実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1によるワイヤロープ探傷装置のプローブ1を示す分解斜視図である。プローブ1は、プローブ本体3と、カバー5とを備えている。
カバー5は、非磁性体から構成されている。カバー5は、プローブ本体3を覆っている。これにより、カバー5は、プローブ本体3を保護する。カバー5には、溝部51が設けられている。溝部51の断面は、U字形に形成されている。溝部51は、第1の端部51_1と第2の端部51_2とを有している。
プローブ本体3は、磁化器11と、磁気センサ13とを備えている。
磁化器11は、バックヨーク111と、第1の永久磁石112_1と、第2の永久磁石112_2と、第1のポールピース113_1と、第2のポールピース113_2とを有している。
バックヨーク111は、強磁性体から構成されている。バックヨーク111は、第1のヨーク端部111_1と、第2のヨーク端部111_2と、ヨーク中央部111_3とを有している。バックヨーク111の長手方向一端部は、第1のヨーク端部111_1となっている。バックヨーク111の長手方向他端部は、第2のヨーク端部111_2となっている。ヨーク中央部111_3は、第1のヨーク端部111_1と第2のヨーク端部111_2との間に位置している。
第1のヨーク端部111_1には、第1のポールピース113_1が第1の永久磁石112_1を介して固定されている。第2のヨーク端部111_2には、第2のポールピース113_2が第2の永久磁石112_2を介して固定されている。これにより、第1の永久磁石112_1と第2の永久磁石112_2とは、バックヨーク111の長手方向で互いに離して配置されている。また、第1のポールピース113_1と第2のポールピース113_2とは、バックヨーク111の長手方向で互いに離して配置されている。
第1のポールピース113_1は、強磁性体から構成されている。第1のポールピース113_1には、第1のポールピース溝部113_11が設けられている。第1のポールピース溝部113_11の断面は、U字形に形成されている。第1のポールピース溝部113_11は、第1の端部51_1の裏側の位置でカバー5に固定されている。
第2のポールピース113_2は、強磁性体から構成されている。第2のポールピース113_2には、第2のポールピース溝部113_21が設けられている。第2のポールピース溝部113_21の断面は、U字形に形成されている。第2のポールピース溝部113_21は、第2の端部51_2の裏側の位置でカバー5に固定されている。
第1の永久磁石112_1は、第1のポールピース113_1と、第1のヨーク端部111_1との間に配置されている。第1の永久磁石112_1は、一方の磁極面を第1のポールピース113_1に向けて配置され、他方の磁極面を第1のヨーク端部111_1に向けて配置されている。第1の永久磁石112_1としては、例えば、ネオジム磁石が用いられている。第1の永久磁石112_1は、起磁力を発生する。
第2の永久磁石112_2は、第2のポールピース113_2と第2のヨーク端部111_2との間に配置されている。第2の永久磁石112_2は、一方の磁極面を第2のヨーク端部111_2に向けて配置され、他方の磁極面を第2のポールピース113_2に向けて配置されている。第2の永久磁石112_2としては、例えば、ネオジム磁石が用いられている。第2の永久磁石112_2は、起磁力を発生する。
磁気センサ13は、センサ本体13Aと、取り付け部13Bとを有している。
取り付け部13Bは、ヨーク中央部111_3に取り付けられている。取り付け部13Bは、非磁性体から構成されている。
センサ本体13Aは、第1のポールピース113_1と、第2のポールピース113_2との間に配置されている。センサ本体13Aは、ベース部132と、コイルホルダ133と、第1のコイル131_1と、第2のコイル131_2とを有している。
ベース部132は、取り付け部13Bに取り付けられている。コイルホルダ133は、ベース部132に取り付けられている。コイルホルダ133は、強磁性体から構成されている。第1のコイル131_1及び第2のコイル131_2は、コイルホルダ133に取り付けられている。
図2は、図1のプローブ1による探傷原理を示す説明図である。ワイヤロープ探傷装置は、プローブ1と、プローブ1からの信号を受ける制御部9とを備えている。
図2においては、図示の都合上、カバー5の輪郭が二点鎖線で示されている。また、図2においては、図示の都合上、溝部51の断面形状部分がハッチングで示されている。ワイヤロープ探傷装置によってワイヤロープ2の探傷検査が行われるときには、溝部51の長手方向に沿った特定方向W_Dにワイヤロープ2がプローブ1に対して移動する。プローブ1は、ワイヤロープ2を溝部51に接触させながら計測を実施する。
図2の一例では、第1の永久磁石112_1の極性の向きが第1のヨーク端部111_1から第1のポールピース113_1に向かう向きとなっている。また、図2の一例では、第2の永久磁石112_2の極性の向きが第2のポールピース113_2から第2のヨーク端部111_2に向かう向きとなっている。
つまり、第1の永久磁石112_1の極性は、第2の永久磁石112_2の極性と逆向きとなっている。よって、ワイヤロープ2が溝部51に配置された状態では、ワイヤロープ2の一部と磁化器11とから構成された磁気回路F_Cを通る磁束Fを第1の永久磁石112_1及び第2の永久磁石112_2が発生する。
これにより、ワイヤロープ2が溝部51に配置された状態では、ワイヤロープ2のうち、第1のポールピース113_1に対向する部分と、第2のポールピース113_2に対向する部分との間の区間Wでワイヤロープ2が磁化される。ワイヤロープ2では、第1の永久磁石112_1及び第2の永久磁石112_2による磁束Fがワイヤロープ2の長手方向に沿って通る。つまり、磁化器11は、ワイヤロープ2の一部を通る磁束Fを発生する。
磁気センサ13は、磁束Fのうちワイヤロープ2から漏洩する漏洩磁束L_Fに応じた信号をセンサ信号として発生する。制御部9は、磁気センサ13から発生するセンサ信号を処理する。なお、磁束F及び漏洩磁束L_Fの詳細については後述する。
以下、第1の永久磁石112_1及び第2の永久磁石112_2を総称する場合、永久磁石112と称する。また、第1のポールピース113_1及び第2のポールピース113_2を総称する場合、ポールピース113と称する。また、第1のコイル131_1及び第2のコイル131_2を総称する場合、コイル131と称する。
次に、ワイヤロープ探傷装置による漏洩磁束L_Fの検出原理について具体的に説明する。図3は、図2のA部拡大図である。図3に示すように、ワイヤロープ2のうち、磁束Fが通っている部分に損傷部B_Wがあると、損傷部B_Wの周囲でワイヤロープ2から磁束Fの一部が漏洩磁束L_Fとして漏洩する。
図4は、図3の漏洩磁束L_Fとコイル131との位置関係の一例をより具体的に説明する図である。ワイヤロープ2をプローブ1に対して移動させた場合、第1のコイル131_1及び第2のコイル131_2は、漏洩磁束L_Fと鎖交する。よって、漏洩磁束L_Fに応じた信号である誘起電圧が、センサ信号として第1のコイル131_1及び第2のコイル131_2に発生する。
ところで、ワイヤロープ2は、心綱と、心綱の周りに一定のピッチλで撚り合わされた複数のストランド21とから構成されている。よって、ワイヤロープ2の外周部には、一定のピッチλでワイヤロープ2の長さ方向へ並ぶ複数の凸部が形成されている。また、ストランド21は、複数本の素線を単層又は多層に撚り合わせて構成されている。よって、ワイヤロープ2に含まれている素線が細ければ、ワイヤロープ2の径が小径化される。
図5は、図4のワイヤロープ2よりも小径化されたワイヤロープ2Sから漏洩する漏洩磁束L_Fとコイル131との位置関係の一例をより具体的に説明する図である。図5に示すように、図4のワイヤロープ2よりも小径化されたワイヤロープ2Sがプローブ1に対して移動する場合、図4のワイヤロープ2がプローブ1に対して移動する場合よりも、第1のコイル131_1及び第2のコイル131_2に鎖交する漏洩磁束L_Fの磁束量が少なくなる。よって、図2の制御部9は、磁気センサ13から発生するセンサ信号が、ノイズによる磁束Fによるものと、損傷部B_Wによる磁束Fによるものとの何れであるかの区別をつけにくい。そこで、本実施の形態においては、図2の制御部9は、センサ信号の周波数成分の分布に基づき、ワイヤロープ2Sに含まれている素線の損傷の有無を判定する。
なお、上記で説明したように、ワイヤロープ2は、ストランド21が一定のピッチλで撚り合わされて構成されている。よって、プローブ1は、ワイヤロープ2の外周部に起因するノイズを少なくともピッチλ毎に検出する。また、ワイヤロープ2Sも同様にピッチλSで撚り合わされて構成されている。よって、ワイヤロープ2Sの外周部には、一定のピッチλSでワイヤロープ2Sの長さ方向へ並ぶ複数の凸部が同様に形成されている。したがって、プローブ1は、ワイヤロープ2Sの外周部に起因するノイズを少なくともピッチλS毎に検出する。
図6は、図2の制御部9の機能構成例を示すブロック図である。図6に示すように、制御部9は、測定器91と、合成器92と、フィルタ部93と、処理部94とを有している。
測定器91は、第1の測定器91_1と、第2の測定器91_2とを有している。第1の測定器91_1は、第1のコイル131_1の両端に接続されている。第2の測定器91_2は、第2のコイル131_2の両端に接続されている。この例では、第1のコイル131_1は、第2のコイル131_2よりもワイヤロープ2Sの特定方向W_Dの上流側に位置している。
図6に示すように、損傷部B_Wが第1のポールピース113_1と第2のポールピース113_2との間に進入したとき、損傷部B_Wの周囲でワイヤロープ2から漏洩磁束L_Fが漏洩する。漏洩磁束L_Fは、第1のコイル131_1に鎖交し、その後第2のコイル131_2に鎖交する。よって、第1のコイル131_1の両端に発生する誘起電圧のピークが発生する時刻は、第2のコイル131_2の両端に発生する誘起電圧のピークが発生する時刻と比べ、第1のコイル131_1と第2のコイル131_2の中心間の距離Pをワイヤロープ2Sの移動速度νで除した値で表される遅延時間τだけずれる。
よって、第1の測定器91_1は、ワイヤロープ2Sから漏洩する漏洩磁束L_Fに応じた信号である誘起電圧をセンサ信号f1(t-τ)として検出する。また、第2の測定器91_2は、ワイヤロープ2Sから漏洩する漏洩磁束L_Fに応じた信号である誘起電圧をセンサ信号f2(t)として検出する。
合成器92は、第1の測定器91_1で検出されたセンサ信号f1(t-τ)と、第2の測定器91_2で検出されたセンサ信号f2(t)とを重ね合わせることによりセンサ信号x(t)を生成する。具体的には、合成器92は、第1の測定器91_1で検出されたセンサ信号f1(t-τ)を時間τだけ遅らせたセンサ信号f1(t)と、第2の測定器91_2で検出されたセンサ信号f2(t)とを重ね合わせる。この結果、センサ信号x(t)は、第1のコイル131_1の両端に発生する誘起電圧のピークと、第2のコイル131_2の両端に発生する誘起電圧のピークとを合わせた信号となる。
合成器92は、センサ信号x(t)を一定の周期Tsで標本化する。標本化した信号は、周期Tsごとの信号となるため、周期Tsを単位として、時間を整数nで表すことができる。つまり、センサ信号x(t)のアナログ時間と標本化した信号の時間との関係は、t=n・Tsとなる。標本化した信号の振幅は実数値である。よって、標本化した信号である離散信号は、実数値の数列{x(0),x(1),x(2),・・・}として表されるため、数列x(n)と表すことにする。数列x(n)は、入力信号x(n)としてフィルタ部93に供給される。
以下、数列x(n)をフィルタ部93の入力信号x(n)と称する。
フィルタ部93は、センサ信号x(t)を標本化した入力信号x(n)の周波数成分を抽出する。フィルタ部93は、複数のバンドパスフィルタとしての複数のFIR(Finite Impulse Response)フィルタ931と、複数の絶対値部932とを有している。
図7は、図6のフィルタ部93の周波数特性の一例を示す図である。図7に示すように、複数のFIRフィルタ931のそれぞれでは、タップ数、ゲイン及び帯域幅bが一定である。複数のFIRフィルタ931は、互いに異なる複数の帯域を個別の通過帯域としている。つまり、複数のFIRフィルタ931は、互いに異なる個別の通過帯域を持つ。よって、フィルタ部93は、互いに異なる複数の帯域のそれぞれにおいて入力信号x(n)の周波数成分を抽出する。
複数の絶対値部932は、図6に示すように、複数のFIRフィルタ931から供給された入力信号x(n)の周波数成分の絶対値を求める。ここで、入力信号x(n)は、上記で説明したように、実数値の数列{x(0),x(1),x(2),・・・}である。そこで、複数の絶対値部932は、入力信号x(n)を量子化単位で除して四捨五入することで量子化し、整数値の数列yk(n)を求める。ただし、kは1からNまで昇順した値となる。また、Nは自然数である。
例えば、複数のFIRフィルタ931に実数値のx(0)が入力されたときには、複数のFIRフィルタ931は、互いに異なる複数の帯域のそれぞれにおいて実数値のx(0)の周波数成分を抽出する。絶対値部932は、個別の通過帯域ごとの実数値のx(0)の周波数成分の絶対値を求めた後に整数値のy1(0),y2(0),・・・及びyN(0)を求める。
以下、整数値のy1(0),y2(0),・・・及びyN(0)は、整数値の数列{y1(0),y2(0),・・・及びyN(0)}として数列yk(0)と表す。
フィルタ部93は、実数値のx(1)も同様の処理を行い、yk(1)を求める。フィルタ部93は、実数値のx(2)以降も同様の処理を行い、yk(2)以降を求める。以上の説明から、フィルタ部93は、入力信号x(n)から数列yk(n)を求める。
図8は、図6のフィルタ部93が入力信号x(n)から抽出した周波数成分の分布の一例を示す図である。図8に示すように、ワイヤロープ2Sの移動速度νは、例えば、台形制御されている。よって、ワイヤロープ2Sが等速移動を行っている場合には、ワイヤロープ2Sの外周部の形状に起因する入力信号x(n)の周期変動が一定となる。ワイヤロープ2Sの外周部に形状に起因する入力信号x(n)の周期変動は、上記で説明したように、ストランド21SのピッチλS毎に生じる。よって、入力信号x(n)の一定の周期変動は、特定の周波数で発生する。
例えば、図8に示すように、入力信号x(n)のノイズ周波数成分f_nは、ワイヤロープ2Sが等速移動を行っている場合には、k=6及びk=8のときの帯域に出現する。
したがって、入力信号x(n)の一定の周期変動の周波数成分は、入力信号x(n)の周波数成分のうち、入力信号x(n)のノイズ周波数成分f_nとみなすことができる。
また、入力信号x(n)が漏洩磁束L_Fに応じて合成器92により合成された信号である場合には、時間領域では局所的な微少時間Δtの間に生じた信号と入力信号x(n)が等価である。よって、入力信号x(n)が漏洩磁束L_Fに応じて合成器92により合成された信号である場合には、微少時間Δtが短いほど、入力信号x(n)の周波数成分が出現する帯域の数が増える。
例えば、図8に示すように、入力信号x(n)の損傷周波数成分f_sは、k=3、k=4、k=5、k=6、k=7、k=8及びk=9のときの帯域にそれぞれ出現する。
この結果、入力信号x(n)の周波数成分の分布は、複数の帯域にわたる分布となる。したがって、入力信号x(n)の周波数成分のうち、入力信号x(n)の損傷周波数成分f_sは、入力信号x(n)のノイズ周波数成分f_nが出現する帯域以外の帯域にも出現する。
なお、周波数成分の分布は、数列yk(n)から構成されている。数列yk(n)は、上記で説明したように、整数値のy1(n),y2(n),・・・及びyN(n)から構成されている。よって、周波数成分の分布は、複数の値y1(n)~yN(n)から構成されている。
処理部94は、図6に示すように、演算部941と、判定部943とを有している。処理部94は、フィルタ部93で抽出された入力信号x(n)の周波数成分の分布に基づいて、ワイヤロープ2Sに含まれている素線の損傷の有無を判定する。
演算部941は、複数の帯域にわたる入力信号x(n)の周波数成分の分布を構成する複数の値から統計的演算によって特徴量を抽出する。特徴量は、入力信号x(n)の周波数成分の分布を特徴付ける代表値である。統計的演算は、例えば、中央値m(n)を求める演算である。中央値m(n)は、数列yk(n)を構成する整数値のy1(n),y2(n),・・・及びyN(n)を昇順に並べたときに中央に位置する値である。
図9は、図8の時刻t1のときにフィルタ部93によって生成された数列yk(n)の一例を示す図である。図9の一例では、数列yk(n)を構成する複数の値y1(n)~yN(n)のうち、k=1~5,7及び9のときの値y1(n)~y5(n)、y7(n)及びy9(n)がゼロであり、k=6及び8のときの値y6(n)及びy8(n)がゼロよりも大きな値となる。よって、数列yk(n)を構成する複数の値y1(n)~yN(n)を昇順に並べたときに中央に位置する値はゼロとなる。
図10は、図8の時刻t2のときにフィルタ部93によって生成された数列yk(n)の一例を示す図である。図10の一例では、数列yk(n)を構成する複数の値y1(n)~yN(n)を昇順に並べたときに中央に位置する値は、k=5のときの値となる。よって、中央値m(n)は、k=5のときの値が採用される。ここで、時刻t2のときには、図8に示すように、入力信号x(n)の周波数成分の分布は、損傷周波数成分f_sを含む。そこで、判定部943は、周波数成分の分布に損傷周波数成分f_sが含まれているか否かを判定するための設定閾値を、0以上且つk=5のときの値y5(n)未満に設定する。
判定部943は、特徴量に基づいて、ワイヤロープ2Sに含まれる素線の損傷の有無を判定する。具体的には、判定部943は、演算部941により抽出された特徴量と設定閾値とを比較することにより、ワイヤロープ2Sに含まれる素線の損傷の有無を判定する。より具体的には、判定部943は、特徴量が設定閾値を超える場合、ワイヤロープ2Sに含まれる素線の損傷が有ると判定する。一方、判定部943は、特徴量が設定閾値以下である場合、ワイヤロープ2Sに含まれる素線の損傷が無いと判定する。
ここで、ワイヤロープ2Sに含まれる素線の損傷とは、ワイヤロープ2Sの少なくとも一部に生じた物理的な損傷のことである。物理的な損傷とは、例えば、素線の断線、素線の部分断線及び素線の擦過痕の少なくとも一つの損傷のことである。
以下、ワイヤロープ2Sに含まれる素線の損傷は、適宜、素線の損傷と称する。
なお、設定閾値は、統計的演算によって求められる値に応じて異なる。具体的には、統計的演算は、中央値m(n)を求める演算の他には、例えば、最大値、最小値、範囲、平均値、標準偏差、実効値、クレストファクタ、尖度を求める演算がある。また、統計的演算によって求められる値のうち、範囲は、最大値と最小値との差を求める演算により得られる値である。また、統計的演算によって求められる値のうち、クレストファクタは、実効値に対する最大値の比を求める演算により得られる値である。判定部96には、上記のような統計的演算によって求められる値に応じて異なる設定閾値が設定される。
図11は、図6の制御部9による処理を説明するフローチャートである。ステップS11において、合成器92は、センサ信号x(t)に対応する入力信号x(n)をフィルタ部93に入力する。ステップS12において、フィルタ部93は、複数のバンドパスフィルタで入力信号x(n)の周波数成分を抽出する。ステップS13において、演算部941は、複数のバンドパスフィルタで抽出された周波数成分から構成される数列yk(n)に対して統計的演算を行う。ステップS14において、判定部943は、統計的演算により抽出された特徴量が設定閾値を超えるか否かを判定する。判定部943は、統計的演算により抽出された特徴量が設定閾値を超えると判定する場合、ステップS15の処理に移行する。ステップS15において、判定部943は、素線の損傷が有ると判定し、処理を終了する。一方、判定部943は、統計的演算により抽出された特徴量が設定閾値を超えない、すなわち、設定閾値以下であると判定する場合、ステップS16の処理に移行する。ステップS16において、判定部943は、素線の損傷が無いと判定し、処理を終了する。
なお、ステップS14の処理は、統計的演算によって求められる値が、例えば、最大値、中央値m(n)、平均値、標準偏差、実行値、クレストファクタを想定した処理である。よって、統計的演算によって求められる値が、例えば、最大値、中央値m(n)、平均値、標準偏差、実行値、クレストファクタ以外である場合、判定部943は、上記ステップS14の処理とは異なる比較処理を実行する。
例えば、統計的演算によって求められる値として最小値を想定する場合、ステップS14において、判定部943は、統計的演算により抽出された特徴量が設定閾値未満か否かを判定する。このようにすれば、損傷周波数成分f_sを構成する値yk(n)と比べ、ノイズ周波数成分f_nを構成する値yk(n)が大きい場合にも、制御部9は、素線の損傷の有無の判定が可能となる。つまり、判定部943は、統計的演算によって求められる値に応じて、特徴量と、設定閾値との比較処理の大小関係を変更する。
以上の説明から、ワイヤロープ探傷装置は、ワイヤロープ2Sの一部を通る磁束Fを発生する磁化器11と、磁束Fのうちワイヤロープ2Sから漏洩する漏洩磁束L_Fに応じた信号をセンサ信号x(t)として発生する磁気センサ13と、センサ信号x(t)を処理する制御部9と、を備えている。制御部9は、センサ信号x(t)の周波数成分を抽出するフィルタ部93と、周波数成分の分布に基づき、ワイヤロープ2Sに含まれている素線の損傷の有無を判定する処理部94と、を有している。
よって、測定器91によって検出される磁束Fが損傷部B_Wの周辺から漏洩する漏洩磁束L_Fである場合には、センサ信号x(t)の周波数成分は、周波数軸方向に広がる周波数成分の分布となる。このため、制御部9は、ノイズ周波数成分f_nだけでなく損傷周波数成分f_sが重畳されたものであるかを識別できる。したがって、制御部9は、時間領域においては磁気センサ13に発生した誘起電圧が低いことでSN比が低かったとしても周波数領域においてはノイズ周波数成分f_nと損傷周波数成分f_sとの差が明確となってSN比を高くすることができる。
換言すれば、ワイヤロープ探傷装置は、周波数成分の分布に基づき、素線の損傷の有無を判定することにより、SN比をより確実に向上させることができる。
また、フィルタ部93は、互いに異なる複数の帯域のそれぞれにおいて周波数成分を抽出する。よって、フィルタ部93は、周波数軸方向にさまざまな周波数成分を含む周波数成分の分布を生成することができる。損傷周波数成分f_sは、周波数領域ではノイズ周波数成分f_nよりも周波数軸方向に広範囲に存在する。したがって、フィルタ部93は、周波数軸方向にさまざまな周波数成分を含む周波数成分の分布を生成することにより、損傷周波数成分f_sをより確実に出現させることができる。これにより、処理部94は、周波数領域で素線の損傷の有無の判定処理を実行することができる。
また、処理部94は、複数の帯域にわたる周波数成分の分布を構成する複数の値y1(n)~yN(n)から統計的演算によって特徴量を抽出する演算部941と、特徴量に基づいて、素線の損傷の有無を判定する判定部943とを有している。よって、処理部94は、複数の値y1(n)~yN(n)の全てを比較対象とする必要がないため、計算量を削減できる。したがって、処理部94は、比較処理の計算コストを顕著に下げることができる。
なお、上記で説明したように、演算部941は、ワイヤロープ2Sがプローブ1に対して等速で移動している間にフィルタ部93により抽出されたときの周波数成分の分布を構成する複数の値y1(n)~yN(n)から統計的演算により特徴量を抽出する。
よって、ワイヤロープ2Sの加速期間及び減速期間に検知された値yk(n)は特徴量の抽出に採用されず、ワイヤロープ2Sの等速移動期間に検知された値yk(n)が特徴量の抽出に採用される。このように特徴量を抽出する期間を限定する結果、制御部9は、ストランド21Sの外形により生じる誘起電圧の周期変動を明確にできる。
このような理由により、制御部9は、周波数成分のうちノイズ周波数成分f_nと損傷周波数成分f_sとを明確に区別できる。したがって、制御部9は、ワイヤロープ2Sに含まれる素線の損傷の有無の判定精度を向上させることができる。
また、判定部943は、特徴量と設定閾値とを比較することにより、素線の損傷の有無を判定する。よって、判定部943は、判定処理を行うデータ量を少なくすることができる。したがって、判定部943は、判定処理に要する計算時間を短縮させることができる。
また、フィルタ部93は、互いに異なる複数の帯域を個別の通過帯域とする複数のバンドパスフィルタを有している。よって、フィルタ部93は、互いに異なる複数の帯域の周波数成分を抽出できる。損傷周波数成分f_sは、周波数領域ではノイズ周波数成分f_nよりも周波数軸方向に広範囲に存在する。したがって、フィルタ部93は、周波数軸方向にさまざまな周波数成分を含む周波数成分の分布を生成することにより、損傷周波数成分f_sを確実に出現させることができる。これにより、制御部9は、磁気センサ13で生じた誘起電圧をセンサ信号x(t)として周波数領域で分析することができる。
実施の形態2.
実施の形態2において、実施の形態1と同一又は同等の構成及び機能については、その説明を省略する。実施の形態2は、実施の形態1のバンドパスフィルタがウェーブレット変換で実現される点が実施の形態1と異なる。他の構成は、実施の形態1と同様である。つまり、その他の構成は実施の形態1と同一又は同等の構成であり、これらの部分には同一符号を付している。
図12は、この発明の実施の形態2によるワイヤロープ2Sから漏洩する漏洩磁束L_Fに応じた信号を処理する制御部9の機能構成例を示すブロック図である。図12に示すように、フィルタ部193は、バンドパスフィルタとして、センサ信号x(t)にウェーブレット変換を実行することによりセンサ信号x(t)の周波数成分の分布を生成するウェーブレット変換部1931を備えている。
図13は、図12のフィルタ部193の周波数特性の一例を示す図である。バンドパスフィルタは、ウェーブレット変換部1931で処理されるウェーブレット変換の基底関数により実現されるものである。図13に示すように、複数の帯域のそれぞれの帯域幅bkは、帯域の中心周波数ωckが低くなるほど狭くなっている。
次に、ウェーブレット変換の基底関数の一例として、Morlet Waveletについて説明する。図14は、図12のウェーブレット変換部1931によるマザーウェーブレットの時間領域の波形例を示す図である。マザーウェーブレットは次の式(1)に表される。
ドーターウェーブレットは次の式(2)に表される。ドーターウェーブレットのスケールは、次の式(3)に表される。式(2)に表されるドーターウェーブレットは、式(3)に表されるスケールに応じて、図14に示す波形の振幅を拡大又は縮小することができる。また、式(2)に表されるドーターウェーブレットは、式(3)に表されるスケールに応じて、図14に示す波形を時間軸方向に平行移動することができる。ここで、s0はスケールの定数である。skは、kを引数とし、且つs0が乗算されるスケールの関数である。
次に、マザーウェーブレット及びドーターウェーブレットをフーリエ変換したものについて説明する。まず、マザーウェーブレットをフーリエ変換した式は次の式(4)に表される。一方、ドーターウェーブレットをフーリエ変換したものは式(5)に表される。
図15は、図12のウェーブレット変換部1931によるマザーウェーブレットの周波数領域の波形例を示す図である。図15に示すように、Morlet Waveletの周波数特性は、入力信号x(n)の周波数成分のうち、帯域幅bkと帯域幅bkの中心周波数ω0とで特定される通過帯域の周波数を通過させるバンドパスフィルタとなる。図15の中心周波数ωckは、次の式(6)に表される。式(6)に表されるように、中心周波数ωckは、ω0/s0を2のm乗根の累乗で除した値で表現される。ここで、上記で説明したように、mは自然数である。
また、図15の帯域幅bkは、次の式(7)に表される。
ここで、m=1の場合の式(6)及び式(7)について説明する。まず、次の式(8)は、式(6)において、m=1のときの式である。式(8)の記載から、中心周波数ωckは、ω0/s0を2で除した値で表現される。
一方、次の式(9)は、式(7)において、m=1のときの式である。式(9)の記載から、帯域幅bkは、2の自然対数の平方根を2倍してs0で除した値を2で除した値で表現される。
よって、互いに隣接する2つの帯域のうち、一方の帯域の帯域幅bkと、一方の帯域よりも中心周波数ωckの低い他方の帯域の帯域幅bk+1との関係は、Δk=1/m=1/1=1であるので、bk+1=2-Δk・bk=bk+1=2-1・bkの関係を満たしている。したがって、m=1の場合、一方の帯域の帯域幅bkと、他方の帯域の帯域幅bk+1との関係は、1オクターブとなる。
具体的には、式(8)において、k=0のとき、中心周波数ωckは、周波数ω0/s0となる。また、式(9)において、k=0のとき、帯域幅bkは、次の式(10)に表される。よって、式(8)及び式(9)から、kが1増す毎に、中心周波数ωck及び帯域幅bkは、1/2になる。
また、mが1以外の自然数となるとき、互いに隣接する2つの帯域のうち、一方の帯域の帯域幅bkと、一方の帯域よりも中心周波数ωckの低い他方の帯域の帯域幅bk+1との関係は、Δk=1/mであるので、bk+1=2-Δk・bk=bk+1=2-1/m・bkの関係を満たしている。よって、mが1以外の場合、一方の帯域の帯域幅bkと、他方の帯域の帯域幅bk+1との関係は、1/mオクターブとなる。次にm=3の場合のときの中心周波数ωckについて説明する。
図16は、図12のフィルタ部193の周波数特性の他の一例として1/3オクターブのときの中心周波数ωckの概念図である。図16に示すように、中心周波数ωckは、ω0/s0を2の3乗根の累乗で除した値で表現することができる。
上記の説明から、互いに隣接する2つの帯域の中心周波数ωckと中心周波数ωck+1とは、次の式(11)に表される。式(11)は、式(8)に基づき、互いに隣接する2つの帯域の中心周波数ωckと中心周波数ωck+1との大きさの違いを表したものである。式(11)から、kが1増す毎に、中心周波数ωckは、2-1/mになる。
また、互いに隣接する2つの帯域のそれぞれにおける帯域幅bkと帯域幅bk+1とは、次の式(12)に表される。式(12)は、式(9)に基づき、互いに隣接する2つの帯域の帯域幅bkと帯域幅bk+1との大きさの違いを表したものである。式(12)から、kが1増す毎に、帯域幅bkは、2-1/mになる。
図17は、図12のフィルタ部193が漏洩磁束L_Fに応じた信号から抽出した周波数成分の分布の一例を示す図である。図17の一例は、互いに隣接する2つの帯域の帯域幅bk及び中心周波数ωck以外は、図8の一例と同様である。よって、図17の説明については省略する。
図18は、図17の時刻t1のときにフィルタ部193によって生成された数列yk(n)の一例を示す図である。図18の一例では、数列yk(n)を構成する複数の値y1(n)~yN(n)のうち、k=1~3,5及び7のときの値y1(n)~y3(n)、y5(n)及びy7(n)がゼロであり、k=4及び6のときの値y4(n)及びy6(n)がゼロよりも大きな値となる。よって、数列yk(n)を構成する複数の値y1(n)~yN(n)を昇順に並べたときに中央に位置する値はゼロとなる。
図19は、図17の時刻t2のときにフィルタ部193によって生成された数列yk(n)の一例を示す図である。図19の一例では、数列yk(n)を構成する複数の値y1(n)~yN(n)を昇順に並べたときに中央に位置する値は、k=5のときの値となる。よって、中央値m(n)は、k=5のときの値が採用される。ここで、時刻t2のときには、図17に示すように、入力信号x(n)の周波数成分の分布には、損傷周波数成分f_sが含まれている。そこで、判定部943は、k=5のときの値y5(n)を周波数成分の分布に損傷周波数成分f_sが含まれているか否かを判定する設定閾値に設定する。
図20は、図12の制御部9による処理を説明するフローチャートである。ステップS31及びS34~S36の処理は、実施の形態1の図11に示したステップS11及びS14~S16の処理と同様であるので、それらの説明については省略する。ステップS32において、フィルタ部193は、ウェーブレット変換部1931で周波数成分を抽出する。ステップS33において、演算部941は、ウェーブレット変換部1931で抽出された周波数成分から構成される数列yk(n)に対して統計的演算を行う。
以上の説明から、このワイヤロープ探傷装置において、複数の帯域のそれぞれの帯域幅bkは、帯域の中心周波数ωckが低くなるほど狭くなっている。よって、帯域の中心周波数ωckが低いほど、周波数分解能が高く且つ時間分解能が低くなる。帯域の中心周波数ωckが高いほど、周波数分解能が低く且つ時間分解能が高くなる。したがって、突発的な変動が時間軸においてどこで起こったかがより正確に検知でき、ゆっくりした変動の周波数をより正確に決定できるため、効率的な分析が可能となる。
また、互いに隣接する2つの帯域のうち、一方の帯域の帯域幅bkと、一方の帯域よりも中心周波数の低い他方の帯域の帯域幅bk+1との関係は、Δk=1/mとすると、bk+1=2-Δk・bkの関係を満たしている。よって、帯域を2のm乗根で変えることができる。したがって、高周波領域において時間分解能が特に改善し、低周波領域において空間分解能が特に改善する。
また、フィルタ部193は、センサ信号x(t)にウェーブレット変換を実行することによりセンサ信号x(t)から周波数成分を抽出する。ウェーブレットは局所的な関数であるため、ウェーブレットと、局所的に発生する素線の損傷部B_Wの検出との相関性が高い。よって、周波数成分のうち損傷周波数成分f_sを強調させることができる。したがって、素線の損傷時に生じる誘起電圧の周波数成分を強調させることができるので、SN比を特に向上させることができる。
また、各実施の形態について、ワイヤロープ探傷装置の各部の機能は、処理回路により実現される。すなわち、ワイヤロープ探傷装置は、合成器92、フィルタ部93、フィルタ部193、演算部941及び判定部943を実行するための処理回路を備えている。処理回路は、専用のハードウェアであっても、メモリに格納されるプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、DSPともいう)であってもよい。
図21は、ハードウェア構成例を説明する図である。図21においては、処理回路201がバス202に接続されている。処理回路201が専用のハードウェアである場合、処理回路201は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又はこれらを組み合わせたものが該当する。ワイヤロープ探傷装置の各部の機能それぞれを処理回路201で実現してもよいし、各部の機能をまとめて処理回路201で実現してもよい。
図22は、他のハードウェア構成例を説明する図である。図22においては、プロセッサ203及びメモリ204がバス202に接続されている。処理回路がCPUの場合、ワイヤロープ探傷装置の各部の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア又はファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ204に格納される。処理回路は、メモリ204に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。すなわち、ワイヤロープ探傷装置は、処理回路により実行されるときに、合成器92、フィルタ部93、フィルタ部193、演算部941及び判定部943を制御するステップが結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ204を備えている。また、これらのプログラムは、合成器92、フィルタ部93、フィルタ部193、演算部941及び判定部943を実行する手順や方法をコンピュータに実行させるものであるといえる。ここで、メモリ204とは、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM等の、不揮発性又は揮発性の半導体メモリや、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等が該当する。
なお、ワイヤロープ探傷装置の各部の機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェア又はファームウェアで実現するようにしてもよい。例えば、フィルタ部93及びフィルタ部193については専用のハードウェアとしての処理回路でその機能を実現し、演算部941及び判定部943については処理回路がメモリ204に格納されたプログラムを読み出して実行することによってその機能を実現することが可能である。
このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。次に、上述の各機能を実現させる一例について具体的に説明する。
図23は、図21又は図22の具体例として図6及び図12の少なくとも一方の制御部9を端末装置501に組み込んで使用するシステム構成例を示す図である。ワイヤロープ探傷装置は、図23に示すように、ワイヤロープ2Sの損傷をプローブ1が検出するものである。ワイヤロープ2Sは、例えば、エレベータのかごを吊り下げるものである。なお、ワイヤロープ2Sは、クレーンに使用されるものであってもよい。
ワイヤロープ2Sは、プローブ1に対して例えば特定方向W_Dに沿って移動しているときに素線の損傷を検出する。プローブ1は、ケーブルを介して、例えば、アナログ信号であるセンサ信号x(t)をAD変換器301に供給する。AD変換器301は、アナログ信号をデジタル信号に変換する。AD変換器301により変換されたデジタル信号は、端末装置501に入力される。端末装置501としては、例えば、パソコンが用いられる。端末装置501は、AD変換器301から入力されたデジタル信号に各種信号処理を施すことにより、素線の損傷の有無を判定する。また、端末装置501は、素線の損傷の有無の判定結果を表示する。
図24は、図21又は図22の具体例として図6及び図12の少なくとも一方の制御部9を判定器401に組み込むことにより、判定器401の処理内容をデータロガー601に供給するシステム構成例を示す図である。プローブ1は、ケーブルを介して、例えば、アナログ信号から構成されたセンサ信号x(t)を判定器401に供給する。判定器401は、マイコンが搭載されている。判定器401は、専用ハードウェアである。判定器401は、アナログ信号をデジタル信号に変換する。判定器401は、変換したデジタル信号に各種信号処理を施すことにより、素線の損傷の有無を判定する。また、判定器401は、素線の損傷の有無の判定結果を報知する。
なお、判定器401は、内部で処理した各種信号をアナログ信号又はデジタル信号として外部装置に供給可能である。外部装置としては、例えば、データロガー601が用いられる。データロガー601は、判定器401からアナログ信号又はデジタル信号が入力されることで、波形の表示が可能である。また、データロガー601は、判定器401の処理内容を記録可能である。
図25は、図21又は図22の具体例として図6及び図12の少なくとも一方の制御部9を判定器401に組み込むことにより、判定器401の処理内容をエレベータ制御盤701に供給するシステム構成例を示す図である。エレベータ制御盤701は、判定器401からデジタル信号が入力されることで、どの物件のどのワイヤロープ2が断線しているか等の監視情報を中央監視センターへ伝達可能である。
以上、ワイヤロープ探傷装置を実施の形態1及び2に基づいて説明したが、これに限定されるものではない。
実施の形態1及び2においては、ワイヤロープ2Sの移動速度ν及びワイヤロープ2Sの径とは関係なく周波数の帯域における上限の周波数と下限の周波数とを一定の範囲に固定させた一例について説明したが、特にこれに限定されるものではない。例えば、ワイヤロープ2Sの移動速度ν及びワイヤロープ2Sの径の少なくとも一方に基づき、周波数の帯域における上限の周波数と下限の周波数とを決めてもよい。
具体的には、ワイヤロープ2Sの移動速度νが速くなるほど、より高い周波数成分が判定に寄与する周波数成分となる。よって、ワイヤロープ2Sの移動速度νが速くなるほど、周波数の帯域における上限の周波数と下限の周波数とを予め設定されたデフォルトの範囲よりも高い方にシフトすることで、より適した周波数の帯域の周波数成分を判定に用いることができる。一方、ワイヤロープ2Sの径が細くなるほど、より高い周波数成分が判定に寄与する周波数成分となる。よって、ワイヤロープ2Sの径が細くなるほど、周波数の帯域における上限の周波数と下限の周波数とを予め設定されたデフォルトの範囲よりも高い方にシフトすることで、より適した周波数の帯域の周波数成分を判定に用いることができる。
また、ワイヤロープ2Sの移動速度νが遅くなるほど、より低い周波数成分が判定に寄与する周波数成分となる。よって、ワイヤロープ2の移動速度νが遅くなるほど、周波数の帯域における上限の周波数と下限の周波数とを予め設定されたデフォルトの範囲よりも低い方にシフトすることで、より適した周波数の帯域の周波数成分を判定に用いることができる。一方、ワイヤロープ2Sの径が太くなるほど、より低い周波数成分が判定に寄与する周波数成分となる。よって、ワイヤロープ2Sの径が太くなるほど、周波数の帯域における上限の周波数と下限の周波数とを予め設定されたデフォルトの範囲よりも低い方にシフトすることで、より適した周波数の帯域の周波数成分を判定に用いることができる。