JP7239647B2 - 座席濡れ検知装置 - Google Patents

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Description

本発明は、座席の濡れを検知するための座席濡れ検知装置に関する。
従来より、例えば鉄道車両に搭載された座席では、年間で相当な件数の「座席が濡れている」というトラブルが発生している。そのため、鉄道会社は、常に一定数の予備の空席を予め用意していた。このような対応は、鉄道会社にとって売上げの機会損失であるから、何らかの対策が希求されていた。かかる対策として、例えば乗客が着座する前に座席の濡れを検知して、事前に別途用意してある座部と交換することが考えられる。
座席の濡れを検知する方法として、例えば作業員が個々の座席を手作業で点検することが挙げられる。しかしながら、作業員の手作業による点検では、作業が煩わしく時間もかかり、人件費などコストが嵩むだけでなく、濡れの検知には個人的な感覚の違いもあり、正確に座席の濡れを検知することは難しい。そこで、他の技術分野における水分検知方法として、例えば特許文献1や特許文献2に記載の技術を、座席の濡れの検知に応用することが考えられる。
特許文献1には、生体の水分量を検出する対象としての含水部に電磁波を照射して、含水部より反射された電磁波の戻り量を検出して、この戻り量と含水部に含まれる水分量との対応関係を特定の数式で演算することにより、含水部における水分量を検出する技術が記載されている。ここで使用する電磁波は、0.1THz以上120THz以下の周波数であり、電磁波源である光源11から照射される。また、電磁波の戻り量は、センサ141,142によって検出されていた。
特許文献2には、おむつ装着者のおむつが位置する検知位置に検知用共振回路1を配置し、検知用共振回路1に外部から検知用電磁波を印加して、検知用共振回路1の周辺雰囲気の水分量変化に基づく検知用共振回路1の共振周波数の変化を検知することにより、おむつ濡れを検知する技術が記載されている。ここで検知用電磁波の周波数は定かでないが、高周波発信回路部11から発信される。また、検知用共振回路1をなすコイルのほか、これと対向して配置される誘電体基板7上のコイル9も、必須の構成要素であった。
特許5957268号公報 特開2002-71584号公報
しかしながら、前述した特許文献1に記載の技術では、センサ141,142により検出された電磁波の戻り量を水分量に変換する演算プログラムが複雑であり、アプリケーションが高価なものとなる。また、使用する電磁波が0.1THz以上120THz以下の周波数であるため、電磁波源である光源11とセンサ141,142が比較的高価となり、よりいっそうコスト高を招くという問題があった。
また、前述した特許文献2に記載の技術では、高周波発信回路部11から発信される電磁波の周波数は定かでないが、図3に示された筐体23の大きさから見て、小型化は難しいことが推測される。さらに、必要な部品として、検知用共振回路1をなすコイルや、これと対向して配置される誘電体基板7上のコイル9も、検知領域に亘り平面状に大きく広がるため、座席に内装する部品点数が多く大きさも嵩張り、コストが嵩むだけでなく着座感に影響を及ぼすため、座席に適用するには実用的ではなかった。
本発明は、以上のような従来技術が有する問題点に着目してなされたものであり、コストを低減することが可能であり、小型化も可能であって座席への装着性に優れ、簡単な制御によって座席の濡れを正確に検知することができる座席濡れ検知装置を提供することを目的としている。
前述した目的を達成するため、本発明の一態様は、
座席の濡れを検知するための座席濡れ検知装置であって、
座席に向けて電磁波を送信する送信部と、
座席の内部に配置されて前記送信部からの前記電磁波を反射する反射部と、
前記反射部により反射された前記電磁波を受信する受信部と、を備え、
前記受信部により受信された前記電磁波の水分による信号強度の減衰度合いに基づき、座席の濡れを判定可能としたことを特徴とする。
本発明に係る座席濡れ検知装置によれば、コストを低減することが可能であり、小型化も可能であって座席への装着性に優れ、簡単な制御によって、座席の濡れを正確に検知することができる。
本実施形態に係る座席濡れ検知装置を概略的に示すブロック図である。 本実施形態に係る座席濡れ検知装置を適用する座席を模式的に示す正面図である。 本実施形態に係る座席濡れ検知装置を適用する座席(座部)の内部構造を示す斜視図である。 本実施形態に係る座席濡れ検知装置を適用する座席(座部)の外観を示す斜視図である。 本実施形態に係る座席濡れ検知装置のミリ波センサからの電磁波の照射を模式的に示す斜視図である。 本実施形態に係る座席濡れ検知装置の反射部の一例を示す斜視図である。 本実施形態に係る座席濡れ検知装置のミリ波センサからの電磁波の照射範囲と反射部との位置関係を模式的に示す平面図(a)と、反射部からの反射波の信号強度を示すグラフ(b)である。 本実施形態に係る座席濡れ検知装置のミリ波センサからの電磁波が、座席の乾燥状態と湿潤状態とにおいて変化する様子等を示す説明図である。 本実施形態に係る座席濡れ検知装置において座席の濡れを検知する方法の一例を示す説明図である。 本実施形態に係る座席濡れ検知装置において座席の濡れを検知した後の処理の一例を示すフローチャートである。
以下、図面に基づき本発明を代表する実施形態を説明する。
図1~図10は、本発明の一実施形態を示している。
本実施形態に係る座席濡れ検知装置10は、電磁波のうち特にミリ波レーダーを利用して、座席1の濡れを検知するものである。以下、座席1を、鉄道車両の客室内に装備されるものを例に説明する。なお、以下に説明する実施形態で示される構成要素、形状、数値等は、何れも本発明の一例であり、本発明を限定する趣旨ではない。
<座席1の概要>
図2に示すように、座席1は、フロア上に固定する脚台2に座部3を取り付け、座部3の後端側に背凭れ4を支持してなる。図3および図4に示すように、座部3は、脚台2上に固定した枠組状のフレーム3aにクッション3bを装着し、クッション3bを表皮材で被覆してなる。背凭れ4は、図示省略したが座部3と同様に、フレームにクッションを装着し、クッションを表皮材で被覆してなる。
ここで脚台2やフレーム3aは、金属製であり電磁波を透過させないが、クッション3bは、一般に発泡ウレタン等の合成樹脂からなるので電磁波を透過させ、表皮材も、一般に布製なので電磁波を透過させる。なお、後述するミリ波センサ11からの電磁波は、座席1の内部の脚台2やフレーム3aによっても反射されるが、この反射光は僅かな乱反射以外にミリ波センサ11に戻る反射角ではない。
また、図2に示すように、座席1における座部3の両側には、上端側が肘掛となる袖部5が固定されている。この袖部5の内部には、後述するミリ波センサ11を取り付けるための支持ブラケット6が設けられている。ここで支持ブラケット6は、図3に示すように、脚台2の一側端上に立設されている。なお、各図において、同一部品についての多少の形状の違いは単に設計変更にすぎない(例えば図2および図3等における脚台2の形状の違い等)。
<座席濡れ検知装置10の概要>
図1は、本実施形態に係る座席濡れ検知装置10を概略的に示すブロック図である。図1に示すように、座席濡れ検知装置10は、ミリ波センサ11と、コントローラ20と、を備えている。ここでミリ波センサ11とコントローラ20は、相互に信号を送受可能に無線ないし有線を介して接続されている。また、コントローラ20には、表示部25と操作部26が、それぞれ接続されている。
ミリ波センサ11は、詳しくは後述するが、電磁波を送信する送信部12と、電磁波を受信する受信部13と、を備えている。図1には、ミリ波センサ11から座席1に向けて送信した電磁波(以下「送信波」)が、後述の反射部7により反射された電磁波(以下「反射波」)として戻る状態も図示している。ここで電磁波は、いわゆるチャープ信号として一定の周波数であるため、その大きさ(振幅)を時間の関数として表現した正弦波として表している。
<ミリ波について>
本実施形態では、電磁波としてミリ波を使用している。ここでミリ波とは、周波数帯が30~300GHzの電磁波のことであり、波長にすると1~10mmとなることから「ミリ波」と称されている。ミリ波は一般に、直線性が強くレーザーのように扱うことができ、広帯域幅を確保することができ、合成樹脂や布等の各種物質を透過するという特長を有するが、さらに発明者らの鋭意研究の結果、ミリ波は水分により信号強度が減衰され易いことが判明した。
発明者らの実験により、次述するミリ波センサ11を用いて座席1の座部3にミリ波を照射したところ、ミリ波は座部3のクッション3bをそのまま透過して内部にある金属製のフレーム3aや脚台2に反射することが確認された。ここで座部3が通常の乾燥状態のとき、フレーム3a等からの反射波は送信時の信号強度とさほど変わらないが、座部3が濡れた湿潤状態のときは、反射波の信号強度の明らかな減衰が確認された。よって、ミリ波は、水分によって吸収され易い性質があることが判明した。
<ミリ波センサ11について>
ミリ波センサ11は一般に、離れた物標との距離、方向、速度を測定することが可能なモジュールであるが、本実施形態では、後述する反射部7から反射されたミリ波の信号強度の測定に特化して用いている。よって、本実施形態のミリ波センサ11の利用形態として、そもそも定位置に固定されている反射部7との距離や方向、速度を測定するための処理は省かれている。
詳しく言えばミリ波センサ11は、通常は送信(TX)と受信(RX)の無線周波数部品、シンセサイザ、クロック等のアナログ部品、A/Dコンバータ、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、それにマイコン(MCU)等のデジタル部品で構成されている。ミリ波センサ11は、シンセサイザで生成したミリ波をTXアンテナから送信し、この送信波が物標(反射部7)に当たり反射してきた反射波をRXアンテナで受信する。よって、本実施形態では、TXアンテナが本発明の「送信部12」に相当し、RXアンテナが本発明の「受信部13」に相当する。
ミリ波センサ11は、さらに、ミキサで送信波と反射波を混合してIF信号(計算に使用する中間周波数)を生成し、このIF信号から得られたデータを元に各種信号処理を実施して、物標(反射部7)の位置等の情報を取得する機能も備えている。これにより、ミリ波センサ11は、後述する複数の反射部7からの反射波ごとに、それぞれの信号強度に応じた電気信号を生成することができる。ここで生成された電気信号は、後述するコントローラ20に出力される。
このようなミリ波センサ11は、ミリ波の直線性により環境変化に強く、ミリ波の広帯域幅による高距離分解能に優れ、ミリ波が短波長のため高精度検出が可能であると共に回路やアンテナの小型化が可能という特長を有している。ミリ波センサ11は、その特長の一つとして小型化が可能であるため、全体的に数センチ四方の基板として構成することができる。
よって、本実施形態のミリ波センサ11は、前述した座席1における袖部5内の限られたスペースにも配設することができる。ミリ波センサ11は、図5に示すように、支持ブラケット6の上端内側に取り付けられて、その直下の座部3に向けて電磁波を送信するように配置されている。ここでミリ波センサ11は、座部3の表面のなるべく広い範囲に亘って、少なくとも次述する複数の反射部7のある位置をモニタリングできる照射範囲となる角度に設定されている。
<反射部7について>
図3に示すように、座席1の内部となる脚台2の天板上には、ミリ波センサ11の送信部12からの電磁波を反射する反射部7として、送信部12からの距離が近い順に、第1反射部7A、第2反射部7B、第3反射部7Cが設けられている。これらの反射部7A、7B、7Cを総称するときは、単に反射部7と表記する。図7に示すように、複数の反射部7を、それぞれ送信部12からの距離を異ならせることにより、各反射部7からの反射波の信号強度を同一グラフ上に表したとしても、各反射部7ごとに明確に区別することができる。なお、反射部7の数は、3つに限らず適宜定め得る設計事項である。
各反射部7は、送信部12からの光学的距離が互いに異なるだけでなく、送信部12から各反射部7に至る電磁波の透過経路が、座部3の平面視において互いに重ならずに分散するように配置されている。座席1における座部3の表面および/または内部における濡れ(水分)を検知する場合、多くの反射部7を設けるほど、細かな領域ごとに正確な検知が可能となるが、反射部7の数が多いとコストが嵩む。よって、本実施形態では、図7(a)に模式的に示すように、3つの反射部7を分散させることにより、座部3のなるべく広い範囲をモニタリングできるように工夫している。
図3に示すように、各反射部7は、何れも略矩形の金属板からなり、ミリ波センサ11からの送信波を受けて、再びミリ波センサ11に向けて反射波を正反射させる向きに配置されている。ここで正反射とは、電磁波が反射部7に入射する角度である仰角と同じ角度での反射を意味する。また、各反射部7は、例えばブラケット等の土台を介して、脚台2の天板よりも高い位置に設けても良い。なお、各反射部7の具体的な形状や大きさは、適宜定め得る設計事項である。
また、反射部7は、前述した金属板に限られるものではなく、他に例えば、反射波をミリ波センサ11に向けて反射させるコーナリフレクタ7Dとしても良い。図6に示すように、コーナリフレクタ7Dは、直角二等辺三角形の金属板を3面に合わせた反射板である。コーナリフレクタ7Dによれば、その何れの面に電磁波が入射しても3面内で反射が繰り返されて、電磁波が入射した方向へ反射波を正確に反射させることができる。かかるコーナリフレクタ7Dは、他の形状より反射波の指向性を広くすることができ、電磁波の入射角度に関わらず均一な反射波を得られるため、例えばミリ波センサ11から最も離れた位置にある第3反射部7Cの代わりに採用すると良い。その他、反射部7として、パラボラアンテナ形状のものを採用しても良い。ここでパラボラアンテナは、一般に放物曲面をなす反射面を備えた凹形状のアンテナであるが、その詳細は周知であるので具体的な説明は省略する。
図4に示すように、クッション3bの表面を、ミリ波センサ11から各反射部7に至る透過経路に応じて複数のエリア(1)~(3)に仮想的に区分けして、後述の制御部22により、各エリア(1)~(3)ごとの濡れを判定可能に設定すると良い。ここで各エリア(1)~(3)は、1カ所にあるミリ波センサ11からの送信波を受けた各反射部7からの反射波が、互いに抵触せずに別々の経路で戻るような広範囲に設定することが好ましい。ただし、各領域は、座部3の表面のうち必ずしも全域をカバーする必要はない。
ちなみに、図4に例示した各エリア(1)~(3)では、エリア(1)は、第1反射部7Aに至る透過経路に対応しており、エリア(2)は、第2反射部7Bに至る透過経路に対応しており、エリア(3)は、第3反射部7Cに至る透過経路に対応している。なお、各エリア(1)~(3)は、図4中では想像線で示したが、明瞭な境界によって区画されるものではない。また、各エリアの数は、前記反射部7の数と同様に3つに限定されるものではない。
<コントローラ20について>
図1に示すコントローラ20は、例えばマイクロコンピュータや周辺の電子機器からなり、具体的にはプロセッサ(CPU)のほか、プロセッサで実行するプログラムや各種の固定的データを記憶する不揮発性メモリ(ROM)、プログラムを実行する上で一時的に必要になるデータを記憶するための揮発性メモリ(RAM)等を主要部とする回路で構成されている。かかるコントローラ20は、その機能として、入力部21と、制御部22と、出力部23と、記憶部24等を備えている。
入力部21は、ミリ波センサ11からの前記電気信号等の各種情報や、操作部26により指定された数値等の各種情報の入力を受け付ける。
制御部22は、ミリ波センサ11の送信部12からの電磁波の送信を制御したり、ミリ波センサ11からの電気信号を処理することにより、電磁波が座席1(正確には座部3)内部を透過する過程で水分により信号強度が減衰された度合いに基づき、座席1の濡れを検知する。なお、座席1の濡れの具体的な検知方法については後述する。
制御部22は、ミリ波センサ11の送信部12からの電磁波の送信を、例えば所定の周期で繰り返すように制御する。より具体的には制御部22は、所定のタイミングで、ミリ波センサ11の送信部12から電磁波を送信させるように設定すると良い。ここで所定のタイミングとしては、例えば乗客が降車する次の停車駅の到着直前、あるいは車両が終着駅に到着したとき等、適宜定めれば良い。
出力部23は、制御部22により検知された座席1の濡れに関する情報等を出力する。ここで出力部23からの信号の出力先は、主として表示部25であるが、表示部25に限定されることはない。
記憶部24は、制御部22において座席1の濡れの検知に用いるプログラムや各種データを記憶する。各種データとしては、例えば座席1が乾燥状態のときの反射波の信号強度など予め測定した測定値等が該当する。
表示部25は、制御部22における座席1の濡れに関する判定結果を表示するものである。表示部25は、例えばパソコンのモニタをそのまま利用しても良く、前記判定結果を含む各種情報をテキストやイメージ等で視認可能に表示する。なお、表示部25による表示と併せて、スピーカー等の音声出力装置により人工音声やアラーム等の音による報知も行うようにしてもかまわない。
操作部26は、制御部22の各種処理において必要となる数値データの入力等、操作者が操作するものである。操作部26は、例えばパソコンのマウス、キーボード、タッチパネル等である。座席濡れ検知装置10の利用者は、この操作部26を操作することにより、制御部22が処理に必要とする各種データを入力したり、処理動作を指示したりすることができる。
<座席濡れ検知装置10による座席1の濡れの検知>
次に、座席1の濡れの検知について、具体的な一例を説明する。
図1において、ミリ波センサ11で生成された電気信号は、コントローラ20へ出力されて入力部21から取り込まれる。入力部21に入力された電気信号は、記憶部24に格納される。記憶部24に格納された電気信号は、AD変換回路等によりデジタル変換されて制御部22内のメモリエリアに格納される。制御部22は、取り込んだミリ波センサ11からの電気信号に基づき、各反射部7ごとに検出された反射波の信号強度を算出する処理を実行する。
図7(b)は、各反射部7ごとに検出された反射波の信号強度をグラフ化して表示した一例であり、横軸は、ミリ波センサ11から各反射部7までの光学的な距離であり、縦軸は、反射波の信号強度である。ここで横軸における距離は、送信波の出力時点から反射波が戻るまでの時間に比例するものであり、各反射部7ごとの配置によって事前に定められている。また、縦軸における信号強度は、相対値として表したものであり、その単位は特に限定されるものではない。各反射部7ごとの反射波の信号強度のピークは、送信部12からの距離に応じて異なる横軸の箇所に生じている
各反射部7ごとの反射波のチャープは、FFT処理され、反射部7の距離を検出することになるが、ここで各反射部7の距離が同一であると、各チャープに対応する距離FFTは、同じ場所(横軸)でピークを示すことになる。そこで、前述したように各反射部7の距離を異ならせることで、各チャープに対応する距離FFTは、横軸上における異なる箇所でそれぞれピークを示すことになる。制御部22は、このようなグラフ化処理の結果に基づいて、座席1の濡れを判定する。ここで座席1の濡れとは、座部3の主としてクッション3bに含まれる水分と同義である。
図8は、ミリ波センサ11からの電磁波が、座席1が通常の乾燥状態の場合と、座席1が何らかの原因で濡れた湿潤状態の場合において、それぞれ変化する様子等を示している。ミリ波センサ11(送信部12)から座部3に向けて送信された電磁波は、各反射部7に至る透過経路ごとに、水分が存在しない「乾燥状態」と、水分が存在する「湿潤状態」とでは、送信波の最初の信号強度は同一であっても、反射波の信号強度に大きな違いが生じる。
図8中の[概念]は、ミリ波センサ11からの送信波が同一の反射部7に反射されて反射波として戻る状態を模式的に示している。図8(a)の[概念]に示すように、座席1が乾燥状態の場合、ミリ波センサ11からの送信波は、座部3のクッション3bを透過するとき、さほど減衰することなく反射部7に至り、反射部7からの反射波も同様に、さほど減衰することなくミリ波センサ11に戻る。一方、図8(b)の[概念]に示すように、座席1が湿潤状態の場合、ミリ波センサ11からの送信波は、座部3のクッション3bを透過するとき、水分によりかなり減衰して反射部7に至り、反射部7からの反射波もさらに減衰してミリ波センサ11に戻る。
このように、湿潤状態の方が乾燥状態よりも、ミリ波センサ11から発信された電磁波は、ミリ波センサ11に戻ったときに大幅に弱まっている。すなわち、座席1が湿潤状態の場合における反射波の信号強度と、座席1が乾燥状態の場合における反射波の信号強度とは、湿潤状態の方が乾燥状態よりも信号強度が大幅に小さくなることが、発明者らの実験により確かめられている。従って、制御部22は、座席1が湿潤状態の場合における反射波の信号強度と、座席1が乾燥状態の場合における反射波の信号強度との比(信号比)に基づいて、座席1の濡れを検知する。
図8中の[グラフ]は、同一の反射部7からの反射波の信号強度を示すグラフである。図8(a)の[グラフ]に示すように、座席1が乾燥状態の場合、反射波の信号強度のピークは、例えば相対値として5000となる。一方、図8(b)の[グラフ]に示すように、座席1が湿潤状態の場合、反射波の信号強度のピークは、例えば相対値として2800となる。このように、反射波の信号強度は、湿潤状態の方が乾燥状態よりも大幅に減衰しており、その具体的な減衰度合いは、前述した数値例だと湿潤状態では乾燥状態の0.56(2800/5000)倍、すなわち44%まで減衰している。
前記信号比である0.56は、座席1が乾燥して水分量が少なくなるに従って1.0に接近するが、この値に基づいて例えば0.56から1.0の間で、座席1の濡れを許容できる閾値を定めることになる。具体的には例えば、「濡れ」を感じる体感試験等のデータに基づいて閾値を0.8と定めれば、反射波の信号強度の減衰度合いが0.8未満の場合には、座席が濡れている判定するように設定する。もちろん、閾値の0.8は単に一例に過ぎず、他に例えば0.5にする等と適宜定めれば良い。
このような閾値の設定は、操作部26によって適宜行うことができる。具体的には例えば、グラフにおいて縦軸の高さHmmの信号強度を読み取るように設定することができる。ここで高さHmmは任意に設定変更が可能である。また、後述するが、信号強度の高さHmmには、横軸の±wの幅を持たせてその平均値等を用いるように設定してもかまわない。ここでの幅±wも任意に設定変更が可能である。また、信号強度を読み取るタイミングや頻度YHzも、任意に設定変更を可能にすると良い。
さらに、読み取る信号強度の最大値Maxと最小値Minも、任意に設定変更を可能にすると良い。何れの設定にせよ、前述したように反射波の信号強度の減衰度合いが1/X(X>1)未満になったときに、座席が濡れているとの判定のフラグを立てるように設定する。そして、このフラグが立った場合に、図8(b)の[モニタ]に示すように、表示部25にて座席1が濡れている旨の警告である「濡れ」の文字等を表示すると良い。その後の処理については後述する。
本実施形態のように複数の反射部7がある場合には、例えば少なくとも何れか一つの反射部7からの反射波の信号強度が前記閾値未満であった場合に、座席1が濡れていると判定するように設定すると良い。例えば図9(a),(b)に示した両グラフにおいては、信号強度の1番目のピークが消失している。ここで1番目のピークが、図7(b)に示したAのピークに相当する場合、各反射部7のうち第1反射部7Aからの反射波の信号強度が減衰したということであり、図4に示すクッション3bの表面のうちエリア(1)が濡れていることになる。なお、前述した信号強度のピークの数値の比較は、必ずしもグラフ化処理を前提とするものではない。
以上のように、湿潤状態と乾燥状態とにおける反射波の信号強度の信号比を求める場合には、各反射部7ごとに対応した信号強度のピークの数値、あるいは所定幅±wの平均値によって演算しても良いが、誤差を少なくするために、次のような演算も可能である。すなわち、信号強度のピークを基準として、前述したように横軸の±wの幅における信号強度も含む所定範囲のグラフ中の面積比によって、座席が濡れている否か判定するように設定しても良い。ここでも複数の反射部7がある場合には、前記信号強度のピークの数値の比較の場合と同様に、少なくとも何れか一つの反射部7からの反射波の信号強度(面積)が前記閾値未満であった場合に、座席1が濡れていると判定するように設定すると良い。
さらに、別の判定方法として、各反射部7ごとに対応する信号強度の複数のピークを全て含むようなグラフ中の横軸における所定範囲を設定して、この所定範囲に含まれるグラフ中の面積比によって、座席1が濡れている否か判定するように設定しても良い。すなわち、図9に示すように、座席1が乾燥状態のときの信号強度の2次曲線に囲まれた面積と、座席1が湿潤状態のときの信号強度の2次曲線に囲まれた面積との比が、所定の閾値を超えるか否かによって座席1が濡れていると判定するように設定しても良い。
ここでの閾値の設定は、前記ピークの数値の比較の場合と同様である。なお、グラフ上において信号強度を示す曲線や直線(横軸等)に囲まれた図形の面積の計算は、周知の公式等を用いれば足り、予め計算できるようにプログラムしておくと良い。また、グラフ上において、どの領域の面積を比較対象とするかは、閾値の設定と同様に操作部26によって設定可能とする。このような閾値やグラフ中の所定範囲の決定は、種々の実験やシミュレーション等のデータに基づいて適宜定め得る設計事項である。もちろん、前述したグラフ中の面積比による比較は、必ずしも図形的な処理に依存するものではなく、例えば、乾燥状態と湿潤状態との信号強度と距離のデータを積分した値を比較することで濡れ検知の処理を実行するようにしても良い。
<座席1の濡れの検知後の対応>
図10は、座席濡れ検知装置10において座席1の濡れを検知した後の処理の一例を示すフローチャートである。コントローラ20の制御部22によって、前述したように、座席1の濡れが検知された場合(ステップS101)、例えば車両の運転台に対して濡れた席の座席番号に関する情報が出力される(ステップS102)。
これに基づき、座席1の表示器に前記情報が出力され(ステップS103)、車掌のタブレットにも前記情報が出力され(ステップS104)、さらに車外にある地上のモニタにも前記情報が出力される(ステップS111)。また、地上のモニタに出力された前記情報に基づいて、交換部品(座部3のクッション3b)の在庫状況が確認される(ステップS112)。
次いで、車掌はタブレットに出力された座席1の状態を確認する(ステップS105)。このとき、実際に座席1の交換が必要であるか否かを判断する(ステップS106)。かかる判断で、車掌が座席1の交換が必要であると判断した場合、前述した交換部品の在庫状況の確認に応じて、車両の次の停車駅に輸送を依頼することになる(ステップS113)。そして、車掌は交換部品を次の停車駅で受け取り(ステップS107)、座席1の交換部品の交換を行う(ステップS108)。
<本発明の構成と作用効果>
以上、本実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に限定されるものではない。前述した実施形態から導かれる本発明について、以下に説明する。
先ず、本発明は、座席1の濡れを検知するための座席濡れ検知装置10であって、
座席1に向けて水分に吸収される波長域を含む電磁波を送信する送信部12と、
座席1の内部に配置されて前記送信部12からの前記電磁波を反射する反射部7と、
前記反射部7により反射された前記電磁波を受信する受信部13と、を備え、
前記受信部13により受信された前記電磁波の水分による信号強度の減衰度合いに基づき、座席1の濡れを判定可能としたことを特徴とする。
このように座席濡れ検知装置10では、送信部12からの送信波が反射部7に至り、該反射部7からの反射波として受信部13に受信された電磁波が、座席1内部を透過する過程で水分により信号強度が減衰された度合いに基づき座席1の濡れを判定する。かかる判定は、簡単なプログラムで比較的容易に制御することができる。これにより、作業員が手作業で座席を逐一確認しなくても、迅速かつ正確に座席の濡れを検知することができる。
また、本発明では、前記電磁波は、周波数帯が30~300GHzのミリ波であり、
前記送信部12および前記受信部13は、それぞれ単一のミリ波センサ11に含まれる構成部品であることを特徴とする。
ここでミリ波は、水分に吸収されて信号強度が減衰され易いことが確かめられている。これにより、座席1が濡れているとミリ波の信号強度は減衰し、座席1の含水率が高くなるほど、ミリ波の信号強度は小さくなる。従って、ミリ波の信号強度の減衰度合いを算出することにより、座席の濡れを容易に検知することができる。
送信部12および受信部13は、それぞれ単一のミリ波センサ11に含まれる。ここでミリ波センサ11は、ミリ波の特性により小型化が可能であるため、座席1の袖部5等の限られた配置スペース内にも容易に取り付けることが可能となり、特に省スペース化の要請に応じることができる。
また、本発明では、前記反射部7は、単一の前記送信部12からの距離が互いに異なる位置に複数設けられ、
前記受信部13は、前記各反射部7ごとに反射された電磁波を区別して受信可能であり、
前記各反射部7ごとに区別して検出された電磁波のうち、少なくとも何れか一の水分による減衰度合いに基づき、座席1の濡れを判定可能としたことを特徴とする。
複数の反射部7を、それぞれ送信部12からの距離を異ならせることにより、各反射部7からの反射波の信号強度を同一グラフ上に表したとしても、各反射部7ごとに明確に区別することができる。また、複数の反射部7を、互いに分散させることにより、ミリ波センサ11でも座部3の広い範囲をモニタリングすることが可能となる。なお、反射部7の数や配置、それに角度は、図示した3つに限らず適宜定め得る設計事項である。
また、本発明では、前記各反射部7のうち、少なくとも何れか一は、前記受信部13に向けて電磁波を正反射させる向きに配置された金属板からなり、少なくとも何れか他は、前記受信部13に向けて電磁波を反射させる位置に配置されたコーナリフレクタまたはパラボラアンテナ形状のものからなることを特徴とする。
このように、反射部7を単なる金属板とすれば、部品コストを低減することが可能となる。また、反射部7をコーナリフレクタとすれば、その3面のうち何れの面に電磁波が入射しても3面内で反射が繰り返されて、電磁波が入射した方向へ反射波を正確に反射させることができる。また、パラボラアンテナ形状のものでも、同様な効果を得ることができる。
また、本発明では、前記送信部12から前記各反射部7に至る透過経路に応じて、座席1の表面を複数のエリアに区分けし、
前記各エリアごとの濡れを判定可能としたことを特徴とする。
これにより、座席1の表面の異なるエリアごとに濡れを検知することができる。ここで例えば、各エリアのうち濡れを検知するエリアを限定することにより、検知範囲の大きさを適宜変更することもできる。また、少なくとも何れ一のエリアで濡れが検知された場合には、座席1が濡れていると判定するように設定しても良い。
また、本発明では、座席1の濡れの判定は、前記受信部13により受信された前記電磁波の信号強度について、座席1が乾燥状態のときのピークの数値と、座席1が湿潤状態のときのピークの数値との比が、所定の閾値を超えるか否かによって行われることを特徴とする。
このような信号強度のピークの数値だけの比較による判定によれば、座席1の濡れの判定を極めて簡単な制御によって行うことができる。
また、本発明では、座席1の濡れの判定は、前記受信部13により受信された前記電磁波の信号強度を表すグラフにおいて、座席1が乾燥状態のときの信号強度を表す2次曲線に囲まれた面積と、座席1が湿潤状態のときの信号強度を表す2次曲線に囲まれた面積との比が、所定の閾値を超えるか否かによって行われることを特徴とする。
このような信号強度を表す2次曲線の面積の比較による判定によれば、座席1の濡れの判定における測定精度のバラツキは少なくなり、いっそう検知結果の正確性を高めることができる。
さらに、本発明は、座席1の濡れの判定結果を表示する表示部25を備えたことを特徴とする。
これにより、表示部25によって、座席1の濡れの判定結果に関する情報を容易に報知することができる。従って、表示を見た人は、座席1の濡れに関する対策を講じやすくなる。
以上、本実施形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。例えば、座席濡れ検知装置10で検知対象となる座席1は、必ずしも鉄道車両の客室内に装備されるものに限らず、航空機、バス、船舶等の他の乗物用の座席や、あるいは映画館や劇場等に装備する座席であっても良い。また、座席1における検知対象も座部3に限らず背凭れ4まで適用してもかまわない。
また、本発明で用いる電磁波は、必ずしも前記ミリ波に限定されるものではない。よって、送信部12および受信部13も、単一のミリ波センサ11の構成部品に限定されることはなく、例えば別々の部品として構成しても良い。さらに、反射部7の形状および大きさ、具体的な配置や角度、それに数は、前述したとおり前記実施形態に限定されることはない。
本発明は、鉄道車両、航空機、自動車、船舶等の各種乗物の客室内に装備される乗物用座席に限らず、映画館や劇場等に装備する座席についても広く適用することができる。
1…座席
2…脚台
3…座部
4…背凭れ
5…袖部(肘掛)
6…支持ブラケット
7A…第1反射部
7B…第2反射部
7C…第3反射部
7D…コーナリフレクタ
10…座席濡れ検知装置
11…ミリ波センサ
12…送信部
13…受信部
20…コントローラ
21…入力部
22…制御部
23…出力部
24…記憶部
25…表示部
26…操作部

Claims (8)

  1. 座席の濡れを検知するための座席濡れ検知装置であって、
    座席に向けて電磁波を送信する送信部と、
    座席の内部に配置されて前記送信部からの前記電磁波を反射する反射部と、
    前記反射部により反射された前記電磁波を受信する受信部と、を備え、
    前記受信部により受信された前記電磁波の水分による信号強度の減衰度合いに基づき、座席の濡れを判定可能としたことを特徴とする座席濡れ検知装置。
  2. 前記電磁波は、周波数帯が30~300GHzのミリ波であり、
    前記送信部および前記受信部は、それぞれ単一のミリ波センサに含まれる構成部品であることを特徴とする請求項1に記載の座席濡れ検知装置。
  3. 前記反射部は、単一の前記送信部からの距離が互いに異なる位置に複数設けられ、
    前記受信部は、前記各反射部ごとに反射された電磁波を区別して受信可能であり、
    前記各反射部ごとに区別して検出された電磁波のうち、少なくとも何れか一の水分による減衰度合いに基づき、座席の濡れを判定可能としたことを特徴とする請求項1または2に記載の座席濡れ検知装置。
  4. 前記各反射部のうち、少なくとも何れか一は、前記受信部に向けて電磁波を正反射させる向きに配置された金属板からなり、少なくとも何れか他は、前記受信部に向けて電磁波を反射させる位置に配置されたコーナリフレクタまたはパラボラアンテナ形状のものからなることを特徴とする請求項3に記載の座席濡れ検知装置。
  5. 前記送信部から前記各反射部に至る透過経路に応じて、座席の表面を複数のエリアに区分けし、
    前記各エリアごとの濡れを判定可能としたことを特徴とする請求項3または4に記載の座席濡れ検知装置。
  6. 座席の濡れの判定は、前記受信部により受信された前記電磁波の信号強度について、座席が乾燥状態のときのピークの数値と、座席が湿潤状態のときのピークの数値との比が、所定の閾値を超えるか否かによって行われることを特徴とする請求項1,2,3,4または5に記載の座席濡れ検知装置。
  7. 座席の濡れの判定は、前記受信部により受信された前記電磁波の信号強度を表すグラフにおいて、座席が乾燥状態のときの信号強度を表す2次曲線に囲まれた面積と、座席が湿潤状態のときの信号強度を表す2次曲線に囲まれた面積との比が、所定の閾値を超えるか否かによって行われることを特徴とする請求項1,2,3,4または5に記載の座席濡れ検知装置。
  8. 座席の濡れの判定結果を表示する表示部を備えたことを特徴とする請求項1,2,3,4,5,6または7に記載の座席濡れ検知装置。
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