JP7235302B2 - 光化学系iiを利用した光バイオ燃料電池およびその利用物 - Google Patents

光化学系iiを利用した光バイオ燃料電池およびその利用物 Download PDF

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Description

本発明は、光化学系IIを利用した光バイオ燃料電池とその利用方法に関し、植物に含まれる葉緑体中に存在する光化学系IIを利用し、これが光を吸収して水を分解し、発生するプロトンと電子を燃料電池に利用する光バイオ燃料電池とその利用物に関する。
再生可能エネルギーの代表格として、太陽光発電や風力発電が挙げられ、固定価格買取制度(FIT)などの普及促進への後押し等によって、その普及率は、制度の開始当初から急激な伸び率を示したが、その後、買い取り価格が下落し、発電システム価格の低下が進まず、発電効率も頭打ちであることから発電コストも依然高値で推移している。このような状況から家庭への導入件数の伸び率は近年大幅に減少している。
また近年、小型で高効率な発電システムとして水素ガスを燃料に利用する燃料電池が注目を集めている。東日本大震災での教訓も踏まえ、これらの発電システムを組み合わせた分散型発電システムも様々な形で提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
さらに、これらの発電システムで得られる電力を蓄電して余剰電力を自家消費するための蓄電池と組み合わせたシステムも提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。
太陽光発電は、従来からシリコーン系材料が主に利用されており発電効率は30%前後と高効率であるものの、システム自体は環境適合型ではなく、製造及び廃棄に際して多大の二酸化炭素排出量に相当する環境負荷を与えることが問題として指摘されている。また、太陽光発電による発電量は、日照量に直接依存するため、日内変動および季節変動が大きいため太陽光発電にのみに頼る受電システムは、電力の安定的供給の点で本質的な問題を抱えている。
燃料電池は、燃料の持つ化学エネルギーを電気化学プロセスで酸化させることで酸化反応に伴って放出される化学エネルギーを電気エネルギーに変換する装置であり、例えば水素と酸素を反応させることで発生する化学エネルギーを電気エネルギーに変換して利用するものがある。燃料電池は、電解質を挟んで、一方に燃料極、他方に空気極を配置したサンドイッチ構造から構成される。水素と酸素を化学反応させる燃料電池は、その具体的な構成について様々な検討が進められてきた。例えば、良く知られた例として、従来から光触媒として作用する酸化チタンを利用した水の紫外光分解反応で水素を発生させ、これを燃料として利用する光触媒燃料電池は盛んに検討されており、さらにこれを色素増感したグレッツェルタイプ色素増感太陽電池も盛んに検討されてきた。
しかしながら、水素と酸素を化学反応させる燃料電池は、水素ガスを燃料として利用することから、水素ガスの貯蔵や供給に係る問題が山積しており、さらには電極に高価で産出量にも限りがある貴金属プラチナを利用するため、普及促進には様々な大きな課題がある。
燃料電池の構成として、貯蔵された水素ガスを燃料として利用するのではなく、図25に示すように安定な燃料を改質して水素を生成する機構や、水を水素へ分解する機構を備えるものが知られている。例えば、特許文献3には、水の分解機構として葉緑体を用いた例が示されている。植物の葉などに含まれる葉緑体中では、太陽光エネルギーを利用して大気中の二酸化炭素を固定し、これを糖類やデンプンなどの炭水化物に変換する光合成プロセスを行うことが知られている。光合成プロセスを行う実体は、葉緑体中に存在し、また、葉緑体内部のストロマと呼ばれる部分には、様々な酵素や核酸、リポソームなどが含まれ、これらと共に、独特のラメラ構造を有する光合成の場であるチラコイドが葉緑体内部に含まれる。
光合成プロセスは、光を吸収してそのエネルギーを利用して水を酸素分子とプロトンおよび電子に分解する光化学系(Photo System)II複合体(以下、PSII複合体ということがある)と、このPSIIから生成した電子とプロトンを利用して、空気中の二酸化炭素から炭水化物を合成する光化学系I複合体(以下、PSI複合体ということがある)によって実現される。
PSI複合体とPSII複合体は、チラコイドの中で空間的に分離して存在し、PSII複合体で生成された電子は、チトクロームb6/f複合体を経由してPSI複合体に移動する。PSII複合体は、光を捕集する機能を有するアンテナ部分のクロロフィル・タンパク質複合体(LHCII)と、捕集した光エネルギーを集めて水の分解反応を可能にするために必要な高い酸化還元電位を有する光合成反応中心、およびこの光合成反応中心に隣接してこれに電子を受け渡す、水を分解する反応中心であるマンガンクラスターを含むコア部分から構成される。
これらアンテナ部とコア部の複合体であるPSII複合体は、チラコイドが積層したグラナと呼ばれる比較的密度の高い層状構造部に主として含まれることが知られている。一方、PSI複合体は、相対的に低密度のチラコイド表層部やストロマ部分に主として存在し、葉緑体を機械的に破砕し、界面活性剤を用いて膜構造を可溶化するとグラナ部分が沈降し、ストロマ部分は浮遊することから、PSII複合体とPSI複合体を分離することが可能となる。分離の際の温度や遮光など各種条件を整えることで、光反応機能を維持した状態で、PSII複合体を葉緑体から抽出できる。
高等植物の緑葉から葉緑体を単離する方法、および破砕した葉緑体からチラコイド膜を単離する方法が知られている(非特許文献1)。非特許文献1には、チラコイド膜に含まれるPSII複合体を選択的に取り出す方法として、葉緑体を破砕処理し、遠心分離によりチラコイド膜を沈殿させ分離させることが開示され、チラコイド膜を、例えばノニオン性界面活性剤であるTriton X-100で処理し遠心分離することにより、PSII複合体をその機能を維持したまま単離することが可能であることが示されている。また、高等植物以外に、緑藻やユーグレナ、珪藻、紅藻、シアノバクテリアなどからのPSII複合体の単離方法が知られている(非特許文献2)。非特許文献2に開示された方法で単離されるPSII複合体は、いずれも光を吸収し、高い酸素発生能を維持していることが示されている。
また、シアノバクテリア類の葉緑体中のチラコイド膜を分離し、さらにチラコイド膜からPSII複合体を単離し、これを金電極表面に固定化してなるアノード電極と、ビリルビンオキシダーゼがカーボンナノチューブを介して、炭素カソード電極に固定化された構成からなる燃料電池が知られている(非特許文献3)。非特許文献3には、光をアノード電極側に照射すると電極表面に固定したPSII複合体の働きにより水が光分解され、アノード側から電子が外部の負荷に流れ、その先のカソード電極側で酸素が水に還元されるプロセスによって燃料電池として作動することが開示されている。非特許文献3に開示された燃料電池の場合、電極表面を光触媒で修飾することから、電極表面の劣化により出力が大きく低下するといった問題がある。さらに電極を製造するためのコストが高いといった問題、製造工程が煩雑で品質を安定化することが極めて困難であるといった問題がある。
以上のとおり、葉緑体中には、PSI複合体とPSII複合体の両方が含まれており、PSIIにおいて光エネルギーを吸収して水を水素と酸素に分解し、ここで得られたエネルギーをPSIに受け渡し、PSIにおいて二酸化炭素と水からデンプンが合成される。
しかしながら、葉緑体中においてはPSII複合体において水の光分解で生成した電子は、直接、PSI複合体に受け渡されデンプンの合成に利用されることから、プロトンと再結合して水素を生成することがなく、燃料電池に利用可能な十分な化学エネルギーを得ることは困難であるといった問題があった。
また、燃料電池は、様々な方式が提案されてきたが、燃料電池を構成する材料に、重金属や複雑な化学物質を利用する場合には、原材料の廃棄や再利用において問題があり、再生可能で環境に適合する素材から構成される燃料電池が求められている。
特開2015-176675号公報 特開2015-164380号公報 特開2002-190310号公報
宮尾光恵, "2.光合成膜などの単離 a.高等植物の葉緑体と葉緑体膜の単離", 低温科学 vol.69、197-203 (2008) 枕建仁ら,"4.タンパク質複合体の単離 b.系II複合体の精製法",低温科学、vol.69、275-283 (2008) O. Yehezkeli et al, "Integrated photosystem II-based photo-bioelectrochemical cells", Nature Communications 3:742 (2012)
上記状況に鑑みて、本発明は、植物に含まれる葉緑体を活用し、太陽光や照明光の照射による光エネルギーを電気エネルギーに変換することにより、再生可能で環境調和型素材から構成される光バイオ燃料電池とその利用物を提供することを目的とする。
本発明者らは、単離されたPSII複合体による光反応で生成するプロトンと電子の利用方法について鋭意研究し、本発明を完成するに至った。
上記課題を達成すべく、本発明の光バイオ燃料電池は、光エネルギーを吸収して水を酸素分子とプロトン及び電子に分解するPSII複合体の分散液または分散ゲルが、燃料電池の燃料極の一部を構成することを特徴とする。
本発明の光バイオ燃料電池は、太陽光や照明光のエネルギーを電力に変換するものであるが、従来のシリコーン型太陽電池と異なり、葉緑体中に含まれるクロロフィルと様々なタンパク質から構成されるPSII複合体が、光を吸収して水を分解し、酸素とプロトンおよび電子を発生するプロセスを主に利用するものである。本発明の光バイオ燃料電池では、樹木の伐採などで生じた枝葉や、廃棄処分される野菜などを原料に、これらから葉緑体を抽出し、これ自体を光電変換素子であるとともに電極として用いて発電に利用できる。燃料電池を構成する電解質層には、天然高分子を利用した高分子電解質を用いることにより、生分解性を有し環境に対する負荷を低減したリサイクル可能な材料から構成される燃料電池を提供できる。
本発明の光バイオ燃料電池では、燃料極としてPSII複合体の分散液または分散ゲルを用い、燃料極に含まれるPSII複合体が、水を光分解してプロトンと電子を生成する。プロトンは、燃料電池の電解質に拡散し、電子は燃料極に接する電極端子に集められ、外部の負荷を流れる。
ここで、PSII複合体は、植物細胞内の葉緑体由来であり、PSII複合体の分散液または分散ゲルは、界面活性剤を含むものである。
本発明の光バイオ燃料電池において、PSII複合体は、上述の如く、界面活性剤を用いてチラコイド膜を溶解し、ここから遠心分離することで単離することができる。単離されたPSII複合体は、水に分散させて分散液または分散ゲルとして、燃料電池の燃料極の構成の一部として利用することが可能である。分散ゲルは、例えば、分散液中にゲル化剤として、ゼラチン、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、寒天、キサンタンガム、各種増粘性水溶性ポリマー、またはシリカゲルなどの無機ゲル化剤などを添加して用いることができる。
また、本発明の光バイオ燃料電池は、具体的には、少なくとも受光面が透光性素材から成る透光性容器に、PSII複合体分散液または分散ゲルが収容され保持された水光分解ユニットと、PSII複合体分散液または分散ゲルに接する燃料極端子と、その対極となる空気極と、燃料極と空気極の間の電解質を有する燃料電池ユニットから構成される。
PSII複合体の分散液または分散ゲルに接する燃料極端子とそれに接する電解質および燃料極の対極となる空気極から構成される燃料電池ユニットに対して、PSII複合体の分散液または分散ゲルが収容され保持された水光分解ユニットが接合された構成を有する。
また、本発明の光バイオ燃料電池において、PSII複合体の分散液または分散ゲルは、少なくとも受光面が透光性素材から成る透光性容器に格納されていることが好ましい。この場合の透光性容器としては、少なくとも受光面は透光性を有し、容器はPSII複合体の分散液もしくは分散ゲルを保持するとともに、燃料電池の電解質に接する部分を備えている。透光性容器は、電解質に接する部分は開口しており、PSII複合体の分散液もしくは分散ゲルは、直接的あるいは電極端子を介して電解質に接することができる。
電解質としては、イオン電導性の媒体を含む構造体であれば任意の構成の電解質構造体が用いられるが、特に高分子固体電解質が好ましく用いられる。高分子固体電解質としては、イオン性解離基を含む各種高分子マトリックスが好ましく用いられる。具体的には、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ヒドロキシ基などの解離性プロトン酸基および水酸基を有する合成および天然ポリマーやアミノ基、イミノ基などの塩基性アミノ基を有する合成および天然ポリマーである。合成ポリマーとして用いることのできる例としては、ナフィオン(デュポン製)やフレミオン(旭硝子製)等の含フッ素ポリマーやポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリリン酸、ポリビニルアルコール等が挙げられる。天然ポリマーとしては、コラーゲン、キチン・キトサン、アルギン酸、カラギーナン、ヒアルロン酸、ケラチンなどが挙げられる。電解質として生分解性材料のものを用いることでもよい。
ここで、透光性容器とは、PSII複合体の分散液または分散ゲルを容れる容器であって、少なくとも容器の一部がPSIIの感光域において光透過性を有する光透過材で構成されていることが必要である。その光透過材は具体的にはガラスあるいはプラスチック、セラミックス等の透光性材料で構成される。透光性容器は全部が同質の材料であってもよいが、異なる材料が組み合わされたものであってもよい。ガラスとしては、通常のガラスに加えて、耐熱ガラスや強化ガラス、或いは紫外線カットガラスや赤外線カットガラス、各種の調色を施した彩色ガラスやデザイン性を付与した様々なデザインガラス、ステンドグラスなどを用いることができる。強度を高めた各種強化ガラスや耐熱性ガラス、防火ガラスなども用いてもよい。プラスチックとしては、アクリル板やポリカーボネート板、ポリウレタン板、ポリエステルシートや生分解性を有するポリ乳酸などの生分解性ポリエステルシートなどを用いることが可能であり、これらは着色されていてもよい。これらのガラスまたはプラスチックは、太陽光の可視光部分を透過してPSII複合体の分散液または分散ゲルに感光するための光エネルギーを伝える。光透過材は透光性があればよく、透明性は必ずしも必要ではない。また、強度等を高めるため、繊維や金網等が入った、又は積層された複合材も透光材として使用することができる。容器の入射光が入る面とは別の、容器から出光する側は、発電には透過性が必要ではないが、建築等の利用物として透過光を利用する用途に用いる場合には透光性があることが好ましい。
また、上記の透光性容器は、上記の燃料電池ユニットと接合する開口部と、PSII複合体の分散液もしくは分散ゲルの交換用出入り口及び/又は循環機構を有し、開口部を介して燃料極がPSII複合体の分散液もしくは分散ゲルと接触していることが好ましい態様である。
PSII複合体の分散液や分散ゲルは、長期にわたる太陽光への暴露により、次第に劣化が生じ、水を光分解する性能が次第に低下することが予想される。このため、適当な期間、利用した後に、PSII複合体の新たな分散液や新たな分散ゲルと交換することが好ましく、PSIIの複合体の分散液もしくは分散ゲルの交換用出入り口や循環機構、或は、その両方を有することが好ましい。ここで、透光性容器は、開口部以外は、密閉され内部の分散液または分散ゲルは完全に封入されていてもよい。或いは、開閉可能である機構を設けた開口部を設けて、分散液または分散ゲルの投入や排出を可能にすることでもよい。
なお、本発明の光バイオ燃料電池に用いるPSII複合体の分散液や分散ゲルの稼働寿命として、少なくとも1ヵ月の作動を目標とした場合には、密閉状態で使用したとしても実用上問題は生じない。上記の分散液や分散ゲルの交換機能を設け、適当な間隔で分散液または分散ゲルを交換するか、新しいものを補充することより、さらに稼働寿命を伸ばせることになる。
循環機構としては、透光性容器の内部に、分散液を撹拌するための機構、例えば、スクリュー羽、撹拌用フィンなどが設置され、液の流動に伴い随伴して動作するか、または外部からの駆動により強制的に分散液を撹拌する機構でもよい。或は、循環機構として、透光性容器の外部もしくは内部に送液ポンプを設けてもよい。送液ポンプとしては、ピストンポンプ、プランジャーポンプ、ダイアフラムポンプなどの往復ポンプ、ギアポンプ、ベーンポンプ、ねじポンプなどの回転ポンプ、またはターボ式ポンプとして各種遠心ポンプ、斜流ポンプ、軸流ポンプなど各種の送液用ポンプを利用できる。
本発明の光バイオ燃料電池において、透光性容器の形状としては、パネル状、チューブ状、球状、又は、多面体状などの様々な任意の形状をとることが可能である。
また、本発明の光バイオ燃料電池における上記の燃料電池ユニットが、透光性容器の外周部に接合されていることでもよい。燃料電池ユニットと透光性容器の接合面において、その接合面の全体をカバーする形で、燃料電池ユニットが配置されることでも良く、或いは、透光性容器との接合面が容器の外周部分に設けられていてもよい。
また、透光性容器に対し、波長範囲が400~800nmの可視光を、燃料電池ユニットの接合されている面と反対側の面の全面に照射した場合に、照射表面を透過して光化学系II複合体の分散液もしくは分散ゲルに到達する透過光量が少なくとも元の光量の20%以上である場合が好ましく、さらに好ましくは50%以上である場合が好ましい。透過光量が20%未満の透光性である場合には、PSII複合体に十分な光エネルギーが与えられず、光バイオ燃料電池としての機能が十分に発揮できない場合がある。
本発明の光バイオ燃料電池により発生する電力は、直接、様々な電気製品(家電その他)の稼働に利用する場合や、或いは、充電器に対する電力の供給を行い、携帯電話やその他の充電機能を有する電気器具への充電に利用することが可能である。或いは、日中に得られる余剰電力を蓄電池に蓄え、夜間にこれを利用することも極めて好ましく行うことができる。
本発明の光バイオ燃料電池の利用物としては、建築エレメントが挙げることができる。また、本発明の光バイオ燃料電池の利用物としては、家具、小物、展示物又は装飾品を挙げることができる。
本発明の光バイオ燃料電池を建築エレメントとして、例えば、建築物の窓などのパネル用途に利用する場合には、全体として透光性を有することが好ましく、この場合には燃料電池ユニットは、意匠上の観点から窓の外周部に設けられることが好ましい。また、燃料電池ユニットを覆うようにして金属部材により補強することでもよい。例えば、既存のペアガラスを利用し、二枚のガラスの空隙に、本発明の光バイオ燃料電池のPSII複合体の分散液や分散ゲルを封入し、さらに燃料電池ユニットを外周部に沿って設けることにより、建築エレメントへ適用することが可能である。
本発明の光バイオ燃料電池は、再生可能で環境調和型素材から構成される燃料電池であり、太陽光や照明光の照射光エネルギーを電気エネルギーに変換できるといった効果がある。
実施例1の光バイオ燃料電池の模式図 実施例1の光バイオ燃料電池の断面構成図 透光性容器に通液用パイプを接続したイメージ図 複数個のパネルを組み合わせて大面積のパネルとして利用するイメージ図 実施例2の光バイオ燃料電池の模式図 実施例2の光バイオ燃料電池の構成図(1) 実施例2の光バイオ燃料電池の構成図(2) 光バイオ燃料電池を一般の民家に対して屋根や窓、外壁、床などの様々な建築エレメントのイメージ図 複数の家屋の集合体に対して、光バイオ燃料電池を各々の建築物の屋根として全体を覆う形で設置した場合の外観図 光バイオ燃料電池をパネルとして複数枚組み合わせて用いる場合の形成される立体形状のイメージ図 共有スペースとして利用可能な施設の外壁に、光バイオ燃料電池パネルを施工した場合のイメージ図 光バイオ燃料電池パネルをバス停に施工した場合のイメージ図 光バイオ燃料電池パネルを高速道路に設置される遮音用防音壁として施工した場合のイメージ図 指輪としての利用物のイメージ図 室内装飾用のガラスカップの内部にPSII複合体分散液を導入し、底面のLED光源を発光させる機能を備えた照明装置のイメージ図 室内用照明装置としての様々な利用物のイメージ図 ガラステーブルまたはソファとしての利用物のイメージ図 各種の界面活性剤で抽出したPSII複合体の分散液の水素発生量の経時変化を示すグラフ 各種の界面活性剤で抽出したPSII複合体の分散液を用いた光バイオ燃料電池の開回路電圧の経時変化を示すグラフ 各種の界面活性剤で抽出したPSII複合体の分散液を用いた光バイオ燃料電池の出力密度の経時変化を示すグラフ 光バイオ燃料電池の開回路電圧の経時変化を示すグラフ 実施例5の光バイオ燃料電池の模式図(1) 実施例5の光バイオ燃料電池の模式図(2) 燃料極に発禁触媒を使用せず、PSII複合体分散液を燃料極として用いた場合の発電特性を示すグラフ 従来の燃料電池の模式図
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
本実施例の光バイオ燃料電池の模式図を図1に示す。図1に示すように、光バイオ燃料電池は、PSII複合体の分散液1に接する燃料極2の端子と、その対極となる空気極4と、燃料極2と空気極4の間の電解質3から構成される。太陽光など照射光5によって、PSII複合体の分散液1にプロトン(H)と電子(e)が生成される。
まず、光バイオ燃料電池で用いるPSII複合体の分散液について説明する。前述したとおり、高等植物、緑藻、ユーグレナ、珪藻、紅藻、シアノバクテリアなどに含まれる葉緑体中からPSII複合体を単離するために葉緑体を破砕後、内部のストロマ部分を可溶化し、PSII複合体を高濃度で含むグラナチラコイド膜を遠心分離する方法を用いることができる。この際、ストロマ部分を可溶化し、チラコイド膜中に固定化されているPSII複合体としての構造を保持したまま、PSII複合体を分離するために各種界面活性剤を用いる。
界面活性剤としては、Triton X-100やTween 20のようなオリゴエチレンオキシ基が疎水性アルキル基と結合した構造を有するノニオン性界面活性剤や、親水性部分にマルトシル基やグルコシル基を有するデシル-β-マルトシド、ドデシル-β-チオマルトシド、オクチル-β-グルコシド、或いはオリゴ糖にコレステロール誘導体基が結合したジギトニンなどのノニオン性界面活性剤を用いることができる。あるいはアニオン性界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウムや、両性界面活性剤としてラウリルジメチルアミン-オキシドも用いることができる。
これらの界面活性剤を用いる際に、PSII複合体中において光反応に寄与するクロロフィルの分解を抑制するため、なるべく低温で、遮光しながら媒体のpHを酸性側に偏らないようMES緩衝液、HEPES緩衝液、TRIS緩衝液などを用いて、pHが6~8の範囲で注意しながら操作する。界面活性剤は、脂質膜を可溶化するため、処理条件によってはグラナチラコイド膜への影響も無視できなくなり、PSII複合体の収率を低下させる場合や、その酸素発生能力を著しく低下させる場合があるからである。
チラコイド膜は、脂質とタンパク質がほぼ等しい割合で含まれており、脂質の組成は約40%がガラクトリピド(ガラクト脂質)であり、動物細胞に多く含まれるリン脂質の割合は10%程度と少ない。PSII複合体は、チラコイド膜に固定化されていることで安定化されているが、チラコイド膜を完全に溶解した場合、PSII複合体を構成するクロロフィル・タンパク質複合体(LHCII)や光反応中心などが相互に解離し複合体としての機能を失う場合がある。
そのため、PSII複合体を葉緑体から分離回収する際の界面活性剤の種類やその組み合わせを適度に調整することにより、チラコイド膜に含まれるが、本発明の光バイオ燃料電池の構成に必要のないタンパク質やリン脂質、ガラクトリピド等を除去することが好ましい。
葉緑体を破砕してチラコイド膜からPSII複合体を分離する際に、アニオン性界面活性剤を用いることで得られたPSII複合体の分散液で構成される光バイオ燃料電池の出力密度は、カチオン性界面活性剤やノニオン性界面活性剤を用いた場合に比べて初期に大きな値を示したが、次第に出力密度が低下することが判明した。これに対して、アニオン性界面活性剤に代えてカチオン性界面活性剤を用いた場合には、電流密度は少なくとも6日間にわたって比較的安定した値を示すことが判明した。また、ノニオン性界面活性剤を用いた場合には、出力密度はカチオン性界面活性剤の場合と比較して小さい値を示すことが判明した。
一方、PSII複合体の分散液の経時安定性に関しては、カチオン性界面活性剤を単独で使用した場合には凝集物が発生し、溶液中のPSII複合体が沈降するため、光の吸収率が低下する場合がある。こうした分散安定性の点ではノニオン性界面活性剤を用いることで極めて分散安定性が良好となることが判明した。
以上から、界面活性剤はその目的に応じて単一種又は複数種を併用して用いることが好ましく、所定の用途に対してはノニオン性界面活性剤にさらにカチオン性界面活性剤を併せて含む場合であり、或いは、ノニオン性界面活性剤にさらにアニオン性界面活性剤を併せて含む場合であることが好ましい。
本実施例の光バイオ燃料電池は、受光面が透光性素材から成る透光性容器に、PSII複合体の分散液が収容され保持され、かつ、分散液が交換可能な水光分解ユニットと、燃料電池ユニットが接合して構成される。水光分解ユニットに含まれるPSII複合体の分散液は、太陽光や照明光を吸収して水を光分解し、これによって生じるプロトン、あるいはプロトンと電子が再結合して生じる水素ガスを、燃料電池ユニットに供給することで燃料電池としての機能を果たすものである。このことから、例えば、PSII複合体の分散液に光照射することで生成する水素ガス量を定量することにより、光バイオ燃料電池の性能を評価することが可能である。
後述するように、先の電流の出力密度の実施例と同様に、各種界面活性剤を用いて作製したPSII複合体の分散液から光照射時に発生する水素ガス量を、分散液調整直後から12日間に亘って継続的に評価した結果により、アニオン性界面活性剤を単独で用いた場合に最も多量の水素ガスが発生し、次いで、カチオン性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤を各々単独で用いた場合に、少なくとも12日間に亘って安定的に水素ガスが発生することが明らかとなった。これに対して、両性イオン界面活性剤を用いた場合には、安定しているが相対的に水素ガス発生量は少ない結果であった。異なる界面活性剤の組み合わせにおいては、ノニオンとカチオンの組み合わせとノニオンとアニオンの組み合わせの場合が最も水素ガスの発生量が多く、また少なくとも12日間の長期に亘り安定的に発生することが明らかとなった。
葉緑体には様々な酵素が含まれており、その中にはクロロフィルを分解する酵素としてクロロフィラーゼやクロロフィルオキシダーゼなどの酵素が含まれ、これらの酵素の働きでPSII複合体に含まれるクロロフィルが分解されることでPSIIとしての機能を発揮できない場合がある。また、クロロフィルの中心金属であるマグネシウムは非常に反応性が高く、酸性条件や酸化により容易に脱離することが知られている。マグネシウムの脱離反応は酵素反応でも促進されることが知られており、SGR(Stay-Green)と称されるマグネシウム脱離酵素の存在が明らかにされている。さらには、クロロフィル自体が光励起した場合に3重項酸素分子を1重項酸素に励起することで自己光増感型酸化反応により酸化分解を生じることが知られている。クロロフィルはこのように酵素反応や酸化反応、酸による脱離反応などで中心金属のマグネシウムの脱離反応や、クロロフィルにエステル結合しているフィトール基の脱離などが生じることが知られている。
クロロフィルの中心金属であるマグネシウムが脱離した場合、フェオフィチンや、フェオフォルバイドに変化することが知られているが、これらは600~700nmの波長範囲の吸収強度が顕著に減少することから、色合いが褐色~薄褐色に変化するとともに、この波長範囲の光に対する感光性が大きく低下する。
しかしながら、400~500nmの波長範囲における吸光度の変化は僅かであることが知られている。
本発明者らは、当初クロロフィルが退色し、フェオフィチンなどのように中心金属のマグネシウムが脱離した状態では光合成反応中心への励起エネルギー移動が起こりえないと考えていたが、後述するように、マグネシウムが脱離して褐色となったPSII複合体の分散液を用いて光合成に対する活性を評価したところ、白色光を照射した場合には、元のクロロフィルの状態と遜色のない程度の水の分解活性を示すことが明らかとなり、フェオフィチン自体が光を吸収するとともに、これの励起状態がクロロフィルと同様に光合成反応中心に励起エネルギーを受け渡すことができることの知見を得た。
フェオフィチンは、光合成反応中心P680の励起状態にあるクロロフィルa二量体分子から電子を受け取り、これをユビキノンに引き渡し、そこからプラストキノンを経て下流の電子受容体に受け渡す働きをすることが知られているが、フェオフィチンのテトラピロール環はフリーベースポリフィリンとして機能し、これが光を吸収することで励起状態になると、その励起寿命がクロロフィルと同様に比較的長く安定であることから、アンテナクロロフィルと同様に集光作用を有すると考えられる。上記に示したクロロフィルが退色した状態であっても、これを含むPSII複合体の分散液に白色光照射することで退色前の状態と変わらない程度で水素の発生が観察されることから、少なくともフェオフィチンのようなフリーベースポリフィリン環化合物は、アンテナ部として機能することが強く示唆される。
一方、光合成反応中心P680にあるクロロフィルa二量体からマグネシウムが脱離する可能性があるか不明であることと、仮に、P680がフリーベースポリフィリン誘導体に変化した場合に、果たしてこれが集光部から励起エネルギーを受け取って励起され、フェオフィチンに電子を受け渡してこれ自体が電荷分離を行うことで水の分解が可能になるかは不明であるが、少なくともクロロフィル・タンパク質複合体(LHCII)に含まれるクロロフィルは比較的容易にフェオフィチンに変化し、これが光吸収し、さらにフェオフィチン自体が励起エネルギー移動の担体として光反応中心へのエネルギー移動に寄与していることを強く示唆する結果が明らかとなった。
クロロフィルは、水溶液中で酸化や酵素の影響でフェオフィチンに変化し、色調が大きく変化するが、太陽光や照明光を利用する場合においては、600nm以上の光吸収が低下しても光バイオ燃料電池としての機能には本質的には悪影響を及ぼさない。しかしながら、後述する様々な用途においては、クロロフィルの特徴的な色調が好ましく利用されることから、フェオフィチンに変化した場合であっても、例えば、600nmから700nmの波長範囲に吸収を有する色素を添加することや、あるいは透光性支持体にこうした波長に吸収を有する色材を導入するか、表面にコーティングを行うなど、さまざまな方法でフェオフィチン自体の色調に別の色合いを付加することで好みの色調に調整することも好ましく行うことができる。
上述のPSII複合体の分散液の作製時やその後の時間とともにクロロフィルの構造変化により色調が大きく変化することを防止することも当然好ましく行われ、そのために、クロロフィル分解酵素の活性を失活させるため、葉緑体からPSII複合体を抽出する抽出工程の前後、あるいは途中に、加熱処理を施すことにより、クロロフィル分解酵素の働きを失活あるいは減弱させることが可能である。或は、葉緑体からPSII複合体を抽出する際に、これらの酵素を可溶化させてPSII複合体から分離除去することも可能である。
葉緑体からPSII複合体を抽出する抽出工程において用いる各種界面活性剤の種類により、チラコイド膜の可溶化の程度が異なることから、抽出により得られるPSII複合体の安定性は、後述するように、用いる界面活性剤の種類によっても大きく影響を受けることが明らかとなった。即ち、アニオン性界面活性剤を用いた場合には、クロロフィルの退色が生じやすいが、一方で、カチオン性界面活性剤や両性界面活性剤を用いた場合には退色が起こりにくく、クロロフィルの色調が長期間保持できる。
酸化反応によるクロロフィルの分解を防止するために、葉緑体からPSII複合体を抽出する工程の前後あるいは途中、もしくはPSII複合体分散液そのものに各種酸化防止剤を添加して用いることでもよい。酸化防止剤としては、アスコルビン酸やトコフェロール、カテキン類、クロロゲン酸等各種桂皮酸誘導体、その他の各種フェノール誘導体などを好ましく用いることができる。
PSII複合体の分散液としては、上述のようにして葉緑体からPSII複合体を抽出して得られる水に分散した溶液を用いることができるが、分散液におけるPSII複合体の分散安定性も重要なファクターである。後述するように、カチオン性界面活性剤を単独で用いた場合には、PSII複合体が溶液中で凝集沈降する傾向が高く、光バイオ燃料電池として用いる場合の特性が時間とともに大きく変化する場合がある。
これに対して、PSII複合体を抽出する際に、ノニオン性界面活性剤やアニオン性界面活性剤あるいは両性界面活性剤を用いた際には、PSII複合体が凝集沈殿することもなく、安定した分散状態を長期間にわたり維持できる。
これら界面活性剤は単独で用いることもできるが、2種類以上の界面活性剤を併用することで、クロロフィル自体の化学的安定性を高めつつ、分散安定性についても良好な状態に維持することが可能であり、上述したカチオン性界面活性剤を用いる場合でも、これと併せてノニオン性界面活性剤、あるいは両性界面活性剤を併用することで、クロロフィルの化学的安定性と分散安定性を高め、長期にわたり光バイオ燃料電池としての機能を維持できる。一方、両性界面活性剤を単独で用いた場合には、PSII分散液の分散安定性は良好であるが、光バイオ燃料電池を構成した場合に、得られる電流の値が小さくなる場合がある。また、アニオン性界面活性剤を単独で用いた場合には、時間とともにPSII複合体分散液の退色が進み褐色に変化することがある。カチオン性界面活性剤を単独で用いた場合には、PSII複合体の分散液の分散安定性が悪化する場合がある。
したがって、ノニオン性界面活性剤を単独で用いる場合、ノニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤を併せて用いる場合、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤を併せて用いる場合のそれぞれの場合が、光バイオ燃料電池としての機能を長期に亘り保持できることから、好ましい使用方法である。
PSII複合体の単離工程において、各種金属イオンを適正な濃度範囲において共存させることで、チラコイド膜の安定性を高めグラナ構造をより安定化することができ、この際、用いることのできる金属イオンとしては、マグネシウムのような2価のアルカリ土類金属イオンや銅イオン、或いは、ナトリウムやリチウムのようなアルカリ金属イオンが好適に用いることができる。マグネシウムや銅のような2価の金属イオンを用いる場合、数十ミリモル/リットル以上の濃度で用いた場合、ストロマ部分のチラコイド膜まで安定化されグラナ部分とともに接着して遠心分離されることで、PSII複合体と共に、PSI複合体が単離部分に混入して、光電変換効率が低下し電池としての効率が低下する場合がある。本実施例においては、特に金属イオンの添加を行うことなく、目的とする光バイオ燃料電池の製造が可能であった。
PSII複合体を単離する際の遠心分離の条件は、用いるローターの大きさ、試料の量、遠沈管の長さと容量、目的とするPSII複合体の単離物中における純度などの様々な条件に合わせて最適化を行うことが重要である。通常は100gから10000gの加速度で、30秒から30分間の間で遠心分離を行う。この際の温度としては0~10℃の範囲で行うのがよい。本実施例では、上記の条件範囲で問題なく目的とする光バイオ燃料電池の製造が可能であった。
単離されたPSII複合体は、水を含む媒体中に分散した際に、細菌や菌類など微生物が混入した場合にタンパク質が腐敗するなどの不具合を生じる場合があるため、PSII複合体には、防腐剤や抗菌剤、静菌剤などの薬剤を併せて含むことでもよい。用いる薬剤としては、安息香酸、パラヒドロキシ安息香酸エステル類、グルコン酸クロルヘキシジン、アルコール類などを用いることができる。或いは、PSII複合体の分散層には、カチオン性界面活性剤を含むこともできる。この場合、比較的安価で安定した抗菌作用を有することから、長期にわたりPSII複合体の腐敗や変性を防止することで、光バイオ燃料電池としての寿命を長く保ち、出力を安定化させることができる。本実施例では、カチオン性界面活性剤を利用する場合や、或いは、上記の防腐剤や抗菌剤、静菌剤などの薬剤を使用しなくとも、PSII複合体の腐敗や変性は起こらず、目的とする光バイオ燃料電池の製造が可能であった。
PSII複合体の分散液は、上述のとおり、PSII複合体を分散した水媒体を含む溶液であるが、分散液中に含まれるPSII複合体の濃度については好ましい範囲が存在し、1~50質量%の範囲、より好ましくは5~30質量%の範囲で用いる。1質量%未満の濃度で用いた場合には、光を吸収する能力に乏しく、或いは50質量%より高い濃度で用いた場合には、光に対して必要以上のPSII複合体が存在することで無駄となるPSII複合体が生じてしまうからである。
PSII複合体の分散液が水に分散した溶液状態である場合、燃料電池の外部から劣化していない新鮮な分散液を透光性容器に補充するために液を循環させて用いることや、適当な頻度で液を交換し、熱や光反応、光酸化などの副反応などの影響で劣化したPSII複合体の分散液に対して、新たな分散液を外部から補充する場合や、新たな分散液に全液交換することが可能である。この場合、PSII複合体の分散液は、適当な大きさ、厚み、形状の容器に充填されており、外部と液交換が可能であるよう液の排出口と流入口の両方を備えた容器内に充填されている。
光バイオ燃料電池は、PSII複合体の分散液に隣接して燃料極端子が設けられる。燃料極は、上述した水光分解ユニットからプロトンまたは水素を取り入れて燃料電池の燃料として利用するための電極の役割を果たす。燃料極端子は、水光分解ユニットと直接的に接し、透光性容器には開口部が設けられ、開口部においてPSII複合体の分散液が燃料極端子に接している。燃料極端子としては、水を分解して酸素とプロトンおよび電子を取り出す働きをするため、白金触媒を担持した多孔質膜や白金触媒を担持した炭素電極を用いることができる。
白金触媒を担持した炭素電極の簡便な作製方法としては、例えば、カーボン紙またはカーボン布など炭素からなる材料に、高分子固体電解質を溶解させた溶液(例えば、ゼラチン溶液やキチン泥、ナフィオン溶液など)で白金触媒を固定して作製することができる。また、カーボン紙やカーボン布を使用せず、直接、高分子固体電解質に電解質溶液を塗布し、電極端子とすることも可能である。さらに、白金を使用せず、カーボン紙またはカーボン布上と高分子固体電解質を電解質溶液で単に接合するだけでも燃料極端子として機能させることができる。後述するように、白金触媒を電極端子に用いなくとも、光バイオ燃料電池を構成することが可能である。
光バイオ燃料電池は、水光分解ユニットと燃料極端子とが直接的に接することができるように電解質が用いられる。本実施例においては、後述するように、脱灰したティラピア(魚類)のうろこ(フィッシュコラーゲン)を電解質として用いた。
光バイオ燃料電池には、電解質に接する形で、燃料極の対極として空気極が設けられる。空気極としては、電解質を通過したプロトンと酸素との結合が促進できる材料が好ましく、例えば、カーボン紙またはカーボン布に、カーボン粉末、白金粉末またはこの両方を、電解質を溶解させた溶液(例えば、ゼラチン溶液やキチン泥、ナフィオン溶液など)を用いて固定した電極などである。カーボン紙やカーボン布を使用せず、直接、電解質に、カーボンまたは白金を含む電解質溶液を塗布し、電極とすることも可能である。これらの他に、酸化反応を触媒するオキシダーゼなどの物質も空気極として使用できる。
実施例の光バイオ燃料電池における水光分解ユニットは、開口部を介して燃料極に直接的に接合している。この場合、接合面からPSII複合体の分散液が漏出することを避けるため、開口部の周囲は封止剤を用いて封止され、水光分解ユニットと燃料電池ユニットが密閉して接合されている。封止剤としては、市販されている各種接着剤(例えばアラルダイト、瞬間接着剤)、シリコーン樹脂やゴムなどのシーリング材、防水テープ、ホットメルト接着剤(例えばエチレン酢酸ビニルなど)、乳酸、ABS、レジンやFRPなどの3Dプリンタに使用される液体樹脂を用いることができる。或いは、溶液ユニットを圧入などにより押し込み隙間をなくすことにより溶液を封止することも可能である。
本実施例の光バイオ燃料電池の断面構成図を図2に示す。照射光5を受光する受光面に対して垂直方向の断面図である。水光分解ユニットAは、PSII複合体の分散液10を保持した平面状パネルの透光性容器11と開口部12と通液用孔13を備える。また、燃料電池ユニットBは、集電用金属メッシュ23と燃料極21と高分子固体電解質24と空気極22と集電用金属メッシュ23の順で構成される。水光分解ユニットAと燃料電池ユニットBとは、封止剤25により、水光分解ユニットAの開口部12の外周を覆うように燃料電池ユニットBが接合され張り合わせている。
水光分解ユニットAにおいて、透光性容器11は、PSII複合体の分散液10を注入および排出するための開口機構である通液用孔13を備えている。透光性容器11の形状は、平面状パネルであるが、透光性容器11の形状は、溶液を保持する容器としての機能を有するものであれば、任意の形状を用いることができる。なお、透光性容器11に、図示しない天板を分離できるように設けてもよい。水光分解ユニットAと燃料電池ユニットBは、開口部12を介して接合されており、接合は封止剤25により両ユニットの接合界面からの液漏れを防止する目的で行われる。開口部12においてPSII複合体の分散液10は、集電用金属メッシュ23を介して燃料極2に接している。高分子電解質24は固体であり、この部分からの液漏れは発生しないよう構成されている。
図3に透光性容器に通液用パイプを接続した場合の例を示す。通液用パイプ(13a~13f)は、複数の流路を有するコネクタとして用いることが可能であり、これにより複数の透光性容器11同士を結合し、大面積のパネルとして利用できる。また、図4には複数個の透光性容器(11a~11f)を組み合わせて大面積のパネルとして利用する例を示す。光バイオ燃料電池は、単一のパネルとして利用できる一方で、このように複数の透光性容器11を連結して用いる場合には、発電で得られる電力が加算されることで大電力を得ることができる。
透光性容器11の液入り口側に、送液ポンプ(図示せず)から送られてくる新しい分散液や分散ゲルを導入するパイプまたはホースが接続されている(図示せず)。透光性容器11の液出口が設けられ、これに接続するパイプまたはホースを通じて内部の液が排出される。図4の場合には、複数の透光性容器(11a~11f)が、パイプまたはホースにより直列あるいは並列して接続されており、内部の液が複数の透光性容器(11a~11f)内を経由して外部に排出される。燃料極は各透光性容器(11a~11f)中に設けられ、各透光性容器(11a~11f)における出力電力は、直列または並列に接続されて出力される。
(PSII複合体の分散液の調製)
PSII複合体の分散液の調製方法の一例を示す。
まず、ほうれん草100gとpH7.4のリン酸緩衝液200mL、NaCl 0.06g,スクロース6.84gをミキサーに入れて細断する。細断された液の上澄みを濾紙でろ過し、葉緑体溶液として取り出す。そして、得られた葉緑体溶液を、遠心分離機(コクサン社製:H-11N)を用いて3000rpmで10分間遠心分離する。その後、得られた上澄みを捨て、リン酸緩衝液を用いて沈殿物を懸濁する。懸濁した溶液を、同遠心分離機を用いて500rpmにて、数十秒遠心分離し、上澄みを回収する。回収される溶液量は約25mLとなる。
次に、得られた溶液に界面活性剤を注入し、PSII複合体の溶液(以下、PSII溶液という)を得る。このとき、ノニオン性界面活性剤(TritonX)はPSII溶液1mLあたり0.4mLを導入している。カチオン性界面活性剤(セチルピリジニウムクロイド)はPSII溶液1mLあたり2~20mg、アニオン性界面活性剤(Sodium Dodecylbenzenesulfonate)はPSII溶液1mLあたり20mg、両性イオン界面活性剤(40%塩酸アルキルジアミノエチルグリシン溶液)はPSII溶液1mLあたり、0.4mLを導入している。そして、得られたPSII溶液をよく撹拌した後、遠心分離機を用いて3000rpmで5分間遠心分離し、表層溶液を取り除いた溶液をPSII複合体の分散液として用いる。
(特性測定用の光バイオ燃料電池パネル)
特性測定用の光バイオ燃料電池パネルは、透明で厚み2mmのアクリル板で構成された縦60mm×横15mm×厚み10mmのアクリル容器に、PSII複合体の分散液が充填され、図2に示す水光分解ユニットAを形成している。縦横の一面全体が光照射面(表面)であり、その光照射面と反対側の面(裏面)に5mmφの開口部となる穴を空けて、燃料電池ユニットBの燃料極がPSII複合体の分散液と接触するように、燃料電池ユニットを取り付けている。縦横の2面(表面と裏面)以外の側面は、テープで覆い遮光している。特性測定用の光バイオ燃料電池パネルは、建築物に用いるペアガラスに例えると、中空層にPSII複合体の分散液、建屋内側のガラス面に開口部となる穴を設け、燃料電池ユニットが取り付けられ、建屋外側のガラス面が一面透明のままとなっているようなイメージである。バイオ燃料電池ユニットにおける電解質は、脱灰したティラピアのうろこ(厚さ約80μm)を利用している。5mmφの穴に集電板として、約0.4cm×1cmの大きさのステンレスメッシュを設置し、適度に穴をあけた直径4.5mmφのカーボン紙を集電板に密着させ、電解質である前記うろこと、ゼラチン溶液で溶かした白金カーボンペーストで接合している。うろことアクリルボックスは、接着剤アラルダイトで接合し、PSII複合体の分散液が漏れないように調整している。
また、電解質であるうろこの他面に、4.5mmφのカーボン紙をゼラチン溶液で溶かした白金カーボンを用いて接合し、約0.4cm×1cmの大きさのステンレスメッシュをこれに密着させて接着剤(アラルダイト)にて固定し、燃料電池ユニットをアクリルボックスに設置している。
(水素量の測定)
PSII複合体の分散液における水素量の測定は、水素センサー(ジコー社製:JKC-HY)のセンサー出力を高精度電圧計(Keithley製:2000)により読み取ることにより測定した。測定では、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤のさまざまな界面活性剤とその組み合わせにより作成したPSII複合体の分散液を用いて実施した。光源は、室内蛍光灯による白色光であり、その平均光量は約0.5mW/cmである。
水素量の測定結果を図18に示す。図18は、さまざまな界面活性剤で抽出したPSII複合体の分散液の水素発生量の経時変化を示す。測定の結果、すべての界面活性剤で作成した試料において、12日間にわたり、水素の発生が確認された。両性イオン界面活性剤を導入すると、水素発生量は少なくなる傾向であった。
(開回路電圧および発電特性の測定)
光バイオ燃料電池の開回路電圧の測定は、燃料電池ユニットを取り付けたアクリルボックスにさまざまな界面活性剤により抽出したPSIIを導入することにより測定した。測定では、入力インピーダンスが1GΩを越える高精度電圧計(ピコテスト製:M3500A)を用いて実施した。光源は、室内蛍光灯による白色光であり、その平均光量は約0.8mW/cmである。測定結果を図19に示す。図19は、さまざまな界面活性剤で抽出したPSII複合体の分散液に関する光バイオ燃料電池の開回路電圧の経時変化を示す。図19に示すように、さまざまな界面活性剤で抽出したPSII複合体の分散液において、燃料電池の開回路電圧(OCV)を測定したところ、1ヵ月の時間経過にも関わらず、高いOCVを保っていることが確認された。この結果は、PSII複合体の分散液から持続的に水素イオンが生成されていることを示唆したものである。
光バイオ燃料電池の発電特性の測定は、比較的高い水素発生量が観測されているカチオン性、アニオン性、ノニオン性界面活性剤により実施した。測定では、特性測定用の光バイオ燃料電池パネルを3個用意し、測定実施前にPSII複合体の分散液をこのパネルに注入し、燃料電池の電流と電圧の関係を測定した。光源は、室内蛍光灯による白色光であり、その平均光量は約0.8mW/cmである。結果を図20に示す。図20は、さまざまな界面活性剤で抽出したPSII複合体の分散液を用いた光バイオ燃料電池の出力密度の経時変化を示す。
図20に示すように、カチオン性、アニオン性、ノニオン性界面活性剤のすべてにおいて、出力密度が観測されていることがわかる。カチオン性界面活性剤で抽出したPSII複合体の分散液を用いた光バイオ燃料電池では、6日後でさえ0.12mW/cmの出力密度が観測されていることが確認された。この結果は、建築エレメントの一部の1m×1mの面積に燃料電池を取り付けたことを想定すると、自然界から1.2Wの電力を得ることができることを示唆している。
図21に示すように、光バイオ燃料電池の開回路電圧の経時変化において、ノニオン性界面活性剤(非イオン性界面活性剤)だけを使用した場合と、非イオンと陽イオンの界面活性剤を組み合わせて使用した場合、共に0.8V以上の開回路電圧を得ることができるが、非イオンと陽イオンの界面活性剤を組み合わせて使用すると、非イオン性界面活性剤だけを使用した場合に比べて、長期にわたり高い開回路電圧を維持することができる。特に、非イオンと陽イオンの界面活性剤を組み合わせると、0.8V以上の開回路電圧を10日間にわたり維持することができる。また、非イオン性界面活性剤と陽イオン界面活性剤を組み合わせた場合にも、10日以降において開回路電圧の減少が観測されるが、その減少は緩やかであり、20日後においても非イオン性界面活性剤だけを使用した場合の開回路電圧値より高い電圧値を維持している。さらに開回路電圧は、非イオン性界面活性剤だけを使用した場合には、12日以降で最大開回路電圧の半値に相当する電圧を継続して出力する傾向を示し、非イオンと陽イオンの界面活性剤を組み合わせた場合には、20日以降で最大開回路電圧の半値に向かって近づき、その後一定になる傾向を示している。
ここで照射される光エネルギーに対する光電変換効率を求め、従来から様々な太陽光発電装置として報告されている例と比較した結果を表1に示す。表1に示すように、光バイオ燃料電池の発電効率は、現在実用化されている様々なシリコーン系太陽発電装置に近い値を示すとともに、有機材料系太陽電池としての色素増感型太陽電池をはるかに凌駕するものであることが確認された。
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(註1)K. Yoshikawa et al., Nature Energy 2017, 2, 17032
(註2)Mehreen Gul et al., Energy Exploration & Exploitation、2016, 34(4), 485-526.
(註3)Qi Jiang et al., Nature Photonics, (2019)
(註4)L. Zhang et al., ACS Energy Lett. 2019, 4, 943-951.
本実施例の光バイオ燃料電池は、実施例1の構成と異なり、燃料電池ユニットが水光分解ユニットの片面においてその外周に沿って配置され、水光分解ユニットの中央部分には燃料電池ユニットは配置されていない構成を有する。本実施例の光バイオ燃料電池の配置構成を、図5~図7を参照して説明する。図5に示すパネルは、図7(1)に示すように、1枚の透光性パネルとしての透明なポリカーボネート板26の4周に沿って、適当な大きさの穴27が適当な間隔で複数個設けられており、これらの穴27を塞ぐように4周に沿って、図7(2)に示すように、燃料電池の燃料極の電極28が張り合わせられている。実際に試作した透光性パネルのサイズは、ハガキ程度の大きさ縦150mm、横100mmである。さらに、もう1枚、同サイズの透光性パネルが、燃料電池ユニットと反対の側に穴を設けた透光性パネルに張り合わせられている。これら2枚の透光性パネルの間に間隙5mmを設けるためにアクリル板がスペーサーとしてパネル間に挿入されている。張り合わせたパネルの側面の内1面を除いて、側面がアルミ板を用いて封止され、残された1面は蓋を介して密閉可能な構造になっている。そして、張り合わせパネルの内部に、実施例1と同様のPSII複合体の分散液が導入され、光バイオ燃料電池を形成している。
実際に試作した光バイオ燃料電池の燃料電池ユニットの燃料極の電極28から導線を引出し、また空気極(図示せず)から導線を引出し、それぞれデジタル式時計の電池挿入部の+/-電極に直接接続し、室内蛍光灯下で、燃料電池部分から供給される直流電圧によって駆動できることを確認した。供給される直流電圧値は、大凡1V弱程度であった。試作した光バイオ燃料電池とデジタル式時計を組み合わせた実証モデルは、作製してから6ヶ月以上経過した状態でも、作製当初と変わらず正常に稼働し続けていることを確認した。なお、途中、PSII複合体の分散液の交換を1ヶ月に1回程度実施している。
実際に試作した光バイオ燃料電池の透光性パネルの外観色は、パネル内部のPSII複合体の分散液によって、透きとおるような緑色を呈しており、光バイオ燃料電池は、室内装飾にも適した美観であり、後述の建築エレメントとして利用できるものであった。
なお、本実施例の光バイオ燃料電池において、2枚の透光性パネルの間隙を設けるためにスペーサーを用いたが、側板を介して並行に張り合わせてPSII複合体の分散液を保持してもよい。また、パネル形状についても、平面状パネルではなく、球状、円柱状、箱状、不定形状など任意の立体形状であってもよい。また、水光分解ユニットと燃料電池ユニットを接続するための開口部となる穴27は、任意の面の周辺部の任意の箇所に設けることが可能である。さらに、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂などの合成樹脂からなる袋を透光性容器とし、開口部となる穴を設けて、燃料電池ユニットを封止剤で接合させることでも、光バイオ燃料電池を構成してもよい。
本発明の光バイオ燃料電池は、建築エレメントとしての利用が可能である。例えば、水光分解ユニットAとして、上述の実施例2と同様に、ガラスもしくはプラスチック製の2枚の透光性パネルを適当な隙間を設けて張り合わせ、両者の間にPSII複合体の分散液を導入したパネルを作製し、パネルの外周に沿って燃料電池ユニットBを接合したパネルを、建築ユニットとして利用することが可能である。
この場合、複数のパネルを接合して用いることが可能であり、接合部は連通孔を有しており、内部の液を交換および排出することが可能である。さらに、パネルの外周に設けた燃料電池ユニット部分はさらにそれを覆うようにして補強のための部材を取り付けることが可能である。
具体的には、アルミニウムやステンレスの枠組みをパネル外周に設置して、パネル全体の重量を支えるための強度を補強してもよい。建築エレメントとしての利用の仕方として、図8のような例を挙げることができる。
図8は、本発明の光バイオ燃料電池を一般の民家に対して屋根(31,34)や窓35、外壁(32,33)、床36などの様々な建築エレメントに利用する場合を例示する図である。また、図9は、複数の家屋の集合体に対して、本発明の光バイオ燃料電池パネル(41a~41d)を各々の建築物の屋根として全体を覆う形で設置した場合の外観図を示している。従来のシリコーン系太陽光発電パネルは無機質で透光性の欠如したパネルであることから、主に家屋の屋根などに設置されているが、本発明の光バイオ燃料電池パネル(41a~41d)は、透光性を有すると共に植物の有する自然な緑色のクロロフィルを含む水溶液を内部に蓄えていることから、建物の外観を損なわず、かつパネルに覆われた状態であっても良好な透光性を有することから、住居における建築エレメントとしての利用は極めて好ましいと考えられる。
また、夏場において強力な太陽光照射による建物内部の温度上昇を緩和する機能も期待されるため省エネ効果も期待される。さらには、発電により得られる電力は、住居内の弱電設備としてテレビや照明装置などの様々の家電製品を稼働する電力としての利用も可能であり、蓄電設備と組み合わせることで、夜間の電力としての利用も可能である。
図9に例示するように、本発明の光バイオ燃料電池パネル(41a~41d)は、様々な形状のパネル同士を組み合わせることで、任意の立体形状を組み立てることが可能である。このようなパネルの組み合わせの仕方の例として図10を挙げることができる。図10は本発明の光バイオ燃料電池をパネルとして複数枚組み合わせて用いる場合の形成される立体形状の例を示している。図10に示すように、パネルの組み合わせ例(42~59)は、いずれも異なる形状を呈している。図11には、共有スペースとして利用可能な施設の外壁に、本発明の光バイオ燃料電池パネル(70~72)を施工した場合の例を示している。
図12は、本発明の光バイオ燃料電池パネル76をバス停75に施工した場合の例を示す。太陽光発電により得られる電力は、照明の他に時刻表などを表示する液晶パネル77などの駆動電力としての利用や、あるいは携帯電話の充電用に利用することが可能である。
図13には、本発明の光バイオ燃料電池パネル(81~83)を、高速道路に設置される遮音用防音壁として施工した場合の例を示す。このようなケースでは、太陽光発電として大規模な発電設備としての利用が可能であるとともに、従来の防音壁では風景80が遮られるのに対し、この場合には道路周辺の景観がドライバーからも眺めることが出来るため、単調な長時間運転からくる眠気を防止するなどの効果を期待することができる。
本発明の光バイオ燃料電池を使用した家具、小物、展示物又は装飾品について説明する。具体的には、図14~17のような例を挙げることができる。
図14は、指輪85としての利用物を示す例であり、PSII複合体の分散液86を封入した球形容器84の底面に空洞を設け、内部にLED光源87を設置し、底面を覆う燃料電池ユニットから供給される電力で発光する指輪の例である。
図15は、室内装飾用のガラスカップ90の内部に、PSII複合体の分散液91を導入し、底面に設けた燃料電池で発電しLED光源92を発光させる機能を備えた照明装置である。図16は、室内用照明装置(95~98)としての様々な利用物を示す。図17(1)は、ガラステーブルの天板に光バイオ燃料電池パネル101が設けられた例を示している。また、図17(2)は、ソファの肘掛けに光バイオ燃料電池パネル(102,103)が設けられた例を示している。
上述した実施例1の光バイオ燃料電池の構成において、図22および図23の模式図に示すように、燃料極にPt-C触媒を使用せず、PSII複合体の分散液1のみの燃料極を用いる構成を適用することが可能である。電池の発電特性を測定したところ、図24に示すように、PSII複合体の分散液を電解質に塗布するだけで、燃料電池電極として作用することが確認できた。
本発明の光バイオ燃料電池は、従来のシリコーン型太陽光発電装置を置き換える可能性を有するとともに、植物の葉などを再利用できることから資源の再循環型社会のインフラ整備の手段として有用である。様々な建築エレメントとしての利用により一般建築物、公共建築物、道路、公共施設その他の用途、例えば、家具や装飾品、家電製品への利用が期待される。
1,10,86,91 PSII複合体の分散液
2,21 燃料極
3 電解質
4,22 空気極
5 照射光
6 電子の流れ
11,11a~11f 透光性容器
12 開口部
13 通液用孔
13a~13f 通液用パイプ
23 集電用金属メッシュ
24 高分子固体電解質
25 封止剤
26 ポリカーボネート板
27 穴
28 燃料極の電極
31,34 屋根
32,33 外壁
35 窓
36 床
41a~41d,70~72,76,81~83,101~103 光バイオ燃料電池パネル
42~59 パネルの組み合わせ例
75 バス停
77 液晶パネル
80 風景
84 球形容器
85 指輪
87,92 LED光源
90 ガラスカップ
95~98 室内用照明装置
A 水光分解ユニット
B 燃料電池ユニット

Claims (7)

  1. 光エネルギーを吸収して水を酸素分子とプロトン及び電子に分解する光化学系II複合体の分散液または分散ゲルが、燃料電池の燃料極の一部を構成する光バイオ燃料電池であって、
    少なくとも受光面が透光性素材から成る透光性容器に、前記光化学系II複合体の分散液または分散ゲルが収容され保持された水光分解ユニットと、
    前記光化学系II複合体の分散液または分散ゲルに接する燃料極端子と、その対極となる空気極と、燃料極と空気極の間の電解質を有する燃料電池ユニット、
    を備え、
    前記透光性容器は、前記燃料電池ユニットと接合する開口部と、前記光化学系II複合体の分散液もしくは分散ゲルの交換用出入り口及び/又は循環機構を有し、
    前記開口部を介して前記燃料極が前記光化学系II複合体の分散液もしくは分散ゲルと接触していることを特徴とする光バイオ燃料電池。
  2. 前記光化学系II複合体は、植物細胞内の葉緑体由来であり、
    前記分散液または分散ゲルは、界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の光バイオ燃料電池。
  3. 前記透光性容器が、パネル状、チューブ状、球状、又は、多面体状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光バイオ燃料電池。
  4. 前記燃料電池ユニットが、前記透光性容器の外周部に接合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の光バイオ燃料電池。
  5. 前記透光性容器に対し、波長範囲が400~800nmの可視光を、前記燃料電池ユニットの接合されている面と反対側の面の全面に照射した場合に、照射表面を透過して前記光化学系II複合体の分散液または分散ゲルに到達する透過光量が元の光量の50%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光バイオ燃料電池。
  6. 請求項1乃至の何れかの光バイオ燃料電池を使用し、光照射により発電し得る建築エレメント。
  7. 請求項1乃至の何れかの光バイオ燃料電池を使用し、光照射により発電し得る家具、小物、展示物又は装飾品。
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