JP7242167B2 - 血液処理装置 - Google Patents

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本発明は、血液処理装置に関する。より具体的には、血小板やタンパク質の付着に起因する性能低下又は血栓生成を回避しうる血液処理装置に関する。
一般的に、医療デバイスに用いられる材料の表面に血液・体液のような生体成分が接触すると、材料は異物として認識され、血小板やタンパク質の付着、材料の性能低下、さらには生体反応を惹起、血栓の形成といった深刻な問題が発生する。例えば、血液透析、血漿分離、血液・血漿吸着等の体外循環による血液浄化では、血液回路や血液浄化器に血液が接触すると、タンパク質や血小板の付着、活性化し、血栓の形成により回路、血液浄化器で目詰まりが発生し、性能低下や最悪の場合、血液循環が不能となり、回路、血液浄化器の交換が必要となる。このような副作用を回避、軽減することを目的に、一般的な体外循環による血液浄化では、ヘパリンやメシル酸ナファモスタット等といった抗凝固剤を体外循環前及び循環中に投与することで血液循環を可能としている。
また、血液浄化療法の中でも、急性腎不全や急性薬物中毒等の救急治療に適用される持続血液透析、持続血液ろ過、持続血液透析ろ過では、慢性腎不全患者の治療に利用される血液透析が、1回当たり4時間の治療に対し、1回当たり12時間から数日の長期にわたる治療が必要となる。このように治療時間が長期にわたる場合、血液への負荷は大きくなり、血液凝固が促進される。さらに、このように救急治療が施行される患者には、抗凝固剤を使用できる量に制限があることや、血液の凝固が起こりやすい状態にあるため、より一層の血液適合性が必要である。
血液浄化器、例えば血液透析膜や血液透析ろ過膜の素材としてはセルロールトリアセテート等のセルロース系、ポリスルホンやポリエーテルスルホン等のポリスルホン系の素材が一般的である。これらの素材は一般的に血液適合性が低いため、親水性高分子を添加、コーティングすることによって血液適合性を付与している。
例えば、人工透析に用いられる中空糸膜の主成分であるポリスルホンに親水性高分子であるポリビニルピロリドンを、製膜原液の段階で混合させて成形することで、膜に親水性を与え、汚れを抑制する方法が知られている。しかし、この方法で表面に親水性を付与するためには、製膜原液中の親水性高分子を多く用いる必要があることや、基材となる高分子と相溶性のある親水性高分子に限定されること等の制約を受けるという問題があった。
一方、特許文献1には、ポリスルホン系の分離膜をポリビニルピロリドン等の親水性高分子溶液と接触させた後、放射線架橋により不溶化した被膜層を形成する方法が開示されている。
また、特許文献2、3には、ビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体に代表される親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体を表面に導入する方法が開示されている。
血液浄化治療の際に必要となる血液回路においても、血液適合性を付与する方法が開示されている。特許文献4、5、6には、血液回路と血液浄化器の一体型のシステムが開示されている。特許文献4、5では、血液回路表面にヘパリン又は、親水性高分子をコーティングすることで、血液適合性を向上させる技術が開示されている。特許文献6には、血液回路表面にフッ素系高分子を修飾することで抗血栓性を付与し、抗凝固剤の使用量を低減する方法が開示されている。
特公平2-18695号公報 特開平6-238139号公報 特開2010-104984号公報 国際公開90/12607号公報 特開2004-8693号公報 特開2016-52525号公報
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、原液中に親水性高分子を添加しているため、血液等の非処理液が接触する表面に親水性高分子を十分に導入することが困難である。表面に十分な親水性高分子を導入すると、製膜原液の組成が変化するため、所望の孔径の膜を得ることが難しくなる。
一方、特許文献2、3に記載の方法では、疎水性ユニットが疎水性の基材と相互作用することで、共重合体の導入効率が高まり、効率的に親水化することができる。そのため、ポリビニルピロリドン等の親水性高分子のみを導入した場合と比較して、血小板やタンパク質の付着が抑制されることが明らかとなっている。しかしながら、特許文献2、3に記載の方法でも、持続血液透析のように長時間血液等生体成分と接触して使用される医療デバイスに用いた場合、長時間血液等生体成分と接触することにより、血液凝固やタンパク質付着が時間と共に進み、遂には目詰まりを起こし、使用継続不能となってしまうことがある。
特許文献4、5に記載の方法では、血液回路表面にコーティングしたヘパリンが徐放することで血液凝固を抑制している。ヘパリンが徐放されているため、実質的にはヘパリンを投与している状態と同じであることや、ヘパリンがすべて徐放された後では、血液適合性が低下するという問題がある。また、ヘパリンは生体由来の抗凝固剤であるため、試薬としての供給にも問題がある。
特許文献6に記載の方法は、血液回路又は中空糸膜を製造する際の原液にフッ素系高分子を添加することで、血液適合性を付与している。そのため、血液回路の強度や柔軟性に影響を与える懸念があることや、中空糸膜では孔径の制御、それに伴う除去性能が低下する懸念がある。
このように、現在のところ簡便な方法で血液回路、血液浄化器をトータルで血液適合性を付与し、抗凝固剤の使用量を低減もしくは不使用とする一体型の血液処理装置に関する技術は開示されていない。
本発明の目的は、かかる従来技術の欠点を改良し、長時間、血液等生体成分と接触しても血小板やタンパク質の付着を抑制することにより、抗凝固剤の使用量を低減もしくは不使用とすることが可能な一体型の血液処理装置を提供することにある。
血液凝固は、血中に含まれるタンパク質や血小板が疎水性表面に付着することから始まると考えられる。そのため、血液が接触する部分が親水性を有することが重要である。さらに、血液が接触する部分の親水性の程度には最適な範囲が存在する。たとえば、ポリエチレングリコールやポリビニルアルコールのような親水性高分子で表面を親水化してもタンパク質の付着を完全に抑制することはできないことがわかっている。
また、血液回路や血液浄化器では、その形状等によって血液の滞留が起こる場合がある。滞留が発生すると同じ血液が、その場所に長時間有り続けるために活性化され、血液凝固へと至る。
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討を進めた結果、血小板やタンパク質の付着を抑制し、かつ、血液の滞留を抑制することで抗凝固剤の使用を低減可能な血液回路と血液浄化器からなる血液処理装置を見出した。
本発明によれば、以下が提供される。
(1) 血液回路と、血液浄化器とを備えた血液処理装置であって、上記血液回路及び血液浄化器における血液接触表面の少なくとも一部又は全部に、モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子が担持されており、上記血液浄化器は、分離膜と、該分離膜を固定するハウジングと、該分離膜の端面側に血液導入口を配置した血液ポートとを備え、上記血液回路の動脈側回路の上記血液導入口を形成する血液ポートへの接続部分が、上記分離膜の端面に対して直立した流路を形成し、該流路の長さが25mm以上100mm以下である、血液処理装置。
(2) ピロー及び/又はエアートラップチャンバーが上記血液回路中に配置されている、上記(1)に記載の血液処理装置。
(3) 上記ピローの長手方向に沿った断面において、該ピローへの血液入口の内壁に沿って延長した仮想線と、該ピローの血液入口側端とピロー側面の血液入口側端とを結ぶ仮想線と、のなす角度(θ2)が40°以上60°以下であるか、あるいは、該ピローからの血液出口の内壁に沿って延長した仮想線と、該ピローの血液出口側端とピロー側面の血液出口側端とを結ぶ仮想線と、のなす角度(θ2)が40°以上60°以下である、上記(2)に記載の血液処理装置。
(4) 上記エアートラップチャンバーの長手方向の断面において、該エアートラップチャンバーの血液入口端から血液出口端までの長さが3cm以上7cm以下であり、上記血液回路の内径の上記エアートラップチャンバーの内径に対する比率が0.1以上0.3以下であり、上記エアートラップチャンバーからの上記血液出口の内壁に沿って延長した仮想線と、上記エアートラップチャンバーの血液出口側端とエアートラップチャンバー側面の血液出口側端とを結ぶ仮想線と、のなす角度(θ3)が40°以上60°以下である、上記(2)又は(3)に記載の血液処理装置。
(5) 上記モノカルボン酸ビニルエステルユニットは、脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニット又は芳香族モノカルボン酸ビニルエステルユニットである、上記(1)~(4)のいずれかに記載の血液処理装置。
(6) 上記高分子は、ビニルピロリドンユニット又はビニルアセトアミドユニットを含有する、上記(1)~(5)のいずれかに記載の血液処理装置。
(7) 上記高分子において、上記ビニルピロリドンユニット又はビニルアセトアミドユニットと、上記モノカルボン酸ビニルエステルユニットとのモル分率が30:70~90:10である、上記(6)に記載の血液処理装置。
本発明によれば、通常血液凝固を抑制するために添加される抗凝固剤の使用量を低減、もしくは不使用とした状態で血液浄化を安全に行うことが可能となる。
本発明に用いることが可能な血液処理装置の一般的な模式図である。 動脈側血液回路と血液浄化器の血液ポートとから構成される接続部分が、分離膜の端面に対して直立していることを示す概略図である。 血液回路のピローの形態の例を示した概略図である。 血液回路のピローの形態の例を示した概略図である。 血液回路のエアートラップチャンバーの形態の一例であり、概略図である。 分離膜モジュールの形態の1つである中空糸膜モジュールの、長手方向に対して水平な断面を示す概略図である。 血液循環試験で使用する回路及び装置の概略図である。 ビニルピロリドン/プロパン酸ビニル/アリルアミンランダム共重合体を固定化したPET製メッシュの血液循環後の状態を示した図である。 高分子を固定化していないPET製メッシュの血液循環後の状態を示した図である。 ポリ塩化ビニルにビニルピロリドンモノマー、プロパン酸ビニルモノマーを共重合させた高分子をコーティングした血液回路(図9上部)及びコーティング処理無しの血液回路(図9下部)の血液循環後の状態を示した図である。
本発明の血液処理装置は、血液回路と、血液浄化器とを備えた血液処理装置である。血液回路及び血液浄化器における血液接触表面の少なくとも一部又は全部に、モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子が担持されている。血液浄化器が、分離膜と、分離膜を固定するハウジング(筒状のケース)と、分離膜の端面側に血液導入口を配置した血液ポートとを備えている。血液回路の動脈側回路が血液導入口を配置した血液ポートに接続する部分として画成される接続部分が、分離膜の端面に対して直立してなる流路を形成する。この直立した流路の長さが25mm以上100mm以下であることを特徴としている。血液処理装置中の血液接触面に特定の高分子を配置しかつ血液浄化器と血液回路との接続部分を上述のような直立構造とすることにより、血栓等の生成を顕著に防止しうることは意外な事実である。この場合、上記流路の長さは、30mm以上100mm以下の範囲であることが好ましく、上記ハウジングの内径は、2cm以上10cm以下であることが好ましい。
以下、本発明について具体的な一例を挙げて説明する。図1は、本発明に用いることが可能な血液処理装置の一般的な模式図である。血液処理装置1は、血液回路2と、血液浄化器3とを備えている。血液回路2は、動脈側回路2Aと、静脈側回路2Bとから構成されている。人体Xの動脈由来の血液は動脈側回路2Aを介して血液浄化器3の血液導入口4から分離膜(中空糸膜;中空糸束)5中に注入され、老廃物は分離膜5により処理液(透析液)中に分離され、浄化された血液は血液排出口6から排出される。そして、浄化された血液は静脈側血液回路2Bを介して人体Xの静脈に戻る。血液浄化の際には、処理液供給装置7から血液浄化器3の処理液注入口8に処理液が供給され、処理液は血液浄化器3内において中空糸膜5の外側を血液と逆向きに送られ、老廃物等を含む処理液は処理液排出口9から排出される。静脈側回路2Bには、所望により補液(生理食塩水等)供給器を接続し、浄化された血液の浸透圧を調節することができる。そして、血液処理装置1では、分離膜5の内側面や、血液回路2を構成する送液管の内側面をはじめとする血液接触面が、モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子で被覆されており、血小板やタンパク質の付着が抑制されている。上記血液回路と血液浄化器は使用前に接続しても良いし、製造時点から接続されていても良い。また、静脈から脱血を行う場合、動脈側回路は、脱血側の回路を意味し、静脈側回路は、返血側の回路を意味する。
本発明の血液処理装置は、人体の動脈由来の血液の処理に限定されるものではなく、血液製剤等の血液由来成分を含む液体を処理する際にも用いることができる。
また、図2は、図1に示される一点鎖線で囲まれる部分の拡大図である。図2に示される通り、血液浄化器3は、分離膜(中空糸膜;中空糸束)5をその端部の開口した状態で固定しているハウジング(ケース)10と、分離膜5の開口端面5a側に血液導入口4を形成した血液ポート11Aとを備えている。そして、血液導入口4を介して血液ポートと接続している動脈側回路2Aは、分離膜の端面5aに対して直立に配置された流路を形成する特定の長さの接続部分12を有している。理論に拘束されるものではないが、血液導入口に接続している血液回路が湾曲している場合には、湾曲部の内側と外側で血液流速に差が生じ、偏流が発生し、ハウジング内で血液の滞留が発生して血液凝固に繋がる場合がある。本発明の装置においては、動脈側回路2Aの血液浄化器3への接続部分12が分離膜の端面に対して直立した特定の長さの流路を形成することにより、血液ポート内における血液の偏流、滞留が防止され、血液凝固に起因する血栓等の発生がとりわけ顕著に回避されるものと考えられる。なおここで、分離膜の端面に対して、血液回路が直立しているという状態は、血液ポートの中心軸に対して、血液回路が平行であると言い換えることができる。
なお、本発明において、接続部分の中心軸13と、上記端面5aのなす角度θ1は、図2に示される完全な直立相当値(θ1=90°)の他、本発明の効果を妨げない限りにおいて誤差範囲の変動値を包含してもよく、本発明には、かかる誤差範囲を含む実質的に同一の範囲も包含される。具体的には、θ1は、本発明の効果を妨げない限りにおいて、血液の偏流を抑制する観点から、好ましくは88°以上92°未満であり、より好ましくは89°以上91°未満であり、さらに好ましくは89.5°以上90.5°未満であり、さらに好ましくは90°である。また、血液ポートの中心軸に対して水平な仮想線14と血液回路のなす角度θ4は、本発明の効果を妨げない限りにおいて、好ましくは88°以上92°未満であり、より好ましくは89°以上91°未満であり、さらに好ましくは89.5°以上90.5°未満であり、さらに好ましくは90°である。上記角度θ4を保持することは、血液ポートの形状にかかわらず、血液の偏流を回避する上で特に有利である。本発明の装置の詳細をより具体的に説明する。
血液接触面に担持される高分子
本発明の血液処理装置では、上述の通り、モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子が、血液浄化器及び血液回路における血液接触面の少なくとも一部又は全部に担持されている。本発明の好ましい態様によれば、上記高分子は、血液浄化器及び血液回路における血液接触面の少なくとも一部又は全部を被覆している。
「モノカルボン酸」とは、1つのカルボキシ基と、当該カルボキシ基の炭素原子に結合した炭化水素基からなる物質を意味する。炭化水素基は脂肪族、飽和脂肪族、芳香族を含んでいてよく、飽和脂肪族の例としては、酢酸、プロパン酸、酪酸等が挙げられる。芳香族としては、安息香酸やその誘導体等が挙げられる。
「飽和脂肪族」とは、炭素-炭素間の結合が全て単結合からなり、芳香族基のような多重結合を含まないことを意味する。
「脂肪族鎖炭素数」とは、カルボン酸のカルボキシ基の炭素原子に結合している飽和脂肪族炭化水素基の炭素数を意味し、例えば、炭素数1とは酢酸のことを、炭素数2とはプロパン酸のことを指す。上記脂肪族鎖炭素数が少ないことは、飽和脂肪族モノカルボン酸の疎水性を低くし、血小板やタンパク質との疎水性相互作用を小さくし、付着を防止する上で好ましい。そのため、モノカルボン酸ビニルエステルユニットの脂肪族鎖炭素数は、例えば1~20であり、1~9が好ましく、2~5がより好ましい。いずれの好ましい下限値もいずれの好ましい上限値と組み合わせることができる。
上記飽和脂肪族炭化水素基は、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等の直鎖構造のみならずイソプロピル基やターシャリーブチル基のような分岐構造や、シクロプロピル基、シクロブチル基のような環状構造、さらには、脂肪族鎖内にエーテル結合やエステル結合等を含んでいてもよい。ただし、末端にスルホン酸基やカルボキシ基等のアニオン性官能基を有する構造を有さないことが好ましい。これは、脂肪族鎖末端のアニオン性官能基は、血小板やタンパク質の構造を不安定化させ、医療材料表面への付着を回避し、さらには、ブラジキニン活性化、補体活性化等好ましくない生体反応の誘発を防止する上で有利だからである。カルボン酸の製造コストの観点から、上記飽和脂肪族炭化水素基は、直鎖構造又は分岐構造が好ましく、直鎖構造がより好ましい。
「ユニット」とは、モノマーを重合して得られる単独重合体又は共重合体中の繰り返し単位を指す。例えば、カルボン酸ビニルエステルユニットとは、カルボン酸ビニルエステルモノマーを重合して得られる単独重合体中の繰り返し単位又はカルボン酸ビニルモノマーを共重合して得られる共重合体中のカルボン酸ビニルエステルモノマー由来の繰り返し単位を指す。
「モノカルボン酸ビニルエステルユニット」とは、1つのカルボキシ基と、当該カルボキシ基の炭素原子に結合した炭化水素基からなる物質を意味し、モノカルボン酸ビニルエステルユニットとしては、好ましくは脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニット又は、芳香族モノカルボン酸ビニルエステルユニットであり、より好ましくは飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットである。
飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステル単独重合体の具体例としては、ポリプロパン酸ビニル、ポリピバル酸ビニル、ポリデカン酸ビニル、ポリメトキシ酢酸ビニル等が挙げられるが、疎水性が強すぎないことから、ポリ酢酸ビニル(脂肪族炭素数:1)、ポリプロパン酸ビニル(脂肪族鎖炭素数:2)、ポリ酪酸ビニル(脂肪族鎖炭素数:3)、ポリペンタン酸ビニル(脂肪族鎖炭素数:4)、ポリピバル酸ビニル(脂肪族鎖炭素数:4)、ポリヘキサン酸ビニル(脂肪族鎖炭素数:5)が好ましい。
芳香族モノカルボン酸ビニルエステルの具合例としては、安息香酸ビニルやその置換体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
血液回路及び血液浄化器の血液接触表面に存在する高分子がモノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有することはTOF-SIMS装置による組成分析とXPS測定を組み合わせることにより、解析が可能である。
具体的には、まず、TOF-SIMS装置による組成分析によって、上記飽和脂肪族モノカルボン酸エステルのカルボン酸イオン由来のピークが検出されるため、その質量(m/z)を分析することによって、カルボン酸の構造が明らかとなる。TOF-SIMS装置による組成分析では、超高真空中においた試料表面にパルス化されたイオン(1次イオン)が照射され、試料表面から放出されたイオン(2次イオン)は一定の運動エネルギーを得て飛行時間型の質量分析計へ導かれる。同じエネルギーで加速された2次イオンのそれぞれは、質量に応じた速度で分析計を通過するが、検出器までの距離は一定であるため、そこに到達するまでの時間(飛行時間)は質量の関数となり、この飛行時間の分布を精密に計測することによって2次イオンの質量分布、すなわち質量スペクトルが得られる。
例えば、1次イオン種としてBi ++を用い、2次負イオンを検出する場合、m/z=59.02 のピークは、C 、すなわち、酢酸(脂肪族鎖炭素数:1)に相当する。また、m/z=73.04のピークは、C 、すなわち、プロパン酸(脂肪族鎖炭素数:2)に相当する。
TOF-SIMS装置による組成分析の条件は、以下の通りである。
測定領域を200μm×200μmとし、1次イオン加速電圧を30kV、パルス幅を5.9nmとする。本分析手法における検出深さは数nm以下である。この際、総2次イオン強度に対するカルボン酸イオン強度が0.4%以下の場合は、ノイズと判断し、カルボン酸イオンは存在しないとする。
さらに、XPS測定において、エステル基(COO)由来の炭素のピークがCHxやC-Cのメインピーク(285eV付近)から+4.0~4.2eVに現れるため、上記カルボン酸がエステル結合を形成していることがわかる。XPSの測定角としては90°で測った値を用いる。測定角90°で測定した場合、表面からの深さが約10nmまでの領域が検出される。この際、炭素由来の全ピーク面積に対するエステル基由来のピーク面積の割合が0.4%以下の場合は、ノイズと判断し、エステル基は存在しないとする。
上記二つの結果を合わせることで、血液回路及び血液浄化器の表面にモノカルボン酸エステルが配置されているかいなかが明らかとなる。
また、血液回路及び血液浄化器の血液接触表面に存在するエステル基を含有する高分子量は、XPSを用いて、エステル基由来の炭素量を測定することによって求めることができる。タンパク質や血小板の付着を抑制する効果を発揮するために、XPSで測定したとき、当該表面における炭素由来の全ピーク面積を100(原子数%)としたときに、エステル基由来の炭素ピークの面積百分率が、0.1(原子数%)以上が好ましく、1.0(原子数%)以上がより好ましく、1.5(原子数%)以上がさらに好ましい。ここで、飽和脂肪族モノカルボン酸エステル量を過量としないことは、装置本来の性能の低下を防止する上で好ましい。例えば、人工腎臓等の血液浄化器では、除去性能の低下防止の観点から、エステル基由来の炭素ピーク面積百分率は、25(原子数%)以下が好ましく、20(原子数%)以下がより好ましく、10(原子数%)以下がさらに好ましい。いずれの好ましい下限値もいずれの好ましい上限値と組み合わせることができる。
XPS測定の際は、血液回路又は血液浄化器の血液接触表面の異なる2箇所について測定を行い、該2箇所の値の平均値を用いる。エステル基(COO)由来の炭素のピークは、C1sのCHやC-C由来のメインピークから+4.0~4.2eVに現れるピークをピーク分割することによって求めることができる。炭素由来の全ピーク面積に対するエステル基由来のピーク面積の割合を算出することで、エステル基由来の炭素量(原子数%)が求まる。より具体的には、C1sのピークは、主にCHx,C-C,C=C,C-S由来の成分、主にC-O,C-N由来の成分、π-π*サテライト由来の成分、C=O由来の成分、COO由来の成分の5つの成分から構成される。以上の5つの成分にピーク分割を行う。COO由来の成分は、CHxやC-Cのメインピーク(285eV付近)から+4.0~4.2eVに現れるピークである。この各成分のピーク面積比は、小数点第2桁目を四捨五入し、算出する。
上記モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子は、血液回路、血液浄化器を製造する際の原液に添加する方法や、製造後に表面にコーティングする方法で導入することが可能である。中でも、回路や血液浄化器の物理的強度や除去性能への影響が少ないことから、製造後に血液接触表面にコーティングする方法が好ましい。コーティングする方法に特に限定されず、浸漬法、スプレーによって吹きつける方法等いずれでもよい。中でも、コーティング後に高分子が溶出することを回避する観点から、コーティング時に化学的な結合等によって固定化されることが好ましい。化学的な結合によって固定化する方法としては、特に限定されないが、コーティング後に放射線等を照射する方法や、コーティングする高分子、及び、固定化する表面にアミノ基やカルボキシル基等の反応性官能基を導入し、縮合させる方法が挙げられる。
表面に、反応性基を導入する方法としては、反応性基を有するモノマーを重合して表面に反応性基を有する基材を得る方法や、重合後、オゾン処理、プラズマ処理によって反応性基を導入する方法等が挙げられる。
また、モノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子の主鎖や末端に反応性基を導入する方法としては、例えば、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]や4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)のような反応性基を有する開始剤を使用する方法等が挙げられる。
上記高分子の側鎖に反応性基を導入する方法としては、高分子の作用・機能を阻害しない程度において、メタクリル酸グリシジルやメタクリル酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、アリルアミンのような反応性基を有するモノマーを共重合する方法等が挙げられる。
モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子は、親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体であることが好ましい。ポリエチレングリコールやポリビニルアルコールのような親水性高分子で医療材料の接触表面を被覆した場合、タンパク質等の付着は抑制できないことが分かっている。これは、医療材料の接触表面の親水性が強すぎると、タンパク質の構造が不安定化するために、タンパク質の付着を充分に抑制することができないためと考えられる。特に、近年では高分子の周囲の水が注目されている。親水性が強い高分子では、高分子と水の相互作用が強く、高分子の周囲の水の運動性が低下する。一方、タンパク質は吸着水と呼ばれる水によって構造が安定化されていると考えられている。そのため、タンパク質の吸着水と高分子の周囲の水の運動性が近ければ、タンパク質の構造は不安定化されず、材料表面へのタンパク質の付着は抑制できると考えられる。親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体では、使用する親水性基、疎水性基、及び共重合比率を制御することで高分子の周囲の水の運動性を制御することが可能と考えられるため好ましい。
また、詳細な機序は分かっていないが、高分子に含まれる部分構造として、エステル基を含有している場合、血液適合性が良いことが報告されている。エステル基は親水性ユニット、疎水性ユニットのどちらに含有されていてもよいが、疎水性ユニットに含有されることが好ましい。好ましい態様によれば、本発明の高分子におけるモノカルボン酸ビニルエステルユニットは、疎水性ユニットに相当する。
エステル基を含有する高分子の具体例としては、特に限定はしないが、酢酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル、メチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート等のアクリル酸エステル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル等が挙げられ、これらに由来するエステル基であることが好ましい。さらには、エステル基は、上述の通り、モノカルボン酸ビニルエステルに由来することが好ましい。
上記モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子の数平均分子量は、血小板やタンパク質の付着を十分に抑制する観点から、1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましい。一方、高分子の数平均分子量の上限については特に制限はないが、血液接触表面への導入効率の低下を回避する観点から、1,000,000以下が好ましく、500,000以下がより好ましく、100,000以下がさらに好ましい。なお、単独重合体又は共重合体の数平均分子量は、後述のとおり、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定することができる。
親水性ユニットを構成するモノマーとしては、特に限定されないがビニルアルコールモノマー、アクリロイルモルホリンモノマー、ビニルピリジン系モノマー、ビニルイミダゾール系モノマー、ビニルピロリドンモノマー等が挙げられる。中でも、カルボキシ基、スルホン酸基を有するモノマーに比べて、親水性が強すぎず、疎水性モノマーとのバランスが取りやすいことから、アミド結合、エーテル結合、エステル結合を有するモノマーが好ましい。特に、アミド結合を有するビニルアセトアミドモノマー、ビニルピロリドンモノマー又はビニルカプロラクタムモノマーがより好ましく、ビニルアセトアミドモノマー又はビニルピロリドンモノマーがさらに好ましい。このうち、ビニルピロリドンモノマーが、重合体の毒性が低いことから、特に好ましい。したがって、好ましい態様によれば、本発明の高分子は、ビニルピロリドンユニットをさらに含有する。また、別の好ましい態様によれば、本発明の高分子は、ビニルピロリドンユニット又はビニルアセトアミドユニットをさらに含有する。
本発明の高分子がビニルピロリドンユニット又はビニルアセトアミドユニットを含有する場合、ビニルピロリドンユニット又はビニルアセトアミドユニットと、モノカルボン酸ビニルエステルユニットとのモル分率は、好ましくは30:70~90:10であり、より好ましくは40:60~80:20であり、さらに好ましくは50:50である。ここで、モル分率とはビニルピロリドンユニット又はビニルアセトアミドユニットと、モノカルボン酸ビニルエステルユニットの合計を100とした場合の各ユニットのモル比率を示す。例えば、ビニルピロリドンユニットとモノカルボン酸ビニルエステルユニットのモル分率が60:40である共重合体の場合、モノカルボン酸ビニルエステルユニットのモル分率は40%となる。
ここで、「親水性ユニットを構成するモノマー」とは、それ単独の重合体(数平均分子量1,000~50,000の場合)が水に易溶であるモノマーと定義する。ここで、水に易溶とは、20℃の純水100gに対する溶解度が1gを超えることをいい、10g以上が好ましい。
抗血栓性の観点から、上記親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体であり、疎水性ユニットとしてモノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する場合、親水性ユニットと疎水性ユニット全体における疎水性ユニットのモル分率は、10%以上90%以下が好ましく、20%以上80%以下がより好ましい。モル分率を上記上限に設定することは、共重合体全体の疎水性の上昇を抑制し、タンパク質や血小板の付着を回避する上で好ましい。また、上記モル分率を上記下限に設定することは、共重合体全体の親水性の上昇を抑制し、血小板やタンパク質の構造不安定化・変性を回避し、ひいては付着を防止する上で好ましい。なお、上記モル分率の算出方法は、例えば、核磁気共鳴(NMR)測定を行い、ピーク面積から算出する。ピーク同士が重なる等の理由でNMR測定による上記モル分率の算出ができない場合は、元素分析により上記モル分率を算出してもよい。
上記モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する共重合体におけるユニットの配列としては、例えば、ブロック共重合体、交互共重合体又はランダム共重合体等が挙げられる。これらのうち、共重合体全体で親水性・疎水性の分布が小さいという点から、交互共重合体又はランダム共重合体が好ましい。なかでも、合成が煩雑でないという点から、ランダム共重合体がより好ましい。なお、少なくともモノマー配列の一部が秩序無く並んだ共重合体はランダム共重合体とする。
上記モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子は、例えば、アゾ系開始剤を用いたラジカル重合法に代表される連鎖重合法により合成できるが、合成法はこれに限られるものではない。
以下には、例としてモノカルボン酸ビニルエステルユニットが飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルに由来する共重合体の製造方法について説明するが、これに限定されるものではない。
飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルモノマーと、重合溶媒及び重合開始剤とを混合し、窒素雰囲気下で所定温度にて所定時間、攪拌しながら混合し、重合反応させる。必要に応じて、親水性モノマー、疎水性モノマーとともに共重合させる。反応液を室温まで冷却して重合反応を停止し、ヘキサン等の溶媒に投入する。析出した沈殿物を回収し、減圧乾燥することで、カルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子を得ることができる。
上記重合反応の反応温度は、30~150℃が好ましく、50~100℃がより好ましく、70~80℃がさらに好ましい。
上記重合反応の圧力は、常圧であることが好ましい。
上記重合反応の反応時間は、反応温度等の条件に応じて適宜選択されるが、1時間以上が好ましく、3時間以上がより好ましく、5時間以上がさらに好ましい。反応時間を上記下限に設定することは、高分子に大量の未反応モノマーが残存することを回避する上で好ましい。また、反応時間は24時間以下が好ましく、12時間以下がより好ましい。反応時間を上記上限に設定することは、二量体の生成等副反応を回避し、分子量を制御する上で好ましい。
上記重合反応に用いる重合溶媒は、モノマーと相溶する溶媒であれば特に限定はされず、例えば、ジオキサン若しくはテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、ベンゼン若しくはトルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アミルアルコール若しくはヘキサノール等のアルコール系溶媒又は水等が用いられるが、毒性の点から、アルコール系溶媒又は水を用いることが好ましい。
上記重合反応の重合開始剤としては、例えば、光重合開始剤や熱重合開始剤が用いられる。ラジカル、カチオン、アニオンいずれを発生する重合開始剤を用いてもよいが、モノマーの分解を起こさないという点から、ラジカル重合開始剤が好適に使用される。ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル若しくはアゾビス(イソ酪酸)ジメチル等のアゾ系開始剤又は過酸化水素、過酸化ベンゾイル、ジ-tert-ブチルペルオキシド若しくはジクミルペルオキシド等の過酸化物開始剤が使用される。
重合反応停止後、重合反応溶液を投入する溶媒としては、高分子が沈殿する溶媒であれば特に限定はされず、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン若しくはデカン等の炭化水素系溶媒又はジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル若しくはジフェニルエーテル等のエーテル系溶媒が用いられる。
上記飽和脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルモノマーは、購入することができるか又は、公知の方法もしくはそれに準じた方法で製造することができる。
血液回路
本発明の装置において、血液回路は体外循環を実施するために用いられ、好ましくは上記高分子により血液接触表面の全面が被覆されている。血液回路は、一般に、患者から採取された血液を血液浄化器まで送液する動脈側血液回路と、血液浄化器で浄化された血液を患者に戻す静脈側血液回路から構成される。
血液浄化器に取り付けられている血液ポート(ヘッダー)の血液導入口に接続する動脈側の血液回路は、血液ポート内での血液の滞留や偏流を抑制する観点から、血液浄化器の端面(中空糸膜の開口端面)に対して直立した状態で接続することが好ましい。上記血液回路は、少なくとも25mm以上、好ましくは血液導入口から30mm以上、より好ましくは40mm以上直立しているものとされる。一方、操作性の観点から、端面からの直立は100mm以下であることが好ましい。血液回路を直立させる方法の例として、回路の外側を補強して直立させる方法や、クランプ等で物理的に固定する方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
上記血液回路は、少なくとも1カ所以上の分岐部分、ピロー、エアートラップチャンバーから選ばれる構成要素を有することが望ましい。体外循環時の脱血不良を検知するために、脱血箇所からポンプまでの間にピローを設置することが好ましい。ピロー部分は、血液適合性を付与していても血液の滞留が発生しやすいため、血栓の形成が起こりやすい。形成した血栓が血流によって流れた場合、血液浄化器の入口に付着し、循環不良の原因となる。そのためピロー形状は血液入口及び/又は血液出口からピロー側面に向けた壁面の傾斜角度θ2が60°以下であることが好ましく、55°以下であることがより好ましい。一方で、この角度θ2は40°以上であることが好ましい。ここで、血液入口からピロー側面に向けた傾斜角度とは、図3A及び図3Bに示される通り、ピローの長手方向に沿った断面において、該ピローへの血液入口(血液流入路)の内壁に沿って延長した仮想線15と、ピローの血液入口側となる端(血液入口側端)とピロー側面の血液入口側となる端(血液入口側端)とを結ぶ仮想線16とのなす角度θ2のことである。同様に、血液出口からピロー側面に向けた傾斜角度とは、ピローの長手方向に沿った断面において、該ピローからの血液出口(血液流出路)の内壁に沿って延長した仮想線と、ピローの血液出口側となる端(血液出口側端)とピロー側面の血液出口側となる端(血液出口側端)とを結ぶ仮想線とのなす角度θ2のことである。図3Aに示された例では、ピローの長手方向に沿った断面において、ピローへの血液入口の内壁に沿って延長した仮想直線15と、血液入口の角に対して最も近いピロー側面に向かって当該血液入口の角から引いた仮想直線16がなす角度のことである。この際、図3Bに示すように、ピローの四隅の部分は適度な丸みを帯びていてもよい。丸みを帯びている場合は、丸み、すなわち円弧の部分とピロー側面の直線部分の接点17とがなす角度をθ2とする。また、図示された例において、ピロー側面とは、ピローの幅が一定となる部分での側面のことを指しており、ピローの幅を拡幅させる傾斜面とは区別される。さらに、血液流れ方向に対して垂直方向の長さに当たるピローの横幅18は、滞留を抑制する観点から2cm以下が好ましい。
体外循環にて治療を行っている場合には、治療中に生理食塩水等の体液の補充が必要となる場合があるため、補充用の分岐があることが好ましい。この場合、分岐部分に段差があると血液の滞留が発生しやすく、血液凝固が発生する懸念があるため、段差がない構造が好ましい。
血液浄化器に気泡が混入すると、気泡により血液凝固が惹起され性能が低下する恐れがあることや、体内に空気が混入する懸念を払拭するためにも、動脈側及び静脈側血液回路にエアートラップチャンバーを有していることが好ましい。本発明のエアートラップチャンバーの一例を図4に示す。図4の通り血液入口部、血液出口部を備え、所望により補液用ライン21a、圧力測定ライン21bを接続した通常の構成のものを使用することができる。このとき、血液入口部はチャンバーの側面に存在していても良い。しかし、エアーをトラップすることができる反面、血液が滞留を起こし血栓が形成しやすい。そのため、エアートラップチャンバーは、図4に示される通り、長手方向の断面において、血液容量及び血液への刺激の観点から高さ(血液入口端から血液出口端までの長さ)(L)は7cm以下であることが好ましく、6cm以下がより好ましく、3cm以上が好ましい。また、エアートラップチャンバーの内径(D)と血液回路内径(d)の差は、発生する圧力損失を低減し、血液の滞留を回避する観点から、血液回路の内径dのエアートラップチャンバーの内径Dに対する比率(d/D)は0.1以上がよく、さらには0.15以上が好ましい。一方で、この比率(d/D)は0.3以下が好ましい。エアートラップチャンバーの血液出口側の形状は圧力損失を低減する観点から、エアートラップチャンバー側面からエアートラップチャンバーからの血液出口(血液流出路)に向けた傾斜角度θ3が60°以下、さらには55°以下であることが好ましい。一方で、この角度θ3は40°以上であることが好ましい。ここで、エアートラップチャンバー側面からエアートラップチャンバーからの血液出口(血液流出路)に向けた傾斜角度θ3とは、図4に示される通り、エアートラップチャンバーの長手方向の断面において、エアートラップチャンバーからの血液出口(血液流出路)の内壁に沿って延長した仮想直線19とエアートラップチャンバーの血液出口側となる端(血液流出路)とエアートラップチャンバー側面の血液出口側となる端(血液出口側端)21とを結ぶ仮想線20がなす角度θ3のことである。前述したピローと同様に、エアートラップチャンバーの隅は適度な丸みを帯びていてもよい。このとき、丸み部分、すなわち円弧の部分とエアートラップチャンバー側面の直線部分の接点21に向かって引いた直線がなす角度をθ3とする。また、図示された例において、エアートラップチャンバーの側面とは、エアートラップチャンバーの幅が一定となる部分での側面のことを指しており、エアートラップチャンバーの幅を縮幅させる傾斜面とは区別される。
回路もしくは血液浄化器にて生成した血栓が体内へ流入することを防ぐために静脈側血液回路にはメッシュを備えていることが好ましい。メッシュは血栓を補足するという観点から網目サイズは0.5mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましい。一方で、網目サイズは、血液の透過抵抗が大きくなり滞留が生じることを防止する観点から、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。この場合、上記メッシュは、網目サイズが0.05mm以上0.5mm以下であることが特に好ましい。いずれの好ましい下限値もいずれの好ましい上限値と組み合わせることができる。なお、網目サイズとは、網目によって画成される孔の最大幅のことを指す。
メッシュの設置場所としては、接触表面積を大きくすることができることからエアートラップチャンバー内に設置することが好ましい。また、メッシュの形状は接触面積を大きくし、血液の透過抵抗を低減する観点から、円錐形状であることが好ましい。
本発明の血液回路を形成する材料は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、ポリ塩化ビニルが好ましい。以下、ポリ塩化ビニル製の回路の場合についての一例を説明するが、これに限定されるものではない。
ポリ塩化ビニル存在下で前述の親水性ユニットのモノマーと疎水性ユニットのモノマーのラジカル重合を行うことで、ポリ塩化ビニル側鎖にモノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子を導入することが可能である。
また、高分子論文集,Vol.38,No.9,pp.571(1981)に記載されているように、ジエチルジオカルバマート(DCT)基を有するポリ塩化ビニルを用いることで、ポリ塩化ビニル側鎖にカルボン酸等の反応性基を導入することが可能である。前述した側鎖等に反応性基を導入したモノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子と反応させることでも、モノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子を有するポリ塩化ビニルを得ることが可能である。
上記モノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子を有するポリ塩化ビニルをテトラヒドロフランのような良溶媒に溶解し、ポリ塩化ビニル製の血液回路にコーティングすることによって、血液接触表面にモノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子を有する血液回路を得ることができる。
ポリ塩化ビニル製の血液回路にはしばしば可塑剤してフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)等が含有されている。これらの可塑剤にはエステル基が含まれている場合がある。その場合は、前述したTOF-SIMS測定を行うことにより、含有されている可塑剤以外のカルボン酸イオンのピークが検出されるかを確認することで、血液接触表面にモノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子がコーティングされているかを確認することが可能である。
また、血液回路に配置されるメッシュの材質は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、好適な一例としてはポリエチレンテレフタレートが挙げられる。以下、メッシュの材質がポリエチレンテレフタレートである場合について説明するが、これに限定されるものではない。
ポリエチレンテレフタレートは、エステル基を有するため過マンガン酸等による酸化処理や、加水分解を行うことで表面にカルボキシル基やヒドロキシル基といった反応性官能基を導入することができる。この反応性官能基に対して反応する官能基を導入したモノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子を用いることで、メッシュ表面に化学的に固定化することができる。具体的には、アミノ基を導入したモノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子とポリエチレンテレフタレート表面のカルボン酸を反応させることが可能である。
血液浄化器
本発明において、血液浄化器は、血液接触表面に上記高分子を担持させている限り、図5に示されるような一般的な血液浄化器(ダイアライザー)を用いることができる。図5に示された例において、血液浄化器は、両端が開口したハウジング(筒状のケース)10と、ハウジング10の両端の開口を塞ぐように配置された血液ポート(ヘッダー)11A及び血液ポート(ヘッダー)11Bと、ハウジング内に収容された分離膜5と、を有している。一方の血液ポート(ヘッダー)11Aが、動脈側回路2Aに接続され、他方の血液ポート(ヘッダー)11Bが、静脈側回路2Bに接続されている。一方の血液ポート(ヘッダー)11Aは、血液を受け入れるための血液導入口4を形成している。動脈側回路2Aの端部をなすチューブ等の部材が、血液導入口4を覆い被さるようにして、一方の血液ポート(ヘッダー)11Aに取り付けられている。同様に、他方の血液ポート(ヘッダー)11Bは、血液を排出するための血液排出口6を形成している。静脈側回路2Bの端部をなすチューブ等の部材が、血液排出口6を覆い被さるようにして、他方の血液ポート(ヘッダー)11Bに取り付けられている。また、ハウジング10には、中空糸膜外側ノズル(処理液注入口)8及び中空糸膜外側ノズル(処理液排出口)9が、設けられている。
血液浄化器の胴部内径(D2)は、血液の滞留を防止する観点から、10cm以下が好ましく、7cm以下がより好ましく、5cm以下がさらに好ましい。一方で、1cm以上がよく、さらには2cm以上が好ましい。
このとき、胴部内径(D2)とは、例えば中空糸膜モジュールの場合、中空糸膜が固定化されているハウジングの内側の直径のことである。
また、血液浄化器の片方の端面からもう片方の端面までの長さ(L2)〔cm〕の胴部内径(D2)〔cm〕に対する比率(L2/D2)は10以下がよく、さらには8以下が好ましい。L2/D2の上限を上記範囲に設定することは、血液浄化器における圧力損失に伴い溶血等の発生を防ぐ観点から好ましい。また、L2/D2は3以上が良く、さらには4以上が好ましい。L2/D2の下限を上記範囲に設定することは、血液接触面積を維持しつつ血液の滞留を防止する上で有利である。
また、血液浄化器が中空糸膜からなる中空糸膜モジュールである場合、圧力損失低減の観点や、溶質除去性能の観点から、中空糸膜の内径は100μm以上が良く、好ましくは150μm以上、さらには180μm以上が良く、400μm以下が好ましく、さらには350μm以下が好ましい。
中空糸膜モジュールの場合、中空糸膜一本当たりに流れる血液の線速度は、ファウリングによる性能低下を防ぐ観点から、0.25cm/sec以上が良く、より好ましくは0.4cm/sec以上、さらには0.5cm/sec以上が好ましい。また、血液への負荷に起因する血液の活性化、凝固を防ぐ観点から、線速度は3.0cm/sec以下、さらには、2.5cm/sec以下が好ましい。
上記のような問題は、血液回路の形状だけでなく、上述の通り、血液回路の血液接触部分に本発明のモノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子を固定化することで解決することが可能である。固定化の方法は前述したとおり、コーティングや放射線照射等の方法を用いることができる。「タンパク質吸着量」は後述する血液循環試験及びタンパク質吸着量の定量試験にて得られる分離膜に吸着したタンパク質量のことである。血液浄化器にタンパク質が吸着した場合、特に長時間の治療ではタンパク質が変性し、それを起点として血液凝固が始まり、血栓の形成に繋がる可能性がある。そのため、血液浄化器へのタンパク質付着量は5μg/cm以下であり、好ましくは3μg/cm以下、より好ましくは1μg/cm以下である。
本発明における血液浄化器の構成の一形態として分離膜をハウジングに内蔵してなる分離膜モジュールが挙げられる。分離膜モジュールである場合、接触表面積が広く、分離性能に優れることから、分離膜としては、中空糸膜であることが好ましい。
上記中空糸膜の少なくとも血液接触表面にモノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子を導入することにより、タンパク質付着が少ない血液適合性の高い血液浄化器が得られる。前述の通り、中空糸膜にモノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子を導入する方法としては、製膜原液に添加する方法、中空糸膜製膜後にコーティングする方法のいずれであってもよい。中空糸膜の除去性能への影響が少ないことから、製膜後にコーティングする方法が好ましい。
モノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子の中空糸膜へのコーティングは、ハウジングに内蔵する前でも後でも良い。中でもハウジングに内蔵した後に、血液接触表面にのみコーティングを行う方法が好ましい。例えば、中空糸膜モジュールにおいて、中空糸膜の内表面にのみモノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子を溶解した溶液を通液することで、内表面にのみコーティングすることが可能である。
上記分離膜の主原料としては、ポリスルホン系高分子であることが好ましい。ここで、「ポリスルホン系高分子」とは、主鎖に芳香環、スルフォニル基及びエーテル基を有する高分子であり、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホン等が挙げられる。ここで、「主原料」とは、分離膜全体に対して90重量%以上含まれる原料を意味する。
上記分離膜の主原料として、例えば、次式(1)及び/又は(2)の化学式で示されるポリスルホン系高分子が好適に使用されるが、これらに限定されるものではない。式中のnは、1以上の整数であり、30~100が好ましく、50~80がより好ましい。なお、nが分布を有する場合は、その平均値をnとする。
Figure 0007242167000001
上記分離膜に用いることができるポリスルホン系高分子は、上記式(1)及び/又は(2)で表される繰り返し単位のみからなる高分子が好適ではあるが、本発明の効果を妨げない範囲で上記式(1)及び/又は(2)で表される繰り返し単位に由来するモノマー以外の他のモノマーと共重合した共重合体や、変性体であってもよい。上記の他のモノマーと共重合した共重合体における上記の他のモノマーの共重合比率は、ポリスルホン系高分子全体に対して10重量%以下であることが好ましい。
上記分離膜に用いることができるポリスルホン系高分子としては、例えば、ユーデルポリスルホンP-1700、P-3500(SOLVAY社製)、ウルトラソンS3010、S6010(BASF社製)、レーデルA(SOLVAY社製)又はウルトラソンE(BASF社製)等のポリスルホン系高分子が挙げられる。
分離膜を製膜する際には、造孔剤及び製膜原液の粘度調製を行うために、親水性高分子を配合することが好ましい。特に限定するものではないが、親水性高分子は、例としてポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボシキメチルセルロース、ポリプロピレングリコール等が挙げられ、これらの少なくとも一つが含まれるものが好ましい。中でも、ポリスルホン系高分子との相溶性や安全性の観点からポリビニルピロリドンが好適に使用される。
分離膜として、中空糸膜を製造する場合について説明する。
本発明において中空糸膜モジュールに内蔵される中空糸膜としては、分離性能に寄与する機能層と膜の機械的強度に寄与する支持層とからなる非対称構造の膜が、透水性、分離性能の面から好ましい。
本発明においては、二重管口金のスリット部から疎水性高分子及びその良溶媒、貧溶媒を含む製膜原液を、円管部から芯液を吐出し、乾式部を通過させた後に凝固浴で凝固させることによって中空糸膜を製造することが好ましい。
上記製膜原液中のポリスルホン系高分子の濃度を高くすることで、中空糸膜の機械的強度を高めることができる。一方で、ポリスルホン系高分子の濃度が高すぎると、溶解性の低下や製膜原液の粘度増加による吐出不良等の問題が生じ得る。また、ポリスルホン系高分子の濃度によって透水性、分画分子量を調整することができる。ポリスルホン系高分子の濃度を高くし過ぎると、中空糸膜内表面における同高分子の密度が上がるため、透水性及び分画分子量は低下する。以上のことから、製膜原液中のポリスルホン系高分子の濃度は24質量%以下が好ましく、一方で下限としては10質量%以上が好ましい。
上記良溶媒とは、製膜原液において実質的にポリスルホン系高分子を溶解する溶媒のことである。特に限定はしないが、溶解性から、N,N-ジメチルアセトアミドやN-メチルピロリドンが好適に用いられる。一方、貧溶媒とは、製膜原液において、実質的にポリスルホン系高分子を溶解しない溶媒のことである。特に限定はしないが、水が好適に用いられる。
ここで、良溶媒とは、20℃において、対象とする高分子が10wt%以上溶解する溶媒のことを意味する。貧溶媒とは、20℃において、対象とする高分子が10wt%未満溶解する溶媒のことを意味する。
本発明においては、通常、製膜原液中に親水性高分子を配合して製膜を行う。配合された親水性高分子は、造孔剤として透水性や親水性を向上する効果が期待できる。また、親水性高分子の配合により製膜原液の粘度の調整を行うことが可能であり、膜の強度低下の要因となるマクロボイドの生成を抑制することが可能である。上記親水性高分子の最適な製膜原液への添加量は、その種類や目的の性能によって異なるが、製膜原液全体に対して1質量%以上が好ましく、一方で15質量%以下が好ましい。製膜原液中の親水性高分子の配合量の上限値を上記の通り設定することは、製膜原液の粘度増加による溶解性の低下や吐出不良を防ぐ上で有利である。また、製膜原液中の親水性高分子の配合量の下限値を上記の通り設定することは、中空糸膜中の親水性高分子の残存に起因した透水性の低下を防止する上で有利である。かかる製膜原液に添加される親水性高分子としては、特に限定はしないが、ポリスルホン系高分子との相溶性が高いことからポリビニルピロリドンが好適に用いられる。また、これらは単独で用いてもよいし、混合してもよい。
ポリスルホン系高分子を溶解する際は、高温で溶解することが溶解性向上のために好ましいが、溶解温度は、30℃以上120℃以下が好ましい。かかる温度範囲は、熱による高分子の変性や溶媒の蒸発による組成変化を回避する上で有利である。ただし、ポリスルホン系高分子及び添加剤の種類によってこれらの最適範囲は異なることがある。
中空糸製膜時に用いる芯液はポリスルホン系高分子に対する良溶媒と貧溶媒の混合液であり、その比率によって中空糸膜の透水性及び分画分子量を調整することができる。貧溶媒としては、特に限定しないが、水が好適に用いられる。良溶媒としては、特に限定しないが、N,N―ジメチルアセトアミドが好適に用いられる。
製膜原液と芯液が接触することで、貧溶媒の作用によって製膜原液の相分離が誘起され、凝固が進行する。芯液における貧溶媒比率を高くし過ぎると、膜の透水性及び分画分子量が低下することがある。一方で、貧溶媒比率が低すぎると、液体のまま滴下されることになるため、中空糸膜を得ることができないことがある。芯液における適正な両者の比率は、良溶媒と貧溶媒の種類によって異なるが、貧溶媒が上記両溶媒の混合液中10質量%以上であることが好ましく、一方で80質量%以下であることが好ましい。
吐出時の二重管口金の温度は、製膜原液の粘度、相分離挙動、芯液の製膜原液への拡散速度に影響を与え得る。一般的に、二重管口金の温度が高い程、得られる中空糸膜の透水性と分画分子量は大きくなる。ただし、二重管口金の温度が高過ぎると、製膜原液の粘度の低下や凝固性の低下によって、吐出が不安定となるため紡糸性が低下する。一方で、二重管口金の温度が低いと、結露によって二重管口金に水分が付着することがある。そのため、二重管口金の温度は20℃以上が好ましく、一方で90℃以下が好ましい。
乾式部では、外表面が空気と接触することで、空気中の水分を取り込み、これが貧溶媒となるため、相分離が進行する。そのため、乾式部の露点を制御することで、外表面の開孔率を調整することができる。乾式部の露点が低いと相分離が充分に進行しないことがあり、外表面の開孔率が低下し、中空糸膜の摩擦が大きくなって紡糸性が悪化し得る。一方で、乾式部の露点が高過ぎても、外表面が凝固するため開孔率が低下することがある。乾式部の露点は60℃以下が好ましく、一方で10℃以上が好ましい。
乾式長が短すぎると相分離が十分に進行する前に凝固してしまい、透水性能や分画性能が低下することがあるため、乾式長は50mm以上が好ましく、さらに好ましくは100mm以上である。一方、乾式長が長すぎると糸揺れ等によって紡糸安定性が低下しかねないため、600mm以下が好ましい。また、芯液における良溶媒の濃度にも大きく影響を受ける。良溶媒の濃度が低いと、内表面の凝固が促進され、膜の性能が低下する恐れがあり、一方良溶媒の濃度が高いと、内表面の凝固が抑制され、紡糸性が低下しかねない。そのため、芯液において、上記両溶媒中の良溶媒の濃度は40質量%以上が好ましく、さらに好ましくは50質量%以上であり、一方、90質量%以下が好ましく、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70%以下である。
凝固浴はポリスルホン系高分子に対する貧溶媒を主成分としており、必要に応じて良溶媒が添加される。貧溶媒としては水が好適に用いられる。製膜原液が凝固浴に入ると、凝固浴中の多量の貧溶媒によって製膜原液は凝固し、膜構造が固定化される。凝固浴の温度を高くする程、凝固が抑制されるため、透水性と分画分子量は大きくなる。
中空糸膜の内径は、血液浄化器の用途によって適宜設定することができる。特に限定しないが、例えば、血液透析用途の中空糸膜では、内径180μmから220μmの範囲が好ましく、血漿分離用途の中空糸膜では、内径250μmから350μmの範囲が好ましい。
上記中空糸膜の内径は、ランダムに選別した16本の中空糸膜の膜厚を、例えばマイクロウォッチャーの1000倍レンズ(VH-Z100;株式会社KEYENCE等)でそれぞれ測定して平均値aを求め、以下の式より算出した値をいう。なお、中空糸膜外径とは、ランダムに選別した16本の中空糸膜の外径をレーザー変位計(例えば、LS5040T;株式会社KEYENCE)でそれぞれ測定して求めた平均値をいう。
中空糸膜内径(μm)=中空糸膜外径(μm)-2×膜厚(μm)
中空糸膜をモジュールに内蔵する方法としては、特に限定されないが、一例を示すと次の通りである。まず、中空糸膜を必要な長さに切断し、必要本数を束ねた後、筒状のケースに入れる。その後、両端に仮のキャップをし、中空糸膜両端部にポッティング材を入れる。このとき遠心機でモジュールを回転させながらポッティング材を入れる方法は、ポッティング材が均一に充填できるため好ましい方法である。ポッティング材が固化した後、中空糸膜の両端が開口するように両端部を切断する。ハウジングの両端に血液ポート(ヘッダー)を取り付け、ヘッダー及びハウジングのノズル部分に栓をすることで中空糸膜モジュールを得る。
中空糸膜の主原料に用いられるポリスルホン系高分子は、製膜原液に親水性高分子を添加していても疎水性が強いことから、そのまま中空糸膜として用いるとタンパク質等の有機物が付着しやすくなる。そこで、上記モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子を少なくとも血液接触表面に固定した中空糸膜が好適に用いられる。血液接触表面への高分子の導入方法としては、例えば、高分子を溶解した溶液をモジュール内の中空糸膜に接触させる方法や、中空糸膜紡糸の際に、高分子を含んだ注入液を中空糸膜内側に接触させる方法が挙げられる。
上記モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子を溶解した溶液をモジュール内の中空糸膜に通液させ、表面へ導入する場合、溶液の高分子の濃度が小さすぎると十分な量の高分子が表面に導入されない。よって、上記溶液中の高分子濃度は10ppm以上が好ましく、100ppm以上がより好ましく、300ppm以上がさらに好ましい。ただし、溶液の高分子の濃度が大きすぎると、モジュールからの溶出物の増加が懸念されるため、上記溶液中の高分子濃度は100,000ppm以下が好ましく、10,000ppm以下がより好ましい。
なお、上記モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子を溶解する溶液としては、特に限定しないが水を用いることが好ましい。水に所定の濃度溶解しない場合は、中空糸膜を溶解しない有機溶媒、又は、水と相溶し、かつ中空糸膜を溶解しない有機溶媒と水との混合溶媒に高分子を溶解させてもよい。上記有機溶媒又は混合溶媒に用いうる有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール又はプロパノール等のアルコール系溶媒が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
上記混合溶媒中の有機溶媒の割合が多くなると、中空糸膜が膨潤し、強度が低下する場合がある。したがって、上記混合溶媒中の有機溶媒の重量分率は60%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。
上記中空糸膜モジュールは、導入したモノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子が使用時に溶出するのを防ぐため、該高分子を表面に導入後、放射線照射や熱処理を行い不溶化し、固定することが好ましい。
上記放射線照射にはα線、β線、γ線、X線、紫外線又は電子線等を用いることができる。ここで、人工腎臓等の血液浄化器では出荷前に滅菌することが義務づけられており、その滅菌には近年、残留毒性の少なさや簡便さの点から、γ線や電子線を用いた放射線滅菌法が多用されている。したがって、中空糸膜モジュール内の中空糸膜に本発明の高分子を溶解した溶液を接触させた状態、又は表面に高分子を導入したのちに中空糸膜モジュール内の溶液を除去した状態や中空糸膜を乾燥させた状態で放射線滅菌法を用いることは、
滅菌と同時に該高分子の固定化も達成できるため好ましい。
中空糸膜の滅菌と改質を同時に行う場合、放射線の照射線量は15kGy以上が好ましく、25kGy以上がより好ましい。血液浄化用モジュール等をγ線で滅菌するには15kGy以上が効果的なためである。また、上記照射線量は100kGy以下が好ましい。
照射線量が100kGyを超えると、高分子が3次元架橋やエステル基部分の分解等を起こしやすくなり、血液適合性が低下する場合があるためである。
放射線を照射する際の架橋反応を抑制するため、抗酸化剤を用いてもよい。抗酸化剤とは、他の分子に電子を与えやすい性質を持つ物質のことを意味し、例えば、ビタミンC等の水溶性ビタミン類、ポリフェノール類又はメタノール、エタノール若しくはプロパノール等のアルコール系溶媒が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの抗酸化剤は単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いてもよい。抗酸化剤を上記医療用分離膜モジュールに用いる場合、安全性を考慮する必要があるため、エタノールやプロパノール等、毒性の低い抗酸化剤が好適に用いられる。
表面に高分子を導入したのちに中空糸膜モジュール内の溶液を除去した状態や中空糸膜を乾燥させた状態で放射線滅菌法を行う場合、酸素が過剰に存在すると放射線により酸素ラジカルが発生し、高分子の分解反応が促進されるため、モジュール内を不活性ガスで置換した後に放射線照射を行うことが好ましい。不活性ガスとしては、特に限定しないが、窒素が好適に用いられる。
分離膜を内蔵する血液浄化器では、タンパク質や血小板が付着することによって、分画性能や透水性能が低下するのみならず、血液凝固が原因で中空糸膜内部に血液が流通できなくなり、体外循環を続けられなくなることがある。そのため、中空糸膜の血小板やタンパク質の付着性を評価することにより、抗血栓性の評価を行うことができる。
血液凝固は、フィブリノーゲンの付着が起点となることが一般的に知られている。しかし、長時間にわたる体外循環においては、フィブリノーゲン以外のタンパク質が付着、変性を起こすことによっても血液凝固が誘発されるため、すべてのタンパク質の付着量が少ないことが好ましい。血液凝固を抑制する観点から、タンパク質の付着量は5μg/cm以下がよく、さらには3μg/cm以下がより好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。また、特段の記載がない限り、本発明の単位及び測定方法は、日本工業規格(JIS)の規定に従う。
<評価方法>
(1)数平均分子量
水/メタノール=50/50(体積比)の0.1N LiNO溶液を調整し、GPC展開溶液とした。この溶液2mlに、高分子2mgを溶解させた。この高分子溶液100μLを、カラム(東ソー社製、GMPWXL)を接続したGPCに注入した。流速0.5mL/minとし、測定時間は30分間であった。検出は示差屈折率検出器RID-10A(島津製作所社製)により行い、溶出時間15分付近にあらわれる高分子由来のピークから、数平均分子量を算出した。数平均分子量は、百の位を四捨五入して算出した。検量線作成には、Agilent社製ポリエチレンオキシド標準サンプル(0.1kD~1258kD)を用いた。
(2)カルボン酸ビニルエステルユニットのモル分率
共重合体2mgをクロロホルム-D、99.7%(和光純薬0.05V/V%TMS有)2mlに溶解し、NMRサンプルチューブに入れ、NMR測定(超伝導FTNMR EX-270:JEOL社製)を行った。温度は室温とし、積算回数は32回とした。この測定結果から、2.7~4.3ppm間に認められるビニルピロリドンの窒素原子に隣接した炭素原子に結合したプロトン(3H)由来のピークとベースラインで囲まれた領域の面積:3APVPと、4.3~5.2ppm間に認められるカルボン酸ビニルエステルのα位の炭素に結合したプロトン(1H)由来のピークとベースラインで囲まれた領域の面積:AVCから、AVC/(APVP+AVC)×100の値を算出し、ビニルピロリドンユニットとカルボン酸ビニルエステルユニットの合計に対するカルボン酸ビニルエステルユニットのモル分率とした。なお、本方法はビニルピロリドンとカルボン酸ビニルエステルとの共重合体においてモル分率を測定する場合の例であり、他のモノマーの組み合わせからなる共重合体の場合は適宜、適切なプロトン由来のピークを選択してモル分率を求める。モル分率は、一の位を四捨五入して算出した。
(3)TOF-SIMS測定
血液回路、及び中空糸膜の場合は、片刃で半円筒状にそぎ切り、血液接触表面(内側表面)の異なる箇所を3点測定した。測定サンプルは、超純水でリンスした後、室温、0.5Torrにて10時間乾燥させた後、測定に供した。測定装置、条件は、以下の通りである。
測定装置:TOF.SIMS 5(ION-TOF社製)
1次イオン:Bi ++
1次イオン加速電圧: 30kV
パルス幅: 5.9ns
2次イオン極性:負
スキャン数: 64 scan/cycle
Cycle Time: 140μs
測定範囲:200×200μm
質量範囲(m/z): 0~1500
得られた質量m/zのスペクトルから、カルボン酸イオンの医療材料表面における存在の有無を確かめた。ただし、総2次イオン強度に対するカルボン酸イオン強度が0.4%以下の場合は、ノイズと判断し、カルボン酸は存在しないとする。
(4)X線電子分光法(XPS)測定
血液回路、及び中空糸膜の場合は、片刃で半円筒状にそぎ切り、血液接触表面(内側表面)の異なる箇所を2点測定した。測定サンプルは、超純水でリンスした後、室温、0.5Torrにて10時間乾燥させた後、測定に供した。測定装置、条件は、以下の通りである。
測定装置: ESCALAB220iXL(VG社製)
励起X線: monochromatic Al Kα1,2 線(1486.6eV)
X線径: 0.15mm
光電子脱出角度: 90°(試料表面に対する検出器の傾き)
C1sのピークは、主にCHx,C-C,C=C,C-S由来の成分、主にC-O,CN由来の成分、π-π*サテライト由来の成分、C=O由来の成分、COO由来の成分の5つの成分から構成される。以上の5つ成分にピーク分割を行う。COO由来の成分は、CHxやC-Cのメインピーク(285eV付近)から+4.0~4.2eVに現れるピークである。この各成分のピーク面積比を、小数点第2位を四捨五入し、算出した。なお、ピーク分割の結果、ピーク面積百分率が0.4%以下であれば、検出限界以下とした。
(5)ヒト血小板付着試験方法
18mmφのポリスチレン製の円形板に両面テープを貼り付け、そこに中空糸膜を固定した。貼り付けた中空糸膜を片刃で半円筒状にそぎ切り、中空糸膜の内表面を露出させた。ここで、中空糸膜内表面に汚れやキズ、折り目が存在すると、その部分に血小板が付着するため正しい評価ができないことがあるので、汚れ、キズ、折り目が生じないように注意して中空糸膜の内表面を露出させた。次に、中空糸膜の貼り付けられた円形板を、筒状に切ったFalcon(登録商標)チューブ(18mmφ、No.2051)に、中空糸膜を貼り付けた面が円筒の内部にくるように取り付け、パラフィルムで隙間を埋めた。この円筒管内を生理食塩水で洗浄後、生理食塩水で満たした。
また、ヒトの静脈血を採血後、直ちにヘパリンを50U/mLになるように添加し、血液サンプルを得た。次に、上記円筒管内の生理食塩水を廃棄し、採血後30分以内に血液サンプルを円筒管内に1.0mL加え、37℃にて、回転数600rpmで1時間振とうさせた。その後、中空糸膜を10mLの生理食塩水で洗浄し、2.5%グルタルアルデヒド生理食塩水を加え、1時間以上静置して血液成分を中空糸膜に固定化させた。次に、中空糸膜を20mLの蒸留水にて洗浄した。次に、洗浄した中空糸膜を常温、0.5Torrにて10時間減圧乾燥した。この中空糸膜を走査型電子顕微鏡の試料台に両面テープで貼り付けた。その後、スパッタリングにより、Pt-Pdの薄膜を中空糸表面に形成させて、試料とした。この中空糸膜内表面をフィールドエミッション型走査型電子顕微鏡(日立社製S-800)にて、倍率1500倍で試料の内表面を観察し、1視野中(4.3×10μm)の付着した血小板数を数えた。中空糸長手方向における中央付近で、異なる10視野での付着した血小板数の平均値を血小板付着数(個/4.3×10μm)とした。値は小数点第1位を四捨五入した値を用いた。1視野で50個/4.3×10μmを超えた場合は、50個としてカウントした。中空糸の長手方向における端の部分は、血液溜まりができやすいため、血小板付着数の計測対象からはずした。
(6)タンパク質付着量測定
ACD―A液(生物学的製剤基準血液保存液A液)15%添加ヒト新鮮血液4mLを流速1mL/minで、小型中空糸膜モジュールに1時間循環させた。次に、リン酸緩衝溶液(PBS)を小型中空糸膜モジュールに通液して20分間洗浄した後、小型中空糸膜モジュールから中空糸を30cm相当切り出しさらに得られた切片を約2mm長に細切した。得られた約2mm長の切片をエッペンチューブに入れてPBSにて洗浄した後、PBSをすべて除去した。(1mL×3回、血液が残っている場合には繰り返した)。次に、Pierce(商標) BCAプロテインアッセイキット(Thermo SCIENTIFIC社製)を使用して調製したBCA試薬1mLをエッペンドルフチューブに加え、マイクロミキサーで良く攪拌した。さらに室温で90分間攪拌した後、浮遊した中空糸膜切片を卓上遠心分離器を用いて沈降させ、上澄み液をセミミクロキュベットに移し、562nmの吸光度を測定した。また、検量線作成のため、BCAプロテインアッセイキットに付属のスタンダードBSAを用いて、BSA濃度が2000、1000、500、250、125、62.5、31.25又は0μg/mLとなるように溶液を調製し、各溶液50μLをそれぞれセミミクロキュベットに加えた。次に、上記と同様にBCA試薬1mLを添加し、良く攪拌した後、90分後に562nmの吸光度を測定し、検量線を作成した。得られた検量線から中空糸膜に付着したタンパク質量を定量した。吸光度は小数点第3位を四捨五入した値を用いて算出し、タンパク質付着量は小数点第2位を四捨五入した値を用いた。
(7)メッシュ血栓付着試験
円筒系チューブ(内径4mm、外径7mm、長さ10mm)の円状開口部にメッシュを取り付けた。次に、シリコンチューブ(内径7mm、外径10mm、長さ50mm)内に、血液漏れのないように上記メッシュを取り付けた円筒系チューブを挿入した。得られたシリコンチューブの両端を公知の血液ポンプに接続し、血液回路中にメッシュが取り付けられた血液回路モデルを作製した。次に、ヘパリンナトリウム(味の素社製)を0.5U/mLとなるように添加したヒト新鮮血20mLを流速50mL/minで60分間、血液回路内を循環させ、PBSで洗浄を行った。その後、メッシュを取り出し血栓が付着しているか目視で確認を行った。
(8)血液回路血栓付着試験
T時型分岐部分を含む血液回路に抗凝固剤を添加していないヒト新鮮血10mLを1mL/minで循環させた。このような条件で20分間通液した後、PBSで洗浄を行った。その後、血液回路を取り出し血栓が付着しているか目視で確認を行った。
(9)血液循環試験
図6に示される血液回路を用いて、ACD-A液15%を添加した牛全血を用いた血液循環試験を実施した。ここで、図6の血液回路は、補液(生理食塩水)23の収容容器、牛血液24の収容容器、血液浄化器3、処理液(ろ液)の廃液25の収容容器を備えている。牛血液24の収容容器は、保温湯浴26により36℃に加温されている。補液23の収容容器と牛血液24の収容容器との間にはポンプ27が配置され、それらは送液管で接続している。また、牛血液24の収容容器と血液浄化器3との間には、ピロー28、ポンプ29及び動脈側エアートラップチャンバー30が順に配置されており、それらは送液管で接続している。また、血液浄化器3と牛血液24の収容容器との間には、静脈側エアートラップチャンバー31が配置されており、それらは送液管で接続している。また、血液浄化器3と処理液廃液25の収容容器との間には、ポンプ32が配置されており、それらは送液管で接続している。上記血液回路によれば、牛血液24は血液浄化器3に送られ、浄化された血液と、血液由来の老廃物を含む廃液に分離される。そして、分離された廃液は血液浄化器3から廃液25の収容容器に送られ、浄化された血液は、牛血液24の収容容器に戻される。このとき、分離された廃液と同一量の補液23が添加される。血液流量は100mL/min、ろ過流量及び補液流量は10mL/min/mに設定した。補液には透析液(カルシウム3.0mEq/L;キンダリー透析剤AF2号、扶桑薬品工業株式会社製)を使用した。このため、ろ過により血液中のACD-A液は除去される一方で、血液凝固を促進するカルシウムは補充されるため、牛全血は凝固傾向に向かうことになる。動脈側エアートラップチャンバーにて圧力計を配置して圧力測定を行い、圧力が150mmHgに達するまでの時間を測定した。圧力の上昇が見られた場合、動脈側エアートラップチャンバー以降の血液浄化器中の中空糸膜モジュール、静脈側血液回路のいずれかで血液が凝固していることを示す。なお、循環初期の圧力はいずれのモジュールでも80mmHg前後であった。
<中空糸膜モジュールの製造方法>
ポリスルホン(SOLVAY社製ユーデルP-3500)18重量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製K30)6重量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製K90)3重量部を、N,N-ジメチルアセトアミド72重量部及び水1重量部からなる溶液に加え、90℃で14時間加熱溶解し、製膜原液を得た。この製膜原液を外径0.3mm、内径0.2mmのオリフィス型二重円筒型口金より吐出し、同時に 芯液としてN,N-ジメチルアセトアミド57.5重量部及び水42.5重量部からなる溶液を内側の管より吐出し、吐出液を乾式長350mmの空間を通過させた後、水の入った凝固浴に導き、中空糸膜を得た。得られた中空糸膜は内径200μm、膜厚40μmであった。中空糸膜の有効な内表面積(次工程で添加されるポッティング材により覆われない部分の中空糸膜内表面面積)が1.0mになるように中空糸膜をモジュールケースに充填し、中空糸膜の両端をポッティングによりケース端部に固定し、さらにポッティング材の端部をカッティングすることにより両端の中空糸膜を開口させ、モジュールケース両側にヘッダーを取り付け、モジュール化し、図5に示される中空糸膜モジュールの作製に用いた。
<小型中空糸膜モジュールの作製>
上記中空糸膜モジュールの製造方法と同様の中空糸膜50本をプラスチック管に通し、両端をポッティング材で固定し、さらにポッティング材の端部をカッティングすることにより両端の中空糸膜を開口させることにより有効長100mmのプラスチック管ミニモジュールを作製した。
(実施例1)
ビニルピロリドン/酢酸ビニル(モル分率=60:40)ランダム共重合体(BASF社製“KOLLIDON”(登録商標) VA64)0.01質量%の80℃の水溶液を中空糸膜モジュールの中空糸膜内表面側入口15Aから出口15Bへ500mL/minで1分間通液し、さらに中空糸膜内表面側入口15Aから中空糸膜外表面側ノズル16Aへ膜厚方向に500mL/minで1分間通水した。次に100kPaの圧縮空気で中空糸膜外表面側ノズル16Aから内表面側入口15Aへ充填した液を押し出し、その後中空糸膜内表面側の充填液を15Bから15Aの方向に空気でブローし、中空糸膜のみが湿潤した状態にした。さらに、中空糸膜内表面側と外表面側を同時に流量30L/minの圧縮空気でブローしながら、2.5kwのマイクロ波を照射し、中空糸膜を乾燥させた。中空糸膜モジュール内部雰囲気を窒素で置換した後、酸素を透過しないゴム栓でキャップをし、照射線量25kGyのγ線を照射し、中空糸膜モジュール1を得た。得られた中空糸膜モジュール1から中空糸膜を取り出し、小型ミニモジュール1を作成した。
TOF-SIMS測定及びXPS測定の結果から、中空糸膜機能層の表面に酢酸エステルが存在することが確認された。作製した小型中空糸膜モジュール1のタンパク質付着量測定及び中空糸膜の血小板付着試験を行った。 その結果、表1に示すとおり、タンパク質の付着量が非常に少なく、血小板の付着数も少ない血液適合性が高い中空糸膜モジュールが得られたことが確認された。
(実施例2)
ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体を以下の方法で作製した。ビニルピロリドンモノマー19.5g、プロパン酸ビニルモノマー17.5g、重合溶媒としてt-アミルアルコール56g、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.175gを混合し、窒素雰囲気下、70℃にて6時間撹拌した。反応液を室温まで冷却して反応を停止し、濃縮後、ヘキサンに投入した。析出した白色沈殿物を回収し、減圧乾燥して、共重合体21.0gを得た。H―NMRの測定結果から、プロパン酸ビニルユニットのモル分率は40%であった。また、GPCの測定結果から、数平均分子量が16,500であった。
作製した上記ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体300ppmを溶解した1.0重量%エタノール水溶液(高分子充填液)を、上記中空糸膜モジュールの製造方法により作製した中空糸膜モジュールの中空糸膜内表面側入口15Aから中空糸膜外表面側ノズル16Aに500mL/minで2分間通液させた。さらに、0.1重量%エタノール水溶液を、上記中空糸膜モジュールの中空糸膜内表面側入口15Aから中空糸膜外表面側ノズル16Aに500mL/minで4分間通液させた。その後、0.1重量%エタノール水溶液を、中空糸膜内表面側入口15Aから出口15Bへ500mL/minで1分間通液した。通液後、25kGyのγ線を照射して中空糸膜モジュール2を作製した。得られた中空糸膜モジュール2から中空糸膜を取り出し、小型中空糸膜モジュール2を作製した。
TOF-SIMS測定及びXPS測定の結果から、中空糸膜機能層の表面にプロパン酸エステルが存在することが確認された。作製した小型中空糸膜モジュール2のタンパク質付着量測定及び中空糸膜の血小板付着試験を行った。その結果、表1に示すとおり、タンパク質の付着量が非常に少なく、血小板の付着数も少ない血液適合性が高い中空糸膜モジュールが得られたことが確認された。
(実施例3)
ビニルピロリドン/ヘキサン酸ビニルランダム共重合体を以下の方法で作製した。ビニルピロリドンモノマー(和光純薬工業社製)16.2g、ヘキサン酸ビニルモノマー(東京化成工業社製)20.8g、重合溶媒としてイソプロパノール(和光純薬工業社製)56g、重合開始剤としてアゾビスジメチルブチロニトリル0.35gを混合し、窒素雰囲気下、70℃にて8時間撹拌した。反応液を室温まで冷却して、濃縮後、濃縮残渣をヘキサンに投入した。析出した白色沈殿物を回収し、50℃で12時間減圧乾燥を行い、ビニルピロリドン/ヘキサン酸ビニルランダム共重合体25.0gを得た。H―NMRの測定結果から、ヘキサン酸ビニルユニットのモル分率は40%であった。GPCの測定結果から、数平均分子量が2,200であった。
高分子充填液をビニルピロリドン/ヘキサン酸ビニルランダム共重合体500ppmを溶解した1.0重量%エタノール水溶液とした以外は実施例2と同様の方法で充填、γ線滅菌を行い、中空糸膜モジュール3を作製した。得られた中空糸膜モジュール3から中空糸膜を取り出し、小型モジュール3を作製した。作製した小型中空糸膜モジュール3のタンパク質付着量測定及び中空糸膜の血小板付着試験を行った。その結果、表1に示すとおり、タンパク質の付着量が非常に少なく、血小板の付着数も少ない血液適合性が高い中空糸膜モジュールが得られたことが確認された。
(実施例4)
ビニルピロリドン/安息香酸ビニルランダム共重合体を以下の方法で作製した。ビニルピロリドンモノマー(和光純薬工業社製)23.6g、安息香酸ビニルモノマー(東京化成工業社製)13.4g、重合溶媒としてイソプロパノール(和光純薬工業社製)56g、重合開始剤としてアゾビスジメチルブチロニトリル0.3gを混合し、窒素雰囲気下、70℃にて8時間撹拌した。反応液を室温まで冷却して、濃縮後、濃縮残渣をヘキサンに投入した。析出した白色沈殿物を回収し、50℃で12時間減圧乾燥を行い、ビニルピロリドン/安息香酸ビニルランダム共重合体22.0gを得た。H―NMRの測定結果から、安息香酸ビニルユニットのモル分率は20%であった。GPCの測定結果から、数平均分子量が2,900であった。
高分子充填液をビニルピロリドン/安息香酸ビニルランダム共重合体500ppmを溶解した1.0重量%エタノール水溶液とした以外は実施例2と同様の方法で充填、γ線滅菌を行い、中空糸膜モジュール4を作製した。得られた中空糸膜モジュール4から中空糸膜を取り出し、小型モジュール4を作製した。作製した小型中空糸膜モジュール4のタンパク質付着量測定及び中空糸膜の血小板付着試験を行った。その結果、表1に示すとおり、タンパク質の付着量が非常に少なく、血小板の付着数も少ない血液適合性が高い中空糸膜モジュールが得られたことが確認された。
(実施例5)
ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体300ppmの代わりにビニルアセトアミド/ピバル酸ビニルランダム共重合体100ppm(ピバル酸ビニルユニットのモル分率50%、数平均分子量7,700)を用いた以外は、実施例2と同様の方法で充填、γ線滅菌を行い、中空糸膜モジュール5を作製した。作製した小型中空糸膜モジュール5のタンパク質付着量測定及び中空糸膜の血小板付着試験を行った。その結果、表1に示すとおり、タンパク質の付着量が非常に少なく、血小板の付着数も少ない血液適合性が高い中空糸膜モジュールが得られたことが確認された。
(比較例1)
高分子を溶解していない充填水溶液を使用した以外は、実施例2と同様の手段により中空糸膜モジュール5を作製した。得られた中空糸膜モジュール5から中空糸膜を取り出し、小型中空糸膜モジュール5を作製した。作製した小型中空糸膜モジュール5のタンパク質付着量測定及び中空糸膜の血小板付着試験を行った。
その結果、表1に示すとおり、血小板及びタンパク質が多く付着する膜であった。
Figure 0007242167000002
(実施例6)
モノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子としてビニルピロリドン/プロパン酸ビニル/アリルアミンランダム共重合体を以下の方法で作製した。ビニルピロリドンモノマー18.3g、プロパン酸ビニルモノマー17.4g、アリルアミン塩酸塩1g、重合溶媒としてt-アミルアルコール55g、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.156gを混合し、窒素雰囲気下、70℃にて6時間撹拌した。反応液を室温まで冷却して反応を停止し、濃縮後、ヘキサンに投入した。析出した白色沈殿物を回収し、減圧乾燥して、共重合体21.0gを得た。H-NMR測定の結果、共重合体全体に対するアリルアミンの導入率は約2%であり、プロパン酸ビニルユニットのモル分率は40%であった。
目開き0.1mmのポリエチレンテレフタレート製のメッシュと過マンガン酸カリウム5%、硫酸0.6Mの水溶液とを60℃、3時間反応させた。反応後のメッシュは水で良く洗浄した。次いで、ビニルピロリドン/プロパン酸ビニル/アリルアミンランダム共重合体5質量%、4-(4,6ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルフォリニウムクロリドn水和物(和光純薬工業社製)0.5質量%の水溶液にメッシュを50℃で2時間、25℃で12時間浸漬した。浸漬したメッシュは水で良く洗浄し、5時間減圧乾燥した。得られたメッシュのXPS及びTOF-SIMS測定を実施した。
その結果、エステル基由来の炭素ピーク及びプロパン酸イオンのピークが検出され、ビニルピロリドン/プロパン酸ビニル/アリルアミンランダム共重合体が固定化されていることを確認した。ビニルピロリドン/プロパン酸ビニル/アリルアミンランダム共重合体をコーティングしたメッシュを用いて、血栓付着試験を実施した。その結果、図7に示される通り、血栓の付着は認められなかった。
(実施例7)
モノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子としてビニルピロリドン/プロパン酸ビニル/アクリル酸2-イソシアナートエチルランダム共重合体を以下の方法で作製した。ビニルピロリドンモノマー9.5g、プロパン酸ビニルモノマー9.5g、アクリル酸2-イソシアナートエチルモノマー0.7g、重合溶媒としてテトラヒドロフラン40g、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.1gを混合し、窒素雰囲気下、70℃にて3時間撹拌した。反応液を室温まで冷却して反応を停止し、濃縮後、ヘキサンに投入した。析出した白色沈殿物を回収し、減圧乾燥して、共重合体18.0gを得た。H-NMR測定の結果、共重合体全体に対するアクリル酸2-イソシアナートエチルの導入率は約2.0%であり、プロパン酸ビニルユニットのモル分率は40%であった。
次に、得られたビニルピロリドン/プロパン酸ビニル/アクリル酸2-イソシアナートエチルランダム共重合体18.0gと塩化ビニル/ビニルアルコールランダム共重合体(VINNOL E15/48A(登録商標);巴工業社製)10gをテトラヒドロフラン50gに溶解し、70℃で2時間撹拌した。反応終了後、エバポレーターで濃縮し、水で再沈殿、上澄みを除去し、減圧乾燥を行い、塩化ビニル/ビニルアルコールランダム共重合体にビニルピロリドン/プロパン酸ビニル/アクリル酸2-イソシアナートエチルランダム共重合体を共有結合させた塩化ビニル/ビニルアルコールランダム共重合体-graft-ビニルピロリドン/プロパン酸ビニル/アクリル酸2-イソシアナートエチルランダム共重合体を作製した。
塩化ビニル/ビニルアルコールランダム共重合体-graft-ビニルピロリドン/プロパン酸ビニル/アクリル酸2-イソシアナートエチルランダム共重合体の1%テトラヒドロフラン溶液に目開き0.1mmのポリエチレンテレフタレート製のメッシュを浸漬後、減圧乾燥を行い、メッシュ表面にコーティングを行った。得られたメッシュのXPS及びTOF-SIMS測定を実施した。
その結果、エステル基由来の炭素ピーク及びプロパン酸イオンのピークが検出され、塩化ビニル/ビニルアルコールランダム共重合体-graft-ビニルピロリドン/プロパン酸ビニル/アクリル酸2-イソシアナートエチルランダム共重合体が固定化されていることを確認した。コーティングしたメッシュを用いて、血栓付着試験を実施した。その結果、実施例6と同様に、血栓の付着は認められなかった。
(比較例2)
モノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子をコーティングしていないポリエチレンテレフタレート製のメッシュを用いた以外は、実施例6と同様の実験を実施した。その結果、図8に示される通り、メッシュ部分に血栓の付着が見られた。
実施例6、7と比較例2の結果は、以下の表2に示される通りである。
Figure 0007242167000003
(実施例8)
ポリ塩化ビニル7.5g、ビニルピロリドンモノマー10g、プロパン酸ビニルモノマー10g、重合溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミド15mL、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.156gを混合し、窒素雰囲気下、70℃にて6時間撹拌した。反応液を室温まで冷却して反応を停止し、濃縮後、メタノールに投入した。析出した沈殿物を回収し、減圧乾燥して、ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体を側鎖に有するポリ塩化ビニル15.2gを得た。
得られたビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体を側鎖に有するポリ塩化ビニルを0.5質量%となるようにテトラヒドロフランに溶解し、コーティング溶液とした。該コーティング溶液をポリ塩化ビニル製の図6の血液回路動脈側入口から50mL/minで通液し、血液回路内をコーティング溶液で満たした。このとき、ピロー部分のθ2は55°、各エアートラップチャンバーの高さ6cm、内径2cm、θ3は60°とし、血液回路内径は3mmとした。また、静脈側エアートラップチャンバー内には、網目0.1mmのメッシュを設置した。その後、血液回路静脈側出口から自重でコーティング溶液を排出し、圧空でコーティング溶液を除去し、12時間減圧乾燥をした。得られた血液回路の血液接触表面のTOF-SIMS測定を行った結果、プロパン酸イオンのピークが検出され、表面にモノビニルカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子がコーティングされていることを確認した。また、血液回路血栓付着試験を行った結果、図9上部に示される通り、血栓の付着は見られなかった。
(実施例9)
実施例7で作製した塩化ビニル/ビニルアルコールランダム共重合体-graft-ビニルピロリドン/プロパン酸ビニル/アクリル酸2-イソシアナートエチルランダム共重合体を用いた以外は、実施例8と同様の方法で血液回路へのコーティングを行った。得られた血液回路の血液接触表面のTOF-SIMS測定を行った結果、プロパン酸イオンのピークが検出され、表面にモノビニルカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子がコーティングされていることを確認した。また、血液回路血栓付着試験を行った結果、実施例8と同様に、血栓の付着は見られなかった。
(比較例3)
モノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子をコーティングしていないポリ塩化ビニル製血液回路を用いて血液回路血栓付着試験を実施した。その結果、血液回路の分岐部分に血栓の付着が見られた(図9下部)。
実施例8、9と比較例3の結果は、以下の表3に示される通りである。
Figure 0007242167000004
(実施例10)
実施例1で得られた中空糸膜モジュールと実施例8で得られた血液回路とを接続し、血液循環試験を行い圧力が150mmHgに達するまでの時間を測定した。このとき、血液回路の血液導入部の直立部分)を40mmにした。その結果、循環120分後においても圧力は150mmHg以下であった。なおここで、実施例10以降の記載において、「直立部分」とは、血液回路における動脈側回路の血液ポートへの接続部分が形成する流路のうち、中空糸膜の端面に対して直立している部分を意味している。
(実施例11)
実施例2で得られた中空糸膜モジュール2を使用した以外は、実施例10と同様の試験を実施した。その結果、循環120分後においても圧力は150mmHg以下であった。
(実施例12)
実施例3で得られた中空糸膜モジュール3を使用した以外は、実施例10と同様の試験を実施した。その結果、循環120分後においても圧力は150mmHg以下であった。
(実施例13)
実施例5で得られた中空糸膜モジュール5を使用した以外は、実施例10と同様の試験を実施した。その結果、循環120分後においても圧力は150mmHg以下であった。
(実施例14)
実施例9で得られた血液回路を使用した以外は、実施例11と同様の試験を実施した。その結果、循環120分後においても圧力は150mmHg以下であった。
(実施例15)
血液回路の直立部分を30mmとした以外は、実施例11と同様の試験を実施した。循環90分後まで観察したところ、圧力上昇が見られなかった。
(比較例4)
比較例1で得られた中空糸膜モジュール5と比較例3で得られた血液回路を使用した以外は、実施例10と同様の試験を実施した。その結果、循環40分後に圧力上昇が見られた。
(比較例5)
実施例2で得られた中空糸膜モジュール2と比較例3で得られた血液回路を使用した以外は、実施例10と同様の試験を実施した。その結果、循環50分後に圧力上昇が見られた。
(比較例6)
比較例1で得られた中空糸膜モジュール5と実施例8で得られた血液回路を使用した以外は、実施例10と同様の試験を実施した。その結果、循環50分後に圧力上昇が見られた。
(比較例7)
血液回路の直立部分を20mmとした以外は、実施例11と同様の試験を実施した。その結果、循環60分後に圧力上昇が見られた。
実施例10~15と比較例4~7の結果は、以下の表4に示される通りである。
Figure 0007242167000005
上記実施例においては、血液回路及び血液浄化器の両方をモノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子でコーティングすることで、タンパク質及び血小板の付着が抑制され、血液凝固に伴う圧力上昇を抑制されたと考えられる。また、血液回路の血液導入部を直立させることにより、ヘッダー部に流入する血液の偏流が抑制、滞留が改善され、圧力上昇が抑制されることが示された。以上の実施例の結果から、モノカルボン酸ビニルエステルユニット含有高分子をコーティングした血液回路及び血液浄化器を使用し、かつ、血液回路の血液導入部を直立させることにより、長時間、安定して血液循環を行うことが可能となると考えられる。
本発明の血液処理装置は、慢性及び救急人工透析や急性血液浄化等の血液浄化療法を
行う場合や血液由来成分を処理する場合に利用することができる。
1 血液処理装置
2 血液回路
2A 動脈側回路
2B 静脈側回路
3 血液浄化器
4 血液導入口(中空糸膜内側入口)
5 分離膜(中空糸膜)
5a 分離膜の端面
6 血液排出口(中空糸膜内側出口)
7 処理液供給装置
8 中空糸膜外側ノズル(処理液注入口)
9 中空糸膜外側ノズル(処理液排出口)
10 ハウジング(筒状のケース)
11A 血液ポート(ヘッダー)
11B 血液ポート(ヘッダー)
12 接続部分
13 流路の中心軸
14 流路の中心軸に対する水平な仮想線
15 ピローへの血液入口(血液流入路)の内壁に沿って延長した仮想線
16 ピローの血液入口側となる端(血液入口側端)とピロー側面の血液入口側となる端
(血液入口側端)とを結ぶ仮想線
17 円弧の部分とピロー側面の直線部分の接点
18 ピロー横幅
19 エアートラップチャンバーからの血液出口(血液流出路)の内壁に沿って延長した
仮想直線
20 血液出口の角に対して最も近いエアートラップチャンバー側面に向かって血液出口
の角から引いた直線
21 エアートラップチャンバーの血液出口側となる端(血液流出路)とエアートラップ
チャンバー側面の血液出口側となる端(血液出口側端)
21a 補液用ライン
21b 圧力測定用ライン
22 ポッティング材
23 補液
24 牛全血
25 処理液(ろ液)廃液
26 保温湯浴
27 ポンプ
28 ピロー
29 ポンプ
30 動脈側エアートラップチャンバー
31 静脈側エアートラップチャンバー
32 ポンプ
X 人体

Claims (6)

  1. 血液回路と、血液浄化器とを備えた血液処理装置であって、
    前記血液回路及び血液浄化器における血液接触表面の少なくとも一部又は全部に、疎水性ユニットとしてモノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有し、親水性ユニットとしてビニルピロリドンユニットはビニルアセトアミドユニットを含有するランダム共重合体が担持されており、
    前記モノカルボン酸ビニルエステルユニットは、脂肪族鎖炭素数が2~である脂肪族モノカルボン酸ビニルエステルユニットは芳香族モノカルボン酸ビニルエステルユニットであり、
    前記血液浄化器は、分離膜と、該分離膜を固定するハウジングと、該分離膜の端面側に血液導入口を配置した血液ポートとを備え、
    前記血液回路の動脈側回路の前記血液導入口を形成する血液ポートへの接続部分が、前記分離膜の端面に対して直立した流路を形成し、該流路の長さが25mm以上100mm以下である、血液処理装置。
  2. ピロー及び/又はエアートラップチャンバーが前記血液回路中に配置されている、請求項1記載の血液処理装置。
  3. 前記ピローの長手方向に沿った断面において、
    該ピローへの血液入口の内壁に沿って延長した仮想線と、該ピローの血液入口側端とピロー側面の血液入口側端とを結ぶ仮想線と、のなす角度(θ2)が40°以上60°以下であるか、あるいは、該ピローからの血液出口の内壁に沿って延長した仮想線と、該ピローの血液出口側端とピロー側面の血液出口側端とを結ぶ仮想線と、のなす角度(θ2)が40°以上60°以下である、請求項2記載の血液処理装置。
  4. 前記エアートラップチャンバーの長手方向の断面において、
    該エアートラップチャンバーの血液入口端から血液出口端までの長さが3cm以上7cm以下であり、
    前記血液回路の内径の前記エアートラップチャンバーの内径に対する比率が0.1以上0.3以下であり、
    前記エアートラップチャンバーからの前記血液出口の内壁に沿って延長した仮想線と、前記エアートラップチャンバーの血液出口側端とエアートラップチャンバー側面の血液出口側端とを結ぶ仮想線と、のなす角度(θ3)が40°以上60°以下である、請求項2又は3記載の血液処理装置
  5. ランダム共重合体において、前記ビニルピロリドンユニット又はビニルアセトアミドユニットと、前記モノカルボン酸ビニルエステルユニットとのモル分率が30:70~90:10である、請求項1~4のいずれか一項記載の血液処理装置。
  6. 前記血液回路における血液接触表面の少なくとも一部又は全部において、ポリ塩化ビニル又は塩化ビニル/ビニルアルコールランダム共重合体が導入された前記モノカルボン酸ビニルエステルユニットを含有する高分子が担持されてなる、請求項1~のいずれか一項記載の血液処理装置。
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