JP7251723B2 - 半月板再生基材 - Google Patents
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Description
しかしながら、実際には、従来の組織再生基材を用いても、期待したほどには半月板の再生が促進されないという問題があった。
以下に本発明を詳述する。
膝関節には、立時や歩行時に全体重がかかる。とりわけ、ヒトを含む大型動物では、その衝撃は極めて大きくなる。移植後、いかに安静にするとしても、長期にわたる治癒の間には、移植した半月板再生基材には大きな応力がかかり続ける。また、半月板再生においては、移植した基材と軟骨とが膝関節の動きにより接触し、その摩擦によって基材の表面が磨耗してしまうという、半月板の再生に独特の問題もあった。
従来の組織再生基材を構成する不織布は、細胞の侵入性を確保するために5~30μm程度の平均孔径であることが好適であることが知られている。しかしながら、このような従来の組織再生基材は、細胞の侵入性の点では優れているとしても、充分な機械的強度を有せず、半月板が再生する以前に損傷したり、表面が磨耗してしまったりして、厚みを減じてしまい、充分な厚みの半月板を再生するための足場材としての役割を果たし得なくなると考えられた。
上記不織布層は、移植後に周囲組織から侵入する細胞増殖の足場となり、半月板の再生を促進する役割を有するとともに、移植後に応力がかかったときに充分な機械的強度を発揮する役割を有する。また、上記スポンジ層は、半月板再生基材に適度な柔軟性を付与するとともに、移植した後に基材と軟骨とが膝関節の動きにより接触して摩擦力が生じたときに、基材の表面が磨耗してしまうのを防止する役割を有する。
なお、上記50%圧縮応力は、JIS-K6767に準拠した方法により測定することができる。
上述のように上記不織布層は、50%圧縮応力が0.5MPa以上である。これほどの高い50%圧縮応力を達成するためには、上記不織布層は極めて緻密な構造とならざるを得ない。これまでの技術常識では、組織再生基材を構成する不織布の平均孔径は、細胞の侵入性を確保するために5~30μm程度が好適であるとされていた。しかしながら、そのような低密度な不織布では、到底50%圧縮応力を0.5MPa以上とすることはできない。ところが、驚くべきことに、ポリグリコリドからなる不織布層は、50%圧縮応力が0.5MPa以上の従来では細胞の侵入が困難とされる極めて緻密な構造であっても、細胞が侵入して、充分に半月板を再生することができる。
ポリグリコリドは、繊維状にして37℃の生理食塩水中に浸漬した場合に、引張強度が浸漬前の1/2になるまでの期間が約14日である。このような分解性を有することにより、50%圧縮応力が0.5MPa以上となるように極めて緻密な構造としても、徐々に分解吸収が進むにつれ細胞が侵入、増殖することができ、不織布層の内部まで再生した組織が構築され、その結果として良質な再生組織が構築されるものと考えられる。更に、生体内に埋入後数日間で炎症系の細胞が消失することから、組織の癒着を引き起こしにくいという優れた効果をも発揮できる。
上記ポリグリコリドがラクチド、ε-カプロラクトン、p-ジオキサノン等の他の生体吸収性の成分との共重合体である場合、該共重合体におけるグリコリド成分の配合量の好ましい下限は60モル%である。グリコリド成分の配合量を60モル%以上とすることにより、細胞の侵入性に優れ、かつ、正常な組織の再生を行うという本発明の優れた効果を特に発揮することができる。
上記ポリグリコリドとポリラクチド等の他の生体吸収性材料との混合物を用いる場合、該混合物におけるポリグリコリドの配合量の好ましい下限は50モル%である。ポリグリコリドの配合量を50モル%以上とすることにより、細胞の侵入性に優れ、かつ、正常な組織の再生を行うという本発明の優れた効果を特に発揮することができる。
なお、メルトフローレートの測定条件は、ポリグリコリドを240℃、10分間、シリンダー内で保持して溶融した後、荷重4kgfの条件で測定した値を意味する。
しかしながら、通常の製造方法で製造した不織布では、不織布層の50%圧縮応力を0.5MPa以上とすることが困難な場合がある。そのような場合には、複数の不織布を積層して複合一体化した後、熱プレス等の方法により圧縮することにより、50%圧縮応力を0.5MPa以上に調整することができる。
更に必要に応じて、圧縮後の不織布に生体吸収性材料からなる糸でミシン掛けを行うことが好ましい。圧縮した不織布には、元の厚みに戻ろうとする応力が働くが、ミシン掛けして厚みを固定しておくことにより、密度が低下してしまうのを防止することができる。ミシン掛けのピッチは特に限定されないが、確実に厚みを固定するためには5mm以下のピッチとすることが好ましい。
不織布層の両端部付近の厚み方向に貫通孔を設け、そこに後述する糸を通すことで、移植時に半月板再生基材を容易に固定できる。
半月板再生基材を体内に移植する際は、足の動作等によって半月板再生基材がずれないようにするために、糸を用いて半月板再生基材と脛骨を固定する必要がある。しかしながら、従来の半月板再生基材では半月板再生基材を移植したい位置に維持しつつ固定を行うことが難しいという問題があった。本発明の半月板再生基材は、不織布層の両端部付近に貫通孔を有し、そこに糸を通しているため、移植の際半月板再生基材側を結んで固定する必要がなく、脛骨側のみを結ぶだけで固定が完了することから、移植を容易かつ短時間で行うことができる。
上記貫通孔は、半月板再生基材をより確実に固定できることから、各端部に2つ以上設けることが好ましい。なお、ここで厚み方向とは半月板再生基材の断面が半月状になる面に対して垂直な方向を意味する。また、ここで両端部付近とは、上記不織布層の両端部であって、体内に移植したときにできるだけ軟骨等の他の組織と直接接しない部分のことを指す。また、上記貫通孔の直径は後述する糸の直径に応じて適宜調節される。
上記貫通孔を通り積層体の外部へ出された糸を有することで、移植時に半月板再生基材を脛骨に固定する際に、脛骨側のみを結ぶだけで半月板再生基材を固定できることから、移植を容易かつ短時間で行うことができる。
糸の引張強度が上記範囲であることで、半月板が再生するまでの間確実に半月板再生基材を固定することができる。上記糸の強度のより好ましい下限は40N、更に好ましい強度は60N、より好ましい上限は180N、更に好ましい上限は150Nである。
なお、本明細書においてフィルムとは、少なくとも光学顕微鏡により観察可能なμmオーダーの孔を有しない、薄い膜状体を意味する。
上記各層が複合一体化していないと、本発明の半月板再生基材を移植する際に、上記各層間の一部又は全部が剥離してしまうことがある。上記各層間が一部でも剥離すると、該剥離部に形成された空間に細胞溜まりが生じて、正常な組織又は器官が再生されないことがある。
なお、本明細書において複合一体化とは、手で引っ張った程度では上記スポンジ層と上記不織布層(及び上記フィルム層)とを分離できない程度の密着力で積層されていることを意味する。
なお、上記厚みの維持率とは、繰り返し圧縮試験前の半月板再生基材の厚みに対する、繰り返し圧縮試験後の半月板再生基材の厚みの比(%)を意味する。
図3、4では糸が不織布層とスポンジ層の間から外部へ出されている態様を示している。図3、4に示すように、本発明の半月板再生基材は両端部付近の厚み方向に貫通孔を有する不織布層9とスポンジ層10と貫通孔を通る糸11とを有しており、スポンジ層10、糸を通した不織布層9、及び、スポンジ層10がこの順に複合一体化した構造となっている。また、スポンジ層10は、不織布層9だけでなく糸11も覆って形成されており、糸11は不織布層9とスポンジ層10との間から外部へ出ている。スポンジ層10が糸11を覆うように形成されることで、貫通孔付近の糸11による引っ掛かりを防止できるとともに、糸11がずれなくなることから糸11を結びやすくすることができる。本発明の半月板再生基材は、両端部の糸11を脛骨に固定することで体内に移植される。
(1)不織布層の調製
生体吸収性材料として重量平均分子量が250000のポリグリコリドを用い、これを紡糸して得た平均繊維径が31デニールの糸からなる布をニードルパンチ法により不織布化する方法により、平均繊維径が約20μm、厚さが約300μmの不織布を得た。
得られた不織布を14枚重ね、その状態で一方の面から ニードルパンチを行うことにより複合一体化した。次いで、複合一体化した積層体を、温度100℃で1分間熱プレスした後、ポリグリコリドからなる400デニールの糸を用いて5mmピッチでミシン掛けした。その後、積層体を半月板状にカットし、両端部に2か所ずつ厚み方向に貫通孔を開けて、厚み3.7mmの不織布層を得た。貫通孔にポリグリコール酸の糸からなる組紐を通した。
L-ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体(モル比50:50、重量平均分子量20万)をジオキサンに溶解して4重量%ジオキサン溶液を調製した。ガラスシャーレに糸を通した不織布層を静置して、得られた溶液をガラスシャーレに液面の高さが不織布層の高さとほぼ同等になるように流し入れた。-80℃で1時間凍結した後、凍結乾燥機(ADVANTEC社製、DRZ350WA)を用いて、-40℃で12時間凍結乾燥することにより、不織布層の両面に厚さ約100μmのスポンジ層を形成し、スポンジ層/糸を通した不織布層/スポンジ層が積層一体化した積層体を得た。なお、スポンジ層は不織布層、貫通孔及び不織布層上の糸を覆うように形成した。
L-ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体(モル比50:50、重量平均分子量40万)をジオキサンに溶解して4重量%ジオキサン溶液を調製した。得られた溶液をガラスシャーレに流し入れ、風乾及び熱処理することにより厚さ約100μmのフィルムを得た。
得られたフィルムの一方の面の表面にジオキサンを少量塗布することにより一部溶解させ、スポンジ層/糸を通した不織布層/スポンジ層が積層一体化した積層体の上下面(両表面)のスポンジ層にフィルムが接するように積層し、乾燥させてフィルムと積層体とを複合一体化させて、厚さ約100μmのフィルム層を形成して、フィルム層/スポンジ層/糸を通した不織布層/スポンジ層/フィルム層が積層一体化した積層体からなる半月板再生基材を得た。得られた半月板再生基材について、JIS-K6767に準拠した方法により50%圧縮応力を測定したところ、3.8MPaであった。
実験動物として大型動物であるブタを準備し、右膝関節の内側半月板の前節を切除した。半月板除去部に、実施例で得られた半月板再生基材を移植して縫合した。
術後、0、4、8週後に右膝関節の核磁気共鳴画像(MRI)を撮影した。撮影した核磁気共鳴画像(MRI)を図5に示した。
また、術後8週目に犠牲死させ、右膝関節の内側半月板を取り出し、移植部分を摘出した。得られた標本をヘマトキシリンエオジン染色、サフラニン染色した顕微鏡写真像を図6及び図7に示した。
図5より、関節のあたる部分から先に軟骨が再生していることがわかる。また、図6及び図7より、術後8週後には、半月板再生基材を移植した部分において、軟骨組織の再生(図7の染色像において赤く染色された部分)が認められた。
実施例1で得られた半月板再生基材について、ブタを用いて移植の容易性を評価した。実施例1の半月板再生基材は、脛骨に開けた孔に糸を通して結ぶだけで固定することができ、短時間で移植を行うことができた。なお、従来の糸を有さない半月板再生基材の場合は、針付きの縫合糸を脛骨に開けた孔に通した後、更に半月板再生基材と縫合する作業が必要になるため、移植に時間がかかる。
2 膝蓋下脂肪体
3 軟骨
4 大腿骨
5 脛骨
6 膝蓋骨
7 関節包
8 関節液
9 不織布層
10 スポンジ層
11 糸
Claims (5)
- 半月板の再生治療において、膝関節の半月板の欠損部分に充填することで、半月板の再生を促進することができる半月板再生基材であって、
ポリグリコリドよりも分解速度が遅い生体吸収性材料からなるスポンジ層、ポリグリコリドからなる不織布層、及び、ポリグリコリドよりも分解速度が遅い生体吸収性材料からなるスポンジ層がこの順に複合一体化した構造を有し、
前記不織布層の50%圧縮応力が0.5MPa以上であり、かつ、前記不織布層の厚みが2mm以上であり、
前記不織布層の密度が400mg/cm 3 以上であり、
前記不織布層は、両端部付近の厚み方向に貫通孔を有し、該貫通孔を通した糸が前記積層体の外部に出されていることを特徴とする半月板再生基材。 - スポンジ層がラクチド-ε-カプロラクトン共重合体からなることを特徴とする請求項1記載の半月板再生基材。
- 不織布層を構成する不織布の平均繊維径が25~40デニールであることを特徴とする請求項1又は2記載の半月板再生基材。
- 一方又は両方の表面にラクチド-ε-カプロラクトン共重合体からなるフィルム層を有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の半月板再生基材。
- 縦20mm、横20mmの半月板再生基材に対して、温度37℃の温水中で300Nの荷重を20回繰り返して印加する繰り返し圧縮試験を行った後の半月板再生基材の厚みの維持率が95%以上であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の半月板再生基材。
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