JP7239136B2 - 難消化性澱粉高含有イネ変異体、米粉製造方法、難消化性澱粉製造方法、米ゲル製造方法、食品製造方法、及び難消化性澱粉高含有イネ変異体の作出方法 - Google Patents
難消化性澱粉高含有イネ変異体、米粉製造方法、難消化性澱粉製造方法、米ゲル製造方法、食品製造方法、及び難消化性澱粉高含有イネ変異体の作出方法 Download PDFInfo
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Description
化学物質としての澱粉は、グルコースのα1,4による直鎖及びα1,6グルコシド結合による枝分かれ構造を含むグルコースポリマーである。
また、澱粉は、主として直鎖からなるアミロースと枝分かれ構造をもつアミロペクチンの高分子の集合体でもある。
近年、これらのアイソザイムは、組織特異性や、微妙な基質特異性によって、役割分担をしていることが分かってきた。アイソザイムの働きや役割を解明することは、アイソザイムの機能解明につながる。そして、アイソザイムの機能解明は、植物の澱粉生合成メカニズムの全体像の解明には欠かせない。
このため、従来から各アイソザイムの変異体が開発されてきた。特定のアイソザイムが欠失した変異体の表現型を調べることで、そのアイソザイムの働きや役割を知ることができる。
これらの変異体のいくつかは、種子の胚乳に蓄積される澱粉の構造、物性が明らかになっている。具体的には、野生型とは異なることがあり、その構造の違いに伴い、澱粉粒の大きさや熱糊化温度、熱糊化粘度が異なる等の物性を示すことがある。これにより、各酵素の機能がある程度明らかになっている。
難消化性澱粉は、比較的高分子のまま大腸に到達し、腸内細菌による発酵を通して短鎖脂肪酸を分泌し、大腸環境を整え、大腸癌予防、便秘予防効果があることが大麦(非特許文献13)や小麦(非特許文献14)で知られている。このため、難消化性澱粉を多く含む大麦グリッツ等は、オーストラリアで既に商品化されている。
加えて、難消化性澱粉は、小腸でグルコースにまで分解されにくいため、カロリーオフ効果がある。難消化性澱粉は、アミロース含量が高い澱粉に多く含まれることがある。このため、高アミローストウモロコシが、ダイエット素材として、利用されている。
以上のように、難消化性澱粉は、食物繊維と類似した機能性を示す食品として摂取することが推奨されている。
これについて、澱粉生合成に関与する酵素に変異を持つ上述の各イネ変異体においては、野生型より高アミロース性を示すイネ変異体系統は、野生型より有意に高い難消化性澱粉量を示した。一方、格段に高い難消化性澱粉量を示したのが、枝作り酵素BEIIbを欠損した変異体(以下、「be2b」と、記載する。)であった。be2bでは、難消化性澱粉量が劇的に増加する。具体的には、アミロペクチンの長鎖の増加とアミロースの増加とにより、難消化性につながることが明らかになっている。(非特許文献12)。
しかしながら、非特許文献15及び非特許文献16に記載された米の難消化性澱粉の含有率を高める方式では、遺伝子組み換えの手法を用いているため、実用化が困難であった。
より高い機能性を得るためには、できる限り難消化性澱粉を多く含む、大規模栽培可能な米品種が必要であった。このため、従来より難消化性澱粉を多く含有しつつ、大規模栽培可能で収量も高いような、実用性の高い非遺伝子組み換え体のイネ変異体が求められていた。
本発明の難消化性澱粉高含有イネ変異体は、精米後のイネ種子は、難消化性澱粉の含有率が、前記親系統であるBEIIb欠損変異体(be2b)よりも多いことを特徴とする。
本発明の難消化性澱粉高含有イネ変異体は、前記イネ種子を炊飯した場合、すり潰さない状態の炊飯米における前記難消化性澱粉の含有率が60%以上、すり潰した状態の炊飯米における前記難消化性澱粉の含有率が20%以上であり、前記イネ種子の玄米粉における前記難消化性澱粉の含有率が32%以上であることを特徴とする。
本発明の難消化性澱粉高含有イネ変異体は、前記イネ種子の胚乳から製造される澱粉は、前記親系統であるBEIIb欠損変異体(be2b)のイネ種子の胚乳から製造される澱粉と比べて、アミロペクチンの鎖長分布のうち、DP19以下が減少され、DP20以上が増加されることを特徴とする。
本発明の難消化性澱粉高含有イネ変異体は、前記イネ種子の胚乳から製造される澱粉は、前記親系統であるBEIIb欠損変異体(be2b)のイネ種子の胚乳から製造される澱粉よりも、糊化ピーク温度が7℃以上高いことを特徴とする。
本発明の難消化性澱粉高含有イネ変異体は、前記イネ種子の胚乳から製造される澱粉は、算出されたアミロースの割合が50%以上であることを特徴とする。
本発明の難消化性澱粉高含有イネ変異体は、前記イネ種子は、粉末化することで米粉、粥を攪拌することで米ゲルとしても利用可能であることを特徴とする。
本発明の米粉製造方法は、前記難消化性澱粉高含有イネ変異体の前記イネ種子の胚乳を粉末化して米粉を製造することを特徴とする。
本発明の難消化性澱粉製造方法は、前記難消化性澱粉高含有イネ変異体の前記イネ種子の炊飯米、及び/又は前記米粉製造方法により製造された米粉より難消化性澱粉を抽出することを特徴とする。
本発明の米ゲル製造方法は、前記難消化性澱粉高含有イネ変異体の前記イネ種子の粥を攪拌して米ゲルを製造することを特徴とする。
本発明の食品製造方法は、前記難消化性澱粉高含有イネ変異体の前記イネ種子、前記米粉、前記難消化性澱粉、及び前記米ゲルのいずれか又は任意の組み合わせを含んで製造されたことを特徴とする。
本発明の難消化性澱粉高含有イネ変異体の作出方法は、非遺伝子組み換えの方式により、ジャポニカ米由来のイネ枝作り酵素I型(BEI)及びIIb型(BEIIb)の二重劣性ホモ変異体を作出させ、遺伝的に固定させ、前記BEI及び前記BEIIbの両者とも欠損しており、前記欠損として、前記BEIの遺伝子の第10エキソンの最後の塩基がグアニンからアデニンへ変異し、前記BEIIbの遺伝子の第9イントロンの最後の塩基がグアニンからアデニンに変異している一塩基置換を分子マーカーとして、前記二重劣性ホモ変異体を特定し、前記二重劣性ホモ変異体は、親系統である野生型の種子の胚乳澱粉と比較して、アミロペクチンの鎖長分布のうち、少なくともグルコース重合度(DP)6~16が減少し、且つDP17以上が増加していることを特徴とする。
以下で図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
上述したように、従来から、難消化性澱粉の含有量が多い種子を取得可能で、実用的なイネ変異体が求められていた。
本発明者らは、難消化性澱粉の取得について実用的なイネの変異体を探索するため、鋭意実験を行い、イネの澱粉の代謝系を網羅的に研究して、有益な表現型をもつ新規変異体を探索した。この際、本発明者らは、BEI及びIIb型の二重劣性ホモ変異体(二重変異体。以下、「be1/be2b」と記載する。)に着目した。このbe1/be2bについては、従来、試験的に作出されたものの性質がよく調べられないまま失われており、難消化性澱粉量について、まったく知られていなかったためである。
このため、本発明者らは、be1/be2bを新たに作出し、性質について鋭意、実験を行って調べた。すると、作出されたbe1/be2bのイネ種子は、難消化性澱粉含有率が非常に高く、実用性が高い難消化性澱粉高含有イネ変異体であることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
この本実施形態のbe1/be2bは、両親変異体(be1、be2b)及び野生型(WT)と比べて、以下のような性質を得ることができる。
具体的に、本実施形態のbe1/be2bの変異体米(イネ種子)は、難消化性澱粉含有率が、親系統であるbe2bよりも高くなる。これは、従来の非組換えイネ(非特許文献20、21、22、特許文献5、6)の中でも類をみないほどである。
より具体的には、本実施形態のbe1/be2bにおける精米後のイネ種子を炊飯した場合、すり潰さない状態の炊飯米における難消化性澱粉の含有率が60%以上、すり潰した状態の炊飯米における難消化性澱粉の含有率が20%以上であり、イネ種子の玄米粉における難消化性澱粉の含有率が32%以上となる。
ここで、炊飯米の難消化性澱粉含有率は、調理や測定方法によって大きく異なる。たとえば、be1/be2bは、すり潰さない炊飯米は76.2%であるが、すり潰した場合、28.4%となる。また、玄米粉の難消化性澱粉含有率も35.1%となり、いずれも親系統のbe2bより格段に高い値を示す。
すなわち、後述する実施例の図4に示すように、本実施形態のbe1/be2bのイネ種子の胚乳から製造される澱粉は、アミロペクチンの鎖長分布のうち、DP19以下が減少し、DP20以上が増加する。これは、アミロペクチンの長鎖量が、通常米に比べて格段に高いbe2bの澱粉と比べても多い。
加えて、本発明の実施の形態に係るbe1/be2bのイネ種子の胚乳から製造される澱粉は、be2bを用いて製造される澱粉よりも、糊化ピーク温度が7℃以上高くなる。
つまり、本発明の実施の形態に係るイネ種子、イネ種子から製造される米粉、及び澱粉は、親系統のbe2bよりアミロペクチンの長鎖量が増加していることで、be2bとは違った物性を示し、具体的には糊化ピーク温度が高くなる。
具体的には、本実施形態のイネ種子、イネ種子から製造される精米、米粉、及び澱粉は、老化性が有利に働く調理法である、麺や米菓に適している。さらに具体的には、本実施形態のイネ種子、米粉、及び澱粉は、ピラフ若しくはリゾット、米菓、グラノーラ等の食品に好適に用いることができる。これにより、従来とは、味わい、口触り、食感、風味等が異なる特徴ある食品を製造することができる。すなわち、「食感改良剤」として用いることが可能である。また、これらを用いた各種健康食品やダイエット食品、難消化性澱粉を精製したサプリメント等に利用可能である。
具体的には、本実施形態のbe1/be2bのイネ種子は、粉砕機等で粉砕して、米粉として提供可能である。すなわち、be1/be2bのイネ種子の胚乳を粉末化することで米粉を製造できる。
また、be1/be2bのイネ種子の粥を攪拌することで米ゲルとして使用することができる。
本発明の実施の形態に係るbe1/be2bのイネ種子を粉砕した粉砕物である米粉又は米ゲルは、パンや麺等に混合させて利用することができる。
この際、本実施形態の米粉、米ゲルについても、従来の100%米粉で作ったパンや麺等の食感を改良する「食感改良剤」として用いることも可能である。この「食感改良剤」として用いられる際の配合割合や配合順序や配合方法等は、加工法や製造法等や保存法等に対応して、任意に設定可能である。
また、本実施形態の変異体米から抽出した澱粉自体を、難消化性澱粉が多く含まれる澱粉として使用することも可能である。
すなわち、このような本実施形態のbe1/be2bのイネ種子、この粉末、米ゲル等を用いた食品は、麺、パン、ピラフ、かゆ、米菓等の米由来のダイエット素材として用いることが可能である。また、これらの食品は、習慣的に摂取することにより、低カロリー性を備え、大腸環境を整えるため糖尿病、大腸癌、便秘の予防等の効果が期待される。さらに、米粉100%の食品が開発されれば、小麦粉由来のグルテンを持たない、グルテンフリー食品として、小麦アレルギーの患者に有効な食品として提供できる。
本実施形態のbe1/be2bは、炊飯米にしても多くの難消化性澱粉を含んでいる。このため、この炊飯米を溶解、酵素処理等することで、容易に難消化性澱粉を分離することが可能となる。さらに、本実施形態のbe1/be2bは、従来の系統に比べると、すり潰した状態でも多くの難消化性澱粉を含んでいる。このため、米粉から難消化性澱粉を抽出しても、実用的に多くの量を取得可能である。
この本実施形態のbe1/be2bの米粉や澱粉は、アミロースの含量が高いことにより、工業的な用途にて使用可能である。これは、生分解性プラスチックなど、成形が必要な場合は、老化性が高い方が有利であるためである。たとえば、アミロースは温水に溶けるため、フィルム状に成形して、生分解性フィルム、医療用材料、縫合糸のような用途に用いることができる。また、体内で吸収分解される性質を用いて、再生医療の「足場」用の部材として用いることが可能である。
さらに、グラスファイバー作成時の資材、工業用糊、建築材料の配合剤、植物栽培用の資材等、様々な工業用途に利用可能である。
より具体的には、本発明の実施の形態に係るイネ変異体の作出方法は、BEIの遺伝子の第10エキソンの最後の塩基がグアニンからアデニンへ変異し、BEIIbの遺伝子の第9イントロンの最後の塩基がグアニンからアデニンに変異している一塩基置換を分子マーカーとして、二重劣性ホモ変異体を特定する。
これらの二重変異の結果、本実施形態のイネ変異体は、野生型に比べて、BEI及びBEIIbの活性が低下する。
具体的な作出による形質変化は、ウエスタンブロッティングでそれぞれのバンドが欠損していること、又は、分子マーカーを使ったPCR増幅及び制限酵素切断されたDNAのアガロースゲル電気泳動パターンから二重変異体であることを確認することが可能である。
上述したように、トウモロコシ、大麦等には、難消化性澱粉量の高い系統が存在した。しかしながら、これらの植物の澱粉の生合成の機構は、イネとは大分、異なっていることが明らかとなっており、これをイネに適用できるかどうかは不明であった。
一方で、枝作り酵素BEIIbを欠損させ、アミロペクチンの長鎖が相対的に多くなった変異体(be2b系統)は、アミロペクチンの長鎖量が通常米と変わらず、高アミロース性を示す系統より、難消化性澱粉量が格段に多かった(非特許文献12)。これにより、難消化性澱粉は、アミロース含量よりもむしろアミロペクチンの長鎖量に由来することが明らかになってきていた。
ここで、難消化性澱粉の摂取カロリーは、通常の澱粉の半分の2カロリーとして計算される。このため、難消化性澱粉含有率が15~25%程度であるbe2bの炊飯米は、通常品種の炊飯米を食べた時に比べて、わずか7.5~12.5%しかカロリーオフにならなかった。また、これらの数値は、炊飯米をすり潰さずに測定した値であるものの、実際に食べるときは咀嚼するため、難消化性澱粉含有の量はさらに低下する。さらに、難消化性澱粉含有率が高い米は、炊飯米として食する場合、食味がすぐれず、100%で食べることはかなり困難であるため、通常米とブレンドした状態で食べることになる。さらに、米粉として利用する場合は、消化液への露出が多くなるので消化されやすくなり、炊飯米として食べる時よりも難消化性澱粉量が更に低下する場合があることも分かってきた。
以上のことを考慮すると、実際に摂取した際により高い機能性を期待するためには、できる限り難消化性澱粉を多く含む、大規模栽培可能な米品種が必要となる。これに関して、従来のbe2bのような難消化性澱粉を含むイネ変異体は、実用性が低かった。
このため、難消化性澱粉の含有率が高く、収量も高く、実用性を高めた非遺伝子組み換え体のイネ変異体が求められていた。
より具体的には、後述の実施例の表3や図3に示されるように、本実施形態の炊飯米の難消化性澱粉含有率は、従来のbe2bの一例であるEM10に比べて、約2倍程度高い値を示し、少なくとも20%の難消化性澱粉含有率となる。
具体的には、本実施形態のbe1/be2bのイネ種子は、難消化性澱粉含有率が格段に高いため、食品に少量でも用いるだけで低カロリー化が可能であり、ダイエット食品を製造する際、低コスト化につながる。より具体的には、難消化性澱粉は、上述したように、通常の炭水化物が4kcal/1gに対して、2kcal/gであるため、本実施形態の変異体米を食品に含有させることで、確実に摂取カロリーを少なくすることができる。
また、本実施形態のbe1/be2bのイネ種子を米粉、精製澱粉、及び/又は米ゲルとして添加して食品を製造した場合、その食品中の難消化性澱粉含有率も調理方法により変化するものの、機能性を高めることができる。ブレンドする際も従来のイネよりも添加量を抑えることができる。
さらに、本実施形態の食感改良剤は、加工デンプンのように化学的に修飾され、食品添加物しての表示が義務付けられているような添加物ではない。つまり、本実施形態の食感改良剤は、食品添加物ではなく、天然素材由来の添加剤として用いることが可能である。この上で、腸内フローラに良い影響を与えて、健康を増進させる効果が期待できる。
これに対して、本発明の実施の形態に係るイネ変異体のイネ種子は、EM10よりも難消化性澱粉含有率が多くなり、更に、種子が大きくなるため、実用性がさらに高くなる。
たとえば、本発明者らは、後述の実施例で示すbe1/be2bのクローン(系統、株)である#1403について、超多収米である秋田63号を戻し交配することによる品種改良も行ってみたところ、種子の巨大化が確認できた。すなわち、これら戻し交配した系統を、本発明の他の実施形態のイネ変異体として用いることが可能である。
また、上述の難消化性澱粉高含有イネ変異体の作出方法により、新たにbe1/be2bの株を作出して、更に性質のよいものを選抜することも考えられる。
このようにして、種子が大きい株が得られれば、精米する上で大きなメリットとなる。また、種子が大きくなることから収量が高くなり、この生産性の高さが経済性にも貢献する。すなわち、難消化性澱粉を取得したり食品を製造したりする際に低コスト化につながる。このため、実際に食品等を製造する際、又は、炊飯米として提供する際の実用性を高めることができる。
(be1/be2b二重変異体米の単離)
BEIIb欠損変異体米(EM10)にBEI変異体(EM557)を交配することで、be1/be2b二重変異体米を作出し、その性質を調べた。
白濁種子の胚と反対側の胚乳1/4を使って、タンパク質を抽出し、BEI抗体及びBEIIb抗体でウエスタンブロッティングを行い、BEI及びBEIIbが欠損している種子の胚側の残りの3/4を滅菌し、寒天培地に移植した。
これらの幼植物の葉身からPCR法によって、BEI及びBEIIb遺伝子が欠損している個体を選抜し、栽培を続け、F3種子を取得し、#1403と名付けた。この#1403において、ウエスタンブロッティングにより、両タンパク質が欠損していることを確認した。
ウエスタンブロッティングを行ったメンブレンにECL溶液(Pierece West Pico Chrmiluminescnt substrate)を1mLかけることで発色させ、Fuji LAS4000(富士フイルム株式会社製)で発色したバンドを写真に撮り、その画像データを、ソフトウェア(MultiGauge)を用いて、検出したバンドの明るさやコントラストを編集した。写真撮影後、メンブレンを蒸留水で十分に洗浄した後乾燥させ保存した。
以上のように、得られるバンドの分子量の違いで、BEI及びBEIIbの欠損を確認した確実な材料を使って分析することが可能となる。
澱粉の精製は、冷アルカリ浸せき法(Yamamoto他、Denpun Kagaku 28:241-244(1981))を用いた。
10gの玄米を80%まで精米し、0.1%のNaOHを200mL加えて一晩4℃で放置した。翌日、上清を捨て、乳鉢ですりつぶし、150μmのメッシュに通して、3,000g、4℃で10分間遠心分離した。
沈殿に0.1%のNaOHを600mL加えて氷中で3時間振とうし、一晩4℃で放置した。
翌日、上清を捨て、蒸留水でけん濁し、1Nの酢酸で中和した。さらに、蒸留水で5回洗浄し、乾燥させ、乳鉢で粉体にした。
精製した澱粉5mgに蒸留水0.25mLを加えて混合し、2NのNaOHを0.25mL加えて、37℃で2時間糊化させた。
これに蒸留水3.65mLを加え、5NのHClを90μL加えて中和させた。次に、100mMの酢酸緩衝液(pH3.5)を1.5mL加え、P.amyloderamosaイソアミラーゼ(EC3.2.1.68、林原生物化学研究所製)を12.5μL(約875unit)加え、37℃で24時間揺らしながら反応させた。
そして、エタノールを5mL加え、ロータリーエバポレーターで乾固させた。これに蒸留水を0.4mL及び2NのNaOHを0.4mL加えて、4℃で30分間糊化させ、5μmのフィルターで濾過した後、ろ液をゲル濾過カラムにアプライした。
鎖長分布解析において、試料は、完熟種子1粒から外内穎及び胚を取り除き、ペンチで胚乳を粉砕した後、エッペンドルフチューブ内でプラスチック製ホモジナイザー(グライナー社製)を用いてさらに磨砕した粉末を用いた。
各々に5mLのメタノールを加え、10分間煮沸した。次に、2、500xgで10分間遠心分離し、上清を除去し、90%のメタノールを5mL加え2度洗浄した。
さらに、沈殿に5Nの水酸化ナトリウムを15μL加え、5分間煮沸して澱粉を糊化させた。
その糊化液を氷酢酸9.6μLで中和した後、蒸留水を1089μL、0.6Mの酢酸緩衝液(pH4.4)を100μL、2%のアジ化ナトリウムを15μL、P.amyloderamosaイソアミラーゼ(EC3.2.1.68、林原生物化学研究所製)を2μL(約210unit)加え、スターラーバーで撹拌しながら37℃で8時間以上反応した。
次に、イソアミラーゼを2μL追加して8時間以上反応した後、常温で10,000xgで遠心分離し、上清を脱イオンカラム(AG501-X8(D)、Bio-Rad社製)で濾過した。
試料中の糖含量5~10nmol相当の還元末端をもつα-グルカン鎖を遠心濃縮機で乾燥させ、1-アミノピレン-3,6,8-三硫酸塩(APTS)溶液(2.5%のAPTS、15%の酢酸)を2μL、シアン化ホウ素ナトリウム溶液(1Mのシアン化ホウ素ナトリウム、100%のテトラヒドロフラン)を2μL添加し、55℃で90分間反応させた。
分析時には12.5倍に蒸留水で希釈して用いた。鎖長分布解析は、キャピラリー電気泳動装置(P/ACE MDQ、AB Sciex社製)を用いて行った。
グルコース重合度(DP)3以上の各ピーク面積を数値化し、DP60までのピーク面積の合計を100%としたときの各DPの割合(Mole%)を算出した。
105℃で2時間乾燥させた澱粉、約3mgに蒸留水9μLを加えて混合し、昇温速度3℃/分で5℃から100℃までの温度変化させたときの示差走査熱量をDSC6100(セイコーインスツル株式会社製)で測定した。
その後、同機種のアプリケーションソフトを用いて、糊化開始温度、糊化ピーク温度、糊化終了温度、及び糊化熱量を算出した。
まず、すり潰さない炊飯米の難消化性澱粉含有率の測定における炊飯方法について述べる。15mLフタ付き遠沈管に約100mgの精米(5~8粒)を秤量し、パスツールピペットを用いて遠沈管内でサンプルを2回水洗した。遠沈管内の水分が精米重量の1.5倍±0.3mgの水量になるように蒸留水を加えた。すなわち、遠沈管内の全重量が精米の2.5倍になるようにした。遠沈管側面に付いた水を遠心分離機にかけて落とした。5合炊き炊飯器の炊飯釜に約250mLの水道水を入れ、マイクロチューブスタンドとガラスシャーレ(直径12cm)を置き、その上にサンプルの入った15mL遠沈管をななめに置いて5合炊き炊飯器で炊飯した。
次に、すり潰さない炊飯米の難消化性澱粉含有率の測定における炊飯方法について述べる。15mLフタ付き遠沈管に約1gの精米を秤量し、上記と同様の方法で、加水量1.5倍になるように加水し、炊飯した。炊飯した精米を乳鉢ですり潰し、250mg秤量して難消化性澱粉含有率の定量に用いた。
玄米粉の難消化性澱粉含有率の測定の際は、玄米をペンチと乳鉢で粉砕し、それらを約100mg測り取り、以下の方法で難消化性澱粉含有率の測定を行った。
RS測定キットの測定用のパンクレアチンα-アミラーゼ(10mg/mL)+アミログルコシターゼ(3U/mL)は以下の通り作成した。50mL遠沈管に0.1Mマレート・ナトリウム・バッファー(pH 6.0)50mLと、RS測定キットに付属のブタ膵臓α-アミラーゼ0.5gを溶かし、氷上で5分間振とう機で撹拌した。300U(unit)/mLに希釈したアミログルコシターゼ(AMG)溶液0.5mLを加え撹拌し3,000rpm、25℃、10分遠心分離し、上清を新しい50mL遠沈管に移した。この試薬は必要分等倍に変化させ、その都度作成した。
グルコースまで分解されたrsは遠沈管の目盛11mL、non-rsは目盛30mLまで、蒸留水でメスアップした。rsは難消化性澱粉が高いサンプル(難消化性澱粉が15%を超えるもの)及び、non-rsは0.1M酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)で10倍希釈した。各溶解液及び希釈液10μLとグルコース測定試薬(GOPOD溶液)150μLとをそれぞれ2ホールずつ96穴のマイクロプレートの各穴にアプライした。また、別の穴に、検量線作成のためのグルコース溶液標準液(mg/mL)、その上から、0.1M酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)、グルコース測定試薬(GOPOD溶液)をアプライした。マイクロプレートシートでふたをし、ハイブリオーブン(TAITEC HB-80)で50℃、20分間反応させた。反応後、マイクロプレートリーダーを用いて、510nmの吸光度を測定した。
グルコース溶液の測定値から検量線を引き、各サンプルのグルコース濃度(μg/μL)を求め、100mg精米中のrs及びnon-rs量を算出した。難消化性澱粉含有率を示す難消化性澱粉含有率(%)は以下の式(1)により算出した。
難消化性澱粉含有率(%)=rs(mg)/[rs(mg)+non-rs(mg)]……式(1)
まず、図1を参照して、be1/be2b(#1403)及びそれらの親変異体(EM557及びEM10)と野生型(台中65号と金南風)の完熟胚乳から抽出したタンパク質のウエスタンブロッティングの結果について説明する。
なお、EM557及びEM10は、胚の突然変異源であるMNU(N-methyl-N-nitrosourea、メタンニトロソウレア)処理を用いて選抜した。MNU処理は、文献(非特許文献6及びYano,M., Okuno, K., Kawakami, J., Satoh, H. and Omura, T. (1985) High amylose mutants of rice, Oryza sativa L. Theor Appl Genet 69: 253-257.)に記載された方法に従って行った。
また、EM557の親系統は台中65号、EM10の親系統は金南風である。
#1403のタンパク質を抽出したウエスタンブロッティングにおいては、いずれの種子でもBEI及びBEIIbバンドが欠損していた。
各クローンにおいて、左図は完熟玄米の下から光を当てて撮影した写真、右図は完熟玄米の上から光を当てて撮影した写真である。be1親変異体の種子は、野生型とほとんど変化が無かったが、be2bのクローンであるEM10の種子は白濁し、野生型(日本晴)より小さかった。
これに対して、be1/be2bのクローンである#1403の種子は、be2bのEM10と同様、玄米全体が白く濁る「白濁」の形態を示した。これに加え、#1403の種子の大きさは、EM10と比べて大きかった。
このように、be2bのクローンであるEM10は、野生型の56.9%の種子重量であった。
また、be1/be2bのクローンである#1403の玄米重量は野生型(金南風)の62.6%と、親系統のEM10より有意に大きく、玄米重量のさらなる減少は見られなかった。
図4は、be1/be2b(#1403)、それらの親変異体(EM557及びEM10)、及び野生型(台中65号及び金南風)の完熟胚乳のアミロペクチンの鎖長分布を示すグラフである。図4において、横軸は、DP(degree of polymerization)は、グルコースの重合度を示す値である。縦軸は、Molar(%)を示す。
BEIIbの単一変異体のクローンであるEM10は、DP≦14の短鎖が野生型と比べて激減し、その代わりDP≧15の長鎖が増加していた。
また、be1/be2bのクローン#1403は、EM10のパターンに類似してDP6~14の短鎖の減少が大きいのが特徴であった。しかしながら、DP10~19の減少の程度はEM10より増加しており、DP20以上の長鎖は、EM10より増加していた。
以上のように、#1403のアミロペクチンの鎖長分布パターンは、EM10を野生型と比較した場合よりも、短鎖が減少し長鎖が増加する、より長鎖が多くなる特徴を示した。
澱粉を枝切りしたもののゲル濾過パターンは、3つのピークにわかれ、最も速く検出されるピーク(Fraction I)が見かけのアミロース、2番目に検出されるピーク(Fraction II)がクラスターを連結するB2鎖より長いアミロペクチンの長鎖、3番目に検出されるピーク(Fraction III)がアミロペクチンのクラスター内の短鎖である。表1は、それぞれbe1/be2b(#1403)、それらの親変異体(EM557及びEM10)、及び野生型(台中65号及び金南風)のゲル濾過パターンから数値化したFr.I~IIIの各フラクションの割合とFr. IIIのIIに対する割合を示す。
これに対して、be1/be2bのアミロース含量は51.7%と、be2bのクローンEM10よりも更に約2.0倍高かった。また、be2bでは、短鎖の割合であるIII/II値が1.0と非常に小さいことから、アミロペクチンの長鎖の割合が非常に大きかった。be1/be2bは、この値が0.5であり、さらにアミロペクチンの長鎖の割合が高かった。
これにより、アミロペクチンの長鎖とアミロース含量が高い澱粉においては難消化性澱粉の割合が多い傾向があり、be1/be2bにおいても、澱粉の難消化性澱粉は非常に高くなることが分かる。このため、ダイエット素材を中心とした食品加工分野や添加剤及び工業資材として特徴的な製品を製造できると考えられる。
具体的には、be1/be2b(#1403)、それらの親変異体(EM557及びEM10)、及び野生型(台中65号及び金南風)の各澱粉糊試料の糊化開始温度、糊化ピーク温度、糊化終了温度、糊化熱量を示差走査熱量分析器(DSC)で測定した結果を示す。
EM10の糊化ピーク温度は金南風より約16℃高かった。#1403は、EM10よりさらに7.5℃高く、測定した澱粉の中では最も高い糊化温度を示した。一方、#1403の糊化熱量は、測定した澱粉の中で最も低い値を示した。上記の糊化の際に得られる吸熱反応は、アミロペクチンに由来しており、アミロース含量が極端に高い#1403は、アミロペクチンが少ないため、糊化熱量も低かったものと考えられる。
具体的には、be1/be2b(#1403)、それらの親変異体(EM557及びEM10)、及び野生型(台中65号及び金南風)に加え、高RS米系統A~Cの精米を1.5倍の加水量で炊飯し、すり潰していない炊飯米の難消化性澱粉含有率、乳鉢ですり潰した炊飯米及び加熱していない玄米粉をRS測定キットで測定した結果を示す。
高RS米系統Bは、EM10を親系統として、アミロース含量が0%のモチ米の変異体と交配により作成した二重変異体である(特許文献6)。このモチ米と交配した二重変異体は、アミロースを含まないにもかかわらず、EM10のアミロペクチンの平均鎖長が極端に長いという性質に由来する難消化性澱粉を備えている。なお、高RS米系統Bは、品種改良がおこなわれていないため、種子は非常に小さく、収量が上がらないため、実用性が非常に低い。
高RS米系統Cは、BEIIb活性が低下したbe2bの株の一例であるEM129を多収品種と戻し交配して品種登録申請された、ちくし粉85号である(非特許文献22)。この高RS米系統Cは、血糖値上昇抑制作用が示され、EM10と比べると多収である。
高RS米系統Bは、アミロースが含まれず、玄米粉の難消化性澱粉含有率は30.2%と高いにもかかわらずすり潰した炊飯米では、EM10と比べると、難消化性澱粉含有率が比較的少なかった。
高RS米系統Cの難消化性澱粉含有率は、玄米粉では、11.2%とEM10と同等の値を示すものの、炊飯米の難消化性澱粉含有率はEM10よりはるかに低くなっていた。
以上のように、炊飯米、玄米粉のいずれでも、#1403のRSは、従来の高RS米の中でも格段に高い値を示すことが明らかになった。
Claims (12)
- ジャポニカ米由来のイネ枝作り酵素I型(BEI)及びIIb型(BEIIb)の遺伝子座が劣性ホモであり、遺伝的に固定されており、非遺伝子組み換え体であり、
前記BEI及び前記BEIIbは両者とも欠損しており、前記欠損は、前記BEIの遺伝子の第10エキソンの最後の塩基がグアニンからアデニンへ変異し、前記BEIIbの遺伝子の第9イントロンの最後の塩基がグアニンからアデニンに変異していることであり、
親系統である野生型の種子の胚乳澱粉と比較して、アミロペクチンの鎖長分布のうち、少なくともグルコース重合度(DP)6~16が減少し、且つDP17以上が増加している
ことを特徴とする難消化性澱粉高含有イネ変異体。 - 精米後のイネ種子は、難消化性澱粉の含有率が、前記親系統であるBEIIb欠損変異体よりも多い
ことを特徴とする請求項1に記載の難消化性澱粉高含有イネ変異体。 - 前記イネ種子を炊飯した場合、
すり潰さない状態の炊飯米における前記難消化性澱粉の含有率が60%以上、すり潰した状態の炊飯米における前記難消化性澱粉の含有率が20%以上であり、
前記イネ種子の玄米粉における前記難消化性澱粉の含有率が32%以上である
ことを特徴とする請求項2に記載の難消化性澱粉高含有イネ変異体。 - 前記イネ種子の胚乳から製造される澱粉は、前記親系統であるBEIIb欠損変異体のイネ種子の胚乳から製造される澱粉と比べて、アミロペクチンの鎖長分布のうち、DP19以下が減少され、DP20以上が増加される
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の難消化性澱粉高含有イネ変異体。 - 前記イネ種子の胚乳から製造される澱粉は、
前記親系統であるBEIIb欠損変異体のイネ種子の胚乳から製造される澱粉よりも、糊化ピーク温度が7℃以上高い
ことを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の難消化性澱粉高含有イネ変異体。 - 前記イネ種子の胚乳から製造される澱粉は、算出されたアミロースの割合が50%以上である
ことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載の難消化性澱粉高含有イネ変異体。 - 前記イネ種子は、粉末化することで米粉、粥を攪拌することで米ゲルとしても利用可能である
ことを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項に記載の難消化性澱粉高含有イネ変異体。 - 請求項2乃至6のいずれか1項に記載の難消化性澱粉高含有イネ変異体の前記イネ種子の胚乳を粉末化して米粉を製造する
ことを特徴とする米粉製造方法。 - 請求項2乃至7のいずれか1項に記載の難消化性澱粉高含有イネ変異体の前記イネ種子の炊飯米、及び/又は請求項8に記載の米粉製造方法により製造された米粉より難消化性澱粉を抽出する
ことを特徴とする難消化性澱粉製造方法。 - 請求項2乃至7のいずれか1項に記載の難消化性澱粉高含有イネ変異体の前記イネ種子の粥を攪拌して米ゲルを製造する
ことを特徴とする米ゲル製造方法。 - 請求項2乃至7のいずれか1項に記載の難消化性澱粉高含有イネ変異体の前記イネ種子、請求項8に記載の米粉製造方法により製造された米粉、請求項9に記載の難消化性澱粉製造方法により製造された難消化性澱粉、及び請求項10に記載の米ゲル製造方法により製造された米ゲルのいずれか又は任意の組み合わせを含んで製造する
ことを特徴とする食品製造方法。 - 非遺伝子組み換えの方式により、ジャポニカ米由来のイネ枝作り酵素I型(BEI)及びIIb型(BEIIb)の二重劣性ホモ変異体を作出させ、遺伝的に固定させ、
前記BEI及び前記BEIIbの両者とも欠損しており、前記欠損として、前記BEIの遺伝子の第10エキソンの最後の塩基がグアニンからアデニンへ変異し、前記BEIIbの遺伝子の第9イントロンの最後の塩基がグアニンからアデニンに変異している一塩基置換を分子マーカーとして、前記二重劣性ホモ変異体を特定し、
前記二重劣性ホモ変異体は、親系統である野生型の種子の胚乳澱粉と比較して、アミロペクチンの鎖長分布のうち、少なくともグルコース重合度(DP)6~16が減少し、且つDP17以上が増加している
ことを特徴とする難消化性澱粉高含有イネ変異体の作出方法。
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