JP7240679B2 - 多発性硬化症マーカー - Google Patents

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Description

本発明は、脱髄疾患(特に、多発性硬化症)の検査方法等に関し、詳細には、被検体由来の試料中の受容体型タンパク質チロシンフォスファターゼZ(Protein Tyrosine Phosphatase Receptor-type Z;PTPRZ)、より好ましくは分岐型O-マンノース糖鎖修飾型PTPRZを測定する工程を含む、多発性硬化症の検査方法に関する。
多発性硬化症(Multiple sclerosis;MS)は、中枢神経系の白質に多発性の脱髄病変が出現し、運動麻痺や知覚障害などの神経障害を引き起こす脱髄疾患の一つである。欧米の白人に多く、北ヨーロッパでは10万人に50人~100人ほどの割合で発症する。また、日本では10万人に10人程度と少ない(非特許文献1)が、年々増加傾向にあり、患者数は世界では250万人以上にのぼる。
多発性硬化症の臨床像は、大きく分けて、(1)再発寛解型(Replacing-remitting MS;RRMS)、(2)一次進行型(Primary progressive MS;PPMS)、(3)二次進行型(Secondary progressive MS;SPMS)の3つに分類される。RRMSは、症状の悪化(再発)と症状の安定(寛解)が交互に起こり、数カ月から数年間の寛解期間と再発が繰り返されることを特徴とする。PPMSは、病状が進行しない一時的な停滞期間があるが、寛解せず徐々に病状が進行していくことを特徴とする。SPMSは、発症初期は再発と寛解が繰り返されるが、緩やかに進行していくことを特徴とする。現時点において、多発性硬化症も根治療法は確立されておらず、患者の発病の時期や症状に応じた対症療法が行われている。
多発性硬化症の治療を困難にする要因の一つとして、その診断の難しさが挙げられる。多発性硬化症は、症状が多様であり、該疾患に特異的なバイオマーカーも見いだされていないため、医師による診断が難しい。特に、病巣が単発性の場合、脳腫瘍や脳炎・脳症との鑑別が困難になる。現状、多発性硬化症の診断は、MRI検査や髄液検査によって行われているが、MRI検査が可能な施設は限られており、また髄液検査も多発性硬化症に特異的ではなく、場合によっては危険性の伴う患部の組織生検を試行することで(非特許文献7)他の疾患の可能性を排除してはじめて多発性硬化症との確定診断が可能となるものである。多発性硬化症に対しては免疫力を抑制するためにステロイド剤を投与するなどの治療を行うのに対し、脳腫瘍に対しては手術、放射線治療、薬物治療の3つを組み合わせた治療を行うなど、疾患ごとに治療アプローチが異なることからも的確な診断が重要である。それにもかかわらず、現状では多発性硬化症を早期に診断することは非常に難しく、実際に、多発性硬化症の最初の症状が現れてから多発性硬化症であると確定診断されるまでの期間は平均3年を超えるとの調査結果もある。
かかる背景から、多発性硬化症をより簡便に診断できる検査方法の確立が強く求められている。
受容体型プロテインチロシンホスファターゼは、構造的な類似性から8つのサブファミリーに分類される(非特許文献2)。その細胞外領域は、免疫グロブリン様(Ig)ドメイン、フィブロネクチン様(FN)ドメイン、炭酸脱水酵素様(CAH)ドメイン、Meprin-A5-PTPμ(MAM)ドメインなどの、多彩なドメインで構成されており、細胞内には1つまたは2つのチロシンフォスファターゼ(PTP)ドメインが存在する。タンデム型の受容体型プロテインチロシンホスファターゼでは細胞膜近位側のD1のみがホスファターゼ活性を有しており、D2には酵素活性がない(例外的にR4 RPTPサブファミリーのD2には若干の活性が認められる)。
受容体型タンパク質チロシンフォスファターゼZ(Protein Tyrosine Phosphatase Receptor-type Z1;PTPRZ、PTPRZ1、或いはPtprz、PTPζ又はRPTPβ等とも称される)は、R5サブファミリーに属する。哺乳類のPTPRZにはスプライシングバリアントが存在し、例えばマウスにおいては、これにより3種のアイソフォーム(受容体型であるPTPRZ-AおよびPTPRZ-B、ならびに分泌型であるPTPRZ-S)が存在する。PTPRZは、細胞外のCAHドメイン、FNタイプIII様ドメイン、コンドロイチン硫酸鎖結合領域(Ser-Gly/Gly-Serに富む)と、細胞内の2つのPTPドメイン(D1およびD2)で構成されている。PTPRZは、他のRPTPと異なり、細胞外領域にコンドロイチン硫酸やケラタン硫酸などの硫酸化グリコサミノグリカンと呼ばれる硫酸化多糖修飾を有する。PTPRZの主要発現部位である脳組織では、すべてのアイソフォームがコンドロイチン硫酸プロテオグリカンとして発現している(非特許文献3~5)。PTPRZは、中枢神経系における神経細胞およびグリア細胞(アストロサイトおよびオリゴデンドロサイト)の両方に発現している。PTPRZは、脱髄刺激に応答して、N-アセチルグルコサミン転移酵素GnT-IX(MGAT5B、Mannosyl(Alpha-1,6-)-Glycoprotein Beta-1,6-N-Acetyl-Glucosaminyltransferase, Isozyme Bとも称される)を介しての分岐型O-マンノース修飾を受けることが報告されている(非特許文献6)。
Kinoshita M. et al., Neurol Sci. 2015;36(7):1147-51. Tonks NK, Nat Rev Mol Cell Biol. 2006 Nov;7(11):833-46. Nishiwaki T. et al., J Biochem. 1998 Mar;123(3):458-67. Chow JP. et al., J Biol Chem. 2008 Nov 7;283(45):30879-89. Chow JP. et al., Neurosci Lett. 2008 Sep 19;442(3):208-12. Kanekiyo K. et al., J Neurosci. 2013 Jun 12;33(24):10037-47. Nakazawa Y. et al., Jpn. J. Cli. Immunol.2013;36(3):175-9
本発明の目的は、脱髄疾患(特には多発性硬化症)の新規検査方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、脱髄疾患の患者の脳脊髄液中の、PTPRZアイソフォーム1および2の細胞外領域に相当する分泌型(遊離型)のPTPRZアイソフォーム1および2の含有量が、対照群のそれと比較して減少していることを見出した。特に、多発性硬化症患者の脳脊髄液中の分泌型PTPRZアイソフォーム1および2の含有量が顕著に減少していることを見出した。さらに驚くべきことに糖転移酵素GnT-IXによってPTPRZが糖鎖修飾されることによって生じる、分岐型O-マンノース糖鎖修飾型PTPRZ量も脳脊髄液中において対象群より減少していることを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]被検体由来の試料中の分泌型受容体型タンパク質チロシンフォスファターゼZ(PTPRZ)を測定する工程を含む、多発性硬化症の検査方法であって、該被検体由来の試料中の分泌型PTPRZ量の測定値が、対照群の試料中の分泌型PTPRZ量と比較して低い場合に、該被検体が多発性硬化症であることが示され、該分泌型PTPRZが、分泌型PTPRZアイソフォーム1及び分泌型PTPRZアイソフォーム2のいずれかまたは両方である、方法。
[2]前記分泌型PTPRZアイソフォーム1および分泌型PTPRZアイソフォーム2が、分岐型O-マンノース糖鎖修飾型PTPRZである、[1]記載の方法。
[3]被検体由来の試料が、脳脊髄液または血液である、[1]または[2]記載の方法。
[4]被検体由来の脊髄液中の分泌型PTPRZの測定が、該タンパク質を特異的に認識する抗体または分岐型O-マンノース糖鎖を特異的に認識する抗体を用いて行われることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか記載の方法。
[5]分泌型PTPRZを特異的に認識する抗体および分岐型O-マンノース糖鎖を特異的に認識する抗体のいずれかまたは両方を含む、多発性硬化症の診断用キットであって、該分泌型PTPRZが、分泌型PTPRZアイソフォーム1及び分泌型PTPRZアイソフォーム2のいずれかまたは両方である、キット。
[6]被検体由来の試料中の分泌型受容体型タンパク質チロシンフォスファターゼZ(PTPRZ)を測定する工程を含む、脱髄状態の検査方法であって、該被検体由来の試料中の分泌型PTPRZ量の測定値が、対照群の試料中の分泌型PTPRZ量と比較して低い場合に、該被検体が脱髄を起こしていることが示され、該分泌型PTPRZが、分泌型PTPRZアイソフォーム1及び分泌型PTPRZアイソフォーム2のいずれかまたは両方である、方法。
[7]被検体由来の試料中の分岐型O-マンノース糖鎖修飾型受容体型タンパク質チロシンフォスファターゼZ(PTPRZ)を測定する工程を含む、脱髄状態の検査方法であって、該被検体由来の試料中の分岐型O-マンノース糖鎖修飾型PTPRZ量の測定値が、対照群の試料中の分岐型O-マンノース糖鎖修飾型PTPRZ量と比較して低い場合に、該被検体が脱髄を起こしていることが示され、該分岐型O-マンノース糖鎖修飾型PTPRZが、分岐型O-マンノース糖鎖修飾型PTPRZアイソフォーム1および分岐型O-マンノース糖鎖修飾型PTPRZアイソフォーム2のいずれかまたは両方である、方法。
また、別の一態様において、本発明は以下の通りである。
[1A]被検体由来の試料中の受容体型タンパク質チロシンフォスファターゼZ(PTPRZ)を測定する工程を含む、多発性硬化症の検査方法であって、該被検体由来の試料中の分泌型PTPRZ量の測定値が、対照群の試料中のPTPRZ量と比較して低い場合に、該被検体が多発性硬化症であることが示される、方法。
[2A]PTPRZが、分岐型O-マンノース糖鎖修飾型PTPRZである、[1A]記載の方法。
[3A]被検体由来の試料が、脳脊髄液または血液である、[1A]または[2A]記載の方法。
[4A]被検体由来の脊髄液中のPTPRZの測定が、該タンパク質を特異的に認識する抗体または分岐型O-マンノース糖鎖を特異的に認識する抗体を用いて行われることを特徴とする、[1A]~[3A]のいずれか記載の方法。
[5A]PTPRZが、分泌型PTPRZアイソフォーム1、分泌型PTPRZアイソフォーム2、および分泌型PTPRZアイソフォーム3からなる群から選択されるいずれか1つまたは2種以上である、[1A]~[4A]のいずれか記載の方法。
[6A]PTPRZを特異的に認識する抗体および分岐型O-マンノース糖鎖を特異的に認識する抗体のいずれかまたは両方を含む、多発性硬化症の診断用キット。
[7A]被検体由来の試料中の受容体型タンパク質チロシンフォスファターゼZ(PTPRZ)を測定する工程を含む、脱髄状態の検査方法であって、該被検体由来の試料中の分泌型PTPRZ量の測定値が、対照群の試料中のPTPRZ量と比較して低い場合に、該被検体が脱髄を起こしていることが示される、方法。
[8A]被検体由来の試料中の分岐型O-マンノース糖鎖修飾型受容体型タンパク質チロシンフォスファターゼZ(PTPRZ)を測定する工程を含む、脱髄状態の検査方法であって、該被検体由来の試料中の分岐型O-マンノース糖鎖修飾型PTPRZ量の測定値が、対照群の試料中の分岐型O-マンノース糖鎖修飾型PTPRZ量と比較して低い場合に、該被検体が脱髄を起こしていることが示される、方法。
本発明により、多発性硬化症の確定診断に有用な新たな客観的指標が提供される。
ヒトPTPRZの3種類のアイソフォームの構造を示す概念図である。Aはアイソフォーム1を、Bはアイソフォーム2を、Cはアイソフォーム3を示す。図中、CAはカルボニックアンヒドラーゼ様ドメインを、FNはタイプIIIフィブロネクチン様ドメインを、CSはコンドロイチン硫酸鎖結合領域を、TMは膜貫通ドメインを、D1とD2はいずれもPTPドメインを表す。 図2は、多発性硬化症患者脳切片におけるCat-315抗体、または抗PTPRZ抗体を用いた免疫組織化学染色の結果を示す。 図3は、多発性硬化症罹患患者では髄液中の分泌型(遊離型)PTPRZアイソフォーム1および分泌型(遊離型)PTPRZアイソフォーム2の量が突発性正常圧水頭症罹患患者(対照群)のそれと比較して顕著に減少していることを示すグラフである。なお、データは平均値+標準誤差(SE)で示した。
以下、本発明について詳細に説明する。
1.多発性硬化症の検査方法
本発明は、被検体由来の試料中の分泌型受容体型タンパク質チロシンフォスファターゼZ(PTPRZ)アイソフォーム1および2のいずれかまたは両方を測定する工程を含む、多発性硬化症の検査方法(以下、「本発明の検査方法」と称することがある。)を提供する。
本発明の検査方法により罹患の有無を検査し得る多発性硬化症は、上述した通り3つの型に分類され得る。本発明によれば、再発寛解型(RRMS)、一次進行型(PPMS)、(3)二次進行型(SPMS)のいずれの型も検査可能である。
本発明の検査方法の一態様において、被検体由来の試料中の分泌型PTPRZアイソフォーム1および2のいずれかまたは両方の含有量を指標として測定し、対照群の対応する値と比較することにより、被検体における多発性硬化症の罹患の有無を検査することができる。PTPRZは、ヒトにおいては、細胞外領域の長さが異なる3種類のスプライシングバリアントが存在し、長いものからアイソフォーム1(配列番号1)、アイソフォーム2(配列番号2)、アイソフォーム3(配列番号3)となっている。さらにそれぞれの各アイソフォームの細胞外領域がプロテアーゼによって切断されて生じる分泌型(或いは「遊離型」ともいう)PTPRZが知られている。齧歯類では膜貫通領域以降のC末領域を欠失しているスプライシングバリアントも報告されているが、ヒトでは相当するバリアントは未同定である。従って、本発明の検査方法においては、被検体由来の試料中の分泌型(遊離型)PTPRZアイソフォーム1および/または2の含有量を測定し、対照群(健常者または多発性硬化症を罹患していない対象者)の対応する値と比較することにより、被検体における多発性硬化症の罹患の有無を検査することができる。以下、ヒトのPTPRZの各アイソフォームおよびそれらの分泌型について詳述する。尚、本明細書において「分泌型(遊離型)PTPRZ」とは、ヒトPTPRZにおける各アイソフォームの細胞外領域に由来するポリペプチド断片をいう。PTPRZには、細胞外領域のC末端側にプロテアーゼに対し感受性の高い部位が存在する。この部位がメタロプロテアーゼ等のプロテアーゼの分解により切断され、分泌型(遊離型)PTPRZとなる。本明細書において、「分泌型」PTPRアイソフォームは、「遊離型」PTPRZアイソフォームと言い換えることができる。
PTPRZアイソフォーム1は、配列番号1で示す2315アミノ酸からなる。PTPRZアイソフォーム1は、1~24位にシグナルペプチドを、45~298位にCAドメインを、313~401位にFNドメインを、1637~1662位に膜貫通ドメインを、1717~1992位にD1ドメインを、そして2023~2282位にD2ドメインを有する。また、CS結合領域は、前記FNドメインと膜貫通ドメイン間でCS鎖結合している領域が該当する。PTPRZアイソフォーム1の細胞外領域は、配列番号1で示すアミノ酸配列において25~1636位に相当する配列番号4で示すアミノ酸配列からなる。配列番号4の全長または部分断片のポリペプチドが、分泌型PTPRZアイソフォーム1に相当する。
PTPRZアイソフォーム2は、配列番号2で示す2308アミノ酸残基からなる。PTPRZアイソフォーム2は、PTPRZアイソフォーム1におけるD1ドメインの1723~1729位に相当する7アミノ酸残基が欠失したアイソフォームである。したがって、アイソフォーム2の細胞外領域は、アイソフォーム1のそれと一致し、配列番号4で示すアミノ酸配列からなる。従って、配列番号4の全長または部分断片のポリペプチドが分泌型PTPRZアイソフォーム2に相当する。
PTPRZアイソフォーム3は、配列番号3で示す1448アミノ酸残基からなる。PTPRZアイソフォーム3は、PTPRZアイソフォーム1におけるCS結合領域の大部分に相当し得る755~1614位の860アミノ酸残基と、1723~1729位に相当する7アミノ酸残基が欠失したアイソフォームである。したがって、アイソフォーム3の細胞外領域は、アイソフォーム1及び2のそれよりも短く、配列番号1で示すアミノ酸配列において25~754位及び1615~1636位に相当するアミノ酸配列からなる。
分泌型PTPRZには、PTPRZアイソフォーム1およびPTPRZアイソフォーム2の細胞外ドメインに由来する約350kDaのlong-formと、PTPRZアイソフォーム3の細胞外ドメインに由来する約180kDaのshort-formの2種類が存在するが、このうち、long-form(及びこの断片ポリペプチド)が多発性硬化症の検出用マーカーとなり得る。尚、本発明において実際に検出対象となるアミノ酸配列は、配列番号4に示されるアミノ酸配列(1612アミノ酸)の全長ポリペプチドおよび/またはその一部分からなる部分ペプチドである。かかる部分ペプチドとしては、例えば、配列番号4に示されるアミノ酸の、連続する1129アミノ酸以上のアミノ酸を含むペプチド、連続する1209アミノ酸以上のアミノ酸配列を含むペプチド、連続する1290アミノ酸以上のアミノ酸配列を含むペプチド、連続する1371アミノ酸以上のアミノ酸配列を含むペプチド、連続する1451アミノ酸以上のアミノ酸配列を含むペプチド、連続する1532アミノ酸以上のアミノ酸配列を含むペプチド、連続する1580アミノ酸以上のアミノ酸配列を含むペプチド、および、連続する1596アミノ酸以上のアミノ酸配列を含むペプチド等が例示されるが、これらに限定されない。
また、本発明の方法の別の一態様としては、被検体由来の試料中の分岐型O-マンノースの含有量を測定し、対照群の対応する値と比較することにより、被検体における多発性硬化症の罹患の有無を検査することができる。PTPRZは、脱髄刺激に応答して、N-アセチルグルコサミン転移酵素GnT-IXを介しての分岐型O-マンノース修飾を受ける。従って、被検体由来の試料中の分岐型O-マンノースの含有量は、分泌型PTPRZアイソフォーム1および2の存在量を反映していると考えられる。従って、被検体由来の試料中の分岐型O-マンノースの含有量を測定し、対照群の対応する値と比較することによっても、多発性硬化症の罹患の有無を検出することができる。
被検体由来の試料中の分泌型PTPRZアイソフォーム1および2の測定方法は、当該タンパク質量が定量できる方法であればいかなる方法を用いてもよい。例えば、質量分析、クロマトグラフィー法(液体クロマトグラフィーまたはガスクロマトグラフィー等)、電気泳動法、抗体を用いた免疫測定法などが挙げられるが、これらに限定されない。特に免疫測定法が簡便で好ましい。免疫測定法の場合、反応形式に基づいて分類すると、サンドイッチ法、競合法、凝集法、ウエスタンブロット法等があり、また、標識に基づいて分類すると、ラジオイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ、酵素イムノアッセイ(EIA)、ビオチンイムノアッセイ等が挙げられるが、これらに限定されない。
免疫測定に用いる抗体は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体のいずれであってもよいが、再現性の観点からはモノクローナル抗体が好ましい。本発明の検査方法を実施するに際して、市販の抗体を用いてもよく、また、自体公知の方法により分泌型PTPRZアイソフォーム1および/または2、または分岐型O-マンノース糖鎖修飾型PTPRZアイソフォーム1および/または2を特異的に認識する抗体を作製して用いてもよい。
なお、本明細書における用語「抗体」は、「抗原結合断片」をも含む概念である。「抗原結合断片」とは、もとの抗体の対応抗原に対する結合性(抗原抗体反応性)を維持している抗体断片を意味する。かかる抗原結合断片の一例としては、Fab、F(ab’)、scFv等が挙げられるがこれらに限定されない。かかる抗原結合断片は、自体公知の方法により調製することができる。本発明の検査方法に用いられる市販抗体としては、例えば、マウスモノクローナルCat-315 IgM(Millipore)やマウス抗PTPRZ IgMκ(122.2)(Santa cruz biotechnology)が挙げられるがこれらに限定されない。
本明細書において、抗体が抗原を「特異的に認識する」とは、抗原抗体反応における抗体の抗原に対する結合親和性についてのK値が、1×10-5M以下(好ましくは、1×10-6M以下、1×10-7M以下、1×10-8M以下、より好ましくは1×10-9M以下、最も好ましくは1×10-10M以下)であることを意味する。
分泌型PTPRZアイソフォーム1および/または2の測定に用いられる抗体は、例えば、以下の抗体が例示される:
(1)分泌型PTPRZアイソフォーム1を特異的に認識する抗体
(2)分泌型PTPRZアイソフォーム2を特異的に認識する抗体
(3)分泌型PTPRZアイソフォーム1および2を特異的に認識する抗体。
また、PTPRZは、生体内において糖転移酵素であるGnT-IXにより、分岐型O-マンノース糖鎖により修飾される。以下の実施例で詳述するように、本発明者らは、脳脊髄液中の分泌型PTPRZアイソフォーム1および2もまた、分岐型O-マンノース糖鎖修飾されていることを明らかにしている。従って、抗PTPRZ抗体の代わりに、PTPRZ上の分岐型O-マンノース糖鎖を特異的に認識するCat-315抗体等の抗体も本発明の検査方法に用いることができる。これらの抗体は、自体公知の方法により調製できるほか、市販されているものを用いてもよい。このような観点によれば、本発明の検査方法を次のように定義することもできる:被検体由来の試料中の分岐型O-マンノース糖鎖修飾型受容体型タンパク質チロシンフォスファターゼZ(PTPRZ)を測定する工程を含む、多発性硬化症の検査方法であって、該被検体由来の試料中の分岐型O-マンノース糖鎖修飾型PTPRZ量の測定値が、対照群の試料中の分岐型O-マンノース糖鎖修飾型PTPRZ量と比較して低い場合に、該被検体が多発性硬化症であることが示される、方法。
本発明の検査方法においては、被検体由来の試料中の分泌型PTPRZアイソフォーム1および/または2の量を測定する。以下の実施例においては脳脊髄液を試料として用いているが、脳脊髄液は静脈に流入することが知られているため、血液も用い得る。好ましい態様において、被検体由来の試料は脳脊髄液である。
本発明の検査方法において、被検体由来の試料中の分泌型PTPRZアイソフォーム1および/または2の測定値が、対照群の試料中の該タンパク質量と比較して、有意に低い場合に多発性硬化症であることが示される。なお、測定値の比較においては、予めカットオフ値を設定しておき、当該カットオフ値と被検体由来の試料中の分泌型PTPRZアイソフォーム1および/または2の量の測定値を対比してもよい。測定値がカットオフ値より低い場合に、被検体が多発性硬化症を罹患していることが示される。
カットオフ値の設定は、当業者であれば自体公知の方法を用いて設定することができる。例えば、既知の患者群および対照群(健常者または多発性硬化症を罹患していない対象者)から複数の試料を得て、分泌型PTPRZアイソフォーム1および/または2の量を測定し、望ましい感度および/または特異度で両群を判別できる値をカットオフ値として設定すればよい。
本発明の検査方法が適用される被検体としては、ヒト、サル、ラット、イヌ、ネコ等の哺乳動物が例示され、特にヒトが好ましい。
2.多発性硬化症の検査用キット
本発明はまた、分泌型PTPRZアイソフォーム1および2のいずれかまたは両方を特異的に認識する抗体および分岐型O-マンノース糖鎖を特異的に認識する抗体のいずれかまたは両方を含む、多発性硬化症の診断用キット(以下、「本発明のキット」と称することがある)を提供する。本発明のキットを用いて、被検体由来の試料中における分泌型PTPRZアイソフォーム1および/または2の量を測定し、対照群の試料中の対応する量と比較することで、被検体が多発性硬化症に罹患しているか否かを簡便に検査することができる。
本発明のキットに含まれる分泌型PTPRZアイソフォーム1および/または2を特異的に認識する抗体は、以下の抗体が例示される:
(1)分泌型PTPRZアイソフォーム1を特異的に認識する抗体
(2)分泌型PTPRZアイソフォーム2を特異的に認識する抗体
(3)分泌型PTPRZアイソフォーム1および2を特異的に認識する抗体
(4)分岐型O-マンノース糖鎖を特異的に認識する抗体。
尚、(4)分岐型O-マンノース糖鎖を特異的に認識する抗体は、自体公知の方法を用いて調製することができるほか、上述した通り、Cat-315抗体などの市販抗体を用いてもよい。一態様において、本発明のキットは、上記(1)~(4)の抗体の1つ以上を構成成分として含む。また、本発明のキットは、取扱説明書や判定基準等をはじめとする、抗体以外の他の構成成分を含んでいてよい。
本発明の一態様において、本発明の多発性硬化症の検査方法は、多発性硬化症の治療方法と組み合わせてもよい。従って、本発明は、以下の工程を含む、多発性硬化症の検査及び治療方法を提供する:
(1)被検体由来の試料中の分泌型受容体型タンパク質チロシンフォスファターゼZ(PTPRZ)を測定する工程であって、ここで、該被検体由来の試料中の分泌型PTPRZ量の測定値が、対照群の試料中の分泌型PTPRZ量と比較して低い場合に、該被検体が多発性硬化症であることが示され、該分泌型PTPRZが、分泌型PTPRZアイソフォーム1及び分泌型PTPRZアイソフォーム2のいずれかまたは両方である、工程;および
(2)工程(1)で多発性硬化症に罹患すると判定された被検体に対し、治療有効量の多発性硬化症の治療剤を投与する工程。
本発明に用いられる多発性硬化症の治療剤としては、例えば、ステロイド、インターフェロンβ、S1P受容体調節薬、免疫抑制薬、アルキル化薬、抗癌性抗生物質、抗CD52抗体、および抗α4インテグリン抗体等の多発性硬化症の治療剤の投与が挙げられるが、これらに限定されない。
ステロイドとしては、例えば、アムシノニド、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、コハク酸プレドニゾロンナトリウム、メチルコハク酸プレドニゾロンナトリウム、シクレソニド、ジフルプレドナート、プロピオン酸ベタメタゾン、デキサメタゾン、デフラザコート、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、ハルシノニド、パルミチン酸デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、ピバル酸フルメタゾン、ブチル酢酸プレドニゾロン、ブデソニド、硫酸プラステロン、フロ酸モメタゾン、フルオシノニド、フルオシノロンアセトニド、フルドロキシコルチド、フルニソリド、プレドニゾロン、プロピロン酸アルクロメタゾン、プロピオン酸クロベタゾール、プロピオン酸デキサメタゾン、プロピオン酸デプロドン、プロピオン酸フルチカゾン、プロピオン酸ベクロメタゾン、ベタメタゾン、メチルプレドニゾロン、メチルプレドニゾロンスレプタネート、メチルプレドニゾロンナトリウムスクシネート、リン酸デキサメタゾンナトリウム、リン酸ヒドロコルチゾンナトリウム、リン酸プレドニゾロンナトリウム、吉草酸ジフルコルトロン、吉草酸デキサメタゾン、吉草酸ベタメタゾン、吉草酸酢酸プレドニゾロン、酢酸コルチゾン、酢酸ジフロラゾン、酢酸デキサメタゾン、酢酸トリアムシノロン、酢酸パラメサゾン、酢酸ハロプレドン、酢酸フルドロコルチゾン、酢酸プレドニゾロン、酢酸メチルプレドニゾロン、酪酸クロベタゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン、酪酸プロピオン酸ベタメタゾンが挙げられる。
S1P受容体調節薬としては、例えば、フィンゴリモド(fingolimod)、シポニモド(siponimod)、ポネシモド(ponesimod)、セラリフィモド(ceralifimod)、オザニモド(ozanimod)が挙げられる。
免疫抑制薬としては、例えば、アザチオプリン、アスコマイシン、エベロリムス、サラゾスルファピリジン、シクロスポリン、シクロホスファミド、シロリムス、タクロリムス、ブシラミン、メトトレキサート、レフルノミド、テリフルノミドが挙げられる。
アルキル化薬としては、例えば、塩酸ナイトロジェンマスタード-N-オキシド、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、チオテパ、カルボコン、ブスルファン、塩酸ニムスチン、ダカルバジン、ラニムスチン、カルムスチン、クロラムブシル、ベンダムスチン、メクロエタナミンが挙げられる。
抗癌性抗生物質としては、例えば、アクチノマイシンD、マイトマイシンC、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸アクラルビシン、ネオカルチノスタチン、塩酸ピラルビシン、(塩酸)エピルビシン、塩酸イダルビシン、クロモマイシンA3、(塩酸)ブレオマイシン、硫酸ペプロマイシン、テラルビシン、ジノスタチン・スチマラマー、ゲムツズマブオゾガマイシン、塩酸ミトキサントロンが挙げられる。
抗CD52抗体としては、例えば、アレムツズマブ(alemtuzumab)が挙げられる。また、抗α4インテグリン抗体としては、例えば、ナタリズマブ(natalizumab)が挙げられる。
多発性硬化症の治療剤の治療有効量は、有効成分の種類、治療対象の体重および性別、または投与経路等によって異なり得るが、適切な投与量や投与方法は、当業者であれば適宜選択することができる。尚、治療剤の投与経路は、有効成分の種類によって経口または非経口的のいずれかを選択することができる。非経口投与には、例えば、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与等が含まれるがこれらに限定されない。
なお、本明細書における疾患の「治療」には、疾患の治癒のみならず、疾患の寛解および疾患の程度の改善も含まれ得る。
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
全ての動物実験は、理化学研究所の動物実験実施規定に従って行った。ヒトの脳脊髄液および脳の免疫組織学的解析は福島県立医科大学で同大学の計画書に沿って行った。通常、脳脊髄液の採取するために腰椎穿刺を施行する場合、穿刺後に頭痛が起きることがあり、症状が強い場合は微熱、頭痛、嘔吐を伴うこともあるため、神経疾患が疑われる患者に対してのみ脳脊髄液を採取する。
[実施例1]免疫組織化学染色
多発性硬化症患者脳のパラフィン包埋切片の脱パラフィン処理を次の通り行った。キシレンに3回、99.5%エタノールに3回、90%エタノールに1回、80%エタノールに1回、70%エタノールに1回、5分間ずつ浸し、流水中に5分間浸した。0.01Mクエン酸緩衝液(pH8.5)中、121℃で5分間オートクレーブを行い、PBS(pH7.8)に浸した。
多発性硬化症患者脳の切片をPBSで洗浄した後、0.5%TritonX-100-PBSに15分間浸漬し、透過処理を行った。0.05%Tween-20-PBS(PBS-T)中で5分間ずつ3回振とうして洗浄した後、5%正常ヤギ血清PBS中で30分間振とうした。PBS-T中で5分間ずつ2回洗浄後、Dako REAL antibody diluent(Dako)で希釈した一次抗体(マウスモノクローナルCat-315 IgM(Millipore)、マウス抗PTPRZ IgMκ(122.2)(Santa cruz biotechnology)に室温で2時間または4℃で一晩浸漬した。希釈倍率PBS-T中で5分間ずつ3回洗浄した後、DAKO REAL antibody diluentで希釈したAlexa fluor 546-または488-標識二次抗体およびDAPIに室温で45分間浸漬した。PBS-T中で5分間ずつ3回洗浄後、CC/Mount中で封入し、FV1000-D共焦点レーザー顕微鏡(Olympus)で観察した。得られた染色図のシグナル強度の解析を、MetaMorph(Olympus)により行った(図1)。その結果、Cat-315陽性細胞とPTPRZ陽性細胞が一致しており、Cat-315陽性細胞はPTPRZ陽性であることが明らかとなった。
[実施例2]
多発性硬化症患者由来の脳脊髄液に対し、視神経脊髄炎(neuromyelitis optica、NMO)患者由来の脳脊髄液、および特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus、iNPH)の疑いがあったが診断の結果iNPHではないと判断された被検体(non-iNPH、対照群として使用)を、多発性硬化症の疾患コントロールとして用いた。これらの脳脊髄液は、福島県立医科大学附属病院を中心とした医療機関で得られた患者試料であり、全患者からインフォームドコンセントを取得した。使用した抗体は、マウスモノクローナルCat-315 IgM(Millipore)、マウス抗PTPRZ IgMκ(122.2)(Santa cruz biotechnology)、ヤギポリクローナル抗Transthyretin(TTR)抗体(Abcam)を用いた。その他の試薬は主にWakoより購入した。
MS患者(n=3)、NMO患者(n=3)、non-iNPH患者(n=3、コントロール)由来の脳脊髄液10μLにコンドロイチナーゼ消化を行い、ウェスタンブロッティングを行った。なお、コンドロイチナーゼ消化の詳細は次の通りである。試料溶液に、終濃度50mM Tris-HCl(pH8.0)、30mM酢酸ナトリウム、200U/L Chondroitinase ABC(Seikagaku)を加え、37℃で1時間攪拌した。
ウェスタンブロッティングは以下の手順にて行った。試料溶液にLaemmliのSample buffer(終濃度20.8mM Tris-HCl(pH6.5)、8.3%グリセロール、1%SDS、1%βメルカプトエタノール)を加え、99℃で5分加熱した。3-10%グラジエントポリアクリルアミドゲル(Atto)を用いてゲル1枚あたり20-25mAの定電流で60-70分間泳動した。セミドライ式の転写装置を用いて、ニトロセルロース膜に150mAの定電流で90分間転写を行った。5%スキムミルク-0.05%Tween20-TBS(pH7.4)(TBS-T)に30分間浸漬してブロッキングを行った後、TBS-Tで希釈した一次抗体中で室温で2時間または4℃で一晩振とうした。TBS-T中に5分間ずつ3回浸漬して洗浄したのち、TBS-Tで希釈したHRP標識二次抗体と室温で40分間反応させた。TBS-Tで3回洗浄後、SuperSignal West Femto(Thermo Fisher Scientific)を用いて発光させ、シグナルをLAS4000 mini(GE Healthcare)で検出した。なお、バンドのシグナル強度の定量は、LAS4000 mini付属の定量ソフトを用いて行った。結果を表1に示す。表1は、MS患者由来、MNO患者由来、non-iNPH由来の試料において、脳脊髄液の内部標準として検出したTTRのシグナル強度に対する分泌型PTPRZアイソフォーム1および2の上段のバンドのシグナル強度あるいはCat-315抗体で検出される上部のバンドのシグナル強度の相対値として示したものである。
表1に示される通り、多発性硬化症患者由来の脳脊髄液においては、PTPRZアイソフォーム1および2の細胞外領域に由来すると考えられる上段バンド(PTPRZアイソフォーム2全長はPTPRZアイソフォーム1全長と7アミノ酸の違いしかなく、また、両者の細胞外領域のアミノ酸配列は同一であるため、同じバンドとして検出される。約350kDa)および分泌型PTPZアイソフォーム3の細胞外領域に由来すると考えられる下段バンド(約180kDa)のシグナルが検出された。このうち、多発性硬化症患者由来の脳脊髄液では、対照と比較して、上段のバンドのシグナル量が著しく減少していることが分かった。また、対応する分岐型O-マンノース糖鎖修飾型PTPRZのシグナル量も同様に減少していた。興味深いことに、NMO患者の検体でもMS患者の検体と同レベルまで低下している検体があった。NMOはアストロサイトのアクアポリン4が自己抗体によって攻撃されることで炎症が起こる疾患だが、炎症が進むことで脱髄を起こすと考えられている。従って、一部のNMO患者の検体において分岐型O-マンノース糖鎖修飾型PTPRZの減少がみられたことは、当該患者においてMSと同様に脱髄が起こっていることを示している可能性が考えられる。以上より、脳脊髄液中の分岐型O-マンノース糖鎖修飾型PTPRZの量は脱髄の程度を反映するバイオマーカーとして利用し得ることが示された。
Figure 0007240679000001
[実施例3]髄液中の分泌型PTPRZアイソフォーム1および2のMS検出用マーカーとしての検証
以下の実験を通じて、分泌型PTPRZ(分泌型PTPRZアイソフォーム1および2(即ち、分泌型PTPRZ long-form))がMS検出用マーカーとして機能し得ることを検証した。
多発性硬化症(MS)患者群(24名)、および特発性正常圧水頭症(iNPH)患者(疑い例含む)群(25名)のそれぞれに由来する髄液中の分泌型PTPRZアイソフォーム1および2の量をウェスタンブロッティングで測定した。
抗体は、抗PTPRZ抗体であるマウス抗PTPζ IgMκ (sc―33664、Santa cruz)、及びヤギ抗マウスIgM抗体-HRP(SAB-110、Stressgen)を使用した。マウス抗PTPZ IgMκはラット胎児脳からプロテオグリカン画分を調製して作製されたPTPRZ特異的モノクローナル抗体である。その他の試薬は、主にWako社より購入した。
上記各患者から採取した10μLの髄液を、まずコンドロイチナーゼ消化に供した。具体的には、試料溶液に、終濃度100mM Tris-HCl(pH7.5)、60mM 酢酸ナトリウム、4mUコンドロイチナーゼABC(Sigma、2905)を添加し、37℃にて1時間インキュベートした。
その後、ウェスタンブロッティングを行った。ウェスタンブロッティングは以下の手順で行った。コンドロイチナーゼ処理した試料溶液にLaemmliのSample buffer(終濃度20.8mM Tris-HCl(pH6.5)、8.3%グリセロール、1%SDS、1%βメルカプトエタノール)を加え、99℃で5分間加熱した。3~10%グラジエントポリアクリルアミドゲル(Atto社、NPG-310L)を用いてゲル1枚あたり20mA~25mAの定電流で60分間~70分間泳動した。ウェット式の転写装置を用いて、ニトロセルロース膜に350mAの定電流で45分間転写を行った。1%BSA-PBS(pH7.4)に4℃で1晩浸漬してブロッキングを行った後、PBS-0.1%Tween(PBS-T)で200倍希釈したマウス抗PTPRZ IgMκ(Santa cruz、sc-33664)を一次抗体として含む1.5mLのPBS-T中で室温にて2時間振とうした。続いて、PBS-T中に5分間ずつ3回浸漬して洗浄した後、二次抗体として10,000倍希釈したHRP標識化ヤギ抗マウスIgM抗体(SAB-110、Stressgen)を含むPBS-Tと室温で2時間反応させた。TBS-Tで3回洗浄後、SuperSignal West Femto maximum sensitivity substrate(Thermo Fisher Scientific社、 34096)を用いて発色させて、得られたシグナルをATTO Ez-Capture MG(ATTO)で検出した。なお、バンドのシグナル強度の定量は、付属の定量ソフトCS Analyzerを用いて行った。結果を図3に示す。
図3に示される通り、MS患者由来の髄液中の分泌型PTPRZアイソフォーム1および2のシグナル強度は、コントロール群(特発性正常圧水頭症患者(疑い例を含む)群)由来の髄液中のそれと比較して、有意に低かった。この結果から、分泌型PTPRZアイソフォーム1および2がMS検出用マーカーとなり得ることが示された。
本発明によれば、脱髄疾患(特には多発性硬化症)の確定診断に有用な新たな客観的指標が提供される。従って、本発明は医療分野において極めて有益である。
本出願は、日本で出願された特願2018-028329(出願日:2018年2月20日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。

Claims (4)

  1. 脳の切片および/または脳脊髄液である被検体由来の試料中の分泌型受容体型タンパク質チロシンフォスファターゼZ(PTPRZ)を測定する工程を含む、多発性硬化症の検査方法であって、該被検体由来の試料中の分泌型PTPRZ量の測定値が、対照群の試料中の分泌型PTPRZ量と比較して低い場合に、該被検体が多発性硬化症であることが示され、該分泌型PTPRZが、分泌型PTPRZアイソフォーム1及び分泌型PTPRZアイソフォーム2のいずれかまたは両方である、方法。
  2. 前記分泌型PTPRZアイソフォーム1および分泌型PTPRZアイソフォーム2が、分岐型O-マンノース糖鎖修飾型PTPRZである、請求項1記載の方法。
  3. 被検体由来の脊髄液中の分泌型PTPRZの測定が、該タンパク質を特異的に認識する抗体または分岐型O-マンノース糖鎖を特異的に認識する抗体を用いて行われることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
  4. 分泌型PTPRZを特異的に認識する抗体を含む、多発性硬化症の診断用キットであって、該分泌型PTPRZが、分泌型PTPRZアイソフォーム1及び分泌型PTPRZアイソフォーム2のいずれかまたは両方である、キット。
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