッサ310、メモリ320、通信I/F330、およびデータベース100を有する。前述した第1データおよび第2データは、クラウドサーバー300上のデータベース100に格納され得る。複数のデータ処理装置200は、例えば、社内に構築されたローカルエリアネットワーク(LAN)400を介して互いに接続され得る。ローカルエリアネットワーク400は、インターネットプロバイダサービス(IPS)を介してインターネット500に接続される。個々のデータ処理装置200は、インターネット500を経由してクラウドサーバー300のデータベース100にアクセス可能となる。
図5の例において、データ処理装置200が備えるプロセッサ250(図4参照)に代えて、あるいは当該プロセッサと協働して、クラウドサーバー300が備えるプロセッサ310が、処理に必要な演算を実行してもよい。また、同一のLANに接続された複数のデータ処理装置200が協働してデータの処理を実行してもよい。
このように、実施形態における材料データ処理システム1000は、1つの敷地内に置かれたハードウェアによって実現される必要はなく、データベース100およびデータ処理装置200のそれぞれが、異なる位置に分散配置された複数のハードウェア資源によって実現されていてもよい。図6は、複数のデータベース100と、複数のデータ処理装置200とを備える材料データ処理システム1000の例を模式的に示している。この例において、分散配置されたデータベース100およびデータ処理装置200は、インターネット500を介して接続されている。インターネット500に代えて、あるいは、インターネット500とともに、他のネットワークが使用されていてもよい。
本開示の実施形態におけるデータベース100の作成方法の一例は、まず、個々の試料について取得された組成、プロセス、および特性の少なくともひとつのデータ、および、個々の試料について取得された組織のデータを収集するステップと、収集した前記データを記憶装置に記憶させるステップとを包含する。これらのデータは、個々の試料に固有の識別子に紐付けられる。本開示に特徴的な点は、このデータが試料について取得された磁化温度依存性に基づく特徴量を含む場合、この特徴量を少なくとも組織のデータとして識別子に紐づけることにある。
なお、磁化温度依存性に基づく特徴量は、データベースに取り込まれるとき、組織のデータとして識別子に紐づけられることは必須であるが、このことは、特性データなどの他のデータとして識別子に紐づけることを排除するものではない。
[磁化温度依存性に基づく特徴量の抽出例1]
次に、図7Aから図7Cを参照しながら具体的な材料について、磁化温度依存性に基づく特徴量の抽出例を説明する。ここでは、ある製造条件で作製されたCa-La-Co系六方晶フェライト磁石用仮焼体が測定対象の試料である。この試料(仮焼体)は、Fe
、CaO、Co などの素原料を混合し、焼成することによって得られた。
図7Aは、TG測定中における温度プロファイル(破線)およびTG測定値(実線)を示すグラフの例である。グラフの横軸は測定時間t[秒]、左縦軸はTG測定値w[mg(ミリグラム)]、右縦軸は温度T[℃]である。測定は、図2に示されるような装置を用いて行った。ここで、温度Tは、TG装置のヒーターによって制御される。図7Aのデータは、試料を50℃から750℃まで10℃/分で昇温した後、750℃で5分間保持し、その後、50℃まで-10℃/分で降温するようにして取得した。図7Aに示す温度T(破線)は、TG測定装置における試料設置部の温度実測値である。TG測定値wは、試料である仮焼体の重量と、アルミナ製の容器(パン)の重量と、磁気的吸引力とが重畳した大きさを有している。パンおよび試料の重量は、温度によって変化しない。このため、TG測定値wの変化は、試料が受ける磁力の大きさの変化、すなわち試料の磁化の大きさの変化に対応している。
図7Aからわかるように、TG測定値wは、昇温中、温度Tが約300℃を超えて上昇する過程で急激に低下している。昇温中、温度Tが約500℃に達した後は、TG測定値wの低下は収まり、略一定の値を示している。このことは、温度Tの上昇により、試料である仮焼体の磁化が低下することを表している。温度プロファイルは、測定開始からの時間(測定時間)が約4100秒までは昇温の過程にあるが、その後は、降温に移る。降温中、温度Tが約500℃よりも低くなると、TG測定値wの増加が観察される。このことは、温度Tの低下により、試料である仮焼体の磁化が上昇することを表している。
図7Bは、図7Aの測定データに基づく、TG測定値の温度依存性を示すグラフである。このグラフでは、測定時の昇温過程の一部(温度Tが室温から約760℃までの範囲)が表されている。グラフの横軸は温度T、縦軸はTG測定値wである。図7Bのグラフにおいて、TG測定値wは、矢印Aおよび矢印Bで示される位置(温度)で急激に変化している。このTG測定値(重量)の急激な変化は、試料に含まれる相(強磁性相)の強磁性-常磁性転移に起因している。TG測定値(重量)の変化量は、試料中の強磁性相の磁化および体積比率を反映している。
図7Cは、図7Bに示される曲線の温度Tでの1階微分を示すグラフである。図7Cに示される曲線は、測定装置による1次データから計算によって得られる2次データあり、この曲線を解析することによって抽出される特徴量も、2次データに相当する。以下、このような特徴量の例を説明する。
図7Cには、図7Bの矢印Aおよび矢印Bに相当する矢印Aおよび矢印Bが同じ位置(温度)に示されている。図7Cの矢印Aおよび矢印Bの位置で極小値を取る温度をキュリー温度(T )と規定することができる。なお、キュリー温度(T )は、他の手法によって決定されてもよい。XRDなど他の手法による解析結果から、矢印Aの位置では、マグネトプランバイト相の強磁性-常磁性転移が生じ、矢印Bの位置では、スピネル相の強磁性-常磁性転移が生じていたことを確認した。
本開示の実施形態では、キュリー温度T を「特徴量」として利用するため、様々なデータからキュリー温度T を取得する手順は統一しておくことが好ましい。例えば、図7Cの矢印A、矢印Bの位置で示されるピークの極値をとる温度をキュリー温度T としてもよいし、他の解析方法を採用してキュリー温度T を決定してもよい。ある手順に基づいて得られたキュリー温度T の値は、測定時における試料の昇温側と降温側で異なったり、昇温速度の違いで値が異なったりする場合がある。キュリー温度T などの、個々の試料における磁化温度依存性に基づく特徴量を、材料の「組織」を規定する情報としてデータベースに登録する場合、測定条件および/または解析に使用する部分(特に昇温時か降温時か)を一義的に決めておくことが有用である。また、測定条件に関する情報をメタデータとしてデータベースに記憶してもよい。
特徴量の抽出は、個々のデータについて個別に行ってもよいし、解析用のプログラムを用いて自動的に行ってもよい。また、測定で得られる1次データ(生データ)、あるいは1次データを解析することによって得られるキュリー温度T などの特徴量は、後述するデータベースに自動的に登録するワークフローシステムを活用してもよい。また、端末装置からの入力により、個別に個々のデータを登録してもよい。
[磁化温度依存性に基づく特徴量の抽出例2]
次に、図8Aおよび図8Bを参照して、磁化温度依存性に基づく特徴量の他の抽出例を説明する。ここでは、ThMn12 型化合物である(Y、Sm)(Fe、Co、Ti)12 系合金に関する測定および解析の例を説明する。(Y、Sm)(Fe、Co、Ti)12 系合金は、低希土類組成を有する高性能な永久磁石材料として期待されている材料である。
図8Aは、製造プロセスのうち熱処理条件が異なるY3.1 Sm5.3 Fe69.2 Co13.9 Ti4.1 Cu4.5 合金試料について、TG測定値を温度で微分した値の温度依存性を示すグラフである。このグラフの横軸は測定中の試料温度、縦軸はTG測定値(重量)を温度で微分した値である。試料間のデータの違いを容易に判別するため、各データの原点の高さをずらして記載している。図8Aのグラフでは、試料温度が300℃から550℃の領域のみが記載されている。
図8Aに示される曲線では、矢印Cおよび矢印Dで示す2つピークが観察される。矢印
Dのピークは、主相であるThMn12 型化合物相の強磁性-常磁性転移に起因している。一方、矢印Cのピークは、文献などから、Th Ni17 型化合物相および/またはNd (Fe1-x Ti29 型化合物相の強磁性-常磁性転移に起因していると考えられる。ここで、Th Ni17 型化合物相は、Feのダンベル構造の周期性が崩れている、いわゆる“不規則2-17相”を含み得る。これらの相は、XRD回折ピークがThMn12 型化合物相のXRD回折ピークとよく似ているため、例えば、1100℃1hの試料では、通常のXRD測定だけでは存在を確認することが困難になる場合がある。しかし、図8Aに示されるような磁化温度依存性に基づけば、特徴量として明瞭に観測可能な情報の取得が可能になる。
図8Aの矢印Cおよび矢印Dのピークの位置(温度)は、熱処理条件によって異なっている。図8Bは、縦軸が矢印Dのピークが生じる温度(ThMn12 型化合物相のキュリー温度T )、横軸が熱処理温度のグラフである。ピーク位置(すなわちT )を正確に決定するため、測定時の微小なノイズの影響を除去することが好ましい。このようなノイズの影響を譲許するため、例えば、図8Aの各曲線を、データの移動平均値を用いて平準化することが好ましい。
図8Bから、熱処理を行わないas-castの試料と熱処理後の各試料との間で、キュリー温度T が大きく変化することがわかる。as-castの試料と熱処理温度1100℃の試料についてSEM/EDXの分析を行った。それにより、ThMn12 型化合物相の(Fe+Co+Ti+Cu)に対するTiのモル比を求めたところ、as-castの試料では0.048であったのに対し、1100℃熱処理後の試料では、0.060であった。こうして、両者のキュリー温度T の違いは、試料合金中に含まれるThMn12 型化合物相の組成比率を反映していることを確認した。
このように、磁化温度依存性に基づく特徴量は、組織の情報を示すデータとして有効である。
なお、磁化温度依存性に基づく特徴量は、上述の例に示されるような、キュリー温度およびネール温度の少なくとも一方を含む「磁気相転移に関する特徴量」に限定されない。例えば、図7Aから図7Cおよび図8Aのグラフに示される曲線の形状の全体もしくは一部を近似する関数が「磁化温度依存性に基づく特徴量」として採用されてもよい。
<データベースの作成方法>
本実施形態におけるデータベースの作成方法は、個々の試料について取得された組成、プロセス、および特性の少なくともひとつのデータ(第1データ)と、個々の試料について取得された組織のデータ(第2データ)とを収集するステップと、収集したデータを記憶装置に記憶させるステップとを包含する。ここで、収集したデータを記憶装置に記憶させるステップとは、データベースにデータを入力(登録)する行為に相当する。上記のデータは、いずれも、識別子に紐付けられる。特に本開示の実施形態で重要な点は、上記のデータが、試料について取得された磁化温度依存性に基づく特徴量を含む場合は、その特徴量を少なくとも組織のデータとして識別子に紐づける点にある。
例えば、上記のデータが、キュリー温度T などの組織データに含まれる特徴量を含む場合、この特徴量が他のデータとともにデータベースに登録されるとき、組織のデータとして識別子に紐づけられる。以下、この点を具体的に説明する。
図9A、図9B、図9C、および図9Dは、全体として、データベースに登録されるデータの構造例を示すテーブルの一部の一例を記載している。テーブルは、複数のロウおよび複数のカラムを有している。個々の試料のデータは、ロウ単位にまとめられる。したがって、データベースに登録される試料の個数が増加するにつれて、テーブルに含まれるロウ数が増加していく。なお、図9Aから図9Dに示すデータは、あくまでもデータベースの構成例を示すものであり、記載されている数値などは、実験で測定された値を示すものではない。
図9Aのテーブルにおける右端のカラムは、黒い矢印で示されるように、図9Bのテーブルにおける左端のカラムに続く。同様に、図9Bのテーブルにおける右端のカラムは、黒い矢印で示されるように、図9Cのテーブルにおける左端のカラムに続く。更に、図9Cのテーブルにおける右端のカラムは、黒い矢印で示されるように、図9Dのテーブルにおける左端のカラムに続く。これらの図に示されるテーブルは、本実施形態におけるデータベースの構造の一例を示すものであり、本開示におけるデータベースの構造を限定しない。
データベースにデータが登録される個々の試料に対しては、図9Aのテーブルに示されるように、固有の識別子(ID)が付与される。この例において、各試料には「実験No.」を特定する番号も付与されている。識別子として用いられる符号の形態は任意である。
各データは、識別子に紐付けられてデータベースに登録される。本開示の実施形態では、前述したように、登録されるデータは、「組成データ」、「プロセスデータ」、「組織データ」、「特性データ」などのカテゴリに分けることができる。具体的には、組成データは、図9Aのテーブルにおける「組成」のカラムに記録される。プロセスデータは、図9Bのテーブルにおける「作製条件」のカラムに記録される。組織データは、図9Cのテーブルにおける「組織」のカラムに記録される。特性データは、図9Dのテーブルにおける「特性」のカラムに記録される。
「組成」および「プロセス」のカラムには、実験または試作の実施内容に基づいて、出発材料の組成、および/または、製造プロセスにおける各工程の設定条件などが登録され得る。各工程の設定条件には、例えば、セラミックス材料における焼結助剤の種類および量などの項目も設定し得る。
「特性」のカラムには、製品の仕様になる最終的な材料の特性に関する情報が格納され
る。例えば、永久磁石の場合は、残留磁束密度B 、保磁力HcJ 、最大磁気エネルギー積(BH)max などが該当する。なお、本発明では、キュリー温度T を「組織」を示す指標として活用するが、このことは「材料特性」からキュリー温度T を排除することを必須とするものではない。
図9Cに示すように、「組織」のカラムには、磁気相転移に関する特徴量が必ず格納される。このことは、例えばキュリー温度T などの「磁気相転移に関する特徴量」をデータベースに入力するとき、入力した「磁気相転移に関する特徴量」が「組織データ」であることを示すような構造をデータベースが有していることを意味している。
なお、「組織」のカラムには、XRD測定結果から求めた各相の種類や格子定数、DTAまたはDSCで観測される相変態温度なども格納され得る。SEM/EDXで取得した画像データや組成データから得られた特徴量などの「組織」に関連する他の特徴量を格納してもよい。
なお、磁気相転移に関する特徴量は、各試料について1個に限定されない。図9Cの例においては、磁気相転移に関する特徴量は、第1のキュリー温度T(1)と、第2のキュリー温度T(2)を含んでいる。
本実施形態では、磁気相転移に関する特徴量を格納する「組織データ」のカテゴリは必須であるが、「組成データ」、「プロセスデータ」、「特性データ」のカテゴリのいずれかは、必ずしも必要ではない。これらのカテゴリに登録する数値などの情報の他に、例えば試料作製時に装置に付属している計測器のデータから得られる情報を、上記のカテゴリとは異なる別のカテゴリのデータとしてデータベースに登録してもよい。
なお、図9Aから図9Dに例示されるテーブルに含まれるデータのすべてが、1つの記憶装置に記憶されている必要はない。各データは、識別子などによって紐付けることができれば、複数の位置に分散して配置された記憶装置またはデータサーバに記憶されていてもよい。
次に、図10を参照して、本実施形態におけるデータベース100に各種データを登録する処理の例を説明する。登録されるデータの例は、図10に示すように、材料作製、組織評価、材料評価のための実験・試作によって得られたデータ(測定データ)、あるいは、このような測定データから抽出される特徴量を含む。また、登録されるデータの例は、更に、文献から得られる情報、シミュレーションによる結果を含み得る。
図10において、データベース100に入力される「組成データ」および「プロセスデータ」の例は、それぞれ、上記の実験・試作などを実行するときの設定値である。一方、データベース100に入力される「組織データ」および「特性データ」の例は、実験・試作などから得られる1次データに限定されず、データ前処理によって得られる2次データが含まれ得る。例えば、アルキメデス法で測定した密度など、測定によって具体的な数値が得られる場合は、それらを1次データとして、そのままデータベースに入力(登録)してもよい。ここで、「データ前処理」は、例えば、スムージング処理、ピーク抽出、解析による特徴量の抽出」などの各種の処理を含み得る。また、図7Cを参照しながら説明したように、1次データ(生データ)を解析することによって特徴量(2次データ)を抽出することを「データ前処理」として実行してもよい。その場合は、データ前処理後の2次データをデータベースに入力(登録)してもよい。
なお、2次データをデータベース100に入力する場合、1次データ(生データ)をメタデータとして紐付けてデータベースに格納しておくことは有用である。さらに、複数の1次データおよび/または2次データを用いた計算で得られるデータ、例えば、寸法と重量から計算される密度などをデータベースに登録してもよい。また、測定によって得られるデータ(図7A-図7C、図8A)の曲線を規定するパラメータまたはパラメータのセットを、組織データの特徴量として、データベースに登録してもよい。そのような特徴量には、例えば「キュリー温度」などのような公知の用語を当てることができないものも含まれ得る。
<材料データ処理システムの構成>
本開示の実施形態における材料データ処理システム1000は、図3、図5、および図6を参照して説明したように、少なくとも1つのデータベース100と、このようなデータベース100にアクセスして格納されているデータを読み出すことができるデータ処理装置200とを備える。そして、このデータ処理装置200は、上記のデータを利用して、後述する例に示すように、種々のデータ処理の動作を実行することができる。
データベース100に登録したデータに対するデータ処理により、データベース100内のデータは、可視化または機械学習のようなデータ科学的手法を用いた解析に用いられる。1次データがそのまま特徴量を示す場合は、1次データがそのまま用いられ得る。異なる1次データから計算された量、例えば、寸法および重量から計算された材料の密度が特徴量として解析に用いてられてもよい。1次データがスペクトルやヒステリシス曲線の場合には、それらから導出したキュリー温度T などの特徴量が解析に活用され得る。
具体的には、本開示の実施形態における材料データ処理システム1000は、入力値から数理モデルに基づいて出力値を生成して出力するように構成されている。数理モデルは、材料の組成データ、プロセスデータ、および特性データの少なくとも一つから規定される第1の変数と、組織データから規定される第2の変数とを含み、第2の変数は、磁化温度依存性に基づく特徴量を含み得る。
また、このような材料データ処理システム1000の機能ブロックは、図11に示すように、プロセッサ420と、プロセッサ420に接続されたメモリ440とを備えることによって実現され得る。メモリ440は、プロセッサ420の動作を規定するプログラムを記憶する。そして、プロセッサ420は、メモリ440が記憶するプログラムに従って「数理モデル」に基づく演算を実行する。
数理モデルは、着目する説明変数と目的変数に対して、任意のアルゴリズムを用いて作成され得る。数理モデルを生成するアルゴリズムとしては、局所回帰、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン、ニューラルネットワークなどの統計的手法や機械学習的手法などを適用することができる。数理モデルは、図3、図5、および図6に示されているデータベース100に格納されているデータを用いてあらかじめ作成されていてもよいし、入力データと出力データを選択する際に作成してもよい。また、数理モデルは、データベース100に登録するデータの蓄積に伴い、適宜修正してもよい。
なお、数理モデルは、図11のメモリ440が記憶しているプログラム(アルゴリズム)と、メモリ440が記憶している数値パラメータ(ニューラルネットワークの重みづけ係数など)のセットとによって規定される。このようなアルゴリズムは、材料の組成、プロセス、特性、および組織を規定する少なくとも一つの変数である入力値から、材料の組成、プロセス、特性、および組織を規定する少なくとも一つの変数である出力値を求めるように構成され得る。数理モデルを特定するために必要な数値パラメータのセットは、通信回線または記憶媒体を介して、複数のコンピュータに展開することが可能である。
このような材料データ処理システム1000は、「材料特性予測装置」、「物性予測装置」、「材料設計装置」として機能し得る。
[材料データ処理システムの第1の例]
まず、図12を参照して、材料データ処理システム1000の第1の例を説明する。図12は、第1の例におけるデータ処理の例を示す機能ブロック図である。図12のデータベース100は、図10を参照しながら説明したデータの入力(登録)によって作製されデータベースである。図12における「データ入力」は、図10における「設定値」、「1次データ」、および「2次テータ」をデータベース100に入力することに対応している。
第1の例では、データ処理装置200が、データベース100に格納されたデータの一部または全部を含むデータセットから、例えばキュリー温度T などの磁気相転移に関する特徴量を含む「組織」カテゴリに登録された1つまたは複数の特徴量を説明変数、「特性」カテゴリに登録された1つまたは複数の特徴量を目的変数として、数理モデルを導出・設定する。したがって、データ処理装置200は、数理モデル設定部としても機能し得る。
こうして得られた数理モデルを用いて、実験などで新たに得られた「組織特徴」の値をデータ処理装置200に入力することにより、「材料特性」の予測値が出力される。具体的には、例えば図4に示されるようなハードウェア構成を有するデータ処理装置200において、図4の入力装置210などによって入力された「組織特徴」の値に基づいて、プロセッサ250が数理モデルを利用した演算を行い、その結果として得られた「材料特性」の予測結果を、例えば表示装置220などに表示することができる。
この例において、図12のデータ処理装置200は、データベース100のデータを活用して数理モデルを導出し、その数理モデルに基づく材料特性計算を実行する。しかし、データ処理装置200は、他のデータ処理装置200が導出した数理モデルを通信などによって取得し、その数理モデルに基づく材料特性計算を実行してもよい。
なお、数理モデルを導出するときに使用されるデータベース100における組織データは、磁化温度依存性に基づく特徴量を含んでいることが必須であるが、そのようなデータベース100を利用して導出された数理モデルを用いてデータ処理装置200が材料特性計算を行うとき、入力される組織の特徴量が磁化温度依存性に基づく特徴量を含んでいることは必ずしも必要ではない。数理モデルが入力値からと出力値を推定するモデルを学習によって構築する過程において、組織の特徴量が磁化温度依存性に基づく特徴量を含むことにより、数理モデルの予測精度が向上したり、数理モデル導出に必要なデータ量が低減したりする効果が期待される。そうして導出された数理モデルを用いて材料特性の計算を行うとき、入力される組織の特徴量が磁化温度依存性に基づく特徴量を含むことが望ましいと期待されるが、磁化温度依存性に基づく特徴量を欠いていても、材料特性の予測を行うことが可能である。
[材料データ処理システムの第2の例]
次に、図13を参照して、材料データ処理システム1000の第2の例を説明する。図13は、第2の例におけるデータ処理の例を示す機能ブロック図である。この例では、データ処理装置200が、データベース100に格納されたデータの一部または全部を含むデータセットから、キュリー温度T などの磁気相転移に関する特徴量を含む「組織」カテゴリに登録された1つまたは複数の特徴量を説明変数、「特性」カテゴリに登録された1つまたは複数の特徴量を目的変数として、数理モデルを導出・設定する。
こうして得られた数理モデルを用いて、要求される材料特性の値(要求値)を入力し、公知の手法などを用いて逆問題を解くことにより、「組織特徴」の候補が出力される。具体的には、データ処理装置200のプロセッサ250が、入力装置210などによって入力された材料特性の要求値に基づいて、数理モデルを利用した演算を行い、その結果として得られた「組織特徴」の候補を、表示装置220などに表示することができる。
なお、逆問題を解く代わりに、データベース100に格納されたデータの一部または全部を含むデータセットから、「特性」カテゴリに登録された1つまたは複数の特徴量を説明変数として、キュリー温度T などの磁気相転移に関する特徴量を含む「組織」カテゴリに登録された1つまたは複数の特徴量を目的変数とする、数理モデルを導出・設定してもよい。そのような数理モデルを導出・設定した場合、正問題を解くことにより、得たい「特性」の入力から、そのような特性実現に必要な「組織」の候補の出力を得ることが可能である。
[材料データ処理システムの第3の例]
次に、図14を参照して、材料データ処理システム1000の第3の例を説明する。図14は、第3の例におけるデータ処理の例を示す機能ブロック図である。この例では、データ処理装置200が、データベース100に格納されたデータの一部または全部を含むデータセットから、キュリー温度T などの磁気相転移に関する特徴量を含む「組織」カテゴリに登録された1つまたは複数の特徴量を説明変数、「特性」カテゴリに登録された1つまたは複数の特徴量を目的変数として、数理モデルを導出・設定する。
次に、キュリー温度T など磁気相転移に関する特徴量を含む「組織」カテゴリに登録された1つまたは複数の項目について、組織特徴の網羅予測点を生成する。そして、前述した数理モデルを用いて、生成した各予測点に対応する「特性」カテゴリに登録された項目の1つまたは複数について、材料特性の予測される値を計算する。
その後、実現したい「材料特性」の値(要求値)をデータ処理装置200に入力すると、得られた一連の「特性」カテゴリに登録された1つまたは複数の特徴量の予測値の中から、入力した要求値に近いものが抽出され、候補となる「組織」として図4の表示装置220などに出力される。抽出の判断基準となる要求値と予測値の差分は目的に応じて適宜設定される。この例において、図14のデータ処理装置200は、データベース100のデータを活用して数理モデルを導出し、その数理モデルに基づく組織特徴の網羅予測点生成、材料特性(予測)計算、および材料特性の要求値-予測値比較を実行する。なお、データ処理装置200は、他のデータ処理装置200が導出した数理モデルを通信などによって取得し、その数理モデルに基づく組織特徴の網羅予測点生成、材料特性(予測)計算、および材料特性の要求値-予測値比較を実行してもよい。
なお、数理モデルと組織特徴の網羅予測点を用いて計算した材料特性の予測値は、あらかじめデータベース100または他の記憶装置が記憶していてもよい。
[材料データ処理システムの第4の例]
次に、図15を参照して、材料データ処理システム1000の第4の例を説明する。図15は、第4の例におけるデータ処理の例を示す機能ブロック図である。この例では、データ処理装置200が、データベース100に格納されたデータの一部または全部を含む
データセットから、「組成」カテゴリおよび/または「プロセス」カテゴリに登録された1つまたは複数の特徴量を説明変数、キュリー温度T などの磁気相転移に関する特徴量を含む「組織」カテゴリに登録された1つまたは複数の特徴量を目的変数として、数理モデルを導出・設定する。
こうして得られた数理モデルを用いて、実験などで新たに設定する「組成・材料プロセス」から「組織」の予測値が出力される。具体的には、データ処理装置200のプロセッサ250が、入力装置210などによって入力された組成・プロセスの値に基づいて、数理モデルを利用した演算を行い、その結果として得られた組織の予測値を表示装置220などに表示することができる。
この例において、図15のデータ処理装置200は、データベース100のデータを活用して数理モデルを導出し、その数理モデルに基づく組織計算を実行する。なおデータ処理装置200は、他のデータ処理装置200が導出した数理モデルを通信などによって取得し、その数理モデルに基づく組織計算を実行してもよい。
[材料データ処理システムの第5の例]
次に、図16を参照して、材料データ処理システム1000の第5の例を説明する。図16は、第5の例におけるデータ処理の例を示す機能ブロック図である。この例では、データベース100に格納されたデータの一部または全部を含むデータセットから、「組成」カテゴリおよび/または「プロセス」カテゴリに登録された1つまたは複数の特徴量を説明変数、キュリー温度T などの磁気相転移に関する特徴量を含む「組織」カテゴリに登録された1つまたは複数の特徴量を目的変数として、数理モデルを導出・設定する。
こうして得られた数理モデルを用いて、求められる組織特徴の値(要求値)をデータ処理装置200に入力すると、データ処理装置200は、公知の手法などを用いて逆問題を解くことにより、入力された組織特徴を実現することができる「組成」および/または「プロセス」の候補を出力する。
なお、この例において、得たい組織特徴の値は、例えば、求められる材料特性の値から図13または図14を参照して説明したデータ処理によって求めたものであってもよい。また、出力される「組成」および/または「プロセス」の候補を選択するとき、組成の範囲または値を固定するなどの境界条件をあらかじめ設定してもよい。
この例において、図16のデータ処理装置200は、データベース100のデータを活用して数理モデルを導出し、その数理モデルに基づく組成・プロセス計算を実行する。なお、データ処理装置200は、他のデータ処理装置200が導出した数理モデルを通信などによって取得し、その数理モデルに基づく組成・プロセス計算を実行してもよい。
[材料データ処理システムの第6の例]
次に、図17を参照して、材料データ処理システム1000の第6の例を説明する。図17は、第6の例におけるデータ処理の例を示す機能ブロック図である。この例では、データ処理装置200が、データベースに格納されたデータの一部または全部を用いたデータセットから、「組成」カテゴリおよび/または「プロセス」カテゴリに登録された1つまたは複数の特徴量を説明変数、キュリー温度T などの磁気相転移に関する特徴量を含む「組織」カテゴリに登録された1つまたは複数の特徴量を目的変数として、数理モデルを導出・設定する。
次に、「組成」カテゴリおよび/または「プロセス」カテゴリに登録された1つまたは複数の項目について網羅予測点を生成し、前述した数理モデルを用いて、生成した各予測点に対応する「組織」カテゴリに登録された項目の1つまたは複数について、特徴量の予測値を計算する。その後、得たい「組織」の値(要求値)を入力すると、得られたキュリー温度T などの磁気相転移に関する特徴量を含む一連の「組織」カテゴリに登録された1つまたは複数の特徴量の予測値の中から、入力した要求値に近いものが抽出され、「組成」および/または「プロセス」の候補として出力される。候補抽出の判断基準となる要求値と予測値の差分は、目的に応じて適宜設定される。
この例において、図17のデータ処理装置200は、データベース100のデータを活用して数理モデルを導出し、その数理モデルに基づく組成・プロセスの網羅予測点生成、組織特徴(予測)計算、および材料特性の要求値-予測値比較を実行する。データ処理装置200は、他のデータ処理装置200が導出した数理モデルを通信などによって取得し、その数理モデルに基づく組成・プロセスの織網羅予測点生成、組織特徴(予測)計算、および材料特性の要求値-予測値比較を実行してもよい。
なお、この例においても、得たい組織特徴の値は、例えば、求められる材料特性の値から図13または図14を参照して説明したデータ処理によって求めたものであってもよい。また、例えば、出力される「組成」および/または「プロセス」の候補を選択するとき、組成の範囲または値を固定するなどの境界条件をあらかじめ設定してもよい。
数理モデルと「組成」および/または「プロセス」の網羅予測点を用いて計算した「組織」の予測値はあらかじめデータベース化しておいても構わない。
なお、図14または図17を参照しながら説明した「網羅予測点」を得るには、例えば、以下のことを実行すればよい。まず、図14における「組織」、図17における「組成・プロセス」に登録された各項目の一部または全部について、実現可能と考えられる範囲を設定する。その後、それぞれの項目に対して、ランダムまたは所定の刻み幅で複数の数を設定する。そして、各項目の複数の数値同士のすべての組合せを作成する。図14または図17の例において、設定した「組織」または「組成・プロセス」の網羅予測点に数理モデルを適用することによって得られる「材料特性」や「組織特徴」の結果は、このような「網羅予測点」を得るために用いたデータを格納するデータベースに格納してもよいし、別のデータベースに格納し、それらを必要な際に活用してよい。
また、「組織特徴」のデータを介して、「組成」、「プロセス」、および/または、「材料特性」を関連付けた解析を行ってもよい。例えば、第4の例(図15)を活用して「組成」および「プロセス」から「組織特徴」を予測し、さらに第1の例(図12)により予測した「組織特徴」から「材料特性」を予測してもよい。また、第2の例(図13)により、「材料特性」の要求値から「組織特徴」の候補を求め、さらに第6の例(図17)により、求めた「組織特徴」から「組成」「プロセス」の候補を得てもよい。これらは、組み合わせの例示の一部にすぎず、「組織特徴」を介して「組成」「プロセス」と「材料特性」を関連付けるための第1から第5の例の組み合わせ方に制限はない。
本開示のデータベース、材料データ処理システム、およびデータベースの作成方法は、データマイニングなどの情報科学を利用して新材料や代替材料を効率的に探索するマテリアルズインフォマティクスに好適に利用され、新材料または代替材料の開発に利用され得る。
100・・・データベース、200・・・データ処理装置、201・・・本体、220・・・表示装置、210・・・入力装置、220・・・表示装置、230・・・通信I/F、240・・・記憶装置、250・・・プロセッサ、260・・・ROM(Read Only Memory)、270・・・RAM(Random Access Memory)、280・・・バス、500・・・インターネット、1000・・・材料データ処理システム

Claims (11)

  1. 目的とする材料を設計するための材料設計装置において、
    個々の試料における組成データ、プロセスデータ、および特性データの少なくとも1つを示す第1データと、前記試料における「磁化温度依存性に基づく特徴量」を含む組織データを示す第2データと、を含むデータを記憶するデータベースを読み出し、読み出した前記第1データと前記第2データとに基づく数理モデルを作成し、作成した前記数理モデルを用いて、前記材料の組成、プロセス、特性、および組織を規定する少なくとも一つの変数の出力値を求めるように構成される
    材料設計装置。
  2. 前記第1データは、
    前記組成データとして、前記個々の試料に含まれる元素の種類、および前記元素の組成比率を含み、
    前記プロセスデータとして、前記個々の試料を製造する工程で実行された熱処理条件を規定するパラメータを含む、
    請求項1項に記載の材料設計装置。
  3. 前記第1データは、
    前記特性データとして、前記個々の残留磁束密度、保磁力、飽和磁化、および透磁率の少なくとも一つを含む、
    請求項1または2に記載の材料設計装置。
  4. 前記第2データは、
    前記組織データとして、前記個々の試料に含まれる主相の結晶構造を規定するパラメータを含む、
    請求項1から3のいずれか1項に記載の材料設計装置。
  5. 前記データベースから読み出した前記組成データ、前記プロセスデータ、および前記特性データの少なくとも1つを示す第1の変数を目的変数とし、前記「磁化温度依存性に基づく特徴量」を含む前記組織データを示す第2の変数を説明変数として前記数理モデルを作成する、
    請求項1から4の何れか1項に記載の材料設計装置。
  6. 前記「磁化温度依存性に基づく特徴量」は、「磁気相転移に関する特徴量」である、
    請求項1から5のいずれか1項に記載の材料設計装置。
  7. 前記「磁気相転移に関する特徴量」は、キュリー温度およびネール温度の少なくとも一方を含む、
    請求項6に記載の材料設計装置。
  8. 前記データは、複数の企業がアクセス可能な前記データベースに格納し、該複数の企業から収集される前記データの集合であるビッグデータとして管理される、
    請求項1から7のいずれか1項に記載の材料設計装置。
  9. 目的とする材料を探索するマテリアルズインフォマティクスによる材料開発方法において、
    個々の試料における組成データ、プロセスデータ、および特性データの少なくとも1つを示す第1データと、前記試料における「磁化温度依存性に基づく特徴量」を含む組織データを示す第2データと、を含むデータを記憶するデータベースをデータ処理装置で読み出し、前記データ処理装置にて、読み出した前記第1データと前記第2データとに基づく数理モデルを作成し、作成した前記数理モデルを用いて、前記材料の組成、プロセス、特性、および組織を規定する少なくとも一つの変数の出力値を求める
    マテリアルズインフォマティクスによる材料開発方法。
  10. 前記データ処理装置にて、前記データベースから読み出した前記組成データ、前記プロセスデータ、および前記特性データの少なくとも1つを示す第1の変数を目的変数とし、前記「磁化温度依存性に基づく特徴量」を含む前記組織データを示す第2の変数を説明変数として前記数理モデルを作成する、
    請求項9に記載のマテリアルズインフォマティクスによる材料開発方法。
  11. 前記データは、複数の企業がアクセス可能な前記データベースに格納し、該複数の企業から収集される前記データの集合であるビックデータとして管理される、
    請求項9または10に記載のマテリアルズインフォマティクスによる材料開発方法。
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